説明

親水性コーティング剤の製造方法及び該コーティング剤を塗工した物品

【課題】初期親水性に優れ、その持続性にも優れた親水塗膜を容易に形成可能であり、更にそのコーティング剤自体の保存安定性も良好な親水性コーティング剤の製造方法、及びそのコーティング剤を塗工することにより、優れた親水性の塗膜を被覆した物品を提供する。
【解決手段】(1)(A)一般式:Si(OR14(式中、R1は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)で示されるシリケートを、系に不溶な固体触媒存在下、水の量が(A)1molに対して2mol以上となるような量の水を含む溶媒中で加水分解を行い、(2)次いで、得られたシリケート加水分解物溶液に、(B)金属酸化物ゾル溶液を加え、更に加水分解・縮合させることを特徴とする親水性コーティング剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性コーティング剤の製造方法、及び得られた親水性コーティング剤を塗工することにより得られる親水性に優れた被膜表面を有する物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材表面に親水性膜を形成することにより基材の汚れを防止する試みは数多く見られる。例えば、建物外壁において用いられる低汚染性塗料では、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物を塗料に配合して外壁表面に塗布し、乾燥させて親水性膜を形成することにより、乾燥工程において該部分加水分解縮合物成分が塗膜表面へ移行し、表面の珪素濃度が高くなると共に降雨によって該部分加水分解縮合物のアルコキシ基が更に加水分解され、親水性のシラノール基を生成して、外壁表面と水との馴染みがよくなり、降雨のたびに付着した汚れを洗い流すという方法が提案されている(特許文献1:特開平9−137120号公報、特許文献2:特開平9−249732号公報等参照)。
【0003】
一方、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物に代えて、加水分解を更に進行させたアルキルシリケートの完全加水分解縮合物を用いたり、シリカゾルを添加するなどして耐汚染性を更に向上させる試みも数多く検討されている(特許文献3〜8:特開2007−245369号公報、国際公開第99/52986号パンフレット、特開2006−176635号公報、特開2000−119596号公報、特開2004−287846号公報、特開平10−142161号公報参照)。しかし、この試みも初期の耐汚染性(親水性)は良いものの、経時変化で耐汚染性(親水性)が不良となる場合が多々見られた。また、そのコーティング液自体の保存安定性もあまり良くなく、その改良が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平9−137120号公報
【特許文献2】特開平9−249732号公報
【特許文献3】特開2007−245369号公報
【特許文献4】国際公開第99/52986号パンフレット
【特許文献5】特開2006−176635号公報
【特許文献6】特開2000−119596号公報
【特許文献7】特開2004−287846号公報
【特許文献8】特開平10−142161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、初期親水性に優れ、その持続性にも優れた親水塗膜を容易に形成可能であり、更にそのコーティング剤自体の保存安定性も良好な親水性コーティング剤の製造方法、及びそのコーティング剤を塗工することにより、優れた親水性の塗膜を被覆した物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、水の量がシリケート1molに対して2mol以上となるような量の水を含む溶媒中で、系に不溶な固体触媒存在下、加水分解を行い、次いで、得られたシリケート加水分解物溶液に、金属酸化物ゾル溶液を加え、更に加水分解・縮合させることにより、初期から親水性付与が容易で更にその親水性の持続性に優れ、そのコーティング液の保存安定性も良好である親水性コーティング剤が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記親水性コーティング剤の製造方法及び該コーティング剤を塗工した物品を提供する。
〔請求項1〕
(1)(A)一般式:Si(OR14(式中、R1は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)で示されるシリケートを、系に不溶な固体触媒存在下、水の量が(A)1molに対して2mol以上となるような量の水を含む溶媒中で加水分解を行い、(2)次いで、得られたシリケート加水分解物溶液に、(B)金属酸化物ゾル溶液を加え、更に加水分解・縮合させることを特徴とする親水性コーティング剤の製造方法。
〔請求項2〕
固体触媒が、酸性固体触媒であることを特徴とする請求項1記載の親水性コーティング剤の製造方法。
〔請求項3〕
(B)金属酸化物ゾル溶液の金属酸化物ゾルがシリカゾルであることを特徴とする請求項1又は2記載の親水性コーティング剤の製造方法。
〔請求項4〕
得られる親水性コーティング剤中のシリケート由来の固形分及び金属酸化物ゾル由来の固形分からなる有効成分濃度が0.1〜30質量%、溶媒が99.9〜70質量%であり、溶媒が水及び親水性溶媒からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性コーティング剤の製造方法。
〔請求項5〕
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で得られた親水性コーティング剤でコーティングされた表面親水性に優れた物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、初期親水性に優れ、その持続性にも優れた親水塗膜を容易に形成可能であり、更にそのコーティング剤自体の保存安定性も良好な親水性コーティング剤を製造することができ、そのコーティング剤を塗工することにより、優れた親水性の塗膜を被覆した物品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の親水性コーティング剤の製造方法は、(1)(A)一般式:Si(OR14(式中、R1は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)で示されるシリケートを、系に不溶な固体触媒存在下、水の量が(A)1molに対して2mol以上となるような量の水を含む溶媒中で加水分解を行い、(2)次いで、得られたシリケート加水分解物溶液に、(B)金属酸化物ゾル溶液を加え、更に加水分解・縮合させることによりなるものである。
【0010】
本発明の製造方法において、(A)成分のシリケートは、一般式:Si(OR14で示される。上記式中、R1は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が例示され、入手の容易さ及び炭素数が小さいアルキル基ほど(A)成分の加水分解速度が早く、容易にシラノール基を発生しやすい傾向にあることから、好ましくはメチル基、エチル基である。
【0011】
このような(A)成分のシリケートは、一般にオルソシリケートとして市販されており、具体的には、メチルオルソシリケート、エチルオルソシリケート、イソプロピルオルソシリケートが例示され、これら2種以上を組み合わせて使用することができるが、上述したように入手の容易さ及び炭素数が小さいアルキル基を有するアルキルシリケートほど加水分解速度が早く、容易にシラノール基を発生しやすい傾向にあることから、メチルオルソシリケート、エチルオルソシリケートであることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法では、はじめにシリケート(A)1molに対して2mol以上の水を加える。この場合、全アルコキシ基のモル数に対して0.5倍以上ということになる。水のモル数が0.5倍量である場合、加水分解率は100%に相当し、これ以上の水を加えて加水分解することにより、親水性に寄与するシラノール基の存在割合を多くすることができる。従って、水の量は(A)1molに対して2mol以上、好ましくは2〜100mol、より好ましくは4〜40mol、特に6〜20molが好ましい。この量が2molより少ないと初期から親水性が発現しない。
【0013】
この場合、溶媒は上記水だけでも構わないが、場合により他の有機溶媒を併用してもよい。好ましくはアルコール系、ケトン系、エステル系溶媒が好ましく、特にアルコール系溶媒が好ましい。アルコール系溶媒の中でも特に低級アルコールが好ましい。低級アルコールとしては特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、i−プロピルアルコール、n−プロピルアルコールが挙げられ、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコールである。
【0014】
その際の有機溶媒の使用量は、有機溶媒が揮発して環境上問題となることからも少ない方が好ましく、溶媒組成の50質量%以上、特に60質量%以上が水となる量が好ましい。また、上記アルコール系溶媒以外の水可溶性の有機溶媒を併用することも、本発明の目的を損なわない限り可能である。
【0015】
また、この時使用する触媒は、系に不溶な固体触媒であれば特に制限されないが、特に酸性固体触媒であることが好ましい。触媒成分を系に不溶なものとすることにより、得られる親水性コーティング剤の保存安定性を著しく高め、更に、その親水性コーティング剤を基材に塗工して得られる親水性膜の親水性の持続性を著しく向上させることができる。ここで、使用される系に不溶な固体触媒は、触媒成分がシリケート(A)、金属酸化物ゾル(B)、水、反応生成物及び溶媒のいずれにも不溶であるものであれば特に限定されるものではない。
【0016】
このような固体触媒の具体例として、以下のものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
陽イオン交換樹脂:アンバーライト15、アンバーライト200C、アンバーリスト15(以上、ローム・アンド・ハース社製)、ピュロライトCT−175,CT−171,CT−169(以上、ピュロライト社製)、ダウエックスMWC−1−H、ダウエックス88、ダウエックスHCR−W2(以上、ダウ・ケミカル社製)、レバチットSPC−108、レバチットSPC−118(以上、バイエル社製)、ダイヤイオンRCP−150H(三菱化成社製)、スミカイオンKC−470、デュオライトC26−C、デュオライトC−433、デュオライト−464(以上、住友化学工業社製)、ナフィオン−H(デュポン社製)など。
【0018】
プロトン酸基を含有する基が表面に結合されている無機固体:Zr(O3PCH2CH2SO3H)2,Th(O3PCH2CH2COOH)2など。
【0019】
粘土鉱物:酸性白土、活性白土、モンモリロナイト、カオリナイトなど。
【0020】
これらの中でも、価格の面からは活性白土が好ましく、取り扱いやすさの面からは陽イオン交換樹脂が好ましく、特に陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0021】
この時の固体触媒の使用量は特に限定されないが、シリケート(A)のシリカ換算量と後述する金属酸化物ゾル(B)の固形分との合計量に対して0.1〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは0.2〜10質量%である。この量が0.1質量%未満であるとシリケート(A)の加水分解や、シリケート(A)の加水分解物と金属酸化物ゾル(B)との縮合がうまくいかない場合がある。またこの量が20質量%を超える量であるとコスト的に好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法において、シリケート(A)の加水分解時の反応温度は特に限定するものではないが、例えば、反応温度が10〜60℃であることが好ましい。反応時間も特に限定するものではないが、1〜6時間程度であることが好ましい。
【0023】
続いて、本発明の製造方法では、上記加水分解反応により得られたシリケート(A)の加水分解物溶液に、(B)金属酸化物ゾル溶液を添加し、更に加水分解縮合反応をさせる。この金属酸化物ゾル(B)は、親水性付与の効果、及び基材に形成される塗膜の硬度を高くし、平滑性や耐クラック性を改善することに寄与する。また、詳しい機構は不明だが、シリケート(A)の加水分解物単独よりも、この金属酸化物ゾル(B)を加水分解縮合させて複合化したものの方が親水性持続の効果もあるようである。
【0024】
金属酸化物ゾル(B)としては特に限定されるものではないが、例えば、CeO2、SiO2(シリカ)、TiO2、ZrO2、SnO2、PZT、Y23、TIO2、In23、ITO、α−AL23、HAP、Fe23、Fe34、ZnO、BaTiO3、MgF2、TiN、Sb23、CaF2、CeO2、CeF3、Na3ALF6、La23、LaF3、PbF2、NdF3、Pr511、SiO、ThO2、ThF4、ZnS等のゾルが使用できる。好ましくは、シリカゾル、アルミナゾル、酸化セリウムゾルなどである。より好ましくはシリカゾルである。
【0025】
シリカゾルとしては特に限定されないが、例えば、水分散性あるいはアルコール等の非水系の有機溶媒分散性シリカゾルを使用できる。水分散性シリカゾルは、通常、水ガラスから作られるが、市販品として容易に入手することができる。また、有機溶媒分散性シリカゾルは、前記水分散性シリカゾルの水を有機溶媒と置換することで容易に調製することができる。このような有機溶媒分散性シリカゾルも水分散性シリカゾルと同様に市販品として容易に入手することができる。なお、一般に、このようなシリカゾルは、固形分としてのシリカを20〜50質量%含有しており、この値からシリカ配合量を決定できる。
【0026】
金属酸化物ゾルの平均粒径は、0.1〜100nmであることが好ましく、より好ましくは1〜50nm、特に好ましくは5〜20nmである。平均粒径が小さすぎると入手しにくいことがあり、大きすぎると得られる膜の透明性が低下することがある。
【0027】
有機溶媒分散性シリカゾルにおいて、シリカゾルが分散している有機溶媒の種類は、特に限定はされないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;及びジアセトンアルコール等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上のものを使用することができる。
【0028】
なお、金属酸化物ゾル(B)の配合量については特に限定しないが、金属酸化物ゾル(B)の固形分質量/(シリケート(A)のシリカ換算質量+金属酸化物ゾル(B)の固形分質量)で求められる値が0.1〜0.95の範囲であることが好ましく、0.2〜0.7の範囲であることが更に好ましい。
【0029】
本発明は、この金属酸化物ゾル(B)をシリケート(A)の加水分解物溶液に添加後、更に加水分解縮合反応させるものであるが、反応条件は加水分解縮合反応が十分進行する条件、例えば反応温度10〜60℃、反応時間1〜8時間とすることができる。
【0030】
上記反応により、親水性コーティング剤が得られる。製造した親水性コーティング剤中のシリケート由来の固形分及び金属酸化物ゾル由来の固形分からなる有効成分濃度は0.1〜30質量%に調整することが、保存安定性の観点から望ましい。より好ましくは1.0〜15質量%である。この量が30質量%を超える量であるとコーティング剤の保存安定性が悪くなる場合がある。またこの量が0.1質量%未満であると有効成分量が希薄なため、塗工しても十分な性能が得られ難い傾向となる。
【0031】
この時の溶媒の量は99.9〜70質量%である。溶媒が水及び親水性溶媒からなることが好ましい。特に基材により水と有機溶媒の量比を変えて塗工するようにしてもよい。有機樹脂基材の場合、水が多いとコーティング剤を弾きうまく塗工できない場合があるため、うまく塗工できるように水及び親水性溶媒量を調整するのが好ましい。
【0032】
この親水性コーティング剤には、更に、基材の表面改質や塗膜機能向上を目的として、例えば、ポリオール、硬化触媒、フィラー、光触媒、着色剤、製膜助剤、塗布助剤、酸化防止材、紫外線吸収材、導電剤、帯電防止剤等の添加物を含有させてもよい。
特にポリオールは、親水性、防曇性の機能を向上させる効果が高く、更にそのポリオールが吸水性の場合には、防曇、防滴、防結露効果が飛躍的に向上するため好ましい。このポリオールとしては特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール等が使用できるが、特に、モノラウリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、デカステアリン酸ポリグリセリル、デカオレイン酸ポリグリセリル等の吸水性ポリオールが好ましい。
【0033】
光の干渉縞の発生の抑制、更に基材との密着性向上、作業性向上のための粘度向上、膜厚の確保等を目的として合成樹脂を加えてもよい。合成樹脂としては、例えば、水溶塩型アクリル系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カゼイン、セルロース誘導体、デキストリン類等の水溶性樹脂や、例えば、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、シリコーン系樹脂、ポリブテン系樹脂等の水不溶性樹脂等が挙げられ、水溶性樹脂はその水溶液として、また、水不溶性樹脂はその水性エマルジョン等として、前記分散液に加えるのが好ましい。中でも、ポリビニルアルコール、アクリル酸もしくはその誘導体とスチレンとの共重合体等のアクリル系樹脂、アクリル変性ウレタン樹脂等が好ましく、鹸化度99%以上のポリビニルアルコールが特に好ましい。具体的には、日本合成社のポリビニルアルコール「ゴーセノールN300」等が挙げられる。
【0034】
また、濡れ性を改善させるために、市販のレベリング剤、表面張力低下剤等を添加してもよい。通常のポリエーテル系化合物やポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0035】
上記親水性コーティング剤を基材に塗布し、乾燥させることにより、親水性に優れた表面が得られ、この場合、水の接触角は、好ましくは40°以下、更に好ましくは30°以下となる。本発明の親水性コーティング剤は、その塗工膜に熱による劣化促進試験を行っても、例えば60℃で1ヶ月後でも水の接触角は40°以下であるような親水持続性を有するものである。
【0036】
本発明の親水性コーティング剤を塗工する場合、基材は、無機、有機を問わず、各種の基材を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、金属基材、ガラス基材、ホーロー基材、水ガラス化粧板、無機質硬化体よりなる無機質建材、セラミックス等の無機基材やポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、PET樹脂等の有機基材に使用できる。
【0037】
更に、これら基材の表面に、少なくとも1層の無機物塗膜や、少なくとも1層の有機物塗膜、更にこの無機物塗膜及び有機物塗膜を有する塗装基材等も使用できる。
前記塗装基材を構成する無機物塗膜としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂系、ポリシラザン系等の無機樹脂を含むコーティング剤の硬化塗膜が挙げられる。また、前記塗装基材を構成する有機物塗膜としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、アクリルシリコーン系、塩化ゴム系、フェノール系、メラミン系、フッ素系等の有機樹脂を含むコーティング剤の硬化塗膜が挙げられる。
【0038】
本発明の親水性コーティング剤を基材に塗布する方法は特に限定されるものではない。例えば、スプレーコート、刷毛塗り、浸漬(ディッピング、ディップコートともいう)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、バーコート等の通常の各種塗布方法を適宜に選択することができる。上記の例の中でも、複雑な形状や大面積に塗布できる点で、スプレーコートやフローコート、刷毛塗り、吸収体に液を含浸させて塗り広げる方法等が好ましい。
【0039】
基材の表面に形成させた親水性コーティング剤塗膜の厚みは、特に限定されるものではない。その厚みは、一般的に0.03〜10μm程度であるが、厚膜になれば、基材によっては耐クラック性に問題が発生する場合があるので、その場合には0.05〜1μmとすることが好ましく、0.1〜0.7μmとすることが更に好ましい。
【0040】
なお、基材に塗布した親水性コーティング剤塗膜の硬化方法については、公知の方法を用いればよく、特に限定はされない。また、硬化の際の温度も特に限定されず、所望される硬化塗膜性能や硬化触媒の使用の有無に応じて常温から加熱温度までの広い温度範囲をとることができる。
【0041】
このような本願発明の塗装物品の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、建築関連部材、建築用塗装鋼板、自動車ボディー、鉄道車体、航空機、船舶、建築用ガラス、ディスプレー、クリアケース、ドア、カーポート、配電盤、道路周辺部材(例えば、防音壁、トンネル内装板、ガードレール)、広告塔、ミラー、有機樹脂フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、%は質量%を示す。
【0043】
[実施例1]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル152g(1.0モル)、イオン交換樹脂固体触媒ピュロライトCT−169 0.3g及びイオン交換水304gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させた。30分後、36℃まで内温が上昇し、不均一だった溶液が均一溶液となった。この状態から更に1.5時間撹拌させ、加水分解を進行させた。
この後、直管付滴下管よりメタノール分散シリカゾル(固形分濃度30%、平均粒径10〜20nm)200g(シリカ固形分60g)を投入し、更に液温20℃で3時間反応させた。この反応液を濾紙により濾過することにより固体触媒を取り除き、青白色透明溶液604gを得た。このものの固形分濃度は21.9%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤1とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、3ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0044】
[実施例2]
実施例1の正珪酸メチルを76g、イオン交換水を152gとした以外は実施例1と同様に反応・操作を行い、青白色透明溶液285gを得た。このものの固形分濃度は25.9%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤2とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、3ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0045】
[実施例3]
実施例1のメタノール分散シリカゾルを100gとした以外は実施例1と同様に反応・操作を行い、青白色透明溶液503gを得た。このものの固形分濃度は16.8%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤3とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、3ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0046】
[実施例4]
実施例1のメタノール分散シリカゾルを水分散シリカゾル(シリカ固形分濃度20%、平均粒径10〜20nm)300gとした以外は実施例1と同様に反応・操作を行い、薄青白色透明溶液732gを得た。このものの固形分濃度は16.3%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤4とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、3ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0047】
[実施例5]
実施例1のメタノール分散シリカゾルを水分散アルミナゾル(アルミナ固形分濃度20%)300gとした以外は実施例1と同様に反応・操作を行い、白色半透明溶液721gを得た。このものの固形分濃度は16.6%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤5とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、3ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0048】
[実施例6]
実施例1のメタノール分散シリカゾルを水分散酸化セリウムゾル(酸化セリウム固形分濃度10%)600gとした以外は実施例1と同様に反応・操作を行い、黄色半透明溶液1006gを得た。このものの固形分濃度は11.9%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤6とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、3ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0049】
[比較例1]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル152g(1.0モル)、イオン交換樹脂固体触媒ピュロライトCT−169 0.3g及びイオン交換水304gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させた。30分後、35℃まで内温が上昇し、不均一だった溶液が均一溶液となった。この状態から更に1.5時間撹拌させ、加水分解を進行させた。
ここで、一旦溶液を濾過し、系内の固体触媒を取り除いた。この溶液にメタノール分散シリカゾル(固形分濃度30%、平均粒径10〜20nm)200g(シリカ固形分60g)を単純に混合させた。青白色透明溶液650gを得た。このものの固形分濃度は18.4%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤7とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、1ヶ月経過した時点でゲル化した。
【0050】
[比較例2]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル152g(1.0モル)、イオン交換樹脂固体触媒ピュロライトCT−169 0.3g、イオン交換水27g及びメタノール277gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を室温で2時間撹拌させ、加水分解を進行させた。その後、直管付滴下管よりメタノール分散シリカゾル(固形分濃度30%、平均粒径10〜20nm)200g(シリカ固形分60g)を投入し、更に液温20℃で3時間反応させた。この反応液を濾紙により濾過することにより固体触媒を取り除き、青白色透明溶液623gを得た。このものの固形分濃度は19.2%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤8とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、1ヶ月経過した時点でも溶液の粘度変化を起こすことはなかった。
【0051】
[比較例3]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル152g(1.0モル)、0.05N塩酸水304gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させたところ、ただちに42℃まで内温が上昇し、不均一だった溶液が均一溶液となった。この状態から更に2時間撹拌させ、加水分解を進行させた。この後、直管付滴下管よりメタノール分散シリカゾル(固形分濃度30%、平均粒径10〜20nm)200g(シリカ固形分60g)を投入し、更に液温20℃で3時間反応させ、青白色透明溶液631gを得た。このものの固形分濃度は21.9%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤9とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、2週間経過した時点でゲル化した。
【0052】
[比較例4]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル76g(0.5モル)、0.4%アンモニア水424gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させたところ、ただちに37℃まで内温が上昇し、不均一だった溶液が均一溶液となった。この状態から更に2時間撹拌させ、加水分解を進行させた。この後、直管付滴下管より水分散の塩基性シリカゾル(固形分濃度20%)150g(シリカ固形分30g)を投入し、更に液温20℃で3時間反応させ、青白色透明溶液649gを得た。このものの固形分濃度は9.9%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤10とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、2週間経過した時点でゲル化した。
【0053】
[比較例5]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル152g(1.0モル)、0.05N塩酸水304gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させたところ、ただちに42℃まで内温が上昇し、不均一だった溶液が均一溶液となった。この状態から更に2時間撹拌させ、加水分解を進行させた。無色透明溶液453gを得た。このものの固形分濃度は13.2%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤11とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、2週間経過した時点でゲル化した。
【0054】
[比較例6]
直管付滴下管、蛇管コンデンサ及び温度計を設けた1リットル−四つ口フラスコに、正珪酸メチル76g(0.5モル)、0.4%アンモニア水424gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させたところ、ただちに37℃まで内温が上昇し、不均一だった溶液が均一溶液となった。この状態から更に2時間撹拌させ、加水分解を進行させた。無色透明溶液497gを得た。このものの固形分濃度は6.0%であった。これをイソプロピルアルコールにて固形分濃度を3%に希釈したものを親水性コーティング剤12とした。このコーティング剤溶液を高密度ポリエチレン製広口瓶中で室温にて密閉保管したところ、2週間経過した時点でゲル化した。
【0055】
上記実施例及び比較例の親水性コーティング剤を用いて、下記形成方法により塗膜を形成し、下記評価方法により密着性、表面親水性、塗料の保存安定性を評価した。
【0056】
(塗膜の形成方法)
基材として、スライドガラスをイオン交換水、アセトン洗浄したものを用い、上記親水性コーティング剤をディップ法(10秒浸漬、引き上げ速度85mm/分)で塗工した。キュアーは室温下で1時間乾燥し、引き続き80℃で30分キュアーを行い、親水膜を形成させた。
【0057】
(評価方法)
(1)密着性:
上記で得られた塗膜の密着性を、JIS−K5400に記載された煮沸試験により評価した。
【0058】
(2)表面親水性(水に対する接触角測定):
協和界面科学(株)製接触角計:CA−X150型により測定した。接触角の測定は、0.2ccの蒸留水を上記で形成した塗膜表面に滴下した後、拡大カメラで観察することにより行った。接触角が小さい程、親水性が高いことを示す。測定は塗膜形成直後(初期)と劣化促進試験(60℃乾燥機内に1ヶ月放置)後の2点を測定して親水膜の持続性も評価した。
【0059】
(3)塗料の保存安定性:
調製した親水性コーティング剤を25℃で保管し、定期的に塗膜を形成し、親水性が発現するかどうかで評価した(親水性の判断:塗膜形成直後の水に対する接触角が30°以下である)。保管中の親水性コーティング剤が親水性を示さなくなった保管日数を調べた。
(1)〜(3)の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(A)一般式:Si(OR14(式中、R1は水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基である。)で示されるシリケートを、系に不溶な固体触媒存在下、水の量が(A)1molに対して2mol以上となるような量の水を含む溶媒中で加水分解を行い、(2)次いで、得られたシリケート加水分解物溶液に、(B)金属酸化物ゾル溶液を加え、更に加水分解・縮合させることを特徴とする親水性コーティング剤の製造方法。
【請求項2】
固体触媒が、酸性固体触媒であることを特徴とする請求項1記載の親水性コーティング剤の製造方法。
【請求項3】
(B)金属酸化物ゾル溶液の金属酸化物ゾルがシリカゾルであることを特徴とする請求項1又は2記載の親水性コーティング剤の製造方法。
【請求項4】
得られる親水コーティング剤中のシリケート由来の固形分及び金属酸化物ゾル由来の固形分からなる有効成分濃度が0.1〜30質量%、溶媒が99.9〜70質量%であり、溶媒が水及び親水性溶媒からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性コーティング剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で得られた親水性コーティング剤でコーティングされた表面親水性に優れた物品。

【公開番号】特開2009−280723(P2009−280723A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135360(P2008−135360)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】