説明

複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法

【課題】測定材料を複素誘電率測定用に加工することなく、精度良く測定材料全体の複素誘電率を求めることが可能な複素誘電率測定装置を提供する。
【解決手段】複素誘電率測定装置は、測定対象となる材料内に2本以上埋め込まれ、波源から放射される波の振幅及び位相を測定する電界プローブ13と、プローブの各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射波の減衰量及び位相差を算出し、複数の観測点のうち、特定の観測点を基準とし、その他の観測点について、基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を算出し、基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定するPC106とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機などの無線通信機器が急速に発達し、数多くの無線通信機器が開発されている。その開発においては、必要に応じて、無線通信機器から放射される電波が人体に吸収されるエネルギー量を定量的に評価するSAR測定や、無線通信機器のアンテナから放射される電波が実際の使用形態においてどのようなパターンで空間に放射されるのかを確認する等のアンテナ測定が実施されている。
【0003】
そして、SAR測定やアンテナ測定は、無線通信機器の近傍に、人体を模擬した高損失材料を配置することにより、実施されている。このとき、試料となる高損失材料の複素誘電率を正確に知っておく必要があるため、測定対象となる高損失材料を、同軸線路や導波管内に充填できるように、一部を加工したり形状を破壊したりする必要があった。このため、一度複素誘電率を測定すると、その高損失材料は、SAR測定やアンテナ測定に必要な寸法を満足できなくなるため、同じ材料で作った測定試料を再度製作する必要があり、同じ製作ロットでの複素誘電率を確認することができなかった。
【0004】
一方、非破壊で複素誘電率を測定する方法として、同軸プローブを用いた誘電率測定方法がある(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】「高周波領域における材料定数測定法」、ISBN:4627791615、森北出版、2003年8月26日出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した同軸プローブを用いた誘電率測定方法では、測定対象が固体の場合は、測定精度を確保することが困難であり、更に測定対象物に対する複素誘電率の評価範囲が狭いため、材料全体の複素誘電率を求めることが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、測定材料を複素誘電率測定用に加工することなく、精度良く測定材料全体の複素誘電率を求めることが可能な複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の特徴は、(a)測定対象となる材料内に2本以上埋め込まれ、波源から放射される波の振幅及び位相を測定するプローブと、(b)プローブの各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射波の減衰量及び位相差を算出する第1の算出部と、(c)複数の観測点のうち、特定の観測点を基準とし、その他の観測点について、基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を算出する第2の算出部と、(d)基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定する測定部とを備える複素誘電率測定装置であることを要旨とする。
【0008】
第1の特徴に係る複素誘電率測定装置によると、測定材料を複素誘電率測定用に加工することなく、精度良く測定材料全体の複素誘電率を求めることができる。
【0009】
又、第1の特徴に係る複素誘電率測定装置において、プローブは、放射される波の進行方向に並んで配置されることが好ましい。
【0010】
この複素誘電率測定装置によると、放射される波の振幅及び位相を精度良く測定することができる。
【0011】
又、第1の特徴に係る複素誘電率測定装置において、測定部は、プローブを3本以上配置した場合、基準観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を複数測定し、平均化することにより、複素誘電率を測定してもよい。
【0012】
この複素誘電率測定装置によると、複素誘電率をより精度良く測定することができる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、(a)測定対象となる材料内に2本以上埋め込まれ、波源から放射される波の振幅及び位相を測定するプローブの各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射波の減衰量及び位相差を算出するステップと、(b)複数の観測点のうち、特定の観測点を基準とし、その他の観測点について、基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を算出するステップと、(c)基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定するステップとを含む複素誘電率測定方法であることを要旨とする。
【0014】
第2の特徴に係る複素誘電率測定方法によると、測定材料を複素誘電率測定用に加工することなく、精度良く測定材料全体の複素誘電率を求めることができる。
【0015】
又、第2の特徴に係る複素誘電率測定方法の測定するステップにおいて、プローブを3本以上配置した場合、基準観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を複数測定し、平均化することにより、複素誘電率を測定してもよい。
【0016】
この複素誘電率測定方法によると、複素誘電率をより精度良く測定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、測定材料を複素誘電率測定用に加工することなく、精度良く測定材料全体の複素誘電率を求めることが可能な複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。
【0019】
(複素誘電率測定装置)
本実施形態では、図1に示すように、人体を模擬した高損失固体材料11の近傍に携帯電話12を配置して、人体近傍に携帯電話12が存在する場合のSAR(Specific Absorption Rate:比吸収率)測定やアンテナ測定を行う場合について説明する。高損失固体材料11としては、例えば、生体等価固定ファントムとして使用されるセラミックスが挙げられる。本実施形態では、携帯電話12から放射される電波の振幅及び位相を測定可能な電界プローブ13が高損失固体材料11の内部に埋め込まれている。
【0020】
次に、本実施形態に係る複素誘電率測定装置について、図2を用いて説明する。まず、高損失固体材料11の近傍に携帯電話12を配置した場合のSAR測定やアンテナ測定を行う前提として、高損失固体材料11の複素誘電率を測定する必要がある。
【0021】
本実施形態に係る複素誘電率測定装置は、図2に示すように、高損失固体材料11に埋め込まれた電界プローブ13と、携帯電話12の代わりに配置された電波照射源14と、スイッチ部100と、偏波処理部101と、光源部102と、信号発生部103と、レシーバ部104と、スペクトラムアナライザ105と、PC106とを備える。
【0022】
電界プローブ13は、電波照射源14から放射される電波の振幅及び位相を測定する。電界プローブ13としては、例えば、電気光学結晶を用いたEOプローブのようにプローブの存在によって放射電磁界を乱すことのない非侵襲性プローブが望ましい。以下の説明では、電界プローブとしてEOプローブを用いた場合について説明する。
【0023】
又、電界プローブ13は、放射電波の進行方向に複数本配置される。ここで、放射電波の進行方向とは、図3に示すように、電波の入射波面に対して垂直な方向を指す。又、電界プローブの本数については、少なくとも2本を使用することとし、3本以上の電界プローブを使用してもよい。
【0024】
スイッチ部100は、偏波処理部101から入射された光を切り替えて、複数の電界プローブ13の先端に配置された各電気光学結晶へ出射る。又、スイッチ部100は、複数の電界プローブ13から取得した偏波情報を偏波処理部101に送る。
【0025】
偏波処理部101は、光源部102から入射された直線偏光を特定の偏光状態に調整して、スイッチ部100へ出射する。又、偏波処理部101は、スイッチ部100から入力された偏波情報を、レシーバ部104へ送る。
【0026】
光源部102は、信号発生部103によって発生した信号を直線偏光に変換し、偏波処理部101へ送る。
【0027】
レシーバ部104は、偏波処理部101から入力された偏波情報を受信し、スペクトラムアナライザ105へ送る。スペクトラムアナライザ105は、複数の電界プローブ13それぞれで測定された電界の振幅及び位相を検出する。
【0028】
PC106(第1の算出部、第2の算出部及び測定部)は、複数の電界プローブ13それぞれで測定された電界の振幅及び位相を取得し、各観測点における放射電波の減衰量及び位相差を算出する。そして、PC106は、ある観測点(例えば、観測点110)を基準とし、その他の観測点(観測点111、112、113)について、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差を算出し、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定する。PC106における複素誘電率の測定については、本実施形態に係る複素誘電率測定方法において、詳細に説明する。
【0029】
尚、PC106は、処理制御装置(CPU)を有し、プローブの各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射電波の減衰量及び位相差を算出する第1の算出モジュールと、複数の観測点のうち、特定の観測点を基準とし、その他の観測点について、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差を算出する第2の算出モジュールと、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定する測定モジュールとをCPUに内蔵する構成とすることができる。これらのモジュールは、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータにおいて、所定のプログラム言語を利用するための専用プログラムを実行することにより実現することができる。
【0030】
(複素誘電率測定方法)
次に、本実施形態に係る複素誘電率測定方法について、図4を用いて説明する。
【0031】
まず、ステップS101において、図1に示すように、携帯電話12から放射される電波の振幅及び位相を測定可能な電界プローブ13を高損失固体材料11の内部に埋め込む。
【0032】
次に、ステップS102において、高損失固体材料11の複素誘電率を確認するために、図2に示すように、携帯電話12の代わりに、半波長ダイポールアンテナや導波管というような電波照射源14を高損失固体材料11の近傍に配置し、その状態で高損失固体材料11内の電界について、振幅及び位相を複数の電界プローブ13により測定する。
【0033】
例えば、電界プローブとしてEOプローブを用いた場合は、EOプローブの先端に配置された電気光学結晶の状態が放射電界により変化するため、信号発生部103及び光源部102により結晶に入力された光の偏波面が回転することで、電界の振幅及び位相を検出する。複数本のプローブで得られた偏波情報をスイッチ部100により順次偏波処理部101に送り、レシーバ部104及びスペクトラムアナライザ105により最終的に複数本の電界プローブそれぞれで測定された電界の振幅及び位相を検出する。
【0034】
そして、ステップS103において、電波進行方向に複数配置された観測点110、111、112、113における電界情報(振幅及び位相情報)を、例えば、スペクトラムアナライザ105に接続されたPC106にて取得する。
【0035】
次に、ステップS104において、PC106は、電界プローブ13の各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射電波の減衰量及び位相差を算出する。
【0036】
次に、ステップS105において、PC106は、複数の観測点のうち、特定の観測点(例えば、観測点110)を基準とし、その他の観測点(観測点111、112、113)について、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差を算出する。
【0037】
次に、ステップS106において、PC106は、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定する。例えば、伝送線路理論式を用いた誘電率の推定法(非特許文献1参照)に、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差の3つの値を当てはめ、最小二乗法等によって各観測点の間に存在する高損失固体材料11の複素誘電率を測定することができる。
【0038】
そして、その後、電波照射源14を携帯電話12に交換し、SAR測定やアンテナ測定を行う。
【0039】
又、電界プローブの本数については、少なくとも2本を使用することとし、3本以上の電界プローブを使用することによって、電界測定の精度を高めることが可能となる。具体的には、電界プローブが3本以上のとき、基準の観測点からの距離、放射電波の減衰量及び位相差の3つの値を複数測定し、平均化することにより精度がより高まる。
【0040】
(作用及び効果)
従来、RF帯やマイクロ波帯において、高損失な固体材料の複素誘電率を非破壊で測定することは非常に困難であり、例えば、SAR測定に用いられる生体等価固体ファントムとしての高損失固体材料の場合、複素誘電率を非破壊で測定することは非常に困難で有効な測定方法がなく、材料が有する誘電率を定期的に確認することができなかった。
【0041】
本実施形態に係る複素誘電率測定装置及び複素誘電率測定方法によると、予め電界プローブ13を材料内部に複数埋め込み、高損失固体材料11内部の振幅及び位相を直接測定することができる。このため、高損失固体材料11を誘電率測定用に破壊し、加工することなく、非破壊で複素誘電率を定期的に確認することができる。又、精度良く測定材料全体の複素誘電率を測定することができる。
【0042】
又、電界プローブ13は、放射される波の進行方向に並んで配置される。このため、放射される波の振幅及び位相を精度良く測定することができる。
【0043】
又、本実施形態に係るPC106は、プローブを3本以上配置した場合、基準観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を複数測定し、平均化することにより、複素誘電率を測定する。このため、複素誘電率をより精度良く測定することができる。
【0044】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0045】
例えば、上記の実施形態では、高損失固体材料について説明したが、本発明に係る複素誘電率測定は、固体材料に限定されるものではなく、液体材料に対しても適用可能である。
【0046】
又、上記の実施形態では、高損失固体材料について説明したが、本発明に係る複素誘電率測定は、低誘電率低損失材料である場合においても、電界プローブの設置間隔を広く取ることにより適用可能である。
【0047】
又、上記の実施形態では、電界プローブの配置方法として、放射電波の進行方向に複数本配置すると説明したが、本発明に係る複素誘電率測定は、この配置方法に限定されず、放射電波の距離による減衰量及び電波遅延が取得可能な配置方法であれば構わない。
【0048】
更に、上記の実施形態では、誘電率を求めるために電界を測定することについて説明したが、磁界についても磁界プローブを用いて同様の方法にて測定を行うことにより、透磁率を算出することができる。具体的には、材料内における磁界の減衰量及び位相差を測定し、材料の複素透磁率を算出する。
【0049】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態に係るSAR測定やアンテナ測定について説明するための図である。
【図2】本実施形態に係る複素誘電率測定装置の機能ブロック図である。
【図3】本実施形態に係る電界プローブの配置を示す図である。
【図4】本実施形態に係る複素誘電率測定方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
11…高損失固体材料
12…携帯電話
13…電界プローブ
14…電波照射源
100…スイッチ部
101…偏波処理部
102…光源部
103…信号発生部
104…レシーバ部
105…スペクトラムアナライザ
106…PC
110、111、112、113…観測点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる材料内に2本以上埋め込まれ、波源から放射される波の振幅及び位相を測定するプローブと、
前記プローブの各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射波の減衰量及び位相差を算出する第1の算出部と、
複数の観測点のうち、特定の観測点を基準とし、その他の観測点について、基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を算出する第2の算出部と、
前記基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定する測定部と
を備えることを特徴とする複素誘電率測定装置。
【請求項2】
前記プローブは、放射される波の進行方向に並んで配置されることを特徴とする請求項1に記載の複素誘電率測定装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記プローブを3本以上配置した場合、前記基準観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を複数測定し、平均化することにより、複素誘電率を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の複素誘電率測定装置。
【請求項4】
測定対象となる材料内に2本以上埋め込まれ、波源から放射される波の振幅及び位相を測定するプローブの各観測点における振幅及び位相から、各観測点における放射波の減衰量及び位相差を算出するステップと、
複数の観測点のうち、特定の観測点を基準とし、その他の観測点について、基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を算出するステップと、
前記基準の観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差に基づいて、複素誘電率を測定するステップと
を含むことを特徴とする複素誘電率測定方法。
【請求項5】
前記測定するステップにおいて、前記プローブを3本以上配置した場合、前記基準観測点からの距離、放射波の減衰量及び位相差を複数測定し、平均化することにより、複素誘電率を測定することを特徴とする請求項4に記載の複素誘電率測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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