説明

親水化剤、その製造方法および親水性機能製品

【課題】可視光照射下で高い親水性を示す親水性膜を簡便に形成しうる親水化剤を提供する。
【解決手段】光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤であって、前記光触媒体粒子100質量部に対して、前記貴金属を0.005〜1質量部含有し、前記光触媒体粒子の固形分濃度を15質量%としたときに、粘度が200cP以下である貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤であり、この親水化剤を用いて基材(製品)の表面に親水性層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に可視光照射下で高い親水作用を示す親水性膜を簡便に形成しうる親水化剤、その製造方法および前記親水化剤を用いた親水性機能製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化チタン等の光触媒体が発揮する光触媒作用を利用して各種材料の表面を親水化する方法が注目されており、例えば、酸化チタンを光触媒体とする方法で使用しうる酸化チタン粒子の単独分散液については市販されている。酸化チタンを光触媒体に用いた場合、親水性を発現させるためには紫外光の照射が必要である。この用途としては、例えば、前記光触媒体を自動車サイドミラーの表面に担持させ、水によって汚れを簡単に落とし、かつ曇らない自動車サイドミラーにするためなどに利用されている。
【0003】
さらに、近年では、光触媒成分として酸化タングステンを利用した技術が提案されている。具体的には、基材表面にスパッタリングにより白金粒子を析出させ、その上にタングステン酸含有溶液を塗布して焼成することにより、親水性を示す酸化タングステン薄膜を得る方法(非特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Phys. Chem. Chem.Phys., 2008, 10, 6258−6265.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1記載の技術によれば、スパッタリング用装置等の高価な製造設備を用い、しかもタングステン酸を酸化タングステンとするのに高温度で焼成する必要があった。一方、貴金属担持光触媒体分散液が得られれば、表面にこの分散液を塗布し、簡単で且つ低コストで光触媒体層を得ることができるが、貴金属担持光触媒体粒子が凝集し固液分離しやすく、取り扱いが困難であった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、高い親水性を示し、しかも安定で固液分離を起こしにくく、取り扱いが容易な親水化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、貴金属を担持した光触媒体分散液からなる親水化剤において、光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.005質量部〜1質量部含有し、光触媒体粒子の固形分濃度を15質量%としたときに、粘度が200cP以下である貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤が、分散媒中で沈降することなく、しかも高い親水性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤であって、前記貴金属担持光触媒体粒子分散液は、前記光触媒体粒子100質量部に対して、前記貴金属を0.005質量部〜1質量部含有し、前記光触媒体粒子の固形分濃度を15質量%としたときに、粘度が200cP以下であることを特徴とする親水化剤。
(2)前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である前記(1)に記載の親水化剤。
(3)前記光触媒体粒子が酸化タングステン粒子である前記(1)又は(2)に記載の親水化剤。
(4)光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤を製造する方法であって、前記貴金属担持光触媒体粒子分散液は、前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、且つ前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液のpHを2.2〜4.5の範囲に調整しながら、この原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させて得られることを特徴とする親水化剤の製造方法。
(5)前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である前記(4)に記載の製造方法。
(6)前記光触媒体粒子が酸化タングステン粒子である前記(4)又は(5)に記載の製造方法。
(7)表面に親水性層を備える親水性機能製品であって、前記親水性層が前記(1)〜(3)のいずれかに記載の親水化剤を用いて形成されていることを特徴とする親水性機能製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の親水化剤は、高い親水性を示し、しかも貴金属を担持した光触媒体粒子の分散液でありながら、この貴金属担持光触媒体粒子の凝集が抑制されて固液分離を起こしにくいため取り扱いが容易である。この親水化剤を用いて得られる親水性機能製品は、紫外線はもとより、室内の可視光線下でも優れた親水性を維持することができる。また、この親水性機能製品は、例えば該表面に疎水性有機物等の有機物が付着しても、室内の可視光線下でその有機物を速やかに分解し、さらに優れた親水性を示すことできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】表面の濡れ性を評価するための接触角度θを示す概略説明図である。
【図2】実施例1および比較例1で得られた親水化剤の親水性評価の結果を示すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1で得られた親水化剤についての、疎水性有機物付着時の親水性評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(親水化剤)
本発明の親水化剤は、貴金属を担持した光触媒体粒子の分散液からなる。本発明における光触媒体とは、例えば、紫外線や可視光線の照射により光触媒作用を発現する半導体であり、具体的には、特定の結晶構造を示す金属元素と酸素、窒素、硫黄、フッ素との化合物等が挙げられる。金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどが挙げられる。その化合物としては、これら金属の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、Ti、W、Nbの酸化物が好ましく、とりわけ、酸化タングステンが好ましい。
【0012】
本発明の親水化剤を構成する酸化タングステン粒子は、親水化作用を示す粒子状の酸化タングステンであれば、特に制限はされないが、例えば、三酸化タングステン〔WO3〕粒子等が挙げられる。なお、酸化タングステン粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
三酸化タングステン粒子は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、このタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法などによって得ることができる。
【0014】
前記酸化タングステン粒子の粒子径は、特に制限されないが、親水化作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常40〜200nm、好ましくは80〜130nmである。
前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、特に制限されないが、親水化作用の観点からは、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0015】
本発明における貴金属は、光触媒体粒子の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる元素であり、貴金属の前駆体とは、光触媒体の表面で貴金属に遷移しうる化合物(例えば、光照射により貴金属に還元されうる化合物)である。貴金属がこれらの表面に担持されて存在すると、光の照射により伝導帯に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、親水化作用をより高めることができる。
【0016】
(貴金属の前駆体)
本発明で使用する貴金属の前駆体としては、分散媒中に溶解し得るものが使用される。かかる前駆体が溶解すると、これを構成する貴金属元素は通常、プラスの電荷を帯びた貴金属イオンとなって、分散媒中に存在する。そして、この貴金属イオンが、光触媒体粒子への光の照射による光触媒作用で0価の貴金属に還元されて、光触媒体粒子の表面に担持される。貴金属としては、例えばCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、IrおよびRhが挙げられる。その前駆体としては、これら貴金属の水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。これらの中でも高い光触媒活性を得る点から、貴金属は、Cu、Pt、Au、Pdが好ましい。
【0017】
Cuの前駆体としては、例えば硝酸銅(Cu(NO3)2)、硫酸銅(CuSO4)、塩化銅(CuCl2、CuCl)、臭化銅(CuBr2,CuBr)、沃化銅(CuI)、沃素酸銅(CuI26)、塩化アンモニウム銅(Cu(NH4)2Cl4)、オキシ塩化銅(Cu2Cl(OH)3)、酢酸銅(CH3COOCu、(CH3COO)2Cu)、蟻酸銅((HCOO)2Cu)、炭酸銅(CuCO3)、蓚酸銅(CuC24)、クエン酸銅(Cu2647)、リン酸銅(CuPO4)等が挙げられる。
【0018】
Ptの前駆体としては、例えば塩化白金(PtCl2、PtCl4)、臭化白金(PtBr2、PtBr4)、沃化白金(PtI2、PtI4)、塩化白金カリウム(K2(PtCl4))、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)、亜硫酸白金(H3Pt(SO3)2OH)、塩化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4Cl2)、炭酸水素テトラアンミン白金(C21446Pt)、テトラアンミン白金リン酸水素(Pt(NH3)4HPO4)、水酸化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4(OH)2)、硝酸テトラアンミン白金(Pt(NO3)2(NH3)4)、テトラアンミン白金テトラクロロ白金((Pt(NH3)4)(PtCl4))、ジニトロジアミン白金(Pt(NO2)2(NH32)等が挙げられる。
【0019】
Auの前駆体としては、例えば塩化金(AuCl)、臭化金(AuBr)、沃化金(AuI)、水酸化金(Au(OH)2)、テトラクロロ金酸(HAuCl4)、テトラクロロ金酸カリウム(KAuCl4)、テトラブロモ金酸カリウム(KAuBr4)等が挙げられる。
【0020】
Pdの前駆体としては、例えば酢酸パラジウム((CH3COO)2Pd)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、沃化パラジウム(PdI2)、水酸化パラジウム(Pd(OH)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、硫酸パラジウム(PdSO4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2(PdCl4))、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2(PdBr4))、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH34Cl2)、テトラアンミンパラジウム臭化物(Pd(NH34Br2)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(Pd(NH34(NO32)、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸((Pd(NH34)(PdCl4))、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム((NH42PdCl4)等が挙げられる。
【0021】
貴金属の前駆体は、単独で、または2種類以上を組み合わせて使用される。その使用量は、貴金属原子に換算して、光触媒体粒子の使用量100質量部に対して、親水性の向上効果が十分に得られる点で通常0.005質量部以上、コストに見合った効果が得られる点で通常1質量部以下であり、好ましくは0.01質量部〜0.6質量部である。
【0022】
(原料分散液)
本発明では、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散され、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液を用いる。
【0023】
(分散媒)
分散媒としては通常、水を主成分とする水性媒体、具体的には分散媒総量に対して、水の含有量が50質量%以上のものが用いられている。分散媒の使用量は、光触媒体粒子に対して、通常5質量倍〜200質量倍である。分散媒の使用量が5質量倍未満では光触媒体粒子が沈降し易くなり、200質量倍を超えると容積効率の点で不利である。
【0024】
(犠牲剤)
本発明では、犠牲剤を原料分散液に添加することが好ましい。犠牲剤としては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン、蓚酸等のカルボン酸が用いられる。犠牲剤が固体の場合、この犠牲剤を適当な溶媒に溶解して用いてもよいし、固体のまま用いてもよい。尚、犠牲剤は、光照射を行う前に原料分散液に添加してもよいし、原料分散液に一定時間光照射を行い、その後に犠牲剤を添加して、さらに光照射を行ってもよい。犠牲剤の量は分散媒に対して、通常0.001質量倍〜0.3質量倍、好ましくは0.005質量倍〜0.1質量倍である。犠牲剤の使用量が0.001質量倍未満では光触媒体粒子への貴金属の担持が不十分となり、0.3質量倍を超えると犠牲剤の量が過剰量となりコストに見合う効果が得られない。
【0025】
(原料分散液の調製)
原料分散液は、例えば、まず分散媒中に光触媒体粒子を分散させてから、貴金属の前駆体を溶解させて調製すればよい。光触媒体粒子を分散媒に分散させる際には湿式媒体撹拌ミルなどの公知の装置で分散処理を施すことが好ましい。
【0026】
(光の照射)
本発明では、かかる原料分散液に光を照射する。原料分散液への光の照射は、撹拌しながら行ってもよい。透明なガラスやプラスチック製の管内を通過させながら管の内外から原料分散液に光照射してもよく、これを繰り返してもよい。光源としては光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、殺菌灯、水銀灯、発光ダイオード、蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、太陽光などを用いることができる。照射する光の波長は通常、180nm〜500nmである。光照射を行う時間は、十分な量の貴金属を光触媒体粒子に担持できることから、通常20分以上、好ましくは1時間以上、通常24時間以下、好ましくは6時間以下である。24時間を越える場合、それまでに貴金属の前駆体の殆どは貴金属となって担持されてしまい、光照射にかかるコストに見合う効果が得られない。
【0027】
(pH調整)
本発明では、原料分散液のpHを2.2〜4.5、好ましくは2.5〜3.5に維持しながら原料分散液に光照射を行う。通常、光照射により貴金属が光触媒体粒子の表面に担持される際には分散液のpHが酸性に除々に変化するので、pHを本発明で規定する範囲内に維持するため、通常塩基を添加すればよい。塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン等の水溶液が挙げられるが、これらの中でもアンモニア水を用いるのが好ましい。
【0028】
(貴金属担持光触媒体粒子)
かくしてpH調整しながら光を原料分散液に照射することにより、貴金属前駆体が貴金属となって光触媒体粒子の表面に担持されて、目的の貴金属担持光触媒体粒子を得る。この貴金属担持光触媒体粒子は分散媒中に、沈降することなく分散されている。
【0029】
(貴金属担持光触媒体粒子分散液)
この貴金属担持光触媒体粒子が分散された分散液は、貴金属担持光触媒体粒子の粘度が低く、分散性に優れているため取り扱いやすい。具体的には、光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.005質量部〜1質量部含有し、光触媒体粒子の固形分濃度を15質量%としたときに、貴金属担持光触媒体粒子分散液の粘度は200cP以下となり、通常20〜200cPであるのがよい。貴金属担持光触媒体粒子分散液の粘度が200cP超えると、保存中に光触媒体粒子が凝集しやすくなる。貴金属担持光触媒体粒子分散液の粘度を200cP以下とするには、例えば、上記のようにpH調製しながら原料分散液に光照射などをすればよい。尚、光触媒体粒子分散液は、分散液に0〜3質量%の通常粘度に影響を与えない範囲で、メタノールやエタノール等を含んでもよい。
【0030】
(親水化剤)
本発明の親水化剤は、塗布などの取り扱い性を考慮して、固形分濃度が0.5質量%以上30質量%以下であるのが適当である。親水化剤の固形分濃度は、水などを貴金属担持光触媒体粒子分散液に加えて調整すればよい。固形分濃度が30質量%を超えると、親水化剤に含まれる貴金属担持光触媒体粒子が凝集し易くなり、固液分離が起こることがあり、0.5質量%未満であると、濃度が希薄過ぎて、親水性を発現するのに必要な量を塗布するのが困難となる。
【0031】
図1は、水滴1の濡れ性を評価するための水滴接触角θを示す概略説明図である。水滴接触角θが、10°以内であれば、有機物よりも水に対して濡れやすいため、表面に付着した油汚れなども水をかけるだけで容易に拭き取ることができるようになり、雨で汚れが流れ落ちる。さらに水滴接触角θが、7°以内であれば表面に付着した水は水滴を形成せずに薄い均一な水膜となり、水膜への入射光が乱反射しないために曇らない。
【0032】
本発明の親水化剤は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、シリコンアルコキシド、オルガノポリシロキサンなどのケイ素化合物、非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ゼオライト、カオリナイトなどのアルミノケイ酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Ag、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどの金属元素の水酸化物や酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。これらの添加剤を添加して用いる場合、それぞれ単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
前記添加剤は、本発明の親水化剤を用いて壁材等の基材の表面に貴金属担持光触媒体粒子からなる親水性層を形成する際に、光触媒体粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等に用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10―183061号公報、特開平10―183062号公報、特開平10―168349号公報、特開平10―225658号公報、特開平11―1620号公報、特開平11―1661号公報、特開2002−80829号公報、特開2004―059686号公報、特開2004―107381号公報、特開2004―256590号公報、特開2004―359902号公報、特開2005―113028号公報、特開2005―230661号公報、特開2007―161824号公報、国際公開第96/029375号、国際公開第97/000134号、国際公開第98/003607号など参照)。
【0034】
(親水機能製品)
本発明の親水機能製品は、本発明の親水化剤を用いて形成された親水性膜を表面に備えるものである。ここで、親水性膜は、親水化剤中の前記貴金属担持光触媒体粒子からなる。
【0035】
前記親水性膜は、例えば、本発明の親水化剤を基材(製品)の表面に塗布した後、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。親水性膜の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。親水性膜は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される親水性膜を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0036】
本発明の親水機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、衣類やカーテン等の繊維製品などが挙げられる。
【0037】
本発明の親水化剤を用いて形成された親水性膜は、紫外線や可視光線を照射すれば、暗所(遮光下)でも高い親水性を示すものであり、紫外線や可視光線などの光が照射される環境ではさらに高い親水性を示すものである。そのため、本発明の親水機能製品は、屋外においては勿論のこと、時に遮光状態となり、光が照射されても蛍光灯やナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けないような屋内環境においても、充分な親水性を発揮する。したがって、本発明の親水化剤を、例えば病院の天井材、タイル、ガラスなどに塗布して乾燥させると、その屋内照明の有無に拘わらず常に良好な親水性を発現し、その結果、防曇性を発現するだけでなく、汚れに水をかけるだけで容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各物性の測定については、以下の方法で行った。
【0039】
<結晶型>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0040】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0041】
<平均分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。
【0042】
<試験片の作製(塗膜形成)>
得られた親水化剤を、縦80mm、横80mm、厚さ3mmのガラス板上に塗布し、スピンコーター(ミカサ製「1H−D3」)を用いて、300rpmで180秒間、次いで3000rpmで10秒間回転させることにより過剰に塗布された分散液を取り除き、その後、130℃で15分間乾燥して、試験片を作製した。
【0043】
<親水性評価試験条件>
試験片の塗膜の上から、市販のブラックライトを光源として、室温、大気中で、2日間紫外線を照射した。このとき、塗膜近傍での紫外線強度が約2mW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにした。
次いで、紫外線照射後の試験片に、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業製「N190」)を通して、試験片に塗膜の上から、蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行い、所定時間経過後の水滴の接触角θを接触角計(協和界面科学製「CA−A型」)を用いて測定した。水滴の接触角θの測定は、いずれの場合も、水滴(約0.4μL)を試験片の塗膜上に設置してから5秒後に行なった。なお、可視光の照射は、このとき、塗膜近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにした。
【0044】
<疎水性有機物付着時の親水性評価試験条件>
試験片の塗膜の上から、市販のブラックライトを光源として、室温、大気中で、2日間紫外線を照射した。このとき、塗膜近傍での紫外線強度が約2mW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにした。
次いで、オレイン酸の濃度が0.5容量%のn−ヘプタンを、試験片にディップコーター(SDI社製「DT−0303−S1」)で塗布した後、70℃で15分乾燥した。ディップコーターの引き上げ速度は10mm/秒で、浸漬時間は10秒であった。その後、このオレイン酸を塗布した試験片に、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業製「N169」)を通して、試験片に塗膜の上から、蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行い、所定時間経過後の水滴の接触角θを接触角計(協和界面科学製「CA−A型」)を用いて測定した。水滴の接触角θの測定は、いずれの場合も、水滴(約0.4μL)を試験片の塗膜上に設置してから5秒後に行なった。なお、可視光の照射は、このとき、塗膜近傍での照度が6000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにした。
【0045】
(製造例1)
分散媒としてイオン交換水4kgに、酸化タングステン粒子(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を湿式媒体撹拌ミル[コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1」]を用いて下記の条件で分散処理して酸化タングステン粒子分散液を得た。
粉砕メディア :直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg 撹拌速度 :周速12.6m/秒
流量 :0.25L/分
処理時間 :約50分
【0046】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は40m2/gであった。なお、分散処理前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、同じピーク形状であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で24時間保持したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0047】
(実施例1)
製造例1で得た酸化タングステン粒子分散液にヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)の水溶液をヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部になるように加え、原料分散液としてヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は、17.6質量部(固形分濃度17.6質量%)であった。この分散液のpHは2.0であった。
【0048】
次いで、pH電極とこのpH電極に接続されて0.1質量%のアンモニア水を供給してpHを一定に調整する制御機構を有するpHコントローラー(pH=3に設定)を備え、前記pH電極と、水中殺菌灯[三共電気製「GLD15MQ」]を設置したガラス管(内径37mm、高さ360mm)からなる光照射装置との間を、前記ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液500gを毎分1Lの速度で循環させ、光照射(紫外線)を行いながら、pHコントローラーによりアンモニア水を加えてヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液のpHを3.0にした。光照射を行った時間は1.5時間であった。その後、引き続き循環させながら、更に50質量%のメタノール水溶液を15g加えて、光(紫外線)を1.5時間照射し、白金担持酸化タングステン粒子分散液を得た。光照射中、pHコントローラーによりアンモニア水が加えられ、分散液のpHは3.0に維持された。光照射前および光照射中に消費したアンモニア水の合計量は71.6gであった。
【0049】
貴金属担持光触媒体粒子分散液として得られた白金担持酸化タングステン粒子分散液を20℃で24時間保管したところ、保管後に固液分離は見られなかった。またこの分散液中の固形分濃度は15質量%で、粘度は100.0cPであった。
【0050】
この貴金属担持光触媒体粒子分散液に水を加え、固形分濃度を5質量%に調整し、これを親水化剤とした。得られた親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を作製し、可視光照射下における親水性の経時変化を、水滴の接触角θを測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角θをプロットしたグラフとして表し、図2に示した。
【0051】
(比較例1)
製造例1で得た酸化タングステン粒子分散液に水を加え、固形分濃度を5質量%に調整し、これを親水化剤とした。得られた親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を作製し、可視光照射下における親水性の経時変化を、水滴の接触角θを測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角θをプロットしたグラフとして表し、図2に示した。
【0052】
(比較例2)
pHコントローラーによるアンモニア水の添加を行わない以外は、実施例1と同様に操作したところ、光照射中にpHは2.0から1.9に変化した。光照射後の白金担持酸化タングステン粒子を有する混合液を20℃で24時間保管したところ、保管後に沈降物が見られた。またこの分散液中の固形分濃度は15質量%で、粘度は285.3cPであった。
【0053】
図2から、実施例1の分散安定性に優れる親水化剤により形成された白金担持酸化タングステン粒子からなる塗膜は、蛍光灯中の可視光を照射することにより、水滴の接触角θが5°以内であり、比較例1の酸化タングステン粒子からなる塗膜より高い親水性を示すことがわかった。
【0054】
(実施例2)
実施例1の親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を作製し、可視光照射下における疎水性有機物付着時の親水性の経時変化を、水滴の接触角θを測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角θをプロットしたグラフとして表し、図3に示した。
【0055】
(比較例3)
比較例1の親水化剤を用いて形成した塗膜を有する試験片を作製し、実施例2と同様にして、可視光照射下における疎水性有機物付着時の親水性の経時変化を、水滴の接触角θを測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角θをプロットしたグラフとして表し、図3に示した。
【0056】
図3から、実施例1の分散安定性に優れる親水化剤により形成された白金担持酸化タングステン粒子からなる塗膜(実施例2)は、蛍光灯中の可視光を照射することにより、疎水性有機物であるオレイン酸やn−ヘプタンを速やかに分解し、水滴の接触角θが0°となったのに対して、比較例1の酸化タングステン粒子からなる塗膜(比較例3)より高い親水性を示すことがわかった。
【0057】
(参考例1)
実施例1で得た親水化剤を天井材に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、天井材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0058】
(参考例2)
実施例1で得た親水化剤をタイルに塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、タイルの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0059】
(参考例3)
実施例1で得た親水化剤をガラスに塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、ガラスの表面が親水化し、防曇性を発現するだけでなく、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0060】
(参考例4)
実施例1で得た親水化剤を壁紙に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、壁紙の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0061】
(参考例5)
実施例1で得た親水化剤を床に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、屋内照明による光照射により、床の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0062】
(参考例6)
実施例1で得た親水化剤を自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車天井材などの自動車内装材の表面に塗布し、その後、乾燥して分散媒を揮発させると、車内照明による光照射により、自動車内装材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【符号の説明】
【0063】
1 水滴
θ 水滴接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤であって、
前記貴金属担持光触媒体粒子分散液は、前記光触媒体粒子100質量部に対して、前記貴金属を0.005質量部〜1質量部含有し、前記光触媒体粒子の固形分濃度を15質量%としたときに、粘度が200cP以下であることを特徴とする親水化剤。
【請求項2】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である請求項1に記載の親水化剤。
【請求項3】
前記光触媒体粒子が酸化タングステン粒子である請求項1又は2に記載の親水化剤。
【請求項4】
光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる親水化剤を製造する方法であって、
前記貴金属担持光触媒体粒子分散液は、前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、且つ前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液のpHを2.2〜4.5の範囲に調整しながら、この原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させて得られることを特徴とする親水化剤の製造方法。
【請求項5】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記光触媒体粒子が酸化タングステン粒子である請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
表面に親水性層を備える親水性機能製品であって、前記親水性層が請求項1〜3のいずれかに記載の親水化剤を用いて形成されていることを特徴とする親水性機能製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92797(P2011−92797A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242133(P2009−242133)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】