説明

親水性複合材

【課題】 光線の殆ど当たらない室内においても親水回復機能を発揮しうる親水性複合材を提供する。
【解決手段】 基材表面にアモルファス状物質からなる層が形成されており、前記層上には異方性結晶からなる親水性被膜が形成されている複合材であり、前記アモルファス状物質は加熱された水分子との反応により前記異方性結晶に変換可能であることを特徴とする親水性複合材。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、長期にわたって優れた親水性を維持可能な複合材に関する。
【0002】
【従来の技術】部材の表面を親水性にすると、曇り防止、水滴形成の防止、水のみによる清浄化、帯電防止、付着水の乾燥促進等の効果があり有用であるために、従来より種々の提案がある。
【0003】例えば、特開昭61ー91042号には、「ガラス表面上に所定の厚さで表面に微細な凹凸を有するシリカ、チタニア等の無機酸化物の薄膜を形成したことを特徴とする防曇ガラス」が開示されている。この態様はそれ以前に知られていた表面に親水性界面活性剤を塗布する方法や、セルロース系エステルからなる親水性樹脂で表面を被覆する方法と比較すると優れた親水性を呈するとともに長期に親水性を維持し防曇機能を長期間発揮するものの、一旦汚れ等に起因する疎水基が吸着して表面が疎水化すると、表面性状を元の状態に戻す術がないために、親水性が回復せず、防曇機能を失ってしまう。
【0004】一方、PCT/WO96/29375号には、「親水性表面を備えた複合材であって、基材と、前記基材の表面に接合された光触媒性半導体材料を含む層とを備え、前記光触媒材料の光励起に応じて、前記層の表面を親水性になすことを特徴とする複合材」が開示されている。この態様では、例えば、光触媒材料がチタニア等の無機酸化物からなる場合、製造直後には無機酸化物表面の潜在的性質から親水性であり、かつ仮に汚れ等に起因する疎水基が吸着して表面が疎水化しても、光触媒に励起波長以下の光線を照射することにより親水性が回復する点で優れているといえる。しかしながら、励起波長以下の光線のほとんど当たらない室内においては上記回復効果が充分に発揮されない場合がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明では、上記事情に鑑み、光線のほとんど当たらない室内においても親水回復機能を発揮しうる親水性複合材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記課題を解決すべく、基材表面にアモルファス状物質からなる層が形成されており、前記層上には異方性結晶からなる親水性被膜が形成されている複合材であって、前記アモルファス状物質は加熱された水分子との反応により前記異方性結晶に変換可能であることを特徴とする親水性複合材、或いは、基材表面にアモルファス状物質からなる層が形成されている複合材であって、前記層表面に存在するアモルファス状物質は加熱された水分子との反応によって異方性結晶からなる親水性被膜を形成可能であることを特徴とする親水性複合材を提供する。上記構成において、異方性粒子は微細な凹凸を表面に形成するために優れた親水性被膜を形成する。また、下地のアモルファス状物質が蒸気等の水分子との反応により異方性結晶に変換されうるので、蒸気等の水分子に表面を曝すことで親水性が回復する。
【0007】
【発明の実施の形態】以下に本発明の具体的構成について図に基づいて説明する。図1に本発明の一実施例を示す。図1における複合材は、基材1上にアモルファス状物質からなる層2を備え、さらにその上に前記アモルファス状物質からなる層と加熱された水分子との反応で形成しうる異方性結晶3を備えている。また図2には本発明の他の実施例を示す。図2における複合材は、基材11上に、加熱された水分子との反応で異方性結晶を形成しうるアモルファス状物質からなる層12を具備している。透明性を確保するには可視光の散乱をなくす必要があるが、そのためには層2および異方性結晶3、層12の膜厚はそれぞれ可視光の波長以下の400nm以下が望ましい。
【0008】ここで、アモルファス状物質としては、無定形アルミナ、非晶質チタン酸カリウム等が好適に利用できる。アモルファス状物質が無定形アルミナの場合、加熱された水分子との反応で生成する異方性結晶はγーアルミナ或いはベーマイト(いずれも針状或いは花弁状結晶になる)であると考えられる。アモルファス状物質が非晶質チタン酸カリウムの場合は、加熱された水分子との反応で生成する異方性結晶はチタン酸カリウム結晶(通常繊維状)になると考えられる。
【0009】異方性結晶とは、等方的でない結晶全般をさし、針状、繊維状、板状、花弁状、スポンジ状等の形状がその典型である。加熱された水分子との反応とは、加熱蒸気との反応、熱水との反応のいずれをもさす。
【0010】本発明における親水性とは、水との接触角に換算して30゜以下、好ましくは10゜以下、より好ましくは5゜以下の水濡れ性を呈する状態をいう。部材表面が水との接触角に換算して10゜以下の状態であれば、空気中の湿分や湯気が結露しても、凝縮水が個々の水滴を形成せずに一様な水膜になる傾向が顕著になる。従って、表面に光散乱性の曇りを生じない傾向が顕著になる。また、部材表面が水との接触角に換算して30゜以下の状態であれば、窓ガラスや車両用バックミラ−や車両用風防ガラスや眼鏡レンズやヘルメットのシ−ルドが降雨や水しぶきを浴びた場合に、離散した目障りな水滴が形成されずに、高度の視界と可視性を確保し、車両や交通の安全性を保証し、種々の作業や活動の能率を向上させる効果が飛躍的に向上する。また、部材表面が水との接触角に換算して10゜以下、好ましくは5゜以下の状態であれば、都市煤塵、自動車等の排気ガスに含有されるカ−ボンブラック等の燃焼生成物、油脂、シ−ラント溶出成分等の疎水性汚染物質、及び無機粘土質汚染物質双方が付着しにくく、付着しても降雨や水洗により簡単に落せる状態になる。
【0011】部材表面が上記高度の親水性を維持できれば、上記防曇効果、水滴形成防止効果、表面清浄化効果の他、帯電防止効果(ほこり付着防止効果)、断熱効果、水中での気泡付着防止効果、熱交換器における効率向上効果、生体親和性効果等が発揮されるようになる。
【0012】本発明が適用可能な基材としては、上記防曇効果又は水滴形成防止効果を期待する場合には透明な部材であり、その材質はガラス、プラスチック等が好適に利用できる。適用可能な基材を用途でいえば、車両用バックミラ−、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡のような鏡;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズのようなレンズ;プリズム;建物や監視塔の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロ−プウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノ−モ−ビル、オ−トバイ、ロ−プウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の風防ガラス;防護用ゴ−グル、スポ−ツ用ゴ−グル、防護用マスクのシ−ルド、スポ−ツ用マスクのシ−ルド、ヘルメットのシ−ルド、冷凍食品陳列ケ−スのガラス;計測機器のカバ−ガラス、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルム等に利用できる。
【0013】本発明が適用可能な基材としては、上記表面清浄化効果を期待する場合にはその材質は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリ−ト、繊維、布帛、それらの組合せ、それらの積層体が好適に利用できる。適用可能な基材を用途でいえば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバ−及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用防音壁、鉄道用防音壁、橋梁、ガ−ドレ−ルの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバ−、太陽熱温水器集熱カバ−、ビニ−ルハウス、車両用照明灯のカバ−、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバ−、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフ−ド、換気扇、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルム等に利用できる。
【0014】本発明が適用可能な基材としては、上記帯電防止効果を期待する場合にはその材質は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリ−ト、繊維、布帛、それらの組合せ、それらの積層体が好適に利用できる。適用可能な基材を用途でいえば、ブラウン管、磁気記録メディア、光記録メディア、光磁気記録メディア、オ−ディオテ−プ、ビデオテ−プ、アナログレコ−ド、家庭用電気製品のハウジングや部品や外装及び塗装、OA機器製品のハウジングや部品や外装及び塗装、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバ−及び塗装、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルム等に利用できる。
【0015】
【実施例】以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0016】(親水性の評価方法)親水性は、試料を室内に放置して、所定時間に純水との接触角を測定することによって評価した。協和界面科学社製接触角計CA−X150で、純水との接触角を三点測定し、その平均値を試料の接触角とした。
【0017】(比較例)(株)高純度化学社製のディップコート(Al23膜用)Al−03−Pを72×56×1.3(mm)のスライドガラスにフローコート法によって塗布した。塗布後、約30分ほど自然乾燥させた。これを電気炉に入れて、昇温速度200℃/hrにて室温から500℃まで昇温させ、500℃を1時間維持させた後、炉内で自然冷却させて、比較例1を得た。
【0018】(実施例1)200mlビーカーに200mlの蒸留水を入れて、加熱して沸騰させた。その沸騰している蒸留水の中に、比較例と同様な方法で作った試料を120分浸漬させて、実施例1を得た。何も塗布しないプレパラートガラスと比較例、実施例の親水性の評価結果を図3に示す。水との接触角の初期値は0.2°であった。それらを室内に840時間放置したところ接触角は、4.4°であった。また、実施例1の試料の表面および断面の電子顕微鏡写真を図4および図5に示すが、実施例1の試料表面の針状粒子の存在の確認できた。
【0019】(実施例2)200mlビーカーに200mlの蒸留水を入れて、加熱して沸騰させた。その沸騰している蒸留水の中に、比較例と同様な方法で作った試料を1分と30と60分浸漬させた。水との接触角の初期値はそれぞれ、0.2°、1.4°、0.2°であった。それらを室内に792時間放置したところ接触角は、6.4°、3.6°、2.1°であった。
【0020】(実施例3)100mlビーカーに、水面がビーカーの縁から1cm下になるまで蒸留水を入れた後、加熱して沸騰させた。比較例と同様な方法で作った試料を、蒸気が当たる様に塗布面を下にむけて沸騰している水面から1cm離した位置で、蒸気に1分および5分曝露した。水との接触角の初期値はそれぞれ、0.0°、0.2°であった。それらを792時間放置したところ接触角は、9.6°、4.0°であった。
【0021】(実施例4)(株)高純度化学社製のディップコート剤(Al23膜用)Al−03−Pを72×56×1.3(mm)のスライドガラスにフローコート法によって塗布した。塗布後、約20分ほど自然乾燥させた。これを焼成しないで、実施例2と同様な方法で処理時間5、30、120分の試料を作成した。水との接触角の初期値はそれぞれ、4.8°、2.8°、2.7°であった。室内に288時間放置したところ、接触角はそれぞれ、3.3°、3.5°、4.0°であった。
【0022】(実施例5)(株)高純度化学社製のディップコート剤(Al23膜用)Al−03−Pを72×56×1.3(mm)のスライドガラスにフローコート法によって塗布した。塗布後、約30分ほど自然乾燥させた。これを焼成しないで、実施例3と同様な方法で処理時間5、30、120分の試料を作成した。水との接触角の初期値はそれぞれ、2.1°、3.2°、4.8°であった。室内に288時間放置したところ、接触角はそれぞれ、3.9°、3.2°、3.9°であった。
【0023】(実施例6)実施例4と同じ方法で熱水処理時間1分の試料を作製した。その時の水との接触角は7.4°であった。この試料の表面にできた異方性結晶をキムタオルで擦って削り取ると、接触角は27.4°に上昇した。その試料をまた前述と同じ方法で1分間熱水処理したところ、接触角は16.6°になった。熱水処理1時間後には接触角は8.1°まで低下した。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、光線のほとんど当たらない室内においても親水回復機能を発揮しうる親水性複合材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す図。
【図2】本発明の他の実施例を示す図。
【図3】本発明の実施例の水との接触角の時間的変化を示す図。
【図4】本発明の実施例の電子顕微鏡による表面観察結果を示す図。
【図5】本発明の実施例の電子顕微鏡による断面観察結果を示す図。
【符号の説明】
1…基材
2…アモルファス状物質からなる層
3…異方性結晶
11…基材
12…加熱された水分子との反応で異方性結晶を形成しうるアモルファス状物質からなる層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面にアモルファス状物質からなる層が形成されており、前記層上には異方性結晶からなる親水性被膜が形成されている複合材であって、前記アモルファス状物質は加熱された水分子との反応により前記異方性結晶に変換可能であることを特徴とする親水性複合材。
【請求項2】 基材表面にアモルファス状物質からなる層が形成されている複合材であって、前記層表面に存在するアモルファス状物質は加熱された水分子との反応によって異方性結晶からなる親水性被膜を形成可能であることを特徴とする親水性複合材。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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