説明

触媒、触媒担体及び触媒担体の製造方法

【課題】鋳物砂を利用しつつ、従来技術の触媒よりも高いガス浄化機能を発揮可能な触媒を提供する。また、鋳物砂を利用して触媒担体を形成できると共に、ガス拡散性を高めた触媒担体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】触媒担体は、鋳物砂を原料として形成した多孔質体の表面にアルミナ層を形成したものであり、多孔質体の孔に起因して内部でのガス拡散性が高められる。触媒担体を製造するには、鋳物砂に水を添加して混練した混練物を造粒して造粒物とした後、その造粒物を焼成して多孔質体を形成し、多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成する。触媒(実施例1,2)は、前記触媒担体に触媒物質を担持させたものであり、ガス浄化機能(除去率)が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば白金等の触媒物質を担持させるための触媒担体と、その触媒担体を製造する触媒担体の製造方法と、前記触媒担体に前記触媒物質を担持させてなるガス浄化用の触媒とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスを浄化するために使用されるガス浄化用触媒としては、アルミナからなる粒状の触媒担体に白金等の触媒物質を担持させたものが知られている(例えば特許文献1参照)。また近年、環境保全や資源の有効利用の観点から、従来は廃棄処分されていた各種副生物の再資源化や再利用が図られており、鋳物産業の分野でも、鋳造過程で発生する廃砂(廃鋳物砂又は鋳物廃砂)等の鋳物砂を他用途に転用する技術が種々提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭59−26335号公報
【特許文献2】特開平11−128968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来技術に係る触媒では、アルミナからなる粒状の触媒担体の表面積が大きいものの、触媒担体の細孔が微細すぎるため、触媒内部でのガス拡散性が悪く、ガス浄化機能を十分に発揮できないおそれがあった。また、鋳物産業分野では、廃棄処分場の不足や処分費用の高騰等の問題がますます深刻化しており、廃砂等の鋳物砂の用途範囲を広げることが強く望まれている。
【0004】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋳物砂を利用しつつ、従来技術に係る触媒よりも高いガス浄化機能を発揮することの可能な触媒を提供することにある。また、本発明の目的は、鋳物砂を利用して触媒担体(その基部である多孔質体)を形成することができると共に、内部でのガス拡散性を高めることの可能な触媒担体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、廃砂等の鋳物砂をガス浄化用の触媒分野に転用することに着目して鋭意研究を重ねた結果、該鋳物砂を原料として形成した多孔質体が触媒担体の基部としての使用に適していることを見出すと共に、該多孔質体の表面にアルミナ層を形成してなる触媒担体に対し触媒物質を担持させて触媒とすることにより該触媒が従来技術に係る触媒よりも優れたガス浄化機能を十分に発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、請求項1に記載の発明の触媒担体は、鋳物砂を原料として形成した多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成してなることをその要旨としている。
【0007】
請求項1に記載の発明の触媒担体によれば、多孔質体の表面にアルミナ層が形成された構造となっていることから、多孔質体の多数の孔に起因して触媒担体の内部でのガス拡散性が高められ、多孔質体の表面のアルミナ層では触媒物質を担持するための触媒担持層としての役割が十分に発揮されうる。また、請求項1に記載の発明の触媒担体では、その基部となる多孔質体が鋳物砂を原料として形成されているため、鋳物砂の利用が図れる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の触媒担体において、前記鋳物砂は、鋳物工場より排出される廃砂であることをその要旨としている。
【0009】
請求項2に記載の発明の触媒担体によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、鋳物工場より排出される廃砂を鋳物砂として用いているため、廃棄物として処分する必要のあった廃砂を有効利用することが可能となる。このように廃棄物である廃砂を有効利用することで、廃砂に係る廃棄物処分費用が必要なくなると共に、廃砂を触媒担体の基部として効率良く利用できるため、コストの低減が図れる。
【0010】
請求項3に記載の発明における触媒担体の製造方法は、鋳物砂に水を添加して混練した混練物を造粒して造粒物とした後、その造粒物を焼成して多孔質体を形成し、その多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成して触媒担体を製造することをその要旨としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の触媒担体を製造するのに適した触媒担体の製造方法である。上記請求項3に記載の発明によれば、鋳物砂に水を添加して混練した混練物を造粒して造粒物とした後、その造粒物を焼成して多孔質体を形成し、その多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成することで、上記請求項1,請求項2に記載の作用効果を奏する触媒担体が好適に得られる。また、触媒担体の基部となる多孔質体は造粒物を焼成(焼結)して形成された焼成体(焼結体)であるため、触媒担体の機械的強度は十分に発揮される。
【0012】
請求項4に記載の発明における触媒担体の製造方法は、90〜60質量%の鋳物砂と10〜40質量%の水とを混練して混練物を得る混練工程と、前記混練物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、前記造粒物を600〜1100℃の加熱温度で焼成することにより多孔質体を得る第1焼成工程と、前記多孔質体をアルミナ含有溶液中に浸漬する浸漬工程と、その浸漬された多孔質体を乾燥する乾燥工程と、その乾燥された多孔質体を300〜600℃の加熱温度で焼成することにより該多孔質体の表面にアルミナ層を形成する第2焼成工程とを備えることをその要旨としている。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の触媒担体を製造するのに適した触媒担体の製造方法である。上記請求項4に記載の発明によれば、請求項4に係る混練工程と、造粒工程と、第1焼成工程と、浸漬工程と、乾燥工程と、第2焼成工程とを順に実施することで、上記請求項1,請求項2に記載の作用効果を奏する触媒担体が好適に得られる。また、第1焼成工程において、触媒担体の基部となる多孔質体は造粒物を焼成(焼結)して形成された焼成体(焼結体)であるため、触媒担体の機械的強度は十分に発揮される。
【0014】
請求項5に記載の発明の触媒は、請求項1又は請求項2に記載の触媒担体に触媒物質を担持させてなることをその要旨としている。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1,請求項2に記載の触媒担体(特にアルミナ層)に触媒物質を担持させて触媒とすることで、該触媒は優れたガス浄化機能を十分に発揮することが可能となる。すなわち、本発明に係る触媒は、従来技術に係る触媒よりも高いガス浄化機能を発揮できるようになる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1,請求項2に記載の発明によれば、鋳物砂を利用して触媒担体(その基部である多孔質体)を形成することができると共に、触媒担体の内部でのガス拡散性を高めることができるようになる。また、請求項2に記載の発明によれば、廃棄物である廃砂を有効利用できるため、コストの低減を図ることができる。請求項3,請求項4に記載の発明によれば、鋳物砂を利用して触媒担体(その基部である多孔質体)を形成することができると共に、内部でのガス拡散性を高めることのできる触媒担体を好適に得ることができる。また、請求項3,請求項4に記載の発明によれば、触媒担体(特に多孔質体)がその機械的強度を十分に発揮することができる。請求項5に記載の発明によれば、鋳物砂を利用しつつ、従来技術に係る触媒よりも高いガス浄化機能を発揮できる(高い触媒内部でのガス拡散性を発揮できる)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る触媒担体としては、鋳物砂を原料として形成した多孔質体の表面に更にアルミナ層(ウォッシュコート)を形成したものを用いる必要がある。ここで、本発明に係る触媒担体としては、例えば、鋳物砂と水とを混練して混練物とした後、その混練物をペレット状に造粒して造粒物とすると共に、その造粒物を焼成してペレット状の多孔質体を形成し、その多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成したペレット状のものを用いることができる。このように、鋳物砂と水とを混練して混練物とした後、その混練物をペレット状に造粒して造粒物とすると共に、その造粒物を焼成してペレット状の多孔質体を形成し、その多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成する方法は、触媒担体の製造方法の一例となる。
【0018】
触媒担体の形状は、種々の用途に対応させるために適宜設定されるものであって、特に限定されるものではないが、ガス浄化用としてペレット状のものを用いることは好ましい。触媒担体の粒径も、種々の用途に対応させるために適宜設定されるものであって、特に限定されるものではないが、0.1〜30mmの大きさが望ましいと考えられる。また、触媒担体の粒径は、0.3〜25mm,0.5〜20mmであることがより好ましく、1〜15mm,1.5〜10mm,2〜8mm,3〜5mmであることが更に好ましい。
【0019】
鋳物砂としては、鋳物を作るのに使用する砂(新砂)をそのまま用いたり、鋳物工場から排出されて廃棄物として扱われる使用済みの鋳物砂(廃砂)を用いたりすることができる。この場合、鋳物砂として廃砂(廃鋳物砂又は鋳物廃砂)を用いることが好ましい。廃砂を用いることで、廃砂の有効利用を図ることができると共に、触媒担体及び触媒の製造コストの低減を図ることができる。廃砂としては、鋳物工場内の集塵装置によって回収された集塵ダストや、使用済みの鋳物砂型を開枠した際に生じる微粉砂等を例示できる。
【0020】
集塵ダストの成分としては、50〜85質量%のシリカ(二酸化ケイ素)、5〜30質量%のアルミナ(酸化アルミニウム)、2〜20質量%の酸化鉄、2〜10質量%の炭素、0.5〜5質量%のマグネシア(酸化マグネシウム)、0.3〜5質量%以下のカルシア(酸化カルシウム)、その他5.2質量%以下を例示できる。その他の成分としては、酸化マンガン、酸化ナトリウム、酸化カリウム、硫黄、リン、酸化チタン、クロム、亜鉛、ニッケル、銅、モリブデン、鉛、カドミウム、砒素、塩素等が挙げられる。また、集塵ダストの粒径としては、1〜250μmを例示できる。集塵ダストの粒径は、3〜200μmであることがより好ましく、7〜150μmであることがより一層好ましく、10〜110μmであることが更に好ましい。
【0021】
多孔質体を造粒物から形成するにあたり、造粒物の焼成時(焼結時)では造粒物が若干焼きしまるので、所望とする粒径の多孔質体の大きさよりも、造粒物の粒径が若干大きくなるように予め設定しておくことが好ましい。所定の粒径を有する造粒物を焼成(焼結)することで、ペレット状の多孔質体(焼成体又は焼結体)が形成される。この多孔質体は、1μmを最頻度孔径として0.01〜10μmの孔径を有している。なお、多孔質体は、鋳物砂由来の材料から形成された無機質多孔質体であり、造粒物の焼成時において造粒物中の炭素等の有機物が消失することで、多孔質体には、有機物の消失跡として無数の孔が形成される。また、この多孔質体は、微視的に見ると凹凸を有しており、機械的強度も十分に有している。多孔質体の凹凸により、多孔質体の表面においてアルミナ層を保持し易くできる。また、多孔質体の表面(凹凸)にアルミナ層を形成することで、多孔質体を基部とする触媒担体の表面積が飛躍的に増大する。このように触媒担体の表面積を飛躍的に増大させることは、触媒担体のガス浄化機能の向上に大きく貢献できる。
【0022】
アルミナ層(ウォッシュコート)を形成するアルミナとしては、γ−アルミナ、δ−アルミナ、η−アルミナ、χ−アルミナ、θ−アルミナ、κ−アルミナ、ρ−アルミナ、α−アルミナ、非晶質アルミナ(アモルファスアルミナ)等を用いることができる。また、アルミナとして、これらのうちの1種類をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。多孔質体の表面にアルミナ層を形成する場合には、多孔質体の表面全てにアルミナ層を形成してもよいし、多孔質体の表面の一部にのみアルミナ層を形成してもよいし、多孔質体の表面の一部を除く部分にアルミナ層を形成してもよい。更に、アルミナ層は、1層からなる単層であっても、2層以上からなる複層であってもよい。アルミナ層は、触媒物質を担持するのに貢献できる触媒担持層としての役割を担っている。特に、アルミナ層を形成するアルミナとして、γ−アルミナを用いることは好ましい。γ−アルミナは、0.01μmを中心として0.015μm以下の孔径(細孔)を有している。
【0023】
上述した触媒担体(特にアルミナ層)に触媒物質を担持させることで、本発明に係る触媒が得られる。特に、本発明に係るガス浄化用触媒を、ペレット状の触媒(ペレット触媒)として適用することは好ましい。なお、触媒は、触媒担体に単に触媒物質が担持されたものであるため、触媒の粒径は、触媒担体の粒径とほとんど変わらないと言える。触媒物質(触媒活性物質)としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀等の貴金属や、マンガン、鉄等の卑金属などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。触媒担体に触媒物質を担持させる場合には、1種類の触媒物質をそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上の触媒物質を併用するようにしてもよい。なお、白金やパラジウムは、各種ガスに対して活性が高い傾向にあるため、触媒物質として白金やパラジウムを用いることが好ましい。
【0024】
浄化するためのガスとしては、アセトアルデヒド、水素、一酸化炭素、メタノール、エチレン、シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、二硫化メチル、キシレン、アンモニア、トリメチルアミン、エタノール、トリエチルアミン、酢酸、ホルムアルデヒド、ベンゼン、スチレン、メチルイソブチルケトン、アクロレイン、ブチルアルコール、酢酸、酪酸、酢酸エチル、フェノール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、硫化水素等を例示できる。特に、本発明に係るガス浄化用触媒をアセトアルデヒドに適用することは好ましい。
【0025】
上述した触媒担体を製造する方法としては、90〜60質量%の鋳物砂と10〜40質量%の水とを混練して混練物を得る混練工程と、該混練物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、該造粒物を600〜1100℃の加熱温度で焼成することにより多孔質体を得る第1焼成工程と、該多孔質体をアルミナ含有溶液中に浸漬する浸漬工程と、その浸漬された多孔質体を乾燥する乾燥工程と、その乾燥された多孔質体を300〜600℃の加熱温度で焼成することにより該多孔質体の表面にアルミナ層を形成する第2焼成工程とを備える方法を例示できる。但し、本発明に係る触媒担体の製造方法は、この例示した製造方法に特に限定されるものではない。
【0026】
触媒担体の製造方法の混練工程において、85〜65質量%の鋳物砂と15〜35質量%の水とを混練することは好ましく、83〜70質量%の鋳物砂と17〜30質量%の水とを混練することはより好ましい。また、造粒工程において、混練物をペレット状の造粒物として造粒することは好ましい。更に、触媒担体の製造方法の第1焼成工程を、造粒物を例えば400〜500℃で8時間加熱して造粒物中の有機物を燃焼させた後(有機物燃焼工程後)に行うことが好ましい。触媒担体の製造方法の第1焼成工程において、造粒物を700〜1000℃、700〜950℃の加熱温度で焼成することは好ましく、造粒物を750〜900℃、750〜850℃の加熱温度で焼成することはより好ましい。第1焼成工程の加熱時間としては、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間などを例示できる。
【0027】
触媒担体の製造方法の浸漬工程において、多孔質体をアルミナ層でコーティングするためのコーティング液に相当するアルミナ含有溶液としては、シリカゾルのコロイド溶液中にアルミナ粒子を添加したものを用いることができるが、特にこのアルミナ含有溶液に限定されるものではない。また、触媒担体の製造方法の乾燥工程において、アルミナ含有溶液中に浸漬された多孔質体を100〜150℃の温度で加熱することにより当該多孔質体を乾燥することができる。触媒担体の製造方法の第2焼成工程において、乾燥した多孔質体を350〜550℃、400〜550℃の加熱温度で焼成することは好ましく、乾燥した多孔質体を425〜525℃、450〜525℃の加熱温度で焼成することはより好ましい。第2焼成工程の加熱時間としては、12時間、24時間、48時間などを例示できる。
【0028】
本発明に係る触媒の製造方法としては、上述した触媒担体の製造方法を用いて触媒担体を製造した製造工程後に、該触媒担体に触媒物質を担持させる触媒担持工程を更に備える製造方法を例示することができる。触媒担体(特にアルミナ層)に触媒物質を担持させる方法としては、触媒担体(特にアルミナ層)に対し触媒物質を含む溶液を噴霧した後に焼成することにより、触媒担体のアルミナ層に触媒物質を担持させる担持方法を例示できるが、特にこの担持方法に限定されるものではない。
【0029】
以下に、本発明を更に具体化した実施例1及び実施例2、並びに、従来技術に係る比較例について説明する。
【実施例1】
【0030】
まず、鋳物工場より排出された廃砂としての集塵ダスト80質量%に水20質量%を添加し、これらの集塵ダスト及び水を混練機を用いて混練することにより、集塵ダストと水とが混ざり合った混練物を得た。ここで、集塵ダストの成分は、シリカ68.3質量%、アルミナ13.4質量%、酸化鉄3.92質量%、炭素5.22質量%、マグネシア1.96質量%、カルシア1.2質量%、その他6.0質量%であった。
【0031】
そして、得られた混練物を攪拌羽根を備えた造粒容器中に投入し、該攪拌羽根をモータで回転させて約3〜5mmの粒径を有する複数の造粒物を造粒した。これらの造粒物を400〜500℃で8時間加熱して造粒物中の有機物を燃焼させた後、800℃で3時間焼成して粒径3〜5mmのペレット状の無機質多孔質体を形成した。この無機質多孔質体は、1μmを最頻度孔径として0.01〜10μmの孔径を有しており、見掛けの気孔率が約30%、圧壊強度が約123Nであった。
【0032】
次に、67質量%のシリカゾルのコロイド溶液中に33質量%のγ−アルミナ粒子(粒径10〜15μm)を添加して、コーティング液を調製した。調製したコーティング液3kgを容器に注入した後、このコーティング液をスタラーで攪拌した状態で当該コーティング液中に無機質多孔質体1kgを0.5時間浸漬させた。その後、コーティング液中から無機質多孔質体を取り出し、110℃で24時間加熱することで無機質多孔質体を乾燥した。
【0033】
無機質多孔質体の乾燥後、当該無機質多孔質体を更に500℃で2時間焼成して、無機質多孔質体の表面全てにγ−アルミナ層を形成することにより、無機質多孔質体の微小な凹凸を有する表面全体がγ−アルミナ粒子で被覆された状態(コーティングされた状態)の粒径3〜5mmの触媒担体を得た。なお、無機質多孔質体上のγ−アルミナ層は、0.01μmを中心として0.015μm以下の細孔を有しているため、γ−アルミナ層の細孔と無機質多孔質体の孔とは連通状態となっている。
【0034】
得られた触媒担体のγ−アルミナ層に対し、ヘキサアンミン白金(IV)塩化物水溶液を噴霧した後、500℃で2時間焼成して、触媒担体のγ−アルミナ層に触媒物質である白金及びその酸化物を担持させた。このように触媒担体のγ−アルミナ層に白金等を担持させることで、粒径3〜5mmのペレット状の触媒(ペレット触媒)を得た。なお、ペレット触媒1L当たりの白金(Pt)担持量は、2gであった。
【0035】
次に、得られたペレット触媒(実施例1)のガス浄化機能(アセトアルデヒド除去機能)を評価した。評価方法としては、触媒反応装置(触媒酸化装置)内に所定量のペレット触媒(実施例1)を配置すると共に、ペレット触媒入口よりも上流側から触媒反応装置内にアセトアルデヒドを流入し続け、アセトアルデヒドを流入してから10分後のペレット触媒(実施例1)のアセトアルデヒドの除去率(ペレット触媒出口よりも下流側でのアセトアルデヒド濃度)を測定する実験方法を用いた。この場合、SV値を5000(h-1)に設定すると共に、触媒入口温度(ペレット触媒の入口温度)を3点(210℃,310℃,410℃)変えてそれぞれ評価した。その評価結果を図1に示す。図1に示したように、実施例1のペレット触媒においては、触媒入口温度210℃でのアセトアルデヒドの除去率は80%であり、触媒入口温度310℃でのアセトアルデヒドの除去率は90%であり、触媒入口温度410℃でのアセトアルデヒドの除去率は95%であった。
【0036】
アセトアルデヒドがペレット触媒によって除去(浄化又は酸化分解)されるにあたり、アセトアルデヒドは、以下の化学反応式(1)及び(2)に記したような化学反応をする。すなわち、化学反応式(1)に記した化学反応がおこると、中間体として酢酸(CHCOOH)が生成され、生成された酢酸(CHCOOH)は更に化学反応式(2)に記した化学反応をおこそうとする。上述したペレット触媒(実施例1)のガス浄化機能(アセトアルデヒド除去機能)を評価する実験においては、ペレット触媒(実施例1)のアセトアルデヒドの除去率(ペレット触媒出口よりも下流側でのアセトアルデヒド濃度)を測定すると同時に、ペレット触媒出口よりも下流側での酢酸濃度(酢酸生成濃度)も触媒入口温度(ペレット触媒の入口温度)に応じてそれぞれ測定した。その測定結果を図2に示す。図2に示したように、実施例1のペレット触媒においては、触媒入口温度210℃での酢酸濃度は2.8ppmであり、触媒入口温度310℃での酢酸濃度は3.9ppmであり、触媒入口温度410℃での酢酸濃度は4.0ppmであった。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【実施例2】
【0039】
ここでは、実施例1と同様である部分についてはその説明を省略すると共に、実施例1との相違点を中心に説明する。実施例2のペレット触媒では、実施例1の場合と同様にして無機質多孔質体の表面全てにγ−アルミナ層を形成した後に、更に同様のコーティング処理を施することによりγ−アルミナ層を形成して触媒担体を得た。すなわち、実施例2の触媒担体では、無機質多孔質体上にγーアルミナ層が2層形成されており(又はγ−アルミナ層が実施例1の触媒担体よりも厚層に形成されており)、無機質多孔質体上にγ−アルミナ層が1層形成された(又は薄層に形成された)実施例1の触媒担体とは異なる。そして、得られた触媒担体のγ−アルミナ層に対し、実施例1と同様の触媒担持工程を施して粒径3〜5mmのペレット状の触媒(ペレット触媒)を得た。なお、ペレット触媒1L当たりの白金(Pt)担持量は、2gであった。
【0040】
次に、実施例2についても、実施例1と同様の条件にてペレット触媒(実施例2)のガス浄化機能(アセトアルデヒド除去機能)の評価を行うと共に、ペレット触媒出口よりも下流側での酢酸濃度(酢酸生成濃度)も触媒入口温度(ペレット触媒の入口温度)に応じてそれぞれ測定した。それらの評価結果や測定結果を図1及び図2に示す。図1に示したように、実施例2のペレット触媒においては、触媒入口温度210℃、310℃、410℃でのアセトアルデヒドの除去率は全て100%であった。また、図2に示したように、実施例2のペレット触媒においては、触媒入口温度210℃での酢酸濃度は0.5ppmであり、触媒入口温度310℃での酢酸濃度は0.6ppmであり、触媒入口温度410℃での酢酸濃度は0.5ppmであった。
(比較例)
【0041】
ここでも、実施例1と同様である部分についてはその説明を省略すると共に、実施例1との相違点を中心に説明する。比較例では、3〜5mmの粒径を有し、かつ、γ−アルミナからなる触媒担体を1kg準備した。そして、準備された触媒担体(γ−アルミナ担体)に対し、実施例1と同様の触媒担持工程を施して粒径3〜5mmのペレット状の触媒(ペレット触媒)を得た。なお、このペレット触媒(比較例)は、γ−アルミナ担体に白金等が担持されたものである。また、ペレット触媒1L当たりの白金(Pt)担持量は、2gであった。
【0042】
比較例についても、実施例1と同様の条件にてペレット触媒(比較例)のガス浄化機能(アセトアルデヒド除去機能)の評価を行うと共に、ペレット触媒出口よりも下流側での酢酸濃度(酢酸生成濃度)も触媒入口温度(ペレット触媒の入口温度)に応じてそれぞれ測定した。それらの評価結果や測定結果を図1及び図2に示す。図1に示したように、比較例のペレット触媒においては、触媒入口温度210℃でのアセトアルデヒドの除去率は63%であり、触媒入口温度310℃でのアセトアルデヒドの除去率は78%であり、触媒入口温度410℃でのアセトアルデヒドの除去率は84%であった。また、図2に示したように、比較例のペレット触媒においては、触媒入口温度210℃での酢酸濃度は6.1ppmであり、触媒入口温度310℃での酢酸濃度は8.2ppmであり、触媒入口温度410℃での酢酸濃度は9.8ppmであった。
(実施例と比較例との比較)
【0043】
図1の評価結果から、実施例と比較例とを比較した場合、実施例1及び実施例2の触媒の方が比較例の触媒よりもアセトアルデヒドの除去機能(浄化機能)に優れていることを確認できた。また、図2の測定結果や化学反応式(1)及び(2)から、実施例と比較例とを比較した場合、実施例1及び実施例2の触媒(酸化触媒)の方が比較例の触媒(酸化触媒)よりもアセトアルデヒドの酸化分解速度(反応速度)が速く、中間体として残存する酢酸の濃度も低いため、アセトアルデヒドの酸化分解能(除去機能又は浄化機能)が高いということも確認できた。更に、実施例1と実施例2との比較から、無機質多孔質体に対してγ−アルミナ層を1層形成した実施例1よりも2層形成した実施例2(又はγ−アルミナ層を厚層に形成した方)がアセトアルデヒドの除去機能(浄化機能)に優れていることがわかった。
【0044】
実施例の触媒の方が比較例の触媒よりもアセトアルデヒドのガス浄化機能に優れている理由としては、比較例では、そのγ−アルミナ担体(触媒担体)の細孔が小さすぎることに起因してγ−アルミナ担体の内部をガス浄化に有効利用できないのに対し、実施例では、その無機質多孔質体の孔が比較的大きいことに起因してγ−アルミナ層だけでなく孔(無機質多孔質体又は触媒担体の内部)もガス浄化に有効利用できるからであると推測される(比較例の触媒では、そのγ−アルミナ担体が微細な細孔しか有しないため、触媒内部でのガス拡散性が悪くなっているが、実施例の触媒では、その触媒担体の基部が比較的大きな孔を有する多孔質体となっているため、触媒内部でのガス拡散性が比較例の触媒よりも明らかに向上していると考えられる)。
(付記)
【0045】
他に、特許請求の範囲の各請求項に記載されないものであって、発明を実施するための最良の形態等から把握される技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0046】
(a)請求項4に記載の触媒担体の製造方法において、前記第1焼成工程は、前記造粒物中の有機物を燃焼した有機物燃焼工程の後に行うことを特徴とする触媒担体の製造方法。
【0047】
上記(a)によれば、請求項4に記載の発明の作用効果に加えて、有機物燃焼工程後に第1焼成工程を行うことで、炭素等の有機物が完全に消失した多孔質体をより確実に得ることができる。
【0048】
(b)鋳物砂に水を添加して混練した後、その混練物を造粒して造粒物とすると共に、その造粒物を焼成して多孔質体を形成し、その多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成してなることを特徴とする触媒担体。
【0049】
上記(b)によれば、多孔質体の表面にアルミナ層が形成された構造となっていることから、多孔質体の多数の孔に起因して触媒担体の内部でのガス拡散性が高めることができ、多孔質体の表面のアルミナ層では触媒物質を担持するための触媒担持層としての役割を十分に発揮することが可能となる。また、触媒担体の基部となる多孔質体は造粒物を焼成(焼結)して形成された焼成体(焼結体)であるため、触媒担体はその機械的強度を十分に発揮できる。更に、上記(b)の触媒担体では、混練物が鋳物砂及び水を用いて形成されているため、鋳物砂の利用を図ることができる。
【0050】
(c)鋳物砂に水を添加して混練した後、その混練物を造粒して造粒物とすると共に、その造粒物を焼成して多孔質体を形成し、その多孔質体の表面にアルミナ層を形成した後、そのアルミナ層上に更にアルミナ層を形成してなることを特徴とする触媒担体。
【0051】
上記(c)によれば、多孔質体の表面に2層のアルミナ層が形成された構造となっていることから、多孔質体の多数の孔に起因して触媒担体の内部でのガス拡散性を高めることができ、アルミナ層では触媒物質を担持するための触媒担持層としての役割を十分に発揮することが可能となる。また、上記(c)によれば、多孔質体の表面に1層のアルミナ層を形成した触媒担体(上記(b)に相当)と比較して、アルミナ層が1層余分にあることから、その分だけ触媒担体の表面積が増大するため、触媒担体のガス浄化機能を高めることが可能となる。更に、触媒担体の基部となる多孔質体は造粒物を焼成(焼結)して形成された焼成体(焼結体)であるため、触媒担体はその機械的強度を十分に発揮できる。加えて、上記(c)に記載の触媒担体では、混練物が鋳物砂及び水を用いて形成されているため、鋳物砂の利用を図ることができる。
【0052】
(d)90〜60質量%の鋳物砂と10〜40質量%の水とを混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、
前記造粒物を600〜1100℃の加熱温度で焼成することにより多孔質体を得る第1焼成工程と、
前記多孔質体をアルミナ含有溶液中に浸漬する第1浸漬工程と、
その浸漬された多孔質体を乾燥する第1乾燥工程と、
その乾燥された多孔質体を300〜600℃の加熱温度で焼成することにより該多孔質体の表面にアルミナ層を形成する第2焼成工程と、
その第2焼成工程後の表面にアルミナ層が形成された多孔質体をアルミナ含有溶液中に浸漬する第2浸漬工程と、
その第2浸漬工程後の表面にアルミナ層が形成された多孔質体を乾燥する第2乾燥工程と、
その第2乾燥工程後の表面にアルミナ層が形成された多孔質体を300〜600℃の加熱温度で焼成することにより該多孔質体表面のアルミナ層上に更にアルミナ層を形成する第3焼成工程と
を備えることを特徴とする触媒担体の製造方法。
【0053】
上記(d)は、上記(c)に記載の触媒担体を製造するのに適した触媒担体の製造方法である。上記(d)によれば、上記(d)に係る混練工程と、造粒工程と、第1焼成工程と、第1浸漬工程と、第1乾燥工程と、第2焼成工程と、第2浸漬工程と、第2乾燥工程と、第3焼成工程とを順に実施することで、上記(c)に記載の作用効果を奏する触媒担体を好適に得ることができる。
【0054】
(e)90〜60質量%の鋳物砂と10〜40質量%の水とを混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、
前記造粒物を600〜1100℃の加熱温度で焼成することにより多孔質体を得る第1焼成工程と、
前記多孔質体をアルミナ含有溶液中に浸漬する浸漬工程と、
その浸漬された多孔質体を乾燥する乾燥工程と、
その乾燥された多孔質体を300〜600℃の加熱温度で焼成することにより該多孔質体の表面にアルミナ層を形成して触媒担体を得る第2焼成工程と、
前記触媒担体のアルミナ層に触媒物質を担持させる触媒担持工程と
を備えることを特徴とする触媒の製造方法。
【0055】
上記(e)は、請求項5に記載の触媒を製造するのに適した触媒の製造方法である。上記(e)によれば、上記(e)に係る混練工程と、造粒工程と、第1焼成工程と、浸漬工程と、乾燥工程と、第2焼成工程と、触媒担持工程とを順に実施することで、上記請求項5に記載の作用効果を奏する触媒を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例及び比較例の触媒のガス浄化性能を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例の触媒出口よりも下流側の酢酸濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物砂を原料として形成した多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成してなることを特徴とする触媒担体。
【請求項2】
前記鋳物砂は、鋳物工場より排出される廃砂であることを特徴とする請求項1に記載の触媒担体。
【請求項3】
鋳物砂に水を添加して混練した混練物を造粒して造粒物とした後、その造粒物を焼成して多孔質体を形成し、その多孔質体の表面に更にアルミナ層を形成して触媒担体を製造することを特徴とする触媒担体の製造方法。
【請求項4】
90〜60質量%の鋳物砂と10〜40質量%の水とを混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を造粒して造粒物を得る造粒工程と、
前記造粒物を600〜1100℃の加熱温度で焼成することにより多孔質体を得る第1焼成工程と、
前記多孔質体をアルミナ含有溶液中に浸漬する浸漬工程と、
その浸漬された多孔質体を乾燥する乾燥工程と、
その乾燥された多孔質体を300〜600℃の加熱温度で焼成することにより該多孔質体の表面にアルミナ層を形成する第2焼成工程と
を備えることを特徴とする触媒担体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の触媒担体に触媒物質を担持させてなることを特徴とする触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−212527(P2006−212527A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27176(P2005−27176)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】