説明

褐色脂肪細胞分化を誘導するための方法および組成物

肥満および関連障害を治療するための方法および組成物。当該方法は、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7で処理したSca−1(+)前駆細胞の使用を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦支援の研究または開発)
合衆国政府は、国立衛生研究所に付与された認可番号R01 DK077097のもとにある本発明において一定の権利を有する。
(発明の属する技術分野)
本開示は、肥満ならびに体重関連の疾患および障害を治療するための方法および組成物に関する。より具体的には、本開示は、細胞もしくは細胞集団内の褐色脂肪組織の脂肪細胞分化を調節する(例えば、増加させる)ための方法および組成物、ならびに褐色脂肪組織細胞系統への分化能もしくは指向能を有する細胞を同定する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、他の障害(糖尿病、心疾患、および癌など)の発症および病因における役割を直接的間接的に介した主要な国際的健康問題である。肥満はエネルギー摂取量がエネルギー消費量を超過した際に発症し、通常、脂肪細胞または脂肪組織の異常蓄積に関連する。
【0003】
脂肪組織は(筋肉および骨と同様に)中胚葉に由来し、白色脂肪細胞(white fat cell)(白色脂肪組織(white adipose tissue:WAT)細胞としても知られている)および/または褐色脂肪細胞(brown fat cell)(褐色脂肪組織(brown adipose tissue:BAT)細胞としても知られている)を増殖かつ分化させる分裂区画を含む。BAT細胞とWAT細胞は共に間葉系幹細胞から生じ、それらは好適な生成合図に惹起された際に脂肪細胞系統に方向付けられるようになり、前駆脂肪細胞として方向が決定される。前駆脂肪細胞は、BAT細胞またはWAT細胞への分化能を有するWATとBATの前駆細胞(precursor cell)もしくは前駆細胞(progenitor cell)の両方を含む。
【0004】
最近、筋原性遺伝子の発現形跡が褐色脂肪前駆細胞内で(ただし、白色脂肪前駆細胞内ではない)同定され(非特許文献1)、BAT前駆細胞はWAT前駆細胞とは異なり、両者は識別できることが示唆された。加えて、褐色脂肪細胞の蓄積がマウス(特に肥満抵抗性の種)の後肢筋束間に散見され(非特許文献2)、骨格筋はBAT細胞への分化能または指向能を有する前駆細胞を含み得ることが示唆された。
【0005】
WAT組織はトリグリセリド蓄積および脂肪酸放出の主要部位である。WATは皮下に見られ、断熱、緩衝作用(衝撃および不快感に対する)、およびエネルギー蓄積に供する。平均的な痩身者はおよそ200〜400億個のWAT細胞を有する。肥満者は平均痩身者の最大10倍のWATを有し得る。
【0006】
BAT細胞は豊富かつ多数のミトコンドリアを含有し(非特許文献3)、酸化的リン酸化反応、中間代謝、適応性熱産生、活性酸素種の生成、およびアポトーシスの中心部位を担う。BATでは、ミトコンドリア生合成が褐色脂肪細胞への分化を伴うことが長らく知られている。過去十年間において、ミトコンドリア完全性の改変は各種ヒト疾患(肥満、糖尿病、癌、神経変性、および老化など)に関与し得ることがますます明白になっている(非特許文献4−6)。
【0007】
BATは脱共役タンパク質−1(UCP−1)を発現させることによって熱産生エネルギー消費に関与する。BAT依存性エネルギー消費は寒冷下での体温維持および/または食物エネルギー消耗を担う。そのため、欠陥BATまたはBAT不足はしばしば肥満を合併する。マウスのBATアブレーションは、しばしばインスリン抵抗性の、高血糖症、高
脂質血症、および高コレステロール血症を合併する重度の肥満に至るという観察結果によって、全体のエネルギー恒常性におけるBATの重要性が強調された(非特許文献7−9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Timmons et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104:4401−4406, 2007
【非特許文献2】Almind et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104:2366−2371, 2007
【非特許文献3】Nedergaard et al., in Brown Adipose Tissue, Trayhurn and Nicholls, Eds. (Edward Arnold, Baltimore, 1986)
【非特許文献4】Duchen, Diabetes 53 (Suppl 1):S96−102 (2004)
【非特許文献5】Taylor and Turnbull, Nat. Rev. Genet. 6:389−402 (2005)
【非特許文献6】Lowell and Shulman, Science 307:384−387 (2005)
【非特許文献7】Lowell at al., Nature 366(6457):740−2 (1993)
【非特許文献8】Hamann et al., Diabetes. 44(11):1266−73 (1995)
【非特許文献9】Hamann et al., Endocrinology 137(1):21−9 (1996)。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、1つまたは複数の骨形成タンパク質(BMP)で処理した幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))前駆細胞が真のBAT細胞に分化するまたは真のBAT細胞を指向するという発見に少なくともある程度基づく。これらのBAT細胞は、BAT細胞熱産生プログラムを作動することによりカテコールアミン刺激に反応する完全な能力を有する生粋のBAT細胞である。
【0010】
本明細書で使用される場合、「BMPで処理した」とは、その細胞のBMPシグナル伝達(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7シグナル伝達)レベルが人工的に増強されていることを意味する(「および/または」は列挙されているもののうちの少なくとも一つを指す、以下同じ)。「人工的に」増強されたとは、BMPシグナル伝達レベルが直接的なヒトの介入により増加したことを意味する。BMPシグナル伝達は、本明細書に記載の任意の方法、例えば、本明細書に記載のBMPシグナル伝達を増加させる化合物(例えば、BMPポリペプチド、BMPコード核酸、低分子、および/または抗体)で細胞を処理することにより増強できる。本明細書に記載の方法により活性化したSca−1(+)細胞集団も本発明に包含される。これらの細胞は、自己由来、同種異系由来、または異種由来であり得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、BMPシグナル伝達を増加させるのに十分な量の化合物によりSca−1(+)前駆細胞集団を処理し(例えば、接触させ)、それによりBMPで処理した細胞集団を産出することを含み得る。
【0012】
ある実施形態では、本明細書に記載の方法は、これらのBMPで処理したSca−1(+)細胞集団の対象への移植することを含み得る。BMPで処理したSca−1(+)細
胞は、直接移植することもでき、あるいはスキャフォールド、マトリックス、または細胞を取り付けることができるその他の移植可能なデバイス(例として、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチン、およびそれらの組み合わせでできている担体が挙げられる)内で投与することもできる。通常、当該方法は、BMPで処理したSca−1(+)細胞集団(対象中の褐色脂肪細胞分化を促進する、例えば、対象のBAT量を少なくとも1%、例えば、2%、5%、7%、10%、15%、20%、25%または25%超増加させるのに十分な数の細胞を含む)の移植を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、当該方法は、精製したSca−1(+)前駆細胞集団(例えば、少なくとも60%、例えば、70%、80%、90%または90%超の細胞がSca−1(+)前駆細胞である細胞集団)を提供すること;ならびに本明細書に記載の1つまたは複数のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7(つまりBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7の発現、量もしくは活性を増加させる能力を有する化合物とこれらの細胞との接触させ、それによりBMPで処理した細胞の生成することを含む。
【0014】
BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7シグナル伝達を増加させる化合物は、例えば、下記のうちの1つまたは複数であり得る:
(a)BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは変異型、好ましくは活性(例えば、BMPR−Iおよび/またはBMPR−IIを活性化する)BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体(例えば、本明細書に記載の成熟BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチド、例えば、成熟BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチド);
(b)(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7の受容体への結合を増加させるまたは安定化することにより)活性を増加させるBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7のペプチドまたはタンパク質アゴニスト、例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7活性を活性化するBMPR−Iおよび/またはBMPR−II;
(c)BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7シグナル伝達活性(例えば、BMPR−Iおよび/またはBMPR−II結合活性、またはSMADリン酸化活性)を模倣する低分子またはタンパク模倣物;
(d)(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子のプロモーター領域との結合により)BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7の発現を増加させる低分子;
(e)抗体、例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7と結合する、ならびに、それらのBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7結合パートナー(例えば、本明細書に記載のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7受容体)との結合を安定化もしくは補助する抗体である。いくつかの実施形態では、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7と結合する抗体はモノクローナル抗体(例えば、ヒト化キメラまたはヒトモノクローナル抗体)である;あるいは
(f)BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードする核酸。この核酸はゲノム配列でもあり得るし、cDNA配列でもあり得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7のポリペプチドまたは核酸である。本明細書で使用される場合、「BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7のポリペプチドまたは核酸」とは、本明細書に記載のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドまたは核酸、例えば、成
熟ヒトBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドもしくはその活性断片、または成熟ヒトBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドをコードする核酸もしくはその活性断片である。
【0016】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−2ポリペプチド(例えば、ヒトBMP−2、例えば、成熟BMP−2ポリペプチド、例えば、配列番号1のアミノ酸283〜396を含むBMP−2ポリペプチド)である。このポリペプチドは組換えポリペプチドであり得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−4ポリペプチド(例えば、ヒトBMP−4、例えば、成熟BMP−4ポリペプチド、例えば、配列番号2のアミノ酸293〜408を含むBMP−4ポリペプチド)である。このポリペプチドは組換えポリペプチドであり得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−5ポリペプチド(例えば、ヒトBMP−5、例えば、成熟BMP−5ポリペプチド、例えば、配列番号3のアミノ酸323〜454を含むBMP−4ポリペプチド)である。このポリペプチドは組換えポリペプチドであり得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−6ポリペプチド(例えば、ヒトBMP−6、例えば、成熟BMP−6ポリペプチド、例えば、配列番号4のアミノ酸374〜513、配列番号4のアミノ酸382〜513、配列番号4のアミノ酸388〜513、または配列番号4のアミノ酸412〜513を含むBMP−6ポリペプチド)である。このポリペプチドは組換えポリペプチドであり得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−7ポリペプチド(例えば、ヒトBMP−7、例えば、成熟BMP−7ポリペプチド、例えば、配列番号5のアミノ酸293〜431を含むBMP−7ポリペプチド)である。このポリペプチドは組換えポリペプチドであり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、化合物はBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドをコードする核酸、またはその生物学的に活性な断片もしくは類似体である。BMP核酸は次を含み得る:BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7コード領域;プロモーター配列(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子由来または別の遺伝子由来のプロモーター配列);エンハンサー配列;非翻訳調節配列、例えば、5’非翻訳領域(UTR)(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子由来または別の遺伝子由来である5’UTR)、3’UTR(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子由来または別の遺伝子由来である3’UTR);ポリアデニル化部位;インスレーター配列。別の実施形態では、内因性BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子の発現レベルを増加させることにより(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子の転写を増加させることによりまたはBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7のmRNAの安定性を増加させることにより)BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7のタンパク質値は増加する。いくつかの実施形態では、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子の転写は、例えば、正の制御因子(転写活性化因子のエンハンサーまたはDNA結合部位など)を添加して内因性BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子の調節配列を改変することにより;負の制御因子(転写リプレッサーのDNA結合部位など)を削除することにより、および/または内因性調節配列もしくはその因子を別の遺伝子のそれと置換することにより増加させ、それによって、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子コード領域のより効
率的な転写が可能となる。
【0022】
いくつかの実施形態では、当該核酸はBMP−7をコードするか、またはBMP−7の転写を増加させる。
いくつかの実施形態では、本発明はBMPで処理したSca−1(+)前駆集団を特徴とする。いくつかの実施形態では、これらの細胞はBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチド(例えば、本明細書に記載のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチド)の発現レベルを、安定的または一時的に増加させるために遺伝子組換えされている。これらの細胞は、例えば、培養した哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)であり得る。いくつかの実施形態では、これらの細胞は少なくとも1つの他のタンパク質(例えば、非BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチド、および/または第二(またはそれ以上の)BMPタンパク質)も同様に発現するように遺伝子組換えされている。発現したBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドは通常、幹細胞と同一種(例えば、ヒト細胞中で発現したヒトBMP)である。いくつかの実施形態では、これらの細胞は不死化されており、例えば、培養物中で無制限に自己複製する能力を有する。
【0023】
一態様では、本発明は、インビトロ細胞集団内における褐色脂肪組織(BAT)細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させる方法を提供する。これらの方法は、本明細書に開示された細胞集団(幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))、CD45陰性、Mac−1陰性前駆細胞を含む)を取得すること;およびにインビトロ前駆細胞集団と、1つまたは複数の骨形成タンパク質(BMP)−2、−4、−6、または−7の発現増加を促進する有効量の化合物とを、細胞集団中の褐色脂肪組織(BAT)細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させるのに十分な時間の間接触させること特徴を備えた細胞の数;または、細胞集団中BAT細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させるのに十分なレベルで1つまたは複数のBMP−2、BMP−4、BMP−6、またはBMP−7を発現するよう細胞集団を遺伝子組換えすること、を含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、対象中の褐色脂肪細胞分化を促進する方法を提供する。これらの方法は、治療が必要な対象を選択すること;幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))、CD45陰性、Mac1陰性前駆細胞を含む、本明細書に開示された細胞集団を取得すること;ならびにインビトロ前駆細胞集団と、1つまたは複数の骨形成タンパク質(BMP)−2、−4、−6、または−7の発現増加を促進する有効量の化合物とを、これらの細胞集団中の褐色脂肪組織(BAT)細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させるのに十分な時間の間接触させること;またはこれらの細胞集団中のBAT細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させるのに十分なレベルで1つまたは複数のBMP−2、BMP−4、BMP−6、またはBMP−7を発現するよう細胞集団を遺伝子組換えすること;ならびに該細胞集団を対象へ投与することを含み、該方法は対象中のBAT細胞の特徴を備えた細胞の数を効果的に増加させる。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法で作製された細胞集団、ならびにこれらの細胞集団と医薬として許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。
さらなる一態様では、本発明は細胞送達系を提供する。これらの細胞送達系としては、本明細書に記載の方法により作製された1つまたは複数の細胞を含む貯蔵容器、医薬として許容可能な担体、ならびに送達デバイス(例えば、貯蔵容器と流体が接触する針またはカニューレ)が挙げられる。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、熱産生BMPで処理した幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))細胞集団を含む組成物を提供する。一部の場合では、これらの細胞は非ふるえ熱産生能を有する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「治療」とは任意の手段で疾患または障害の1つまたは複数の症状が緩和されるか、あるいは有益に改変されることを意味する。本明細書で使用される場合、特定の障害の症状の緩和とは、本発明の組成物および方法による治療に起因または関連し得る、永続的か一時的か、持続的か一過性かを問わない症状の任意の軽減を指す。
【0028】
「有効量」および「治療に有効」という用語は、本明細書で使用される場合、一定期間使用される(急性もしくは慢性投与および断続的もしくは連続的投与など)1つまたは複数の本明細書に記載の組成物の、意図した効果または生理的転帰を得るための投与という脈絡において有効な量または濃度を指す。
【0029】
本明細書全体で、「対象」という用語は、本発明の方法により治療を提供する動物、ヒトまたは非ヒト、齧歯類または非齧歯類について述べるために使用される。家畜と非家畜の適用が意図される。この用語は、哺乳類、例えば、ヒト、他の霊長類、ブタ、齧歯類(マウスおよびラットなど)、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジおよびヤギを含むが、これらに限定されない。典型的な対象としては、ヒト、家畜、および飼育ペット(ネコおよびイヌなど)が挙げられる。いくつかの実施形態では、対象は哺乳類である。いくつかの実施形態では、対象はヒト対象(例えば、肥満のヒト対象)である。いくつかの実施形態では、対象は非ヒト哺乳類、例えば、実験動物、愛玩動物、または食用動物(例えば、食用に飼育されたウシ、ブタ、またはヒツジ)である。
【0030】
本明細書で使用される場合、「単離した」もしくは「精製した」ポリペプチド、ペプチド、もしくはタンパク質は、タンパク質を得た細胞もしくは組織由来の細胞物質もしくはその他の汚染タンパク質を実質的に含まないか、または化学合成時の化学的前駆体もしくはその他の化学物質を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは選択されたタンパク質の調製物において、選択されないタンパク質または化学的前駆体が乾燥重量で約30%未満(例えば、20%、10%、または5%未満)であることを意味する。このような選択されないタンパク質は本明細書で「汚染タンパク質」とも呼ぶ。単離した治療タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドが組換え生産される場合、それらは実質的に培地を含まない、すなわち、培地成分がそのタンパク質調製物の約20体積%未満(例えば、約10体積%または5体積%未満)であり得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、「肥満」とは、対象の体重が基準表により対象の理想体重を20%以上(例えば、25%、30%、40%、および50%、または50%超)超過する、対象の障害を指す。肥満は、ボディマス指数(BMI)30以上(例えば、30〜35および35〜40、または40超)の個体も意味し得る。例えば、肥満(1度)と診断された対象のBMI範囲は30〜34.9である。肥満(2度)の対象のBMI範囲は35.0〜39.9である。肥満(3度)対象のBMIは40超である。

本明細書で使用される場合、「過体重」とは、BMI範囲が25.0〜29.9である対象を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」は、自己複製能と、多くの異なる細胞系統への分化能の両方を有する(多能性である)。「前駆細胞」とは、幹細胞の表現型と類似した表現型を有する幹細胞の部分集合を指す。前駆細胞は自己複製能を有し、典型的には複能性である。
【0033】
別段の定めがない限り、本明細書で使用されるすべての専門用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本発
明に用いるための方法および材料が本明細書に記載されており;他の、当該技術分野において周知である適切な方法および材料も使用できる。これらの材料、方法、および実施例は例証するためのみに用いられており、その制限を成すことは意図していない。本明細書で述べたすべての刊行物、特許出願、特許、データベースエントリー、およびその他の参考文献はそれらの全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および図、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(図1A)褐色前駆脂肪細胞を含むペトリ皿の一連の画像である。(図1B)白色前駆脂肪細胞の一連の画像である。示された骨形成タンパク質(BMP)を用いて細胞を処理し、オイルレッドOを用いて染色して、脂質蓄積を評価した。対照細胞はBMPに曝露しなかった。脂質蓄積は、濃く染色されて紅色がかった細胞により示されている。
【図2A】定量RT−PCRを用いて評価した、示されたBMPに曝露した褐色前駆脂肪細胞内の脱共役タンパク質(UCP)と細胞死誘導DFF45様エフェクターA(CIDEA)の発現を示す棒グラフである。対照細胞はBMPに曝露しなかった。***P<0.001、**P<0.01、P<0.05。
【図2B】UCP−1とβ−チューブリンに特異的な抗体により調べた免疫ブロット画像である。β−チューブリンを負荷対照として示す。
【図3】オイルレッドO染色した、対照細胞(A)とBMP−7曝露細胞(B)の写真を示す画像である。脂質蓄積は、濃く染色されて紅色がかった細胞により示されている。脂肪滴も両画像ではっきりと視認できる。
【図4】(図4A)定量RT−PCRを用いて評価した、対照細胞とBMP−7曝露細胞内のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)、脂肪酸結合タンパク質4(aP2)、脂肪酸合成酵素(FAS)、CIDEA、およびUCP−1発現を示す棒グラフである。結果を、対照細胞に対して増加した割合として表す。(図4B)対照細胞およびBMP−7曝露細胞におけるcAMPに誘導されたUCP−1発現を示す棒グラフである。UCP−1処理単独を示す棒は、cAMP対照の棒として用いた。
【図5】(図5A−C)骨格筋から単離し、BMP7で処理して、脂質蓄積を評価するためにオイルレッドO(ORO)で染色したSca−1(+)細胞の画像である。対照細胞はBMPに曝露しなかった。脂質蓄積は、濃く染色されて紅色がかった細胞により示されている。
【図6】(図6A)FACSを用いて取得したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)細胞集団を示す散布図である。(図6B〜6C)フローサイトメトリーを用いて評価したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)細胞表面上のさまざまなマーカーの存在または不在を示す折れ線グラフである。矢印は染色された細胞を示す。
【図7】(図7A−N)BMP−7曝露細胞内で、定量RT−PCRを用いて経時的に検出されたマーカー値を示す折れ線グラフである。矢印はBMP7曝露細胞において観察された結果を示す。
【図8】対照細胞およびBMP−7曝露細胞においてcAMPに誘導されたUCP−1発現を示す棒グラフである。UCP−1処理単独を示す棒は、cAMP対照の棒として用いた。
【図9】(図9A−F)一連の6枚の顕微鏡写真である。9A、9C、および9Eは、肩甲骨間BAT(BAT)(9A)、皮下白色脂肪組織(SQ−WAT)(9C)、および内臓白色脂肪組織(EPI−WAT)(9E)からそれぞれ単離したBMP7未処理のSca−1(+)細胞を示す(対照)。9Bは肩甲骨間BAT(BAT)から単離した細胞を示し;9Dは皮下白色脂肪組織(SQ−WAT)由来細胞であり、9Fは内臓白色脂肪組織(EPI−WAT)由来細胞を示し、それぞれBMP7で処理した(BMP7)。
【図10A】肩甲骨間BAT(BAT)、皮下白色脂肪組織(SQ−WAT)、および内臓白色脂肪組織(EPI−WAT)から単離した細胞内の脂肪酸合成酵素(FAS;A)の発現レベルを示す棒グラフである。
【図10B】肩甲骨間BAT(BAT)、皮下白色脂肪組織(SQ−WAT)、および内臓白色脂肪組織(EPI−WAT)から単離した細胞内の脱共役タンパク質−1(UCP−1;B)の発現レベルを示す棒グラフである。
【図11】肥満抵抗性マウス(129)および肥満素因を有するマウス(B6)から単離した総Sca−1(+)細胞を示す棒グラフである。
【図12A】肥満抵抗性マウス(129)および肥満素因を有するマウス(B6)から単離してBMP7で処理したSca−1(+)細胞内のUCP−1発現レベルを示す棒グラフである。未処理細胞を対照として示す。
【図12B】肥満抵抗性マウス(129)および肥満素因を有するマウス(B6)から単離してBMP7で処理したSca−1(+)細胞内のPPARγ発現レベルを示す棒グラフである。未処理細胞を対照として示す。
【図13】(図13A−D)蛍光顕微鏡的画像である。13Aと13Bは、BMP7で処理して移植したSca−1(+)緑色蛍光タンパク質細胞(移植後10日間)を示す。移植細胞なしの対照画像を13Aと13Cに示す。右図(図13Bと13D)に示した移植したGFP細胞の方が、より濃色の細胞に見える。
【図14】(図14A−F)BMP7で処理したSca−1(+)緑色蛍光タンパク質細胞を移植した脂肪パッドの切片を示す顕微鏡的画像である。切片は非緑色蛍光タンパク質陽性レシピエントマウス由来である。緑色蛍光タンパク質陽性細胞は、注入から10日後のレシピエントマウスにおいて落射蛍光法により検出された。元の倍率は200倍である。
【図15】(図15A−F)BMP−7、BMP−3、BMP−4またはビヒクル対照(C)で処理した筋肉由来Sca−1(+)細胞内のUCP−1、Cidea、PPARg、FAS、MyogeninおよびMyoD発現レベルを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示は、とりわけ、対象の肥満ならびに体重関連の疾患および障害(下記の病状など)を治療するために対象におけるBAT値および/または機能を増加させるのに有用な組成物および方法を提供する。これらの方法は、定義された前駆細胞(例えば、BAT細胞への分化能を有する前駆細胞)の部分集合のBAT細胞系統への分化または指向を促進することを含む。より具体的には、本開示は、骨形成タンパク質(BMP)で処理した場合に幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))前駆細胞がBAT細胞系統への分化能または指向能を有するという発見に少なくともある程度基づく。本明細書に記載のこれらの組成物および方法は、BATの細胞数および/または機能を増加させ、および/またはBAT:WAT細胞比率を増加させ、それにより、対象の肥満ならびに肥満関連の疾患および障害を治療するために使用できる。
【0037】
本明細書に記載のいくつかの方法は、BMPシグナル伝達を増加させる薬剤で処理し、BMPで処理したSca−1(+)前駆細胞の移植を含む。通常、当該方法は、BMPシグナル伝達を増加させるのに十分な量の化合物による前駆細胞(例えば、Sca−1(+)前駆細胞)の処理(例えば、接触)、およびその後のBMP活性化Sca−1(+)細胞(例えば、少なくとも1つの細胞またはかかる細胞の集団)の対象への移植を含む。適切な薬剤としては、BMP自体(例えば、組換えタンパク質)、またはBMPをコードする核酸、および/またはBMPシグナル伝達を増加させる薬剤(例えば、低分子、抗体および抗体断片、医薬品、ならびにその他の生物学的薬剤)を挙げることができる。いくつ
かの実施形態では、これらの細胞の処理として、BMP2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドを発現するためのインビトロ細胞の遺伝子組換えが挙げられる。次いで、これらの細胞を対象に投与する。かかる遺伝子組換えされたSca−1(+)前駆細胞集団も本発明の範囲内に包含される。他の化合物は本明細書に記載されている。
【0038】
細胞種
本明細書に記載の方法における使用に適した細胞としては、幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))前駆細胞(例えば、哺乳類Sca−1(+)前駆細胞)が挙げられる。Sca−1は18kDaグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー表面タンパク質であり、造血幹細胞と組織常在前駆細胞の両方において幹細胞マーカーとして役立つ。本開示において有用なSca−1(+)前駆細胞は、各種組織および臓器(例えば、骨格筋、前立腺、真皮、心血管系、乳腺、肝臓、新生児皮膚、頭蓋冠、骨髄、腸、および脂肪組織(例えば、脂肪組織蓄積)が挙げられるが、これらに限定されない)から単離できる。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)細胞は骨格筋(例えば、骨格筋束)から単離する。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)細胞は脂肪組織(例えば、脂肪蓄積)から単離する。
【0039】
Sca−1(+)前駆細胞は単能性、複能性、および多能性であり得、間葉源であり得る。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞は非筋原性前駆細胞である。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞は非多能性細胞から人工的に生成された(例えば、分化または部分的に分化した)多能性幹細胞であり得る。かかる細胞は当該技術分野において、誘導された多能性幹細胞として知られており、一般にiPSまたはiPSCと略される(総説については、例えば、Nishikawa et al., Mol. Cell. Biol., 9:725−729, 2008を参照されたい)。
【0040】
Sca−1(+)前駆細胞は1つまたは複数の細胞表面発現マーカーの存在または不在を測定することにより同定できる。Sca−1(+)前駆細胞の同定に使用できる模範的な細胞表面マーカーは、Sca−1、CD45、Mac−1、CD29(インテグリンβ1)、CD105(エンドグリン)、CD166(ALCAM)、デスミン、ビメンチン、およびc−kitが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
いくつかの実施形態では、Sca−1(+)陽性細胞はSca−1を検出することにより同定できる。代替的にまたは追加で、Sca−1(+)前駆細胞は追加の細胞表面マーカーを検出することにより同定できる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法において有用なSca−1(+)前駆細胞は、細胞表面マーカーCD45および/またはMac−1陰性であり、例えば、細胞はSca−1(+)/CD45(−)、Sca−1(+)/Mac−1、またはSca−1(+)/Cd45(−)/Mac−1(−)であり得る。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞はSca−1(+)/CD29+細胞であり得る。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞はSca−1(+)/CD29+/Cd45(−)/Mac−1(−)細胞であり得る。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞は1つまたは複数の次の細胞表面マーカー、すなわちCD29+、CD34+、Cd45(−)、Mac−1(−)、およびCD117(−)を有するSca−1(+)細胞であり得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞の同定後、例えば、細胞系の同一性をさらに特性化するおよび/または確認するために、追加の細胞表面マーカーをSca−1(+)前駆細胞表面上で同定できる。例えば、Sca−1(+)細胞は、他のマーカー(例えば、CD29(インテグリンβ1)、CD105(エンドグリン)、CD166(ALCAM)、デスミン、ビメンチン、CD34、CD133、およびc−kitが挙
げられるが、これらに限定されない)の細胞表面上での発現を測定するために評価できる。
【0043】
細胞集団を確定した細胞表面マーカー(例えば、Sca−1)によりいったん同定後、かかる細胞集団を同定、単離、および濃縮する方法は日常的であり、当該技術分野において周知である。かかる方法としては、例えば、免疫磁気細胞選別機、蛍光活性化細胞選別機(FACS)、組織培養プレートとフラスコへの付着、もしくは所望の幹細胞の増殖に有利な条件下での培養、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。かかる方法を用いて、Sca−1(+)前駆細胞またはSca−1(+)細胞集団を単離、精製、および/または濃縮(例えば、Sca−1(+)前駆細胞集団内の細胞の少なくとも60%、例えば、70%、80%、90%または90%超がSca−1(+)細胞であるように)できる。
【0044】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のSca−1(+)細胞を、同定、単離、および/または濃縮せずに取得できる。例えば、Sca−1(+)細胞は細胞寄託機関(例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)から入手できる。
【0045】
いくつかの実施形態では、単離したSca−1(+)細胞、クローン、または集団は、より大きな細胞集団を得るために、標準的な細胞培養技術を用いて培養できる。
いくつかの実施形態では、Sca−1(+)細胞を液体窒素中で保存できる。液体窒素中で保存するための細胞調製に要される技術および液体窒素中でかかる細胞を保存する方法は、日常的であり、当該技術分野において周知である。
【0046】
「初代細胞」という用語は、哺乳類組織源から単離した細胞懸濁液中に(プレートする前、すなわち、皿またはフラスコなどの組織増殖培養基質に取り付ける前に)存在する細胞、組織由来の外植片に存在する細胞(前者のいずれも初めてプレートした細胞)、およびこれらのプレートした細胞由来の細胞懸濁液を含む。「二次細胞」または「細胞株」という用語は、培養において続く全工程の細胞を指す。二次細胞とは、1回または複数回継代した二次細胞からなる細胞株である。
【0047】
初代幹細胞および二次幹細胞は各種組織から取得でき、培養物中で維持および増殖できる細胞種を含む。初代細胞は好ましくはBMPで処理した細胞を投与すべき個体または動物から取得する。しかしながら、初代細胞はドナー(例えば、レシピエント以外の個体、典型的には同一種、好ましくは免疫的に適合する個体)からも取得できる。かかる細胞を取得および培養する方法は当該技術分野において周知である。
【0048】
当該方法は、Sca−1(+)前駆細胞の、例えば、所望サイズのクローン細胞株か異種細胞株のいずれかを(例えば、BMP活性化の前もしくは後に、個体に治療効果をもたらすのに十分な数、または安定した細胞系を確立するのに十分な数)産生するのに十分な二重測定期間を可能にすることを含み得る。トランスフェクトしないで代わりにBMPで処理した場合、これらの細胞は対象に移植前にBMP不在下でしばらく、次いでBMP存在下でしばらく(例えば、1、2、3日、または3日超)培養できる。これらの細胞は、移植前に任意の汚染物質(BMPまたは増殖培地成分など)を除去するため、移植前に(例えば、等張PBS中で)洗浄できる。必要な細胞数は可変であり、各種要因(トランスフェクトした細胞の使用、トランスフェクトした細胞中の外因性DNAの機能レベル、トランスフェクトした細胞の移植部位(例えば、使用できる細胞数は移植の解剖位置により制限される)、ならびに対象の年齢、表面積、および臨床病態が挙げられるが、これらに限定されない)に応じて変わる。いくつかの実施形態では、BMPで処理した幹細胞集団は、少なくとも10、10、10、または10を超える細胞を含む。
【0049】
BMPで処理したSca−1(+)細胞は、増強したBMPシグナル伝達(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7シグナル伝達)レベルを有するSca−1(+)細胞であり、ここでBMPシグナル伝達レベルは直接的なヒトの介入により増加している。BMPシグナル伝達は、当該技術分野において周知であるか本明細書に記載の任意の方法により(例えば、本明細書に記載のBMPシグナル伝達を増加させる化合物(例えば、BMPポリペプチドまたは核酸)によるこれらの細胞の処理により)これらの細胞内で増強できる。本明細書に記載の方法により活性化した幹細胞集団も本発明内に包含される。任意に、BMPで処理した細胞集団は、例えば、保存または移植のために、医薬として許容可能な担体中で懸濁できる。本明細書で使用される場合、「医薬として許容可能な担体」という言葉は、これらの細胞の医薬としての投与および生存性と適合する、任意かつすべての溶媒、媒体、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、などを含むことを意図している。通常、これらの細胞は無菌状態で維持される。製薬的活性物質のためのかかる媒体および薬剤の使用は周知である。活性化合物と適合しない従来の媒体または薬剤はいずれも除いた上で、かかる媒体を本発明の組成物に使用できる。補充的活性化合物もこの組成物に組み込むことができる。
【0050】
当該細胞は自己由来、同種異系由来、または異種由来であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象からの幹細胞集団の取得(任意に、精製された幹細胞集団を取得するためのこの幹細胞の培養および/または濃縮)、本明細書に記載のBMPシグナル伝達を増加させてこの幹細胞を活性化させる薬剤による幹細胞の処理、および除去した対象と同じ対象の細胞の移植を含み得る。いくつかの実施形態では、これらの細胞は同種異系由来または異種由来であり、必要に応じて、これらの細胞の拒絶反応を予防するために免疫抑制剤を投与できる。
【0051】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法および組成物に使用されるSca−1(+)前駆細胞は、1つまたは複数のBMP受容体(例えば、I型またはII型BMP受容体)を発現する。
【0052】
骨形成タンパク質(BMP)
いくつかの実施形態では、BMPシグナル伝達を増加させる化合物は、完全長のまたは切断されたBMP(例えば、BMP、ポリペプチド、およびペプチド)である。
【0053】
BMPは形質転換増殖因子βスーパーファミリーメンバーであり、胚発育における複数の重要段階ならびに生涯にわたり関与する(Kishigami and Mishina, Cytokine.Growth Factor.Rev. 16:265−278 (2005); Chen et al., Growth Factors. 22:233−241 (2004); Yamamoto and Oelgeschlager, Naturwissenschaften 91:519−534 (2004))。BMPは脂肪細胞発達における異なる2段階において役割を果たすことが示されている。まず、BMP−2と4は、好適な条件下で、複能性間葉細胞および骨髄間質細胞の脂肪細胞への分化を刺激する(Butterwith et al., Biochem.Soc Trans 24:163S (1996); Chen et al., J. Cell. Biol. 142:295−305 (1998); Chen et al., J Cell Biochem. 82:187−199 (2001); Tang et al., Proc Natl.Acad Sci U S.A. 101:9607−9611 (2004))。加えて、BMPは方向付けられた白色前駆脂肪細胞への分化も刺激する(Sottile and Seuwen, FEBS Lett. 475:201−204 (2000); Rebbapragada et al., Mol. Cell. Biol. 23:7230−7242
(2003))。しかしながら、他の試験では、BMP−2は脂肪細胞への分化を抑制
し、ホメオボックス遺伝子であるMsx2を介して複能性間葉前駆体における骨形成を促進したことが示された(Ichida et al., J. Biol. Chem.
279:34015−34022 (2004); S.L. Cheng et al., J.Biol.Chem. 278:45969−45977 (2003))。
【0054】
BMPは、SMADタンパク質またはp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を介して信号を送る特異的I型およびII型セリン/トレオニンキナーゼ受容体複合体であるRIa、RIb、およびRIIに結合する。BMPは多くの態様の組織発達および形態形成(胚形成中の骨形成、出生後の増殖、リモデリングおよび骨格再生のプロセスなど)における重要事象の重要な制御因子である。ヒト組織とマウス組織の両方における局在試験により、脂肪、心臓、肺、小腸、下肢芽および歯におけるさまざまなBMPのmRNA高レベルの発現およびタンパク質合成が実証されている。
【0055】
BMPは骨および軟骨の障害または創傷の治療において臨床で用いられている。組換えBMPの効果的な臨床的使用はEinhorn, J. Bone and Joint
Surgery 85A:82−88 (2003)、およびSandhu, Spine 28(15):S64−73 (2003)にて論じられている。BMPポリペプチド(例えば、成熟BMPポリペプチド)自体が実行可能な治療化合物である。なぜならBMPは、標的細胞に取り込まれてそこで活性を発揮する、分泌された低級タンパク質であるからである。本明細書ではヒトタンパク質について記載しているが、処理した細胞の意図したレシピエントが別の種である場合、その種(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、またはヤギ)由来の相同タンパク質も使用できることを当業者は理解するであろう。かかる相同タンパク質は、例えば、当該技術分野において周知である方法を用いて、例えば、標的種において同定された同族体のための使用可能なデータベース(例えば、HomoloGeneデータベース)を検索して同定できる。
【0056】
本明細書に記載の、BMP−2、−4、−5、−6、および−7は褐色脂肪細胞への分化に関与し、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7を有するSca−1(+)前駆細胞の処理は褐色脂肪細胞分化を促進する。したがって、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7は、脂肪関連障害(肥満など)および関連障害(糖尿病、インスリン抵抗性、高血糖症、高脂質血症、および高コレステロール血症など)の治療上、診断上および創薬上の標的である。通常、本明細書に記載の方法は、本明細書に記載のBMPで処理したSca−1(+)細胞集団の対象への移植を含む。
【0057】
本明細書に記載の方法における使用に適したBMPは以下を含む。
BMP−2
BMP−2は長さ396個のアミノ酸であり、ヒト染色体の20p12に位置する。ヒトBMP−2のヌクレオチド配列とアミノ酸配列はWozney et al., Science 242(4885):1528−1534 (1988)に開示されている。BMP2は形質転換増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリーに属する。骨形成タンパク質は骨形成を誘導し、BMP2は進行性骨化性(筋炎)線維異形成症の常染色体優性遺伝性疾患の候補遺伝子である。骨形成タンパク質2は、前筋原性細胞内の用量依存性PAX3を発現させることによって筋形成を調節し、SOX9を通してSHM管理下、中胚葉内で発現する。
【0058】
ヒトBMP−2を以下に示す。アミノ酸38〜268はTGFβプロペプチドドメインであり、291〜396はTGFβファミリーN末端ドメインである。アミノ酸283〜396は成熟ペプチドである。この配列はWozney et al., Science 242:1528−1534 (1988)に説明されている。
【0059】
1 MVAGTRCLLA LLLPQVLLGG AAGLVPELGR RKFAAASSGR PSSQPSDEVL SEFELRLLSM
61 FGLKQRPTPS RDAVVPPYML DLYRRHSGQP GSPAPDHRLE RAASRANTVR SFHHEESLEE
121 LPETSGKTTR RFFFNLSSIP TEEFITSAEL QVFREQMQDA LGNNSSFHHR INIYEIIKPA
181 TANSKFPVTR LLDTRLVNQN ASRWESFDVT PAVMRWTAQG HANHGFVVEV AHLEEKQGVS
241 KRHVRISRSL HQDEHSWSQI RPLLVTFGHD GKGHPLHKRE KRQAKHKQRK RLKSSCKRHP
301 LYVDFSDVGW NDWIVAPPGY HAFYCHGECP FPLADHLNST NHAIVQTLVN SVNSKIPKAC
361 CVPTELSAIS MLYLDENEKV VLKNYQDMVV EGCGCR (配列番号1)
BMP−2の成熟形態は、4つの潜在的なN結合グリコシル化部位/ポリペプチド鎖、および4つの潜在的なジスルフィド架橋を含む。UniProtエントリー番号P12643;HomoloGene:926を参照されたい。
【0060】
BMP−4
BMP−4は軟骨および骨形成を誘導し、中胚葉誘導、歯の発達、肢形成および骨折修復において重要である。BMP−4プレプロタンパク質配列を以下に示す。アミノ酸41〜276はTGFβプロペプチドドメインであり、302〜408はTGFβファミリーN末端ドメインである。アミノ酸293〜408は成熟ペプチドである。この配列はWozney et al., Science 242:1528−1534 (1988)に説明されている。
【0061】
1 MIPGNRMLMV VLLCQVLLGG ASHASLIPET GKKKVAEIQG HAGGRRSGQS HELLRDFEAT
61 LLQMFGLRRR PQPSKSAVIP DYMRDLYRLQ SGEEEEEQIH STGLEYPERP ASRANTVRSF
121 HHEEHLENIP GTSENSAFRF LFNLSSIPEN EAISSAELRL FREQVDQGPD WERGFHRINI
181 YEVMKPPAEV VPGHLITRLL DTRLVHHNVT RWETFDVSPA VLRWTREKQP NYGLAIEVTH
241 LHQTRTHQGQ HVRISRSLPQ GSGNWAQLRP LLVTFGHDGR GHALTRRRRA KRSPKHHSQR
301 ARKKNKNCRR HSLYVDFSDV GWNDWIVAPP GYQAFYCHGD CPFPLADHLN STNHAIVQTL
361 VNSVNSSIPK ACCVPTELSA ISMLYLDEYD KVVLKNYQEM VVEGCGCR (配列番号2)
BMP−4の成熟形態は、4つの潜在的なN結合グリコシル化部位/ポリペプチド鎖を含む。変異型はV152がAである形で存在する。UniProt寄託番号P12644;HomoloGene:7247を参照されたい。
【0062】
BMP−5
BMP−5プレプロタンパク質は、以下に示すとおり454個のアミノ酸タンパク質である。BMP−5は軟骨および骨形成を誘導する。この配列はCeleste et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87, 9843−9847, 1990に説明されている。
【0063】
1 MHLTVFLLKG IVGFLWSCWV LVGYAKGGLG DNHVHSSFIY RRLRNHERRE IQREILSILG
61 LPHRPRPFSP GKQASSAPLF MLDLYNAMTN EENPEESEYS VRASLAEETR GARKGYPASP
121 NGYPRRIQLS RTTPLTTQSP PLASLHDTNF LNDADMVMSF VNLVERDKDF SHQRRHYKEF
181 RFDLTQIPHG EAVTAAEFRI YKDRSNNRFE NETIKISIYQ IIKEYTNRDA DLFLLDTRKA
241 QALDVGWLVF DITVTSNHWV INPQNNLGLQ LCAETGDGRS INVKSAGLVG RQGPQSKQPF
301 MVAFFKASEV LLRSVRAANK RKNQNRNKSS SHQDSSRMSS VGDYNTSEQK QACKKHELYV
361 SFRDLGWQDW IIAPEGYAAF YCDGECSFPL NAHMNATNHA IVQTLVHLMF PDHVPKPCCA
421 PTKLNAISVL YFDDSSNVIL KKYRNMVVRS CGCH (配列番号3)
成熟BMP−5タンパク質は配列番号3のアミノ酸323〜454であると考えられ、4つの潜在的なN結合グリコシル化部位/ポリペプチド鎖、および4つの潜在的なジスルフィド架橋を有する。UniProt寄託番号P22003;Q9H547;またはQ9NTM5;HomoloGene:22412を参照されたい。
【0064】
BMP−6
BMP−6は軟骨細胞分化の自己分泌刺激物であり、胚神経発達、および泌尿系、ならびに肝臓およびケラチノサイトの増殖および分化に関与する。BMP−6ノックアウトマウスは生存可能であり、胸骨の骨化においてわずかな遅延を示す。BMP−6(前駆体)は、57kDタンパク質、長さ513個のアミノ酸であり、ヒトの染色体6p24に局所する。ヒトBMP−6のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は米国特許第5,187,076号に開示されている。BMP−6は、切断された、測定分子量約15Kdの132個のアミノ酸成熟ポリペプチドを生じる前駆体分子として合成されると予測される。BMP−6の成熟形態は、3つの潜在的なN結合グリコシル化部位/ポリペプチド鎖を含む。活性BMP−6タンパク分子は二量体と思われる。BMP−6の成熟形態の加工は、関連タンパク質TGFβの加工と類似の方法でN末端領域の二量化および除去に関与する(Gentry et al., Molec. Cell. Biol. 8:4162 (1988); Dernyck et al., Nature 316:701 (1985))。ヒトBMP−6前駆体を以下に示す。成熟ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸374〜513を含むと考えられる。他の活性BMP−6ポリペプチドとしては、配列番号4のアミノ酸382〜513、388〜513および412〜513を含むポリペプチドが挙げられる。
【0065】
MPGLGRRAQW LCWWWGLLCS CCGPPPLRPP LPAAAAAAAG GQLLGDGGSP GRTEQPPPSP 61
QSSSGFLYRR LKTQEKREMQ KEILSVLGLP HRPRPLHGLQ QPQPPALRQQ EEQQQQQQLP 121
RGEPPPGRLK SAPLFMLDLY NALSADNDED GASEGERQQS WPHEAASSSQ RRQPPPGAAH 181
PLNRKSLLAP GSGSGGASPL TSAQDSAFLN DADMVMSFVN LVEYDKEFSP RQRHHKEFKF 241
NLSQIPEGEV VTAAEFRIYK DCVMGSFKNQ TFLISIYQVL QEHQHRDSDL FLLDTRVVWA 301
SEEGWLEFDI TATSNLWVVT PQHNMGLQLS VVTRDGVHVH PRAAGLVGRD GPYDKQPFMV 361
AFFKVSEVHV RTTRSASSRR RQQSRNRSTQ SQDVARVSSA SDYNSSELKT ACRKHELYVS 421
FQDLGWQDWI IAPKGYAANY CDGECSFPLN AHMNATNHAI VQTLVHLMNP EYVPKPCCAP 481
TKLNAISVLY FDDNSNVILK KYRNMVVRAC GCH (配列番号4)
ヒトBMP−6プロモーターは特性化されており(Tamada et al., Biochim Biophys Acta. 1998, 1395(3):247−51を参照されたい)、本明細書に記載の方法に使用できる。UniProt寄託番号P22004; HomoloGene:1300を参照されたい。
【0066】
BMP−6の投与、アンチセンス処理、および定量についてはBoden et al. (Endocrinology Vol.138, No.7 2820−2828)に記載されている。
【0067】
BMP−7
BMP−7もTGFβスーパーファミリーに属する。BMP−7は軟骨および骨形成を誘導し、上皮骨形成の現象に関与する骨誘導因子であり得る。BMP−7はカルシウム調節および骨恒常性、ならびに成人腸組織内の抗炎症反応の調節において役割を果たす。BMP−7配列を以下に示す:
1 MHVRSLRAAA PHSFVALWAP LFLLRSALAD FSLDNEVHSS FIHRRLRSQE RREMQREILS
61 ILGLPHRPRP HLQGKHNSAP MFMLDLYNAM AVEEGGGPGG QGFSYPYKAV FSTQGPPLAS
121 LQDSHFLTDA DMVMSFVNLV EHDKEFFHPR YHHREFRFDL SKIPEGEAVT AAEFRIYKDY
181 IRERFDNETF RISVYQVLQE HLGRESDLFL LDSRTLWASE EGWLVFDITA TSNHWVVNPR
241 HNLGLQLSVE TLDGQSINPK LAGLIGRHGP QNKQPFMVAF FKATEVHFRS IRSTGSKQRS
301 QNRSKTPKNQ EALRMANVAE NSSSDQRQAC KKHELYVSFR DLGWQDWIIA PEGYAAYYCE
361 GECAFPLNSY MNATNHAIVQ TLVHFINPET VPKPCCAPTQ LNAISVLYFD DSSNVILKKY
421 RNMVVRACGC H (配列番号5)
アミノ酸1〜29は潜在的なシグナル配列である;30〜431はプレプロペプチドであり、293〜431は成熟タンパク質である。BMP−7の成熟形態は、4つの潜在的なN結合グリコシル化部位/ポリペプチド鎖、および4つの潜在的なジスルフィド架橋を含む。UniProt寄託番号P18075;HomoloGene:20410を参照されたい。
【0068】
本明細書に記載の組成物および方法は、1つまたは複数の上に示したBMP配列との同一性が少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、および99%)であるアミノ酸配列の使用も意図する。本明細書で使用される場合、かかる配列もBMPと呼ばれる。
【0069】
2つの配列間の同一性の百分率を測定するため、これらの配列を最適比較目的で並べる(第一アミノ酸と第二アミノ酸の片方もしくは両方、または最適アライメントに要する核
酸配列にギャップを導入し、比較目的で非相同配列は無視できる)。比較目的で並べた基準配列の長さは少なくとも80%である(いくつかの実施形態では、基準配列の長さの約85%、90%、95%、または100%を並べる)。次いで、対応位置のヌクレオチドまたは残基を比較する。第一配列の位置が、第二配列の対応位置と同じヌクレオチドまたは残基に占められる場合、これらの分子はその位置で同一である。2つの配列間の同一性の百分率は、これらの配列が共有する同一位置数の関数であり、2つの配列の最適アライメントのために導入を要するギャップ数、および各ギャップの長さが考慮される。
【0070】
配列の比較および2つの配列間の同一性の百分率の測定は、数学的アルゴリズムを用いて成し遂げることができる。例えば、2つのアミノ酸配列間の同一性の百分率はGCGソフトウェアパッケージ内のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch ((1970) J.Mol.Biol. 48:444−453)のアルゴリズムを用いて、ならびに12ギャップペナルティ、4ギャップ延長ペナルティ、および5フレームシフトギャップペナルティを用いるブロッサム62スコアリングマトリックス(Blossum 62 scoring matrix)を用いて測定できる。
【0071】
BMPは、組換え技術を用いてまたは化学合成を用いて生成できる。かかるポリペプチドを生成するための方法、およびかかるポリペプチド精製に要される方法は当該技術分野において周知である。例えば、Sambrook and Russel, Molecular Cloning; A laboratory Mannual (CSHL
Press, 3rtd Edition, 2001)を参照されたい。
【0072】
BMPを修飾して、このタンパク質の薬物動態特性を改変することができる。例えば、かかる修飾は、より長い循環半減期、細胞取り込みの増大、標的組織への分布の改善、クリアランス低下および/または免疫原性低下をもたらし得る。BMP治療活性の最適化に有用な多くのアプローチ(化学的修飾など)が当該技術分野において周知である。
【0073】
発現系
BMPは組換えタンパク質として発現できる。組換えタンパク質において、発現系の選択は薬物動態特性に影響し得る。発現系間の翻訳後プロセスの相違により、分子サイズおよび電荷がさまざまな組換えタンパク質が生じ得、それは例えば、循環半減期、クリアランス率および免疫原性に影響し得る。このタンパク質の薬物動態特性は、好適な発現系選択(細菌性、ウイルス性、または哺乳類の発現系選択など)によって最適化される場合がある。治療タンパク質の発現系に有用な代表的な哺乳類細胞系は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サルCOS−1細胞系およびCV−1細胞系である。
【0074】
本発明の組換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞内でBMPを発現させるために設計できる。例えば、本発明のタンパク質は大腸菌(E.coli)、昆虫細胞(例えば、バキュロウイルス発現ベクターを用いて)、酵母細胞または哺乳類細胞内で発現できる。適切な宿主細胞の詳細については、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, 185, (Academic Press, San Diego, CA 1990)で論じられている。あるいは、この組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを用いて、インビトロで転写かつ翻訳できる。
【0075】
化学的修飾
BMPは活性を維持しつつ薬物動態特性を向上させるために化学的に改変できる。このタンパク質を各種部分と共有結合させて、タンパク質の分子サイズおよび電荷を改変し、それによってこのタンパク質の薬物動態特性を改変することができる。この部分は好まし
くは非毒性および生体適合性である。1つの実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)はタンパク質に共有結合できる(ペグ化)。各種PEG分子が周知であり、および/または市販されている(例えば、Sigma−Aldrich社のカタログを参照されたい)。ペグ化によりタンパク質の安定性を向上でき、エピトープの立体的被覆により免疫原性を低下させることができ、および糸球体ろ過を減少することにより半減期を改善できる。(例えば、Harris and Zalipsky, Poly(ethylene glycol): Chemistry and Biological Applications, ACS Symposium Series, No.680,
American Chemical Society (1997); Harris et al., Clinical Pharmacokinetics, 40:485−563, 2001)を参照されたい)。PEG構築物として投与される治療タンパク質の例としては、Adagen(商標登録)(PEG−ADA)およびOncospar(商標登録)(ペグ化アスパラギナーゼ)が挙げられる。別の実施形態では、このタンパク質はアミノ基を介して酸化デキストランに同様に結合できる(Sheffield, Curr. Drug Targets Cardiovas. Haemat.
Dis., 1:1−22, 2001を参照されたい)。さらに別の実施形態では、アルギニンオリゴマーのシクロスポリンAへの共役により局所送達を促進できる(Rothbard et al., Nat. Med., :1253−1257, 2000)。
【0076】
さらに、このタンパク質は別のタンパク質に化学的結合して、例えば、(例えば、二機能性の架橋試薬を介して)担体タンパク質に架橋結合して長い循環半減期および改善された細胞取り込みを有する高分子量複合体を形成することが可能である。いくつかの実施形態では、この担体タンパク質は血清タンパク質(アルブミンなど)であり得る。別の実施形態では、この治療タンパク質は、(例えば、ヘテロ二機能性またはホモ二機能性の架橋試薬を介して)自身と架橋結合してホモ二量体、三量体、またはより高次の類似体を形成することが可能である(Stykowski et al., Proc. Natl.
Acad. Sci. USA, 95:1184−1188, 1998を参照されたい)。この治療タンパク質の二量化もしくは三量化を通した分子量およびサイズの増加により、クリアランスを低下させることができる。
【0077】
タンパク質剤形
タンパク質剤形は、最適化してもよい。例えば、BMPは担体系内で処方できる。この担体はコロイド系であり得る。このコロイド系はリポソーム、リン脂質二重層ビヒクルであり得る。1つの実施形態では、この治療タンパク質は、タンパク質の完全性を維持しつつリポソームに封入される。当業者が理解するであろうように、リポソームを調製する各種方法がある。(Lichtenberg et al., Methods Biochem. Anal., 33:337−462, 1988; Anselem et
al., Liposome Technology, CRC Press (1993)を参照されたい)。リポソーム剤形はクリアランスを遅延化し、細胞取り込みを増大することができる(Reddy, Ann. Pharmacother., 34:915−923, 2000を参照されたい)。
【0078】
この担体はポリマー(例えば、生体分解性、生体適合性ポリマーマトリックス)でもあり得る。1つの実施形態では、この治療タンパク質はタンパク質の完全性を維持しつつポリマーマトリックスに埋め込むことができる。このポリマーは天然(ポリペプチド、タンパク質または多糖類など)でも、合成(ポリ(α−ヒドロキシ)酸など)でもよい。例として、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチン、およびそれらの組み合わせでできている担体が挙げられる。1つの実施形態では、このポリマーはポリ乳酸(PLA)または乳酸/グリコ
ール酸共重合体(PGLA)である。この重合体マトリックスは各種形態およびサイズ(マイクロスフェアおよびナノスフェアなど)に調製および単離できる。ポリマー剤形は治療効果の持続時間を延長させることができる(Reddy, Ann. Pharmacother., 34:915−923, 2000を参照されたい)。ヒト成長ホルモン(hGH)のためのポリマー剤形が臨床試験で用いられている(Kozarich and Rich, Chemical Biology, :548−552, 1998を参照されたい)。
【0079】
高分子マイクロスフェアの持続放出製剤の例は、PCT国際公開特許第99/15154号(Tracy et al.)、米国特許第5,674,534号および同第5,716,644号(いずれもZale et al.)、PCT国際公開特許第96/40073号(Zale et al.)、ならびにPCT国際公開特許第00/38651号(Shah et al.)に記載されている。米国特許第5,674,534号および同第5,716,644号ならびにPCT国際公開特許第96/40073号では、塩凝集に対して安定したエリスロポエチン粒子を含有する重合体マトリックスについて述べられている。
【0080】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、BMPの細胞内への侵入を促進する細胞透過ペプチド配列(例えば、HIV由来TATペプチド、ペネトラチン、トランスポルタン、またはhCT由来の細胞透過ペプチド)を含む、例えば、Caron et al., Mol Ther. 3:310−8, 2001; Langel, Cell−Penetrating Peptides: Processes and Applications (CRC Press, Boca Raton FL 2002); El−Andaloussi et al., Curr. Pharm. Des., 11:3597−611, 2005;およびDeshayes et al.,
Cell. Mol. Life Sci., 62:1839−49, 2005を参照されたい。
【0081】
ペプチド模倣物
いくつかの実施形態では、該BMPタンパク質はペプチド模倣物である(例えば、ペプチドまたは非ペプチドのペプチド模倣物のいずれか)。ペプチド配列を模倣する非ペプチド化合物の合成は当該技術分野において周知である。かかるペプチド模倣物としては、当該技術分野において周知である方法によりペプチド模倣物を産出するために修飾可能なBMPが挙げられる。例えば、Kazmierski, W.M., ed., Peptidomimetics Protocols, Human Press (Totowa NJ 1998); Goodman et al., eds., Houben−Weyl Methods of Organic Chemistry: Synthesis of Peptides and Peptidomimetics, Thiele Verlag (New York 2003);およびMayo et
al., J. Biol. Chem., 278:45746, 2003を参照されたい。一部の事例では、本明細書に開示されたペプチドおよび断片のこれらの修飾ペプチド模倣物バージョンは、非ペプチド模倣物ペプチドと比較して増強したインビボ安定性を示す。ペプチド模倣物の作製方法は、1つまたは複数(例えば、すべて)のD−アミノ酸エナンチオマーを有するペプチド配列中のアミノ酸の置換を含む。かかる配列は本明細書にて「レトロ」配列と呼ぶ。別の方法では、元のペプチドのアミノ酸残基のN末端からC末端までの順が修飾ペプチド模倣物におけるアミノ酸残基のC末端からN末端までの順になるように、アミノ酸残基のN末端からC末端の順が逆転する。かかる配列は「インベルソ」配列と呼ぶことができる。ペプチド模倣物はレトロとインベルソの両バージョン、すなわち、本明細書に開示されたペプチドの「レトロ−インベルソ」バージョンであり得る。D−アミノ酸からなる新規ペプチド模倣物はペプチド模倣物のアミノ酸残基のN末
端からC末端までの順が元のペプチドのアミノ酸残基のC末端からN末端までの順に相当するように配列できる。
【0082】
ペプチド模倣物を作製するための他の方法としては、ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基を、アミノ酸の化学的に異なるが認識された機能的類似体、すなわち、人工アミノ酸類似体と置換することが挙げられる。人工アミノ酸類似体としては、β−アミノ酸、β−置換β−アミノ酸(「β−アミノ酸」)、アミノ酸のリン類似体(α−アミノホスホン酸およびα−アミノホスフィン酸など)、および非ペプチド結合を有するアミノ酸が挙げられる。人工アミノ酸は、ペプチド模倣物(ペプトイドオリゴマー(例えば、ペプトイドアミドまたはエステル類似体)、β−ペプチド、環状ペプチド、オリゴウレアまたはオリゴカルバメートペプチド;または複素環分子など)の作製に使用できる。これらの配列は、例えば、アミノ末端のビオチニル化およびカルボキシ末端のアミド化により修飾できる。
【0083】
本明細書に記載のペプチド(本明細書に記載の変異形態を含む)はいずれも、異種ポリペプチドをさらに含み得る。この異種ポリペプチドは、取り付いた(例えば、融合タンパク質として融合した)ペプチドの循環半減期を延長するポリペプチドであり得る。この異種ポリペプチドはアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミンまたはその一部分)または免疫グロブリンの一部分(例えば、IgGのFc領域)であり得る。この異種ポリペプチドはミトコンドリア透過性部分であり得る。
【0084】
本開示は合成模倣化合物も意図する。当該技術分野において周知であるとおり、ペプチドは、カップリング剤(ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)など)との反応により活性化したカルボキシル基にアミノ基を結合させることによって合成できる。活性化したカルボキシルに対する遊離アミノ基の攻撃は、ペプチド結合の形成およびジシクロヘキシル尿素の放出に至る。反応のために意図したアミノ基およびカルボキシル基以外の潜在的反応基を保護することが必要であり得る。例えば、活性化カルボキシル基を含む成分のα−アミノ基はtert−ブチルオキシカルボニル基によりブロックできる。この保護基は続いてペプチドを希酸へ曝露することにより除去してインタクトなペプチド結合を残すことができる。この方法で、ペプチドは、不溶性マトリックス(ポリスチレンビードなど)に結合した成長ペプチド鎖にアミノ酸を段階的に添加する固体相方法によって容易に合成できる。まず、所望のペプチド配列のカルボキシル末端アミノ酸(アミノ保護基を有する)はポリスチレンビードに固定される。次いで、アミノ酸の保護基は除去される。次のアミノ酸(保護基を有する)をカップリング剤と共に添加する。この後、洗浄サイクルを行なう。このサイクルは必要に応じて反復する。
【0085】
いくつかの実施形態では、本開示の模倣物は本明細書に記載のBMPタンパク質相同配列を有するペプチドである。これらの模倣物としては、L−アミノ酸がそれらのD−異性体に置換されたペプチドが挙げられるが、これに限定されない。配列の相同性、およびより重要なことに統計的に有意な類似性を検討するための一般的な方法の1つは、Lipman and Pearsonにより記載されたアルゴリズムを用いたモンテカルロ解析を用いてZ値を得ることである。この解析によれば、6を超えるZ値は有意である可能性を示し、10を超えるZ値は統計的に有意であるとみなされる(Pearson and
Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 85:2444−2448, 1988; Lipman and Pearson, Science, 227:1435−1441, 1985)。より一般的には、本明細書に記載のBMPおよび上記の模倣物は、Merrifield et al., Biochemistry, 21:5020−5031, 1982; Houghten
Wellings, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA),
2:5131−5135, 1985; Atherton, Methods i
n Enzymology, 289:44−66, 1997またはGuy and Fields, Methods in Enzymology, 289:67−83, 1997によって記載されているティーバッグ(tea−bag)法またはペプチド固相合成法など、任意の周知の方法を用いて、または市販されている自動化シンセサイザーを用いて合成できる。
【0086】
標的ペプチド
いくつかの実施形態では、BMPおよび/またはBMPアゴニストはインビトロおよび/またはインビボSca−1(+)細胞を標的とできる。具体的な細胞種および組織に対して化合物を標的とする方法は、当該技術分野において周知である。例えば、具体的な細胞もしくは組織に対するペプチドならびにその他の治療薬を標的とする組成物および方法は、意図した標的細胞もしくは組織(例えば、抗体もしくは抗体の抗原結合断片、ならびに短い親和性ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない)に独特もしくは特異的な抗原もしくはマーカーを標的とできる材料の使用を含む。いくつかの実施形態では、かかる材料はSca−1および/またはCD29に対して特異的であり得る。
【0087】
一例として、BMPまたはBMPアゴニストおよびSca−1標的部分(例えば、抗Sca−1抗体またはその抗原結合断片)に結合したナノ粒子を使用できる。このBMPと標的部分は、同じナノ粒子上にもあり得るし、異なるナノ粒子上にもあり得る。いくつかの実施形態では、この組成物は、BMPおよび離れている標的部分(例えば、Sca−1標的部分に結合したナノ粒子)を含む。
【0088】
多くの生体適合性ナノ粒子が当該技術分野において周知である(例えば、有機または無機ナノ粒子など)。リポソーム、デンドリマー、カーボンナノ材料および重合体ミセルは有機ナノ粒子の例である。量子ドットも使用できる。無機ナノ粒子としては、金属性ナノ粒子、例えば、Au、Ni、PtおよびTiOナノ粒子が挙げられる。磁気ナノ粒子(例えば、デキストランまたはPEG分子で囲まれた10〜20nmのFe2+および/またはFe3+核を有する球形ナノ結晶)も使用できる。いくつかの実施形態では、例えば、Qian et al., Nat. Biotechnol. 26(1):83−90 (2008);米国特許第7060121号;同第7232474号;および米国特許公開第2008/0166706号に記載されているようにコロイド金ナノ粒子が用いられる。適切なナノ粒子、および多機能性ナノ粒子の構築および使用方法については、例えば、Sanvicens and Marco, Trends Biotech., 26(8):425−433 (2008)にて論じられている。
【0089】
すべての実施形態において、このナノ粒子は官能基を介して本明細書に記載のBMPおよび標的部分に取り付いている(結合している)。いくつかの実施形態では、このナノ粒子は官能基を含むポリマーに結合しており、また、互いに分散した金属酸化物を保つために役立つ。このポリマーは、合成ポリマー(ポリエチレングリコールまたはシランが挙げられるが、これらに限定されない)、天然ポリマー、もしくは合成ポリマーか天然ポリマーのいずれかの誘導体、またはこれらの組み合わせであり得る。有用なポリマーは親水性である。いくつかの実施形態では、ポリマー「コーティング」とは磁気金属酸化物周囲の連続的フィルムではなく、金属酸化物に取り付け、金属酸化物を囲む拡張ポリマー鎖の「メッシュ」または「曇状物」である。このポリマーは、多糖類および誘導体(デキストラン、プラナン、カルボキシデキストラン、カルボキシメチルデキストラン、および/または還元したカルボキシメチルデキストランなど)を含有し得る。この金属酸化物は、互いに接触し、またはこのポリマーによって個々に封入または包囲される1つまたは複数の結晶集合体であり得る。
【0090】
他の実施形態では、このナノ粒子は非重合体の官能基組成物に結合している。結合ポリ
マーなしで安定化した、機能的ナノ粒子を合成する方法は周知であり、これも本発明の範囲内である。かかる方法は、例えば、Halbreich et al., Biochimie, 80 (5−6):379−90, 1998に記載されている。
【0091】
いくつかの実施形態では、このナノ粒子の全体サイズは直径約1〜100nm未満(例えば、約25〜75nm、例えば、約40〜60nm、または約50〜60nm)である。いくつかの実施形態でのこのポリマー成分は、例えば、厚さ約5〜20nm、または20nm超のコーティング形態中にあり得る。このナノ粒子の全体サイズは約15〜200nm(例えば、約20〜100nm、約40〜60nm;または約60nm)である。
【0092】
抗体
いくつかの実施形態では、例えば、細胞を選択的に標的とするために、抗体を用いて、Sca−1(+)細胞またはSca−1(+)細胞含有組織にBMPを標的化できる。
【0093】
いくつかの実施形態では、このBMPタンパク質は、(例えば、細胞内の)1つまたは複数のBMPの発現および/または活性を増加させる抗体の代わりにまたはそれらと併せて使用できる。
【0094】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、完全長の2本鎖免疫グロブリン分子ならびにその抗原結合部分および断片(合成変異型を含む)を指す。典型的な完全長の抗体は、2本の重(H)鎖可変領域(本明細書でVHと略す)、および2本の軽(L)鎖可変領域(本明細書でVLと略す)を含む。抗体の「抗原結合断片」という用語は、本明細書で使用される場合、完全長の抗体の特異的な標的結合能を保持する1つまたは複数の断片を指す。抗原結合断片の例としては:(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域のジスルフィド架橋により結合した2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., Nature 341:544−546 (1989));ならびに(vi)単離した相補性決定領域(CDR)、が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、Fv断片の2つのドメイン、すなわちVLとVHは、別々の遺伝子にコードされるが、VL領域とVH領域が対合して一価分子を形成している単タンパク質鎖(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al. Science 242:423−426, 1988;およびHuston et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879−5883, 1988を参照されたい)として作製されることを可能にする合成リンカーによって、組換え方法を用いて結合できる。かかる単鎖抗体も「抗原結合断片」という用語に含まれる。
【0095】
抗体および抗体断片の産生については、当該技術分野において詳述されている。例えば、Harlow and Lane, 1988. Antibodies, A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor, New
York: Cold Spring Harbor Laboratoryを参照されたい。例えば、Jones et al., Nature 321:522−525, 1986は、ヒト抗体CDRとマウス抗体CDRとの置換について開示している。Marx, Science 229:455−456, 1985では、マウス可変領域とヒト定常領域を有するキメラ抗体について論じられている。Rodwell, Nature 342:99−100, 1989では、抗体CDR情報から得られた低分子量認識素子について論じられている。Clackson, Br. J. Rheumatol. 3052:36−39, 1991では、遺伝子組換えされたモノクローナル抗体(Fv断片誘導体、単鎖抗体、融合タンパク質キメラ抗体およびヒト化齧歯類抗体など
)について論じられている。Reichman et al., Nature 332:323−327, 1988はラット超可変領域が移植されたヒト抗体について開示している。Verhoeyen, et al., Science 239:1534−1536, 1988はヒト抗体上へのマウス抗原結合部位の移植について教示している。
【0096】
低分子薬物
いくつかの実施形態では、本発明は、BMPタンパク質の発現または活性を促進する薬物(例えば、低分子薬物)を提供する。いくつかの実施形態では、かかる低分子薬物は、本明細書に記載の薬物スクリーニング方法を用いて同定できる。好ましい実施形態では、本発明の低分子薬物は、細胞内のBMP活性および/または発現の増加を促進する。いくつかの実施形態では、低分子薬物は下記の薬物スクリーンを用いて同定される。
【0097】
いくつかの実施形態では、BMPアゴニストは米国特許第7,482,329号に開示された分子、またはそのペプチド模倣物である。
BMP核酸
Sca−1(+)前駆細胞由来は、(例えば、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列と共に、あるいはシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列なしでBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7、またはそのアゴニストをコードする)異種ヌクレオチド配列を含む外因性核酸とトランスフェクトして、一時的にまたは安定して、長期間にわたりコードした産物を産生することができる。異種アミノ酸は調節配列(例えば、プロモーター)でもあり得、内因性BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7配列の発現(例えば、構成的もしくは誘導可能な発現または上方制御)を惹起する。外因性核酸配列は、例えば、米国特許第5,641,670号(かかる内容は参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されているように、相同組換えによって初代細胞または二次細胞に導入できる。このトランスフェクトした細胞は、選択可能な表現型を付与してそれらの同定および単離を促進する選択可能なマーカーをコードするDNAを含むこともできる。
【0098】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のBMPシグナル伝達を増加させる化合物としては、例えば、BMP核酸(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7コード配列またはその活性断片)、および任意の:プロモーター配列、例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子由来または別の遺伝子由来のプロモーター配列;エンハンサー配列、例えば、5’非翻訳領域(UTR)(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子由来または別の遺伝子由来の5’UTR)、3’UTR(例えば、BMP−2、−4、−5、−6、および/または−7遺伝子由来または別の遺伝子由来の3’UTR);ポリアデニル化部位;インスレーター配列;またはBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7の発現を増加させる別の配列が挙げられる。
【0099】
本明細書に記載の核酸、例えば、本明細書に記載のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドをコードする核酸は、遺伝子構築物に組み込むことができる。本明細書に記載の方法は、特定の細胞種、例えば、幹細胞(例えば、多能性間葉系幹細胞)内の本明細書に記載のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7ポリペプチドのインビトロのトランスフェクションおよび発現のために、かかる発現ベクターを使用できる。BMP核酸配列を含む発現構築物は、任意の有効な担体(例えば、成分遺伝子をインビボ細胞に効果的に送達する能力を有する任意の製剤または組成物)中に投与できる。アプローチとしては、ウイルスベクター(組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、および単純ヘルペスウイルス−1など)、または組換え細菌もしくは真核生物プラスミドへの遺
伝子挿入が挙げられる。ウイルスベクターは細胞に直接トランスフェクトし;プラスミドDNAは、裸でまたは、例えば、カチオンリポソーム(リポフェクトアミン)または誘導体化(例えば、共役抗体)、ポリリシン共役体、グラミシジンS、人工ウイルスエンベロープもしくは他のそのような細胞内担体の補助によるか、遺伝子構築物の直接注入もしくはインビボで行なわれるCaPO沈殿によって、送達できる。
【0100】
いくつかの実施形態では、この発現ベクターは1つまたは複数のBMP核酸配列(例えば、cDNA)を含有するウイルスベクターである。細胞のウイルスベクター感染には、高い割合の標的細胞が核酸を取り込むことができるという利点がある。さらに、(例えば、ウイルスベクターに含まれるcDNAにより)ウイルスベクター内でコードされた分子はウイルスベクター核酸を組み込む細胞内で効率よく発現する。
【0101】
レトロウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターは、インビボ外因性遺伝子移入のための組換え遺伝子送達系として、特にヒトに使用できる。これらのベクターは細胞内への遺伝子の有効な送達を提供し、この移入された核酸は安定して宿主の染色体DNAに組み込まれる。複製欠陥レトロウイルスのみ産生する特殊細胞系(「パッケージング細胞」と呼ぶ)の開発は遺伝子療法のためのレトロウイルスの有用性を高め、欠陥レトロウイルスは遺伝子療法目的の遺伝子移入における使用のために特性化される(Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52:493−511 (2000); Young et al., J. Pathol. 208:229−318 (2006)で論評されている)。複製欠陥のあるレトロウイルスはウイルス粒子中にパッケージングでき、標準的な技術を用いて、ヘルパーウイルスを用いて標的細胞を感染させるために使用できる。組換えレトロウイルスを産出するため、およびかかるウイルスを用いたインビトロもしくはインビボ細胞感染のためのプロトコールは、Ausubel, et al., eds., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, (1989), Sections 9.10−9.14、およびその他の標準的な実験室マニュアルに見出すことができる。適切なレトロウイルスの例としては、当業者に周知であるpLJ、pZIP、pWEおよびpEMが挙げられる。同種指向性レトロウイルスと両種性レトロウイルス系の両方の調製に適したパッケージングウイルス系統の例としては、ΨCrip、ΨCre、Ψ2、ΨAm、pA12およびPA317が挙げられる(総説については、Miller et. al, Hum. Gene Ther. :5−14 (1990)を参照されたい)。レトロウイルスは、インビトロおよび/またはインビボでの多くの異なる細胞種(上皮細胞など)への各種遺伝子導入に用いられている(例えば、Eglitis et al., Science 230:1395−1398 (1985); Danos and Mulligan, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:6460−6464 (1988); Wilson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3014−3018 (1988); Armentano et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6141−6145 (1990); Miller et al., Blood 76:271−8 (1990); Huber et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039−8043 (1991); Ferry
et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8377−8381 (1991); Chowdhury et al. Science
254:1802−1805 (1991); van Beusechem et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7640−7644 (1992); Kay et al. Human Gene Therapy :641−647 (1992); Dai et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10892−10895 (1992);
Hwu et al. J. Immunol. 150:4104−4115 (1993); Cavazzana−Calvo et al., Science 288:669−672 (2000);米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;PCT国際公開特許第89/07136号;PCT国際公開特許第89/02468号;PCT国際公開特許第89/05345号;およびPCT国際公開特許第92/07573号を参照されたい)。
【0102】
本明細書の方法に有用な別のウイルス遺伝子送達系は、アデノウイルス由来ベクターを用いる。複製欠陥アデノウイルスの生成は、アデノウイルスのゲノムを、該ゲノムが関心の遺伝子産物をコードおよび発現するが、正常な溶解性ウイルスの生活環における複製能が不活性化されるように操作することにより成し遂げられた。例えば、Berkner et al., BioTechniques :616 (1988); Rosenfeld et al., Science 252:431−434 (1991);およびRosenfeld et al., Cell 68:143−155 (1992)を参照されたい。アデノウイルス種Adタイプ5 dl324またはその他のアデノウイルス種(例えば、Ad2、Ad3、またはAd7など)に由来する適切なアデノウイルスベクターが当業者に周知である。組換えアデノウイルスは、非分裂細胞を感染させることができず、多種多様の細胞種(上皮細胞など)を感染させるために使用できるという点で、特定の状況において有利であり得る(前述のRosenfeld et al., (1992))。さらに、このウイルス粒子は比較的安定していて精製と濃度を受け入れることができ、上述したように、感染力スペクトルに影響を及ぼすように修飾できる。加えて、導入されたアデノウイルスDNA(およびそれに含まれる外来DNA)は、宿主細胞のゲノムには組み込まれず、エピソームのままである。このため、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)に組み込まれるインサイチュ法での挿入突然変異の結果生じ得る潜在的な問題を回避する。その上、外来DNAに対するアデノウイルスゲノムの収容能は、他の遺伝子送達ベクターと比較して高い(最大8キロベース(kb))(前述のBerkner et al.; Haj−Ahmand and
Graham, J. Virol. 57:267 (1986)。加えて、30kb超のトランス遺伝子を含み得る特別な高容量アデノウイルス(HC−Ad)ベクターが作製されている(Kochanek et al., Hum. Gene Ther.
10:2451−9 (1999))。
【0103】
核酸の送達に有用なさらに別のウイルスベクター系は、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。アデノ随伴ウイルスは、効率的な複製と生殖生活環のために、ヘルパーウイルスとして別のウイルス(アデノウイルスまたはヘルペスウイルスなど)を要する天然の欠陥ウイルスである(McCarty et al., Annu Rev Genet 38:819−45 (2004); Daya et al., Clin. Microbiol. Rev. 21:583−93 (2008)で論評されている)。アデノ随伴ウイルスは、自身のDNAを非分裂細胞に組み込み得る数少ないウイルスの1つでもあり、高頻度の安定した一体化を示し、それによって長期間発現することができる(例えば、Samulski et al., J. Virol. 63:3822−3828 (1989);およびMcLaughlin et al., J. Virol. 62:1963−1973 (1989); Flotte et al., Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. :349−356 (1992); Miller et al., Nature Genet. 36:767−773 (2004)を参照されたい)。300塩基対程の短いAAVを含有するベクターをパッケージングおよび一体化することができる。外因性DNAのための空間は約4kbに制限されている。Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. :3251−3260 (1985)に記載されているようなAAVベクターを、細胞へDNAを導入するために使用できる。多くの異なる血清型由来のA
AVベクターを用いて、各種核酸が異なる細胞種に導入されている(例えば、Hermonat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6466−6470 (1984); Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. :2072−2081 (1985); Wondisford et al., Mol. Endocrinol. :32−39 (1988); Tratschin et al., J. Virol. 51:611−619 (1984);およびFlotte et al., J. Biol. Chem. 268:3781−3790 (1993); Summerford et al., J. Virol. 72:1438−45 (1998); Davidson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:3428−32 (2000); Zabner et al., J. Virol. 74:3852−8 (2000); Rabinowitz JE et al., J. Virol. 76:791−801 (2002); Davidoff et al., Mol Ther. 11:875−88 (2005); Mueller et al., Gene Ther. 15:858−63. (2008)を参照されたい)。
【0104】
上に例証したようなウイルス移入方法の他に、非ウイルス法も、本明細書に記載の核酸化合物の発現を惹起するために使用できる(かかる方法の総説については、Niidome et al., Gene Ther. :1647−52 (2002)を参照されたい)。典型的には非ウイルス遺伝子移入方法は、巨大分子の取り込みおよび細胞内輸送のために哺乳類細胞によって使用されている通常の機序に基づいている。いくつかの実施形態では、非ウイルスの遺伝子送達系は、標的細胞による対象遺伝子取り込みのためのエンドサイトーシス経路に基づき得る。この種の代表的な遺伝子送達系としては、リポソーム由来系、共役ポリカチオン(ポリアミンおよびポリリシンなど)、および人工ウイルスエンベロープが挙げられる。他の実施形態としては、Cohen et al., Gene Ther. :1896−905 (2000); Tam et al., Gene Ther. :1867−74 (2000); Meuli et al., J. Invest. Dermatol. 116:131−135 (2001);またはFenske et al., Methods Enzymol. 346:36−71 (2002)に記載されているようなプラスミド注入系が挙げられる。
【0105】
いくつかの実施形態では、BMPは裸DNA構築物および/またはDNAベクターに基づく構築物を用いて発現できる。
裸DNA構築物およびかかる構築物の治療的使用は当業者に周知である(例えば、Chiarella et al., Recent Patents Anti−Infect. Drug Disc.,:93−101, 2008; Gray et al., Expert Opin. Biol. Ther., :911−922,
2008; Melman et al., Hum. Gene Ther., 17:1165−1176, 2008を参照されたい)。典型的には、裸DNA構築物としては、1つまたは複数の治療核酸(例えば、BMPをコードするDNA)およびプロモーター配列が挙げられる。裸DNA構築物はDNAベクター(一般にpDNAと呼ばれる)であり得る。裸DNAは典型的には染色体DNAに組み込まれない。通常、裸DNA構築物は、脂質、ポリマー、もしくはウイルス性タンパク質の存在を必要としないか、または併用されない。かかる構築物として、1つまたは複数の本明細書に記載の非治療成分も挙げ得る。
【0106】
DNAベクターは当該技術分野において周知であり、典型的には環状二本鎖DNA分子である。DNAベクターのサイズ範囲は通常3〜5キロベースペアである(例えば、挿入
された治療核酸を含む)。裸DNAのように、DNAベクターは、標的細胞中の1つまたは複数の治療タンパク質の送達および発現に使用できる。DNAベクターは染色体DNAに組み込まれない。
【0107】
通常、DNAベクターは、標的細胞中の複製を可能とする少なくとも1つのプロモーター配列を含む。DNAベクターの取り込みは、このDNAベクターを例えば、カチオン脂質と一体化させてDNA複合体を形成することにより促進(例えば、改善)される場合がある。
【0108】
いくつかの実施形態では、従来の形質転換またはトランスフェクション技術を介してDNAベクターを標的細胞に導入できる。本明細書で使用される場合、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、標的細胞への外来核酸(例えば、DNA)導入のために当該技術分野で認識されている各種技術(リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、または電気穿孔法など)を指すことを意図する。
【0109】
本明細書に記載の発現構築物を生成するために要するすべての分子生物学的技術が、当業者によって理解されるであろう標準的な技術である。詳細な方法は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al. (eds.) Greene Publishing Associates, (1989), Sections .10−9.14およびその他の標準的な実験室マニュアルにも見出し得る。改変BMPアミノ酸配列(例えば、本明細書に示された野生型BMP配列との同一性が少なくとも50、60、70、80、90、95、98、および99%であるアミノ酸配列)をコードするDNAは、例えば、部位指向突然変異誘発技術を用いて生成できる。
【0110】
剤形
通常、BMPポリペプチドまたは核酸が使用される場合、このポリペプチドまたは核酸は対象(例えば、ヒト、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、またはヒツジ)と同種由来である。
【0111】
本明細書に記載のBMP化合物は、例えば、担体系内で、当該細胞集団との接触における使用に適した任意の手段で処方できる。この担体はコロイド系であり得る。このコロイド系はリポソーム、リン脂質二重層ビヒクルであり得る。いくつかの実施形態では、このタンパク質はタンパク質の完全性を維持しつつリポソームに封入される。当業者が理解するであろうとおり、各種のリポソーム調製方法がある。(Lichtenberg et
al., Methods Biochem Anal, 33:337−462 (1988), LIPOSOME TECHNOLOGY Anselem et al., CRC Press, 1993を参照されたい)。リポソームはサイズおよび置換がさまざまな各種リン脂質から調製でき、低毒性(コレステロールなど)の追加成分も含んでよい。このリポソームは各種形状およびサイズで処方および単離できる。さらに、一部をリポソーム表面に取り付けてこの担体の薬物動態特性をさらに向上させることができる。この一部は、リン脂質またはコレステロール分子に取り付けてよく、この一部が表面上に組み込まれる割合はリポソームの安定性および薬物動態特性を最適化するために調節してよい。1つの実施形態では、表面にポリエチレングリコール(PEG)を添加したリポソームが含まれる。リポソーム剤形はクリアランスを遅延化して細胞取り込みを増大できる。(Reddy, Annals of Pharmacotherapy, 34(7/8):915−923 (2000)を参照されたい)。
【0112】
この担体はポリマー(例えば、生体分解性、生体適合性ポリマーマトリックス)でもあり得る。いくつかの実施形態では、このタンパク質はタンパク質の完全性を維持しつつポ
リマーマトリックス中に埋め込むことができる。このポリマーは天然(ポリペプチド、タンパク質または多糖類など)でも、合成(ポリ(α−ヒドロキシ)酸など)でもよい。例として、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチン、およびそれらの組み合わせでできている担体が挙げられる。いくつかの実施形態では、このポリマーはポリ乳酸(PLA)または乳酸/グリコール酸共重合体(PGLA)である。この重合体マトリックスは各種剤形およびサイズ(マイクロスフェアおよびナノスフェアなど)に調製および単離できる。ポリマー剤形は治療効果の持続時間を延長させることができる(Reddy, Annals of
Pharmacotherapy, 34(7/8):915−923 (2000)を参照されたい)。ヒト成長ホルモン(hGH)のためのポリマー剤形が臨床試験で用いられている(Kozarich and Rich, Chemical Biology 2:548−552 (1998)を参照されたい)。
【0113】
高分子マイクロスフェアの持続放出製剤の例は、PCT国際公開特許第99/15154号(Tracy et al.)、米国特許第5,674,534号および同第5,716,644号(いずれもZale et al.)、PCT国際公開特許第96/40073号(Zale et al.)、ならびにPCT国際公開特許第00/38651号(Shah et al.)に記載されている。米国特許第5,674,534号および同第5,716,644号ならびにPCT国際公開特許第96/40073号では、塩凝集に対して安定したエリスロポエチン粒子を含有する重合体マトリックスについて述べられている。
【0114】
分化方法
本明細書に記載するのは、1つまたは複数のBMPによるSca−1(+)前駆細胞集団の接触により成熟BAT細胞または成熟BAT細胞の特徴を備える細胞を生成するための方法である。1つまたは複数のBMPの量(例えば、濃度または用量)および処理時間は、Sca−1(+)前駆細胞集団内のBAT細胞もしくは成熟BAT細胞の特徴を備える細胞の数を増加させるのに十分である。当業者は周知の方法を用いて、BMPの量も処理時間も決定できる。いくつかの実施形態では、このBMPはBMP−7である。
【0115】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のBMPの量は、例えば、0.1〜50nM/BMPを含み得る。
いくつかの実施形態では、治療期間は、例えば、1〜2日間、1〜3日間、1〜4日間、1〜5日間、および1〜5日間超であり得る。
【0116】
いくつかの実施形態では、Sca−1(+)細胞を、例えば、いずれの分化誘導段階も経ずに、1つまたは複数のBMP単独に接触させる。あるいは、Sca−1(+)細胞を、第一溶液(1つまたは複数のBMPを含む)、および第二溶液(1つまたは複数の化学的もしくはホルモン性分化誘導物質および/またはチアゾリジンジオン類を含む)を用いて処理する。Sca−1(+)細胞を、これらの第一溶液と第二溶液に連続的に(例えば、第一溶液の後に第二溶液、または第二溶液の後に第一溶液)または同時に曝露することができる。第一溶液と第二溶液の両溶液の量、処理時間、および第一溶液と第二溶液の使用順について、当業者は周知の方法を用いて容易に決定できる。
【0117】
いくつかの実施形態では、第二溶液(1つまたは複数の化学的もしくはホルモン性分化誘導物質および/またはチアゾリジンジオン類を含む)は、骨原性、軟骨形成、筋原性、または脂肪細胞分化溶液である。代表的な分化溶液については、当該技術分野において記載されている(Klien et al., J. Biol. Chem., 274:34795−34802, 1999; Hauner et al., J. Clin. Invest., 84:1663−1670, 1989)。本明細書に記載
の細胞のBAT系統への分化または指向を促進するため、細胞をチアゾリジンジオンを用いて処理できる。代替的にまたは追加で、本明細書に記載の細胞は脂肪細胞分化誘導カクテル(インスリン、デキサメタゾン、トリヨードチロニン、イソブチルメチルキサンチン、および0.125mMインドメタシン含有)を用いて、例えば、既に記載されているように(Klien et al., J. Biol. Chem., 274:34795−34802, 1999)処理できる。
【0118】
いくつかの実施形態では、分化処理は細胞集団内の1つまたは複数のマーカーの存在および/または不在を測定することにより評価される。
いくつかの実施形態では、当該方法は、BMPで処理した細胞または細胞集団内の脂肪細胞分化量の検討を含む。脂肪細胞分化は、1つまたは複数の、例えば、脂質蓄積を(例えば、オイルレッドO(ORO)染色を用いて)測定することにより検討できる。オイルレッドO染色は細胞内の中性脂肪を染色するために用いられる。染色量は直接、細胞内の脂質量に比例し、分光光度法で測定できる。脂質蓄積量は分化パラメーターとして測定される。代替的にまたは追加で、脂肪細胞分化は1つまたは複数の脂肪細胞分化マーカー(例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)、脂肪酸結合タンパク質4(FABP4、aP2)、および/または脂肪酸合成酵素(FAS)から選択される)を測定することによって検討できる。
【0119】
いくつかの実施形態では、当該方法は、細胞または細胞集団内のBAT脂肪細胞分化量の検討を含む。BAT分化は1つまたは複数の、例えば、1つまたは複数のBAT特異的マーカー(脱共役タンパク質(UCP)、細胞死誘導DFF45様エフェクターA(CIDEA)、PPARγ活性化補助因子(PGC)−1α、および/またはPPARγ活性化補助因子(PGC)−1βおよび/またはPRDM−16など);BAT形態(例えば、視覚的、例えば、細胞の顕微鏡検査);またはBAT熱力学(例えば、シトクロム酸化酵素活性、Na+/K+−ATPアーゼ酵素単位、またはBAT熱産生に関与するその他の酵素)を測定することによって検討できる。
【0120】
いくつかの実施形態では、当該方法は、細胞内の脂肪細胞分化阻害物である前脂肪細胞因子(pref)−1値の検討を含むことができ、ここでpref−1値低下(例えば、適切な未処理対照細胞または処理前の同一細胞内のpref−1値と比較して)は、これらの細胞がBATに分化したことを示す。
【0121】
いくつかの実施形態では、当該方法は、環状AMP(cAMP)もしくはその類似体(ジブチリルcAMPなど)、またはβ3−アドレナリンアゴニストCL316249により細胞を処理して、これらの細胞の熱産生活性化能を評価することを含む。インビボ寒冷誘発性熱産生は、交感神経系およびBAT内β3アドレナリン受容体の活性化に関与するシグナル伝達カスケードに媒介される。これらの事象は、細胞質cAMP値の増加に至り、次いで、成熟した褐色脂肪細胞内の熱産生に関与する遺伝子の発現をトリガーする。分化した細胞が真の褐色脂肪細胞になるかどうかを決定するために、細胞浸透性cAMP類似体ジブチリルcAMP(Sigma)またはβ3−アドレナリンアゴニストCL316249(Sigma)で処理した分化した脂肪細胞における熱産生遺伝子(UCP−1など)発現を測定できる。これらの方法は、成熟した褐色脂肪細胞内の熱産生に関与する1つまたは複数の遺伝子発現の評価(例えば、測定)を含む。代表的な遺伝子としては、UCP−1、CIDEA、PGC−1、PRDM16、ならびにミトコンドリアの生合成と機能に関与する遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。これらの遺伝子の1つまたは複数の発現を示す細胞は成熟BAT細胞および/または成熟した褐色脂肪細胞の特徴を備える細胞として同定される。
【0122】
いくつかの実施形態では、当該方法は、WATへの分化の検討、例えば、WAT特異的
マーカー(1つまたは複数のレジスチンなど)、TCF21、レプチンおよび/または核内受容体相互作用性タンパク質1(RIP140)、および/またはWAT形態の検討を含む。
【0123】
WATとBATは、日常的な技術(例えば、WATもしくはBATに特異的な形態的変化、またはWAT特異的もしくはBAT特異的マーカーの検討)により識別できる。例えば、BAT細胞は、脱共役タンパク質(UCP)(例えば、UCP−1)発現により同定できる。
【0124】
治療方法
本明細書に記載の方法および組成物は肥満および体重関連障害の治療に有用である。通常、当該方法は、有効量のBMPで処理した細胞を、かかる治療が必要な対象(例えば、かかる治療が必要であると診断されている対象)へ投与することを含む。
【0125】
対象の選択
いくつかの実施形態では、当該方法は、治療が必要な対象(例えば、過体重または肥満対象、例えば、ボディマス指数(BMI)25〜29もしくは30もしくは30超または体重関連障害を有する対象)を同定することおよびBMPで処理した有効量の細胞の対象への投与を含む。本明細書に記載の方法による治療が必要な対象は、対象の体重またはボディマス指数に基づいて選択できる。いくつかの実施形態では、当該方法は、対象の:体重、脂肪組織蓄積、脂肪組織形態、インスリン値、インスリン代謝、グルコース値、熱産生能、および寒冷感受性のうち1つまたは複数の検討を含む。いくつかの実施形態では、対象の選択は、対象におけるBATの量または活性の評価およびこれらの観察記録を含み得る。
【0126】
この検討は化合物の投与前、投与中、および/または投与後に実施できる。例えば、この検討は投与の少なくとも1日、2日、4日、7日、14日、21日、30日、またはそれ以上前および/または後に実施できる。
【0127】
いくつかの実施形態では、Sca−1(+)前駆細胞は、治療のために選択される対象から取得できる。
細胞療法
本明細書に記載の方法は、(例えば、本明細書に記載の)BMPで処理したSca−1(+)細胞集団を治療すべき対象へ移植することを含み得、ここで前記BMPで処理した幹細胞集団またはそれらの子孫(すなわち、娘細胞)は褐色脂質を生成する。いったん移植後、Sca−1(+)細胞は通常、対象中で脂質を生成し、BATを生成する。
【0128】
これらの細胞療法の方法は、対象の、例えば、肥満およびインスリン抵抗性の治療において、またはミトコンドリア欠損関連疾患(例えば、糖尿病、癌、神経変性、および老化)を治療するために有用である。
【0129】
BMPで処理したSca−1(+)細胞集団(例えば、本明細書に記載の分化方法を用いて処理したSca−1(+)細胞)を移植する方法は当該技術分野において周知である(例えば、対象へ細胞を導入できるように構成された送達系の使用など)。通常、送達系は、細胞集団(BMPで処理したSca−1(+)細胞など)を含む貯蔵容器、およびこの貯蔵容器と接する流体中の針を含み得る。典型的には、スキャフォールド、マトリックス、または細胞が取り付くことができるその他の移植可能なデバイスと共に、あるいはそれらなしで、BMPで処理したSca−1(+)細胞集団は医薬として許容可能な担体中にある(例として、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、フィブリン、ゼラチン、およびそれらの組み合わせでできて
いる担体が挙げられる)。かかる送達系も本発明の範囲内である。通常、かかる送達系は無菌で維持する。さまざまな投与経路およびさまざまな投与部位(例えば、腎臓被膜下、皮下、中枢神経系(髄腔内など)、血管内、肝内、内臓内、腹腔内(大網内など)、筋肉内移植)を使用できる。通常、これらの細胞は対象の皮下に移植される。いくつかの実施形態では、移植する、BMPで処理したSca−1(+)細胞集団は、少なくとも10、10、10、または10を超える細胞を含む。
【0130】
免疫的に相性がよくない細胞を用いる場合、これらの細胞の拒絶反応を阻害するのに十分な投与量の免疫抑制化合物(例えば、薬剤または抗体)をレシピエント対象に投与できる。免疫抑制剤の投与量範囲は当該技術分野において周知である。例えば、Freed et al., N. Engl. J. Med. 327:1549 (1992); Spencer et al., N. Engl. J. Med. 327:1541 (1992); Widner et al., N. Engl. J. Med. 327:1556 (1992)を参照されたい。投与量は要因(疾患状態、個体の年齢、性別、および体重など)に応じて変更してよい。
【0131】
いくつかの実施形態では、当該方法は、BMPで処理した細胞に加えて1つまたは複数の他の化合物(例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)、レチノイドX受容体α(RxRα)、インスリン、T3、チアゾリジンジオン(TZD)、レチノイン酸、別のBMPタンパク質(例えば、BMP−1またはBMP−3)、ビタミンA、レチノイン酸、インスリン、糖質コルチコイドもしくはそのアゴニスト、Winglessタイプ(Wnt)(例えば、Wnt−1)、インスリン様増殖因子1(IGF−1)、またはその他の増殖因子、例えば、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換増殖因子(TGF)−α、TGF−β、腫瘍壊死因子α(TNFα)、マクロファージコロニー刺激因子(MCSF)、血管内皮増殖因子(VEGF)および/または血小板由来増殖因子(PDGF))の接触、投与もしくは発現を含む。他の実施形態では、化合物は、異種ポリペプチド配列(例えば、第二BMPタンパク質)と結合してキメラ分子もしくは融合タンパク質を形成する本明細書に記載のBMP−2、−4、−5、−6、および/または−7タンパク質またはその一部であり得る。いくつかの実施形態では、当該方法は、第二治療、例えば、肥満または関連障害(糖尿病など)のための第二治療と併用した化合物の投与を含む。例えば、第二治療はインスリン、オルリスタット、フェンジメトラジン、および/またはフェンテルミンであり得る。
【0132】
インビボ療法
いくつかの実施形態では、本開示は、インビボ治療方法を提供する。かかる方法は、上記のとおり対象を選択すること、対象へのBMPシグナル伝達を増加させる1つまたは複数の化合物を対象へ投与することを含み、ここで各化合物は対象中のSca−1(+)細胞を特異的に標的とする。かかる方法に使用できる化合物としては、例えば、Sca−1(+)細胞を特異的に標的とするBMPおよびBMPアゴニストが挙げられる。かかる化合物は細胞表面上のSca−1(+)および/またはCD29受容体に特異的に結合できる。
【0133】
有効量
本明細書に記載の化合物および医薬組成物の毒性および治療有効性は、培養物または実験動物における細胞のいずれかを用いてLD50(集団の50%にとって致死的な用量)およびED50(集団の50%にとって治療的に効果的な用量)を測定する標準的な製薬手順により決定できる。中毒作用と治療効果間の用量比率は治療指標であり、LD50/ED50比率として表すことができる。高い治療指標を示すポリペプチドまたはその他の化合物が好ましい。
【0134】
細胞培養アッセイおよびさらなる動物試験から得られるデータを、ヒトに用いる投与量範囲の策定に使用できる。かかる化合物の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどまたはまったくないED50を含み、ヒトの聴力能に対する有害作用がほとんどまたはまったくない循環濃度範囲内である。この投与量は、使用する投与形態および利用する投与経路に応じて、この範囲内で変更してよい。本明細書に記載の方法に使用される任意の化合物の治療有効量を初めに細胞培養アッセイから推定できる。用量は動物モデルにおいて、細胞培養物中で測定したIC50(すなわち、試験化合物濃度が症状の最大阻害の半数に達する)を含む循環血漿濃度範囲に達するように処方できる。かかる情報は、ヒトに有用な用量をより正確に測定するために使用できる。分化剤の代表的な投与量は少なくとも約0.01〜3000mg/日、例えば、少なくとも約0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1、1、2、5、10、25、50、100、200、500、1000、2000、もしくは3000mg/kg/日、または3000mg/kg/日超である。
【0135】
投与剤形および投与経路は、治療下の疾患もしくは障害、および治療中の具体的なヒトに応じて調整できる。薬剤用量を1日1回もしくは2回以上、1週間、1ヶ月、6ヶ月、1年、または1年を超えて、対象に投与することができる。この治療は無制限に(該ヒトの生涯を通じてなど)継続できる。治療は定期的または不定期的間隔(一日おきに1回または週2回)で投与でき、投与量および投与タイミングは治療の全過程で調整できる。投与量は治療レジメンの全過程で一定量を維持することも、治療の全過程で増減することもできる。
【0136】
通常、投与量は、望ましくない副作用(中毒、過敏またはアレルギー反応など)を伴わずに予防と治療の両方のための意図した目的を促進する。個体の必要性は変化し得るが、製剤の最適な有効量範囲の決定は当該技術分野の技能範囲である。ヒトの用量は動物試験から容易に推定できる(Katocs et al., Chapter 27 In:
Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Gennaro, ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990)。通常、製剤の有効量を得るために要される投与量は、当業者により調整されることができ、いくつもの要因(レシピエントの年齢、健康、体調、体重、疾患もしくは障害の種類および程度、治療頻度、必要に応じた同時療法の性質、ならびに所望の効果(1つまたは複数)の性質および範囲など)に応じて変更される(Nies et al., Chapter 3, In: Goodman
& Gilman’s “The Pharmacological Basis of Therapeutics”, 9th Ed., Hardman et al., eds., McGraw−Hill, New York, N.Y., 1996)。
【0137】
治療の評価/検証
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、治療後およびこれらの観察記録後における対象中のBAT量またはBAT活性の評価を含み得る。これらの治療後の観察結果は対象の選択中に行なわれる観察結果と比較できる。いくつかの実施形態では、対象は増加したBAT値および/または活性を有する。いくつかの実施形態では、対象は軽減した症状を示す。
【0138】
いくつかの実施形態では、評価は、治療前および/または治療後の対象の体重もしくはBMI測定、ならびに治療前の対象の体重もしくはBMIと治療後の体重もしくはBMIとの比較を含み得る。成功の兆候は体重またはBMIの低下として観察される。いくつかの実施形態では、この治療は、目標体重またはBMIが得られるまで1回または複数回追加投与される。あるいは、胴回り測定(例えば、腰部、胸部、臀部、大腿部、または腕囲
)を用いることができる。
【0139】
これらの評価結果は、対象の将来の治療過程の決定に使用できる。例えば、治療は、変更せずに継続してもよいし、変更して継続してもよく(例えば、追加治療またはより積極的な治療)、または停止することもできる。
【0140】
いくつかの実施形態では、当該方法は、BMP活性化細胞の1回または複数回の追加移植(例えば、褐色脂肪細胞分化を増加させるため、例えば、対象の肥満軽減を維持するまたはさらに軽減するため)を含む。
【0141】
スクリーニング方法
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法はBAT前駆細胞を同定するためのスクリーニング方法を含む。これらの方法は、Sca−1(+)前駆細胞の取得を含む。いくつかの実施形態では、これらの細胞は、例えば、細胞表面マーカー発現、RNAとDNAプロファイリング、およびプロテオミクスを評価することにより特性化される。代替的にまたは追加で、これらの細胞は本明細書に記載の分化方法を用いて処理できる。いくつかの実施形態では、Sca−1(+)細胞は、BMP−7を単独または1つまたは複数の分化誘導カクテルと併用して用いて処理できる。次いで、細胞集団が1つまたは複数の成熟BAT細胞またはBAT細胞の特徴を備える細胞を含むことを確認するためにこれらの細胞を検討できる。次いで、これらの成熟BAT細胞またはBAT細胞の特徴を備える細胞を単離し、(例えば、細胞表面マーカー発現、RNAとDNAプロファイリング、およびプロテオミクスを評価することにより)特性化することができる。観察結果を記録し、同様に処理したSca−1(+)細胞を用いて行なった観察結果と比較する。いくつかの実施形態では、この観察結果を、未処理前駆細胞を用いて行なった観察結果と比較し、分化前後に存在するマーカーを測定する。次いで、反復した観察結果を測定し、BAT細胞系統への分化能または指向能を有する細胞のプロファイル構築に用いる。次いでこのプロファイルを、異種の細胞集団由来のBAT前駆細胞を選択するために使用できる。
【0142】
キット
本発明はキットを特徴とする。いくつかの実施形態では、このキットは(1)1つまたは複数のSca−1(+)前駆細胞;(2)1つまたは複数のSca−1(+)前駆細胞の成熟BAT細胞系統への分化もしくは指向を促進する能力を有する1つまたは複数のBMP;(3)これらの細胞を対象に投与するためのデバイス;(4)投与説明書;ならびに任意に(5)1つまたは複数の分化誘導カクテル、を含み得る。
【0143】
いくつかの実施形態では、このキットは(1)1つまたは複数のBMPで処理したSca−1(+)細胞;(2)これらの細胞を対象に投与するためのデバイス;ならびに(3)投与説明書を含み得る。同一容器に見られる2つ以上(すべてを含む)の成分の実施形態が含まれる。
【0144】
キットを供給時、含有する組成物の異なる成分を分離した容器内に収容して使用直前に混合することができる。これらの成分を、このように別々に収容することにより、活性成分の機能を失わせずに長期間保存することができる。複数の生物活性剤が特定のキット内に含まれる場合、この生物活性剤は、(1)別々に収容して好適な(類似した、異なるが適合する)アジュバントもしくは賦形剤と使用直前に別々に混合してよい、(2)併せて収容して使用直前に併せて混合してよい、または(3)別々に収容して使用直前に併せて混合してよい。選択された化合物が混合後にも安定し続ける場合、これらの化合物は、使用の直前より前(例えば、数分前、数時間前、数日前、数ヶ月前、数年前、および製造時など)に一度に混合してよい。
【0145】
本発明の特定のキットに含まれる組成物は、異なる成分の寿命が最適に保存され、容器材料に吸収または改変されないような任意の種類の容器内で供給できる。これらの容器に適した材料としては、例えば、ガラス、有機ポリマー(例えば、ポリカーボネートおよびポリスチレン)、セラミック、金属(例えば、アルミニウム)、合金、または類似試薬を保持するために典型的に使用される他の任意の材料を挙げ得る。代表的な容器として、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、注射器、などを挙げ得るが、これらに限定されない。
【0146】
上記のとおり、このキットは取扱説明書と供給することもできる。これらの説明書は、限定ではないが、印刷してもよいし、および/または読み取り可能な電子媒体(フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD、ジップディスク、ビデオカセット、録音テープ、およびフラッシュメモリデバイスなど)として供給してもよい。あるいは、説明書はインターネットウェブサイト上で公開してもよいし、ユーザーに電子メールで配布してもよい。
【0147】
このキットには、体重関連障害および肥満の治療もしくは予防のためのキットも含まれる。
本発明を下記の実施例において詳述するが、これらは特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を制限しない。
【実施例1】
【0148】
骨形成タンパク質処理は、化学的および/またはホルモン性分化誘導物質不在下でBAT分化を促進する
野生型褐色前駆脂肪細胞および3T3−L1白色前駆脂肪細胞の骨形成タンパク質(BMP)−2、−3、−4、−5、−6、および−7による処理効果を下記の方法により分析した。
【0149】
サブコンフルエントな細胞を、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、またはBMP−7のいずれかと10%ウシ胎児血清添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。対照細胞培地はBMPを含有しなかった。化学的もしくはホルモン性分化誘導物質またはチアゾリジンジオンには細胞を曝露しなかった。細胞を8日間培養した。次いで、細胞をオイルレッドO染色およびRNA抽出用に集めた。
【0150】
脂質蓄積について、オイルレッドO染色を用いて分析した。簡単に述べると、ろ過したオイルレッドO溶液(0.5%オイルレッドO(Sigma−Aldrich)のイソプロピルアルコール溶液)で2時間、室温で細胞を染色した。
【0151】
図1Aに示すとおり、BMP−2、BMP−4、BMP−6、およびBMP−7により、対照細胞集団と比較して、野生型褐色前駆脂肪細胞における脂質蓄積の著しい増加が惹起され、これは増加したオイルレッドO蓄積によるこれら野生型褐色前駆脂肪細胞の濃色化した外観に示されている。対照的に、図1Bに示すとおり、3T3−L1白色前駆脂肪細胞では、脂質蓄積の増加は観察されなかった。
【0152】
これらのデータにより、さまざまなBMP(BMP−2、BMP−4、BMP−6、およびBMP−7)は、化学的もしくはホルモン性分化誘導物質またはチアゾリジンジオンを含有しない増殖培地中でさえも、褐色前駆脂肪細胞における脂質蓄積の増加を促進する能力を有することが示唆される。脂質蓄積は、これらの細胞のBAT表現型への分化と一致するため、これらの結果は、BMP−2、BMP−4、BMP−6、およびBMP−7はBAT前駆細胞のBAT系列への分化を促進する能力を有することを示す。
【0153】
脱共役タンパク質−(UCP−1)および細胞死誘導DFF45様エフェクターA(CIDEA)は、BAT分化を確認するため一般に用いられる特異的マーカーである(Zhou et al., Nat. Genet., 35:49−56, 2003)。BMP−2、BMP−4、BMP−6、およびBMP−7が褐色前駆脂肪細胞の成熟BAT細胞への分化を促進するかどうかを分析するため、上記のとおり調製した細胞を用いて定量RT−PCRを実施し、UCP−1およびCIDEAの発現を評価した。
【0154】
野生型褐色前駆脂肪細胞をさまざまなBMPの存在下で8日間培養した。次いで、細胞を取得し、QIAzol溶解試薬(Qiagen, Valencia, CA)を用いてRNAを単離した。UCP−1を増幅するために用いたセンスおよびアンチセンスプライマーはSuperArray(カタログ番号PPM05164A)から購入した。
【0155】
CIDEAを増幅するために用いたセンスおよびアンチセンスプライマーはそれぞれ:
5’−ATCACAACTGGCCTGGTTACG−3’配列番号6;および
5’−TACTACCCGGTGTCCATTTCT−3’配列番号7である。
【0156】
Advantage RT−PCRキットを製造業者の説明書(BD Biosciences, Palo Alto, CA)に従って用いて1μg RNAからcDNAを調製し、最終容積250μLとなるように希釈した。5μLの希釈cDNAをSYBR
Green Master Mix(Applied Biosystems, Foster City, CA)との20μL PCR反応に用いた。各プライマーを300nMの濃度で用いた。各試料においてPCR反応を二重に実行し、ABI Prism7000配列検出系(Applied Biosystems)を用いて定量した。
【0157】
図2Aに示すとおり、BMP−7で処理した細胞は対照細胞集団と比較してUCP−1とCIDEAの著しい発現増加を示した。CIDEA発現増加はBMP−2処理細胞でも観察された。
【0158】
これらの結果により、BMP−2とBMP−7は野生型褐色前駆脂肪細胞のBATへの分化を促進することが示唆される。
上の観察結果は、ウエスタンブロッティング法を用いても確認した。簡単に述べると、サブコンフルエントな褐色と白色前駆脂肪細胞を、対照培地または3.3nMのBMP−6もしくはBMP−7添加培地で13日間培養した。
【0159】
BMP−6、BMP−7および対照で処理した褐色および白色前駆脂肪細胞から取得したタンパク質抽出体をSDS−PAGEを用いて分解し、ウエスタンブロッティング法を用いて分析した。最初にUCP−1(Santa Cruz, CA)特異抗体を用いて膜を調べた後、負荷対照としてβ−チューブリン特異抗体を用いて膜を除去し、再度調べた。
【0160】
図2Bに示すとおり、BMP−7に曝露した褐色細胞集団内でUCP−1を特異的に上方制御した。UCP−1上方制御は、BMP−7もしくはBMP−6に曝露した白色細胞集団、または対照で処理した褐色細胞および白色細胞では観察されなかった。
【0161】
上記の観察に加えて、BMP−7はミトコンドリア生合成の増加も促進した。
これらのデータにより、BMP−7は重要な褐色脂肪細胞分化因子かつ熱産生の調節因子であることが示唆される。
【実施例2】
【0162】
幹細胞抗原−1陽性の褐色脂肪細胞前駆細胞の単離および特性化
候補の褐色脂肪前駆細胞を成獣マウス骨格筋から単離した。次いで、これらの細胞をBMP−7に曝露することによって、これらの単離細胞のBAT細胞への分化能を調査した。
【0163】
マウス肢の筋線維結合間質細胞由来の非筋原性前駆細胞の幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))およびCD45/Mac−1陰性(Sca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−))集団を、蛍光活性化細胞選別機(FACS)により精製した。簡単に述べると、動物を二酸化炭素、続いて頸椎脱臼で屠殺した。筋組織を前後の両肢から解離し、15mL消化用緩衝液I(DMEM、0.2%II型コラゲナーゼ、Invitrogen製、番号17101−015)に集めた。試料を37℃の水浴中で穏やかに撹拌しながら90分間消化した。3mLウシ胎児血清(FBS)を添加して消化を停止した。組織切片を分離し、この組織切片を破壊せずに、F10+20%FBS培地で2回およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1回洗浄した。組織をPBS中で細片化してインタクトな筋線維を得た。
【0164】
次いで、筋線維を沈殿により3〜4回洗浄して間質細胞を除去した。最終洗浄後、この上清を除去して最終容積3〜5mLとした後、5〜6mL消化用緩衝液II(F10、0.0125%II型コラゲナーゼ、0.05%ディスパーゼ、Invitrogen製、番号17105−041)を添加した。
【0165】
次いで、試料を穏やかに撹拌しながら37℃で30分間インキュベートした。次いで、この溶液に1.5mL FBSを添加して消化を停止した。試料を上下に約4回ピペッティングして、試料中に存在する筋線維結合細胞を解離した。次いで、試料を低速度で1分間遠心して未消化組織切片を除去した。次いで、上清を70μmのセルストレーナーでろ過した。遠心分離により細胞を集め、抗体染色のために低容積の選別培地(2%FBSのハンクス平衡緩衝塩溶液−HBSS)中で再懸濁した。
【0166】
選別培地中での1回の洗浄工程後、細胞をろ過網でろ過した。生死選択マーカーであるポビドンヨード(死細胞の検出に使用)およびカルセインブルー(生細胞の検出に使用)を添加後、PEの負の選択(Mac−1およびCD45の発現)およびAPCの正の選択(Sca−1発現)を用いた蛍光活性化細胞選別機(FACS)に細胞を供した。すべての抗体を1:200希釈で細胞懸濁液に添加し、氷上で20分間インキュベートした。用いた抗体は、Sca−1(APC標識;eBioscience製、番号17−5981−82)、Mac−1(PE標識;eBioscience製、番号12−0112−82)およびCD45(PE標識;eBioscience製、番号12−0451−82)に対する抗体などである。
【0167】
次いで、細胞を増殖培地(10%FBSおよびグルタミン含有のF10)中で再懸濁し、ラミニン/コラーゲンコーティングした細胞培養用24ウェルプレート上の集密度25.000細胞/ウェルでプレートした。増殖期間中、細胞を5ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Sigma−Aldrich製、番号F0291)の連日添加により補充した。
【0168】
次いで、Sca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)前駆細胞を10%ウシ胎児血清および3.3nM BMP−7添加DMEMに3日間曝露した。対照細胞はBMP−7なしで、10%ウシ胎児血清添加DMEMに曝露した。次いで、細胞を脂肪細胞分化誘導培地に4日間曝露した。具体的には、20nMインスリンおよび1nMトリヨードチロニン(T3)、0.5μMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、5mMデキサメタゾン、および0.125mMインドメタシン添加培地で融合細胞を48時間処理することにより脂肪細胞分化を誘導した。この誘導期間後(2日目)、インスリンとT3添加
増殖培地に細胞を再置し、次いで増殖培地を隔日で変更した。次いで細胞をオイルレッドO染色固定して、定量RT−PCR用にRNAを単離した。
【0169】
オイルレッドO染色を実施例1に記載のとおり実施した。
図3Aと3Bに示すとおり、BMP−7で処理したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)において、対照細胞集団と比較して脂質蓄積の著しい増加がそれぞれ示された。
【0170】
次いで、定量RT−PCRを実施し、褐色脂肪細胞に特異的な脂肪細胞分化と脂肪細胞分化マーカーの両方の発現レベルを測定した。分析した脂肪細胞分化マーカーはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)、脂肪酸結合タンパク質4(FABA4、aP2)、および脂肪酸合成酵素(FAS)である。褐色脂肪細胞に特異的な脂肪細胞分化マーカーはUCP−1、CIDEA、PPARγ活性化補助因子(PGC)−1α、およびPGC−1βであった。
【0171】
定量RT−PCRを実施例1に記載のとおり実施した。PPARγ増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−TCAGCTCTGTGGACCTCTCC−3’配列番号8;および
5’−ACCCTTGCATCCTTCACAAG−3’配列番号9である。
【0172】
FABA、aP2増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−GATGCCTTTGTGGGAACCT−3’配列番号10;および
5’−CTGTCGTCTGCGGTGATTT−3’配列番号11である。
【0173】
FAS増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−GAGGACACTCAAGTGGCTGA−3’配列番号12;および
5’−GTGAGGTTGCTGTCGTCTGT−3’配列番号13である。
【0174】
PGC−1α増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−GTCAACAGCAAAAGCCACAA−3’配列番号14;および
5’−TCTGGGGTCAGAGGAAGAGA−3’配列番号15である。
【0175】
PGC−1β増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−CTTGCTTTTCCCAGATGAGG−3’配列番号16;および
5’−CCCTGTCCGTGAGGAACG−3’配列番号17である。
【0176】
図4Aに示すとおり、脂肪細胞分化マーカー(PPARγ、FABP4、aP2、およびFAS)と褐色脂肪選択的マーカー(UCP−1およびCIDEA)はいずれもBMP−7処理により著しく増加した。誘導最低値はPPARγで観察され、これは対照に比し2倍の増加を示した。他のすべてのマーカーにおいて、対照に比し2倍超の増加が示された。最大増加はCIDEAで観察され、これは対照に比し3.5倍の増加を示した。
【0177】
これらの観察結果により、BMP−7処理はSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)前駆細胞の生粋のBAT細胞への分化を促進することが示唆される。
BMP−7処理したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)細胞が熱産生能を有する成熟した褐色脂肪細胞に分化したことをさらに裏付けるため、BMP−7処理したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)細胞および未処理の対照細胞を環状AMP(cAMP)類似体ジブチリルcAMP(Sigma)かβ3−アドレナリンアゴニストCL316249(Sigma)のいずれかに曝露した。これらの化合物のそれぞれが寒冷誘発性熱産生の誘発を模倣し、したがって、熱産生に関与する遺伝子の
発現トリガーとなり、これは成熟した褐色脂肪細胞内で排他的に生じる。これらの化合物のいずれかが、褐色脂肪細胞を機能的に特性化し、褐色脂肪細胞を白色脂肪細胞と識別するために一般に用いられる。
【0178】
処理後、上記のとおり、定量RT−PCRを用いてUCP−1発現を分析した。
図4Bに示すとおり、BMP−7処理したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)細胞集団において、対照細胞集団と比較して、cAMP後のUCP−1発現の約300倍の増加が示された。この観察結果により、BMP−7に曝露したSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)前駆細胞は、熱産生プログラムを作動してカテコールアミン刺激に反応する完全な能力を有する生粋の褐色脂肪細胞に分化することが示唆される。
【0179】
これらのデータを総合して、BMP−7はSca−1(+)前駆細胞(特にSca−1(+)/CD45(−)/Mac−1(−)前駆細胞)の真の褐色脂肪細胞への分化を誘導できることが強く示唆される。
【実施例3】
【0180】
新規OLE_LINK2OLE_LINK3の褐色脂肪細胞前駆細胞OLE_LINK2OLE_LINK3の同定
本明細書に示す結果により、BMPはSca−1(+)間葉前駆集団における褐色対白色脂肪の宿命を特定できることが実証される。Sca−1発現は異種の前駆体貯留をマーキングする。実施例1と2に記載したマーカーの他に、Sca−1(+)細胞源を同定するため、ならびに褐色脂肪細胞前駆細胞の表面上のSca−1の他にこれらの細胞の同定もしくは精製に使用できるマーカーを同定するため、さまざまな供給源(筋肉、およびOLE_LINK5脂肪組織(OLE_LINK4肩甲骨間BAT、皮下白色脂肪組織、および内臓白色脂肪組織OLE_LINK5OLE_LINK4など)など)からSca−1(+)前駆体をFACSにより単離した。次いで、単離Sca−1(+)細胞をBMP7に曝露して、細胞の成熟した褐色脂肪細胞への分化能を評価した。細胞表面マーカーにより、次いで細胞の褐色脂肪細胞への分化能を測定した。これら追加のBAT前駆細胞に特異的な細胞表面マーカーは褐色脂肪細胞前駆細胞の同定に使用できる。
【0181】
より具体的には、非造血Sca−1(+)前駆細胞を骨格筋、骨髄、ならびに脂肪組織および蓄積脂肪(肩甲骨間BAT、皮下白色脂肪組織、および内臓白色脂肪組織など)から下記のとおり単離した。
【0182】
骨格筋由来Sca−1(+)細胞
実施例1と2に用いた方法によりSca−1(+)細胞を単離し、培養した。具体的には、動物を二酸化炭素、続いて頸椎脱臼で屠殺した。前後の両肢から筋組織を解離し、15mL消化用緩衝液I(DMEM、0.2%II型コラゲナーゼ、Invitrogen製、番号17101−015)中に集めた。
【0183】
37℃の水浴中で穏やかに撹拌しながら90分間消化した後、3mLウシ胎児血清(FBS)を添加して消化を停止した。組織切片を分離し、この組織切片を破壊せずにF10+20%FBS培地で2回およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1回洗浄した。組織をPBS中で細片化してインタクトな筋線維を得た。
【0184】
次いで、この筋線維を沈殿により3〜4回洗浄して間質細胞を除去した。最終洗浄後にこの上清を除去して最終容積3〜5mLとした後、5〜6mL消化用緩衝液II(F10、0.0125%II型コラゲナーゼ、0.05%ディスパーゼ、Invitrogen製、番号17105−041)を添加した。
【0185】
次いで、この試料を穏やかに撹拌しながら37℃で30分間インキュベートし、1.5mL FBSを添加して消化を停止した。この消化試料を上下に4回吸引して筋線維結合細胞を解離した後、低速度で1分間遠心して未消化組織切片を除去した。次いで、この上清を70μmのセルストレーナーでろ過した。遠心分離により細胞を集め、抗体染色のために低容積の選別培地(2%FBSハンクス緩衝塩溶液−HBSS)中で再懸濁した。
【0186】
すべての抗体を1:200希釈でこれらの細胞懸濁液に添加し、氷上で20分間インキュベートした。抗体はSca−1(APC標識;eBioscience製、番号17−5981−82)、Mac−1(PE標識;eBioscience製、番号12−0112−82)およびCD45(PE標識;eBioscience製、番号12−0451−82)を標的とした。選別培地中での1回の洗浄工程後、細胞をろ過網でろ過した。生死選択マーカーであるポビドンヨード(死細胞)とカルセインブルー(生細胞)を添加後、PEの負の選択(Mac−1およびCD45発現)およびAPCの正の選択(Sca−1発現)を用いた蛍光活性化細胞選別機(FACS)に細胞を供した(図6Aを参照されたい)。
【0187】
次いで、細胞を増殖培地(Calcif Tissue Int, 2008 Jan;82(1):44−56に公開されている)中で再懸濁した。増殖培地は低グルコース含有の60%ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM)(Invitrogen製、11885−084)と40%MCDB201培地(Sigma−Aldrich製、M6770)からなる。増殖培地を2%ウシ胎児血清、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen製、15140−155)、1nMデキサメタゾン(Sigma−Aldrich製、D−4902)、0.1mM L−アスコルビン酸2−リン酸(Sigma−Aldrich製、A8960)、1×インスリン、トランスフェリン、セレニウム(ITS)混合物(Sigma−Aldrich製、I3146)、および1×リノール酸アルブミン(Sigma−Aldrich製、L9530)を添加した。マトリゲルコーティングした細胞培養用24ウェルプレート上の集密度25.000〜50.000細胞/ウェルで細胞をプレートした。この増殖培地も次の増殖因子を添加した:10ng/mL EGF(PeproTech製、315−09)、10ng/mL LIF(Millipore製ESGRO、ESG1107)、10ng/mL PDGF−BB(PeproTech製、315−18)および5ng/mL bFGF(Sigma−Aldrich製、F0291)。この培地に新規の増殖因子を添加後、すべての培地を一日おきに変更した。増殖期間中、細胞に5ng/mL塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Sigma−Aldrich製、番号F0291)を連日添加して補充した。
【0188】
下記のとおり、これらの単離細胞を対象に、BMP7で処理後の褐色脂肪細胞生成能について試験した。簡単に述べると、既に記載されているように(Klein et al., J. Biol. Chem., 274:34795−34802, 1999; Hauner et al., J. Clin. Invest., 84:1663−1670, 1989)、単離Sca−1(+)細胞を脂肪細胞分化培地の存在下または不在下でBMP7と接触させた。より具体的には、細胞を90〜95%集密度で、または選別後の7日間の拡大後に取得した。翌日、すべての増殖因子を含む増殖培地に3.3nM BMP−7を添加することにより前処理を開始した。加えて、前のようにbFGFを連日添加した。
【0189】
72時間後、脂肪細胞分化を48時間誘導した。脂肪細胞分化誘導カクテルのため、増殖培地を増殖因子なしで用いた。代わりに、次の化合物を添加した:5μg/μLインスリン(Roche製、11376497001)、50μMインドメタシン(Sigma−Aldrich製、I7378)、0.5μM IBMX(Sigma−Aldrich製、I5879)、1μMデキサメタゾン(Sigma−Aldrich製、D−49
02)、および1nM T3(Sigma−Aldrich製、T6397)。脂肪細胞分化誘導から2日後、この培地を5μg/μLインスリンと1nM T3含有培地と置換して最大7日のみ追加した。続いてオイルレッドO染色および定量RT−PCRを用いて脂肪細胞分化について分析した。
【0190】
図5A〜5C(図1提示のデータと一致)に示すとおり、マウス後肢骨格筋から単離したSca−1(+)細胞のBMP7処理は脂質蓄積の著しい増加を促進した。これらの骨格筋由来細胞の細胞表面マーカープロファイリングをBMP7で処理前に実施した。図6Aに示すとおり、これらの単離骨格筋細胞はSca−1陽性、CD45陰性、およびMac−1陰性であった。図6B〜6Fに示すとおり、これらのSca−1(+)BAT前駆細胞も細胞表面マーカーCD29/インテグリンβ1およびCDで34陽性であった。対照的に、これらの細胞は細胞表面マーカーCD31/PECAM−1およびCD117/C−kit陰性であった。
【0191】
これらの観察結果により、Sca−1(+)BAT前駆細胞は骨格筋から単離できることが確認される。これらの観察結果により、単独で、または1つまたは複数のCD29もしくはCD34と併用した細胞表面マーカーであるSca−1の陽性同定により、Sca−1(+)BAT前駆細胞を同定および/または精製できることも支持される。Sca−1(+)BAT前駆細胞は、細胞表面でのCD45、Mac−1、CD31、およびCD117の非発現によりさらに同定できる。
【0192】
これらのSca−1(+)細胞の生粋の褐色脂肪細胞への分化能をさらに確認するために、実施例1と2に記載したとおり、定量RT−PCRを実施して、これらの骨格筋由来Sca−1(+)細胞における脂肪細胞分化および褐色脂肪細胞に特異的な脂肪細胞分化マーカー発現レベルを分析した。実施例1と2に記載したマーカーの他に、PRDM−16、ATPアーゼ、Pref−1、BMPR−11A、BMPR−1B、BMPR−2、およびACVR−1の発現レベルも検出された。上記のとおり、UCP−1はBATの信頼性の高いマーカーである。同様に、PRDM−16は褐色脂肪細胞に特異的な脂肪細胞分化マーカーであり、UCP−1はBATの同定に用いられる一般的なマーカーである。MPR−11A、BMPR−1B、BMPR−2、およびACVR−1は脂肪細胞分化マーカーである。Pref−1は、脂肪細胞分化を確認するために使用できる脂肪細胞分化阻害物である。RT−PCTに用いられるプライマーを実施例2と以下に示す。UCP−1増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−CTGCCAGGACAGTACCCAAG−3’配列番号18
5’−TCAGCTGTTCAAAGCACACA−3’配列番号19である。
【0193】
PRDM−16増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−CAGCACGGTGAAGCCATTC−3’配列番号20
5’−GCGTGCATCCGCTTGTG−3’配列番号21である。
【0194】
ATPアーゼ増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−ACCTATCCCAGCCTCGTCTC−3’配列番号22
5’−AGGACTTGCCCACTTCTCTTT−3’配列番号23である。
【0195】
Pref−1増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−AGTACGAATGCTCCTGCACAC−3’配列番号24
5’−CTGGCCCTCATCATCCAC−3’配列番号25である。
【0196】
BMPR−1A増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−AATGCAAGGATTCACCGAAAGCCC−3’配列番号26
5’−ACAGCCATGGAAATGAGCACAACC−3’配列番号27である。
【0197】
BMPR−1B増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−AGAAGAGCACAGAGGCCCAATTCT−3’配列番号28
5’−TGCAAGGTACACAGCAGTGCTAGA−3’配列番号29である。
【0198】
BMPR−2増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−AGCAATCGCCCATCGAGACTTGAA−3’配列番号30
5’−TTCTGGAGGCATATAGCGCTTGGT−3’配列番号31である。
【0199】
ACVR−1増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−TGCTAATGATGATGGCTTTCC−3’配列番号32
5’−TTCACAGTGGTCCTCGTTCC−3’配列番号33である。
【0200】
図7に示すとおり、Sca−1(+)細胞のBMP7処理により、BAT特異的マーカーUCP−1発現レベルの著しい増加に至った。さらに、これらの細胞におけるUCP−1発現は、これらの実験に用いた期間12日間中、増加し続けた。BAT特異的マーカーであるPRDM−16、CIDEA、PGC−1α、およびPGC−1β値の増加も、ATPアーゼの発現レベル増加として観察された。脂肪細胞分化マーカーであるPPARγ、aP2、FAS、BMPR−1A、およびBMPR−2の発現レベル増加も観察された。対照的に、脂肪細胞分化阻害物Pref−1発現レベルの低下が観察された。
【0201】
これらの観察結果を総合して、BMP7に曝露したSca−1(+)細胞は単に脂肪細胞に分化するだけではなく、褐色脂肪細胞に特異的に分化することが確認される。実施例2に記載したとおり細胞をcAMPにも曝露したところ、図8に示すとおりこれらの細胞内のUCP−1発現はさらに著しく増加した。この観察結果により、Sca−1(+)細胞は熱産生プログラムを活性化することによりカテコールアミン刺激に反応する完全な能力を有する真の褐色脂肪細胞になることが再度支持される。
【0202】
脂肪組織由来のSca−1(+)細胞
脂肪組織(OLE_LINK8OLE_LINK9肩甲骨間BAT(BAT)、皮下白色脂肪組織(SQ−WAT)、および内臓白色脂肪組織(EPI−WAT)OLE_LINK8OLE_LINK9など)からSca−1(+)細胞を単離し、上記の方法を用いて骨格筋由来Sca−1(+)細胞を培養した。次いで、単離細胞をBMP7に曝露した。これらの細胞のBATへの分化能を、オイルレッドO染色およびRT−PCRを用いて測定した。
【0203】
図9に示すとおり、BATおよびSQ−WAT脂肪組織から単離したSca−1(+)細胞は、BATに分化することによりBMP7処理に反応した。対照的に、EPI−WATから単離したSca−1(+)細胞はBMP7処理に反応しなかった。
【0204】
これらの視覚観察結果を、RT−PCRを用いて確認した。Sca−1(+)は、肥満の遺伝的素因を有するマウスであるC57Bl/6(B6)と肥満抵抗性マウスである129−S6(129)由来のBAT(OLE_LINK6OLE_LINK7BAT)、皮下白色脂肪組織(SQ−WATOLE_LINK6OLE_LINK7)、および内臓白色脂肪組織(EPI−WAT)源からも単離した。次いで、これらのマウスから単離した細胞を筋肉由来細胞に対する上記のとおりBMP7に曝露し、脂肪細胞分化マーカーであるFASマーカーとBAT特異的マーカーUCP−1を定量RT−PCRを用いて評価した。
【0205】
図10Aと10Bに示すとおり、肥満素因を有する動物と肥満抵抗性動物の両方から取得したBATおよびSQ−WATから単離したSca−1(+)細胞において、FAS値もUCP−1値も増加した。対照的に、いずれの動物のEPI−WATから取得したSca−1(+)細胞においてもFAS値は増加しないことが観察され、UCP−1は検出不能であった。特に、肥満抵抗性129マウスのBATまたはSQ−WATから単離したSca−1(+)細胞においてUCP−1が高値で発現し、BMP−7前処理はこれらの細胞内のUCP−1発現をさらに誘導した。
【0206】
これらの観察結果により、Sca−1(+)BAT前駆細胞は脂肪組織から単離でき、BMP−7はBATマーカー発現を誘導できることが支持される。
【実施例4】
【0207】
肥満素因を有する動物モデルと肥満抵抗性動物モデルにおける筋肉常在Sca−1(+)細胞の生存可能性および機能の比較
肥満素因を有するC57Bl/6(B6)および肥満抵抗性129−S6(129)マウスにおけるSca−1(+)細胞数を、FACSおよび実施例3に記載の細胞単離方法を用いて評価した。
【0208】
図11に示すとおり、B6と129における総Sca−1(+)細胞数はほぼ同じである。この観察結果により、肥満の遺伝的素因を有するか肥満抵抗性かは、Sca−1(+)細胞数に影響しないことが示唆される。
【0209】
B6と129マウスから単離した細胞がBMP7に反応する上で機能的な相違があるかどうかを調査するために、実施例3に記載したとおりに各動物からSca−1(+)細胞を単離し、培養して、BMP7に曝露した。BAT特異的マーカーであるUCP−1と脂肪細胞分化マーカーであるPPARγ値をRT−PCRを用いて評価した。
【0210】
図12Aと12Bに示すとおり、肥満抵抗性マウス(129)から単離したSca−1(+)細胞のBMP7処理により、UCP−1発現レベルは増加し、肥満素因を有する動物(B6)において観察された発現レベルよりも上回った。UCP−1のベースライン値もOLE_LINK10OLE_LINK11、肥満抵抗性マウス(129)において肥満素因を有する動物(B6)OLE_LINK10OLE_LINK11よりも高かった。対照的に、PPARγ値は、肥満抵抗性マウス(129)と肥満素因を有する動物(B6)とで同等であった。
【0211】
これらの観察結果により、遺伝的背景は、Sca−1(+)細胞の褐色脂肪細胞分化の潜在的因子を決定することが示唆される。
【実施例5】
【0212】
BMP7で処理したSca−1(+)細胞の非脂肪細胞系統への分化能
BMPで前処理した、あるいBMPで前処理しない、骨原性および筋原性の分化培地の存在下において、Sca−1(+)細胞の異なる系統への分化能を調査した。具体的には、筋肉から単離したSca−1(+)細胞を、ホルモンおよび化学物質含有の骨原性または筋原性誘導カクテルを用いて分化を誘導する前に、BMP−7で前処理した(Peister et al., Blood 103(5):1662−8 2003)。骨格筋から単離してBMP7に曝露したSca−1(+)細胞は骨原性または筋原性系統に分化しなかった。これらの観察結果から、BMP7は具体的にSca−1(+)細胞に対してBAT細胞へ分化する傾向を与えることが示唆される。これらのデータから、Sca−1(+)はWATかBATに分化可能な脂肪細胞であるが、Sca−1(+)をBMP7へ曝露すると、Sca−1(+)は機能的BAT系統へ誘導されるというさらなる結論を
得ることができる。
【実施例6】
【0213】
BMP7で処理したSca−1(+)前駆細胞のインビボ移植
これらのBMPで処理したインビボSca−1(+)前駆細胞の褐色脂肪細胞対白色脂肪細胞への分化の方向付けを決定するため、遺伝子組換え緑色蛍光タンパク質(GFP)マウスから単離したBMP7で処理したSca−1(+)細胞を、同じ遺伝背景を有するがGFPを発現しないマウスの後肢および/または胸骨領域に注入した。
【0214】
このアプローチを用いて、移植した細胞の宿命を容易に追跡し、これらの移植した細胞がインビボで自己複製能および分化能を保有しているかどうかを決定する。
実施例3に記載した方法を用いて、GFP発現マウスから細胞を単離し、培養した。次いで、これらの細胞を次のとおり移植した。非GFPレシピエントC57BL/6マウスの後肢筋肉および横腹領域周囲の皮下白色脂肪に約5×10細胞を直接注入した。移植から10日後、BMP−7処理したSca−1(+)細胞は両注入部位においてGFP脂肪パッドに発展したことが落射蛍光法により測定された。
【0215】
図13と図14に示すとおり、BMP7で処理して移植したSca−1(+)細胞は、移植から10日後にSQ−WAT組織で検出された。さらに、BMP7で処理したSca−1(+)細胞は移植から30日後でも検出可能であった。
【0216】
これらのデータにより、BMP7で処理したSca−1(+)細胞は細胞移植に耐え、移植後に生存し続けることができることが示唆される。
【実施例7】
【0217】
Sca−1(+)細胞のBMP3、BMP4、およびBMP7による処理
実施例3に記載した方法を用いて、骨格筋から単離したSca−1(+)細胞をBMP3、BMP4、またはBMP7のいずれかに曝露した。次いで、定量RT−PCRおよび実施例2と3に記載した方法を用いて、UCP−1、CIDEA、PPARγ、FAS、Myogenin、およびMyoD値を評価した。
【0218】
Myogenin増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−CTACAGGCCTTGCTCAGCTC−3’配列番号34
5’−TGTGGGAGTTGCATTCACTG−3’配列番号35である。
【0219】
MyoD増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−TGGTTCTTCACGCCCAAAAG−3’配列番号36
5’−TCTGGAAGAACGGCTTCGAA−3’配列番号37である。
【0220】
ACVR−1増幅に用いたセンスおよびアンチセンスマーカーはそれぞれ:
5’−TGCTAATGATGATGGCTTTCC−3’配列番号38
5’−TTCACAGTGGTCCTCGTTCC−3’配列番号39である。
【0221】
図15に示すとおり、BMP7およびBMP4は、Sca−1(+)細胞内のBAT特異的マーカーであるUCP−1およびCIDEAの発現増加を促進する。
これらのデータにより、Sca−1(+)前駆細胞のBATへの分化を促進するために、BMP7の他にBMP4を使用できることが示唆される。
【実施例8】
【0222】
細胞移植
Sca−1(+)細胞は、スキャフォールド、マトリックス、または移植を促進するために細胞を取り付けることができるその他の構造体にも埋め込まれる。生成組織は、上記の褐色および白色脂肪特異的マーカーの一般的な組織学および免疫組織化学により分析される。移植関連の体重改変、グルコースおよび脂質代謝、ならびに全身エネルギーバランスに関して精密モニタリングが行なわれる。
【0223】
褐色脂肪細胞を生成する分化能が組織特異的かどうかを決定するために、Sca−1(+)前駆細胞を他の組織(骨格筋、前立腺、真皮、心血管系、乳腺、肝臓、新生児皮膚、頭蓋冠など)からも単離する。
【実施例9】
【0224】
分化を方向付けられた前駆脂肪細胞の特性化
異なるBMPは複能性前駆細胞の褐色または白色脂肪細胞への分化の方向付けをトリガーする。具体的には、BMP−2とBMP−4は白色脂肪細胞系統への分化を促進し、一方BMP−7は褐色脂肪細胞系統への分化を促進する。
【0225】
BMPに曝露したSca−1(+)前駆細胞は、総合的ゲノム、および方向付けられた褐色前駆脂肪細胞、方向付けられた白色前駆脂肪細胞、および方向付けられていない幹細胞の間を識別する細胞プロファイルを生成する分子形跡および細胞表面マーカーを測定するプロテオミクスのアプローチを用いて特性化される。これらのプロファイルは、褐色脂肪細胞または白色脂肪細胞の生成能に基づいて細胞集団を同定かつ選択するのに用いられる。
【0226】
ゲノミクス的アプローチとしては、発現プロファイリングのためのAffymetricマイクロアレイおよびプロテオミクス分析のための細胞培養中の安定同位体標識法(SILAC)の使用が挙げられる。マイクロRNAはBMP処理したSca−1(+)前駆細胞においても研究される。
【0227】
したがって、BMPに曝露したSca−1(+)前駆細胞のDNA、RNA、タンパク質、およびマイクロRNAプロファイルを研究することにより、褐色脂肪細胞系統または白色脂肪細胞系統への分化能を有する前駆細胞集団の同定に有用な細胞プロファイルを作製する。
【実施例10】
【0228】
糖尿病治療における褐色および白色前駆体の生理的関連性の分析
Sca−1(+)前駆細胞、およびこれらの細胞のBMP−7処理により生成した成熟した褐色脂肪細胞を肥満マウスに移植する。次いで、動物の体重、代謝、および/または糖尿病における変化を評価する試験を行なう。
【0229】
本明細書に記載の方法を用いて同定された細胞を、肥満発症に対する感受性が異なる実験動物モデルに注入する。適切な動物は肥満抵抗種129S6/SvEvTac、肥満素因を有する種C57BL/6、ob/obマウス、およびdb/dbマウスであり、このうち後者2種はそれぞれレプチンおよびレプチン受容体欠損である。体重増加および/または肥満についても、Rogers and Webb(Rogers P. and Webb G.P., Br. J. Nutr. 43:83−86, 1980)により記載されている方法を用いて評価する。
【0230】
次いで、(1)脂肪、炭水化物、もしくはタンパク質含量もしくは比率の異なる食事効果、(2)医薬品(抗糖尿病薬ロシグリタゾンなど)による治療効果、および/または(3)対照動物(該細胞未投与)と実験動物(移植細胞を投与)の運動、の効果を検討する
実験を実施する。
【0231】
次いで、対照動物と実験動物を移植前後および試験全体を通して評価する。動物の体重(生きた動物を測量することにより)、血清グルコース(生きた動物内の血清グルコース値を測定することにより)、および/または血清インスリン(血清インスリン値を測定することにより)の変化を分析する試験を行なう。次いで、一部の動物を屠殺し、さらなる分析に用いる。他の動物は長期試験に用いる。他の動物は、空間行動、食物と液体の消費、温度、尿生成、代謝率および酸素と二酸化炭素交換の測定が可能な総合的実験動物モニタリング系(CLAMS, Columbus Instruments, Columbus, OH)を用いた代謝評価に使用する。
【0232】
他の実施形態
本発明は、本発明の詳細な説明と併せて記載しているが、上記の説明は例証することを意図しており、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の範囲を制限しないことが理解される。他の態様、利点、および修正は下記の特許請求の範囲内である。
【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロ細胞集団における褐色脂肪組織(BAT)細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させる方法であって、
幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))前駆細胞を含むの細胞集団を取得すること;ならびに以下のいずれか
前記インビトロ前駆細胞集団を1つまたは複数の骨形成タンパク質(BMP)−2、BMP−4、BMP−6、またはBMP−7の発現増加を促進する有効量の化合物と、前記細胞集団中の褐色脂肪組織(BAT)細胞の前記特徴を備えた細胞の数を増加させるのに十分な時間接触させること;または
前記細胞集団中BAT細胞の特徴を備えた細胞の数を増加させるのに十分なレベルで1つまたは複数のBMP−2、BMP−4、BMP−6、またはBMP−7を発現するように前記細胞集団を遺伝子組換えすること、
を含む方法。
【請求項2】
0.1〜100nMインスリンと0.1〜10nMトリヨードチロニン(T3)、0.1〜5μMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、0.1〜50mMデキサメタゾン、および0.01〜10mMインドメタシンを含有する第1の細胞増殖培地において前記前駆細胞集団を培養すること;および
インスリンとT3を含有する第2の細胞増殖培地において前記前駆細胞集団を培養すること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
BMP−1、BMP−3、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)、レチノイドX受容体、α(RxRα)、インスリン、T3、チアゾリジンジオン(TZD)、ビタミンA、レチノイン酸、インスリン、糖質コルチコイドもしくはそのアゴニスト、Winglessタイプ(Wnt)、インスリン様増殖因子1(IGF−1)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換増殖因子(TGF)−α、TGF−β、腫瘍壊死因子α(TNFα)、マクロファージコロニー刺激因子(MCSF)、血管内皮増殖因子(VEGF)ならびに血小板由来増殖因子(PDGF)のうちの1つまたは複数と、前記前駆細胞集団を接触させることをさらに含む、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆細胞集団が骨格筋、前立腺組織、真皮組織、心血管系組織、乳腺組織、肝組織、新生児皮膚、頭蓋冠、骨髄、腸組織、脂肪組織、および脂肪組織蓄積から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆細胞集団が骨格筋から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆細胞集団が、少なくとも60%のSca−1(+)前駆細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物がBMP−2、BMP−4、BMP−6、およびBMP−7アゴニストのうちの1つまたは複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物がBMP−7またはBMP−4アゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記BAT細胞の特徴を備えた細胞が、未処理Sca−1(+)前駆細胞と比較して、脱共役タンパク質−(UCP−1)および細胞死誘導DFF45様エフェクターA(CIDEA)を高値で発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の細胞増殖培地が、20nMインスリンおよび1nMトリヨードチロニン(T3)、0.5μMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、5mMデキサメタゾン、および0.125mMインドメタシンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
請求項1−10のいずれか一項に記載の方法により作製された細胞集団。
【請求項12】
請求項11の細胞集団と、医薬として許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項13】
医薬として許容可能な担体中に請求項11に記載の細胞集団を含む貯蔵容器と、前記貯蔵容器と流体が接触する送達デバイスとを含む、細胞送達システム。
【請求項14】
対象中の褐色脂肪細胞分化を促進する方法であって、
治療が必要な対象を選択すること;および
請求項1−9のいずれか一項に記載の方法により取得した細胞集団を前記対象に投与すること;を含み、
前記方法は対象におけるのBAT細胞の特徴を備えた細胞の数を効果的に増加させる方法。
【請求項15】
幹細胞抗原−1陽性(Sca−1(+))前駆細胞を含む前記細胞集団が、治療のために選択される対象から取得される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、肥満または体重関連障害の治療を必要とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、脂肪蓄積低下、体重減少、およびインスリン感受性増加のうちの少なくとも一つを必要とする、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が前記対象中の褐色脂肪細胞分化を効果的に増加させる、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記対象がヒトである、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が食用動物である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−523357(P2011−523357A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508639(P2011−508639)
【出願日】平成21年5月6日(2009.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/043029
【国際公開番号】WO2009/137613
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(506199905)ジョスリン ダイアビーティス センター インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】