説明

親水性多孔質基材

親水性多孔質基材、疎水性ポリマーから親水性多孔質基材を製造する方法が開示される。この方法は、1)間隙表面及びその他表面を有する多孔質ベース基材を提供する工程と、2)(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーと、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーと、任意に連鎖移動剤と、を含み、(a)及び/又は(b)のモノマーのうち少なくとも1つが親水性である第1の溶液で、多孔質ベース基材を飽和する工程と、3)多孔質ベース基材の表面に結合したグラフト化ポリマーを含む第1の官能化基材を形成するために、飽和した多孔質ベース基材を調整された量のガンマ線に曝露する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、親水性基材及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、親水性が改善されたポリマー基材が必要である。更に、当該技術分野においては、親水性が改善されたポリマー基材を疎水性ポリマーから作製する方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、親水性基材、及び、親水性基材を作製する方法に関するものである。更に具体的には、親水性基材は、必要な親水性をもたらすよう改質された、好ましくは多孔質の疎水性ベース基材を含む。
【課題を解決するための手段】
【0004】
親水性基材を作製する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この方法は、
1)好ましくは間隙表面及び外側表面を有するベース基材を提供する工程と、
2)(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーと、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーと、(c)任意に連鎖移動剤と、を含み、(a)又は(b)のモノマーのうち少なくとも1つが親水性である第1の溶液で、ベース基材を飽和する工程と、
3)ベース基材の表面に結合したグラフト化(コ)ポリマー基を含む官能化基材を形成するために、飽和した多孔質ベース基材を調整された量のガンマ線に曝露する工程と、を含む。
【0005】
本明細書に記載される方法は、より低用量のガンマ線(典型的にはeビームを用いる類似の方法の1/10)を用いて、親水性物品をより効率的に製造することができる。低いガンマ線束で生じるラジカルの持続時間は長くなるため、メタクリレートなどの反応性モノマーの使用をより少なくでき、低速でより効率的に重合して残留モノマー含量がより低くなる。即時法は、より低濃度のモノマーを使用することもできる。本明細書で用いるとき、「(メタ)アクリレート」は、特に定めのない限り、メタクリレート及びアクリレートを含む。
【0006】
(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有するモノマーの反応生成物を含む第1のグラフト化種と、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有するモノマーの重合反応生成物を含む第2種と、を含み、多孔質ベース基材の表面がガンマ照射に曝露される物品が提供される。(a)又は(b)のモノマーのうち少なくとも1つは親水性である。多孔質ベース基材にグラフトされずに残存する任意の遊離エチレン性不飽和基は、続いてガンマ線に曝露されると架橋及び/又は重合できる。
【0007】
方法及び物品に関して、モノマー(a)の(メタ)アクリレート基の全部又は一部は、ガンマ照射されるとベース基材の表面にグラフト化される。未反応の(a)及び(b)のモノマーを含む未グラフト化モノマーは、ガンマ線に曝露されると、伸長するポリマー鎖に続いて組み込まれることができる。(b)親水性モノマーの一部は、ガンマ線の曝露により、表面に直接グラフト化されても(例えばアクリレート基のグラフト化により)、又は成長するポリマー鎖に組み込まれてもよい。
【0008】
本発明のこれら及びその他の特徴及び利点は、以下の開示される実施形態の詳細な説明及び添付の請求項を検討すれば明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の物品及び方法では、親水性多孔質物品は、好ましくは連鎖移動剤の存在下において、ガンマ線開始型のモノマーグラフト化プロセスにより提供される。未グラフト化ベース基材と比較して、グラフトポリマー−官能化基材は、臨界濡れ表面張力で計測される親水性と、良好な流動速度を有する。親水性基材は、(1)間隙表面及び外側表面を有するベース基材、好ましくは多孔質ベース基材と、(2)(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基及び少なくとも1つの追加のフリーラジカル重合性基を有する1つ以上のモノマー、並びに任意に(b)少なくとも1つのフリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーの、ガンマ線開始型反応生成物と、を含むが、これらに限定されない多くの構成要素を含み、(a)又は(b)のモノマーのうち少なくとも1つは親水性である。好ましくは、モノマー混合物は連鎖移動剤を含み、得られるグラフト化ポリマーの分子量を制限する。
【0010】
ベース基材は、非多孔質又は多孔質であり得る。ベース基材は、フィルム、繊維、又はシートなどの任意の形状であってよい。基材は、ロール状又は円筒状などの様々な形状に組み込まれる。この実施形態に使用される多孔質ベース基材のいくつかは、多孔質、微小多孔性の不織布、又はこれらの組み合わせであることができる。1つの代表的な実施形態では、多孔質ベース基材は、典型的に約1マイクロメートル未満である平均孔径を有する微小多孔性ベース基材を含む。微小多孔性ベース基材は、多くの場合最初は疎水性であり、本明細書に記載される方法により親水性になる。
【0011】
好適な多孔質ベース基材としては、多孔質膜、多孔質不織布ウェブ及び多孔質繊維が挙げられるが、これらに限定されない。多孔質ベース基材は、任意の好適な熱可塑性ポリマー物質から形成されてもよい。適切なポリマー物質としては、ポリオレフィン、ポリ(イソプレン)、ポリ(ブタジエン)、フッ素化ポリマー、塩素化ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(スルホン)、ポリ(ビニルアセテート)、ビニルアセテートのコポリマー、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(ビニルアルコール)、及びポリ(カーボネート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
好適なポリオレフィンとしては、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(1−ブテン)、エチレンとプロピレンのコポリマー、αオレフィンコポリマー(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及び1−デセンとエチレン又はプロピレンのコポリマー)、ポリ(エチレン−コ−1−ブテン)及びポリ(エチレン−コ−1−ブテン−コ−1−ヘキセン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
好適なフッ素化ポリマーには、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンのコポリマー(例えばポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン))、及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマー(例えばポリ(エチレン−コ−クロロトリフルオロエチレン、ECTFE))が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
好適なポリアミドとしては、ポリ(イミノ(1−オキソヘキサメチレン))、ポリ(イミノアジポイルイミノヘキサメチレン)、ポリ(イミノアジポイルイミノデカメチレン)及びポリカプロラクタムが挙げられるがこれらに限定されない。好適なポリイミドとしては、ポリ(ピロメリトイミド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
好適なポリ(エーテルスルホン)としては、ポリ(ジフェニルエーテルスルホン)及びポリ(ジフェニルスルホン−コ−ジフェニレンオキシドスルホン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
好適な酢酸ビニルのコポリマーとしては、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)及び酢酸基の少なくとも一部が加水分解されて様々なポリ(ビニルアルコール)を生成するコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
いくつかの実施形態では、ベース基材は、プロピレンホモポリマー又はコポリマーから、最も好ましくはプロピレンホモポリマーから形成されている。非毒性、不活性、低コスト、及び、物品へ押し出し、成形、形成され得るような容易性といった特性から、ポリプロピレンポリマーは、多孔質物品、例えば不織布及び微小多孔性フィルムの選択材料となることが多い。しかしながら、ポリプロピレンは疎水性である。ポリプロピレンなどの疎水性ポリマーを親水性にするのが望ましいが、電離放射線で処理されたポリプロピレンは、照射中又は照射後に劣化、例えば脆化、変色、及び熱感受性化しやすく、したがって、ガンマ線開始型グラフト化によりこのような熱可塑性ポリマーに親水性を付与する能力が制限される。
【0018】
ポリプロピレンなどの放射線感受性基材に対して、本発明は、低線量のガンマ線を用いて一部の表面上に効率的にモノマーをグラフト化かつ重合することにより、このようなポリマー劣化を克服する。
【0019】
いくつかの実施形態では、多孔質ベース基材は、熱誘起相分離(TIPS)膜などの微小多孔性膜である。TIPS膜は、熱可塑性物質とその熱可塑性物質の融点を超える第二の物質との均質溶液を形成することによって調製される場合が多い。冷却すると、熱可塑性材料は結晶化し、第2の材料から相分離する。多くの場合、結晶化した熱可塑性材料を延伸する。第2の材料は、所望により伸長前又は後のいずれかに除去される。微小多孔性膜は、全て3M Company(St.Paul,MN)に譲渡された、米国特許第4,539,256号(Shipman)、同第4,726,989号(Mrozinski)、同第4,867,881号(Kinzer)、同第5,120,594号(Mrozinski)、同第5,260,360号(Mrozinskiら)、及び同第5,962,544号(Waller)、同第6,096,293号(Mrozinskiら)に更に開示されており、それぞれが参照することにより本明細書に組み込まれる。有用なECTFE膜は、米国特許第4,623,670号、同第4,702,836号、同第6,559,192号、同第7,247,238号、及びPCT出願US2009/067807号(Mrozinskiら)に従って調製できる。
【0020】
いくつかの例示的なTIPS膜は、ポリ(フッ化ビニリデン)(すなわちPVDF)、ポリエチレンホモポリマー若しくはコポリマー、又は、ポリプロピレンホモポリマー若しくはコポリマーなどのポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、及びブタジエン含有ポリマー若しくはコポリマーなどのビニル含有ポリマー若しくはコポリマー、並びにアクリレート含有ポリマー若しくはコポリマーを含む。幾つかの用途では、PVDFを含むTIPS膜が、特に望ましい。PVDFを含むTIPS膜は、米国特許第7,338,692号(Smithら)に更に開示されており、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0021】
その他の有用な微小多孔性基材として、対称膜、非対称膜、又はマルチゾーン膜、並びにこのような膜の多重層が挙げられる。対称膜は、その厚さ全体で、実質的に同一の気孔率及び平均孔径を有するものである。非対称膜は、主表面の一方で第1の平均孔径又は第1の気孔率を、主表面の反対側で第2の平均孔径又は第2の気孔率を有し、膜の厚さ全体で平均孔径又は気孔率が変化する膜である。マルチゾーン膜は、2つ以上の実質的に異なる厚さ方向ゾーン、又は異なる平均孔径若しくは異なる気孔率を有する層を有する膜である。マルチゾーン膜は、多くの場合、層又はゾーンの数で表される(例えば、2−ゾーン膜は、異なる平均孔径又は異なる気孔率を持つ、2つの実質的に異なるゾーンを有する)。有用な微小多孔性膜として、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidine fluoride)、ポリプロピレン、及びエチレン−トリクロロフルオロエチレン(ECTFE)から製造されるものが挙げられる。
【0022】
微小多孔性膜は、0.005〜10μm、好ましくは0.01〜1.5μmの範囲の孔径、及び10〜500μmの厚さを有してよい。他の実施形態では、微小多孔性基材は、15〜0.05μmの範囲の孔径勾配を有する非対称微小多孔性膜又はマルチゾーン微小多孔性膜から選択することができる。他の実施形態では、微小多孔性膜の多重層は、15〜0.05μm、好ましくは10〜0.5μmなど連続的に小さくなる気孔率、及び75〜1200μmの総厚さを有する各層を組み合わせて用いてよい。代表的なマルチゾーン膜は、同時係属の米国特許出願61/142056号に記載されており、参照することにより本明細書に組み込まれる。他の実施形態では、微小多孔性膜の多重層は、15〜0.05μm、好ましくは10〜0.5μmなど連続的に小さくなる孔径、及び75〜1200μmの総厚さを有する各層を組み合わせて用いてよい。
【0023】
別の実施形態では、多孔質ベース基材は不織布ウェブであり、不織布ウェブの製造のための周知のプロセスのいずれかにより製造される不織布ウェブを含んでよい。本明細書で使用するとき、用語「不織布ウェブ」は、マット状の層間に、不規則に及び/又は一定方向に入れられた個々の繊維又はフィラメントの構造を有する布地を意味する。
【0024】
例えば、繊維状不織布ウェブを、毛羽立て、エアレイド、スパンレース、スパンボンド、又はメルトブロー技術、又はこれらの組み合わせにより製造できる。典型的には、押し出される繊維の直径を有し、微細で通常は円形をした複数の紡糸口金の毛管から、溶融した熱可塑性ポリマーをフィラメントとして押し出し、急激に縮小させることにより形成された小径繊維である。メルトブロー繊維は、典型的には、溶融した熱可塑性物質を、融解した糸又はフィラメントとして、微細で通常は円形をした複数の金型(die)毛管を通して、溶融した熱可塑性物質のフィラメントを弱めてその直径を縮小させる高速の、通常は加熱されたガス(例えば、空気)の流れの中に押し出すことによって形成されている。その後、高速ガス流によって、メルトブロー繊維は移動され収集面上に堆積し、無作為に分散されたメルトブロー繊維のウェブを形成する。任意の不織布ウェブは、熱可塑性ポリマーの種類、その厚さ、又はそれら両方が異なる単一の繊維又は2つ以上の繊維から製造されてよい。
【0025】
本発明の不織布ウェブの製造方法についての更なる詳細は、Wente,Superfine Thermoplastic Fibers,48 INDUS.ENG.CHEM.1342(1956)又はWente et al.,Manufacture Of Superfine Organic Fibers(Naval Research Laboratories Report No.4364,1954)に見出され得る。
【0026】
官能化基材は、多孔質ベース基材の表面に結合したポリマー種を有し、この基材は、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマー、並びに、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーである共重合モノマー単位を含み、(a)及び(b)のモノマーのうち少なくとも1つが親水性である。ポリマーの分子量及び重合度は、モノマー溶液中の連鎖移動剤を用いて制御される。
【0027】
そのベース基材の表面にモノマーがグラフトされると、元々は疎水性のベース基材に、親水性表面が付与されることになる。親水性モノマー、つまり「(a)」又は「(b)」のいずれかを十分量で用いて、本明細書に記載されるように多孔質基材に湿潤性を付与する。いくつかの実施形態では、グラフト官能化ポリマーは、少なくとも70ダイン/cmの表面エネルギーを有するであろう。基材の表面エネルギーは、表面張力が増した一連のテスト溶液を、かかる高表面張力溶液が基材に浸透しなくなるまでサンプルに適用することによる、本明細書に記載する液滴浸透法を用いて測定できる。事前に用いた溶液の表面張力を、続いて基材の表面エネルギーとして記録する。
【0028】
ベース基材の表面にグラフトされる「(a)」モノマーは、ガンマ線によるグラフト化のための(メタ)アクリレート基、並びに、後続のガンマ線開始型重合及び架橋のための追加の(メタ)アクリレート基、又は非アクリレートフリーラジカル重合性エチレン性不飽和基の両方を有する。
【0029】
ガンマ照射に曝露されるとアクリレートはより高い反応性を示すため、多孔質基材表面へモノマーを直接グラフトするにはこのようなアクリレート基が好ましい。しかしながら、このようなアクリレート基の全てが直接グラフト(すなわち、ガンマ線開始型フリーラジカル重合により基材と共有結合を形成)されない場合もあり、一部は遊離状態で残存し、その後ガンマ線への曝露により伸長するポリマー鎖に組み込まれる。しかしながら、低いガンマ線束で生じるラジカルの持続時間は長くなるため、反応性メタクリレートモノマーの使用をより少なくでき、低速でより効率的に重合して残留モノマー含量がより低くなる。他のエチレン性不飽和基、例えば(メタ)アクリルアミド、ビニル及びビニルオキシ基、アリル及びアリルオキシ基、並びにアセチレン基は、ガンマ照射中の反応性が比較的低く、ベース基材に直接グラフトされる可能性は比較的低い。したがって、このような非アクリレート基の一部は、基材に直接グラフトされる場合もあるが、一部は未反応のまま残存し、その後ガンマ線開始型重合中にポリマー鎖に組み込まれる。
【0030】
「(a)」モノマーを多孔質ベース基材の間隙表面及び外側表面上に直接グラフトし、アクリレート基を介して必要なグラフト化エチレン性不飽和基を提供してよい。これらのエチレン性不飽和基については、(メタ)アクリレート基に加えてモノマー(a)のフリーラジカル重合性基は、典型的には(メタ)アクリルアミド、メタクリレート、ビニル基、及びアセチレン基などの、グラフト化中に低い反応性を有するその他エチレン性不飽和基であり、したがって、続くガンマ線開始型重合及び架橋のために遊離しており、かつ未反応である。
【0031】
ある基材について、(a)モノマーは、2つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有してよく、すなわちモノマーは、効率的なグラフト重合のためにアクリレート基を必要としない。例えば、PVDF又はECTFE基材は、反応性が低い(メタ)アクリルアミド、メタクリレート、ビニル基、及びアセチレン基などの非アクリレート基と効率的にグラフト化できる。特に、PVDF又はECTFE基材は、ジメタクリレートモノマーと効率的にグラフト化できる。これらの基材は、その表面上でラジカルを効率よく発生し、実存するラジカルは、低速反応性メタクリレート(methacylate)と反応するのに十分に安定であると考えられる。
【0032】
第2のグラフトモノマー「(b)」もまた、アクリレート基を介して基材の表面にグラフトされてよく、ベース基材の表面に親水性基を提供することができる。他の実施形態では、第2のモノマーはグラフト化工程中に反応性が低いエチレン性不飽和基を有してもよいが、その後、ガンマ線開始型重合中にフリーラジカル重合により組み込まれる。モノマー(a)及び(b)のうち少なくとも1つは親水性モノマーである。
【0033】
有用なグラフト「(a)」モノマーは、以下の一般構造を持つことができる。
【0034】
[CH=CR−C(O)−O]−R−Q−Z、I
式中、Zは(メタ)アクリレート又は非(メタ)アクリレートのエチレン性不飽和重合性基であり、
はH又はCHであり、
Qは、共有結合「−」、−O−、−NR−、−CO−、及び−CONR−から選択される二価結合基であり、ここでRは、H又はC〜Cアルキルであり、
は、価数a+bのアルキレン基であり、任意に1つ以上のカテナリー酸素原子及び/又は1つ以上のヒドロキシル基を含有し、a及びbはそれぞれ少なくとも1である。好ましくはZ基は、基材に直接グラフト化できる(メタ)アクリレートである。
【0035】
ある実施形態では、Rは、所望の親水性をもたらすポリ(アルキレンオキシド基)であり、以下の式を有する。
【0036】
Z−Q−(CH(R)−CH−O)−C(O)−CR=CH、II
式中、Zは(メタ)アクリレート又は非(メタ)アクリレートの重合性エチレン性不飽和基であり、
はH又はCHであり、
は、H又はC〜Cアルキル基であり、nは2〜100、好ましくは5〜20であり、Qは、共有結合「−」、−O−、−NR−、−CO−、及び−CONR−から選択される二価結合基であり、ここでRは、H又はC〜Cアルキルである。好ましくは、Z基は、ガンマ線開始型重合の際、ポリマー鎖に組み込まれる反応性が低い非アクリレートである。
【0037】
一実施形態では、ポリ(アルキレンオキシド)基((CH(R)−CH−Q)−で表される)は、ポリ(エチレンオキシド)(コ)ポリマーである。別の実施形態では、ペンダントポリ(アルキレンオキシド)基は、ポリ(エチレンオキシド−コ−プロピレンオキシド)コポリマーである。かかるコポリマーは、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、又はグラジエントコポリマーであってもよい。
【0038】
グラフト化のための第1(メタ)アクリレート基、後続のガンマ線開始型重合及び架橋のための第2エチレン性不飽和基「Z」を有する好適な親水性「(a)」モノマーとして、ポリエチレングリコール由来のものを含むポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート化モノマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
別の実施形態では、(a)モノマーは、少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、並びに、メタクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニル基、ビニルオキシ、アセチレン基、アリル及びアリルオキシ基から選択できる少なくとも1つの他のエチレン性不飽和重合性基を有する部分的に(メタ)アクリレート化したポリオールである。かかる部分的にアクリレート化したポリオールは、1つ以上の遊離ヒドロキシル基を有してよい。
【0040】
本発明で有用なポリオールとしては、約2〜18個の炭素原子及び2〜5個、好ましくは2〜4個のヒドロキシル基を有する、脂肪族、脂環式、若しくはアルカノール置換アレーンポリオール又はそれらの混合物が挙げられる。
【0041】
有用なポリオールの例には、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、キニトール、マンニトール、ソルビトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、及びポリアルコキシ化ビスフェノールA誘導体が挙げられる。
【0042】
最も好ましくは、「(a)」モノマーは、遊離ヒドロキシル基(親水性をもたらす)、及び3−(アクリルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(AcMac)などのメタクリレート基を有するグリセロールのジ(メタ)アクリレートである。別の有用な「(a)」モノマーは、ヒドロキシエチルメタクリレート及びアクリル酸(又はそのエステル若しくはハロゲン化アシル)の反応生成物である。
【0043】
1つの代表的な実施形態では、ガンマ線への曝露により、式IIのポリエチレングリコール(メタ)アクリレートモノマーとベース基材との反応の結果、グラフト化種が生じる。これらのグラフトモノマーは、ポリ(アルキレンオキシド)基の存在により疎水性多孔質ベース基材を親水性官能化基材に変化させるために使用することができる。生じる親水性基材は、即時湿潤性などの所望の特性を多数有することができる。
【0044】
「(a)」モノマーは、通常、1〜25重量%、好ましくは1〜15重量%、最も好ましくは1〜10重量%のモノマー溶液の量で用いられる。
【0045】
モノマー溶液は、少なくとも1つのアクリレート、又は他の反応性が低い非アクリレート性エチレン性不飽和基と、基材に親水性を提供するイオン基などの親水性基と、を含む、1つ以上の親水性「(b)」モノマーを含んでよい。「(a)」モノマーがグラフト化ポリマー基材に親水性を与えない場合、「(b)」モノマーが存在する。
【0046】
本明細書で用いるとき「親水性モノマー」は、曇点に達しないで、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも5重量%の水混和性(モノマー中の水分)を有する重合性モノマーで、グラフト重合を遅らせる官能基を含まない。
【0047】
あるいは親水性モノマーは、基材にグラフトされるとき、未グラフト化基材よりも少なくとも10ダイン、好ましくは少なくとも15ダイン大きい「臨界濡れ表面張力」(CWST)を与えるように選択してよい。ある好ましい実施形態では、親水性モノマーは、CWSTを70ダイン以上に上昇させるよう選択される。「臨界濡れ表面張力」(CWST)とは、多孔質媒質に吸収された液体の表面張力の平均値であり、吸収されていない液体の表面張力より若干高いものを意味する。基材の表面エネルギーは、表面張力が増した一連のテスト溶液を、かかる高表面張力溶液が基材に浸透しなくなるまでサンプルに適用することによる、本明細書に記載する液滴浸透法を用いて測定できる。事前に用いた溶液の表面張力を、続いて基材の表面エネルギーとして記録する。
【0048】
グラフト化コポリマーは、モノマー溶液中に0〜25重量%のかかるモノマー単位を含んでよい。存在する場合、グラフト化ポリマーは一般的に、1〜10重量%のかかるモノマー単位を含む。
【0049】
任意の第2の「(b)」モノマーが(メタ)アクリレート基を含有する場合、ベース基材の表面に直接グラフトされる場合がある。ラジカルが、基材の表面上で発生するグラフト化工程中に、非アクリレートエチレン性不飽和基を含有する場合、多くが未反応で残るが、伸長するポリマー鎖で形成されるラジカルにより、ガンマ線開始型重合工程中に組み込まれるであろう。(メタ)アクリレート基の全部又は一部は、多孔質基材に直接グラフトされることができ、一部は未反応であるが、ガンマ照射によりポリマー内に組み込まれると理解される。逆に、反応性が低い他のエチレン性不飽和基の一部は直接グラフトされることができるが、一般にこのような基は、最初のグラフト化工程中に大部分が未反応のまま残存し、最終的に継続するガンマ線開始型重合によりポリマーに組み込まれる。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態では、「(a)」及び「(b)」のモノマーのエチレン性不飽和基は、互いに効率良く共重合するよう選択される。つまり、「(a)」及び「(b)」の各モノマーが同一のエチレン性不飽和重合性基を有することが好ましい。
【0051】
親水性「(b)」モノマーのイオン基は中性であってよく、正電荷、負電荷、又はこれらの組み合わせを有することができる。幾つかの好適なイオンモノマーの場合、イオン性基は、pH条件により中性又は帯電されていてよい。第2モノマーに加えて、典型的にこの種のモノマーを用い、多孔質ベース基材に所望の親水性を付与する。
【0052】
いくつかの実施形態では、負電荷を有するイオン性モノマーとしては、式IIIの(メタ)アクリルアミドスルホン酸又はその塩が挙げられる。
【0053】
【化1】

【0054】
式中、Yは直鎖状又は分枝状アルキレン(例えば、1〜10個の炭素原子、1〜6個の炭素原子、又は1〜4個の炭素原子を有するアルキレン)であり、RはH又はCHであり、Lはオキシ又は−NR−であり、ここでRはH又はC〜Cアルキルである。式Iに従った代表的なイオン性モノマーとしては、N−アクリルアミドメタンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、及び2−メタクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酸性モノマーの塩も使用することができる。塩に対する対イオンは、例えば、アンモニウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、又はナトリウムイオンであってよい。式IIIについて、続く組み込みのために、グラフト化アクリレート基を反応性が低い別のエチレン性不飽和基に置き換えられると理解される。
【0055】
負電荷を有する他の好適なイオン性グラフトモノマーとしては、ビニルスルホン酸及び4−スチレンスルホン酸などのスルホン酸、(メタ)アクリルアミドアルキルホスホン酸(例えば、2−(メタ)アクリルアミドエチルホスホン酸及び3−(メタ)アクリルアミドプロピルホスホン酸)などの(メタ)アクリルアミドホスホン酸、アクリル酸及びメタクリル酸、並びに、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート及び3−カルボキシプロピル(メタ)アクリレートなどのカルボキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。好適な更なる他の酸モノマーには、米国特許第4,157,418号明細書(ヘイルマン(Heilmann))に記載されたものなどの(メタ)アクリロイルアミノ酸が挙げられる。代表的な(メタ)アクリロイルアミノ酸には、N−アクリロイルグリシン、N−アクリロイルアルパラギン酸、N−アクリロイル−β−アラニン、及び2−アクリルアミドグリコール酸が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酸モノマーの任意の塩も用いることができる。
【0056】
正電荷を与えることのできるいくつかの代表的なイオン性グラフトモノマーは、式IVのアミノ(メタ)アクリレート又はアミノ(メタ)アクリルアミド、又はそれらの第四級アンモニウム塩である。第四級アンモニウム塩の対イオンは、多くの場合、ハロゲン化物、硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩等である。
【0057】
【化2】

【0058】
式中、Lはオキシ又は−NR−であり、ここでRはH又はC〜Cアルキル−であり、RはH又はCHであり、Yはアルキレン(例えば、1〜10個の炭素原子、1〜6個、又は1〜4個の炭素原子を有するアルキレン)である。各Rは独立して、水素、アルキル、ヒドロキシアルキル(すなわち、ヒドロキシで置換されているアルキル)、又はアミノアルキル(すなわち、アミノで置換されているアルキル)である。あるいは、2個のR基は、これらが結合する窒素原子と一緒になって、芳香族であって部分的に不飽和(すなわち、不飽和ではあるが芳香族ではない)、又は飽和である複素環基を形成でき、この場合、複素環基は任意に、芳香族(例えばベンゼン)、部分的に不飽和(例えばシクロヘキセン)、又は飽和(例えばシクロヘキサン)である第2の環と融合することができる。
【0059】
式IVについて、続くガンマ線開始型重合中の組み込みのために、グラフト化アクリレート基を反応性が低い別のエチレン性不飽和基、例えばメタクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニル、ビニルオキシ、アリル(ally)、アリルオキシ(alloxy)、及びアセチレニルに置き換えられると理解される。
【0060】
式IVのいくつかの実施形態では、R基は両方とも水素である。他の実施形態では、1個のR基は水素であり、他方は、1個〜10個、1個〜6個又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキルである。更に他の実施形態では、R基の少なくとも1個は、アルキル基の炭素原子のいずれかの上に配置されているヒドロキシ基又はアミノ基とともに1個〜10個、1個〜6個、又は1個〜4個の炭素原子を有しているヒドロキシアルキル又はアミノアルキルである。更に他の実施形態では、R基は、この基が結合している窒素原子と結びついて複素環式基を形成する。複素環式基は、少なくとも1つの窒素原子を含み、酸素又は硫黄などの他のへテロ原子を含有することができる。代表的な複素環式基としては、イミダゾリルが挙げられるがこれに限定されない。複素環式基は、ベンゼン、シクロヘキセン又はシクロヘキサンなどの追加の環に結合されてもよい。追加の環に結合される代表的な複素環式基としては、ベンゾイミダゾリルが挙げられるがこれに限定されない。
【0061】
代表的なアミノアクリレート(すなわち、式IVのLがオキシ)としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート(acylate)、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N−第三−ブチルアミノプロピルメタクリレート、N−第三−ブチルアミノプロピルアクリレート、及びその他同種のものなどのN,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレートが挙げられる。
【0062】
後続のガンマ線開始型重合中に組み込まれるであろう代表的なアミノ(メタ)アクリルアミド(すなわち、式IVのLが−NR−)としては、例えば、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド、N−(3−アミノプロピル)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−イミダゾリルプロピル)メタクリルアミド、N−(3−イミダゾリルプロピル)アクリルアミド、N−(2−イミダゾリルエチル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−イミダゾイルプロピル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−イミダゾイルプロピル)アクリルアミド、N−(3−ベンゾイミダゾリルプロピル)アクリルアミド、及びN−(3−ベンゾイミダゾリルプロピル)メタクリルアミドが挙げられる。
【0063】
式IVのイオン性モノマーの代表的な四級塩類としては、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩類(例えば、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及び3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)及び(メタ)アクリルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩類(例えば、2−アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及び2−アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0064】
グラフト化ポリマーに正に帯電した基を付与することができる他のモノマー類としては、アルケニルアズラクトン類のジアルキルアミノアルキルアミン付加物類(例えば、2−(ジエチルアミノ)エチルアミン、(2−アミノエチル)トリメチルアンモニウムクロライド及びビニルジメチルアズラクトンの3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン付加物類)並びにジアリルアミンモノマー類(例えば、ジアリルアンモニウムクロライド及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド)が挙げられる。
【0065】
いくつかの好ましい実施形態では、第2の親水性「(b)」モノマーは、(メタ)アクリレート基又は反応性の低い他のエチレン性不飽和基と、ポリ(アルキレンオキシド)基とを有してもよく、例えばモノ(メタ)アクリレート化ポリ(アルキレンオキシド)化合物であり、ここで、末端はヒドロキシ基又はアルキルエーテル基である。かかるモノマーは、以下の一般式である。
【0066】
−O−(CH(R)−CH−O)−C(O)−C(R)=CH、V
式中、各Rは、独立してH又はC〜Cアルキルである。
【0067】
更に詳細を以下に記載するように、本発明の官能化基材は上記モノマーを用いて調製され、ベース基材の表面に親水性を提供することができる。多孔質ベース基材の表面特性を改質するために、上記モノマーの2つ以上が使用されるとき、モノマーは、単一反応工程(すなわち、2つ以上のグラフトモノマーは全て、ガンマ線への曝露時に存在する)又は逐次反応工程(すなわち、第1のグラフトモノマー「(a)」は、ガンマ線への第1の曝露時に存在し、第2のグラフトモノマー「(b)」は、ガンマ線への第2の曝露時に存在する)で多孔質ベース基材上にグラフト化されてもよい。同様に、これらモノマー(a)及び(b)の全てを第1グラフト化工程中に存在させて直接的にグラフトしてもよく、又は後続のガンマ線開始型重合中に組み込んでもよい。別の方法としては、かかるモノマー類の全部又は一部を第1工程で、又は後続の飽和工程で、基材により吸収させてもよい。
【0068】
グラフト化ポリマーは、表面改質する前に疎水性特性を有する多孔質ベース基材が含まれる官能化基材に親水性特性を付与する。官能化基材の親水性特性は、ガンマ線曝露開始型重合により、多孔質ベース基材と、親水性基を含有する「(a)」及び「(b)」のモノマーとの反応によって得られる。
【0069】
上述のように、「(a)」モノマーの全部又は一部が、基材に直接グラフトされるであろう。その後、追加の「(b)」モノマーが続いて組み込まれ得る。追加のモノマーは、「(a)」モノマーのペンダントエチレン性不飽和基を介してグラフト化され得る。式Iを参照としてこれを説明することができるが、ここでは引き続いて、式Vの親水性「(b)」モノマーが後にガンマ線開始型重合中に組み込まれる。
【0070】
【化3】

【0071】
式中、
Zはアクリレート又は非アクリレートのエチレン性不飽和重合性基であり、
はH又はCHであり、
Qは、共有結合「−」、−O−、−NR−、−CO−、及び−CONR−から選択される二価結合基であり、ここでRは、H又はC〜Cアルキルであり、
は、価数a+bのアルキレン基であり、任意に1つ以上のカテナリー酸素原子及び/又は1つ以上のヒドロキシル基を含有し、a及びbはそれぞれ少なくとも1である。当然のことながら、「(a)」モノマーのアクリレート基のうち1つは、基材の表面にグラフトされる。グラフト化「(a)」モノマーが2つ以上のアクリレート基を有する(式Iの下付き文字が2以上)場合、グラフト化モノマーは、更に重合又は架橋され得る「a−1」ペンダントアクリレート基と、追加の「(a)」及び/又は「(b)」モノマーと更に重合するための少なくとも1つのエチレン性不飽和「Z」基とを有するであろう。
【0072】
更に、ガンマ線開始型重合グラフト化プロセスは、式I又はIIの親水性モノマーのカルボニルのα炭素上にラジカルを有するラジカル種を生じ、1つ以上の追加の「(a)」及び/又は「(b)」モノマーと更に重合でき、以下に簡潔に示すような、ポリマー鎖から懸垂されるこれらの基を有するグラフト化ポリマーをもたらすと理解される。グラフト化ポリマー鎖の形成により、所望のリガンド基の密度、及び結合効率が著しく上昇する。
【0073】
基材−(M−(M−VII
この式では、−(M)−は、xが少なくとも1、好ましくは少なくとも2である重合モノマー単位「x」を有する、式I又はIIのグラフト化「(a)」モノマーの残基を示す。−(Mは、yがゼロであってよく、好ましくは少なくとも1である重合モノマー単位yを有する、重合「(b)」モノマー(例えば式III又はIV)を表す。かかる「(a)」及び「(b)」のモノマーのうち少なくとも1つは親水性である。式IIの「(a)」モノマーが選択される場合、親水性「(b)」モノマーは任意である。前述したように、下付き文字x及びyは、各モノマー単位の重量パーセントに相当する。
【0074】
式VIIのグラフト化ポリマーについて、「(a)」モノマーの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基が基材の表面にグラフトでき、同じ若しくは別のポリマー鎖に架橋でき、又は追加のペンダントポリマー鎖が伸長するであろう位置として機能できると理解される。更に、グラフト化ポリマーは、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーであってよいことが理解される。
【0075】
「(a)」モノマーが親水性でない場合は、「(b)」モノマーが、得られるポリマーを親水性にするために存在する。ポリマーはランダム又はブロックでよく、2つの重合性基(アクリレート及び「Z」基)を有する「(a)」モノマーがポリマー鎖間に架橋をもたらしてもよい。任意のペンダント未反応(メタ)アクリレート基又はZ基は、追加の「(a)」又は「(b)」モノマーとの重合点として機能することができる。
【0076】
上記親水性基材は、プロセス工程の組み合わせを使用して調製されてもよい。本方法は、
1)ベース基材、好ましくは間隙表面及び外側表面を有する多孔質ベース基材、を提供する工程と、
2)(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーと、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーと、連鎖移動剤と、を含み、(a)及び/又は(b)のモノマーのうち少なくとも1つが親水性であるモノマー溶液で、ベース基材を飽和する工程であって、この飽和工程が、単一の溶液又は複数の溶液を含んでよい工程と、
3)ベース基材の表面に結合したグラフト化ポリマーを含む第1の官能化基材を形成するために、飽和した多孔質ベース基材を調整された量のガンマ線に曝露する工程と、を含む。
【0077】
上記方法に関して、かかる基材は、「(a)」モノマーと、任意に「(b)」モノマーと、を含む第1の溶液で飽和されてよく、この後ガンマ線に曝露され、グラフト重合、後続の重合及び架橋が開始される。別の方法としては、この方法は、最初にベース基材を「(a)」モノマーで飽和する工程と、飽和基材をにガンマ線に曝露し、基材の表面に「(a)」モノマーをグラフトする工程と、後続のグラフト化多孔質ベース基材を「(b)」モノマーを含む第2のモノマー溶液で飽和する工程と、次いで飽和基材にガンマ線を曝露し、基材に「(b)」モノマーを組み込む工程と、を含んでよい。
【0078】
モノマー溶液は、好ましくは連鎖移動剤を含有し、得られるポリマーの分子量を調整する。これらは、形成するポリマーの重合プロセスを終了させるように作用し、その結果、含む場合よりもポリマーの鎖長は短くなり、低分子量となる。一般には、より多くの連鎖移動剤を添加すると、得られるポリマーの分子量はより小さくなる。
【0079】
連鎖移動剤の非存在下では、モノマー混合物のグラフト重合により、著しく流動性を低下させ得ることがわかっている。微小多孔性基材、特に約0.8マイクロメートル未満の平均孔径を有するものは、連鎖移動剤の非存在下でグラフト化ポリマーがはめ込まれると考えられている。一般には、微小多孔性基材の孔径が小さくなるほど、グラフト後の流動速度が大きくなる。このような剤は、0.8マイクロメートルを超える孔径を有する多孔質基材には、通常必要とされない。
【0080】
有用な連鎖移動剤の例としては、四臭化炭素、アルコール、メルカプタン及びこれらの混合物からなる群から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい連鎖移動剤は、イソプロパノール、イソオクチルチオグリコレート、及び四臭化炭素などのアルコールである。モノマー溶液は、全モノマー混合物の100重量部に基づいて、0.5重量部までの、典型的には約0.02〜約0.15重量部、好ましくは約0.02〜約0.1重量部、最も好ましくは0.03〜約0.07重量部の連鎖移動剤を含んでもよい。連鎖移動剤を用いてグラフト化ポリマーの鎖長を制御するとき、重合度が2〜250、好ましくは10〜100となる量で用いてもよい。
【0081】
モノマー溶液は、1つ以上の有機溶媒を更に含む。モノマーが溶解し、基材表面及びグラフトモノマーに対して非反応性であるように、溶媒を選択しなくてはならない。更に、溶媒は基材を実質的に膨張させてはならない。有用な溶媒は一般に、重合を抑制し得る三級水素原子を有さない。この目的で添加される有用な溶媒(典型的には揮発性有機化合物である)の例として、ケトン、三級アルコール、エーテル、エステル、アミド、炭化水素、塩化炭化水素、クロロカーボン、及びこれらの混合物からなる基から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。これらは、真空加熱により反応終了時に除去されることが多い。
【0082】
一般には、モノマー溶液は、(a)1〜25重量%、好ましくは1〜10重量%の「(a)」モノマーと、(b)0〜25重量%、好ましくは1〜10重量%の親水性「(b)」モノマーと、(c)全モノマー混合物の100重量部に基づいて0.5重量部までの連鎖移動剤と、(d)溶媒と、を含む。モノマー溶液中のモノマーの総濃度は、モノマー溶液中のグラフトモノマー又はモノマー、所望のグラフトの程度、グラフトモノマーの反応性、及び使用される溶媒を含むがこれらに限定されない多くの要因により可変であってよい。典型的には、モノマー溶液中のモノマーの総濃度は、モノマー溶液の総重量に基づいて、約1重量%〜約50重量%、望ましくは約5重量%〜約30重量%、より望ましくは約10重量%〜約20重量%の範囲である。
【0083】
グラフト化基材を調製するプロセスは、ベース基材、好ましくは間隙表面及び外側表面を有する多孔質基材を提供する工程と、(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーと、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーと、好ましくは連鎖移動剤と、を含み、「(a)」及び「(b)」のモノマーのうち少なくとも1つが親水性である溶液で、ベース基材を飽和する工程と、ベース基材の表面に結合したグラフト化ポリマーを含む第1の官能化基材を形成するために、飽和した多孔質ベース基材を調整された量のガンマ線に曝露する工程と、を含む。
【0084】
即時法では、照射工程の前に基材をモノマー溶液で飽和する。一般に、照射工程の直前に、照射された基材をモノマー溶液で飽和する。一般に、照射された基材は、1時間以内、好ましくは10分以内に飽和される。基材を照射した後にグラフトモノマーで飽和される場合、グラフト化物品の性能は即時法で調製された物品より劣ることが観察されている。
【0085】
飽和工程では、基材は、1つ以上のグラフトモノマーを前述の量で含有するモノマー溶液と接触する。好適な飽和方法には、スプレーコーティング、フラッドコーティング、ナイフコーティング、Meyerバーコーティング、ディップコーティング及びグラビアコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
ラジカル部位において、グラフトモノマーと重合を開始するのに十分な時間、モノマー溶液を照射された基材と接触した状態にしておく。モノマー溶液で飽和されるとき、グラフト反応は2〜15kGyの曝露後にほぼ完了する。その結果、基材は、基材の表面に結合されるグラフト化ポリマー及び/又はコポリマーを含む。
【0087】
上述したように、モノマー溶液は、不織布基材上にグラフトするのに好適な1つ以上のグラフトモノマーを含んでよい。上述のいずれかの代表的なグラフトモノマーを溶液に含むことができる。記載のグラフトモノマーに加え、モノマー溶液は、例えば、1つ以上の他の非グラフトモノマー、界面活性剤、染料、色素、及び溶媒などのその他物質を含有することができる。
【0088】
第2の工程において、基材は不活性雰囲気下でガンマ線に曝露される。一般に、基材は酸素をパージしたチャンバ内に置かれる。典型的には、チャンバは、フリーラジカル重合を阻害することが知られている最小量の酸素とともに、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気を含む。あるいは、サンプルを、別の容器内に真空密封しても、又は酸素不透過性フィルム間に挟んでもよい。好ましくは、サンプルはトラップした気体を含まない。
【0089】
照射工程は、ガンマ線で基材表面を電離照射し、モノマーが続いてグラフトされるかかる表面にフリーラジカル反応部位を調製することを含む。「電離放射線」は、ベース基材の表面上にフリーラジカル反応部位の形成を引き起こすのに十分な線量及びエネルギーの放射線を意味する。放射線は、十分に高エネルギーであり、そのため、ベース基材の表面により吸収されるとエネルギーがその基材に移動して、支持体内の化学結合の開裂を生じ、結果として基材上にフリーラジカル部位が形成される。基材の1つ以上の層を電離放射線にさらしてよい。基材の表面に生じたフリーラジカル部位の平均寿命は数分から数時間であり、グラフトモノマーの非存在下では、約10時間以内に濃度ゼロまで次第に減衰する。
【0090】
高エネルギー放射線量は、キログレイ(kGy)で測定される。線量は、所望のレベルの単一線量で、又は累積すると所望のレベルになる複数線量で、管理されることができる。線量は、累積的に約1kGy〜約15kGyの範囲であってよい。いくつかの実施形態では、放射線による損傷に抵抗性がある基材において、累積線量がこの値を超えてよい。
【0091】
照射工程では、基材の表面上にフリーラジカルを形成するため、十分量の電離放射線に基材を曝露する。チャンバは、十分な線量の放射線を提供可能な少なくとも1つの線源を備えることができる。単一の線源は、十分な線量の放射線を提供可能であるが、2つ以上の線源及び/又は単一の線源からの多重路を用いてもよい。
【0092】
一般に、酸素はフリーラジカル重合を阻害するため、飽和基材は、窒素又は別の不活性ガスを用いて酸素をパージされる(例えば2分間以上)。このパージにより、所望の時間内での重合及び高い変換率を促進することができる。相当量の酸素が存在した場合、パージなしで同程度の重合度を達成するには、より高い線量率又はより長い曝露時間を必要とする。しかしながら、基材を隔離し照射中の酸素付加を排除する際は、パージは必要ではない。例えば、基材を酸素バリアフィルム間に挟むことができる。
【0093】
ガンマ照射は、eビームよりも効率的な線源であり、非常に低い線量ですむことがわかっている。eビーム照射は、ガンマと比べて非常に高い流動速度を有するため、その結果、ラジカル停止の程度が高い。同線量では、eビームは、はるかに多い量の非グラフト化ポリマーをもたらす。
【0094】
一実施形態では、飽和基材全体をガンマ線源に近接して置く。好ましくは、線源又は物質の位置を変えるか、又は照射中に物質を激しく動かすかのいずれかによる、実質的に均一な方法で飽和基材を照射する。一般には、ガンマ線源における線量率は、照射時線源強度及び線源から標的(例えば飽和基材)までの距離により決定される。
【0095】
一般に、好適なガンマ線源は、400keV(6.41×10−14J)以上のエネルギーを有するガンマ線を放出する。典型的には、好適なガンマ線源は、500keV(8.01×10−14J)〜5MeV(8.01×10−13J)の範囲のエネルギーを有するガンマ線を放出する。好適なガンマ線源の例として、コバルト−60アイソトープ(約1.17及び1.33MeVのほぼ同等の割合のエネルギーを有する光子を放出する)、及びセシウム−137アイソトープ(約0.662MeVのエネルギーを有する光子を放出する)が挙げられる。線源からの距離は、標的又は線源の位置を変えることにより、修正又は変化させることができる。線源から放出されるガンマ線の線束は、線源からの距離の2乗、及びアイソトープの半減期により決定される持続時間に伴って、一般に減衰する。
【0096】
いったん線量率が定められると、長期間にわたって吸収線量が蓄積する。この期間中、飽和基材が動く、又は別の吸収物が線源とサンプルとの間を通過する場合、線量率は可変である。いかなる特定の機器及び照射サンプル位置であろうとも、放出される線量は、「Practice for Dosimetry in a Gamma Irradiation Facility for Radiation Processing」と題するASTM E−1702により測定することができる。線量は、GEX B3薄膜線量計を用い、「Practice for Use of a Radiochromic Film Dosimetry System」と題するASTM E−1275により決定してよい。
【0097】
線量は、質量単位あたりの吸収されるエネルギーの総量である。線量は、通常はキログレイ(kGy)で表す。グレイは、質量キログラムあたり1ジュールのエネルギーを供給するのに必要な放射線量と定義される。飽和基材により受け取られる総線量は、線源活性、滞留時間(すなわち、サンプルが照射される総時間)、線源からの距離、及び線源とサンプルとの間の介在物質の横断面による減衰などの多くのパラメーターに依存する。線量は、典型的には、滞留時間、線源までの距離、又はその両方を制御することにより調整される。
【0098】
飽和基材により受け取られる総線量は、重合及び架橋の程度に影響し得る。一般に、少なくとも80重量%の「(a)」、「(b)」モノマーをポリマーに変換することが望ましい。好ましくは、少なくとも95重量%の「(a)」及び「(b)」のモノマーがポリマーに変換される。重合に必要な線量は、例えば、飽和基材に用いられる材料、所望の特性、架橋剤の存在又は非存在及びその量、連鎖移動剤の存在及びその量、フリーラジカル阻害剤の存在及びその量又は溶存酸素などの存在するフリーラジカルスカベンジャー、並びに所望の特性などの様々な要因に依存する。
【0099】
一般に、約1〜15kGyの範囲の線量が好ましいことがわかった。特に、実施例で用いられる線量率である約3〜10kGyの線量が、幅広い用途に好適な親水性ポリマーグラフト化基材を得るのに十分であることがわかった。任意の特定絵の組成物に要求される総線量は、線量率に応じて可変であるだろう。
【0100】
線量率が高くなると、典型的には、連鎖停止がより早くなり、より多くの未グラフト化ポリマーが形成される。したがって、線量率を、特定の組成物に対する所望の特性に基づいて選択してよい。線量率は、典型的には、0.0005kGy/秒〜0.005kGy/秒の範囲内である。
【0101】
飽和基材が所望の線量に照射した後に、基材を持つグラフト化ポリマー基を任意にすすぎ及び/又は加熱してよい。任意のすすぎ工程において、官能化不織布基材を1回以上洗浄し又はすすぎ、任意の未反応モノマー、未グラフト化ポリマー、溶媒、又はその他反応副生成物を除く。典型的には、水リンス剤、アルコールリンス剤、水及びアルコールリンス剤の組み合わせ、並びに/又は溶媒リンス剤(例えばアセトン、メチルエチルケトンなど)を用いて、官能化基材を3回まで洗浄又はすすぎを行う。アルコールリンス剤を使用する時、リンス剤には、イソプロパノール、メタノール、エタノール又は使用して実用的である全ての他のアルコール及び全ての残留モノマーに有効な溶媒を挙げることができるがこれらに限定されない。それぞれのすすぎ工程では、官能化基材は、すすぎ浴を通すか、又はすすぎ液を噴霧してもよい。
【0102】
任意の乾燥工程では、官能化基材を乾燥し、任意のすすぎ溶液を除去する。典型的には、官能化基材を、比較的低いオーブン温度のオーブン内で、所望の時間乾燥する。オーブン温度は、典型的に約60℃〜約120℃の範囲であるが、一方、オーブン滞留時間は、典型的に約120〜約600秒の範囲である。任意の従来のオーブンを任意の乾燥工程で用いてよい。他の実施形態では、乾燥工程を、すすぎ工程の前に行うことができ、未グラフト化残基の抽出前に揮発性成分を除去する点にも留意するべきある。任意の乾燥工程の後に、乾燥した官能化基材をロール形状に巻き取り、将来用いるために保管することができる。
【0103】
1つの代表的な実施形態では、グラフト官能化基材は、1つ以上のグラフトモノマーと、好ましくは溶媒中に連鎖移動剤と、を含む第1の溶液を多孔質ベース基材に飽和させ、1つ以上のグラフトモノマーは、少なくとも1つのグラフト化「(a)」のモノマーと、任意に「(b)」のモノマーと、を含み、次いで、「(a)」及び「(b)」のモノマーを多孔質ベース基材の間隙表面及び外側表面にグラフトするために、第1の溶液で飽和された多孔質ベース基材を調整された量のガンマ線に曝露することにより、調製される。
【0104】
上述の官能化基材の製造方法のいずれかでは、特定の官能化基材を形成するために、上述の多孔質ベース基材、グラフトモノマー、及び反応物質のうちのいずれかを用いてもよい。ベース基材は、微小多孔性膜のような多孔質膜、不織布ウェブ、又は多孔質繊維の形態である場合が多い。いくつかの実施形態では、多孔質ベース基材は、熱誘起相分離(TIPS)法により形成された疎水性微小多孔性膜を含む。
【0105】
一実施形態では、この方法は、表面にグラフトされた親水性ポリマーを有し、列挙したモノマーのグラフト化重合反応生成物を含む多孔質物品を提供する。親水性基材の作製法は、グラフト化ポリマー種が親水性基を包含するため、多孔質ベース基材の従来の疎水性特性を改質する。一実施形態では、第1のグラフトアクリレート基と第2の非グラフトエチレン性不飽和基とを有するグラフトモノマーは、式II〜V及びVII(上記)に示されているように、親水性基を有してもよい。
【0106】
例えば、式II又はVのポリ(アルキレンオキシド)化合物を用い、疎水性多孔質ベース基材に親水性特性を付与することができる。これらグラフトモノマーは、アクリレート基、非アクリレートエチレン性不飽和基、及び親水性ポリアルキレングリコール(すなわち、ポリアルキレンオキシド)基を有する。別の方法としては、親水性ポリアルキレングリコール(すなわち、ポリ(アルキレンオキシド))基を含まない式III又はIVのグラフトモノマーを用いてもよい。これらの場合、グラフト化(メタ)アクリレート基又は非アクリレートエチレン性不飽和基を含んでよい第2のモノマー、及び四級アンモニウム基などの親水性基を用いて親水性が付与される。
【0107】
本発明は、疎水性多孔質ベース基材(例えば、疎水性微小多孔性膜)の利点の多くを有するが、官能化基材の表面上の永久的な親水性を有する官能化基材の形成を可能にする。本発明は、親水性ポリマーから形成された多孔質ベース基材に関連する多くの既知の問題(湿度により膨張するという問題、流動性の低減、機械的弱さ、並びに耐溶剤性、耐苛性及び/又は耐酸性の低さが挙げられるが、これらに限定されない)を軽減又は解消する。本発明は、特定の官能化基材を形成するために用いられる材料及び工程に応じてさまざまな親水性度を有する官能化基材の形成を可能にする。
【0108】
本発明の親水性基材は、種々の溶液又は溶媒に曝露すると様々な程度の湿潤性を示すことができる。湿潤性は、親水性基材の親水性特性と相関関係にある場合が多い。本明細書で使用するとき、「瞬時湿潤」又は「瞬時湿潤性」という用語は、水が基材表面に接触するとすぐに(典型的には1秒未満以内で)、水滴の特定の基材への浸透を指す。例えば、表面湿潤エネルギーが約70ダイン以上だと、通常、瞬時湿潤したことになる。本明細書で使用する時、用語「非瞬間湿潤」は、水の液滴が所定の基材内へ浸透することを指すが、水が基材表面に接触すると直ぐにではない。本明細書で使用するとき、「湿潤しない」という用語は、水滴が特定の基材に浸透しないことを指す。例えば、表面湿潤エネルギーが約60ダイン以下だと、通常、非湿潤であることになる。
【0109】
親水性多孔質膜は、濾材、例えば水濾過用デバイスにおける濾材として特に適している。ポリマーがグラフトされ親水性になるとき、その親水性は耐久性がある。フィルターカートリッジなどの多くの水用濾材では、濾材を洗浄又は消毒する。本明細書に記載する親水性多孔質基材は、洗浄又は消毒することができ、表面エネルギー及び湿潤性で明らかなように親水性特性を保持することができる。
【0110】
濾過用途で用いられるとき、官能化基材の1つ以上の層を用いることができ、その層のそれぞれは、同一又は異なる平均空隙又は孔径、空隙容量、ポリマーのグラフトの程度、グラフト化ポリマーのモノマー組成物、気孔率、引張り強度、及び表面積を有してよい。いくつかの実施形態では、より微細な汚染物質を濾過できるように、各後続層は、更に小さい孔径又は小さい平均繊維径を有してよい。グラフト化基材を平面状又はレンズ状ディスクとして構成してよい。いくつかの実施形態では、不織布基材をひだ状にしてよい。ひだ状グラフト化不織布フィルター要素は、複数の同心のひだ状要素として組み合わせてもよい。グラフト化不織布基材をらせん状に巻きつけてよい。更に、グラフト化基材を多孔質ウェブで封入し、取り扱い時の支持体及び補助具を提供してよい。濾過用途では、多孔質グラフト化基材を垂直又は水平のいずれかに配置することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、官能化多孔質基材を微小多孔性膜などの従来のフィルター要素と組み合わせてよい。特に、瞬時官能化不織布基材の1つ以上の層を含むフィルターは、汚染物質を除去し、及び又は、追加の下流フィルターを含む下流のプロセスを保護するための「前置フィルター」としての機能を果たすことができる。
【0112】
更に、グラフト化不織布基材の1つ以上の層を、他の微小多孔性膜の1つ以上の層と組み合わせることができる。例えば、グラフト化基材の1〜5つの層を未グラフト化微小多孔性層(1つ又は複数)と組み合わせることができる。グラフト化基材の各層は同一であっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、特定の基材、基材の厚さ、その中に使われるポリマー、繊維径、気孔率、空隙容量、かさばり、引張り強度、表面積、グラフト重量若しくは密度、ポリマーのグラフトの程度、及び/又は、グラフトポリマー中のモノマー濃度に関して、層は同じであってよく、又は異なってもよい。
【0113】
有用な市販の膜の例として、CUNO Inc.,Meriden,Conn.から入手できるLifeAssure(商標)又はSterAssure(商標)キャストナイロン微小多孔性膜が挙げられる。有用な微小多孔性膜は、米国特許第6,413,070号、同第6,513,666号、同第6,776,940号、及び同第6,264,044号(Meyeringら)、同第5,006,247号(Dennisonら)、同第3,876,738号(Marinaccioら)、同4,707,265号(Barnesら)、及び同第4,473,474号(Ostreicherら)に開示されており、それぞれ参照することによって組み込まれる。有用なグラフトポリマー官能化微小多孔性膜は、PCT/US2008/088106(WO 2009/086347)に開示されており、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0114】
いくつかの実施形態では、グラフト化多孔質基材は、半導体製造の洗浄作業において用いる溶液の濾過に好適である。洗浄工程は通常、酸化又はエッチング(又はこの2つの組み合わせ)の2種類のうちの1つである。酸化洗浄工程中、酸化性組成物を用いて、典型的にはウエファーを過酸化物水溶液もしくはオゾン水溶液と接触させることによってシリコン又はポリシリコン表面を酸化する。エッチング洗浄工程中では、エッチング組成物を用いて、シリコン又はポリシリコン表面から、天然の及び付着した酸化ケイ素膜と有機汚染物質類を除去してから、典型的にはウエファーを水性酸に接触させることによってゲート酸化又はエピタキシャル成長を行う。例えば、L.A.Zazzera及びJ.F.Moulder、J.Electrochem.Soc.,136,No.2,484(1989)を参照されたい。得られる半導体チップの最終的な性能は、各洗浄工程をどれだけ充分に行ったかに大きく左右される。洗浄溶液は、緩衝化オキシドエッチング溶液(BOE)として知られるフッ化水素及びフッ化アンモニウムの水溶液を含む。
【0115】
これらのBOE溶液は、微粒子及び/又はケイ酸塩などのコロイド状汚染物質を除去するために濾過しなくてはならない。しかしながら、今日市販されている親水性コーティングしているポリエーテルスルホンフィルターは、劣悪な環境下での耐久性が不十分である。本明細書に記載するグラフト官能化多孔質基材は、このような耐久性に関する問題を克服する。更に、瞬時グラフトポリマー官能化多孔質基材は、溶媒、強酸、塩基、及び酸化剤などの他の劣悪な濾過条件下で耐久性を有することができる。
【0116】
ポリマー官能化多孔質基材は、媒質内、すなわち媒質の上流側表面と下流側表面との間で汚染物質を捕捉する、デプスフィルター用途に対しても理想的に適している。物品は、改良された濾過効率をもたらす吸着性デプスタイプフィルターモジュールにおいて、高い媒質充填密度を提供する。物品は、より高い流速(流動性)をもたらす吸着性デプスタイプフィルターモジュールにおいて、ある媒質質量に対して増加した表面積を更に提供する。典型的には、高性能のこれら望ましいフィルター特性の達成と、高い流動性との間には矛盾がある。しかしながら、本発明の官能化不織布基材は、流動性を犠牲にすることなく、高い媒質充填密度を有するデプスタイプフィルターモジュールを提供する。
【0117】
本発明を上記で説明し、更に下記に実施例により説明するが、それは、いかなる方法においても発明の範囲に限定を課すと解釈されるものではない。それとは逆に、本明細書を読んだ後、本発明の趣旨及び/又は添付した請求項の範囲から逸脱することなくそれら自体を当業者に示唆できる種々の他の実施形態、修正及びその等価物に対して手段を有してもよいことが明瞭に理解される。
【実施例】
【0118】
材料
AA−Alfa Aesarから入手できるアクリル酸
AMPS−Alfa Aesarから入手できる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
APTAC−Sigma−Aldrichから入手できるアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド
MAPTAC Sigma−Aldrichから入手できるメタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド
PPG−DiMac−Sigma−Aldrichから入手できるポリプロピレングリコール(polyproylene glycol)(400)ジメタクリレート
Tris−AAM−Alfa Aesarから入手できるN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド
HacMac Sartomerから入手できる2−(アクリロイルオキシ)エチルメタクリレート
EgMac−SartomerからSR 206としてエチレングリコールジメタクリレート
DiMac−SartomerからSR 603として入手できるポリエチレングリコール(400)ジメタクリレート
AcMac−Sigma−Aldrichから入手できる3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシ−プロピルメタクリレート
DiAc−SartomerからSR−344として入手できるポリエチレングリコールジアクリレート、分子量〜400
IPA−様々な供給業者からのイソプロパノール
IOTG−TCIから入手できるイソオクチルチオグリコレート
水分流動性試験
水分流動性は、約47ミリメートル(1.85インチ)の直径を有する試験フィルムのディスクを、型式4238のPall Gelman磁気フィルターホルダー(Pall Corp.,East Hills,NYから入手可能)内に定置することにより測定した。次いで、フィルタホルダーを真空ポンプに取り付けたフィルタフラスコに定置した。真空をモニターするため真空計を使用した。約150ミリリットルの水をフィルターホルダーに入れ、減圧した。残りの水全部がフィルムを通過したとき、時間を止め、21インチ水銀柱(533mmHg)である既知の圧において、既知の膜面積を100ミリリットルの水が通過するのに要する時間を記録した。次いで、水分流動性を、L/(m−h−kPa)の単位で表した。
【0119】
CWST−液滴浸透法
サンプルの臨界濡れ表面張力は、Jemmco LLC.(Mequon WI 53092)から入手可能なDyne Test Solutions(商標)を用いて測定できる(Journal of Membrane Science,33(1987)315〜328に開示される一般試験法、Wetting Criteria For The Applicability of Membrane Distillation)。表面張力が増した一連のテスト溶液を、かかる高表面張力溶液が基材に浸透しなくなるまでサンプルに適用する。事前に用いた溶液の表面張力を、続いて基材の表面エネルギーとして記録する。
【0120】
孔径
対称膜及び2−ゾーン膜の両方のバブルポイントによる孔径の測定に効果的な前方流バブルポイント圧装置を用いて、バブルポイントにおける孔径を測定した。各膜ディスクをイソプロピルアルコール60重量%及び水40重量%の混合物で飽和し、直径90mmの膜ホルダーに装着した。2−ゾーン膜においては、大きい平均孔径を有するゾーン(ゾーンAで示される)をホルダーの上流側に置き、一方小さい平均孔径を有するゾーン(ゾーンBで示される)をホルダーの下流側に置いた。圧力制御装置(MKS Instruments,Inc.から入手できるタイプ640)により、膜の上流側への窒素ガスの供給を調節した。質量流量計(MKS Instruments,Inc.から入手可能なMass−Flo(商標)メーター、モデル番号179A12CS3BM)を用いて、膜の下流のガス質量流量を測定した。
【0121】
テスト開始時に、10.3kPa(1.5psi)の圧力で窒素ガスを膜の上流側に供給した。続いて、0.2秒ごとに、1.38kPa(0.2psi)ずつ圧力を上昇させた。対称膜では、これにより、膜の下流の測定質量流量が、液体で満たされた膜孔を通る窒素拡散流速の代表値において、初期にほぼ一定となり、続いて、液体が膜孔から追い出されたため、測定質量流量が単調増加した。2−ゾーン膜では、これにより、膜の下流の測定質量流量が、液体で満たされた膜孔を通る窒素拡散流速の代表値において、初期にほぼ一定となり、続いて、液体がゾーンAの大きい方の膜孔から追い出されたため、測定質量流量が一時的に増加し、その後、ゾーンBの液体で満たされた孔を通る窒素拡散流速の代表的な低質量流量に戻り、続いて、液体がゾーンBの孔から追い出されたため、測定質量流量が単調増加した。対称膜では、膜のバブルポイント圧は、測定質量流量の単調増加が始まった時点で加えられた窒素圧とした。2−ゾーン膜では、ゾーンAのバブルポイント圧は、測定質量流量の最初の増加が始まった時点で加えられた窒素圧とし、ゾーンBのバブルポイント圧は、測定質量流量の第2の(単調)増加が始まった時点で加えられた窒素圧とした。膜又は2−ゾーン膜のゾーンのバブルポイント圧は、Laplace方程式に従い、孔径分布における最大孔径、つまりバブルポイント孔径に反比例する。
【0122】
孔径
基材の気孔率、つまり空隙容量の割合は、以下の通り測定した。既知の面積及び厚さを有する基材のサンプルを調製し、重量を測定した。次いで、サンプルの既知質量及び容量、及び基材の製造に用いた材量の既知密度(例えば、ポリプロピレンでは0.905g/cm3、PVDFでは1.78g/cm3)に基づき、空隙容量割合(気孔率)を計算した。
【0123】
空気透過性試験
ASTM D−726−58に詳細に示すように、50cmの体積の空気が、軽く均一な圧力下で標準面積の基材を通過するのに要する時間を測定する、Gurley Densometer(Gurley Precision Instruments(Troy,NY)から入手可能なモデル4110NのGenuine Gurley(商標)Densometer)を用いて、基材の空気透過性を測定した。
【0124】
照射手順−eビーム
比較目的で、ガンマの代わりに電子ビーム照射を用い、サンプルを調製してグラフト化した。Energy Sciences,Inc.(Wilmington,MA)から得たESI CB−300 Electrocurtain電子ビームシステムを用いて電子ビームを照射した。フィルムサンプルは、照射のためポリ(エチレンテレフタレート)(PET)フィルムの2枚のシートの間に定置した。
【0125】
特に定めのない限り、以下の手順に従った。フィルムサンプルを、102マイクロメートル(4ミル)厚さのPETの2つのより大きな面積寸法片の間に定置し、一方の末端部でテープ留めした。次に、この挟み込み体を開き、試料フィルムをモノマー溶液で湿らせ、挟み込み体を再度閉じた。閉じ込められた空泡を除き、挟み込み体の表面上にゴムローラーを適用することにより過剰な液体を絞り出した。挟み込み体を、目標とする線量をもたらすのに十分なビーム電流をカソードに印加して、20fpm(0.102m/秒)の速度、及び300keV(4.81×10−14J)の電圧で電子ビームプロセッサを通って移動させた。national standards laboratory(RISO、Denmark)で較正し、トレース可能な薄膜線量計を用いてビームを較正した。場合によっては、ビーム照射下での全体の線量率を低下させ、一方、滞留時間を長くするために、ウェブ方向に伸びるカソードを用いて、電子ビームをより特徴的にするように、ビームを複数回通して、より長い曝露時間を模擬することによって、線量をフラクション化した(すなわち、BroadBeamなど)。
【0126】
照射手順−ガンマ
通常は、サンプルをグラフトモノマー溶液で飽和し、102マイクロメートル(4−ミル)厚さのPETのシート間に挟み込み、フレーム内に固定し、照射まで容器内に保持した。いくつかの実施例では、ペーパータオルを少量のメタノール(約15mL)で濡らし、蒸発損失を低減するために容器内に置いた。封止前に、容器をグローブボックス内の窒素で洗い流した。飽和して挟み込んだ膜は濡れたままであり、少なくとも5日間照射に好適であることがわかった。
【0127】
1.5〜3MCiの線源強度を有し、Co−60を含有する一連の中空ステンレス製チューブからなるPanoramic Wet Source Storage Irradiator(NDS Nordion JS−7500又はJS−10000のいずれか)を用いて、ガンマ線による照射を行った。一般に、オフラインキャリアを用い、特定の線量を目的(targer)とした。複数サンプルの線量曝露の途中に、サンプルを照射チャンバから取り出して、相対位置を逆にしてより均一に曝露されるようにし、サンプルを照射チャンバ内に移して、所望の線量を達成するのに必要な時間、ガンマ線に暴露した。総吸収線量は2〜12kGyの範囲であり、線量率は約0.0005〜0.005kGy/秒であった。
【0128】
(実施例1).最小グラフト線量の決定
熱誘起相分離(TIPS)微小多孔性ポリプロピレンフィルムのサンプルを、米国特許第4,726,989号(Mrozinski)に開示される方法を用いて調製した。TIPSフィルムは、厚さ約114マイクロメートル(4.5ミル)、ガーレー(空気流)約6秒/50cm空気、孔径の範囲約0.44〜0.8マイクロメートル、表面湿潤エネルギー約35ダイン/cm(JEMMCO LLCの液滴浸透法用溶液を使用)、及び水分流動性188L/(m−h−kPa)といった特性を示した。
【0129】
この膜の直径47mmのディスクを、10% DiAc及び90%メタノール溶液で飽和し、厚さ102−マイクロメートル(4−ミル)のPET層2枚の間に挟んだ。封止前に窒素で洗い流したZiplocバッグの中に、各アセンブリを置いた。これらを、封止前に窒素で洗い流した別の大きめのZiplocバッグの中に置いた。サンプルをガンマ照射チャンバ内に移し、累積線量値が1.6、2.8、5.3、8.1、12.1、及び15.4kGyのときに徐々に引き出した。照射後、各サンプルをすすいで乾燥した後、表面上に水滴を落とし、水が広がって孔内に吸い込まれるかどうかを確認することにより、親水性を検査した。1.5kGyの線量では、ポリプロピレン膜は親水性ではなかったが、2.8kGy(及びそれより高い)線量では、瞬時湿潤性であった。
【0130】
(実施例2A、B及びC).親水性PP膜の調製
実施例2A、B及びCでは、基材は、米国特許第4,726,989号及び同時係属の米国特許出願第61/142056号(Mrozinski)に記載される方法を用いて調製された、非対称の熱誘起相分離(TIPS)微小多孔性ポリプロピレンフィルムであった。このTIPSフィルムは、厚さ約144マイクロメートル(4.5ミル)、ガーレー(空気流)約6秒/50cm空気、バブルポイント孔径約0.8マイクロメートル、表面湿潤エネルギー約35ダイン/cm(液滴浸透法を使用)、及び水分流動性188L/(m−h−kPa)といった特性を示した。
【0131】
3枚のポリプロピレンTIPS膜を、3枚のサンプルのそれぞれで全モノマー濃度を10%に設定した90%メタノール溶液で飽和した。実施例2Aのモノマーは10% DiAcとした。実施例2Bのモノマーは5% DiAc及び5% DiMacとした。実施例2Cのモノマーは10% DiMacとした。
【0132】
飽和した膜を102−マイクロメートル(4−ミル)のPETシートの間に挟み込み、フレーム内に固定した。照射チャンバにサンプルを移し、約7.5kGyの線量を得るのに必要な時間にわたりガンマ線に曝露した。続いてサンプルを水で洗浄して乾燥した。
【0133】
親水性を液滴浸透法で検査した。121℃の蒸気オートクレーブに1時間かけ、更に膜を0.625NのNaOHに60℃で5時間さらすことにより、親水性の耐久性を検査した。結果を表1に要約する。実施例2Cは、10kGyの高さの線量で繰り返し、サンプルは疎水性のままだった。DiMacモノマーは、ポリプロピレン基材を親水性にするのにアクリレートモノマーほど効率的ではないが、より耐久性のある親水性を付与すると考えられる。
【0134】
【表1】

【0135】
(実施例3A、B、C及びD)
サンプル3A、B及びCは、米国特許第7,338,692号(Smithら)(参照することによって本明細書に組み込まれる)に記載される基本手順を用いて調製された、約5ミル厚さ(〜127マイクロメートル)、72%空隙容量、ガーレー(空気流)約4.5秒/50cc、1.9マイクロメートルのバブルポイント孔径(最大有効孔径)、及び水分流動性約470L/(m−h−kPa)の微小多孔質ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)を用いた。サンプルDは、実施例1と同じ微小多孔性ポリプロピレン膜を用いた。
【0136】
モノマー溶液は次の通りとした。
【0137】
【表2】

【0138】
各サンプルに約4kGyの線量を与え、水で3回洗浄した後、乾燥した。サンプルA、C及びDは親水性であった(液滴浸透法による表面湿潤エネルギー≧72ダイン/cmを有する)。モノマー濃度が20% PEGDMAであるサンプル「(b)」では、孔が埋まっていることが明らかとなった。メタクリレート官能性DiMacでグラフト化した微小多孔性サンプルAから、ポリ(フッ化ビニリデン)などのグラフト基材にアクリレート官能基が不要であることが示される。しかしながら、ポリプロピレンサンプルは、メタクリレート官能性DiMacよりも、アクリレート官能性DiAc又はAcMacで、より効率的にグラフト化された。
【0139】
比較例4.−eビーム線量10kGy
実施例2に記載される微小多孔性非対称ポリプロピレンフィルムを10% DiMac含有溶液で飽和し、102−マイクロメートル(4−ミル)厚さのPETシート間に挟み込み、フレーム内に固定した。線量7.5kGyのeビームでサンプルを照射し、続いて水で3回洗浄して乾燥した。乾燥後、多孔質フィルムは自然に水に湿潤しなかった。液滴浸透法により、表面湿潤エネルギーが39ダイン/cmであることがわかった。この線量値のeビーム単独で、反応が遅いモノマーを用いて、ほんの僅かなグラフト化が達成された。
【0140】
比較例5A及びB−eビーム線量20kGy
10% DiMacを含有するモノマー溶液でサンプルを飽和し、7.5kGyではなく20kGyで照射した以外は、実施例4のように実施例5Aを実施した。乾燥後のサンプルは自然に水に湿潤しなかったことから、より高いeビーム放射線の線量であっても、フィルムを親水性にするのに十分なグラフト化が行われなかったことが示される。
【0141】
2% AcMacをコーティング溶液に追加した以外は実施例5Aの様に、実施例5Bを作製した。乾燥後のサンプルが自然に水に湿潤しなかったことは、より高いeビーム放射線の線量であっても、及びAcMacを追加しても、十分なグラフト化が達成されなかったことを意味する。
【0142】
(実施例6A、B、C).グラフト化の最小モノマー濃度
実施例1に記載される微小多孔性ポリプロピレンフィルムのサンプルを3枚、それぞれ5%、7.5%、及び10%のDiAc及びメタノール溶液で飽和し、102マイクロメートル(4−ミル)の2枚のPET層の間に挟み込み、フレーム内に固定した。フィルムを約5kGyにガンマ照射した。サンプル6Aは水に湿潤できず、サンプル6Bは斑点状に濡れ、サンプル6Cは、PP微小多孔性フィルムにおいて、水への瞬時湿潤を示した。
【0143】
(実施例7)
実施例2に記載される非対称熱誘起相分離(TIPS)微小多孔性ポリプロピレンフィルムのサンプルを5% DiAc、5% DiMac、及び90% MeOHの溶液で飽和し、乾燥させて、フレーム上に固定した。同じフィルムの別の片も同じ溶液で飽和したが、乾燥させなかった。飽和したフィルムをPETライナーの2枚のシート間に置き、余剰の溶液を押出してから、フレーム内に固定した。両サンプルの空気をパージし、線量約6.5kGyでガンマ照射した。
【0144】
照射前に乾燥させたフィルムは、洗浄及び乾燥後、親水性ではなかった。液滴浸透法を用いると、表面湿潤エネルギーが約36ダイン/cmしかないことがわかった。孔内に依然としてメタノールを有するフィルムは、水に瞬時湿潤した(表面湿潤エネルギーが70ダイン/cm以上であることを示す)。この結果は、グラフト部位に十分にモノマーを拡散させるために、溶媒が必要であることを示す。
【0145】
(実施例8A〜I)
表2に示す重量パーセントを用いて、モノマー溶液を調製した。プレミックスモノマー/メタノール溶液に対する示された体積パーセントで、連鎖移動剤(IPA又はIOTG)を添加した。膜は、異なる平均孔径である2つの厚さ方向ゾーンを有する非対称微小多孔性ポリプロピレン膜とした。膜は、合計の厚さ231μm(9.1ミル)、ゾーンAのバブルポイント孔径2.15μm、ゾーンBのバブルポイント孔径0.86μm、ガーレー(空気流)2.2秒/50cm空気、及び水分流動性476L/(m−h−kPa)であった。
【0146】
示したグラフト化溶液を約13×18cmのポリプロピレン膜サンプルに飽和し、厚さ102マイクロメートル(4ミル)のポリエチレンテレフタレート(PET)の大きい方のシート2枚の間に挟み込んだ。使い捨てピペットを用いて過剰のモノマー溶液を添加し、ハンドローラーに挟み込み体をかけることにより、余剰分を除去した。膜挟み込み体をフレーム内に固定した。照射チャンバにサンプルを移し、約6kGyの線量を得るのに必要な時間にわたりガンマ線に曝露した。続いてサンプルを水で洗浄して乾燥した。試験結果を表2に示す。「相対水分流動性」の列は、未グラフト化対称サンプルに対する割合を示しており、例えば、実施例8bは、比較例8Aに対して43%の水分流動性を有する。表2でわかるように、連鎖移動剤IOTGを添加すると、親水性膜の流動特性が大いに改善される。IOTGが0.01%を超えると、更なる改善はみられない。
【0147】
【表3】

【0148】
(実施例9A〜J)
以下の実施例では、表3に示される、指示されたモノマー量、及び連鎖移動剤としてイソプロパノール(IPA)を用いて、実施例8A〜Iと同じ基本手順を使用した。
【0149】
【表4】

【0150】
(実施例10A〜F)
以下の実施例では、表3中に示された、指示されたモノマー量、及び連鎖移動剤としてIPAを用いて、同じ基本手順を使用した。基材は、厚さ48マイクロメートル(1.9ミル)、バブルポイント孔径0.2マイクロメートル、及び水分流動性16.5L/(m−h−kPa)を有するECTFE微小多孔性基材とした。表4の結果にみられる様に、非常に小さいCTAを有するECTFE膜は、実施例10Bに示すような低い水分流動性を示した。少なくとも0.04%のIPAを同じ基本モノマーミックスに添加すると、水分流動性に関して流量が25倍改善され、非修飾疎水性親物質と実質上区別できない親水性膜にする。
【0151】
【表5】

【0152】
(実施例11A〜AB)
以下の実施例では、表5中に示したモノマー(メタノール中)及びその量を用いて、同じ基本手順を使用した。臨界水表面張力(CWST)、及びSCI洗浄液にさらした時の耐久性を評価するために、実施例を行った。相対流動性を評価しなかったため、連鎖移動剤は用いなかった。基材は、厚さ48マイクロメートル(1.9ミル)、バブルポイント孔径0.2マイクロメートル、及び水分流動性16.5L/(m−h−kPa)を有するECTFE微小多孔性基材とした。
【0153】
ガンマ線開始型グラフト化し、初期CWSTを記録するためにすすいだ後、グラフトポリマー官能化膜を80℃で5日間SCI洗浄溶液にさらし、CWSTを再測定した。NHOHを1部、Hを1部、及び水を5部混合することにより、SCI洗浄溶液を調製した。
【0154】
結果を表5に報告する。
【0155】
【表6−1】

【0156】
【表6−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能化基材の製造法であって、
1)間隙表面及び外側表面を有する多孔質ベース基材を提供する工程と、
2)(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーと、任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーと、任意に連鎖移動剤と、を含み、(a)及び/又は(b)のモノマーのうち少なくとも1つが親水性である第1の溶液で、前記多孔質ベース基材を飽和する工程と、
3)前記多孔質ベース基材の前記表面に結合したグラフト化ポリマーを含む第1の官能化基材を形成するために、前記飽和した多孔質ベース基材を調整された量のガンマ線に曝露する工程と、を含む、製造方法。
【請求項2】
前記多孔質ベース基材が微小多孔性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の溶液が連鎖移動剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノマー(a)がポリ(アルキレンオキシド)ジアクリレートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの(メタ)アクリレート基、及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーを有する前記モノマー(a)が、前記多孔質ベース基材にグラフト化するための第1の(メタ)アクリレート基と、(a)及び/又は(b)モノマーと引き続いて重合するための第2のメタクリレート基と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の溶液が、(b)フリーラジカル重合性基と親水性基とを有する1つ以上の追加のモノマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記微小多孔性ベース基材が、熱誘起相分離(TIPS)膜である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記微小多孔性ベース基材が、プロピレンポリマーTIPS膜を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記調整された量のガンマ線曝露が、1〜15kGyの線量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記モノマー溶液が、
(a)1〜25重量%の(a)モノマーと、
(b)0〜25重量%の(b)モノマーと、
(c)0〜0.15重量%の連鎖移動剤と、
(e)溶媒と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記モノマー溶液が、
(a)1〜10重量%の(a)モノマーと、
(b)1〜10重量%の(b)モノマーと、
(c)0.02〜0.15重量%の連鎖移動剤と、
(e)溶媒と、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記「(a)」モノマーが、式:
[CH=CR−C(O)−O]−R−Q−Zであって、
式中、Zはアクリレート又は非アクリレートのエチレン性不飽和重合性基であり、
はH又はCHであり、
Qは、共有結合「−」、−O−、−NR−、−CO−、及び
−CONR−から選択される二価結合基であり、ここでRは、H又はC〜Cアルキルであり、
は、価数a+bのアルキレン基であり、任意に1つ以上のカテナリー酸素原子及び/又は1つ以上のヒドロキシル基を含有し、a及びbはそれぞれ少なくとも1である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
式中、RがCHであり、Q−Zがメタクリレート基である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記「(a)」モノマーが、式:
Z−Q−(CH(R)−CH−O)−C(O)−CR=CH、IIであって、
式中、Zはアクリレート又は非アクリレートの重合性エチレン性不飽和基であり、
はH又はCHであり、
は、H又はC〜Cアルキル基であり、nは2〜100であり、Qは共有結合「−」、−O−、−NR−、−CO−、及び−CONRから選択される二価結合基であり、ここでRは、H又はC〜Cアルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記「(b)」モノマーが、式:
【化1】

であって、式中、
Yは直鎖状又は分枝状アルキレン(例えば、1〜10個の炭素原子、1〜6個の炭素原子、又は1〜4個の炭素原子を有するアルキレン)であり、Lはオキシ又は−NR−であり、ここでRはH又はC〜Cアルキル−である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記「(b)」モノマーが、式:
【化2】

であって、式中、Lはオキシ又は−NR−であり、ここでRは、H又はC〜Cアルキル−であり、Yはアルキレン(例えば1〜10個の炭素原子、1〜6個、又は1〜4個の炭素原子を有するアルキレンである)、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
間隙表面及び外側表面を有する多孔質ベース基材と、前記多孔質ベース基材の表面から延在するグラフト化ポリマーと、を含み、前記ポリマーが、
(a)少なくとも1つの(メタ)アクリレート基及び少なくとも1つの追加のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーと、
任意に(b)少なくとも1つのエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基及び親水性基を有する1つ以上の追加のモノマーと、の共重合モノマー単位を含み、
(a)、及び/又は(b)モノマーのうち少なくとも1つが親水性であり、前記ポリマーの平均重合度が2〜250である、物品。
【請求項18】
前記多孔質ベース基材の前記表面から延在するグラフト化親水性基を更に含む、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記ポリマーがグラフト化ポリ(アルキレンオキシド)ジアクリレートを含んだ、請求項17に記載の物品。
【請求項20】
前記多孔質ベース基材が、微小多孔性である、請求項17に記載の物品。
【請求項21】
前記多孔質ベース基材が、多孔質膜、多孔質不織布ウェブ、又は多孔質繊維を含む、請求項17に記載の物品。
【請求項22】
前記多孔質ベース基材がエチレン−トリクロロフルオロエチレン(ECTFE)多孔質ベース基材である、請求項17に記載の物品。
【請求項23】
前記グラフト化(コ)ポリマーがエチレンジメタクリレート(コ)ポリマーを含む、請求項22に記載の物品。

【公表番号】特表2012−518073(P2012−518073A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551176(P2011−551176)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/024401
【国際公開番号】WO2010/096429
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】