説明

複数のハンドルを有するレンチ

【課題】ボルトよりナットを緩め取り外す場合、ボルトまたはナットが錆びている場合、またはボルトのナットより露出している先端部が塗装によりネジ溝部が塗料に埋まっている場合等、ナットの取り外しが困難で供回りが生じる場合に、ナットを取り外すためボルトを強固に固定することができ、更に作業が困難な場合でも一人で作業ができるラチェットレンチ。
【解決手段】ボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケットを有するヘッド部材の外周にギヤが刻設してあり、該ヘッド部材には複数のヘッド部が前記ヘッド部材を支軸としてそれぞれ回動自在に軸支しており、該各ヘッド部には前記ヘッド部材の外周のギヤに回転方向を規制するラチェット機構が係合しており、更にハンドルが連設されており、該ハンドルにはそれぞれスライド自在に略錐体状の楔片が外嵌されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチ等によりボルト及びナットの締め付けまたは緩める操作をする際、操作期間中常時ボルトまたはナットの締め付け、または緩めることができることにより迅速な作業ができ、またボルトの締め付け操作を行う初期において、ほとんどボルトとナットの回転抵抗が無い場合に、揺動復帰操作をしても揺動復帰角度分ボルトまたはナットが緩まないラチェットレンチに関するものである。
【0002】
また、特にボルトよりナットを緩め取り外す場合、ボルトまたはナットが錆びている場合、またはボルトのナットより露出している先端部が塗装によりネジ溝部が塗料に埋まっている場合等、ナットの取り外しが困難で供回りが生じる場合に、ナットを取り外すためボルトを強固に固定することができるラチェットレンチに関するものである。
【0003】
更に、作業者一人でボルト頭部とナットにそれぞれレンチの嵌合が困難な場合でも、ボルト頭部を強固に固定することができることにより、一人でボルト及びナットの締め付けまたは緩める作業ができるラチェットレンチに関するものである。
【背景技術】
【0004】
従来のラチェットレンチではレンチの揺動復帰操作間は、ボルトまたはナットの締め付けが行われず作業時間のロスが発生する。またほとんどボルトとナットの回転抵抗が無い場合に揺動復帰操作をすると、ラチェット機構が働かず揺動復帰角度分ボルトが緩むことがある。
【0005】
また、ボルトよりナットを緩める場合、ナットが少し緩むと被締結部材とボルト及びナットとに隙間ができボルトとナットの供回りが発生する。特にボルトまたはナットが錆びている場合、またはボルトのネジ部が塗料により埋まっている場合、強固にボルト頭部を固定し、ナットを大きな力で緩める必要がある。
【0006】
更に、ボルト頭部が被締結部材等に遮られ、作業者一人でボルト頭部及びナットにレンチを嵌合できない場合、ボルト頭部を固定するための作業者が必要となり、二人作業となる。
【0007】
上記のような問題点を解消するために、ボルトとナットの回転抵抗がほとんどない初期においての供回り防止として、特許文献1のラチェットレンチではラチェットレンチの切替レバーの爪がギヤに非係合となる位置に停止させる構造とし、ソケットの回転をフリーな状態において、軽い力でソケットを手回しさせることにより、ボルトとナットの締め付けや緩める作業を迅速に行うことができるものである。
【0008】
また、複数のハンドルを有するレンチとして、特許文献2のスパナ付ラチェットレンチでは、ラチェットレンチ頭部のラチェットリングに揺動自在に支持アームを装着し、該支持アームに支軸を設け、この支軸を介して変位可能にスパナを装着したスパナとラチェットレンチの組み合わせたものである。一方(ラチェットレンチ)がボルト頭部に嵌合し他方(スパナ)を被締結部材を挟み込むようにしてナットに嵌合させ、スパナを保持した状態でラチェットレンチを揺動しボルトの締め付けを行うことができるものである。
【0009】
更に、ボルトとナットの供回り防止として、特許文献3のボルト/ナットの供回り防止具では、ボルト頭部を嵌合するためのソケット部と、該ソケット部の周面外方に延設されたアーム部と、アーム部に設けられた磁石からなるもので、ボルト頭部にソケット部を嵌合させた状態で、アーム部を最寄の障害物(他のボルト頭部またはアングル材等)に当接させ係止し、磁石により被締結部材に吸着固定した状態にて、ナットをレンチ等により締め付けを行うものである。
【0010】
しかし、特許文献1ではハンドル等を保持した状態にてソケットを手回しし、ボルトとナットの回転抵抗が大きくなりナットが緩まなくなった状態にて、切替レバーを切替えラチェットレンチの揺動操作を行う。しかし、ボルト及びナットの状態(錆びまたは塗料の付着等)により、ナットを軽く回すことができる位置と、手では回すことのできない位置がある場合、その都度切替レバーの切替え操作、その後ソケットの手回し操作またはラチェットレンチの揺動操作が必要であり、大変煩雑である。
【0011】
また、特許文献2ではスパナ部とラチェットレンチ部で被締結部材を挟むことができるものに限られ、被締結部材が厚みのあるもの、ボルトの取り付け位置が被締結部材端部より大きく離れているもの等、スパナ部とラチェットレンチ部で挟むことができないものには使用できないものであり、ロータリー等の耕耘爪専用の工具である。
【0012】
更に、特許文献3ではボルトの固定(長さ方向)は磁石の吸着力のみで弱く、ナットがある程度緩むとボルトがガタツキ、アーム部の当接係止していた箇所よりアームが外れ操作ができなくなる。特にボルトまたはナットが錆びまたは塗料の付着等により容易に回すことができない場合は、ナットを強い力で回す必要があるため、強固にボルトを固定する必要があるが、この供回り防止具は強固にボルトを固定することができず、確実に供回りを防止することはできない。
【0013】
更にまた、従来のラチェットレンチではナットの締め付け(緩める)作業をする場合、ラチェットレンチを締め付ける方向に揺動操作をする間は、ナットは回転しボルトに締め付けられるが、ラチェットレンチを元の位置に揺動復帰操作をする間ナットは回転せず、作業ロスが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−297123号公報
【特許文献2】特開平09−136265号公報
【特許文献3】特開2009−034733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記従来技術の欠点に鑑み、本発明のレンチは揺動復帰操作をする間の作業ロスを無くし、ボルトとナットの回転抵抗が無い場合に揺動復帰操作をしても揺動復帰角度分ボルトまたはナットが緩むことも無いものであり、またボルトを強固に固定することによりボルトとナットの供回りが防止でき、更に作業者一人で作業が困難な場合でも一人で作業ができるものである。
【0016】
尚、従来のラチェットレンチとは端部にソケットを装着するための角ドライブ、またはソケットが突設されたラチェット機構を有するレンチであり、またラチェットレンチの揺動操作とは、レンチを締め付けの最初の始端位置より締め付け操作後の終端位置までのレンチの回動操作のことであり、揺動復帰操作とはレンチを終端位置位より元の始端位置までの回動操作のことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
ボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケットを有するヘッド部材、またはボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケットを装着するための手段を有するヘッド部材の外周にギヤが刻設してあり、該ヘッド部材には複数のヘッド部が前記ヘッド部材を支軸としてそれぞれ回動自在に軸支しており、該各ヘッド部には前記ヘッド部材の外周のギヤに回転方向を規制するラチェット機構が係合しており、更に操作をするためのハンドルが連設されておることを特徴としたもの。
【0018】
複数のハンドルには、それぞれスライド自在に略錐体状の楔片が外嵌されていることを特徴としたもの。
【発明の効果】
【0019】
ボルトおよびナットの締め付け(緩める)作業をする際は、従来のラチェットレンチではラチェットレンチを元の位置に揺動復帰操作をする間、ナットは回転せず作業ロスが発生するが、本レンチでは複数のハンドル(2本のハンドル)を交互に揺動操作(一方が揺動操作を行い他方が揺動復帰操作を行う)をすることにより、常にナットの締め付け(緩め)ができるため、作業ロス無く短時間で作業を終えることができる。
【0020】
また、本レンチでは複数のハンドル(ヘッド部)にそれぞれラチェット機構が設置されていることにより、ボルトおよびナットの締め付け作業をする際、ほとんどボルトとナットの回転抵抗が無い状態でも、一方のハンドルを揺動復帰操作をした場合、他方のハンドル(ヘッド部)のラチェット機構の働きにより、ボルトまたはナットの緩む方向への回転は阻止状態となっているため、ボルトまたはナットは緩むことはない。
【0021】
更に、ボルトとナットが強固に固着していて供回りが発生する場合にナットを緩めるとき、ボルト頭部に本レンチを嵌合し本レンチの複数のハンドル(楔片)を被締結部材に当接させ、該当接部とボルトの被締結部材の貫通部の3点により三角形をなすようにし、ボルトを強固に固定することにより、強い力で他のレンチでナットを回しても供回りをすることはない。
【0022】
更にまた、ボルト頭部が被締結部材等に遮られ、作業者一人でボルト頭部及びナットにレンチを嵌合できない場合でも、前記のようにボルトを固定することにより、一人作業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例の複数のハンドルを有するレンチを示す斜視図、及び横断面図、及び縦断面図である。
【図2】第2実施例の複数のハンドルを有するレンチを示す斜視図である。
【図3】第3実施例の複数のハンドルを有するレンチを示す斜視図、及び正面図、及び平面図である。
【図4】第4実施例の複数のハンドルを有するレンチを示す斜視図である。
【図5】第5実施例の複数のハンドルを有するレンチを示す斜視図、及び正面図、及び平面図である。
【図6】第6実施例の複数のハンドルを有するレンチを示す斜視図である。
【図7】楔片を示す斜視図である。
【図8】ラチェット機構の切替レバーの切替に伴う、動作説明図である。
【図9】第1実施例の複数のハンドルを有するレンチを使用して、ボルトの締め付け操作を行った時の動作説明図である。
【図10】第5実施例の複数のハンドルを有するレンチを使用して、ボルト及びナットの供回り防止のための、ボルトの固定方法を示す正面図、及び平面図、及び側面図である。
【図11】第5実施例の複数のハンドルを有するレンチを使用して、ボルト及びナットの供回り防止のために、図10とは異なるボルトの固定方法を示す正面図、及び平面図、及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施例を、図面を参照にして詳述する。尚、横断面図は正面(手前側面)より見た断面図であり、縦断面図は上面より見た断面図である。以下の説明の位置関係は図面に表わした位置に基づいて記載する。
【実施例1】
【0025】
図1より第1実施例の複数のハンドルを有するレンチ100を詳述する。図で示すように左端にヘッド部1、それに続いてハンドル3を一体に備えた第1ラチェットレンチ部110と、該第1ラチェットレンチ部110と同構造の左端にヘッド部2、それに続いてハンドル4を一体に備えた第2ラチェットレンチ部120より構成されている。前記それぞれのヘッド部1、2には一体構造よりなるヘッド部材12、22が軸通されており、第1ラチェットレンチ部110及び第2ラチェットレンチ部120はそれぞれヘッド部材12、22を支軸として回動自在に設置されている。
【0026】
前記ヘッド部材12、22は外周にギヤが刻設してある歯車体であり、第1ラチェットレンチ部110はヘッド部材12の歯車部にハンドル3側よりラチェット機構の切替レバー13が係合しており、該ラチェット機構の切替レバー13はスプリング15の弾圧力でボール16により押圧されており、支軸14により回動自在にヘッド部1に軸支されている。また、切替レバー13の操作部がヘッド部1の両側面の空隙部より突出しており、該切替レバー13の操作部を押動することにより切替レバー13が回動し、ラチェット機構の切替を行うことができるものである。同様に第2ラチェットレンチ部120もヘッド部材22の歯車部にハンドル4側よりラチェット機構の切替レバー23が係合しており、該ラチェット機構の切替レバー23はスプリング25の弾圧力でボール26により押圧されており、支軸24により回動自在にヘッド部2に軸支されている。
【0027】
また、ヘッド部材12にはボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケット11がヘッド部1の上面より突設されている。同様にヘッド部材22にもソケット21がヘッド部2の下面より突設されている。以上記載のように、本レンチは2個の従来のラチェットレンチのヘッド部材同士を固設し、それぞれ揺動自在に積重したものである。
【0028】
次に、第1実施例の複数のハンドルを有するレンチ100の動作に付いて説明する。尚以後、第1実施例の複数のハンドルを有するレンチを第1実施例のレンチと記載し、第2実施例以降に付いても同様に記載する。図9より第2ラチェットレンチ部120のソケット21にボルト700の頭部を嵌合し、第1ラチェットレンチ部110のハンドル3を矢印a1方向に揺動操作をすると同時に、第2ラチェットレンチ部120のハンドル4を第1ラチェットレンチ部110とは逆方向の矢印b2方向に揺動操作をする。この時のラチェット切替機構の切替レバー13及び切替レバー23は図8(A)で示すように、ハンドル3を矢印R1方向に揺動操作をするとヘッド部材12は矢印r方向に回転し、同様にハンドル4を矢印R2方向に揺動操作をするとヘッド部材12は矢印r方向に回転する。また、ハンドル3を矢印L1方向に揺動操作をするとハンドル3のみがヘッド部材12を周回しヘッド部材12は回転することはなく、同様にハンドル4を矢印L2方向に揺動操作をするとハンドル4のみがヘッド部材22を周回しヘッド部材22は回転しない切替え位置となっている。ヘッド部材12及びヘッド部材21は一体に形成されているため、ハンドル3の矢印a1方向の揺動操作によりボルト700は矢印r方向に回転し、同時操作のハンドル4の矢印b2方向の揺動復帰操作に対してはハンドル4のみがヘッド部材22を周回するのみである。次に図9の第1ラチェットレンチ部110と第2ラチェットレンチ部120が入れ替わった状態位置より、ハンドル4の矢印b1方向の揺動操作によりボルト700は矢印r方向に回転し、同時操作のハンドル3の矢印a2方向の揺動復帰操作に対してはハンドル3のみがヘッド部材12を周回する。
【0029】
上記の様に、ハンドル3及びハンドル4を交互に揺動操作および揺動復帰操作をすることにより、ボルト700は操作中常に回転し締め付けることができことにより、迅速な締め付け作業ができる。尚、ボルトを緩める場合も同様な効果を奏するものである。
【0030】
また、ほとんどボルトとナットの回転抵抗が無い状態において例えばボルトを締め付ける場合、従来のラチェットレンチでは揺動復帰操作をすると揺動復帰角度分ボルトまたはナットが緩むが、本レンチにおいては(図8(A)参照)第1ラチェットレンチ部110のハンドル3を矢印R1方向に揺動した後、矢印L1方向に揺動復帰操作をすると、第2ラチェットレンチ部120(この例では操作せず静止状態を保つ)のラチェット機構(切替レバー23)の働きにより、ヘッド部材12、22は矢印r方向とは逆方向の回転は阻止状態であるためボルトまたはナットは緩むことはない。尚、ボルトを緩める場合も同様である。勿論、第1ラチェットレンチ部110及び第2ラチェットレンチ部120を交互に操作しても、一方が必ずヘッド部材12、22を矢印r方向とは逆方向の回転に対しては阻止状態となっているため、ボルトまたはナットは緩むことはない。
【実施例2】
【0031】
図2に第2実施例のレンチ200を示す。前記第1実施例のレンチ100との相異点は、ヘッド部材12及びヘッド部材22よりヘッド部1及びヘッド部2の上下面に突設されたソケット11及びソケット21に替え、ボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケット18を装着することができる角ドライブ17を、ヘッド部材1の上面に突設したものである。操作方法及び動作は第1実施例のレンチ100と同様である。
【実施例3】
【0032】
図3に第3実施例のレンチ300を示す。前記第1実施例のレンチ100との相異点は、第1ラチェットレンチ部310のハンドル3はヘッド部1側の円柱部32、それに続く正四角柱部31よりなり、端部には楔片5(後述記載)の抜け落ち防止用としての略半球状のストッパー33がボルト34により螺設されており、更に本レンチの脱落防止用としてのクランプ7がワイヤー71によりストッパー33に繋着されている。同様に第2ラチェットレンチ部320のハンドル4も同構造となっている。尚、第2ラチェットレンチ部320には脱落防止用のクランプ7は設置されていない。
【0033】
前記ハンドル3及びハンドル4には、スライド自在に楔片5及び楔片6が外嵌されている。該楔片5、6は断面正方形の略角錐体状で中央にハンドル3、4を貫通するための孔が貫穿されており、基端部をヘッド部側に尖端部をストッパー側にしてハンドルに外嵌されている。該楔片5、6はハンドル3、4の正四角柱部31、41の位置では転回することがでないが、スライドさせ円柱部32、42の位置において転回可能となっている。また、ストッパー33、43は楔片5、6をスライドさせた際ハンドル3、4よりの脱落を防止するものであり、更にボルト34、44を緩めストッパー33、43を取り外し、既設の楔片5,6を抜き取り、別の楔片に交換できるものである(図7参照)。
【実施例4】
【0034】
図4に第4実施例のレンチ400を示す。前記第3実施例のレンチ300との相異点は、ハンドル3及びハンドル4が総て円柱体よりなり、該ハンドル3、4に外嵌している楔片5、6は略円錐体状よりなるものである。
【実施例5】
【0035】
図5に第5実施例のレンチ500を示す。前記第3実施例のレンチ300との相異点は、ハンドル3が第2ラチェットレンチ部520側に屈曲しており、ハンドル4は第1ラチェットレンチ部510側に屈曲しており、正面視ハンドル3とハンドル4は第1ラチェットレンチ部510と第2ラチェットレンチ部520の中間の同位置に並置してあることにより、本レンチ500の上方または下方から楔片5及び楔片6までの距離を同一するものである(図5(B)参照)。
【0036】
次に、第5実施例のレンチ500の動作に付いて説明する。図10より、平板状の被締結部材800にL型状の被締結部材810−1、810−2がボルト700及びナット710により取り付けられている。該ボルト700及びナット710を取り外す操作例に付いて記載する。ボルト700の頭部に第2ラチェットレンチ部520のソケット21を嵌合し、第1ラチェットレンチ部510と第2ラチェットレンチ部520を略ハ字状に開いた状態において、第1ラチェットレンチ部510のハンドル3の先端部が、被締結部材810−2に最も近づく位置まで矢印C1方向に揺動操作をする。同様に第2ラチェットレンチ部520のハンドル4の先端部も、被締結部材810−2に最も近づく位置まで矢印C2方向に揺動操作をする。その後、楔片5をハンドル3の基部より先端部方向(矢印e1方向)にスライドさせ、該楔片5を被締結部材810−2に当接させる、同様に楔片6をハンドル4の基部より先端部方向(矢印e2方向)にスライドし被締結部材810−2に当接させる。上記操作によりボルト700は楔片5の当接部g1と楔片6の当接部g2及び被締結部材800及び被締結部材810−1のボルト700の貫通部g3の3点により支持固定される。尚、楔片5、6をハンマー等の打撃によりスライドさせることにより、より強固にボルトを固定することができる。
【0037】
ボルト700を本レンチ500により固定した後、クランプ7を被締結部材810−2等に挟み、本レンチ500の固定が解除された場合に本レンチ500の落下を防止する(図示せず)。その後、他のレンチまたはスパナ等をナットに嵌合しナット710を緩め(図示せず)、ボルト700を取り外す。
【0038】
上記操作をする際の、第1ラチェットレンチ部510と第2ラチェットレンチ部520のラチェット機構の切替レバー13、23の切り替え位置を第1ラチェットレンチ部510は矢印C1方向、第2ラチェットレンチ部520は矢印C2方向に揺動可能位置であり、詳しくは図8(B)に示すように、ハンドル3を矢印L1方向に揺動しようとするとヘッド部材12は矢印s方向の回転力が生じる方向に、またハンドル4を矢印R2方向に揺動するとヘッド部材22は矢印r方向の回転力が生じる方向に切り替えてある。この時、ハンドル4を保持固定した状態において、ハンドル3を矢印L1方向に揺動するとヘッド部材12は矢印s方向の回転力が生じるが、ヘッド部材12及びヘッド部材22は一体構造のため、ハンドル3の回転力は切替レバー23の働きによりヘッド部材22では矢印r方向とは逆方向(ヘッド部材12では矢印s方向)の回転は阻止状態のため、ハンドル3を矢印L1方向に揺動することはできない。同様に、ハンドル3を保持固定した状態において、ハンドル4を矢印R2方向に揺動しようとするとヘッド部材22は矢印r方向の回転力が生じるが、ハンドル4の回転力は切替レバー13の働きにより矢印r方向とは逆方向の回転は阻止状態のため、ハンドル4を矢印R2方向に揺動することはできない。しかし、ハンドル3を矢印R1方向及びハンドル4を矢印L2方向の揺動に対しては、ヘッド部材12、22は静止状態を維持したまま、ハンドル3はヘッド部材12の矢印R1方向に周回し、ハンドル4はヘッド部材22の矢印L2方向に周回することができる。
【0039】
更に別の操作例について記載する。図11より平板状の被締結部材800にL型状の被締結部材810−1、810−2がボルト700及びナット710により取り付けられている。該ボルト700及びナット710を取り外す場合、ボルト700の頭部に第1ラチェットレンチ部510のソケット11を嵌合し、第1ラチェットレンチ部510と第2ラチェットレンチ部520を略逆ハ字状に開いた状態において、両ハンドル3、4の先端部を被締結部材800の上端部の位置まで揺動操作をする。その後、楔片51をハンドル3の先端部より基部方向(矢印e1方向)にスライドさせ、該楔片51を被締結部材800の上端部に当接させる、同様に楔片61をハンドル4の先端部より基部方向(矢印e2方向)にスライドし被締結部材800の上端部に当接させる。上記操作によりボルト700は楔片51の当接部g1と楔片61の当接部g2及び被締結部材800及び被締結部材810−1のボルト700の貫通部g3の3点により支持固定される。その後、他のレンチまたはスパナ等をナットに嵌合しナット710を緩め、ボルト700を取り外す。尚、ラチェット機構の切替レバー13、23の切り替え位置は第1ラチェットレンチ部510を矢印C1方向、第2ラチェットレンチ部520を矢印C2方向に揺動可能位置である。
【0040】
尚、前記楔片51、61は断面正方形の略角錐体状の一側面に円柱体が突設されており、該円柱体の下面が被締結部材800の上端部に当接するものである。また、楔片52、62は断面長方形の略角錐体であり、ハンドル3、4の円柱部32、42で楔片52、62を転回させることにより、より適切な当接部を得ることができる(図7参照)。以上のように、本レンチのハンドルに種々の楔片から選択し、より適切な楔片に交換することにより、より強固で安定したボルトの固定ができるものである。
【0041】
また、ハンドル3が第2ラチェットレンチ部520側に屈曲させ、ハンドル4は第1ラチェットレンチ部510側に屈曲したことにより、被締結部材と両楔片との距離を同一にすることにより、両楔片を同一形状とすることができ、更に安定したボルトの固定が可能となる。
【実施例6】
【0042】
図6に第6実施例のレンチ600を示す。前記第5実施例のレンチ500との相異点は、ハンドル3、4が総て円柱体であり、楔片5、6も略円錐体よりなるものである。
【0043】
尚、実施例3は被締結部材と両楔片との距離が異なるため、被締結部材の形状によっては実施例5に比べ不安定な場合もあるが、構造が簡単である。また、実施例4及び実施例6もハンドルを円柱体とすることで、簡単な構造となり製作も容易である。尚、実施例3、実施例4及び実施例6の操作方法は、実施例5と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
従来のラチェットレンチでは揺動復帰操作をする間、ボルトまたはナットを締め付ける(緩める)ことはできず作業ロスとなるが、本レンチの複数のハンドルを交互に揺動することにより、常にボルトまたはナットを締め付ける(緩める)ことができるため、作業ロスが無く短時間で作業が終了する。
【0045】
また、ボルトとナットの回転抵抗が無い場合に揺動復帰操作をすると揺動復帰角度分ボルトまたはナットが緩むことがあるが、本レンチの第1ラチェットレンチ部及び第2ラチェットレンチ部のそれぞれのラチェット機構の作用により、揺動復帰操作をしてもボルトまたはナットが緩むことは無いものである。
【0046】
更に、ボルト及びナットが錆びまたは塗料によりボルトにナットが強固に固着していることにより、ボルトよりナットを緩め取り外す際供回りが生じナットの取り外しが非常に困難な場合でも、本レンチの複数のハンドルの楔片と被締結部材の当接部と、被締結部材のボルトの貫通部との3点により強固にボルトを固定することにより容易にボルトよりナットを取り外すことができる。
【0047】
更にまた、作業者一人でボルトを固定しナットを締め付けまたは緩める操作ができない状況でも、本レンチは前記同様ボルトを固定することにより、作業が困難な場合でも一人で作業ができるものであり、構造が簡単であるため堅牢に且、容易に製作できるものである。
【0048】
尚、実施例で示した本レンチのラチェット機構を爪式切替機構にて記載したが、ラチェット機構は公知のラチェット機構と同様なものであり、該ラチェット機構は爪式切替機構に限定されるものでなく、ピン式切替機構またはその他の切替機構で、本レンチの機能を奏するラチェット機構であればよい。
【符号の説明】
【0049】
1、2 ヘッド部
3、4 ハンドル
5、 6、51、52、61、62 楔片
7 クランプ
11、21 ソケット
12、22 ヘッド部材
13、23 切替レバー
33、43 ストッパー
100 第1実施例の複数のハンドルを有するレンチ
200 第2実施例の複数のハンドルを有するレンチ
300 第3実施例の複数のハンドルを有するレンチ
400 第4実施例の複数のハンドルを有するレンチ
500 第5実施例の複数のハンドルを有するレンチ
600 第6実施例の複数のハンドルを有するレンチ
110、210、310、410、510、610 第1ラチェットレンチ部
120、220、320、420、520、620 第2ラチェットレンチ部
700 ボルト
710 ナット
800 平板状被締結部材
810−1、810−2 L型状の被締結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケットを有するヘッド部材、またはボルト頭部またはナットを嵌合するためのソケットを装着するための手段を有するヘッド部材の外周にギヤが刻設してあり、該ヘッド部材には複数のヘッド部が前記ヘッド部材を支軸としてそれぞれ回動自在に軸支しており、該各ヘッド部には前記ヘッド部材の外周のギヤに回転方向を規制するラチェット機構が係合しており、更に操作をするためのハンドルが連設されておることを特徴とした複数のハンドルを有するレンチ。
【請求項2】
複数のハンドルには、それぞれスライド自在に略錐体状の楔片が外嵌されていることを特徴とした請求項1に記載の複数のハンドルを有するレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−49095(P2013−49095A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186688(P2011−186688)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【特許番号】特許第5027329号(P5027329)
【特許公報発行日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【出願人】(301034647)