説明

複製欠損アレナウイルスベクター

本発明は、感染細胞において遺伝情報を増幅及び発現する能力があるが、正常な遺伝子組み換えしていない細胞ではさらなる感染性の子孫ウイルス粒子を産生することができないゲノムを含有するように組み換えられる、感染性アレナウイルス粒子に関する。4つのアレナウイルスオープンリーディングフレーム(糖タンパク質(GP)、核タンパク質(NP)、基質タンパク質Z及びRNA依存性RNAポリメラーゼL)の内の1つ又は複数を、正常細胞では複製が妨げられるが、アレナウイルスベクター感染細胞では遺伝子発現が可能なままであるように除去又は突然変異させ、抗原若しくは他の対象となるタンパク質をコードする外来遺伝子、又は宿主遺伝子発現を調整する核酸を、アレナウイルスプロモータ、内部リボソーム侵入部位の制御下で、又はウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ、細胞RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIで解読することができる調節因子の制御下で発現する。修飾アレナウイルスは様々な疾患に対するワクチン及び治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン又は遺伝子治療ベクターとして適した遺伝子修飾アレナウイルスと、ワクチン接種及び疾患の治療にこれらを使用する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
予防ワクチンは、現代医学の最も成功を収めた分野の1つであり、天然痘の世界規模の根絶と、ポリオ、麻疹及び多くの他の深刻な感染性疾患の制御とをもたらした。最近になって、ワクチンは癌の予防にも利用可能になってきており、治療において「ワクチン」を利用することに多大な労力が費やされ、感染及び悪性度の両方に対して希望を抱かせるものになっている。歴史的には、ワクチン接種戦略は様々なアプローチを含んでいる:野生型の感染性因子の使用に始まり、腫瘍細胞の自己(再)接種、弱毒性因子及び破壊した腫瘍組織へと続き、臨床医学は、時間と共にそれぞれ感染性因子又は腫瘍に由来する(不活性)タンパク質及び/又は他の抽出物(一般的に「抗原」と称される)の使用へとますます移行している。この漸進的プロセスは、安全なワクチン製剤への探求を意味するものであるが、相対的な有効性の喪失を伴うことが多かった。近年、生物工学の発展によりさらに、現在最も有望なものとして広く認められたさらなるアプローチが可能になっている:「フェリー」としての働きがある感染性因子(「ベクター」と呼ばれる)は最適な病原菌又は腫瘍由来の抗原を具備している。そのため、ワクチンレシピエントの免疫応答は、ベクターにより与えられる強い免疫増強(「免疫原性」)との関連で対象となる抗原を認識する。
【0003】
「ベクターアプローチ」により、組織培養レベルだけでなく、ヒトを含む多細胞生物でも生細胞に外来遺伝子を直接導入することも可能になり、このためベクターは、培養細胞における遺伝子の発現又は遺伝子治療にも利用することができる。
【0004】
様々なベクターが現在、臨床的応用(ワクチン学及び遺伝子治療)、又はバイオテクノロジー(細胞培養における遺伝子導入)に対する有効性及び安全性を最適にすることを最終目標としてワクチン接種及び遺伝子治療の両方で実験的に使用されている。
【0005】
一般的な観察結果として、ベクターは、それらの由来となる生物、例えばウイルスの一般的な特質を共有する傾向がある。したがってベクター設計のための新規のウイルスファミリーの利用により、生物医学的応用において今までにない能力及びそれに対応する用途を有するこの新種のベクターを与え得る特質の新規の組合せが見込まれる。しかしながら、ベクター設計は、使用する生物の安全性プロファイルを考慮する必要があり、ワクチンとして投与するのに免疫原性等の所望の特質を妨げずに生物の病原性をどのように取り除くかという戦略を考えなければならない。
【0006】
一般的にはアレナウイルス、詳細にはリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)が、70年以上前から極めて強く且つ長期的な体液性及び細胞性の免疫応答を誘起することが知られている。注目すべきことに、ウイルスエンベロープ糖タンパク質(GP)に対する防御中和抗体の免疫が最小である、つまりたとえ再感染があったもしても、感染は、再感染に対して最小限の抗体媒介性防御しかもたらさない。またアレナウイルスは、その非細胞溶解性(非細胞傷害性(cell-destroying))のために或る特定の条件下で、動物において疾患を誘起することなく長期間抗原発現を維持し得ることが数十年前に確立されている。近年、感染性アレナウイルスゲノムの操作のための逆遺伝系(非特許文献1、非特許文献2)が記載されているが、今までのところアレナウイルスはワクチンベクターとしては利用されていない。これには主に2つの主な障害が関与している:i)アレナウイルスが、重篤な疾患及び免疫抑制をもたらし得る激しい感染を引き起こす可能性があり、ii)最適な外来抗原の組込みが不可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L. Flatz, A. Bergthaler, J. C. de la Torre, and D. D. Pinschewer,Proc Natl Acad Sci U S A 103:4663-4668, 2006
【非特許文献2】A.B. Sanchez and J. C. de la Torre, Virology 350:370, 2006
【発明の概要】
【0008】
本発明は、感染細胞において遺伝情報を増幅及び発現する能力があるが、正常な遺伝子組み換えしていない細胞ではさらなる感染性の子孫ウイルス粒子を産生することができないゲノムを含有するように組み換えられる、感染性アレナウイルス粒子に関する。
【0009】
より具体的には本発明は、対象となるタンパク質をコードする、又は宿主遺伝子の発現を調整するさらなるリボ核酸を含むこのようなアレナウイルス粒子に関する。
【0010】
本発明のアレナウイルスは、修飾ゲノムを含み、
i)4つのアレナウイルスオープンリーディングフレーム(糖タンパク質(GP)、核タンパク質(NP)、基質タンパク質Z及びRNA依存性RNAポリメラーゼL)の内の1つ又は複数を、正常細胞では感染性の伝播が妨げられるが、かかる細胞では遺伝子発現が可能なままであるように除去又は突然変異させ、
ii)1つ又は複数のタンパク質をコードする、又は宿主遺伝子発現を調整する外来リボ核酸を、4つのアレナウイルスプロモータ(Sセグメントの5’UTR及び3’UTR、並びにLセグメントの5’UTR及び3’UTR)の内の1つ又は複数から、又はそれぞれウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ、細胞RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII若しくはRNAポリメラーゼIIIで解読することができるさらに導入されたプロモータから導入及び転写し、タンパク質をコードする、又は宿主遺伝子発現を調整するリボ核酸を、それら自体により又はアレナウイルスタンパク質のオープンリーディングフレームとの融合によるリードスルーとして転写し、
iii)任意で1つ又は複数の内部リボソーム侵入部位を、アレナウイルス感染細胞においてタンパク質の発現を高めるようにウイルス転写配列に導入する。
【0011】
さらに本発明は、かかる遺伝子組み換えアレナウイルスを含むワクチン及び医薬製剤と、これらの遺伝子組み換えアレナウイルスを使用するワクチン接種及び遺伝子治療の方法とに関する。
【0012】
さらに本発明は、細胞培養物における対象となるタンパク質の発現、又は細胞培養物における遺伝子発現の調整に関し、ここでは細胞培養物に遺伝子組み換えアレナウイルスを感染させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】野生型アレナウイルスゲノムに対して為される変化により、誘導アレナウイルスベクターが相補性細胞でのみ複製することを示す図である。アレナウイルスベクター(1)を正常細胞(2)又は相補性細胞(C細胞、3)の両方に感染させることができる。C細胞が感染すると、さらなる感染性ベクター子孫が形成されるが、正常細胞の感染ではベクター粒子又は非感染性ベクター粒子のいずれも得られない。
【図1B】野生型アレナウイルスゲノムに対して為される変化により、誘導アレナウイルスベクターが相補性細胞でのみ複製することを示す図である。C細胞(1)及び正常細胞(2)に、LCMV−GPの代わりに、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するLCMVベースのベクター(rLCMV/GFP)を感染させ、上清試料を様々な時点(3、時間で与えられる)で回収した。上清の感染性(4、PFU/mlで与えられる)をフォーカス形成アッセイで求めた。
【図1C】野生型アレナウイルスゲノムに対して為される変化により、誘導アレナウイルスベクターが相補性細胞でのみ複製することを示す図である。野生型アレナウイルスゲノムは大(L)セグメント(1)と小(S)セグメント(2)とから成る。LセグメントはL遺伝子(3)及びZ遺伝子(4)を発現し、SセグメントはNP遺伝子(5)及びGP遺伝子(6)を保有する。複製欠損アレナウイルスベクターを生成する戦略の1つにより、GP遺伝子を対象となる遺伝子、例えばGFP(7)又はオバルブミン(OVA、8)に置換することが可能になる。
【図2A】相補性プラスミド(Cプラスミド)、トランス作用因子の細胞内発現に関するプラスミド(TFプラスミド)及びアレナウイルスベクターゲノムのセグメントの細胞内発現に関するプラスミド(GSプラスミド)の組織図である。図2A:Cプラスミドの例を表す。
【図2B】相補性プラスミド(Cプラスミド)、トランス作用因子の細胞内発現に関するプラスミド(TFプラスミド)及びアレナウイルスベクターゲノムのセグメントの細胞内発現に関するプラスミド(GSプラスミド)の組織図である。それぞれウイルスNPタンパク質及びLタンパク質を発現するTFプラスミドの例を表す。
【図2C】相補性プラスミド(Cプラスミド)、トランス作用因子の細胞内発現に関するプラスミド(TFプラスミド)及びアレナウイルスベクターゲノムのセグメントの細胞内発現に関するプラスミド(GSプラスミド)の組織図である。それぞれアレナウイルスベクターS及びLセグメントを発現するGSプラスミドの例を表す。
【図3A】接種後、数日以内にアレナウイルスベクターがなくなり、このためワクチンレシピエントでは免疫抑制が引き起こされないことを示す図である。0日目、マウスに静脈内でrLCMV/GFPを免疫付与した(1)。その後様々な時点で(2、日数で与えられる)、ウイルスゲノムのコピー数(3、log10で与えられる)を脾臓で測定した。
【図3B】種後、数日以内にアレナウイルスベクターがなくなり、このためワクチンレシピエントでは免疫抑制が引き起こされないことを示す図である。一次免疫付与/感染(1°)として、マウスに、rLCMV/OVAを免疫付与するか(5)、又は感染させないか(6)、又は野生型LCMVを感染させた(7)。20日目、全てのマウスに、水疱性口内炎ウイルス(VSV、8)を腹腔内感染させた(2°)。その後血液を、抗ウイルス性のT細胞応答及び抗ベクター性のT細胞応答(3)及び抗ウイルス性の抗体応答(4)を測定するために回収した。28日目、ペプチド再刺激の際、H−2K−SIINFEKL(オバルブミン由来のCD8+T細胞エピトープ)特異的なCD8+T細胞(9)及びH−2K−VSV−NP52−29(VSV−NP由来のCD8+T細胞エピトープ)特異的なCD8+T細胞(10)をインターフェロンγの細胞内染色により末梢血で測定した(値は、CD8+T細胞の中での特異的な細胞の割合を表す)。27日目(「d7」で示し、これはVSV感染後の時点を表している)、29日目(「d9」で示す)及び61日目(「d41」で示す)、50%プラーク減少アッセイで、総VSV中和抗体(11)及びβ−メルカプトエタノール耐性IgG(12)に関して血清を試験した(値は40倍に予め希釈した血清の−logで示す)。
【図4A】アレナウイルスベクターが、高頻度の長命の記憶CD8+T細胞及び高力価での長期抗体記憶を誘起することを示す図である。マウスに、rLCMV/OVAを免疫付与し、MHCクラスI四量体を使用して、H2K−OVA/SIINFEKL特異的なCD8+T細胞の頻度を測定するために経時的に(2、日数で与えられる)血液試料を回収した(3、値は、CD8+T細胞コンパートメント内の四量体陽性CD8+T細胞の頻度を示す)。
【図4B】アレナウイルスベクターが、高頻度の長命の記憶CD8+T細胞及び高力価での長期抗体記憶を誘起することを示す図である。マウスに、皮下(s.c.)又は静脈内(i.v.)経路のいずれかで指定用量(1)のrLCMV/OVAを免疫付与し、14日目(5)及び58日目(6)に、血清中のOVA特異的なIgGをELISAで測定した。値を、2倍のバックグラウンド光学密度(OD)測定値が得られる血清の希釈率で表す。
【図5】アレナウイルスベクターが中枢神経系疾患を引き起こさないことを示す図である。マウスの大脳内に、rLCMV/OVA(白四角)、又は野生型LCMV(黒丸)を接種し、末期的な脈絡髄膜炎の臨床兆候に関して指定時点(1、日数で示す)でモニタリングした。各時点で、試験動物数当たりの健常な動物の数を示す(2)。
【図6】アレナウイルスベクターが感染性の攻撃(challenge)に対するT細胞及び抗体媒介性の防御を与えることを示す図である。図6A:実験0日目、マウスを、rLCMV/OVA(AA群)又は陰性対照として無関係のCreレコンビナーゼ抗原を発現するrLCMV対照ベクター(BB群)のいずれかを使用してワクチン接種した。OVAを発現する組換えリステリア菌(Listeriamonocytogenes)による静脈内への攻撃を、16日又は58日おいた後に行った(d16、d58)。攻撃の4日後、細菌力価(1)を動物の脾臓で測定した(1器官当たりのコロニー形成単位(log10)で示す)。黒丸は個々のマウスの値を示す。縦線は各群の平均値を示す。図6B:I型インターフェロン受容体欠損マウスを、水疱性口内炎ウイルスエンベローププロテインGの抗原性であるが、非機能的な変異型(その細胞外ドメインでの外来ペプチド配列の挿入により修飾される)を発現するLCMVベクターでワクチン接種するか(黒四角)、又はワクチン接種しなかった(白丸)。1ヵ月後、全ての動物を2×10PFUの水疱性口内炎ウイルスで静脈に攻撃した。攻撃後、指定時点で(2、日数で示す)、動物を末期的な脊髄脳炎の臨床兆候に関してモニタリングした。各時点及び群で、健常な動物の生存率を、試験動物数当たりの健常な動物の数で示す(3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、感染細胞において遺伝情報を増幅及び発現する能力があるが、正常な遺伝子組み換えしていない細胞ではさらなる感染性の子孫ウイルス粒子を産生することができないゲノムを含有するように組み換えられる、感染性アレナウイルス粒子(アレナウイルスベクターと称される)に関する。この原理を図1Aに概略的に図示する。データ例を図1Bに表す。
【0015】
アレナウイルスベクターの複製には、複製欠損ベクターと相補性のある遺伝子組み換え細胞が必要である。細胞感染の際、アレナウイルスベクターのゲノムは、アレナウイルスタンパク質だけでなく、対象となるタンパク質、例えば対象となる抗原もさらに発現する。アレナウイルスベクターを、LCMVに関して記載のように標準的な逆遺伝学的技法により産生するが(非特許文献1、非特許文献2)、そのゲノムを1つ又は複数の以下の方法で修飾し、それにより上述の特性が得られる:
i)4つのアレナウイルスオープンリーディングフレーム(糖タンパク質(GP)、核タンパク質(NP)、基質タンパク質Z、RNA依存性RNAポリメラーゼL)の内の1つ又は複数、例えば2つ、3つ又は4つを、アレナウイルスベクター感染細胞では依然として遺伝子発現が可能であるが、正常細胞では感染性粒子の形成を妨げるように除去又は突然変異する。
ii)1つ又は複数のタンパク質をコードする外来核酸を導入することができる。代替的に又は付加的に、外来核酸を宿主遺伝子の発現を調整するために組み込んでもよい。これらの外来核酸としては、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、ミクロRNA(miRNA)及びそれらの前駆体が挙げられるが、これらに限定されない。これらの外来核酸を、4つのアレナウイルスプロモータ(Sセグメントの5’UTR及び3’UTR、並びにLセグメントの5’UTR及び3’UTR)の内の1つ又は複数、例えば2つ又は3つから、又はそれぞれウイルスUTR、28SリボソームRNAプロモータ、β−アクチンプロモータ又は5SリボソームRNAプロモータにおいて自然状態で見出されるウイルスプロモータ配列の複製物のようなウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ、細胞RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIにより解読することができるさらに導入されたプロモータ配列から転写する。タンパク質をコードする、又は宿主遺伝子発現を調整するリボ核酸を、それら自体により、又はアレナウイルスタンパク質のオープンリーディングフレームとの融合によるリードスルーとして転写及び翻訳し、宿主細胞におけるタンパク質の発現が、1つ又は複数、例えば2つ、3つ又は4つの内部リボソーム侵入部位を適当な場所(複数可)でウイルス転写配列に導入することにより高められ得る。
【0016】
本明細書中で理解されるような「宿主遺伝子発現の調整」は、全てのベクター標的細胞における又は細胞型特異的な、宿主遺伝子の発現の低減又はその増大を表す。これらの所望の特徴は、ベクターに組み込まれる核酸配列を適合することにより達成することができる。
【0017】
アレナウイルスベクターを、以下を含むが、これらに限定されない様々な状況で、一般的には生活及び健康を改善するために、及びヒトを含む動物に(予防的に)免疫付与するために、又はヒトを含む動物を(免疫治療的に)治療するために使用することができる:
i)これらに限定されないが、ウイルス(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス及び呼吸器合胞体ウイルス(RSV))、細菌(例えばマイコバクテリウム、ヘモフィルス種(haemophilus spp.)及び肺炎球菌種(pneumococcus spp.))、寄生生物(例えばプラスモジウム(plasmodia)、アメーバ(amebia)及びフィラリア(philaria))、並びにプリオン(例えば従来及び変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病及び狂牛病を引き起こす感染性因子)による感染;
ii)これらに限定されないが、I型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、紅斑性狼瘡及び乾癬を含む自己免疫疾患;
iii)これらに限定されないが、黒色腫、前立腺癌、乳癌、肺癌及び神経芽細胞腫を含む腫瘍性疾患;
iv)これらに限定されないが、II型糖尿病、肥満症及び痛風を含む代謝性疾患;
v)これらに限定されないが、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含む変性疾患;
vi)これらに限定されないが、ハンチントン病、重症複合型免疫不全症及び脂質蓄積症を含む遺伝性疾患;
vii)これらに限定されないが、タバコ及びアルコール中毒を含む物質依存症;並びに
viii)これらに限定されないが、季節性又は通年性の鼻炎結膜炎、喘息及び湿疹を含むアレルギー性疾患。
【0018】
同じ意図で、アレナウイルスベクターを、対象となる遺伝子、例えば外来核酸を、ヒトを含む生きている動物の細胞に導入するために、すなわち遺伝子治療として使用することができ、又はアレナウイルスベクターを、生物工学的応用において対象となる遺伝子産物を導入及び発現するために使用することができる。ゲノムから、例えば粒子放出に必要とされるZ遺伝子又は標的細胞の感染に必要とされるGP遺伝子を欠失させることによりアレナウイルスベクターの複製を破壊すると(図3も比較されたい)、感染細胞の総数は、例えばワクチン接種者若しくは遺伝子治療のレシピエントに投与された、又は医学的若しくは生物工学的な適用に従事するスタッフ(personnel)若しくは動物に誤って伝染された接種材料により制限される。野生型アレナウイルス感染におけるアレナウイルス疾患及び免疫抑制が両方とも、確認されていないウイルス複製に由来するものであることが知られている。そのため、アレナウイルスベクターの複製破壊が、ベクター粒子の意図的な又は偶発的な伝染の結果としての発症を防ぐ。本発明では、重要な一態様が、1つ又は複数の外来タンパク質、例えば対象となる抗原を発現する目的のために有益な方法における複製破壊の上記の必要性を利用することにある:例えば欠失による構造的な、又は突然変異誘発による機能的な1つ又は複数のアレナウイルス遺伝子の除去により、最適なタンパク質の発現に関する各ウイルスプロモータが遊離する。
【0019】
多くの利点の組合せは、アレナウイルスベクター戦略に関して本発明を特徴付ける。注目すべきことに、アレナウイルスベクターが拡散することができないままであるにもかかわらず、アレナウイルスベクターの強い免疫原性が保持されることはアレナウイルス免疫分野で研究している免疫学者にとって大きな驚きとなる。臨界期間にわたる相当量のウイルス及び抗原負荷が一般的には、アレナウイルスの不適合免疫原性に必須であると思われる。安全性に関して、ウイルス(及びベクター)の非細胞溶解性挙動は、最も利用されているベクター系に優る主な利点であり、同じことが一般的にアレナウイルスの発癌性の喪失に当てはまる。また、アレナウイルスベクターが複製されないことは、安全性に関して非常に重要なことである。特に抗体中和に対するアレナウイルスベクターの高レベル耐性もワクチンとしての適用に非常に有利である。この性質は、多くのアレナウイルスエンベロープに固有のものであり、同じアレナウイルスベクターによる免疫付与の繰り返しを可能にし、このため免疫応答の追加免疫(boosting)が繰り返される。同様に、アレナウイルスに対する既存の免疫力は、ヒト集団で非常に低い又はごくわずかである。
【0020】
考慮されるアレナウイルスは、旧世界ウイルス、例えばラッサ熱ウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、モバラ(Mobala)ウイルス、モペイア(Mopeia)ウイルス若しくはイッピイ(Ippy)ウイルス、又は新世界ウイルス、例えばアマパリ(Amapari)ウイルス、フレキシアル(Flexal)ウイルス、ガナリト(Guanarito)ウイルス、フニン(Junin)ウイルス、ラチノ(Latino)ウイルス、マチュポ(Machupo)ウイルス、オリベロス(Oliveros)ウイルス、パラナ(Parana)ウイルス、ピキンデ(Pichinde)ウイルス、ピリタル(Pirital)ウイルス、サビア(Sabia)ウイルス、タカリベ(Tacaribe)ウイルス、タミアミ(Tamiami)ウイルス、ベアキャニオン(Bear Canyon)ウイルス、又はホワイトウォーターアロヨ(WhitewaterArroyo)ウイルスである。旧世界ウイルス成員、例えばラッサ熱ウイルス又はLCMV、特にLCMVが好ましい。
【0021】
1つ又は複数の対象となるタンパク質をコードする外来核酸は、例えばメッセンジャーRNA由来配列、又は一次遺伝子転写産物に対応するRNAであり、このRNAを保有する本発明のアレナウイルス粒子が細胞に感染すると、対象となるタンパク質が発現される。考慮されるさらなる外来核酸は、例えばRNA干渉によりアレナウイルスベクター粒子を感染させた細胞において遺伝子発現を変更するものである。
【0022】
本発明の組換えアレナウイルスに導入されると考えられる対象となるリボ核酸は、糖タンパク質(GP)、基質タンパク質Z、核タンパク質(NP)若しくはポリメラーゼタンパク質Lのオープンリーディングフレームへの置換若しくはこれとの融合によりアレナウイルスベクターゲノムに導入することができる、すなわち4つのアレナウイルスプロモータ(Sセグメントの5’UTR及び3’UTR、並びにLセグメントの5’UTR及び3’UTR)の制御下で転写及び/又は発現することができる、タンパク質をコードする、又は宿主遺伝子発現を調整する任意の配列、並びにそれぞれウイルスUTR、28SリボソームRNAプロモータ、β−アクチンプロモータ又は5SリボソームRNAプロモータで自然状態で見出されるウイルスプロモータ配列の複製物のようなウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ、細胞RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIにより解読することができる調節因子により挿入することができるリボ核酸である。タンパク質又は核酸を、それら自体により、又はそれぞれアレナウイルスオープンリーディングフレーム及び遺伝子との融合によるリードスルーとして、及び/又は1つ又は複数、例えば2つ、3つ又は4つの内部リボソーム侵入部位と組合せて転写及び/又は発現する。GFP及びGPを置き換えるオバルブミンに関する遺伝子で実証されるように、挿入される遺伝子長及び発現するタンパク質の性質は、多種多様の対象となるタンパク質が発現するのには重要ではないが、多種多様の対象となるタンパク質が発現する可能性を広げる。
【0023】
対象となるタンパク質はペプチド抗原又はタンパク質抗原であるのが好ましい。本発明のペプチド抗原又はタンパク質抗原は例えば、(a)感染性疾患に対する免疫応答を誘導又は調整するのに適したタンパク質又はペプチド、(b)腫瘍性疾患、すなわち癌細胞に対する免疫応答を誘導又は調整するのに適したタンパク質又はペプチド、及び(c)アレルゲンに対する免疫応答を誘導又は調整するのに適したタンパク質又はペプチドから成る群から選択され得る。抗原の組合せ、例えば1つ又は複数の感染性生物又は腫瘍又はアレルゲンに由来する抗原は、それぞれ2種類以上の感染、腫瘍型又はアレルギー性疾患を予防(protecting)又は治癒する免疫応答を誘起又は調整するのに組合せてもよい。
【0024】
「免疫応答の調節」は、本明細書中で使用される場合、i)質的又は量的に患者の有益な免疫応答を改善することを意味する。これは、例えば感染した個体の免疫治療に関してHIV特異的なT細胞及び抗体の応答を高める場合に望ましい。「免疫応答の調節」という用語は、ii)脱感作、例えば防御免疫応答を置換若しくは重ね合わせる、又は病原性免疫応答を弱めるために、免疫グロブリンEアイソタイプの免疫応答のようなアレルギー型の免疫応答を抑制することによるアレルゲンに対する脱感作として一般的に知られているプロセスも表す。
【0025】
本発明の特定の一実施形態において、抗原は、感染性疾患の予防に有用なものである。抗原又は抗原性決定因子の具体例としては、HIV抗原gp41、gp120、gag及びpol、C型肝炎ウイルスの非構造(NS)タンパク質、インフルエンザ抗原(ヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ)、B型肝炎表面抗原、並びにマラリアのスポロゾイト周囲タンパク質が挙げられる。
【0026】
好ましくは抗原は、呼吸器合胞体ウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗原、C型肝炎ウイルス抗原、水痘帯状ヘルペス(varicella zoster)ウイルス抗原、単純ヘルペスウイルス抗原、サイトメガロウイルス抗原及びヒト型結核菌(mycobacteriumtuberculosis)に由来する抗原から選択される。
【0027】
癌を治療する組成物及び方法に関する抗原の選択は、かかる障害を治療する医学分野の当業者にとって既知である。この型の抗原の代表的な例としては以下のものが挙げられる:HER2/neu(乳癌)、GD2(神経芽細胞腫)、EGF−R(悪性膠芽細胞腫)、CEA(甲状腺髄様癌)、CD52(白血病)、MUC1(血液悪性腫瘍で発現する)、gp100タンパク質、MELAN−A/MART1、又は腫瘍抑制遺伝子WT1の産物。
【0028】
アレルギーを治療する組成物及び方法に関する抗原の選択は、かかる障害を治療する医学分野の当業者にとって既知である。この型の抗原の代表的な例としては、カバノキ花粉抗原Bet v 1及びネコアレルゲンFel d 1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
肥満症を治療する組成物及び方法に関する抗原の選択は、かかる障害を治療する医学分野の当業者にとって既知である。この型の抗原の代表的な例としては、グレリン及び胃抑制ペプチド(GIP)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
アレナウイルスベクターゲノムの設計
野生型アレナウイルスゲノム(図1C)から始め、アレナウイルスベクターゲノムを、両方のセグメントの5’及び3’非翻訳領域(UTR)、及び好ましくは同様に遺伝子間領域(IGR)上で少なくとも必須調節因子を保持するように設計する。感染細胞での遺伝子発現に必要とされる最小限のトランス作用因子が、発現され得るオープンリーディングフレームとしてベクターゲノム中に維持されるが、これらのトランス作用因子を、ゲノムの異なる位置に置くことができ、また自然状態とは異なるプロモータの制御下に置くことができる、又は内部リボソーム侵入部位から発現することができる。4つのウイルス遺伝子(NP、L、GP、Z)の内の少なくとも1つを除去するか又は機能的に不活性化する。対象となる核酸の1つ又は複数のさらなる遺伝子又はストレッチを、アレナウイルスベクターゲノムに挿入し、4つのウイルスプロモータ(Sセグメントの5’UTR及び3’UTR、並びにLセグメントの5’UTR及び3’UTR)の内の1つの制御下で、又は内部リボソーム侵入部位から、若しくはウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ、細胞RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIにより解読することができるプロモータから感染細胞での発現を可能にするように配置及び配向する。図1Cは、アレナウイルスGPのオープンリーディングフレーム(ORF)を、オバルブミン(OVA)又は緑色蛍光タンパク質(GFP)のORFのいずれかに置き換える1つの例を示す。
【0031】
相補性細胞株の発生
アレナウイルスベクターにおける1つ又は複数のウイルス遺伝子の「欠失」(除去又は機能的な不活性化のいずれかを表す)(本明細書中では糖タンパク質(GP)の欠失を例に取っている)のために、アレナウイルスベクターは、トランス型で欠失ウイルス遺伝子(複数可)、例えば本発明の実施例ではGPを提供する細胞で生成及び増殖しなければならない。かかる相補性細胞株(以下C細胞と称する)を、BHK−21、HEK293又はVERO(本明細書中ではBHK−21を例に取っている)等の哺乳動物細胞株に、対象となるウイルス遺伝子(複数可)の発現に関する1つ又は複数のプラスミド(相補性プラスミド、Cプラスミドと称される)をトランスフェクトすることにより生成する。Cプラスミド(複数可)(例えば図2Aを参照されたい)が、哺乳動物細胞における発現に適した1つ又は複数の発現カセット、例えばポリアデニル化シグナルを有するCMV又はEF1αプロモータ等の哺乳動物ポリメラーゼIIプロモータの制御下で生成される、アレナウイルスベクターで欠失したウイルス遺伝子(複数可)を発現する。さらに、相補性プラスミドは、哺乳動物細胞における遺伝子発現に適した発現カセット、例えば上記のようなポリメラーゼII発現カセットの制御下での、哺乳動物選択マーカー、例えばピューロマイシン耐性カセットを特徴とし、又はウイルス遺伝子転写産物(複数可)の後に、内部リボソーム侵入部位、例えば脳心筋炎ウイルスの内部リボソーム侵入部位が続き、その後哺乳動物耐性マーカーが続く。大腸菌での産生に関して、さらにプラスミドは、細菌選択マーカー、例えばアンピシリン耐性カセットを特徴とする。
【0032】
使用される細胞、例えばBHK−21、HEK293又はMC57G等は、培養物中に維持され、リン酸カルシウムベース、リポソームベースのプロトコル又はエレクトロポレーション等の一般的に使用される戦略のいずれかを使用して、相補性プラスミド(複数可)とトランスフェクトされる。数日後、好適な選択因子、例えばピューロマイシンを漸増濃度で添加する。生存クローンを単離し、標準的な手法に従ってサブクローニングして、高発現C細胞クローンを、対象となるウイルスタンパク質(複数可)に指向性を有する抗体によるウェスタンブロット法又はフローサイトメトリ法を使用して同定する。安定してトランスフェクトしたC細胞を使用する代わりに、正常細胞の一時的なトランスフェクションの使用が、C細胞を以下で使用する工程のそれぞれでミッシングウイルス遺伝子(複数可)を補い得る。
【0033】
アレナウイルスベクターの回収に関するプラスミド
必要となるプラスミドは2種類である:
i)C細胞において細胞内でアレナウイルスの最低限のトランス作用因子を発現する2つのプラスミド(TFプラスミドと称される)(例えば図2Bを参照されたい)。ベクターは、本発明の実施例では例えばLCMVのNPタンパク質及びLタンパク質に由来する。
ii)C細胞において細胞内でアレナウイルスベクターゲノムのセグメント、例えば図1Cに記載のように修飾が設計されたセグメントを発現するプラスミド(GSプラスミドと称される)(例えば図2Cを参照されたい)。TFプラスミドは、哺乳動物細胞においてタンパク質発現に適した発現カセット、典型的には例えば好ましくはポリアデニル化シグナルと組合せたもののいずれか1つである、CMV又はEF1αプロモータ等の哺乳動物ポリメラーゼIIプロモータの制御下で各アレナウイルスベクターのNPタンパク質及びLタンパク質を発現する(図2B)。GSプラスミドはベクターの小(S)ゲノムのセグメント及び大(L)ゲノムのセグメントを発現する。典型的に、ポリメラーゼI駆動発現カセット(図2C)又はT7バクテリオファージRNAポリメラーゼ(T7)駆動発現カセットを使用することができ、後者は、一次転写産物のプロセシングのために3’末端リボザイムを有するのが好ましく、これにより正確な端部が得られる。T7ベースのシステムを使用する場合、C細胞におけるT7の発現が、回収プロセスにおいてTFプラスミドに類似するように構築したさらなる発現プラスミドを含むことにより、T7を提供することにより、又は安定してT7をさらに発現するようにC細胞を構築することにより与えられなければならない。
【0034】
アレナウイルスベクターの回収
1日目:M6ウェルプレートにおいて典型的に80%のコンフルエントであるC細胞を、2つのTFプラスミドと、2つのGSプラスミドとの混合物とトランスフェクトする。これに関して、リン酸カルシウムベース、リポソームベースのプロトコル又はエレクトロポレーション等の一般的に使用される戦略のいずれかを利用することができる。
【0035】
3日後〜5日後:培養上清(アレナウイルスベクター調製物)を回収し、等分して、使用するまでどれくらいアレナウイルスベクターを保存するかに応じて4℃、−20℃又は−80℃で保存する。それからアレナウイルスベクター調製物の感染力価を、C細胞でのイムノフォーカス(immunofocus)アッセイにより評価する。
【0036】
アレナウイルスベクターの感染性の滴定
アレナウイルスベクター調製物の感染性を測定するために、C細胞を、以下で概説されるウイルス学において一般的に使用される原理に従って典型的なイムノフォーカスアッセイに使用する。
【0037】
典型的にM24ウェルプレート中の80%コンフルエントのC細胞単層に、10倍希釈のアレナウイルスベクター調製物を90分間、感染させる。その後、細胞層を、1%メチルセルロースを添加した好適な細胞培養培地で覆う。2、3日後、使用するC細胞株の易感染性(permissiveness)に応じて、培養上清を除去し、典型的にエタノール/アセトン又は4%ホルマリンを用いて細胞層を固定し、その後中性洗剤を使用して細胞層を透過化する。続いて、アレナウイルスベクター感染細胞フォーカスを、試験するアレナウイルスベクターにおけるタンパク質の内の1つ、又は導入される抗原に対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体調製物(複数可)を使用して同定する。結合抗体を、適切な試薬、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ等の視覚化のためにシステムに連結する抗アイソタイプ又は抗種(anti-species)抗体を使用して、その後o−フェニレンジアミン等の好適な色原体との発色反応により検出する。プレート上で得られるスポットを計測し、アレナウイルスベクター調製物の体積当たりの感染性フォーカス形成単位(FFU)の数を算出する。
【0038】
ワクチン及び医薬製剤
本発明はさらに、上記のように遺伝子組み換えアレナウイルスを含むワクチン及び医薬製剤に関する。他の用途でのワクチン及び医薬製剤を、当該技術分野で標準的な手法に従って調製する。
【0039】
温血動物、特にヒトへの腸内投与、例えば鼻内、口腔、直腸又は経口投与用、及び非経口投与、例えば静脈内、筋肉内、皮内又は皮下投与用の組成物が好ましい。非経口投与用の組成物が特に好ましい。組成物は、単独で又は好ましくは薬学的に許容可能な担体と共に遺伝子組み換えアレナウイルスを含む。活性成分の投与量は、ワクチン接種及び治療する疾患の型と、種、年齢、体重及び個体条件、個々の薬物動態データ及び投与形態とによって変わる。
【0040】
医薬組成物は、約10〜約1011のフォーカス形成単位の遺伝子組み換えアレナウイルスを含む。非経口投与用の単位用量形態は例えば、アンプル又はバイアル、例えば約10〜約1010のフォーカス形成単位、又は10〜1015個の遺伝子組み換えアレナウイルスの物理的粒子が入ったバイアルである。
【0041】
遺伝子組み換えアレナウイルスの懸濁液又は分散液、特に等張の分散液又は懸濁液の使用が好まれる。医薬組成物は滅菌してもよく、且つ/又は賦形剤、例えば保存料、安定剤、湿潤剤及び/又は乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩、及び/又は緩衝剤を含んでもよく、それ自体が既知の方法、例えば従来の分散プロセス及び懸濁プロセスで調製する。上記分散液又は懸濁液は粘度調節剤を含み得る。懸濁液又は分散液は2℃〜4℃付近の温度で維持されるか、又は好ましくはより長期間保存するために凍結乾燥してから、使用の直前に解凍してもよい。
【0042】
本発明は、医薬製剤の形態でのワクチンを製造するプロセス、及び医薬製剤の形態でのワクチンを製造するための遺伝子組み換えアレナウイルスの使用にも関し、これらのワクチンは活性成分として遺伝子組み換えアレナウイルスを含む。本発明の医薬組成物をそれ自体が既知の方法、例えば従来の混合プロセス及び/又は分散プロセスで調製する。
【0043】
ワクチン接種者及び遺伝子治療レシピエントへの投与
本発明はさらに、上記のように遺伝子組み換えアレナウイルスを使用するワクチン接種及び遺伝子治療の方法に関する。
【0044】
アレナウイルスベクターを生活の質を改善するために投与し、これには、以下のものを予防、治療又は改善するためのワクチン接種、免疫治療及び遺伝子治療が含まれるが、これらに限定されない:
i)これらに限定されないが、ウイルス(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、インフルエンザウイルス及び呼吸器合胞体ウイルス(RSV))、細菌(例えばマイコバクテリウム、ヘモフィルス種及び肺炎球菌種)、寄生生物(例えばプラスモジウム、アメーバ及びフィラリア)、並びにプリオン(例えば従来及び変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病及び狂牛病を引き起こす感染性因子)により引き起こされる感染;
ii)これらに限定されないが、I型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、紅斑性狼瘡及び乾癬を含む自己免疫疾患;
iii)これらに限定されないが、黒色腫、前立腺癌、乳癌、肺癌及び神経芽細胞腫を含む腫瘍性疾患;
iv)これらに限定されないが、II型糖尿病、肥満症及び痛風を含む代謝性疾患;
v)これらに限定されないが、アルツハイマー病及びパーキンソン病を含む変性疾患;
vi)これらに限定されないが、ハンチントン病、重症複合型免疫不全症及び脂質蓄積症を含む遺伝性疾患;並びに
vii)これらに限定されないが、タバコ及びアルコール中毒を含む物質依存症。
【0045】
特に本発明は、ウイルス、細菌、寄生生物及びプリオンによる感染を予防する方法であって、遺伝子組み換えアレナウイルスを含むワクチンを、それを必要とする患者に投与することを含む方法と、上記で挙げられた腫瘍性疾患及び変性疾患を予防する方法とにも関する。
【0046】
さらに本発明は、ウイルス、細菌、寄生生物及びプリオンによる感染、自己免疫疾患、腫瘍性疾患、代謝性疾患、変性疾患、遺伝性疾患、又は物質依存症を治療する方法であって、遺伝子組み換えアレナウイルスを含む医薬製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、方法に関する。
【0047】
アレナウイルスベクターを、例えば図3Aで概説される実験のように、これらに限定されないが、筋肉内、皮内、皮下、経口、鼻内又は静脈内経路を含む利用可能な経路の1つ又は複合経路のいずれかによりワクチン接種者に投与する。これにより、細胞の感染、例えば静脈内接種の後にこれらの非常に類似した最初に感染した細胞においてウイルスゲノムのセグメントの増幅が起こる。これは、T細胞応答を誘発することができる脾臓の樹状細胞を含む。アレナウイルスベクターがワクチン接種者の細胞で複製しないため、C細胞に存在する相補性のウイルスタンパク質が失われると、アレナウイルスベクターRNAのレベルが経時的に急速に低減し、ウイルスゲノムがアレナウイルスベクター接種の数日以内に消衰状態に近づく(図3A)。同じ用量の野生型ウイルスによる感染とは対照的に、アレナウイルスベクターの複製及び持続性が失われるため、アレナウイルスベクター免疫付与は免疫抑制(図3B)又は疾患(図5)を引き起こさない。このことを、LCMV−GPの代わりに、野生型LCMV又はOVAを発現するLCMVベースのベクター(rLCMV/OVA、図1Cを比較する)のいずれかで感染したマウスで試験する。その後、水疱性口内炎ウイルスでの感染は、事前にrLCMV/OVAを免疫付与した動物では正常なCD8T細胞及び抗体の応答を誘起したが、野生型LCMVを事前に感染させた動物ではCD8T細胞及び抗体の応答を抑制した。同様に野生型LCMVは、頭蓋内に投与すると、マウスにおいて致死的な脈絡髄膜炎を誘起したが、rLCMV/OVAは、臨床的に検出可能な病気の兆候を全く誘起しなかった(図5)。
【0048】
その一時的な性質にもかかわらず、対象となる抗原の発現は強く且つ長期的なT細胞応答を惹起すると共に(図4A)、特異的な抗体の高力価を惹起する(図4B)。この応答は、用量依存的であるが、より少ない用量が有効である(図4B)。LCMVベースのワクチンベクターにより誘起されたT細胞応答の防御能をマウスで試験する。rLCMV/OVAによる免疫付与が、OVAを発現する組換えリステリア菌(rLM/OVA)による感染性攻撃に対する防御を与えた。このことは、ワクチン接種動物の脾臓におけるrLM/OVA力価の強い低減又は検出不可で明らかであった(図6A)。LCMVベクターによる抗体媒介性の防御の誘導を、I型インターフェロン受容体を失ったマウスで試験する。これらのマウスは、50PFUの範囲において50%致死用量(LD50)で水疱性口内炎ウイルス(VSV)に非常に感染しやすい。VSVに対する免疫付与のために、水疱性口内炎ウイルスエンベローププロテインGの抗原性であるが、非機能的な変異型(その細胞外ドメインでの外来ペプチド配列の挿入により修飾される)を発現するLCMVベクターを使用した。免疫付与マウスが、2×10PFUのVSV(すなわち10000倍を超えるLD50)で攻撃感染(challenge infection)から生存したのに対し、免疫付与していない対照マウスは、VSV攻撃後2、3日以内に末期的な脊髄脳炎を発症した(図6)。注目すべきことに、UV照射によるアレナウイルスベクターゲノムの不活性化が免疫原性を破壊し、このことは、感染細胞におけるウイルスベクターの複製及び遺伝子発現が、ワクチンとしての有効性に必須であることを示している。さらに、T細胞及び抗体の応答は、同じ(同種)又は異なる(異種)アレナウイルスベクターの反復適用により、すなわち追加免疫付与の形で高めることができる。同種の初回免疫−追加免疫(prime-boost)レジメンにおいて、中和抗体の誘導が実質的になければ、追加免疫付与は特に有効となる。
【0049】
遺伝子治療に使用する場合、対象となる抗原が発現する特定の組織を標的とし、また特定の組織に送達するために、アレナウイルスベクターを全身に、例えば静脈内、又は局所的に、例えば適切な機器を使用して定位注入により適用することができる。その非細胞溶解性のために、アレナウイルスベクターは、ベクターが感染する細胞を傷付けることなく、対象となる遺伝子へと機能的に置換することができる。
【0050】
多細胞生物の治療にアレナウイルスベクターを利用する代わりに、相補性(C細胞)細胞又は非相補性(正常)細胞を、レシピエントによる免疫拒絶を防ぐ生体適合性材料でカプセル封入してレシピエントの身体に移植しても、カプセル封入細胞からカプセルを通ってレシピエントの組織へとタンパク質及び/又はリボ核酸の感染性(感染性C細胞の移植)又は非感染性(感染した正常細胞の移植)の粒子が一定放出される。
【0051】
細胞培養物における対象となるタンパク質の発現
本発明はさらに、遺伝子組み換えアレナウイルスを感染させた細胞培養物における対象となるタンパク質の発現に関する。培養細胞においてタンパク質又は対象となる核酸のストレッチ、例えば対象となる抗原の発現に使用する場合、以下の2つの手法が想定される:
i)対象となる細胞型に、1つ又は複数、例えば2つ、3つ又は4つの感染の多重度(MOI)でアレナウイルスベクター調製物を感染させ、これにより感染の直後には既に全ての細胞で対象となるタンパク質が産生される。
ii)代替的には、より低いMOIを使用することができ、個々の細胞クローンは、ウイルス駆動性のタンパク質発現レベルに関して選択することができる。その後、個々のクローンは、アレナウイルスベクターの非細胞溶解性により無限に増殖することができる。このアプローチに関係なく、その後、対象となるタンパク質(複数可)を、産生されるタンパク質(複数可)の特性に応じて、培養上清又は細胞自体のいずれかから回収(及び精製)することができる。
【0052】
しかしながら本発明は、これら2つの戦略に限定されず、ベクターとして遺伝子組み換えアレナウイルスを使用して対象となるタンパク質又は核酸の発現を促進する他の方法が考慮され得る。
【符号の説明】
【0053】
1:ポリメラーゼIIプロモータ、
2:相補的に発現するウイルス遺伝子、
3:内部リボソーム侵入部位、
4:哺乳動物選択マーカー、例えばピューロマイシン耐性遺伝子、
5:ポリアデニル化シグナル、
6:アンピシリン耐性カセット、
7:複製起点、
8:ウイルストランス作用因子、例えばNP ORF、
9:ウイルストランス作用因子、例えばL ORF、
10:C細胞においてアレナウイルスゲノムのセグメントの発現を促進するプロモータ、例えばポリメラーゼIプロモータ、
11:Sセグメントの5’UTR、
12:対象となる抗原、
13:SセグメントのIGR、
14:NP遺伝子、
15:Sセグメントの3'UTR、
16:ポリメラーゼIターミネータ、
17:Lセグメントの5’UTR、
18:Z遺伝子、
19:LセグメントのIGR、
20:L遺伝子、
21:Lセグメントの3’UTR。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染細胞において遺伝情報を増幅及び発現する能力があるが、正常な遺伝子組み換えしていない細胞ではさらなる感染性の子孫ウイルス粒子を産生することができないゲノムを含有するように組み換えられる、感染性アレナウイルス粒子。
【請求項2】
対象となるタンパク質又はペプチドをコードするさらなる核酸を含む、請求項1に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項3】
宿主遺伝子の発現を調整するさらなる核酸を含む、請求項1に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項4】
修飾ゲノムを含み、
i)4つのアレナウイルスオープンリーディングフレーム(糖タンパク質(GP)、核タンパク質(NP)、基質タンパク質Z及びRNA依存性RNAポリメラーゼL)の内の1つ又は複数を、正常細胞では複製が妨げられるが、アレナウイルスベクター感染細胞では遺伝子発現が可能なままであるように除去又は突然変異させ、
ii)1つ又は複数の対象となるタンパク質をコードする、又は宿主遺伝子発現を調整する外来リボ核酸を、4つのアレナウイルスプロモータ(Sセグメントの5’UTR及び3’UTR、並びにLセグメントの5’UTR及び3’UTR)の内の1つ又は複数の制御下で、及び/又はそれら自体により又はアレナウイルスタンパク質のオープンリーディングフレームとの融合によるリードスルーとして発現した、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ、細胞RNAポリメラーゼI、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIで解読することができる調節因子の制御下で発現し、
iii)任意で1つ又は複数の内部リボソーム侵入部位を、アレナウイルスベクター感染細胞において対象となるタンパク質の発現を高めるように導入する、請求項2又は3に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項5】
該アレナウイルスオープンリーディングフレームの糖タンパク質(GP)を除去又は突然変異させる、請求項4に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項6】
該アレナウイルスオープンリーディングフレームの糖タンパク質(GP)を除去し、1つ又は複数の対象となるタンパク質をコードする、又は宿主遺伝子発現を調整する外来リボ核酸に置き換える、請求項5に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項7】
該アレナウイルスオープンリーディングフレームの糖タンパク質(GP)を除去し、感染性生物、腫瘍又はアレルゲンに由来するペプチド抗原又はタンパク質抗原をコードする外来リボ核酸に置き換える、請求項5に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項8】
該アレナウイルスオープンリーディングフレームの糖タンパク質(GP)を除去し、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)及びミクロRNA(miRNA)から選択される外来リボ核酸に置き換える、請求項5に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項9】
アレナウイルスがリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項10】
呼吸器合胞体ウイルス抗原、ヒト免疫不全ウイルス抗原、C型肝炎ウイルス抗原、水痘帯状疱疹ウイルス抗原、単純ヘルペスウイルス抗原、サイトメガロウイルス抗原及びヒト型結核菌に由来する抗原から選択される抗原をコードする外来リボ核酸を含む、請求項9に記載のアレナウイルス粒子。
【請求項11】
請求項2〜10のいずれか一項に記載のアレナウイルス粒子を含むワクチン又は又は医薬製剤。
【請求項12】
患者においてウイルス、細菌、寄生生物及びプリオンによる感染を予防する方法であって、請求項2〜10のいずれか一項に記載のアレナウイルス粒子を、それを必要とする患者に治療的に有効な量投与することを含む、方法。
【請求項13】
患者においてウイルス、細菌、寄生生物及びプリオンにより引き起こされる感染、自己免疫疾患、腫瘍性疾患、代謝性疾患、変性疾患、遺伝性疾患、アレルギー性疾患又は物質依存症を治療する方法であって、請求項2〜10のいずれか一項に記載のアレナウイルス粒子を、それを必要とする患者に治療的に有効な量投与することを含む、方法。
【請求項14】
細胞培養物において対象となるタンパク質を発現する、又は遺伝子発現を変更する方法であって、該細胞培養物に請求項2〜10のいずれか一項に記載のアレナウイルス粒子を感染させる、方法。

【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図1A】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−507536(P2011−507536A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540060(P2010−540060)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010994
【国際公開番号】WO2009/083210
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(508290633)ユニヴァーシテト チューリッヒ (3)
【Fターム(参考)】