説明

複合膜

【課題】本発明は、高分離係数および高透過流量を有する分離膜、特に、パーベーパレーション法により、共沸混合物から所望の成分を分離するのに好適な複合膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、この複合膜を用いて共沸混合物から所望の成分を分離する方法を提供することを目的とする
【解決手段】表面開孔率が2%以上、50%以下、かつ平均細孔径が1μm以下であって、外径が0.5〜10mm、壁厚が1.5mm以下である中空円筒状の多孔質支持体の表面にゼオライト結晶からなる層が形成された複合膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子ふるい機能を有するゼオライトの結晶からなる層が、中空円筒状の多孔質支持体上に形成された複合膜、およびその膜を用いて液体、気体、またはそれらの混合物から特定の成分をパーベーパレーション法により分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水および有機物が均一に混合した溶液から、水または有機物を選択的に分離する方法としては、蒸留による方法が広く使われている。一方、エタノール、イソプロパノール等は、水との混合により、一定濃度以上では共沸状態となるために、通常の蒸留法で分離することができず、ベンゼンのような有害なエントレーナーを使用した共沸蒸留法を用いる必要がある。
共沸蒸留法は、このように有害な第3成分が必要となることに加えて、エネルギーコストも高くなるため、近年これに代わる分離方法としてパーベーパレーションによる分離方法が注目されており、ゼオライト膜を用いた分離膜が高い特性を示すことが知られている。
特に親水性のA型ゼオライトの膜を用いたパーベーパレーションによる脱水では、温度75℃、エタノール90重量%の水溶液において、透過流量Q=2.15kg/mh、分離係数α=10000という、極めて高い分離性能が得られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、同様の方法で製膜したA型ゼオライトであっても、特許文献1の脱水性能を再現しない報告が多くなされており、その理由は明確にされていない(例えば、非特許文献1参照)。これに対し、同じゼオライト膜であっても、用いる支持体によって脱水性能が大きく異なる可能性があることを理論的に示す報告が出されている(非特許文献2参照)。
このようにパーベーパレーションによる脱水においては、分離膜と中空円筒状の支持体の組み合わせが重要であることは明らかであるが、支持体となる多孔質材料の具体的な条
件については、これまで明確にされていなかった。
【特許文献1】特開平7−185275号公報
【非特許文献1】Shiguang Li 他, ”Pervaporation of Water/THF Mixtures Using Zeolite Membranes” Ind. Eng. Chem. Res. 2001, 40, 4577
【非特許文献2】F.T. de Bruijn 他, ”Influence of the support layer on the flux limitation in pervaporation” J. Mem. Sci., 2003, 223, 141
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高分離係数および高透過流量を有する分離膜、特に、パーベーパレーション法により、共沸混合物から所望の成分を分離するのに好適な複合膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、この複合膜を用いて混合液体、特に、共沸混合物から所望の成分を分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
パーベーパレーションによる分離を行う際、ゼオライト膜を透過した水または有機物は、多孔質支持体を経て減圧側に移動するため、多孔質支持体自体の透過抵抗および圧損による多孔質支持体内部での減圧度の低下は、分離性能を低下させる方向に機能する。したがって、表面のゼオライト膜が同一のものであっても、多孔質支持体の性質によって分離性能が異なるという、前記の文献の結果が生じるものと考えられる。
多孔質支持体の特性を表す因子は、空孔率、細孔径、細孔径分布、細孔径の形状、材質等、多岐にわたり、しかもそれらの因子は必ずしも相互に良好な相関を持たないため、多孔質支持体の特定の構造因子を規定することにより、複合膜の分離性能を保証することは困難であった。
これに対し、本発明者らは、中空円筒状の多孔質支持体の表面開孔率および膜厚という簡単な因子を指定することにより、高性能なゼオライト複合膜が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0006】
(1)表面開孔率が2%以上、50%以下、かつ平均細孔径が1μm以下であって、外径が0.5〜10mm、壁厚が1.5mm以下である中空円筒状の多孔質支持体の表面にゼオライト結晶からなる層が形成された複合膜。
(2)ゼオライトは、A型、X型、Y型、T型、L型、ZSM類、ソーダライト類、モルデナイト類およびシリカライト類から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載の複合膜。
(3)上記(1)記載の複合膜を用いてパーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離する物質分離方法。
(4)混合溶液が水と有機物からなる上記(3)記載の物質分離方法。
(5)混合溶液が2種以上の有機物溶液からなる上記(3)記載の物質分離方法。
(6)ゼオライト結晶が親水性ゼオライトである上記(1)記載の複合膜を用いてパーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離する物質分離方法。
(7)ゼオライト結晶が疎水性ゼオライトである上記(1)記載の複合膜を用いてパーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離する物質分離方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合膜を用いると、多分野で、かつ、広範囲の用途において、分離係数および透過流量が高く、コンパクトで処理能力が高い分離用モジュールが可能となる。その結果、蒸留法に代わる、反応プロセス等から得られる混合物の経済的な分離が可能である。
特に、本発明の複合膜は、水と有機化合物とからなる共沸混合物からパーベーパレーション法によって選択的に所望の成分を分離するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の複合膜は、中空円筒状の多孔質支持体の外表面に、ゼオライト結晶からなる層が形成された構造である。
本発明の複合膜に用いられる中空円筒状の多孔質支持体(以下、多孔質支持体、と略す場合がある)は、表面開孔率が2%以上、50%以下であり、かつ平均細孔径が1μm以下であって、外径が0.5〜10mm、壁厚が1.5mm以下である。
多孔質支持体の材質には制限は無く、多孔体であればアルミナ、ムライト、チッ化珪素等の酸化物金属による無機材料、およびポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン等の有機材料のいずれであってもよい。
【0009】
多孔質支持体の表面開孔率は2%以上、50%以下であり、無機材料による多孔質支持体の場合は、好ましくは3%〜30%、有機材料による多孔質支持体の場合は、好ましくは20%〜50%である。表面開孔率の値が高いほど、透過流束も高くなるが、多孔質支持体の強度が低下する場合があるため、無機材料の場合30%以下、有機材料の場合50%以下が好ましい。
ここで、表面開孔率とは、ゼオライト結晶よりなる層を製膜する側の多孔質支持体における、開孔した部分の面積の全面積に対する比率をいう。表面開孔率は後で述べる方法により求められる。
【0010】
完全に均質な多孔体においては、表面開孔率は空孔率の2/3乗となるが、実際の多孔質材料においては、圧縮変形等により表面が潰れ、表面開孔率は空孔率の2/3乗より低い値となることが多い。このため、一般的には多孔質支持体の空孔率が高いほど、多孔質支持体の透過抵抗が小さく、その結果複合膜によるパーベーパレーションにおいて得られる透過流束も高くなるとも考えられるが、必ずしも空孔率と透過流束は1対1の関係を示さない。
【0011】
表面開孔率が複合膜によるパーベーパレーションの透過流束に強い効果を及ぼす理由は以下のようなものと考えられる。即ち、例えば脱水のパーベーパレーションにおいて、供給側に存在する水分子は活性層であるゼオライト結晶膜が有する微細孔に吸着され、透過側において減圧が駆動力となって、活性層から多孔質支持体に移動する。このときゼオライト結晶膜の微細孔が多孔質支持体表面の細孔と直接連結していると、水分子は容易に多孔質支持体に移動することが出来るが、連結していなければ水分子は多孔質支持体に移動することが出来ない。このゼオライト結晶膜微細孔と多孔質支持体細孔の連結の割合は、ゼオライト結晶膜と多孔質支持体との界面において、多孔質支持体細孔が占める面積の割合即ち、多孔質支持体表面の表面開孔率が高いほど多くなる。この結果、多孔質支持体の表面開孔率が透過流束に強い影響を及ぼすものと考えられる。
【0012】
本発明における多孔質支持体の平均細孔径は、大きすぎると多孔質支持体の強度が低下し、形状を安定に保持することができないため、1μm以下であることが必要である。
本発明の多孔質支持体の外径は、中空糸円筒状の複合膜を用いたパーベーパレーションによる分離効率の観点、並びに壁厚に対して形状を保持するという観点から、0.5〜10mmであり、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mmである。外形が0.5mmより小さいと中空糸円筒の内径が小さくなるため、内壁面での抵抗の効果が高くなり中空糸内での物質移動が妨げられて分離孔率が低下する。また、外径が10mmより大きいと、壁厚に対して外径が大きいため円筒の強度が低下し、パーベーパレーションによる分離の際、円筒の内側と外側の圧力差により破損する恐れがある。壁厚が小さい場合は、外径(D)が大きすぎると力学的強度が足りず、形状を保持することができない場合がある。
【0013】
本発明に用いられる多孔質支持体は、中空円筒状であり、壁厚は1.5mm以下である。ここでいう膜厚とは、中空円筒状の多孔質支持体の厚みであり、外径と内径の差の2分の1である。壁厚が1.5mmより大きいと、パーベーパレーションによる分離において十分な透過流量が得られない。この理由は、1.5mmより壁厚が大きい多孔質支持体を用いた複合膜を使用して減圧した際、多孔質支持体内部での圧損による減圧度の低下の効果が大きいためと考えられる。多孔質支持体の壁厚は、その多孔質支持体が形状を保持できる限り下限はない。
本発明の複合膜は、多孔質支持体の表面にゼオライト結晶からなる層が形成されている。ゼオライト結晶は、粒界を形成して緻密にパッキングして、中空円筒状の多孔質支持体表面に層を形成している。
【0014】
ゼオライトとしては、各種親水性ゼオライト、疎水性ゼオライトを用いることができる。親水性ゼオライトとしては、A型、X型、Y型、T型、L型、疎水性ゼオライトとしては、ZSM類、ソーダライト類、モルデナイト類、シリカライト類が挙げられる。また、これらがアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む場合、それを他の金属イオンで置き換えた各種ゼオライト等も用いることができる。
ゼオライトの結晶の寸法は、分離性能と透過流量がともに低下するのを防ぐ上で、0.01μmから10μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1μmから5μmである。ゼオライトの寸法が0.01μmより小さいと、結晶としての完全度が低くなり、分離性能、透過流量が共に低下する場合がある。結晶の寸法が10μmを超えると、結晶粒界の間に欠陥が生成しやすくなり、分離性能の低下をもたらす場合がある。
【0015】
ゼオライト層の厚みは0.1μmから50μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.5μmから30μmである。厚みが0.1μmより小さいと、多孔質支持体の表面の凹凸によりピンホールが生成して分離性能が低下する場合があり、50μmより大きいと透過流量が低下する場合がある。
中空円筒状の多孔質支持体上にゼオライト結晶からなる層を形成する方法としては、多孔質支持体にゼオライトの種結晶を付着させてから水熱合成により結晶成長させる方法、直接水熱合成によって結晶を成長させる方法、ゼオライトの原料となるゲルを多孔質支持体上に塗布した後、スチーム処理によって製膜するドライゲル法等が挙げられる。
【0016】
ゼオライトの原料となるシリカ成分としては、ケイ酸ナトリウム、水ガラス、コロイダルシリカ、アルコキシシランの加水分解物等を用いることができる。ゼオライトのアルミナ成分としては、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ベーマイト等を用いることができる。必要に応じて、カルシウム酸化物成分として、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム等、マグネシウム酸化物成分として、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等、バリウム酸化物成分として、硝酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウム等が用いられる。
【0017】
本発明の複合膜を用いたモジュールは、例えば、分離処理を行う流体の供給口と、前記流体から少なくとも一成分が分離された流体の排出口を供えたハウジング内に、少なくとも1本の本発明の複合膜を収容して構成される。ハウジング容積(V)に対する複合膜の膜面積(S)の比率(S/V)は、10m/m以上であることが好ましい。
本発明の複合膜を用いて、パーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離することができる。
混合溶液としては、水と有機物との混合溶液、2種以上の有機物の混合溶液が好適に用いられる。
【0018】
水および有機物を含む混合溶液からパーベーパレーション法によって水または有機物を選択的に分離する場合、例えば、発酵によって得られるエタノールと水を含む混合溶液からエタノールまたは水を選択的に分離するには、従来、蒸留が一般的な分離方法であった。しかし、発酵により得られるエタノールと水の混合物は多量の水を含むために、蒸留によって分離濃縮するためには、多量のエネルギーが必要となる。
このような場合に、本発明の複合膜を用いると、ゼオライトの種類を適宜選択することにより、パーベーパレーション法によって水と有機物の混合物から、目的物のみを選択的に、しかも少ないエネルギーの使用で分離することが可能となる。
【0019】
水のみを選択的に分離する場合には、ゼオライトの種類として、A型、X型、T型等の親水性ゼオライトを使用する。一方、エタノールを選択的に分離する場合には、ZSM類、シリカライト類等の疎水性ゼオライトを用いて分離することができる。上記以外の混合物の場合にも、種類と目的によって、最適なゼオライトを選択すればよい。
2種以上の有機物の混合溶液を分離する例としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、四塩化炭素、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、ベンゼン、シクロヘキサンなどの芳香族類と、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類との混合溶液から、アルコール類を抽出する例が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
本発明に用いられる測定法は以下のとおりである。
(1)多孔質支持体の表面開口率
多孔質支持体の表面開孔率は、支持体表面の電子顕微鏡写真像から画像解析により細孔部分を抽出し、その面積比率を算出することにより求める。
図1〜3に表面開孔率の異なるアルミナ多孔質支持体の表面の電子顕微鏡写真像と、その画像解析により得られた細孔部分を黒く表したものを示す。図1において、表面開孔率は0.9%、図2では2.2%、図3では6.5%である。表面の細孔部分は電子顕微鏡写真像では暗部として観察されるため、画像解析により容易に表面開孔率を求めることが可能である。
(2)多孔質支持体の平均細孔径
多孔質支持体の平均細孔径は、ポアズイユフロー法に基づき、数式(1)から算出されたものを用いた。
【0021】
【化1】

ここで、Fvは透過した気体のモル数をガスクロマトグラフィー等で測定し求める。εは多孔質支持体を液体に浸漬し、細孔内に液体を充填した際の重量と乾燥重量との差と多孔質支持体体積から算出する。また、μは化学便覧等に記載されている公表値を用いる。
【0022】
[実施例1]
外径1.2mm、膜厚0.15mm、ポアズイユフロー法によって求められた平均細孔径0.3μmの、アルミナ粒子の焼結によって得られたアルミナ多孔質支持体の表面を、電子顕微鏡で撮影し、その表面開孔率を求めたところ、3.3%であった。
長さ10cmのアルミナ多孔質支持体表面に、以下の方法によってA型ゼオライト結晶からなる層を形成させた。
平均粒径0.8μmのA型ゼオライト結晶粒子が5重量%の濃度で分散している水スラリー中に多孔質支持体を浸漬し、A型ゼオライト微粒子を種結晶として、多孔質支持体表面に担持させた。次に、水、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを、NaO:SiO:Al:HO=2:2:1:125のモル比に配合したスラリーを入れたテフロン(登録商標)製の容器に、上記の多孔質支持体を浸漬し、この容器をオートクレーブに入れ、100℃で3時間、水熱合成反応を行った。
【0023】
反応後、多孔質支持体を取り出し、十分水洗した後、60℃で3時間乾燥させた。乾燥後の多孔質支持体の断面を電子顕微鏡により観察したところ、種結晶を担持させた側の表面に厚さ約5μmの結晶層が生成しており、これを広角X線回折によって解析した結果、A型ゼオライトの緻密層が形成されていることが確認された。この緻密層を形成しているA型ゼオライトの結晶の寸法は、電子顕微鏡による表面観察の結果、2〜3μmであった。
このようにしてえられた複合膜を30本用意し、両端をエポキシ樹脂で固着し、片側を密閉して、容積が500mlのモジュールを作成した。
【0024】
このモジュールを用いて、パーベーパレーション法によってエタノール水溶液から水を選択的に分離する試験を行った。図4にこの試験に用いたモジュールによる分離装置の模式図を示す。モジュール5の内部にエタノール90重量%の水溶液を75℃の温度で循環することにより供給し、モジュール5内の多孔質支持体の内側を真空ポンプ1によって減圧して、各複合膜の外表面から中空内部に、エタノール水溶液中の水を透過させた。複合膜を透過して分離された水は真空ライン2を通過して、液体窒素によって冷却されたトラップ3に集めた。真空ライン2の間には真空計4を設置している。図中でトラップ6は真空ポンプから油が逆流したした場合に、ここで捕獲するために設置した。
【0025】
トラップ3中の水の重量を測定し、膜の単位面積、単位時間当たりの透過量を求めることにより透過流束(Q)を求めた。トラップされた水に含まれるエタノール濃度をガスクロマトグラフィーを用いて測定することにより、分離係数(α)を求めた。具体的には、供給側のエタノールと水の重量濃度をそれぞれ、X重量%、X重量%とし、トラップ中の透過側のエタノールと水の濃度をそれぞれ、Y重量%、Y重量%とすると、分離係数(α)はα=(X/X)/(Y/Y)によって計算される。
30本の複合膜より得られたモジュールを用いて、エタノール90重量%の水溶液から、75℃の温度においてパーベーパレーション法によって、水を選択的に抽出する分離実験を行ったところ、水の透過流束(Q)は6.2kg/mh、分離係数(α)は10000以上であった。
【0026】
[比較例1]
アルミナ多孔質支持体に代えて、外径12mm、膜厚1.5mm、平均細孔径0.1μmの多孔質アルミナチューブを用意し、実施例1と同様の方法で表面開孔率を測定したところ、0.8%であった。
この多孔質アルミナチューブの表面に実施例1と同様の方法によりA型ゼオライトによる結晶膜を形成させた。これを20本用いて実施例1と同様にモジュールを作成した。実施例1と同様にエタノール90重量%水溶液からパーベーパレーション法によって、分離実験を行ったところ、水の透過量(Q)は1.2kg/mh、分離係数(α)は9500であった。
これにより、混合物から目的物を経済的に分離する方法として、本発明の複合膜を用いると、従来技術に比べて高い処理能力が得られることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の複合膜は、液体、気体、またはそれらの混合物から特定の成分のみを抽出する分離膜として好適に利用できる。特に、共沸状態となるため、従来の蒸留法では分離できなかった、エタノールと水のような系にも本発明の複合膜を利用することができる。さらに反応プロセス等から得られる混合物の経済的な分離が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】表面開孔率0.9%のアルミナ多孔質支持体の表面の電子顕微鏡写真像。
【図2】表面開孔率2.2%のアルミナ多孔質支持体の表面の電子顕微鏡写真像。
【図3】表面開孔率6.5%のアルミナ多孔質支持体の表面の電子顕微鏡写真像。
【図4】本発明の複合膜を用いたモジュールによる分離装置の模式図。
【符号の説明】
【0029】
1 真空ポンプ
2 真空ライン
3 冷却トラップ
4 真空計
5 モジュール
6 トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面開孔率が2%以上、50%以下、かつ平均細孔径が1μm以下であって、外径が0.5〜10mm、壁厚が1.5mm以下である中空円筒状の多孔質支持体の表面にゼオライト結晶からなる層が形成された複合膜。
【請求項2】
ゼオライトは、A型、X型、Y型、T型、L型、ZSM類、ソーダライト類、モルデナイト類およびシリカライト類から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載の複合膜。
【請求項3】
請求項1記載の複合膜を用いてパーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離する物質分離方法。
【請求項4】
混合溶液が水と有機物からなる請求項3記載の物質分離方法。
【請求項5】
混合溶液が2種以上の有機物溶液からなる請求項3記載の物質分離方法。
【請求項6】
ゼオライト結晶が親水性ゼオライトである請求項1記載の複合膜を用いてパーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離する物質分離方法。
【請求項7】
ゼオライト結晶が疎水性ゼオライトである請求項1記載の複合膜を用いてパーベーパレーション法によって2種以上の液体の混合溶液から少なくとも1種の液体を分離する物質分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−231123(P2006−231123A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45874(P2005−45874)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】