説明

触媒層形成用ペースト、これを使用する固体高分子型燃料電極の製造方法、及び固体高分子型燃料電極

【課題】加熱や高加速電圧の電子線照射による電解質膜や水素イオン伝導性高分子電解質の劣化、それによる電極の耐久性能の低下、有機溶媒による電解質膜の膨張及び変形、及び乾燥時間及び乾燥炉スペースの問題を排除した固体高分子型燃料電極の製造方法を提供することを目的とする
【解決手段】有機溶媒を含有しない触媒層形成用ペースト、及び当該ペーストを使用し、低加速電圧の電子線照射によって短時間で電解質膜表面に触媒層を形成させることができる固体高分子型燃料電極の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層形成用ペースト、該ペーストを使用する固体高分子型燃料電極の製造方法、及び固体高分子型燃料電極に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の電極として用いられる固体高分子型燃料電極は、一般に触媒層及び電解質膜からなる積層構造を有する。この電極を製造する工程において、電解質膜上に触媒層を形成させる方法には、転写方式、静電複写方式、スプレー塗布方式、インクジェット塗布方式等が知られている。
【0003】
転写方式とは、有機溶媒に溶解又は分散した触媒材を電解質膜に塗布、乾燥させた後、熱圧することにより電解質膜上に触媒層を形成させる方法である(例えば、特許文献1)。本方式は、工程が複雑であり、触媒材の塗布後の乾燥にも時間を要し、また、高速塗工をする場合には広大な乾燥炉スペースを必要とするために、生産効率が悪いという問題がある。さらに、熱圧による転写は、電解質膜の熱による劣化や、圧着による触媒粒子の電解質膜への物理的な突き刺さりを生じるため、電極の耐久能が低下してしまうという問題もある。その上、有機溶媒によって電解質膜が膨張、変形してしまい、均一な膜厚形成が困難になる結果、製品の性能にバラツキが生じ、一定品質の電極を製造することができないという問題もある。
【0004】
静電複写方式とは、触媒材を含有する電荷を帯びたトナー及び反対電荷を付与した電解質膜からなる転写シートを用いて、転写シート上にトナーを静電気的に吸着させる方法である。本方法も複雑な工程が必要なため、生産効率が悪く、またトナーの定着に熱処理を必要とするため、前記転写方式と同様に電解質膜の熱による劣化という問題を抱えている。
【0005】
スプレー塗布方式及びインクジェット塗布方式は、いずれも有機溶媒に溶解又は分散させた触媒材を電解質膜上に直接吹き付けて、その後、乾燥させることによって触媒層を形成させる方法である。乾燥を促進させるために塗布後の電解質膜を40℃〜50℃に曝露させるが、低温ゆえに乾燥に数十秒〜数分を要し、生産効率が悪いという問題がある。また、有機溶媒を使用するため、電解質膜の膨張、変形、及び電極劣化の問題もある。さらに、インクジェット塗布方式は、ノズル径が50μm以下と細いためノズル詰まりが頻発する。それ故、安定的な塗布が困難という問題がある。この問題を解決するため通常は高沸点の有機溶媒が使用されるが、これは塗布後の乾燥がさらに遅延してしまうという新たな問題を引き起こしている。
【0006】
近年、転写方式においては、電子線硬化型モノマー及び/又はオリゴマー並びに溶剤を用いて触媒層を電解質膜に形成させる方法が提案されている(特許文献2)。この方法は、塗布後の触媒層が未乾燥状態であっても電子線照射により短時間で硬化できるため、生産効率を向上できる。しかし、本方法も溶剤としてアルコール類等の有機溶媒を使用することから、電解質膜の膨張、変形の問題は回避できず、さらに、電解質膜へ照射される電子線が180kVの高い加速電圧を利用することから、電子線による電解質膜の劣化が生じてしまい、電極の耐久性能が低下するという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特公平2−48632号公報
【特許文献2】特開2004−165073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題点を解決するために、有機溶媒を使用しない触媒層形成用ペースト、当該ペーストを使用し、低加速電圧の電子線照射によって短時間で電解質膜表面に触媒層を形成させることができる固体高分子型燃料電極の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明は以下の特徴を包含する。
(1)触媒を担持した炭素粒子を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆した電解質被覆炭素粒子及び電子線硬化型樹脂を含有し、かつ有機溶媒を含有しない触媒層形成用ペースト。
(2)水素イオン伝導性高分子電解質が、パーフルオロスルホン酸系フッ素イオン交換樹脂である、(1)に記載の触媒層形成用ペースト。
(3)電子線硬化型樹脂が電子線硬化型オリゴマー、又は電子線硬化型オリゴマー及び電子線硬化型モノマーの混合物である、(1)又は(2)に記載の触媒層形成用ペースト。
【0010】
(4)触媒が白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、イリジウム、モリブデン、鉄、及びコバルトからなる群より選ばれる一以上の金属である、(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒層形成用ペースト。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の触媒層形成用ペーストを電解質膜表面に直接塗布して該膜表面上に塗膜を形成させる工程、及び前記塗膜に低加速電圧電子線を照射して該塗膜を硬化させる工程を含む固体高分子型燃料電極の製造方法。
(6)前記電子線の加速電圧が30〜70kVである、(5)に記載の製造方法。
(7)塗膜硬化工程が化学的に不活性なガス雰囲気下で行われる、(5)又は(6)に記載の製造方法。
【0011】
(8)前記塗布が、ダイコータ、バーコータ、ナイフコータ、ディップコータ、スピンコータ、ロールコータ、カーテンコータ、及びスクリーン印刷からなる群より選択される方法で行われる、(5)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)触媒を担持した炭素粒子を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆した電解質被覆炭素粒子が電子線硬化型樹脂により電解質膜表面上に固着された固体高分子型燃料電極。
(10)水素イオン伝導性高分子電解質が、パーフルオロスルホン酸系フッ素イオン交換樹脂である、(9)に記載の固体高分子型燃料電極。
【0012】
(11)電子線硬化型樹脂が電子線硬化型オリゴマー、又は電子線硬化型オリゴマー及び電子線硬化型モノマーの混合物である、(9)又は(10)に記載の固体高分子型燃料電極。
(12)触媒が白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、イリジウム、モリブデン、鉄、及びコバルトからなる群より選ばれる一以上の金属である、(9)〜(11)のいずれかに記載の固体高分子型燃料電極。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一の実施形態によれば、有機溶媒を含有しない触媒層形成用ペーストを提供することができる。本ペーストは、電解質膜上に塗布しても電解質膜の膨張及び変形を発生させない利点を有する。
【0014】
本発明の他の実施形態によれば、前記触媒層形成用ペーストを用いた固体高分子型燃料電極の製造方法を提供することができる。本製造方法は、低加速電圧の電子線照射によって電解質膜表面に触媒層を形成させることができることから、電子線による電解質膜劣化の抑制、及び乾燥時間の短縮が可能となり、生産効率を向上させることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(触媒層形成用ペースト)
本発明の一の実施形態は、電解質被覆炭素粒子及び電子線硬化型樹脂を含有し、かつ有機溶媒を含有しない触媒層形成用ペーストである。本実施形態の触媒層形成用ペーストは、従来の触媒層形成用ペーストと異なり、有機溶媒を包含しないことを特徴とする。以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明において「電解質被覆炭素粒子」とは、触媒を担持した炭素粒子を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆した粒子をいう。
【0017】
前記「触媒」は、触媒活性を有する物質であれば特に限定はしないが、好ましくは白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、モリブデン、鉄、及びコバルトの金属である。これらの金属触媒は、単一種で使用してもよいし、2種以上を組み合わせた合金として使用することもできる。白金族金属、すなわち、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウムから選択される2種以上の金属からなる合金は、特に好ましい。
【0018】
炭素粒子に前記触媒を担持させる方法は、当該分野で公知の方法を利用することができる。例えば、特開2007−165042に記載されている方法に準じて行えばよい。本発明の触媒を担持した炭素粒子は、粒子全体の10〜70%、好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜60%が触媒を担持していればよい。
【0019】
前記「水素イオン伝導性高分子電解質」とは、プロトン伝導性のイオン交換高分子電解質であって、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、又は有機/無機複合化合物が挙げられる。前記パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂は、例えば、スルホ基(−SOH)及び/又はカルボキシル基(−COOH)を有するパーフルオロビニルエーテルを基礎とする重合単位、並びにテトラフルオロエチレンを基礎とする重合単位を含む共重合体を含む。具体的な例としては、ナフィオン(登録商標)が挙げられる。また、前記有機/無機複合化合物は、炭化水素系高分子(例えば、ポリビニルアルコールを主体とする)と無機化合物(例えば、タングステン酸)が複合化した化合物からなる物質である。
【0020】
本発明において「電子線硬化型樹脂」とは、電子線に反応するビニル基、アクリル基、アリル基等の官能基を一以上包含する樹脂をいう。例えば、電子線硬化型モノマー、又は電子線硬化型オリゴマー及び電子線硬化型モノマーの混合物が該当する。電子線硬化型樹脂は、アクリル系のモノマー、又はアクリル系のオリゴマー及びモノマーの混合物であることが好ましい。アクリル系のオリゴマー及びモノマーの具体例としては、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、アルキド樹脂(メタ)アクリレート、シリコーン樹脂(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル系含燐化合物等のプレポリマー及び/又はオリゴマー等が挙げられる。ここで、前記ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエステル(エチレングリコール−アジピン酸)−トリレンジイソシアナート−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(ポリエチレングリコール)−トリレンジイソシアナート−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルフタリル(メタ)アクリレート−キシレンジイソシアナート、1,2−ポリブタジエングリコール−トリレンジイソシアナート−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−プロピレングリコール−トリレンジイソシアナート−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、トリス(β−(メタ)アクリロイロキシエチル)イソシアヌレートを包含する。また、前記エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、ビスフェノールA−エピクロルヒドリン−(メタ)アクリル酸、フェノールノボラック−エピクロルヒドリン−(メタ)アクリル酸を包含する。さらに、前記ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば、アジピン酸−1,6−ヘキサンジオール−(メタ)アクリル酸、無水フタル酸−プロピレンオキシド−(メタ)アクリル酸、トリメリット酸−ジエチレングリコール−(メタ)アクリル酸を包含する。前記アルキド樹脂(メタ)アクリレートは、具体的には、トリメチロールプロパン−アジピン酸−水素添加ヒマシ油脂肪酸−(メタ)アクリル酸、スピラン樹脂(メタ)アクリレートを包含する。そして、前記シリコーン樹脂(メタ)アクリレートは、例えば、ポリシロキサン(メタ)アクリレート、ポリシロキサン−ジイソシアナート−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを包含する。
【0021】
前記電子線硬化型オリゴマーは、単独で使用してもよく、又は複数種を混合して使用することもできる。さらに前記電子線硬化型オリゴマー及び電子線硬化型モノマーの混合物についても、オリゴマー、モノマーをそれぞれ単独で使用しても、又は複数種を混合して使用してもよい。
【0022】
本発明の触媒層形成用ペーストの製造方法の具体例を以下に示す。ただし、本製造方法は、これに限定されるものではなく、触媒を担持した炭素粒子を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆できるあらゆる公知技術を包含するものとする。
【0023】
1.電解質被覆炭素粒子の調製
電解質被覆炭素粒子の調製例は以下の通りである。まず、水素イオン伝導性高分子電解質溶液を調製する。本溶液は、例えば、前記水素イオン伝導性高分子電解質(固形成分)、有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒)をそれぞれ重量%で10〜30%、70〜30%とし、残りの%を水で混合し、調製することができる。市販の水素イオン伝導性高分子電解質溶液を使用してもよい。次に、触媒を担持した炭素粒子、水素イオン伝導性高分子電解質溶液をそれぞれ重量%で5%〜30%、15%〜40%、好ましくはそれぞれ10%〜20%、10%〜30%とし、残りの%を水で混合し、超音波ホモジナイザー等により分散混合溶液を調製する。その後、本分散混合溶液を、公知技術(例えば、スプレードライヤー装置等の噴霧乾燥機)を利用して粉末化する。このとき、水素イオン伝導性高分子電解質溶液に含有する有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒)を揮発等によって完全に除去した状態にしておく。以降の触媒層形成用ペーストに有機溶媒を混在させないためである。これによって、電解質被覆炭素粒子を得ることができる。
【0024】
2.触媒層形成用ペーストの調製
前記1で調製された電解質被覆炭素粒子、及び電子線硬化型樹脂を混合し、調合分散機等により調合することで本発明の触媒層形成用ペーストを調製することができる。このとき使用する溶媒は、非有機溶媒、例えば、水である。電解質被覆炭素粒子と電子線硬化型樹脂の混合比は、必要に応じて適宜定めればよく、特に限定しない。例えば、電解質被覆炭素粒子を10〜40%、電子線硬化型樹脂を60〜40%、残りを水とすることもできる。
【0025】
本発明の触媒層形成用ペーストによれば、有機溶媒を含有しないことから塗布後の電解質膜への浸透がない。したがって、本発明の触媒層形成用ペーストを使用することで、電解質膜の膨潤による変形や劣化を抑制することができ、耐久性能の高い固体高分子型燃料電極を作製することが可能となる。電極の耐久性の向上は、結果的に固体高分子型燃料電池そのものの耐久性能の向上に繋がる。また、本発明の触媒層形成用ペーストは、使用に際して大気中への有機溶媒の揮発がなく、環境に対する影響も少ないという利点も有する。
【0026】
(固体高分子型燃料電極の製造方法)
本発明の他の実施形態は、固体高分子型燃料電極の製造方法である。本製造方法の概念図を図1で示す。この図で示すように、本製造方法は、塗膜形成工程(A)、及び塗膜硬化工程(B)を含む。本図では、以下で説明するダイコータを用いて触媒層形成用ペーストを電解質膜に塗布する方法を例示している。以下、図1を用いてそれぞれの工程について説明する。
【0027】
(A)塗膜形成工程
塗膜形成工程とは、前記実施形態の触媒層形成用ペースト(003)を電解質膜(001)表面上に直接塗布して該膜表面上に塗膜(004)を形成させる工程である。
【0028】
ここでいう「電解質膜」(001)とは、水素イオン、すなわちプロトンを伝導する性質を有する高分子からなる膜、すなわち水素イオン伝導性高分子電解質膜をいう。膜状形態であることを除けば、実質的には、触媒層形成用ペーストの構成成分である水素イオン伝導性高分子電解質と同様の性質を有する物質から成る。ただし、本製造方法において、両者を必ずしも同一の物質にする必要はなく、水素イオン伝導性高分子電解質であれば異なる物質を組み合わせても構わない。本電解質膜の膜厚は、膜の強度、並びに収納及び取り扱いの利便性を考慮して適宜定めればよい。通常、5μm〜200μm、好ましくは10μm〜150μm、より好ましくは20μm〜100μmの膜厚が有用である。
【0029】
電解質膜表面上に触媒層形成用ペーストを直接塗布する方法は、公知技術を用いればよい。例えば、スリット状の幅広ノズル(002)から触媒層形成用ペーストを電解質膜上に吐出するダイコータ、電解質膜を触媒層形成用ペーストに浸漬して引き上げるディップコータ、アプリケータロールと他のロールとの間に形成された触媒層形成用ペーストの液溜まりに電解質膜を通すロールコータ、触媒層形成用ペーストの液溜まりを通過したキスロールに電解質膜を接触させて塗布するキスコータ、ドクターブレードにより電解質膜表面上に塗布する触媒層形成用ペーストの量を規定するナイフコータ、触媒層形成用ペーストをカーテン状に流れ落として電解質膜に塗布するカーテンコータ、電解質膜を回転させながら触媒層形成用ペーストを滴下して遠心力により広げて均一膜化するスピンコータ、ステンレス線等を巻いたバーで余分な触媒層形成用ペーストを除去しながら電解質膜上に塗布するバーコータ、及びスクリーン印刷等を利用して塗布することができる。電解質膜上に触媒層形成用ペーストを均一の塗膜厚で塗布できる方法が好ましい。
【0030】
触媒層形成用ペーストを電解質膜の両面に塗布する順序は問わない。両面同時に塗布してもよいし、一方の面に塗布後、他方の面を塗布してもよい。使用する塗布方法に準じて、適宜定めればよい。
【0031】
前記塗布方法により、電解質膜上に触媒層形成用ペーストの塗膜が形成される。塗膜厚は、5μm〜40μm、好ましくは10μm〜30μmである。電解質膜の両面に塗布する触媒層形成用ペーストが同一種である場合、通常アノード側よりもカソード側の塗膜厚を厚くすることが好ましい。
【0032】
(B)塗膜硬化工程
塗膜硬化工程とは、前記塗膜形成工程において電解質膜表面に形成された塗膜に低加速電圧電子線(006)を照射して該塗膜を硬化させる工程である。
【0033】
電子線照射に用いる装置(005)は、既存の電子線硬化装置のうち低加速電圧の電子線照射が可能な装置であれば、いずれを使用することもできる。例えば、Min−EBシステム(東洋インキ/ウシオ電機)が利用できる。
【0034】
照射する電子線の加速電圧は、通常30〜70kV、好ましくは40〜60kVの範囲内、また照射時間は、通常0.2〜1.8秒、好ましくは0.5秒〜1.5秒の範囲内である。
【0035】
本工程は、化学的に不活性なガス雰囲気下で行われることが好ましい。触媒層形成用ペーストの硬化は、電子線照射によってペースト中の電子線硬化型樹脂のアクリル基等がラジカル重合することによって進行するが、この重合反応が酸素存在下では酸素によるラジカルのクエンチング反応により停止してしまうからである。「化学的に不活性なガス」とは、一般的には他の物質と反応しない、又は極めて反応し難いガスをいう。例えば、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、又はラドン)、二酸化炭素、フルオロカーボンが該当する。本工程は、電子線照射する空間内の気体成分における酸素濃度が、大気中のそれ(約21%)と比較して低くければよい。例えば、0〜20%、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%、最も好ましくは0%である。
【0036】
また、本工程は、室温下(例えば、0〜45℃、好ましくは10〜35℃、より好ましくは15〜30℃)で行うことができる。
【0037】
電子線照射装置(005)は、触媒層形成用ペーストを塗布する位置に近接して設置しておくことが好ましい。電解質膜上に塗膜形成後、できる限り短時間のうちに塗膜を硬化させるためである。これにより、乾燥時間を短縮し、製造スペースを減らし、かつ液垂れ等による塗膜厚(すなわち、硬化後の触媒層)の不均一性を防止することができる。
【0038】
前記電子線を照射することで塗膜が直ちに硬化し、触媒層(008)が電解質膜(001)表面に形成されることによって、目的の固体高分子型燃料電極(009)が得られる。
【0039】
本発明の固体高分子型燃料電極の製造方法によれば、低加速電圧での硬化が可能である。それ故、従来法の熱乾燥と比較し、エネルギー効率に優れる。
【0040】
本発明の固体高分子型燃料電極の製造方法によれば、触媒層形成用ペーストの硬化時間が1秒前後で足りるため、高速塗工(例えば、100m/分)が可能であり、生産効率を大幅に向上することができる。また、塗膜の乾燥を必要としないため、広大な乾燥炉スペースも不要である。
【0041】
本発明の固体高分子型燃料電極の製造方法によれば、室温での硬化が可能であり、かつ低加速電圧を使用することから、電解質膜や水素イオン伝導性高分子電解質の熱や高加速電圧による影響がほとんどない。それ故、耐久性の高い固体高分子型燃料電極の製造が可能である。したがって、本発明の製造方法による固体高分子型燃料電極を使用することで、電池性能の低下が生じ難く、かつ耐久性が高い固体高分子型燃料電池を製造することができる。
【0042】
本発明の固体高分子型燃料電極の製造方法によれば、電子線により触媒層形成用ペーストを硬化させるため、UV硬化と異なり、塗膜厚、又は着色塗膜のような塗膜の色相による影響を受けることなく硬化させることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、具体的例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本実施例は、単なる例示であって、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0044】
(1)電解質被覆炭素粒子の調製
まず、水素イオン伝導性高分子電解質溶液を、ナフィオン(登録商標)固形成分、アルコール系溶媒、及び純水をそれぞれ20重量%、50重量%、及び30重量%で混合して調製した。次に、触媒の白金を60%担持した炭素粒子のケチェンブラック、前記水素イオン伝導性高分子電解質溶液、及び純水をそれぞれ13重量%、19重量%、及び68重量%で混合し、超音波ホモジナイザーにより分散溶液を調製した。続いて、前記分散溶液をスプレードライヤー装置を用いて乾燥、粉末化した。スプレードライヤー装置の触媒粉末化条件は、入口温度:120℃、出口温度:80℃、熱風流量:フィルター部70m/分;オリフィス部60m/分、噴霧圧力:1kgf/cm、試料溶液:120g、試料溶液送液時間:20分間、ノズル直径:0.4mmとした。以上により、電解質被覆炭素粒子を得た。
【0045】
(2)触媒層形成用ペーストの調製
前記(1)で調製した電解質被覆炭素粒子、電子線硬化型モノマー(トリプロピレングリコールジアクリレート)及びオリゴマー(エポキシアクリレート、及びポリエステルアクリレート)を調合分散機で調合し、触媒層形成用ペーストを調製した。各構成成分の組成比は、電解質被覆炭素粒子を30重量%、トリプロピレングリコールジアクリレートを30重量%、エポキシアクリレートを30重量%、及びポリエステルアクリレートを10重量%とした。以上により、触媒層形成用ペーストを得た。
【0046】
(3)塗膜形成工程
前記(2)で調製した触媒層形成用ペーストを電解質膜(ナフィオン112)の片面に、ダイコータを用いて塗布速度20m/分で塗布し、塗膜を形成させた。塗膜厚は20μmとなるように調整した。当該塗布面がカソード側となる。
【0047】
(4)塗膜硬化工程
前記(3)で塗膜を形成させたのち、直ちに電子線硬化装置により窒素雰囲気下で電子線を照射し、塗膜を硬化させた。塗膜は約1秒で硬化した。なお、電子線硬化装置の仕様及び電子線照射条件は、以下の通りである。
【0048】
<電子線硬化装置の仕様>
1.装置(Min−EBシステム)
(1)本体:幅650mm×奥行き650mm×高さ900mm
(2)電源・制御部:幅480mm×奥行き600mm×高さ750mm
2.照射管使用本数:20本
3.照射管電流:12mA(20本合計)
4.照射幅:約21cm(ウエブ幅:約33cm)
【0049】
<電子線照射条件>
1.電子線加速電圧:50KV
2.照射線量:5Mrad
3.照射時間:1秒
【0050】
その後、電解質膜の他方の面(アノード側)についても、塗膜厚を除き、前記(3)及び(4)と同様の手順で触媒層を形成させた。アノード側の塗膜厚は、15μmとなるように調整した。以上によって、電解質膜の両面に触媒層が硬化形成された固体高分子型燃料電極を作製した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の固体高分子型燃料電極の製造方法を示す概念図
【符号の説明】
【0052】
(010)巻き出し機
(011)巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持した炭素粒子を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆した電解質被覆炭素粒子及び電子線硬化型樹脂を含有し、かつ有機溶媒を含有しない触媒層形成用ペースト。
【請求項2】
水素イオン伝導性高分子電解質が、パーフルオロスルホン酸系フッ素イオン交換樹脂である、請求項1に記載の触媒層形成用ペースト。
【請求項3】
電子線硬化型樹脂が電子線硬化型オリゴマー、又は電子線硬化型オリゴマー及び電子線硬化型モノマーの混合物である、請求項1又は2に記載の触媒層形成用ペースト。
【請求項4】
触媒が白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、イリジウム、モリブデン、鉄、及びコバルトからなる群より選ばれる一以上の金属である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒層形成用ペースト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒層形成用ペーストを電解質膜表面に直接塗布して該膜表面上に塗膜を形成させる工程、及び
前記塗膜に低加速電圧電子線を照射して該塗膜を硬化させる工程
を含む固体高分子型燃料電極の製造方法。
【請求項6】
前記電子線の加速電圧が30〜70kVである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
塗膜硬化工程が化学的に不活性なガス雰囲気下で行われる、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記塗布が、ダイコータ、バーコータ、ナイフコータ、ディップコータ、スピンコータ、ロールコータ、カーテンコータ、及びスクリーン印刷からなる群より選択される方法で行われる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
触媒を担持した炭素粒子を水素イオン伝導性高分子電解質で被覆した電解質被覆炭素粒子が電子線硬化型樹脂により電解質膜表面上に固着された固体高分子型燃料電極。
【請求項10】
水素イオン伝導性高分子電解質が、パーフルオロスルホン酸系フッ素イオン交換樹脂である、請求項9に記載の固体高分子型燃料電極。
【請求項11】
電子線硬化型樹脂が電子線硬化型オリゴマー、又は電子線硬化型オリゴマー及び電子線硬化型モノマーの混合物である、請求項9又は10に記載の固体高分子型燃料電極。
【請求項12】
触媒が白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、イリジウム、モリブデン、鉄、及びコバルトからなる群より選ばれる一以上の金属である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電極。

【図1】
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【公開番号】特開2010−140713(P2010−140713A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314471(P2008−314471)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】