説明

観察システム

【解決手段】 アイソレータ2の外部にカメラ11とモニター13を備えた拡大観察装置4を設け、さらに上記カメラの撮影位置には、観察窓21が形成されている。観察試料の入れられた観察容器6がアイソレータ内に搬入されたら、ハーフスーツ3を着用した作業者が上記観察容器を把持してこれを観察窓の上方に位置させる。
すると、上記観察窓を介してカメラに撮影された画像が作業者の正面に設置されたモニターに映し出され、作業者はさらに昇降手段を操作してカメラの位置を変更し、画面の焦点や画像の拡大を行うことができる。
【効果】 拡大観察装置が滅菌ガスによって腐食せず、またアイソレータ内の滅菌を確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は観察システムに関し、詳しくはアイソレータ内の試料を観察するための観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、微生物やヒトまたは動物から採取した細胞などは、医薬品の無菌性試験に伴って様々な実験や培養が行われ、また最近では、これら微生物や細胞を有機・無機からなる基材に定着させることが試みられており、これらの作業は外部より離隔されてその内部が無菌状態に維持されたアイソレータの内部で行われている。
ここで、上述した微生物・細胞・基材等の試料は顕微鏡やカメラなどの拡大観察装置を用いなければ、詳細な観察をすることができないため、従来以下のような観察システムによって観察が行われていた。
第1の観察システムでは、無菌状態に維持された密閉箱の内部に顕微鏡を設けるとともに、当該顕微鏡の鏡筒部を密閉箱の外部に突出させて、作業者が当該鏡筒部を覗くことで試料の観察を行っている。(特許文献1)
第2の観察システムでは、無菌状態に維持された作業室内に顕微鏡を設けるとともに、当該顕微鏡に画像取り込み装置を連設し、顕微鏡で観察した映像を上記画像取り込み装置を介して作業室の内壁面に埋設したモニターに映し出すことで、試料の観察を行っている。(特許文献2)
第3の観察システムでは、無菌状態に維持されたケーシング内に顕微鏡を設けるとともに、上記ケーシングの外部にCCDカメラを設け、当該CCDカメラによって顕微鏡の観察像を撮影し、これをケーシングの外部に設置されたモニターに映し出して試料の観察を行っている。(特許文献3)
【特許文献1】実公平5−10640号公報
【特許文献2】特開2001−25387号公報
【特許文献3】特開2003−93040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記特許文献1における観察システムの場合、上記顕微鏡の鏡筒部を密閉箱の外部に突出させなければならないため、当該密閉箱に開口を設けなければならず、当該開口によって密閉箱が外部と連通してしまうことから、無菌状態を維持したまま試料の観察をすることができず、加えて、鏡筒を突出させるため、密閉箱の大きさ形状が制約され、自由な作業環境を構築することができなかった。
また各特許文献において、上記密閉箱、作業室、ケーシングの内部を無菌状態とするためには、予め滅菌作業によってこれらの内部を滅菌しなければならず、従来この滅菌作業には過酸化水素蒸気等の滅菌ガスが用いられていた。
このため、これら密閉箱、作業室、ケーシング内に設置された顕微鏡やモニター等の機器にも滅菌ガスが噴霧されてしまい、これらの機器が腐食してしまうおそれがあった。
また、顕微鏡のような複雑な形状を有する機器が密閉箱、作業室、ケーシング内に設置されていると、上記過酸化水素蒸気によって十分な滅菌が行われないことがあり、確実な滅菌を行うことができなかった。
このような問題に鑑み、本発明は滅菌ガスによる顕微鏡等の拡大観察装置が腐食するおそれが無く、またアイソレータ内の滅菌を確実に行うことの可能な観察システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明における観察システムは、隔壁により外部から隔離され、無菌状態に維持されたアイソレータ内部の試料を観察する観察システムであって、
上記アイソレータの床面若しくは天面となる隔壁の少なくとも一部に透明な観察窓を設けるとともに、上記アイソレータの外部に観察窓の位置にあわせて拡大観察装置を設けて、上記拡大観察装置により上記観察窓を介してアイソレータ内部の試料を観察することを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
上記発明によれば、拡大観察装置をアイソレータの外部に設置しているため、拡大観察装置が滅菌ガスによって腐食してしまうおそれは無く、しかもアイソレータの内部に複雑な機器を設置する必要がなくなるため、アイソレータ内を確実に滅菌することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図示実施例について説明すると、図1は本実施例に係る観察システム1を示し、この観察システム1を用いることにより、ヒト又は動物の細胞や微生物、若しくはこれら細胞や微生物を定着させる基材等からなる観察試料を、アイソレータ2内で観察し、また観察しながら定着等の作業を行うようになっている。
上記アイソレータ2は外部雰囲気から隔離されてその内部が無菌状態に維持され、当該アイソレータ2の内部にはハーフスーツ3が設けられている。そして上記観察システム1は、上述したようなアイソレータ2の内部において観察すべき観察試料を撮影してこれを映し出す拡大観察装置4を備えている。
上記拡大観察装置4はアイソレータ2の外部に設けられており、アイソレータ2の下方に設けられた図示しないフットスイッチを作業者が操作することで制御されるようになっている。
【0007】
上記アイソレータ2は、側壁面2a、天面2b、床面2cの各隔壁によって取り囲まれて外部雰囲気から隔離されており、作業者がハーフスーツ3を着用できるよう、床面2cには脚部材5が設けられている。
またアイソレータ2の天面2bには図示しない無菌エア供給装置が備えられ、当該無菌エア供給装置から供給される除菌された空気によってアイソレータ2内は所定の陽圧に保たれている。
さらに、アイソレータ2には過酸化水素蒸気を供給する図示しない滅菌ガス供給手段が設けられており、アイソレータ2を使用する際には、予め上記滅菌ガス供給手段により過酸化水素蒸気をアイソレータ2内に充満させ、アイソレータ2の滅菌を行うようになっている。
そしてアイソレータ2には観察すべき観察試料をアイソレータ2内に搬入するための図示しない搬入口が設けられており、この搬入口より観察する観察試料を搬入することができるようになっている。
次に、上記ハーフスーツ3はアイソレータ2の略中央に設置され、アイソレータ2の内部の無菌状態を維持したまま各種の作業が可能となっている。また上記ハーフスーツ3を着用した作業者の足元には上記拡大観察装置4を操作するための上記フットスイッチが設けられている。
なお、このフットスイッチに代えて、アイソレータ2内に過酸化水素蒸気による腐食を防止する処理の施されたジョイスティック等の操作手段を設けることも可能であり、ハーフスーツ3を着用した作業者が当該ジョイスティックを操作するようにしても良い。
【0008】
観察すべき観察試料が培養中の細胞である場合、当該観察試料は培養液とともに観察容器6に収容されており、図2に示すように、観察容器6は扁平に形成された透明なボトル6aと、当該ボトル6aを密閉するキャップ6bとから構成され、観察容器6内の観察試料はボトル6aの外部から観察できるようになっている。
なお、このような観察容器6は従来公知であり、例えば特表平2−502787号公報に開示される容器(特に図5、図6の内容)と略同一であるので、その詳細な説明を省略する。
【0009】
上記拡大観察装置4は、アイソレータ2内の観察試料を撮影するカメラ11と、当該カメラ11を移動させる移動手段としての昇降機構12と、上記カメラ11によって撮影された画像を映し出すモニター13とを備えている。
上記カメラ11は従来公知のCCDカメラであり、アイソレータ2内の観察試料を撮影するよう、上方を向いた状態で設置され、当該カメラ11のレンズの周囲には、図示しないリング状の照明手段が設けられている。
上記昇降機構12は、アイソレータ2の床面2cの下面に固定されたステー12aと、当該ステー12aに垂直方向に設けられたレール12bと、上記カメラ11が固定され、上記レール12bに沿って上下に移動するスライドテーブル12cとから構成されている。なお、このような昇降機構12は従来公知の技術であるのでその詳細な説明は省略する。
そして上記モニター13は図示しないケーブルによって上記カメラ11に接続されており、アイソレータ2の側壁面2aに、映像面をアイソレータ2側に向けた状態で固定されている。
【0010】
そして、上記カメラ11がアイソレータ2内の観察試料を撮影するため、上記アイソレータ2には当該カメラ11の撮影範囲となる位置に拡大観察装置4とともに観察システム1を構成する観察窓21が形成されている。
上記観察窓21は、図2、図3に示すように、アイソレータ2の床面2cにカメラ11の視野よりも大きく穿設された円形の開口部22と、当該開口部22を覆うように設けられた透明な円形のガラス板23と、このガラス板23をアイソレータ2の床面2cに固定する固定枠24とから構成され、外部からの雰囲気がアイソレータ2内に侵入しないよう密封されている。
また、この観察窓21は、ハーフスーツ3を着用した作業者の前方動作範囲内、つまり作業者の手の届く範囲内に配置されており、作業者が観察容器6を観察窓21を介してカメラ11の視野内に位置させることができるようになっている。
なお、観察窓21を設けるアイソレータの床面とは、アイソレータ2における最も低い面である必要は無く、アイソレータ2の内部であって上方を向いた面であれば良く、また特に水平面である必要もない。
【0011】
さらに、作業者の前方側となるハーフスーツ3の略正面に位置する
アイソレータ2の側壁面2aには、図示しない透明部材がはめ込まれ、さらにアイソレータ2の外部にはこの透明部材に対向させてカメラ11が撮影した画像を表示するモニター13が配置されている。
そして上記透明部材も上記観察窓21と同様、外部からの雰囲気がアイソレータ2内に侵入しないように構成されている。
このような構成により、上記観察試料の入れられた観察容器6を上記観察窓21の上方に位置させれば、上記カメラ11に設けられている照明手段によって観察試料が照らされ、当該観察試料は上記ガラス板23と観察容器6のボトル6aとを介してカメラ11により撮影されることとなる。
そして撮影された画像はモニター13に映し出され、この画像は上記透明部材を介してハーフスーツ3を着用した作業者が逐次確認することができ、作業者はその画像を見ながら上記フットスイッチにより昇降機構12を操作し、カメラ11の位置を変更して画像の焦点を調節したり倍率を変更することができるようになっている。
なお、上記カメラ11が自動焦点調節機能を有している場合には、昇降機構12を省略してカメラ11をアイソレータ2の下面に固定することも可能である。
【0012】
上記構成を有する観察システム1によってアイソレータ2内の観察試料の観察をするには、予め上記滅菌ガス供給手段を作動させてアイソレータ2の内部が滅菌された環境にあって、図1に示すようにハーフスーツ3を着用した作業者が観察容器6を両側から把持して、当該観察容器6を観察窓21の上方にかざし、その場で保持する。
すると、上記観察窓21を介してカメラ11が観察試料の画像を撮影し、この画像は作業者の正面に設けられたモニター13に映し出されるようになる。そして作業者はフットスイッチを操作することで昇降機構12によりカメラ11の位置を調節することができ、これによりカメラ11に撮影された画像の焦点の調節したり、必要な倍率が得られるようになる。
また、作業者は把持している観察容器6を移動させることで、様々な角度から観察試料の観察をすることができ、必要であればモニター13に表示されている画像をモニター13に接続された図示しない記録手段に記録させることもできる。
なお、図2に想像線で示すように、載置部材32を設けて観察容器6を当該載置部材32に載置した状態で観察しても良い。
【0013】
以上のように、拡大観察装置4やモニター13をアイソレータ2の外部に設置することで、上記過酸化水素蒸気による滅菌を行う際に、これら拡大観察装置4やモニター13に過酸化水素蒸気が噴霧されることが無くなる。
したがって、これら拡大観察装置4やモニター13に過酸化水素蒸気によって腐食しないような処理を施す必要が無く、メンテナンスも容易なものとなる。しかも、拡大観察装置4等の複雑な構造物をアイソレータ2内に設置すると、過酸化水素蒸気による滅菌が確実に行われないことがあるが、本実施例の場合にはアイソレータ2内に設置する必要が無いため、アイソレータ2内の滅菌を確実に行うことができる。
【0014】
図4は本発明に係る第2の実施例を示し、以下上記第1の実施例と同じ構成要素については同一の符合を付して説明する。
本実施例で用いるアイソレータ2は、図に示すように略L字形の形状を有しており、ハーフスーツ3の設けられている空間Aと、作業者が観察試料を取り扱う作業空間Bとに分かれている。
そして上記空間Aにおけるハーフスーツ3を着用した作業者の略正面に位置する側壁面2aには、透明部材31がはめ込まれており、アイソレータ2の外部に該透明部材31に対向させてモニタ13が設けられている。
また、上記作業空間Bには、その天面2bに前記第1の実施例と同様に構成された観察窓21が第1実施例とは逆向きに設けられており、さらに当該天面2bの上方にはカメラ11が視野を下方に向けられた状態で拡大観察装置4が設けられている。
先に示した第1の実施例の構成では、観察容器6を下方から観察するようになっており、観察試料としての細胞等が観察容器6の液中に沈殿している場合に有効であり、上方から観察する本第2実施例では細胞等が浮遊している場合の他、基材等の観察及びこれら観察試料を観察しながら定着等の作業を行う場合に有効である。
このような第2の実施例の構成であっても、前述したような方法で観察試料の観察が可能であり、上記第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
なお、定着等の作業を行う場合は、シャーレのような容器に細胞等を収容し、載置させた状態で観察する。また、観察窓21を設けるアイソレータの天面とは、アイソレータ2の内部で下方を向いた面であればよく、また、特に水平面である必要はない。
【0015】
なお、上記実施例では観察試料を照らす光源としてカメラ11に設けられた環状の照明を使用していたが、ビームスプリッターなどの光学素子を用いてカメラの光軸との同軸照明としても良い。
またLED等の発光体をアイソレータ2の外部に設置するとともに、当該発光体の先端に光ファイバを装着し、この光ファイバをアイソレータの無菌性が損なわれないようにアイソレータ内部に引き込むことで、該光ファイバの先端を観察試料の近傍に近づけて、アイソレータ2内から観察試料を照射することもできる。
このようにすることで、発光手段を過酸化水素蒸気により腐食させることなく、また滅菌性を阻害することなく、アイソレータ2内で照明を得ることができる。
さらに、上記実施例ではハーフスーツ3を備えたアイソレータ2について説明したが、ハーフスーツ3の代わりにグローブを備えたアイソレータ2であっても良い。この場合、上記拡大観察装置として上記実施例におけるカメラやモニターに代えて、顕微鏡を用いて観察することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例の観察システムを示す正面図。
【図2】観察窓についての断面図。
【図3】観察窓についての平面図。
【図4】第2の実施例についての側面図。
【符号の説明】
【0017】
1 観察システム 2 アイソレータ
3 ハーフスーツ 4 拡大観察装置
6 観察容器 11 カメラ
13 モニター 21 観察窓
31 透明部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁により外部から隔離され、無菌状態に維持されたアイソレータ内部の試料を観察する観察システムであって、
上記アイソレータの床面若しくは天面となる隔壁の少なくとも一部に透明な観察窓を設けるとともに、上記アイソレータの外部に観察窓の位置にあわせて拡大観察装置を設けて、上記拡大観察装置により上記観察窓を介してアイソレータ内部の試料を観察することを特徴とする観察システム。
【請求項2】
上記アイソレータ内部には、ハーフスーツまたはグローブが備えられ、上記観察窓はハーフスーツまたはグローブの動作範囲内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の観察システム。
【請求項3】
上記拡大観察装置をアイソレータ内部の試料を撮影するカメラと当該カメラからの画像を表示するモニターとから構成し、
上記アイソレータ内部に備えられたハーフスーツの略正面に位置するアイソレータの隔壁のうち、少なくともその一部を透明部材で構成するとともに、アイソレータの外部に上記透明部材に向けてモニターを配置することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の観察システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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