説明

視覚障害者用環境認知支援装置

【課題】従来の、超音波を発信し、その反射音を一定波長の局部発信波と混合して可聴音に変換する装置では物体までの距離を判断できないために、複数の物体で構成される環境を十分に認知することができないという問題があった。
【解決手段】周波数を一定方向に増加または減少させながら超音波を発信し、その発信波または別に発生させる局部発信波と遅れてくる反射波を混合して可聴音に変換することにより、可聴音の周波数を物体までの距離に対応して変化させることができるために使用者は物体までの距離を判断可能となり、その結果、より正確に環境を認知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用した環境認知に関する
【背景技術】
【0002】
超音波を発信し、その反射音を一定波長の局部発信波と混合して可聴音に変換した音を視覚障害者が聞くことにより近くに物体があるなどの環境認知をある程度可能とする支援装置がある。例えば、非特許文献1。
また、超音波を利用して物体までの距離を計測し、距離に応じて振動または音を発することにより、どれくらいの距離に物体があるかを認知可能とする装置もある。
例えば、特許文献1。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−93454号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「超音波エコーを用いた視覚障害者用歩行支援器の試作」平成21年度電気・情報関連学会中国支部第60回連合大会予稿集(H21.10.17,広島市立大学,p.446)加藤紀之、横沼実雄
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波を発信し、その反射音を一定波長の局部発信波と混合して可聴音に変換する装置では物体までの距離を判断できないために、複数の物体で構成される環境を十分に認知することができない。なぜならば、近くの物体からの反射音は大きいが、近くの物体でも、物体が小さい場合や物体の反射率が小さい場合には反射音は小さいために、反射音の大きさで物体までの距離を判断することができないからである。
【0006】
また、超音波を利用して物体までの距離を計測し、距離に応じて振動または音を発する装置は、距離を判断することができてもその物体の大きさや複数の物体で構成される環境を認知することができない。
【0007】
本発明は、このような問題を解決しようとするものであり、複数の物体で構成される環境を、物体までの距離を判断可能とすることにより、より正確に認知できることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
周波数を一定方向に増加または減少させながら超音波を発信波として発信する発信装置と、その反射音を受信波として受信する受信装置と、前記発信波と前記受信波を混合して可聴音に変換して出力する変換装置によって構成する。これにより、物体までの距離によって反射音が戻ってくるまでの時間が異なるために変換装置から出力される可聴音の波長が異なる。すなわち、物体までの距離を可聴音の高低に対応させることができる。なぜならば、遠くにある物体からもどってくる反射音は時間遅れが大きいために発信波と受信波のずれが大きくなり、変換された可聴音の周波数が大きくなって高い音になる。反対に、近くにある物体からの反射音は低い音になるからである。
【0009】
前記発信装置から発信する発信波の周波数を直線的に変化させるとともに間欠的に発信することによっても、前記変換装置から出力される可聴音の波長が異なり、物体までの距離を可聴音の高低に対応させることができる。
【0010】
前記発信装置から発信する発信波の周波数と異なる周波数で、周波数を直線的に変化させながら前記発信波と同じタイミングで間欠的に局部発信波を生成する局部発信回路を前記発信装置に付加し、前記局部発信波と前記受信波を混合することにより、可聴音の高低を逆転して、遠くにある物体からの反射音は低く、近くにある物体からの反射音は高くすることができる。
【0011】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて前記局部発信波の周波数を一定量増加又は減少させることにより、物体までの距離に応じて可聴音の周波数の範囲を適切な範囲に対応させることができる。
【0012】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて前記発信波及び前記局部発信波の周波数の変化を表す直線の勾配を変化させることにより、物体が近くにある場合には距離に対応する可聴音の周波数の範囲を広げるなど、物体までの距離と可聴音の周波数の対応を変えることができる。
【0013】
前記発信装置から発信する発信波の周波数の変化及び/又は前記局部発信波の周波数の変化を、曲線または折れ線にすることにより、反射波により多くの情報を含めることができる。
【発明の効果】
【0014】
変換装置から出力される可聴音の高低が物体までの距離に対応するために、その可聴音を聞くことにより、視覚障害者は物体までの距離を判断することができる。近くの方向で距離が異なるところにそれぞれ物体があるときは高さの異なる2つ以上の可聴音が同時に聞こえるので、視覚障害者は異なる距離にそれぞれ物体があることを認知することもできる。
【0015】
物体に凹凸があるか否か、物体の間にすきまがあるか否かなどの性状は、変換装置から出力される可聴音の音色の違いとなって現れるため、訓練によってある程度認知可能である。
【0016】
前記発信装置から発信する発信波の周波数と異なる周波数で、周波数を直線的に変化させながら前記発信波と同じタイミングで間欠的に局部発信波を生成する局部発信回路を前記発信装置に付加し、前記局部発信波と前記受信波を混合することにより、遠くにある物体からの反射音は低く、近くにある物体からの反射音は高くすることができるため、一般的な人間の感覚に合い、違和感なく使用することができる。
【0017】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて局部発信波の周波数を一定量増加又は減少させることにより、物体までの距離に応じて可聴音の周波数の範囲を適切な範囲に対応させることができるため、近くにある物体までの距離をより高精度に認知したり、遠くにある物体を適切な可聴音の高さで聞くことができる。
【0018】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて前記発信波及び前記局部発信波の周波数の変化を表す直線の勾配を変化させることにより、物体が近くにある場合には距離に対応する可聴音の周波数の範囲を広げて物体までの距離をより高精度に認知することができる。
【0019】
前記発信装置から発信する発信波の周波数及び/又は前記局部発信波の周波数の変化を曲線または折れ線にすることにより、反射波により多くの情報を含めることができるために、訓練によって、より複雑・高精度な認知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の全体構成図
【図2】発信する周波数の例示
【図3】局部発信波の例示
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
【0022】
図において、1は発信装置、2は受信装置、3は変換装置、4は超音波発信器、5は発信回路、6は局部発信回路、7は超音波受信器、8は受信回路、9はイヤホン、10は変換回路、11は通信線である。このうち、超音波受信器7とイヤホン9はステレオとするために、それぞれ2個で構成する。
【0023】
実施にあたっては、超音波発信器4と2個の超音波受信器7を、眼鏡またはサンバイザ(前方にツバのある帽子を含む。以下同様。)に装着する。眼鏡に装着する場合は、超音波発信器4を眼鏡の中央に、2個の超音波受信器7をそれぞれ眼鏡の左右両端に、前方に向けて装着する。サンバイザに装着する場合は、超音波発信器4をツバの中央先端付近に、2個の超音波受信器7をそれぞれ額の両端に対応する付近に前方に向けて、方向の微調整が可能なように装着する。
【0024】
発信回路5、局部発信回路6、受信回路8及び変換回路10は、一つのケースの中に収納し、ケースに電源スイッチと可聴音の音量調整つまみをつける。発信回路5と超音波発信器4の間、受信回路8と2個の超音波受信器7の間及び変換回路10と2個のイヤホン9の間に必要な通信線11は、ケースを衣服のポケットなどに収納できる程度の長さとする。
【実施例】
【0025】
局部発信回路6を付加しない場合について、発信する周波数の例と発信したあとの作用を図1及び図2に基づいて説明する。
【0026】
図2において、12は発信波である。
【0027】
発信は、100msの間に周波数を35KHzから45KHzまで直線的に変化させて発信したのち、150ms休止する動作を繰り返す。この発信波を超音波発信器4から発信すると同時に変換回路10に送る。
【0028】
超音波発信器4から発信された超音波の反射音が2個の超音波受信器7及び受信回路8を経由して変換回路10に送られ、先に送られた発信波12と混合される。このとき、遠くから戻ってくる反射音ほど時間遅れが大きくなるために、先に送られた発信波12とのずれが大きくなり、混合された結果の周波数は大きくなる。
【0029】
局部発信回路6を付加する場合について、発信する周波数の例、局部発信波の例及び発信したあとの作用を図1及び図3に基づいて説明する。
【0030】
図3において、12は発信波、13は局部発信波である。
【0031】
発信波については(0027)と同様である。局部発信については、超音波発信器4から発信波を発信するのと同じタイミングで、100msの間に周波数を30KHzから40KHzまで直線的に変化させて発信したのち150ms休止する動作を繰り返す。この局部発信波を変換回路10に送る。
【0032】
超音波発信器4から発信された超音波の反射音が2個の超音波受信器7及び受信回路8を経由して変換回路10に送られ、先に送られた局部発信波13と混合される。このとき、遠くから戻ってくる反射音ほど時間遅れが大きくなるために、その間に先に送られた局部発信波13は周波数が大きくなっており、混合された結果の周波数は小さくなる。そのため、遠くから戻ってくる反射音ほど、変換された可聴音は低い音になる。これとは逆に、近くから戻ってくる反射音は時間遅れが小さいために局部発信波13の周波数との差が開いたままなので、混合された結果の周波数は大きく、可聴音は高い音になる。
【0033】
使用者にとって高い音は低い音よりも分解能が落ちるので、発信波12を発信してから受信波を受信するまでの時間間隔が小さいときには局部発信波13の周波数を一定量増加させることにより改善をはかることができる。
【0034】
たとえば、発信した超音波が1m先にある物体から戻ってくる時間は約6msであるから、6msより小さい場合には局部発信波13を全体に3KHz引き上げて、100msの間に周波数を33KHzから38KHzまで直線的に変化させて発信する。こうすることにより、使用者からの距離が0mから1mの間に物体がある場合の可聴音を2KHzから1.4KHzの間とすることができる。このような改善をはからない場合は5KHzから4.4KHzの可聴音であるため、これと比較すると全体に3KHz下げることができる。
【0035】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて前記発信波及び前記局部発信波の周波数の変化を表す直線の勾配を変化させる例としては、発信波及び局部発信波ともに発信している時間を100msから50msとし、その間に、発信波は周波数を35KHzから45KHzまで、局部発信波は周波数を30KHzから40KHzまで、どちらも直線的に変化させる。こうすることによって、1m先にある物体から反射波がもどってくる約6ms後には局部発信波が約1.2KHz上がっているので、可聴音の周波数は約3.8KHzとなる。すなわち、使用者からの距離が0mから1mの間に物体がある場合の可聴音を5KHzから約3.8KHzの間とすることができる。発信波及び局部発信波を発信している時間が100msの場合は、6ms後に局部発信波は0.6KHzしか上がらないので可聴音は5KHzから4.4KHzとなり、これと比較すると可聴音が対応する周波数の範囲を2倍に広げることができる。
【0036】
発信装置から発信する発信波12の周波数の変化及び/又は局部発信波13の周波数の変化を曲線または折れ線にする場合の例としては、x軸を時間(単位ms)y軸を周波数(単位KHz)として、発信波12を直線から2次曲線(数1)に、局部発信波13を直線から2次曲線(数2)に置き換える。これにより、1m先の物体から戻ってくる時間を6msとすると、反射波は発信波より6msだけxプラス方向に平行移動した2次曲線(数3)となる。
【0037】
【数1】

【0038】
【数2】

【0039】
【数3】

【0040】
この結果、局部発信波と反射波を混合したときの周波数は両波の周波数yの差であるから、xが6(ms)のときyの差は4.8512(KHz)、xが50(ms)のときyの差は4.4288(KHz)、xが100(ms)のときyの差は3.9488(KHz)となり、可聴音の高さが低い方に変化するために使用者にとって距離の分解能が向上するとともに、音色の変化が使用者により多くの情報を与えることになる。
【0041】
前述の2次曲線を数本の折れ線で近似してもほぼ同様の結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 発信装置
2 受信装置
3 変換装置
4 超音波発信器
5 発信回路
6 局部発信回路
7 超音波受信器
8 受信回路
9 イヤホン
10 変換回路
11 通信線
12 発信波
13 局部発信波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数を一定方向に増加または減少させながら超音波を発信波として発信する発信装置と、その反射音を受信波として受信する受信装置と、前記発信波と前記受信波を混合して可聴音に変換して出力する変換装置によって構成する視覚障害者用環境認知支援装置。
【請求項2】
前記発信装置から発信する発信波の周波数を直線的に変化させるとともに間欠的に発信することを特徴とする請求項1に記載の視覚障害者用環境認知支援装置。
【請求項3】
前記発信装置から発信する発信波の周波数と異なる周波数で、周波数を直線的に変化させながら前記発信波と同じタイミングで間欠的に局部発信波を生成する局部発信回路を前記発信装置に付加し、前記局部発信波と前記受信波を混合することを特徴とする請求項2に記載の視覚障害者用環境認知支援装置。
【請求項4】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて前記局部発信波の周波数を一定量増加又は減少させることを特徴とする請求項3に記載の視覚障害者用環境認知支援装置。
【請求項5】
前記発信波を発信してから前記受信波を受信するまでの時間間隔に応じて前記発信波及び前記局部発信波の周波数の変化を表す直線の勾配を変化させることを特徴とする請求項3に記載の視覚障害者用環境認知支援装置。
【請求項6】
前記発信装置から発信する発信波の周波数及び/又は前記局部発信波の周波数の変化を曲線または折れ線にすることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の視覚障害者用環境認知支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−85989(P2012−85989A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249125(P2010−249125)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(510294324)