説明

触媒活性の銀−酸化バナジウム−青銅への触媒前駆体の反応

記載されているのは、不活性担体、有機炭素源、および銀とバナジウムを含む複合金属酸化物を含む触媒前駆体を、不活性担体、および触媒活性の銀−酸化バナジウム−青銅を含む気相酸化触媒へと反応させる方法であって、触媒前駆体を10体積%未満の酸素を含むガス雰囲気中、少なくとも350℃の温度下で熱処理し、その際熱処理の前に炭素源を触媒前駆体中で臨界量を下回る値に調整する。炭素含有量の減少は、酸素含有雰囲気中、80〜200℃の温度下での燃焼により、炭素源の一部の分解のもと行われる。得られた触媒は、芳香族炭化水素から、アルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物への気相部分酸化に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性の銀−酸化バナジウム−青銅を用いた気相酸化触媒への、とりわけ芳香族炭化水素のアルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物への気相部分酸化のための触媒への、複合金属酸化物触媒前駆体の反応方法に関する。
【0002】
多くのアルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物は工業的に、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、またはp−キシレン、ナフタリン、トルエン、またはデュレン(1,2,4,5−テトラメチルベンゼン)の接触気相酸化によって固定床反応器内で製造する。出発材料によって、例えばベンズアルデヒド、安息香酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、または無水ピロメリット酸が得られる。これに加えて、酸素含有気体、例えば空気、および酸化すべき出発物質を、反応器内に配置された、少なくとも1の触媒の堆積物が存在する多数の導管によって案内する。
【0003】
WO00/27753、WO01/85337、およびWO2005/012216には、酸化銀、および酸化バナジウムを含む複合金属酸化物が記載されている。熱処理の際に複合金属酸化物を、芳香族炭化水素の部分的な酸化を触媒反応させる銀−酸化バナジウム−青銅へと反応させる。銀−酸化バナジウム−青銅とは、1未満のAg:Vの原子比を有する、銀−酸化バナジウムの化合物と理解される。一般的には、半導電性または金属導電性であり、好ましくは層構造状またはトンネル構造状に結晶化する固体酸化物であり、その際[V25]のホスト格子中のバナジウムは、部分的にV(IV)に還元されて存在する。複合金属酸化物の、銀−酸化バナジウム−青銅への熱的な反応は一連の還元反応および酸化反応を介して進行するが、詳細はまだ理解されていない。
【0004】
実地では、複合金属酸化物を層として不活性の担体上に施与し、その際いわゆる触媒前駆体が得られる。活性触媒への触媒前駆体の反応は、たいてい現場での酸化反応器中、芳香族炭化水素の、アルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物への酸化の条件の下で行われる。触媒の熱による損傷を避けるために、現場での反応の際、酸化すべき非常に低い価数の炭化水素を有する気体流の炭化水素負荷をゆっくりと上昇させ、その際触媒堆積物中のホットスポット温度を制御する。通常は、生産的な炭化水素の酸化が行われる最終的な負荷に達するまで、数日または数週間にわたる。
【0005】
説明したように、現場での触媒前駆体の反応は、時間のかかるプロセスである。その上、プロセスを開始するための僅少な炭化水素量の正確な供給は、非常に難しい。従って触媒前駆体を気相酸化反応器の外部で適切に前処理し、その結果生産的な気相酸化を直接、触媒設置の後に始めることができるようにするのが望ましい。
【0006】
WO00/27753は、触媒前駆体の反応を、酸化反応器の外部でも200以上650℃までの温度下での熱処理によって行うことができることを開示しているが、その際影響するパラメータ、例えばガス雰囲気の組成、結合剤の有無、ならびに結合剤の種類および量を考慮しなければならない。最適な条件を、予備試験において確認するのが望ましい。これらの条件に関するより正確な記載は、この文献にはない。
【0007】
本発明は、触媒前駆体を酸化反応器の外部において活性な気相酸化触媒へと反応することができる、適切な方法を提供するという課題に基づく。
【0008】
この課題は本発明によれば、不活性担体、有機炭素源、および銀とバナジウムを含む複合金属酸化物を含む触媒前駆体を、不活性担体、および触媒活性の銀−酸化バナジウム−青銅を含む気相酸化触媒へと反応する方法であって、その際触媒前駆体を10体積%未満の酸素を含むガス雰囲気下、少なくとも350℃の温度で熱処理し、その際熱処理の前に触媒前駆体中の炭素源に関する量を、臨界量を下回る(0以外の)値に調整し、その臨界量は炭素源の量として規定され、その量から触媒前駆体の熱処理の際に、元素の銀への還元が行われる触媒前駆体の反応方法によって解決される。
【0009】
出発複合金属酸化物中、バナジウムが酸化状態5(バナジウム(V))で存在し、銀−酸化バナジウム−青銅中では、平均的なバナジウム酸化状態は典型的には4.5〜4.9、とりわけ4.6〜4.7である。
【0010】
本発明による熱処理によって得られる触媒は充分な耐摩耗性を示し、問題なく取り扱いでき、輸送でき、および反応管内に充填できる。
【0011】
熱処理が行われるガス雰囲気は、10体積%未満の、好適には3体積%未満の、とりわけ1体積%未満の(分子状の)酸素を含む。通常は、基本的に酸素不含の不活性ガス、好適には窒素を使用する。適切には、熱処理を気体流中で、好適には不活性ガス流中で実施する。
【0012】
熱処理は、すべての適切な装置中で例えば、触媒前駆体の堆積物が気体により貫流される、棚型加熱炉(Hordenoefen)、回転式加熱炉(Drehkugeloefen)、加熱可能な反応器中などで実施することができる。熱処理は少なくとも350℃、好適には少なくとも400℃、とりわけ400〜600℃の温度で行う。比較的高い温度は記載された範囲内で通常、銀−酸化バナジウム−青銅の比較的高い結晶性につながり、低いBET表面につながる。加熱速度は特に重要ではなく、1〜10℃/分が一般的に適している。熱処理の所要時間は一般的に0.5〜12時間であり、好適には1〜5時間である。
【0013】
触媒前駆体は有機炭素源を含む。炭素源は触媒前駆体の熱処理の際おそらく、複合金属酸化物中に含まれるバナジウム(V)のV(IV)への部分的な還元のための還元剤として用いられる。
【0014】
炭素源としては、触媒前駆体の製造の際、例えば細孔形成剤、または結合剤として使用される典型的な助剤が適している。一般的に重要なのは、(i)OH、C=O、およびNH2から選択されている少なくとも1の官能基を有する、2〜12の炭素原子を有する化合物、および/または(ii)OH、C=O、およびNH2から選択されている少なくとも1の官能基を有する、2〜12の炭素原子を有する繰り返し単位から構成されているポリマー化合物である。ケト基(C=O)は、カルボキサミド基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、または無水カルボン酸基の構成要素でもあり得る。好ましくは炭素源が、OH、C=O、およびNH2から相互に独立して選択されている少なくとも2の官能基を有する、2〜6の炭素原子を有する化合物から選択されている。
【0015】
適切な炭素源には、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリトリット、ペントース、ヘキソース、シュウ酸、シュウ酸アンモニウム、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、安息香酸、o−トリル酸、m−トリル酸、およびp−トリル酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンが挙げられる。
【0016】
適切な炭素源には、さらにポリマー、例えばポリアルキレングリコール、ポリアルキルアミン、多糖類、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル/ラウリン酸ビニルのコポリマー、酢酸ビニル/アクリル酸エステルのコポリマー、スチレン/アクリル酸エステルのコポリマー、酢酸ビニル/マレイン酸エステルのコポリマー、または酢酸ビニル/エチレンのコポリマーである。
【0017】
触媒前駆体中の炭素源の量を制御しなければならないことが判明した。炭素源の量が多すぎれば、触媒前駆体の熱処理の際、銀−酸化バナジウム−青銅が形成されず、複合金属酸化物中に含まれる銀イオンが元素の銀に還元される。銀−酸化バナジウム−青銅が暗緑色を有する一方、触媒上に析出した元素の銀は黒く見える。元素の銀の存在は、粉末X線回折図中でも、銀立方晶格子に分類されるべき回折反射の出現により確認することができる。意外なことに、元素の銀への還元は炭素源の量の閾値から急激に起こる。閾値は本願の目的のために「炭素源の臨界量」と表す。
【0018】
臨界量は炭素源の化学的性質に依存する。それは当業者により予備実験中で容易に算出できる。例えば、炭素源に関して所定の含有率を有する触媒前駆体の試験体量は熱処理(例えば窒素流中で490℃、4時間)にさらして、得られた触媒の元素の銀の出現を調べることができる。元素の銀への還元が行われたならば、当業者は(触媒前駆体の新しい試験体量中の)炭素含有率を(後段で記載する方法に従って)段階的に下げることができ、触媒前駆体をあらためて熱処理にさらすことがきる。この方法で、臨界量を容易に比較的少ない試験を手がかりに素早く限定することができる。
【0019】
好適には熱処理前の触媒前駆体中の炭素源の量を、2質量%未満(複合金属酸化物の質量に対する炭素として算出)の値に調整し、例えば0.5〜2質量%未満の範囲の値、特に好ましくは1.3質量%以下の値である。熱処理前の触媒前駆体中の炭素源の量は一般的に、複合金属酸化物の質量に対して少なくとも0.1質量%、たいてい0.5質量%である。
【0020】
炭素含有率は、正確に秤量した、触媒(前駆体)の活性材料の試験体を酸素流中で燃焼させ、形成された二酸化炭素を例えばIRセルを用いて定量的に検出することによって測定することができる。
【0021】
炭素源の含有率を適切に調整するために、当業者は触媒前駆体の製造の際必然的に、僅少な炭素含有率を有する細孔形成剤、結合剤、およびさらなる助剤を選択することができるか、もしくは炭素含有助剤を副次的な量でのみ使用することができる。しかしながら一般的に、担体上への複合金属酸化物の合理的な接着性、所望の細孔構造、および他の要素という観点では、触媒前駆体製造の際比較的多量の炭素含有助剤を使用することは必要不可欠である。
【0022】
従ってたいていの場合、触媒前駆体は当初、臨界量より多いか、またはこれに相応する量の、炭素源に関する量を含む。未処理の触媒前駆体はたいてい、複合金属酸化物の質量に対して3〜10質量%の炭素に相応する、炭素源に関する量を含む。触媒前駆体を酸素含有雰囲気中で、80〜200℃の温度で熱処理するか、もしくは燃焼させることによって、炭素源に関する量を、臨界量を下回る値に調整することができる。「燃焼させる」とは、炭素源の一部が蒸発し、昇華し、および/または酸化により気体の生成物、例えば二酸化炭素に分解される、炭素含有率の減少と理解されるべきである。
【0023】
燃焼はすべての適切な装置内、例えば触媒前駆体を引き続き熱処理するために使用される装置内で実施することができる。激しい発熱性熱量変化による炭素源の極めて急速な分解、および触媒の潜在的な熱による損傷を避けるために、燃焼は好適には、触媒前駆体の温度を5℃/分未満(とりわけ1.5未満℃/分)の速度で高める、少なくとも1の加熱段階、および触媒前駆体の温度をほぼ一定に保つ、少なくとも1の平坦段階を含む。
【0024】
燃焼は酸素含有雰囲気中で行う。雰囲気は好適には少なくとも5体積%、例えば少なくとも12.5体積%、および最大25体積%の(分子状)酸素を含む。適切には、空気を使用する。特に好ましくは、燃焼を空気流中で実施する。燃焼は80℃〜200℃、好適には120℃〜190℃で行う。
【0025】
適切な複合金属酸化物、その製造および不活性担体上への施与は、それ自体公知であり、例えばWO00/27753、WO01/85337、およびWO2005/012216に記載されている。
【0026】
一般的には、複合金属酸化物は一般式Iを有する:
Aga−cbc2d・eH2O I
[式中、
aは0.3〜1.9までの値、好適には0.5〜1.0まで、特に好ましくは0.6〜0.9までの値を有し、
QはP、As、Sb、および/またはBiから選択される元素を表し、
bは0〜0.3の値、好適には0〜0.1の値を有し、
Mは少なくとも1のアルカリ金属、およびアルカリ土類金属、Bi、Tl、Cu、Zn、Cd、Pb、Cr、Au、Al、Fe、Co、Ni、Mo、Nb、Ce、W、Mn、Ta、Pd、Pt、Ruおよび/またはRhから選択される金属を表し、好適にはNb、Ce、W、Mn、およびTa、とりわけCeおよびMn、中でもCeが最も好ましく
cは0〜0.5までの、好適には0.005〜0.2、とりわけ0.01〜0.1の値を有するが、ただし(a−c)≧0.1であり、
dは酸素とは異なる式I中の元素の原子価、および出現率により決定される数を意味し、
eは0〜20の値、好適には0〜5の値を有する。]
【0027】
好適には、複合金属酸化物は結晶構造で存在し、それらの粉末X線回折図は、格子面間隔d15.23±0.6、12.16±0.4、10.68±0.3、3.41±0.04、3.09±0.04、3.02±0.04、2.36±0.04、および1.80±0.04Åの回折反射によって特徴付けられる。
【0028】
通常、式Iの複合金属酸化物の、完全な粉末X線回折図はとりわけ、表1中にまとめた17の回折反射を有する。式Iの複合金属酸化物の粉末X線回折図の、比較的弱い回折反射は、表1中には考慮されていない。
【表1】

【0029】
X線回折反射の記載は、本願では使用されたX線の波長とは独立した、測定された回折角度からブラッグの方程式で算出できる格子面間隔d[Å]の形で行われる。
【0030】
IUPAC International Union of Pure and Applied Chemistry(Pure&Appl.Chem.57巻、603ページ(1985年))の「Recommendations 1984」に基づく、DIN66131に従って測定されたBETによる比表面は、通常1m2/gより大きく、好ましくは3〜250m2/g、とりわけ10〜250m2/g、および特に好ましくは20〜80m2/gである。
【0031】
複合金属酸化物の製造には一般的に、五酸化バナジウム(V25)と、銀化合物の溶液、および金属成分Mの化合物の溶液、ならびに場合によってはQの化合物の溶液との懸濁液を加熱する。この反応のための溶剤としては極性有機溶剤を用いることができ、好ましくは溶剤として水が使用される。銀塩としては好ましくは硝酸銀を使用する。
【0032】
併用される場合、P、As、Sb、および/またはBiの群からの1もしくは複数の元素Qは元素の形で、または酸化物、または水酸化物として使用することができる。好適にはそれらの一部中和された酸、または遊離酸、例えばリン酸、水素酸ヒ素(arsenwasserstoffsaeure)、水素酸アンチモン(antimonwasserstoffsaeure)、リン酸水素アンモニウム、ヒ酸水素アンモニウム、アンチモン酸アンモニウム(Anmoniumhydrogenantimonate)、およびビスマス酸アンモニウム(Anmoniumhydrogenbismutate)、およびリン酸水素アルカリ金属塩、ヒ酸水素アルカリ金属塩(Alkalihydrogenarsenate)、アンチモン酸アルカリ金属塩(Alkalihydrogenantimonate)ビスマス酸アルカリ金属塩(Alkalihydrogenbismutate)を使用する。極めて特に好ましくは元素Qとしてリンを単独で、とりわけリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸アンモニウム、またはリン酸エステルの形で、およびとりわけリン酸二水素アンモニウムとして使用する。
【0033】
金属成分Mの塩として、通常水溶性の塩、例えば過塩素酸塩またはカルボン酸塩、とりわけ酢酸塩を使用する。好ましくは、関連する金属成分Mの硝酸塩、とりわけ硝酸セリウム、または硝酸マンガンを使用する。
【0034】
25と、銀化合物、金属成分Mの化合物、および場合によってはQの化合物との反応は、一般的に室温下、または高められた温度で実施することができる。通常、反応は20〜375℃の温度、好適には20〜100℃、および特に好ましくは60〜100℃で行われる。反応の温度が使用される溶剤の沸点温度以上である場合、反応は適切に反応系の原圧下、圧力槽内で実施される。好適には反応条件を、雰囲気圧力下で反応が実施できるように選択する。この反応の継続時間は、反応される出発材料の種類によって、および適用された温度条件によって、10分から3日であり得る。この反応の反応時間の延長、例えば5日およびそれ以上も可能である。通常V25と、銀化合物、金属成分Mの化合物との、複合金属酸化物への反応は、6〜24時間の間で実施される。反応の際、V25の懸濁液の橙赤の色が変わり、新たな化合物が暗茶色の懸濁液の形で形成される。
【0035】
こうして形成された複合金属酸化物は、反応混合物から単離することができる。特に有利には、得られた複合金属酸化物の懸濁液を噴霧乾燥する。噴霧乾燥は一般的に雰囲気圧力下または低下された圧力下で行われる。適用される圧力、および使用される溶剤に従って、乾燥気体の入口温度が決定され、一般的には空気がそのまま使用されるが、もちろん他の乾燥気体、例えば窒素またはアルゴンを使うこともできる。噴霧乾燥機における乾燥気体の入口温度を有利には、溶剤の蒸発により冷却される乾燥気体の出口温度が、比較的長い時間にわたって200℃を越えないように選択する。通常、乾燥気体の出口温度は50〜150℃、好適には100℃〜140℃に調整する。
【0036】
触媒前駆体とは、不活性担体材料と、その担体上にシェル型に施与された少なくとも1の層から成り、その際この層は同層の全質量に対して好適には30〜100質量%、とりわけ50〜100質量%の、式Iによる1の複合金属酸化物を含む触媒の前駆体である。特に好ましくは、層は完全に式Iによる1の複合金属酸化物から成る。触媒活性層が式Iによる複合金属酸化物の他になお、さらなる成分を含む場合、これらは例えば不活性材料、例えば炭化ケイ素またはステアタイト、または酸化バナジウム/アナターゼベース上で芳香族炭化水素をアルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物へと酸化するための、他の公知の触媒であり得る。好適には触媒前駆体は、触媒前駆体の全質量に対して5〜25質量%の複合金属酸化物を含む。
【0037】
触媒前駆体およびシェル触媒のための不活性担体材料としては、実質的には例えば有利には芳香族炭化水素をアルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物へと酸化するためのシェル触媒の製造において、使用することができる、すべての従来技術の担体材料、例えば石英(SiO2)、磁器、酸化マグネシウム、二酸化スズ、炭化ケイ素、金紅石、アルミナ(Al23)、ケイ酸アルミニウム、ステアタイト(ケイ酸マグネシウム)、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸セリウム、またはこれらの担体材料の混合物が使用できる。担体は一般的に「非多孔質」である。この概念はその際、「工業的に作用しない細孔量を除いて非多孔質」という意味で理解するべきである。と言うのも、担体材料中に僅少な数の細孔が工業的に不可避に存在し得るからであり、該担体材料は理想的には細孔を含まないのが望ましい。有利な担体材料としてはとりわけ、ステアタイトおよび炭化ケイ素が際立っている。担体材料の形状は、本発明による触媒前駆体およびシェル触媒にとって一般的に重要ではない。例えば触媒担体を、球、リング、タブレット、螺旋、管、押出成型物、破砕物(Splitt)の形状で使用することができる。これらの触媒担体の寸法は、芳香族炭化水素の気相部分酸化のためのシェル触媒を製造するために通常使用される触媒担体の寸法に相応する。言及したように、先に挙げた担体材料は粉末形態でも、本発明によるシェル触媒の触媒活性材料に添加混合することができる。
【0038】
複合金属酸化物を有する不活性担体材料のシェル型被覆には、公知の手法を適用することができる。例えば単離後および乾燥後に得られた複合金属酸化物の粉末のスラリーを、加熱されたコーティングドラム(Dragiertrommel)内で触媒担体上に噴霧することができる。流動床被覆もまた、触媒担体上への複合金属酸化物のシェル型施与に使用することができる。複合金属酸化物の懸濁液を水、有機溶剤、例えば比較的高級なアルコール、多価アルコール、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオールまたはグリセリン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンまたは環状尿素、例えばN,N’−ジメチルエチレン尿素またはN,N’−ジメチルプロピレン尿素、またはこれらの有機溶剤と水との混合物として調製することができる。有機結合剤、好ましくはコポリマーを溶解するか、または有利には水性分散液の形で添加し、その際一般的に結合剤含有率は、本発明による複合金属酸化物の懸濁液またはスラリーの固体含有量に対して10〜20質量%で適用される。適切な結合剤は例えば、酢酸ビニル/ラウリン酸ビニルのコポリマー、酢酸ビニル/アクリル酸エステルのコポリマー、スチレン/アクリル酸エステルのコポリマー、酢酸ビニル/マレイン酸エステルのコポリマー、または酢酸ビニル/エチレンのコポリマーである。
【0039】
芳香族炭化水素をアルデヒド、カルボン酸および/またはカルボン酸無水物へと部分的に酸化するために、とりわけo−キシレンおよび/またはナフタリンから無水フタル酸、またはトルエンから安息香酸および/またはベンズアルデヒドへの気相部分酸化のために、シェル触媒を1の分子状の酸素を含む気体とともに使用する。触媒はこの目的のために単独でまたは他の様々な活性触媒、例えば酸化バナジウム/アナターゼベース上の従来技術の触媒と組み合わせて使用することができ、その際様々な触媒を一般的に1または複数の触媒固定床内に配置することができる、個別の触媒堆積物を反応器内に配置する。
【0040】
シェル触媒、または触媒前駆体を、このために管型反応器の反応器管内に充填し、それらを外側から、例えば溶融塩を用いて反応温度にサーモスタットで調温する。こうして用意された触媒堆積物を介して、反応気体を100〜650℃、および好適には250〜480℃の温度下、一般的に0.1〜2.5bar、好適には0.3〜1.5barの過圧下、一般的に750〜5000h−1の空塔速度で案内する。
【0041】
触媒に供給された反応気体は一般的に、酸素以外のさらに適切な反応調節剤および/または希釈剤、例えば水蒸気、二酸化炭素、および/または窒素を含むことができる、1の分子状の酸素を含む気体と、酸化される芳香族炭化水素との混合によって生成し、その際分子状の酸素を含む気体は一般的に、1〜100体積%、好適には2〜50体積%、特に好ましくは10〜30体積%の酸素、0〜30体積%、好適には0〜20体積%の水蒸気、ならびに0〜50体積%、好適には0〜1体積%の二酸化炭素、残分窒素を含むことができる。反応気体の生成には、分子状の酸素を含む気体を、一般的にNm3ごとに30〜300g、好ましくはNm3ごとに70〜150gの気体を、酸化すべき芳香族炭化水素の気体に給送する。特に有利には、分子状の酸素を含む気体として、空気を使用する。
【0042】
o−キシレン、および/またはナフタリンからの無水フタル酸の製造に特に有利であると証明された、アルデヒド、カルボン酸、および/またはカルボン酸無水物への、芳香族炭化水素の部分的な酸化方法の好ましい実施形態では、芳香族炭化水素はまず、本発明によるシェル触媒の堆積物において部分反応のもと、反応混合物へと反応させる。得られた反応混合物または該反応混合物の一部を、触媒活性材料が五酸化バナジウム、およびアナターゼを含む、少なくとも1のさらなる触媒と接触させる。
【0043】
好適には気体流をお互いに上流に設置された触媒床を介して、および下流に設置された触媒床を介して案内し、その際上流に設置された触媒床は、本発明による1の触媒を含み、下流に設置された触媒床は、触媒活性材料が五酸化バナジウム、およびアナターゼを含む少なくとも1の触媒を含む。一般的に下流に設置された触媒の触媒活性材料は、V25と表記される二酸化バナジウム1〜40質量%、TiO2と表記される二酸化チタン60〜99質量%、Csと表記されるセシウム化合物最大1質量%、Pと表記されるリン化合物最大1質量%、Sb23と表記されるアンチモン酸化物最大10質量%を含む。有利には下流に設置された触媒床は、触媒活性材料が異なったCs含有率を有する少なくとも2層の触媒を有し、その際、気体流の流向中でCs含有率が減少する。
【0044】
本発明を以下の例、および比較例により、さらに詳しく説明する。
【0045】
実施例
実施例1
60℃の脱塩水7l中に102gのV25(=0.56mol)を撹拌下で添加した。懸濁液を4.94gのCeNo3・6H2O(=0.011mol、アルドリッチ、純度99%)の水性溶液と混合した。得られた橙色の懸濁液中にさらなる撹拌下、1lの水中の68gのAgNO3(=0.398mol)の水性溶液を添加した。引き続き、得られた懸濁液の温度を2時間以内に90℃に高め、この温度下、混合物を24時間撹拌した。その後、得られた暗茶色の懸濁液を冷却し、噴霧乾燥した(入口温度(空気)=350℃、出口温度(空気)=110℃)。粉末は組成
Ce0.02Ag0.712x
を有していた。
【0046】
得られた粉末は、61m2/gのBETによる比表面を有していた。得られた粉末から、シーメンス社の回折計D5000を用いて、Cu−Kα線(40kV、30mA)の適用下、粉末X線図を得た。回折計は自動的な一次的絞りシステム、自動的な二次的絞りシステム、ならびに二次的モノクロメーターおよびシンチレーション検出器を備えていた。粉末X線図から、それに伴う相対強度Irel[%]を有する、以下の格子面間隔d[Å]:15.04(11.9)、11.99(8.5)、10.66(15.1)、5.05(12.5)、4.35(23)、3.85(16.9)、3.41(62.6)、3.09(55.1)、3.02(100)、2.58(23.8)、2.48(27.7)、2.42(25.1)、2.36(34.2)、2.04(26.4)、1.93(33.2)、1.80(35.1)、1.55(37.8)を得た。
【0047】
粉末は以下のようにケイ酸マグネシウムリング上に施与した:外径7mm、長さ3mm、壁厚1.5mmを有する、350gのステアタイトのリングをコーティングドラム内で20℃、20分間85gの粉末および8.5gのシュウ酸とともに50ml、12.5質量%の水性グリセリン溶液の添加のもと被覆し、引き続き乾燥した。得られた触媒前駆体の試験体について測定してみると、こうして塗布された触媒活性材料の質量は、450℃における一時間の熱処理後、できあがった触媒の全質量に対して18質量%であった。炭素含有率は(活性材料に対して)約4質量%であった。
【0048】
被覆後に触媒前駆体を強制空気循環炉(Umluftofen)中で空気雰囲気下、加熱速度0.33℃/分で140℃に加熱し、4時間この温度に保った。この処理の後、触媒前駆体中の炭素含有率は1質量%(活性材料に対して)であった。その後触媒前駆体を回転式加熱炉(500mlの球形炉床)内でN2雰囲気下(1Nl/h.g活性材料2)加熱速度2℃/分で490℃に加熱し、4時間この温度に保った。
【0049】
この処理の後、活性材料は暗緑色であった。炭素含有率は(活性材料に対して)0.007質量%であった。X線回折法を用いて、これは結晶状δ−青銅であることが示された。BET表面は3.9m2/g、平均的なバナジウム酸化状態は4.67であった。
【0050】
こうして準備された触媒を、異なる活性のV25/TiO2触媒の副次的な二つの層とともに酸化反応器中に組み込んだ後、o−キシレンの無水フタル酸への気相酸化を、当初負荷約30g/Nm3の空気でスタートすることができ、この負荷は素早く約80g/Nm3に上げることができた。
【0051】
比較のために現場で製造された触媒の取り外した試料は、(活性材料に対して)炭素含有率0.005質量%を有していた。X線回折法によれば、取り外した試験体とは、結晶状δ−青銅であった(粉末X線図から、これに伴う相対強度Irel[%]を有する、以下の格子面間隔d[Å]:4.85(9.8)、3.50(14.8)、3.25(39.9)、2.93(100)、2.78(36.2)、2.55(35.3)、2.43(18.6)、1.97(15.2)、1.95(28.1)、1.86(16.5)、1.83(37.5)、1.52(23.5)を得た。)。BET表面は6.7m2/g、平均的なバナジウム酸化状態は4.63であった。
【0052】
比較例2
例1を繰り返したが、ただしこの場合触媒前駆体を第一の処理工程において2時間だけ、空気中で100℃に加熱した。触媒前駆体中の炭素含有率は2.6質量%であった。その後、触媒前駆体を4時間、窒素流中で450℃に保った。
【0053】
得られた触媒は黒色だった。粉末回折図中に、銀の立方晶格子に分類されるべき唯一の強いピークを認めることができた。δ−青銅に分類されるべきピークは観察されなかった。BET表面は30g/m2、平均的なバナジウム酸化状態は4.1〜4.2(触媒が過剰還元されていた)であった。炭素含有率は0.02質量%未満であった。
【0054】
比較例3
比較例2を繰り返したのだが、熱処理を450℃、空気流中で行った。
【0055】
得られた触媒の活性材料は、X線回折図によればβ−Ag0.3325、およびAg1.238を含んでいた。平均的なバナジウム酸化状態は4.8であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性担体、1の有機炭素源、および銀とバナジウムを含む複合金属酸化物を含む触媒前駆体を、不活性担体と触媒活性の銀−酸化バナジウム−青銅を含む気相酸化触媒へと反応させる方法であって、触媒前駆体を10体積%未満の酸素を含むガス雰囲気中、少なくとも350℃の温度で熱処理し、その際熱処理の前に触媒前駆体中の炭素源の量を臨界量の値以下に調整し、前記臨界量は炭素源に関する量として規定され、その量から触媒前駆体の熱処理において元素の銀への還元が行われる、不活性担体、1の有機炭素源、および銀とバナジウムを含む複合金属酸化物を含む触媒前駆体を、不活性担体と触媒活性の銀−酸化バナジウム−青銅を含む気相酸化触媒へと反応させる方法。
【請求項2】
前記熱処理を不活性気体流中で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理の前に触媒前駆体中の炭素源の量を、炭素として複合金属酸化物の質量に対して計算し、0.5〜2質量%未満の範囲中の値に調整する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理の前に触媒前駆体中の炭素源の量を、1.3質量%以下の値に調整する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒前駆体が当初、臨界量より多いかまたは臨界量に相応する炭素源に関する量を含み、前記触媒前駆体を酸素含有雰囲気中で80〜200℃の温度下で処理することによって、炭素源に関する前記量を燃焼により臨界量を下回る値に調整する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記燃焼が、触媒前駆体の温度を5℃/分より低い速度で高める少なくとも1の加熱段階、および触媒前駆体の温度をほぼ一定に保つ少なくとも1の平坦段階を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記燃焼を空気流中で実施する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素源が(i)OH、C=O、およびNH2から選択されている、少なくとも1の官能基を有する、1〜12の炭素原子を有する化合物、および(ii)OH、C=OおよびNH2から選択されている少なくとも1の官能基を有する、2〜12の炭素原子を有する繰り返し単位から構成されているポリマー化合物から選択されている、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記炭素源が、OH、C=O、およびNH2から相互に独立して選択されている少なくとも2の官能基を有する、2〜6の炭素原子を有する化合物から選択されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炭素源が、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリトリット、ペントース、ヘキソース、シュウ酸、シュウ酸アンモニウム、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、安息香酸、o−トリル酸、m−トリル酸、p−トリル酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンから選択されている、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記複合金属酸化物が一般式I
Aga−cbc2d・eH2
[式中、
aは0.3〜1.9までの値を有し、
QはP、As、Sb、および/またはBiから選択されている元素を表し、
bは0〜0.3の値の値を有し、
Mは少なくとも1のアルカリ金属、およびアルカリ土類金属、Bi、Tl、Cu、Zn、Cd、Pb、Cr、Au、Al、Fe、Co、Ni、Mo、Nb、Ce、W、Mn、Ta、Pd、Pt、Ruおよび/またはRhから選択されている金属を表し、
cは、0〜0.5までの値を有するが、ただし(a−c)≧0.1であり、
dは酸素とは異なる式I中の元素の原子価により、および出現率により決定される数を意味し、
eは0〜20の値を有する、]
を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記複合金属酸化物が結晶構造で存在し、前記複合金属酸化物の粉末X線図が、格子面間隔d15.23±0.6、12.16±0.4、10.68±0.3、3.41±0.04、3.09±0.04、3.02±0.04、2.36±0.04、および1.80±0.04Åの回折反射によって特徴付けられている、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2009−520588(P2009−520588A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546459(P2008−546459)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/070041
【国際公開番号】WO2007/071749
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】