説明

複合繊維

【課題】マトリックスポリマーと分子鎖の絡み合いが抑制され、紡糸過程での伸長変形を阻害し難いハイパーブランチポリマーを用いることにより、高分子量ポリマーの流動性を向上させ紡糸温度の低温化を図るとともに、力学的特性に優れた複合繊維を提供する。
【解決手段】芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)からなる構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、Bの含有量が樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して7.5〜50モル%の範囲にある樹状ポリエステルを熱可塑性であるマトリックスポリマーに0.1〜10wt%ブレンドしたポリマーが少なくとも一部を構成する複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクスポリマーに樹状ポリエステルをブレンドしたポリマーブレンドが少なくとも一部を構成する複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は力学的特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されており、産業上の価値は極めて高い。
【0003】
これらの繊維は衣料用途に用いられてきたこともあり、ポリマー改質だけでなく、繊維の複合化や異形断面化による性能向上の検討も活発に行われてきた。一般に、芯鞘型複合繊維では、2種類以上のポリマーを組み合わせ、芯成分を鞘成分が被覆ことで、単独繊維では達成されない風合い、嵩高性などといった感性的効果、また、強度、弾性率、耐摩耗性などといった物性的効果の付与が可能となる。また、易溶出成分で鞘成分、難溶出成分で異形断面となるように芯成分を構成し、鞘成分を溶出することで精度の高い異形断面繊維を得ることができる。通常、ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを溶融紡糸によって得た場合、真円形の断面を持つことが特徴であるが、異形断面とすることで真円形の繊維では得られない特殊な風合いを付与したり、織り編みの際のこなれを良くしたり、繊維を被覆する他の樹脂との接触面積を増加させ、剥離などの問題を抑制することができる。
【0004】
繊維の力学的特性に大きく影響を与える因子としては、繊維の分子量が挙げられる。溶融紡糸の場合、ポリマーはポリマー流として口金から吐出されるまでに加水分解や熱分解のために分子量の低下を起こすため、これを抑制する方法のひとつとしては、紡糸温度の低下が有効である。紡糸温度は、複合繊維の紡糸の場合、異なる2種類以上のポリマーが複合されたポリマー流が良流動性を示す温度に設定する必要があり、ここで重要となるのは口金孔内で孔壁とのせん断を主に受ける鞘成分や海成分ということになる。複合ポリマー流を良流動性とするのには、鞘成分や海成分の分子量を低下させ、低粘度ポリマーとすることが有効であるが、複合繊維として巻き取った場合には鞘成分あるいは海成分は力学的特性にはほとんど寄与しないこととなるため、せっかく紡糸温度の低下により、分子量低下を抑制したとしても得られる複合繊維の力学的特性には限界があるという課題があった。
【0005】
この課題を解消する方法の一つとし、高分子量ポリマーの流動性を向上させることで紡糸温度を低く設定する方法が考えられるが、溶融紡糸工程においてこれを成功した例は少ない。従来の技術の中でも特に興味深いものとしては、超分岐ポリマー(ハイパーブランチポリマー)を樹脂に添加した例を挙げることができる(特許文献1)。ここでは、マトリックスポリマーと非反応性の超分岐ポリマーをマトリックスポリマーに添加することで、未添加の場合に比べ分子量減少が7%未満で、かつ流動性が向上することが記載されている。しかしながら、実際には超分岐ポリマーの主鎖である枝構造部分が脂肪族(実施例ではε−カプロラクタムから誘導された物)となるため、超分岐ポリマーの柔軟性が著しく高い。このため、超分岐ポリマーとマトリックスポリマーが非反応性であるとしても、超分岐ポリマー主鎖部分とマトリックスポリマー主鎖部分でいわゆる分子鎖の絡み合いが多く発生してしまう可能性があった。これは、樹脂の押し出し加工などでは変形量が小さく、さらに剪断変形が支配的であるため大きな問題とはならないが、特に紡糸などの大きな伸長変形を伴う場合には深刻な問題を引き起こしてしまう場合があった。すなわち、分子鎖の絡み合いの程度が大きくなることで、マトリックスポリマー分子鎖のスムーズな伸長変形が阻害され、複合繊維の紡糸性を著しく損ない、場合よっては超分岐ポリマーが添加されたポリマーの弾性的振る舞いが顕著となり紡糸不能に陥る場合があった。また、紡糸不能に至らないまでも紡糸線での伸長変形に大規模な経時変動(斑)が発生し、複合繊維には繊維軸方向に太細斑が過大となり、均質性にかけた繊維しか得られない場合があった。特に、マトリックスポリマーとして高粘度ポリマーや高分子量ポリマーを用いた場合にこの傾向が顕著であり、結果的に前述したポリマーの制限を解消したことにはならない。
【0006】
このため、紡糸や繊維に適し、かつ流動性を向上しうるハイパーブランチポリマーが、またこれが添加された高分子量ポリマーを用いた複合繊維が求められていた。
【特許文献1】特表2005−513186号公報(6〜12ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来とは異なり、マトリックスポリマーと分子鎖の絡み合いが抑制され、紡糸過程での伸長変形を阻害し難いハイパーブランチポリマーを用いることにより、高分子量ポリマーの流動性向上させることによって、力学的特性に優れた複合繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の手段により達成される。
(1)芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)からなる構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、Bの含有量が樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して7.5〜50モル%の範囲にある樹状ポリエステルを熱可塑性であるマトリックスポリマーに0.1〜10wt%ブレンドしたポリマーブレンドが少なくとも一部を構成する複合繊維、
(2)樹状ポリエステルが熱可塑性であるマトリックスポリマーにブレンドされたポリマーブレンドが1〜99wt%配合されていることを特徴とする(1)記載の複合繊維、
(3)樹状ポリエステルが熱可塑性であるマトリックスポリマーにブレンドされたポリマーブレンドが芯成分あるいは/または鞘成分を構成する(1)または(2)記載の複合繊維、
(4)繊維軸に対して垂直方向の繊維断面で難溶出成分が異形断面を形成する複合繊維において、易溶出成分あるいは/または難溶出成分が樹状ポリエステルが熱可塑性であるマトリックスポリマーにブレンドされたポリマーブレンドであることを特徴とする(1)または(2)の複合繊維、
(5)繊維軸に対して垂直方向の繊維断面において難溶出成分が星形断面であることを特徴とする(4)記載の複合繊維、
(6)繊維軸に対して垂直方向の繊維断面において難溶出成分が多葉断面であることを特徴とする(4)記載の複合繊維、
(7)繊維軸に対して垂直方向の繊維断面において難溶出成分と易溶出成分が海島構造を形成することを特徴とする(4)記載の複合繊維、
(8)熱可塑性であるマトリクスポリマーがポリエステルであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項記載の複合繊維、
(9)(1)〜(8)のいずれか1項記載の繊維を少なくとも一部に使用した繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合繊維により、力学的特性に優れた複合繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で言う樹状ポリエステルとは、ハイパーブランチポリマーの一種であるが、本発明で用いられる樹状ポリエステルは、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)からなる構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含んでいる。本発明で用いられる樹状ポリエステルは、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)からなる構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、Bの含有量が樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して7.5〜50モル%の範囲にある樹状ポリエステルである。
【0011】
ここで、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)は、それぞれ下式(1)で表される構造単位であることが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、R1、R3は、それぞれ芳香族残基であり、R2は芳香族および脂肪族を両方含む残基である。またR1、R2、およびR3は、それぞれ複数の構造単位を含んでも良い。
【0014】
上記の芳香族残基としては、置換または非置換のフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基などが挙げられ、脂肪族残基としてはエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。R1、R2およびR3は、好ましくは、それぞれ下式で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種以上の構造単位であり、R2は芳香族残基である(R2−1)と脂肪族残基である(R2−2)を両方含む。
【0015】
【化2】

【0016】
ただし、式中nは2〜8の整数である。
【0017】
本発明の樹状ポリエステルは、3官能以上の有機残基(B)が、互いにエステル結合および/またはアミド結合により直接、あるいは、枝構造部分(D)を構成するP、QおよびRから選ばれる構造単位を介して結合した、3分岐以上の分岐構造を基本骨格としている。分岐構造は、3分岐、4分岐など単一の基本骨格で形成されていてもよいし、3分岐と4分岐など、複数の基本骨格が共存していてもよい。ポリマーの全てが該基本骨格からなる必要はなく、たとえば末端封鎖のために末端に他の構造が含まれても良い。また、Bが3官能性の有機残基である場合には、樹状ポリエステル中には、Bの3つの官能基が全て反応している構造、2つだけが反応している構造、および1つだけしか反応していない構造が混在していてもよい。好ましくはBの3つの官能基が全て反応した構造が、B全体に対して15モル%以上であることが好ましく、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上である。また、Bが4官能性の有機残基である場合には、樹状ポリエステル中には、Bの4つの官能基が全て反応している構造、3つだけが反応している構造、2つだけが反応している構造、および1つしか反応していない構造が混在していてもよい。好ましくはBの4つの官能基が全て反応した構造がB全体に対して10モル%以上かつ3つの官能基が反応した構造が20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは4つの官能基が反応した構造がB全体に対して20モル%以上かつ3つの官能基が反応した構造がB全体に対して30モル%以上であり、さらに好ましくは4つの官能基が反応した構造がB全体に対して25モル%以上かつ3つの官能基が反応した構造がB全体に対して35モル%以上である。
【0018】
Bは3官能化合物および/または4官能化合物の有機残基であることが好ましく、3官能化合物の有機残基であることが最も好ましい。
【0019】
上記3分岐の基本骨格を模式的に示すと、式(2)で示される。また上記4分岐の基本骨格を模式的に示すと、式(3)で示される。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
本発明の樹状ポリエステルは、溶融液晶性を示すことが好ましい。ここで溶融液晶性を示すとは、室温(25℃)から昇温していった際に、ある温度域で液晶状態を示すことである。液晶状態とは、剪断下において光学的異方性を示す状態である。
【0023】
溶融液晶性を示すために、3分岐の場合の基本骨格は、下式(4)で示されるように、Bが、P、QおよびRから選ばれる構造単位により構成される枝構造部分(D)を介して結合していることが好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
同様に、4分岐の場合の基本骨格は、下式(5)で示される構造が好ましい。
【0026】
【化6】

【0027】
3官能の有機残基Bとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選ばれる官能基を含有する化合物の有機残基であることが好ましい。例えばグリセロール、1,2,3−トリカルボキシプロパン、ジアミノプロパノール、ジアミノプロピオン酸などの脂肪族化合物や、トリメシン酸、トリメリット酸、4−ヒドロキシ−1,2−ベンゼンジカルボン酸、フロログルシノール、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、トリカルボキシナフタレン、ジヒドロキシナフトエ酸、アミノフタル酸、5−アミノイソフタル酸、アミノテレフタル酸、ジアミノ安息香酸、メラミンなどの芳香族化合物の残基が好ましく用いられる。下式で表される芳香族化合物の残基がさらに好ましい。
【0028】
【化7】

【0029】
上記の3官能の有機残基の具体例としては、フロログルシノール、トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、α−レゾルシル酸、4−ヒドロキシ−1,2−ベンゼンジカルボン酸などの残基が好ましく、さらに好ましくは、トリメシン酸、α−レゾルシル酸の残基であり、良流動性の観点から最も好ましくはトリメシン酸の残基である。また、トリメシン酸の場合には末端基がカルボキシル基より構成されているため、易溶出成分として樹状ポリエステルが添加されたポリエステルを用いる場合には、カルボキシル基の自己触媒反応から加水分解性を向上することが可能であるため、好ましい。
【0030】
また、4官能以上の有機残基Bとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびアミノ基から選ばれる官能基を含有する化合物の有機残基であることが好ましい。例えば、エリスリトール、ペンタエリスリトール、スレイトール、キシリトール、グルシトール、マンニトール、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラオール、1,2,3,4,5−シクロヘキサンペンタンオール、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサンオール、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5−シクロヘキサンペンタカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、クエン酸、酒石酸などの脂肪族化合物の残基や1,2,4,5−ベンゼンテトラオ−ル、1,2,3,4−ベンゼンテトラオ−ル、1,2,3,5−ベンゼンテトラオ−ル、1,2,3,4,5−ベンゼンペンタンオ−ル、1,2,3,4,5,6−ベンゼンヘキサンオ−ル、2,2’,3,3’−テトラヒドロキシビフェニル、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシビフェニル、3,3’,4,4’−テトラヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラヒドロキシビフェニル、2,3,6,7−ナフタレンテトラオール、1,4,5,8−ナフタレンテトラオール、ピロメリット酸、メロファン酸、プレーニト酸、メリット酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラオール、1,4,5,8−ナフタレンテトラオール、1,2,4,5,6,8−ナフタレンヘキサオール、1,2,4,5,6,8−ナフタレンヘキサカルボン酸、没食子酸、などの芳香族化合物の残基が挙げられる。下式で表される芳香族化合物の残基がさらに好ましい。
【0031】
【化8】

【0032】
上式の4官能の有機残基の具体例としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラオ−ル、1,2,3,4−ベンゼンテトラオ−ル、1,2,3,5−ベンゼンテトラオ−ル、ピロメリット酸、メロファン酸、プレーニト酸、没食子酸などの残基が好ましく、没食子酸の残基が特に好ましい。
【0033】
また、樹状ポリエステルの芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族ジオキシ単位(Q)、芳香族ジカルボニル単位(R)は、樹状ポリエステルの分岐間の枝構造部分(D)を構成する単位である。p、qおよびrはそれぞれ構造単位P、QおよびRの平均含有量(モル比)であり、Bの含有量bの1モルに対して、p+q+r=1〜10モルの範囲であることが好ましい。p+q+rは、より好ましくは、2〜6モルの範囲である。枝構造長が長すぎると、剛直で綿密な樹状構造に基づく剪断応答性などの効果やマトリックスポリマー分子鎖との絡み合い抑制効果が低減するため好ましくない。
【0034】
このp、qおよびrの値は、例えば、樹状ポリエステルをペンタフルオロフェノール50重量%:重クロロホルム50重量%の混合溶媒に溶解し、40℃でプロトン核の核磁気共鳴スペクトル分析を行い、それぞれの構造単位に由来するピーク強度比から求めることができる。各構造単位のピーク面積強度比から、平均含有率を算出し、小数点3桁は四捨五入する。Bの含有量bにあたるピークとの面積強度比から、枝構造部分(D)の平均鎖長を算出し、p+q+rの値とする。この場合にも小数点3桁は四捨五入する。
【0035】
pとqの比率およびpとrの比率(p/q、p/r)は、いずれも5/95〜95/5の範囲が好ましく、より好ましくは10/90〜90/10であり、さらに好ましくは20/80〜80/20である。この範囲であれば、液晶性が発現しやすく好ましい。p/qおよびp/rの比率を95/5以下とすることで、樹状ポリエステルの融点を適当な範囲とすることができるため好ましい。また、p/qおよびp/rを5/95以上とすることで樹状ポリエステルの溶融液晶性を発現することができるため好ましい。
【0036】
qとrは、実質的に等モルであることが好ましいが、末端基を制御するためにどちらかの成分を過剰に加えることもできる。q/rの比率としては0.7〜1.5の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1である。ここでいう等モルとは、繰り返し単位内でのモル量が等しいことを意味し、末端構造は含めない。ここで、末端構造とは、枝構造部分(D)の末端を意味し、末端が封鎖されている場合などには、最も末端に近い枝構造部分(D)の末端を意味する。
【0037】
前述式(1)において、R1は芳香族オキシカルボニル単位由来の構造単位であり、具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位などが挙げられる。好ましくはp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位であり、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位部併用することも可能である。また本発明の効果を損なわない範囲でグリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含有しても良い。
【0038】
R2は芳香族および脂肪族由来の構造を両方含む構造単位であり、芳香族単位としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、など由来の構造単位が挙げられ、脂肪族単位としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなど脂肪族ジオール由来の構造単位が挙げられる。好ましくは、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、エチレングリコール由来の構造単位であり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとエチレングリコール由来の構造単位が含まれることが液晶性の制御の点から好ましい。
【0039】
本発明で用いる樹状ポリエステルとしては、このR2単位に芳香族が構造単位として存在することが特に重要である。まず、芳香族を含有させることにより枝構造に剛直性を与え(好ましくは液晶性を与え)、マトリックスポリマー分子鎖との絡み合いを抑制し、紡糸などの伸長大変形の場でも伸長変形を阻害することを抑制できるのである。複合紡糸の場合には、異なる2種類以上のポリマーが複合流として、伸長大変形を起こすこととなるため、1種のポリマーの伸長変形が良好に行われない場合にはポリマーの複合流自体の変形を不安定にすることとなり、紡糸性を大きく低下することとなる。従来の脂肪族のみでR2が構成されている場合(特許文献1)には伸長変形の阻害が顕著に見られるため、複合繊維のみならず単独繊維にさえ、適用することが困難であった。本発明の樹状ポリエステルに関しては、前述したように伸長変形の阻害が抑制されたものとなるため、ポリマー吐出後の伸長大変形にも安定した変形となり、工業的に充分な紡糸性(曳糸性、安定性など)が得られるのである。
【0040】
R3は芳香族ジカルボニル単位由来の構造単位であり、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸など由来の構造単位が挙げられる。好ましくはテレフタル酸またはイソフタル酸由来の構造単位であり、特に両者を併用した場合に融点調節がしやすく好ましい。また、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、セバシン酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位が一部含まれていてもよい。
【0041】
本発明の樹状ポリエステルの枝構造部分(D)は、主としてポリエステル骨格からなることが好ましいが、カーボネート構造やアミド構造、ウレタン構造などを、特性に大きな影響を与えない程度に導入することも可能である。中でもアミド構造を導入することが好ましい。このような別の結合を導入することで、多種多様な熱可塑性樹脂に対する相溶性を調整することが可能であり、好ましい。アミド結合の導入の方法としては、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、テトラメチレンジアミンペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、あるいは芳香族のアミン化合物などを共重合することが好ましい。中でもp−アミノフェノールまたはp−アミノ安息香酸の共重合が好ましい。
【0042】
樹状ポリエステルの枝構造部分(D)の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるものなどが挙げられる。
【0043】
特に好ましいのは、枝構造部分(D)が、下記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)から構成されることである。ここで、(I)は構造単位(P)の、(II)、(III)は構造単位(Q)の、(IV)は構造単位(R)の特に好ましい様態である。
【0044】
【化9】

【0045】
枝構造部分(D)が、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)から構成される場合には、上記構造単位(I)の含有量pは、p+q+rに対して30〜90モル%が好ましく、40〜80モル%がより好ましい。また、構造単位(VI)の含有量q(III)は、(II)と(III)の合計含有量qに対して70〜5モル%が好ましく、60〜8モル%がより好ましい。前述のように、構造単位(IV) の含有量rは、構造単位(II)および(III)の合計含有量qと実質的に等モルであることが好ましいが、いずれかの成分を過剰に加えてもよい。
【0046】
また、本発明の樹状ポリエステルの末端は、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、またはそれらの誘導体が好ましい。水酸基の誘導体もしくは、カルボン酸の誘導体としては、メチルエステルなどのアルキルエステルやフェニルエステルやベンジルエステルなどの芳香族エステルが挙げられる。また、単官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オルトエステル、酸無水物化合物などを用いて末端封鎖することも可能である。末端封鎖の方法としては、樹状ポリエステルを合成する際に、あらかじめ単官能性の有機化合物を添加する方法や、ある程度樹状ポリステルの骨格が形成された段階で単官能性の有機化合物を添加する方法などが挙げられる。
【0047】
具体的には、水酸基末端やアセトキシ末端を封鎖する場合には、安息香酸、4−t−ブチル安息香酸、3−t−ブチル安息香酸、4−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸などを添加することで可能である。
【0048】
また、Bの含有量は、枝構造部分(D)の連鎖長が、樹状ポリエステルが樹状の形態をとるのに適した長さとなる観点から決定されるが、充分な樹状を形成させるためには、樹状ポリエステルを構成する全単量体の含有量に対して7.5モル%以上とすることが重要であり、10モル%以上がより好ましく、さらに好ましくは20モル%以上である。一方、枝構造部が過度に密に混み合わないようにするためには、有機残基Bの含有量の上限としては、50モル%以下とすることが重要であり、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。
【0049】
また本発明の樹状ポリエステルは特性に影響が出ない範囲で、部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0050】
本発明において、樹状ポリエステルの製造方法は、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。前述R1で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、R2で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、および、3官能以上の有機残査(B)を形成する3官能以上の多官能単量体を反応させる方法であって、該多官能単量体の添加量(モル)が、樹状ポリエステルを構成する全単量体(モル)に対して7.5モル%以上として製造する方法が好ましい。多官能単量体の添加量は、より好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上である。また、添加量の上限としては、50モル%以下が好ましく、より好ましくは33モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下である。
【0051】
また、上記反応に際して、R1、R2およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体をアシル化した後、3官能以上の多官能単量体を反応させる態様も好ましい。また、R1、R2およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、および、3官能以上の多官能単量体をアシル化した後、重合反応させる態様も好ましい。
【0052】
前述構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)とトリメシン酸残基から構成される樹状ポリエステルを製造する場合を例に挙げて、好ましい製造方法を説明する。
(1)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、テレフタル酸およびポリエチレンテレフタレートポリマーから脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱酢酸重合反応させて製造する方法。
(2)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、テレフタル酸、ポリエチレンテレフタレートポリマーおよびトリメシン酸から脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸およびポリエチレンテレフタレートポリマーに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成し、さらにトリメシン酸を加えて脱酢酸重合反応させて製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、ポリエチレンテレフタレートポリマーおよびトリメシン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(5)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸ジフェニルエステルおよびポリエチレンテレフタレートポリマーから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
(6)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸ジフェニルエステル、ポリエチレンテレフタレートポリマーおよびトリメシン酸のフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
(7)p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、トリメシン酸にジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ポリエチレンテレフタレートポリマーを加え、脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0053】
なかでも(1)〜(4)の製造方法が好ましく、(3)および(4)の方法がより好ましい。
【0054】
(3)および(4)の製造方法において、無水酢酸の使用量は、鎖長制御の点からフェノール性水酸基の合計の0.95当量以上1.10当量以下であることが好ましく、1.00当量以上1.08当量以下であることがより好ましく、最も好ましくは1.02当量以上1.05当量以下である。無水酢酸量を制御すること、ジヒドロキシモノマーおよびジカルボン酸モノマーのいずれかを過剰に添加すること等により、末端基を制御することが可能である。
【0055】
分子量を上げるためには、トリメシン酸のカルボン酸量に相当する分だけ、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのジヒドロキシモノマーを、ジカルボン酸モノマーに対して過剰に加え、全単量体におけるカルボン酸と水酸基当量を合わせることが好ましい。一方、カルボン酸を意図的に末端基に残す場合には、前述のようなジヒドロキシモノマーの過剰添加を行わないことが好ましい。さらに、水酸基を意図的に末端に残す場合には、ジヒドロキシモノマーをトリメシン酸のカルボン酸当量以上に過剰に添加し、かつ無水酢酸の使用量をフェノール性水酸基の1.00当量未満で行うことが好ましい。
【0056】
これらの方法により、本発明の樹状ポリエステルには、種々の熱可塑性ポリマーとの反応性に富む末端基構造を選択的に設けることが可能である。ただし、マトリックスポリマーとなる熱可塑性ポリマーによっては、過剰な反応性を抑制するために、単官能エポキシ化合物などを用いて末端を封鎖した方が分散状態を制御しやすい場合もある。
【0057】
脱酢酸重縮合反応を行う場合には、樹状ポリエステルが溶融する温度で、場合によっては減圧下で反応させ、所定量の酢酸を留出させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸、ポリエチレンテレフタレートポリマーおよび無水酢酸を、攪拌翼および留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込む。混合物を、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱して、水酸基をアセチル化させた後、200〜350℃まで昇温して脱酢酸重縮合反応を行い、酢酸を留出させる。酢酸が、理論留出量の50%まで留出した段階で、トリメシン酸を所定量加えて、さらに理論留出量の91%まで酢酸を留出させ、反応を完了させる。
【0058】
アセチル化させる条件としては、反応温度は、130〜170℃の範囲が好ましく、より好ましくは135〜155℃の範囲である。反応時間は、0.5〜6時間が好ましく、より好ましくは1〜2時間である。
【0059】
重縮合させる温度は、樹状ポリエステルが溶融する温度であり、好ましくは樹状ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。具体的には、例えば、200〜350℃の範囲であり、240〜280℃が好ましい。重縮合させるときの雰囲気は、常圧窒素下でも問題ないが、減圧すると反応が早く進み、系内の残留酢酸が少なくなるため好ましい。減圧度は、0.1mmHg(13.3Pa)〜200mmHg(26600Pa)が好ましく、より好ましくは10mmHg(1330Pa)〜100mmHg(13300Pa)である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いし、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
【0060】
重縮合反応が完了した後、反応容器内を樹状ポリエステルが溶融する温度に保ち、例えば、0.01〜1.0kg/cm(0.001〜0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より、樹状ポリエステルをストランド状に吐出する。吐出口には断続的に開閉する機構を設け、液滴状に吐出することも可能である。吐出した樹状ポリエステルは、空気中もしくは水中を通過して冷却された後、必要に応じて、カッティングもしくは粉砕される。
【0061】
得られたペレット状、粒状または粉状の樹状ポリエステルは、さらに必要に応じて、熱乾燥や真空乾燥により水、酢酸などを除く。また、重合度の微調整、あるいは、さらに重合度を上げるために、固相重合をすることも可能である。固相重合は、例えば、上記により得られた樹状ポリエステルを、窒素気流下、または、減圧下、樹状ポリエステルの融点−50℃〜融点−5℃(例えば、200〜300℃)の温度範囲で1〜50時間加熱する方法が挙げられる。
【0062】
樹状ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0063】
本発明の樹状ポリエステルは、数平均分子量は1,000〜40,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜20,000、さらに好ましくは1,000〜10,000であり、最も好ましくは1,000〜5,000の範囲である。なお、この数平均分子量は、樹状ポリエステルが可溶な溶媒を使用して、GPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により絶対分子量として測定した値である。
【0064】
また、本発明における樹状ポリエステルの溶融粘度は、0.01〜30Pa・sが好ましく、0.5〜20Pa・sがより好ましく、1〜10Pa・sが特に好ましい。なお、この溶融粘度は、樹状ポリエステルの液晶開始温度+10℃の条件で、ずり速度100/sの条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0065】
本発明では、上記した樹状ポリエステルをマトリックスポリマーにブレンドすることで、流動性向上効果が得られ、紡糸温度を低下させることができるが、このメカニズムは以下のように推定している。すなわち、J.Polym.Sci.PartB:Polum.Phys.,vol.34,2433(1996).によると、非相溶系ポリマーブレンドにおけるポリマーの粘度は分子量項+分散相互作用項+スリップ効果項で記述されるが、本発明で用いる樹状ポリエステルは、分子量項については低分子量化、分散相互作用項については樹状構造、スリップ効果項について液晶性の効果により、ポリマーブレンドの流動性を向上させていると考えられる。すなわち、単に低粘度ポリマーあるいは液晶ポリマー、脂肪族ハイパーブランチポリマーをブレンドさせただけでは得られない、より高度な流動性向上効果を得ることができるのである。また、Macromolecule,vol.38,10571(2005).ではハイパーブランチポリマーと通常の直鎖状のポリマーのサイズを同一分子量で比較したところ、ハイパーブランチポリマーは1/5以下の分子サイズとなること、さらにPolymer,vol.45,7491(2004)によると、ハイパーブランチポリマーと通常の直鎖状ポリマーで分子間の絡み合いを第2ビリアル係数Aで評価したところ、ハイパーブランチポリマーではAが2桁小さく、自己分子での分子間絡み合いが極めて少ないことが報告されている。以上より、本発明で用いる樹状ポリエステルは、マトリックスポリマー中で有機ナノ粒子的に振る舞い、流動性を向上させていると考えられる。さらに、前述したようにR2部分を芳香族が構成単位として含まれることで、分子鎖の絡み合いを制御し、紡糸性に影響を与えないのである。
【0066】
本発明の複合繊維とは繊維軸に対して垂直な断面を2種類以上のポリマーが複合されて構成している繊維を言い、その断面形状については、例えば、鞘成分により芯成分が被覆されている芯鞘型あるいは易溶出成分が海(マトリックス)に難溶出成分が分散した島形態(ドメイン)をなしている海島型が挙げられる。芯鞘型における芯成分の形状は、例えば、同心円型、星形、三葉形などの多葉断面、不定形断面が挙げられる。本発明の複合繊維においては少なくとも一部が熱可塑性であるマトリクスポリマーに請求項1記載の樹状ポリエステルが0.1〜10wt%ブレンドされているポリマーブレンドであることが重要であり、樹状ポリエステルのブレンド率は0.1wt%以上であれば流動性向上による紡糸温度低下効果が認められ、0.7wt%以上であればより効果が上がり好ましい。一方、ブレンド率を10wt%以下とすることで、伸長変形を大きく阻害することなく良好な紡糸性を達成することができる。好ましくは2wt%以下である。
【0067】
樹状ポリエステルは本発明の目的からすると、高粘度ポリマーにブレンドされていることが好ましい。高粘度ポリマーに本発明の樹状ポリエステルが添加されていることにより、流動性が向上し、紡糸温度を未添加の場合と比較して、10℃以上低下させることが可能である。極限粘度が1.0dL/g以上の高分子量ポリエステルなどは、その融点はそれほど高くないものの超高粘度のため、紡糸温度を衣料用ポリエステルの場合に比べ10〜20℃程度高くする場合も有る。これを鞘成分や海成分に用いた場合には複合ポリマー流の流動性を向上させるために紡糸温度は高く設定する必要がある。また、ポリ乳酸などの耐熱性の低いポリマーと組み合わせる場合には、熱劣化が著しく進行し、複合繊維の力学的特性を低下させるだけでなく、紡糸性を低下させる紡糸自体を困難にする場合がある。
【0068】
本発明者らは複合繊維おいて鞘成分や海成分にも高分子量ポリマーを適用できる方法に関して、鋭意検討した結果、請求項1記載の樹状ポリエステルをブレンドすることにより、従来のハイパーブランチポリマーでは問題であった伸長変形の阻害を抑制しつつ、流動性を向上させることに成功し、これがブレンドされた高分子量ポリマーを複合繊維に適用することで、力学的特性に優れた複合繊維を得ることに成功した。また、本発明の複合繊維では、紡糸温度を低下させることができるため、別の観点からすると、耐熱性の低いポリマーと高粘度ポリマー、あるいは耐熱性の低いポリマーどうしの組み合わせに用いることも有用である。ここで請求項1記載の樹状ポリエステルをブレンドするマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0069】
以上の高粘度ポリマーの流動性の向上の効果に加え、樹状ポリエステルによって末端基量を制御させることも可能であるため、特にカルボキシル末端量を増加させることにより、加水分解反応速度を向上させることができる。このため、従来では用いられなかったも高分子量ポリマーまたは耐熱性の高いポリマーをアルカリ水溶液などによって簡易に溶出できる易溶出成分として活用することもできる。
【0070】
アルカリ水溶液により易溶出成分が容易に除去できる複合繊維は、溶出装置、操作等が特殊なものでなく、溶出装置への腐食性はなく、安全かつ安価であるため、工業的価値が高い。従来の複合繊維の易溶出成分としては、共重合PETやポリ乳酸などが挙げられ、これらの分子鎖構造は加水分解を受け易いルーズなものである場合が多く、おのずと耐熱性も低くなる。これらの場合には前述した複合繊維の力学的特性の低下に加え、易溶出成分の熱劣化が問題となる。また、芯鞘型複合繊維として、易溶出成分も完全に除去しないまま使用する場合には、ポリマー組成が異なるため、相溶性には限界があり、鞘剥離などの問題があった。一方、本発明の複合繊維の場合には、例えば、1種類のポリマーを用いて、芯成分には未添加のもの、鞘成分には樹状ポリエステルを添加したものとした場合、芯成分と鞘成分は、元々同じポリマーであるため、相溶性には問題はなく、特筆すべきは、樹状ポリエステルをブレンドしたマトリクスポリマーは熱的特性などは未添加のそれと比較してほとんど変化しないために、熱劣化の問題もなく、力学的特性が優れた力学的特性を有した芯鞘複合繊維となる。さらに、このような場合、1種類のポリマーを利用し、異形断面や海島型などの複合繊維が製造可能となるために新たな設備や工程を省略できることとなるため、工業的な価値も高い。また、別の観点では、様々なポリマーの組み合わせを用いた複合繊維が可能となるため、用途に合わせた様々な物性および断面形状を有した複合繊維を得ることができるのである。
【0071】
樹状ポリエステルがブレンドされたポリマーブレンドを易溶出成分として用いる場合の具体的な例としては、カルボキシル基をBとした本発明の樹状ポリエステルをブレンドすることで、ポリマーブレンドの全カルボキシル末端基量を増加させることができ、カルボキシル末端基の自己触媒反応により、易加水分解性を示すこととなり、アルカリ水溶液などで容易に溶出することができるようになる。このため、易溶出成分として樹状ポリエステルがブレンドされたポリマーブレンドを用いる場合には、マトリクスポリマーはポリエステルが好ましく、汎用性や取扱い性を考えれば、ポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。また、ポリ乳酸などの本質的に易加水分解性を有するポリマーにブレンドすることにより、アルカリ水溶液における加水分解速度を向上させ、溶出工程を短縮あるいは簡易化することが可能なことは言うまでもない。
【0072】
本発明の複合繊維では、樹状ポリエステルを熱可塑性であるマトリクスポリマーにブレンドしたポリマーブレンドの複合比率は1〜99wt%とすることが好ましいが、複合繊維を構成するポリマーのうち、複合比率が高いポリマーがその複合繊維の力学的特性、特に強度、伸度あるいは弾性率を決定することとなるため、目的とする機能により複合比率を決定する必要がある。ここで言う複合比率とは、一定量の複合繊維の重量に対する樹状ポリエステルが占める重量比率のことを意味する。
【0073】
本発明の断面形状としては、例えば、芯鞘型あるいは海島型が挙げられ、ここで言う芯鞘型の芯成分は真円に加え、星形、三葉などの多葉断面、不定形などが製造可能である。ここでいう芯鞘型複合繊維とは、図1〜3に示すように、異なる2種類以上のポリマーが繊維軸に対して垂直の断面において、芯成分を鞘成分が被覆するように構成されている繊維を意味し、樹状ポリエステルがブレンドされたポリマーブレンドはこの芯成分あるいは鞘成分を構成ことができる。芯鞘型複合繊維の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、インサート型やパイプ型などの複合口金を用いて、芯成分と鞘成分を複合流とし、細孔から吐出することで作製させる。この時、芯成分を難溶出成分で構成し、かつあらかじめ異形断面とし、複合繊維として紡糸し、巻き取り後に易溶出成分を溶出することにより、例えば星形(図2)あるいは三葉などといった多葉断面(図3)などの異形断面繊維が得られる。ここで言う異形断面とは、異形度が1.3以上のいわゆる真円でない断面形状のことを言う。また、海島型複合繊維とは、図4に示すように異なる2種類以上のポリマーが繊維方向に対し垂直な断面に海島構造を形成しており、ここでいう海島構造とは、島成分が海成分により複数に区別されている状態あるいは構造を形成しているもののことを言い、その区別された状態または島成分の断面形状に制約はなく、易溶出成分を溶出することにより、いわゆる極細繊維だけでなく、分割繊維等も得ることができる。本発明の樹状ポリエステルはブレンドされたポリマーブレンドはこの海成分であっても島成分であってもよいが、前述した易加水分解性を利用するのであれば、海成分として用いることが好ましい。このような海島型複合繊維を製造する方法としては公知のパイプ型やインサート型の海島型複合口金を用いる方法、異なる2種類のポリマーをあらかじめブレンドし、アロイポリマーとして単独口金から吐出する方法、あるいはこれらの組み合わせる方法がある。
【0074】
本発明の複合繊維においては、高分子量ポリマーの流動性を向上させ、例えば、これを鞘成分あるいは海成分に適用することにより、紡糸温度を低く設定することができ、組み合わせたいずれのポリマーの熱分解を抑制することができることに加え、従来ではほとんど力学的特性には寄与していなかった鞘成分あるいは海成分も力学的特性に寄与することとなるため、優れた力学的特性を有した複合繊維となる。また、紡糸性の観点からもポリマーの熱劣化を抑制することはポリマー流動の安定性が増すため、好ましいのである。
【0075】
このような流動性向上という観点は成形加工などの検討において着目され、超分岐ポリマーを添加することにより流動性が向上する技術が開示されている。しかしながら、溶融紡糸という伸長大変形に適用した場合には、マトリクスポリマーの分子鎖に超分岐ポリマーの分子鎖が絡みつくことによって、伸長変形を阻害し、紡糸性が著しく低下する場合がある。一方、本発明の複合繊維に用いる樹状ポリエステルは、従来では問題であった分子鎖の絡み合いを抑制することが可能とすることで、優れた力学的特性を有した複合繊維を得るに至ったわけであるが、この絡み合い抑制の効果は以下のように推定される。すなわち、前述したように枝構造に芳香族が含有され構成されていることで、樹状ポリエステルの枝構造は剛直性を増し、流動性を発現するものの、マトリックスポリマー分子鎖に絡み合わないことで、マトリクスポリマーの伸長変形を阻害しない。本発明の樹状ポリエステルは、流動性の向上という観点からは前述した樹状ポリエステルのブレンド率は多いほど好ましいが、紡糸性との兼ね合いから上限が定められる。極限粘度1.0dL/g以上の高分子量PETであっても1wt%添加で十分な流動性の効果が得られる。
【0076】
本発明の複合繊維は、優れた特性を有するため、衣料用途に用いた場合には品位に優れたものとなることが言うまでもなく、力学的特性が向上するために、特に産業資材用途でその特性を有効に活用することができる。
【0077】
例えば、芯鞘複合繊維においては、屈曲疲労や摩耗特性も従来品よりも向上し、タイヤコードやタイヤのキャップレイヤー材などのゴム補強用途のみならず漁網や農業資材の他、スクリーン紗などにも好適に用いることができる。
【0078】
産業資材用途においては、繊維はそのまま使用されることは少なく、他の樹脂によって被覆されて使用される場合が多い。例えば、ゴム補強用等、特にタイヤコードやキャップ材などのではポリエステルの場合、繊維表面に官能基が少ないためにゴム用接着剤として汎用的に使用されるレゾルシン・ホルマリン・ゴム(RFL)との反応性に乏しいため、ゴムとの接着性が悪く、実用上の大きな課題となっている。この解決方法のひとつとして、繊維表面に凹凸を付けたり、繊維の断面を異形とすることでRFLとの接触面積を向上させ、接着性を向上させる方法が考えられ、本発明の複合繊維の特性を有効に利用することができる。その具体的な方法としては、芯鞘型複合繊維において、鞘成分には樹状ポリエステルがブレンドされたもの、芯成分にはブレンドされていないものとして、繊維化する。鞘成分にブレンドする樹状ポリエステルを前述したように加水分解反応速度が増加するようなものを選択しておけば、複合繊維の表面をアルカリ水溶液によって短時間処理することで、鞘成分のみ加水分解が進み、表面に微細な凹凸が存在する複合繊維とすることができる。この場合、マトリクスポリマーは芯成分のポリマーと同じものであるため、鞘剥離等の問題も発生せず、力学的特性に優れつつも、表面には凹凸を有する複合繊維となる。また、異形断面繊維の場合にも、紡糸時の分子量低下を抑制できるため、得られる異形断面繊維は優れた力学的特性を示し、産業資材用途としての価値が高いものである。
【0079】
本発明の複合繊維では、強度は2cN/dtex以上が好ましく、産業資材用途で必要とされる力学的特性を考えれば、5cN/dtex以上であることが好ましい。現実的な上限としては20cN/dtexである。また、伸度は延伸糸で2〜60%、特に高強度が必要とされる産業資材分野では2〜25%、衣料用では25〜60%とすることが好ましい。
【0080】
上記した複合繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布、紙、液体分散体など多用な繊維製品とすることができる。
【0081】
本発明の複合繊維を得る方法、すなわち、樹状ポリエステルのマトリクスポリマーへのブレンド方法および繊維化については、公知の混練方法や複合紡糸方法を採用することで作製できる。
【0082】
まず、樹状ポリエステルのブレンドについては例えば以下のような方法を用いることができる。すなわち、前述した構造単位(I)〜(IV)とトリメシン酸残基から構成される樹状ポリエステルにおいて絶対分子量2000〜5000の範囲の樹状ポリエステルとマトリックスポリマーを必要に応じ乾燥し、二軸押し出し混練機に導入する。この時、ブレンド装置としてはブレンド斑を低減するために二軸押し出し混練機とすることが好ましい。ここで、作製したポリマーブレンドをそのまま複合紡糸機に導いても、マスターペレットとして一旦ペレット化しても良い。省力化のためには混練直結紡糸が好ましいが、樹状ポリエステルのブレンド率やポリエステル分子量が異なる品種をいくつかつくるなど汎用性を持たせるためにはマスターペレット化が好ましい。また、混練直結紡糸の場合には、二軸押し出し混練機では一軸押し出し混練機の場合とは異なり、混練機中で誘起された発泡が仕込み側に抜け難いため、発泡が繊維にまで混入し糸切れが頻発する場合がある。このため、特に高分子量ポリエステルなど高粘度ポリマーをマトリックスポリマーとする場合には、二軸押し出し混練機の吐出側でベントを行い、泡を抜く操作を行うことが好ましい。なお、マスターペレット化場合にもガット切れが頻発する時はベントを行うことが好ましい。また、本発明においては樹状ポリエステル添加による良流動化効果により、未添加の場合に比べ同一温度であればスクリュートルクが小さくなるため、混練温度の低温化が可能である。これにより、ポリマーの熱分解や熱変性、また加水分解などを抑制することができ、バージンポリマーが本来持っていた高分子量や易加工性などを利用し易くできるのである。先の樹状ポリエステルブレンドでマスターペレット化した場合には、紡糸過程でバージンポリマーにより希釈されるわけであるが、この時も二軸押し出し混練機を用いる方がブンレンドの均一性の観点から好ましい。というのは、本発明では樹状ポリエステルブレンド率で良流動化効果の程度が異なるため、ポリマーブレンド中でブレンドが不均一であるとスクリュートルクや先端圧、濾圧、口金背面圧、ひいては紡糸応力などの斑が発生し、安定した紡糸が不能となる場合があるからである。
【0083】
前述したように、樹状ポリエステルブレンドによる良流動化効果のため、未添加の場合に比べ混練機温度を低温化できることも有用であるが、本発明においては紡糸機、特に紡糸ヘッドの設定温度を低下させることが可能であることがその効果の特徴として挙げられる。すなわち、2つ以上の溶融押出機を具備した複合紡糸機では溶融温度についてはおのおのポリマーで独立して設定できるものの、紡糸ヘッドにおいてはポリマーらは同パック内に導かれるため、同じ温度履歴を受けることとなる。この温度を決定するのは前述したように主に高粘度ポリマーが流動性を示す温度であり、耐熱性が低いポリマーがある場合には紡糸ヘッド内で大きく熱劣化を起こすこととなる。これが複合繊維の物性だけでなく、紡糸性にも悪影響を与え、紡糸自体が困難となる場合が多い。このため、組み合わせるポリマーパターンにはおのずと制限ができてしまうのである。一方、本発明の複合繊維の場合には、樹状ポリエステル添加による流動性の向上を利用することにより、例えば、高分子量ポリマーによる高粘度のため通常では紡糸温度を融点より大幅に高温化せざるを得ない場合であっても、樹状ポリエステル添加により5℃以上の低温化も可能であり、この効果は、高粘度ポリマーほど大きく発現する。このため、紡糸温度を低く設定することができ、低粘度あるいは耐熱性の低いポリマーの熱分解というような従来の問題を解消することが可能である。しかも、本発明者らは樹状ポリエステル添加による流動性向上する技術を利用した紡糸技術について鋭意検討した結果、前述したR2構造の構成単位に芳香族が含まれていることによって、紡糸といったような非常に大きい伸長変形の際にも、マトリクスポリマーへの分子鎖の絡み合いが抑制させることにより、紡糸性良く複合繊維を得ることができることを見出した。さらに、本発明者らは、特にBがカルボキシル基により構成された樹状ポリエステルをブレンドしたポリエステルについては、全カルボキシル末端基が増加することにより、加水分解速度が向上することを見出し、これを易溶出成分とすることにより、様々な複合繊維を得ることが可能となる。また、本発明の複合繊維は異形断面繊維や極細繊維といったような特殊な断面を有した繊維を得る際にも不必要に物性が低下することがないため、優れた特性を有するため、産業資材用途に好適に用いることができる。
【0084】
本発明の複合繊維は、その断面形状については、例えば、芯鞘型、星形、三葉形などの多葉断面、不定形断面あるいは海島型が挙げられる。これらの複合繊維は、異なる2種類以上のポリマーの複合流を集合させ(例えば、インサート型やパイプ型)、同心円あるいは異形断面形状を有する孔から溶融吐出することが可能な複合口金を利用した公知の複合繊維の製造方法により作製される。また、海島型複合繊維に関しては、あらかじめ易溶出成分と難溶出成分をあらかじめ混練してアロイポリマーとしておき、単独口金から吐出する方法でも作製される。
【0085】
本発明において、紡糸温度は、樹状ポリエステル未添加のマトリクスポリマーを単独で紡糸する場合に比較して5〜20℃低下させることが好ましい。より好ましくは、7〜15℃低下である。また、紡糸速度はマトリックスポリマーと組み合わせるポリマーの物性や複合繊維の目的によって異なるが、500〜6000m/分程度とすることができる。特に、産業資材用途で高い力学的特性が必要な場合には、高分子量ポリマーを用い、500〜2000m/分とし、その後高倍率延伸することが好ましい。
【0086】
延伸に際しては、特に予熱温度を適切に設定することが好ましい。というのは本発明で用いる樹状ポリエステルはガラス転移温度などの軟化温度が70℃より高い場合があり、例えばPETの通常の予熱温度である85〜95℃程度では、樹状ポリエステルが延伸過程で異物として振る舞い結果として延伸糸のタフネスの低下を招く場合がある。この影響は、特に高倍率延伸時ほど顕著に現れる。このため、樹状ポリエステルの添加量が微量であっても予熱温度は樹状ポリエステルのガラス転移温度や軟化温度以上に設定することが好ましい。予熱温度の上限としては、予熱過程で繊維の自発伸長により糸道乱れが発生しない温度とすることが好ましい。この延伸時の予熱温度設定も糸斑低減に寄与することができる。
【0087】
本発明の複合繊維から異形断面繊維を得る場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液にて易溶出成分を除去することにより難溶出成分からなる異形断面繊維を得ることができる。本発明の複合繊維をアルカリ水溶液にて処理する方法としては、例えば、複合繊維あるいはそれからなる繊維構造体としたあと、アルカリ水溶液に浸漬させればよい。この時、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めるため、好ましい。また、流体染色機などを利用し、処理すれば、一度に大量に処理をおこなうことができるため、生産性もよく、工業的な観点から好ましいことである。この時、易溶出成分に本発明の樹状ポリエステルをブレンドしたポリマーを易溶出成分として使用する場合には、Bがカルボキシル基であれば、易溶出成分の全カルボキシル末端基が増加することで加水分解反応速度が向上するため、好ましい。また、この樹状ポリエステルを添加するマトリクスポリマーとしては、ポリエステルとすることが好ましく、中でも汎用性に優れ、取り扱いが容易であることからポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0089】
A.絶対分子量
樹状ポリエステルの絶対分子量は樹状ポリエステルが可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノールを使用して、GPC−MALLS(ゲル浸透クロマトグラフ(ShodexGPC−101)−光散乱検出器(Wyatt製DAWN HELEOS))により、試料濃度0.04%、測定温度23℃で測定した。
【0090】
B.重量平均分子量
本発明の熱可塑性マトリックスポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準PMMA換算の値である。GPC測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用いて、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用いて測定した。
【0091】
ただし、ポリ乳酸の重量平均分子量は以下のようにして求めた。試料のクロロホルム溶液にTHF(テトロヒドロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWATERS社製GPC WATERS2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0092】
C.ポリエステルの極限粘度
ポリエステルの極限粘度はo−クロロフェノールに溶解してオストワルド式粘度計を用いて25℃で測定した。
【0093】
D.ナイロンの相対粘度
98%硫酸水溶液にナイロンを溶解し0.01g/mLの濃度に調整した後、オストワルド式粘度計を用いて25℃で測定した。
【0094】
E.樹状ポリエステルの化学組成比
樹状ポリエステルの化学組成比は核磁気共鳴装置(日本電子製JNM−AL400)を用いて、ペンタフルオロフェノール/重水素化クロロホルム(50/50)混合溶媒に溶解して、40℃で1H−NMR測定を行い、ピーク強度比から各成分の化学組成比を算出した。
【0095】
F.融点およびガラス転移点
TA Instruments社製DSC2920 Modulated DSCを用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
また、同じく2nd runでの階段状の吸熱を示す領域の中点をガラス転移点とした。
【0096】
G.液晶開始温度
剪断応力加熱装置(CSS−450)により、剪断速度1.0(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度とした。
【0097】
H.繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用い、給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0098】
I.繊維の力学特性(強度、伸度、弾性率)
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。また、弾性率は荷重−伸長曲線の初期立ち上がり部分を直線近似し、その傾きから求めた。
【0099】
J.ポリマーブレンドの全カルボキシル末端基量
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)調整液に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することによって測定した。
【0100】
K.複合繊維の断面形態観察
複合口金から吐出された複合ポリマー流を口金下で冷却固化後サンプリングし、得られたガット状サンプル1本を剃刀にて繊維軸に対して垂直方向に切断した。この切断面を400倍に設定した実体顕微鏡にて観察した。
【0101】
L.溶融粘度測定
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、温度=300℃、速度=1216sec−1の溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0102】
参考例1(樹状ポリエステルA−1の合成)
攪拌翼、留出管を備えた反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸48.0g(0.35モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル30.9g(0.17モル)、テレフタル酸5.41g(0.033モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート10.4g(0.054モル)、トリメシン酸42.0g(0.20モル)、および無水酢酸76.3g(フェノール性水酸基合計の1.1当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1.5時間反応させた後、250℃まで昇温して脱酢酸縮合反応を行った。反応器内温が250℃に達した後、安息香酸14.7g(0.12モル)を加えて280℃まで昇温させた。酢酸の理論留出量の100%が留出したところで加熱、攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出し、樹状ポリエステル樹脂(A−1)を得た。
【0103】
この樹状ポリエステル樹脂(A−1)は、核磁気共鳴スペクトル解析の結果、R部分の構造が、p−オキシベンゾエート単位の含量pが2.0、4,4’−ジオキシビフェニル単位とエチレンオキシド単位の含量qが0.5、テレフタレート単位の含量rが0.5であり、p+q+r=3であり、分岐点、すなわちBの含有率は樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して25モル%であった。また末端構造はカルボン酸と安息香酸エステルであった。
【0104】
得られた樹状ポリエステル樹脂の融点Tmは182℃、液晶開始温度は163℃で、絶対分子量は5500であった。
【0105】
参考例2(樹状ポリエステルA−2の合成)
攪拌翼、留出管を備えた反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸66.30g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.40g(0.075モル)、α−レゾルシル酸42.72g(0.28モル)および無水酢酸78.26g(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、260℃まで昇温し、3時間攪拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで、安息香酸25.6g(0.21モル;理論アセトキシ末端に対して1.000倍)を添加し、酢酸を100%まで留出させたところで、加熱および攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出して樹状ポリエステル樹脂(A−2)を得た。
【0106】
この樹状ポリエステル樹脂(A−2)は、核磁気共鳴スペクトル解析の結果、R部分の構造が、p−オキシベンゾエート単位の含量pが1.32、4,4’−ジオキシビフェニル単位とエチレンオキシド単位の含量qが0.33、テレフタレート単位の含量rが0.33であり、p+q+r=2であり、分岐点、すなわちBの含有率は樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して30モル%であった。また末端構造はカルボン酸とアセチル基であった。
【0107】
得られた樹状ポリエステル樹脂の融点Tmは182℃、液晶開始温度は152℃で、絶対分子量は6500であった。
【0108】
参考例3(脂肪族系超分岐ポリマーA−3の合成)
特表2005−513186号公報に準じ脂肪族系超分岐ポリマーを合成した。
【0109】
参考例4〜8(樹状ポリエステルA−1・ポリマーブレンドの作製)
参考例1で合成した樹状ポリエステル(A−1)と、極限粘度1.11dL/gの高分子量PETを乾燥した後、別々に計量し、独立に二軸押し出し混練機に仕込んでポリマーブレンドとして吐出し、水槽中で冷却固化することでガット化した後、3mm程度にカットすることでペレット化した。この時、樹状ポリエステルの添加量はポリマーブレンドに対し1wt%とした。また、比較のため、樹状ポリエステルを未添加とした再溶融ポリマーも作製した(参考例8)。なお、これらのポリマーはいずれも二軸押し出し混練機の吐出側でベントを行い、泡を消した。混練温度は表1のように設定し、この時得られたポリマーブレンドの全カルボキシル末端基量および溶融粘度測定結果についても表1に合わせて示した。溶融粘度の結果から、樹状ポリエステルA−1がブレンドされたポリマーブレンドは未添加のものと比較して、同混練温度のもので38%の流動性が向上する効果が確認された。念のため参考例5(樹状ポリエステルA−1 1wt%添加、混練温度295℃)で、PETの重量平均分子量を測定したが、18,600であり、樹状ポリエステル無添加(参考例8)と同じ値であり、樹状ポリエステル添加による加水分解や熱分解の促進は見られなかった。また、ポリマーの全カルボキシル末端基量を比較すると未添加のものと比較して、大きく増加しているものであった。
【0110】
参考例9,10(樹状ポリエステルA−2・ポリマーブレンドの作製)
樹状ポリエステルA−2を用いて、混練温度を表1に示す温度に設定し、参考例4と同様にポリマーブレンドを作製した。樹状ポリエステルA−1をブレンドした場合と比較して、流動性に関しては、さらに流動性の向上が見られるものの、全カルボキシル末端基量は低下したものであった。
【0111】
【表1】

【0112】
実施例1〜4、比較例1
参考例7(樹状ポリエステルA−1 1wt%添加、混練温度290℃)および参考例8(未添加、混練温度300℃)で作製したポリマーが鞘成分、マトリクスポリマーで使用した高分子量PETを芯成分になるようにし、公知の複合紡糸方法に従って、複合比率が芯成分/鞘成分=80/20となるように同心円型芯鞘複合繊維を得た。この時の紡糸温度は表2のように設定した。総吐出量は42.3g/分で丸孔24ホール(φ=0.6mm)の口金から紡糸を行い、ユニフローの冷却風帯域を通過させた後、給油し巻き取った。
【0113】
まず、紡糸速度を500m/分として、鞘成分を樹状ポリエステルがブレンドされたポリマーブレンドとすることによって、流動性向上効果を確かめた。実施例1〜4と比較例1の比較から明らかなように、鞘成分が樹状ポリエステルがブレンドされたポリマーブレンドとすること(実施例1〜4)で顕著な紡糸パック圧力の低下が起こり、紡糸温度の低温化の可能性が示された。また、図5に紡糸温度と紡糸パック圧力の関係をプロットしたが、同一紡糸パック圧力で比較すると、8℃の紡糸温度低下効果が見込めることがわかった。これは流動性が向上した鞘成分で高粘度の芯成分を被覆することにより、低い紡糸温度であっても吐出が安定化しつつも、パック圧の低下が低下したものである。
【0114】
比較例2
比較として、参考例4で使用した高分子量PET IV=1.11dL/gを用い、公知の単独繊維の紡糸方法に従って、紡糸を行った以外は全て実施例1に従って紡糸を行った。この場合、パック圧が6.7MPaと比較例1と比較しても、高い値となった。
【0115】
【表2】

【0116】
実施例5〜7
参考例9のポリマー(樹状ポリエステルA−1 1wt%添加、混練温度290℃)を鞘成分として用いたこと以外は全て、実施例1に従い実施した。比較例1および実施例1〜4と比較して、パック圧が低下するものであり、流動性の向上が確認された。紡糸パック圧から概算すると10℃以上の紡糸温度低下の効果が見込めるものであった。
【0117】
実施例8〜11
次に紡糸速度を変更して実施例4および実施例7と同様に紡糸を行ったが、紡糸速度を高速化しても紡糸性は良好であった。
【0118】
実施例12〜17、比較例3〜8
実施例4,7および比較例1,2で得られた未延伸糸の延伸・熱処理実験を行った。この時、延伸機としては3ホットローラー型延伸機を用い、フィードローラー(非加熱)、第1ホットローラー、第2ホットローラー、第3ホットローラー、デリバリーローラー(非加熱)と糸を通して延伸・熱処理を行った。第1ホットローラー温度(予熱温度)を90℃、第2ホットローラー温度を140℃、第3ホットローラー温度を230℃とし、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を3.85に固定し、第2ホットローラーと第3ホットローラー間の延伸倍率を変化させた。表2にはフィードローラーからデリバリーローラーまでのトータル延伸倍率を示した。
【0119】
いずれも延伸性に問題はなく糸切れ、毛羽等は発生せず、U%も1%以下であった。また、強度と伸度の関係を図6にプロットしたが、樹状ポリエステルがブレンドされたポリマーブレンドを鞘成分とし、紡糸温度を低下させた実施例12〜17は、未添加の比較例3〜5に比べ同一伸度での強度が高いものであり、力学的特性に優れた複合繊維が得られていることがわかった。
【0120】
【表3】

【0121】
実施例18
参考例1で合成した樹状ポリエステル(A−1)と、極限粘度1.11dL/gの高分子量PETを別々に計量し、独立に混練温度290℃に設定した二軸押し出し混練機に仕込んでポリマーブレンドとし、直接、鞘成分として使用したこと以外は全て実施例4に従って複合繊維を得た。この時のパック圧は6.6MPaであり、実施例4と同じであった。さらにこの未延伸糸を用いて、実施例13と同じく総延伸倍率5.4倍として延伸したところ、強度=6.9cN/dtex 伸度=19% 弾性率=105cN/dtex U%=0.83と優れた力学的特性を有した芯鞘型複合繊維が得られた。
【0122】
比較例9
芯成分を実施例1で用いた高分子量PET IV=1.11dL/gとし、鞘成分を低分子量PET IV=0.50dL/gとしたこと以外は全て実施例4に従って複合繊維を得た。この時のパック圧5.1MPaと低いものであったが、実施例3に従って総延伸倍率5.4倍として延伸をしたところ、強度=5.4cN/dtex 伸度=19% 弾性率=99cN/dtex U%=0.92と鞘成分はほとんど力学的特性に寄与しないために力学的特性は低いものであった。
【0123】
比較例10
参考例3で合成した脂肪族系超分岐ポリマー(A−3)を用い、実施例18と同様に紡糸を行ったところ、紡糸パック圧力は8.0Pa・sと本発明のA−1、A−2を用いた場合に比べ良流動化効果は小さいものであった。また、紡糸が安定せず、糸切れが多発するなど紡糸性も実施例18には及ばなかった。
【0124】
実施例19
芯成分の断面形状が星形となるインサート型芯鞘複合口金により紡糸したこと以外は全て実施例3に従って複合繊維を得た。断面形状を確認したところ、芯成分が星形を形成しているものであった。この時のパック圧は6.3MPaであり、紡糸温度低下の効果を確認することができた。実施例16に従って延伸検討をおこなったところ、強度=7.0cN/dtex、伸度=18%、弾性率=99cN/dtex、U%=0.93%の力学的特性に優れた星形複合繊維が得られていることがわかった。
【0125】
実施例20
芯成分の断面形状が多葉断面(三葉)となるインサート型芯鞘複合口金により紡糸したこと以外は全て実施例3に従って複合繊維を得た。断面形状を確認したところ、芯成分が三葉断面を形成しているものであった。この時のパック圧は6.3MPaであり、紡糸温度低下の効果を確認することができた。実施例16に従って延伸検討をおこなったところ、強度=6.9cN/dtex、伸度=19%、弾性率=98cN/dtex、U%=0.90%の力学的特性に優れた多葉断面複合繊維が得られていることがわかった。
【0126】
実施例21,22
実施例13のサンプルを用いて、100mのカセとして枠に巻きつけ、浴比1/100の槽にて5wt%水酸化ナトリウム水溶液にて98℃で処理したところ、70分間で鞘成分が99%以上溶出された。また、処理時間を15分間として、同様に実施例13のサンプルをアルカリ処理したところ、総重量に対する減量率は10%であり、繊維表面はランダムに凹凸がついた芯鞘複合繊維が得られていた。
【0127】
比較例11
比較例6のサンプルを用いて、実施例22と同様にアルカリ処理を行ったところ、110分間で鞘成分を99%以上溶出することができたが、実施例22と比較して時間がかかるものであった。
【0128】
実施例23
あらかじめ相対粘度2.6のナイロン6(N6)と参考例1で合成した樹状ポリエステルA−1を1wt%となるようにドライブレンドしたものと光学純度99%のポリL乳酸(PLA重量平均分子量11万)を乾燥した後、混練比率(N6+A−1)/PLA=40/60となるように別々に計量して二軸押し出し混練機(混練温度220℃)に仕込んでアロイポリマーとして吐出し、水槽中で冷却固化することでガット化した後、ペレットとした。この(N6+A−1)/PLAアロイポリマーを比較例2と同様に溶融紡糸を行った。この時、紡糸温度は220℃とし、吐出量は30g/分、口金として孔径0.30mm、36ホールの物を用い、紡糸速度は3500m/分とした。この時の紡糸パック圧力は10MPaであり、繊維断面ではN6が島成分、PLAが海成分を構成した海島型複合繊維が得られていた。紡糸温度をポリ乳酸の分解が著しくなる温度(240℃)よりも下げることができたため、分解ガスの発生を抑制することができた。また、得られた海島型複合繊維の物性は強度=2.9cN/dtex 伸度=44% U%=1.01%であり、優れた力学的特性を有していた。
【0129】
比較例12
樹状ポリエステルA−1をブレンドしていないこと以外は実施例21と同様に溶融紡糸を開始したが、紡糸温度220℃ではポリマー流動が口金直下で繋がらない五月雨状態となり、繊維化することができなかった。このため、紡糸温度を段階的に高温化させたところ、紡糸温度240℃でようやく繊維化することができた。この時の紡糸パック圧力は12MPaであった。紡糸温度がポリ乳酸に対して高いため、分解ガスの発生が著しく作業環境が悪化した。また、得られた海島型複合繊維の物性は強度=2.4cN/dtex 伸度=39% U%=1.40%であり、ポリ乳酸が熱劣化することで実施例21と比較して力学的特性が低下したものであり、繊維斑も大きいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】芯鞘複合繊維の断面形状を示す図である。
【図2】星形複合繊維の断面形状を示す図である。
【図3】多葉断面(三葉)複合繊維の断面形状を示す図である。
【図4】海島型複合繊維の断面形状を示す図である。
【図5】紡糸温度とパック圧の関係を示す図である。
【図6】延伸糸の強度を伸度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0131】
1:芯成分
2:鞘成分
3:難溶出成分(星形)
4:易溶出成分
5:難溶出成分(三葉)
6:易溶出成分
7:島成分
8:海成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)からなる構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、Bの含有量が樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して7.5〜50モル%の範囲にある樹状ポリエステルを熱可塑性であるマトリックスポリマーに0.1〜10wt%ブレンドしたポリマーブレンドが少なくとも一部を構成する複合繊維。
【請求項2】
樹状ポリエステルが熱可塑性であるマトリックスポリマーにブレンドされたポリマーブレンドが1〜99wt%配合されていることを特徴とする請求項1記載の複合繊維。
【請求項3】
樹状ポリエステルが熱可塑性であるマトリックスポリマーにブレンドされたポリマーブレンドが芯成分あるいは/または鞘成分を構成する請求項1または2記載の複合繊維。
【請求項4】
繊維軸に対して垂直方向の繊維断面で難溶出成分が異形断面を形成する複合繊維において、易溶出成分あるいは/または難溶出成分が樹状ポリエステルが熱可塑性であるマトリックスポリマーにブレンドされたポリマーブレンドであることを特徴とする請求項1または2記載の複合繊維。
【請求項5】
繊維軸に対して垂直方向の繊維断面において難溶出成分が星形断面であることを特徴とする請求項4記載の複合繊維。
【請求項6】
繊維軸に対して垂直方向の繊維断面において難溶出成分が多葉断面であることを特徴とする請求項4記載の複合繊維。
【請求項7】
繊維軸に対して垂直方向の繊維断面において難溶出成分と易溶出成分が海島構造を形成することを特徴とする請求項4記載の複合繊維。
【請求項8】
熱可塑性であるマトリクスポリマーがポリエステルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の複合繊維。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の繊維を少なくとも一部に使用した繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−52161(P2009−52161A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218617(P2007−218617)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】