説明

触媒とその製造方法およびそれを用いた乗り物

【課題】従来、触媒効率を向上させたり、使用量を低減するため、担持体の表面に触媒金属微粒子を塗布したり、担持体に触媒金属微粒子を混入する方法が用いられているが、担持体の表面に触媒金属微粒子を塗布する方法では、触媒金属微粒子が小さくなると、互いの微粒子が重なってしまい利用効率が悪くなる。また、担持体に触媒微粒子を混入する方法では、触媒表面積が小さくなり利用効率が悪いという課題があった。
【解決手段】担持体の表面に触媒金属微粒子(触媒作用を持つ金属の微粒子)を単層で固定した触媒を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒金属微粒子(触媒作用を持つ金属の微粒子)を担持体表面に固定した触媒とその製造方法、およびそれを用いた乗り物に関するものである。
【0002】
本発明において、触媒金属微粒子には、PtやPd,Ro,Ru,V等の触媒作用を有する貴金属微粒子がある。
【背景技術】
【0003】
従来、触媒効率を向上させたり、使用量を低減するため、担持体の表面に触媒金属微粒子を塗布したり、担持体に触媒金属微粒子を混入する方法が用いられている。
例えば、ナノスケールサイズの触媒金属微粒子を微小な任意の領域に任意の形状で担持体の表面に分散固定する技術、あるいは表面が樹脂からなる基体と、基体上に備わり、不飽和結合部を有するシランモノマーと触媒微粒子とを含む触媒微粒子層とを有し、触媒微粒子層が、シランモノマーの不飽和結合部と基体との化学結合により、基体に固定する技術に関する下記の特許文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−80084号公報
【特許文献2】特開2008−161838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、担持体に触媒金属微粒子を分散表面固定する方法では、露出する触媒の割合が少なくなり利用効率が悪いという課題があった。
また、シランモノマーを用いる方法では、表面に水酸基を有しない貴金属の微粒子を固定できないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題に鑑み、担持体の表面と反応性する官能基と触媒金属微粒子表面と反応する官能基を合わせ持つ物質を用いて、
(1)触媒金属微粒子表面に担持体の表面と反応性する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、担持体と前記触媒金属微粒子を接触させ
(2)触媒金属微粒子表面の前記単分子膜を介して担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程と、
【0007】
あるいは、担持体の表面と反応性する官能基と触媒作用を持つ金属微粒子表面と反応する官能基を含む物質を用いて、
(1)担持体表面に触媒金属微粒子表面と反応する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、触媒金属微粒子と前記担持体を接触させ
(2)担持体表面の前記単分子膜を介して担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程とを用いて、担持体の表面に触媒金属微粒子が単層で層状に固定されていることを特徴とする触媒を提供する。さらに、それらをエンジン等の排ガスの浄化に用いる乗り物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したとおり、本発明によれば、担持体の表面に触媒金属微粒子が層状に固定されているので、触媒利用効率を最大限に改善できる効果がある。また、それを用いた排ガス処理装置を備えた乗り物を低コストで提供できる格別の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、触媒金属微粒子表面に直接担持体の表面と反応性する官能基を有する単分子膜を形成する工程を概念的に説明するために、分子レベルまで拡大した図である。(実施例1)
【図2】図2は、担持体表面に担持体の表面と反応性する官能基を有する単分子膜を形成した触媒金属微粒子を固定する工程を概念的に説明するために、分子レベルまで拡大した図である。(実施例1)
【図3】図3は、担持体表面に触媒金属微粒子表面と反応する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、前記単分子膜を介して触媒金属微粒子固定する工程を概念的に説明するために、分子レベルまで拡大した図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、担持体の表面と反応性する官能基と触媒金属微粒子表面と反応する官能基を持つ物質を用いて、
(1)触媒金属微粒子表面に担持体の表面と反応性する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、担持体と前記触媒金属微粒子を接触させ、
(2)触媒金属微粒子表面の前記単分子膜を介して担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程とにより、担持体の表面に触媒金属微粒子が単層で層状に固定されている触媒を提供する。
【0011】
あるいは、担持体の表面と反応性する官能基と触媒作用を持つ金属微粒子表面と反応する官能基を含む物質を用いて、
(1)担持体表面に触媒金属微粒子表面と反応する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、触媒金属微粒子と前記担持体を接触させ、
(2)担持体表面の前記単分子膜を介して担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程とにより、担持体の表面に触媒金属微粒子が単層層状に固定されている触媒を提供する。
【0012】
したがって、本発明では、触媒金属微粒子の固定にバインダー樹脂を全く含まないので、極微量で最大限の触媒作用を発揮できる作用がある。
【0013】
以下、本願発明の実施例を詳細に説明するが、本願発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0014】
なお、本発明において、触媒金属微粒子には、PtやPd,Ro,Ru,V等の触媒作用を有する貴金属微粒子が含まれる。
以下、代表例として触媒作用を有する貴金属微粒子である白金微粒子1を取り上げて説明する。
【実施例1】
【0015】
まず、100nm程度の大きさの白金微粒子1(白金以外には、Pd,Ro,Ru,V等の触媒作用を有する貴金属微粒子が利用できた。)を用意し、よく乾燥した。(図1(a))
次に、化学吸着剤として一端にチオール基、他端に反応性官能基を有する薬剤、例えば、下記化学式(化1)で示す薬剤を1重量%(好ましくい化学吸着剤の濃度は、0.5〜3重量%程度)となるように秤量し、エタノールに溶かして化学吸着液を調製した。
【0016】
【化1】

【0017】
この吸着液に100nmの白金微粒子1を混入撹拌して普通の空気中で(相対湿度45%)で2時間程度反応させた。このとき、白金微粒子表面は前記薬剤のチオール基と直接チオレート結合2するので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基を表面にした反応性の単分子膜3で被覆された。
【0018】
その後、エタノール中に入れて撹拌洗浄すると、下記化学式(化2)で示す単分子膜状の被膜が、白金の微粒子を被うように形成された。
【0019】
【化2】

【0020】
なお、この処理では、被膜がナノメートルレベル以下の膜厚で極めて薄いため、粒子形状を損なうことはなかった。また、この被膜は膜厚が1nm以下であるため、そのまま残しておいても気体は自由に通過することができ、下地微粒子の触媒作用が損なわれることは全くなかった。
また、洗浄せずに空気中に取り出すと、反応性はほぼ変わらないが、溶媒が蒸発し白金粒子表面に残った化学吸着剤が粒子表面で空気中の水分と一部反応して、粒子表面に前記化学吸着剤よりなる極薄のポリマー膜が形成された微粒子が得られた。(図1(b))
この場合は、膜厚が数十nm程度となるため、そのままでは下地微粒子の触媒作用を発揮できないが、耐熱性を上げるため、融着、あるいは焼成する場合には、分解除去できるので触媒作用に問題はなかった。
【0021】
次に、この微粒子を再びエタノール中に分散し、その溶液中にガラスファイバー4を入れて反応させた。
このとき、ガラスファイバー4の表面には水酸基5が多数結合している(図2(a))ので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基がシラノール縮合触媒、あるいは有機酸存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応する。その後、再びエタノールでガラスファイバー4洗浄すると、白金微粒子とガラスファイバーは、下記化学式(化3)に示したような結合を介して、互いに結合固定され、ガラスファイバーの表面が単層状の白金微粒子で被覆された触媒を製造できた。(図2(b))。
【0022】
【化3】

【0023】
なお、この状態では、白金微粒子膜は有機単分子膜を介して固定されているため、耐熱性は300℃程度である。
そこで、より高温の耐熱性を必要とする場合には、500℃〜ガラスファイバーの軟化温度以下で加熱すると、前記有機被膜は酸化あるいは分解除去されてガラスファイバーの表面に融着乃至焼結した単層状の白金微粒子膜を形成できた。
【0024】
また、使用薬剤については、上記以外では、下記化学式(化4)で表される物質が使用できた。
【0025】
【化4】


なお、化学式(化4)において、Tは、SH基、または、トリアジンチオール(下記化学式5)基、トリアゾールチオール(下記化学式6)基を表す。また、nは0〜16の整数である。
【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
さらにまた、担持体は、ファイバー状、またはハニカム状、ポーラス状、粒状のシリカ、アルミナ、セラミックス、あるいはガラス等の無機物、または有機物であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【実施例2】
【0029】
実施例1と同様に調整した吸着液に、先ず、化学吸着液にガラスファイバー11を2時間程度浸漬する。すると、ガラスファイバー11の表面には水酸基が多数結合しているので、前記化学吸着剤の−Si(OCH)基と前記水酸基がシラノール縮合触媒、あるいは有機酸存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応する。その後、再びエタノールで洗浄すると、ガラスファイバーは、下記化学式(化7)に示したような結合を介して、表面にチオール基が並んだ単分子膜12で被覆される。(図3(a))。
【0030】
【化7】

【0031】
次に、前記単分子膜12で被覆されたガラスファイバー11を白金微粒子を分散したアルコール液に2時間程度浸漬すると、白金微粒子13はガラスファイバー11の表面のチオール基と直接チオレート結合する。
そこで、再びエタノールで洗浄すると、過剰の白金微粒子は洗浄除去できて、微粒子が単層状に並んだ白金触媒微粒子膜14をガラスファイバー11表面に結合固定できた。
【0032】
なお、この場合でも、実施例1と同様に、この状態では耐熱性が300℃程度である。そこで、より高温の耐熱性を必要とする場合には、500℃〜ガラスファイバーの軟化温度以下で加熱すると、前記有機被膜は酸化あるいは分解除去されてガラスファイバーの表面に融着乃至焼結した単層状の白金微粒子膜を形成できた。
【実施例3】
【0033】
実施例1または2で得た触媒微粒子を固定したガラスファイバーを自動車のマフラーに充填し、排気ガス触媒として使用した。触媒性能は、ほとんど変わらないが、同じ性能でも白金使用量を半分以下に節約できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
上記2つの実施例では、白金微粒子を例として説明したが、本発明は、チオレート結合を形成する触媒金属であれば、どのような微粒子にでも適用可能である。
【0035】
具体的な「金属微粒子」材料には、Pt以外にも、Pd,Ro,Ru,V等の触媒作用を有する貴金属微粒子がある。
また、用途は、乗り物に限定されることはなく、排ガスを発生するボイラー等、触媒を必要とする装置なら全て利用可能なことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 白金微粒子
2 チオレート結合
3 反応性の単分子膜
4 ガラスファイバー
5 水酸基
単分子膜で被われた単層状の白金微粒子
11 ガラス基板
12 表面にチオール基が並んだ単分子膜
13 白金微粒子
14 単層状に並んだ白金触媒微粒子膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持体の表面に触媒金属微粒子(触媒作用を持つ金属の微粒子)が単層で固定されていることを特徴とする触媒。
【請求項2】
触媒金属微粒子がPt、Pd,Ro,Ru,またはVであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
担持体がファイバー状、またはハニカム状、ポーラス状、粒状の無機物または有機物であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
担持体が無機物であり、触媒金属微粒子が前記担持体の表面に融着あるいは焼結固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
無機物が、シリカ、アルミナ、セラミックス、あるいはガラスであることを特徴とする請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
少なくとも担持体の表面と反応性する官能基と触媒金属微粒子表面と反応する官能基を持つ物質を用いて、
(1)触媒金属微粒子表面に担持体の表面と反応性する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、担持体と前記触媒金属微粒子を接触させ
(2)触媒金属微粒子表面の前記単分子膜を介して担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程とを含むことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項7】
少なくとも担持体の表面と反応性する官能基と触媒作用を持つ金属微粒子表面と反応する官能基を含む物質を用いて、
(1)担持体表面に触媒金属微粒子表面と反応する官能基を有する単分子膜を形成する工程と、触媒金属微粒子と前記担持体を接触させ
(2)担持体表面の前記単分子膜を介して担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程とを含むことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項8】
触媒金属微粒子表面の単分子膜の形成に、チオール基と触媒金属微粒子とのチオレート結合反応を用いることを特徴とする請求項6記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
担持体表面の単分子膜の形成に、アルコキシシリル基の脱アルコール反応を用いることを特徴とする請求項7記載の触媒の製造方法。

【請求項10】
請求項6乃至9の触媒の製造方法において、担持体の表面に触媒金属微粒子を固定する工程の後、加熱して触媒金属微粒子を融着または焼結する工程を含むことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項6乃至10の触媒の製造方法において、担持体と反応性する官能基と前記触媒金属微粒子と反応する官能基を持つ単分子膜形成用の物質として、一端にチオール基またはチオール含有基と他端にアルコキシシリルを含む物質を用いることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
担持体が、シリカ、アルミナ、セラミックス、あるいはガラスであることを特徴とする請求項6〜11のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至5の触媒が排気管末端あるいは途中に設置されている乗り物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−92848(P2011−92848A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248454(P2009−248454)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(503002662)
【Fターム(参考)】