説明

触媒の製造方法及び触媒

本発明は、触媒の製造方法であって、前記触媒が触媒活性物質及び炭素含有担体を含み、第1工程において炭素含有担体を金属塩溶液に含浸させ、その後、金属塩溶液を含浸した炭素含有担体を不活性雰囲気中で少なくとも1500℃の温度に加熱して金属炭化物層を形成し、最後に金属炭化物層を備えた炭素含有担体に触媒活性材料を施す触媒の製造方法に関する。
さらに、本発明はこの方法により製造された触媒であって、炭素含有担体及び触媒活性物質を含み、この炭素含有担体が金属炭化物層を含有し、且つその触媒活性物質が金属炭化物層を備えた炭素含有担体に施された触媒を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の製造方法であって、その触媒が触媒活性物質及び改質炭素含有担体を含む触媒の製造方法に関する。さらに、本発明は、改質炭素含有担体及び触媒活性物質を含む触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒活性物質と炭素含有担体を含む触媒は、例えば、電気化学反応のための不均一系触媒として用いられる。電気化学反応のための触媒活性物質として、通常、白金族の金属、又は白金族金属の合金が用いられる。使用される合金成分は、通常、ニッケル、コバルト、バナジウム、鉄、チタン、銅、ルテニウム、パラジウム等の遷移金属であり、それぞれの場合に、個別であるか、又は1種以上のさらなる金属との組み合わせである。このような触媒は、特に、燃料電池において使用される。触媒は、アノード側とカソード側の両方に使用され得る。特にカソード側では、耐食性でもある活性カソード触媒を使用することが必要である。合金触媒は一般に活性カソード触媒として使用されている。
【0003】
高い触媒表面積を得るためには、触媒は、通常担持される。電気化学的な施用では、用いられる担体は、導電性にされなければならない。炭素は、例えば、導電性カーボンブラックの形態で、一般的に担体として用いられる。使用される炭素担体は、通常、ナノ粒子として通常存在する触媒活性物質の粒子の微細分散を可能にする高比表面積を有する。BET表面積は一般に100m2/gを超える。しかしながら、約250m2/gのBET表面積を有するVulcan XC72又は約850m2/gのBET表面積を有するKetjen Black EC−300J等のこれらの炭素担体は、急速に腐食するという欠点を有している。炭素含有担体の腐食は、適宜に昇温下で、窒素の湿潤流又は電解質水溶液中等の水の存在下で1Vを超える電位にそれらを付すことにより比較され得る。ここで、炭素は二酸化炭素に転化され、生じた二酸化炭素が測定され得る。温度が高いほど、且つ電位が大きいほど、より急速に炭素含有担体は腐食する。したがって、例えば、Vulcan XC72の場合には1.1Vの電位で、15時間後に炭素の約60%が二酸化炭素に酸化することにより腐食して離れる。約60m2/gのBET比表面積を有するDenka Black等のより小さい比表面積を有するカーボンブラックの場合、カーボンブラック中の黒鉛の割合がより高いので担体の腐食安定性はより高い。1.1Vで15時間後、腐食はほんの8%の炭素の損失に相当する。より小さい表面積を有する炭素担体上の触媒粒子は、通常やや大きくなり、そしてそれゆえ、お互いにより接近する。しかしながら、担体に施された触媒活性物質の量のほんの一部しか触媒的に利用することができないので、これはしばしば性能の低下をもたらす。
【0004】
WO2006/002228によれば、低BET表面積を有するカーボン担体の使用とは別に、炭素含有担体を表面処理に付すことがまた知られている。表面処理の結果として、その炭素は金属炭化物層を備える。金属炭化物層を製造するために使用される金属は、例えば、チタン、タングステン又はモリブデンである。触媒活性物質は、続いて、金属炭化物層の上に付着される。
【0005】
金属炭化物層の製造のために、金属塩溶液がまず炭素含有担体の表面に施され、次いで、この溶液が金属へと還元される。続いて、その担体は金属を金属炭化物へと転化させるために加熱される。金属炭化物層を形成するための加熱は、850〜1100℃の範囲内の温度で実施される。しかしながら、WO−A2006/002228に記載される通りに製造された金属炭化物層は、腐食安定性における満足できる改善をもたらすには十分に安定ではないことがわかった。
【0006】
炭素含有担体の腐食は、触媒活性物質の粒子の脱離をもたらし、それゆえ、性能の低下をもたらす。加えて、触媒粒子はまた、触媒的に活性な表面積を減少させる焼結をすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/002228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電気化学反応のためのカソード触媒として用いられる際に腐食安定性を有する触媒が製造される、触媒の製造方法を提供することである。特に、触媒粒子がその表面領域と相互作用する触媒は、その粒子が担体上でほとんど変化しない、すなわち、ほとんど焼結せず、且つ担体から脱離しないような方法で製造されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的は、触媒活性物質及び炭素含有担体を含む触媒の製造方法であって、以下の工程:
(a)金属塩溶液に炭素含有担体を含浸させる工程、
(b)この金属塩溶液が含浸した炭素含有担体を、少なくとも1200℃の温度に加熱して金属炭化物層を形成する工程、
(c)金属炭化物層を備えた炭素含有担体に触媒活性物質を施す工程
を含む方法により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、電気化学プロセスへの暴露前の比較例1による触媒を示す図である。
【図2】図2は、電気化学プロセスへの暴露後の比較例1による触媒を示す図である。
【図3】図3は、電気化学プロセスへの暴露前の例1による触媒を示す図である。
【図4】図4は、電気化学プロセスへの暴露後の例1による触媒を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
金属塩溶液に含浸させた炭素含有担体の少なくとも1200℃の温度への加熱の結果として、安定した金属炭化物層が形成される。担体上の金属炭化物層のおかげで、炭素はその表面に結合し、もはや担体の周囲の酸素とのいかなる反応も起こさない。炭素含有担体の腐食は、この方法で減らすことができ、さらには完全に回避される。さらなる利点は、触媒の触媒活性表面が金属炭化物層の形成によっても大きくは変更されておらず、したがって、常に高い触媒活性と長期間の安定性とが達成されることである。加えて、触媒の触媒活性が触媒活性物質の損失によって低下しないように、触媒活性物質の損失が金属炭化物層により未然に防止され得る。触媒活性物質がその担体から脱離しないという事実は、金属炭化物層の結果として担体に良好に付着する触媒活性物質の粒子に関連づけられている。触媒粒子がほとんど焼結せず、且つ担体から脱離しないという事実のために、触媒粒子の触媒表面積は、長期間にわたって安定であり、電極の性能は高く維持される。さらに、X線回折パターンでは酸化物相ではなく炭化物相のみが観察され得る。
【0012】
触媒活性物質の付着性の向上は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて調べることができる。従って、Journal of Power Sources,2008,185,734〜739頁によれば、電気化学処理前と処理後の同じ場所で、電極触媒の画像を生成し、それによって引き起こされる触媒の変化を観察することができる。こうして、例えば、純粋な炭素担持触媒の場合に触媒活性物質の粒子の焼結又は脱離を見ることができる。一方で、本発明に係る触媒の場合には、同じ条件下でほとんどいかなる変化も生じない。
【0013】
本発明の触媒のための好適な炭素含有担体は、好ましくはカーボンブラックである。カーボンブラックは当業者に公知の任意の方法により製造することができる。通常使用されるカーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、フレームブラック、アセチレンブラック又は当業者に公知の任意の他のカーボンブラックである。黒鉛化炭素、特に、低表面積を有する炭素の使用が、特に好ましい。本発明の目的のために、低表面積は、250m2/g以下、より好ましくは100m2/g以下のBET表面積を意味する。担体として用いることができる好適な炭素は、例えば、72m2/gのBET表面積を有するSKWカーボン、53m2/gのBET表面積を有するDenka Black、又は約30m2/gのBET表面積を有する、Evonik Degussa GmbHからのXMB206若しくはAT325である。本発明によれば、金属炭化物層が適切な炭素担体に施される。
【0014】
用いられる触媒は、白金族の金属、遷移金属、これらの金属の合金、又は白金族の少なくとも1種の金属を含有する合金等を含む。触媒活性物質は、白金、パラジウム、これらの金属の合金、及びこれらの金属の少なくとも1種を含む合金の中から好ましくは選択される。触媒活性物質は、極めて特に好ましくは白金または白金含有合金である。好適な合金形成金属は、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウム、チタン、ルテニウム及び銅等であり、特にニッケル及びコバルトである。白金族の少なくとも1種の金属を含有する好適な合金は、例えば、PtNi、PtFe、PtV、PtCr、PtTi、PtCu、PtPd、PtRu、PdNi、PdFe、PdCr、PdTi、PdCu及びPdRuからなる群から選択される。白金−ニッケル合金又は白金−コバルト合金が特に好ましい。合金が触媒活性物質として使用される場合は、合金中の白金族の金属の割合は、好ましくは25〜85原子%の範囲、より好ましくは40〜80原子%の範囲、さらにより好ましくは50〜80原子%の範囲、とりわけ60〜80原子%の範囲である。
【0015】
上述の合金とは別に、三元合金系等の、2種以上の異なる金属を含有する合金を用いることもまた可能である。通常1質量%未満の割合で、金属酸化物等のさらなる成分を含有させることもまた可能である。
【0016】
本発明の触媒を製造するために、最初の工程において炭素含有担体は金属塩溶液で含浸される。炭素含有担体を金属塩溶液で含浸させるために、例えば、金属塩溶液中に炭素含有担体を分散させ、その後その分散液を濃縮することができる。
【0017】
含浸の結果として、金属塩溶液は、炭素含有担体の細孔に浸透する。金属塩の層はまた、炭素含有担体の外表面に形成される。
【0018】
金属炭化物への炭素の完全な転化は、カーボンブラック等の使用される炭素の有利なベース構造が、そこから製造される触媒の性能又はその触媒の加工性があまりにも大きく影響されるような程度に失われるというリスクを伴うので、その表面が好ましくは金属炭化物へと転化される。
【0019】
担体の全炭素が反応して金属炭化物を形成すること、及び金属炭化物層がその担体の表面にのみ形成されることを未然に防ぐために、炭素含有担体に含浸させるための金属塩溶液が好ましくは化学量論量で添加される。本発明の目的のために、化学量論とは、金属と炭素の合計に対して90質量%未満の金属が用いられることを意味する。金属の割合は、金属と炭素の合計に対して、それぞれの場合に、通常5〜75質量%、好ましくは20〜50質量%である。
【0020】
炭素含有担体上に安定した金属炭化物層を得るためには、金属塩溶液の金属が、タングステン、モリブデン、チタン、バナジウム又はジルコニウムであり、好ましくはタングステン又はモリブデンである。その対応する金属塩溶液の使用の結果として、炭素含有担体上に形成された金属炭化物層は、タングステン炭化物層又はモリブデン炭化物層である。さらに、その層はまた、2種以上の金属の混合炭化物を含み得る。それはまた、金属炭化物層が第二の金属でドープされることを可能とする。金属炭化物層の利点は、炭素含有担体の有利な構造、伝導率及び表面特性が実質的に保持され、且つ耐食性が大きく改善されていることである。炭素含有担体の特性の保持は、担体表面上の炭化物含量に依存する。
炭素含有担体が含浸される金属塩溶液として、タングステン酸アンモニウム溶液等の、タングステン酸塩溶液等を用いることができる。
【0021】
金属炭化物層を製造するために、第2工程では、金属塩溶液を含浸させた炭素含有担体が少なくとも1200℃の温度へと不活性雰囲気中で加熱される。不活性雰囲気は、雰囲気がその担体の炭素又は金属塩と反応し得る任意の材料を含んでいないことを意味する。好適な雰囲気は、例えば、希ガス雰囲気または窒素雰囲気である。不活性雰囲気は、好ましくは窒素雰囲気である。
【0022】
金属塩溶液で含浸された炭素含有担体が加熱される温度は、少なくとも1200℃であり、好ましくは少なくとも1300℃、特に少なくとも1500℃である。
【0023】
炭素含有担体上に十分に安定な金属炭化物層を形成するために、金属塩溶液を含浸させた炭素含有担体は、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも1時間、特に少なくとも2時間、金属塩溶液を含浸させた炭素含有担体が加熱された温度で維持される。その熱処理は、1500℃の温度で2時間実施されることが特に好ましい。これは、炭素含有担体表面上に形成される、炭素含有担体の腐食安定性を改善する金属炭化物層を結果としてもたらす。
【0024】
金属炭化物層の形成後、金属炭化物層を備えた炭素含有担体は冷却され、触媒活性物質が施される。触媒活性物質の施用は、当業者に公知の任意の方法によって実施され得る。触媒活性物質の施用は、例えば、溶液中の付着により実施され得る。そのためには、例えば、溶媒中に触媒活性物質を含有する金属化合物を溶解させることができる。その金属は、共有的に、イオン的に、又は錯体形成により、結合され得る。さらに、金属が前駆体として、または対応する水酸化物を析出させるためにアルカリを用いて、還元的に付着され得る。白金族の金属を付着させるさらに可能な方法は、金属を含有する溶液の含浸(初期湿潤)、化学蒸着(CVD)又は物理蒸着(PVD)法であり、及びまた、金属を付着させ得る方法を用いた、当業者に公知の全てのさらなる方法である。まず白金族の金属の塩を析出させることが好ましい。析出は、触媒を製造するための乾燥及び熱処理のあとに続く。
【0025】
触媒活性物質が析出によって施される場合、エタノール中で、又はNaBH4を用いた硝酸白金からの白金等の、例えば、還元析出を実施することができる。別の方法として、金属炭化物層を備える炭素含有担体と混合される白金アセチルアセトナート等、H2/N2ガス混合物中での分解及び還元もまた可能である。エタノールを用いた還元析出が実施されることが好ましい。
【0026】
パラジウム又は白金族の金属を含有する合金が触媒活性物質として白金の代わりに使用される場合、触媒活性物質が同様に施される。
【0027】
本発明の方法により製造された触媒は、炭素含有担体及び触媒活性物質を含有し、その炭素含有担体は金属炭化物層を有し、その触媒活性物質は金属炭化物層を備えた炭素含有担体に施されている。前述したように、炭素担体の腐食、その結果、触媒活性物質の剥離と損失が金属炭化物層により大幅に低減され得る。
【0028】
したがって、金属炭化物層を備える炭素含有担体の比表面積及びまたBET表面積はもともと使用される炭素含有担体に依存する。250m2/g以下のBET表面積を有する炭素含有担体であることが好ましい。100m2/g以下のBET表面積を有する炭素含有担体であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の触媒を、例えば、電気化学反応のための不均一系触媒として用いるためには、触媒活性物質が白金族の金属であるか、或いは少なくとも1種の白金族の金属を含む合金であるものが好ましい。白金属の好適な金属は、特に、白金及びパラジウムである。白金とパラジウムが混合物として触媒活性物質を形成することもまた可能である。
【0030】
触媒活性物質が少なくとも1種の白金族の金属を含有する合金である場合、この合金は好ましくはPtNi、PtFe、PtV、PtCr、PtTi、PtCu、PtPd、PtRu、PdNi、PdFe、PdCr、PdTi、PdCu及びPdRuからなる群から選択される。
【0031】
腐食の低減を達成するために、その触媒の金属炭化物層の金属は、好ましくは、タングステン、チタン、モリブデン、ジルコニウム、ニオブ、バナジウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される。金属炭化物層の金属は、特に好ましくはタングステンである。
【0032】
本発明の触媒は、燃料電池における電極触媒としての使用のために特に好適である。ここで、触媒はカソード触媒として特に好適である。
【実施例】
【0033】
電極触媒の腐食においては、一般に、2つの相の間で区別をする:第1に、白金等の触媒活性物質の焼結であり、第2に炭素の腐食である。触媒活性物質の焼結は比較的低電位で起こり、そして、炭素の腐食は、例えば、1Vを超えるより高い電位で起こる。燃料電池の運転中に、1.5Vまでの電位ピークで非常に短時間でさえ大量の炭素が腐食して分離し得るので、炭素の腐食は重大な意味を持つ。炭素の腐食の結果として、第1に、性能の低下をもたらし得る電極構造の変化があり、第2に、触媒活性物質への結合が損なわれ得る。その結果として、対応する触媒活性粒子がもはや触媒反応に利用できなくなり、そのうえ、その系から排出され得る。それは、性能の低下を引き起こすだけでなく、特に貴金属が使用される場合は、大きなコスト要因になり得る。
【0034】
腐食安定な担体の事前選択を行うために、加速劣化試験を実施することができる。こうして、触媒の変わりにその担体のみがカソード側で使用され、且つ窒素の加湿流がキャリアガスとして空気流の代わりに導入される燃料電池の構成におけるその担体の腐食安定性を試験することができる。1.1V又は1.2V等の、少なくとも1Vの電圧が施され、炭素担体の酸化により生成されてガス流中に排出されたCO2が測定され、そして担体の炭素の損失へと変換される。測定は通常、180℃等の昇温下で実施する。なぜなら、J. Power Sources,2008,444頁によると、この場合腐食速度が室温よりも約4桁も速いからである。
【0035】
例1:
DenkaBlackカーボンブラックの表面を改質するために、22gのアンモニウムヘプタタングステン酸塩を580gの水に溶解し、そこに15gのDenkaBlackカーボンブラックを加えた。混合物を30分間8000rpmでUltra−Turraxを用いて均質化した。カーボンブラック懸濁液をロータリーエバポレーターで濃縮し、窒素下において1500℃で6時間、400℃1時間の中間温度工程をはさみつつ管状炉中で加熱した。
【0036】
タングステンの担持は47%であった。X線回折では、2つのタングステン炭化物相が観察された:WCは約40nmの粒径を有し、W2Cは約23nmの粒径を有する。この方法により製造した表面改質炭素担体を、以降、WC/Denkaと呼ぶことにする。
【0037】
白金触媒を製造するために、このようにして製造した担体7.0gを500mlの水に分散させ、15分間8000rpmでUltra−Turraxを用いて均質化した。5.13gの白金硝酸を100mlの水に溶解し、ゆっくりと担体分散液に添加した。200mlの水と800mlのエタノールを続いてその混合物に添加し、混合物を6時間還流した。一晩冷却した後、懸濁液を濾過し、固体を熱水2lで洗浄して硝酸塩を無くし、減圧下で乾燥させた。白金担持は29.8%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは3.4nmであった。
【0038】
例2:
カーボンブラックC2(AT325 from Evonik Degussa GmbH)の表面を改質するために、5.9gのアンモニウムヘプタタングステン酸塩を580gの水に溶解し、16gのカーボンブラックC2をそこに添加した;全体を8000rpmで30分間Ultra−Turraxを用いて均質化した。カーボンブラック懸濁液をロータリーエバポレーターで濃縮し、窒素下において1500℃で6時間、400℃1時間の中間温度工程をはさみつつ管状炉中で加熱した。
【0039】
タングステンの担持は16%であった。X線回折では1つのタングステン炭化物相が観察された:WCは約65nmの結晶子の大きさを有していた。
【0040】
白金触媒を製造するために、このように製造した10.5gの担体を、500mlの水に分散させ、15分間8000rpmでUltra−Turraxを用いて均質化した。7.77gの白金硝酸を100mlの水に溶解し、ゆっくりと担体分散液に添加した。その後500mlの水と450mlのエタノールをその混合物に添加し、混合物を6時間還流した。一晩冷却した後、懸濁液を濾過し、固体を熱水2lで洗浄して硝酸塩を無くし、減圧下で乾燥させた。白金担持は28.4%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは3.1nmであった。
【0041】
比較例1
7.0gのカーボンブラックC1(XMB206 from Evonik Degussa GmbH)を500mlの水に分散し、15分間8000rpmでUltra−Turraxを用いて均質化した。5.13gの白金硝酸を100mlの水に溶解し、ゆっくりとカーボンブラック分散液に添加した。その後、200mlの水と800mlのエタノールを混合物に添加し、混合物を6時間還流した。一晩冷却した後、懸濁液を濾過し、固体を熱水2lで洗浄して硝酸塩を無くし、減圧下で乾燥させた。白金担持は27.1%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは3.4nmであった。
【0042】
比較例2
調整はカーボンブラック担体を除いては、比較例1に記載した方法と同様の方法で行った。カーボンブラックC2をカーボンブラックC1の代わりに使用した。白金担持は27.4%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは3.1nmであった。
【0043】
比較例3
表面の改質を実施例2に記載した方法と同様の方法で行なったが、カーバイド化工程を(WO2006/002228と類似の)850℃の温度で6時間、400℃で1時間の中間温度工程をはさみつつ実施した。タングステン担持は7%であった。計算値20%であった、すなわち、タングステンを定量的に付着させることができなかった。タングステンカーバイド相はXRDにおいて観察されず、H2WO4*H2Oのみが観察された。
【0044】
このようにして製造した白金触媒は、(例2と類似の)28.9%の白金担持を有し、3.4nmの平均結晶子サイズを有していた。
【0045】
比較例3*
調製をWO2006/002228に記載された方法と類似の方法で行った。この目的のために、8gのVulcan XC72を1000gの水に懸濁し、8000rpmで30分間、Ultra−Turraxを用いて均質化した。3.2gのタングステン酸アンモニウムを200mlの水に溶解し、ゆっくりと懸濁液に添加した。さらに750mlの水を混合物に添加し、混合物を4時間還流した。その後、30.4gのNaBH4を100mlの水に溶解し、気体の活発な放出と共に1時間に亘って滴下し、混合物をさらに20分間還流した。反応混合物を濾過し、固形物を2lの水で洗浄した。まだ湿った濾過ケーキを管状炉で、最初に100℃で1時間、次いで900℃で1時間加熱した。
【0046】
白金触媒をこのようにして製造した担体上に製造した。白金担持は28.2%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは2.0nmであった。タングステンのわずかな痕跡(0.05%)を検出することができた。
【0047】
比較例4
調整はカーボンブラック担体を除いて、比較例1に記載した方法と類似の方法で行った。カーボンブラックXC72をカーボンブラックC1の代わりに使用した。白金担持は27.7%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは1.9nmであった。
【0048】
比較例5:
調整はカーボンブラック担体を除いて、比較例1に記載した方法と類似の方法で行った。 DenkaBlackカーボンブラックをカーボンブラックC1の代わりに使用した。白金担持は27.7%であり、XRDにおける平均結晶子サイズは3.7nmであった。
【0049】
4つの異なる炭素担体のための質量の損失を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
カーボンブラックC1はEvonik Degussa GmbHからのXMB206であり、カーボンブラックC2はEvonik Degussa GmbHからのAT325であり、そしてWC/Denkaは実施例1の記載のように製造した表面改質炭素担体である。
【0052】
サンプルC1とWC/Denkaの腐食速度が、大きくは違わないことが理解できる。よって、それぞれの担体を含有する触媒の間に観察された相違は、触媒粒子と担体との間の相互作用からのみ生じる。
【0053】
電極触媒の性能低下もまた、加速劣化試験によって推定することができる。したがって、例えば、酸素の還元(カソード反応)に関する触媒活性は、電位サイクルの前後で測定することができる。性能の低下を測定するために、0.5〜1.3Vの間の150電位サイクルを酸素飽和電解質中で50mV/sの速度で行った。結果を表2に示す。表2中、WC/DenkaはDenkaBlackカーボンブラック上のタングステン炭化物であり、WC/C1は、カーボンブラックC1上のタングステン炭化物であり、WC/CカーボンブラックC2上のタングステン炭化物である。
【0054】
【表2】

【0055】
例1及びWC/Denka等、触媒無しの試験及び触媒活性物質を用いた試験の比較は、それぞれの担体を用いた触媒が純粋な担体のほぼ等しい大きな腐食にもかかわらず、大きな違いを示すことを示している。
【0056】
純粋な炭素担体の場合、すなわち、タングステン炭化物層を含まない担体の場合、触媒が施されていない純粋な炭素の腐食及び施された触媒の性能の低下の結果は、同じ分解メカニズムが想定できるので相互に関連を有する。
【0057】
金属炭化物層の施用が性能の低下にもまた影響を及ぼすことを、例1及び例2から理解することができる。より金属炭化物が担体に施されるほど、性能の低下はより小さくなる。さらに、WO−A 2006/002228等により公知の金属炭化物の製造方法では、担体の耐食性を向上させるためには不十分であることがわかった。これは、比較例2及び3、又は3*から理解することができる。
【0058】
図は、電気化学プロセスへの暴露前後の従来技術に係る触媒及び本発明に係る触媒をそれぞれの場合に表わした透過型電子顕微鏡写真を示している。
図1は、電気化学プロセスへの暴露前の比較例1による触媒を示しており、
図2は、電気化学プロセスへの暴露後の比較例1による触媒を示しており、
図3は、電気化学プロセスへの暴露前の例1による触媒を示しており、
図4は、電気化学プロセスへの暴露後の例1による触媒を示している。
図中、被覆されていない担体が符号1で示され、炭化物で被覆された担体が符号3で示され、白金粒子が符号2で示されている。
【0059】
電気化学プロセスへの暴露前後に同一の触媒領域を試験した透過型電子顕微鏡写真(TEMs)を例1と比較例1の触媒で撮影した。電気化学プロセスへの暴露は、0.4及び1.4Vの間での1V/sの増加で3600電位サイクルを用いて達成した。
【0060】
電極触媒は、同じ担体安定性にもかかわらず、電極触媒が大きく異なることがTEMsからわかる。比較例1による純粋な炭素担体上の、電気化学プロセスへの暴露前の図1及び電気化学プロセスへの暴露後の図2は、白金粒子2が担体1から脱離し、それゆえ触媒反応が失われたことを示している。対照的に、例1による炭化物層を有する担体3の場合は、担体への白金粒子2の結合が保持されていることがわかる。これは、電気化学プロセスへの暴露前の例1の触媒を表した図3及び電気化学プロセス後の例1の触媒を表した図4で理解することができる。
【0061】
炭素担体からの白金の脱離の結果として、非常に耐食性のある炭素担体上であっても電極触媒の性能の大幅な低下が予想される。これに対抗するために、担体への白金粒子の密着性の向上が必要である。これは、炭化物層を用いた炭素表面の本発明に係る改質によって達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性物質及び炭素含有担体を含む触媒の製造方法であって、
以下の工程:
(a)金属塩溶液に炭素含有担体を含浸させる工程、
(b)金属塩溶液が含浸した炭素含有担体を、不活性雰囲気中で1200℃の温度に加熱して金属炭化物層を形成する工程、
(c)金属炭化物層を備えた炭素含有担体に触媒活性物質を施す工程
を含む方法。
【請求項2】
炭素含有担体を含浸させる金属塩溶液が化学量論量で添加される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属塩溶液の金属が、タングステン、モリブデン、又はこれらの金属の少なくとも1種を含む混合物若しくは合金である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属塩溶液が、タングステン酸塩溶液である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(b)における加熱が、不活性雰囲気中で実施される請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
触媒活性金属が、白金属の金属であるか、或いは白金属の少なくとも1種の金属を含有する合金である請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
白金族の少なくとも1種の金属を含む合金が、PtNi、PtFe、PtV、PtCr、PtTi、PtCu、PtPd、PtRu、PdNi、PdFe、PdCr、PdTi、PdCu及びPdRuからなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
白金族の金属が、白金又はパラジウムである請求項6に記載の方法。
【請求項9】
触媒活性物質を、還元析出により、又はH2/N2ガス混合物中での分解及び還元により、金属炭化物層を備える炭素含有担体に施す請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
炭素含有担体が250m2/g以下のBET表面積を有する請求項1〜9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の方法により製造された触媒であって、
炭素含有担体と触媒活性物質を含有し、
該炭素含有担体は、金属炭化物層を有し、
前記触媒活性物質は、該金属炭化物層を備える炭素含有担体に施されていることを特徴とする触媒。
【請求項12】
炭素含有担体が、250m2/g以下のBET表面積を有する請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
触媒活性物質が白金属の金属であるか、又は白金属の少なくとも1種の金属を含有する合金である請求項11又は12に記載の触媒。
【請求項14】
白金族の少なくとも1種の金属を含む合金が、PtNi、PtFe、PtV、PtCr、PtTi、PtCu、PtPd、PtRu、PdNi、PdFe、PdCr、PdTi、PdCu及びPdRuからなる群から選択される請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
金属炭化物層の金属が、タングステン及び/又はモリブデンを含む請求項11〜14の何れかに記載の触媒。
【請求項16】
燃料電池の電気触媒として請求項11〜15の何れかに記載の触媒を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−518710(P2013−518710A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551724(P2012−551724)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050471
【国際公開番号】WO2011/095943
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】