説明

角膜内インレー

【課題】視覚障害を矯正するために、角膜前面の望ましい形状をより正確に生じる、角膜内インレーの改善された設計を提供すること。
【解決手段】患者の視覚障害を矯正するために、角膜内インレーを設計するための方法であって、該患者は、術前角膜前面を有し、該方法は、以下:該視覚障害を矯正するために望ましい角膜前面17を決定する工程;該望ましい角膜前面17と、該術前角膜前面15との間の差によって、厚さプロフィール18を規定する工程;および実質的に該厚さプロフィール18を有するように、該インレーを寸法決めする工程、を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、一般に、角膜移植物に関し、そしてより特定すると、角膜内インレーに関する。
【背景技術】
【0002】
周知であるように、ヒトの眼における異常は、視覚障害をもたらし得る。いくつかの代表的な異常としては、眼の形状の変動、および眼全体に存在する組織の変動(例えば、水晶体の弾性の減少)が挙げられる。眼の形状の変動は、近視(myopia、near−sightedness)、遠視(hyperopia、far−sightedness)および乱視を引き起こし得、眼全体に存在する組織の変動は、老眼(presbyopia)を引き起こし得る。角膜移植物は、これらおよび他の型の視力障害を処置するために、首尾よく使用されている。
【0003】
角膜移植物は、代表的に、角膜の形状を変化させることによって、視覚障害を矯正する。角膜移植物は、アンレーとインレーとに分類され得る。アンレーとは、角膜を覆うように配置される移植物であり、これによって、この角膜の外側層(例えば、上皮)が、この移植物を覆って成長し得、そしてこの移植物を囲み得る。インレーとは、例えば、切断によって角膜にフラップを作製し、そしてこのフラップの下にインレーを挿入することによって、角膜内に、角膜組織の一部の下に外科的に移植される移植物である。角膜内のインレーは、角膜の前面の形状を変化させ、従って、この角膜の屈折力を変化させる。角膜は、ヒトの眼系において最も強く屈折する光学要素であるので、角膜の前面を変化させることは、屈折誤差によって引き起こされる視覚障害を矯正するために特に有用な方法である。インレーはまた、老眼が挙げられる他の視覚障害を矯正するために有用である。
【0004】
インレーを使用して視覚障害を矯正することにおける本質的な工程は、角膜前面の望ましい形状を生じるようにこのインレーを設計する工程であり、この工程は、角膜前面の形状に対するインレーの幾何学的形状の影響を正確にモデリングすることを必要とする。1つのモデルは、非特許文献1において提唱された。このモデル(「Warskyモデル」)において、角膜前面の予測される曲率半径は、インレーの曲率半径と、上に重なるフラップの厚さとの合計に等しい。しかし、臨床試験において、Warskyモデルは、遠視の矯正において、インレーの移植による実際の術後屈折の結果を、正確には予測しなかった。このことは、Warskyモデルが、角膜内インレーの設計のための良好な基礎を提供しないことを示唆する。
【非特許文献1】Warsky,Mら、「Predicting Refractive Alterations with Hydrogel Keratophakia」、Investigative Ophthalmology & Visual Science,1985年、第26巻、第2号、p.240−243
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、視覚障害を矯正するために、角膜前面の望ましい形状をより正確に生じる、角膜内インレーの改善された設計に対する必要性が、存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
患者の視覚障害を矯正するために、角膜内インレーを設計するための方法であって、該患者は、術前角膜前面を有し、該方法は、以下:
該視覚障害を矯正するために望ましい角膜前面を決定する工程;
該望ましい角膜前面と、該術前角膜前面との間の差によって、厚さプロフィールを規定する工程;および
実質的に該厚さプロフィールを有するように、該インレーを寸法決めする工程、
を包含する、方法。
【0007】
(項目2)
上記望ましい角膜前面が、球面を有する、項目1に記載の方法。
【0008】
(項目3)
上記望ましい角膜前面が、非球面を有する、項目1に記載の方法。
【0009】
(項目4)
上記望ましい角膜前面が、多焦点表面を有する、項目1に記載の方法。
【0010】
(項目5)
上記望ましい角膜前面が、同時視表面を有する、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目6)
上記望ましい角膜前面が、マルチゾーン表面を有する、項目1に記載の方法。
【0012】
(項目7)
上記望ましい角膜前面が、上記術前角膜前面より高い曲率を有する、項目1に記載の方法。
【0013】
(項目8)
上記望ましい角膜前面が、上記術前角膜前面より低い曲率を有する、項目1に記載の方法。
【0014】
(項目9)
上記インレーが、ヒドロゲルを含有する、項目1に記載の方法。
【0015】
(項目10)
上記インレーが、1.5mm〜6mmの範囲の直径を有する、項目1に記載の方法。
【0016】
(項目11)
上記厚さプロフィールが、以下:
L(r)=L+Zpreop(r)−Zanew(r)
によって与えられ、L(r)は、rの関数としての厚さプロフィールであり、Lは、該厚さプロフィールの中心の厚さであり、Zpreop(r)は、rの関数としての術前角膜前面であり、Zanew(r)は、rの関数としての望ましい角膜前面であり、そしてrは、上記患者の眼の視軸に対して実質的に垂直な半径方向軸に沿った位置である、項目1に記載の方法。
【0017】
(項目12)
患者の視覚障害を矯正するための角膜内インレーであって、該インレー角膜移植物は、該視覚障害を矯正するための望ましい角膜前面と、該患者の術前角膜前面との間の差によって規定される厚さプロフィールを有するように寸法決めされている、インレー。
【0018】
(項目13)
上記望ましい角膜前面が、球面を有する、項目12に記載のインレー。
【0019】
(項目14)
上記望ましい角膜前面が、非球面を有する、項目12に記載のインレー。
【0020】
(項目15)
上記望ましい角膜前面が、多焦点表面を有する、項目12に記載のインレー。
【0021】
(項目16)
上記望ましい角膜前面が、同時視表面を有する、項目12に記載のインレー。
【0022】
(項目17)
上記望ましい角膜前面が、マルチゾーン表面を有する、項目12に記載のインレー。
【0023】
(項目18)
上記インレーが、ヒドロゲルを含有する、項目12に記載のインレー。
【0024】
(項目19)
上記インレーが、1.5mm〜6mmの範囲の直径を有する、項目12に記載のインレー。
【0025】
(項目20)
上記厚さプロフィールが、以下:
L(r)=L+Zpreop(r)−Zanew(r)
によって与えられ、L(r)は、rの関数としての厚さプロフィールであり、Lは、該厚さプロフィールの中心の厚さであり、Zpreop(r)は、rの関数としての術前角膜前面であり、Zanew(r)は、rの関数としての望ましい角膜前面であり、そしてrは、上記患者の眼の視軸に対して実質的に垂直な半径方向軸に沿った位置である、項目12に記載のインレー。
【0026】
視覚障害を矯正するために角膜の前面の望ましい形状を生じるための、角膜内インレーの設計が、本明細書中に記載される。例示的な実施形態において、厚さプロフィールが、患者の視覚障害を矯正する望ましい術後角膜前面と、患者の術前角膜前面との間の差によって、規定される。次いで、インレーが、同じ厚さプロフィールを実質的に有するように、寸法決めされる。患者の角膜に移植される場合、このインレーの厚さプロフィールは、介在する角膜組織を通して角膜前面に実質的に複製され、これによって、望ましい術後角膜前面を生じる。
【0027】
(要旨)
本発明は、視覚障害を矯正するために、角膜前面の望ましい形状を生じるための、角膜内インレーの改善された設計を提供する。
【0028】
例示的な実施形態において、インレーは、視覚障害を経験している患者のために設計される。最初に、この患者の視覚障害を矯正する、望ましい術後角膜前面が、決定される。次いで、厚さプロフィールが、この望ましい術後角膜前面と、この患者の術前角膜前面との間の差によって、規定される。次いで、このインレーは、実質的に同じ厚さプロフィールを有するように、寸法決めされる。患者の角膜に移植される場合、このインレーの厚さプロフィールが、介在する角膜組織を通して、この角膜前面に実質的に複製され、これによって、望ましい術後角膜前面を生じる。
【0029】
本発明によるインレー設計は、このインレーの厚さプロフィールを規定するために使用される、望ましい角膜前面の形状を変動させることによって、広範な視覚障害を矯正するために有用である。例えば、望ましい角膜前面は、屈折誤差(例えば、遠視または近視に起因する)を矯正するために、球状であり得る。別の例として、望ましい角膜前面は、患者の眼系の屈折誤差および高次の収差を矯正するために、非球状であり得る。なお別の例として、望ましい角膜表面は、老視(prebyope)と遠視との両方を矯正するために、2つのゾーンを有する表面(二重焦点の同時視表面)を形成し得る。望ましい角膜前面は、他の視覚障害の矯正のための、他の任意の形状であり得る。
【0030】
本発明の他のシステム、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明を検討すると、当業者に明らかになる。このようなさらなるシステム、方法、特徴および利点の全ては、本明細書の範囲内に含まれ、本発明の範囲内であり、そして添付の特許請求の範囲によって保護されることが、意図される。本発明は、例示の実施形態の細部に限定されないこともまた、意図される。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、視覚障害を矯正するために、角膜前面の望ましい形状をより正確に生じる、角膜内インレーの改善された設計が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(詳細な説明)
本明細書中には、視覚障害を矯正するために、角膜前面に望ましい形状を生じるための、角膜内インレーの設計が記載される。
【0033】
本発明によるインレーの設計における第一の工程は、望ましい角膜前面を生じるために、角膜前面に対してインレーがもたらさなければならないプロフィールの厚さを決定する工程である。限定されないが、この厚さプロフィールは、一例として説明され得る。この例において、厚さプロフィールは、遠視の矯正について詳述される。遠視は、眼に入る光が網膜の後方で焦点を合わせる場合に起こる。遠視は、角膜前面の曲率を増加させ、これによって、この角膜の屈折力を増加させることによって、矯正され得る。この屈折力の増加は、角膜において光をより大きく屈曲させ、そして網膜において焦点を合わせる。この型の矯正は、遠視矯正として公知である。
【0034】
この例の目的は、角膜の前面の曲率を増加させて、望ましい遠視矯正を達成することである。図1は、角膜10の断面図を示す。角膜10は、後部12および術前の前面15を有する。術前の前面15は、インレーの移植の前の、角膜の前面である。角膜10の望ましい前面17もまた示される。この望ましい前面は、必要な遠視矯正を提供する。
【0035】
第一の工程は、前方の曲率半径r’を決定する工程であり、このr’は、望ましい屈折変化ΔRx=Rxpre−Targetを提供する。ここで、Rxpreは、角膜の屈折力の、術前の球状等価物であり、そしてTargetは、この角膜の屈折力の、目標術後等価物である。前面における角膜の屈折力の等価な変化ΔKequivは、以下の式:
【0036】
【数1】

によって与えられ、ここで、Vは、眼鏡面から角膜の前面までの眼鏡頂部距離(例えば、0.012メートル)である。眼鏡頂部距離Vは、角膜の屈折力の測定が、代表的に、この角膜の前面からある距離に位置する眼鏡を用いてなされることを考慮し、そしてこれらの力の測定値を、この角膜の前面における等価な力に変換する。
【0037】
角膜前面における術前屈折力は、Kavg−Kpostによって近似され得る。ここで、Kavgは、平均角膜屈折力であり、そしてKpostは、後部角膜の屈折力である。この前面の望ましい曲率半径r’は、以下の式:
【0038】
【数2】

によって与えられ得る。設計および分析の目的で、Kpostは、−6ジオプターであると近似され得る。術前の曲率半径rpreopは、以下の式:
preop=(1.376−1)/(Kavg−Kpost) 式3
によって近似され得る。図1において、望ましい曲率半径r’は、線20によって示され、そして術前曲率半径rpreopは、線22によって示される。これらの2つの曲率半径は、同じ始点から生じる必要はない。
【0039】
図1は、望ましい角膜前面17と術前角膜前面15との間の差によって詳述される、厚さプロフィール18の断面図を示す。図1において、術前の前面15から望ましい前面17の方に向く矢印は、r軸32に沿った異なる位置における厚さプロフィール18の軸方向厚さL(r)を表す。r軸32は、光学的z軸35に対して、実質的に垂直である。二重の矢印は、厚さプロフィール18の中心厚さLを表す。この実施形態において、厚さプロフィール18は、z軸35の周りで回転対称である。従って、厚さプロフィール18全体は、図1に示される断面図をz軸35の周りで回転させることによって、規定され得る。
【0040】
図2は、図1に対して90°、反時計回りに回転した、角膜10の断面図を示す。厚さプロフィール18の厚さL(r)は、以下の式:
【0041】
【数3】

によって与えられ得、ここで、Lは、厚さプロフィール18の中心厚さであり、Zpreop(r)は、rの関数としての術前角膜前面15であり、Zanew(r)は、rの関数としての望ましい角膜前面17であり、そしてdは、光学ゾーンの直径である。光学ゾーンの直径dは、認容可能な画像の質を生じる術後表面17の直径であり、例えば、5.0mmである。遠視を矯正する角膜内インレーについての光学ゾーンは、直径が約4mm〜6mmの範囲であり得る。遠視の矯正の場合については、Zanewは、r’と等しい曲率半径を有し、そしてZpreopは、rpreopと等しい曲率半径を有する。
【0042】
上記の例において、前面のZanewおよびZpreopは、球であると仮定された。このことは、事実である必要はない。これらの前面は、非球状であってもよい。より一般的には、望ましい前面Zanewは、遠視矯正の関数であり得、そしてまた、より複雑な設計パラメータ(例えば、より高次の収差の矯正のための非球面)または老眼矯正のためのより複雑なゾーン表面であり得る。また、術前の前面Zpreopは、一般に、非球状である。非球面を必要とする設計については、表面関数Z(r)は、以下の一般的な非球状形態:
【0043】
【数4】

によって与えられ得る。ここで:
は、曲率半径であり、
kは、円錐定数であり、
およびaは、より高次の非球定数である。
球面については、k=0、a=0、およびa=0である。ヒトの角膜は、k=−0.16、a=0、およびa=0によって近似され得る。曲率半径rは、遠視または近視に起因する屈折誤差に対する矯正を詳述し得、そして他のパラメータは、より高次の収差に対する矯正を詳述し得る。
【0044】
厚さプロフィールについての上記説明は、例示のみであることが意図される。他の数式またはパラメータが、類似または他の厚さプロフィールを記載するために使用され得る。従って、本発明は、厚さプロフィールを記載するための特定の数式またはパラメータに限定されない。さらに、厚さプロフィールは、他の視覚障害の矯正のための、他の任意の形状の表面によって、詳述され得る。例えば、厚さプロフィールは、多焦点表面、同時視表面、マルチゾーン表面などによって、詳述され得る。
【0045】
例えば、図3は、2ゾーンの二重焦点同時視表面を形成する、角膜前面117の断面図である。中心ゾーン125は、より高い曲率を有し、自然な調節を欠く患者(例えば、老眼患者)に対して、近くの物体の焦点を合わせるための光学的能力を提供する。外側ゾーン130は、遠視屈折力を矯正するために必要なジオプターパワーを提供する。角膜の術前の前面115および後面112もまた、示される。
【0046】
別の例として、図4は、角膜前面317のより平坦なプロフィール319が、患者の眼系の遠視屈折誤差と正の球面収差との両方の矯正を可能にする、角膜前面317の断面図である。遠視屈折誤差を矯正する球面322、術前の前面315、および角膜の後面312もまた示される。
【0047】
必要とされる厚さプロフィールが決定された後に、インレーは、実質的に同じ厚さプロフィール(例えば、約1ミクロン以内まで)を有するように寸法決めされる。このインレーは、例えば、5mmの直径、および例えば、5μm〜100μmの範囲の中心厚さを有し得る。角膜に移植される場合、このインレーの厚さプロフィールは、介在する角膜組織を通して、角膜前面に実質的に複製され、これによって、望ましい術後角膜前面を生じる。このインレーの厚さプロフィールの、角膜前面への複製が、例として説明され得る。
【0048】
図5aおよび図5bは、切断により角膜に作製された、層板フラップ526aおよび526bの断面図を示す。フラップ526aおよび526bは、インレーを、角膜の内部(例えば、支質)に移植するために使用され、そして例えば、100μmの深さを有し得る。これらのフラップは、代表的に、ヒンジ(図示せず)によって、この角膜に付着したままである。図5aは、イントラレース角膜切開手段(例えば、レーザー)を用いて、切断によって角膜に作製されたフラップ526aを示す。イントラレースは、角膜前面515aからの一定の深さにおよそ等しい、フラップ床形状528aを作製する。図5bは、機械的角膜切開手段(例えば、機械的刃)を用いて、切断によって角膜に作製されたフラップ526bを示す。厚度計による測定に基づいて、機械的角膜切開手段によるフラップ526bは、図5bに示されるように、角膜の頂部において薄く、そしてフラップ境界においてより深いと考えられる。
【0049】
図6aおよび図6bは、図5aおよび図5bの角膜に、それぞれのフラップ526aおよび526bの下に移植された、本発明によるインレー531aおよび531bを示す。この移植は、フラップ526aおよび526bを持ち上げ、インレー531aおよび531bをこの角膜の内部の露出された領域に配置し、そしてフラップ526aおよび526bをインレー531aおよび531bを覆うように再配置することによってなされ得る。各場合において、インレー531aおよび531bは、それぞれ上に重なるフラップ526aおよび526bの下にある床形状528aおよび528bの輪郭に沿い、そしてインレー531aおよび531bの厚さプロフィール540aおよび540bは、矢印535aおよび535bによって表される実質的に光軸方向に、上に重なるフラップ材料を移動させる。その結果、インレー531aおよび531bの厚さプロフィール540aおよび540bは、介在するフラップ材料を通して、角膜前面に実質的に複製され、これによって、望ましい角膜前面517aおよび517bを生じる。各インレー531aおよび531bによって、角膜前面517aおよび517b上にもたらされる厚さプロフィール542aおよび542bもまた、示される。図4bのインレー531bは、角膜前面517bとは異なる形状を有するが、これらの厚さプロフィール540bおよび542bは、実質的に同じである。従って、2つの厚さプロフィール540bおよび542bと軸方向に交差する線537bは、測定すると、実質的に同じ厚さである。
【0050】
フラップ材料を通しての、角膜前面へのインレーの厚さプロフィールの複製は、以下の仮定に基づき得る:
a.インレーは、フラップの下方に挿入される場合にフラップの床形状に一致する際に、インレーの厚さプロフィールは、およそ一定なままである。このことは、一次近似としては合理的であることがわかる。なぜなら、このインレーは、代表的に、70%より多くが水であり(すなわち、非圧縮性であり)、そしてこのインレーに付与される力は、このインレーの水和を変化させるために十分に大きくないからである。このフラップは、一次近似としては、組織の「自由」片であることに留意のこと。フラップの作製の間に切断される層板は、強膜から強膜への弧に沿った張力を回復する様式では、再度付着しない。
【0051】
b.インレーは、フラップの床の幾何学的形状に一致する。
【0052】
c.インレーとフラップとの幾何学的形状による、角膜前面の変形は、半径方向ではなく、およそ光軸に沿う。上に重なるフラップの塊を半径方向に押すためには、その幾何学的形状は、このフラップの外周が半径方向に拡張することを可能にしなければならない。角膜切開手段によって切断されてフラップを形成する部分の外側の、切断されていない角膜は、この増加する半径に対する障壁を提供する。さらに、角膜支質(フラップ材料)は、光軸に対しておよそ垂直な、層板繊維の層からなる。従って、これらの層板に沿う弾性変形(例えば、半径方向への拡張)は、これらの繊維に対して垂直な変形より困難である。このことは、インレーに起因する軸方向での移動の、優先的な傾向を示唆する。
【0053】
d.床形状は、角膜の前方の曲率に比例する。フラップが切断される幾何学的形状にかかわらず、屈折力が低い角膜は、より平坦な床形状を有し、そして屈折力が強い角膜は、より尖った床形状を有する。
【0054】
本発明のインレー設計は、いくつかの局面において、Warskyモデルとは異なる。第一に、本発明のインレー設計は、このインレーが、上に重なるフラップを実質的に軸方向に移動させると仮定し、一方で、Warskyモデルは、インレーが、上に重なるフラップを半径方向に移動させることを示唆する。その結果、本発明のインレー設計は、このインレーの厚さプロフィールが、角膜前面に実質的に複製されることを予測する。対照的に、Warskyモデルは、角膜前面にもたらされる厚さプロフィールが、このインレーの厚さプロフィールを半径方向に拡張させることを予測する。また、Warskyモデルにおいて、インレーに起因する角膜前面の曲率半径は、フラップの厚さに依存する。本発明のインレー設計は、フラップの厚さとはほぼ無関係である。
【実施例】
【0055】
臨床試験において、本発明の例示的なインレー設計を、Warskyモデルに基づくインレーと比較した。この試験において、本発明のインレー設計およびWarskyモデルを使用して、既知の幾何学的形状の移植物および既知のフラップの幾何学的形状を有する被験体について、術後の屈折結果(Rxpost)を予測した。実際の術後屈折結果(Rxactual)とRxpostとの間の差の標準偏差を、精度の尺度として使用した。
【0056】
以下の表1は、本発明のインレー設計およびWarskyモデルの、実際の術後屈折結果Rxactualと、予測された術後屈折結果Rxpostとの標準偏差を要約する。このデータは、機械的角膜切開手段とイントラレース角膜切開手段とについて別々に与えられる。なぜなら、各々が、フラップの異なる幾何学的形状を生じるからである。以下のデータは、Warskyモデルを可能な限り正確にすることを試みて、2つの一般的な定数の最適化を含む。これらの定数は、インレーの、設計された前方曲率半径に対する係数を含む。この係数は、このインレーが床幾何学形状に一致する場合の、このインレーの前方曲率半径の可能な変化を考慮する。別のさらなる定数を、臨床的に測定されたフラップの厚さに加え、測定の方法論的誤差、または生物機械的特性に起因するフラップの厚さに対する一貫したずれを考慮した。
【0057】
明らかに、フラップ材料の軸方向移動に基づく本発明のインレー設計は、実際の結果と同じ予測可能性を達成する。対照的に、Warskyモデルは、有意に高い標準偏差を有する。このことは、Warskyモデルの精度が低いことを示唆する。これらの結果と一致して、Warskyの論文に提供される臨床データにおける同じ標準偏差は、表1における結果と類似の、1.52ジオプターの値を実証する。
【0058】
【表1】

上記明細書において、本発明は、その特定の実施形態を参照して記載された。しかし、種々の改変および変更が、本発明のより広い精神および範囲から逸脱することなく、本発明に対してなされ得ることが、明らかである。例えば、本発明は、インレーの縁部の厚さプロフィールが、望ましい厚さプロフィールと正確に同じであることを必要としない。これらの厚さプロフィールは、実質的に同じであり得るが、これらのインレーが製造され得る精度に依存して、わずかに異なり得る。さらに、本発明の範囲から逸脱することなく、主要でない調節が、インレーの厚さプロフィールに対してなされて、例えば、インレーの厚さを保証し得る。別の例として、1つの実施形態の各特徴は、他の実施形態に示される他の特徴と組み合わせられ得、そして調和させられ得る。なお別の例として、方法の実施形態の工程の順序は、変化し得る。当業者に公知である特徴およびプロセスが、所望であれば、同様に組み込まれ得る。さらに、そして明らかに、特徴は、所望であれば、追加されても除かれてもよい。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物を考慮する以外には、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明の実施形態による厚さプロフィールを示す角膜の断面図である。
【図2】図2は、反時計回りに90°回転させた、図1の角膜の断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態による、2つのゾーンの表面(二重焦点同時視表面)を形成する角膜前面の断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態による、非球状の角膜前面の断面図である。
【図5】図5aは、イントラレース角膜切開手段を使用してフラップが切断によって角膜に作製された角膜の断面図である。図5bは、機械角膜切開手段を使用してフラップが切断によって角膜に作製された角膜の断面図である。
【図6】図6aは、本発明の実施形態によるインレーがフラップの下に移植されている、図5aの角膜の断面図である。図6bは、本発明の実施形態によるインレーがフラップの下に移植されている、図5bの角膜の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の視覚障害を矯正するために、角膜内インレーを設計するための方法であって、該患者は、術前角膜前面を有し、該方法は、以下:
該視覚障害を矯正するために望ましい角膜前面を決定する工程;
該望ましい角膜前面と、該術前角膜前面との間の差によって、厚さプロフィールを規定する工程;および
実質的に該厚さプロフィールを有するように、該インレーを寸法決めする工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記望ましい角膜前面が、球面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記望ましい角膜前面が、非球面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記望ましい角膜前面が、多焦点表面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記望ましい角膜前面が、同時視表面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記望ましい角膜前面が、マルチゾーン表面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記望ましい角膜前面が、前記術前角膜前面より高い曲率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記望ましい角膜前面が、前記術前角膜前面より低い曲率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記インレーが、ヒドロゲルを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記インレーが、1.5mm〜6mmの範囲の直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記厚さプロフィールが、以下:
L(r)=L+Zpreop(r)−Zanew(r)
によって与えられ、L(r)は、rの関数としての厚さプロフィールであり、Lは、該厚さプロフィールの中心の厚さであり、Zpreop(r)は、rの関数としての術前角膜前面であり、Zanew(r)は、rの関数としての望ましい角膜前面であり、そしてrは、前記患者の眼の視軸に対して実質的に垂直な半径方向軸に沿った位置である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
患者の視覚障害を矯正するための角膜内インレーであって、該インレー角膜移植物は、該視覚障害を矯正するための望ましい角膜前面と、該患者の術前角膜前面との間の差によって規定される厚さプロフィールを有するように寸法決めされている、インレー。
【請求項13】
前記望ましい角膜前面が、球面を有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項14】
前記望ましい角膜前面が、非球面を有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項15】
前記望ましい角膜前面が、多焦点表面を有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項16】
前記望ましい角膜前面が、同時視表面を有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項17】
前記望ましい角膜前面が、マルチゾーン表面を有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項18】
前記インレーが、ヒドロゲルを含有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項19】
前記インレーが、1.5mm〜6mmの範囲の直径を有する、請求項12に記載のインレー。
【請求項20】
前記厚さプロフィールが、以下:
L(r)=L+Zpreop(r)−Zanew(r)
によって与えられ、L(r)は、rの関数としての厚さプロフィールであり、Lは、該厚さプロフィールの中心の厚さであり、Zpreop(r)は、rの関数としての術前角膜前面であり、Zanew(r)は、rの関数としての望ましい角膜前面であり、そしてrは、前記患者の眼の視軸に対して実質的に垂直な半径方向軸に沿った位置である、請求項12に記載のインレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−152093(P2007−152093A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316252(P2006−316252)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(506343508)リビジョン オプティクス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】