説明

親水化コーティング剤

【課題】コーティング直後から長期にわたって基材表面を親水化することが可能な親水化コーティング剤を提供すること。
【解決手段】 (a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、(d)水、ならびに(e)親水性有機溶媒を含み、(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の含有量に対して5〜30質量%であり、(c)成分の含有量が、(d)成分の含有量に対して0.02〜10質量%である、親水化コーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化コーティング剤、該親水化コーティング剤の製造方法、該親水化コーティング剤を用いた親水化方法、および、該親水化コーティング剤から形成される親水化コーティング膜に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置される物品において、その表面を親水化すると、降雨時に汚れが洗い流されるので、美観を保つことができる。塗膜表面を親水化する方法としては、アルキルシリケート化合物を含有する塗料をコーティングする方法が一般的に用いられている。しかしながら、該方法においては、降雨によるアルキルシリケート化合物の加水分解によって塗膜表面が親水化されるので、コーティング後初期の耐汚染性が不十分であるという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、シリケート化合物の加水分解物、ノニオン系界面活性剤、水、および親水性有機溶剤を含む親水化処理剤が提案されている(特許文献1)。該親水化処理剤は、コーティング後すぐに基材表面を親水化し得るが、その効果を長期にわたって維持できないという問題を有する。
【特許文献1】特開2002−265924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、コーティング直後から長期にわたって基材表面を親水化することが可能な親水化コーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の親水化コーティング剤は、(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、(d)水、ならびに(e)親水性有機溶媒を含み、(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の含有量に対して5〜30質量%であり、(c)成分の含有量が、(d)成分の含有量に対して0.02〜10質量%である。
【0006】
別の実施形態においては、本発明の親水化コーティング剤は、(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、(d)水、ならびに(e)親水性有機溶媒を混合して得られる親水化コーティング剤であって、(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の混合量に対して5〜30質量%であり、(c)成分の混合量が、(d)成分の混合量に対して0.02〜10質量%である。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記(a)成分が、酸性である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記(a)成分が、塩基性である。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムキレート化合物である。
【0010】
好ましい実施形態においては、親水化コーティング剤中における上記(a)成分の含有量が、0.05〜10質量%である。
【0011】
本発明の別の局面によれば、親水化コーティング剤の製造方法が提供される。該製造方法は、(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、(d)水、ならびに(e)親水性有機溶媒を含み、(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の含有量に対して5〜30質量%であり、(c)成分の含有量が、(d)成分の含有量に対して0.02〜10質量%である、親水化コーティング剤の製造方法であって、(b)成分を(e)成分に溶解する工程を有する。
【0012】
本発明のさらに別の局面によれば、親水化コーティング膜が提供される。該親水化コーティング膜は、上記親水化コーティング剤を基材表面に塗布することによって得られる。
【0013】
本発明のさらに別の局面によれば、基材表面の親水化方法が提供される。該親水化方法は、上記親水化コーティング剤を基材表面に塗布する工程を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コーティング後の初期段階から長期にわたって基材表面を親水化することが可能な親水化コーティング剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔1.親水化コーティング剤〕
本発明の親水化コーティング剤は、(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、(d)水、ならびに(e)親水性有機溶媒を含む。該親水化コーティング剤においては、(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の含有量に対して5〜30質量%である。また、該親水化コーティング剤においては、(c)成分の含有量が、(d)成分の含有量に対して0.02〜10質量%である。該親水化コーティング剤は、好ましくはコロイダルシリカをさらに含む。
【0016】
親水化コーティング剤の固形分濃度は、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。このような固形分濃度であれば、コーティングする際の作業性に優れるので、スプレー等の簡易で効率的なコーティング方法を適用し得る。なお、上記固形分濃度は計算によって求められ得る。親水化コーティング剤の溶媒である水の揮散とともに縮合が進行するため、溶液の固形分濃度を実測することが困難だからである。
【0017】
親水化コーティング剤のpHは、特に制限されない。1つの実施形態において、該pHは、酸性、すなわち6以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは2.5〜4.5、特に好ましくは3〜4であり得る。別の実施形態において、該pHは、塩基性、すなわち、7より大きく、好ましくは8より大きく、より好ましくは8〜13、さらに好ましくは8〜12、特に好ましくは8〜11であり得る。このようなpHであれば、貯蔵安定性に優れ、白濁、ゲル化等の問題を生じにくい親水化コーティング剤を得ることができる。
【0018】
(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体
テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体としては、任意の適切なものが採用され得る。なかでも、ポリヒドロキシシロキサンが好ましく、実質的にアルコキシ基を有さない(すなわち、実質的に全てのアルコキシ基が加水分解された)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体がより好ましい。このような加水分解体は、コーティング膜表面の親水化能に優れるからである。なお、「実質的にアルコキシ基を有さない」とは、核磁気共鳴分析(H−NMR)または赤外分光分析(IR)で、アルコキシ基に基づくピークが観察されないことをいう。
【0019】
親水化コーティング剤中におけるテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体の含有量は、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.05〜3質量%である。含有量が0.05質量%未満であると、基材表面に十分な親水性を付与できない場合がある。また、含有量が10質量%を超えると、得られるコーティング膜の外観が低下する場合がある。
【0020】
テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体のpHとしては、特に制限はなく、他の成分の種類等に応じて適切に選択され得る。1つの実施形態において、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体のpHは、酸性、好ましくは5以下、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは2.5〜4.5、特に好ましくは3〜4であり得る。別の実施形態において、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体のpHは、塩基性、すなわち、7より大きく、好ましくは8以上、より好ましくは8〜13、さらに好ましくは8〜12、特に好ましくは8〜11であり得る。一般に、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体は、pHが5を超え7以下の環境下で不安定な状態となり、析出、ゲル化等の現象が生じ易いからである。
【0021】
テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体は、任意な適切なテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物(以下、まとめてアルコキシシラン化合物と称する場合がある)を加水分解することにより得られる。例えば、アルコキシシラン化合物、親水性有機溶媒、該アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水、および、酸性触媒を混合することにより、酸性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液が得られ得る(第1の調製方法)。また、該酸性溶液を塩基に添加することにより、塩基性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液が得られ得る(第2の調製方法)。また、アルコキシシラン化合物を、塩基性触媒を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に添加することにより、塩基性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液が得られ得る(第3の調製方法)。
【0022】
(a−1)第1の調製方法
第1の調製方法は、酸性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を得る方法である。
a−1−1.アルコキシシラン化合物
アルコキシシラン化合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無等の点で、種々の構造を有するものの混合物である。このため、本明細書においては、アルコキシシラン化合物を、模式的に式(1)によって表す。式(1)は、アルコキシシラン化合物が分岐や架橋を有さない場合を示している。
【化1】

【0023】
式(1)において、アルコキシシラン化合物の縮合度nは平均値である。nは、1以上であり、1〜50が好ましく、1〜20がより好ましい。該縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0024】
式(1)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは非置換の炭素数1〜2のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、加水分解性が向上するので、効率良く加水分解体を得ることができる。
【0025】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0026】
したがって、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランまたはこれらの縮合物が好ましく用いられる。なかでも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、およびこれらの縮合物が好ましく、テトラメトキシシランおよびその縮合物がより好ましい。本発明においては、テトラアルコキシシランおよびその縮合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
テトラアルコキシシランの縮合物としては、好ましくは6個以上、より好ましくは6〜102個、さらに好ましくは12〜42個のアルコキシ基を有するものが用いられる。加水分解により適度な数のヒドロキシシリル基が得られるので、硬度が高いコーティング膜を得ることができるからである。上記のとおり、テトラアルコキシシランの縮合物は、種々の縮合度を有するものを含み得ることから、当該アルコキシ基の数は、それらの平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、上記縮合度から求めることができる。
【0028】
上記Rが置換基を有する場合、テトラアルコキシシランまたはその縮合物が有する置換基の数はアルコキシ基の数の半分以下であることが好ましい。置換基としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、クロル、ブロム等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等のアルコキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基が挙げられる。このような置換基を有する場合には、置換アルキル基の炭素数の合計は1〜6であることが好ましい。また、上記アルキル基は、アルキレンオキサイドユニットを有する化合物で置換されていてもよい。アルキレンオキサイドユニットの種類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられる。
【0029】
上記テトラアルコキシシランの縮合物は、任意の適切なテトラアルコキシシランを加水分解縮合することにより調製することができる。また、市販製品を用いてもよい。当該市販製品としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートMS56」、「MKCシリケートMS57」、「MKCシリケートMS60」(いずれもテトラメトキシシランの縮合物)、コルコート社製、商品名「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(いずれもテトラエトキシシランの縮合物)が挙げられる。また、含有するアルキル基が異なるテトラアルコキシシランの縮合物の市販製品の例としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS56B15」、「MKCシリケートMS56B30」、「MKCシリケートMS58B15」、「MKCシリケートMS56I30」、「MKCシリケートMS56F20」、コルコート社製、商品名「EMS−485」が挙げられる。
【0030】
テトラアルコキシシランとその縮合物とを組み合わせて用いる場合には、含有するアルキル基が同一であってもよく、異なっていてもよい。含有するアルキル基が異なる場合の具体例としては、テトラメトキシシランの縮合物と、モノマーのテトラエトキシシランとを含む場合を挙げることができる。なお、モノマーのテトラアルコキシシランの配合量は、テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0031】
a−1−2.親水性有機溶媒
親水性有機溶媒としては、上記アルコキシシラン化合物を、その加水分解反応が進行する程度に溶解し得る限り、任意の適切なものを用いることができる。例えば、アルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、R−O−(CHCH(R)O)−H(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、RはHまたはCHであり、mは1〜3の整数である。)、CH−O−(CHCH(R)O)−CH(式中、RはHまたはCHであり、lは1または2である。)、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられ得る。親水性有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。このような溶解度を有する親水性有機溶媒を用いることにより、該親水性有機溶媒と水と水に対する溶解性が十分でないアルコキシシラン化合物とを含む系を均一化することができる。その結果、効率的にアルコキシシラン化合物の加水分解反応を進行させ得る。
【0033】
上記親水性有機溶媒の使用量は、アルコキシシラン化合物を溶解し得る量以上であればよい。当該混合量は、例えばアルコキシシラン化合物の質量の0.5〜20倍、好ましくは0.5〜15倍、さらに好ましくは1〜15倍である。混合量が当該好適範囲にある場合、後述の第2の調製方法で好適に用いられ得る加水分解体の酸性溶液が得られる。
【0034】
a−1−3.水
上記水としては、任意の適切なものを用いることができる。例えば、水道水、イオン交換水、および純水が好ましく用いられる。
【0035】
上記水の使用量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である。当該量の水を用いることにより、上記アルコキシシラン化合物の加水分解反応を十分に進行させ得る。その結果、アルコキシ基を実質的に有さないアルコキシシラン化合物の加水分解体を得ることができる。
【0036】
上記水の使用量は、好ましくはアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下であり、より好ましくは10倍当量(モル)以下である。当該量の水を用いることにより、加水分解反応中におけるアルコキシシラン化合物またはその加水分解体の析出を防止し得るとともに、得られる加水分解体の貯蔵安定性を向上させ得る。
【0037】
a−1−4.酸性触媒
上記酸性触媒としては、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を有するプロトン酸類やルイス酸類であれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物;が挙げられる。触媒作用が適度であるので、生成した加水分解体の縮合が進行し難いからである。なかでも、アルミニウム触媒が好ましく用いられる。アルミニウム触媒としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
【0038】
上記酸性触媒の使用量としては、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を発揮する量以上であればよい。具体的には、当該使用量は、上記アルコキシシラン化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0039】
a−1−5.混合方法
混合方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、アルコキシシラン化合物と酸性触媒と親水性有機溶媒とを混合した混合液に、水を加える方法が用いられる。このような方法で混合することにより、得られる混合液の白濁、沈殿の生成、またはゲル化を防止し得る。水は、少量ずつ添加することが好ましく、滴下によって添加することがより好ましい。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、濾過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にすればよい。
【0040】
上記混合液中においては、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が進行することから、加水分解体が得られる。加水分解反応の好適な条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。すなわち、反応温度は、好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃である。水の添加が終了してからの反応時間は、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは2〜6時間である。当該条件を採用することにより、加水分解反応を十分に進行させて目的の加水分解体を生成させ得ると共に、生成した加水分解体同士の縮合を抑制し得る。
【0041】
上記混合により、酸性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液が得られる。該溶液のpHは、通常2〜5、好ましくは2.5〜4.5、より好ましくは3〜4である。また、該溶液中における加水分解体濃度は、好ましくは1〜25質量%である。加水分解体濃度が1質量%未満であると、濃度が低くてコーティング剤として用いることができない場合がある。該濃度が25質量%を超えると、ゲル化により製造できない場合がある。
【0042】
(a−2)第2の調製方法
第2の調製方法は、酸性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を塩基に添加することにより、塩基性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を得る方法である。
a−2−1.酸性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液
酸性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液としては、任意の適切なものが採用され得る。例えば、上記第1の調製方法によって得られる酸性溶液を用いることができる。この場合、該酸性溶液は、アルコキシシラン化合物の加水分解体と、親水性有機溶媒と、水と、触媒と、アルコキシ基が加水分解されて生じたアルコールとを含む。好ましい実施形態においては、後述する塩基へ添加する前に、該酸性溶液からアルコールや親水性有機溶媒を除去する。これらの除去方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。代表的には、除去すべきアルコールおよび親水性有機溶媒の沸点以上の温度に加熱し、系外に除去した量が所定量に達した段階で加熱を終えればよい。該除去は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。
【0043】
a−2−2.塩基への添加
塩基としては、任意の適切な塩基が用いられ得る。好ましくは水溶性の塩基である。なかでも、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のモノアミン類が好ましく、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましく、アンモニアがさらに好ましい。
【0044】
塩基の使用量としては、アルコキシシラン化合物の加水分解体が有するヒドロキシシリル基の1〜20モル%が好ましく、1〜10モル%がより好ましく、3〜10モル%がさらに好ましい。このような使用量であれば、ヒドロキシシリル基が残存する状態で塩基性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を得ることができる。
【0045】
上記酸性溶液の塩基への添加は、少量ずつ行うことが好ましく、滴下によって行うことがより好ましい。このように酸性溶液を塩基に徐々に添加することで、不安定な状態となるpH5〜7を実質的に経ることなく、塩基性溶液を調製し得る。中和熱の影響を避けるために、好ましくは冷却条件下で添加を行う。取り扱いを容易にする観点から、塩基は水溶液としておくことが好ましい。塩基水溶液の量は、得られる塩基性溶液中の加水分解体濃度を1〜25質量%にし得る量が好ましい。代表的には、添加する酸性溶液と同量程度である。
【0046】
(a−3)第3の調製方法
第3の調製方法は、塩基性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を得る方法である。
a−3−1.アルコキシシラン化合物
アルコキシシラン化合物としては、上記a−1−1項で説明したアルコキシシラン化合物が使用され得る。
【0047】
a−3−2.塩基性触媒
塩基性触媒としては、水溶性の塩基性化合物であれば任意の適切なものが用いられ得る。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機水酸化物類;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン等のアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類;N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアミノアルコール類;ピリジン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有するその他の有機化合物類等が挙げられる。上記アミン類はモノアミン類であることが好ましい。これらの塩基性触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
アルコキシシラン化合物の加水分解反応は、塩基性触媒を含む溶媒中で行われる。その際、塩基性触媒は、後述する、水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に溶解して使用される。塩基性触媒の使用量は、触媒の有する塩基性の程度(pKb)によって決定され、代表的には、アルコキシシラン化合物を添加する前のpHが9〜11の範囲内になるように調整される。
【0049】
a−3−3.水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒
第3の調製方法で使用される溶媒としては、水または水と親水性有機溶媒との混合液が用いられる。溶媒として水を用いた場合は、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が速いという利点がある。一方、溶媒として水と親水性有機溶媒との混合液を用いた場合は、水への溶解度が十分でないテトラアルコキシシランの縮合物を溶解し易いという利点がある。親水性有機溶媒としては、上記a−1−2項で説明したものが利用可能である。
【0050】
水はアルコキシシラン化合物の加水分解に使用される。そのため、水の使用量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である。水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、水の比率を50質量%以上とし、水と親水性有機溶媒との混合溶媒の使用量を、得られる塩基性溶液中の加水分解体濃度を1〜25質量%にし得る量とすれば、必然的に水の使用量はアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上となる。
【0051】
a−3−4.添加方法
上記アルコキシシラン化合物を、塩基性触媒を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に添加することにより、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が進行する。添加時間は、2時間以内であることが好ましい。添加方法は、全量を一挙に添加してもよく、所定の時間で連続的に添加してもよく、少量ずつを分割して添加してもよい。アルコキシシラン化合物がテトラアルコキシシランの縮合物を含む場合、アルコキシシラン化合物を親水性有機溶媒に溶解した溶液として添加することが好ましい。加水分解反応が穏やかに進行するからである。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、上記a−1−5項と同様、濾過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にすればよい。
【0052】
アルコキシシラン化合物の添加時の反応温度および反応時間は、上記a−1−5項における反応温度および反応時間の記載内容が適用される。
【0053】
上記第2または第3の調製方法により、塩基性のアルコキシシラン化合物の加水分解体溶液が得られる。該溶液のpHは、通常8〜13、好ましくは8〜12、より好ましくは8〜11である。
【0054】
(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体
有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体としては、任意の適切なものが採用され得る。例えば、アルミニウムキレート化合物および/またはその加水分解体、アルミニウムアルコレート化合物および/またはその加水分解体が挙げられる。なかでも、取扱いが容易であることから、アルミニウムキレート化合物および/またはその加水分解体が好ましい。有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アセチルアセトネートアルミニウムジイソプロピレート、ジエチルマロネートアルミニウムジイソプロピレート、ビス(アセチルアセテート)アルミニウムイソプロピレート、ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)が挙げられる。
【0056】
アルミニウムアルコレート化合物としては、例えば、アルミニウムエチレート、アルミニウムプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、アルミニウムsec−アミレートが挙げられる。
【0057】
有機アルミニウム化合物の加水分解体は、代表的には、上記有機アルミニウム化合物を水に溶解し、加水分解することにより得られる。このとき、有機アルミニウム化合物と水とを直接混合すると、局所的な加水分解反応が生じて凝集体が生成する場合がある。そのため、有機アルミニウム化合物を後述の親水性有機溶媒に溶解し、得られた溶液と水とを混合することが好ましい。
【0058】
有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体の含有量としては、その水酸化アルミニウム換算質量が、上記(a)成分の含有量に対して5〜30質量%、好ましくは5〜28質量%、より好ましくは5〜26質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。該含有量が5質量%未満であると、基材表面に長期にわたって親水性を付与できない場合がある。また、該含有量が30質量%を超えると、得られるコーティング膜にクラックが生じ、外観が低下する場合や、親水化コーティング剤の安定性が低下する場合がある。なお、(a)成分の含有量は、アルコキシシラン化合物が、縮合反応せずに完全に加水分解したものとして、計算により決定され得る。また、ここで、水酸化アルミニウム換算質量とは、(b)成分に含まれるアルミニウム原子が全て水酸化アルミニウムになったとして計算される質量である。本発明のコーティング剤においては、有機アルミニウム化合物の加水分解体である水酸化アルミニウムが主に機能し、アルミニウム原子に結合しているアルコキシ基やキレート基の種類は、親水化機能の発現に直接的に関与しないと推測されるからである。なお、酸性の(a)成分溶液の調製において、上記a−1−4項の酸性触媒として有機アルミニウム化合物が用いられる場合、(a)成分溶液に含まれる有機アルミニウム化合物(酸性触媒)は、(b)成分としてその含有量に合算される。したがって、酸性触媒として使用される有機アルミニウム化合物の量が、上記所定量に達していない場合、所定量となるように別途(b)成分を添加する。また、酸性触媒としての使用量が上記所定量の範囲に入っていた場合においても、上限値を上回らない量を追加して用いることも可能である。
【0059】
(c)ノニオン系界面活性剤
ノニオン系界面活性剤としては、アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%である限り、任意の適切なものが採用され得る。このようなノニオン系界面活性剤は、コーティング後すぐの基材表面、すなわち、降雨による加水分解を受けていない基材表面の接触角を低下させて、親水性を付与し得る。さらに、親水化コーティング剤の表面張力を低下させるので、濡れ性が向上し、スプレー等の簡易で効率的なコーティング方法による均一な塗布を可能にし得る。しかしながら、コーティング膜を形成した場合において、該成分は、水との接触によって容易に流出し、コーティング膜の親水性を維持することが難しいという問題がある。本発明においては、所定のノニオン系界面活性剤と所定量の上記(b)成分とを併用することにより、このような流出を防止し得、その結果、長期にわたって耐汚染性を発揮し得ると考えられる。
【0060】
アルキレンオキサイドユニットとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられる。なかでも、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが好ましい。また、1分子中のアルキレンオキサイドユニットの数は7〜15であることが好ましい。
【0061】
1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量は、40〜75%であり、好ましくは40〜70%である。40%未満であると、他の成分との相溶性が低下し、コーティング膜が白濁する場合がある。75%を超えると、均一に塗布できない場合がある。
【0062】
ノニオン系界面活性剤としては、エーテル型、エーテル・エステル型のいずれであってもよい。好ましいエーテル型ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。アルキルエーテルのアルキル基の炭素数は、好ましくは10〜18、より好ましくは12〜18である。好ましいエーテル・エステル型ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステル部(エステルカルボニル基を含む)の炭素数は、好ましくは10〜18、より好ましくは12〜18である。このようなポリアルキレングリコール脂肪酸エステルとしては、花王(株)製、商品名「エマノーン1112」(ポリエチレングリコールモノラウレート)が市販されている。
【0063】
また、アセチレン基を中央に有するノニオン系界面活性剤も使用可能である。具体例としては、日信化学工業社製、商品名「サーフィノール440」(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール−ジポリオキシエチレンエーテル)、商品名「サーフィノール465」、商品名「ダイノール604」(2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール−ジポリオキシエチレンエーテル)が挙げられる。アセチレン基を中央に有するノニオン系界面活性剤は、基材表面の接触角を低下させる能力が高いという長所を有する。
【0064】
親水化コーティング剤中におけるノニオン系界面活性剤の含有量は、(d)水の含有量に対して0.02〜10質量%、好ましくは、0.02〜5質量%、より好ましくは0.02〜1質量%である。0.02質量%未満であると、基材表面に十分な親水性を付与できない場合や、親水化コーティング剤を均一に塗布することができない場合がある。一方、10質量%を超えても、効果の向上が認められず、かえってタック性が発現する等の塗膜性能の低下が生じる場合がある。
【0065】
(d)水および(e)親水性有機溶媒
水としては、上記a−1−3項に記載したものと同様のものが採用され得る。親水性有機溶媒としては、上記a−1−2項に記載したものと同様のものが採用され得る。水および親水性有機溶媒の使用量は、それぞれ、親水化コーティング剤が含有する各成分を溶解して均一な溶液とし得、各成分の含有量を所望の範囲にし得る量であればよい。ただし、他の成分が水溶液や、親水性有機溶媒含有溶液の状態で用いられる場合は、これらに含まれる水および親水性有機溶媒も、それぞれ(d)成分および(e)成分に該当するものとする。水と親水性有機溶媒との質量比は、例えば、5/95〜95/5とすることができる。
【0066】
(f)コロイダルシリカ
本発明の親水化コーティング剤は、必要に応じて、コロイダルシリカをさらに含み得る。コロイダルシリカを含むことにより、親水化コーティング剤の貯蔵安定性がさらに向上され得る。コロイダルシリカとしては、任意の適切なものが採用され得る。例えば、酸性の(a)成分を用いる場合は、酸性コロイダルシリカが好ましく用いられる。塩基性の(a)成分を用いる場合は、塩基性コロイダルシリカが好ましく用いられる。中和反応に起因して貯蔵安定性向上効果が損なわれるのを回避するためである。なお、中性コロイダルシリカは、(a)成分のpHに関わらず、用いることができる。
【0067】
コロイダルシリカの平均粒子径は、通常、1〜100nmであり、好ましくは10〜20nmである。
【0068】
酸性コロイダルシリカは、例えば、通常のコロイダルシリカ、すなわち、ナトリウム塩部分やアンモニウム塩部分等の塩基性部分を有し、塩基性を示すコロイダルシリカにおいて、これらの塩基性部分をシラノール基化することにより得られる。酸性コロイダルシリカの市販品としては、例えば、日産化学工業社製、商品名「スノーテックスOXS」、「スノーテックスOS」、「スノーテックスO」、「スノーテックスO−40」、「スノーテックスOL」、「スノーテックスOUP」、「スノーテックスPS−SO」、「スノーテックスPS−MO」が挙げられる。これらは、いずれも水分散体である。また、水分散体の水を有機溶剤に置換したものも、オルガノシリカゾルシリーズとして市販されている。この中では、アルコール等の親水性有機溶剤で置換したものが好ましく用いられる。
【0069】
塩基性コロイダルシリカとしては、例えば、ケイ酸塩化合物から合成され、ナトリウム塩部分やアンモニウム塩部分等の塩基性部分を有するものが用いられる。このような塩基性コロイダルシリカの市販品としては、例えば、日産化学工業社製、商品名「スノーテックスXS」、「スノーテックスS」、「スノーテックス20」、「スノーテックス30」、「スノーテックス40」、「スノーテックス50」、「スノーテックスN」、「スノーテックスNXS」、「スノーテックス20L」、「スノーテックスOL」、「スノーテックスXL」、「スノーテックスZL」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」が挙げられる。
【0070】
中性コロイダルシリカは、例えば、アルコキシシランを原料としたゾルゲル法によって得られる。このような中性コロイダルシリカの市販品としては、例えば、扶桑化学工業社製、商品名「PL−1」、「PL−3」、「PL−7」が挙げられる。
【0071】
親水化コーティング剤中におけるコロイダルシリカの含有量は、上記(a)成分100質量部に対し、好ましくは固形分で10〜300質量部であり、より好ましくは50〜100質量部である。10質量部未満であると、目的とする効果が得られない場合がある。一方、300質量部を超えても、含有量に見合う効果が得られず、かえって得られる膜に不具合が生じる場合がある。
【0072】
(g)その他の成分
本発明の親水化コーティング剤は、その機能を阻害しない限り、その他の成分として、樹脂成分、種々の添加剤、その他の溶剤などを含むことができる。親水化コーティング剤中におけるこれらのその他の成分の含有量は、通常、0〜10質量%である。
【0073】
〔2.親水化コーティング剤の製造方法〕
本発明の親水化コーティング剤は、(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、(d)水、および(e)親水性有機溶媒を所望の含有量となるように混合することにより得られる。各成分の混合量は、代表的には、親水化コーティング剤中における各成分の含有量として上述した量と同じ量にすることができる。
【0074】
(b)成分として有機アルミニウム化合物を混合する場合において、有機アルミニウム化合物は、水への溶解性が低いので、有機アルミニウム化合物と水とを直接混合すると、局所的に加水分解反応が生じて凝集体が生成するおそれがある。したがって、このような場合においては、予め有機アルミニウム化合物を親水性有機溶媒に溶解し、次いで、得られた溶液と他の成分(例えば、水)とを混合することが好ましい。すなわち、親水化コーティング剤の製造方法は、好ましくは、有機アルミニウム化合物を親水性有機溶媒に溶解する工程を有する。特に、上記第2または第3の調製方法等で調製された塩基性の(a)成分溶液は、水を多く含み、また、強塩基性であり得るので、該塩基性溶液を用いる場合は、上記工程を有することが好ましい。一方、上記第1の調製方法で調製された酸性の(a)成分溶液は、通常、親水性有機溶剤を多く含むので、上記工程を設けることなく、該酸性溶液に各成分を任意の順序で添加し、混合することにより、親水化コーティング剤を製造することも可能である。
【0075】
〔3.親水化コーティング膜〕
本発明の親水化コーティング膜は、上記親水化コーティング剤を基材表面に塗布することによって得られる。有機アルミニウム化合物を所定量含む親水化コーティング剤を基材表面に塗布することにより、コーティング後の初期段階から長期にわたって該表面を親水化することができ、結果として、耐汚染性を付与することができる。
【0076】
基材としては、親水化コーティング剤によってその表面が浸食されない限り、任意の適切なものが採用され得る。例えば、金属、コンクリート、プラスチック、ガラス等の材料から形成された基材、および、このような材料の表面に形成された塗膜を基材とすることができる。塗膜としては、一般的には、建築用、自動車用、工業用等の各種分野の上塗り塗膜が挙げられる。これら上塗り塗膜は、溶剤系、水性、粉体、UV硬化系等の種々の塗料により形成することができる。また、塗布により耐汚染性が付与されることから、橋梁や建物の外側に使用される部材、住宅用外装材、自動車、産業機械、自動販売機、ガードレール等、通常、屋外で使用される物品を構成する材料の表面に形成された塗膜であることが好ましい。上塗り塗膜は、親水性または親水化可能な塗膜であっても、通常の塗膜であっても構わない。上塗り塗膜が親水性または親水化可能な塗膜である場合、後述の塗膜の親水化方法は、親水性付与の補助的手段となる。一方、上記上塗り塗膜が通常の塗膜である場合は、該塗膜の親水化方法は、塗膜への新しい機能付与手段となる。
【0077】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、スプレー塗装、ロールコーター法、刷毛塗り、浸漬塗装、ワイプ塗装、シャワーカーテン塗装が挙げられる。塗布した後の乾燥方法としては、室温で乾燥するまで放置してもよく、40〜100℃で1〜30分程度加熱することにより行ってもよい。
【0078】
親水化コーティング膜の乾燥膜厚は、特に規定されるものではない。ただし、あまり厚くなると、コーティング膜の透明性に劣ったり、ワレなどの塗膜欠陥が生じたりするおそれがある。例えば、乾燥膜厚は、0.01〜1μmとすることができる。
【0079】
親水化コーティング膜の水接触角は、好ましくは35°以下、より好ましくは30°以下である。
【0080】
〔4.親水化方法〕
本発明の別の局面によれば、基材表面の親水化方法が提供される。該親水化方法は、上記親水化コーティング剤を基材表面に塗布する工程を有する。該親水化方法によれば、基材表面の水接触角を好ましくは35°以下、より好ましくは30°以下にすることができる。基材および塗布方法については、上記3.項における基材および塗布方法と同様の説明が適用され得る。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0082】
実施例で行った各測定の測定条件を以下に示す。
<接触角の測定>
協和界面科学社製CA−A型接触角測定装置を用いて測定した。
【0083】
[参考例1 アルコキシシラン化合物の加水分解体の調製1]
1Lコルベンに、商品名「MKCメチルシリケート51」(三菱化学社製、テトラメトキシシランの縮合物)141部、商品名「アルミキレートD」(川研ファインケミカル社製 アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)・イソプロパノール溶液、固形分76%)6部、商品名「エキネンF6」(日本アルコール販売社製 エタノールとメタノールの混合物(EtOH/MeOH=89/11))341部を仕込み、攪拌しながら40℃に加温した。次いで、該コルベンにイオン交換水512部を2時間で滴下した。さらに40℃で2時間加温攪拌した後、室温まで冷却することにより、アルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を得た。得られた溶液のpHは3.4であった。また、アルコキシシラン化合物が縮合せずに全て加水分解されたとして、得られた溶液に含まれる各成分の含有量を計算した。結果を表1に示す。
【0084】
[参考例2 アルコキシシラン化合物の加水分解体の調製2]
1Lコルベンに25%アンモニア水9.6部を仕込み、イオン交換水838.4部を加えて希釈した。得られた希釈アンモニア水を25℃の水で水冷し、攪拌しながら、テトラメトキシシラン152部を2分30秒で滴下した。このとき、液温は38℃まで上昇した。滴下後、室温まで冷却しながら1時間攪拌した後、ろ紙でろ過することにより、アルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を得た。得られた溶液のpHは9.4であった。また、アルコキシシラン化合物が縮合せずに全て加水分解されたとして、得られた溶液に含まれる各成分の含有量を計算した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
[実施例1−12]
(1)親水化コーティング剤の調製
表2および表3に記載の配合比で(a)〜(e)の各成分を混合することにより、親水化コーティング剤を得た。具体的には、以下のとおりである。まず、有機アルミニウム化合物をエタノールに溶解した。得られた溶液に界面活性剤を添加し、次いで、イオン交換水を加えて混合した。得られた溶液に、アルコキシシラン化合物の加水分解体溶液を加えて混合した。なお、表2および表3における、成分(b)有機アルミニウム化合物の配合比は、水酸化アルミニウムに換算した質量に基づく配合比であり、また、成分(d)イオン交換水および成分(e)エタノールの配合比は、成分(a)の溶液に含まれる水およびエタノールとは別に添加した水およびエタノールの配合比である。
【0087】
(2)塗装
アルミ板にジュエルグレインクリヤー塗料(日本ペイント社製のアクリル樹脂系塗料)をスプレー塗装して得た塗膜を基材として用い、該基材表面に親水化コーティング剤を以下の条件でスプレー塗装またはディップ塗装した。
スプレー塗装:50℃に加温した基材に、30g/mになるようにスプレーで塗装した後、室温で風乾した。
ディップ塗装:基材を親水化コーティング剤に20秒浸漬し、引き上げて室温で風乾した。
【0088】
(3)評価
[塗装評価]
スプレー性:上記条件でスプレー塗装し、目視でウェット塗膜に問題(ハジキ、液ヨリ等)が認められない状態を○とし、問題が認められる状態を×とした。
ディップ性:上記条件でディップ塗装し、目視でウェット塗膜に問題(ハジキ、液ヨリ等)が認められない状態を○とし、問題が認められる状態を×とした。
[コーティング膜評価]
塗装後の基材上に形成されたコーティング膜を指触によりタック性を評価するとともに、目視で観察し、塗装前の基材と同等の光沢を有し、問題(タック残り、白化、虹、クラック等)が認められない場合を◎、光沢はやや低下気味だが問題が認められない場合を○、問題が認められた場合を×とした。
[耐汚染性評価]
塗装後1日風乾したコーティング膜の水接触角(CA1)によって耐汚染性を評価した。水接触角(CA1)が30°以下の場合を耐汚染性良好とする。
[耐水性評価]
塗装後1日風乾したコーティング膜を水道水に1日浸漬した。水から引き上げて1日室温で風乾した後、コーティング膜の水接触角(CA2)を測定し、耐水性を評価した。水接触角(CA2)が30°以下を耐水性良好とする。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
[比較例1−7]
表4に記載の配合比になるように、実施例と同様にして(a)〜(e)の各成分を混合することにより、コーティング剤を得た。得られたコーティング剤を実施例と同様に塗装し、評価した。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
表2および表3に示されるとおり、本発明の親水化コーティング剤から形成されるコーティング膜は、コーティング後初期の段階から耐汚染性に優れる。このような効果が奏される理由としては、ノニオン系界面活性剤が基材表面の親水化に寄与するためと推測される。さらに、該コーティング膜は、耐水性が高いので、屋外に設置した場合においても長期にわたって優れた耐汚染性を発現し得る。このような効果が奏される理由としては、有機アルミニウム化合物の加水分解体が、ヒドロキシシリル基の縮合を促進するとともに、複数のヒドロキシシリル基とキレート結合することで架橋構造が形成され、降雨等の水によってノニオン系界面活性剤がコーティング膜から流出しにくい膜構造を形成するためと推測される。
【0094】
表4に示されるとおり、比較例1および2のコーティング剤によれば、コーティング膜の耐水性が低いために、水への浸漬により接触角が顕著に増大した。これは、有機アルミニウム化合物の含有量が少ないため、上記キレート結合や縮合反応による架橋構造が形成されなかったことによるものと考えられる。また、比較例3のコーティング剤によれば、コーティング膜の塗装外観に問題がある。これは、有機アルミニウム化合物を過剰に含むことにより、不均一な架橋構造が形成されたことによるものと考えられる。比較例4〜7のコーティング剤によれば、いずれも目的とするコーティング膜は得られなかった。これは、ノニオン系界面活性剤の量または親水性に過不足があったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の親水化コーティング剤は、基材表面を親水化して耐汚染性を付与し得ることから、塗料の分野等で好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、
(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、
(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、
(d)水、ならびに
(e)親水性有機溶媒を含み、
(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の含有量に対して5〜30質量%であり、
(c)成分の含有量が、(d)成分の含有量に対して0.02〜10質量%である、親水化コーティング剤。
【請求項2】
(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、
(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、
(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、
(d)水、ならびに
(e)親水性有機溶媒を混合して得られる親水化コーティング剤であって、
(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の混合量に対して5〜30質量%であり、
(c)成分の混合量が、(d)成分の混合量に対して0.02〜10質量%である、親水化コーティング剤。
【請求項3】
前記(a)成分が、酸性である、請求項1または2に記載の親水化コーティング剤。
【請求項4】
前記(a)成分が、塩基性である、請求項1または2に記載の親水化コーティング剤。
【請求項5】
前記有機アルミニウム化合物が、アルミニウムキレート化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の親水化コーティング剤。
【請求項6】
親水化コーティング剤中における前記(a)成分の含有量が、0.05〜10質量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の親水化コーティング剤。
【請求項7】
(a)テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解体、
(b)有機アルミニウム化合物および/またはその加水分解体、
(c)アルキレンオキサイドユニットを有し、1分子中におけるアルキレンオキサイド部の質量が40〜75%であるノニオン系界面活性剤、
(d)水、ならびに
(e)親水性有機溶媒を含み、
(b)成分の水酸化アルミニウム換算質量が、(a)成分の含有量に対して5〜30質量%であり、
(c)成分の含有量が、(d)成分の含有量に対して0.02〜10質量%である、親水化コーティング剤の製造方法であって、
(b)成分を(e)成分に溶解する工程を有する、製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の親水化コーティング剤を基材表面に塗布することによって得られる、親水化コーティング膜。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の親水化コーティング剤を基材表面に塗布する工程を有する、基材表面の親水化方法。

【公開番号】特開2009−144088(P2009−144088A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324369(P2007−324369)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】