説明

複数の高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法

複数の高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法であって、
− 少なくとも15重量%の芳香族ポリアミドを含有する酸溶液を、紡糸口金中の線状に並んだオリフィスから押し出しフィラメントの縦糸を形成し、
−フィラメントの縦糸を非凝固液の層を通して凝固浴中に通し、次いで
− 縦糸を、少なくとも2つの対向する側面がフィラメントの縦糸に平行で、これらの側面の長さは少なくともフィラメントの縦糸の幅と同じ長さである、伸長された断面を有する紡糸管に通し、
− 追加の凝固液を、フィラメントに対して一定の流速で、下方向にフィラメントに対して15°から75°の間の角度で噴出させ、
− 噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約50%から100%の速度で、紡糸管を通って、フィラメントの縦糸と共に下方向に移動し、
凝固液は、フィラメントの縦糸に平行な紡糸管のどちらか一方の側面から、フィラメントの縦糸と少なくとも同じ幅を有するジェットチャンネルを通って噴出される、
各工程を含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドの酸溶液を、空気などの非凝固流体中に押し出し、水などの凝固液の浅い浴中に押し出し、そして浴の底のオリフィスを通して取り出して芳香族ポリアミドフィラメントを製造する方法は知られている。さらに、紡糸速度を速め、生産速度を上げ、製造方法をより効率化するためにさらなる改良が求められていた。しかし、紡糸速度を上げるとヤーンの品質が劣化する。悪い場合には、繊細で細いヤーンの場合には紡糸速度を低下させなければならない場合もある。これは生産能力をさらに低下させる。
高速紡糸は、フィラメントと凝固液との間の大きな速度差により、フィラメントと凝固液との間に顕著な摩擦を引き起こし、フィラメントの破断靱性などの品質を低下させることが認識されてきた。
【0003】
特許文献1には、改良された芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法が開示されている。この方法は、押出しの後、ポリマー溶液を垂直方向に重力加速下で自由落下する凝固液中を通過させる方法である。この方法では、フィラメントと凝固液との速度差は減少するが、凝固液の速度は重力加速度以上には増加させることはできないので、紡糸速度には限界がある。
その結果、特許文献2には、線状紡糸口金からのフィラメントの縦糸を、縦糸の両側に沿って均等にむらなく凝固液のシートを噴出(ジェット)させることにより、凝固させ、高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントを製造する方法が開示されている。凝固液の噴流はフィラメントと凝固液との相対速度をさらに減少させる。ジェットは縦糸の両側に位置し、ジェット凝固器は対称的配置を呈する。ジェットの対称的配置により、フィラメントは一箇所に力を受けることなく、凝固前後において固定物や機械表面と接触することがない。
【0004】
特許文献3には、少なくとも30g/100mlの芳香族ポリアミドを含有する酸溶液を、紡糸口金を通して非凝固流体の層中に押出し、その後、凝固浴中に押出し、紡糸口金と一列に配置された紡糸管を通してフィラメントを形成する、高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの改良された製造方法が記載されている。この方法では、追加の凝固液をフィラメントの周りに対称的にフィラメントに関し0°から85°の角度をなすように下方向に噴出させる。噴出する追加の凝固液の速度は、ヤーンの速度の高々150%程度である。ヤーン速度の約85%を超えないことが好ましい。この方法では、紡糸口金、紡糸管、ジェット、紡糸管の延長部を同軸に注意深く並べ、ジェットエレメントを注意深く設計し、ジェットエレメントを糸の方向に完全に対称的に噴出させないと、ヤーンの品質の向上は見られない。
個々のフィラメントの不均一な凝固条件を避け、フィラメントが紡糸管壁やフィラメント同士が粘着することを避け、高速紡糸において要求される品質のフィラメントを得るためには、対称的な噴流が必要であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,869,860号明細書
【特許文献2】米国特許第4,898,704号明細書
【特許文献3】米国特許第4,298,565号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、比較的単純で費用効果の高いプロセスレイアウトで、高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントを高速紡糸することができる、対称ジェット凝固器を用いる従来技術の方法とは別の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、複数の高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法であって、
− 少なくとも15重量%の芳香族ポリアミドを含有する酸溶液を、紡糸口金中の線状に並んだオリフィスから押し出しフィラメントの縦糸を形成し、
−フィラメントの縦糸を非凝固液の層を通して凝固浴中に通し、次いで
− 縦糸を、少なくとも2つの対向する側面がフィラメントの縦糸に平行で、これらの側面の長さは少なくともフィラメントの縦糸の幅と同じ長さである、伸長された断面を有する紡糸管に通し、
− 追加の凝固液を、フィラメントに対して一定の流速で、下方向にフィラメントに対して15°から75°の間の角度で噴出させ、
− 噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約50%から100%の速度で、紡糸管を通って、フィラメントの縦糸と共に下方向に移動し、
凝固液は、フィラメントの縦糸に平行な紡糸管のどちらか一方の側面から、フィラメントの縦糸と少なくとも同じ幅を有するジェットチャンネルを通って噴出される、
各工程を含む前記方法によって達成される。
【0008】
本発明の方法で製造されたヤーンは、巻き取る前に、公知の方法で、向きを変えられ、洗浄され、および/または中和され乾燥される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
芳香族ポリアミド
本発明において縦糸とは、本質的に平行に並んで配置されたフィラメントの配列を意味する。
本発明による方法は非対称のジェット配置を採用する。凝固液はフィラメントに対してフィラメントの一方向側だけに噴出される。ジェット凝固器中で、凝固液、好ましくは水若しくは水性溶液はヤーンに沿って噴出される。このようにすることにより、水/ヤーンの摩擦が減少され、その結果ヤーンのテンションも減少される。また噴流の角度を注意深く選択することにより、凝固浴からの引き込みを制御することができる。このことにより浴から溢れる液の安定性を制御することができる。また噴流はスレッドアップ中にヤーンを吸い込むために用いることもできる。
【0010】
従来技術にはこのようなことは記載されていないが、線状紡糸口金と非対称ジェット配置とを組み合わせる本発明の方法によれば、驚くべきことに、高速紡糸しても品質を損なうことなく、高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントが得られることが見いだされた。個々のフィラメントを凝固液で包み、紡糸管壁への粘着や、他のフィラメントとの粘着を防止するためには非対称ジェット配置で十分である。本発明の方法は、製造が大変簡単でコストを低減させることができる一つのジェットが必要とされるだけなので、簡単な凝固ユニットを構成することができる。二つ若しくは多数の対称的に配置されたジェットの代わりに一つのジェットを使用することは、管内で同程度の速度を得るためにジェットチャンネルの高さを増加させることができるので、ジェットチャンネル出口での閉塞のリスクを減少させる。ただし、流速と紡糸管断面は同じで、一つのジェットチャンネルだけから同じ流量で流れるとする。二つの対称的に配置されたジェットと同じ幅を有する単一のジェットチャンネルの高さは、二つの対称的に配置されたジェットの高さの二倍にすることができる。同じ程度の精密さで狭いジェットチャンネルを製造することは困難であるので、ジェットチャンネルの高さを増加させることは、単純な構造とする利点がある。
ジェットの幅は、フィラメント縦糸の幅の少なくとも2.5%、より好ましくは少なくとも5%、最も好ましくは少なくとも10%超えることが好ましい。
【0011】
本発明の方法では、円の面内にわたり、放射状に配置されたオリフィスまたはオリフィスの束からなる環状紡糸管の代わりに、線状に伸びた紡糸管を使う。環状紡糸管の配置は、フィラメント束若しくは放射状フィラメントの外側境界から、フィラメント束若しくは放射状フィラメントの中心にかけて、複数のフィラメントの不均一な凝固条件を導く。
紡糸口金オリフィスは一列に配置され、各列のオリフィスの位置は、フィラメントが均一に空間配置された縦糸とするため、隣の列のオリフィスとは、ずれて配置される。
オリフィスの配列は1から25列、好ましくは3から15列、より好ましくは3から10列である。紡糸口金オリフィスは、間隔を好ましくは0.4から1.5mm離れて配置される。そして等辺三角形ピッチとなるように、一つの列における隣り合ったオリフィスの距離と、隣り合った列のオリフィスとの距離が同じになるよう配置される。好ましい態様では、一列当たりのオリフィスの数は50から200である。
好ましい凝固液は水性溶液であり、好ましくは水である。凝固液は通常、初期温度が20℃未満、好ましくは10℃未満である。
噴流には上限がある。噴流速度が紡糸速度に近づくとデフレクションロールの前でのテンションが低くなり、ヤーンが変向せず、真っ直ぐ下へ落下する。デフレクションロールはヤーンの方向を垂直から水平へまたその逆にする。本発明の好ましい態様において、噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約80%から95%の速度で、紡糸管を通ってフィラメントと共に下方向に移動する。
【0012】
本発明の他の好ましい態様において、各フィラメントは0.4dtexから10dtexの線密度を有する。本発明の方法で紡糸されるフィラメントの数は50から5000フィラメント、より好ましくは500から2500フィラメントである。
紡糸管を通って下方向に移動するフィラメントの速度は、好ましくは300m/分から2000m/分の間、より好ましくは300m/分から1000m/分の間である。
本発明の方法は、噴出された液体および/または洗浄液が、捕集されジェット凝固器に供給され、部分的若しくは全体的に再利用されると特に有利である。ジェットチャンネルの高さを上げさせることは対称ジェット配置に比べ閉塞の危険性を低下させる。
本発明の方法は単一の紡糸口金に限定されるのではなく、平行に走る複数の紡糸口金、即ち紡糸マニホールドにも適用される。
【0013】
本発明の目的は、複数の高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法であって、
− 少なくとも15重量%の芳香族ポリアミドを含有する酸溶液を、1から10の環状に並んだオリフィスを有する紡糸口金から押し出しフィラメントの束を得て、
− フィラメントの束を非凝固液の層を通して凝固浴中に通し、次いで
− フィラメントの束を、紡糸管内壁を内径とし紡糸管外壁を外径とする環状の断面を有する紡糸管に通し、
− 追加の凝固液を、フィラメントに対して一定の流速で、下方向にフィラメントに対し15°から75°の間の角度で噴出させ、
− 噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約50%から100%の速度で、紡糸管を通って、フィラメントの縦糸と共に下方向に移動し、
凝固液は、紡糸管外壁または紡糸管内壁の周囲に沿って位置するジェットチャンネルを通って噴出される、
各工程を含む前記方法によっても達成される。
【0014】
この配置における凝固液は、フィラメントの片側だけに対して噴出される、それゆえ非対称ジェット配置とみなされる。噴出は、紡糸管内径または紡糸管外径の方向から行われる。フィラメントは、紡糸管内壁または紡糸管外壁に対して吹き付けられる。しかしながら、ジェット配置は凝固液で個々のフィラメントを包むのに十分であり、フィラメントが紡糸管壁や他のフィラメントと粘着するのを防止するのに十分である。
本発明の好ましい態様において、紡糸管の内径は少なくとも4mm、より好ましくは6mm、最も好ましくは12mmである。
上記で開示された方法で紡糸されるフィラメントの数は少なくとも250、好ましくは少なくとも500である。
【実施例】
【0015】
本発明の方法をより詳細に以下の限定されない実施例で説明する。
【0016】
紡糸は、芳香族ポリアミドの酸溶液を、1mmの三角形のピッチで3列に配列された125の細管からなる紡糸口金より押し出して行った。紡糸速度は500m/分であった。紡糸管中の下方向へ噴出させた凝固液の速度は紡糸速度の80%であった。噴出角度は30°であった。
得られたヤーンの破断伸度(EAB)と破断靭性(BT)は、ASTMD 885−98に従って測定した。
ジェット凝固器により得られたヤーンの特性は、同じ芳香族ポリアミドの酸溶液を用い同じ装置を用い、追加の凝固液をフィラメントに噴出しないで得られたヤーンと比較して示した。
【0017】
実施例1
実施例1は、ジェットの高さ0.5mmで紡糸管の幅が1mmの非対称ジェット配置を用いて行った。表1にジェットの有無による得られたヤーンの特性を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例2
実施例2は、二つのジェットが互いに反対側についた対称ジェット配置を用いて行った。紡糸管幅は実施例1と同じ1mmであった。実施例1と同じ流量で二つのジェットを通したので、紡糸管内の凝固液の速度を同じにするため、ジェットの高さは0.25mmに減少させた。表2にジェットの有無による得られたヤーンの特性を示す。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例3
実施例3は、二つのジェットが互いに反対側についた対称ジェット配置を用いて行った。この実施例ではジェットの高さは実施例1と同じ0.5mmに保った。各ジェットから実施例1と同じ流量で流した。そのため紡糸管内の流量は実施例に比べ2倍となった。紡糸管内の凝固液の速度を同じにするため紡糸管の幅を二倍の2mmにした。表3にジェットの有無による得られたヤーンの特性を示す。
【0022】
【表3】

【0023】
非対称ジェット配置によれば、対称ジェット配置を用いる場合に比べ、同等若しくはより良いヤーン物性を得ることができる。実施例3は基本的に実施例1に比べヤーン物性において同じ効果を得ることができるが、対称配置は凝固液の流量を非対称ジェット配置に比べ2倍にする必要がある。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法であって、
− 少なくとも15重量%の芳香族ポリアミドを含有する酸溶液を、紡糸口金中の線状に並んだオリフィスから押し出しフィラメントの縦糸を形成し、
−フィラメントの縦糸を非凝固液の層を通して凝固浴中に通し、次いで
− 縦糸を、少なくとも2つの対向する側面がフィラメントの縦糸に平行で、これらの側面の長さは少なくともフィラメントの縦糸の幅と同じ長さである、伸長された断面を有する紡糸管に通し、
− 追加の凝固液を、フィラメントに対して一定の流速で、下方向にフィラメントに対して15°から75°の間の角度で噴出させ、
− 噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約50%から100%の速度で、紡糸管を通って、フィラメントの縦糸と共に下方向に移動し、
凝固液は、フィラメントの縦糸に平行な紡糸管のどちらか一方の側面から、フィラメントの縦糸と少なくとも同じ幅を有するジェットチャンネルを通って噴出される、
各工程を含む前記方法。
【請求項2】
噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約80%から95%の速度で、紡糸管を通って、フィラメントの縦糸と共に下方向に移動することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
フィラメントは、0.5dexから10dexの線密度を有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フィラメントの速度は、300m/分から2000m/分の間であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
凝固液は、捕集しジェットに供給することにより、部分的に若しくは全体が再利用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
複数の高強度、高モジュラス芳香族ポリアミドフィラメントの製造方法であって、
− 少なくとも15重量%の芳香族ポリアミドを含有する酸溶液を、1から10の同心環状に並んだオリフィスを有する紡糸口金から押し出しフィラメントの束を得て、
− フィラメントの束を非凝固液の層を通して凝固浴中に通し、次いで
− フィラメントの束を、紡糸管内壁を内径とし紡糸管外壁を外径とする環状の断面を有する紡糸管に通し、
− 追加の凝固液を、フィラメントに対して一定の流速で、下方向にフィラメントに対して15°から75°の間の角度で噴出させ、
− 噴出された凝固液は、フィラメントの速度の約50%から100%の速度で、紡糸管を通って、フィラメントの縦糸と共に下方向に移動し、
凝固液は、紡糸管外壁または紡糸管内壁の周囲に沿って位置するジェットチャンネルを通って噴出される、
各工程を含む前記方法。

【公表番号】特表2012−500908(P2012−500908A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524284(P2011−524284)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059324
【国際公開番号】WO2010/023037
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】