説明

親水性膜及び親水性膜の製造方法

エチレンオキシドのような親水性セグメントと親水性官能基とを含むアクリレート・モノマー、親水性官能基を含むジアクリレート・モノマー及び架橋反応と重合反応を容易にする開始剤に膜を露出することにより親水特性を高分子膜に与える方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本開示は、膜の製造方法と膜製品に関し、さらに具体的には、高分子膜と高分子膜から得られる膜製品とに所望の特性を与えるために高分子の架橋を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の背景
ミクロろ過高分子膜は、現在、溶液とけん濁液のろ過、分離及び濃縮のような工程と用途に多くの産業で広範囲に使用される。これらの膜は、転相法により作製される。
【0003】
用語「転相法」により、有孔構造体を形成するように液−液デミキシングを引起すために高分子溶液を管理された環境に露出する方法を意味する。転相は、微孔膜の形成に必要な工程である。この方法は、当業者に広く知られる多くの機構により引起される。転相の実例には、高分子溶液よりも高い割合の非溶媒を含む、溶媒と非溶媒の溶液に高分子溶液の塗膜を接触させ、熱的に転相を引起し、且つ、膜を蒸気界面に露出して高分子溶液の塗膜から溶媒を蒸発させることが含まれるが、これに限定されない。
【0004】
これらの膜の有効性は、膜の表面と孔で通りが悪くなることにより著しく限定される。これは、中でも、圧力低下を増幅し、浸透する流量を低減し、且つ常に溶質の選択性を変更する。油含有又はタンパク質含有の溶液を含むような用途では、通りが悪くなることに付随する膜洗浄と取替えの費用が、膜技術の使用への著しい経済的負担になる点で工程運転費用を増加する。
【0005】
これらの用途で通りを悪くする主な原因は、これらの膜が典型的に作製される疎水性材料への溶液中に有機物の引き付け(即ち、「タンパク質結合」)による。タンパク質結合は、特に結合が低濃度で起きるとき、顧客に重要なタンパク質の損失により、膜の通りの悪化に付随する問題よりも大きな経済的害を引起す、もっと深刻なジレンマを提出することが多い。
【0006】
膜の製造に使用する疎水性材料は、典型的に低い表面張力値を有し、水との「水素結合」の形成に関する、材料の表面化学における活性基を欠いている。そのような材料から作製される膜は、低い濡れ性を有する。即ち、水のような高い表面張力の液体が、膜中に吸着されず、代わりに、装置内に十分な圧力が働かない場合、膜表面に個別の液滴を形成する傾向にある。
【0007】
対照的に、親水性の材料から形成される膜は、典型的に、高い表面張力値を有し、水と「水素結合」を形成する能力を有する。このことにより、膜表面上に水のフィルムが形成されることになる。さらに、親水性膜から調製される膜の通りの悪化は、それほど重大ではなく、可逆的であることが多いが、この膜は、比較的乏しい機械的且つ熱的安定性を有し、処理溶液との化学反応に感じやすいことがある。
【0008】
ナイロンからつくられる膜は、上記の例外である。ナイロン膜は、親水性ではあるが、タンパク質を結合する高い傾向を有する。これは、おそらく、ナイロン化学構造におけるアミド基とアミン基の存在によるのであろう。
【0009】
疎水性膜は、典型的に、親水性膜が機能することができなかったであろう、無菌エア・フィルタとして使用され、一方、親水性膜は、水性用途に圧倒的に好まれる。依然として、所望の熱特性と機械特性と共に優れた化学的抵抗性のような別の所望の特性を利用するために、本来的に疎水性の膜に親水性表面を与える願望が存在する。このことにより、そのような膜の使用が、上述の利点にも拘わらず親水性の材料からつくった膜よりもなお費用効率がよくなる。
【0010】
親水性材料の特性は、疎水性材料の特性よりも望ましいので(少なくとも親水性用途に使用の場合)、通常疎水性である材料からつくる高分子膜が、上述の有利な材料特性に加えて親水性と低いタンパク質結合性との両方を持つように、弗化ポリビニリデン(PVDF)とポリエーテルスルホン(「PES」)のような通常疎水性である材料からつくる高分子膜を変性することが、当該技術における目下の慣行である。要するに、高分子膜を変性するために最も普通に採用される方法は、以下のように記述されることがある。即ち、(i)架橋を伴う高分子塗膜、(ii)表面活性化とグラフティング、及び(iii)共高分子との配合である。
【0011】
架橋を伴う高分子塗膜を含む方法を使用して膜を変性する重要な利点は、概念的にも実用面でも、単純なことである。しかしながら、目下使用される技法への欠点は、使用する塗膜が、熱的に又は機械的に安定ではないことである。親水性のような表面変性は、この方法で疎水性膜に与えられるが、常に悪化する傾向がある。これは、この膜が高温度条件に露出されるとき、特に真実である。
【0012】
米国特許第4,618,533号明細書(‘533特許)は、典型的塗膜法を記述する。ここでは、PVDF膜が、紫外線照射(UV)又は熱処理に先立ちモノマー、架橋剤及び開始剤を含む溶液で後処理される。‘533特許は、ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)が具体例であるモノマーのヒドロキシアルキルアクリレート又はヒドロキシアルキルメタクリレートの使用を教示する。’533特許に開示される方法に従ってつくられるPVDF膜に伴う主要な問題は、膜が130℃を越える加熱後に親水性の一部又は全てを失うことである。
【0013】
グラフティングに伴われる表面活性化を含む方法は、グラフティング用基材表面上にフリー・ラジカル又は高度に活性化された種を生成するために、UV又は電子線(EB)照射、オゾン又はプラズマのような高エネルギ化学薬品又は高エネルギ源への露出を必要とする。例えば、米国特許第5,019,260号明細書及び米国特許第5,736,051号明細書には、膜がモノマー溶液に接触する前に表面を活性化するために、高エネルギ電子線又はガンマ線が使用される。そのような高エネルギ照射をしない場合、如何なる反応も起きないであろう。
【0014】
グラフティング法は、通常、大部分の基材特性を保存すると共に、通常、上述の膜を変性する3つの方法の中で最良の総合結果を提供するけれども、この方法は、高エネルギ源又は高エネルギ化学薬品の使用に伴う費用と安全問題の故に、広くは使用されない。これらの問題の故に、この技法は、基材材料がかなり容易に活性化され得る場合のために典型的に保存される。
【0015】
共高分子との配合により、膜特性を変性するためのより少なく厳密でより経済的な方法になる。しかしながら、この技法は、また、膜特性を変性するために添加する共高分子が、表面に沿って集められる(変性の最も大きな利益を与える)よりむしろ得られる膜の全域に分散される故に、前述の方法よりも有効ではない。このようにして、配合からの利益の多くが、失われる。この方法への別の欠点は、配合に先立って合成して、単離して且つ精製しなければならない共高分子自体を含む。配合に伴う別の問題は、配合が、元の高分子膜の構造を危うくし、使用濃度範囲を限定し、且つ、従って、工程変化に対応して製剤を変性することを困難にすることがあることである。
【0016】
例えば、欧州公開公報第WO98/08595号明細書に開示され、且つ後述Macromolecules 32:1643−1650(1999)に報告されることは、流延用ドープをつくるためのコム(comb)共高分子のPVDFとの配合である。上述のように、そのような方法でつくられた膜は、通常、他の前述の方法でつくられた膜に比較して、低い程度のぬれ性と有孔性とを所有する。さらに、高分子をPVDFと配合することができる前に、重合反応と精製を行わなければならない。
【0017】
共高分子の配合のさらなる具体例は、米国特許第5,066,401号と第4,302,334号明細書に見られ、これらは、PVDFと、ポリビニルアセテートのような第2の高分子との配合体を加水分解することにより親水性膜を形成する方法を概略開示する。そのような方法からの膜は、酸性下で触媒されるさらなる加水分解に主に起因して、酸性溶液でよりよいぬれ性を発揮する。しかしながら、中性条件下では、ぬれ性が劣る。類似の種類の配合方法が、米国特許第5,122,273号明細書と第5,503,746号明細書に記述され、ここでは、ポリアルキレングリコール又はポリビニルトリフルオロアセテートが使用される。そのような方法からの膜は、低いタンパク質結合を発揮するけれども、低減は、特に、タンパク質溶液ろ過にそれらの膜を適合させるには十分ではない。
【発明の開示】
【0018】
要するに、膜に所望の特性を与えるために膜を変性する目下有用な方法は、多くの欠点を有する。これらの方法に伴う問題にもかかわらず、種々の目下の用途のために改良された膜に対する強い要求が依然として存在する。さらに、膜が、有利に使用されたであろうが前述の方法によりつくられた膜に伴う問題によらない、一般に通用するおそらくこれからの状況が存在する。本発明の目的は、膜を変性する有用な方法と変性された膜とを提供することであり、この膜は、特に、先行技術の欠点を克服する。
【0019】
発明の概要
本発明は、特に、熱的に機械的に安定であり化学的な攻撃に影響されやすくない、親水性と低タンパク質結合性を有する膜を製造する簡潔で経済的な方法を提供することにより先行技術の欠点を克服する。本発明による膜の製造は、回分式又は連続法で行う。本発明の別の目的は、機械的に熱的に安定な塗膜(即ち、劣化と破砕に抵抗性のある)を有する膜製品を開示することである。塗膜は、また、親水性で特異的でない低タンパク質結合性を発揮する。前述の特性を疎水性高分子から構成される膜に与える方法を提供することも本発明のさらなる目的である。
【0020】
本発明は、親水性の膜をつくる方法に向けられる。この方法は、高分子膜を準備する工程と、親水性ユニットを含む第1のモノマーを準備する工程と、親水性ユニットを持つ第2のモノマーを準備する工程と、第1と第2のモノマーの重合反応と架橋反応を容易にする開始剤を準備する工程と、第1と第2のモノマーの重合と架橋反応を作動させるために、開始剤の存在下で第1と第2のモノマーに高分子膜を露出する工程とを含む。
【0021】
本明細書の以下に述べる実施例では、第1のモノマーはアクリレート・モノマーであり、且つ第2のモノマーはジアクリレート・モノマーであるが、しかしながら、他のモノマーが本発明に有利に使用されることがある。さらに、本発明の方法によれば、前述の工程は、個別に又は組み合わせて行うことがある。
【0022】
前述の本発明の方法は、また、以下の追加工程を含むことができる。これらの工程は、高分子膜を熱源に露出する工程、高分子膜をアルカリに露出する工程、高分子膜をアルコールに露出する工程、又は高分子膜を、ヒドロキシル基を含む溶質を含む溶液に露出する工程である。これらの露出は、プロセス工程のいずれかの前、実施中、又は後に、予め定められた時間の間種々の濃度で行われることがある。さらに、これらの追加工程は、本発明の方法に従って前述のプロセス工程の1つ以上の工程と独立して、又は組み合わせて実施されることがある。
【0023】
準備される高分子膜は、実質的に、PVDF又はPESのような疎水性の膜から作製されることがある。膜は、また、ナイロンのような親水性の膜から作製されることがある。加えて、膜は、実質的に、微孔ろ過への使用に適する任意の他の高分子膜から作られることがある。
【0024】
ジアクリレート・モノマーが伴う親水性ユニットは、好ましくは、反復親水性セグメント及び/又は親水性官能基の鎖を含む。アクリレート・モノマーは、また、好ましくは、反復親水性セグメント及び/又は親水性官能基の鎖を含む。好ましくは、アクリレート・モノマーは、親水性セグメントの比較的長い鎖を含む。より長い鎖状モノマーが、特に、大きな安定性をもたらすゆえに、一般的に好まれる。
【0025】
好適な実施例では、アクリレート・モノマーは、エチレンオキシド・セグメントとヒドロキシル官能基を含む。好ましくは、エチレンオキシド・セグメントは、1より大きいが、2、5、10又は別の大きさであることがある。ジアルキレート・モノマーは、また、エチレンオキシド・セグメントとヒドロキシル官能基を含むことがある。開始剤は、過流酸ナトリウム、過流酸アンモニウム、又は重合反応と架橋反応への使用に適することがある別の種類の開始剤であることがある。
【0026】
本発明は、また、親水性を高分子膜に与える溶液に向けられる。溶液は、本発明の方法によって高分子膜の製造に使用されることがある。
【0027】
本発明の溶液は、各々が親水性ユニットを有する第1及び第2のモノマーと、第1及び第2のモノマーの重合と架橋を容易にする開始剤とを含有する。好適には、第1のモノマーは、実質的に親水性のセグメントと親水性の官能基とを含む一官能性のアクリレート・モノマーであり、且つ、第2のモノマーが、親水性の官能基を含む二官能性のジアクリレート・モノマーである。開始剤は、過流酸ナトリウム、過流酸アンモニウム、又は重合反応と架橋反応用の他の同様な開始剤であることがある。溶液は、また、水、アルカリ、アルコール、又はヒドロキシル基を含む溶質であることがある。
【0028】
一官能性のアクリレート・モノマーは、親水性セグメントと親水性官能基を含むことができる。セグメントは、好ましくは、エチレンオキシドを含み、官能基は、好ましくは、ヒドロキシル基を含む。二官能性のジアクリレート・モノマーは、好ましくは、また、エチレンオキシド・セグメントとヒドロキシル官能基を含む。
【0029】
本発明は、また、親水性の高分子膜に向けられる。この膜は、本発明の方法に従って及び/又は本発明に従って製剤された溶液を用いて作製されることがある。本発明の高分子膜は、微孔性基材を含むと共に、エチレンオキシド・セグメント及び親水性官能基を有する一官能性アクリレート・モノマーと親水性官能基を有する二官能性ジアクリレート・モノマーとを含む架橋された塗膜を含む。
【0030】
微孔性基材は、実質的に、PVDF、PES又はナイロンから作製されることがある。全てのモノマーと共に含有される親水性官能基は、ヒドロキシル基であることがある。ジアクリレート・モノマーは、エチレンオキシドのような親水性セグメントを含有することがある。
【0031】
本発明に従って製造される膜のこれらの及び他の特徴は、代表的で目下好適な実施例の以下の詳細な説明からより容易に明白になるであろう。
【0032】
好適な実施例の詳細な説明
以下の詳細な説明は、発明の1つ以上の具体的な実施例を記述、説明している。提出される具体的な実施例は、発明を限定するものではなく発明を例証し教示するのみであり、当業者が本発明を実施できるように十分詳細に示され、記述される。このようにして、本発明を不明瞭にすることを避けるために適当である場合は、記述は、当業者に知られる多少の情報を省略することがある。
【0033】
本発明は、一般に、そのような特性を本質的には本来的に所有しない高分子膜に所望の特性を与える方法と、所望の特性を高分子膜に有利に与えるために使用されることがある溶液と、微孔性ろ過に使用する、本発明の方法の高分子膜製品とを提供するために意図される。
【0034】
予備的には、微孔性膜は先行技術によく知られることを理解すべきである。微孔性膜は、一方の表面から他方の表面へ延在する、微孔性相互連結通路有孔性固体である。これらの通路は、ろ過されている流体が貫通して通過しなければならない、曲りくねったトンネルを提供する。微孔性膜を通過する液体に含まれる粒子は、ろ過を有効にする膜構造体上に又は内に捕捉されるようになる。一般に、ゲージ圧で約34.5(5)〜約344.8kPa(50psig)の圧力が、流体を微孔膜を通して流動させるために使用される。孔より大きな液体中粒子は、膜に入ることを妨害されるか、又は、膜の孔内に捕捉される。液体と膜の孔より小さい粒子とは、通過する。このようにして、微孔膜は、ある大きさ以上の粒子が膜を通過することを妨害する一方、同時に液体とあるサイズよりも小さな粒子とが通過することを許す。典型的な微孔膜は、約0.01〜約10.0μmの範囲のサイズの粒子を保有する能力を有する。
【0035】
本発明の方法によれば、選択された膜に与えられた特性は、親水性を含み、これは、典型的に、特に、自然なぬれと改良された流動とを膜に与える。実際、微孔膜は、所望の機械的、化学的特性を有するようにする。本発明の方法は、特に、膜に、気泡の接着を低減し、タンパク質の吸着及び変性を低減し、微生物の付着を低減し、且つ表面転写性を改良する特性を与えると共に、液体又は血液取扱い性を改良する。
【0036】
本発明は、疎水性で、実質的に化学的に不活性な高分子物質から作製される高機械的強度の膜との使用に特に有利であるが、本発明の方法は、異なる特性を有する物質から作製される膜と共に使用されることもある。好適には、膜は、高分子物質から作製され、さらに好適には、膜は、PVDFから実質的に作製される。互いに貫通する網状組織から形成される別の多孔で疎水性の又は非疎水性の膜が使用されることがある。これは、本発明に従って親水性を与える架橋反応が、可能なままである場合に限られる。
【0037】
本発明によれば、モノマーが使用され、親水性、低いタンパク質結合性、及び熱安定性と機械安定性を与えるために表面を変性する。一般的には、そのような親水性は、十分量のヒドロキル(OH−),アルキルオキシド(−R−O−),カルボキシル(−COOH)、アミノ(−NH2)及び/又は同様な官能基が膜表面上に存在することで高められる。これらの基は、膜上への水の吸着及び/又は吸収を支援することが知られる。しかしながら、カルボキシル基とアミノ基は、タンパク質を結合する能力のために、あまり好まれない。
【0038】
好適には、ヒドロキシル官能基とエチレンオキシドを持つフレキシブルな長鎖との両方を有する表面変性用モノマーが、低いタンパク質結合性と熱及び機械安定性とを満たすために使用される。ヒドロキシル基が、塗膜物質への使用に目下好適である。もっとも、エチレンオキシド基(−O−C−C−)のみならず上述の基もまた親水性ではある。これは、主に、ヒドロキシル基が、タンパク質結合により大きく抵抗性であることが見出されている故である。また、本発明の方法に従ってエチレンオキシド・セグメントのフレキシブルな長鎖と共にヒドロキシル基を使用することは、他の有用な特性を本膜に有利に与える。
【0039】
例えば、ヒドロキシル基をエチレンオキシド・ユニットと共に含む架橋は、広い振り角度により大きな鎖フレキシビリティを与える。加えて、ガラス転移温度(Tg)が、減少する。これにより、膜がゴム状態を維持する温度範囲が増大する結果、所定の温度範囲に渡って所望の柔軟性を持つ膜を提供する。これらの理由のため、以下の構造のモノマーが、捜し求められる。これは、nEGMA(n−エチレングリコールエチルメタクリレート)と称され、ここでnは、次式における下付き文字nに対応する変数である。
【0040】
【化1】

ヒドロキシル官能基の付加に伴い、次式になる。
【0041】
CH2=CCH3−C(O)−(O−CH2−CH2n+1−OH
次式を有する親水性ユニット、ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)を持つ、関連するが異なる化合物が、
2C=CH−C(O)−O−C36−OH
高分子膜用途に親水性と低いタンパク質結合性との両方を提出するとして先行技術に開示されている。驚くことには、nEGMAタイプ・モノマーは、親水性ユニットからの親水性に加えて、伝統的に使用されるHPAよりもかなり良好な熱安定性を提供し、その結果、処理された膜が、応用時に親水性と低いタンパク質結合性とを失うことなく、高い温度で処理可能であることが見出された。
【0042】
nEGMAモノマーは、TEGDA(テトラエチレングリコールジアクリレート)のようなジアクリル種の架橋と共に、又はこれを伴わずに、当該技術に知られる熱、UV又は他の開始/活性化重合法により重合されることがある。別の種の架橋剤が、本発明に従って使用されることがあることが当業者に容易に明らかになるであろう。好適には、架橋剤は、親水性ユニットを有する二官能性のモノマーである。例えば、別の有用なジアクリレート・モノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレートであり、これは、PEG(200)ジメタアクリレート、PEG(400)ジメタアクリレート及びPEG(600)ジメタアクリレート(それぞれ、PEG200DMA、PEG400DMA及びPEG600DMAとしても知られる。)ような同じフレキシブルな−CH2−CH2−O−結合を提供する。PEG200DMA、PEG400DMA及びPEG600DMAは、また、発ガン性であるとは考えられていない。
【0043】
本発明に従って構成される膜の塗膜の熱安定性は、試験され、HPAで同様に処理された膜と比較された。約15%と約20%の塩化ナトリウム溶液が、水の表面張力を増加してぬれ性試験をより識別しやすくするために使用された。
【0044】
タンパク質結合の傾向は、流体通過タンパク質溶液回収の液体溶液を得て、膜上タンパク質の固体試料を試験することにより測定した。発光分光光度計LS50B(パーキン−エルマー)が、フルオレセインを付加した牛の血清アルブミン(BSA)の蛍光強度を測定するために使用された。I125−BSAが、また、膜表面に結合されるモデル・タンパク質として使用された。
【0045】
以下の実施例は、本発明の局面と実施例を提供し、及び/又は、詳細に述べる。
【0046】
具体例1: HPAを用いた親水性塗膜を有するPVDF膜
疎水性形態の膜が、初めにアルコールでぬらされ、次に十分に水洗された。モノマー溶液は、2%HPA、0.63%TEGDA、及び2%過流酸ナトリウムを水に含有する。水で濡らされた膜は、モノマー溶液に約5分間浸漬され、次に、空気加圧されるソフト・ローラーを伴う2枚のポリエステル・フィルムの間にはさむ。次に、95℃で約3分間加熱する。
【0047】
具体例2: 10EGMAを用いた親水性塗膜を有するPVDF膜
具体例1の方法が、本発明に従って実質的に繰り返されたが、HPAを10EGMA(即ち、nEGMA、ここで上に示す式でn=10)に置き換えた。
【0048】
熱処理後ぬれ性試験
具体例1と2からの膜が、IPA中で48時間煮沸され、135℃で1.5時間乾燥加熱され、131℃で4時間オートクレーブ処理され、且つ150℃で5分間乾燥加熱された。水によるぬれ時間と15%と20%の塩化ナトリウム溶液が以下に記録される。
【0049】
【表1】

タンパク質結合試験: 流体通過液体試料
タンパク質結合傾向が、流体通過タンパク質溶液回収の液体試料を得ると共に膜上タンパク質の固体試料を試験することにより測定された。発光分光光度計LS50B(パーキン−エルマー)が、フルオレセインを付加した牛の血清アルブミン(BSA)の蛍光強度を測定するために使用された。I125−BSAが、また、膜表面に結合されるモデル・タンパク質として使用された。結果を以下に示す表2に説明する。
【0050】
【表2】

タンパク質結合試験: 流体通過固体試料
本発明の低いタンパク質結合性が、また、固体膜試料上のBSAを測定することにより直接的に示され得る。高いタンパク質結合性ナイロン膜045S1もまた、対照として比較のために試験された。結果を以下の表3に示す。
【0051】
【表3】

本発明は好適な実施例に関して記述されたけれども、当業者は、種々の変更及び/又は変形が、本発明の精神と範囲から逸脱せずに本発明になされ得ることを容易に理解するであろう。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高分子膜を準備する工程と、
(b)親水性ユニットを含むアクリレート・モノマーを準備する工程と
(c)親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する工程と
(d)アクリレート・モノマーとジアクリレート・モノマーとの重合反応及び架橋反応を容易にする開始剤を準備する工程と、
(e)前記アクリレート・モノマーと前記ジアクリレート・モノマーの重合及び架橋を作動させるために、開始剤の存在下で前記高分子膜を前記アクリレート・モノマーと前記ジアクリレート・モノマーに露出する工程と、
を含む、親水性膜の製造方法。
【請求項2】
前記高分子膜を熱源に露出する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
高分子膜を準備する前記工程が、疎水性物質から作製された膜を準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
高分子膜を準備する前記工程が、PVDFから作製された膜を準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
高分子膜を準備する前記工程が、ナイロンから作製された膜を準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
高分子膜を準備する前記工程が、PESから作製された膜を準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記高分子膜をアルカリに露出する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記高分子膜をヒドロキシル基を有する溶質に露出する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、TEGDAを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、PEG(200)ジメタアクリレートを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、PEG(400)ジメタアクリレートを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、PEG(600)ジメタアクリレートを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、反復親水性セグメント鎖を有するアクリレート・モノマーを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
反復親水性セグメント鎖を有するアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、エチレンオキシド・セグメントの鎖を含有するアクリレート・モノマーを準備することを含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
親水性ユニットを含有するアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、エチレンオキシド・セグメントの鎖と親水性官能基とを含有するアクリレート・モノマーを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
エチレンオキシド・セグメントの鎖と親水性官能基とを含有するアクリレート・モノマーを準備する工程が、エチレンオキシド・セグメントの鎖とヒドロキシル官能基とを含有するアクリレート・モノマーを準備することを含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
親水性ユニットを含むアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、nEGMAを準備することを含み、ここでnが1より大きい変数である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
nEGMAを準備する前記工程が、nが2であるnEGMAを準備することを含む、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
nEGMAを準備する前記工程が、nが5であるnEGMAを準備することを含む、請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
nEGMAを準備する前記工程が、nが10であるnEGMAを準備することを含む、請求項17に記載の製造方法。
【請求項21】
前記アクリレート・モノマーとジアクリレート・モノマーの重合反応及び架橋反応を容易にするために開始剤を準備する前記工程が、過流酸ナトリウムを準備することを含む、請求項1に記載の製造工程。
【請求項22】
前記アクリレート・モノマーとジアクリレート・モノマーの重合反応及び架橋反応を容易にするために開始剤を準備する前記工程が、過流酸アンモニウムを準備することを含む、請求項1に記載の製造工程。
【請求項23】
(a)親水性セグメントと親水性官能基とを含む単官能性アクリレート・モノマーと、
(b)親水性官能基を含む二官能性ジアクリレート・モノマーと、
(c)前記単官能性アクリレート・モノマーと二官能性ジアクリレート・モノマーの重合と架橋を容易にする開始剤と、
を含む親水性を高分子膜に与える溶液。
【請求項24】
前記親水性セグメントが、エチレンオキシドである、請求項23に記載の溶液。
【請求項25】
単官能性アクリレート・モノマーの前記官能基が、ヒドロキシル基である、請求項23に記載の溶液。
【請求項26】
アルカリを含む、請求項23に記載の溶液。
【請求項27】
アルコールを含む、請求項23に記載の溶液。
【請求項28】
前記単官能性アクリレート・モノマーが、nEGMAであり、nが、1を越える大きさの変数である、請求項23に記載の溶液。
【請求項29】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、TEGDAである、請求項23に記載の溶液。
【請求項30】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(200)ジメタクリレートである、請求項23に記載の溶液。
【請求項31】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(400)ジメタクリレートである、請求項23に記載の溶液。
【請求項32】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(600)ジメタクリレートである、請求項23に記載の溶液。
【請求項33】
前記開始剤が、過流酸ナトリウムである、請求項23に記載の溶液。
【請求項34】
前記開始剤が、過流酸アンモニウムである、請求項23に記載の溶液。
【請求項35】
微孔性基材と、エチレンオキシド・セグメント及び親水性官能基を有する単官能性アクリレート・モノマー及び親水性官能基を有する二官能性のジアクリレート・モノマーを含有する、架橋された塗膜と、を含む親水性高分子膜。
【請求項36】
単官能性アクリレート・モノマーと共に含まれる親水性官能基が、ヒドロキシル基である、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項37】
微孔性基材が、PVDFから作製される、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項38】
微孔性基材が、PESから作製される、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項39】
微孔性基材が、ナイロンから作製される、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項40】
単官能性アクリレート・モノマーが、nEGMAであり、nが、1よりも大きな大きさの変数である、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項41】
nが、10に等しい、請求項40に記載の親水性高分子膜。
【請求項42】
二官能性ジアクリレート・モノマーが、TEGDAである、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項43】
二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(200)メタクリレートである、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項44】
二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(400)メタクリレートである、請求項35に記載の親水性高分子膜。
【請求項45】
二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(600)メタクリレートである、請求項35に記載の親水性高分子膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微孔性転相高分子膜を準備する工程と、
a)アクリレート・モノマー、nEGMAと、ここで、nEGMAが、CH2=CCH3−C(O)−(O−CH2−CH2n+1−OHを含み、nが1よりも大きく、
b)親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーと、
c)前記アクリレート・モノマー及び前記ジアクリレート・モノマーの重合反応及び架橋反応を容易にする開始剤と、
を含む溶液を前記高分子膜に塗布する工程と、
前記アクリレート・モノマー及び前記ジアクリレート・モノマーの重合及び架橋を作動させるために、前記開始剤の存在下で前記高分子膜を前記アクリレート・モノマー及び前記ジアクリレート・モノマーに露出する工程と、
を含む、熱的に安定な親水性膜の製造方法。
【請求項2】
前記高分子膜を熱源に露出する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記高分子膜が、疎水性物質から作製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記高分子膜が、PVDFから作製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記高分子膜が、ナイロンから作製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記高分子膜が、PESから作製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記高分子膜をアルカリに露出する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記高分子膜を、ヒドロキシル基を有する溶質に露出する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、TEGDAを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、PEG(200)ジメタクリレートを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、PEG(400)ジメタクリレートを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
親水性ユニットを含むジアクリレート・モノマーを準備する前記工程が、PEG(600)ジメタクリレートを準備することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
nEGMAを準備する前記工程が、nが2であるnEGMAを準備することを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項14】
nEGMAを準備する前記工程が、nが5であるnEGMAを準備することを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項15】
nEGMAを準備する前記工程が、nが10であるnEGMAを準備することを含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記アクリレート・モノマー及びジアクリレート・モノマーの重合反応及び架橋反応を容易にするために開始剤を準備する前記工程が、過流酸ナトリウムを準備することを含む、請求項1に記載の製造工程。
【請求項17】
前記アクリレート・モノマー及びジアクリレート・モノマーの重合反応及び架橋反応を容易にするために開始剤を準備する前記工程が、過流酸アンモニウムを準備することを含む、請求項1に記載の製造工程。
【請求項18】
転相微孔性基材と、
単官能性アクリレート・モノマーnEGMA、ここで、nEGMAがCH2=CCH3−C(O)−(O−CH2−CH2n+1−OHを含み、nが1よりも大きい大きさの変数であり、及び、親水性官能基を有する二官能性ジアクリレート・モノマーを含有する、架橋された塗膜と
を含む熱的に安定な親水性高分子膜。
【請求項19】
前記微孔性基材が、PVDFから作製される、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項20】
前記微孔性基材が、PESから作製される、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項21】
前記微孔性基材が、ナイロンから作製される、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項22】
nが、10に等しい、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項23】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、TEGDAである、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項24】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(200)メタクリレートである、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項25】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(400)メタクリレートである、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項26】
前記二官能性ジアクリレート・モノマーが、PEG(600)メタクリレートである、請求項18に記載の親水性高分子膜。
【請求項27】
前記膜が、130℃で4時間加熱後に膜の親水性を保持する、請求項18に記載の膜。
【請求項28】
前記膜が、135℃で1.5時間加熱後に膜の親水性を保持する、請求項18に記載の膜。
【請求項29】
前記膜が、150℃で15分加熱後に膜の親水性を保持する、請求項18に記載の膜。

【公表番号】特表2006−521926(P2006−521926A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508906(P2006−508906)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/006043
【国際公開番号】WO2004/094049
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(399044506)キュノ、インコーポレーテッド (14)
【氏名又は名称原語表記】CUNO INCORPORATED
【Fターム(参考)】