説明

親水性被膜形成用樹脂組成物及びその塗装品

【課題】防曇性を長期に亘って持続でき、耐久性に優れた被膜を形成することのできる親水性被膜形成用樹脂組成物、及び該親水性被膜形成用樹脂組成物により被膜を形成してなる塗装品を提供する。
【解決手段】シリコーン樹脂と、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレートと、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマーと、を含有する親水性被膜形成用樹脂組成物とする。有機ポリマーとしては、好ましくはポリビニルアルコールを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、親水性被膜形成用樹脂組成物及びその塗装品に関するものであり、特に、防曇性を長期に亘り維持できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、基材の表面に親水性被膜を形成することにより、基材の汚れ防止性、防曇性、帯電防止性などの機能を付与した機能性材料が増えている。特に、防曇性は様々な環境で用いられるもので、ニーズが高く、様々な材料が提案されている。
【0003】
従来、このような親水性を利用した防曇性材料としては、無機アルコキシドが加水分解・重縮合して形成されるポリマーに、界面活性剤、水溶性樹脂、親水性無機フィラー、あるいはこれらの複合材料や、バインダー樹脂を混合したものなどがある。例えば、特開2000−44886号公報(特許文献1)では、ポリアクリル酸類のような吸水性有機ポリマーを配合することにより、親水性を得ており、その他、特開2004−123809号公報(特許文献2)、特開2005−314495号公報(特許文献3)なども類似の材料である。
【特許文献1】特開2000−44886号公報
【特許文献1】特開2004−123809号公報
【特許文献2】特開2005−314495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1〜3のような材料を利用して基材表面に防曇性被膜を形成しても被膜形成直後はその効果が十分発揮されているが、表面に付着した水滴によってこれら材料の一部又は全部が流れ落ちてしまって防曇効果が徐々に減少したり、塗膜の耐久性に欠けるため、長期に亘って効果を持続することができない問題がある。
【0005】
本願発明は、前記背景技術に鑑みてなしたものであり、防曇性を長期に亘って持続でき、耐久性に優れた被膜を形成することのできる親水性被膜形成用樹脂組成物、及び該親水性被膜形成用樹脂組成物により被膜を形成してなる塗装品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本願請求項1に記載の発明は、シリコーン樹脂と、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレートと、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマーと、を含有することを特徴とする親水性被膜形成用樹脂組成物を提供している。
【0007】
本願請求項2記載の発明は、前記請求項1に記載の親水性被膜形成用樹脂組成物において、有機ポリマーがポリビニルアルコールであることを特徴としている。
【0008】
本願請求項3記載の発明は、前記請求項2に記載の親水性被膜形成用樹脂組成物において、ポリビニルアルコールの配合量がシリコーン樹脂1質量部に対して0.1〜100質量部であることを特徴としている。
【0009】
本願請求項4記載の発明は、前記請求項1乃至3のいずれかに記載の親水性被膜形成用樹脂組成物からなる塗膜を基材の表面に形成した塗装品を提供している。
【発明の効果】
【0010】
本願請求項1記載の発明の親水性被膜形成用樹脂組成物においては、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレートを含有しているので、該有機チタンキレートがシリコーン樹脂を架橋できることに加え、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマーを効果的に架橋させることができ、高い親水性と防曇性を付与しながら、得られる被膜の耐久性を高めることができる。そのため、形成される被膜は、湿度が高い状態で使用されても耐久性に優れる。また、有機チタンキレートは反応性が比較的穏やかで扱い易いという利点がある。
【0011】
本願請求項2記載の発明の親水性被膜形成用樹脂組成物においては、特に、有機ポリマーを多数の水酸基を有しているポリビニルアルコールとしているので、親水性と架橋性に優れる。
【0012】
本願請求項3記載の発明の親水性被膜形成用樹脂組成物においては、特に、シリコーン樹脂に対して前記有機ポリマーを特定比率で配合するものとしているので、親水性と耐久性のバランスを良好に保つことができる。
【0013】
本願請求項4記載の発明の塗装品においては、前記親水性被膜形成用樹脂組成物により塗膜を形成しているので、防曇性を長期に亘って持続でき、耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物は、シリコーン樹脂(A)と、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレート(B)と、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマーと、を必須成分として含有するものである。以下、各成分について詳述する。
【0015】
親水性被膜形成用樹脂組成物の必須成分の一つであるシリコーン樹脂(A)は、バインダー樹脂および造膜成分として用いられる成分である。本発明のシリコーン樹脂(A)の形態は特に限定されず、例えば溶液状のものでも分散液状のもの等でも構わない。
【0016】
シリコーン樹脂(A)は、一般的に下記式(1)で示される4官能性アルコキシシランを加水分解重縮合して形成したポリシロキサンであり、アルコキシシランの(部分)加水分解物である。なお、本明細書中、「(部分)加水分解」は「部分加水分解および/または完全加水分解」を意味する。
【0017】
Si(OR)4 (1)
式(1)中のRは1価の炭化水素基であれば特に限定されないが、炭素数1〜8の1価の炭化水素基が好適であり、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基等のアルキル基を例示することができる。これらアルキル基のうち、炭素数が3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基等のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。式(1)で示される4官能性アルコキシシランを用いることにより、得られる塗膜の表面親水性、防曇性を高めることができる。
【0018】
式(1)で表されるアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−t−ブトキシシランなどが例示される。なお、前記アルコキシシランは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
シリコーン樹脂(A)は、たとえば、前記アルコキシシランに硬化剤としての水および必要に応じて触媒等を必要量添加して、(部分)加水分解を行わせてプレポリマー化させることにより、調製することができる。
【0020】
またアルコキシシランを(部分)加水分解する際に必要に応じて用いられる触媒としては、特に限定はされないが、製造工程にかかる時間を短縮する点から、酸性触媒が好ましい。酸性触媒としては、特に限定はされないが、たとえば、酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸;塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等の無機酸;酸性コロイダルシリカ、酸化チタニアゾル等の酸性ゾル状フィラー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0021】
アルコキシシランの(部分)加水分解は、必要に応じ、加温(たとえば、40〜100℃に加熱)して行っても良い。
【0022】
アルコキシシランの(部分)加水分解は、必要に応じ、アルコキシシランを適当な溶媒で希釈して行ってよい。そのような希釈溶媒(反応溶媒)としては、特に限定はされないが、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体;およびジアセトンアルコール等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上のものを使用することができる。これらの親水性有機溶媒と併用して、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム等の1種もしくは2種以上も用いることができる。
【0023】
分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレート(B)は、シリコーン樹脂と、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマーのそれぞれを効果的に架橋することができるものである。
【0024】
分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレート(B)としては、水酸基を2個以上又はカルボキシル基を2個以上有する有機チタンキレートを用いることができる。例えば、水酸基を2個有するような、Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2のような乳酸チタンや、Ti(OH)2[OCH(CH3)COO]2(NH4+)2のような乳酸チタンのアンモニウム中和物などを例示することができる。
【0025】
分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレート(B)は、シリコーン樹脂(A)に対し、{シリコーン樹脂(A)[SiO2換算]}:{分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレート(B)[TiO2換算]}が10:5〜10:20の質量比で配合されることが好ましい。これは、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレート(B)の配合量が前記範囲より低いと、有機チタンキレート(B)による架橋効果を十分に発揮させることができず、前記範囲を超えると形成される硬化被膜の親水性が低下するおそれがあるからである。
【0026】
さらに、本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物は、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマー(C)を含む。「複数」とは2以上であればよく、上限は限定されない。水酸基を複数有する有機ポリマー(C)としては、ポリビニルアルコールが代表として挙げられる。カルボキシル基を複数有する有機ポリマー(C)としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、またはそれらの共重合体が例示できる。この有機ポリマー(C)は、シリコーン樹脂1質量部に対して0.1〜100質量部の配合量で混合されることにより、この樹脂組成物を基材に塗布してなる塗膜が親水性や防曇性をより発現しやすくなる。有機ポリマー(C)の配合量はさらに好ましくはシリコーン樹脂1質量部に対して1〜20質量部である
本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物を製造する方法は、各成分を通常の方法および装置等を用いて混合すればよい。例えば、(I)シリコーン樹脂(A)と、有機チタンキレート(B)と、アルコールと、水と、酸触媒とを混合して、加水分解・重縮合反応させたのち、有機ポリマー(C)を配合して製造する方法、(II)シリコーン樹脂(A)と、有機チタンキレート(B)と、アルコールと、水と、酸触媒とを混合して、加水分解・重縮合反応させたのち、有機ポリマー(C)を配合し、さらに少量の有機チタンキレート(B)を配合して製造する方法が好ましい。本製造方法とすれば、シリコーン樹脂(A)と有機ポリマー(C)のそれぞれを有機チタンキレート(B)が架橋することができる。
【0027】
なお、本願の親水性被膜形成用樹脂組成物は、塗膜に種々の機能を付加する等のために、各成分の特性を行わない範囲において、硬化触媒、フィラー、光半導体材料、着色剤、成膜助剤、レベリング剤、防腐剤等を含んでもよい。また、濃度調整のために希釈溶剤を用いても良い。希釈溶剤としては、水、或いは有機溶剤が使用される。有機溶剤としては特に限定されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類をはじめ、エチレングリコール誘導体、ジエチレングリコール誘導体、プロピレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ケトン類を挙げることができ、これらから成る群より選択された1種又は2種以上を使用することができる。
【0028】
本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物は、基材の表面に塗布されて塗膜を形成されることにより、親水性の塗膜を有する塗装品とすることができる。
【0029】
本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されるものではなく、たとえば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコートとも言う)、ロールコート、フローコート(基材の被塗装部位の上部から塗料を流して塗装する流し塗り塗装法)、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、バーコート等の通常の各種塗布方法を選択することができる。
【0030】
本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物の塗膜の硬化方法については、公知の方法を用いればよく、特に限定はされない。また、硬化の際の温度も特に限定はされず、所望される硬化被膜性能や、基材の耐熱性等に応じて常温〜加熱温度(例えば、20〜150℃)の広い範囲をとることができる。
【0031】
本発明の親水性被膜形成用樹脂組成物が塗布される基材(本発明の塗装品に用いられる基材でもある)としては、有機、無機を問わず、各種基材を用いることができ、特に限定はされないが、たとえば、ガラス、金属、プラスチック等が挙げられる。これらの基材は、塗装の際に塗膜を均一に形成できるようにするため、または、塗膜との密着性を向上させるために、前洗浄しておくと良い。その方法としては、特に限定はされないが、たとえば、アルカリ洗浄、ふっ化アンモニウム洗浄、プラズマ洗浄、UV洗浄等が挙げられる。
【0032】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本願発明は下記実施例に限定されない。
【0033】
(実施例1)
テトラエトキシシラン139質量部にイソプロピルアルコール(IPA)を80質量部加え、さらに水を63質量部及び0.01規定の塩酸10質量部を混合し、ディスパーを用いてよく混合してシリコーン樹脂溶液を得た。次にこのシリコーン樹脂溶液に乳酸チタンを202質量部配合し、これを60℃で6時間重合反応させた。すなわちシリコーン樹脂(SiO2換算):乳酸チタン(TiO2換算)で1:1(質量比)になるように調整した。ついでこの溶液1質量部に対してポリビニルアルコール(PVA:和光純薬工業(株)製「ポリビニルアルコール1000 部分けん化型」)の5質量%水溶液を10質量部添加した。すなわち質量比で樹脂固形分:PVA=1:10になるようにPVAを配合し、全固形分が1質量%となるようにIPAで希釈して、実施例1の樹脂組成物を得た。
これをガラス基材に乾燥後の膜厚が0.2〜0.3μmになるようにスピンコートで成膜し、120℃で10分間加熱硬化して被膜形成した塗装品を得た。
【0034】
(実施例2)
実施例2は実施例1のIPA希釈前の溶液110質量部に、さらに乳酸チタンを追加で1質量部添加した以外は実施例1と同様にした。
【0035】
(比較例1)
ポリビニルアルコールを全固形分が1質量%になるように水で希釈し、これをガラス基材に乾燥後の膜厚が0.2〜0.3μmになるようにスピンコートで成膜し、常温で硬化させて被膜を得た。
即ち、比較例1では、シリコーン樹脂と、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレートを配合しなかった。
【0036】
(比較例2)
テトラエトキシシラン208質量部に、イソプロピルアルコール356質量部を加え、さらに水180質量部及び0.01規定の塩酸18質量部を混合し、ディスパーを用いてよく混合してシリコーン樹脂溶液を得た。このシリコーン樹脂溶液を60℃で6時間重合反応させた後に、シリコーン樹脂溶液1質量部に対して5質量%のポリビニルアルコール水溶液を1質量部配合した。全固形分が1質量%になるようにイソプロパノールで希釈することによって、比較例2の樹脂組成物を得たあと、ガラス基材に乾燥後の膜厚が0.2〜0.3μmになるようにスピンコートで成膜し、100℃で10分間加熱硬化して被膜形成した塗装品を得た。
前記実施例1、2及び比較例1、2で得た硬化被膜について、以下の方法で初期の防曇性、水洗後の防曇性を評価し、結果を表1に示した。
【0037】
(初期の防曇性)
90℃の温水から出る水蒸気に硬化被膜を10分間曝し、曇りが生じた面積を目視確認し、以下のように評価した。
◎:曇りなし
○:曇りの生じた面積が10%以下
△:曇りの生じた面積が10%を超えて50%以下
×:曇りの生じた面積が50%を超える
(水洗後の防曇性)
硬化被膜を流水に曝しながら被膜表面を布で10往復擦り、初期防曇性評価と同様の評価を行った。
【0038】
【表1】

【0039】
比較例では初期に防曇性を有していても、水洗試験後に明らかに防曇性の低下が見られた。これは、使用中に硬化被膜表面に結露により付着する水滴により防曇性が損なわれ、徐々に防曇性が低下したものと考えられる。これに対して、実施例1、2では初期の防曇性に優れるだけでなく、水洗後においても十分な防曇性を示した。即ち、親水性、防曇性を長期に亘って持続することができ、耐久性に優れた塗膜を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂と、分子中に水酸基を複数有する有機チタンキレートと、分子中に水酸基を複数又はカルボキシル基を複数有する有機ポリマーと、を含有することを特徴とする親水性被膜形成用樹脂組成物。
【請求項2】
有機ポリマーがポリビニルアルコールである請求項1に記載の親水性被膜形成用樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコールの配合量がシリコーン樹脂1質量部に対して0.1〜100質量部である請求項2に記載の親水性被膜形成用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の親水性被膜形成用樹脂組成物からなる塗膜を基材の表面に形成してなる塗装品。

【公開番号】特開2010−77229(P2010−77229A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245189(P2008−245189)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】