複数種流体混合ポンプ装置
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は複数種流体混合ポンプ装置、特に流体吸引方式の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に高圧液体クロマトグラフィーでは、使用する溶離液(移動相)を送出するため、ポンプ装置が用いられる。ところで、前記高圧液体クロマトグラフィーでは単一溶媒を使用する場合と、複数種の溶媒を混合して使用する場合がある。また、複数種の溶媒を混合して使用するには、一定の組成比にて混合して使用する場合と、時間的に組成比を変化させて使用する場合があるが、いずれの場合も複数種溶媒の適切な組成比での混合を行う必要がある。
【0003】一般的に溶媒の混合を行う場合には、二種類の方法が用いられ得る。一つは、複数種の溶媒に対応した複数の送液ポンプを使用し、それぞれの送液ポンプの流量を制御することで所定の混合比を得る方法(高圧混合方式)である。この場合には、それぞれのポンプは単一の溶媒を送液させる。今一つの方法は、特にプランジャーポンプの場合に多く用いられる方式であり、一台のポンプを使用してポンプが吸引する溶媒を複数のバルブで時間的に切り替えて所定の混合比を得る方式(低圧混合方式)である。この低圧混合方式は、前記高圧混合方式に比較し、ポンプが一台で足りるため比較的簡易な構成で流体混合を行うことができる。
【0004】すなわち、一のプランジャーポンプが吸引、吐出を交互に行うシングルヘッドポンプの場合、吸引工程と吐出工程が時間的に交互に行われる。このため、吸引工程にて複数種の溶媒を混合しようとする低圧混合では、吸引区間の開始を検出して溶媒混合用のバルブ(電磁弁)制御を行う必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところでこの低圧混合方式のポンプにあっては、一回のポンプの吸引行程で0.1%以下の分解能、精度で溶媒の混合を行う必要がある。しかしながら、低圧混合方式の場合にはこのような高精度の溶媒組成管理を行うことは極めて困難であった。この原因には種々考えられており、その対策についても各種の手法が考慮されている(特公平4―39034号、特開昭57−204453号、特公昭62−51424号、特公平5−16296号、特公平6−77004号、特開昭63−139251号、特開平7―77521号等)
【0006】すなわち、HPLC用ポンプは大気圧下にある溶媒をカラム圧(一般に50〜150kg/cm2)まで昇圧して溶媒を送る必要があるため、ポンプヘッド内での昇圧のための吐出遅れ、ポンプヘッド内のチェック弁の遅れなどにより、理論的な送液プロフィールに従わない。つまり、プランジャーの往復運動は、プランジャーを駆動するカムのプロフィールに一致しても、実際の送液パターンは、そのカムプロフィールに一致しないという現象が起きる。
【0007】これは、カムのプロフィールに従って吸引が行われることを前提に低圧混合のためのバルブ制御を行っても、実際に吸引される溶媒混合比は期待した混合比にならないことを意味する。具体的な例として、プランジャー駆動のポンプではカラム圧力(吐出圧力)が高くなると、同一のプランジャー駆動スピードであっても送液流量が低下するという現象が起きる。また、粘性の違う溶媒を送液する場合には、粘性によって送液流量が変化する。
【0008】このように、流体の吐出流量が変化するということは吸引される量が変化することであり、これは吸引工程にて複数種の溶媒を混合する低圧混合では吐出圧力、溶媒粘性により組成比が一定とならないことを意味する。この結果、前述した組成の高分解能、高精度を達成することは極めて困難であった。そして、前記従来の各種対策によっても未だ充分なものとはいえず、一層の改善が求められていた。本発明の前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は高分解能、高精度の複数種流体混合ポンプ装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明にかかる複数種流体混合ポンプ装置は、切替手段と、検出手段と、制御手段と、を備えることを特徴とする。ここで、切替手段は、ポンプへ吸引される複数種の流体を切り替える。また、検出手段は、前記ポンプの作動段階を検出する。制御手段は、前記検出手段による吸引開始検出に基づき、吸引開始後、吸引完了前の区間を除いた区間に、前記複数種の流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように前記切替手段に切替指令を与える。
【0010】また、本発明において、ポンプの駆動にステッピングモータを用い、設定流量に対するパルス数を変更するパルス数変更手段を設けることが好適である。また、本発明においては、パルス数変更手段はポンプ圧力に基づきパルス数を変更可能とすることが好適である。また、本発明において、パルス数変更手段は単位濃度当たりのパルス数を変更可能とすることが好適である。
【0011】また、本発明において、ポンプは複数種流体切替時にその導入路がすべて閉状態となる区間を設け、パルス数変更手段は該区間長に応じて単位濃度当たりのパルス数を変更可能とすることが好適である。また、本発明において、制御手段は吸引開始検出に基づき、吸引開始後、吸引完了前のポンプヘッドの加減速区間を除いた区間に前記複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように前記切替手段に切替指令を与えることが好適である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明者らが低圧混合方式の複数種流体混合ポンプ装置の高精度化について各種検討したところ、複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引量に問題を生じる結果、組成比精度の低下を招く場合が多く、特にその原因としてポンプによる流体の吸引開始、吸引完了前後における吸引の乱れが挙げられることが解明された。そこで本発明においては、複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引を、ポンプによる流体の吸引開始、完了時を避けて行うこととしたのである。この場合には組成比の大きな流体の吸引が、ポンプによる吸引開始、完了前後に行われることとなるが、組成比の大きな流体の吸引量に多少の変動があっても、組成比に与える影響は小さい。
【0013】また、本発明において、ポンプの駆動にステッピングモータを用い、設定流量に対するパルス数を変更するパルス数変更手段を設けることにより、例えばポンプによる流体の吸引開始、完了前後における吸引乱れ、ポンプ圧力変動、流体特性による変動等を補正することができる。
【0014】また、本発明において、ポンプは複数種流体切替時にその導入路がすべて閉状態となる区間を設けることでバルブ開閉時間のばらつきに起因する混合精度低下を防止し、パルス数変更手段は該区間長に応じて単位濃度当たりのパルス数を変更可能とすることで前記全閉状態の発生に伴う組成比変化を補償することができる。又、本発明においてポンプヘッドの加減速区間はプランジャーの移動速度が一定でない区間を意味している。
【0015】以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態を説明する。図1には本発明の一実施形態にかかる複数種流体混合ポンプ装置の概念構成図が示されている。同図に示すポンプ装置10は、プランジャーポンプ12と、該ポンプ12に吸引される流体を切り替える切替手段14と、前記ポンプ12の作動状態を検出する検出手段16と、前記切替手段14に切替指令を与える制御手段18と、前記ポンプ12の駆動を行う駆動手段20とを含む。
【0016】そして、前記プランジャーポンプ12は、ヘッド21に設けられたシリンダー部22と、該シリンダー部22の二本のシリンダー22a,22bにそれぞれ摺動可能に嵌合されたデリバリーヘッド用プランジャー24およびモディファイヤヘッド用プランジャー26と、前記プランジャー24,26とそれぞれ当接するカム28a,28bを備えたカム部28とを有する。そして、該カム部28のカム28a,28bが、カム軸30とともに回転すると、前記カム28a,28bとそれぞれ当接するプランジャー24,26がシリンダー22a,22bに対して相対的に上下する。そして、図2に示すようにデリバリーヘッド用プランジャー24が上昇した場合にはモディファイヤヘッド用プランジャー26が下降し、デリバリーヘッド21aからの吐出量とモディファイヤヘッド21bの吸引量の差分がポンプ12からの吐出量として吐出口32よりカラムに送出される。一方、デリバリーヘッド用プランジャー24が下降した場合には吸引口34より流体を吸引するが、デリバリーヘッド21aのシリンダー22aとモディファイヤヘッド21bのシリンダー22bの間及び吸引口34には逆止弁35a,35bが設けられているため、逆流は生じない。そして、この間モディファイヤヘッド用プランジャー24は上昇し、吐出口32からの流体の吐出は継続され、該吐出口32の流体吐出速度は常に一定となる。
【0017】また、図1に示す切替手段14は、それぞれ吸引口34に接続された第一バルブ40と第二バルブ42、および各ドライバー44,46より構成される。そして、第一バルブ40が導通された場合には図示を省略した第一溶媒タンクより組成比の大きな第一溶媒がポンプ12に導入される。また、第二バルブ42が導通された場合には図示を省略した第二溶媒タンクより組成比の小さな第二溶媒がポンプ12に導入される。
【0018】また、検出手段16は、ディスク50と、該ディスク50の外周部に設けられた開口52を検出するフォトインタラプタ54を備える。そして、前記ディスク50は前記カム軸30と連結され、デリバリーヘッド用プランジャー24の下死点すなわち溶媒の吐出開始点を検出する。また、制御手段18は、CPU60と、前記フォトインタラプタ54からの吐出開始検出信号を受けて前記CPU60に割込信号を送出する割込信号発生回路62と、該CPU60の指令に基づき前記バルブドライバー44,46にバルブ制御信号を供給するインターフェース64と、カウンター回路66およびモータクロック発生回路68を備える。
【0019】駆動手段20は、ステッピングモータ70およびそのドライブ回路72を備えている。そして、ステッピングモータ70の駆動軸が前記カム軸30と連結されている。ドライブ回路72は制御手段18のモータクロック発生回路68の発生するモータークロックに基づき駆動指令をモータ70に与え、該モータクロックは同時にカウンター回路66によりカウントされて各バルブの閉時間、開時間の管理を行う。
【0020】本実施例にかかる複数種流体混合ポンプ装置10は概略以上のように構成され、次にその作用について説明する。本発明において特徴的なことは、ポンプによる吸引開始後、吸引完了前のプランジャー又はカムの加減速区間を除いた区間で、複数種の溶媒の内、組成比の小さい溶媒の吸引を行うことである。すなわち、本実施例においてポンプ装置10はデリバリーヘッド21aとモディファイヤヘッド21bの二つの送液ヘッドを持っているが、このうち溶媒の吸引を行うのはデリバリーヘッド21aだけである。このため、図3に示すように、溶媒の吸引は間欠的に行われており、低圧混合を行うには吸引区間を検出してそれに同期して混合用バルブ40,42を制御する必要がある。
【0021】本実施例にかかる装置のデリバリーヘッド用プランジャー24のカムプロフィールは、図3に示すようにデリバリーヘッド21aが吐出を開始する位置を0度とすると吐出完了地点は150度になっている。つまり吸引区間は210度あることになる。しかし、プランジャーを長期間安定して駆動するためには、急激にプランジャーの移動方向を逆転することはできないので、吸引開始後15度、吸引完了前15度は加減速区間となっている。
【0022】すなわち、本実施例にかかる装置は、吸引工程についてのみ着目するとシングルヘッドポンプである。このため、間欠的に溶媒の吸引を行うことを考慮すれば、カムの位置検出を行い吸引区間をあらかじめ検出しておき、その区間でのみ各溶媒に対応したバルブ40,42を切り替えて所定の混合比を得るという制御が必要となる。
【0023】そこで、本実施例においてはカム軸30に位置検出用のディスク50を設置し、そのディスク50に開口52を設けている。この開口52をフォトインタラプタ54にて検出し、この信号により割込信号発生回路62がCPU60に割り込みを行う。このディスク50に設けられた開口52は吐出開始位置にあわせるようになっている。このように吸引開始位置ではなく吐出開始位置を基準に用いたのは、吐出開始位置でカムの回転を一瞬早くして脈動を小さくするためである。そして、CPU60は、カウンター回路66を用いて吐出開始位置から150度後の吸引開始位置までステッピングモータ70のパルス数をカウントすることで吸引開始位置を検出している。
【0024】本実施例においては第一溶媒および第二溶媒の混合比にあわせてバルブ40,42の開時間を制御して所定の混合比を得るが、この開時間の制御はステッピングモータ70の駆動に用いられているパルス数をカウンター回路66によりカウントすることで行っている。ステッピングモータ70は、その特性上、入力されたパルス数に従って駆動軸の回転角度が変化するので、ステッピングモータ70に送られたパルス数をカウンター回路66によりカウントし、カムの位置を算出する。つまり、第一溶媒および第二溶媒の要求される混合比をパルス数に変換し、この値をカウンタにセットしこのカウント時間分だけそのバルブを開けるのである。
【0025】なお、本実施例においては、パルス数変更手段80を備えており、以下に詳述するパルス数補正を可能としている。
低圧混合方法ここで、2溶媒の混合を行う場合を例に説明する。
(1)第一溶媒および第二溶媒の混合プログラムの設定値に基づき混合比を求める。混合比は、初期値と時間プログラムによって設定されており、時間プログラム実行時は一定時間間隔で演算を行い、溶媒の所定の混合比を求める。
(2)求められた混合比からバルブ40,42の必要開時間すなわちパルス数を算出する。
【0026】(3)前記溶媒の内、組成比の大きい溶媒のバルブの導通を吸引区間の開始、終了区間に2分して割り当て、組成比の小さい溶媒のバルブの導通が中間となるように、バルブ開閉の順番を予め決めておく。
(4)位置検出により割込信号発生回路62より割り込みがあったときには、吸引区間の開始位置を見つめるためのカウント作動を行う。
(5)吸引区間が開始されると、組成比の大きい第一溶媒のバルブ40の必要開パルス数の1/2(吸引区間開始時と完了時に分割するため)を設定し、同時にインターフェース64に該当するバルブ40の開信号を出力する。
【0027】(6)カウントが完了したら、CPU60はインターフェイス64を介してバルブ40の閉信号を出力する。そして、組成比の小さい第二溶媒のバルブ42の開パルス数をカウンタにセットし、同時にインターフェース64を介してバルブ42の開信号を出力する。
(7)組成比の小さい第二溶媒の吸引が終了したら、前記(5)と同様にして再度組成比の大きい第一溶媒の、残り半分の吸引を行う。以上で一吸引区間での制御が終了する。
【0028】パルス数の算出ところで、デリバリーヘッド用プランジャー24のカム28aは210度の吸引区間を有しているが、開始、終了の15度は加減速区間となっており、一定に吸引する区間と比べて吸引の量は少ない上にチェック弁の遅れもあり、低圧混合を行う区間として考えるには安定性に欠けるといえる。このため、バルブ開時間を決定するパルス数の算出にあたり、この区間は混合の対象となる吸引区間から半分の15度だけ除外してある。つまり、吸引区間は195度として考えている。
【0029】ここで、カムが195度回転する間にステッピングモータドライブ回路72に与えるパルス数を求めると、ステッピングモータ1回転のパルス数:360/1.8×16=3200(ここで、16:マイクロステップ数、1.8:ステッピングモータの分解能)
カム軸一回転のパルス数:3200×3.14=10048(ここで、3.14:ギア比)
吸引区間のパルス数:10048×195/360=5442(ここで、195:吸引区間角度)
つまり、一回の吸引工程でのパルス数は5442パルスであり、これが100%に相当する。従って、1%あたりのパルス数は54.42パルスである。本実施例ではこの数字を元にパルス数を求め、以下の補正を行う。
【0030】圧力によるパルス数補正一般にプランジャーポンプでは圧力が上昇すると流量が低下するという現象が生じる。これは、圧力の上昇により、デリバリーヘッド21a内で吸引から吐出に変わるとき、ヘッド内での予圧区間が生じること(吸引は大気圧、吐出はカラム圧)、また、チェック弁の切り替わり時の漏れが圧力が大きくなると増加することに起因する。これは、実質的な吸引区間の減少を意味し、低圧混合時の濃度を制御する上で同じパルス数を与えて同じ時間バルブを開閉しても、圧力が高くなると濃度は濃い方に変化することになる。
【0031】以上の点を考慮すると、圧力上昇に従って濃度対パルス数の関係を変えること、つまり圧力上昇の度合いによりパルス数を減少させる補正が必要となる。このため、本実施例では以下に示す圧力補正を行っている。すなわち、圧力上昇による流量の低下は、本実施例では「PRESS COMP」という設定値にて補正を行っている。この値は圧力が100kg/cm2上昇したときに、何%流量(モータ駆動パルス数)を増加させるかという数値である。
【0032】吐出する量(流量)とは、すなわち吸引する量であり、低圧混合でもこの圧力補正値はそのまま使用できる。しかし、実測すると、PRESS COMPの値をそのまま用いたのでは補正量が大きすぎるという結果から、PRESS COMPの42%の値を採用した。
補正計算式:パルス数×{1−(PRESS COMP × PRESS × 0.42)/100}
(ここで、PRESS = 10秒間の平均圧力、PRESS COMP:100kg/cm2圧力上昇したときの流量増加係数(%))
【0033】ポンプ差によるパルス補正前記「パルス数の算出」で求めた1%当たりのパルス数は、ポンプ間の特性のばらつきによりすべての装置に共通では使えない場合がある。これはチェック弁の性能にばらつきがあるためと考えられる。また、使用する溶媒の粘性によりチェック弁の作動スピードが変わり、且つ圧縮率の差により吐出から吸引への切り替わり時に吸引される溶媒量が変化する。このため、単位濃度当たりのパルス数を固定して使用していると、ポンプ間や使用する溶媒によって混合濃度精度が変化してくる。この結果、0−100%のリニアグラジェント実行時に50%付近にて段差が生じるという現象が生じる(図4参照)。
【0034】そこで、単位濃度当たりのパルス数を補正するために、最終的に求まったパルス数(圧力補正実施後の値)に対し、0.1%単位で補正できる係数LPG COMPを設定可能としている。この数値は1.500〜0.500までの範囲で設定可能であり、この値がパルス数に直接掛けられる。この補正結果が図5に示されており、図4では50%付近で混合比が直線的に変化していないが、図5ではこの点が大幅に改善されている。
【0035】バルブ差によるパルス数補正例えば、閉じるときのスピードが比較的遅いバルブと、開くスピードが比較的早いバルブとの間で、混合を行う場合には、遅い方のバルブの溶媒が早い方のバルブ側に流れ込む現象を生じ、これが混合精度低下を引き起こす。この影響は組成比の小さい時、例えば組成比の低い溶媒が1−5%程度となるような時に顕著に現れる。この現象を防ぐため本実施例においては、制御手段18によるバルブ切り替わり時の制御で、開いているバルブが閉じ、閉じていたバルブが開くときの時間差を電気回路にて強制的に16msec程度ずらすようにしている(図6参照)。この結果、バルブ開閉時間のばらつきにより期待される混合精度が得られない現象を改善することができる。
【0036】しかし、本実施例では両バルブを閉じる時間を設けることにより、次に開くバルブの開時間がそれ時間分だけ短くなり、実質的に所定の開時間だけバルブが開けなくなる。本実施例ではこの減少分を補正するためにVALVE COMPという補正値を使用する。設定値は0.1%単位で変更可能であり、0.1%につき5.4パルス(パルス数の算出で求めた1%当たりのパルス数54.42の1/10)が最終的に求めた濃度に対応したパルス数に加算される。この結果、図7に示すように1%での混合比が所定の値よりも低かった現象が図8に示すように解消され、1%の混合比の精度が高くなる。
【0037】図9には本発明の第二実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーのプロフィールと吸引溶媒切替状態が示されている。同図に示すように組成比の小さい溶媒の設定濃度が10%以下の場合には、一吸引工程につき毎回10%以下の吸引時間を設けるのではなく、複数吸引に一度組成比の小さい溶媒の吸引を行うことが好適である。すなわち、組成比が10%以下程度の溶媒をポンプの毎回の吸引工程で吸引すると、バルブ切替に伴う乱流の発生等が頻繁に生じ、該組成比の小さい溶媒の吸引量に与える影響が大きくなる。そこで本実施例においては、組成比が10%以下の溶媒については複数吸引に一度吸引を行うこととしているのである。
【0038】また、組成比が10%以下程度ではなくても、流量が大きくなると同様の状況になる場合がある。例えば、流量が3ml/min以上になると、組成比が10%以下ではなくても複数吸引に一度吸引を行う場合がある。なお、前記各実施例においては、本発明にかかるポンプ装置をHPLC用ポンプ装置として用いた例について説明したが、これに限られるものではなく、各種用途に用いることができる。
【0039】また、前記各実施例においては、吸引対象となる溶媒が二種類の場合について説明したが、これに限られるものではなく、三種類以上の溶媒についても同様に組成比の大きな溶媒をポンプによる吸引開始、完了前後に対応させることで、同様の効果を得ることができる。例えば組成比の順に溶媒A<B<C…とすると、Aの吸引区間を中央へ、Bをその前後に、CをBのその前後に…という順に割り振ることが好適である。また、本発明は複数のポンプヘッドを並列配置し、交互に吸引・吐出する方式のポンプ装置にも適用可能である。
【0040】
【発明の効果】以上説明したように本発明にかかる複数種流体混合ポンプ装置によれば、吸引開始後、吸引完了前のポンプヘッドの加減速区間を除いた区間に、複数種の溶媒の内、吸引量の少ない流体の吸引を行うようにしたので、組成比の正確な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施例にかかる複数種流体混合ポンプ装置の概略構成の説明図である。
【図2】第一実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーとモディファイヤヘッド用プランジャーの作動プロフィールの説明図である。
【図3】第一実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーのプロフィールおよび溶媒切替状態の説明図である。
【図4】第一実施例にかかるポンプ装置の単位濃度当たりのパルス数を補正する前の組成比の変化を示す説明図である
【図5】第一実施例にかかるポンプ装置の単位濃度当たりのパルス数を補正した後の図4相当図である。
【図6】第一実施例においてバルブ全閉状態の説明図である。
【図7】第一実施例においてバルブ全閉状態の補正をする前の組成比の変化を示す図である。
【図8】第一実施例においてバルブ全閉状態の補正した後の図7相当図である。
【図9】第二実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーのプロフィールおよび溶媒切替状態の説明図である。
【符号の説明】
10 ポンプ装置
14 切替手段
16 検出手段
18 制御手段
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は複数種流体混合ポンプ装置、特に流体吸引方式の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に高圧液体クロマトグラフィーでは、使用する溶離液(移動相)を送出するため、ポンプ装置が用いられる。ところで、前記高圧液体クロマトグラフィーでは単一溶媒を使用する場合と、複数種の溶媒を混合して使用する場合がある。また、複数種の溶媒を混合して使用するには、一定の組成比にて混合して使用する場合と、時間的に組成比を変化させて使用する場合があるが、いずれの場合も複数種溶媒の適切な組成比での混合を行う必要がある。
【0003】一般的に溶媒の混合を行う場合には、二種類の方法が用いられ得る。一つは、複数種の溶媒に対応した複数の送液ポンプを使用し、それぞれの送液ポンプの流量を制御することで所定の混合比を得る方法(高圧混合方式)である。この場合には、それぞれのポンプは単一の溶媒を送液させる。今一つの方法は、特にプランジャーポンプの場合に多く用いられる方式であり、一台のポンプを使用してポンプが吸引する溶媒を複数のバルブで時間的に切り替えて所定の混合比を得る方式(低圧混合方式)である。この低圧混合方式は、前記高圧混合方式に比較し、ポンプが一台で足りるため比較的簡易な構成で流体混合を行うことができる。
【0004】すなわち、一のプランジャーポンプが吸引、吐出を交互に行うシングルヘッドポンプの場合、吸引工程と吐出工程が時間的に交互に行われる。このため、吸引工程にて複数種の溶媒を混合しようとする低圧混合では、吸引区間の開始を検出して溶媒混合用のバルブ(電磁弁)制御を行う必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところでこの低圧混合方式のポンプにあっては、一回のポンプの吸引行程で0.1%以下の分解能、精度で溶媒の混合を行う必要がある。しかしながら、低圧混合方式の場合にはこのような高精度の溶媒組成管理を行うことは極めて困難であった。この原因には種々考えられており、その対策についても各種の手法が考慮されている(特公平4―39034号、特開昭57−204453号、特公昭62−51424号、特公平5−16296号、特公平6−77004号、特開昭63−139251号、特開平7―77521号等)
【0006】すなわち、HPLC用ポンプは大気圧下にある溶媒をカラム圧(一般に50〜150kg/cm2)まで昇圧して溶媒を送る必要があるため、ポンプヘッド内での昇圧のための吐出遅れ、ポンプヘッド内のチェック弁の遅れなどにより、理論的な送液プロフィールに従わない。つまり、プランジャーの往復運動は、プランジャーを駆動するカムのプロフィールに一致しても、実際の送液パターンは、そのカムプロフィールに一致しないという現象が起きる。
【0007】これは、カムのプロフィールに従って吸引が行われることを前提に低圧混合のためのバルブ制御を行っても、実際に吸引される溶媒混合比は期待した混合比にならないことを意味する。具体的な例として、プランジャー駆動のポンプではカラム圧力(吐出圧力)が高くなると、同一のプランジャー駆動スピードであっても送液流量が低下するという現象が起きる。また、粘性の違う溶媒を送液する場合には、粘性によって送液流量が変化する。
【0008】このように、流体の吐出流量が変化するということは吸引される量が変化することであり、これは吸引工程にて複数種の溶媒を混合する低圧混合では吐出圧力、溶媒粘性により組成比が一定とならないことを意味する。この結果、前述した組成の高分解能、高精度を達成することは極めて困難であった。そして、前記従来の各種対策によっても未だ充分なものとはいえず、一層の改善が求められていた。本発明の前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は高分解能、高精度の複数種流体混合ポンプ装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明にかかる複数種流体混合ポンプ装置は、切替手段と、検出手段と、制御手段と、を備えることを特徴とする。ここで、切替手段は、ポンプへ吸引される複数種の流体を切り替える。また、検出手段は、前記ポンプの作動段階を検出する。制御手段は、前記検出手段による吸引開始検出に基づき、吸引開始後、吸引完了前の区間を除いた区間に、前記複数種の流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように前記切替手段に切替指令を与える。
【0010】また、本発明において、ポンプの駆動にステッピングモータを用い、設定流量に対するパルス数を変更するパルス数変更手段を設けることが好適である。また、本発明においては、パルス数変更手段はポンプ圧力に基づきパルス数を変更可能とすることが好適である。また、本発明において、パルス数変更手段は単位濃度当たりのパルス数を変更可能とすることが好適である。
【0011】また、本発明において、ポンプは複数種流体切替時にその導入路がすべて閉状態となる区間を設け、パルス数変更手段は該区間長に応じて単位濃度当たりのパルス数を変更可能とすることが好適である。また、本発明において、制御手段は吸引開始検出に基づき、吸引開始後、吸引完了前のポンプヘッドの加減速区間を除いた区間に前記複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように前記切替手段に切替指令を与えることが好適である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明者らが低圧混合方式の複数種流体混合ポンプ装置の高精度化について各種検討したところ、複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引量に問題を生じる結果、組成比精度の低下を招く場合が多く、特にその原因としてポンプによる流体の吸引開始、吸引完了前後における吸引の乱れが挙げられることが解明された。そこで本発明においては、複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引を、ポンプによる流体の吸引開始、完了時を避けて行うこととしたのである。この場合には組成比の大きな流体の吸引が、ポンプによる吸引開始、完了前後に行われることとなるが、組成比の大きな流体の吸引量に多少の変動があっても、組成比に与える影響は小さい。
【0013】また、本発明において、ポンプの駆動にステッピングモータを用い、設定流量に対するパルス数を変更するパルス数変更手段を設けることにより、例えばポンプによる流体の吸引開始、完了前後における吸引乱れ、ポンプ圧力変動、流体特性による変動等を補正することができる。
【0014】また、本発明において、ポンプは複数種流体切替時にその導入路がすべて閉状態となる区間を設けることでバルブ開閉時間のばらつきに起因する混合精度低下を防止し、パルス数変更手段は該区間長に応じて単位濃度当たりのパルス数を変更可能とすることで前記全閉状態の発生に伴う組成比変化を補償することができる。又、本発明においてポンプヘッドの加減速区間はプランジャーの移動速度が一定でない区間を意味している。
【0015】以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態を説明する。図1には本発明の一実施形態にかかる複数種流体混合ポンプ装置の概念構成図が示されている。同図に示すポンプ装置10は、プランジャーポンプ12と、該ポンプ12に吸引される流体を切り替える切替手段14と、前記ポンプ12の作動状態を検出する検出手段16と、前記切替手段14に切替指令を与える制御手段18と、前記ポンプ12の駆動を行う駆動手段20とを含む。
【0016】そして、前記プランジャーポンプ12は、ヘッド21に設けられたシリンダー部22と、該シリンダー部22の二本のシリンダー22a,22bにそれぞれ摺動可能に嵌合されたデリバリーヘッド用プランジャー24およびモディファイヤヘッド用プランジャー26と、前記プランジャー24,26とそれぞれ当接するカム28a,28bを備えたカム部28とを有する。そして、該カム部28のカム28a,28bが、カム軸30とともに回転すると、前記カム28a,28bとそれぞれ当接するプランジャー24,26がシリンダー22a,22bに対して相対的に上下する。そして、図2に示すようにデリバリーヘッド用プランジャー24が上昇した場合にはモディファイヤヘッド用プランジャー26が下降し、デリバリーヘッド21aからの吐出量とモディファイヤヘッド21bの吸引量の差分がポンプ12からの吐出量として吐出口32よりカラムに送出される。一方、デリバリーヘッド用プランジャー24が下降した場合には吸引口34より流体を吸引するが、デリバリーヘッド21aのシリンダー22aとモディファイヤヘッド21bのシリンダー22bの間及び吸引口34には逆止弁35a,35bが設けられているため、逆流は生じない。そして、この間モディファイヤヘッド用プランジャー24は上昇し、吐出口32からの流体の吐出は継続され、該吐出口32の流体吐出速度は常に一定となる。
【0017】また、図1に示す切替手段14は、それぞれ吸引口34に接続された第一バルブ40と第二バルブ42、および各ドライバー44,46より構成される。そして、第一バルブ40が導通された場合には図示を省略した第一溶媒タンクより組成比の大きな第一溶媒がポンプ12に導入される。また、第二バルブ42が導通された場合には図示を省略した第二溶媒タンクより組成比の小さな第二溶媒がポンプ12に導入される。
【0018】また、検出手段16は、ディスク50と、該ディスク50の外周部に設けられた開口52を検出するフォトインタラプタ54を備える。そして、前記ディスク50は前記カム軸30と連結され、デリバリーヘッド用プランジャー24の下死点すなわち溶媒の吐出開始点を検出する。また、制御手段18は、CPU60と、前記フォトインタラプタ54からの吐出開始検出信号を受けて前記CPU60に割込信号を送出する割込信号発生回路62と、該CPU60の指令に基づき前記バルブドライバー44,46にバルブ制御信号を供給するインターフェース64と、カウンター回路66およびモータクロック発生回路68を備える。
【0019】駆動手段20は、ステッピングモータ70およびそのドライブ回路72を備えている。そして、ステッピングモータ70の駆動軸が前記カム軸30と連結されている。ドライブ回路72は制御手段18のモータクロック発生回路68の発生するモータークロックに基づき駆動指令をモータ70に与え、該モータクロックは同時にカウンター回路66によりカウントされて各バルブの閉時間、開時間の管理を行う。
【0020】本実施例にかかる複数種流体混合ポンプ装置10は概略以上のように構成され、次にその作用について説明する。本発明において特徴的なことは、ポンプによる吸引開始後、吸引完了前のプランジャー又はカムの加減速区間を除いた区間で、複数種の溶媒の内、組成比の小さい溶媒の吸引を行うことである。すなわち、本実施例においてポンプ装置10はデリバリーヘッド21aとモディファイヤヘッド21bの二つの送液ヘッドを持っているが、このうち溶媒の吸引を行うのはデリバリーヘッド21aだけである。このため、図3に示すように、溶媒の吸引は間欠的に行われており、低圧混合を行うには吸引区間を検出してそれに同期して混合用バルブ40,42を制御する必要がある。
【0021】本実施例にかかる装置のデリバリーヘッド用プランジャー24のカムプロフィールは、図3に示すようにデリバリーヘッド21aが吐出を開始する位置を0度とすると吐出完了地点は150度になっている。つまり吸引区間は210度あることになる。しかし、プランジャーを長期間安定して駆動するためには、急激にプランジャーの移動方向を逆転することはできないので、吸引開始後15度、吸引完了前15度は加減速区間となっている。
【0022】すなわち、本実施例にかかる装置は、吸引工程についてのみ着目するとシングルヘッドポンプである。このため、間欠的に溶媒の吸引を行うことを考慮すれば、カムの位置検出を行い吸引区間をあらかじめ検出しておき、その区間でのみ各溶媒に対応したバルブ40,42を切り替えて所定の混合比を得るという制御が必要となる。
【0023】そこで、本実施例においてはカム軸30に位置検出用のディスク50を設置し、そのディスク50に開口52を設けている。この開口52をフォトインタラプタ54にて検出し、この信号により割込信号発生回路62がCPU60に割り込みを行う。このディスク50に設けられた開口52は吐出開始位置にあわせるようになっている。このように吸引開始位置ではなく吐出開始位置を基準に用いたのは、吐出開始位置でカムの回転を一瞬早くして脈動を小さくするためである。そして、CPU60は、カウンター回路66を用いて吐出開始位置から150度後の吸引開始位置までステッピングモータ70のパルス数をカウントすることで吸引開始位置を検出している。
【0024】本実施例においては第一溶媒および第二溶媒の混合比にあわせてバルブ40,42の開時間を制御して所定の混合比を得るが、この開時間の制御はステッピングモータ70の駆動に用いられているパルス数をカウンター回路66によりカウントすることで行っている。ステッピングモータ70は、その特性上、入力されたパルス数に従って駆動軸の回転角度が変化するので、ステッピングモータ70に送られたパルス数をカウンター回路66によりカウントし、カムの位置を算出する。つまり、第一溶媒および第二溶媒の要求される混合比をパルス数に変換し、この値をカウンタにセットしこのカウント時間分だけそのバルブを開けるのである。
【0025】なお、本実施例においては、パルス数変更手段80を備えており、以下に詳述するパルス数補正を可能としている。
低圧混合方法ここで、2溶媒の混合を行う場合を例に説明する。
(1)第一溶媒および第二溶媒の混合プログラムの設定値に基づき混合比を求める。混合比は、初期値と時間プログラムによって設定されており、時間プログラム実行時は一定時間間隔で演算を行い、溶媒の所定の混合比を求める。
(2)求められた混合比からバルブ40,42の必要開時間すなわちパルス数を算出する。
【0026】(3)前記溶媒の内、組成比の大きい溶媒のバルブの導通を吸引区間の開始、終了区間に2分して割り当て、組成比の小さい溶媒のバルブの導通が中間となるように、バルブ開閉の順番を予め決めておく。
(4)位置検出により割込信号発生回路62より割り込みがあったときには、吸引区間の開始位置を見つめるためのカウント作動を行う。
(5)吸引区間が開始されると、組成比の大きい第一溶媒のバルブ40の必要開パルス数の1/2(吸引区間開始時と完了時に分割するため)を設定し、同時にインターフェース64に該当するバルブ40の開信号を出力する。
【0027】(6)カウントが完了したら、CPU60はインターフェイス64を介してバルブ40の閉信号を出力する。そして、組成比の小さい第二溶媒のバルブ42の開パルス数をカウンタにセットし、同時にインターフェース64を介してバルブ42の開信号を出力する。
(7)組成比の小さい第二溶媒の吸引が終了したら、前記(5)と同様にして再度組成比の大きい第一溶媒の、残り半分の吸引を行う。以上で一吸引区間での制御が終了する。
【0028】パルス数の算出ところで、デリバリーヘッド用プランジャー24のカム28aは210度の吸引区間を有しているが、開始、終了の15度は加減速区間となっており、一定に吸引する区間と比べて吸引の量は少ない上にチェック弁の遅れもあり、低圧混合を行う区間として考えるには安定性に欠けるといえる。このため、バルブ開時間を決定するパルス数の算出にあたり、この区間は混合の対象となる吸引区間から半分の15度だけ除外してある。つまり、吸引区間は195度として考えている。
【0029】ここで、カムが195度回転する間にステッピングモータドライブ回路72に与えるパルス数を求めると、ステッピングモータ1回転のパルス数:360/1.8×16=3200(ここで、16:マイクロステップ数、1.8:ステッピングモータの分解能)
カム軸一回転のパルス数:3200×3.14=10048(ここで、3.14:ギア比)
吸引区間のパルス数:10048×195/360=5442(ここで、195:吸引区間角度)
つまり、一回の吸引工程でのパルス数は5442パルスであり、これが100%に相当する。従って、1%あたりのパルス数は54.42パルスである。本実施例ではこの数字を元にパルス数を求め、以下の補正を行う。
【0030】圧力によるパルス数補正一般にプランジャーポンプでは圧力が上昇すると流量が低下するという現象が生じる。これは、圧力の上昇により、デリバリーヘッド21a内で吸引から吐出に変わるとき、ヘッド内での予圧区間が生じること(吸引は大気圧、吐出はカラム圧)、また、チェック弁の切り替わり時の漏れが圧力が大きくなると増加することに起因する。これは、実質的な吸引区間の減少を意味し、低圧混合時の濃度を制御する上で同じパルス数を与えて同じ時間バルブを開閉しても、圧力が高くなると濃度は濃い方に変化することになる。
【0031】以上の点を考慮すると、圧力上昇に従って濃度対パルス数の関係を変えること、つまり圧力上昇の度合いによりパルス数を減少させる補正が必要となる。このため、本実施例では以下に示す圧力補正を行っている。すなわち、圧力上昇による流量の低下は、本実施例では「PRESS COMP」という設定値にて補正を行っている。この値は圧力が100kg/cm2上昇したときに、何%流量(モータ駆動パルス数)を増加させるかという数値である。
【0032】吐出する量(流量)とは、すなわち吸引する量であり、低圧混合でもこの圧力補正値はそのまま使用できる。しかし、実測すると、PRESS COMPの値をそのまま用いたのでは補正量が大きすぎるという結果から、PRESS COMPの42%の値を採用した。
補正計算式:パルス数×{1−(PRESS COMP × PRESS × 0.42)/100}
(ここで、PRESS = 10秒間の平均圧力、PRESS COMP:100kg/cm2圧力上昇したときの流量増加係数(%))
【0033】ポンプ差によるパルス補正前記「パルス数の算出」で求めた1%当たりのパルス数は、ポンプ間の特性のばらつきによりすべての装置に共通では使えない場合がある。これはチェック弁の性能にばらつきがあるためと考えられる。また、使用する溶媒の粘性によりチェック弁の作動スピードが変わり、且つ圧縮率の差により吐出から吸引への切り替わり時に吸引される溶媒量が変化する。このため、単位濃度当たりのパルス数を固定して使用していると、ポンプ間や使用する溶媒によって混合濃度精度が変化してくる。この結果、0−100%のリニアグラジェント実行時に50%付近にて段差が生じるという現象が生じる(図4参照)。
【0034】そこで、単位濃度当たりのパルス数を補正するために、最終的に求まったパルス数(圧力補正実施後の値)に対し、0.1%単位で補正できる係数LPG COMPを設定可能としている。この数値は1.500〜0.500までの範囲で設定可能であり、この値がパルス数に直接掛けられる。この補正結果が図5に示されており、図4では50%付近で混合比が直線的に変化していないが、図5ではこの点が大幅に改善されている。
【0035】バルブ差によるパルス数補正例えば、閉じるときのスピードが比較的遅いバルブと、開くスピードが比較的早いバルブとの間で、混合を行う場合には、遅い方のバルブの溶媒が早い方のバルブ側に流れ込む現象を生じ、これが混合精度低下を引き起こす。この影響は組成比の小さい時、例えば組成比の低い溶媒が1−5%程度となるような時に顕著に現れる。この現象を防ぐため本実施例においては、制御手段18によるバルブ切り替わり時の制御で、開いているバルブが閉じ、閉じていたバルブが開くときの時間差を電気回路にて強制的に16msec程度ずらすようにしている(図6参照)。この結果、バルブ開閉時間のばらつきにより期待される混合精度が得られない現象を改善することができる。
【0036】しかし、本実施例では両バルブを閉じる時間を設けることにより、次に開くバルブの開時間がそれ時間分だけ短くなり、実質的に所定の開時間だけバルブが開けなくなる。本実施例ではこの減少分を補正するためにVALVE COMPという補正値を使用する。設定値は0.1%単位で変更可能であり、0.1%につき5.4パルス(パルス数の算出で求めた1%当たりのパルス数54.42の1/10)が最終的に求めた濃度に対応したパルス数に加算される。この結果、図7に示すように1%での混合比が所定の値よりも低かった現象が図8に示すように解消され、1%の混合比の精度が高くなる。
【0037】図9には本発明の第二実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーのプロフィールと吸引溶媒切替状態が示されている。同図に示すように組成比の小さい溶媒の設定濃度が10%以下の場合には、一吸引工程につき毎回10%以下の吸引時間を設けるのではなく、複数吸引に一度組成比の小さい溶媒の吸引を行うことが好適である。すなわち、組成比が10%以下程度の溶媒をポンプの毎回の吸引工程で吸引すると、バルブ切替に伴う乱流の発生等が頻繁に生じ、該組成比の小さい溶媒の吸引量に与える影響が大きくなる。そこで本実施例においては、組成比が10%以下の溶媒については複数吸引に一度吸引を行うこととしているのである。
【0038】また、組成比が10%以下程度ではなくても、流量が大きくなると同様の状況になる場合がある。例えば、流量が3ml/min以上になると、組成比が10%以下ではなくても複数吸引に一度吸引を行う場合がある。なお、前記各実施例においては、本発明にかかるポンプ装置をHPLC用ポンプ装置として用いた例について説明したが、これに限られるものではなく、各種用途に用いることができる。
【0039】また、前記各実施例においては、吸引対象となる溶媒が二種類の場合について説明したが、これに限られるものではなく、三種類以上の溶媒についても同様に組成比の大きな溶媒をポンプによる吸引開始、完了前後に対応させることで、同様の効果を得ることができる。例えば組成比の順に溶媒A<B<C…とすると、Aの吸引区間を中央へ、Bをその前後に、CをBのその前後に…という順に割り振ることが好適である。また、本発明は複数のポンプヘッドを並列配置し、交互に吸引・吐出する方式のポンプ装置にも適用可能である。
【0040】
【発明の効果】以上説明したように本発明にかかる複数種流体混合ポンプ装置によれば、吸引開始後、吸引完了前のポンプヘッドの加減速区間を除いた区間に、複数種の溶媒の内、吸引量の少ない流体の吸引を行うようにしたので、組成比の正確な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施例にかかる複数種流体混合ポンプ装置の概略構成の説明図である。
【図2】第一実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーとモディファイヤヘッド用プランジャーの作動プロフィールの説明図である。
【図3】第一実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーのプロフィールおよび溶媒切替状態の説明図である。
【図4】第一実施例にかかるポンプ装置の単位濃度当たりのパルス数を補正する前の組成比の変化を示す説明図である
【図5】第一実施例にかかるポンプ装置の単位濃度当たりのパルス数を補正した後の図4相当図である。
【図6】第一実施例においてバルブ全閉状態の説明図である。
【図7】第一実施例においてバルブ全閉状態の補正をする前の組成比の変化を示す図である。
【図8】第一実施例においてバルブ全閉状態の補正した後の図7相当図である。
【図9】第二実施例にかかるポンプ装置のデリバリーヘッド用プランジャーのプロフィールおよび溶媒切替状態の説明図である。
【符号の説明】
10 ポンプ装置
14 切替手段
16 検出手段
18 制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数種の流体をポンプで順次吸引しポンプ内で混合し送出する複数種流体混合ポンプ装置において、前記ポンプへ吸引される流体を切り替える切替手段と、前記ポンプの作動段階を検出する検出手段と、前記検出手段による吸引開始検出に基づき、吸引開始直後、吸引完了直前を除いた区間に、前記複数種の流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように前記切替手段に切替指令を与える制御手段と、を備えたことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項2】 請求項1記載のポンプ装置において、ポンプの駆動にステッピングモータを用い、設定流量に対するパルス数を変更するパルス数変更手段を設けたことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項3】 請求項2記載のポンプ装置において、パルス数変更手段はポンプ圧力に基づきパルス数を変更可能なことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項4】 請求項2〜3記載のポンプ装置において、パルス数変更手段は流体の単位濃度当たりパルス数を変更可能なことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項5】 請求項2〜4記載のポンプ装置において、ポンプは複数種流体切替時にその導入路がすべて閉状態となる区間を有し、パルス数変更手段は該区間長に応じて単位濃度当たりのパルス数を変更可能なことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のポンプ装置において、制御手段は吸引開始検出に基づき、吸引開始後、吸引完了前のポンプヘッドの加減速区間を除いた区間に前記複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように切替手段に切替指令を与えることを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項1】 複数種の流体をポンプで順次吸引しポンプ内で混合し送出する複数種流体混合ポンプ装置において、前記ポンプへ吸引される流体を切り替える切替手段と、前記ポンプの作動段階を検出する検出手段と、前記検出手段による吸引開始検出に基づき、吸引開始直後、吸引完了直前を除いた区間に、前記複数種の流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように前記切替手段に切替指令を与える制御手段と、を備えたことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項2】 請求項1記載のポンプ装置において、ポンプの駆動にステッピングモータを用い、設定流量に対するパルス数を変更するパルス数変更手段を設けたことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項3】 請求項2記載のポンプ装置において、パルス数変更手段はポンプ圧力に基づきパルス数を変更可能なことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項4】 請求項2〜3記載のポンプ装置において、パルス数変更手段は流体の単位濃度当たりパルス数を変更可能なことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項5】 請求項2〜4記載のポンプ装置において、ポンプは複数種流体切替時にその導入路がすべて閉状態となる区間を有し、パルス数変更手段は該区間長に応じて単位濃度当たりのパルス数を変更可能なことを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のポンプ装置において、制御手段は吸引開始検出に基づき、吸引開始後、吸引完了前のポンプヘッドの加減速区間を除いた区間に前記複数種流体の内、組成比の小さい流体の吸引を行うように切替手段に切替指令を与えることを特徴とする複数種流体混合ポンプ装置。
【図7】
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図6】
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図6】
【特許番号】特許第3117623号(P3117623)
【登録日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【発行日】平成12年12月18日(2000.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−224778
【出願日】平成7年8月8日(1995.8.8)
【公開番号】特開平9−49828
【公開日】平成9年2月18日(1997.2.18)
【審査請求日】平成10年6月1日(1998.6.1)
【出願人】(000232689)日本分光株式会社 (87)
【参考文献】
【文献】特開 昭57−4548(JP,A)
【文献】特開 昭57−198864(JP,A)
【文献】特開 昭57−204453(JP,A)
【文献】特開 昭63−139251(JP,A)
【文献】特開 平10−311824(JP,A)
【登録日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【発行日】平成12年12月18日(2000.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成7年8月8日(1995.8.8)
【公開番号】特開平9−49828
【公開日】平成9年2月18日(1997.2.18)
【審査請求日】平成10年6月1日(1998.6.1)
【出願人】(000232689)日本分光株式会社 (87)
【参考文献】
【文献】特開 昭57−4548(JP,A)
【文献】特開 昭57−198864(JP,A)
【文献】特開 昭57−204453(JP,A)
【文献】特開 昭63−139251(JP,A)
【文献】特開 平10−311824(JP,A)
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