説明

複層部材の製造方法および表面処理装置

【課題】母材を適切に矯正した状態で表面処理を行ない得る複層部材の製造方法および表面処理装置を提供する。
【解決手段】母材10より剛性を有するように構成された矯正部材60を該母材10に装着して、該母材10を所定形状に矯正しながら保持する。矯正部材60で形状が規定された母材10を、該矯正部材60と別体に構成された支持部材50の一部をなす電極53,53で支持して表面処理を行なう。母材10は、矯正部材60に保持される取付部13における電極53が接触する部位が、めっき被膜20が形成不能なレジスト処理が予め施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材に対して表面処理を行なうことで、該母材の表面に被膜を形成した複層部材の製造方法と、母材の表面に被膜を形成する表面処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
母材に対して表面処理を行なうことで、該母材の表面に被膜を形成した複層部材が、自動車の外装部材や内装部材、その他各種の機器および装置等に装着されている。例えば、図6(a)および図6(b)は、合成樹脂製の母材10の表面に、表面処理によりめっきによる被膜20が形成された複層部材であるめっき部材Mを示す斜視図である。このめっき部材Mは、横長でその長手方向において表側から裏側方向へ湾曲する母材10に、その表側となる表面11および該表面11の外縁に沿って延在する外周面12にクローム等によるめっき被膜20が形成されている。なお、図6に示すめっき部材Mは、裏側に4つの取付部13が設けられており、各取付部13を利用して取付対象物の所要位置に固定される。また、めっき部材Mは、長手方向における一方の端部に壁部14が形成されると共に、該壁部14には通孔15が形成されている。
【0003】
図7は、表面処理前の母材10にめっき処理を施す従来のめっき処理装置U1を概略的に示す説明図である。このめっき処理装置U1は、前記母材10を裏側から支持すると共に、めっき槽44内に貯留しためっき浴46(図8参照)内に該母材10を浸漬させる支持部材30と、この支持部材30に配設された矯正部材40,40とを備えている。支持部材30は、先端側が二つに分岐して、各々の先端には略L形の電極32が配設されており、中央寄りの2つの取付部13,13におけるレジスト処理が施されていない部位に、各電極32,32を係止して接触させることで、母材10をめっき浴46内で支持すると共に通電することが可能となっている。また、支持部材30の両側に、水平方向へ延出して設けられた矯正部材40,40は、その先端に鉤状部42が形成された弾性変形が可能な棒状部材であって、一方の矯正部材40は、母材10における長手方向の一端側に設けた取付部13に鉤状部42が係止され、他方の矯正部材40は、母材10における長手方向の他端側に設けた壁部14の通孔15に鉤状部42が挿通係止されるようになっている。
【0004】
前述のように構成された従来のめっき処理装置U1は、図8に示すように、支持部材30の各電極32,32を母材10の中央寄りの各取付部13,13に夫々係止させると共に、各矯正部材40,40を母材10の一端側の取付部13および通孔15に夫々係止させることで、所定の形状に矯正しながら支持した該母材10をめっき槽44内に貯留しためっき浴46内に浸漬する。そしてめっき処理装置U1は、母材10が陰極となるように通電させることで、めっき浴46に溶解した金属イオンが母材10の表面11および外周面12で還元され、該表面11および外周面12にめっき被膜20が形成されて所定の表面処理が行なわれる。このようなめっき処理装置は、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−12473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図8に示すめっき処理装置U1は、支持部材30に配設した各矯正部材40,40が、該支持部材30に取付けられた母材10との係脱を可能とするために弾性変形が可能になっている。このため各矯正部材40は、めっき処理のために母材10を着脱する度に弾性変形が繰り返されるので、塑性変形して捻れや撓みが発生し易い。従って、両矯正部材40,40の各鉤状部42,42の位置ずれが生じると共に間隔が変化してしまい、母材10を所定の形状に矯正して保持できなくなる問題がある。すなわち、従来のめっき処理装置U1および該めっき処理装置U1を利用しためっき処理は、めっき処理後のめっき部材Mの寸法にばらつきが生じて不良発生率が高くなり、めっき部材Mの適切な製品管理ができない問題を内在している。また、不良発生が高くなるから、めっき部材Mの製造効率が低下して製造コストが嵩む問題もある。
【0007】
そこで本発明は、母材を適切に矯正した状態で表面処理を行ない得る複層部材の製造方法および表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を好適に達成するため、請求項1に記載の発明は、
母材に対して表面処理を行なうことで、該母材の表面に被膜を形成した複層部材の製造方法であって、
前記母材より剛性を有するように構成されて、前記母材を変形させることで該母材と着脱可能な矯正部材により、該母材を所定形状に矯正しながら保持し、
前記矯正部材で形状が規定された前記母材を、該矯正部材と別体に構成された支持部材で支持した状態で表面処理を行なうことを要旨とする。
【0009】
従って、請求項1に係る発明によれば、矯正部材を変形させずに母材を変形させて、剛性を有する該矯正部材に該母材を保持させるので、矯正部材の変形が抑えられて該矯正部材の精度を維持することができる。すなわち矯正部材は、長期に亘って使用しても変形し難く、表面処理前の母材を所定形状に安定的に矯正し得る。また、矯正部材と支持部材とが別体に構成されているので、該矯正部材は該支持部材の精度の影響を受けることがない。そして、所定形状とした母材を支持部材に支持して表面処理を行なうので、表面処理後の複層部材は寸法および形状が一定となるから、製品不良の発生率が大幅に低下して製品管理が容易となると共に、製造効率が向上して製造コストを低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
前記母材は、前記矯正部材に保持される部位に、前記被膜が形成不能なレジスト処理が予め施され、
前記矯正部材は、前記母材のレジスト処理が予め施された部位を保持することを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、母材における矯正部材に保持された部位は、レジスト処理が施されていて表面処理時に被膜が形成されないので、表面処理後には母材と該矯正部材とを容易に分離することができる。また、母材と矯正部材とを分離する際に、被膜に傷が付いたり該被膜が破損することがない。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
前記支持部材の一部をなす電極で前記母材を支持し、めっき浴に浸漬した該母材に対して前記電極を介して通電することで、該母材の表面にめっきによる被膜を形成することを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、支持部材の一部をなす電極で母材を支持することで該電極を介して該母材に通電することが可能となり、母材の表面にめっきによる被膜を形成する作業を簡易に行なうことができる。そして支持部材の電極は、矯正部材で所要の形状に予め矯正された母材を支持するから、該矯正による力が該電極に加わることを原因とした破損や損傷を防止し得る。
【0012】
同じく前記課題を克服し、所期の目的を好適に達成するため、請求項4に記載の発明は、
母材に対して表面処理を行なうことで、該母材の表面に被膜を形成する表面処理装置であって、
前記母材より剛性を有するように構成されて、前記母材を変形させることで該母材と着脱可能で、かつ保持した該母材を所定形状に矯正する矯正部材と、
前記矯正部材と別体に構成され、前記母材を所定の姿勢で支持可能な支持部材とを備え、
前記矯正部材で形状が規定された前記母材を前記支持部材で支持したもとで、該母材の表面処理を行なうよう構成したことを要旨とする。
【0013】
従って、請求項4に係る発明によれば、矯正部材を変形させずに母材を変形させて、剛性を有する該矯正部材に該母材を保持させるよう構成されているので、矯正部材の変形が抑えられて該矯正部材の精度を維持することを可能とする。すなわち矯正部材は、長期に亘って使用しても変形し難く、表面処理前の母材を所定形状に安定的に矯正することが可能となる。また、矯正部材と支持部材とを別体に構成したので、該矯正部材は該支持部材の精度の影響を受けることが防止される。そして、所定形状とした母材を支持部材に支持して表面処理を行なうので、表面処理後の複層部材の寸法および形状を一定とすることができ、製品不良の発生率が大幅に低下して製品管理を容易にし得ると共に、製造効率が向上して製造コストを低減することを可能とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、
前記矯正部材は、前記母材において被膜が形成不能なレジスト処理が予め施された部位を保持する固定部を備えたことを要旨とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、矯正部材の固定部により保持された部位は、レジスト処理により表面処理がなされないので、表面処理後に母材と該矯正部材とが容易に分離することを可能とする。また、母材と矯正部材とを分離する際に、被膜に傷が付いたり該被膜が破損することも防止し得る。
【0015】
請求項6に記載の発明は、
前記矯正部材および前記支持部材は、前記複層部材を対象物に取付ける際に用いられる取付部を保持するよう構成されたことを要旨とする。
従って、請求項6に係る発明によれば、複層部材を対象物に取付ける際に用いられる取付部を利用して母材と矯正部材とを保持すると共に、該母材を支持部材で保持するので、矯正部材を装着するための部位および支持部材が支持するための部位を母材に別途設ける必要がない。従って、複層部材の製造コストが嵩まないと共に、該複層部材が重くなることを防止し得る。
【0016】
請求項7に記載の発明は、
前記矯正部材は、前記母材を支持する前記支持部材と干渉しない枠状に構成されたことを要旨とする。
従って、請求項7に係る発明によれば、矯正部材は、該矯正部材を装着した母材を支持部材で支持する際に該支持部材と干渉しないよう構成されているので、該母材を該支持部材で適切に支持することができる。また矯正部材は、枠状に形成されているので、重量が嵩むことなく母材より剛性を高く構成することができる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、
前記支持部材は、前記母材を支持する部分が電極として形成され、めっき浴に浸漬した該母材に前記電極を介して通電可能に構成されたことを要旨とする。
従って、請求項8に係る発明によれば、母材を支持部材の電極で支持することで該電極を介して母材への通電が可能となり、めっき浴に浸漬した該母材の表面にめっきによる被膜を形成する作業を簡易に行なうことが可能である。そして支持部材の電極は、矯正部材で所要の形状に予め矯正された母材を支持するから、該矯正による力が該電極に加わることを原因とした破損や損傷を防止し得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る複層部材の製造方法によれば、母材を適切に矯正した状態で表面処理を行なうことができ、表面処理された複層部材の寸法が安定して不良発生を抑えることができる。
別の発明に係る表面処理装置によれば、母材を適切に矯正した状態で表面処理を行なうことを可能とし、表面処理された複層部材の寸法が安定して不良発生を抑えることを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例のめっき処理装置を、めっき浴に浸漬した母材の表面にめっきによる被膜を形成する状態を概略的に示す平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】実施例の複層部材の製造方法を示す説明図であって、母材に矯正部材を装着する状態を示す説明図である。
【図4】実施例の複層部材の製造方法を示す説明図であって、矯正部材を装着した母材を、支持部材に取付ける状態を示す説明図である。
【図5】矯正部材により所定の形状に矯正された母材を支持部材で支持した状態を示す斜視図である。
【図6】表面にめっきによる被膜が形成された複層部材としてのめっき部材を示す斜視図であって、(a)は、該めっき部材を表側から見た斜視図であり、(b)は、該めっき部材を裏側から見た斜視図である。
【図7】従来のめっき処理装置において、母材を支持部材に支持すると共に矯正部材で矯正する状態を示す説明図である。
【図8】従来のめっき処理装置により、支持部材および矯正部材で支持した母材の表面にめっきによる被膜を形成する状態を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る複層部材の製造方法および表面処理装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。実施例では、表面処理により製造される複層部材として図6に示すめっき部材Mを例示し、該めっき部材Mを構成する母板10にめっきによる被膜20を形成する表面処理装置としてのめっき処理装置について説明する。なお実施例では、めっき浴に対する母材10の浸漬方向を、めっき処理装置Uの上下方向と指称する。また母材10は、めっき処理装置Uの支持部材50に、長手方向が横方向となると共に短手方向が上下方向となるように支持される。
【実施例】
【0021】
実施例のめっき部材Mは、例えば自動車におけるヘッドライトのレンズ外面に装着される車両外装部材である。そこで先ず、めっき部材Mを構成する母材10について説明する。母材10は、横長でその長手方向において表側から裏側方向へ湾曲する板状に形成された合成樹脂製の成形部材であって、導電性フィラー等を混入して導電性が付与されており、その長手方向における一方の端部に壁部14が形成されると共に、裏側には、短手方向に延在する4つの取付部13が、長手方向へ所要間隔に設けられている。各取付部13は、表面処理を実施することでめっきによる被膜(以降「めっき被膜」という)20が形成された当該めっき部材Mを、装着対象物であるヘッドライトに取り付ける際に利用されるものでる。すなわち各取付部13は、母材10の裏面16から離間して短手方向に延在し、該母材10の上縁および下縁に連設される桁部13Aと、該桁部13Aの中間から水平に突出して該母材10の長手方向に横長な突片状の係止部13Bとを備えている。また、前記壁部14の略中央には、ヘッドライトのレンズ外面に形成された突部(図示せず)が突入する通孔15が形成されている。そして母板10は、その表側を構成する表面11、該表面11の外縁に沿って延在する外周面12、壁部14の表面11側にはレジスト処理が施されておらず、裏面16および壁部14の裏面16側は、めっき処理の必要がないのでレジスト処理が予め施されている。また各取付部13は、桁部13Aおよび係止部13Bの全体がレジスト処理が施されるが、長手方向の中央寄りに設けられた2つの取付部13については、桁部13Aにおける母材10の裏面16に対向する面において、支持部材50の一部をなす後述の電極53が接触する電極接触部13Cは、レジスト処理が施されていない。
【0022】
次に、前記母材10を表面処理して該母材10の表面にめっき被膜20を形成する実施例の表面処理装置としてのめっき処理装置Uについて説明する。実施例のめっき処理装置Uは、図1、図2および図5に示すように、母材10を変形させることで該母材10と着脱可能で、かつ保持した該母材10を所定形状に矯正する矯正部材60と、矯正部材60と別体に構成され、母材10を所定の姿勢で支持可能な支持部材50とを備えている。そしてめっき処理装置Uは、矯正部材60で形状が規定された母材10を支持部材50で支持したもとで、該母材10の表面処理を行なうよう構成されている。
【0023】
支持部材50は、図1、図2、図4および図5に示すように、上下方向に延在する縦支持部51と、該縦支持部51の所要位置から水平方向へ延出する横支持部52とを備えている。横支持部52は、延出方向の中間において該延出方向と水平に直交する方向へ二股に分岐し、水平かつ平行に延出する第1横支持部52Aおよび第2横支持部52Bを備えている。そして、第1横支持部52Aおよび第2横支持部52Bの母板10を支持する各先端部は、前記取付部13に係脱可能に係止されると共に外部電源と電気的に接続された電極53,53となっている。各電極53,53は、母材10の裏側に設けた4つの取付部13における中央寄りに位置する2つの取付部13,13に夫々対応して着脱可能に係止されると共に、該取付部13,13に設けた前記電極接触部13Cに夫々接触可能な略L字形に形成されている。従って支持部材50は、各電極53,53を対応する取付部13,13の桁部13Aに係止させることで、該電極53,53で母材10を支持すると共に該母材10に通電が可能であり、支持した母材10と共にめっき浴71に浸漬されるようになっている(図2)。なお、第1横支持部52Aおよび第2横支持部52Bは、水平方向で先端側(電極53側)が互いに離間するように適宜弾性変形が可能となっており、これにより各電極53,53が取付部13,13に係脱し得る。また、支持部材50の第1横支持部52Aおよび第2横支持部52Bは、母材10および矯正部材60を合わせた荷重が加わっても先端側が下方へ変形しない剛性を備えている。
【0024】
矯正部材60は、図1〜図5に示すように、支持部材50とは別体に構成されていることで、該支持部材50に支持される前の母材10に着脱可能に取付け得るようになっている。矯正部材60は、横長の母材10の形状に合わせて長方形の枠状に形成された金属製の部材であり、長手方向に延在して短手方向に離間した横枠部材61,61と、両横枠部材61,61の両端間において短手方向に延在する縦枠部材62,62と、両横枠部材61,61の長手方向の略中間部間において短手方向に延在する補強枠部材63とを備えている。そして、一方の縦枠部材62には、母材10の長手方向における壁部14と反対の端部寄りに設けた取付部13の係止部13Bに着脱可能に係止される第1固定部64が設けられ、他方の縦枠部材62には、該母材10の長手方向における該壁部14に近接する端部寄りに設けた取付部13の係止部13Bに着脱可能に係止される第2固定部65が設けられている。また矯正部材60は、母材10の長手方向における他方の端部側に設けられた壁部14に設けた前記通孔15に挿通係止されるピン66を備えている。なお矯正部材60は、該矯正部材60を装着した母材10を支持部材50に取付ける際に、横枠部材61、縦枠部材62および補強枠部材63が、該支持部材50の第1横支持部52Aおよび第2横支持部52Bと干渉しない形状となっている。
【0025】
第1固定部64は、図3に示すように、「コ」字形に形成されて、一方の縦枠部材62と平行に延在する縦規制部64Aと、該縦規制部64Aの上端および下端から水平に延在して先端が該縦枠部材62に接合された横規制部64B,64Bとを備えており、対応する前記取付部13の係止部13Bの挿通を許容する矩形状の空間を画成している。そして第1固定部64は、図4および図5に示すように、縦規制部64Aが係止部13Bにおける母材10の長手方向の側端面に相対し、上側の横規制部64Bが該係止部13Bにおける母材10の短手方向の上端面に相対し、下側の横規制部64Bが該係止部13Bにおける母材10の短手方向の下端面に相対するようになっている。第2固定部65は、図3に示すように、「コ」字形に形成されて、他方の縦枠部材62と平行に延在する縦規制部65Aと、該縦規制部65Aの上端および下端から水平に延在して先端が該縦枠部材62に接合された横規制部65B,65Bとを備えており、対応する前記取付部13の係止部13Bの挿通を許容する矩形状の空間を画成している。そして第2固定部65は、図4および図5に示すように、縦規制部65Aが係止部13Bにおける母材10の長手方向の側端面に相対し、上側の横規制部65Bが該係止部13Bにおける母材10の短手方向の上端面に相対し、下側の横規制部65Bが該係止部13Bにおける母材10の短手方向の下端面に相対するようになっている。なお、第2固定部65が形成された縦枠部材62は、該第2固定部65の上下の横規制部65B,65B間で分離している。
【0026】
このように枠状に形成された矯正部材60は、母材10より剛性が高く形成されると共に、図3に示すように、第1固定部64の縦規制部64Aの空間側外面と第2固定部65の縦規制部65Aの空側側外面との矯正部材60の長手方向での間隔Lが、規定の形状(めっき部材Mの最終製品形状)とした母材10において、該母材10の長手方向の両端部寄りに位置する各取付部13,13の係止部13Bにおける側端面間の距離Wと同じに設定されている。従って矯正部材60は、規定の形状に矯正した母材10を装着し得ると共に、該母材10を規定の形状で保持することが可能となっている。しかも矯正部材60は、母材10より剛性が高くに形成されているので、多数の母材10の表面処理に使用しても変形し難くなっている。なお矯正部材60は、取付部13の係止部13Bに接触する第1固定部64および第2固定部65、第1固定部64が配設された縦枠部材62における該第1固定部64が配設された部位、第2固定部65が配設された縦枠部材62における該第2固定部65が配設された部位、そしてピン66は、レジスト処理が予め施されている。従って矯正部材60は、母材10と接触する部位がレジスト処理されているから表面処理時に通電されず、横枠部材61,61、縦枠部材62,62、補強枠部材63、第1固定部54、第2固定部65およびピン66にはめっき被膜20が形成されないようになっている。
【0027】
前述のように構成された矯正部材60は、ピン66を通孔15に挿通係止させ、第2固定部65を対応する取付部13の係止部13Bに係止させ、第1固定部64を対応する取付部13の係止部13Bに係止させることで、図4および図5に示すように母材10の後側に取付けられる。この際に、母材10が規定の形状から変形している場合は、ピン66が通孔15に挿通係止されると共に第2固定部65が対応する取付部13の係止部13Bに係止されたもとで、該母材10を適宜変形させて第1固定部64に、対応する取付部13の係止部13Bを整合させることで、矯正部材60と母材10との装着が可能となる。
【0028】
次に、前述のように構成された実施例のめっき処理装置Uを利用しためっき部材Mの製造方法について説明する。
【0029】
実施例の製造方法では、第1作業段階として、図3に示すように、支持部材50に取付ける前の母材10に、矯正部材60を取付ける。すなわち、母材10が規定の形状から変形していた場合には、先ず通孔15にピン66を挿通係止させ、次いで第2固定部65に、対応する取付部13の係止部13Bを突入して係止させ、更に第1固定部64に、母材10を適宜変形させながら対応する取付部13の係止部13Bを突入して係止させることで、母材10の裏側に矯正部材60を装着する。これにより、第1固定部64の縦規制部64Aおよび第2固定部65の縦規制部65Aが、母材10の長手方向の両端部寄りに位置する取付部13,13の各係止部13Bの側端面に当接するので、母材10と矯正部材60とが該母材10の長手方向でずれ動くことが防止される。また、第1固定部64の各横規制部64Bおよび第2固定部65の各横規制部65Bが、母材10の長手方向の両端部寄りに位置する取付部13,13の各係止部13Bの上端面および下端面に夫々当接するので、母材10と矯正部材60とが該母材10の短手方向でずれ動くことも防止される。従って母材10は、長手方向での捻れ変形、短手方向での曲げ変形、表裏方向での撓み変形等が規制され、規定の形状(めっき部材Mの最終製品形状)に矯正されると共に規定の形状に保持される。
【0030】
次に、第2作業段階として、図4に示すように、矯正部材60を装着した母材10を、支持部材50の電極53,53に支持させる。すなわち、支持部材50の第1横支持部52Aの電極53を、母材10の中間に位置する2つの取付部における一方の取付部13の桁部13Aに係止させて電極接触部13Cに接触させると共に、該支持部材50の第2横支持部52Bの電極53を、母材10の中間に位置する2つの取付部における他方の取付部13の桁部13Aに係止させて電極接触部13Cに接触させる。これにより、矯正部材60を装着した母材10は、支持部材50に対して脱落することなく支持されると共に、各電極53と各取付部13とが電気的に導通した状態となる(図5参照)。
【0031】
次に、第3作業段階として、図1および図2に示すように、母材10を支持した支持部材50をめっき槽70内に貯留しためっき浴71内へ浸漬させ、導電性を有する該母材10が陰極となるよう外部電源を該母材10に印加して通電する。これにより、めっき浴71に溶解した金属イオンが、矯正部材60により規定形状に支持された母材10のレジスト処理がなされていない表面11および外周面12で還元され、該表面11および外周面12にめっき被膜20が形成され始める。そして、所要の処理時間が経過すると、表面11および外周面12に所要厚のめっき被膜20が形成されためっき部材Mが形成される。なお、壁部14の通孔15にピン66を挿通してあるので、めっき処理に際して該通孔15がめっき被膜20で塞がれることがない。
【0032】
従って、実施例のめっき部材Mの製造方法によれば、矯正部材60を変形させずに母材10を変形させて、剛性を有する該矯正部材60に該母材10を保持させるので、矯正部材60の変形が抑えられて該矯正部材60の精度を維持することができる。すなわち矯正部材60は、長期に亘って使用しても変形し難く、表面処理前の母材10を所定形状に安定的に矯正し得る。また、矯正部材60と支持部材50とが別体に構成されているので、該矯正部材60は該支持部材50の精度の影響を受けることがない。そして、規定の形状とした導電性を有する母材10を支持部材50に支持して表面処理を行なうので、該母材10のレジスト処理が施されていない表面11および外周面12に所要厚のめっき被膜20を形成することができる。そして、めっき被膜20が形成されためっき部材Mは、寸法および形状が一定となるから、製品不良の発生率が大幅に低下して製品管理が容易となると共に、製造効率が向上して製造コストを低減することができる。
【0033】
また、実施例の製造方法では、母材10における矯正部材60の第1固定部64および第2固定部65により保持される長手方向の両端部寄りに位置する取付部13,13が、めっき被膜が形成不能なレジスト処理が予め施されるので、該取付部13にめっき被膜20が形成されることが防止され、表面処理後には母材10と該矯正部材60とを容易に分離することができる。また、母材10と矯正部材60とを分離させる際に、めっき被膜20に傷が付いたり該めっき被膜20が破損することがない。また、支持部材50の第1横支持部52Aおよび第2横支持部52Bの一部をなす電極53,53で、母材10の中央寄りに設けた2つの取付部13,13の桁部13Aを支持することで、該桁部13Aに設けた電極接触部13Cと該電極53との接触も同時に図られるから、該電極53,53を介して導電性を有する母材10に通電が可能となり、該母材10の表面11および外周面12にめっき被膜20を形成する作業を簡易に行ない得る。また、支持部材50の電極53,53は、矯正部材60で所要の形状に予め矯正された母材10を支持するだけで該母材10を矯正するために利用されないから、該矯正により発生する力が電極53,53に加わることを原因とした該電極53,53の破損や損傷を防止できる。
【0034】
一方、実施例のめっき処理装置Uによれば、矯正部材60を変形させずに母材10を変形させて、剛性を有する該矯正部材60に該母材10を保持させるよう構成されているので、矯正部材60の変形が抑えられて該矯正部材60の精度を維持することを可能とする。すなわち矯正部材60は、長期に亘って使用しても変形し難く、表面処理前の母材10を所定形状に安定的に矯正することが可能となる。また、矯正部材60と支持部材50とが別体に構成されているので、該矯正部材60は該支持部材50の精度の影響を受けることが防止される。そして、所定形状とした導電性を有する母材10を支持部材50に支持して表面処理を行なうので、該母材10のレジスト処理が施されていない表面11および外周面12に所要厚のめっき被膜20を形成することを可能とする。そして、めっき被膜20が形成されためっき部材Mは、寸法および形状が一定に形成されるから、製品不良の発生率が大幅に低下して製品管理が容易となると共に、製造効率が向上して製造コストを低減することを可能とする。
【0035】
そして、実施例のめっき処理装置Uは、矯正部材60における取付部13,13を保持する第1固定部64および第2固定部65が、レジスト処理が予め施されていてめっき被膜20が形成されないので、表面処理後には母材10と矯正部材60とを適切に分離することを可能とする。また、母材10と矯正部材60とを分離させる際に、めっき被膜20に傷が付いたり該めっき被膜20が破損することも防止し得る。しかも、めっき処理装置Uは、めっき部材Mをヘッドライトに取付ける際に用いられる取付部13を利用して該母材10と矯正部材60とを装着すると共に、取付部13を利用して該母材10を支持部材50で支持するよう構成されているので、矯正部材60を装着するための部位および支持部材50で支持するための部位を該母材10に別途設ける必要がない。従って、めっき部材Mの製造コストが嵩まないと共に、該めっき部材Mが重くなることを防止し得る。
【0036】
更に、実施例のめっき処理装置Uは、矯正部材60が、該矯正部材60を装着した母材10を支持部材50で支持する際に支持部材50と干渉しないように構成されているので、該母材10を該支持部材50で適切に支持することができる。また矯正部材60は、枠状に形成されているので、重量が嵩むことを防止しながら母材10より剛性を高く構成することができる。また更に、母材10を支持部材50の電極53,53で支持するよう構成されているので、該電極53,53で母材10を支持すると同時に該母材10への通電が可能となり、該母材10の表面にめっき被膜20を形成する作業を簡易に行なうことが可能である。また、支持部材50の電極53,53は、矯正部材60で所要の形状に予め矯正された母材10を支持するだけで該母材10を矯正するために利用されないように構成されているから、該矯正により発生する力が電極53,53に加わることを原因とした該電極53,53の破損や損傷を防止できる。
【0037】
(変更例)
本発明に係る複層部材の製造方法および表面処理は、前述した実施例に限定されず、種々の変更が可能である。
(1)実施例では、複層部材として、母板10およびめっきによる被膜20から構成されためっき部材Mを例示すると共に、表面処理装置として該めっき部材Mを製造するめっき処理装置Uを例示したが、本願が対象とする表面処理は、前述した電気めっきに限定されず、溶融めっき、拡散めっき、蒸着めっき等の各種めっき処理や、プラスチックライニング、コーティング、塗装、熱転写等も含まれる。
(2)母材10の形状やサイズは、実施例に例示したものに限定されず、様々な形状、サイズのものが対象とされることは勿論である。そして、めっき処理装置Uにおける支持部材50および矯正部材60は、実施例に例示した形態のものに限定されず、母材10の形状やサイズ、またレジスト処理がなされていない部位の形状や形態に基づいて適宜変更される。
(3)実施例では、矯正部材60が装着された母材10を支持部材50に装着支持した際には、矯正部材60と支持部材50とが干渉しない関係(接触しない関係)となっている場合を例示したが、矯正部材60と支持部材50とは、該支持部材50に対する母材10の着脱に支障を来たさない形態として互いに接触する関係としてもよい。そして、矯正部材60と支持部材50とがこのように接触する関係とした場合には、該矯正部材60を支持部材50に着脱可能に固定する形態としてもよい。このように構成すれば、母材10および矯正部材60の重量が前記電極53を介さずに支持部材50に加わるようにでき、該電極53に対する負荷が軽減されると共に該電極53の形態や配設位置を変更することが可能となる。
(4)矯正部材60は、実施例のような枠状に限定されず、母材10を規定とする所定の形状に矯正すると共に該母材10の変形を規制することができれば、棒状や板状等に変更することが可能である。
(5)実施例では、縦支持部51に対して1つの横支持部52を備えた支持部材50を例示したが、縦支持部51を長尺にして複数の横支持部52を上下方向に所要間隔毎に配設したり、該縦支持部51を挟んだ両側に横支持部52を配設する等、1つの縦支持部51に対して複数の横支持部52を配設すれば、一度のめっき処理作業で複数の母材10に対するめっき処理を行なうことが可能である。また支持部材50は、めっき浴71に完全に浸漬されない形状とすることも可能である。
(6)実施例では、複層部材として、自動車のヘッドライトのレンズ外面に装着されるめっき部材Mを例示したが、本願が対象とする複層部材は、自動車等のボディ外面に装着される各種の車両外装部材、自動車等の車内に装着される各種の車両内装部材、その他各種の装置や機器に装着される部材等である。
(7)実施例では、導電性を有する母材10の表面に電気めっきによりめっき被膜20を形成することを前提として説明したが、導電性を有さない母材10の表面に表面処理を行なってめっき被膜20を形成するようにしてもよい。この場合では、母材10におけるめっき被膜20を形成する部位および電極接触部13Cに、電極53を介して通電可能な導電処理を施すようにすればよい。
【符号の説明】
【0038】
10 母材,13 取付部(導電部),20 めっき被膜(被膜),50 支持部材
53 電極,60 矯正部材,64 第1固定部,65 第2固定部,71 めっき浴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に対して表面処理を行なうことで、該母材の表面に被膜を形成した複層部材の製造方法であって、
前記母材より剛性を有するように構成されて、前記母材を変形させることで該母材と着脱可能な矯正部材により、該母材を所定形状に矯正しながら保持し、
前記矯正部材で形状が規定された前記母材を、該矯正部材と別体に構成された支持部材で支持した状態で表面処理を行なう
ことを特徴とする複層部材の製造方法。
【請求項2】
前記母材は、前記矯正部材に保持される部位に、前記被膜が形成不能なレジスト処理が予め施され、
前記矯正部材は、前記母材のレジスト処理が予め施された部位を保持する請求項1記載の複層部材の製造方法。
【請求項3】
前記支持部材の一部をなす電極で前記母材を支持し、めっき浴に浸漬した該母材に対して前記電極を介して通電することで、該母材の表面にめっきによる被膜を形成する請求項1または2記載の複層部材の製造方法。
【請求項4】
母材に対して表面処理を行なうことで、該母材の表面に被膜を形成する表面処理装置であって、
前記母材より剛性を有するように構成されて、前記母材を変形させることで該母材と着脱可能で、かつ保持した該母材を所定形状に矯正する矯正部材と、
前記矯正部材と別体に構成され、前記母材を所定の姿勢で支持可能な支持部材とを備え、
前記矯正部材で形状が規定された前記母材を前記支持部材で支持したもとで、該母材の表面処理を行なうよう構成した
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項5】
前記矯正部材は、前記母材において被膜が形成不能なレジスト処理が予め施された部位を保持する固定部を備えた請求項4記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記矯正部材および前記支持部材は、前記複層部材を対象物に取付ける際に用いられる取付部を保持するよう構成された請求項4または5記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記矯正部材は、前記母材を支持する前記支持部材と干渉しない枠状に構成された請求項4〜6の何れか一項に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記支持部材は、前記母材を支持する部分が電極として形成され、めっき浴に浸漬した該母材に前記電極を介して通電可能に構成された項求項4〜7の何れか一項に記載の表面処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−136728(P2012−136728A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288861(P2010−288861)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)