複数の相同ヌクレオチド配列を含むベクター
本発明は、2つ以上の相同ヌクレオチド配列を含むベクター、およびそれらを作製するための方法に関する。本発明は、コードされるアミノ酸配列を変化させない異なる塩基で相同ヌクレオチド配列における塩基を置換することに関する。本発明は、特に哺乳動物細胞における、相同ヌクレオチド配列間の分子内組換えの低減を可能にする。本発明はさらに、置換された塩基を含むヌクレオチド配列に関する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
核酸の相同組換えの現象は、相同配列内の核酸鎖の物理的切断および交差再結合を含む。哺乳動物細胞における組換えおよび遺伝子変換は、適切に構築されたウイルス基質またはプラスミド基質の感染後の選択可能な遺伝子の再構築をモニターしている多くのグループによって研究されている(Chakrabartiら、Mol.Cell.Biol.6:2520〜2526、1986)。これらの実験の結果は、細胞が、分子内および分子間の組換えおよび遺伝子変換の両方を効率的に支援することを示している(同上)。分子間組換えは、2つの異なる核酸分子上に存在する相同配列間の組換えを指し、分子内組換えは、単一の核酸分子上に存在する相同配列間の組換えを指す。
【0002】
“分子間”組換えは、プラスミドまたはウイルスにおける遺伝子と細胞内の相同配列との間で起こり得る(Millerら、Mol.Cell.Biol.6:2895〜2902、1986)。この型の組換えは、弱毒性ウイルスからの感染性ウイルスの発生を引き起こし得る。Fullerらは、HIV−1gag遺伝子およびHIV−1pol遺伝子の別々の配列をコドン最適化して、哺乳動物細胞においてその発現を増加させた。これらの最適化はまた、HIVのgag−pol遺伝子に存在する約200塩基対の重複領域におけるヌクレオチドの同一性を低下させ、それはまた、2つの独立したプラスミドに配置されたgagおよびpolオープンリーディングフレームと組換えレトロウイルスに含まれる切断型gag遺伝子との間の分子間組換えのレベルの低下をもたらした(Fullerら、Hum.Gene Ther.12:2081〜2093、2001)。
【0003】
“分子内”組換えは、遺伝子または遺伝子断片の重複領域が介在配列によって分離されている直列反復配列として存在するベクターに関して起こり得る。この型の組換えは、一般的に、介在配列および1コピーの反復配列の欠失をもたらす。分子内組換えの頻度は、一般的に、分子間組換えより、はるかに高い。
【0004】
プラスミドベクター内の分子内組換えのレベルは、哺乳動物細胞において定量化されている(RubnitzおよびSubrami、Mol.Cell.Biol.4:2253〜2258、1984)。相同領域のサイズに依存して、トランスフェクションされたプラスミドDNA内の分子内組換えの頻度は0.306%〜0.002%と様々であった(同上)。わずか14塩基の相同性でも、低い組換え効率が見られた(同上)。
【0005】
相同配列間の分子内組換えはまた、ピコルナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、およびポックスウイルスを含むいくつかの動物ウイルスにおいて実証されている(Gritzら、J.Virol.64:5948〜5957、1990)。ワクシニアウイルスにおいて、縦列重複配列が遺伝的に不安定であることが示されている(同上)。ウイルスにおいて、プラスミドベクターに関して見られるものよりはるかに高い分子内組換えのレベルが見られている。
【0006】
例えば、レトロウイルスにおいて、同じRNA分子における2つの同一配列間の組換え頻度は、約62%であることが見出された(Zhangら、J.Virol.75:6348〜6358、2001)。分子間(2つのRNA分子間)とは対照的に、これらの組換えの99%は分子内(1つのRNA分子上の2つの配列間)であった(同上)。アデノ随伴ウイルスに関して、分子内組換えはまた、分子間組換えよりはるかに効率的であることが見出された(Choiら、J.Virol.79:6801〜6807、2005)。単純ヘルペスウイルス1型もまた、高レベルの組換えを示すことが示されている(Dutchら、J.Virol.66:277〜285)。ポックスウイルスにおいて、高頻度の相同組換えが観察されている。1.5kbのDNAの2つの直列反復配列の間にチミジンキナーゼ(tk)遺伝子を置くことによってワクシニアウイルスにおける組換えを測定する実験系が用いられた(Ball、J.Virol.61:1788〜1795、1987)。非選択的条件下での最初の8継代のそれぞれの間で、tk+ワクシニアウイルスの40%がtk+表現型を喪失した(同上)。非選択的条件下で、tk−ウイルスが総ウイルス集団の99.37%の量まで増加した(同上)。選択的条件下でさえも、高頻度で組換えが起こったために、単一プラークから単離することができた感染性ウイルス粒子の大部分が、すでに組換えを受けて、引き続いてtk遺伝子を喪失しているDNAを含んでいた(同上)。全てVV p7.5プロモーターから発現される3つの異種性遺伝子を発現するように設計された組換えワクシニアウイルスを用いて、Howleyら(Gene 172:233〜237、1996)は、反復プロモーター配列間の組換えを示した。ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のMタンパク質由来のC反復領域(CRR)を含むように設計されたワクシニアウイルス組換え体は、1コピーから20コピーを超えるCRRを含む変異体の複雑な混合物を含んでいた(Hrubyら、P.N.A.S.88:3190〜3194、1991)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MVAの異なる挿入部位に挿入された約60〜75%の相同性を有する複数の遺伝子が、結果として安定な多重組換えウイルスを生じることが示されているが(WO03/097846)、しかしながら同一のより長い区間を含む複数の相同ヌクレオチド配列を含む安定なベクターの作製を可能にするための、例えば、ウイルスベクターなどのベクターにおける分子内組換えのレベルを低下させる組成物および方法が、当技術分野において必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、組換えベクター、およびそれらを作製し、用いるための方法に関する。
【0009】
特に、本発明は、それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクターであって、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、ベクターを含む。
【0010】
驚くべきことに、分子内組換えのリスクを有意に低下させることに加えて、例えば、ベクターなどの1つの核酸分子内の少なくとも2つの類似または同一のヌクレオチド配列において同義のコドンを体系的に置換することによって、分子内組換えのリスクを回避することもでき、したがって、少なくとも2つ以上の類似または同一のヌクレオチド配列を含む安定なベクターの作製へとつながることが、本発明により示された。予想外に、本発明に用いられるストラテジーはまた、3つ以上の類似のヌクレオチド配列を含むベクターにも適用可能である。
【0011】
本発明において得られた結果は、ヌクレオチド配列における多数のヌクレオチドを置換して、ベクター内の分子内組換えを低減させることが可能であるが、驚くべきことに、同時に、コードされたタンパク質の発現がなお保持されることを示している:本発明に従って行ったように多数のヌクレオチド変異体をヌクレオチド配列の長い区間へ導入した場合、当業者は、前記配列または遺伝子の発現がもはや適切に働かないであろうと予想したであろう、すなわち、変化したヌクレオチド配列が効率的な発現に適したままであろうとは予想されなかった。本明細書で用いられるストラテジーは、300ヌクレオチドの短いヌクレオチド配列区間に適用可能であるだけでなく、例えば、主張されている300ヌクレオチドの区間を当然ながら含む完全長遺伝子のような非常に長い区間にも適用可能である。結果は、多くの異なる遺伝子、ベクター、およびウイルスに適用可能であり、例えば、多価ワクチンの開発などのワクチン開発に非常に有利であるが、例えば、タンパク質の発現のような他のテクノロジーに、または組換え細胞株の作製にも有利であり得る。
【0012】
他の実施形態において、本発明はまた、ウイルスおよびベクターの作製のための方法、ならびに分子内組換えを低減させるための方法も含む。
【0013】
本発明は、a)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第1のヌクレオチド配列を供給する段階と、b)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を供給する段階と、c)2つの相違するヌクレオチド配列をベクターへ挿入する段階とを含み、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、かつ2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、上記のベクターを作製するための方法を含む。
【0014】
特に好ましい実施形態において、本発明は、それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクター内の分子内組換えを低減させるための方法であって、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、一方または両方のヌクレオチド配列におけるヌクレオチドを置換して少なくとも75ヌクレオチドの相違を示す2つの相違する配列を産生する段階を含み、異なるヌクレオチドが、前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、方法を含む。
【0015】
ウイルスベクターを用いる場合、方法は、ウイルス増殖の各世代中、分子内組換えのレベルを低下させる。好ましくは、相同ヌクレオチド配列は、世代当たり20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、または0.01%未満の子孫ウイルスにおいて組み換わる。
【0016】
別の好ましい実施形態において、本発明は、a)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むウイルスを供給する段階と、b)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を前記ウイルスへ挿入する段階とを含み、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、2つの相同ヌクレオチド配列を含むウイルス、好ましくは、ポックスウイルスを作製するための方法を含む。
【0017】
本明細書に用いられる場合、「ベクター」は、宿主細胞または対象において核酸分子を送達し、発現する能力がある任意の媒体であってよい。したがって、ベクターは、細胞へ導入される、および/もしくは細胞ゲノムに組み込まれるPCR産物もしくは任意の核酸断片;または、挿入されたセグメントの複製を引き起こすように別のDNAセグメントが挿入され得る、プラスミド、ファージ、もしくはコスミドなどのレプリコンであってもよい。一般的に、ベクターは、適切な調節エレメントを伴う場合、複製し得る。本発明に用いる適切なベクターバックボーンとして、例えば、プラスミド、ウイルス、人工染色体、BAC、YAC、もしくはPACなどの当技術分野において日常的に用いられるもの、またはさらに細菌および真核細胞のような組換え細胞も挙げられる。用語「ベクター」は、クローニングベクターおよび発現ベクター、ならびにウイルスベクターおよび組み込みベクターを含む。「発現ベクター」は、制御領域を含むベクターである。本発明に用いる適切な発現ベクターには、限定するものではないが、プラスミド、ならびに植物ウイルス、バクテリオファージ、バキュロウイルス、タバコモザイクウイルス、レトロウイルス、およびポックスウイルス由来のウイルスベクターが挙げられる。適切な非ウイルスベクターには、pREP4、pCEP4(Invitrogene)、pCI(Promega)、pCDM8(Seed、1987、Nature 329、840)、pVAXおよびpgWiz(Gene Therapy System Inc;Himoudiら、2002、J.Virol.76、12735〜12746)などのプラスミドが挙げられる。多数のベクターおよび発現系は、Novagen(Madison、Wis.)、Clontech(Palo Alto、Calif.)、Stratagene(La Jolla、Calif.)、およびInvitrogen/Life Technologies(Carlsbad、Calif.)のような会社から市販されている。
【0018】
ワクチン開発において、組換えウイルスは、遺伝物質を細胞へ送達するための媒体またはワクチンベクターとして用いることができる。いったん細胞に入れば、遺伝情報が転写され、特定の疾患を標的とする挿入された抗原を含むタンパク質へ翻訳される。ベクターによって細胞へ送達された抗原が、疾患から保護する、抗原に対する身体の免疫応答を誘導すれば、治療は成功である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、ベクターはプラスミドまたはウイルスベクターである。
【0020】
ウイルスベクターは、宿主において複製できないが、感染した細胞において外来遺伝子を導入し、発現させることができる弱毒ウイルスに基づくものであり得る。ウイルスまたは組換えウイルスは、それにより、タンパク質を生成し、それを宿主の免疫系へ提示することができる。ウイルスベクターのいくつかの重要な特徴は、それらが体液性(B細胞)および/または細胞性(T細胞)免疫応答を誘発し得ることである。
【0021】
ウイルスベクターは、様々な異なるウイルスから得ることができる。一実施形態において、ウイルスは動物ウイルスである。ベクターは、レトロウイルス、ピコルナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、HSV−1)、麻疹ウイルス、および泡沫状ウイルスからなる群から選択されるウイルスから特に得ることができる。
【0022】
ウイルスベクターは、感染性疾患および癌の予防および治療のためのワクチンを開発するために、研究者によって一般的に用いられている。これらのうち、(カナリアポックスウイルス、ワクシニアウイルス、および鶏痘ウイルスを含む)ポックスウイルスは、最も一般的なベクターワクチン候補の群に属している。ポックスウイルスは、ウイルスゲノムへ配列を挿入する能力が比較的大きいため、また、核の代わりに感染細胞の細胞質においてそれらのゲノムを複製し、転写を行う能力のため、遺伝物質の新しい宿主への移入にとって好ましい選択であり、これにより他のベクター、例えば、レトロウイルスベクターに関して見られるような宿主細胞のゲノムへ遺伝物質を組み込むことによる挿入変異誘発のリスクを最小限にする。ポックスウイルスのビリオンは、たいていの他の動物ウイルスと比較して大きい(より詳細について、Fieldsら編、Virology、第3版、2巻、83章、2637ページ以降参照)。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、ウイルスベクターは、ポックスウイルス由来である(例えば、Coxら、「Viruses in Human Gene Therapy」J.M.Hos編、Carolina Academic Press参照)。ウイルスベクターは、ポックスウイルス科の任意のメンバーから得ることができ、特に、アビポックスウイルスまたはオルソポックスウイルスであってもよい。
【0024】
本発明に用いるのに適したアビポックスウイルスの例として、鶏痘ウイルス、カナリアポックスウイルス、ジュンコ痘ウイルス、マイナ痘ウイルス、鳩痘ウイルス、オウム痘ウイルス、ウズラ痘ウイルス、クジャク痘ウイルス、ペンギン痘ウイルス、スズメ痘ウイルス、ムクドリ痘ウイルス、および七面鳥痘ウイルスなどの任意のアビポックスウイルスが挙げられる。好ましいアビポックスウイルスは、カナリアポックスウイルスおよび鶏痘ウイルスである。
【0025】
アビポックスウイルスは、天然では、宿主限定型であり、鳥類および鳥の細胞においてのみ増殖的に複製する(Taylorら、Biological and immunogenic properties of a canarypox−rabies recombinant,ALVAC−RG (vCP65) in non−avian species、Vaccine 13:539〜549、1995)。ヒト細胞はアビポックスウイルスに感染した場合、異種性遺伝子がウイルスゲノムから発現する。しかしながら、アビポックスウイルスは、ヒト細胞において完全には複製せず、したがって、人間が増殖性ウイルス複製によって害されるリスクはない。例えば、レンチウイルスの遺伝子産物(US5,766,598)、サイトカインおよび/または腫瘍関連抗原(US5,833,975)、または狂犬病G糖タンパク質(Taylorら、Biological and immunogenic properties of a canarypox−rabies recombinant,ALVAC−RG (vCP65) in non−avian species、Vaccine 13:539〜549、1995)を発現する様々な組換えアビポックスウイルスが構築されている。4つのHIV遺伝子gag、pol、env、およびnefを発現する組換えカナリアポックスウイルスはすでに、臨床試験に用いられている(Peters,B.S.、The basis for HIV immunotherapeutic vaccines、Vaccine 20:688〜705、2001)。
【0026】
アビポックスウイルスは鳥の細胞においてのみ増殖的に複製するため、ウイルスの増幅および組換えウイルスの作製にはこれらの細胞が用いられなければならない。
【0027】
カナリアポックスウイルスの例は、レントシュラー(Rentschler)株である。ALVACと呼ばれるプラーク精製カナリアポックス株(US5,766,598)を、ブダペスト条約に従って、American Type Culture Collection(ATCC)にアクセッション番号VR−2547として寄託した。もう1つのカナリアポックス株は、Institute Merieux,Inc.から入手することができる、LF2 CEP 524 24 10 75と名づけられた市販のカナリアポックスワクチン株である。
【0028】
鶏痘ウイルスの例は、FP−1株、FP−5株、およびTROVAC株(US5,766,598)である。FP−1は、1日齢のニワトリにワクチンとして使用するために改変されたデュベット(Duvette)株である。その株は、0 DCEP 25/CEP67/2309 October 1980と呼ばれる市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、Institute Merieux,Inc.から入手することができる。FP−5は、ニワトリ胚起源の市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、American Scientific Laboratories(Division of Schering Corp.)、Madison、Wisconsin、United States Veterinary License No.165、serial No.30321から入手することができる。
【0029】
ポックスウイルスのうち、ワクシニア種および痘瘡ウイルス種は最も知られた2つである。痘瘡ウイルスは、天然痘の原因である。痘瘡ウイルスと対照的に、ワクシニアウイルスは、免疫能力のある個体において通常は全身性疾患を引き起こさず、それゆえに、天然痘に対して免疫を与える生ワクチンとして用いられている。ワクシニアウイルスによる世界中のワクチン接種の成功は、1980年代、天然疾患としての天然痘をついに撲滅した(天然痘の世界的撲滅。国際天然痘撲滅認証委員会の最終報告書;History of Public Health、No.4、Geneva:World Health Organization、1980)。それ以来、ワクチン接種は、ポックスウイルス感染のリスクが高い人々(例えば、実験室研究者)を除き、何年にもわたって中断されている。しかしながら、例えば、天然痘を引き起こす痘瘡は、バイオテロ兵器として用いられる可能性がある。さらに、牛痘、ラクダ痘、およびサル痘などの他のポックスウイルスが選択機構を通して突然変異し、痘瘡と類似した表現型を獲得する可能性があるというリスクがある。それゆえに、いくつかの政府は、推定される、または実在の天然痘攻撃の曝露前(痘瘡ウイルスに遭遇する前)かまたは曝露後(痘瘡ウイルスに遭遇した後)のいずれかで用いるためのワクシニアに基づいたワクチンの備蓄を増加させつつある。
【0030】
本発明の特に好ましい実施形態において、ベクターはワクシニアウイルスベクターである。
【0031】
ワクシニアウイルスは、免疫刺激性が高く、それ自体の遺伝子産物、およびワクシニアゲノムに挿入された遺伝子から発現した多くの外来遺伝子産物の両方に対して強いB細胞媒介型(体液性)およびT細胞媒介型(細胞性)免疫を誘発する。したがって、ワクシニアウイルスは、組換えワクチンの形をとる、天然痘および他の感染性疾患ならびに癌に対するワクチンのための理想的なベクターと見られている。文献に記載された組換えワクシニアウイルスの多くは、完全に複製能力のあるワクシニアウイルスのウェスタンリザーブ(Western Reserve)株に基づいている。しかしながら、この株は、高い神経毒性を有することが知られており、したがって、ヒトおよび動物に用いるのにはあまり適していない(Moritaら、1987、Vaccine 5、65〜70)。
【0032】
適切なワクシニアウイルスは、コペンハーゲン(Copenhagen)株(Goebelら、1990、Virol.179、247〜266および517〜563;Johnsonら、1993、Virol.196、381〜401)、ワイエス(Wyeth)株、NYVAC(WO92/15672およびTartagliaら、1992、Virology 188、217〜232)、および高度に弱毒化された改変アンカラ(Ankara)(MVA)株(Mayrら、1975、Infection 3、6〜16)からなる群から選択することができる。
【0033】
適切なワクシニアウイルスの好ましい例は、高度に弱毒化されたワクシニアウイルス株、NYVACであり、それは、ウイルスゲノムから18個のORFの欠失によるコペンハーゲンワクチン株のプラーククローン化単離物由来であった(Tartagliaら、NYVAC:A highly attenuated strain of vaccinia virus、Virology 188、217〜232、1992)。NYVACは、様々なヒト組織培養細胞における複製能力の劇的低下によって特徴づけられるが、外因性抗原に対して強い免疫応答を誘導する能力を保持する。
【0034】
上記のウイルスの全ては、本発明に用いるのに等しく適している。
【0035】
本発明の最も好ましい実施形態において、ウイルスは、ワクチン接種において並外れて安全であることが知られている改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)である。
【0036】
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)ウイルスは、ポックスウイルス科のオルソポックスウイルス属のメンバーであるワクシニアウイルスに関連している。MVAは、皮膚ワクシニア株アンカラ(漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ、CVA)のニワトリ胚線維芽細胞における516回の連続継代によって作製された(概説として、Mayr,A.ら、Passage History:Abstammung,Eigenschaften und Verwendung des attenuierten Vaccinia−Stammes MVA,Infection 3、6〜14、1975参照)。これらの長期継代の結果として、生じたMVAウイルスは、そのゲノム配列の約31キロベースを欠失しており、それゆえに、宿主細胞が鳥の細胞に非常に限定されていると記載された(Meyer,H.ら、Mapping of deletions in the genome of the highly attenuated vaccinia virus MVA and their influence on virulence、J.Gen.Virol.72、1031〜1038、1991;Meisinger−Henschelら、Genomic sequence of chorioallantois vaccinia virus Ankara,the ancestor of modified vaccinia virus Ankara、J.Gen.Virol.88、3249〜3259、2007)。生じたMVAが有意に非病原性であることが様々な動物モデルにおいて示された(Mayr,A.およびDanner,K.Vaccination against pox diseases under immunosuppressive conditions、Dev.Biol.Stand.41:225〜34、1978)。さらに、このMVA株は、ヒト天然痘疾患に対して免疫を与えるためのワクチンとして臨床試験で試験されている(Mayrら、Zbl.Bakt.Hyg.I,Abt.Org.B 167、375〜390[1987]、Sticklら、MVA vaccination against smallpox:clinical tests with an attenuated live vaccinia virus strain (MVA)(著者の翻訳)、Dtsch.med.Wschr.99、2386〜2392、1974)。これらの研究は、高リスク患者を含む120,000人を超えるヒトが関与し、ワクシニアに基づいたワクチンと比較して、MVAが、良好な免疫原性を維持しながら、病原性または感染性を減少させていることを立証した。
【0037】
本発明は、任意の全てのMVAウイルスで作製された組換えMVAウイルスを含む。MVA株の例は、American Type Culture collection(ATCC)、Manassas、VA 20108、USAに寄託された寄託VR−1508である。別の実施形態において、MVA−Vero株またはその誘導体を本発明により用いることができる。株MVA−Veroは、寄託番号ECACC V99101431およびECACC 01021411としてEuropean Collection of Animal Cell Culturesに寄託されている。本発明により用いられるMVAウイルス株のさらなる例は、European Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)、Salisbury(UK)に寄託された株MVA572および575であり、それぞれ、寄託番号ECACC V94012707およびECACC V00120707である。特に好ましいMVAウイルスは、例えば、番号V00083008としてECACCに寄託されているようなMVA変異株MVA−BN(登録商標)、およびMVA−BN(登録商標)と同じ性質を有する誘導体である。
【0038】
MVA−BN(登録商標)は、独立型の第3世代天然痘ワクチンの製造に用いられるウイルスである。MVA−BN(登録商標)は、MVA株571/572からさらなる継代によって開発された。今まで、アトピー性皮膚炎(AD)およびHIV感染を有する対象を含む1500人を超える対象が、臨床試験においてMVA−BN(登録商標)に基づいたワクチンでワクチン接種されている。
【0039】
MVA−BN(登録商標)の寄託株と同じ性質を有する誘導体は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてインビトロで繁殖的複製能力を有するが、MVA575またはMVA572が繁殖的に複製することができるヒト細胞において繁殖的複製能力をもたない。最も好ましくは、MVAは、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胚腎細胞株293、ヒト骨肉腫細胞株143B、およびヒト子宮頚部腺癌細胞株HeLaにおいて繁殖的複製能力をもたない。
【0040】
用語「繁殖的複製能力をもたない」とは、それぞれ、WO02/42480および米国特許第6,761,893号に定義されているように本出願で用いられる。したがって、前記用語は、米国特許第6,761,893号に記載されたアッセイを用いて感染後4日目において1未満のウイルス増幅率を有するウイルスに適用され、そのアッセイは参照により本明細書に組み入れられている。ウイルスの「増幅率」は、最初の段階で細胞を感染させるために元々用いられた量(供給量)に対する、感染した細胞から産生されたウイルス(産生量)の比率である。産生量と供給量との間の「1」という比率は、感染細胞から産生されたウイルスの量が、細胞を感染させるために最初に用いられた量と同じである、増幅状態と定義する。
【0041】
最も好ましい実施形態において、本発明に用いられるMVA株は、上記のようなMVA−BN(登録商標)または誘導体である。MVA−BN(登録商標)の特徴、MVA株がMVA−BN(登録商標)またはその誘導体であるかどうかの評価を可能にする生物学的アッセイの記載、およびMVA−BN(登録商標)またはMVA−BN(登録商標)の性質を有するMVAを得ることを可能にする方法は、WO02/42480に開示されている。この出願の内容は参照により本出願に含まれる。高度に弱毒化されたMVA−BN(登録商標)ウイルスは、例えば、MVA−572またはMVA−575などの改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)のさらなる継代によって、および任意選択で、プラークまたはクローン精製によって得ることができる。MVA−BN(登録商標)は、祖先のCVAウイルスと比較してゲノムの約13%(6個の主要欠失部位および複数の非主要欠失部位の26.5kb)を欠く。欠失は、いくつかの病原性遺伝子および宿主範囲遺伝子、加えて、A型封入体タンパク質(ATI)をコードする遺伝子の大きな断片、および成熟ウイルス粒子をA型封入体中へ導く構造タンパク質をコードする遺伝子に影響する。
【0042】
特に、MVA−BN(登録商標)の性質ならびにMVA−BN(登録商標)の誘導体の性質および定義などの、WO02/42480に記載の発明によるMVAの性質の定義を参照する。前記参考文献はまた、どのようにMVAおよび他のワクシニアウイルスを増殖させることができるかを開示している。簡単に述べれば、真核細胞をウイルスに感染させる。その真核細胞は、それぞれのポックスウイルスの感染を受けやすく、感染性ウイルスの複製および産生を可能にする細胞である。MVAについて、この型の細胞の例は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)およびBHK細胞(Drexlerら、Highly attenuated modified vaccinia Ankara replicates in baby hamster kidney cells,a potential host for virus propagation,but not in various human transformed and primary cells、J.Gen.Virol.79、347〜352、1998)である。CEF細胞は、当業者に知られている条件下で培養することができる。好ましくは、CEF細胞を、固定フラスコまたはローラーボトルの無血清培地中で培養する。インキュベーションは、好ましくは、37℃で48〜96時間、行われる。感染について、MVAは、好ましくは、0.05〜1のTCID50の感染多重度(MOI)で用いられ、インキュベーションは、好ましくは、37℃で48〜72時間、行われる。
【0043】
本発明により用いられるウイルスは、様々な細胞培養、特に動物細胞培養で増殖することができる。ウイルスは、感受性細胞培養物に感染し、繁殖的に複製することができる。子孫ウイルスは当技術分野における常法に従う技術によって収集される。
【0044】
例えば、MVAウイルスおよび他のワクシニアウイルスに関して、血清含有または無血清培地中のニワトリ胚線維芽細胞(CEF)はウイルスに感染することができる。ウイルスを繁殖的に複製させた後、子孫ウイルスを収集する。
【0045】
本発明はまた、2つ以上の相同ヌクレオチド配列、特にコード配列を発現する能力がある、組換えポックスウイルス、好ましくはワクシニアウイルス、特にMVAに関する。ウイルスは、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の相同ヌクレオチドコード配列を含むことができる。
【0046】
本発明のベクターは、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含む。好ましい実施形態において、ベクターは、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上のヌクレオチド配列を含み、主張されている2つのヌクレオチド配列も当然ながら含む。当然ながら、300ヌクレオチドもまた、より長いヌクレオチド配列の一部であってもよい。
【0047】
さらに、様々な実施形態において、2つ以上のヌクレオチド配列は、サイズが300ヌクレオチド、350ヌクレオチド、400ヌクレオチド、450ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド、800ヌクレオチド、900ヌクレオチド、1000ヌクレオチド、1500ヌクレオチド、2000ヌクレオチド、2500ヌクレオチド、もしくは3000ヌクレオチド、またはさらにそれ以上のヌクレオチドであり、それらは全て、より長いヌクレオチド配列の一部であってもよく、全て、主張されている300ヌクレオチドを当然ながら含む。
【0048】
本明細書に用いられる場合、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」は、交換可能に用いられ、ポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)分子もしくはポリリボヌクレオチド(RNA)分子のいずれかのポリマー、またはそれらの任意の組合せと定義する。この定義は、一本鎖または二本鎖、直鎖状または環状の、天然または合成のポリヌクレオチドを含む。
【0049】
本発明のヌクレオチド配列は、コード配列であってもよく、それぞれ、完全な遺伝子を含むことができる。本明細書で用いられる場合、用語「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を指す。遺伝子の非コード配列は、イントロン、ならびにプロモーター、オペレーター、およびターミネーターなどの調節領域を含む。
【0050】
ヌクレオチド配列はまた、遺伝子断片も含むことができる。ヌクレオチド配列は、アミノ酸リンカー配列またはエピトープをコードするヌクレオチド配列などの合成配列を含むことができる。ヌクレオチド配列は、遺伝子、遺伝子断片、および合成配列の混合物で構成することができる。ヌクレオチド配列はまた、ヌクレオチド類似体、リン酸エステル類似体、および/または五炭糖類似体などの擬似体を含んでもよい。ヌクレオチド類似体の定義には、リン酸エステル結合および/または糖リン酸エステル結合が、N−(2−アミノエチル)−グリシンアミドおよび他のアミド(例えば、Nielsenら、1991、Science 254:1497〜1500;WO 92/20702;米国特許第5,719,262号;米国特許第5,698,685号参照);モルホリノ(例えば、米国特許第5,698,685号;米国特許第5,378,841号;米国特許第5,185,144号参照);カルバメート(例えば、StirchakおよびSummerton、1987、J.Org.Chem.52:4202参照);メチレン(メチルイミノ)(例えば、Vasseurら、1992、J.Am.Chem.Soc.114:4006参照);3’チオホルムアセタール(例えば、Jonesら、1993、J.Org.Chem.58:2983参照);スルファメート(例えば、米国特許第5,470,967号参照);一般的にはPNAと呼ばれる2−アミノエチルグリシン(例えば、Buchardt、WO 92/20702;Nielsen(1991)Science 254:1497〜1500参照);およびその他(例えば、米国特許第5,817,781号;FrierおよびAltman、1997、Nucl.Acids Res.25:4429およびそこに引用される参考文献)などの他の型の結合で置換されているヌクレオチドもまた含まれる。リン酸エステル類似体には、(i)C1〜C4アルキルホスホネート、例えば、メチルホスホネート;(ii)ホスホルアミデート;(iii)C1〜C6アルキル−ホスホトリエステル;(iv)ホスホロチオエート;および(v)ホスホロジチオエートが挙げられるが、それらに限定されない。
【0051】
さらなる改変には、核酸のインビボ安定性を増加させ、その送達を促進し、または宿主対象からのクリアランス速度を低下させるための化学的改変(例えば、WO92/03568;US5,118,672参照)が挙げられる。
【0052】
さらに、一実施形態において、ヌクレオチド配列は、融合遺伝子、人工遺伝子、およびポリエピトープを含むことができる。
【0053】
本明細書に示される場合、融合遺伝子は、前には別々であった2つの遺伝子、遺伝子断片、または人工DNAもしくはエピトープから形成されるハイブリッド遺伝子である。それは、転座、中間部欠失、または逆位の結果として起こり得る。
【0054】
融合遺伝子は、少なくとも2つのDNA断片を連結することによって構築することができ、そのDNA断片は、同一または異なるアミノ酸配列をコードする。
【0055】
融合タンパク質は、タンパク質の発現および/または精製を容易にすることができる。例えば、本発明のポリペプチドは、グルタチオン−S−転移酵素(GST)融合タンパク質として作製してもよい。そのようなGST融合タンパク質を用いて、グルタチオン誘導体化マトリックスの使用などによって本発明のポリペプチドの精製を簡単にすることができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編(N.Y.:John Wiley&Sons、1991)参照)。別の実施形態において、組換えタンパク質の所望の部分のN末端におけるポリ(His)/エンテロキナーゼ切断部位配列などの精製リーダー配列をコードする融合遺伝子によって、Ni2+金属樹脂を用いるアフィニティークロマトグラフィーによる発現した融合タンパク質の精製を可能にすることができる。その後、続いて、精製リーダー配列をエンテロキナーゼでの処理によって除去し、精製タンパク質を提供することができる(例えば、Hochuliら、(1987)J.Chromatography 411:177;およびJanknechtら、PNAS USA 88:8972参照)。融合しているポリペプチドの検出、単離、可溶化、および/または安定化を可能にするポリペプチドをコードするさらなる異種性配列として、ポリHisタグ、myc、HA、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン結合ペプチド、チオレドキシン、マルトース結合タンパク質、ポリアルギニン、ポリHis−Asp、FLAG、免疫グロブリンタンパク質の一部、およびトランスサイトーシスペプチドが挙げられる。
【0056】
融合遺伝子を作製するための技術はよく知られている。本質的に、異なるポリペプチド配列をコードする様々なDNA断片の結合は、ライゲーションのための平滑末端または突出末端、適切な末端を提供する制限酵素消化、必要に応じての付着末端の充填、望ましくない結合を避けるためのアルカリフォスファターゼ処理、および酵素的ライゲーションを利用する通常の技術に従って行われる。別の実施形態において、融合遺伝子は、自動DNA合成機を含む通常の技術によって合成することができる。あるいは、後で2つの遺伝子断片がアニーリングされて、キメラ遺伝子配列を生じることができる2つの連続した遺伝子断片の間に相補的オーバーハングを生じるアンカープライマーを用いて(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley&Sons: 1992参照)、および2つ以上のポリヌクレオチドが、PCR反応において結果として、融合したポリヌクレオチド配列を生じることができる同一の区間を共有している融合PCRによって、遺伝子断片のPCR増幅を行ってもよい。
【0057】
別の好ましい実施形態において、本発明のヌクレオチド配列は、ポリエピトープをコードする。ポリエピトープは、少なくとも1つのタンパク質/抗原から、好ましくは2つ以上のタンパク質/抗原から単離されたエピトープを含むキメラタンパク質である。
【0058】
前記エピトープは、「単離されたもの」、または「生物学的に純粋」であり得る。用語「単離された」は、その天然の環境において見出されるような通常それに付随する成分を実質的に含まない材料を指す。「単離された」エピトープは、エピトープが由来した抗原またはタンパク質の全体配列の隣接するアミノ酸を含まないエピトープを指す。
【0059】
特定のアミノ酸配列に関して、「エピトープ」は、特定の免疫グロブリンによる認識に関与する1セットのアミノ酸残基であり、またはT細胞との関連において、T細胞受容体タンパク質および/または主要組織適合抗原(MHC)分子による認識に必要なアミノ酸残基である。用語「ペプチド」は、典型的には隣接したアミノ酸のアミノ基とカルボキシル基の間のペプチド結合によって、互いに接続した一連のアミノ酸を意味する。
【0060】
エピトープは、特定の長さをもち、免疫系において機能する分子、好ましくは、HLAクラスIおよびT細胞受容体に結合する。ポリエピトープ構築物におけるエピトープは、HLAクラスIエピトープおよび任意選択で、HLAクラスIIエピトープであり得る。HLAクラスIエピトープは、CTLエピトープと呼ばれ、HLAクラスIIエピトープは、HTLエピトープと呼ばれる。いくつかのポリエピトープ構築物は、HLAクラスIエピトープのサブセット、およびHLAクラスIIエピトープの別のサブセットを有し得る。CTLエピトープは、通常、長さが13個以下のアミノ酸残基、長さが12個以下のアミノ酸残基、または長さが11個以下のアミノ酸残基、好ましくは長さが8〜13個のアミノ酸、最も好ましくは、長さが8〜11個(すなわち、8個、9個、10個、または11個)のアミノ酸からなる。HTLエピトープは、長さが50個以下のアミノ酸残基、一般には6〜30個の残基、より一般には12〜25個からなり、好ましくは長さが15〜20個(すなわち、15個、16個、17個、18個、19個、または20個)のアミノ酸からなる。本発明のポリエピトープ構築物は、好ましくは2個以上、5個以上、10個以上、13個以上、15個以上、20個以上、または25個以上のCTLエピトープを含む。より具体的には、ポリエピトープ構築物は、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、またはそれ以上のCTLエピトープを含む。
【0061】
本発明による相同ヌクレオチド配列は、任意のウイルス、任意の細菌、任意の真菌、または寄生虫などの任意の生物体、微生物由来であり得る。相同ヌクレオチド配列は、ベクターの配列に対して非相同であり得るだけでなく、それらと相同でもあり得る。例えば、ウイルスがベクターとして用いられる場合、ウイルス自体のヌクレオチド配列も、例えば、免疫反応性または安全性を増強させるためにウイルスのタンパク質を過剰発現するために、本発明に従って多重化することができる。好ましくは、相同ヌクレオチド配列は、感染性または病原性微生物由来、最も好ましくは前記微生物の異なる株またはクレード、変異体、サブタイプまたは血清型由来である。用語「株」または「クレード」は、当業者にとってよく知られた技術用語であり、微生物の分類を指す。分類学的体系は、これまで特徴づけられた微生物の全てを、科、属、種、株の階層的部類へ分類する(Fields Virology、Fields B.N.編、Lippincott−Raven Publishers、第4版 2001)。科のメンバーについての基準はそれらの系統発生的関係であるが、属は、共通の特徴を共有する全メンバーを含み、種は、複製系統を構成し、特定の生態学的地位を占有する多形質的クラスとして定義される。用語「株」または「クレード」は、基本的形態またはゲノム構造および組織のような共通の特徴を共有するが、宿主範囲、組織親和性、地理的分布、弱毒化、または病原性のような生物学的性質の点で異なる微生物、すなわち、ウイルスを記述する。用語「変異体」または「血清型」は、同じ株のメンバー間をさらに区別し、サブタイプとも呼ばれ、小さなゲノム変異による個々の感染スペクトルまたは抗原性を示す。
【0062】
本発明のさらなる実施形態によれば、相同ヌクレオチド配列は、好ましくは、ウイルスから選択される。ウイルスの代表的例として、限定するものではないが、HIV(HIV−1またはHIV−2)、ヘルペスウイルス(例えば、HSV1またはHSV2)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、およびE型肝炎ウイルス)、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、パラミクソウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザ、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、およびパピローマウイルスが挙げられる。
【0063】
別の実施形態によれば、相同ヌクレオチド配列は、デングウイルス遺伝子から選択される。最も好ましいのは、そのウイルスの異なる血清型由来の相同遺伝子であり、前記遺伝子は、4つのデングウイルス血清型の1つ、2つ、3つ、または全部に由来し得る。
【0064】
好ましい実施形態において、2つの相同ヌクレオチド配列は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)遺伝子をコードする。好ましい実施形態において、相同ヌクレオチド配列は、RSV−Fおよび/またはRSV−Gタンパク質をコードする。好ましくは、RSV遺伝子の一方は完全長であり、他方は切断されている。
【0065】
別の好ましい実施形態において、2つ、好ましくは3つの相同ヌクレオチド配列は、エボラウイルス(EBOV)タンパク質をコードする。エボラウイルス(EBOV)タンパク質をコードする3つの相同ヌクレオチド配列には、当然ながら、2つの相同ヌクレオチド配列も含まれる。好ましい実施形態において、相同ヌクレオチド配列は、EBOV糖タンパク質(GP)をコードする。特に好ましい実施形態において、ヌクレオチド配列は、EBOV株のEBOV−B(Bundibugyo)、EBOV−S(スーダンエボラウイルス株Gulu)、およびEBOV−Z(ザイールエボラウイルス株Mayinga)由来の糖タンパク質前駆体タンパク質をコードする。
【0066】
別の実施形態において、相同ヌクレオチド配列は、細菌から選択される。適切な細菌の代表的例として、限定するものではないが、ナイセリア属(Neisseria)(例えば、N.ゴノレー(gonorrhea)およびN.メニンギティディス(meningitidis));ボルデテラ属(Bordetella)(例えば、B.パータシス(pertussis)、B.パラパータシス(parapertussis)およびB.ブロンキセプチカ(bronchiseptica))、マイコバクテリウム属(Mycobacteria)(例えば、M.ツベルクローシス(tuberculosis)、M.ボビス(bovis)、M.レプレ(leprae)、M.アビウム(avium)、M.パラツベルクローシス(paratuberculosis)、M.スメグマチス(smegmatis));レジオネラ属(Legionella)(例えば、L.ニューモフィラ(pneumophila));エシェリキア属(Escherichia)(例えば、腸毒素性E.コリ(coli)、腸管出血性E.コリ(coli)、腸病原性E.コリ(coli));シゲラ属(Shigella)(例えば、S.ソネイ(sonnei)、S.ディゼンテリエ(dysenteriae)、S.フレックスネリ(flexnerii));サルモネラ属(Salmonella)(例えば、S.チフィ(typhi)、S.パラチフィ(paratyphi)、S.コレレスイス(choleraesuis)、S.エンテリティディス(enteritidis));リステリア属(Listeria)(例えば、L.モノサイトゲネス(monocytogenes));ヘリコバクター属(Helicobacter)(例えば、H.ピロリ(pylori));シュードモナス属(Pseudomonas)(例えば、P.エルギノーサ(aeruginosa));スタフィロコッカス属(Staphylococcus)(例えば、S.アウレウス(aureus)、S.エピデルミディス(epidermidis));エンテロコッカス属(Enterococcus)(例えば、E.フェカリス(faecalis)、E.フェシウム(faecium));バチルス属(Bacillus)(例えば、B.アントラシス(anthracis));コリネバクテリウム属(Corynebacterium)(例えば、C.ジフテリエ(diphtheriae))、およびクラミジア属(Chlamydia)(例えば、C.トラコマティス(trachomatis)、C.ニューモニエ(pneumoniae)、C.シタッシ(psittaci))が挙げられる。寄生虫の代表的例として、限定するものではないが、プラスモジウム属(Plasmodium)(例えば、P.ファルシパルム(falciparum));トキソプラズマ(Toxoplasma)(例えば、T.ゴンディ(gondii));リーシュマニア属(Leshmania)(例えば、L.メジャー(major));ニューモシスチス属(Pneumocystis)(例えば、P.カリニ(carinii));およびシストソーマ属(Schisostoma)(例えば、S.マンソニ(mansoni))が挙げられる。真菌の代表的例として、限定するものではないが、カンジダ属(Candida)(例えば、C.アルビカンス(albicans))およびアスペルギルス属(Aspergillus)が挙げられる。
【0067】
少なくとも2つのヌクレオチド配列は、同じサイズまたは異なるサイズであり得る。好ましい実施形態において、2つのヌクレオチド配列の一方は、他方に比べて切断されている。切断は5’末端または3’末端であり得る。
【0068】
様々な実施形態において、2つのヌクレオチド配列の300ヌクレオチドは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%のアミノ酸同一性を有する100アミノ酸をコードする。好ましい実施形態において、前記アミノ酸同一性は、100個、125個、150個、175個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、600個、700個、800個、900個、もしくは1000個、またはそれ以上の連続したアミノ酸の区間の範囲内である。
【0069】
特に好ましい実施形態において、アミノ酸は、少なくとも150個または200個の連続したアミノ酸の区間の範囲内で少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%のアミノ酸同一性を有する。
【0070】
他の好ましい実施形態において、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、300個または500個の連続したアミノ酸の区間の範囲内で少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%のアミノ酸同一性を有する。他の好ましい実施形態において、少なくとも2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、ペアワイズ比較において100個、200個、400個、600個、または800個の連続したアミノ酸の区間の範囲内で85%〜100%、特に100%のアミノ酸同一性を有する。
【0071】
本明細書に用いられる場合、「アミノ酸同一性」などの「パーセント配列同一性」を指す任意の用語は、任意の所与の問い合わせ配列と対象配列の間の同一性の程度を指す。
【0072】
特に、以下の用語は、2つ以上の核酸、ポリヌクレオチド、またはアミノ酸配列の間の配列関係を記載するために用いられる:「参照配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」、および「実質的な同一性」。「参照配列」は、配列比較の基準として用いられる定義済みの配列である;参照配列はより大きい配列のサブセットであってもよい。
【0073】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の関連において、用語「同一の」またはパーセント「同一性」は、配列比較アルゴリズムを用いて、または手作業のアラインメントおよび視覚的検査によって測定する場合、比較ウィンドウまたは指定領域に対して比較し、最大限一致するように整列させたとき、同じである、または同じアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの特定のパーセンテージ(例えば、ペアワイズ比較における75%の同一性、80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性、99%の同一性、または100%の同一性)を有する、2つ以上の配列または部分配列を指す。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置数を決定して、マッチした位置数を出し、そのマッチした位置数を比較のウィンドウにおける位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを出すことによって計算される。
【0074】
2つの核酸またはポリペプチドの関連において、句「実質的に同一の」は、配列比較アルゴリズムを用いて、または視覚的検査によって測定する場合、比較し、最大限一致するようにペアワイズで整列させたとき、少なくとも約85%の同一性、少なくとも約86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のヌクレオチドまたはアミノ酸残基同一性を有する2つ以上の配列または部分配列を指す。例示的な実施形態において、実質的な同一性は、長さが少なくとも約50個の残基である配列の領域に対して存在する。別の例示的な実施形態において、実質的な同一性は、長さが少なくとも約100個の残基である配列の領域にわたって存在する。さらに別の例示的な実施形態において、実質的な同一性は、長さが少なくとも約150個の残基またはそれ以上である配列の領域にわたって存在する。1つの例示的な実施形態において、配列は、核酸またはタンパク質配列の全長にわたって実質的に同一である。
【0075】
配列比較について、典型的には、1つの配列が参照配列として働き、その参照配列対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列および参照配列は、コンピュータに入力され、必要ならば、部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトプログラムパラメータを用いることができ、または代替のパラメータを指定することができる。その後、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメータに基づいて参照配列に対する試験配列についてのパーセント配列同一性を計算する。
【0076】
本明細書で用いられる場合、「比較ウィンドウ」は、2つの配列を最適に整列させた後、配列が、連続した位置の同じ数の参照配列と比較され得る、20〜600、一般には20〜50、約50〜約100、約100〜約200、より一般には約100〜約150、または約20、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、もしくは3000、またはさらにそれ以上からなる群から選択される連続した位置の数の任意の1つのセグメントへの参照を含む。
【0077】
パーセント同一性は、Sellers(SIAM J.of Applied Math 26;787〜793(1974))と等価であることが示されているNeedlemanおよびWunschのアラインメント方法(J.Mol.Biol.48;443〜453(1970))を用いて決定することができる。パーセント同一性は、例えば、Devereuxら(Nucl.Acids Res.12:387、1984)によって記載され、このアラインメント方法を活用するUniversity of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から利用できるGAPコンピュータプログラム、バージョン6.0を用いて配列情報を比較することによって決定することができる。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータには、(1)SchwartzおよびDayhoff編、Atlas of Protein Sequence and Structure、National Biomedical Research Foundation、353〜358ページ、1979に記載されているように、ヌクレオチドについての単項比較行列(同一について1の値、非同一について0の値を含む)、ならびにGribskovおよびBurgess、Nucl Acids Res.14:6745、1986の重みつき比較行列、(2)各ギャップについて3.0のペナルティ、および各ギャップにおける各シンボルについて追加の0.10のペナルティ、ならびに(3)末端ギャップについてのペナルティなしを含む。他の適切なツールは、VectorNTI Advanceプログラム(INVITROGEN)からのContigExpress、例えば、2007年のバージョン10.3.1を用いることである。
【0078】
本発明によれば、分子内組換えを防ぐために、遺伝暗号の縮重を用いて相同または同一のヌクレオチド配列をより低い相同性にする。前記の相違は、本来ヌクレオチド配列にすでに含まれていてもよく、および/または置換によって人工的に含まれる。様々な実施形態において、天然から、さらに人工的置換から得られる異なるヌクレオチドの数は、少なくとも75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、または500である。好ましくは、異なる塩基の数は、少なくとも75、200、または450である。相違の数は、当然ながら、ヌクレオチド配列のヌクレオチドの数と共に、それぞれ、変動し、増加する。
【0079】
好ましい実施形態において、少なくとも75個、80個、85個、90個、95個、100個、125個、150個、175個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、または500個のヌクレオチドが置換される。前記置換は、例えば、サイレント突然変異によって含まれていた、すでに存在する異なるヌクレオチドの数とは無関係に人工的に導入される。
【0080】
様々な実施形態において、置換後わずか13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、または4個の連続したヌクレオチドの同一の区間を有する2つのヌクレオチド配列が好ましい。2つより多いヌクレオチド配列の場合、置換後わずか20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、または4個の連続したヌクレオチドの同一の区間が好ましい。
【0081】
別の実施形態において、ヌクレオチド配列は、300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個、100個、1100個、1200個、1300個、1400個、1500個、もしくは1600個、またはそれ以上のヌクレオチドの中から置換された少なくとも75個、100個、150個、200個、250個、300個、350個、400個、または450個のヌクレオチドを有し得る。
【0082】
本発明の関連において、異なるヌクレオチドでのヌクレオチドの置換とは、他のヌクレオチドによるヌクレオチドの技術的または人工的置き換えを意味する。好ましくは、置換されたヌクレオチドは、コードされたアミノ酸配列を変化させない。置換は、同じアミノ酸をコードする2つの相同ヌクレオチド配列においてコドンを同定し、2つの相同ヌクレオチド配列のうちの1つにおけるコドンを、コドンがその後もなお同じアミノ酸をコードするように変化させることによって行うことができる。相同ヌクレオチド配列の1つ、両方、または全部において変化を生じさせることができる。
【0083】
例えば、アミノ酸プロリンは、コドンCCA、CCC、CCG、およびCCU(DNAレベルにおいて、UはTに置き換えられる)によってコードされる。2つの相同ヌクレオチド配列において最初は2つのプロリンをコードする単純なヌクレオチド配列、CCCCCCを、2つの相同ヌクレオチド配列のうちの1つにおいて、やはり2つのプロリンをコードするCCACCGに変化させることができる。あるいは、プロリン−プロリンをコードする配列の一方をCCCCCGへ変化させ、他方をCCACCCへ変化させることができる。
【0084】
より複雑な例は、UCA、UCC、UCG、UCU、AGC、およびAGUによってコードされるアミノ酸セリンである。同様に、最初は2つの異なるセリンをコードするUCAUCAが複数の相同配列において、(UCAUCAと共通のヌクレオチドを共有しない)AGCAGCおよび(UCAUCAと1つの位置のみを、またはAGCAGCと2つの位置を共有する)UCGAGUなどへ変化させることができる。このことは、セリン−セリンをコードする2つ以上のヌクレオチド配列へ異なるヌクレオチド変異体を導入するのに、より高い融通性を可能にする。
【0085】
好ましくは、稀なコドンがコードされたタンパク質の発現を遮断または低減する可能性があるため、本発明に記載されているコドン最適化は、所望の宿主にとって稀なコドンの使用を避ける。同様に、所望の宿主の核酸シグナルを導入する可能性のある置換は、避けることが好ましい。そのようなシグナルとして、スプライスシグナル、終結シグナル、および開始シグナルが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、以下の配列モチーフは、用いられるベクターの型に応じて避ける場合があり、例えば、ワクシニアウイルス初期転写終結シグナルは、ポックスウイルスベクターではない多くの他のベクターにおいて避ける必要はない:
− 内部TATAボックス、カイ(chi)部位、およびリボソーム進入部位、
− ATリッチ配列およびGCリッチ配列区間、
− ARE、INS、およびCRS配列エレメント、
− 反復配列およびRNA二次構造、
− (潜在性)スプライス供与部位と受容部位、および分岐点、ならびに、
− ワクシニア初期転写終結シグナル:(TTTTTNT)。
【0086】
本発明は、図面を参照してより完全に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】完全長RSV−F(F)タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、置換された切断型RSV−F_trunc(F_trunc)タンパク質をコードするヌクレオチド配列とのアラインメントを示す図である。同一の配列は黒色で強調し、置換されたヌクレオチドは強調していない。プライマーA1およびB2の位置が示されている。
【図2】完全長RSV−F(F)タンパク質の切断型RSV−F_trunc(F_trunc)タンパク質とのアラインメントを示す図である。RSV−Fの完全長配列は、50アミノ酸が切断され、結果として、切断型RSV−F_truncタンパク質を生じる。RSV−F_truncタンパク質には、完全長タンパク質の約91%が含まれる。
【図3】ヒト細胞株における組換えMVA−BN(登録商標)ウイルスのRSV−FおよびRSV−F_truncの発現を示す図である。MOIが10の異なるMVA−BN(登録商標)に基づいたウイルスによる感染および感染後24時間での溶解時の、感染したヒト細胞からの抽出物を用いたウェスタンブロット。MVA−BN(登録商標)(空ベクター対照、レーン1)、MVA−mBN172B(完全長RSV−Fを有する組換えMVA−BN(登録商標)、レーン2)、MVA−mBN173B(切断型RSV−F_truncを有する組換えMVA−BN(登録商標)、レーン3)、およびレーン4:MVA−mBN175B(RSV−FおよびRSV−F_truncを有する組換えMVA−BN(登録商標))。タンパク質の計算された分子量は、RSV−F(61.6kDa)およびRSV−F_trunc(56.1kDa)である。
【図4】MVA−mBN175BのPCR分析を示す図である。RSV−F(F)およびRSV−F_trunc(F_trunc)が示されている。A:様々なプライマー対でのPCR結果。M=マーカー(1kb−ラダー、New England Biolabs)。レーン1はMVA−mBN175Bである。レーン2は、陽性対照プラスミド(pBN345)である。レーン3は、MVA−mBN(登録商標)である。レーン4は水対照である。レーン5は陽性対照プラスミド(pBN343)である。B:図4Aに示されたPCRに用いられたプライマーの位置を示すMVA−mBN175Bの概略図。C:プライマーの位置を示す野生型MVA−mBN(登録商標)の概略図。
【図5】二重組換えMVAにおける完全長RSV−F遺伝子(F)と切断型F遺伝子(Ftrunc)の間の推定組換えF/Ftrunc、ならびに組換えウイルスおよび非組換えウイルスおよび対照プラスミドにおけるPCRプライマーの位置を示す図である。A:MVA−mBN175B。B:pMISC173。C:pMISC172。
【図6】MVA−mBN175Bに感染した細胞から単離されたDNAのPCR分析を示す図である。レーン1および7はマーカーレーンである。レーン2はMVA−mBN175Bである。レーン3はF遺伝子についてのプラスミド対照(pBN343)である。レーン4は切断型F遺伝子についてのプラスミド対照(pBN345)である。レーン5はMVA−BN(登録商標)である。レーン6は水対照である。MVA−mBN175BにおけるRSV−F遺伝子と切断型F遺伝子RSV−F_truncの間の推定組換えから予想されるPCR産物は613塩基対である。
【図7】3つのEBOV(エボラウイルス)GP(糖タンパク質)タンパク質配列のアラインメントを示す図である。エボラウイルス株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−Zの3つのGPタンパク質のアミノ酸配列を整列させている。アラインメントにおいてギャップを許容しなかった。全ての3つのタンパク質配列における全体の同一性は48.5%である。灰色の背景:全ての3つのタンパク質配列において同一。黒色の背景:2つのタンパク質において同一。
【図8】組換えMVA−BN(登録商標)に基づいた構築物に用いられた3つのEBOV GPコード配列のアラインメントを示す図である。最適化前(non−opt、図8A参照)と最適化後(opt、図8B参照)の3つのEBOV株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−Zに由来するGP遺伝子のコード配列を整列させた。アラインメントにおいてギャップを許容しなかった。灰色の背景:3つのコード配列において同一のヌクレオチド位置。黒色の背景:2つのコード配列において同一のヌクレオチド位置。最適化前(non−opt)の3つの遺伝子のヌクレオチド位置における同一性は45.3%であるが、最適化後(opt)は44.6%である。
【図9】組換えMVA−BN(登録商標)に基づいた構築物に用いられた3つのEBOV GPコード配列のペアワイズアラインメントを示す図である。最適化前(non−opt、図9A参照)と最適化後(opt、図9B参照)の3つのEBOV株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−Zに由来するGP遺伝子のコード配列をペアワイズで整列させた。アラインメントにおいてギャップを許容しなかった。灰色の背景:コード配列において同一のヌクレオチド位置。最適化前(non−opt)および最適化後(opt)の3つの遺伝子のヌクレオチド位置における同一性は、表Cに一覧にされている。
【図10】完全長(RSV−F)タンパク質および切断型(RSV−F_trunc)タンパク質を含むプラスミドpMISC210の制限酵素消化およびプラスミドマップを示す図である。レーン1:RSV−FおよびRSV−F_truncを含むプラスミドpMISC210、レーン2:RSV−F_truncのみを含む対照プラスミドpMISC209、レーン3:分子量マーカー。マーカーバンドのサイズが塩基対(bp)で示されている。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0088】
置換された切断型F遺伝子の調製
完全長RSV−Fタンパク質および切断型RSV−F_truncの両方を発現する組換えMVAの作製が望まれた。しかしながら、反復配列を含むMVAおよび他のワクシニアウイルスでの結果に基づいて、分子内組換えが、F遺伝子の2コピー間での組換えをもたらし、結果として、F遺伝子のコピーのうちの1つの欠失を生じるであろうことが予想された。
【0089】
2つのF遺伝子の間で同一のヌクレオチドの長い区間の存在を最小限にするために、RSV−F_trunc遺伝子をコードするヌクレオチド配列におけるコドンを、F遺伝子のアミノ酸配列を維持しながら、置換した。哺乳動物およびニワトリにとって稀なコドンの使用を避けた。核酸シグナルを導入する可能性がある置換も避けた。そのようなシグナルには、内部TATAボックス、カイ部位、およびリボソーム進入部位;ATリッチ配列およびGCリッチ配列区間;ARE、INS、およびCRS配列エレメント;反復配列およびRNA二次構造;(潜在性)スプライス供与部位および受容部位、および分岐点;ならびにワクシニア終結シグナル:(TTTTTNT)が挙げられた。置換されたヌクレオチド配列は、完全長RSV−Fタンパク質のコード配列と比較して、図1に示されている。2つのコード配列の全体でかなりの同一性が残っているが、2つのコード配列内で9個の連続したヌクレオチドより長い同一の大きな区間は残っていない。2つのコード配列によってコードされるタンパク質は図2に整列させている。2つのタンパク質は、最初の524アミノ酸で100%の同一性を有する(置換されたFタンパク質はカルボキシ末端で切断されている)。したがって、これらの2つのコードヌクレオチド配列は、同一のアミノ酸の区間をコードするが、その配列の一方は、他方に対して置換されている。
【実施例2】
【0090】
RSV−F遺伝子を含む組換えウイルスの調製
完全長RSV−F遺伝子をコードするDNAを、MVAの2つの異なる組み込み部位に挿入し、MVA−mBN170BおよびMVA−mBN172Bを作製した(IGR88/89部位において)。置換されたRSV−F_trunc遺伝子をMVAのIGR148/149部位に挿入し、MVA−mBN173Bを作製した。
【0091】
その後、MVAのIGR88/89部位へ挿入された完全長RSV−F遺伝子、および同じMVAのIGR148/149部位へ挿入された置換されたRSV−F_trunc遺伝子を含む二重組換えMVAを作製した。二重組換えウイルスをMVA−mBN175Bと命名した。このウイルスの概略図は図4Bに示されている。
【実施例3】
【0092】
組換えウイルスからのFタンパク質の発現
タンパク質が、置換されたヌクレオチド配列から発現するかどうかを決定するために、完全長RSV−F遺伝子をコードする組換えMVA−BN(登録商標)に基づいたウイルス(MVA−mBN172B)、置換されたRSV−F_trunc遺伝子をコードするウイルス(MVA−mBN173B)、および完全長とRSV−F_trunc遺伝子の両方をコードする二重組換えウイルス(MVA−mBN175B)に感染したヒト細胞株からのタンパク質抽出物についてウェスタンブロット分析を行った。全ての3つのウイルスは、ウェスタンブロット分析により適切なサイズをもったRSV−Fタンパク質の産生を示したが(図3)、MVA−BN(登録商標)対照(空ベクター)は、予想通り、いかなるバンドも示さなかった。したがって、完全長タンパク質、および置換されたコードヌクレオチド配列から発現した切断型Fタンパク質が、ヒト細胞株において、単一組換えMVA−BN(登録商標)から個々に発現したが、両方はまた、1つの二重組換えMVA−BN(登録商標)ウイルス(MVA−mBN175B)からも同時発現した。
【実施例4】
【0093】
組換えウイルスの増殖
完全長F遺伝子および置換されたRSV−F_trunc遺伝子の両方を含む構築物であるMVA−mBN175B、または完全長F遺伝子のみを含む構築物を、ニワトリ胚線維芽細胞に感染させ、最初のウイルス粗製ストックを得た。完全長F遺伝子のみを含むウイルスの力価(1.46×107 TCID50)と比較して、完全長F遺伝子および切断型F遺伝子の両方を含む二重組換えウイルスの類似の力価(1.34×107 TCID50)が見られた。これらの結果は、安定な二重組換えMVAが産生されていること、およびF遺伝子の2つのコピー間での組換えが、配列におけるヌクレオチド塩基を置換することによって制限されていることを示した。
【実施例5】
【0094】
組換えウイルスのPCR分析
MVA−mBN175BまたはMVA−BN(登録商標)に感染した細胞由来のDNAについて、図4Bおよび図4Cに示された挿入断片(insert)特異的および隣接領域(flank)特異的プライマー対を用いてPCR分析を行った。完全長F遺伝子に特異的であるプライマーA1/A2でのPCR Aにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において663塩基対(bp)のサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、MVA−BN(登録商標)に感染した細胞、または水対照には存在しない(図4A)。置換された切断型F遺伝子に特異的であるプライマーB1/B2でのPCR Bにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において625bpのサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、MVA−BN(登録商標)に感染した細胞、または水対照には存在しない(図4A)。IGR88/89部位への挿入断片を検出するプライマーC1/C2でのPCR Cにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において2047bpのサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、空ベクター対照MVA−BN(登録商標)に感染した細胞には存在せず、代わりに、161bpのバンドがMVA−BN(登録商標)におけるIGR88/89での野生型の状況を示している(図4A)。IGR148/149部位への挿入断片を検出するプライマーD1/D2でのPCR Dにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において2062bpのサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、空ベクター対照MVA−BN(登録商標)に感染した細胞には存在せず、代わりに、360bpのバンドがMVA−BN(登録商標)におけるIGR88/89での野生型の状況を示している(図4A)。
【0095】
F遺伝子間の組換えは、野生型F遺伝子の部分および切断型F遺伝子の部分を有するハイブリッドF遺伝子を生じたであろう(図5A)。そのような組換え体の存在を検出するために、MVA−mBN175BまたはMVA−BN(登録商標)に感染した細胞由来のDNAについて、組換えF遺伝子に特異的な613塩基対産物を生成するはずであるプライマー対A1/B2を用いてPCR分析を行った(図5B)。このPCRの結果により、検出可能な組換え体は示されなかった(図6)。これらの結果により、安定な二重組換えMVAが産生されていること、およびF遺伝子の2つのコピーの間の組換えが制限されたことが示された。
【実施例6】
【0096】
3つの異なるエボラウイルス(EBOV)株の組換え糖タンパク質(GP)遺伝子の調製
3つのエボラウイルス(EBOV)糖タンパク質(GP)を発現する組換えMVAの作製が望まれた。本明細書で用いられるEBOV株はEBOV−B(Bundibugyo)、EBOV−S(スーダン)、およびEBOV−Z(ザイール)であり、全て、感染したヒトにおいて高致死性を有するウイルス株に属する。前記3つのGPは、48.5%の全体の同一性を共有し、全ての3つの株においてGPタンパク質のほぼ2つに1つのアミノ酸が同一であることを示しているが、2つの株の組合せの比較における完全長タンパク質配列のパーセント同一性は57.0%〜64.2%である(図7)。
【0097】
3つのEBOV GP遺伝子内の同一ヌクレオチドの長い区間の存在を最小限にするために、3つのヌクレオチド配列におけるコドンを、その3つのGP遺伝子のコードされたアミノ酸配列を維持しながら、置換した。哺乳動物およびニワトリにとって稀なコドンの使用、ならびに核酸シグナルを導入し得る置換を避けた。そのようなシグナルには、内部TATAボックス、カイ部位、およびリボソーム進入部位;ATリッチ配列およびGCリッチ配列区間;ARE、INS、およびCRS配列エレメント;反復配列およびRNA二次構造;(潜在性)スプライス供与部位および受容部位、および分岐点;ならびにワクシニア終結シグナル(TTTTTNT)が挙げられた。ATG開始コドンの後のGは高発現を可能にし、全ての3つのEBOV GP遺伝子の最初のコード配列に存在し、維持された。
【0098】
3つの最適化EBOV GPコード配列のそれぞれにおけるヌクレオチドの23.3〜24.9%を交換したが(表A参照)、3つのGPコード配列間の全体の同一性は、劇的には変化しなかった(表B)。2つの例では、ペアワイズ比較は、下記の表Bに示されているように、コード配列の最適化後、わずかに高い同一性さえ示した。
【0099】
表A:3つの最適化EBOV GP遺伝子におけるヌクレオチド交換。表は、ヌクレオチドの総数に基づいた、異なるEBOV株の非最適化(non−opt)配列と比較して、最適化GPコード配列(opt)における対応する位置の変化したヌクレオチドの数を[%]で示す。ヌクレオチドの総数は1147個である。
【0100】
【表1】
【0101】
表B:3つのEBOV GPコード配列の同一のヌクレオチドの位置。表は、ヌクレオチドの総数に基づいた、異なるEBOV株の2つのGPコード配列における対応する位置の同一ヌクレオチドの数を[%]で示す。
【0102】
【表2】
【0103】
3つのEBOV株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−ZのGPコード配列のペアワイズアラインメントは、ヌクレオチド位置における同一性および同一性の分布を示した(図9)。結果として、本発明の方法は、EBOV GP配列においてより短い区間のヌクレオチド同一性をもたらした。同一の連続したヌクレオチドの長い区間を考えれば、そのような同一性の区間の中断または短縮が、ある程度のヌクレオチド同一性を共有する配列間の組換えを避けるためのストラテジーの重要な部分であることは明らかである。表C(下記参照)において、GPコード配列のペアワイズ比較による連続した同一のヌクレオチド区間の数が示されている。最適化前、最高23bp長の区間があり、要約すれば、10以上の同一のヌクレオチドの41個の区間がある。GP遺伝子の最適化バージョンにおいて、わずか1個の13bpの区間が見出され、10以上の同一のヌクレオチドの7個の区間を見出すことができる。
【0104】
表C:連続した同一のヌクレオチドの長い区間。表は、最適化前(non−opt)および最適化後(opt)のEBOV GPコード配列のペアワイズ比較における特定の長さの連続した同一のヌクレオチド区間の数を示す。ペアワイズ比較の数は、「合計数」の列にまとめられている。非最適化比較における最長区間は、23の連続した同一のヌクレオチドであるが、最適化遺伝子において、それは最大13ヌクレオチドまで低下する。10以上のヌクレオチドの区間だけが列挙されている。
【0105】
【表3】
【実施例7】
【0106】
EBOV株のGP遺伝子を有する組換えMVA−BN(登録商標)ウイルスの調製
3つのEBOV GP遺伝子がGeneArt(Regensburg、Germany)によって合成され、組換えベクターにクローニングされ、MVA−BN(登録商標)への組み込みが可能になった。3つの異なるEBOV株由来の3つの最適化相同GP遺伝子配列を含む組換えウイルスを作製した。3つの挿入されたGPコード配列の転写は、異なる個々の初期−後期プロモーターによって調節される。
【0107】
3つの最適化EBOV−GP配列に特異的なPCR反応により、組換えMVA−BN(登録商標)における3つの個々の遺伝子の存在が示された。
【実施例8】
【0108】
RSV−F遺伝子を含むプラスミドの調製
実施例1〜5に用いられ、図1に示されたRSV−F遺伝子の2つのバージョンを、標準的なクローニング技術を用いて、1つのプラスミドにクローニングし、大腸菌(E.coli)TZ101(Trenzyme GmbH、Konstanz、Germany)中に維持した。プラスミド(図10のプラスミドマップを参照)を単離し、制限酵素Ale I、Dra III、およびSpe Iで消化し、1%のTAEアガロースゲル上で分離した(図10参照)。完全長RSV−Fタンパク質およびRSV−F_truncタンパク質をコードするpMISC210(レーン1)、ならびにRSV−F_truncタンパク質のみをコードする対照プラスミドpMISC209(レーン2)についてのバンドパターンを、プラスミドの電子データ配列の分析の結果から予想されるパターンと比較した。pMISC210についてのバンドの予想されるサイズは404bp、573bp、809bp、1923bp、および4874bpであり、一方、pMISC209については、573bp、661bp、809bp、および4874bpのサイズを有するバンドのパターンが予想された。実験により、全ての予想されたバンドが見出され、追加のバンドは見出されなかった。pMISC210中でRSV−F変異体間の組換えが起こった場合には、組換え部位に応じてより小さな断片の1つまたは複数が喪失されるであろう。これは、本実施例において明らかに見出されなかった。したがって、結果は、大腸菌における、2つのRSV−F遺伝子(RSV−FおよびRSV−F_trunc)を有するプラスミドpMISC210の安定性を示している。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【背景技術】
【0001】
核酸の相同組換えの現象は、相同配列内の核酸鎖の物理的切断および交差再結合を含む。哺乳動物細胞における組換えおよび遺伝子変換は、適切に構築されたウイルス基質またはプラスミド基質の感染後の選択可能な遺伝子の再構築をモニターしている多くのグループによって研究されている(Chakrabartiら、Mol.Cell.Biol.6:2520〜2526、1986)。これらの実験の結果は、細胞が、分子内および分子間の組換えおよび遺伝子変換の両方を効率的に支援することを示している(同上)。分子間組換えは、2つの異なる核酸分子上に存在する相同配列間の組換えを指し、分子内組換えは、単一の核酸分子上に存在する相同配列間の組換えを指す。
【0002】
“分子間”組換えは、プラスミドまたはウイルスにおける遺伝子と細胞内の相同配列との間で起こり得る(Millerら、Mol.Cell.Biol.6:2895〜2902、1986)。この型の組換えは、弱毒性ウイルスからの感染性ウイルスの発生を引き起こし得る。Fullerらは、HIV−1gag遺伝子およびHIV−1pol遺伝子の別々の配列をコドン最適化して、哺乳動物細胞においてその発現を増加させた。これらの最適化はまた、HIVのgag−pol遺伝子に存在する約200塩基対の重複領域におけるヌクレオチドの同一性を低下させ、それはまた、2つの独立したプラスミドに配置されたgagおよびpolオープンリーディングフレームと組換えレトロウイルスに含まれる切断型gag遺伝子との間の分子間組換えのレベルの低下をもたらした(Fullerら、Hum.Gene Ther.12:2081〜2093、2001)。
【0003】
“分子内”組換えは、遺伝子または遺伝子断片の重複領域が介在配列によって分離されている直列反復配列として存在するベクターに関して起こり得る。この型の組換えは、一般的に、介在配列および1コピーの反復配列の欠失をもたらす。分子内組換えの頻度は、一般的に、分子間組換えより、はるかに高い。
【0004】
プラスミドベクター内の分子内組換えのレベルは、哺乳動物細胞において定量化されている(RubnitzおよびSubrami、Mol.Cell.Biol.4:2253〜2258、1984)。相同領域のサイズに依存して、トランスフェクションされたプラスミドDNA内の分子内組換えの頻度は0.306%〜0.002%と様々であった(同上)。わずか14塩基の相同性でも、低い組換え効率が見られた(同上)。
【0005】
相同配列間の分子内組換えはまた、ピコルナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、およびポックスウイルスを含むいくつかの動物ウイルスにおいて実証されている(Gritzら、J.Virol.64:5948〜5957、1990)。ワクシニアウイルスにおいて、縦列重複配列が遺伝的に不安定であることが示されている(同上)。ウイルスにおいて、プラスミドベクターに関して見られるものよりはるかに高い分子内組換えのレベルが見られている。
【0006】
例えば、レトロウイルスにおいて、同じRNA分子における2つの同一配列間の組換え頻度は、約62%であることが見出された(Zhangら、J.Virol.75:6348〜6358、2001)。分子間(2つのRNA分子間)とは対照的に、これらの組換えの99%は分子内(1つのRNA分子上の2つの配列間)であった(同上)。アデノ随伴ウイルスに関して、分子内組換えはまた、分子間組換えよりはるかに効率的であることが見出された(Choiら、J.Virol.79:6801〜6807、2005)。単純ヘルペスウイルス1型もまた、高レベルの組換えを示すことが示されている(Dutchら、J.Virol.66:277〜285)。ポックスウイルスにおいて、高頻度の相同組換えが観察されている。1.5kbのDNAの2つの直列反復配列の間にチミジンキナーゼ(tk)遺伝子を置くことによってワクシニアウイルスにおける組換えを測定する実験系が用いられた(Ball、J.Virol.61:1788〜1795、1987)。非選択的条件下での最初の8継代のそれぞれの間で、tk+ワクシニアウイルスの40%がtk+表現型を喪失した(同上)。非選択的条件下で、tk−ウイルスが総ウイルス集団の99.37%の量まで増加した(同上)。選択的条件下でさえも、高頻度で組換えが起こったために、単一プラークから単離することができた感染性ウイルス粒子の大部分が、すでに組換えを受けて、引き続いてtk遺伝子を喪失しているDNAを含んでいた(同上)。全てVV p7.5プロモーターから発現される3つの異種性遺伝子を発現するように設計された組換えワクシニアウイルスを用いて、Howleyら(Gene 172:233〜237、1996)は、反復プロモーター配列間の組換えを示した。ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のMタンパク質由来のC反復領域(CRR)を含むように設計されたワクシニアウイルス組換え体は、1コピーから20コピーを超えるCRRを含む変異体の複雑な混合物を含んでいた(Hrubyら、P.N.A.S.88:3190〜3194、1991)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MVAの異なる挿入部位に挿入された約60〜75%の相同性を有する複数の遺伝子が、結果として安定な多重組換えウイルスを生じることが示されているが(WO03/097846)、しかしながら同一のより長い区間を含む複数の相同ヌクレオチド配列を含む安定なベクターの作製を可能にするための、例えば、ウイルスベクターなどのベクターにおける分子内組換えのレベルを低下させる組成物および方法が、当技術分野において必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、組換えベクター、およびそれらを作製し、用いるための方法に関する。
【0009】
特に、本発明は、それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクターであって、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、ベクターを含む。
【0010】
驚くべきことに、分子内組換えのリスクを有意に低下させることに加えて、例えば、ベクターなどの1つの核酸分子内の少なくとも2つの類似または同一のヌクレオチド配列において同義のコドンを体系的に置換することによって、分子内組換えのリスクを回避することもでき、したがって、少なくとも2つ以上の類似または同一のヌクレオチド配列を含む安定なベクターの作製へとつながることが、本発明により示された。予想外に、本発明に用いられるストラテジーはまた、3つ以上の類似のヌクレオチド配列を含むベクターにも適用可能である。
【0011】
本発明において得られた結果は、ヌクレオチド配列における多数のヌクレオチドを置換して、ベクター内の分子内組換えを低減させることが可能であるが、驚くべきことに、同時に、コードされたタンパク質の発現がなお保持されることを示している:本発明に従って行ったように多数のヌクレオチド変異体をヌクレオチド配列の長い区間へ導入した場合、当業者は、前記配列または遺伝子の発現がもはや適切に働かないであろうと予想したであろう、すなわち、変化したヌクレオチド配列が効率的な発現に適したままであろうとは予想されなかった。本明細書で用いられるストラテジーは、300ヌクレオチドの短いヌクレオチド配列区間に適用可能であるだけでなく、例えば、主張されている300ヌクレオチドの区間を当然ながら含む完全長遺伝子のような非常に長い区間にも適用可能である。結果は、多くの異なる遺伝子、ベクター、およびウイルスに適用可能であり、例えば、多価ワクチンの開発などのワクチン開発に非常に有利であるが、例えば、タンパク質の発現のような他のテクノロジーに、または組換え細胞株の作製にも有利であり得る。
【0012】
他の実施形態において、本発明はまた、ウイルスおよびベクターの作製のための方法、ならびに分子内組換えを低減させるための方法も含む。
【0013】
本発明は、a)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第1のヌクレオチド配列を供給する段階と、b)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を供給する段階と、c)2つの相違するヌクレオチド配列をベクターへ挿入する段階とを含み、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、かつ2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、上記のベクターを作製するための方法を含む。
【0014】
特に好ましい実施形態において、本発明は、それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクター内の分子内組換えを低減させるための方法であって、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、一方または両方のヌクレオチド配列におけるヌクレオチドを置換して少なくとも75ヌクレオチドの相違を示す2つの相違する配列を産生する段階を含み、異なるヌクレオチドが、前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、方法を含む。
【0015】
ウイルスベクターを用いる場合、方法は、ウイルス増殖の各世代中、分子内組換えのレベルを低下させる。好ましくは、相同ヌクレオチド配列は、世代当たり20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、または0.01%未満の子孫ウイルスにおいて組み換わる。
【0016】
別の好ましい実施形態において、本発明は、a)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むウイルスを供給する段階と、b)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を前記ウイルスへ挿入する段階とを含み、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、2つの相同ヌクレオチド配列を含むウイルス、好ましくは、ポックスウイルスを作製するための方法を含む。
【0017】
本明細書に用いられる場合、「ベクター」は、宿主細胞または対象において核酸分子を送達し、発現する能力がある任意の媒体であってよい。したがって、ベクターは、細胞へ導入される、および/もしくは細胞ゲノムに組み込まれるPCR産物もしくは任意の核酸断片;または、挿入されたセグメントの複製を引き起こすように別のDNAセグメントが挿入され得る、プラスミド、ファージ、もしくはコスミドなどのレプリコンであってもよい。一般的に、ベクターは、適切な調節エレメントを伴う場合、複製し得る。本発明に用いる適切なベクターバックボーンとして、例えば、プラスミド、ウイルス、人工染色体、BAC、YAC、もしくはPACなどの当技術分野において日常的に用いられるもの、またはさらに細菌および真核細胞のような組換え細胞も挙げられる。用語「ベクター」は、クローニングベクターおよび発現ベクター、ならびにウイルスベクターおよび組み込みベクターを含む。「発現ベクター」は、制御領域を含むベクターである。本発明に用いる適切な発現ベクターには、限定するものではないが、プラスミド、ならびに植物ウイルス、バクテリオファージ、バキュロウイルス、タバコモザイクウイルス、レトロウイルス、およびポックスウイルス由来のウイルスベクターが挙げられる。適切な非ウイルスベクターには、pREP4、pCEP4(Invitrogene)、pCI(Promega)、pCDM8(Seed、1987、Nature 329、840)、pVAXおよびpgWiz(Gene Therapy System Inc;Himoudiら、2002、J.Virol.76、12735〜12746)などのプラスミドが挙げられる。多数のベクターおよび発現系は、Novagen(Madison、Wis.)、Clontech(Palo Alto、Calif.)、Stratagene(La Jolla、Calif.)、およびInvitrogen/Life Technologies(Carlsbad、Calif.)のような会社から市販されている。
【0018】
ワクチン開発において、組換えウイルスは、遺伝物質を細胞へ送達するための媒体またはワクチンベクターとして用いることができる。いったん細胞に入れば、遺伝情報が転写され、特定の疾患を標的とする挿入された抗原を含むタンパク質へ翻訳される。ベクターによって細胞へ送達された抗原が、疾患から保護する、抗原に対する身体の免疫応答を誘導すれば、治療は成功である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、ベクターはプラスミドまたはウイルスベクターである。
【0020】
ウイルスベクターは、宿主において複製できないが、感染した細胞において外来遺伝子を導入し、発現させることができる弱毒ウイルスに基づくものであり得る。ウイルスまたは組換えウイルスは、それにより、タンパク質を生成し、それを宿主の免疫系へ提示することができる。ウイルスベクターのいくつかの重要な特徴は、それらが体液性(B細胞)および/または細胞性(T細胞)免疫応答を誘発し得ることである。
【0021】
ウイルスベクターは、様々な異なるウイルスから得ることができる。一実施形態において、ウイルスは動物ウイルスである。ベクターは、レトロウイルス、ピコルナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、HSV−1)、麻疹ウイルス、および泡沫状ウイルスからなる群から選択されるウイルスから特に得ることができる。
【0022】
ウイルスベクターは、感染性疾患および癌の予防および治療のためのワクチンを開発するために、研究者によって一般的に用いられている。これらのうち、(カナリアポックスウイルス、ワクシニアウイルス、および鶏痘ウイルスを含む)ポックスウイルスは、最も一般的なベクターワクチン候補の群に属している。ポックスウイルスは、ウイルスゲノムへ配列を挿入する能力が比較的大きいため、また、核の代わりに感染細胞の細胞質においてそれらのゲノムを複製し、転写を行う能力のため、遺伝物質の新しい宿主への移入にとって好ましい選択であり、これにより他のベクター、例えば、レトロウイルスベクターに関して見られるような宿主細胞のゲノムへ遺伝物質を組み込むことによる挿入変異誘発のリスクを最小限にする。ポックスウイルスのビリオンは、たいていの他の動物ウイルスと比較して大きい(より詳細について、Fieldsら編、Virology、第3版、2巻、83章、2637ページ以降参照)。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、ウイルスベクターは、ポックスウイルス由来である(例えば、Coxら、「Viruses in Human Gene Therapy」J.M.Hos編、Carolina Academic Press参照)。ウイルスベクターは、ポックスウイルス科の任意のメンバーから得ることができ、特に、アビポックスウイルスまたはオルソポックスウイルスであってもよい。
【0024】
本発明に用いるのに適したアビポックスウイルスの例として、鶏痘ウイルス、カナリアポックスウイルス、ジュンコ痘ウイルス、マイナ痘ウイルス、鳩痘ウイルス、オウム痘ウイルス、ウズラ痘ウイルス、クジャク痘ウイルス、ペンギン痘ウイルス、スズメ痘ウイルス、ムクドリ痘ウイルス、および七面鳥痘ウイルスなどの任意のアビポックスウイルスが挙げられる。好ましいアビポックスウイルスは、カナリアポックスウイルスおよび鶏痘ウイルスである。
【0025】
アビポックスウイルスは、天然では、宿主限定型であり、鳥類および鳥の細胞においてのみ増殖的に複製する(Taylorら、Biological and immunogenic properties of a canarypox−rabies recombinant,ALVAC−RG (vCP65) in non−avian species、Vaccine 13:539〜549、1995)。ヒト細胞はアビポックスウイルスに感染した場合、異種性遺伝子がウイルスゲノムから発現する。しかしながら、アビポックスウイルスは、ヒト細胞において完全には複製せず、したがって、人間が増殖性ウイルス複製によって害されるリスクはない。例えば、レンチウイルスの遺伝子産物(US5,766,598)、サイトカインおよび/または腫瘍関連抗原(US5,833,975)、または狂犬病G糖タンパク質(Taylorら、Biological and immunogenic properties of a canarypox−rabies recombinant,ALVAC−RG (vCP65) in non−avian species、Vaccine 13:539〜549、1995)を発現する様々な組換えアビポックスウイルスが構築されている。4つのHIV遺伝子gag、pol、env、およびnefを発現する組換えカナリアポックスウイルスはすでに、臨床試験に用いられている(Peters,B.S.、The basis for HIV immunotherapeutic vaccines、Vaccine 20:688〜705、2001)。
【0026】
アビポックスウイルスは鳥の細胞においてのみ増殖的に複製するため、ウイルスの増幅および組換えウイルスの作製にはこれらの細胞が用いられなければならない。
【0027】
カナリアポックスウイルスの例は、レントシュラー(Rentschler)株である。ALVACと呼ばれるプラーク精製カナリアポックス株(US5,766,598)を、ブダペスト条約に従って、American Type Culture Collection(ATCC)にアクセッション番号VR−2547として寄託した。もう1つのカナリアポックス株は、Institute Merieux,Inc.から入手することができる、LF2 CEP 524 24 10 75と名づけられた市販のカナリアポックスワクチン株である。
【0028】
鶏痘ウイルスの例は、FP−1株、FP−5株、およびTROVAC株(US5,766,598)である。FP−1は、1日齢のニワトリにワクチンとして使用するために改変されたデュベット(Duvette)株である。その株は、0 DCEP 25/CEP67/2309 October 1980と呼ばれる市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、Institute Merieux,Inc.から入手することができる。FP−5は、ニワトリ胚起源の市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、American Scientific Laboratories(Division of Schering Corp.)、Madison、Wisconsin、United States Veterinary License No.165、serial No.30321から入手することができる。
【0029】
ポックスウイルスのうち、ワクシニア種および痘瘡ウイルス種は最も知られた2つである。痘瘡ウイルスは、天然痘の原因である。痘瘡ウイルスと対照的に、ワクシニアウイルスは、免疫能力のある個体において通常は全身性疾患を引き起こさず、それゆえに、天然痘に対して免疫を与える生ワクチンとして用いられている。ワクシニアウイルスによる世界中のワクチン接種の成功は、1980年代、天然疾患としての天然痘をついに撲滅した(天然痘の世界的撲滅。国際天然痘撲滅認証委員会の最終報告書;History of Public Health、No.4、Geneva:World Health Organization、1980)。それ以来、ワクチン接種は、ポックスウイルス感染のリスクが高い人々(例えば、実験室研究者)を除き、何年にもわたって中断されている。しかしながら、例えば、天然痘を引き起こす痘瘡は、バイオテロ兵器として用いられる可能性がある。さらに、牛痘、ラクダ痘、およびサル痘などの他のポックスウイルスが選択機構を通して突然変異し、痘瘡と類似した表現型を獲得する可能性があるというリスクがある。それゆえに、いくつかの政府は、推定される、または実在の天然痘攻撃の曝露前(痘瘡ウイルスに遭遇する前)かまたは曝露後(痘瘡ウイルスに遭遇した後)のいずれかで用いるためのワクシニアに基づいたワクチンの備蓄を増加させつつある。
【0030】
本発明の特に好ましい実施形態において、ベクターはワクシニアウイルスベクターである。
【0031】
ワクシニアウイルスは、免疫刺激性が高く、それ自体の遺伝子産物、およびワクシニアゲノムに挿入された遺伝子から発現した多くの外来遺伝子産物の両方に対して強いB細胞媒介型(体液性)およびT細胞媒介型(細胞性)免疫を誘発する。したがって、ワクシニアウイルスは、組換えワクチンの形をとる、天然痘および他の感染性疾患ならびに癌に対するワクチンのための理想的なベクターと見られている。文献に記載された組換えワクシニアウイルスの多くは、完全に複製能力のあるワクシニアウイルスのウェスタンリザーブ(Western Reserve)株に基づいている。しかしながら、この株は、高い神経毒性を有することが知られており、したがって、ヒトおよび動物に用いるのにはあまり適していない(Moritaら、1987、Vaccine 5、65〜70)。
【0032】
適切なワクシニアウイルスは、コペンハーゲン(Copenhagen)株(Goebelら、1990、Virol.179、247〜266および517〜563;Johnsonら、1993、Virol.196、381〜401)、ワイエス(Wyeth)株、NYVAC(WO92/15672およびTartagliaら、1992、Virology 188、217〜232)、および高度に弱毒化された改変アンカラ(Ankara)(MVA)株(Mayrら、1975、Infection 3、6〜16)からなる群から選択することができる。
【0033】
適切なワクシニアウイルスの好ましい例は、高度に弱毒化されたワクシニアウイルス株、NYVACであり、それは、ウイルスゲノムから18個のORFの欠失によるコペンハーゲンワクチン株のプラーククローン化単離物由来であった(Tartagliaら、NYVAC:A highly attenuated strain of vaccinia virus、Virology 188、217〜232、1992)。NYVACは、様々なヒト組織培養細胞における複製能力の劇的低下によって特徴づけられるが、外因性抗原に対して強い免疫応答を誘導する能力を保持する。
【0034】
上記のウイルスの全ては、本発明に用いるのに等しく適している。
【0035】
本発明の最も好ましい実施形態において、ウイルスは、ワクチン接種において並外れて安全であることが知られている改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)である。
【0036】
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)ウイルスは、ポックスウイルス科のオルソポックスウイルス属のメンバーであるワクシニアウイルスに関連している。MVAは、皮膚ワクシニア株アンカラ(漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ、CVA)のニワトリ胚線維芽細胞における516回の連続継代によって作製された(概説として、Mayr,A.ら、Passage History:Abstammung,Eigenschaften und Verwendung des attenuierten Vaccinia−Stammes MVA,Infection 3、6〜14、1975参照)。これらの長期継代の結果として、生じたMVAウイルスは、そのゲノム配列の約31キロベースを欠失しており、それゆえに、宿主細胞が鳥の細胞に非常に限定されていると記載された(Meyer,H.ら、Mapping of deletions in the genome of the highly attenuated vaccinia virus MVA and their influence on virulence、J.Gen.Virol.72、1031〜1038、1991;Meisinger−Henschelら、Genomic sequence of chorioallantois vaccinia virus Ankara,the ancestor of modified vaccinia virus Ankara、J.Gen.Virol.88、3249〜3259、2007)。生じたMVAが有意に非病原性であることが様々な動物モデルにおいて示された(Mayr,A.およびDanner,K.Vaccination against pox diseases under immunosuppressive conditions、Dev.Biol.Stand.41:225〜34、1978)。さらに、このMVA株は、ヒト天然痘疾患に対して免疫を与えるためのワクチンとして臨床試験で試験されている(Mayrら、Zbl.Bakt.Hyg.I,Abt.Org.B 167、375〜390[1987]、Sticklら、MVA vaccination against smallpox:clinical tests with an attenuated live vaccinia virus strain (MVA)(著者の翻訳)、Dtsch.med.Wschr.99、2386〜2392、1974)。これらの研究は、高リスク患者を含む120,000人を超えるヒトが関与し、ワクシニアに基づいたワクチンと比較して、MVAが、良好な免疫原性を維持しながら、病原性または感染性を減少させていることを立証した。
【0037】
本発明は、任意の全てのMVAウイルスで作製された組換えMVAウイルスを含む。MVA株の例は、American Type Culture collection(ATCC)、Manassas、VA 20108、USAに寄託された寄託VR−1508である。別の実施形態において、MVA−Vero株またはその誘導体を本発明により用いることができる。株MVA−Veroは、寄託番号ECACC V99101431およびECACC 01021411としてEuropean Collection of Animal Cell Culturesに寄託されている。本発明により用いられるMVAウイルス株のさらなる例は、European Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)、Salisbury(UK)に寄託された株MVA572および575であり、それぞれ、寄託番号ECACC V94012707およびECACC V00120707である。特に好ましいMVAウイルスは、例えば、番号V00083008としてECACCに寄託されているようなMVA変異株MVA−BN(登録商標)、およびMVA−BN(登録商標)と同じ性質を有する誘導体である。
【0038】
MVA−BN(登録商標)は、独立型の第3世代天然痘ワクチンの製造に用いられるウイルスである。MVA−BN(登録商標)は、MVA株571/572からさらなる継代によって開発された。今まで、アトピー性皮膚炎(AD)およびHIV感染を有する対象を含む1500人を超える対象が、臨床試験においてMVA−BN(登録商標)に基づいたワクチンでワクチン接種されている。
【0039】
MVA−BN(登録商標)の寄託株と同じ性質を有する誘導体は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてインビトロで繁殖的複製能力を有するが、MVA575またはMVA572が繁殖的に複製することができるヒト細胞において繁殖的複製能力をもたない。最も好ましくは、MVAは、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胚腎細胞株293、ヒト骨肉腫細胞株143B、およびヒト子宮頚部腺癌細胞株HeLaにおいて繁殖的複製能力をもたない。
【0040】
用語「繁殖的複製能力をもたない」とは、それぞれ、WO02/42480および米国特許第6,761,893号に定義されているように本出願で用いられる。したがって、前記用語は、米国特許第6,761,893号に記載されたアッセイを用いて感染後4日目において1未満のウイルス増幅率を有するウイルスに適用され、そのアッセイは参照により本明細書に組み入れられている。ウイルスの「増幅率」は、最初の段階で細胞を感染させるために元々用いられた量(供給量)に対する、感染した細胞から産生されたウイルス(産生量)の比率である。産生量と供給量との間の「1」という比率は、感染細胞から産生されたウイルスの量が、細胞を感染させるために最初に用いられた量と同じである、増幅状態と定義する。
【0041】
最も好ましい実施形態において、本発明に用いられるMVA株は、上記のようなMVA−BN(登録商標)または誘導体である。MVA−BN(登録商標)の特徴、MVA株がMVA−BN(登録商標)またはその誘導体であるかどうかの評価を可能にする生物学的アッセイの記載、およびMVA−BN(登録商標)またはMVA−BN(登録商標)の性質を有するMVAを得ることを可能にする方法は、WO02/42480に開示されている。この出願の内容は参照により本出願に含まれる。高度に弱毒化されたMVA−BN(登録商標)ウイルスは、例えば、MVA−572またはMVA−575などの改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)のさらなる継代によって、および任意選択で、プラークまたはクローン精製によって得ることができる。MVA−BN(登録商標)は、祖先のCVAウイルスと比較してゲノムの約13%(6個の主要欠失部位および複数の非主要欠失部位の26.5kb)を欠く。欠失は、いくつかの病原性遺伝子および宿主範囲遺伝子、加えて、A型封入体タンパク質(ATI)をコードする遺伝子の大きな断片、および成熟ウイルス粒子をA型封入体中へ導く構造タンパク質をコードする遺伝子に影響する。
【0042】
特に、MVA−BN(登録商標)の性質ならびにMVA−BN(登録商標)の誘導体の性質および定義などの、WO02/42480に記載の発明によるMVAの性質の定義を参照する。前記参考文献はまた、どのようにMVAおよび他のワクシニアウイルスを増殖させることができるかを開示している。簡単に述べれば、真核細胞をウイルスに感染させる。その真核細胞は、それぞれのポックスウイルスの感染を受けやすく、感染性ウイルスの複製および産生を可能にする細胞である。MVAについて、この型の細胞の例は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)およびBHK細胞(Drexlerら、Highly attenuated modified vaccinia Ankara replicates in baby hamster kidney cells,a potential host for virus propagation,but not in various human transformed and primary cells、J.Gen.Virol.79、347〜352、1998)である。CEF細胞は、当業者に知られている条件下で培養することができる。好ましくは、CEF細胞を、固定フラスコまたはローラーボトルの無血清培地中で培養する。インキュベーションは、好ましくは、37℃で48〜96時間、行われる。感染について、MVAは、好ましくは、0.05〜1のTCID50の感染多重度(MOI)で用いられ、インキュベーションは、好ましくは、37℃で48〜72時間、行われる。
【0043】
本発明により用いられるウイルスは、様々な細胞培養、特に動物細胞培養で増殖することができる。ウイルスは、感受性細胞培養物に感染し、繁殖的に複製することができる。子孫ウイルスは当技術分野における常法に従う技術によって収集される。
【0044】
例えば、MVAウイルスおよび他のワクシニアウイルスに関して、血清含有または無血清培地中のニワトリ胚線維芽細胞(CEF)はウイルスに感染することができる。ウイルスを繁殖的に複製させた後、子孫ウイルスを収集する。
【0045】
本発明はまた、2つ以上の相同ヌクレオチド配列、特にコード配列を発現する能力がある、組換えポックスウイルス、好ましくはワクシニアウイルス、特にMVAに関する。ウイルスは、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の相同ヌクレオチドコード配列を含むことができる。
【0046】
本発明のベクターは、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含む。好ましい実施形態において、ベクターは、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上のヌクレオチド配列を含み、主張されている2つのヌクレオチド配列も当然ながら含む。当然ながら、300ヌクレオチドもまた、より長いヌクレオチド配列の一部であってもよい。
【0047】
さらに、様々な実施形態において、2つ以上のヌクレオチド配列は、サイズが300ヌクレオチド、350ヌクレオチド、400ヌクレオチド、450ヌクレオチド、500ヌクレオチド、600ヌクレオチド、700ヌクレオチド、800ヌクレオチド、900ヌクレオチド、1000ヌクレオチド、1500ヌクレオチド、2000ヌクレオチド、2500ヌクレオチド、もしくは3000ヌクレオチド、またはさらにそれ以上のヌクレオチドであり、それらは全て、より長いヌクレオチド配列の一部であってもよく、全て、主張されている300ヌクレオチドを当然ながら含む。
【0048】
本明細書に用いられる場合、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」は、交換可能に用いられ、ポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)分子もしくはポリリボヌクレオチド(RNA)分子のいずれかのポリマー、またはそれらの任意の組合せと定義する。この定義は、一本鎖または二本鎖、直鎖状または環状の、天然または合成のポリヌクレオチドを含む。
【0049】
本発明のヌクレオチド配列は、コード配列であってもよく、それぞれ、完全な遺伝子を含むことができる。本明細書で用いられる場合、用語「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を指す。遺伝子の非コード配列は、イントロン、ならびにプロモーター、オペレーター、およびターミネーターなどの調節領域を含む。
【0050】
ヌクレオチド配列はまた、遺伝子断片も含むことができる。ヌクレオチド配列は、アミノ酸リンカー配列またはエピトープをコードするヌクレオチド配列などの合成配列を含むことができる。ヌクレオチド配列は、遺伝子、遺伝子断片、および合成配列の混合物で構成することができる。ヌクレオチド配列はまた、ヌクレオチド類似体、リン酸エステル類似体、および/または五炭糖類似体などの擬似体を含んでもよい。ヌクレオチド類似体の定義には、リン酸エステル結合および/または糖リン酸エステル結合が、N−(2−アミノエチル)−グリシンアミドおよび他のアミド(例えば、Nielsenら、1991、Science 254:1497〜1500;WO 92/20702;米国特許第5,719,262号;米国特許第5,698,685号参照);モルホリノ(例えば、米国特許第5,698,685号;米国特許第5,378,841号;米国特許第5,185,144号参照);カルバメート(例えば、StirchakおよびSummerton、1987、J.Org.Chem.52:4202参照);メチレン(メチルイミノ)(例えば、Vasseurら、1992、J.Am.Chem.Soc.114:4006参照);3’チオホルムアセタール(例えば、Jonesら、1993、J.Org.Chem.58:2983参照);スルファメート(例えば、米国特許第5,470,967号参照);一般的にはPNAと呼ばれる2−アミノエチルグリシン(例えば、Buchardt、WO 92/20702;Nielsen(1991)Science 254:1497〜1500参照);およびその他(例えば、米国特許第5,817,781号;FrierおよびAltman、1997、Nucl.Acids Res.25:4429およびそこに引用される参考文献)などの他の型の結合で置換されているヌクレオチドもまた含まれる。リン酸エステル類似体には、(i)C1〜C4アルキルホスホネート、例えば、メチルホスホネート;(ii)ホスホルアミデート;(iii)C1〜C6アルキル−ホスホトリエステル;(iv)ホスホロチオエート;および(v)ホスホロジチオエートが挙げられるが、それらに限定されない。
【0051】
さらなる改変には、核酸のインビボ安定性を増加させ、その送達を促進し、または宿主対象からのクリアランス速度を低下させるための化学的改変(例えば、WO92/03568;US5,118,672参照)が挙げられる。
【0052】
さらに、一実施形態において、ヌクレオチド配列は、融合遺伝子、人工遺伝子、およびポリエピトープを含むことができる。
【0053】
本明細書に示される場合、融合遺伝子は、前には別々であった2つの遺伝子、遺伝子断片、または人工DNAもしくはエピトープから形成されるハイブリッド遺伝子である。それは、転座、中間部欠失、または逆位の結果として起こり得る。
【0054】
融合遺伝子は、少なくとも2つのDNA断片を連結することによって構築することができ、そのDNA断片は、同一または異なるアミノ酸配列をコードする。
【0055】
融合タンパク質は、タンパク質の発現および/または精製を容易にすることができる。例えば、本発明のポリペプチドは、グルタチオン−S−転移酵素(GST)融合タンパク質として作製してもよい。そのようなGST融合タンパク質を用いて、グルタチオン誘導体化マトリックスの使用などによって本発明のポリペプチドの精製を簡単にすることができる(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編(N.Y.:John Wiley&Sons、1991)参照)。別の実施形態において、組換えタンパク質の所望の部分のN末端におけるポリ(His)/エンテロキナーゼ切断部位配列などの精製リーダー配列をコードする融合遺伝子によって、Ni2+金属樹脂を用いるアフィニティークロマトグラフィーによる発現した融合タンパク質の精製を可能にすることができる。その後、続いて、精製リーダー配列をエンテロキナーゼでの処理によって除去し、精製タンパク質を提供することができる(例えば、Hochuliら、(1987)J.Chromatography 411:177;およびJanknechtら、PNAS USA 88:8972参照)。融合しているポリペプチドの検出、単離、可溶化、および/または安定化を可能にするポリペプチドをコードするさらなる異種性配列として、ポリHisタグ、myc、HA、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン結合ペプチド、チオレドキシン、マルトース結合タンパク質、ポリアルギニン、ポリHis−Asp、FLAG、免疫グロブリンタンパク質の一部、およびトランスサイトーシスペプチドが挙げられる。
【0056】
融合遺伝子を作製するための技術はよく知られている。本質的に、異なるポリペプチド配列をコードする様々なDNA断片の結合は、ライゲーションのための平滑末端または突出末端、適切な末端を提供する制限酵素消化、必要に応じての付着末端の充填、望ましくない結合を避けるためのアルカリフォスファターゼ処理、および酵素的ライゲーションを利用する通常の技術に従って行われる。別の実施形態において、融合遺伝子は、自動DNA合成機を含む通常の技術によって合成することができる。あるいは、後で2つの遺伝子断片がアニーリングされて、キメラ遺伝子配列を生じることができる2つの連続した遺伝子断片の間に相補的オーバーハングを生じるアンカープライマーを用いて(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley&Sons: 1992参照)、および2つ以上のポリヌクレオチドが、PCR反応において結果として、融合したポリヌクレオチド配列を生じることができる同一の区間を共有している融合PCRによって、遺伝子断片のPCR増幅を行ってもよい。
【0057】
別の好ましい実施形態において、本発明のヌクレオチド配列は、ポリエピトープをコードする。ポリエピトープは、少なくとも1つのタンパク質/抗原から、好ましくは2つ以上のタンパク質/抗原から単離されたエピトープを含むキメラタンパク質である。
【0058】
前記エピトープは、「単離されたもの」、または「生物学的に純粋」であり得る。用語「単離された」は、その天然の環境において見出されるような通常それに付随する成分を実質的に含まない材料を指す。「単離された」エピトープは、エピトープが由来した抗原またはタンパク質の全体配列の隣接するアミノ酸を含まないエピトープを指す。
【0059】
特定のアミノ酸配列に関して、「エピトープ」は、特定の免疫グロブリンによる認識に関与する1セットのアミノ酸残基であり、またはT細胞との関連において、T細胞受容体タンパク質および/または主要組織適合抗原(MHC)分子による認識に必要なアミノ酸残基である。用語「ペプチド」は、典型的には隣接したアミノ酸のアミノ基とカルボキシル基の間のペプチド結合によって、互いに接続した一連のアミノ酸を意味する。
【0060】
エピトープは、特定の長さをもち、免疫系において機能する分子、好ましくは、HLAクラスIおよびT細胞受容体に結合する。ポリエピトープ構築物におけるエピトープは、HLAクラスIエピトープおよび任意選択で、HLAクラスIIエピトープであり得る。HLAクラスIエピトープは、CTLエピトープと呼ばれ、HLAクラスIIエピトープは、HTLエピトープと呼ばれる。いくつかのポリエピトープ構築物は、HLAクラスIエピトープのサブセット、およびHLAクラスIIエピトープの別のサブセットを有し得る。CTLエピトープは、通常、長さが13個以下のアミノ酸残基、長さが12個以下のアミノ酸残基、または長さが11個以下のアミノ酸残基、好ましくは長さが8〜13個のアミノ酸、最も好ましくは、長さが8〜11個(すなわち、8個、9個、10個、または11個)のアミノ酸からなる。HTLエピトープは、長さが50個以下のアミノ酸残基、一般には6〜30個の残基、より一般には12〜25個からなり、好ましくは長さが15〜20個(すなわち、15個、16個、17個、18個、19個、または20個)のアミノ酸からなる。本発明のポリエピトープ構築物は、好ましくは2個以上、5個以上、10個以上、13個以上、15個以上、20個以上、または25個以上のCTLエピトープを含む。より具体的には、ポリエピトープ構築物は、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、またはそれ以上のCTLエピトープを含む。
【0061】
本発明による相同ヌクレオチド配列は、任意のウイルス、任意の細菌、任意の真菌、または寄生虫などの任意の生物体、微生物由来であり得る。相同ヌクレオチド配列は、ベクターの配列に対して非相同であり得るだけでなく、それらと相同でもあり得る。例えば、ウイルスがベクターとして用いられる場合、ウイルス自体のヌクレオチド配列も、例えば、免疫反応性または安全性を増強させるためにウイルスのタンパク質を過剰発現するために、本発明に従って多重化することができる。好ましくは、相同ヌクレオチド配列は、感染性または病原性微生物由来、最も好ましくは前記微生物の異なる株またはクレード、変異体、サブタイプまたは血清型由来である。用語「株」または「クレード」は、当業者にとってよく知られた技術用語であり、微生物の分類を指す。分類学的体系は、これまで特徴づけられた微生物の全てを、科、属、種、株の階層的部類へ分類する(Fields Virology、Fields B.N.編、Lippincott−Raven Publishers、第4版 2001)。科のメンバーについての基準はそれらの系統発生的関係であるが、属は、共通の特徴を共有する全メンバーを含み、種は、複製系統を構成し、特定の生態学的地位を占有する多形質的クラスとして定義される。用語「株」または「クレード」は、基本的形態またはゲノム構造および組織のような共通の特徴を共有するが、宿主範囲、組織親和性、地理的分布、弱毒化、または病原性のような生物学的性質の点で異なる微生物、すなわち、ウイルスを記述する。用語「変異体」または「血清型」は、同じ株のメンバー間をさらに区別し、サブタイプとも呼ばれ、小さなゲノム変異による個々の感染スペクトルまたは抗原性を示す。
【0062】
本発明のさらなる実施形態によれば、相同ヌクレオチド配列は、好ましくは、ウイルスから選択される。ウイルスの代表的例として、限定するものではないが、HIV(HIV−1またはHIV−2)、ヘルペスウイルス(例えば、HSV1またはHSV2)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、およびE型肝炎ウイルス)、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、パラミクソウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザ、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、およびパピローマウイルスが挙げられる。
【0063】
別の実施形態によれば、相同ヌクレオチド配列は、デングウイルス遺伝子から選択される。最も好ましいのは、そのウイルスの異なる血清型由来の相同遺伝子であり、前記遺伝子は、4つのデングウイルス血清型の1つ、2つ、3つ、または全部に由来し得る。
【0064】
好ましい実施形態において、2つの相同ヌクレオチド配列は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)遺伝子をコードする。好ましい実施形態において、相同ヌクレオチド配列は、RSV−Fおよび/またはRSV−Gタンパク質をコードする。好ましくは、RSV遺伝子の一方は完全長であり、他方は切断されている。
【0065】
別の好ましい実施形態において、2つ、好ましくは3つの相同ヌクレオチド配列は、エボラウイルス(EBOV)タンパク質をコードする。エボラウイルス(EBOV)タンパク質をコードする3つの相同ヌクレオチド配列には、当然ながら、2つの相同ヌクレオチド配列も含まれる。好ましい実施形態において、相同ヌクレオチド配列は、EBOV糖タンパク質(GP)をコードする。特に好ましい実施形態において、ヌクレオチド配列は、EBOV株のEBOV−B(Bundibugyo)、EBOV−S(スーダンエボラウイルス株Gulu)、およびEBOV−Z(ザイールエボラウイルス株Mayinga)由来の糖タンパク質前駆体タンパク質をコードする。
【0066】
別の実施形態において、相同ヌクレオチド配列は、細菌から選択される。適切な細菌の代表的例として、限定するものではないが、ナイセリア属(Neisseria)(例えば、N.ゴノレー(gonorrhea)およびN.メニンギティディス(meningitidis));ボルデテラ属(Bordetella)(例えば、B.パータシス(pertussis)、B.パラパータシス(parapertussis)およびB.ブロンキセプチカ(bronchiseptica))、マイコバクテリウム属(Mycobacteria)(例えば、M.ツベルクローシス(tuberculosis)、M.ボビス(bovis)、M.レプレ(leprae)、M.アビウム(avium)、M.パラツベルクローシス(paratuberculosis)、M.スメグマチス(smegmatis));レジオネラ属(Legionella)(例えば、L.ニューモフィラ(pneumophila));エシェリキア属(Escherichia)(例えば、腸毒素性E.コリ(coli)、腸管出血性E.コリ(coli)、腸病原性E.コリ(coli));シゲラ属(Shigella)(例えば、S.ソネイ(sonnei)、S.ディゼンテリエ(dysenteriae)、S.フレックスネリ(flexnerii));サルモネラ属(Salmonella)(例えば、S.チフィ(typhi)、S.パラチフィ(paratyphi)、S.コレレスイス(choleraesuis)、S.エンテリティディス(enteritidis));リステリア属(Listeria)(例えば、L.モノサイトゲネス(monocytogenes));ヘリコバクター属(Helicobacter)(例えば、H.ピロリ(pylori));シュードモナス属(Pseudomonas)(例えば、P.エルギノーサ(aeruginosa));スタフィロコッカス属(Staphylococcus)(例えば、S.アウレウス(aureus)、S.エピデルミディス(epidermidis));エンテロコッカス属(Enterococcus)(例えば、E.フェカリス(faecalis)、E.フェシウム(faecium));バチルス属(Bacillus)(例えば、B.アントラシス(anthracis));コリネバクテリウム属(Corynebacterium)(例えば、C.ジフテリエ(diphtheriae))、およびクラミジア属(Chlamydia)(例えば、C.トラコマティス(trachomatis)、C.ニューモニエ(pneumoniae)、C.シタッシ(psittaci))が挙げられる。寄生虫の代表的例として、限定するものではないが、プラスモジウム属(Plasmodium)(例えば、P.ファルシパルム(falciparum));トキソプラズマ(Toxoplasma)(例えば、T.ゴンディ(gondii));リーシュマニア属(Leshmania)(例えば、L.メジャー(major));ニューモシスチス属(Pneumocystis)(例えば、P.カリニ(carinii));およびシストソーマ属(Schisostoma)(例えば、S.マンソニ(mansoni))が挙げられる。真菌の代表的例として、限定するものではないが、カンジダ属(Candida)(例えば、C.アルビカンス(albicans))およびアスペルギルス属(Aspergillus)が挙げられる。
【0067】
少なくとも2つのヌクレオチド配列は、同じサイズまたは異なるサイズであり得る。好ましい実施形態において、2つのヌクレオチド配列の一方は、他方に比べて切断されている。切断は5’末端または3’末端であり得る。
【0068】
様々な実施形態において、2つのヌクレオチド配列の300ヌクレオチドは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%のアミノ酸同一性を有する100アミノ酸をコードする。好ましい実施形態において、前記アミノ酸同一性は、100個、125個、150個、175個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、600個、700個、800個、900個、もしくは1000個、またはそれ以上の連続したアミノ酸の区間の範囲内である。
【0069】
特に好ましい実施形態において、アミノ酸は、少なくとも150個または200個の連続したアミノ酸の区間の範囲内で少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%のアミノ酸同一性を有する。
【0070】
他の好ましい実施形態において、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、300個または500個の連続したアミノ酸の区間の範囲内で少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%のアミノ酸同一性を有する。他の好ましい実施形態において、少なくとも2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、ペアワイズ比較において100個、200個、400個、600個、または800個の連続したアミノ酸の区間の範囲内で85%〜100%、特に100%のアミノ酸同一性を有する。
【0071】
本明細書に用いられる場合、「アミノ酸同一性」などの「パーセント配列同一性」を指す任意の用語は、任意の所与の問い合わせ配列と対象配列の間の同一性の程度を指す。
【0072】
特に、以下の用語は、2つ以上の核酸、ポリヌクレオチド、またはアミノ酸配列の間の配列関係を記載するために用いられる:「参照配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」、および「実質的な同一性」。「参照配列」は、配列比較の基準として用いられる定義済みの配列である;参照配列はより大きい配列のサブセットであってもよい。
【0073】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の関連において、用語「同一の」またはパーセント「同一性」は、配列比較アルゴリズムを用いて、または手作業のアラインメントおよび視覚的検査によって測定する場合、比較ウィンドウまたは指定領域に対して比較し、最大限一致するように整列させたとき、同じである、または同じアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの特定のパーセンテージ(例えば、ペアワイズ比較における75%の同一性、80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性、99%の同一性、または100%の同一性)を有する、2つ以上の配列または部分配列を指す。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置数を決定して、マッチした位置数を出し、そのマッチした位置数を比較のウィンドウにおける位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを出すことによって計算される。
【0074】
2つの核酸またはポリペプチドの関連において、句「実質的に同一の」は、配列比較アルゴリズムを用いて、または視覚的検査によって測定する場合、比較し、最大限一致するようにペアワイズで整列させたとき、少なくとも約85%の同一性、少なくとも約86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のヌクレオチドまたはアミノ酸残基同一性を有する2つ以上の配列または部分配列を指す。例示的な実施形態において、実質的な同一性は、長さが少なくとも約50個の残基である配列の領域に対して存在する。別の例示的な実施形態において、実質的な同一性は、長さが少なくとも約100個の残基である配列の領域にわたって存在する。さらに別の例示的な実施形態において、実質的な同一性は、長さが少なくとも約150個の残基またはそれ以上である配列の領域にわたって存在する。1つの例示的な実施形態において、配列は、核酸またはタンパク質配列の全長にわたって実質的に同一である。
【0075】
配列比較について、典型的には、1つの配列が参照配列として働き、その参照配列対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験配列および参照配列は、コンピュータに入力され、必要ならば、部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトプログラムパラメータを用いることができ、または代替のパラメータを指定することができる。その後、配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメータに基づいて参照配列に対する試験配列についてのパーセント配列同一性を計算する。
【0076】
本明細書で用いられる場合、「比較ウィンドウ」は、2つの配列を最適に整列させた後、配列が、連続した位置の同じ数の参照配列と比較され得る、20〜600、一般には20〜50、約50〜約100、約100〜約200、より一般には約100〜約150、または約20、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、もしくは3000、またはさらにそれ以上からなる群から選択される連続した位置の数の任意の1つのセグメントへの参照を含む。
【0077】
パーセント同一性は、Sellers(SIAM J.of Applied Math 26;787〜793(1974))と等価であることが示されているNeedlemanおよびWunschのアラインメント方法(J.Mol.Biol.48;443〜453(1970))を用いて決定することができる。パーセント同一性は、例えば、Devereuxら(Nucl.Acids Res.12:387、1984)によって記載され、このアラインメント方法を活用するUniversity of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から利用できるGAPコンピュータプログラム、バージョン6.0を用いて配列情報を比較することによって決定することができる。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータには、(1)SchwartzおよびDayhoff編、Atlas of Protein Sequence and Structure、National Biomedical Research Foundation、353〜358ページ、1979に記載されているように、ヌクレオチドについての単項比較行列(同一について1の値、非同一について0の値を含む)、ならびにGribskovおよびBurgess、Nucl Acids Res.14:6745、1986の重みつき比較行列、(2)各ギャップについて3.0のペナルティ、および各ギャップにおける各シンボルについて追加の0.10のペナルティ、ならびに(3)末端ギャップについてのペナルティなしを含む。他の適切なツールは、VectorNTI Advanceプログラム(INVITROGEN)からのContigExpress、例えば、2007年のバージョン10.3.1を用いることである。
【0078】
本発明によれば、分子内組換えを防ぐために、遺伝暗号の縮重を用いて相同または同一のヌクレオチド配列をより低い相同性にする。前記の相違は、本来ヌクレオチド配列にすでに含まれていてもよく、および/または置換によって人工的に含まれる。様々な実施形態において、天然から、さらに人工的置換から得られる異なるヌクレオチドの数は、少なくとも75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、または500である。好ましくは、異なる塩基の数は、少なくとも75、200、または450である。相違の数は、当然ながら、ヌクレオチド配列のヌクレオチドの数と共に、それぞれ、変動し、増加する。
【0079】
好ましい実施形態において、少なくとも75個、80個、85個、90個、95個、100個、125個、150個、175個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、または500個のヌクレオチドが置換される。前記置換は、例えば、サイレント突然変異によって含まれていた、すでに存在する異なるヌクレオチドの数とは無関係に人工的に導入される。
【0080】
様々な実施形態において、置換後わずか13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、または4個の連続したヌクレオチドの同一の区間を有する2つのヌクレオチド配列が好ましい。2つより多いヌクレオチド配列の場合、置換後わずか20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、または4個の連続したヌクレオチドの同一の区間が好ましい。
【0081】
別の実施形態において、ヌクレオチド配列は、300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個、100個、1100個、1200個、1300個、1400個、1500個、もしくは1600個、またはそれ以上のヌクレオチドの中から置換された少なくとも75個、100個、150個、200個、250個、300個、350個、400個、または450個のヌクレオチドを有し得る。
【0082】
本発明の関連において、異なるヌクレオチドでのヌクレオチドの置換とは、他のヌクレオチドによるヌクレオチドの技術的または人工的置き換えを意味する。好ましくは、置換されたヌクレオチドは、コードされたアミノ酸配列を変化させない。置換は、同じアミノ酸をコードする2つの相同ヌクレオチド配列においてコドンを同定し、2つの相同ヌクレオチド配列のうちの1つにおけるコドンを、コドンがその後もなお同じアミノ酸をコードするように変化させることによって行うことができる。相同ヌクレオチド配列の1つ、両方、または全部において変化を生じさせることができる。
【0083】
例えば、アミノ酸プロリンは、コドンCCA、CCC、CCG、およびCCU(DNAレベルにおいて、UはTに置き換えられる)によってコードされる。2つの相同ヌクレオチド配列において最初は2つのプロリンをコードする単純なヌクレオチド配列、CCCCCCを、2つの相同ヌクレオチド配列のうちの1つにおいて、やはり2つのプロリンをコードするCCACCGに変化させることができる。あるいは、プロリン−プロリンをコードする配列の一方をCCCCCGへ変化させ、他方をCCACCCへ変化させることができる。
【0084】
より複雑な例は、UCA、UCC、UCG、UCU、AGC、およびAGUによってコードされるアミノ酸セリンである。同様に、最初は2つの異なるセリンをコードするUCAUCAが複数の相同配列において、(UCAUCAと共通のヌクレオチドを共有しない)AGCAGCおよび(UCAUCAと1つの位置のみを、またはAGCAGCと2つの位置を共有する)UCGAGUなどへ変化させることができる。このことは、セリン−セリンをコードする2つ以上のヌクレオチド配列へ異なるヌクレオチド変異体を導入するのに、より高い融通性を可能にする。
【0085】
好ましくは、稀なコドンがコードされたタンパク質の発現を遮断または低減する可能性があるため、本発明に記載されているコドン最適化は、所望の宿主にとって稀なコドンの使用を避ける。同様に、所望の宿主の核酸シグナルを導入する可能性のある置換は、避けることが好ましい。そのようなシグナルとして、スプライスシグナル、終結シグナル、および開始シグナルが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、以下の配列モチーフは、用いられるベクターの型に応じて避ける場合があり、例えば、ワクシニアウイルス初期転写終結シグナルは、ポックスウイルスベクターではない多くの他のベクターにおいて避ける必要はない:
− 内部TATAボックス、カイ(chi)部位、およびリボソーム進入部位、
− ATリッチ配列およびGCリッチ配列区間、
− ARE、INS、およびCRS配列エレメント、
− 反復配列およびRNA二次構造、
− (潜在性)スプライス供与部位と受容部位、および分岐点、ならびに、
− ワクシニア初期転写終結シグナル:(TTTTTNT)。
【0086】
本発明は、図面を参照してより完全に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】完全長RSV−F(F)タンパク質をコードするヌクレオチド配列の、置換された切断型RSV−F_trunc(F_trunc)タンパク質をコードするヌクレオチド配列とのアラインメントを示す図である。同一の配列は黒色で強調し、置換されたヌクレオチドは強調していない。プライマーA1およびB2の位置が示されている。
【図2】完全長RSV−F(F)タンパク質の切断型RSV−F_trunc(F_trunc)タンパク質とのアラインメントを示す図である。RSV−Fの完全長配列は、50アミノ酸が切断され、結果として、切断型RSV−F_truncタンパク質を生じる。RSV−F_truncタンパク質には、完全長タンパク質の約91%が含まれる。
【図3】ヒト細胞株における組換えMVA−BN(登録商標)ウイルスのRSV−FおよびRSV−F_truncの発現を示す図である。MOIが10の異なるMVA−BN(登録商標)に基づいたウイルスによる感染および感染後24時間での溶解時の、感染したヒト細胞からの抽出物を用いたウェスタンブロット。MVA−BN(登録商標)(空ベクター対照、レーン1)、MVA−mBN172B(完全長RSV−Fを有する組換えMVA−BN(登録商標)、レーン2)、MVA−mBN173B(切断型RSV−F_truncを有する組換えMVA−BN(登録商標)、レーン3)、およびレーン4:MVA−mBN175B(RSV−FおよびRSV−F_truncを有する組換えMVA−BN(登録商標))。タンパク質の計算された分子量は、RSV−F(61.6kDa)およびRSV−F_trunc(56.1kDa)である。
【図4】MVA−mBN175BのPCR分析を示す図である。RSV−F(F)およびRSV−F_trunc(F_trunc)が示されている。A:様々なプライマー対でのPCR結果。M=マーカー(1kb−ラダー、New England Biolabs)。レーン1はMVA−mBN175Bである。レーン2は、陽性対照プラスミド(pBN345)である。レーン3は、MVA−mBN(登録商標)である。レーン4は水対照である。レーン5は陽性対照プラスミド(pBN343)である。B:図4Aに示されたPCRに用いられたプライマーの位置を示すMVA−mBN175Bの概略図。C:プライマーの位置を示す野生型MVA−mBN(登録商標)の概略図。
【図5】二重組換えMVAにおける完全長RSV−F遺伝子(F)と切断型F遺伝子(Ftrunc)の間の推定組換えF/Ftrunc、ならびに組換えウイルスおよび非組換えウイルスおよび対照プラスミドにおけるPCRプライマーの位置を示す図である。A:MVA−mBN175B。B:pMISC173。C:pMISC172。
【図6】MVA−mBN175Bに感染した細胞から単離されたDNAのPCR分析を示す図である。レーン1および7はマーカーレーンである。レーン2はMVA−mBN175Bである。レーン3はF遺伝子についてのプラスミド対照(pBN343)である。レーン4は切断型F遺伝子についてのプラスミド対照(pBN345)である。レーン5はMVA−BN(登録商標)である。レーン6は水対照である。MVA−mBN175BにおけるRSV−F遺伝子と切断型F遺伝子RSV−F_truncの間の推定組換えから予想されるPCR産物は613塩基対である。
【図7】3つのEBOV(エボラウイルス)GP(糖タンパク質)タンパク質配列のアラインメントを示す図である。エボラウイルス株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−Zの3つのGPタンパク質のアミノ酸配列を整列させている。アラインメントにおいてギャップを許容しなかった。全ての3つのタンパク質配列における全体の同一性は48.5%である。灰色の背景:全ての3つのタンパク質配列において同一。黒色の背景:2つのタンパク質において同一。
【図8】組換えMVA−BN(登録商標)に基づいた構築物に用いられた3つのEBOV GPコード配列のアラインメントを示す図である。最適化前(non−opt、図8A参照)と最適化後(opt、図8B参照)の3つのEBOV株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−Zに由来するGP遺伝子のコード配列を整列させた。アラインメントにおいてギャップを許容しなかった。灰色の背景:3つのコード配列において同一のヌクレオチド位置。黒色の背景:2つのコード配列において同一のヌクレオチド位置。最適化前(non−opt)の3つの遺伝子のヌクレオチド位置における同一性は45.3%であるが、最適化後(opt)は44.6%である。
【図9】組換えMVA−BN(登録商標)に基づいた構築物に用いられた3つのEBOV GPコード配列のペアワイズアラインメントを示す図である。最適化前(non−opt、図9A参照)と最適化後(opt、図9B参照)の3つのEBOV株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−Zに由来するGP遺伝子のコード配列をペアワイズで整列させた。アラインメントにおいてギャップを許容しなかった。灰色の背景:コード配列において同一のヌクレオチド位置。最適化前(non−opt)および最適化後(opt)の3つの遺伝子のヌクレオチド位置における同一性は、表Cに一覧にされている。
【図10】完全長(RSV−F)タンパク質および切断型(RSV−F_trunc)タンパク質を含むプラスミドpMISC210の制限酵素消化およびプラスミドマップを示す図である。レーン1:RSV−FおよびRSV−F_truncを含むプラスミドpMISC210、レーン2:RSV−F_truncのみを含む対照プラスミドpMISC209、レーン3:分子量マーカー。マーカーバンドのサイズが塩基対(bp)で示されている。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0088】
置換された切断型F遺伝子の調製
完全長RSV−Fタンパク質および切断型RSV−F_truncの両方を発現する組換えMVAの作製が望まれた。しかしながら、反復配列を含むMVAおよび他のワクシニアウイルスでの結果に基づいて、分子内組換えが、F遺伝子の2コピー間での組換えをもたらし、結果として、F遺伝子のコピーのうちの1つの欠失を生じるであろうことが予想された。
【0089】
2つのF遺伝子の間で同一のヌクレオチドの長い区間の存在を最小限にするために、RSV−F_trunc遺伝子をコードするヌクレオチド配列におけるコドンを、F遺伝子のアミノ酸配列を維持しながら、置換した。哺乳動物およびニワトリにとって稀なコドンの使用を避けた。核酸シグナルを導入する可能性がある置換も避けた。そのようなシグナルには、内部TATAボックス、カイ部位、およびリボソーム進入部位;ATリッチ配列およびGCリッチ配列区間;ARE、INS、およびCRS配列エレメント;反復配列およびRNA二次構造;(潜在性)スプライス供与部位および受容部位、および分岐点;ならびにワクシニア終結シグナル:(TTTTTNT)が挙げられた。置換されたヌクレオチド配列は、完全長RSV−Fタンパク質のコード配列と比較して、図1に示されている。2つのコード配列の全体でかなりの同一性が残っているが、2つのコード配列内で9個の連続したヌクレオチドより長い同一の大きな区間は残っていない。2つのコード配列によってコードされるタンパク質は図2に整列させている。2つのタンパク質は、最初の524アミノ酸で100%の同一性を有する(置換されたFタンパク質はカルボキシ末端で切断されている)。したがって、これらの2つのコードヌクレオチド配列は、同一のアミノ酸の区間をコードするが、その配列の一方は、他方に対して置換されている。
【実施例2】
【0090】
RSV−F遺伝子を含む組換えウイルスの調製
完全長RSV−F遺伝子をコードするDNAを、MVAの2つの異なる組み込み部位に挿入し、MVA−mBN170BおよびMVA−mBN172Bを作製した(IGR88/89部位において)。置換されたRSV−F_trunc遺伝子をMVAのIGR148/149部位に挿入し、MVA−mBN173Bを作製した。
【0091】
その後、MVAのIGR88/89部位へ挿入された完全長RSV−F遺伝子、および同じMVAのIGR148/149部位へ挿入された置換されたRSV−F_trunc遺伝子を含む二重組換えMVAを作製した。二重組換えウイルスをMVA−mBN175Bと命名した。このウイルスの概略図は図4Bに示されている。
【実施例3】
【0092】
組換えウイルスからのFタンパク質の発現
タンパク質が、置換されたヌクレオチド配列から発現するかどうかを決定するために、完全長RSV−F遺伝子をコードする組換えMVA−BN(登録商標)に基づいたウイルス(MVA−mBN172B)、置換されたRSV−F_trunc遺伝子をコードするウイルス(MVA−mBN173B)、および完全長とRSV−F_trunc遺伝子の両方をコードする二重組換えウイルス(MVA−mBN175B)に感染したヒト細胞株からのタンパク質抽出物についてウェスタンブロット分析を行った。全ての3つのウイルスは、ウェスタンブロット分析により適切なサイズをもったRSV−Fタンパク質の産生を示したが(図3)、MVA−BN(登録商標)対照(空ベクター)は、予想通り、いかなるバンドも示さなかった。したがって、完全長タンパク質、および置換されたコードヌクレオチド配列から発現した切断型Fタンパク質が、ヒト細胞株において、単一組換えMVA−BN(登録商標)から個々に発現したが、両方はまた、1つの二重組換えMVA−BN(登録商標)ウイルス(MVA−mBN175B)からも同時発現した。
【実施例4】
【0093】
組換えウイルスの増殖
完全長F遺伝子および置換されたRSV−F_trunc遺伝子の両方を含む構築物であるMVA−mBN175B、または完全長F遺伝子のみを含む構築物を、ニワトリ胚線維芽細胞に感染させ、最初のウイルス粗製ストックを得た。完全長F遺伝子のみを含むウイルスの力価(1.46×107 TCID50)と比較して、完全長F遺伝子および切断型F遺伝子の両方を含む二重組換えウイルスの類似の力価(1.34×107 TCID50)が見られた。これらの結果は、安定な二重組換えMVAが産生されていること、およびF遺伝子の2つのコピー間での組換えが、配列におけるヌクレオチド塩基を置換することによって制限されていることを示した。
【実施例5】
【0094】
組換えウイルスのPCR分析
MVA−mBN175BまたはMVA−BN(登録商標)に感染した細胞由来のDNAについて、図4Bおよび図4Cに示された挿入断片(insert)特異的および隣接領域(flank)特異的プライマー対を用いてPCR分析を行った。完全長F遺伝子に特異的であるプライマーA1/A2でのPCR Aにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において663塩基対(bp)のサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、MVA−BN(登録商標)に感染した細胞、または水対照には存在しない(図4A)。置換された切断型F遺伝子に特異的であるプライマーB1/B2でのPCR Bにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において625bpのサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、MVA−BN(登録商標)に感染した細胞、または水対照には存在しない(図4A)。IGR88/89部位への挿入断片を検出するプライマーC1/C2でのPCR Cにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において2047bpのサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、空ベクター対照MVA−BN(登録商標)に感染した細胞には存在せず、代わりに、161bpのバンドがMVA−BN(登録商標)におけるIGR88/89での野生型の状況を示している(図4A)。IGR148/149部位への挿入断片を検出するプライマーD1/D2でのPCR Dにより、予想通り、MVA−mBN175Bに感染した細胞、および特定のプラスミド陽性対照において2062bpのサイズのバンドが検出された。このバンドは、予想通り、空ベクター対照MVA−BN(登録商標)に感染した細胞には存在せず、代わりに、360bpのバンドがMVA−BN(登録商標)におけるIGR88/89での野生型の状況を示している(図4A)。
【0095】
F遺伝子間の組換えは、野生型F遺伝子の部分および切断型F遺伝子の部分を有するハイブリッドF遺伝子を生じたであろう(図5A)。そのような組換え体の存在を検出するために、MVA−mBN175BまたはMVA−BN(登録商標)に感染した細胞由来のDNAについて、組換えF遺伝子に特異的な613塩基対産物を生成するはずであるプライマー対A1/B2を用いてPCR分析を行った(図5B)。このPCRの結果により、検出可能な組換え体は示されなかった(図6)。これらの結果により、安定な二重組換えMVAが産生されていること、およびF遺伝子の2つのコピーの間の組換えが制限されたことが示された。
【実施例6】
【0096】
3つの異なるエボラウイルス(EBOV)株の組換え糖タンパク質(GP)遺伝子の調製
3つのエボラウイルス(EBOV)糖タンパク質(GP)を発現する組換えMVAの作製が望まれた。本明細書で用いられるEBOV株はEBOV−B(Bundibugyo)、EBOV−S(スーダン)、およびEBOV−Z(ザイール)であり、全て、感染したヒトにおいて高致死性を有するウイルス株に属する。前記3つのGPは、48.5%の全体の同一性を共有し、全ての3つの株においてGPタンパク質のほぼ2つに1つのアミノ酸が同一であることを示しているが、2つの株の組合せの比較における完全長タンパク質配列のパーセント同一性は57.0%〜64.2%である(図7)。
【0097】
3つのEBOV GP遺伝子内の同一ヌクレオチドの長い区間の存在を最小限にするために、3つのヌクレオチド配列におけるコドンを、その3つのGP遺伝子のコードされたアミノ酸配列を維持しながら、置換した。哺乳動物およびニワトリにとって稀なコドンの使用、ならびに核酸シグナルを導入し得る置換を避けた。そのようなシグナルには、内部TATAボックス、カイ部位、およびリボソーム進入部位;ATリッチ配列およびGCリッチ配列区間;ARE、INS、およびCRS配列エレメント;反復配列およびRNA二次構造;(潜在性)スプライス供与部位および受容部位、および分岐点;ならびにワクシニア終結シグナル(TTTTTNT)が挙げられた。ATG開始コドンの後のGは高発現を可能にし、全ての3つのEBOV GP遺伝子の最初のコード配列に存在し、維持された。
【0098】
3つの最適化EBOV GPコード配列のそれぞれにおけるヌクレオチドの23.3〜24.9%を交換したが(表A参照)、3つのGPコード配列間の全体の同一性は、劇的には変化しなかった(表B)。2つの例では、ペアワイズ比較は、下記の表Bに示されているように、コード配列の最適化後、わずかに高い同一性さえ示した。
【0099】
表A:3つの最適化EBOV GP遺伝子におけるヌクレオチド交換。表は、ヌクレオチドの総数に基づいた、異なるEBOV株の非最適化(non−opt)配列と比較して、最適化GPコード配列(opt)における対応する位置の変化したヌクレオチドの数を[%]で示す。ヌクレオチドの総数は1147個である。
【0100】
【表1】
【0101】
表B:3つのEBOV GPコード配列の同一のヌクレオチドの位置。表は、ヌクレオチドの総数に基づいた、異なるEBOV株の2つのGPコード配列における対応する位置の同一ヌクレオチドの数を[%]で示す。
【0102】
【表2】
【0103】
3つのEBOV株、EBOV−B、EBOV−S、およびEBOV−ZのGPコード配列のペアワイズアラインメントは、ヌクレオチド位置における同一性および同一性の分布を示した(図9)。結果として、本発明の方法は、EBOV GP配列においてより短い区間のヌクレオチド同一性をもたらした。同一の連続したヌクレオチドの長い区間を考えれば、そのような同一性の区間の中断または短縮が、ある程度のヌクレオチド同一性を共有する配列間の組換えを避けるためのストラテジーの重要な部分であることは明らかである。表C(下記参照)において、GPコード配列のペアワイズ比較による連続した同一のヌクレオチド区間の数が示されている。最適化前、最高23bp長の区間があり、要約すれば、10以上の同一のヌクレオチドの41個の区間がある。GP遺伝子の最適化バージョンにおいて、わずか1個の13bpの区間が見出され、10以上の同一のヌクレオチドの7個の区間を見出すことができる。
【0104】
表C:連続した同一のヌクレオチドの長い区間。表は、最適化前(non−opt)および最適化後(opt)のEBOV GPコード配列のペアワイズ比較における特定の長さの連続した同一のヌクレオチド区間の数を示す。ペアワイズ比較の数は、「合計数」の列にまとめられている。非最適化比較における最長区間は、23の連続した同一のヌクレオチドであるが、最適化遺伝子において、それは最大13ヌクレオチドまで低下する。10以上のヌクレオチドの区間だけが列挙されている。
【0105】
【表3】
【実施例7】
【0106】
EBOV株のGP遺伝子を有する組換えMVA−BN(登録商標)ウイルスの調製
3つのEBOV GP遺伝子がGeneArt(Regensburg、Germany)によって合成され、組換えベクターにクローニングされ、MVA−BN(登録商標)への組み込みが可能になった。3つの異なるEBOV株由来の3つの最適化相同GP遺伝子配列を含む組換えウイルスを作製した。3つの挿入されたGPコード配列の転写は、異なる個々の初期−後期プロモーターによって調節される。
【0107】
3つの最適化EBOV−GP配列に特異的なPCR反応により、組換えMVA−BN(登録商標)における3つの個々の遺伝子の存在が示された。
【実施例8】
【0108】
RSV−F遺伝子を含むプラスミドの調製
実施例1〜5に用いられ、図1に示されたRSV−F遺伝子の2つのバージョンを、標準的なクローニング技術を用いて、1つのプラスミドにクローニングし、大腸菌(E.coli)TZ101(Trenzyme GmbH、Konstanz、Germany)中に維持した。プラスミド(図10のプラスミドマップを参照)を単離し、制限酵素Ale I、Dra III、およびSpe Iで消化し、1%のTAEアガロースゲル上で分離した(図10参照)。完全長RSV−Fタンパク質およびRSV−F_truncタンパク質をコードするpMISC210(レーン1)、ならびにRSV−F_truncタンパク質のみをコードする対照プラスミドpMISC209(レーン2)についてのバンドパターンを、プラスミドの電子データ配列の分析の結果から予想されるパターンと比較した。pMISC210についてのバンドの予想されるサイズは404bp、573bp、809bp、1923bp、および4874bpであり、一方、pMISC209については、573bp、661bp、809bp、および4874bpのサイズを有するバンドのパターンが予想された。実験により、全ての予想されたバンドが見出され、追加のバンドは見出されなかった。pMISC210中でRSV−F変異体間の組換えが起こった場合には、組換え部位に応じてより小さな断片の1つまたは複数が喪失されるであろう。これは、本実施例において明らかに見出されなかった。したがって、結果は、大腸菌における、2つのRSV−F遺伝子(RSV−FおよびRSV−F_trunc)を有するプラスミドpMISC210の安定性を示している。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクターであって、
2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、
2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、
異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、ベクター。
【請求項2】
a)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第1のヌクレオチド配列を供給する段階、
b)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を供給する段階、
但し、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、
c)2つの異なるヌクレオチド配列をベクターに挿入する段階
を含む、請求項1に記載のベクターを産生するための方法。
【請求項3】
それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクター内での分子内組換えを低減させるための方法であって、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、一方または両方のヌクレオチド配列におけるヌクレオチドを置換して少なくとも75ヌクレオチドにおいて相違を示す2つの相違する配列を産生する段階を含み、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、方法。
【請求項4】
ベクターがウイルスベクター、好ましくはポックスウイルスベクターである、請求項1に記載のベクター、または請求項2もしくは3に記載の方法。
【請求項5】
a)100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むウイルスを供給する段階と、
b)100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を前記ウイルスへ挿入する段階と
を含み、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、かつ、
2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、
異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、
2つの相同ヌクレオチド配列を含むウイルス、好ましくはポックスウイルスを産生するための方法。
【請求項6】
ポックスウイルスがワクシニアウイルス、好ましくは、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスである、請求項4または5に記載のベクターまたは方法。
【請求項7】
少なくとも75の異なるヌクレオチドが置換されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のベクターまたは方法。
【請求項8】
2つのヌクレオチド配列が2つの呼吸器合胞体ウイルス(RSV)遺伝子、特にRSV−Fおよび/もしくはRSV−G遺伝子、または2つの、好ましくは3つのフィロウイルス遺伝子、特にフィロウイルス糖タンパク質(GP)遺伝子である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のベクターまたは方法。
【請求項1】
それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクターであって、
2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、
2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、
異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、ベクター。
【請求項2】
a)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第1のヌクレオチド配列を供給する段階、
b)100アミノ酸をコードするサイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を供給する段階、
但し、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、
c)2つの異なるヌクレオチド配列をベクターに挿入する段階
を含む、請求項1に記載のベクターを産生するための方法。
【請求項3】
それぞれが100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの2つのヌクレオチド配列を含むベクター内での分子内組換えを低減させるための方法であって、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、一方または両方のヌクレオチド配列におけるヌクレオチドを置換して少なくとも75ヌクレオチドにおいて相違を示す2つの相違する配列を産生する段階を含み、異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、方法。
【請求項4】
ベクターがウイルスベクター、好ましくはポックスウイルスベクターである、請求項1に記載のベクター、または請求項2もしくは3に記載の方法。
【請求項5】
a)100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むウイルスを供給する段階と、
b)100アミノ酸をコードする、サイズが300ヌクレオチドの第2のヌクレオチド配列を前記ウイルスへ挿入する段階と
を含み、2つのヌクレオチド配列のそれぞれによってコードされる100アミノ酸が少なくとも75%のアミノ酸同一性を有し、かつ、
2つのヌクレオチド配列の一方が他方のヌクレオチド配列と異なる少なくとも75ヌクレオチドを有し、
異なるヌクレオチドが前記2つのヌクレオチド配列によってコードされる同一のアミノ酸を変化させない、
2つの相同ヌクレオチド配列を含むウイルス、好ましくはポックスウイルスを産生するための方法。
【請求項6】
ポックスウイルスがワクシニアウイルス、好ましくは、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスである、請求項4または5に記載のベクターまたは方法。
【請求項7】
少なくとも75の異なるヌクレオチドが置換されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のベクターまたは方法。
【請求項8】
2つのヌクレオチド配列が2つの呼吸器合胞体ウイルス(RSV)遺伝子、特にRSV−Fおよび/もしくはRSV−G遺伝子、または2つの、好ましくは3つのフィロウイルス遺伝子、特にフィロウイルス糖タンパク質(GP)遺伝子である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のベクターまたは方法。
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8Aa】
【図8Ab】
【図8Ac】
【図8Ba】
【図8Bb】
【図8Bc】
【図9Aa】
【図9Ab】
【図9Ac】
【図9Ad】
【図9Ae】
【図9Af】
【図9Ag】
【図9Ba】
【図9Bb】
【図9Bc】
【図9Bd】
【図9Be】
【図9Bf】
【図9Bg】
【図10】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8Aa】
【図8Ab】
【図8Ac】
【図8Ba】
【図8Bb】
【図8Bc】
【図9Aa】
【図9Ab】
【図9Ac】
【図9Ad】
【図9Ae】
【図9Af】
【図9Ag】
【図9Ba】
【図9Bb】
【図9Bc】
【図9Bd】
【図9Be】
【図9Bf】
【図9Bg】
【図10】
【公表番号】特表2012−509073(P2012−509073A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536785(P2011−536785)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008275
【国際公開番号】WO2010/057650
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509296443)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008275
【国際公開番号】WO2010/057650
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509296443)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (9)
【Fターム(参考)】
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