説明

親水性シリコーンゴム部材

【解決手段】オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴムコンパウンドにセルロース誘導体粉体を分散させた親水性シリコーンゴム組成物を成形硬化してなる親水性シリコーンゴム部材。
【効果】本発明の親水性シリコーンゴム部材は、撥水性を有するシリコーンゴム表面を親水性に改質したものであり、乾燥時滑り性が無く、浸水後に水親和力が得られ、滑り性を発現するもので、相反する効果が得られるシリコーンゴムとして、使用利便性が高いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム表面が水に接触した場合に滑り性を発現することが可能な親水性シリコーンゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンゴムは、撥水性が有り、また摩擦係数も高く、表面滑り性が殆ど無いものであった。また、水に濡れても水をはじくため、滑り性が得られないものであった。
そして、これらの問題を解決するために、水溶性の成分を含有させる方法が提案されているが、水溶性の成分を含有させても水中で使用すると水に溶出してしまい、十分な効果が得られないという問題があった。
それらの問題に対して、下記特許文献1のようにセルロース等を表面にコートする試みがなされたが、はがれて脱落する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−082802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、水中で使用しても含有する成分が脱落や溶出することなく、水との接触により滑り性を発現する親水性シリコーンゴム部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、親水性シリコーンゴム組成物として、オルガノポリシロキサン、特にジメチルポリシロキサンを含むシリコーンゴムコンパウンドに、セルロース誘導体粉体を分散させてなる親水性シリコーンゴム組成物を用いることで、水に濡れてもセルロース誘導体粉体が溶出や脱落せずに滑り性を発揮する親水性シリコーンゴム部材が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、下記親水性シリコーンゴム部材を提供する。
請求項1:
オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴムコンパウンドにセルロース誘導体粉体を分散させた親水性シリコーンゴム組成物を成形硬化してなることを特徴とする親水性シリコーンゴム部材。
請求項2:
親水性シリコーンゴム組成物が、
(A)下記平均組成式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異なる非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.5<a<2.8を満たす数である。)
で表される平均重合度が100以上である硬化性オルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤、及び
(C)無機質充填剤
を含むシリコーンゴムコンパウンドに、セルロース誘導体粉体を分散させたものである請求項1記載の親水性シリコーンゴム部材。
請求項3:
セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドキシプロピルセルロース及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の親水性シリコーンゴム部材。
請求項4:
親水性シリコーンゴム組成物が、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンと無機質充填剤、又はジメチルポリシロキサンと無機質充填剤とウエッターとからなる透明又は半透明な未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物100質量部に、セルロース誘導体粉体1〜100質量部を添加、分散してなり、更に硬化剤を添加してなる親水性ジメチルシリコーンゴム組成物である請求項1〜3のいずれか1項記載の親水性シリコーンゴム部材。
請求項5:
乾燥時では滑り性が無く、浸水後滑り性を発現することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の親水性シリコーンゴム部材。
請求項6:
電気、電子、自動車、建築、医療、玩具又は釣り具用である請求項1〜5のいずれか1項記載の親水性シリコーンゴム部材。
【0007】
なお、本発明において、シリコーンゴムコンパウンドは、硬化剤を含有し、硬化可能な組成物を意味し、親水性シリコーンゴム組成物は、このシリコーンゴムコンパウンドにセルロース誘導体粒子を配合した組成物を意味し、シリコーンゴム配合物は、硬化剤を含有せず、またセルロース誘導体粒子を含有していない組成物を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の親水性シリコーンゴム部材は、撥水性を有するシリコーンゴム表面を親水性に改質したものであり、乾燥時滑り性が無く、浸水後に水親和力が得られ、滑り性を発現するもので、相反する効果が得られるシリコーンゴムとして、使用利便性が高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の親水性シリコーンゴム部材は、親水性シリコーンゴム組成物を成形・硬化することによって形成される。上記親水性シリコーンゴム部材を得るための親水性シリコーンゴム組成物としては、セルロース誘導体粒子が配合されたシリコーンゴムコンパウンドを用いる。
【0010】
シリコーンゴムコンパウンド
ここで、シリコーンゴムコンパウンドとしては、下記(A)、(B)成分を含有するものが好適に使用でき、更に下記(C)成分を含有することが強度を高めるために好ましい。
(A)下記平均組成式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異なる非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.5<a<2.8を満たす数であり、全R1中、0.001〜20モル%がアルケニル基及び/又はシクロアルケニル基である。)
で表される平均重合度が100以上であるオルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤、
(C)無機質充填剤。
【0011】
上記(A)成分は、平均重合度が100以上であることが成型性の点で好ましい。より好ましくは3,000〜100,000である。なお、平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均値である。また、R1の炭素数は1〜12が好ましく、より好ましくは1〜8である。R1としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、へキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、シアノエチル基等のハロゲン置換、シアノ基置換炭化水素基等が挙げられる。
【0012】
なお、各R1基はそれぞれ異なっていても同一でもよいが、組成物が付加反応硬化型又は有機過酸化物硬化型である場合、分子中に少なくとも2個のアルケニル基及び/又はシクロアルケニル基を有していることが好ましい。アルケニル基及び/又はシクロアルケニル基の含有量は、全R1中の0.001モル%以上20モル%以下とすることが好ましい。当該含有量が0.001モル%未満の場合は硬化性が劣る場合があり、20モル%を超えると硬化後のゴムが脆くなり、機械的強度が低下する場合がある。より好ましい下限値は0.01モル%であり、より好ましい上限値は10モル%である。上記オルガノポリシロキサンとしては、R1のうちのアルケニル基及び/又はシクロアルケニル基以外の基がメチル基であるもの、あるいはこのようなオルガノポリシロキサンのメチル基の一部をフェニル基、トリフルオロプロピル基等で置換したものが好ましい。
【0013】
また、(A)成分の分子鎖末端は、トリオルガノシリル基又は水酸基で封鎖されていることが好ましく、このトリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基等が例示される。
組成物が縮合反応硬化型の場合、(A)成分の分子鎖末端が水酸基又はメトキシ基等のアルコキシ基で封鎖されていることが必要である。
【0014】
aは1.5<a<2.8を満たす数とすることが、硬化後のゴム物性の点で好ましい。この範囲とすることで、硬度、伸び、機械的強度のバランスがとれた本発明の用途に好適なシリコーンゴムが得られる。aのより好ましい値は1.8〜2.5、更に好ましくは1.98〜2.02の範囲である。
【0015】
上記式(1)のオルガノポリシロキサンは、その分子構造が直鎖状であっても、あるいはR1SiO3/2単位やSiO4/2単位を含んだ分岐状であってもよいが、主鎖部分が基本的にR12SiO2/2のジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がR13SiO1/2のトリオルガノシロキシ単位で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンが一般的に使用できる。また、組成物が付加反応硬化型又は有機過酸化物硬化型である場合、分子中のアルケニル基及び/又はシクロアルケニル基は分子鎖末端あるいは分子鎖途中のケイ素原子のいずれに結合したものであっても、また両方に結合したものであってもよいが、硬化性、硬化物の物性等の点から少なくとも分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基及び/又はシクロアルケニル基を有するものであることが好ましい。
【0016】
(B)成分の硬化剤は、通常シリコーンゴムの硬化に使用されている公知の硬化剤の中から適宜選択することができる。即ち、本発明に用いる硬化性シリコーンゴム組成物の硬化タイプとしては、有機過酸化物硬化型(ラジカル反応硬化型)、付加反応硬化型、縮合反応硬化型等のいずれのものであってもよい。
有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物の場合には、公知の有機過酸化物、例えばジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物を(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部配合したものが使用される。
また、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の場合は、付加反応硬化剤として、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金系触媒を使用することができる。
更に、縮合反応硬化型シリコーンゴム組成物には、(D)シラノール基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンと(E)アルコキシ基、アセトキシ基、ケトオキシム基、プロペノキシ基等の加水分解性の基を2個以上有する有機ケイ素化合物からなる硬化剤が使用される。本発明においては、ラジカル反応及び/又は付加反応で硬化させることが好ましい。
【0017】
付加反応硬化剤について更に詳述すると、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体等や、これらの例示化合物において、メチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基、フェニル基等のアリール基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などで置換したもの等が挙げられる。
【0018】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、1分子中のケイ素原子の数、即ち重合度は2〜1,000、好ましくは3〜500、特に好ましくは3〜300程度のものを使用することができる。
【0019】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜50質量部、特に0.3〜30質量部とすることが好ましい。この場合、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基が(A)成分のアルケニル基及び/又はシクロアルケニル基1モルに対して0.5〜5モルとなる量であることが好ましい。また、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の触媒が硬化性シリコーンゴム組成物の1〜2,000ppmとなる量を使用することが好ましい。
【0020】
(C)成分の無機質充填剤は、シリコーンゴムの補強材として使用されるものであればどのような物質であってもよく、例えば、表面疎水化処理又は未処理の、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、焼成シリカ、ゾル−ゲル法シリカ、結晶性シリカ等が挙げられる。好ましくは、補強性シリカ微粉末であり、従来のシリコーンゴム組成物に使用されているものを使用できるが、特にはBET法による比表面積が50m2/g以上である補強性シリカ微粉末を用いる。特に比表面積が50〜800m2/gの沈澱シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ等が好適に使用される。ゴム強度を向上するにはヒュームドシリカが好適である。比表面積が50m2/g未満では補強効果が十分に得られない場合がある。
【0021】
また、上記補強性シリカ微粉末は、表面処理されたシリカ微粉末であってもよい。その場合、これらのシリカ微粉末は、予め粉体の状態で直接処埋されたものでもよい。通常の処理法として一般的周知の技術により処理でき、例えば、常圧で密閉された機械混練装置又は流動層に上記未処理のシリカ微粉末と処理剤を入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において室温あるいは熱処理にて混合処理する。場合により触媒を使用して処理を促進してもよい。混練後、乾燥することにより処理シリカ微粉末を製造し得る。
【0022】
処理剤の配合量は、その処理剤の被覆面積から計算される量以上であればよい。処理剤はへキサメチルジシラザン等のシラザン類、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、ポリメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等の有機ケイ素化合物が挙げられ、これらで表面処理し、疎水性シリカ微粉末として用いる。処理剤としては、特にシラン系カップリング剤又はシラザン類が好ましい。
【0023】
なお、無機質充填剤としては、上述したように、微粉末シリカ(表面疎水化処理又は未処理の、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、焼成シリカ、ゾル−ゲル法シリカ、結晶性シリカ等)、ケイソウ土、炭酸カルシウム等の補強性又は非補強性の無機質充填剤や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の熱伝導性無機質充填剤などから選ばれる1種又は2種以上の無機質充填剤が用いられる。
【0024】
無機質充填剤の配合量としては、ベースポリマー((A)成分のオルガノポリシロキサン)100質量部に対し、0〜100質量部とすることが好ましく、より好ましくは0〜60質量部、更に好ましくは10〜50質量部の範囲の配合量とすることができる。
【0025】
この場合、上記シリコーンゴムコンパウンドを構成するシリコーンゴム配合物としては、ビニル基等のアルケニル基を含有する又は分子鎖末端が水酸基もしくはアルコキシ基で封鎖された硬化性ジメチルポリシロキサン、該ジメチルポリシロキサンと無機質充填剤又は該ジメチルポリシロキサンと無機質充填剤とウエッターとからなる未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物を使用することが好ましい。
【0026】
未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物は、主剤(ベースポリマー)としてのビニル基等のアルケニル基を含有する又は分子鎖末端が水酸基もしくはアルコキシ基で封鎖された硬化性ジメチルポリシロキサンと、必要に応じて微粉末シリカ等の無機質充填剤と、この無機質充填剤に加えて更に必要に応じてウエッター(無機質充填剤を分散するための分散剤)を含有してなるもので、この配合物に硬化タイプに応じた硬化剤(あるいは架橋剤と硬化触媒)を適宜配合することができる。具体的には、未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物に、硬化剤(あるいは架橋剤と硬化触媒の組み合わせ)が配合された形態として、ジメチルシリコーンレジン組成物、ミラブル型ジメチルシリコーンゴム組成物、液状ジメチルシリコーンゴム組成物等が挙げられる。
【0027】
ウエッターとしては、ジフェニルシランジオールや分子鎖両末端シラノール基封鎖オルガノシロキサンオリゴマー等のシラノール基含有シラン及び/又はシロキサンオリゴマーなどが用いられる。また、ウエッターの配合量としては、ベースポリマー100質量部に対し、0〜25質量部とすることが好ましく、より好ましくは3〜20質量部、更に好ましくは5〜15質量部の範囲の配合量とすることができる。
【0028】
硬化方法としては、加熱硬化型、室温硬化型、紫外線硬化型、あるいはこれらを組み合わせたものから選択でき、また架橋形態としては、付加(ヒドロシリル化)架橋型、縮合架橋型、有機過酸化物架橋型から選択できる。
【0029】
未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物又はこれに硬化剤が配合されたものとしては、市場で一般に入手可能なものがそのまま使用できる。具体的には、例えばミラブル型シリコーンゴムコンパウンドKE−571−U、KE−1571−U、KE−951−U、KE−541−U、KE−551−U、KE−561−U、KE−961T−U、KE−1541−U、KE−1551−U、KE−941−U、KE−971T−U(いずれも信越化学工業(株)製)や、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物KE−1950−40A/B、KE−1950−50A/B、KE−1950−60A/B、KE−1950−70A/B、KEG−2000−40A/B、KEG−2000−50A/B、KEG−2000−60A/B、KEG−2000−70A/B(いずれも信越化学工業(株)製)や、高透明液状付加硬化型シリコーンゴム組成物KE−1935A/B、X−34−1931A/B(いずれも信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0030】
親水性シリコーンゴム組成物
本発明の親水性シリコーンゴム組成物は、上記シリコーンゴムコンパウンドにセルロース誘導体粉体を配合したものである。セルロース誘導体粉体としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の誘導体から選択される少なくとも1種を使用できる。
【0031】
また、本発明では、未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物100質量部に、セルロース誘導体粉体を1〜100質量部、好ましくは3〜70質量部、より好ましくは7〜60質量部、更に好ましくは10〜50質量部添加、分散させる。セルロース誘導体粉体が0.1質量部未満では十分な滑り性が発揮されない場合があり、100質量部を超えると親水性シリコーンゴム組成物の粘度が上昇して混練性が悪化し、ゴム強度が低下してしまうという不都合が生じる場合がある。
【0032】
本発明ではセルロース誘導体粉体粒子の平均粒径は1〜150μmであり、好ましくは1〜50μm、より好ましくは3〜20μm、更に好ましくは5〜16μmである。平均粒径が1μmよりも小さい微粒子では配合効率が低くなる場合があり、平均粒径が150μmよりも大きい粒子ではゴム物性が低下してしまうという不都合が生じる場合がある。なお、本発明においては、平均粒径の測定はレーザー光回折による粒度分布測定における累積重量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。
【0033】
このようなセルロース誘導体粉体としては、市販品を用いることができ、例えば、第一工業製薬製のカルボキシメチルセルロース(セロゲン)、ダイセル製のヒドロキシエチルセルロース(HEC)、信越化学工業(株)製のメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ)、ヒドキシプロピルセルロース(L−HPC)等が好適に使用できる。
【0034】
本発明に係る親水性シリコーンゴム組成物には、更にシリコーンゴム物性を損なわない範囲で様々な添加剤を配合することが可能である。例えば、帯電防止剤、着色剤、酸化防止剤等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。帯電防止剤は親水性シリコーンゴム成形物表面に静電気によるホコリが付着するのを防止するため、着色剤は親水性シリコーンゴム成形物に色彩を付与して意匠性を向上させるため、酸化防止剤はシリコーンゴムの酸化劣化による着色を抑制するためにそれぞれ配合するものである。
【0035】
本発明に係る親水性シリコーンゴム組成物に、配合できる帯電防止剤としては、カーボン、導電性亜鉛華、過塩素酸リチウムやアミドリチウム等のリチウム塩含有イオン導電剤、イミダゾリウム塩類やピリジニウム塩類等のイオン液体、アルコール誘導体、グリコール誘導体、グリセリン誘導体、ポリエーテル誘導体等が挙げられる。帯電防止剤としては、特にリチウム塩が好ましく、具体的には、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiSO349、LiC(SO2CF33、LiB(C654等が少量の添加で大きな帯電防止効果が認められる。
【0036】
上記帯電防止剤は1種類を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよいが、固体の帯電防止剤は親水性の性能を低下させない程度に帯電防止剤を用いることが好ましい。帯電防止剤を使用する場合の配合量は、シリコーンゴム配合物100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0037】
ここで、帯電防止レベルについては、スタチックオネストメーター(シシド静電気(株)製)等を用いて、親水性シリコーンゴム組成物を硬化して得られる成型物の表面に、コロナ放電により静電気をチャージした後、その帯電圧が半分になる時間を測定することによって評価することができる。本発明の帯電性レベルについては、上記半減期時間が2分以下、特に1分以下であることが好ましい。
【0038】
着色剤としては、縮合アゾ、イソインドリノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アンスラキノン、ジオキサジン、銅フタロシアニン、アリルアマイド等の有機顔料、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄(赤ベンガラ、黒ベンガラ)、群青、コバルトブルー、カーボン、バナジウム酸ビスマス等の無機顔料、アゾ、クロム錯体、コバルト錯体、フタロシアニン等の染料が挙げられるが、親水性シリコーンゴム組成物への分散性、着色力、色調安定性から有機顔料や無機顔料が好ましく用いられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。着色剤は、その多くが光透過を妨げる性質を持つことから、多量に配合すると全光線透過率を低下させてしまう。そこで、着色剤を使用する場合の配合量は、シリコーンゴム配合物100質量部に対し、0.0001〜0.1質量部が好ましく、より好ましくは0.001〜0.01質量部である。
【0039】
酸化防止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)等のヒンダードフェノール系化合物が例示され、これらは1種類を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤を使用する場合の配合量は、シリコーンゴム配合物100質量部に対し、0.001〜1質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1質量部である。
【0040】
本発明に係る親水性シリコーンゴム組成物の硬化条件としては、付加架橋では、通常、100〜180℃で3〜15分間、好ましくは120〜150℃で5〜10分間の条件でプレス成型又は常圧熱気加硫(HAV)することができ、必要に応じてその後150〜200℃で1〜4時間程度の2次硬化(ポストキュア)を施すのが好ましく、有機過酸化物架橋では、通常、120〜200℃で3〜15分間、好ましくは150〜180℃で5〜10分間の条件でプレス成型又は常圧熱気加硫(HAV)することができ、その後、必要に応じて150〜200℃で1〜4時間程度の2次硬化(ポストキュア)を施すのが好ましい。縮合架橋の場合、通常10〜50℃で10分〜3日間硬化させることが好ましい。
【0041】
本発明の親水性シリコーンゴム部材は、単独層でも使用できるが、必要に応じて片面又は両面にバックコート層、防振層、磁性層、帯電防止層、ハードコート層、導電層、反射防止層や粘着層等の1種又は2種以上の異なる層を設けてもよい。
また、表面に加工を施してもよく、状況に応じてブラスト処理、シボ処理、サンド処理、コロナ処理、プラズマ処理、エキシマレーザー処理等を行うこともよい。
【0042】
成型方法は、モールディングをする場合、注入成型、圧縮成型、射出成型、押出成型、トランスファー成型等が挙げられる。シーティングをする場合、カレンダー成型、押出成型、コーティング成型等が挙げられる。コーティングの場合、バーコーター、ブレードコーター、スピンコーター、ロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、ダイコーター、スプレー、スクリーン印刷等により支持体上に塗布し、乾燥することにより作製することができる。平面状に加工する場合は、カレンダー成型でシート化し、その後所要の大きさに打ち抜くことが好ましい。薄膜性が要求される場合は、コーティング方法を選択すればよい。その他状況に合わせて所要の形状を得るために上記成型方法から選択して成型を行うことができる。
【0043】
本発明に係る親水性シリコーンゴム部材は、水使用周りで使用する場合であって、滑り性が必要な用途に使用可能である、例えば、電気、電子、自動車、建築、医療、玩具、釣り具分野で使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
透明な未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物としてビニル基を含有するミラブル型ジメチルシリコーンゴムコンパウンドKE−571−U(信越化学工業(株)製、重合度が約5,000のジメチルポリシロキサンを主成分とし、BET法による比表面積が200m2/gの乾式シリカを40質量%以下、分子量700以下の両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー(シリカ分散剤)を10質量%以下含有し、コンパウンド中にフェニル基は含有していない)100質量部に、セルロース誘導体粒子としてメトローズ90SH−10万(信越化学工業(株)製商品名)を40質量部添加し、ニーダーで混練分散して乳白色の親水性ジメチルシリコーンゴム組成物ベースを得た。
【0046】
上記親水性ジメチルシリコーンゴム組成物ベース100質量部に、付加(ヒドロシリル化)反応系加硫剤C−25A/B(信越化学工業(株)製)をそれぞれ0.5/2.0質量部添加して二本ロールで混練した親水性ジメチルシリコーンゴム組成物を表面光沢のPETフィルムに挟み、厚さ2mmのシートが得られるような金型を用いて、120℃で10分間プレス成型してシートを得た。更に、このシートを200℃/4時間の2次加熱(ポストキュア)を行い、得られた硬化シートについて下記に示す評価方法により評価した。
【0047】
[実施例2]
実施例1の親水性ジメチルシリコーンゴム組成物ベース100質量部に、架橋剤として有機過酸化物系加硫剤C−8B(信越化学工業(株)製)1.0質量部を添加して二本ロールで混練し、実施例1と同様にプレス成型して得られた厚さ2mmの硬化シートを用いて実施例1と同様に各種評価を行った。
【0048】
[比較例1]
透明な未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物としてビニル基を含有するミラブル型ジメチルシリコーンゴムコンパウンドKE−571−U(信越化学工業(株)製、重合度が約5,000のジメチルポリシロキサンを主成分とし、BET法による比表面積が200m2/gの乾式シリカを40質量%以下、分子量700以下の両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー(シリカ分散剤)を10質量%以下含有し、コンパウンド中にフェニル基は含有していない)100質量部に、付加(ヒドロシリル化)反応系加硫剤C−25A/B(信越化学工業(株)製)をそれぞれ0.5/2.0質量部添加して二本ロールで混練したジメチルシリコーンゴム組成物を表面光沢のPETフィルムに挟み、厚さ2mmのシートが得られるような金型を用いて、120℃で10分間プレス成型してシートを得た。更に、このシートを200℃/4時間の2次加熱(ポストキュア)を行い、得られた硬化シートについて下記に示す評価方法により評価した。
【0049】
[評価方法]
乾燥時表面滑り性:乾燥状態のゴム表面を手で触り、滑り性の有無を判断した。
滑り性のあるものは×、無いものは○とした。
浸水後滑り性:水に1分浸水させた後、取り出して手で滑り性の有無を確認した。
滑り性のあるものを○、無いものを×とした。
再浸水後耐久性:上記で浸水させた後、再度10分間浸水させた後、取り出して手で滑り
性の有無を確認した。
滑り性のあるものを○、無いものを×とした。
浸水乾燥後滑り性:浸水させたゴムを80℃,1時間で乾燥させたもののゴム表面を手で
触り、滑り性の有無を判断した。
滑り性のあるものは×、無いものは○とした。
実施例1,2及び比較例1の評価結果を下記表に示す。
【0050】
【表1】

メトローズ:ヒドロキシプロピルメチルセルロース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴムコンパウンドにセルロース誘導体粉体を分散させた親水性シリコーンゴム組成物を成形硬化してなることを特徴とする親水性シリコーンゴム部材。
【請求項2】
親水性シリコーンゴム組成物が、
(A)下記平均組成式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異なる非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.5<a<2.8を満たす数である。)
で表される平均重合度が100以上である硬化性オルガノポリシロキサン、
(B)硬化剤、及び
(C)無機質充填剤
を含むシリコーンゴムコンパウンドに、セルロース誘導体粉体を分散させたものである請求項1記載の親水性シリコーンゴム部材。
【請求項3】
セルロース誘導体が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドキシプロピルセルロース及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の親水性シリコーンゴム部材。
【請求項4】
親水性シリコーンゴム組成物が、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンと無機質充填剤、又はジメチルポリシロキサンと無機質充填剤とウエッターとからなる透明又は半透明な未架橋ジメチルシリコーンゴム配合物100質量部に、セルロース誘導体粉体1〜100質量部を添加、分散してなり、更に硬化剤を添加してなる親水性ジメチルシリコーンゴム組成物である請求項1〜3のいずれか1項記載の親水性シリコーンゴム部材。
【請求項5】
乾燥時では滑り性が無く、浸水後滑り性を発現することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の親水性シリコーンゴム部材。
【請求項6】
電気、電子、自動車、建築、医療、玩具又は釣り具用である請求項1〜5のいずれか1項記載の親水性シリコーンゴム部材。

【公開番号】特開2012−219165(P2012−219165A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85296(P2011−85296)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】