解析方法およびその解析方法を実行するためのプログラムおよび情報処理装置
【課題】 どのような物体形状のモデルに対しても放電解析を行う。
【解決手段】 放電を解析する解析方法であって、シミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式(数8)に対して、放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式φi´−φj´=αVth(ij)(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)と、前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式(数4)とを組み込むことにより、放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出する。
【解決手段】 放電を解析する解析方法であって、シミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式(数8)に対して、放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式φi´−φj´=αVth(ij)(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)と、前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式(数4)とを組み込むことにより、放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある装置の放電を解析する解析手法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真技術を用いた画像形成装置は、帯電、露光、現像、転写、クリーニングという5つのプロセスから構成される。
【0003】
このうち転写プロセスでは、像担持体上に形成されるトナー像を転写媒体に転写するプロセスである。高解像度の画像を得るためには、転写する際のトナーの飛び散りを抑えながら、転写効率を上げて転写媒体に転写することが重要課題である。そのためには、像担持体(感光体ドラム)、トナー、転写媒体、転写条件といった各種パラメータを最適化することが重要となる。
【0004】
特に近年のカラー化の普及により、転写プロセスでは、中間転写ベルト等の中間転写体を使用する転写方式が主流になりつつある。中間転写体を使用した転写方式では、まず感光体上に形成される4色のトナー画像を順次重ね合わせることで一旦中間転写ベルト上に1次転写する。そして最後に一括して転写用紙等の最終転写媒体上に2次転写することで最終画像を形成する処理を行っている。従って最終画像を得るためには2回の転写プロセスが必要となる。この場合、2回の転写プロセスにおける転写効率は、感光体、トナー、中間転写ベルト、転写用紙、1次転写及び2次転写の転写条件といった多くのパラメータが絡み合って決定される。
【0005】
従来、この転写プロセスにおける各種パラメータの最適化は主として試作機等を用いた実験で行われてきた。しかし近年では、計算機を用いた解析も行われるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2003−262617号公報)によれば、導体中を流れる電流、放電、及び物体の運動を考慮して、転写装置の電位分布を求める方法及び装置が開示されている。これによれば、2次元の解析領域をまず複数の小さなセルに分割する。そしてポアソンの方程式を基に差分法を用いて各セルの電位を算出する。得られた電位分布、およびオームの法則に基づく各部材の抵抗から感光体ドラム、中間転写ベルト等の表面移動に伴う電荷の移動を算出する。次に電荷が移動した後の各セルの電位を算出して、その電位分布からパッシェンの放電則及びコンデンサの理論から放電による電荷の移動を算出する。以上の工程のうち、セル分割から後の工程を、電位分布が安定するまで繰り返すことにより転写電界を求めるというものである。
【0007】
ところで、実際のニップ部分ではトナーの層の誘電特性が転写電界に影響を与えるが、この特許文献1によれば、ニップ中にトナー層に相当する仮想の誘電層を設けることでモデル化している。そして、トナーの電荷は、トナーの転写効率が100%と想定しており、転写ニップ前では感光体ドラム表面に存在し、ニップ後は転写用紙上に完全に転写されるものと仮定している。さらに、トナーの大きさは無視して、それぞれ感光体ドラム及び転写用紙の表面に電荷を設定している。
【0008】
一方、転写性能を評価するために、トナー粒子の挙動の様子を知ることは極めて重要である。転写プロセスの部分ではないが、紙搬送転写ベルト上の紙上のトナーに関して、剥離放電による電界の乱れに起因するトナーの飛び散りを計算したものが「門永他、”電子写真方式での紙搬送転写ベルトシステムにおける剥離放電の研究”、日本機会学会[No01−251]、第13回電磁力関連のダイナミクスシンポジウム講演論文集、pp469(2001)」に報告されている。
【特許文献1】特開平09−309665号公報
【非特許文献1】門永他、“電子写真方式での紙搬送転写ベルトシステムにおける剥離放電の研究”、日本機会学会[No01−251]、第13回電磁力関連のダイナミクスシンポジウム講演論文集、pp469(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術には以下の課題が残されている。
【0010】
まず特許文献1における本来放電発生の判定は、電位はセルの中心で定義されているため、厳密さに欠けている。またその影響を最小に抑えるためには、これらの物体の表面のセルを細かくして各値を算出しなくてはならず、計算時間が長くなる。
【0011】
そして、特許文献1には、物体の表面形状に応じて放電に関する設定方法が異なることから、モデルに応じて指定が必要となり、操作者は複雑な操作を強いられる。また、トナーは放電を受けると帯電量が変化することがわかっているが、特許文献1ではこのようなトナーに対する放電を考慮していない。
【0012】
また、特許文献1には、放電によって移動する電荷量の算出には、平行平板からなるコンデンサの理論を使用しているために、モデルの材料分布が電気力線の方向に厚さが均一な層状をしている場合にしか適用できない。
【0013】
また、一般に転写プロセスでは除電針等のコロナ放電を利用した部材がよく使用されるが、特許文献1では、除電針を想定した解析を検討していない。
【0014】
また、実際の転写系では、トナーは個々に電荷をもっており、独立して運動する。そして、転写装置の良し悪しは本トナーが作る転写効率やトナーの作る画像で評価する必要があることから、個々のトナーの挙動を知ることは極めて重要である。
【0015】
また、特許文献1によれば、上述したように個々のトナーの挙動や物性を考慮しておらず、トナーの運動の仮定が間違っていると、正確な解析がなされない。また、電界計算としてトナーの持つ誘電特性、及び電荷を考慮しておらず、転写ニップのようなトナーが密集している領域ではシミュレーションの信頼性が低い。
【0016】
本発明は、このような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上述した課題を解決するため、読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
シミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式(数8)に対して、
放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式(数4)とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法を提供する。
【0018】
また、読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面のセルiと第2の面のセルjとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式(数8)に対して、
放電後の前記セルiおよび前記セルjにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記セルiおよび前記セルjにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式(数4)とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、どのような物体形状のモデルに対しても放電計算を行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付の図面に沿って本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本実施形態における放電解析方法の特徴は、最初に放電が発生しないとしたときの電位分布を求め、その結果から放電発生箇所(放電節点対)を抽出し、パッシェン電圧を超えないようにするにはどれだけの電荷を移動すればよいかを求めることにある。後述の数3と数4は、放電が発生しないとしたときの電位分布から作成されるものであり、本式を電界計算の式に連成させて解く。
【0022】
一方、複数種の式を連成させて解く方法は、一般的に既に行われている。
例えば流体の流れに伴なう構造構造物の変形を解く場合、また構造解析において、異なる節点間での変位にある関係条件を課す場合等である。
【0023】
しかしながら、これら旧来の方法は、複数の未知量(例えば流体圧力と構造物変位)を連成させて解く、または未知量間の関係に条件を付加するものである。本実施形態における解析方法は、条件式をあらかじめ同様な電界計算によって求めるものであり、この点で、明らかに旧知のものとは異なるものであるとともに、旧知の方法では解けなかったものである。
【0024】
図1は、本実施の形態における情報処理装置を示すブロック図である。このコンピュータ20は、各種判断及び処理を行う全体制御モジュール、データの入力を検出するデータ入力モジュール、トナー誘電率解析モジュール、トナー電荷解析モジュール、放電解析モジュール、トナー挙動解析モジュール、計算結果出力モジュールなどをソフトウエアプログラムに基づいて実行する中央処理装置(CPU)21、前記ソフトウエアプログラム及び固定データを格納したROM22、処理データなどを格納する読み書き可能なRAM23と、外部記憶装置との間でデータをやり取りする入出力回路(I/O)24とから構成されている。この情報処理装置20では、入力データ30がI/O24を介して入力され、この情報処理装置20により処理された計算結果がI/O24を介して出力データ31として出力される。
【0025】
図2は、本実施形態のソフトウエアプログラムによって実行されるモジュールの構成を示している。
【0026】
制御モジュールB100は転写プロセスの解析を行うための全体を制御する。具体的には、これから説明するデータ入力モジュール、トナー誘電率解析モジュール、トナー電荷解析モジュール、導体中電荷移動解析モジュール、放電解析モジュール、トナー挙動解析モジュール、物体運動解析モジュール、計算結果出力モジュールを制御する。
【0027】
データ入力モジュールB110は、本実施形態で行う解析に必要なメッシュデータ、及び各種パラメータのデータファイルを作成し、RAM23に格納するためのものである。メッシュデータは、差分メッシュ、有限要素メッシュ等、電界計算を行う手法に応じて誘電体もしくは抵抗体からなる転写装置の解析領域を微小領域に分割したデータのことを指す。また、各種パラメータとしては、材料の誘電率、導電率、電荷分布、境界条件としての電位、移動する物体の速度、電荷の蓄積する可能性のある面(電荷面と呼ぶ)の指定、放電の起こる面の指定、トナーの径、トナーの初期配置、トナーの帯電量、トナーの誘電率、更に計算刻み時間、計算終了時刻などが入力されることになる。
【0028】
トナー誘電率解析モジュールB120は、個々のトナーの位置、形状(径)、及び誘電率データを基に、メッシュデータ中の誘電率の分布にトナーの誘電率を加味したデータを算出する。
【0029】
トナー電荷解析モジュールB130は、メッシュデータ中の真電荷の分布に、トナーの持つ電荷の分布を加味したデータを算出する。
【0030】
導体中電荷移動解析モジュールB150は、導体中の電荷移動をオームの法則に従って算出する。
【0031】
放電解析モジュールB160は、各種放電の発生を判定して、放電による電荷の移動、及び放電後の電位分布を算出する。放電解析モジュールB160は、それぞれ対向面間放電抽出モジュールB161、尖頭部材間放電抽出モジュールB162、放電電荷量計算モジュールB163、トナー電荷更新モジュールB164より構成される。
【0032】
対向面間放電抽出モジュールB161では、パッシェンの放電則に従って2つの対向する平面間における放電発生の有無を検索し、放電する部分を抽出する処理を実行する。本放電発生の検索は、メッシュデータの未知変数としての電位を定義している部分(これをここでは電位定義セグメント、または単にセグメントと呼ぶことにする。例えば従来技術で説明した差分法におけるセル中心、有限要素法の場合は節点などを指す)のうち、放電を検索する面上または面に近接するものを使用し、各電位定義セグメントに対して最もパッシェン電圧を上回る対向面の放電定義セグメントを抽出することで行う。なおここでは、検索に使用した面上または面に近接したセグメントを放電検索セグメント、抽出された電位定義セグメントを放電セグメント、放電相手との組を放電セグメント対と呼ぶことにする。パッシェン電圧Vpaとしてはそれを近似曲線で示したものがいくつか提案されており、どれを使用してもよいが、例えば数1で得られるものがよい。dはギャップ長である。
【0033】
【数1】
【0034】
なお、対向面間放電抽出モジュールB161では、面がその上に堆積したトナー層で覆われている場合は、その覆われた部分の電位定義セグメントは検索から除外する。そして除外したものに代えて、面上に堆積したトナー層のうち、表層に位置したトナーに対して、そのトナーに近接する電位定義セグメント(本電位定義セグメントを特にトナーセグメントと呼ぶ)を対応させ、そのトナーセグメントを放電発生の検索に使用する。
【0035】
尖頭部材間放電抽出モジュールB162では、除電針のようにパッシェンの放電則に従わない2体間について、ギャップ長と放電開始電圧の関係を示す実験結果に基づいて放電セグメント対を抽出する。放電電荷量計算モジュールB163では、数2のポアソンの方程式に抽出した全放電セグメント対に対する数3と数4で示した放電開始電圧、及び電荷移動の関係式を連成させて解くことにより、放電発生後の電位及び放電電荷量を求める。
【0036】
なおここでi、jは電位定義セグメントの番号であり、Vth(ij)はi、j間の放電開始電圧、Qi、Qjは放電前のi、jの電荷量、Q’i、Q’jは放電後のi、jの電荷量、△Qijは、i、j間の放電による電荷移動量である。αは放電後の両セグメント間の電位の放電開始電圧に対する比を示す係数であり、一般に1とする。具体的な連成方程式の詳細例は、後に続く実施例で説明する。そして、トナーセグメント以外の放電セグメントの電荷量については、ここで得られた放電電荷量を加算して更新する。
【0037】
【数2】
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
トナー電荷更新モジュールB164は、放電電荷量計算モジュールB163で得られた放電電荷量のうち、放電が発生している電位定義セグメントがトナーセグメントであった場合に、そのトナーセグメント抽出の元となったトナーに対して、その電荷量を放電電荷分だけ加算して更新するものである。
【0041】
トナー挙動解析モジュールB170は、静電気力、重力、付着力、空気抵抗力等、トナーに働く力を基に、ニュートンの運動方程式を解いて、トナー位置を計算刻み時間後の位置に更新するものである。
【0042】
物体運動解析モジュールB180は、物体の運動に伴う電荷の移動を解析する。
【0043】
計算結果出力モジュールB200は、得られた計算領域の電位分布、電荷量分布、トナーの挙動、トナーの電荷分布、放電分布等の結果を出力する。
【0044】
本実施の形態において転写装置をシミュレーションしたときの情報処理装置の処理の流れについて説明する。図3は図2に示した各モジュールを実行してシミュレーションを行うフローチャートである。
【0045】
ステップS100において、まず入力データの読み込みを行う(データ入力モジュール)。このとき、感光体ドラムにおける潜像等、初期電荷分布の設定も同時に行う。また入力データの条件に従って、ステップS102でトナーを初期位置に設定する。以上の処理はこれから始まる時間変化に伴う計算のA:前準備工程として位置付けられる。
【0046】
次にステップS300において、トナー誘電率解析モジュールB120を用いてトナーを考慮した誘電率分布設定を行う。そして、ステップS301において、トナー電荷解析モジュールB130を用いてトナー電荷を考慮した真電荷分布設定を行う。そして、ステップS302に進み、導体中電荷移動解析モジュールB150を用いて、得られた誘電率分布、真電荷分布、及び誘電分極分布から、導体中の電荷移動計算を行う。S300〜S302の処理は、B:導体中電荷移動解析工程として位置付けられる。
【0047】
次にステップS400において、対向面間放電抽出モジュールB161の処理により、平行面間の放電箇所と放電先を組とした放電セグメント対の抽出処理を実行する。さらにステップS401において、尖頭部材間放電抽出モジュールB162の処理により、尖頭部材間の放電箇所と放電先を組とした放電セグメント対の抽出処理を実行する。そしてステップS402において、全電位定義セグメントの電荷を求める(放電電荷量計算モジュールB163)。更にステップS403において、放電が発生したトナーの電荷量を更新する(トナー電荷更新モジュールB164)。S400〜S403の処理は、C:放電解析工程と位置付けられる。
【0048】
ステップS500において、トナー挙動解析モジュールB170を用いて所定時間経過後のトナーの挙動計算を行う。そして、このトナーの挙動計算によって得られたトナーの位置を求められた位置に更新する。本処理はD:トナー挙動解析工程と位置付けられる。
【0049】
ステップS600において、次に物体(トナーあるいは紙搬送装置の各ユニットを指す)の運動に伴う電荷の移動を行う(物体運動解析モジュールB180)。この物体運動解析モジュールB180に関しては詳細に後述する。S600の処理はE:物体運動解析工程と位置付けられる。
【0050】
ステップS800において、予め設定されたシミュレーションの終了時間に満たない場合は、前回解析したシミュレーションの開始からの時刻に△tを加算した時刻のシミュレーションを実行すべく、ステップS300に戻り、指定された時間になるまで上述の処理を繰り返す。そして、ステップS900において、計算終了時間になったならば、シミュレーションの結果出力を行う。
【0051】
(有限要素法による解析)
ここで上述した本実施形態における解析方法に電界計算を行う手法として有限要素法を採用した際の一例について説明する。なおここでは2次元解析に限定して説明を行う。
【0052】
数2のポアソン方程式を有限要素法で解く場合、電位φ、及び電荷(分極電荷を含む)Qは後述の節点の値として、また誘電率ε、導電率σは要素の値として定義される。また電界強度は要素の値として定義され、ここでは要素中心での値が算出されるものとする。
【0053】
そして有限要素法による解析を適用したときの、図1に示した主なモジュールについて具体的に説明する。
【0054】
まず物体運動解析モジュールB180について説明する。電荷は、一般に物体の表面にのみ存在する。このように電荷が蓄積される可能性のある物体の表面を電荷面と呼ぶ。なお、物体の運動を考慮する場合、電荷面を構成する節点間で物体の運動方向に電荷を移動させればよい。図4に電荷面の一例を示す。図4(a)は解析対象となる実際の転写プロセス装置の感光体をローラで代用した模式図を示している。図4(a)において、ローラ51、芯金50、シート材52が転写プロセス装置の主な構成ユニットとなっている。この装置において、実際の動作では2つのローラ51がシート材を挟んで回転し、両ローラには電圧が印加されることになる。これに対して、図4(b)に示すように、転写プロセス装置のシミュレーションモデルでは、本解析物の物体の表面として、6つの電荷面53を定義する。ローラとシートの間は実際には密着しているが、微小なギャップ54があるものとする。物体運動解析モジュールではこの電荷面上の真電荷を物体の運動方向に移動させることによりシミュレーションを実行する。
【0055】
次に、トナー誘電率解析モジュールB120について説明する。各要素の誘電率は、要素の面積に対してトナーの占める面積の割合から決定する。図5は4角形要素70を用いて誘電率を設定する一例を示したものである。
【0056】
図5(a)は局所座標系における要素(4角形要素70)を表したものであり、○印で示した点71はその要素内部に一定間隔で規則正しく配置したものである。この規則正しく配置した点71をここでは格子点と呼ぶ。格子点は(数5)を用いてモデル座標系での値(xs,ys)に変換することで、図5(b)における有限要素中の○で示す位置に配置される。なおここでMnは要素を構成する節点の数であり、Nlは要素の形状関数、(xl,yl)は要素を構成する各節点の座標である。
【0057】
【数5】
【0058】
【数6】
【0059】
ここでεairは空気の誘電率であり、εtonerはトナーの誘電率である。このように、ある要素中にトナーのモデルが占める割合に基づいて要素の誘電率を正確に定義することができる。同様に、3角形要素や2次要素の場合も内部に規則正しい一定間隔の点を想定し、その点がトナー粒子に内含される割合から誘電率を定義することができる。トナー誘電率解析モジュールB120ではトナーが運動する材料の全要素について本処理を行うことで、トナーの誘電率を考慮した各要素の正確な誘電率分布を求めることができる。
【0060】
なお、上述では、トナーの誘電率が1種類だけの場合について説明したが、複数の種類ある場合にも容易に対応できることは明白である。
【0061】
次に、トナー電荷解析モジュールB130について説明する。本モジュールの処理では、電荷を有したトナーが存在する場合、その電荷はトナーの中心点から、その中心点近傍の節点に振り分ける処理を行う。図6を用いてトナーの電荷を節点に振り分ける例を具体的に説明する。図6において、それぞれメッシュ分割された要素70、要素を構成する節点80、トナーを示す円72が示されている。また、中心点81はトナーの中心点を示している。ここで、トナーに電荷量QTを有するものとする。トナーの中心点81を内含する要素に対して、その要素を構成する各節点80に本電荷を振り分ける。振り分け処理には数7を用いる。
Ql=NlQT (数7)
【0062】
ここでQlはl番目の節点に振り分ける電荷量であり、Nlはトナーの中心を内含する要素のl番目の節点の形状関数である。トナー電荷解析モジュールB130では、このような振り分けをすべてのトナーについて行い、対応する節点の電荷量をトナー電荷に更新する。
【0063】
次に、放電解析モジュールB160について説明する。なお有限要素法では節点で電位が定義されることから、上述の電位定義セグメントは節点ということになる。そこでここでは、上述の放電セグメントを「放電節点」とし、放電の解析対象となる放電検索セグメントを「放電検索節点」、放電セグメント対を「放電節点対」、トナーセグメントを「トナー節点」と呼ぶことにする。
【0064】
まず対向面間放電抽出モジュールB161を説明する。まず、オペレータは上記電荷面のうち、面間で放電の起こる可能性のある2つの面を転写プロセス装置のシミュレーションモデル上であらかじめ指定しておく。そして、シミュレーションの実行経過時間ごとにその電位分布に基づいてその2面間での放電の発生する可能性がある箇所を抽出する。
【0065】
図7を用いて放電発生箇所の抽出法を具体的に説明する。図7において、それぞれ、メッシュ分割して得られた要素70、太線で示したプロセス装置に帯電する電荷面90、91は、オペレータが指定した面間で放電の可能性がある面である。節点80はこれらの電荷面90,91上に存在するものであり、○印は電荷面90上の節点、△印は電荷面91上の節点を示している。図7に示すように、電荷面90上の92で示した節点iの電位φi(トナー誘電率解析モジュールB120より得られた誘電率およびトナー電荷解析モジュールB130より得られた電荷から数式2に基づいて得られた電位)に対して、電荷面91上の節点l(トナー誘電率解析モジュールB120より得られた誘電率およびトナー電荷解析モジュールB130より得られた電荷から数式2に基づいて得られた電位φl)との電位差φi−φlを算出する。その電位差φi−φlが数1で示した両節点間の距離(ギャップ長)から定まるパッシェン電圧Vpa(il)よりも大きいならば、両者間で放電が発生していると判定する。本操作を電荷面91のすべての節点80に対して調べて、最もパッシェン電圧を上回る節点lを、節点iとの間で放電が起こる節点、すなわち放電節点対としてその電位差RAM23に登録する。このような操作を電荷面90上の全節点に対して行うことにより、2つの面間での放電節点対をすべて抽出する。
【0066】
なお上述では、登録する放電節点対の位置関係に制約を設けない場合の処理を説明したが、2つの節点を結ぶ直線が電荷面90の法線方向に対して所定角度以内に含まれる電荷面91上の節点のみを電位差の算出の対象とする、という制約を設けてもよい。なぜなら、ギャップ中の電界が複雑になっている場合に発生する奇異な放電に対する処理を抑制でき、より実際に近い結果が得られることが本発明者の検討により判明しているからである。具体的には、発明者の検討によれば、上記角度が30°以内のものだけを採用することで、奇異な放電に対する処理を排除しながら有効な放電を抽出できることがわかっている。
【0067】
また、電荷面上にトナーが堆積しているシミュレーションを行う場合、そのトナーが堆積している部分では、上記の電荷面上の節点に代えて、トナーの最表層部分に位置する節点を放電検索節点とする。図8を用いてトナーを考慮した放電検索節点を抽出する一例を説明する。図8において、各符号は、要素70、プロセス装置のシミュレーションモデルの電荷面上の節点80、太線で示した電荷面90を示す。また三角印で示した節点80は電荷面上の節点、球状部72,73はトナーを示し、その×印81は、トナーの中心を示す。なおここでトナーは球と仮定して、図面中では円で表示する。次の手順で放電検索節点を抽出する。
(1)あらかじめ、電荷面上の節点はすべて放電検索節点として登録しておく。
(2)各電荷面に堆積したトナーのうち、表面に位置するトナーを抽出する。図8では抽出された表面のトナーを陰影付きの丸73、それ以外の内部トナーを白丸72で示している。
(3)各トナー表面の節点のうち、電荷面から最も離れた位置に最も近接した節点をトナー節点として抽出する。図の場合、星印で示された4つの節点100が抽出される。そして、抽出されたトナー節点を放電検索節点として追加する。
【0068】
そして、トナーに覆われた電荷面上の節点、すなわちハッチングした三角で示された電荷面上の節点は放電検索節点から除外する。結局図8の場合、ハッチングのかかっていない三角△と星☆で示した節点が電荷面上の放電検索節点ということになる。
【0069】
このようにして抽出した放電検索節点を基に、上述のように放電節点対を抽出する。
【0070】
次に尖頭部材間放電抽出モジュールB162による処理を説明する。上述したパッシェンの放電則は、平行電極のような平等電界中で成立するもので、不平等電界中においては適用できない。特に除電針などの尖頭形状をした電子写真機器によく使用される部材の放電は、コロナ放電を利用したものであり、同法則を使用できない。このようなパッシェンの放電則を適用できない部材のシミュレーションモデルに対しては、実験から得た放電開始電圧のギャップ長依存性曲線を用いて、放電節点対の抽出を行う。除電針の場合を例にして以下に説明する。
【0071】
図9は除電針部分の要素分割モデルの一例である。図9において、各符号はメッシュ分割して得られた要素70、除電針111、除電針の表面の電荷面90、除電針に対向する電荷面91は、2つの電荷面を構成する節点80であり、節点80のうち○印は除電針表面の節点、△印は対向面の節点を示す。
【0072】
なお、除電針111は完全導体とみなして内部の要素分割を行っていない。パッシェンの放電則による放電の場合と同様に、除電針の電荷面90とそれに対向する電荷面91上の節点を放電検索節点として、すなわち図中○と△で示した節点について、以下に示すとおり両電荷面間での放電を調べて放電節点対を抽出する。
【0073】
放電節点対を抽出する方法を説明する。図11は除電針の放電開始電圧の電荷面とのギャップ依存曲線であり、本曲線は実験結果をプロットしたものである。なお図中曲線は2本あるが、これは除電針の極性をプラスにした場合とマイナスにした場合の放電特性が異なることによるものである。すなわち、除電針と放電先との電位差から判断してこの2本を使い分けて使用することになる。そして、2つの放電検索節点の間の電位差が選択された曲線の電圧を上回る場合は、放電節点対としてRAM23に登録する。
【0074】
なお、除電針はその先端の尖った部分で放電を起こすと考えられることから、電荷面の形状から尖っている部分だけを指定して放電検索節点として考慮する。図9では、ハッチングのかかった丸印の節点112だけが放電検索節点の候補となる。これによってより迅速かつ正確な除電針放電の電界結果が得られる。
【0075】
以上の対向面間放電抽出モジュールB161、尖頭部材間放電抽出モジュールB162の説明では、1つの電荷面に対する放電の起こる可能性のある電荷面を1つの場合に限り説明した。また、実際には1つの電荷面に対して、複数の電荷面との間で放電が起こる可能性があることがよくある。しかしながら、上述の方法によれば、電荷面上の各節点と複数の電荷面の節点との間で放電の可能性をそれぞれ検索し、放電節点対を抽出することは容易に対応可能である。また、本願発明は、曲面間に関しても有効である。
【0076】
次に放電電荷量計算モジュールB163を説明する。このモジュールの処理の前提として、既に対向面間放電抽出モジュールB161と尖頭部材間放電抽出モジュールB162により、平行面間、及び尖頭部材間の放電を起こす節点対が抽出され、RAM23に登録されているものとする。ここでは本放電節点対の間で放電により移動する電荷の量を求める。
【0077】
図10は放電により移動する電荷の量を求める一例を説明する図である。図中70、80、90、91は図9と同じであるのでその説明を省略する。電荷面90上の節点131と電荷面91上の節点132が放電節点対をなしているものとし、それぞれの節点番号をi、jとする。本放電節点対で放電により移動する電荷量を以下のようにして算出する。
【0078】
(数8)は(数2)のポアソン方程式を有限要素法で離散化して得られる連立1次方程式であり、境界条件を代入して整理した後の式である。本方程式は全体節点第2方程式と呼ばれるものであり、mは電位が未知の節点数である。
【0079】
【数7】
【0080】
ここで放電前の電位ベクトルを{φ}、電荷ベクトルを{Q}とし、放電後のそれをそれぞれ{φ’}、{Q’}とする。図の放電節点対i、jについて、放電前の電荷量をQi、Qjとし、放電により節点iから節点jに電荷が△Qijだけ移動することで2節点間の電位差がαVthになるものとする。ここでVth(ij)は両節点間のギャップ長における放電開始電圧であり、対向面間放電抽出モジュールB161において抽出された節点対の場合はパッシェン電圧、尖頭部材間放電抽出モジュールB162で抽出された節点対の場合は、上述の実験結果から得られた放電開始電圧ということになる。αは放電後のパッシェン電圧に対する電位降下の割合を示す係数である。一般にαは1とする。
【0081】
放電後の節点i、jの電位φi’、φj’は(数3)の関係となる。電荷量Qi’、Qj’は(数4)で表すことがきる。(数3)、(数4)を(数8)に組み込むことで、数9の放電後の電界方程式を得る。
【0082】
【数8】
【0083】
なおここで、m+1行目の“・・・”は、すべて0である。
そして、右辺ベクトルの△Qijを左辺の行列に移行して(数10)を得る。
【0084】
【数9】
【0085】
ここで、m+1行目の“・・・”およびm+1列目の“・・・”は、すべて0である。また、数9および数10のKは数2の左辺に依存する係数である。
【0086】
左辺の行列は、(数8)の行列に対して、2つの放電節点番号の列が1と−1で、それ以外の元が0である行が1行追加されるとともに、それと対称な列が1列追加されたものである。本方程式を解くことにより放電後の電位分布{φ’}及び放電により移動する電荷量△Qijを求めることができる。
【0087】
ここでは、放電節点対が1組だけの場合について説明したが、放電節点対が多数ある場合は、本行列におけるm×mより外の行と列を、同様の方法で放電節点対の数だけ増やすことで、放電後の電位分布{φ’}及び放電により移動する電荷量{△Q}を算出することができる。すなわち各放電節点対に対して、その節点番号の行と列の値が1と−1であり、それ以外は0の行と列を、放電節点対の数だけ追加した行列を解けばよい。
【0088】
放電電荷量計算モジュールB163では、以上の方法により放電により移動する電荷量を求めた後、放電節点のうち、トナー節点以外の節点、すなわち電荷面上の節点に対して、数4から放電後の電荷量を求め、その値を更新する。
【0089】
なお数10における左辺の行列は、対称行列であるので、数10は一般的な有限要素法の場合と同様にスカイライン法、ICCG法等の方法で容易に解くことができる。
【0090】
上述した放電解析モジュールB160では、1つの節点に対する放電の相手先節点は1つとして説明した。しかしながら、パッシェン電圧(尖頭部材からの放電に関しては放電開始電圧)のセグメント対が複数存在した場合、それらを全て解析対象とすることにより、1つの節点から複数の節点に放電が起こるように簡単に変更できる。発明者の検討によれば、特に尖頭部材よりで放電が起こる際には、より実験結果の再現に近い放電結果を算出できることがわかっている。
【0091】
以上のように、放電発生の判定は、電荷面上の各節点に対して最も放電条件を満たす対向電荷面上の節点を検索することにより行う。これにより、ローラとローラ間の放電の場合のように、例え放電領域が広がったとしても、従来のような問題は発生しない。
【0092】
また2つの電荷面上の節点を使用することから、精度よく判定を行うことができる。また物体の表面の要素分割が粗くても精度の高い放電箇所の抽出を行えるようになる。また複雑な表面形状の物体にも対応できるようになる。また放電発生箇所は物体の表面形状によらず、両節点の距離と放電開始電圧の関係を使ってプログラムの内部で自動的に行うことから、モデルの形状に応じた指定は不要となり、オペレータからみたとき使い易いプログラムを提供できるようになる。
【0093】
また放電電荷量は(数3)、(数4)を満足する場を直接計算することから、精度の高い電位分布、及び放電電荷量を得ることが可能になる。また、いかなるモデルの材料分布の場合にも適用できるようになる。更に放電により移動する電荷量の算出のために必要なデータを別に与える必要がなくなり、オペレータからみて極めて使いやすいプログラムを提供できるようになる。
【0094】
また除電針等のパッシェンの放電則に沿わない部材の放電も取り扱うことが可能となり、実際の転写系をそのまま解析することで、実用度が増大する。
【0095】
ここで、トナー解析モジュールB164に関して説明する。本モジュールでは、放電電荷量計算モジュールB163で得られた放電電荷量のうち、放電が発生している節点がトナー節点であった場合に、そのトナー節点抽出の基となったトナーに対して、その電荷量を放電電荷量△Q分だけ加算して更新する。なおこのときトナー節点からトナー番号への対応表が必要となるが、これは、上述の対向面間放電抽出モジュールB161で容易に作成できるので準備しておけばよい。
【0096】
次にトナー挙動解析モジュールB170を説明する。トナーとしては、上記電界計算に使用した有限要素法の分割モデルと独立な、球状の物体を想定する。本手段では、トナーに働く静電気力、重力、付着力、空気抵抗力を考慮することにより、トナー位置を、計算刻み時間後の位置に更新する。
【0097】
時間tにおいてトナーが受ける静電気力Fe(t)は、数11で求まる。ここでQT(t)、E(t)はそれぞれ、時間tにおけるトナーの電荷量、トナー中心位置における電界強度である。
【0098】
【数10】
【0099】
トナーが受ける静電気力Fe(t)に重力、付着力、空気抵抗力等を加えた、トナーに働く力の総和をF(t)とする。時間tにおけるトナーの速度をv(t)とするとき、ニュートンの運動方程式から、計算刻み時間(dt)後のトナーの位置x(t+dt)は数12で求まる。なお数12においてv(t+dt)は計算刻み時間後の速度であり、mはトナーの重量である。
【0100】
【数11】
【0101】
数11、数12を用いてトナーの挙動を計算できるが、その具体的な手法としては、運動量保存則と跳ね返りの関係式を用いた剛体球モデルと呼ばれている方法と、個別要素法に代表される軟体球モデルと呼ばれている方法がある、ここではそのどちらを採用してもよい。
【0102】
トナー誘電率解析モジュールB120、トナー電荷解析モジュールB130、トナー電荷更新モジュールB164、トナー挙動解析モジュールB170により、トナーは、個々の持つ大きさ、誘電特性、電荷を考慮して、その挙動を正確に計算できるようになる。その結果、転写効率を評価したり、トナーの作る画像を直接評価したりできるようになるとともに、その画像を形成するに至った原因・過程を直接検討できるようになる。特に、転写画像に極めて深刻な影響を与えるトナーへの放電、更には放電を受けたトナーの帯電量の変化まで計算で求まるようになり、設計段階で画像を正確に予測できるようになる。
【0103】
図13は、転写装置を感光体の軸方向から見たときの模式図である。転写領域において、転写用紙273と感光体ドラム272が左から右に移動しているものとする。そして、トナー270は負に帯電しており、感光体ドラム272の基板を接地して、転写ローラの芯金50に正の電圧が印加される。このように、感光体ドラムと転写ローラとの間に電界が形成され、トナーは転写用紙に転写されることになる。
【0104】
図13に示す転写装置のモデルにおいて、本解析方法を用いて転写用紙を中間転写ベルトとした1次転写部分をシミュレーションした結果の一例を、図14〜図16を用いて説明する。
【0105】
図14は、それぞれ計算に用いた3種類の中間転写ベルト(ベルトA,B,Cと呼ぶ)の導電率の電界依存性、および図15は転写ローラの導電率の電界依存性を示すグラフである。なお、各軸の値は規格化して表示している。
【0106】
図16はベルトA,Cに対して、そのときの放電光の様子を3次元グラフ化したものであり、図17は上述の解析方法によって計算した結果で比較したものである。図16,17では、それぞれドラムと中間転写ベルト(ITBと呼ぶ)のニップ部分を中心にして、ITBの面内方向の位置と放電強度の関係をグラフ化している。なお、図17において、放電強度は規格化して示している。実験では、ニップに対して上流側において、ベルトCの場合にだけ放電が観測される。一方、下流側においては、いずれのベルトA,Cに対しても若干の放電が観測されている。これに対して、計算でも同様のことが再現されていることがわかる。
【0107】
また、図18,19は、図13の転写ローラ装置に対して実際に電圧を印加したときとシミュレーションしたときの電圧と電流との関係を示したものである。白色のプロットが実験結果、黒塗りのプロットが計算結果を示す。図18、図19はそれぞれトナーを転写しない場合、トナーを転写する場合の転写電圧と電流との関係を示し、A,B,Cの3種類の中間転写ベルトの結果を表示している。このように、両者とも計算はすべてのベルトに対して実験とよく一致していることがわかる。
【0108】
なお、図19において、600V付近から電流が立ち上がっているのは、トナー層に対して放電が発生することによるものである。本トナー層への放電に起因して、トナーの中にその電荷極性が反転するものがでてくる。すなわち転写前にトナーはすべて負に帯電しているが、ニップを通過する過程で正の帯電に変化するものがあらわれる。その結果、極性が反転したトナーは、転写されることなくドラム上に残ることになる。上図は、極性反転によってドラム上に残るトナーの割合が精度よく計算されていることを示すものであり、ひいては本実施の形態によるトナーへの放電が適切に計算されていることを示すものである。図20は、転写ローラ装置に対する印加電圧と転写効率との関係を示したものである。図20によると、放電が始まる印加電圧600V以上の場合には、転写効率が低下することが理解される。
【0109】
なお、図16〜19における条件の設定は表1のとおりである。
【0110】
【表1】
【0111】
一般に転写プロセスで放電はトナーの飛び散りに大きな影響を与えることから、放電を予測できるようになることは極めて重要である。
【0112】
(差分法による解析)
ここでは、電界計算に差分法を使用した例を説明する。なお差分法のセルで、各変数の定義している場所は図12に示すとおりとする。すなわち、電位φおよび電荷Qはセルの重心とし、導電率σおよび誘電率εはセル間の辺の中点と定義する。またここでは特に有限要素法と異なる点に絞って説明し、同じ部分は省略する。
【0113】
ここでは有限要素分割モデルと区別するために、差分メッシュのうち、有限要素法の要素に当たる部分をセルと呼ぶことにする。
【0114】
物体運動解析モジュールB180について説明する。電荷が蓄積される可能性のある装置のモデルの表面上のセルの集合を電荷面と呼ぶ。本処理では、有限要素法と同様に、電荷面を構成するセルの間で、シミュレーションにおける開始時刻からの所定時間経過ごとにその物体の移動する量だけ、真電荷、及び分極電荷を移動させる。
【0115】
トナー誘電率解析モジュールB120について説明する。ここではまず有限要素法と同様に、図6と数5、数6で示した方法により、各セルの誘電率を求める。そしてそれを基に各セルの境界における誘電率は、その両側のセルの誘電率の平均値を採用する。
【0116】
トナー電荷解析モジュールB130について説明する。トナーには、その中心位置に電荷があるものと想定し、その中心点に最寄りのセルに、その電荷を加算する。本処理をすべてのトナーについて行うことで、トナー電荷を考慮したセルでの電荷分布を求める。
【0117】
放電解析モジュールB160について説明する。なおここで説明する差分法ではセル中心で電位が定義されることから、上述の電位定義セグメントはセルということになる。そこでここでは、上述の放電セグメントを放電セル、抽出対象とする放電検索セグメントを放電検索セル、放電セグメント対を放電セル対、トナーセグメントをトナーセルと呼ぶ。
【0118】
まず対向面間放電抽出モジュールB161を説明する。上記電荷面のうち、面間で放電の起こる可能性のある2つの面をあらかじめ指定しておき、各シミュレーション時間ステップにその電位分布からその2面間での放電の発生箇所を抽出する。本処理は、セルを対象にしているため、有限要素法における節点と位置は違うものの、その解析処理は有限要素法の場合と同様である。すなわち、電荷面上の各セルに対して対向する電荷面上のセルとの電位の関係から、パッシェン電圧を上回る電圧を持つ放電セル対をすべて抽出し、RAM23に登録する。この場合の放電検索セルは2つの電荷面上のセルということになる。
【0119】
ここで、電荷面上にトナーが堆積している部分では、上記の電荷面上のセルに代えて、トナーの最表層部分に位置するセルを放電検索セルとして設定する。放電検索セルの抽出は次のとおりである。
(1)はじめに、電荷面上のセルはすべて放電検索セルとして登録する。
(2)各電荷面に堆積したトナーのうち、表面に位置するトナーを抽出する。
(3)トナーセルの抽出とトナー被覆電荷面セルの除外の処理を実行する。具体的には、各表面のトナーに対して、電荷面から最も離れた位置に近接した(セル中心を持つ)セルをトナーセルとして抽出する。抽出されたトナーセルを放電検索セルとして追加する。一方代わって、トナーに覆われた電荷面上のセルは放電検索セルから除外する。
【0120】
このようにして抽出した放電検索セルを基に、上述のように放電セル対を抽出する。
【0121】
また、尖頭部材間放電抽出モジュールB162の処理では、除電針と放電先とのギャップ長、及び電位差から判断して、2つの放電検索セルの間の電位差がオペレータが指定した放電開始曲線の電圧を上回る場合は、放電セル対として、RAM23に登録する。
【0122】
また、放電電荷量計算モジュールB163では、対向面間放電抽出モジュールB161と尖頭部材間放電抽出モジュールB162の処理によって、平行面間、及び尖頭部材間の放電を起こすセル対の間で放電により移動する電荷の量を求める。
【0123】
差分法ではデカルト座標系(xy座標系)で直交メッシュを生成し、数14、数15を用いて、それを一般座標系(ζη座標系)に座標変換する。そして本一般座標系にて数13のポアソン方程式を解き、電位分布を求めることができる。なおここで、ζ1=ζ、ζ2=η、gijは計量テンソル、√gは座標変換のヤコビアン、qは体積電荷密度、εは誘電率、φは電位を示す。
【0124】
【数12】
【0125】
【数13】
【0126】
【数14】
【0127】
数16は数13を全解析領域で成立する連立一次方程式として表示したものであり、mは電位が未知のセル数である。
【0128】
【数15】
【0129】
ここで放電前の電位ベクトルを{φ}、電荷ベクトルを{Q}とし、放電後のそれをそれぞれ{φ’}、{Q’}とする。そして放電セル対i、jについて、放電前の電荷量をQi、Qjとし、放電によりセルiからセルjに電荷が△Qijだけ移動することで2つのセル間の電位差がαVthになったとする。ここでVth(ij)は両セル間のギャップ長における放電開始電圧であり、対向面間放電抽出手段B161で抽出されたセル対の場合はパッシェン電圧、尖頭部材間放電抽出手段B162で抽出されたセル対の場合は、上述の実験結果から得られた放電開始電圧ということになる。αは放電後のパッシェン電圧に対する電位降下の割合を示す係数である。一般にαは1とする。
【0130】
放電後の節点i、jの電位φi’、φj’は数3の関係がある。電荷量Qi’、Qj’は数4で表すことがきる。数3、数4を数16に組み込むことで、数17の放電後の電界方程式を得る。
【0131】
【数16】
【0132】
なおここで、m+1行目の“・・・”はすべて0である。
【0133】
右辺ベクトルの△Qijを左辺の行列に移行して数18を得る。
【0134】
【数17】
【0135】
ここで、m+1行目の“・・・”およびm+1列目の“・・・”はすべて0である。また、数17および数18のMは数2の左辺に依存する係数である。
【0136】
左辺の行列は、数16の行列に対して、2つの放電セル番号の列が1と−1で、それ以外の元が0である行が1行追加されるとともに、それと対称な列が1列追加されたものである。放電セル対が多数ある場合は、本行列におけるm×mより外の行と列が放電セル対の数だけ増えることになる。本方程式を解くことにより放電後の電位{φ’}及び放電電荷量{△Q}が求まる。そして放電セルのうち、トナーセル以外のセル、すなわち電荷面上のセルに対しては、数4から放電後の電荷量を求め、その値を更新する。
【0137】
なお数18における左辺の行列は、対称な疎行列であるので、容易に高速に解くことが可能である。
【0138】
また、トナー電荷更新モジュールB164の処理では、放電電荷量計算モジュールB163で得られた放電電荷量のうち、放電が発生しているセルがトナーセルであった場合に、そのトナーセル抽出の基となったトナーに対して、その電荷量を放電電荷分だけ加算して更新する。なおこのときトナーセルからトナー番号への対応表が必要となるが、これは、上述の対向面間放電抽出モジュールB161の処理において予め作成しておく。
【0139】
次にトナー挙動解析モジュールB170については、(数11)においてトナー中心位置における電界強度の算出に上記差分法で得た電界結果を使用する以外は、有限要素法で説明した処理と同様である。従ってここではその説明を省略する。
【0140】
本実施の形態のように、電界計算に差分法を用いた方法によっても、図2のモジュール構成により、図3のフローチャートによって導体中を流れる電流、放電、トナーの挙動を考慮した転写解析を行うことができる。特に、本実施例は差分法を基にしていることから、有限要素法に比べて計算内容の物理的意味が分かり易く、計算も高速にできるという特長を持つ。
【0141】
なおここでは、図18のように、セルの中心に電位、電荷量を、セルの間の境界に誘電率、導電率を定義する差分法について説明したが、本定義の位置を変えた場合についても容易に適用可能である。
【0142】
また以上の実施の形態では、電界計算には有限要素法と差分法を用いた方法を説明したが、これまでの説明から明らかなように、本発明はこのような電界計算手法にはこだわらず、他の方法、例えば積分法によった場合についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】情報処理装置のブロック図。
【図2】情報処理装置において実行されるプログラムのモジュールの構成を示す図。
【図3】情報処理装置の解析処理フローチャートを示す図。
【図4】(a)実際の解析対象処理装置模式図の一例を示す図、(b)解析対象処理装置のシミュレーションモデルの一例を示す図。
【図5】トナーの誘電率を考慮した要素の誘電率を定義するための説明図。
【図6】各節点に対してトナーの電荷の振り分けを説明するための図。
【図7】2つの面間の放電を解析する方法を説明するための図。
【図8】放電を解析する際にトナーの堆積を考慮したときの説明図
【図9】除電針などの尖頭部材のモデルからの放電を解析する方法を説明するための図。
【図10】尖頭部材の放電開始電圧とギャップ長との関係の一例を示す図。
【図11】2つの面間の放電を解析する方法を説明するための図。
【図12】要素のパラメータの定義の一例を示す図。
【図13】転写装置の模式図。
【図14】転写ベルトA−Cの電界強度と導電率との関係を示す図。
【図15】転写ローラの電界強度と導電率との関係を示す図。
【図16】転写ローラの放電光の実験結果を示す図。
【図17】転写ローラの放電光の計算結果を示す図。
【図18】転写ローラのトナーが付着していない場合の放電量の計算および実験結果を示す図。
【図19】転写ローラのトナーが付着している場合の放電量の計算および実験結果を示す図。
【図20】転写ローラの印加電圧と転写効率との関係を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある装置の放電を解析する解析手法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真技術を用いた画像形成装置は、帯電、露光、現像、転写、クリーニングという5つのプロセスから構成される。
【0003】
このうち転写プロセスでは、像担持体上に形成されるトナー像を転写媒体に転写するプロセスである。高解像度の画像を得るためには、転写する際のトナーの飛び散りを抑えながら、転写効率を上げて転写媒体に転写することが重要課題である。そのためには、像担持体(感光体ドラム)、トナー、転写媒体、転写条件といった各種パラメータを最適化することが重要となる。
【0004】
特に近年のカラー化の普及により、転写プロセスでは、中間転写ベルト等の中間転写体を使用する転写方式が主流になりつつある。中間転写体を使用した転写方式では、まず感光体上に形成される4色のトナー画像を順次重ね合わせることで一旦中間転写ベルト上に1次転写する。そして最後に一括して転写用紙等の最終転写媒体上に2次転写することで最終画像を形成する処理を行っている。従って最終画像を得るためには2回の転写プロセスが必要となる。この場合、2回の転写プロセスにおける転写効率は、感光体、トナー、中間転写ベルト、転写用紙、1次転写及び2次転写の転写条件といった多くのパラメータが絡み合って決定される。
【0005】
従来、この転写プロセスにおける各種パラメータの最適化は主として試作機等を用いた実験で行われてきた。しかし近年では、計算機を用いた解析も行われるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献1(特開2003−262617号公報)によれば、導体中を流れる電流、放電、及び物体の運動を考慮して、転写装置の電位分布を求める方法及び装置が開示されている。これによれば、2次元の解析領域をまず複数の小さなセルに分割する。そしてポアソンの方程式を基に差分法を用いて各セルの電位を算出する。得られた電位分布、およびオームの法則に基づく各部材の抵抗から感光体ドラム、中間転写ベルト等の表面移動に伴う電荷の移動を算出する。次に電荷が移動した後の各セルの電位を算出して、その電位分布からパッシェンの放電則及びコンデンサの理論から放電による電荷の移動を算出する。以上の工程のうち、セル分割から後の工程を、電位分布が安定するまで繰り返すことにより転写電界を求めるというものである。
【0007】
ところで、実際のニップ部分ではトナーの層の誘電特性が転写電界に影響を与えるが、この特許文献1によれば、ニップ中にトナー層に相当する仮想の誘電層を設けることでモデル化している。そして、トナーの電荷は、トナーの転写効率が100%と想定しており、転写ニップ前では感光体ドラム表面に存在し、ニップ後は転写用紙上に完全に転写されるものと仮定している。さらに、トナーの大きさは無視して、それぞれ感光体ドラム及び転写用紙の表面に電荷を設定している。
【0008】
一方、転写性能を評価するために、トナー粒子の挙動の様子を知ることは極めて重要である。転写プロセスの部分ではないが、紙搬送転写ベルト上の紙上のトナーに関して、剥離放電による電界の乱れに起因するトナーの飛び散りを計算したものが「門永他、”電子写真方式での紙搬送転写ベルトシステムにおける剥離放電の研究”、日本機会学会[No01−251]、第13回電磁力関連のダイナミクスシンポジウム講演論文集、pp469(2001)」に報告されている。
【特許文献1】特開平09−309665号公報
【非特許文献1】門永他、“電子写真方式での紙搬送転写ベルトシステムにおける剥離放電の研究”、日本機会学会[No01−251]、第13回電磁力関連のダイナミクスシンポジウム講演論文集、pp469(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術には以下の課題が残されている。
【0010】
まず特許文献1における本来放電発生の判定は、電位はセルの中心で定義されているため、厳密さに欠けている。またその影響を最小に抑えるためには、これらの物体の表面のセルを細かくして各値を算出しなくてはならず、計算時間が長くなる。
【0011】
そして、特許文献1には、物体の表面形状に応じて放電に関する設定方法が異なることから、モデルに応じて指定が必要となり、操作者は複雑な操作を強いられる。また、トナーは放電を受けると帯電量が変化することがわかっているが、特許文献1ではこのようなトナーに対する放電を考慮していない。
【0012】
また、特許文献1には、放電によって移動する電荷量の算出には、平行平板からなるコンデンサの理論を使用しているために、モデルの材料分布が電気力線の方向に厚さが均一な層状をしている場合にしか適用できない。
【0013】
また、一般に転写プロセスでは除電針等のコロナ放電を利用した部材がよく使用されるが、特許文献1では、除電針を想定した解析を検討していない。
【0014】
また、実際の転写系では、トナーは個々に電荷をもっており、独立して運動する。そして、転写装置の良し悪しは本トナーが作る転写効率やトナーの作る画像で評価する必要があることから、個々のトナーの挙動を知ることは極めて重要である。
【0015】
また、特許文献1によれば、上述したように個々のトナーの挙動や物性を考慮しておらず、トナーの運動の仮定が間違っていると、正確な解析がなされない。また、電界計算としてトナーの持つ誘電特性、及び電荷を考慮しておらず、転写ニップのようなトナーが密集している領域ではシミュレーションの信頼性が低い。
【0016】
本発明は、このような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上述した課題を解決するため、読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
シミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式(数8)に対して、
放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式(数4)とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法を提供する。
【0018】
また、読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面のセルiと第2の面のセルjとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式(数8)に対して、
放電後の前記セルiおよび前記セルjにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記セルiおよび前記セルjにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式(数4)とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、どのような物体形状のモデルに対しても放電計算を行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付の図面に沿って本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本実施形態における放電解析方法の特徴は、最初に放電が発生しないとしたときの電位分布を求め、その結果から放電発生箇所(放電節点対)を抽出し、パッシェン電圧を超えないようにするにはどれだけの電荷を移動すればよいかを求めることにある。後述の数3と数4は、放電が発生しないとしたときの電位分布から作成されるものであり、本式を電界計算の式に連成させて解く。
【0022】
一方、複数種の式を連成させて解く方法は、一般的に既に行われている。
例えば流体の流れに伴なう構造構造物の変形を解く場合、また構造解析において、異なる節点間での変位にある関係条件を課す場合等である。
【0023】
しかしながら、これら旧来の方法は、複数の未知量(例えば流体圧力と構造物変位)を連成させて解く、または未知量間の関係に条件を付加するものである。本実施形態における解析方法は、条件式をあらかじめ同様な電界計算によって求めるものであり、この点で、明らかに旧知のものとは異なるものであるとともに、旧知の方法では解けなかったものである。
【0024】
図1は、本実施の形態における情報処理装置を示すブロック図である。このコンピュータ20は、各種判断及び処理を行う全体制御モジュール、データの入力を検出するデータ入力モジュール、トナー誘電率解析モジュール、トナー電荷解析モジュール、放電解析モジュール、トナー挙動解析モジュール、計算結果出力モジュールなどをソフトウエアプログラムに基づいて実行する中央処理装置(CPU)21、前記ソフトウエアプログラム及び固定データを格納したROM22、処理データなどを格納する読み書き可能なRAM23と、外部記憶装置との間でデータをやり取りする入出力回路(I/O)24とから構成されている。この情報処理装置20では、入力データ30がI/O24を介して入力され、この情報処理装置20により処理された計算結果がI/O24を介して出力データ31として出力される。
【0025】
図2は、本実施形態のソフトウエアプログラムによって実行されるモジュールの構成を示している。
【0026】
制御モジュールB100は転写プロセスの解析を行うための全体を制御する。具体的には、これから説明するデータ入力モジュール、トナー誘電率解析モジュール、トナー電荷解析モジュール、導体中電荷移動解析モジュール、放電解析モジュール、トナー挙動解析モジュール、物体運動解析モジュール、計算結果出力モジュールを制御する。
【0027】
データ入力モジュールB110は、本実施形態で行う解析に必要なメッシュデータ、及び各種パラメータのデータファイルを作成し、RAM23に格納するためのものである。メッシュデータは、差分メッシュ、有限要素メッシュ等、電界計算を行う手法に応じて誘電体もしくは抵抗体からなる転写装置の解析領域を微小領域に分割したデータのことを指す。また、各種パラメータとしては、材料の誘電率、導電率、電荷分布、境界条件としての電位、移動する物体の速度、電荷の蓄積する可能性のある面(電荷面と呼ぶ)の指定、放電の起こる面の指定、トナーの径、トナーの初期配置、トナーの帯電量、トナーの誘電率、更に計算刻み時間、計算終了時刻などが入力されることになる。
【0028】
トナー誘電率解析モジュールB120は、個々のトナーの位置、形状(径)、及び誘電率データを基に、メッシュデータ中の誘電率の分布にトナーの誘電率を加味したデータを算出する。
【0029】
トナー電荷解析モジュールB130は、メッシュデータ中の真電荷の分布に、トナーの持つ電荷の分布を加味したデータを算出する。
【0030】
導体中電荷移動解析モジュールB150は、導体中の電荷移動をオームの法則に従って算出する。
【0031】
放電解析モジュールB160は、各種放電の発生を判定して、放電による電荷の移動、及び放電後の電位分布を算出する。放電解析モジュールB160は、それぞれ対向面間放電抽出モジュールB161、尖頭部材間放電抽出モジュールB162、放電電荷量計算モジュールB163、トナー電荷更新モジュールB164より構成される。
【0032】
対向面間放電抽出モジュールB161では、パッシェンの放電則に従って2つの対向する平面間における放電発生の有無を検索し、放電する部分を抽出する処理を実行する。本放電発生の検索は、メッシュデータの未知変数としての電位を定義している部分(これをここでは電位定義セグメント、または単にセグメントと呼ぶことにする。例えば従来技術で説明した差分法におけるセル中心、有限要素法の場合は節点などを指す)のうち、放電を検索する面上または面に近接するものを使用し、各電位定義セグメントに対して最もパッシェン電圧を上回る対向面の放電定義セグメントを抽出することで行う。なおここでは、検索に使用した面上または面に近接したセグメントを放電検索セグメント、抽出された電位定義セグメントを放電セグメント、放電相手との組を放電セグメント対と呼ぶことにする。パッシェン電圧Vpaとしてはそれを近似曲線で示したものがいくつか提案されており、どれを使用してもよいが、例えば数1で得られるものがよい。dはギャップ長である。
【0033】
【数1】
【0034】
なお、対向面間放電抽出モジュールB161では、面がその上に堆積したトナー層で覆われている場合は、その覆われた部分の電位定義セグメントは検索から除外する。そして除外したものに代えて、面上に堆積したトナー層のうち、表層に位置したトナーに対して、そのトナーに近接する電位定義セグメント(本電位定義セグメントを特にトナーセグメントと呼ぶ)を対応させ、そのトナーセグメントを放電発生の検索に使用する。
【0035】
尖頭部材間放電抽出モジュールB162では、除電針のようにパッシェンの放電則に従わない2体間について、ギャップ長と放電開始電圧の関係を示す実験結果に基づいて放電セグメント対を抽出する。放電電荷量計算モジュールB163では、数2のポアソンの方程式に抽出した全放電セグメント対に対する数3と数4で示した放電開始電圧、及び電荷移動の関係式を連成させて解くことにより、放電発生後の電位及び放電電荷量を求める。
【0036】
なおここでi、jは電位定義セグメントの番号であり、Vth(ij)はi、j間の放電開始電圧、Qi、Qjは放電前のi、jの電荷量、Q’i、Q’jは放電後のi、jの電荷量、△Qijは、i、j間の放電による電荷移動量である。αは放電後の両セグメント間の電位の放電開始電圧に対する比を示す係数であり、一般に1とする。具体的な連成方程式の詳細例は、後に続く実施例で説明する。そして、トナーセグメント以外の放電セグメントの電荷量については、ここで得られた放電電荷量を加算して更新する。
【0037】
【数2】
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
トナー電荷更新モジュールB164は、放電電荷量計算モジュールB163で得られた放電電荷量のうち、放電が発生している電位定義セグメントがトナーセグメントであった場合に、そのトナーセグメント抽出の元となったトナーに対して、その電荷量を放電電荷分だけ加算して更新するものである。
【0041】
トナー挙動解析モジュールB170は、静電気力、重力、付着力、空気抵抗力等、トナーに働く力を基に、ニュートンの運動方程式を解いて、トナー位置を計算刻み時間後の位置に更新するものである。
【0042】
物体運動解析モジュールB180は、物体の運動に伴う電荷の移動を解析する。
【0043】
計算結果出力モジュールB200は、得られた計算領域の電位分布、電荷量分布、トナーの挙動、トナーの電荷分布、放電分布等の結果を出力する。
【0044】
本実施の形態において転写装置をシミュレーションしたときの情報処理装置の処理の流れについて説明する。図3は図2に示した各モジュールを実行してシミュレーションを行うフローチャートである。
【0045】
ステップS100において、まず入力データの読み込みを行う(データ入力モジュール)。このとき、感光体ドラムにおける潜像等、初期電荷分布の設定も同時に行う。また入力データの条件に従って、ステップS102でトナーを初期位置に設定する。以上の処理はこれから始まる時間変化に伴う計算のA:前準備工程として位置付けられる。
【0046】
次にステップS300において、トナー誘電率解析モジュールB120を用いてトナーを考慮した誘電率分布設定を行う。そして、ステップS301において、トナー電荷解析モジュールB130を用いてトナー電荷を考慮した真電荷分布設定を行う。そして、ステップS302に進み、導体中電荷移動解析モジュールB150を用いて、得られた誘電率分布、真電荷分布、及び誘電分極分布から、導体中の電荷移動計算を行う。S300〜S302の処理は、B:導体中電荷移動解析工程として位置付けられる。
【0047】
次にステップS400において、対向面間放電抽出モジュールB161の処理により、平行面間の放電箇所と放電先を組とした放電セグメント対の抽出処理を実行する。さらにステップS401において、尖頭部材間放電抽出モジュールB162の処理により、尖頭部材間の放電箇所と放電先を組とした放電セグメント対の抽出処理を実行する。そしてステップS402において、全電位定義セグメントの電荷を求める(放電電荷量計算モジュールB163)。更にステップS403において、放電が発生したトナーの電荷量を更新する(トナー電荷更新モジュールB164)。S400〜S403の処理は、C:放電解析工程と位置付けられる。
【0048】
ステップS500において、トナー挙動解析モジュールB170を用いて所定時間経過後のトナーの挙動計算を行う。そして、このトナーの挙動計算によって得られたトナーの位置を求められた位置に更新する。本処理はD:トナー挙動解析工程と位置付けられる。
【0049】
ステップS600において、次に物体(トナーあるいは紙搬送装置の各ユニットを指す)の運動に伴う電荷の移動を行う(物体運動解析モジュールB180)。この物体運動解析モジュールB180に関しては詳細に後述する。S600の処理はE:物体運動解析工程と位置付けられる。
【0050】
ステップS800において、予め設定されたシミュレーションの終了時間に満たない場合は、前回解析したシミュレーションの開始からの時刻に△tを加算した時刻のシミュレーションを実行すべく、ステップS300に戻り、指定された時間になるまで上述の処理を繰り返す。そして、ステップS900において、計算終了時間になったならば、シミュレーションの結果出力を行う。
【0051】
(有限要素法による解析)
ここで上述した本実施形態における解析方法に電界計算を行う手法として有限要素法を採用した際の一例について説明する。なおここでは2次元解析に限定して説明を行う。
【0052】
数2のポアソン方程式を有限要素法で解く場合、電位φ、及び電荷(分極電荷を含む)Qは後述の節点の値として、また誘電率ε、導電率σは要素の値として定義される。また電界強度は要素の値として定義され、ここでは要素中心での値が算出されるものとする。
【0053】
そして有限要素法による解析を適用したときの、図1に示した主なモジュールについて具体的に説明する。
【0054】
まず物体運動解析モジュールB180について説明する。電荷は、一般に物体の表面にのみ存在する。このように電荷が蓄積される可能性のある物体の表面を電荷面と呼ぶ。なお、物体の運動を考慮する場合、電荷面を構成する節点間で物体の運動方向に電荷を移動させればよい。図4に電荷面の一例を示す。図4(a)は解析対象となる実際の転写プロセス装置の感光体をローラで代用した模式図を示している。図4(a)において、ローラ51、芯金50、シート材52が転写プロセス装置の主な構成ユニットとなっている。この装置において、実際の動作では2つのローラ51がシート材を挟んで回転し、両ローラには電圧が印加されることになる。これに対して、図4(b)に示すように、転写プロセス装置のシミュレーションモデルでは、本解析物の物体の表面として、6つの電荷面53を定義する。ローラとシートの間は実際には密着しているが、微小なギャップ54があるものとする。物体運動解析モジュールではこの電荷面上の真電荷を物体の運動方向に移動させることによりシミュレーションを実行する。
【0055】
次に、トナー誘電率解析モジュールB120について説明する。各要素の誘電率は、要素の面積に対してトナーの占める面積の割合から決定する。図5は4角形要素70を用いて誘電率を設定する一例を示したものである。
【0056】
図5(a)は局所座標系における要素(4角形要素70)を表したものであり、○印で示した点71はその要素内部に一定間隔で規則正しく配置したものである。この規則正しく配置した点71をここでは格子点と呼ぶ。格子点は(数5)を用いてモデル座標系での値(xs,ys)に変換することで、図5(b)における有限要素中の○で示す位置に配置される。なおここでMnは要素を構成する節点の数であり、Nlは要素の形状関数、(xl,yl)は要素を構成する各節点の座標である。
【0057】
【数5】
【0058】
【数6】
【0059】
ここでεairは空気の誘電率であり、εtonerはトナーの誘電率である。このように、ある要素中にトナーのモデルが占める割合に基づいて要素の誘電率を正確に定義することができる。同様に、3角形要素や2次要素の場合も内部に規則正しい一定間隔の点を想定し、その点がトナー粒子に内含される割合から誘電率を定義することができる。トナー誘電率解析モジュールB120ではトナーが運動する材料の全要素について本処理を行うことで、トナーの誘電率を考慮した各要素の正確な誘電率分布を求めることができる。
【0060】
なお、上述では、トナーの誘電率が1種類だけの場合について説明したが、複数の種類ある場合にも容易に対応できることは明白である。
【0061】
次に、トナー電荷解析モジュールB130について説明する。本モジュールの処理では、電荷を有したトナーが存在する場合、その電荷はトナーの中心点から、その中心点近傍の節点に振り分ける処理を行う。図6を用いてトナーの電荷を節点に振り分ける例を具体的に説明する。図6において、それぞれメッシュ分割された要素70、要素を構成する節点80、トナーを示す円72が示されている。また、中心点81はトナーの中心点を示している。ここで、トナーに電荷量QTを有するものとする。トナーの中心点81を内含する要素に対して、その要素を構成する各節点80に本電荷を振り分ける。振り分け処理には数7を用いる。
Ql=NlQT (数7)
【0062】
ここでQlはl番目の節点に振り分ける電荷量であり、Nlはトナーの中心を内含する要素のl番目の節点の形状関数である。トナー電荷解析モジュールB130では、このような振り分けをすべてのトナーについて行い、対応する節点の電荷量をトナー電荷に更新する。
【0063】
次に、放電解析モジュールB160について説明する。なお有限要素法では節点で電位が定義されることから、上述の電位定義セグメントは節点ということになる。そこでここでは、上述の放電セグメントを「放電節点」とし、放電の解析対象となる放電検索セグメントを「放電検索節点」、放電セグメント対を「放電節点対」、トナーセグメントを「トナー節点」と呼ぶことにする。
【0064】
まず対向面間放電抽出モジュールB161を説明する。まず、オペレータは上記電荷面のうち、面間で放電の起こる可能性のある2つの面を転写プロセス装置のシミュレーションモデル上であらかじめ指定しておく。そして、シミュレーションの実行経過時間ごとにその電位分布に基づいてその2面間での放電の発生する可能性がある箇所を抽出する。
【0065】
図7を用いて放電発生箇所の抽出法を具体的に説明する。図7において、それぞれ、メッシュ分割して得られた要素70、太線で示したプロセス装置に帯電する電荷面90、91は、オペレータが指定した面間で放電の可能性がある面である。節点80はこれらの電荷面90,91上に存在するものであり、○印は電荷面90上の節点、△印は電荷面91上の節点を示している。図7に示すように、電荷面90上の92で示した節点iの電位φi(トナー誘電率解析モジュールB120より得られた誘電率およびトナー電荷解析モジュールB130より得られた電荷から数式2に基づいて得られた電位)に対して、電荷面91上の節点l(トナー誘電率解析モジュールB120より得られた誘電率およびトナー電荷解析モジュールB130より得られた電荷から数式2に基づいて得られた電位φl)との電位差φi−φlを算出する。その電位差φi−φlが数1で示した両節点間の距離(ギャップ長)から定まるパッシェン電圧Vpa(il)よりも大きいならば、両者間で放電が発生していると判定する。本操作を電荷面91のすべての節点80に対して調べて、最もパッシェン電圧を上回る節点lを、節点iとの間で放電が起こる節点、すなわち放電節点対としてその電位差RAM23に登録する。このような操作を電荷面90上の全節点に対して行うことにより、2つの面間での放電節点対をすべて抽出する。
【0066】
なお上述では、登録する放電節点対の位置関係に制約を設けない場合の処理を説明したが、2つの節点を結ぶ直線が電荷面90の法線方向に対して所定角度以内に含まれる電荷面91上の節点のみを電位差の算出の対象とする、という制約を設けてもよい。なぜなら、ギャップ中の電界が複雑になっている場合に発生する奇異な放電に対する処理を抑制でき、より実際に近い結果が得られることが本発明者の検討により判明しているからである。具体的には、発明者の検討によれば、上記角度が30°以内のものだけを採用することで、奇異な放電に対する処理を排除しながら有効な放電を抽出できることがわかっている。
【0067】
また、電荷面上にトナーが堆積しているシミュレーションを行う場合、そのトナーが堆積している部分では、上記の電荷面上の節点に代えて、トナーの最表層部分に位置する節点を放電検索節点とする。図8を用いてトナーを考慮した放電検索節点を抽出する一例を説明する。図8において、各符号は、要素70、プロセス装置のシミュレーションモデルの電荷面上の節点80、太線で示した電荷面90を示す。また三角印で示した節点80は電荷面上の節点、球状部72,73はトナーを示し、その×印81は、トナーの中心を示す。なおここでトナーは球と仮定して、図面中では円で表示する。次の手順で放電検索節点を抽出する。
(1)あらかじめ、電荷面上の節点はすべて放電検索節点として登録しておく。
(2)各電荷面に堆積したトナーのうち、表面に位置するトナーを抽出する。図8では抽出された表面のトナーを陰影付きの丸73、それ以外の内部トナーを白丸72で示している。
(3)各トナー表面の節点のうち、電荷面から最も離れた位置に最も近接した節点をトナー節点として抽出する。図の場合、星印で示された4つの節点100が抽出される。そして、抽出されたトナー節点を放電検索節点として追加する。
【0068】
そして、トナーに覆われた電荷面上の節点、すなわちハッチングした三角で示された電荷面上の節点は放電検索節点から除外する。結局図8の場合、ハッチングのかかっていない三角△と星☆で示した節点が電荷面上の放電検索節点ということになる。
【0069】
このようにして抽出した放電検索節点を基に、上述のように放電節点対を抽出する。
【0070】
次に尖頭部材間放電抽出モジュールB162による処理を説明する。上述したパッシェンの放電則は、平行電極のような平等電界中で成立するもので、不平等電界中においては適用できない。特に除電針などの尖頭形状をした電子写真機器によく使用される部材の放電は、コロナ放電を利用したものであり、同法則を使用できない。このようなパッシェンの放電則を適用できない部材のシミュレーションモデルに対しては、実験から得た放電開始電圧のギャップ長依存性曲線を用いて、放電節点対の抽出を行う。除電針の場合を例にして以下に説明する。
【0071】
図9は除電針部分の要素分割モデルの一例である。図9において、各符号はメッシュ分割して得られた要素70、除電針111、除電針の表面の電荷面90、除電針に対向する電荷面91は、2つの電荷面を構成する節点80であり、節点80のうち○印は除電針表面の節点、△印は対向面の節点を示す。
【0072】
なお、除電針111は完全導体とみなして内部の要素分割を行っていない。パッシェンの放電則による放電の場合と同様に、除電針の電荷面90とそれに対向する電荷面91上の節点を放電検索節点として、すなわち図中○と△で示した節点について、以下に示すとおり両電荷面間での放電を調べて放電節点対を抽出する。
【0073】
放電節点対を抽出する方法を説明する。図11は除電針の放電開始電圧の電荷面とのギャップ依存曲線であり、本曲線は実験結果をプロットしたものである。なお図中曲線は2本あるが、これは除電針の極性をプラスにした場合とマイナスにした場合の放電特性が異なることによるものである。すなわち、除電針と放電先との電位差から判断してこの2本を使い分けて使用することになる。そして、2つの放電検索節点の間の電位差が選択された曲線の電圧を上回る場合は、放電節点対としてRAM23に登録する。
【0074】
なお、除電針はその先端の尖った部分で放電を起こすと考えられることから、電荷面の形状から尖っている部分だけを指定して放電検索節点として考慮する。図9では、ハッチングのかかった丸印の節点112だけが放電検索節点の候補となる。これによってより迅速かつ正確な除電針放電の電界結果が得られる。
【0075】
以上の対向面間放電抽出モジュールB161、尖頭部材間放電抽出モジュールB162の説明では、1つの電荷面に対する放電の起こる可能性のある電荷面を1つの場合に限り説明した。また、実際には1つの電荷面に対して、複数の電荷面との間で放電が起こる可能性があることがよくある。しかしながら、上述の方法によれば、電荷面上の各節点と複数の電荷面の節点との間で放電の可能性をそれぞれ検索し、放電節点対を抽出することは容易に対応可能である。また、本願発明は、曲面間に関しても有効である。
【0076】
次に放電電荷量計算モジュールB163を説明する。このモジュールの処理の前提として、既に対向面間放電抽出モジュールB161と尖頭部材間放電抽出モジュールB162により、平行面間、及び尖頭部材間の放電を起こす節点対が抽出され、RAM23に登録されているものとする。ここでは本放電節点対の間で放電により移動する電荷の量を求める。
【0077】
図10は放電により移動する電荷の量を求める一例を説明する図である。図中70、80、90、91は図9と同じであるのでその説明を省略する。電荷面90上の節点131と電荷面91上の節点132が放電節点対をなしているものとし、それぞれの節点番号をi、jとする。本放電節点対で放電により移動する電荷量を以下のようにして算出する。
【0078】
(数8)は(数2)のポアソン方程式を有限要素法で離散化して得られる連立1次方程式であり、境界条件を代入して整理した後の式である。本方程式は全体節点第2方程式と呼ばれるものであり、mは電位が未知の節点数である。
【0079】
【数7】
【0080】
ここで放電前の電位ベクトルを{φ}、電荷ベクトルを{Q}とし、放電後のそれをそれぞれ{φ’}、{Q’}とする。図の放電節点対i、jについて、放電前の電荷量をQi、Qjとし、放電により節点iから節点jに電荷が△Qijだけ移動することで2節点間の電位差がαVthになるものとする。ここでVth(ij)は両節点間のギャップ長における放電開始電圧であり、対向面間放電抽出モジュールB161において抽出された節点対の場合はパッシェン電圧、尖頭部材間放電抽出モジュールB162で抽出された節点対の場合は、上述の実験結果から得られた放電開始電圧ということになる。αは放電後のパッシェン電圧に対する電位降下の割合を示す係数である。一般にαは1とする。
【0081】
放電後の節点i、jの電位φi’、φj’は(数3)の関係となる。電荷量Qi’、Qj’は(数4)で表すことがきる。(数3)、(数4)を(数8)に組み込むことで、数9の放電後の電界方程式を得る。
【0082】
【数8】
【0083】
なおここで、m+1行目の“・・・”は、すべて0である。
そして、右辺ベクトルの△Qijを左辺の行列に移行して(数10)を得る。
【0084】
【数9】
【0085】
ここで、m+1行目の“・・・”およびm+1列目の“・・・”は、すべて0である。また、数9および数10のKは数2の左辺に依存する係数である。
【0086】
左辺の行列は、(数8)の行列に対して、2つの放電節点番号の列が1と−1で、それ以外の元が0である行が1行追加されるとともに、それと対称な列が1列追加されたものである。本方程式を解くことにより放電後の電位分布{φ’}及び放電により移動する電荷量△Qijを求めることができる。
【0087】
ここでは、放電節点対が1組だけの場合について説明したが、放電節点対が多数ある場合は、本行列におけるm×mより外の行と列を、同様の方法で放電節点対の数だけ増やすことで、放電後の電位分布{φ’}及び放電により移動する電荷量{△Q}を算出することができる。すなわち各放電節点対に対して、その節点番号の行と列の値が1と−1であり、それ以外は0の行と列を、放電節点対の数だけ追加した行列を解けばよい。
【0088】
放電電荷量計算モジュールB163では、以上の方法により放電により移動する電荷量を求めた後、放電節点のうち、トナー節点以外の節点、すなわち電荷面上の節点に対して、数4から放電後の電荷量を求め、その値を更新する。
【0089】
なお数10における左辺の行列は、対称行列であるので、数10は一般的な有限要素法の場合と同様にスカイライン法、ICCG法等の方法で容易に解くことができる。
【0090】
上述した放電解析モジュールB160では、1つの節点に対する放電の相手先節点は1つとして説明した。しかしながら、パッシェン電圧(尖頭部材からの放電に関しては放電開始電圧)のセグメント対が複数存在した場合、それらを全て解析対象とすることにより、1つの節点から複数の節点に放電が起こるように簡単に変更できる。発明者の検討によれば、特に尖頭部材よりで放電が起こる際には、より実験結果の再現に近い放電結果を算出できることがわかっている。
【0091】
以上のように、放電発生の判定は、電荷面上の各節点に対して最も放電条件を満たす対向電荷面上の節点を検索することにより行う。これにより、ローラとローラ間の放電の場合のように、例え放電領域が広がったとしても、従来のような問題は発生しない。
【0092】
また2つの電荷面上の節点を使用することから、精度よく判定を行うことができる。また物体の表面の要素分割が粗くても精度の高い放電箇所の抽出を行えるようになる。また複雑な表面形状の物体にも対応できるようになる。また放電発生箇所は物体の表面形状によらず、両節点の距離と放電開始電圧の関係を使ってプログラムの内部で自動的に行うことから、モデルの形状に応じた指定は不要となり、オペレータからみたとき使い易いプログラムを提供できるようになる。
【0093】
また放電電荷量は(数3)、(数4)を満足する場を直接計算することから、精度の高い電位分布、及び放電電荷量を得ることが可能になる。また、いかなるモデルの材料分布の場合にも適用できるようになる。更に放電により移動する電荷量の算出のために必要なデータを別に与える必要がなくなり、オペレータからみて極めて使いやすいプログラムを提供できるようになる。
【0094】
また除電針等のパッシェンの放電則に沿わない部材の放電も取り扱うことが可能となり、実際の転写系をそのまま解析することで、実用度が増大する。
【0095】
ここで、トナー解析モジュールB164に関して説明する。本モジュールでは、放電電荷量計算モジュールB163で得られた放電電荷量のうち、放電が発生している節点がトナー節点であった場合に、そのトナー節点抽出の基となったトナーに対して、その電荷量を放電電荷量△Q分だけ加算して更新する。なおこのときトナー節点からトナー番号への対応表が必要となるが、これは、上述の対向面間放電抽出モジュールB161で容易に作成できるので準備しておけばよい。
【0096】
次にトナー挙動解析モジュールB170を説明する。トナーとしては、上記電界計算に使用した有限要素法の分割モデルと独立な、球状の物体を想定する。本手段では、トナーに働く静電気力、重力、付着力、空気抵抗力を考慮することにより、トナー位置を、計算刻み時間後の位置に更新する。
【0097】
時間tにおいてトナーが受ける静電気力Fe(t)は、数11で求まる。ここでQT(t)、E(t)はそれぞれ、時間tにおけるトナーの電荷量、トナー中心位置における電界強度である。
【0098】
【数10】
【0099】
トナーが受ける静電気力Fe(t)に重力、付着力、空気抵抗力等を加えた、トナーに働く力の総和をF(t)とする。時間tにおけるトナーの速度をv(t)とするとき、ニュートンの運動方程式から、計算刻み時間(dt)後のトナーの位置x(t+dt)は数12で求まる。なお数12においてv(t+dt)は計算刻み時間後の速度であり、mはトナーの重量である。
【0100】
【数11】
【0101】
数11、数12を用いてトナーの挙動を計算できるが、その具体的な手法としては、運動量保存則と跳ね返りの関係式を用いた剛体球モデルと呼ばれている方法と、個別要素法に代表される軟体球モデルと呼ばれている方法がある、ここではそのどちらを採用してもよい。
【0102】
トナー誘電率解析モジュールB120、トナー電荷解析モジュールB130、トナー電荷更新モジュールB164、トナー挙動解析モジュールB170により、トナーは、個々の持つ大きさ、誘電特性、電荷を考慮して、その挙動を正確に計算できるようになる。その結果、転写効率を評価したり、トナーの作る画像を直接評価したりできるようになるとともに、その画像を形成するに至った原因・過程を直接検討できるようになる。特に、転写画像に極めて深刻な影響を与えるトナーへの放電、更には放電を受けたトナーの帯電量の変化まで計算で求まるようになり、設計段階で画像を正確に予測できるようになる。
【0103】
図13は、転写装置を感光体の軸方向から見たときの模式図である。転写領域において、転写用紙273と感光体ドラム272が左から右に移動しているものとする。そして、トナー270は負に帯電しており、感光体ドラム272の基板を接地して、転写ローラの芯金50に正の電圧が印加される。このように、感光体ドラムと転写ローラとの間に電界が形成され、トナーは転写用紙に転写されることになる。
【0104】
図13に示す転写装置のモデルにおいて、本解析方法を用いて転写用紙を中間転写ベルトとした1次転写部分をシミュレーションした結果の一例を、図14〜図16を用いて説明する。
【0105】
図14は、それぞれ計算に用いた3種類の中間転写ベルト(ベルトA,B,Cと呼ぶ)の導電率の電界依存性、および図15は転写ローラの導電率の電界依存性を示すグラフである。なお、各軸の値は規格化して表示している。
【0106】
図16はベルトA,Cに対して、そのときの放電光の様子を3次元グラフ化したものであり、図17は上述の解析方法によって計算した結果で比較したものである。図16,17では、それぞれドラムと中間転写ベルト(ITBと呼ぶ)のニップ部分を中心にして、ITBの面内方向の位置と放電強度の関係をグラフ化している。なお、図17において、放電強度は規格化して示している。実験では、ニップに対して上流側において、ベルトCの場合にだけ放電が観測される。一方、下流側においては、いずれのベルトA,Cに対しても若干の放電が観測されている。これに対して、計算でも同様のことが再現されていることがわかる。
【0107】
また、図18,19は、図13の転写ローラ装置に対して実際に電圧を印加したときとシミュレーションしたときの電圧と電流との関係を示したものである。白色のプロットが実験結果、黒塗りのプロットが計算結果を示す。図18、図19はそれぞれトナーを転写しない場合、トナーを転写する場合の転写電圧と電流との関係を示し、A,B,Cの3種類の中間転写ベルトの結果を表示している。このように、両者とも計算はすべてのベルトに対して実験とよく一致していることがわかる。
【0108】
なお、図19において、600V付近から電流が立ち上がっているのは、トナー層に対して放電が発生することによるものである。本トナー層への放電に起因して、トナーの中にその電荷極性が反転するものがでてくる。すなわち転写前にトナーはすべて負に帯電しているが、ニップを通過する過程で正の帯電に変化するものがあらわれる。その結果、極性が反転したトナーは、転写されることなくドラム上に残ることになる。上図は、極性反転によってドラム上に残るトナーの割合が精度よく計算されていることを示すものであり、ひいては本実施の形態によるトナーへの放電が適切に計算されていることを示すものである。図20は、転写ローラ装置に対する印加電圧と転写効率との関係を示したものである。図20によると、放電が始まる印加電圧600V以上の場合には、転写効率が低下することが理解される。
【0109】
なお、図16〜19における条件の設定は表1のとおりである。
【0110】
【表1】
【0111】
一般に転写プロセスで放電はトナーの飛び散りに大きな影響を与えることから、放電を予測できるようになることは極めて重要である。
【0112】
(差分法による解析)
ここでは、電界計算に差分法を使用した例を説明する。なお差分法のセルで、各変数の定義している場所は図12に示すとおりとする。すなわち、電位φおよび電荷Qはセルの重心とし、導電率σおよび誘電率εはセル間の辺の中点と定義する。またここでは特に有限要素法と異なる点に絞って説明し、同じ部分は省略する。
【0113】
ここでは有限要素分割モデルと区別するために、差分メッシュのうち、有限要素法の要素に当たる部分をセルと呼ぶことにする。
【0114】
物体運動解析モジュールB180について説明する。電荷が蓄積される可能性のある装置のモデルの表面上のセルの集合を電荷面と呼ぶ。本処理では、有限要素法と同様に、電荷面を構成するセルの間で、シミュレーションにおける開始時刻からの所定時間経過ごとにその物体の移動する量だけ、真電荷、及び分極電荷を移動させる。
【0115】
トナー誘電率解析モジュールB120について説明する。ここではまず有限要素法と同様に、図6と数5、数6で示した方法により、各セルの誘電率を求める。そしてそれを基に各セルの境界における誘電率は、その両側のセルの誘電率の平均値を採用する。
【0116】
トナー電荷解析モジュールB130について説明する。トナーには、その中心位置に電荷があるものと想定し、その中心点に最寄りのセルに、その電荷を加算する。本処理をすべてのトナーについて行うことで、トナー電荷を考慮したセルでの電荷分布を求める。
【0117】
放電解析モジュールB160について説明する。なおここで説明する差分法ではセル中心で電位が定義されることから、上述の電位定義セグメントはセルということになる。そこでここでは、上述の放電セグメントを放電セル、抽出対象とする放電検索セグメントを放電検索セル、放電セグメント対を放電セル対、トナーセグメントをトナーセルと呼ぶ。
【0118】
まず対向面間放電抽出モジュールB161を説明する。上記電荷面のうち、面間で放電の起こる可能性のある2つの面をあらかじめ指定しておき、各シミュレーション時間ステップにその電位分布からその2面間での放電の発生箇所を抽出する。本処理は、セルを対象にしているため、有限要素法における節点と位置は違うものの、その解析処理は有限要素法の場合と同様である。すなわち、電荷面上の各セルに対して対向する電荷面上のセルとの電位の関係から、パッシェン電圧を上回る電圧を持つ放電セル対をすべて抽出し、RAM23に登録する。この場合の放電検索セルは2つの電荷面上のセルということになる。
【0119】
ここで、電荷面上にトナーが堆積している部分では、上記の電荷面上のセルに代えて、トナーの最表層部分に位置するセルを放電検索セルとして設定する。放電検索セルの抽出は次のとおりである。
(1)はじめに、電荷面上のセルはすべて放電検索セルとして登録する。
(2)各電荷面に堆積したトナーのうち、表面に位置するトナーを抽出する。
(3)トナーセルの抽出とトナー被覆電荷面セルの除外の処理を実行する。具体的には、各表面のトナーに対して、電荷面から最も離れた位置に近接した(セル中心を持つ)セルをトナーセルとして抽出する。抽出されたトナーセルを放電検索セルとして追加する。一方代わって、トナーに覆われた電荷面上のセルは放電検索セルから除外する。
【0120】
このようにして抽出した放電検索セルを基に、上述のように放電セル対を抽出する。
【0121】
また、尖頭部材間放電抽出モジュールB162の処理では、除電針と放電先とのギャップ長、及び電位差から判断して、2つの放電検索セルの間の電位差がオペレータが指定した放電開始曲線の電圧を上回る場合は、放電セル対として、RAM23に登録する。
【0122】
また、放電電荷量計算モジュールB163では、対向面間放電抽出モジュールB161と尖頭部材間放電抽出モジュールB162の処理によって、平行面間、及び尖頭部材間の放電を起こすセル対の間で放電により移動する電荷の量を求める。
【0123】
差分法ではデカルト座標系(xy座標系)で直交メッシュを生成し、数14、数15を用いて、それを一般座標系(ζη座標系)に座標変換する。そして本一般座標系にて数13のポアソン方程式を解き、電位分布を求めることができる。なおここで、ζ1=ζ、ζ2=η、gijは計量テンソル、√gは座標変換のヤコビアン、qは体積電荷密度、εは誘電率、φは電位を示す。
【0124】
【数12】
【0125】
【数13】
【0126】
【数14】
【0127】
数16は数13を全解析領域で成立する連立一次方程式として表示したものであり、mは電位が未知のセル数である。
【0128】
【数15】
【0129】
ここで放電前の電位ベクトルを{φ}、電荷ベクトルを{Q}とし、放電後のそれをそれぞれ{φ’}、{Q’}とする。そして放電セル対i、jについて、放電前の電荷量をQi、Qjとし、放電によりセルiからセルjに電荷が△Qijだけ移動することで2つのセル間の電位差がαVthになったとする。ここでVth(ij)は両セル間のギャップ長における放電開始電圧であり、対向面間放電抽出手段B161で抽出されたセル対の場合はパッシェン電圧、尖頭部材間放電抽出手段B162で抽出されたセル対の場合は、上述の実験結果から得られた放電開始電圧ということになる。αは放電後のパッシェン電圧に対する電位降下の割合を示す係数である。一般にαは1とする。
【0130】
放電後の節点i、jの電位φi’、φj’は数3の関係がある。電荷量Qi’、Qj’は数4で表すことがきる。数3、数4を数16に組み込むことで、数17の放電後の電界方程式を得る。
【0131】
【数16】
【0132】
なおここで、m+1行目の“・・・”はすべて0である。
【0133】
右辺ベクトルの△Qijを左辺の行列に移行して数18を得る。
【0134】
【数17】
【0135】
ここで、m+1行目の“・・・”およびm+1列目の“・・・”はすべて0である。また、数17および数18のMは数2の左辺に依存する係数である。
【0136】
左辺の行列は、数16の行列に対して、2つの放電セル番号の列が1と−1で、それ以外の元が0である行が1行追加されるとともに、それと対称な列が1列追加されたものである。放電セル対が多数ある場合は、本行列におけるm×mより外の行と列が放電セル対の数だけ増えることになる。本方程式を解くことにより放電後の電位{φ’}及び放電電荷量{△Q}が求まる。そして放電セルのうち、トナーセル以外のセル、すなわち電荷面上のセルに対しては、数4から放電後の電荷量を求め、その値を更新する。
【0137】
なお数18における左辺の行列は、対称な疎行列であるので、容易に高速に解くことが可能である。
【0138】
また、トナー電荷更新モジュールB164の処理では、放電電荷量計算モジュールB163で得られた放電電荷量のうち、放電が発生しているセルがトナーセルであった場合に、そのトナーセル抽出の基となったトナーに対して、その電荷量を放電電荷分だけ加算して更新する。なおこのときトナーセルからトナー番号への対応表が必要となるが、これは、上述の対向面間放電抽出モジュールB161の処理において予め作成しておく。
【0139】
次にトナー挙動解析モジュールB170については、(数11)においてトナー中心位置における電界強度の算出に上記差分法で得た電界結果を使用する以外は、有限要素法で説明した処理と同様である。従ってここではその説明を省略する。
【0140】
本実施の形態のように、電界計算に差分法を用いた方法によっても、図2のモジュール構成により、図3のフローチャートによって導体中を流れる電流、放電、トナーの挙動を考慮した転写解析を行うことができる。特に、本実施例は差分法を基にしていることから、有限要素法に比べて計算内容の物理的意味が分かり易く、計算も高速にできるという特長を持つ。
【0141】
なおここでは、図18のように、セルの中心に電位、電荷量を、セルの間の境界に誘電率、導電率を定義する差分法について説明したが、本定義の位置を変えた場合についても容易に適用可能である。
【0142】
また以上の実施の形態では、電界計算には有限要素法と差分法を用いた方法を説明したが、これまでの説明から明らかなように、本発明はこのような電界計算手法にはこだわらず、他の方法、例えば積分法によった場合についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】情報処理装置のブロック図。
【図2】情報処理装置において実行されるプログラムのモジュールの構成を示す図。
【図3】情報処理装置の解析処理フローチャートを示す図。
【図4】(a)実際の解析対象処理装置模式図の一例を示す図、(b)解析対象処理装置のシミュレーションモデルの一例を示す図。
【図5】トナーの誘電率を考慮した要素の誘電率を定義するための説明図。
【図6】各節点に対してトナーの電荷の振り分けを説明するための図。
【図7】2つの面間の放電を解析する方法を説明するための図。
【図8】放電を解析する際にトナーの堆積を考慮したときの説明図
【図9】除電針などの尖頭部材のモデルからの放電を解析する方法を説明するための図。
【図10】尖頭部材の放電開始電圧とギャップ長との関係の一例を示す図。
【図11】2つの面間の放電を解析する方法を説明するための図。
【図12】要素のパラメータの定義の一例を示す図。
【図13】転写装置の模式図。
【図14】転写ベルトA−Cの電界強度と導電率との関係を示す図。
【図15】転写ローラの電界強度と導電率との関係を示す図。
【図16】転写ローラの放電光の実験結果を示す図。
【図17】転写ローラの放電光の計算結果を示す図。
【図18】転写ローラのトナーが付着していない場合の放電量の計算および実験結果を示す図。
【図19】転写ローラのトナーが付着している場合の放電量の計算および実験結果を示す図。
【図20】転写ローラの印加電圧と転写効率との関係を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
シミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数1】
に対して、
放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数2】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法。
【請求項2】
請求項1の解析方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項3】
放電を解析する情報処理装置であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数3】
に対して、
放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数4】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}に関する情報を記憶する記憶手段とを有することを特徴とする解析方法。
【請求項4】
読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面のセルiと第2の面のセルjとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数5】
に対して、
放電後の前記セルiおよび前記セルjにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記セルiおよび前記セルjにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数6】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法。
【請求項5】
請求項4の解析方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
放電を解析する情報処理装置であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面のセルiと第2の面のセルjとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数7】
に対して、
放電後の前記セルiおよび前記セルjにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記セルiおよび前記セルjにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数8】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}に関する情報を記憶する記憶手段とを有することを特徴とする解析方法。
【請求項1】
読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
シミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数1】
に対して、
放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数2】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法。
【請求項2】
請求項1の解析方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項3】
放電を解析する情報処理装置であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面の点iと第2の面の点jとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数3】
に対して、
放電後の前記点iおよび前記点jにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記点iおよび前記点j間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記点iおよび前記点jにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数4】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}に関する情報を記憶する記憶手段とを有することを特徴とする解析方法。
【請求項4】
読み書き可能な記憶装置を有する情報処理装置において放電を解析する解析方法であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面のセルiと第2の面のセルjとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、前記情報処理装置の算出手段が、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数5】
に対して、
放電後の前記セルiおよび前記セルjにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記セルiおよび前記セルjにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数6】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出し、前記記憶装置に格納することを特徴とする解析方法。
【請求項5】
請求項4の解析方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
放電を解析する情報処理装置であって、
メッシュ分割されたシミュレーションモデルの第1の面のセルiと第2の面のセルjとにおいて放電のシミュレーションを実行する際、
電位φと電荷Qとの関係を示すポアソンの方程式を離散化して得られる式
【数7】
に対して、
放電後の前記セルiおよび前記セルjにおけるそれぞれの電位φi´,φj´と前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧Vth(ij)との関係を示す式
φi´−φj´=αVth(ij)
(αは前記セルiおよび前記セルj間の放電開始電圧に対する比を示す係数)
と、
前記セルiおよび前記セルjにおける放電前の電荷Qi,Qjおよび放電後の電荷Qi´,Qj´および移動電荷ΔQijとの関係を示す式
【数8】
とを組み込むことにより、
放電によって移動する移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された移動電荷ΔQijおよび放電後の電位分布{φ1´,…φi´,…φj´,…φm}に関する情報を記憶する記憶手段とを有することを特徴とする解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−20125(P2009−20125A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275664(P2008−275664)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【分割の表示】特願2004−161588(P2004−161588)の分割
【原出願日】平成16年5月31日(2004.5.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【分割の表示】特願2004−161588(P2004−161588)の分割
【原出願日】平成16年5月31日(2004.5.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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