説明

複合酸化物の製造方法

【課題】 固相法において、原料のロスがなく容易に所期の組成通りの複合酸化物が得られると共に、セラミックス製反応容器の劣化を抑制し得る複合酸化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 チタン等の酸化物又は水酸化物である第1金属化合物と、リチウム等の炭酸塩又は水酸化物である第2金属化合物とを含む混合粉末を、セラミックス製反応容器に充填し焼成する複合酸化物の製造方法であって、前記セラミックス製反応容器と前記混合粉末との間の少なくとも該セラミックス製反応容器の底部に、炭化する材質からなるシート材を介在させ、該シート材への酸素の侵入を実質的に防止して焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物の製造方法に関し、詳しくは金属の炭酸塩等の低融点金属化合物を原料に用いて効率よく複合酸化物を製造する複合酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複合酸化物は電子材料分野や電池材料分野で幅広く用いられている。例えば、チタン酸バリウム及びチタン酸ストロンチウムは、高誘電率を有するという電気的特性のため誘電体材料として有用であり、また、チタン酸リチウム、コバルト酸リチウム及びマンガン酸リチウムは、パソコン及び携帯電話等の電源に用いられるリチウム二次電池の電極の活物質として有用である。また、チタン酸カリウムは、結晶がウィスカー状であるため、金属又はプラスチックの補強材としても利用されている。
【0003】
上記複合酸化物の製造方法としては従来から種々提案されており、大別すれば、固相法(焼成法)、溶融法、液相法(水熱法)に分類される。これらの方法のうちどの方法が好ましいかについては、得られる複合酸化物の特質がそれぞれの製造方法により異なるため一概には決められないが、固相法、すなわち原料を乾式方法で混合してそのまま焼成する製造方法は、工程が少なく製造コスト面で有利であるため、広く採用されている。
【0004】
固相法において複合酸化物は、通常、チタンやコバルト等の金属化合物と、カリウムやリチウム等の金属化合物とを反応させて得られる。ここで、チタン等の金属化合物としては酸化物が用いられることが多く、一方、カリウム等の金属化合物としては反応性に富むために炭酸塩や水酸化物が用いられることが多い。
【0005】
また、上記固相法を実施するに際し、チタン等の酸化物と、カリウム等の炭酸塩や水酸化物とを焼成する反応容器としては、工業的には、安価なセラミックス製容器が一般的に用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カリウム等の炭酸塩や水酸化物は、反応性に富む一方、チタン等の酸化物との固相反応が開始される反応温度よりも融点が低い。このため、カリウム等の炭酸塩や水酸化物は、固相反応前に融解して一部がセラミックス製容器に浸透する。すると、カリウム等の炭酸塩や水酸化物のロスが生じるため、上記固相法では、チタン等の酸化物と、カリウム等の炭酸塩や水酸化物とを理論当量の割合で混合しても、所期の組成の複合酸化物が得られないという問題があった。
【0007】
なお、チタン酸バリウム、チタン酸カリウムやチタン酸リチウム等は、複数の金属成分の原子比が少しでも変動すると電子材料や電池材料に利用した際の静電容量などの電気的特性等の特性に非常に大きな影響が現れるため、所期の組成の複合酸化物が得られないことは重大な問題である。これに対し、従来は、原料のロス分を見込んで予めカリウム等の炭酸塩や水酸化物を多めに配合する方法が採用されている。しかし、このような方法を採用しても、カリウム等の炭酸塩や水酸化物の焼成時のロス分が一定でないため、得られた複合酸化物の組成にばらつきが生じたり、原料の歩留まりが悪く生産性が低かったりするという問題があった。
【0008】
また、上記固相法には、融解したカリウムやリチウム等の炭酸塩や水酸化物がセラミックス製容器に浸透すると、セラミックス製容器が劣化して強度や耐熱性が極端に低下し、容器の寿命が短くなるという問題もあった。なお、反応容器としては、セラミックス製容器以外に白金やモリブデン等からなる金属製容器も知られているが、これらは高価であるため工業的には通常は用いられない。
【0009】
従って、本発明の目的は、固相法において、原料のロスがなく容易に所期の組成通りの複合酸化物が得られると共に、セラミックス製反応容器の劣化を抑制し得る複合酸化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、固相法でチタン等の酸化物とカリウムの炭酸塩等との混合粉末を焼成するに際し、セラミックス製反応容器と前記混合粉末との間に、炭化する材質からなるシート材を介在させ、該シート材への酸素の侵入を実質的に防止して焼成すれば、焼成途中にシート材の炭化した層が形成され、該炭化した層が焼成時に溶融したカリウムの炭酸塩等のセラミックス製反応容器内壁への浸透を阻むと共に、該炭化した層は固相法における反応温度において焼失するため、得られる複合酸化物中に炭化物が不純物として残存することもないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、チタン、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物又は水酸化物である第1金属化合物と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも1種の炭酸塩又は水酸化物である第2金属化合物とを含む混合粉末を、セラミックス製反応容器に充填し焼成する複合酸化物の製造方法であって、前記セラミックス製反応容器と前記混合粉末との間の少なくとも該セラミックス製反応容器の底部に、炭化する材質からなるシート材を介在させ、該シート材への酸素の侵入を実質的に防止して焼成することを特徴とする複合酸化物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、固相法による複合酸化物の製造においてセラミックス製の反応容器の内壁に紙等のシート材を装入しその中に原料の混合粉末を装入して焼成するため、昇温途中で溶融した原料の金属化合物がセラミックス製容器内に浸透することなく反応させることが可能となり、結果として目的の組成を有する複合酸化物を安定して製造することができ、且つ、セラミックス製反応容器を劣化させることなくその寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、複合酸化物の原料である混合粉末は、第1金属化合物と第2金属化合物とからなるものである。
【0014】
本発明において第1金属化合物とは、チタン、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物又は水酸化物をいう。具体的には、酸化チタン、水酸化チタン、酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化マンガン、水酸化マンガンが挙げられる。第1金属化合物の形態としては粉末状、粒状、塊状等、特に限定されないが、粒径100μm以下の粉末状であることが焼結した際の反応性向上のため好ましい。第1金属化合物は、1種又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0015】
本発明において第2金属化合物とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも1種の炭酸塩又は水酸化物をいう。具体的には、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、炭酸バリウム、水酸化バリウム、炭酸ランタン、水酸化ランタン等が挙げられる。第2金属化合物の形態としては粉末状、粒状、塊状等、特に限定されないが、粒径100μm以下の粉末状であることが焼結した際の反応性向上のため好ましい。第2金属化合物は、1種又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0016】
本発明において混合粉末は、上記の第1金属化合物と第2金属化合物とを混合してなるものである。混合粉末は複合酸化物の原料であるが、複合酸化物と、混合粉末の調製の際における第1金属化合物及び第2金属化合物との組み合わせとしては、好ましくは以下のものが挙げられる。
【0017】
すなわち、複合酸化物がチタン酸カリウムである場合には、第1金属化合物が酸化チタンで、第2金属化合物が炭酸カリウム又は重炭酸カリウムであることが好ましい。ここで、チタン酸カリウムとしては、具体的には、ニチタン酸カリウムK2O・2TiO2(K2TiO5)、四チタン酸カリウムK2O・4TiO2(K2TiO9)、六チタン酸カリウムK2O・6TiO2(K2TiO13)及び八チタン酸カリウムK2O・8TiO2(K2TiO17)等が挙げられる。
【0018】
また、複合酸化物がチタン酸リチウムである場合には、第1金属化合物が酸化チタンで、第2金属化合物が炭酸リチウムであることが好ましい。ここで、チタン酸リチウムとしては、具体的には、Li4Ti512、Li2Ti37及びLiTi24等が挙げられる。
【0019】
また、複合酸化物がチタン酸ストロンチウムである場合には、第1金属化合物が酸化チタンで、第2金属化合物が炭酸ストロンチウムであることが好ましい。また、複合酸化物がチタン酸ナトリウムである場合には、第1金属化合物が酸化チタンで、第2金属化合物が炭酸ナトリウムであることが好ましい。
【0020】
これらの組み合わせのうち、複合酸化物がチタン酸カリウムである場合に、第1金属化合物を酸化チタンとし、第2金属化合物を炭酸カリウムとする組み合わせは反応性が向上するため特に好ましい。
【0021】
混合粉末を調製する方法としては、特に限定されず、乾式混合法又は湿式混合法のいずれも採用することができる。また、混合の際に用いられる混合手段としては、V型ブレンダー、ボールミル等の公知の混合手段を用いることができる。また、第1金属化合物又は第2金属化合物の少なくともいずれか一方が、粉体でなく流状物又は塊状物である場合には、ボールミル等の粉砕混合手段を用いて混合粉末を調製することが好ましい。
【0022】
また、湿式混合法の場合、溶媒としては純水、アルコール、アセトン、MEK、THF等の通常の有機溶媒等が用いられるが、混合粉末の分散性を向上させて均一に混合させるために、界面活性剤や分散剤を併用することが好ましい。
【0023】
また、混合粉末には、必要により、さらに金属チタン粉を含ませてもよい。このように金属チタン粉を配合すると金属チタン粉が空気を吸収するため、焼成工程において、炭化する材質からなるシート材が炭化し易くなるため好ましい。
【0024】
本発明で用いられるセラミックス製反応容器としては、アルミナ等の通常のセラミックス材料からなるものであって、上記混合粉末を載置又は装入したときに混合粉末との間になるべく空気が侵入し難い形状のものが用いられる。具体的には、円筒状物、凹部を有する円柱状物、凹部を有する方形状物、皿状物等が挙げられる。このうち、円柱状物又は方形状物であってこれらの一部に形成された凹部がある程度の深さを有するものは、焼成において空気中の酸素の侵入を防止するため好ましい。
【0025】
本発明では、上記セラミックス製反応容器に上記混合粉末を充填するに当たり、セラミックス製反応容器と混合粉末との間の少なくともセラミックス製反応容器の底部に、炭化する材質からなるシート材を介在させる。このように、シート材を介在させることにより、焼成時に混合粉末中の第2金属化合物が溶融して、第2金属化合物がロスしたり、セラミックス製反応容器に溶融した第2金属化合物が浸透したりすることを回避できる。また、これらのシート材は、少なくともセラミックス製反応容器の凹部が形成する内壁部における前記混合粉末との接触部に介在させると、第2金属化合物のロスや、セラミックス製反応容器への浸透をより確実に回避できるためより好ましい。さらに、これらのシート材は、セラミックス製反応容器の凹部が形成する内壁部全体に介在させると、第2金属化合物のロスや、セラミックス製反応容器への浸透を略完全に回避できるため特に好ましい。
【0026】
炭化する材質からなるシート材は、焼成したときに炭化し、且つ、最終的に焼失すると共に、焼成時に軟化物又は流動物を生成しない材質のものが用いられ、具体的には、紙、天然繊維、樹皮又は熱硬化性樹脂が用いられる。例えば、紙の場合には、炭化し難く軟化する塩化ビニール等のようなものが張り合わされていない通常の紙が用いられ、いわゆる未晒クラフト紙、両更晒クラフト紙、片艶晒などの包装用紙、段ボール原紙、新聞用紙、上質紙、中質紙、再生紙、書籍用紙、キャストコート紙、 アート紙、PPC用紙などの情報用紙等が用いられる。また、天然繊維としては、例えば綿、麻、絹等が用いられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が用いられる。
【0027】
上記炭化する材質からなるシート材の形状は、シート、織布、不織布又は袋とする。特に袋状とすると混合粉末を充填させた状態でセラミックス製反応容器等に充填できるため、作業が容易になるため好ましい。また、シート材に用いられる紙の密度は、シート材が焼成の際に形成する炭化物膜等の炭化物の層が溶融した第2金属化合物を浸透させない程度の密度及び強度を有する必要があるため、紙の重さを表わす「坪量」が30〜100g/m2程度であることが好ましい。
【0028】
本発明では、上記のようにセラミックス製反応容器に炭化する材質からなるシート材を介在させて混合粉末を充填した後、該シート材への酸素の侵入を実質的に防止して焼成する。ここで、酸素の侵入を実質的に防止するとは、加熱し、固相反応が開始する前に、該シート材が燃焼しないように反応容器内への酸素の侵入を防止する意味であり、通常は、シート材を敷き詰めたセラミックス製反応容器に原料の混合粉末を隙間のないようにある程度充填することで達成できる。また、酸素の侵入を防止する方法として、密閉可能な電気炉等のように外部からの酸素の供給を遮断できる構造の加熱炉を用いて行うか、あるいは、加熱炉自体が密閉できず、炉内への酸素の供給が避けられない場合でも、セラミックス製反応容器を、円筒状物、凹部を有する円柱状物、凹部を有する方形状物等とし、これらを密閉して炉内の雰囲気から遮断する方法を採ればより好ましい。また、加熱炉内部又はセラミックス製反応容器内部のいずれか又は両方を、窒素雰囲気中又はアルゴン雰囲気中にして焼成を行うと、より確実に上記シート材への酸素の侵入を防止して焼成することができるため好ましい。
【0029】
本発明において、焼成温度は複合酸化物の種類により異なり、例えば、複合酸化物がチタン酸カリウムであれば、通常800〜1200℃、好ましくは1000〜1150℃であり、複合酸化物がチタン酸リチウムであれば、通常700〜1000℃、好ましくは800〜950℃である。このように複合酸化物は、通常700以上、時には1000℃以上で固相反応が開始するが、本発明では、該温度に至るまでの加熱途中で、セラミックス製反応容器との間に介在させた炭化する材質からなるシート材が炭化して炭化層を形成するため、溶融した第2金属化合物がセラミックス製反応容器に直接接触することを回避することができる。
なお、炭化層は、固相反応が開始する温度まで加熱されると、固相反応の際に生成する炭酸ガス等と反応して一酸化炭素等を生成して消滅するため、固相反応終了後に生成される複合酸化物中に不純物として残存することがなく、炭化層を形成して焼成しても複合酸化物の品質には影響しない。
【0030】
焼成で得られた複合酸化物は、降温後、必要によりボールミル等で粉砕する。また、必要により、該粉砕物を水中等で攪拌処理して繊維状物とし、濾過後、該繊維状物を乾燥し、常法により焼成すればウィスカー状のものを得ることができる。
【0031】
以下に、得られる複合酸化物がチタン酸カリウムウィスカーである場合の製造方法の具体例を示す。まず、セラミックス製で上部が開放された円筒状の反応容器の内壁に、クラフト紙からなり前記反応容器内壁の形状に一致する形状・大きさの袋を装入する。次に、該袋に炭酸カリウム、酸化チタン鉱石粉末及び金属チタン粉を混合した混合粉末を反応容器の上部まで隙間のないように充填する。これにより、袋は空気との接触が遮断された状態にある。その後、徐々に加熱し、1100℃で3時間反応させる。さらに、徐々に降温した後、別容器へ移して粉砕する。次いで、水又は温水中で攪拌機により強制的に5〜10時間攪拌処理を行い、その後コロイドミルにて解繊する。得られた繊維状物を中和水洗後濾過し、100〜250℃で乾燥させたものを800℃にて焼成すれば、繊維状のチタン酸カリウムが得られる。
【0032】
本発明に係る複合酸化物の製造方法は、例えばチタン酸カリウム等の複合酸化物の製造に用いることができる。特に、焼成の際に溶融する低融点原料を用いる製造方法に好適である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって本発明を制限するものではない。
【0034】
実施例1
顔料用酸化チタンと粉末状炭酸カリウムとを、正味の酸化チタンのモル数と正味の炭酸カリウムのモル数とのモル比が3:1の割合で混合し、該混合物に対して5重量%のチタン粉末を添加してV型ブレンダーにて約15分間混合した。次いで、上部が開放されたセラミックス製反応容器内に、クラフト紙で形成され且つ一部が開放されると共にセラミックス製反応容器内壁に略密着し得る形状及び大きさを有する袋を装入し、該袋の上に前記混合物500gを隙間のないよう密に充填した。このようにして、クラフト紙に酸素が侵入し難い状態を形成した。その後、混合粉末及びクラフト紙が充填されたセラミックス製反応容器を電気炉に入れ、1100℃で3時間の焼成を行った。除冷後、該焼成物を取り出した後、3lの冷水中に浸してスラリー状とし、該スラリーをディスパーミルによって解繊して繊維状物質を分離した。解繊分離したスラリーを中和した後、真空濾過法によって、濾過することによりケーキ状物質を得、該ケーキ状物質を乾燥し、800℃に昇温して30分間熱処理を行った。このようにして、繊維径が平均0.5μm、繊維長が50μmの単体の六チタン酸カリウムを406g得た。上記の製造を同じセラミックス容器を用いて繰り返し行ったところ、30回の使用においてもセラミックス製反応容器は劣化しなかった。
なお、混合粉末及びクラフト紙が充填されたセラミックス製反応容器を電気炉に入れるまでは上記と同じ工程を行った後、同様の条件で焼成を開始し、昇温途中の400℃で昇温を停止し、徐々に冷却して室温になったところでセラミックス製反応容器を取り出した。セラミックス製反応容器の内壁を観察したところ、炭化層が形成されていた。
【0035】
比較例1
上部が開放されたセラミックス製反応容器内に、クラフト紙で形成された袋を装入しなかった以外は、実施例1と同様にして、繊維径が平均0.5μm、繊維長が50μmの六チタン酸カリウムを364g得た。
上記の製造を同じセラミックス容器を用いて繰り返し行ったところ、15回目でセラミックス製反応容器にひび割れが生じ、使用不可能となった。
【0036】
実施例2
酸化チタン粉末(東邦チタニウム株式会社製、ルチル化率90%)291.5gと粉末状炭酸カリウム108.75gとを、大気雰囲気のグローブボックス内でLi/Tiのモル比が0.80となるように原料を採取した。次いで、酸化チタン粉末と炭酸リチウム粉末とをロッキングミキサーに充填し、2時間かけて混合した。次いで、直径10.5cm、長さ100cmの円筒形状のアルミナ製反応管内に、クラフト紙で形成され且つ一部が開放されると共にセラミックス製反応容器内壁に略密着し得る形状及び大きさを有する袋を装入し、該袋の上に前記混合粉末100gを隙間のないよう密に充填した。このようにして、クラフト紙に酸素が侵入し難い状態を形成した。その後、該シート材を加熱炉に入れ900℃で4.5時間保持し焼成を行い、Li4Ti512の組成を有するスピネル型のチタン酸リチウム粉末を330g得た。該チタン酸リチウム粉末を化学分析してLi/Tiのモル比を求めたところ、0.795であり、略目的通りの組成のチタン酸バリウムが得られた。上記の製造を同じアルミナ製反応管を用いて繰り返し行ったところ、20回の使用においてもアルミナ製反応管は劣化しなかった。
なお、混合粉末及びクラフト紙が充填されたアルミナ製反応管を加熱炉に入れるまでは上記と同じ工程を行った後、同様の条件で焼成を開始し、昇温途中の400℃で昇温を停止し、徐々に冷却してアルミナ製反応管を取り出した。アルミナ製反応管の内壁を観察したところ、炭化層が形成されていた。
【0037】
比較例2
アルミナ製反応管内に、クラフト紙で形成された袋を装入しなかった以外は、実施例2と同様にしてチタン酸リチウム粉末を290g得た。該チタン酸リチウム粉末を化学分析してLi/Tiのモル比を求めたところ、0.690であり、Li分が目的とする組成より少なかった。上記の製造を同じアルミナ製反応管を用いて繰り返し行ったところ、8回目でアルミナ製反応管にひび割れが生じ、使用不可能となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン、コバルト及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物又は水酸化物である第1金属化合物と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びランタンからなる群より選択される少なくとも1種の炭酸塩又は水酸化物である第2金属化合物とを含む混合粉末を、セラミックス製反応容器に充填し焼成する複合酸化物の製造方法であって、前記セラミックス製反応容器と前記混合粉末との間の少なくとも該セラミックス製反応容器の底部に、炭化する材質からなるシート材を介在させ、該シート材への酸素の侵入を実質的に防止して焼成することを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記セラミックス製反応容器の内壁部における前記混合粉末との接触部に、炭化する材質からなるシート材を介在させることを特徴とする請求項1記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記炭化する材質からなるシート材が、紙、天然繊維、樹皮又は熱硬化性樹脂からなるシート、織布、不織布又は袋であることを特徴とする請求項1又は2記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記第1金属化合物が酸化チタンであり、前記第2金属化合物が炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウム又は炭酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
窒素雰囲気中又はアルゴン雰囲気中で焼成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記混合粉末がさらに金属チタン粉を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の複合酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2008−56563(P2008−56563A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298765(P2007−298765)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【分割の表示】特願2001−347726(P2001−347726)の分割
【原出願日】平成13年11月13日(2001.11.13)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】