説明

触媒の製造方法及び触媒を担持する電極を有する燃料電池、並びに燃料電池を有する装置

【課題】温焼成工程での粒子の凝集及び強酸性下における金属原子の溶出を抑制できる触媒及び燃料電池の製造方法、並びに燃料電池を提供すること。
【解決手段】触媒の製造方法は、金属原子(例えば、Pt、Ru)からなる触媒前駆体粒子を被覆する無機酸化物による被覆層を形成する第1工程と、被覆層が形成された触媒前駆体粒子を焼成処理する第2工程と、被覆層を除去する第3工程とを有する。第1工程は、(a)疎水性基を有する表面修飾剤を化学的又は物理的に触媒前駆体粒子に結合させ表面修飾する工程と、(b)界面活性剤の疎水性基と表面修飾剤の疎水性基によって疎水性層を形成する工程と、(c)無機酸化物によって疎水性層を被覆し被覆層を形成する工程とを含む。例えば、Pt、Ruは合金化される。無機酸化物は高融点を有し酸に溶解する、例えば、二酸化珪素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒に関し、特に、触媒の製造方法及び触媒を担持する電極を有する燃料電池、並びに燃料電池を有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する認識の高まりと共に、有害物質や地球温暖化ガス等を放出せず、化学エネルギーから直接電気エネルギーを取り出すことができ、高い発電効率が期待できる燃料電池の研究開発は積極的に行われている。
【0003】
例えば、直接メタノール型燃料電池(DMFC)では、水素を燃料として使用せず、メタノールを燃料として直接供給するので、液化天然ガス、都市ガス、LPGを改質、変換して、水素を得るための改質装置を必要としない。DMFCはその変換効率が理論上97%であり、低温運転に適していることから、携帯電話等を含む様々なモバイル製品に搭載する二次電池の代替電源としての期待が高い。また、DMFCは、大規模発電、自家発電、車載用電源等のエネルギーデバイスとしての実用化が注目を浴びている。
【0004】
DMFC用のメタノール酸化触媒として主に白金(Pt)が使用されているが、電池の運転中に生成する一酸化炭素(CO)により、Pt表面が被毒され、触媒活性が著しく低下する問題点がある。この被毒を解消するために、Ptとルテニウム(Ru)等の遷移金属との合金からなる触媒が使用されている。Ru等の遷移金属の表面に吸着した酸素種がPtに吸着した一酸化炭素と効果的に反応するため、一酸化炭素の被毒が起こりにくく、触媒活性の低下を抑えることができる。
【0005】
DMFCを長期間運転した場合、触媒粒子の凝集(シンタリング、半融=溶融結合)による粒成長や、触媒粒子を構成する金属成分の溶出が生じ、触媒活性が劣化し、電池の特性の長期間安定性の阻害要因となることが知られている。
【0006】
例えば、CO被毒に耐久性のあるRuとPtからなる合金粒子を燃料極(アノード)触媒として使用する場合、合金粒子からのPtやRuの溶出、凝集による粒成長により、耐CO被毒性が低下するため触媒への吸着COが増加し、触媒活性を阻害してしまう。また、Pt粒子を空気極(カソード)触媒として使用する場合、Pt粒子が凝集し粒成長しその有効面積が低下し触媒活性が低下する原因となる。
【0007】
DMFCで使用する触媒における、触媒粒子の凝集、金属成分の溶出による触媒活性の低下の問題を解決するための方法として、多数の報告がなされている。
【0008】
例えば、「燃料電池用合金触媒の製造方法」と題する後記の特許文献1には、「白金触媒に第2、第3の金属塩を加えたのち、熱処理して合金化させた白金合金触媒を、酸処理して白金と合金化していない第2、第3の金属を溶解抽出したのち、洗浄、不活性ガス中で加熱乾燥する白金合金触媒の製造方法」の記載がある。
【0009】
また、「触媒ナノ粒子」と題する後記の特許文献2には、「白金族金属を含有するナノ粒子の表面に、無機酸化物からなる多孔性物質を有している表面修飾化金属ナノ粒子」の記載、及び、「表面修飾化ナノ粒子、及び前記ナノ粒子を用いたPEFC電極用触媒を用いることにより、担持体カーボン上で移動した触媒粒子同士の凝集/融着を抑制し、長時間使用後も触媒活性が低下しないPEFC電極を作製することができる。」という記載がある。
【0010】
また、「電極触媒の製造方法」と題する後記の特許文献3には、次の記載がある。
【0011】
合金粒子を担体表面に吸着させた後、加熱処理することが好ましい(図1・工程5)。これにより、合金粒子上に残存する逆ミセル成分を完全に分解除去することができる。この残存する逆ミセル成分には、例えばアルキル基等の疎水基等が含まれる。
【0012】
加熱処理はアルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス下にて行うことが好ましい。加熱処理の温度は、合金を形成する金属の種類、原料となる金属塩又は金属錯体や試薬の種類によって異なるが、逆ミセル成分が分解される温度であって分解反応の進行が遅すぎず、且つ合金粒子の凝集が起こる温度より低い範囲とすることが好ましい。例えば、100℃〜400℃程度、更には180℃〜250℃程度であることが好ましい。また、加熱処理時間は、合金粒子の凝集が起こらない範囲とすることが好ましい。例えば、上述した白金鉄合金粒子の場合は、180℃〜230℃程度の温度にて3〜5時間程度加熱処理を行うことが好ましい。
【0013】
また、「電極触媒層及びその製造方法」と題する後記の特許文献4には、「導電性担体、前記導電性担体に担持されてなる、白金を含有する触媒活物質、及びプロトン伝導性高分子を含む固体高分子型燃料電池用電極触媒層であって、白金イオンを捕捉しうる白金イオン捕捉剤を更に含み、電極触媒層中に、白金イオンを捕捉しうる物質を添加することによって、電極触媒層からの白金の流出を防止し、触媒活性の低下を抑制する固体高分子型燃料電池用電極触媒層」の記載がある。
【0014】
また、「寿命が向上した電極触媒及びこれを利用した燃料電池」と題する後記の特許文献5には、次の記載がある。
【0015】
特許文献5の発明は、(a)担体と、(b)上記担体に担持され、触媒活性を有する金属、又は上記金属含有合金からなる触媒粒子、及び(c)上記触媒粒子同士の隙間及び担体と触媒粒子との接触部位からなる群から選択された少なくとも1つの領域上に分散され、上記触媒より高い粗大化温度を有する粗大化抑制化合物と、を含む電極触媒及びその製造方法、上記電極触媒を含む膜電極接合体(MEA)及び上記膜電極接合体を備える燃料電池、好ましくは、水素イオン交換膜燃料電池(PEMFC)を提供する。
【0016】
特許文献5の発明では、燃料電池に使われる電極触媒(例えば、白金担持カーボン)上に上記触媒活性成分より粗大化温度の高い化合物(粗大化抑制化合物)を分散させるが、触媒粒子の粗大化を抑制することができる特定の位置、即ち、触媒粒子同士の隙間、担体と触媒粒子との接触部位上に適切に分散させコーティングすることを特徴とする(図1参照)。このとき、粗大化温度は、結晶粒の成長が発生する温度のことを意味する。
【0017】
更に、“Preparation and characterization of carbon supported Pt and RtRu alloy catalysts reduced by alcohol for polymer electrolyte fuel cell” と題する後記の非特許文献1の記載では、PtRuの合金を一般的な化学還元法を用いて合成した場合、PtとRuの合金化が完全には達成されず、高温焼成することで合金化が進み、メタノール酸化活性を向上させることができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
DMFCに使用されるPtRu触媒ナノ粒子の大きな問題点の1つに強酸性条件下におけるRuの溶出の問題がある。この問題は、触媒の高温焼成を行いPtとRuの合金化を高めることで回避できる可能性がある。しかし、一般的に利用されるPtRu触媒ナノ粒子は350℃以上で焼成すると、粒子の凝集によって表面積が下がり、触媒活性が低下し電池の特性が低下してしまう。
【0019】
DMFCで使用される触媒における、触媒粒子の凝集による粒成長、触媒粒子を構成する金属成分の溶出による触媒活性の低下の問題を解決するための方法として、先述したように、多数の報告がなされている。しかし、これらの報告には次に説明するような問題がある。
【0020】
特許文献1に記載の方法では、遷移元素を最適な比で合金化を行うことが難しく、より遷移金属を高比率で合金化したい場合、高温での焼成が必要となり、触媒粒子の凝集を避けることができない。触媒粒子は、その活性表面積の増大と共により優れた触媒性能を示すために、主として数nmのナノ粒子のものが使用されるが、これら触媒粒子は、電池の運転と共に電気化学的反応が進行するにつれて、その構造が不安定になり、結果として、溶解、拡散、再結晶化により粗大化現象が生じるようになる。このような触媒粒子の粗大化(粒成長)によって触媒粒子の反応表面積が減少するため、燃料電池の性能低下が起こる。
【0021】
また、特許文献4に記載の方法を用いると、白金イオン捕捉剤が白金イオンを捕捉することより有機白金錯体を形成し、反応活性点をふさいでしまい、触媒活性を最大限に活かせない恐れがある。
【0022】
また、特許文献2、特許文献4、特許文献5に記載の方法では、触媒粒子の担体として用いられるカーボンと比較して電子伝導性の劣る化合物が触媒粒子の表面上に存在するために、担体と触媒粒子からなる電極の電気抵抗が増大し、触媒活性を最大限に活かせない恐れがある。
【0023】
更に、非特許文献1に記載の方法では高温で焼成した際に、ナノ粒子の熱運動により触媒粒子同士が凝集してしまい、触媒粒子の増大による活性表面積の低下は避けることができない。
【0024】
以上説明したような問題があるため、燃料電池用の触媒粒子をより凝集させることなく、高温焼成し合金化し(触媒粒子が2種以上の金属原子からなる場合)、更に、内部電気抵抗のより小さな電極を作製するための触媒粒子を製造する技術が求められている。
【0025】
更に、DMFCの問題点として理論効率のまま電気エネルギーを取り出すことができないことが挙げられる。これは、触媒活性が律速となり、理論電圧に近い高い電圧では期待する電流を取り出すことができないため、低い電圧で作動させることで、結果として熱エネルギーとして外部に放出される割合が大きくなることが主な原因である。そのため、高い電圧においても活性を示す電圧効率の高い触媒が求められている。
【0026】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、触媒の製造における高温焼成工程における粒子の凝集を抑制し、強酸性下における金属原子の溶出を抑制することができる触媒の製造方法、及び触媒を担持する電極を有する燃料電池、並びに燃料電池を有する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
即ち、本発明は、金属原子(例えば、後述の実施の形態におけるPt、Ru)からなる粒子を被覆する無機酸化物(例えば、後述の実施の形態における二酸化珪素(シリカ、SiO2))による被覆層を形成する第1工程と、前記被覆層が形成された前記粒子を焼成処理する第2工程と、前記被覆層を除去する第3工程とを有する触媒の製造方法に係るものである。
【0028】
また、本発明は、上記の触媒の製造方法を含む、燃料電池の製造方法に係るものである。
【0029】
また、本発明は、上記の触媒の製造方法によって製造された触媒を担持する電極を有する燃料電池に係るものである。
【0030】
また、本発明は、上記の燃料電池を有する装置に係るものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、金属原子からなる触媒前駆体粒子を被覆する無機酸化物による被覆層を形成する第1工程と、前記被覆層が形成された前記触媒前駆体粒子を焼成処理する第2工程と、前記被覆層を除去する第3工程とを有するので、前記焼成処理における前記触媒前駆体粒子の凝集を抑制することができ、前記金属が2種以上の原子からなる場合には、これら原子の合金化が促進され、強酸性下における前記金属の溶出を抑制することができ、活性表面積の低下が小さく、触媒活性の劣化を抑制することができ、また、前記第3工程において前記被覆層を除去するため、電気抵抗の低下が抑制された触媒の製造方法を提供することができる。また、前記金属が1種の原子からなる場合にも、前記触媒前駆体粒子の凝集を抑制した状態で、粒子内部に粒堺が存在していても前記触媒前駆体粒子を焼成処理することによって緻密化させることができ、粒子径を粗大化させることがなく、又、強酸性下における前記金属原子の溶出を抑制することができ、活性の大きな触媒を得ることができる。
【0032】
また、本発明によれば、上記の触媒の製造方法を含むので、長期間運転した場合にも、触媒粒子の凝集による粒成長、及び、触媒粒子を構成する金属成分の溶出が抑制されるため、触媒活性の劣化を抑制することができ、電池の出力特性の長期間安定性を向上することが可能な燃料電池の製造方法を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、上記の触媒の製造方法によって製造された触媒を担持する電極を有するので、触媒活性の劣化を抑制することができ、出力特性の長期間安定性を向上することが可能な燃料電池を提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、上記の燃料電池を有するので、特性の長期間安定性を向上することが可能な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態における、触媒粒子の製造方法を説明する図である。
【図2】同上、直接型メタノール燃料電池の構成例を示す断面図である。
【図3】同上、高分子電解質型燃料電池の構成例を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子の製造方法を説明する図である。
【図5】同上、シリカ被覆層が形成されたPtRuナノ粒子の電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【図6】同上、シリカ被覆層の形成の前後におけるPtRuナノ粒子の光電子スペクトル(XPS)を説明する図である。
【図7】同上、シリカ被覆層の溶解除去の前後におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の光電子スペクトル(XPS)を説明する図である。
【図8】同上、シリカ被覆層を形成し溶解した後のPtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折(XRD)図形を説明する図である。
【図9】本発明の比較例における、シリカ被覆層を形成しなかったPtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折(XRD)図形を説明する図である。
【図10】本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折(XRD)図形から得られる結果の比較を説明する図である。
【図11】同上、PtRu合金触媒ナノ粒子の比表面積を説明する図である。
【図12】同上、PtRu合金触媒ナノ粒子におけるRu溶出量を説明する図である。
【図13】同上、DMFC(直接型メタノール燃料電池)の構成を説明する断面図である。
【図14】同上、PtRu合金触媒ナノ粒子を含有する触媒電極を有する燃料電池の出力特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の触媒の製造方法では、前記第1工程は、(a)疎水性基を有する表面修飾剤を化学的又は物理的に前記触媒前駆体粒子に結合させ表面修飾する工程と、(b)界面活性剤の疎水性基と前記表面修飾剤の疎水性基によって疎水性層を形成する工程と、(c)前記無機酸化物によって前記疎水性層を被覆し前記被覆層を形成する工程とを含む構成とするのがよい。このような構成によれば、前記触媒前駆体粒子に対して選択的に前記被覆層を形成することができる。また、前記被覆層の形成に使用する前記無機酸化物の前駆体の量、及び、前記被覆層の形成のための反応時間を制御することによって、形成される前記被覆層の厚さを任意に制御することができる。
【0037】
また、前記金属原子として、Pt、Ru、Sn、Ti、Rh、W、Mo、Fe、Co、Niの少なくとも1種又は2種以上を含有する構成とするのがよい。このような構成によれば、前記金属原子が1種である場合、前記触媒前駆体粒子の凝集を抑制した状態で、粒子内部に粒堺が存在していても前記触媒前駆体粒子を焼成処理することによって緻密化させることができ、粒子径を粗大化させることがなく、又、強酸性下における前記金属原子の溶出を抑制することができ、活性の大きな触媒を得ることができる。また、金属原子が2種以上である場合、前記触媒前駆体粒子の凝集を抑制した状態で、2種以上の金属原子の合金化を促進することができ、粒子径を粗大化させることがなく、又、強酸性下における前記金属原子の溶出を抑制することができるので、活性の大きな触媒を得ることができる。
【0038】
また、前記焼成処理の温度が、150℃以上、450℃以下である構成とするのがよい。このような構成によれば、粒子径の粗大化、比表面積の低下が抑制され、又、強酸性下における前記金属原子の溶出を抑制することができるので、活性の大きな触媒を得ることができる。より望ましくは、前記焼成処理の温度を250℃以上、450℃以下とする。このような構成すれば、粒子径の粗大化、比表面積の低下がより抑制され、又、強酸性下における前記金属原子の溶出をより抑制することができるので、活性のより大きな触媒を得ることができる。
【0039】
また、前記無機酸化物はその融点が1000℃以上であり、酸又は/及び塩基に溶解する構成とするのがよい。このような構成によれば、前記焼成処理における前記触媒前駆体粒子の凝集をより抑制することができる。
【0040】
また、前記触媒前駆体粒子は2種以上の前記金属原子を含有する構成とするのがよい。このような構成によれば、被毒が起こりにくい触媒を得ることができる。
【0041】
また、前記触媒前駆体粒子は前記金属原子としてPt、Ruを含有し、前記無機酸化物が二酸化珪素である構成とするのがよい。このような構成によれば、CO被毒に耐久性のある触媒を得ることができる。
【0042】
また、前記焼成処理の温度範囲が150℃以上、450℃以下である構成とするのがよい。このような構成によれば、PtRu合金相以外の不純物相の形成が抑制され、粒子径の粗大化、比表面積の低下が抑制され、又、強酸性下における前記金属原子の溶出を抑制することができるので、活性の大きな触媒を得ることができる。より望ましくは、前記焼成処理の温度を250℃以上、450℃以下とする。このような構成によれば、PtRu合金相以外の不純物相の形成がより抑制され、粒子径の粗大化、比表面積の低下がより抑制され、又、強酸性下における前記金属原子の溶出をより抑制することができるので、活性のより大きな触媒を得ることができる。
【0043】
また、350℃の前記焼成処理の後における前記触媒前駆体粒子の比表面積が、前記焼成処理の前における前記触媒前駆体粒子の比表面積の85%以上である構成とするのがよい。このような構成によれば、活性の劣化が抑制された触媒を得ることができる。
【0044】
また、前記第3工程の後における前記触媒前駆体粒子は耐酸性を有する構成とするのがよい。このような構成によれば、強酸性下におけるPt、Ruの溶出を抑制することができるので、活性の大きな触媒を得ることができる。
【0045】
また、0.4V以上において、前記第3工程の後における前記触媒前駆体粒子は、前記第1工程の前における前記触媒前駆体粒子よりも高い触媒活性を有する構成とするのがよい。このような構成によれば、出力特性の優れた燃料電池を得ることができる。
【0046】
本発明による触媒の製造方法は、金属原子(例えば、Pt、Ru)からなる触媒前駆体粒子を被覆する無機酸化物による被覆層を形成する第1工程と、被覆層が形成された触媒前駆体粒子を焼成処理する第2工程と、被覆層を除去する第3工程とを有する。第1工程は、(a)疎水性基を有する表面修飾剤を化学的又は物理的に触媒前駆体粒子に結合させ表面修飾する工程と、(b)界面活性剤の疎水性基と表面修飾剤の疎水性基によって疎水性層を形成する工程と、(c)無機酸化物によって疎水性層を被覆し被覆層を形成する工程とを含む。無機酸化物は高融点を有し、酸及び/又はアルカリに溶解する、例えば、二酸化珪素である。高温焼成工程での触媒前駆体粒子の凝集及び強酸性下における金属原子の溶出を抑制することができる。
【0047】
本発明による触媒は燃料電池に好適に使用することができ、燃料電池は優れた出力特性を示す。また、本発明による触媒は、燃料電池における電気化学反応の触媒以外にも、改質法によって水素を生成するための改質装置に使用される触媒等の各種の化学反応のための触媒として使用することができることは言うまでもない。
【0048】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0049】
[実施の形態]
本発明では、触媒前駆体粒子であるPtRuナノ粒子をシリカで被覆した後で焼成することによって、PtRuナノ粒子の凝集を防ぎつつ、PtとRuの合金化を促進することができ、焼成後にシリカ被膜を除去することによって、PtRuナノ粒子表面に存在する電気的抵抗を増大させる成分、触媒反応の活性点を阻害する成分を除去し、高い触媒活性を有する触媒ナノ粒子を製造できる。
【0050】
<触媒粒子の製造方法>
図1は本発明の実施の形態における、触媒粒子の製造方法を説明する図である。
【0051】
図1に示すように、本発明による触媒粒子の製造方法は、第1の工程〜第5の工程からなり、触媒前駆体粒子、又は、触媒担体に担持された状態の触媒前駆体粒子に対して適用することができる。
【0052】
ここで、触媒前駆体粒子は、第1の工程〜第5の工程によって触媒粒子に転換されるものであり、触媒粒子の製造のための出発物質であり、以下では、単に、金属ナノ粒子という。触媒前駆体粒子が2種以上の金属原子からなる場合、これら金属原子の少なくとも一部が合金を形成していてもよいし、合金を形成していなくてもよい。即ち、触媒前駆体粒子が合金化されていてもいなくてもよく、合金化されている場合にも、触媒前駆体粒子の合金化の程度は問わない。
【0053】
触媒前駆体粒子が合金化されていない場合、触媒前駆体粒子の合金化の程度が低い場合でも、第1の工程〜第5の工程によって、触媒前駆体粒子の凝集を抑制した状態で、触媒前駆体粒子を構成する2種以上の金属原子の合金化を促進することができ、粒子径を粗大化させることがなく、又、金属原子の溶出を抑制することができるので、活性の大きな触媒を得ることができる。
【0054】
また、触媒前駆体粒子が1種の金属原子からなる場合でも、第1の工程〜第5の工程によって、触媒前駆体粒子の凝集を抑制した状態で、粒子内部に粒堺が存在していても触媒前駆体粒子を焼成処理することによって緻密化させることができ、粒子径を粗大化させることがなく、又、金属原子の溶出を抑制することができるので、活性の大きな触媒を得ることができる。
【0055】
以下、触媒担体に担持されていない状態の触媒前駆体粒子に対して適用する場合を例にとって説明する。
【0056】
(第1の工程)
第1の工程では、非極性溶媒に金属ナノ粒子を分散させ、疎水性基を有する表面修飾剤を化学的又は/及び物理的に金属ナノ粒子に結合させて表面修飾する。
【0057】
金属ナノ粒子は、Pt、Ru、Sn、Ti、Rh、Pd、W、Mo、Fe、Co、Niの少なくとも1又は2以上を含有する。金属ナノ粒子は、例えば、Pt、Ruからなり、燃料電池の電極触媒としてよく利用されるPtRuナノ粒子である。このPtRuナノ粒子は、化学還元法を用いた方法、加水分解、縮合重合を用いた方法等の公知の方法によって合成することができる。
【0058】
非極性溶媒(疎水性有機溶媒)は、例えば、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等である。
【0059】
表面修飾剤は、一般式R−Aで表される物質からなる群から選択される少なくとも1つを含む。一般式R−A中、Rは炭化水素基であり、Aは、−COOH、−OH、−SO3H、−OSO3H、−OPO32、−NH2、又は、−CONH2である。炭化水素基Rは、直鎖状又は分枝状のアルキル基等の飽和炭化水素基である。
【0060】
表面修飾剤は、炭素数1〜20の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸から選択される少なくとも1つである。表面修飾剤は、例えば、カプロン酸(ヘキサン酸)(CH3−(CH24−CO2H)、カプリン酸(CH3−(CH28−CO2H)、ラウリン酸(CH3−(CH210−CO2H)、ミリスチン酸(CH3−(CH212−CO2H)、パルミチン酸(CH3−(CH214−CO2H)、ステアリン酸(CH3−(CH216−CO2H)、オレイン酸(CH3−(CH2)7CH=CH(CH27−CO2H)、リノール酸(CH3−(CH2)3(CH2CH=CH)2(CH27−CO2H)、α−リノレン酸(CH3−(CH2CH=CH)3(CH27−CO2H)等からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0061】
金属ナノ粒子、又は、触媒担体に担持された状態の金属ナノ粒子に対して、表面修飾剤を化学的又は/及び物理的に結合させることができる。或いは、金属ナノ粒子の合成過程で、表面修飾剤を添加して結合させるようにしてもよく、非極性溶媒に金属ナノ粒子を分散させる。
【0062】
(第2の工程)
第2の工程では、界面活性剤の疎水性基と第1の工程の表面修飾剤の疎水性基によって疎水性層を形成する。金属ナノ粒子を分散させた非極性溶媒に界面活性剤を添加する。
【0063】
界面活性剤はその疎水性基(疎水性部)が表面修飾剤の疎水性基(疎水性部)と相互作用があり、後に添加する酸化物を被覆させる際の疎水性層を形成するものであればよい。界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤(アニオン性界面活性剤)、陽イオン系界面活性剤(カチオン性界面活性剤)、両性界面活性剤(双性界面活性剤)、非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)の何れでもよい。
【0064】
界面活性剤として、例えば、Triton(登録商標)、Pluronic(登録商標)、Tween(登録商標)、Igepal(登録商標)、Brij(登録商標)等を使用することができ、Triton(登録商標)X-100(polyoxyethylene p-t-octylphenyl ether)、ポリオキシエチレン(5)ノニフェニルエーテル(Igepal(登録商標)CO-520)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CATB)、ビス(2-エチルへキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)等を使用することができる。
【0065】
(第3の工程)
第3の工程では、第2の工程で形成された疎水性層を無機酸化物の前駆体によって被覆する。第2の工程で疎水性層が形成された金属ナノ粒子を含む非極性溶媒溶液に無機酸化物の前駆体を添加することによって、この前駆体によって疎水性層が被覆され酸化物前駆体被覆を有する金属ナノ粒子が形成される。
【0066】
無機酸化物は、融点が1000℃以上であり、1000℃程度で安定な化合物であり、第3の工程での焼成温度において、金属ナノ粒子を構成する原子と反応しない無機酸化物であり、酸及び/又はアルカリに溶解するものであればよい。このような条件を満たす無機酸化物は、例えば、二酸化珪素(シリカ、SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコ二ウム(ZrO2)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化錫(SnO2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マグネシウム(MgO)、五酸化二オブ(Nb25)、五酸化タンタル(Ta25)、酸化イットリウム、(Y23)、酸化タングステン(WO3)等である。
【0067】
無機酸化物の前駆体として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン)(TEOS)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリブトキシシラン等のシラン化合物、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド、スズブトキシド、ジンクイソプロポキシド、ジンクブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、タンタルメトキシド、タンタルエトキシド、タンタルイソプロポキシド、タンタルブトキシド等を使用することができる。
【0068】
(第4の工程)
第4の工程では、第3の工程の生成物(上記の酸化物前駆体被覆を有する金属ナノ粒子)を1000℃以下の温度で焼成し、無機酸化物の前駆体を無機酸化物とし無機酸化物層を形成する。金属ナノ粒子は無機酸化物層によって保護され凝集することがない。金属ナノ粒子が2種以上の金属原子からなる場合には、この焼成処理によって合金化が促進される。焼成処理の温度は、150℃以上、900℃以下とする。金属ナノ粒子がPt、Ruからなる場合には、焼成処理の温度は、250℃以上、450℃以下とし、PtとRuの合金化が促進される温度とする。
【0069】
(第5の工程)
第5の工程では、第3の工程で形成された無機酸化物層を、酸及び/又はアルカリによって溶解し除去する。無機酸化物層が除去された金属ナノ粒子(触媒ナノ粒子)は、洗浄、乾燥される。
【0070】
<本発明による触媒粒子が適用される燃料電池>
図2は本発明の実施の形態における、直接型メタノール燃料電池(DMFC)の構成例を示す断面図である。
【0071】
図3は本発明の実施の形態における、高分子電解質型燃料電池(PEFC)の構成例を示す断面図である。
【0072】
(直接型メタノール燃料電池)
図2に示すように、メタノール水溶液が燃料25として、流路をもつ燃料供給部(セパレータ)50の入口26aから通路27aへと流され、基体である導電性のガス拡散層24aを通って、ガス拡散層24aによって保持された触媒電極22aに到達し、図2の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上でメタノールと水が反応し、水素イオン、電子、二酸化炭素が生成され、二酸化炭素を含む排ガス29aが出口28aから排出される。生成された水素イオンは、プロトン伝導性複合電解質によって形成された高分子電解質膜23中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、基体である導電性のガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22bに到達する。
【0073】
図2に示すように、空気又は酸素35が、流路をもつ空気又は酸素供給部(セパレータ)60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22bに到達し、図2の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図2の下方に示すように全反応は、メタノールと酸素から電気エネルギーを取り出して水と二酸化炭素を排出するというメタノールの燃焼反応となる。
【0074】
(高分子電解質型燃料電池)
図3に示すように、加湿された水素ガスが燃料25として、燃料供給部50の入口26aから通路27aへと流されガス拡散層24aを通って、触媒電極22aに到達し、図2の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上で水素ガスから水素イオン、電子が生成され、余剰の水素ガスを含む排ガス29aが出口28aから排出される。生成された水素イオンは、プロトン伝導性複合電解質によって形成された高分子電解質膜23中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、ガス拡散層24bを通って触媒電極22bに到達する。
【0075】
図3に示すように、空気又は酸素35が、空気又は酸素供給部60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って触媒電極22bに到達し、図3の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図3の下方に示すように全反応は、水素ガスと酸素から電気エネルギーを取り出して水を排出するという水素ガスの燃焼反応となる。
【0076】
図2、図3において、高分子電解質膜23は、プロトン伝導性複合電解質が結着剤(例えば、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、等…)によって結着されて形成されている。高分子電解質膜23によって、アノード20とカソード30が隔てられ、高分子電解質膜23を通して水素イオンや水分子が移動する。高分子電解質膜23は、水素イオンの伝導性が高い膜であり、化学的に安定であって機械的強度が高いことが好ましい。
【0077】
図2、図3において、触媒電極22a、22bは、集電体である導電性の基体を構成し、ガスや溶液に対して透過性をもったガス拡散層24a、24b上に密着して形成されている。ガス拡散層24a、24bは、例えば、カーボンペーパ、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体から構成される。燃料電池の駆動によって生じる水によるガス拡散効率の低下を防止するために、ガス拡散層は、フッ素樹脂等で撥水処理されている。
【0078】
触媒電極22aは、例えば、白金−ルテニウム合金、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金等からなる合金触媒ナノ粒子が担体に担持され形成されているものである。合金触媒ナノ粒子は結着剤によって結着され担体に保持されていてもよい。
【0079】
触媒電極22bは、例えば、白金、ルテニウム、オスミウム、白金等からなる触媒ナノ粒子が担体に担持され形成されているものである。触媒ナノ粒子は結着剤によって結着され担体に保持されていてもよい。
【0080】
担体として、例えば、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素、アルミナ、シリカ等の無機物微粒子が使用される。また、結着剤として、例えば、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用することができ、結着剤を溶解させた有機溶剤に炭素粒子(触媒金属が担持されている。)が分散された溶液を、ガス拡散層24a、24b(或いは、高分子電解質膜23)に塗布し、有機溶剤を蒸発させて結着剤によって結着された膜状の触媒電極22a、22bを形成することができる。
【0081】
高分子電解質膜23が、ガス拡散層24a、24b上に密着して形成された触媒電極22a、22bによって挟持され、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)40が形成されている。触媒電極22a、ガス拡散層24aによってアノード20が構成され、触媒電極22b、ガス拡散層24bによってカソード30が構成されている。
【0082】
アノード20及びカソード極30は高分子電解質膜23に密着し、炭素粒子の間にプロトン伝導体が入り込み、触媒電極22a、22bに高分子電解質(プロトン伝導体)を含浸させた状態となって、触媒電極22a、22bと高分子電解質膜23とが密着して接合され、接合界面で水素イオンの高い伝導性が保持され、電気抵抗が低く保持される。なお、触媒電極は、プロトン伝導性複合電解質を含んでいてもよく、上記の接合界面でのプロトン伝導がスムーズになる。
【0083】
なお、図2、図3に示した例では、燃料25の入口26a、排ガス29aの出口28a、空気又は酸素(O2)35の入口26b、排ガス29bの出口28bの各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に垂直に配置されているが、上記の各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に平行に配置されている構成とすることもでき、上記の各開口部の配置に関して種々の変形が可能である。
【0084】
図2、図3に示す燃料電池の製造は、各種文献に公知されている一般的な方法を利用できるので、製造に関する詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0085】
<PtRu合金触媒ナノ粒子の製造方法>
以下、触媒前駆体粒子としてPtRuナノ粒子を使用した、実施例、比較例におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0086】
図4は本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子の製造方法を説明する図である。図4(A)は製造工程を説明する図であり、図4(B)は実施例、比較例におけるシリカ被覆層の形成の有無、焼成処理温度を説明する図である。
【0087】
図4(A)に示すように、先ず、同時還元法によって調製されたPtRuナノ粒子を炭素担体に担持したPtRu/C(100mg)をシクロヘキサン(150mL)に分散させ、更に、表面修飾剤として、オレイン酸(4.2mL)を添加、混合し分散液を調整した。オレイン酸はその親水性部でPtRuナノ粒子に付着、結合する。
【0088】
PtRuナノ粒子は、モル比(Ru/Pt)は1:1である。炭素担体として、ケッチェンブラック(比表面積250m2/g)を使用し、PtRu/CにおけるPtRuナノ粒子と炭素担体の重量比は72:28である。
【0089】
次に、上記の分散液に界面活性剤Igepal(登録商標)CO-520(8mL)添加、混合し混合液を調整した。この界面活性剤を含む混合液中では、界面活性剤Igepal(登録商標)CO-520はその疎水性部が表面修飾剤オレイン酸の疎水性部と相互作用し付着して疎水性層が形成され、PtRu/Cは疎水性層によって被覆された状態となる。
【0090】
次に、界面活性剤を含む混合液に重合開始剤として28%水酸化アンモニウムを1ml加え、テトラエトキシシラン(TEOS)(1mL)を添加、72時間以上撹拌して混合し、シリカ前駆体被覆を形成させた。遠心分離及びエタノールで洗浄を3回繰り返して、混合液からシリカ前駆体被覆が形成されたPtRu/Cを回収し、乾燥させた。
【0091】
更に、この乾燥されたシリカ前駆体被覆が形成されたPtRu/Cを、窒素雰囲気下で、250℃以上、450℃以下の温度で焼成処理し、シリカ前駆体被覆をシリカ被覆層とすると共に、PtとRuの合金化を促進させた。PtRu/Cはシリカ被覆層によって保護され凝集することがない。
【0092】
最後に、2M NaOH溶液に、シリカ被覆層を有するPtRu/Cを添加して、6時間、攪拌、混合することによって、シリカ被覆層が溶解した後、洗浄処理を行ってシリカ被覆層が除去されたPtRu/Cを得た。
【0093】
以上のようにして、Pt、Ruからなる触媒前駆体をシリカによって被覆することによって、高温で処理してもシンタリングせず、粒子径が小さく保持され、高活性なPtRu合金触媒粒子を得ることができる。
【0094】
図4(B)に示すように、実施例1〜実施例4では、シリカ被覆層の形成と除去を行い、シリカ前駆体被覆の焼成処理は実施例1では行わず、実施例2、実施例3、実施例4では焼成処理の温度はそれぞれ、250℃、350℃、450℃で2時間とした。
【0095】
また、比較例1〜比較例4では、上述した実施例と同様にPtRuナノ粒子が炭素担体に担持されたPtRu/Cを使用したが、PtRu/Cにシリカ被覆層を形成せず、図4(A)に示す焼成処理のみを行い、焼成処理は比較例1では行わず、比較例2、比較例3、比較例4では焼成処理の温度はそれぞれ、250℃、350℃、450℃で2時間とした。
【0096】
<シリカ被覆層の形成の前後におけるPtRuナノ粒子>
図5は本発明の実施例における、シリカ被覆層が形成されたPtRuナノ粒子の電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【0097】
図5は、実施例1における、シリカ被覆層が形成されたPtRu/CのTEM像であり、直径観察は日本電子製JEM2100Fを用いて、加速電圧200kVにて行った。直径40nm程度のシリカ被覆層(薄いグレーで示されている。)の中にPtRu触媒ナノ粒子(黒点)が入っているのが観察される。
【0098】
図6は本発明の実施例において、シリカ被覆層の形成の前後におけるPtRuナノ粒子の光電子スペクトル(XPS)を説明する図であり、(a)はシリカ被覆層の形成前、(b)はシリカ被覆層の形成後における光電子スペクトルである。図6において、横軸は結合エネルギー(eV)、縦軸は強度(カウント)を示す。
【0099】
図6に示すように、実施例1において、PtRu/Cへのシリカ被覆層の形成前のPtRu/Cナノ粒子のXPS測定スペクトル(a)では、Pt4d、Pt4fに由来する光電子ピークが検出されているのに対して、シリカ被覆層の形成後のPtRu/Cナノ粒子のXPS測定スペクトル(b)では、Pt4d、Pt4fに由来する光電子ピークが検出されず、Si2s、Si2pに由来する光電子ピークが検出されていることから、XPSの測定範囲である触媒粒子表面の数nmよりも厚いシリカ被覆膜が形成されていることがわかる。
【0100】
<シリカ被覆層の溶解除去の前後におけるPtRu合金触媒ナノ粒子>
図7は本発明の実施例における、シリカ被覆層の溶解除去の前後におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の光電子スペクトル(XPS)を説明する図であり、(a)はシリカ被覆層の溶解除去の前、(b)はシリカ被覆層の溶解除去の後における光電子スペクトルである。図7において、横軸は結合エネルギー(eV)、縦軸は強度(カウント)を示す。
【0101】
図7に示すように、実施例1において、PtRu/Cに形成されたシリカ被覆層の溶解前のPtRu/Cナノ粒子のXPS測定スペクトル(a)では、Si2s、Si2pに由来する光電子ピークが検出され、Pt4fに由来する光電子ピークが検出されていないのに対して、シリカ被覆層の溶解後のPtRu/Cナノ粒子のXPS測定スペクトル(b)では、Pt4fに由来する光電子ピークが検出され、Si2s、Si2pに由来する光電子ピークが検出されていないことから、溶解処理によってシリカ(SiO2)被覆層が除去されたことがわかる。
【0102】
なお、図6、図7に示す光電子スペクトル(XPS)は、光源としてMgKαを用いた光電子スペクトル装置(日本電子(株)製、JPS-9010MX PHOTOELECTRON SPECTROMETER)を使用して測定したものである。
【0103】
<PtRu合金触媒ナノ粒子の構造>
図8は本発明の実施例における、シリカ被覆層を形成し溶解した後のPtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折(XRD)図形を説明する図であり、下方より、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4におけるPtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折図形を示す。図8において、横軸は回折角(2θ、度)、縦軸は相対強度を示す。
【0104】
図9は本発明の比較例における、シリカ被覆層を形成しなかったPtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折(XRD)図形を説明する図であり、下方より、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4におけるPtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折図形を示す。図9において、横軸は回折角(2θ、度)、縦軸は相対強度を示す。
【0105】
図10は本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子のX線回折(XRD)図形から得られる結果の比較を説明する図であり、図10(A)は、Pt(111)面に対応するピークの、位置(2θ、°)、面間隔(d値、nm)、白金の格子定数との差(nm)、半値幅(°)を示し、図10(B)は、白金の格子定数との差(nm)及び半値幅(°)と焼成温度(℃)の関係を示す図である。なお、半値幅はピーク半値幅である。図10(B)において、横軸は焼成温度(℃)、左縦軸は白金の格子定数との差(nm)、右縦軸は半値幅(°)を示す。
【0106】
なお、図8、図9に示す2θ=20°〜90°におけるX線回折(XRD)図形は、触媒粉(PtRu/C)をペレット状に成型して測定試料とし、X管球としてCu管球を用いたX線回折装置(RIGAKU製 RINT-TTRII)を使用して測定したものである。
【0107】
図8に示すX線回折(XRD)図形は、シリカ前駆体被覆層を形成した後、焼成処理しないPtRu合金触媒ナノ粒子(実施例1)、シリカ前駆体被覆層を形成した後、焼成処理してシリカ被覆層を形成しこれを溶解した後のPtRu合金触媒ナノ粒子(実施例2、実施例3、実施例4)に関するものである。
【0108】
実施例1のPtRu合金触媒ナノ粒子は、触媒前駆体粒子であるPtRuナノ粒子が炭素担体に担持されたPtRu/Cにシリカ被覆層を形成した後、焼成処理をすることなく、シリカ被覆層を溶解して得られたものであり、図8に示すように、そのX線回折(XRD)図形におけるX線回折ピーク位置(2θPtRu)は、Ptに対応するX線回折ピークの位置(2θPt)よりも高角度側にある。このことは、使用した触媒前駆体粒子の合金化が進んでいることを示している。
【0109】
図10に示すように、焼成処理しなかった実施例1によるPtRu合金触媒ナノ粒子のPt(111)に対応するX線回折ピークの半値幅と比較して、焼成処理した実施例2、実施例3、実施例4によるPtRu合金触媒ナノ粒子のPt(111)に対応するX線回折ピークの半値幅は何れも、小さくなっており、粒子の結晶性が向上したか或いは粒子径が増大したことがわかる。
【0110】
また、Pt(111)に対応するX線回折ピークから求めた実施例1におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の格子定数と比較して、実施例2、実施例3、実施例4におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の格子定数は何れも大きくなっている。
【0111】
図9に示すX線回折(XRD)図形は、シリカ被覆層を形成しなかったPtRu合金触媒ナノ粒子に関するものであり、焼成処理しないPtRu合金触媒ナノ粒子(比較例1)、焼成処理して得られたPtRu合金触媒ナノ粒子(比較例2、比較例3、比較例4)に関するものである。
【0112】
比較例1のPtRu合金触媒ナノ粒子は、触媒前駆体粒子であるPtRuナノ粒子が炭素担体に担持されたPtRu/Cに対して、シリカ被覆層の形成、及び、焼成処理をしていないものであり、触媒前駆体粒子であるPtRuナノ粒子そのものであり、図8に示すように、比較例1によるX線回折(XRD)図形は、図8に示す実施例1によるX線回折(XRD)図形と同じであった。比較例1によるX線回折(XRD)図形におけるX線回折ピーク位置(2θPtRu)は、Ptに対応するX線回折ピークの位置(2θPt)よりも高角度側にある。このことは、使用した触媒前駆体粒子の合金化が進んでいることを示している。
【0113】
図9に示すように、350℃で焼成処理した比較例3、450℃で焼成処理した比較例4では、2θが、約28°、約35°、約54.5°、約58.°にPtRu合金相以外の回折ピークが出現している。このPtRu合金相以外の回折ピークは、RuO2、Pt、Ru等の相に由来する可能性を示している。なお、約28°、約35°、約54.5°、約58.°に出現している回折ピークはそれぞれ、RuO2の(110)、(101)、(211)、(220)面に対応している。
【0114】
図10に示すように、焼成処理しなかった比較例1によるPtRu合金触媒ナノ粒子のPt(111)に対応するX線回折ピークの半値幅と比較して、焼成処理した比較例2によるPtRu合金触媒ナノ粒子のPt(111)に対応するX線回折ピークの半値幅は同じであるが、焼成処理した比較例3、比較例4によるPtRu合金触媒ナノ粒子のPt(111)に対応するX線回折ピークの半値幅は何れも小さくなっており、粒子の結晶性が向上したか或いは粒子径が増大したことがわかる。
【0115】
また、Pt(111)に対応するX線回折ピークから求めた比較例1におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の格子定数と比較して、比較例2、比較例3、比較例4におけるPtRu合金触媒ナノ粒子の格子定数は何れも大きくなっている。格子定数が大きくなる程度は、実施例よりも比較例において著しい。これは、比較例ではシリカ被覆層を形成しなかったためである。
【0116】
図8と図9の比較から明らかなように、実施例のPtRu合金触媒ナノ粒子では、PtRu合金相以外の不純物相の形成が抑制されており、後述するように、比表面積の低下が抑制され、強酸性下における前記金属原子の溶出が抑制されるので、実施例では、活性の大きな触媒を得ることができる。
【0117】
<PtRu合金触媒ナノ粒子の比表面積>
図11は本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子の比表面積を説明する図である。
【0118】
図11は、触媒粉15mgのCOガス吸着量から触媒活性表面積を算出した結果である(日本ベル株式会社製、触媒分析装置BEL-CATを用いた。)。
【0119】
図11に示すように、シリカ被覆層を形成せず焼成処理しなかった比較例1によるPtRu合金触媒ナノ粒子の比表面積と比較すると、実施例3、比較例3によるPtRu合金触媒ナノ粒子の比表面積は何れも小さな値であり、比較例3では比較例1の比表面積の約25%低下であったが、実施例3では比較例1の比表面積の約12%低下であった。
【0120】
この実施例3における小さな比表面積の低下は、PtRu合金触媒ナノ粒子を得る工程でシリカ被覆層を形成したためである。即ち、PtRuナノ粒子にシリカ前駆体被覆層を形成し、高温焼成することによって、比表面積の低下を抑制することができることが分かった。
【0121】
<PtRu合金触媒ナノ粒子におけるRu溶出量>
図12は本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子におけるRu溶出量を説明する図である。
【0122】
実施例、比較例によるPtRu合金触媒ナノ粒子の耐強酸性試験を行った。1Mメタノールと0.5M硫酸の100mL混合溶液に触媒0.1gを混合し、50℃に保持し一日静置した後、上澄み溶液を採取し、溶液中に溶出したRuの溶出量をICP(誘導結合プラズマプラズマ、Inductively Coupled Plasma)発光分析で測定した。
【0123】
図12に示すように、シリカ被覆層を形成しなかった比較例ではRuの溶出量は何れも7wt%以上の溶出が見られたが、実施例3ではRuの溶出量は1.7wt%であり、PtRu合金触媒ナノ粒子の耐酸性が向上した。
【0124】
図12に示すように、シリカ被覆層を形成せず焼成処理しなかった比較例1によるPtRu合金触媒ナノ粒子におけるRuの溶出量と比較すると、比較例2〜比較例3、実施例3によるPtRu合金触媒ナノ粒子におけるRuの溶出量は何れも小さな値であり、比較例2〜比較例3では比較例1のRuの溶出量の約53%であったが、実施例3では比較例1のRuの溶出量の約13%であった。
【0125】
この実施例3における小さなRuの溶出量は、PtRu合金触媒ナノ粒子を得る工程でシリカ被覆層を形成したためである。即ち、PtRuナノ粒子にシリカ前駆体被覆層を形成し、高温焼成することによって、Ruの溶出量の低下を抑制することができることが分かった。
【0126】
次に、本発明によるPtRu合金触媒ナノ粒子の性能を評価するために、燃料電池セルを製作し、その出力特性を評価した結果について説明する。
【0127】
<PtRu合金触媒ナノ粒子を含有する触媒電極を有する燃料電池の出力特性>
図13は、本発明の実施例における、DMFC(直接型メタノール燃料電池)の構成を説明する断面図であり、基本的な構造は図2に示すものと同じである。
【0128】
図13に示すように、DMFC燃料電池セルは、カソード端子板49b、空気流路41、Tiメッシュ42、マイクロポーラス層43、Pt触媒層44、高分子電解質膜(プロトン伝導膜)45、PtRu触媒層46、カーボンペーパ47、燃料流路48、アノード端子板49aの各層を含む。
【0129】
高分子電解質膜45を挟むように、カソード端子板49b、空気流路41、Tiメッシュ42、マイクロポーラス層43、Pt触媒層44がカソード(空気)電極側に配置され、また、PtRu触媒層46、カーボンペーパ47、燃料流路48、アノード端子板49aがアノード(燃料極)電極側に配置される。
【0130】
<アノード電極の作製>
アノード(燃料極)電極側のPtRu触媒層46に用いたPtRu触媒は、先述した実施例と同様にして、同時還元法によって調製されたPtRuナノ粒子(中心粒径4.7nm)である。これを高表面積カーボン(比表面積250m2/g)に72wt%で担持させて、炭素担体に担持されたPtRu合金触媒ナノ粒子(PtRu/C)を調製した。
【0131】
触媒PtRu/Cに対して、等重量の10wt% Nafion(登録商標)溶液を添加し、水を適量加え粘性を制御しスラリーを調製し、このスラリーをマグネチックスターラーで15時間撹拌した。塗布、乾燥後のPt量が5.0mg/cm2となるようにスラリーを、カーボンペーパ47(Toray製 TGP-H-030)を130℃で加熱しながら塗布し、その後、塗膜を加熱乾燥させてアノード電極とした。
【0132】
<カソード電極の作製>
カソード(空気)電極側のPt触媒層44に用いたPt触媒は、還元法によって調製されたPtナノ粒子である。これを高表面積カーボン(比表面積250m2/g)に70wt%で担持させて、炭素担体に担持されたPt触媒ナノ粒子(Pt/C)を調製した。
【0133】
マイクロポーラス層(MPL)43はTiメッシュ42上に形成される。カーボンとして、KS-15(Lonza社製導電助剤カーボン)、HS-100(電気化学工業社製アセチレンブラック)を重量比7:3で用いたインクをミックスローターで撹拌した後、厚さ200μmのTiメッシュ42上に塗布し、窒素雰囲気下で加熱乾燥させて作製した。
【0134】
上記で調製された触媒PtRu/Cに対して、4倍量の10wt% Nafion(登録商標)溶液を添加し、水を適量加え粘性を制御しスラリーを調製し、このスラリーをマグネチックスターラーで15時間撹拌した。塗布、乾燥後のPt量が2.5mg/cm2となるようにスラリーを、Tiメッシュ42上に形成されたマイクロポーラス層(MPL)43を130℃で加熱しながら塗布し、その後、塗膜を加熱乾燥させてカソード電極とした。
【0135】
<燃料電池セルの作製>
上記のようにして作製されたアノード電極とカソード電極の間に高分子電解質膜45を挟んで、150℃に加熱しながら0.5kNでプレスして、膜電極接合体(MEA)を作成した。高分子電解質膜45として、プロトン伝導膜であるNafion(登録商標)212 CSを用いた。
【0136】
カソード電極側から、Ti plateに深さ400μmで形成されている空気流路41及びカソード端子板49b(カソード集電体であり厚さ700μmの銅板である。)によって、アノード電極側から、Ti plateに深さ200μmで形成されている燃料流路48及びアノード端子板49a(アノード集電体であり厚さ500μmの銅板である。)によってそれぞれ、膜電極接合体(MEA)を挟み込み接合させて、燃料電池セルを作製した。
【0137】
図14は本発明の実施例における、PtRu合金触媒ナノ粒子を含有する触媒電極を有する燃料電池の出力特性を説明する図である。図14において、横軸は電流密度(A/cm2)、縦軸は電圧(V)を示す。
【0138】
上述したようにして製作されたDMFC燃料電池セルを用いて、燃料として0.5M メタノール(液温35℃〜40℃)を使用しメタノールを燃料流路48に0.2mL/minの流量で流し、酸化剤として空気を空気流路41に50cm3/minの流量で流した。出力特性の評価として、Solartron Analytical 1470E Cell Test Systemを用いて各電圧における電流値を測定した。なお、電圧は0.05V刻みで変化させた。
【0139】
図14は、比較例1、比較例3、実施例3によるPtRu/C触媒、即ち、シリカ被覆層を形成せず焼成処理しなかったPtRu合金触媒ナノ粒子(比較例1)、シリカ被覆層を形成せず350°で焼成処理をしたPtRu合金触媒ナノ粒子(比較例3)、シリカ前駆体被覆層を形成した後、350°で焼成処理してシリカ被覆層を形成しこれを溶解して得られたPtRu合金触媒ナノ粒子(実施例3)をそれぞれ、アノード電極に使用して製造された、図13に示す構成を有する燃料電池の性能を示した図である。
【0140】
図14に示すように、実施例3によるPtRu合金触媒ナノ粒子を用いた場合は、発電効率を高める高電圧領域において、比較例1、比較例3によるPtRu合金触媒ナノ粒子を用いた場合よりも、触媒活性が向上していることが分かった。
【0141】
本発明では、以上説明したように、(1)ダイレクトメタノール燃料電池の問題点の1つである電極触媒が強酸性固体電解質膜上にあることに由来するRuの溶出を減少させることができ、(2)触媒粒子径の肥大化を抑えつつ、触媒粒子の結晶性を高め、触媒の合金化を促進することができ、触媒の作製過程で、一旦、形成された酸化物被覆層を取り除くことによって、触媒のメタノール酸化活性を効率的に活用することができるため、高い作動電圧で発電効率を高い作動電圧で得ることができるDMFCを提供することができ、また、(3)酸化物被覆層を形成し、高温焼成処理できるため、触媒を合金化することができるので、合金化のために高い焼成温度を必要とするような金属原子を含む新たな合金触媒を作ることができる。
【0142】
以上、本発明を燃料極(アノード)触媒としてPtRu合金触媒ナノ粒子を例にとって、実施の形態、実施例について説明したが、本発明は上述の実施の形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能であり、例えば、空気極(カソード)触媒として使用されるPt触媒ナノ粒子を、PtRu合金触媒ナノ粒子と同様にして作製することができ、粒子の凝集、Ptの溶出による触媒活性の低下を抑制することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明によれは、高温焼成工程における粒子の凝集を抑制し、金属原子の溶出を抑制することができる触媒の製造方法及び燃料電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0144】
20…アノード、22a、22b…触媒電極、23、45…高分子電解質膜、
24a、24b…ガス拡散層、25…燃料、26a、26b…入口、
27a、27b…通路、28a、28b…出口、29a、29b…排ガス、
30…カソード、35…空気又は酸素、40…膜電極接合体、41…空気流路、
42…Tiメッシュ、43…マイクロポーラス層、44…Pt触媒層、
46…PtRu触媒層、47…カーボンペーパ、48…燃料流路、
49a…アノード端子板、49b…カソード端子板、50…燃料供給部、
60…空気又は酸素供給部、70…外部回路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0145】
【特許文献1】特開平6−246160号公報(段落0004)
【特許文献2】特開2005−276688号公報(段落0008〜0009)
【特許文献3】WO2006/038676号公報(段落0039〜0040、図1)
【特許文献4】特開2006−147345号公報(段落0023)
【特許文献5】特表2009−502019号公報(段落0008、段落0012、図1)
【非特許文献】
【0146】
【非特許文献1】T. Kim et al.,“Preparation and characterization of carbon supported Pt and RtRu alloy catalysts reduced by alcohol for polymer electrolyte fuel cell”, Electrochimica Acta, 50(2004)817-821(Result and Discussion、図2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子からなる触媒前駆体粒子を被覆する無機酸化物による被覆層を形成する第1
工程と、
前記被覆層が形成された前記触媒前駆体粒子を焼成処理する第2工程と、
前記被覆層を除去する第3工程と
を有する触媒の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、(a)疎水性基を有する表面修飾剤を化学的又は物理的に前記触媒前駆体粒子に結合させ表面修飾する工程と、(b)界面活性剤の疎水性基と前記表面修飾剤の疎水性基によって疎水性層を形成する工程と、(c)前記無機酸化物によって前記疎水性層を被覆し前記被覆層を形成する工程とを含む、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記金属原子として、Pt、Ru、Sn、Ti、Rh、W、Mo、Fe、Co、Niの原子の少なくとも1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記焼成処理の温度が、150℃以上、450℃以下である、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記無機酸化物はその融点が1000℃以上であり、酸又は/及び塩基に溶解する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記触媒前駆体粒子は2種以上の前記金属原子を含有する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
前記触媒前駆体粒子は前記金属原子としてPt、Ruを含有し、前記無機酸化物が二酸化珪素である、請求項6に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記焼成処理の温度範囲が150℃以上、450℃以下である、請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
350℃の前記焼成処理の後における前記触媒前駆体粒子の比表面積が、前記焼成処理の前における前記触媒前駆体粒子の比表面積の85%以上である、請求項8に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
前記第3工程の後における前記触媒前駆体粒子は耐酸性を有する、請求項8に記載の触媒の製造方法。
【請求項11】
0.4V以上において、前記第3工程の後における前記触媒前駆体粒子は、前記第1工程の前における前記触媒前駆体粒子よりも高い触媒活性を有する、請求項8に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11の何れか1項に記載の触媒の製造方法を含む、燃料電池の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項11の何れか1項に記載の触媒の製造方法によって製造された触媒を担持する電極を有する、燃料電池。
【請求項14】
請求項13に記載の燃料電池を有する、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−181359(P2011−181359A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44855(P2010−44855)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】