説明

複合酸化物粉末の製造方法

【課題】一般式A1-xxMO3+δ(式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、バナジウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、0≦x≦1.0、−0.5≦δ≦0.5)で表される複合酸化物を、安価で効率的に製造できるようにする。
【解決手段】Aサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種と、Bサイトを占める元素の酸化物、水酸化物のうちの少なくとも1種と、Mサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種とを成分とする原料を、有機化合物蒸気雰囲気中で混合粉砕処理することにより、上記複合酸化物の前駆体または直接結晶性複合酸化物を得る工程を含む、上記複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気材料、触媒材料、電極材料として有用なA1-xxMO3+δ型複合酸化物(式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうち少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、バナジウムのうち少なくとも1種の元素で占められ、0≦x≦1.0、−0.5≦δ≦0.5)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来ペロブスカイト型構造を有するA1-xxMO3+δ型複合酸化物(式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうち少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、バナジウムのうち少なくとも1種の元素で占められ、0≦x≦1.0、−0.5≦δ≦0.5)の製造方法としては、各サイトを占める元素の酸化物、炭酸塩等からなる原料を混合粉砕し、高温加熱により反応させる「固相法」が知られていた。しかし、長時間にわたる高温(1000℃以上)での加熱処理が必要とされる固相法では、ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積が低下し、また、得られるペロブスカイト型複合酸化物にペロブスカイト相以外の不純物相や未反応物が多く残存するなどの問題があった。このような従来技術に対し、近年では、以下のような製造方法が提案されている。
【0003】
各成分の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物および金属単体の少なくとも1種を水系溶媒中で湿式混合粉砕処理し、ろ過などにより固液を分離することにより、均一な複合酸化物前駆体を調製し、500℃〜1300℃で熱処理することにより結晶性ペロブスカイト構造化合物を得るメカノケミカル法(特許文献1,2);
La2(CO3)3・8H2Oと、MnO2あるいはV23と、融剤成分(炭酸リチウムと炭酸ナトリウムの融解混合物)を、均一に混合した後、二酸化炭素雰囲気中で約650℃で48時間加熱保持した後、濃塩酸により洗浄して、炭酸塩および未反応物を除去することによりペロブスカイト構造を有する結晶性LaMnO3あるいはLaVO3を得る溶融炭酸塩法(特許文献3);
La(NO3)3とNH4VO3の混合水溶液にクエン酸を加え、蒸発乾固、600℃で熱分解後、空気中で2時間熱処理して得られたLaVO4を更に還元雰囲気中で1160℃で12時間熱処理してペロブスカイト構造を有する結晶性LaVO3を得る複合クエン酸塩の熱分解法(非特許文献1)。
【0004】
さらに前記のような方法以外にも、一般的な方法として共沈法、ゾル・ゲル法、アルコキシド法、水熱合成法などの、均一で不純物相を含まない高比表面積な複合酸化物を得る方法が挙げられる。しかしながら、これらいずれの方法においても、均一な粉末を合成するために高温の加熱処理が必要であったり、副生物などを除去する工程が必要であったり、原料が高価であったりするなど、製造コストからみて工業的に不利な面がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−7394号公報
【特許文献2】特開2009−209029号公報
【特許文献3】特開2004−269327号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Inorg.Chem.,47(7),2634
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、A1-xxMO3+δ複合酸化物の前駆体または直接結晶性A1-xxMO3+δ複合酸化物を得ることを特徴とする安価で効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる問題点を解決すべく鋭意検討を進めた結果、Aサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種と、Bサイトを占める元素の酸化物、水酸化物のうちの少なくとも1種と、Mサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種とを成分とする原料を、有機化合物蒸気中で混合粉砕処理することにより、水と炭酸ガス以外の副生物を生成せずに、しかも固液を分離する工程を省略することが可能であることから、安価で効率的に、A1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体あるいは直接結晶性複合酸化物が製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の製造方法は、Aサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種の元素である複合酸化物を対象とする場合、特に、Aサイトを占める元素がLaであり、Bサイトを占める元素がストロンチウムであり、かつMサイトを占める元素がマンガン、バナジウムのうちの少なくとも1種である複合酸化物を対象とする場合に好適である。
【0010】
さらに、得られた前駆体あるいは結晶性複合酸化物は使用用途に応じた適切な温度で熱処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法に用いられる有機化合物蒸気雰囲気中での混合粉砕処理は、特殊な機材や高価な原料を必要とせずに行うことができ、また炭酸ガスと水以外の副生物は発生しないため副生物の除去工程が不要である。しかも固液を分離する工程を省略することも可能である。このような混合粉砕処理により得られる複合酸化物の前駆体あるいは結晶性複合酸化物は均一であり、比較的低温で1回熱処理あるいは熱処理することなく、各種用途における性能の劣化を招く不純物が混在しない高品質のA1-xxMO3+δ型複合酸化物を、安価で効率的に製造することができる。また得られる複合酸化物の前駆体あるいは結晶性複合酸化物は均一であり、高比表面積であるため、他の化合物への添加用としても好適に使用することができる。さらに同様な理由で得られる複合酸化物の前駆体あるいは結晶性複合酸化物に添加剤成分を好適に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られたLaMnO3+δの結晶性複合酸化物の加熱変化によるX線回折図形。
【図2】実施例2で得られたLaMnO3+δの結晶性複合酸化物の加熱変化によるX線回折図形。
【図3】実施例3で得られたSrMnO3の非晶質水和前駆体の加熱変化によるX線回折図形。
【図4】実施例4で得られたLa0.5Sr0.5MnO3+δの結晶性複合酸化物の加熱変化によるX線回折図形。
【図5】実施例5で得られたLaVO3の非晶質水和前駆体の加熱変化によるX線回折図形。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製造方法に用いられる原料や、有機化合物蒸気雰囲気中での混合粉砕処理および熱処理の方法・条件等について詳細に説明する。
【0014】
1-xxMO3+δ型複合酸化物
本発明の対象となる複合酸化物は、一般式A1-xxMO3+δで表される。式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、バナジウムのうちの少なくとも1種の元素で占められる。xは0≦x≦1.0を満たす数である。また、δは組成(Bサイトの添加量、Mの価数変化等)や熱処理の条件(温度、雰囲気等)により変化する酸素量過剰量ないし酸素欠損量を表し、一般的には−0.5≦δ≦0.5を満たす数である。
【0015】
本発明の製造方法は、Aサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種の元素であるもの、特に、Aサイトを占める元素がLaであり、Bサイトを占める元素がストロンチウムであり、かつMサイトを占める元素がマンガンおよび/またはバナジウムであるものなど、工業的に有用な複合酸化物を対象とする場合に好適である。
【0016】
なお、A1-xxMO3+δ型複合酸化物のAサイト、BサイトおよびMサイトは、有機化合物蒸気雰囲気中での混合粉砕処理工程、熱処理前の前駆体および結晶性複合酸化物に、上述した元素以外の元素を添加、置換固溶することもできる。また本発明の製造方法の適用対象は「AサイトおよびBサイトに含まれる上述の元素」と「Mサイトに含まれる上述の元素」のモル比[(A+B)/M]が1であるA1-xxMO3+δ型複合酸化物のみに限定されるものではない。
【0017】
原料
Aサイトを占める希土類元素[Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu]の原料成分としては、これら希土類元素の酸化物[A23、AO2等]、水酸化物[A(OH)3、A(OH)4等]、酸化水酸化物[AO(OH)等]が挙げられる。なお、上記化合物には、結晶水を含有するもの[A23・nH2O、AO2・nH2O、A(OH)3・nH2O、A(OH)4・nH2O等、nは正の数]、不定比な酸化物の水和物[A23・XH2O、AO2・XH2O等、Xは任意の正の数]が存在するが、結晶水を含まないものおよび水和物でないものが望ましく、さらに、水酸化物、酸化水酸化物よりも酸化物が望ましいが、上記化合物は酸化物に限定されるものではない。これらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のAサイトを占める希土類元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0018】
Bサイトを占める元素[カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)]の原料成分としては、これらの元素の酸化物[BO等]、水酸化物[B(OH)2等]が挙げられる。なお、上記化合物には結晶水を含有したもの[BO・nH2O、B(OH)2・nH2O等、nは正の数]、不定比な酸化物の水和物[BO・XH2O等、Xは任意の正の数]が存在するが、結晶水を含まないものおよび水和物でないものが望ましく、さらに、水酸化物、酸化水酸化物よりも酸化物が望ましいが、上記化合物は酸化物に限定されるものではない。これらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のAサイトを占める希土類元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0019】
Mサイトを占める元素[マンガン(Mn)、バナジウム(V)]の原料成分としては、これらの元素の酸化物[M23、M34、MO2、M25等]、水酸化物[M(OH)3、M(OH)4、M(OH)5等]、酸化水酸化物[MO(OH)、MO2(OH)、MO(OH)2等]が挙げられる。なお、上記化合物には結晶水を含有したもの[M23・nH2O、M34・nH2O、MO2・nH2O、M(OH)3・nH2O、M(OH)4・nH2O、M(OH)5・nH2O等、nは正の数]、不定比な酸化物の水和物[M23・XH2O、M34・XH2O、MO2・XH2O、M25・XH2O等、Xは任意の正の数]が存在するが、結晶水を含まないものおよび水和物でないものが望ましく、さらに、水酸化物、酸化水酸化物よりも酸化物が望ましいが、上記化合物は酸化物に限定されるものではない。これらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のMサイトを占める元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0020】
以上のような原料となる物質の粒径は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。
また、原料の各成分の配合量は、Aサイト、BサイトおよびMサイトを占める各元素の原料中の量比が、目的とする複合酸化物における量比と同じとなるようにすればよい。
【0021】
有機化合物蒸気雰囲気中での混合粉砕処理工程
本発明における原料の混合粉砕処理は、有機化合物蒸気(気体)雰囲気中で、一般的には混合粉砕機を用いて行われる。本発明における有機化合物蒸気(気体)は、原料と共に粉砕容器内に入れられる。通常の場合には粉砕容器内の温度は粉砕媒体などの摩擦熱により、20℃(室温)〜80℃程度である。冷却装置を備えた混合粉砕機であれば、粉砕容器内の温度は20℃(室温)〜マイナス数十℃、加熱気体を導入できる混合粉砕機であれば、粉砕容器内の温度は100℃以上にすることも可能である。粉砕容器内で蒸気(気体)となり、原料との反応を促進する有機化合物であれば特に限定されることなく用いることができる。これらの温度範囲で蒸気(気体)化できる有機化合物には、炭化水素ガス、低沸点のケトン類やアルコール類などがあり、例えば以下のような有機化合物が挙げられる。
炭化水素ガス:メタンガス(沸点;−161.5℃)、エタンガス(沸点;−89.0℃)、
プロパンガス(沸点;−42.7℃)、ブタンガス(沸点;−0.5℃)など
ケトン類:アセトン(沸点;56.1℃)、メチルエチルメトン(沸点;79.6℃)、
ジエチルケトン(沸点;101.5℃)など
アルコール類:メタノール(沸点;64.5℃)、エタノール(沸点;78.3℃)、
1−プロパノール(沸点;97.2℃)、1−ブタノール(沸点;117.
7℃)など
アルデヒド類:ホルムアルデヒド(沸点;−19.3℃)、アセトアルデヒド(沸点;20
.2℃)など
【0022】
これらの有機化合物は、いずれか1種類を単独で用いても、2種類以上を組合わせて用いてもよい。また、反応に無関係なN2、He、Arなどの不活性なガスで希釈して用いてもよい。容器内温度が有機化合物の沸点より低くても、容器内温度における有機化合物の飽和蒸気量が例えばMnO2とV25を原料に使用する場合を例にとると、以下に示すような還元反応に充分な量以上であれば問題はない。また粉砕容器内の有機化合物蒸気が飽和蒸気圧以下であっても粉砕容器内に供給される有機化合物蒸気量が、例えば以下に示すような原料の還元反応に充分な量以上であれば問題はない。さらに粉砕処理後の熱処理工程を不活性雰囲気あるいは還元雰囲気で行なう場合には、例えば原料のMnO2あるいはV25がMn23あるいはV23に完全に還元されていなくても構わない場合がある。この場合、粉砕容器内に供給される有機化合物の蒸気量は、以下に示す還元反応の理論量の1/2量程度であってもよい。すなわち混合粉砕処理物の所望する結晶性により適宜有機化合物蒸気の供給量を微調整してもよい。
有機化合物蒸気が例えばアセトンの場合:
CH3COCH3 + 16MnO2 → 3CO2 + 3H2O +8Mn23
CH3COCH3 + 4V25 → 3CO2 + 3H2O +4V23
有機化合物蒸気が例えばエタノールの場合:
CH3CH2OH + 12MnO2 → 2CO2 + 3H2O +6Mn23
CH3CH2OH + 3V25 → 2CO2 + 3H2O +3V23
【0023】
反応に充分な量の有機化合物蒸気(気体)が粉砕容器内に供給されればよいが、沸点が通常の粉砕容器内の温度である20℃(室温)〜80℃程度以下である有機化合物が好適に使用できる。さらに粉砕容器内で有機化合物はすべて蒸気(気体)になることが望ましいが、少量であれば一部液体として残存していても構わない。
【0024】
また有機化合物蒸気はあらかじめ蒸気として調製して混合粉砕処理の開始前に粉砕容器内に供給しておいてもよいが、有機化合物を液体状態で粉砕容器内に投入しておいて、混合粉砕処理過程で生ずる発熱を利用して蒸気化しても構わない。さらに連続式の混合粉砕機においては、有機化合物蒸気を反応に無関係なN2、He、Arなどの不活性ガスなどのキャリアーガスと混合して供給してもよい。
【0025】
また、混合粉砕機は、原料に機械的に粉砕、摩砕の力が働くものであればよく、たとえば、粉砕容器内に原料と粉砕媒体(ロッド、シリンダー、ボール、ビーズ等)とを入れて撹拌することにより原料を粉砕する、転動ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル、遊星ボールミル等のボールミルが好適である。このようなボールミルを連続型にした粉砕機(たとえば、日本コークス工業(株)製「SCミル」、(株)シンマルエンタープライゼス製「ダイノーミル」、アイメックス(株)製「レディーミル」)や、直径1mm以下の非常に小さいボール(ビーズ)を使用できるボールミルなども推奨される。さらに粉砕媒体を使用しない気流循環式の連続粉砕機(たとえば、(株)栗本鐡工製「クロスジェットミル」)などの使用も可能である。
【0026】
代表的な粉砕媒体であるボール(ビーズ)としては、直径0.1〜10mm程度の、ZrO2(ジルコニア)、Si34(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)、WC(タングステンカーバイド)、スチールなどの素材からなるものを用いることができ、たとえば、東ソー(株)製のジルコニアボール「YTZ」(登録商標)が好適である。
【0027】
混合粉砕の処理条件は混合粉砕機の種類に応じて適切に調整すればよい。たとえば、遊星ボールミルを使用する場合には、容器容積100mL当たり、粉砕媒体であるボール(ビーズ)の充填量を15〜60mL、原料の充填量を1〜30mLとすることが好ましい。有機化合物蒸気の投入量については、前述の通りであり、有機化合物の種類によって適宜調整すればよい。また、遊星ボールミルの公転回転数は通常1〜10Hz、好ましくは4〜6Hzであり、混合粉砕の処理時間は1〜10時間が好ましい。
【0028】
混合粉砕処理物の回収方法であるが、混合粉砕処理による生成物は、反応により副生した少量の水を含んでいるが、粉末状であるため、ろ過などによる固液分離操作を省略することができる。粉末状の混合粉砕処理物と粉砕媒体(粉砕ボールなど)を篩などにより分離するだけでよい。
【0029】
熱処理工程
上述のように混合粉砕処理物を回収することにより、A1-xxMO3+δ型複合酸化物の粉末状の前駆体あるい結晶性複合酸化物が得られる。
【0030】
得られた前駆体あるい結晶性複合酸化物の乾燥の方法は通常の通風乾燥、真空乾燥等のいずれの方法であってもよいが、真空あるいは不活性雰囲気での乾燥が好ましい。乾燥温度は特に限定されないが50〜300℃が好ましい。
【0031】
このようにして得られた前駆体あるいは結晶性複合酸化物を熱処理(仮焼)することにより、前駆体はA1-xxMO3+δ型複合酸化物に結晶化し、すでに結晶化しているA1-xxMO3+δ型複合酸化物は、結晶性(結晶化度)が向上する。
【0032】
熱処理の条件(温度、時間等)は、目的とするA1-xxMO3+δ型複合酸化物の態様(結晶化度等)に応じて適宜調整することができる。たとえば熱処理の温度は、室温〜1300℃が好ましい。また、熱処理は大気中で行っても、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、目的とするA1-xxMO3+δ型複合酸化物の結晶系(結晶構造)により、適宜選択することが好ましい。
【0033】
1-xxMO3+δ型複合酸化物の結晶性(結晶系、結晶構造、結晶化度など)はX線回折図形により確認することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は何らこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]LaMnO3+δ
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に、原料粉末La2310.1gと電解MnO25.4g、およびアセトン0.3mLを、2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株)製)168mLとともに充填し、容器内部の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物を回収後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、LaMnO3+δの結晶性複合酸化物を得た。
【0036】
上記LaMnO3+δの結晶性複合酸化物と、上記LaMnO3+δの結晶性複合酸化物を大気中で400℃〜1000℃で1時間の熱処理をしたもののX線回折図形を図1に示す。いずれも結晶性LaMnO3+δ複合酸化物のペロブスカイト構造の単一相であった。比表面積値は85℃乾燥品で5.5m2/g、400℃で3.8m2/g、600℃で3.6m2/g、800℃で2.5m2/g、1000℃で1.6m2/gであった。
【0037】
[実施例2]LaMnO3+δ
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に、原料粉末La2310.1gと電解MnO25.4g、およびエタノール0.3mLを、2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株)製)168mLとともに充填し、容器内部の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物を回収後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、LaMnO3+δの結晶性複合酸化物を得た。
【0038】
上記LaMnO3+δの結晶性複合酸化物と、上記LaMnO3+δの結晶性複合酸化物を大気中で400℃〜1000℃で1時間の熱処理をしたもののX線回折図形を図2に示す。いずれも結晶性LaMnO3+δ複合酸化物のペロブスカイト構造の単一相であった。比表面積値は85℃乾燥品で5.8m2/g、400℃で5.3m2/g、600℃で4.1m2/g、800℃で3.1m2/g、1000℃で1.3m2/gであった。
【0039】
[実施例3]SrMnO3
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末Sr(OH)2・8H2Oを100℃で12時間真空乾燥して作製したSr(OH)2 9.6gと電解MnO26.8g、およびアセトン0.3mLを、2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株)製)168mLとともに充填し、容器内部の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物を回収後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、SrMnO3複合酸化物の非晶質水和前駆体を得た。
【0040】
上記SrMnO3の複合酸化物の非晶質水和前駆体と、上記SrMnO3の複合酸化物の非晶質水和前駆体を大気中で700℃〜1000℃で1時間の熱処理をしたもののX線回折図形を図3に示す。700℃以上の熱処理により、結晶性SrMnO3複合酸化物のペロブスカイト類似構造の単一相が得られた。比表面積値は85℃乾燥品で4.1m2/g、700℃で6.3m2/g、800℃で4.8m2/g、1000℃で3.8m2/gであった。
【0041】
[実施例4]La0.5Sr0.5MnO3+δ
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に、原料粉末La235.7gとSr(OH)2・8H2Oを100℃で12時間真空乾燥して作製したSr(OH)24.2gと電解MnO26.0g、およびアセトン1.0mLを、2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株)製)168mLとともに充填し、容器内部の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物を回収後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、La0.5Sr0.5MnO3+δの結晶性複合酸化物を得た。
【0042】
上記La0.5Sr0.5MnO3+δの結晶性複合酸化物と、上記La0.5Sr0.5MnO3+δの結晶性複合酸化物を大気中で400℃〜1000℃で1時間の熱処理をしたもののX線回折図形を図4に示す。いずれも結晶性La0.5Sr0.5MnO3+δ複合酸化物のペロブスカイト構造の単一相であった。比表面積値は85℃乾燥品で5.9m2/g、400℃で6.1m2/g、600℃で13.3m2/g、800℃で3.3m2/g、1000℃で1.4m2/gであった。
【0043】
[実施例5]LaVO3
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に、原料粉末La2310.3gとV255.7g、およびアセトン1.0mLを、2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株)製)168mLとともに充填し、容器内部の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物を回収後、85℃で12時間の真空乾燥を行ない、LaVO3の非晶質水和前駆体を得た。
【0044】
上記LaVO3の非晶質水和前駆体と、上記LaVO3の非晶質水和前駆体をアルゴン中で300℃〜1000℃で1時間の熱処理をしたもののX線回折図形を図5に示す。800℃以上の加熱によりの結晶性LaVO3複合酸化物のペロブスカイト構造の単一相であった。800℃で1時間熱処理した時の比表面積は6.4m2/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A1-xxMO3+δ(式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、バナジウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、0≦x≦1.0、−0.5≦δ≦0.5)で表される複合酸化物の製造方法であって、
Aサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種と、Bサイトを占める元素の酸化物、水酸化物のうちの少なくとも1種と、Mサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種とを成分とする原料を、有機化合物蒸気雰囲気中で混合粉砕処理することにより、上記複合酸化物の前駆体または直接結晶性複合酸化物を得る工程を含むことを特徴とする、A1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記Aサイトを占める希土類元素がY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Luのうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする、請求項1に記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記Aサイトを占める希土類元素がLaであり、Bサイトを占める元素がストロンチウムであり、かつMサイトを占める元素がマンガン、バナジウムのうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする、請求項1に記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた複合酸化物の前駆体または結晶性複合酸化物を熱処理する工程を含むことを特徴とする、結晶性A1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−140427(P2011−140427A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2939(P2010−2939)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】