触覚センサ信号処理装置
【課題】短時間でより詳細な生体情報が得られる触覚センサ信号処理装置を提供する。
【解決手段】 圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサ101と、圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段102と、圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段103と、共振抵抗変化検出手段102の検出結果と、共振周波数変化検出手段103の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段104とを具備する。
【解決手段】 圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサ101と、圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段102と、圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段103と、共振抵抗変化検出手段102の検出結果と、共振周波数変化検出手段103の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段104とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、粘弾性特性をもつ対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、内視鏡は生体の内部を観察するための器具としての機能よりも、観察を行いながら観察対象を操作するといった機能を重視するようになってきている。これは胆嚢摘出手術に硬性鏡が使用されたりする情勢より容易に推測できる。内視鏡を用いた手術や診断は今後ますます拡大するものと予想される。
【0003】このようなより複雑、微細な操作や体腔内で診断・治療を適切に行うには、視覚情報と同時に触覚情報もより重要となる。生体は粘弾性体であり、ここでいう、触覚とは対象物のもつ粘弾性特性による反作用力の知覚と定義し、対象物のもつ粘弾性特性を検出するセンサを触覚センサと呼ぶ。粘弾性特性は一般に複素弾性率G* を用いて G* =G′+jG″ …(0)
で表せ、この複素弾性率G* の実数部G′は弾性に対応し、虚数部G″は粘性に対応する。生体組織は筋や組織間液などが絡み合って粘弾性特性を示しており、腫瘍やしこりなどの病変部においては正常部に比べ複素弾性率G* の実数部G′と虚数部G″の両方が異なる値を示すことになる。複素弾性率を測定するには時間変化に対する対象物の応答を測定する必要があり、その方法として生体組織に振動を与え、その応答を測定し、生体の複素弾性率G* を決定する方法がある。従来、粘弾性特性は術者の定性的な感覚量でしか判断できなかったが、触覚センサにより粘弾性特性を定量的に検出することによって第3者に確実に伝達可能なデータとして触覚を変換できる。また、粘弾性特性を独立に測定することは、病変部の診断をより精密に行うことが可能になる。
【0004】このようなニーズに対して、生体の粘弾性特性を測定する装置として、生体の力学的特性の変化を利用して、生体の粘弾性特性を測定する方法(例えば特公昭57−2022)が挙げられる。
【0005】図19に示すように、生体である検体1501に接触するプローブ本体1502は筒状の案内部1503を有するケーシング1504を備えており、案内部1503内には変位検出器1505、オシレータ1506及び力検出器1507が位置している。変位検出器1505はその固定部が案内部1503に固定され、その可動部は案内部1503に沿って移動可能である。この変位検出器1505の可動部と一体的に変位可能であるオシレータ1506及び力検出器1507はケーシング1504に固定されている。
【0006】このような構成において関数発生器1509によりオシレータ1506に例えば正弦波状電流を流すとオシレータ1506により振動が発生し、この振動がプローブ部材1508によって検体1501に伝達される。プローブ部材1508の動きは変位検出器1505で検出され、その値は歪み計1510に指示される。検体1501の生体組織はプローブ部材1508からの振動によって変形し、その結果、その反力が力検出器1507に正弦波状に現れる。ついでこれが力指示計1511に指示される。
【0007】このようなプローブにおいては、プローブの案内部1503を検体に接触させた後に、オシレータ1506に直流バイアスを加えて振動プローブ1508をケーシング1504より突出させて、力指示計1511にある決められた静的圧力F0 を付加し、しかる後にオシレータ1506に正弦振動F1 ・sin ωtを与えて振動荷重F1 ・sin ωtを重畳させ、合成荷重Fと時間tの関係をみる。このとき、反力は力検出器1507によって検出され、一定の振動荷重となるように制御される。この場合、変位は静的な荷重に対するクリープ変形成分と振動荷重に対する振動変位の和で与えられるが、これらは容易に分離できる。
【0008】例えば、静的な力F=F0 に対する変位の時間変化はI=I0 (I−e-at )で与えられ(I0 、aは定数、tは時間を表す)、振動荷重F1 ・sin ωtに対する振動変位はI=I1 sin(ωt−δ)(ここでδは位相差である)で表わされ、以上の量から複素弾性率が計算できる。これらの信号処理は図示していないマイクロコンピュータで行っている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】生体において硬さを測定する場合、拍動により生体が動くため、接触状態を一定にするか、測定時間を短くする必要がある。従来例の上記検査装置では、静的荷重であるクリープ変形を測定するため、オシレータ1506に与える直流バイアスを調整することにより一定時間生体との接触状態を一定に保つ機構を有しているが、このような機構は生体との接触状態の変化、例えば操作者の動きに追従するのが難しく、わずかな接触状態の変化がクリープ変形のような微妙な変位の測定に対して大きな影響を及ぼしてしまう。
【0010】また、クリープ変形のような時間のかかる測定データを使用しているため、測定時間がかかるだけでなく、対象物の粘弾性特性によりクリープ時間が変化するため一回の測定に必要な時間が異なってしまうという問題がある。
【0011】本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、クリープ変形の測定のような微妙な測定の難しさと、測定時間の長さと、対象物の違いによる測定時間の違いと言った従来技術が有する問題を克服して、短時間でより詳細な生体情報を得ることができる触覚センサ信号処理装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサと、該圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段と、前記圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段と、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段とを具備する。
【0013】すなわち、本発明は、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、まず、圧電振動子のインピーダンス特性の共振抵抗の変化と共振周波数の変化を検出する。次に、共振抵抗の変化と、共振周波数の変化とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理するようにする。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】まず、本発明による第1実施形態の構成、作用、効果について説明する。
【0016】図1は第1実施形態の触覚センサ信号処理装置105を主たる構成手段によって表した図で、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ101と、インピーダンス特性のうち共振抵抗変化を検出する共振抵抗変化検出手段102と、共振周波数変化を検出する共振周波数変化検出手段103と、前記両検出手段の検出結果を用いて対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段104とから構成されている。
【0017】更に前記した触覚センサ101、共振抵抗変化検出手段102、及び共振周波数変化検出手段103の具体的な回路構成を図2を用いて説明する。図2(a)は共振抵抗変化検出手段102と共振周波数変化検出手段103の具体的な回路図であり、圧電振動子205に接続された発振回路202と、その発振出力を分岐する分岐手段203と、その分岐信号のうち一方を電圧信号に周波数−電圧変換するF/V変換手段204とを具備する。発振回路202は、圧電振動子205の図2R>2(b)に示す等価回路定数を回路要素としたコルピッツ発振回路から構成されており、コンデンサ(Cb )206、コンデンサ(C1 )207、コンデンサ(C2 )208、抵抗(R1 )209、抵抗R2 (210)、トランジスタ211、抵抗(Re )212、コンデンサ(C0 )213、電圧端子214、出力端子215で構成される。
【0018】図2のような構成の共振抵抗変化検出手段102により検出された共振抵抗Zr'と、図2のような構成の共振周波数変化検出手段103により検出された共振周波数fr'は信号処理手段104に入力される。この信号処理手段104は図3に示すように、出力信号分岐手段601、信号処理回路602、メモリ603、D/Aコンバータ604で構成される。信号処理回路602の具体的な回路図が図4、図5である。図4はG′を算出するG′算出回路501で、図5はG″を算出するG″算出回路502である。
【0019】図4に示すG′算出回路501は、増幅率KR 2 の差動演算増幅器503と増幅率KL の差動演算増幅器504と増幅率1の差動演算増幅器506と乗算器507〜513、515〜517と除算器518と増幅率2πの増幅器514とZr'端子528とZr 端子529とfr'端子530とρ端子531とfr 端子532とL1端子533の入力端子とG′端子540の出力端子で構成される。
【0020】図5に示すG″算出回路502は、増幅率KR の差動増幅器505と増幅率KL の差動増幅器519と乗算器520〜523、527と除算器525、526と増幅率2πの増幅器524とZr'端子534とZr 端子535とfr 端子536とfr'端子537とL1端子538とρ端子539の入力端子とG″端子541の出力端子で構成される。
【0021】以下に上記した構成の作用を説明する。
【0022】圧電振動子205の等価回路定数を回路要素とした発振回路202を使用すると、該発振回路202からの出力信号は図6に示すように圧電振動子205のインピーダンス特性を反映した信号となる。無負荷の場合、出力信号は圧電振動子205の共振周波数近傍で出力され、かつ、その振幅は圧電振動子205の共振抵抗に対応してくる。
【0023】一方、粘弾性体が付着すると出力信号は図6R>6の破線のようになる。つまり、出力信号は圧電振動子205のインピーダンス特性を反映した信号である。よって、発振出力を分岐し、信号処理手段104で処理するために周波数成分を電圧信号に変換し、共振抵抗変化と共振周波数変化を検出できる。このような、共振抵抗変化検出手段102により検出された共振抵抗Zr と共振周波数変化検出手段103により検出された共振周波数fr は信号処理手段104に入力され、信号処理手段104に予め格納された処理方法により計算処理されて、対象物の粘弾性特性を示す複素弾性率の実数部G′と虚数部G″が算出される。
【0024】この時の算出方法について以下に述べる。圧電振動子の共振周波数における電気的特性の等価回路は図7(a)のようになる。無負荷の場合は機械端子に図7(b)を接続させた回路となる。一方粘弾性体を圧電振動子に付着させると圧電振動子の共振周波数と共振抵抗が変化するため、この場合の等価回路はコイルと抵抗を直列接続させた回路(図7(c))となる。
【0025】図7(c)の等価回路表現は対象物の粘弾性特性を電気回路的に表現したものであり、実際の粘弾性特性は機械的特性のため、Lv0とRv0が粘弾性特性を直接表現するものではないが、ある関数で結びつけることができる。よって電気端子からみたインピーダンスを測定することにより粘弾性体の粘弾性特性を検出することが可能となる。
【0026】図7(b)の場合の電気端子から見たインピーダンス特性の共振周波数fr と反共振周波数fa と共振抵抗Zr 及び自由容量CF は以下の式で表せる。
【0027】
【数1】
【0028】なお、上式においてはL1 は直列インダクタンス、C1 は直列容量、C0 は並列容量、R1 は直列抵抗である。
【0029】この4式より、図7(a)に示した等価回路定数を求めることができる。
【0030】一方、粘弾性体が付着した場合、共振周波数と共振抵抗が変化するため、ここから推測すると電気回路的にLv0とRv0が直列に接続したことになる。この場合の共振周波数fr'と反共振周波数fa'とZr'は以下の式で表せる。
【0031】
【数2】
【0032】この式を用いてLv0とRv0が求められる。
【0033】上述したように、粘弾性体の機械的表現と電気的表現はある関数で結び付けることができるため、まず、インピーダンス表現した場合の関係を考察する。粘弾性体の機械的インピーダンスZM と粘弾性体の固有音響インピーダンスZA0の関係は次の関係がある。
【0034】
Rv +iωLv =ZA0=ZM /S …(8)
また、ずり弾性率と粘性係数の関係は以下のようになる。
【0035】
G* =G′+iG″=ωη′+iωη″=iω(η′−iη″)=iωη* …(9)
よって、機械的インピーダンスZM と固有音響インピーダンスとずり弾性率に関係する値との関係は以下のようになる。
【0036】
【数3】
【0037】(10)式と(11)式の実数部と虚数部を比較する。
【0038】複素弾性率G* の虚数部G″で表現すると(12)式のようになる。
【0039】
【数4】
【0040】(12)式、(13)式より、回路定数のRV とLV がそれぞれ粘性率と弾性率に1対1に対応しているのではないことが分かる。つまり、Rv 、Lv はそれぞれ複素弾性率の実数部・虚数部に関与しており、(12)式、(13)式に示すようにRv とLv の両方の変化を測定して初めて実数部と虚数部が算出でき、粘弾性特性の検出が可能となる。ところで、粘弾性体の固有音響インピーダンスZA0に対応する式中のRv とLv は最初の式に示した電気的なインピーダンスとは異なり、前者は粘弾性体の単位面積あたりの機械的インピーダンスであるため圧電振動子の機械的な特性を考慮していないが、後者は圧電振動子の機械的な特性を考慮し、それを含めた電気的なインピーダンスである。そのため、この両者は圧電振動子の等価回路表現に使用される力変換係数といった係数で結びつけることができると考えられる。そこで、この係数を装置定数KR 、KL とするとRV0とRV 、LV0とLV の関係は以下の式のようになる。
【0041】
LV =KL ・LV0 …(14)
RV =KR ・RV0 …(15)
よって、上式よりG″およびG′は次式のように変形できる。
【0042】
【数5】
【0043】これより圧電振動子の共振周波数と共振抵抗がそれぞれ粘性率と弾性率に1対1に対応しているのではないことが分かる。つまり、共振周波数・共振抵抗それぞれは複素弾性率の実数部と虚数部に関与しており、圧電振動子の等価回路定数(C1 、L1 、装置定数)と共振抵抗、共振周波数が既知ならば(16)式〜(19)式に示すように共振周波数と共振抵抗の両方の変化を測定して初めて複素弾性率の実数部と虚数部が算出でき、粘弾性特性の検出が可能となる。
【0044】図3、図4、図5は上述した計算式をもとにした信号処理手段とその回路の一例を示したものである。図1もしくは図2に示した共振周波数変化検出手段102と共振抵抗変化検出手段103からの共振周波数fr と共振抵抗Zr の1組の出力は出力信号分岐手段601により、直流電圧信号に変換して2組に分岐され、Vin1 (Zr')、Vin2 (fr')の2組が信号処理回路602に入力される。
【0045】一方、既知のデータとなる無負荷時の共振抵抗Zr 、共振周波数fr 、直列インダクタンスL1 と密度ρはメモリ603に予め格納され、信号処理回路602で計算処理する時は、D/Aコンバータ604を介してデジタル信号をアナログ信号である直流電圧信号Vin3 (Zr )、Vin4 (fr )、Vin5 (ρ)、Vin6 (L1 )に変換し、信号処理回路602に入力されて計算が行われる。この時、出力信号分岐手段601とD/Aコンバータ604からの出力はクロック信号を発生する回路(図示せず)などにより信号処理回路602で信号処理しやすいように同一のタイミングで信号処理回路602に入力される。信号処理回路602は粘弾性特性G′算出回路501と弾性特性G′算出回路502で構成される。
【0046】以下、それぞれの信号の流れを説明する。弾性特性G′算出回路501は次の通りである。出力信号分岐手段601で分岐された1組の直流電圧信号Vin1(Zr')、Vin2 (fr')のうち、Vin1 (Zr')とメモリ603に格納され、D/Aコンバータ604を通してアナログ信号に変換されたVin3 (Zr )は増幅率KR 2 の差動増幅器503を通して、直流電圧信号V503 (KR 2 (Zr'−Zr ))に変換され、Vin2 (fr')は乗算器508,509を通りV509 (fr'4 )となり、V509 (fr'4 )と乗算器507を通して、V509 (fr'4 KR2 (Zr'−Zr ))となる。また、V509 (fr'4 )は乗算器510でVin5 (ρ)と乗算されて、V510 (ρfr'4 )となる。
【0047】Vin2 (fr')は乗算器508によりV508 (fr'2 )となり、Vin4 (fr)は乗算器511によりV511 (fr 2 )となり、V509 (fr'4 )とV511 (fr 2 )は増幅率KL の差動増幅器504で減算され、さらに、乗算器512で自乗されてV512 (KL 2 (fr 2 −fr'2 )2 )となる。Vin4 (fr )は増幅率2πの増幅器514によりV514 (ω)に変換され、V514 (ω)とVin6(L1 )はそれぞれ乗算器513及び515を通して自乗され、さらに乗算器516で両方の積がとられてV516 (ω2 L1 2 )となる。そして乗算器517で上述したV512 (KL 2 (fr 2 −fr'2 )2 )とV516 (ω2 L1 2 )との積がとられてV517 (KL 2 ω2 L1 2 (fr 2 −fr'2 )2 )が得られる。そして増幅率1の差動増幅器506でV517 (KL 2 ω2 L1 2 (fr 2 −fr'2 )2 )とV509 (fr'4 KR 2 (Zr'−Zr ))との差がとられた後、除算回路508で式(18)の結果であるVout1(G′)が得られる。
【0048】弾性特性G″算出回路502は出力信号分岐手段601で分岐された1組の出力信号Vin1 (Zr')、Vin2 (fr')のうち、Vin1 (Zr')とメモリ603に格納され、D/Aコンバータ604を通してアナログ信号に変換されたVin3(Zr )は増幅率KR の差動増幅回路505を通して、V505 (KR (Zr'−Zr ))に変換され、また、Vin4 (fr )とVin2 (fr' )は乗算器521及び522を通して自乗され、それぞれの値は増幅率KL の差動増幅器519を通されてV519 (KL (fr 2 −fr'2 ))となる。そして、V505 (KR (Zr'−Zr ))とV519 (KL (fr 2 −fr'2 ))とを乗算器520に入力することによりV520 (KR (Zr'−Zr )KL (fr 2 −fr'2 ))となる。
【0049】一方、Vin2 (fr')は増幅率2πの増幅器524によりV524 (ω)に変換され、V524 (ω)とVin5 (ρ)は除算器525を通されてV525 (2ω/ρ)となる。そしてVin6 (L1 )と乗算器523によりV523 (2ωL1 /ρ)となり、乗算器522を通して自乗されたV522 (fr'2 )と除算器526によりV526 (2ωL1 /fr'2 ρ)が得られる。そして、V526 (2ωL1 /fr'2 ρ)と上述のV520 (KR (Zr'−Zr )KL (fr 2 −fr'2 ))から乗算器527により式(16)の結果であるVout2(G″)が得られる。
【0050】このような回路501と502に共振抵抗変化検出手段102からの出力と共振周波数変化検出手段103からの出力を入力すると対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部が算出できる。図4、図5には記載してないが、それぞれの増幅器などで計算処理を行うには同一の位相で増幅器に直流電圧信号が印加されなくてはならないため、位相を一致させるための手段も各増幅器の入力端子手前に含まれている。
【0051】信号処理回路501と502において、増幅率KR 2 の差動増幅器503、増幅率KL の差動増幅器504,519、増幅率KR の差動増幅器505の増幅率を予め決める必要があるが、これらの増幅率は上述した式中の装置定数に対応しており、この値は触覚センサ101により異なる。この装置定数は複素弾性率が測定済みの材料を用いて算出する。
【0052】以下に算出の方法を述べる。(12)式より
【数6】
【0053】このLV を(20)式に代入しRV を求め、(14)式、(15)式より変換係数を求める。例として、実際にこれらの値を算出してみる。
【0054】無負荷のときと3種類の異なる粘弾性体に接触させたときの圧電振動子のインピーダンス特性の測定を行った。その結果を図8に示す。
【0055】図8よりKL とKR が3つ算出され、3つの平均をとるとKL =8.28434KR =9.2571となる。この値を図4、図5に示した回路の増幅率にセットすることにより、信号処理手段104の処理回路がきまり、共振抵抗変化と共振周波数変化を用いて複素弾性率の実数部と虚数部を算出することが可能になる。
【0056】上記した第1実施形態によれば、図3、図4R>4、図5に示す信号処理手段により、対象物の複素弾性率の実数部と虚数部を算出することが可能になる。生体組織は筋や組織間液の易動度などが絡み合って粘弾性特性を示しており、腫瘍やしこりなどの病変部においては複素弾性率G* の実数部G′と虚数部G″の両方が変化するが、本実施形態の方法で粘弾性特性を分離して検出することにより、より詳細な生体の情報を得ることができる。
【0057】また、図2に示すような発振回路202を使用することにより、圧電振動子のインピーダンス特性の変化をリアルタイムで測定することが可能になり、粘弾性特性の測定時間を短くできる。
【0058】また、コルピッツ発振回路202はC−MOSを用いて構成することもでき、要は圧電振動子205の等価回路定数を用いて自励発振回路の構成が可能ならばどのような回路でも構わない。
【0059】なお、装置定数として二種類仮定したが、これを一種類に統一しても問題はない。なぜなら、上述したように装置定数は力変換係数(電気機械変換係数)に対応しているため、同一な値を持つとも考えることができる。その場合は当然、図3、図4、図5に示した回路の増幅率KL の差動増幅器504,519、増幅率KR の差動増幅器505の増幅率は同一の増幅率になり、増幅率KR 2 の差動増幅器503は自乗の値になることはいうまでもない。
【0060】また、図3、図4、図5に示した回路は一例であり、上式の計算処理を行う回路であればどのような構成をとっても構わない。例えば出力信号分岐手段601でA/Dコンバータによりデジタル信号に変換して、図3に示すD/Aコンバータ604を通さないでメモリ603の出力をそのまま使用して、信号処理回路602にデジタル信号処理回路を使用し、その計算結果を再びD/Aコンバータ604でアナログ信号に変換しても同様の結果が得られる。
【0061】さらに、発振回路202はC−MOSを用いて構成することもでき、要は圧電振動子205の等価回路定数を用いて自励発振回路の構成が可能ならばどのような回路でも構わない。
【0062】以下に本発明の第2実施形態を説明する。
【0063】第1実施形態では共振抵抗変化検出手段と共振周波数変化検出手段として発振回路を用いているのでダイナミックレンジが狭くても良い場合には何の問題も無いが、広いダイナミックレンジが必要な場合は第1実施形態のままでは対応しきれない場合がある。それは、圧電振動子の等価回路定数を回路要素とした発振回路は圧電振動子が共振−反共振間の状態のような等価回路的にはインダクタンスL1 領域にある時のみ発振出力が得られるが、負荷が加わった状態では、共振周波数と反共振周波数の間であってもC成分の値とL成分の値の関係によっては発振状態が停止してしまう。第2実施形態はこの様な不具合を改善し、大きなダイナミックレンジを有するセンサを用いた対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を検出する触覚センサ信号処理装置を実現することを目的としている。
【0064】図9は本発明の第2実施形態に係る触覚センサ信号処理装置の構成図である。第2実施形態の共振周波数変化検出手段103と共振抵抗変化検出手段102は、高周波駆動信号の周波数f1 を前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から立ち下がり時刻T2 にかけて、f1 −Δf1 とf1 +Δf1 の間を連続的に単調に増加または減少させる駆動回路手段402と、入力信号の周波数と前記圧電振動子のインピーダンスの値によって出力電圧を変化させる圧電振動子増幅手段406と、圧電振動子増幅手段406の出力を直流変換する直流変換手段408と、直流変換手段408の出力信号である直流パルス信号よりパルスピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号のピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段409とから構成される。
【0065】さらに駆動回路手段402は矩形波発生器403と鋸波発生器404とFM変調器405で構成され、圧電振動子増幅手段406はコンデンサ(CC1)410、抵抗(Rb1)411、抵抗(Rb2)412、抵抗(RL )413、コンデンサ(CC2)414、トランジスタ415、抵抗(RE )416で構成され、計測手段409は直流パルス信号のピーク値を検出するピークディテクタ417とその信号のピーク時刻から、矩形波403の立ち上がり時刻T1 までの時間をカウントするカウンター回路419と、時間をカウントする為のクロック信号発生器418と、カウンター回路419のABCD出力をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ420とで構成され、この出力結果は信号処理手段104にて信号処理され、対象物の複素弾性率の実数部と虚数部を検出する。
【0066】以下に上記した構成の作用を説明する。
【0067】触覚センサ信号処理装置401は駆動回路手段402の矩形波発生器403の出力信号がトリガ信号となる。矩形波発生器403の矩形波は鋸波発生器404を同期させて、図10の1701のような鋸波を発生させる。そして、FM変調器405では鋸波1701の出力電圧値に応じて特定の周波数f1 を中心に周波数が変化する高周波駆動信号1703を発生させる。この時の周波数と時間の特性は1702のようになる。この信号を圧電振動子増幅手段406に入力すると圧電振動子407が無負荷状態なら共振抵抗がZr で共振周波数fr のインピーダンス特性を示すことに対して、高周波駆動信号1703の中心周波数がfr に等しくなる時刻T0 で最大振幅の信号を出力し、直流変換手段408を経た出力信号は1704に示したピーク値Vを示す直流パルス信号となる。
【0068】また、圧電振動子407に負荷が加わって、共振抵抗がZr'、共振周波数がfr'のインピーダンス特性になると、これに対応して直流変換手段408を経た出力信号はピーク電圧が共振抵抗が増加してZr'になったことに対応して小さくなり、ピーク電圧を示す時刻も印加周波数がfr'になる時刻T′に変化する。つまり、粘弾性対象物が付加されていない無負荷状態では、ちょうど高周波駆動信号の周波数が圧電振動子の共振周波数f1 の時刻T0 (T0 =T1 +(T2 −T1)/2)で直流変換手段からの出力信号がピーク値Vを示す。
【0069】一方、有負荷時は共振周波数がfr'に変化すると同時にその周波数に於ける共振抵抗も変化するのでピークの位置は前記fr に対応する時刻T0 から時刻T′にずれ、またピーク電圧も共振抵抗の変化に対応して減少する。この時間と、駆動回路手段の出力信号波形との関係から圧電振動子の共振周波数の変化を検出し、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を検出するピーク電圧の値とピーク電圧になる時刻を検出すれば圧電振動子407の共振抵抗と共振周波数が検出できる。
【0070】次にこの時刻の変化量とピーク値を検出する方法について図9を用いて説明する。直流変換手段408により出力信号の振幅成分のみを取り出して直流パルス信号とし、この信号からパルスのピーク値をピークディテクタ417によって検出する。この検出したという信号にもとづいてカウンター回路419はリセットが作動する。また、カウンター回路419は駆動回路手段402の矩形波発生器403の矩形波の立ち上がりに同期してカウントを始めるようになっており、リセット信号がピークディテクタ417から入力されるとそれまでの時間をクロック信号発生器418に基づいて計算する。つまり、時間ΔT0 が計算されるのである。この時間ΔT0 はD/Aコンバータ420を介してアナログ信号に変換され、ピークディテクタ417で検出されたピーク値と共に圧電振動子407の共振周波数と共振抵抗に関する電圧信号として信号処理回路104に入力される。信号処理回路の構成と動作は第1実施形態と同様である。
【0071】上記した第2実施形態によれば、圧電振動子増幅手段を使用すると、圧電振動子の等価回路定数を使用しないため、発振回路202を用いた場合よりもダイナミックレンジを広くすることが可能である。また、圧電振動子増幅手段からの出力を直流変換する直流変換手段と直流変換手段の出力信号である直流パルス信号よりパルスピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記パルスピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段により圧電振動子のインピーダンス特性に変換することができる。
【0072】以下に本発明の第3実施形態を図11を用いて説明する。
【0073】第3実施形態の信号処理手段104は、共振抵抗変化検出手段102と共振周波数変化検出手段103の両検出結果を入力する入力手段701と、その入力信号を用いて周波数変化と共振抵抗変化から複素弾性率の実数部と虚数部を分離して計算する計算式に基づいて計算処理する計算処理回路703と、その計算処理した結果を出力する出力手段701とからなる。また、入力手段701はゲート1(704)とゲート信号1(705)よりなり、出力手段702はゲート2(706)とゲート信号2(707)よりなる。
【0074】上記した構成において、ゲート信号1(705)はゲート1(704)のゲートのON/OFFを制御し、ゲート信号2(707)はゲート2(706)のゲートのON/OFFを制御をする上記した第3実施形態によれば、ゲート1(704)よりなる入力手段701を介することにより、計算処理時のタイミングと一致させるようにゲート信号1(705)から信号を送りゲート1(704)を開けば、最適のタイミングで計算処理することが可能となる。例えば出力結果をメモリ(図示せず)に格納する場合などはメモリの駆動タイミングと出力タイミングを一致させる必要があり、ゲート2(706)よりなる出力手段702を介することにより、一致させることが可能となる。
【0075】以下に本発明の第4実施形態を説明する。
【0076】第1実施形態では触覚センサ信号処理装置104に図4、図5に示す回路を用いたが、この場合、装置定数KR とKL はあらかじめ測定された値に基づいて固定されている。上述したように、装置定数KR とKL は圧電振動子の電気機械結合定数に対応しており、これは温度、湿度などの環境の変化を受けるため、測定毎に装置定数KR とKL を最適な値にする必要がある。そこで、第4実施形態では式中の装置定数KR とKL をあらかじめ測定し、その測定結果に基づいて装置定数KR 、KL を可変できる構成を提供する。
【0077】図12はこのような構成801を示す図であり、入力手段804を構成する重み抵抗ツリー802、A/D変換803、メモリ805と差動アンプ806よりなる。
【0078】以下に図12の構成の作用を説明する。
【0079】式中の装置定数KR もしくはKL を図13のようなフローに従って装置定数を算出し、その算出結果に基づいて装置定数を変える。まず、無負荷の状態で測定を行い(S901)、圧電振動子の等価回路定数(RV0,LV0)を算出する。次に複素弾性率が既知の粘弾性体を圧電振動子に接触させ、インピーダンス測定を行い、粘弾性体の電気回路定数(RV ,LV )を算出する(S902)。次に、求めた電気回路定数(RV0,LV0)と実際の複素弾性率から算出した等価回路定数(RV ,LV )を用いて(14)式、(15)式により装置定数KR とKL を算出する(S903)。この算出した結果をメモリ805に記憶する。
【0080】ゲインを変えるために重み抵抗ツリー802をデジタル信号により制御するため、メモリ805に格納した装置定数KR とKL はA/D変換器803によりデジタル信号に変換され、この信号が重み抵抗ツリー802に入力される。この構成801を図4、図5に示したスケールファクタKR 2 の減算回路503とスケールファクタKL の減算回路504とスケールファクタKR の減算回路505にすると、重み抵抗ツリー802の値によりゲインを可変出来るようになる。
【0081】上記した第4実施形態によれば、測定毎に異なる温度、湿度などの環境の変化を装置定数KR 、KL を用いてキャンセルするため、精度の高い測定が可能になる。
【0082】なお、ゲインを変えることが出来る手段ならばどのような回路であっても構わない。例えば、図12R>2のメモリ805はアナログ信号で出力されることを前提としておりメモリ805がデジタル出力の場合はA/D変換器803を介さずに直接重み抵抗ツリー802を駆動することになる。
【0083】以下に本発明の第5実施形態を図14を参照して説明する。
【0084】第5実施形態は第1実施形態における信号処理手段104の出力G′、G″を呈示装置1003に入力する信号に変換する呈示信号変換手段1002と、この呈示信号変換手段1002からの信号に対応して駆動されるボイスコイル型の呈示装置1003を具備する構成1001からなる。
【0085】前記呈示信号変換手段1002は図15に示すように、スティーブンスのべき関数1103と等感覚曲線1104よりなる演算手段1101と、交流電源1102で構成される。
【0086】図16は図15の構成において、呈示装置1003としてボイスコイル1201を用い、さらに信号処理手段104の出力G′、G″を視覚呈示装置1202で視覚的に表示するようにした構成を示す。
【0087】また、図17は図14に示す構成において、呈示信号変換手段1002を用いずに信号処理手段104の出力G′、G″によって呈示装置1003を駆動するようにした構成を示している。
【0088】以下に上記した構成の作用を説明する。
【0089】前記信号処理手段104で処理された粘弾性特性の実数部と虚数部のデータ信号を操作者に知覚できるような信号に呈示信号変換手段1002により変換し、その変換信号に対応して呈示装置1003を駆動させる。ところで、弾性感覚と粘性感覚が物理的測定値弾性率と粘性率と一義的に対応していないことは知られており、スティーブンスによれば、感覚的に測られる数値(psychologicalmagnitude )ψと、計測器による物理的測定値(physical magnitude)φの間にべき法則ψ=k・φnが成り立つ。nはべき指数、kは定数である。特に、感覚と物理量の関係として次の関係がある。
【0090】弾性について:ψ=k・φ0.7粘性について:ψ=k・φ0.4(文献:中川鶴太郎:レオロジー、岩波全書(1978))
つまり、信号処理手段104から得られた複素弾性率の実数部と虚数部の変化を上式の関係に従って操作者に知覚させるのが最適であるといえる。次に、知覚させるために必要な呈示装置1003の呈示刺激を定める必要がある。つまり、上式により知覚レベルを定め、その知覚レベルに基づいて呈示装置1003を駆動する信号を決めて出力するのである。
【0091】これを決める方法として予め用意した等感覚曲線のデータを利用する方法がある。等感覚曲線とは同一の知覚の強さを呈する振動の周波数と変位の組み合わせを、周波数と変位それぞれを軸にとってグラフに描いた曲線のことで、その一例を図18に示す。
【0092】例えば、刺激周波数が100Hzのとき、最初に変位1.0μm呈示していた場合、変位を10倍にするとその時の感覚は30dBレベルが上がって知覚されることをグラフから読みとることができる。呈示装置1003として図16に示すようにボイスコイル1201を用いると周波数と振幅(変位)を変化させることができるため、この周波数と振幅の変化(変位)を操作者に伝達することが考えられる。例えば振幅(変位)の変化で弾性の違いを表現し、周波数の変化で粘性の違いを表現すると仮定すると、弾性、粘性の変化をスティーブンスのべき関数に従って変換し、その知覚レベルに応じて弾性は振幅(変位)の変化、粘性は周波数の変化の量を定めるのである。振幅(変位)の変化と周波数の変化は電圧信号に変換されており、この信号に基づいて、振幅(変位)と周波数を有する交流信号を信号源1102で発生させる。この交流信号に基づいて呈示装置1003は駆動するようにする。
【0093】上記した第5実施形態によれば、操作者に対象物の粘弾性特性を伝達することが可能になる。
【0094】なお、感覚と物理量の関係を表すスティーブンスのべき関数の指数部の値を変えたりスティーブンスのべき関数に従わず、両者の関係を示す別の表現ならどのような表現でも構わない。例えば対数関係でもよい。
【0095】また、弾性を振幅で粘性を振幅で表現するのは一例であり、その逆の表現でも構わない。さらに、弾性と粘性を含めた硬さという知覚表現で、複素弾性率の実数部と虚数部を独立に表現せず、複素弾性率の絶対値や実数部と虚数部の和をとったりなどして、呈示装置1003を介して操作者に呈示しても構わない。この場合、例えば周波数を固定して、振幅を変えることにより、知覚レベルを変化させて呈示を行うことが考えられる。勿論、振幅を固定して呈示しても構わないまた、呈示装置1003は操作者に粘弾性特性を伝達することが目的であり、そのような観点に立つと信号処理手段104からの複素弾性率の実数部と虚数部の値を図16に示すように視覚呈示装置1202などの操作者に視覚で表現できる方法ならどのような方法であっても構わない。この場合は操作者に数値でもって対象物の粘弾性特性を呈示することが可能になる。
【0096】この実施例では呈示装置1003にボイスコイル1201を用いるとしていたが、弾性と粘性の両方を表現できるような2パラメータ以上の駆動が可能な呈示装置ならばどのような呈示装置であっても構わなく、その場合は各パラメータと知覚強度の関係を表す等感覚曲線を求める必要があるのは言うまでもない。たとえば、圧電振動子を呈示装置に使用した場合、圧電振動子は印加する電圧と周波数を変えることにより、発生する振幅と振動方向を変えることができる。つまり、2パラメータの駆動が可能である。柔らかい物体は低い周波数で長さ方向の振動を発生させ、最も硬いときは高い周波数にして縦方向の振動を発生させることが考えられる。勿論、その逆の関係にしても構わない。
【0097】なお、上記した実施形態には以下のような構成の発明が含まれる。
【0098】(構成1)圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサと、該圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段と、前記圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段と、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段と、を具備したことを特徴とする触覚センサ信号処理装置。
【0099】(作用)圧電振動子のインピーダンス特性より共振抵抗変化検出手段と共振周波数変化検出手段で共振抵抗変化と共振周波数変化を検出し、その結果を用いて、信号処理手段で粘弾性特性の実数部と虚数部を計算処理することにより、複素弾性率の実数部と虚数部を分離検出する。
【0100】(効果)複素弾性率G* の実数部G′と虚数部G″とを分離して検出することにより、より詳細な生体の情報を得ることができる。
【0101】(構成2)構成1に記載した前記共振周波数変化検出手段と前記共振抵抗変化検出手段が、圧電振動子の等価回路定数を回路要素とした発振回路と、その発振出力を分岐する分岐手段と、その分岐信号のうち一方を電圧信号に変換する周波数−電圧変換手段からなることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0102】(作用)圧電振動子205の等価回路定数を回路要素とした発振回路202の出力(交流信号)は分岐手段203によって2つの同等の信号に分岐され、分岐された信号の一方は周波数−電圧変換手段204によってその周波数に対応した電圧信号に変換される。信号処理手段に入力される信号は一方は交流信号の振幅電圧信号もう一方は交流信号の周波数の電圧信号であり、この電圧信号を用いて信号処理で粘弾性特性の実数部と虚数部を計算処理することにより、複素弾性率の実数部と虚数部が分離検出される。
【0103】また、圧電振動子205の等価回路定数を回路要素とした発振回路202を使用することにより、該発振回路202からの出力信号は圧電振動子205のインピーダンス特性を反映した信号となり、共振抵抗は振幅に共振周波数は発振周波数に対応する。つまり、発振出力の周波数成分と振幅信号を検出することは、圧電振動子のインピーダンス特性を検出することになる。そこで、発振出力を分岐手段203によって分岐し、信号処理手段104で処理するために周波数成分を電圧信号に変換する。
【0104】(効果)発振回路を使用することにより、圧電振動子のインピーダンス特性の変化をリアルタイムで測定することが可能になり、短時間で粘弾性特性の測定が可能となる。また、出力信号を用いて信号処理するには、どちらも電圧信号にする必要があるが、発振出力を分岐して一方の信号を周波数電圧変換手段で周波数成分を電圧信号に変換すればよい。
【0105】(構成3)構成1に記載した触覚センサ信号処理装置において、前記共振周波数変化検出手段と前記共振抵抗変化検出手段が、高周波駆動信号の周波数f1 を、前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から立ち下がり時刻T2 にかけて、f1 −Δf1 とf1 +Δf1 の間を連続的に単調に増加または減少させる駆動回路手段と、高周波駆動信号の周波数と前記圧電振動子のインピーダンスの値によって出力電圧を変化させる圧電振動子増幅手段と、圧電振動子増幅手段の出力を直流変換する直流変換手段と、直流変換手段の出力信号である直流パルス信号より直流パルス信号のピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号のピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段とからなることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0106】(作用)駆動回路手段により高周波駆動信号の周波数f1 が前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から立ち下がり時刻T2 にかけて、f1 −Δf1 とf1 +Δf1の間を連続的に単調に増加または減少する信号を圧電振動子増幅回路に入力すると、粘弾性対象物が付加されていない無負荷状態では、ちょうど高周波駆動信号の周波数が圧電振動子の共振周波数fr の時刻T0 (T0 =T1 +(T2 −T1)/2)で直流変換手段からの直流パルス信号がピーク値を示す。一方、有負荷時は共振周波数がfr に変化すると同時にその周波数に於ける共振抵抗も変化するのでピークの位置は前記fr に対応する時刻T0 からずれ、またピーク電圧も共振抵抗の変化に対応して減少する。この直流パルス信号を直流変換すると高周波駆動信号の信号幅と等しいパルス幅を有した直流パルス信号となり、これより直流パルス信号のピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号ピーク値を示す時刻を計測する手段によってピーク値とずれ時間ΔT0 を検出し、この時間と、駆動回路手段の出力信号波形との関係から圧電振動子の共振周波数の変化を検出し、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を検出する。
【0107】(効果)圧電振動子増幅手段を使用することより圧電振動子の等価回路定数が不要となるため、構成2に示した発振回路202を用いた場合よりもダイナミックレンジを広くすることが可能である。また、圧電振動子増幅手段からの出力を直流変換する直流変換手段と直流変換手段の出力信号である直流パルス信号よりパルスピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号のピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段により圧電振動子のインピーダンス特性に変換することができる。
【0108】(構成4)構成1に記載した触覚センサ信号処理装置に於いて、前記信号処理手段が、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを入力する入力手段と、入力された前記2つの検出結果に基づいて、複素弾性率の実数部と虚数部とを独立に計算する計算式を用いて計算処理する信号処理回路と、この信号処理回路の計算結果を出力する出力手段と、を具備し、前記入力手段は前記信号処理回路に同一のタイミングで両検出信号を入力するものであることを特徴とする触覚センサ信号処理装置。
【0109】(作用)前記共振抵抗変化検出手段と前記共振周波数変化検出手段の検出結果を入力手段を介して同一のタイミングで計算処理回路に入力し、その計算処理結果を出力手段を介して出力する。
【0110】(効果)入力手段を介することにより、計算処理時のタイミングを最適にすることが可能となり、また、出力手段を介することにより任意のタイミングで出力が可能となる。
【0111】(構成5)構成1または4に記載した触覚センサ信号処理装置において、前記信号処理手段が前記複素弾性率の実数部G′と虚数部G″とを独立に計算する計算式
【数7】
【0112】(ωは角周波数、Zr は無負荷時の共振抵抗、fr は無負荷時の共振周波数、L1 は圧電振動子の等価回路定数のインダクタンス成分、ρは密度、KR は触覚センサと共振抵抗検出手段で決まる装置定数、KL は触覚センサと共振周波数検出手段で決まる装置定数、ダッシュは負荷印加時の状態を示す)に基づいて計算処理するものであることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0113】(作用)この式に基づいて計算処理を行うことにより複素弾性率の実数部と虚数部とを独立して検出する。
【0114】(効果)数式で表現することにより、電気回路の構成が容易になる。
【0115】(構成6)構成1または4に記載した信号処理手段が 無負荷における圧電振動子のインピーダンス特性より圧電振動子の等価回路定数のインダクタンス成分L1 、直列容量成分C1 、直列抵抗成分R1 および並列容量成分C0 を算出する振動子定数算出手段と、有負荷における圧電振動子のインピーダンス特性より負荷である粘弾性体の電気的等価回路定数のインダクタンス成分Lv0と抵抗成分RV0を算出する粘弾性電気定数算出手段と、粘弾性体の機械的等価回路定数のインダクタンス成分LV と抵抗成分RV と電気的等価回路定数LV0とRV0より装置定数KR とKL を算出する装置定数算出手段と、装置定数算出手段からの出力信号を格納する格納手段と、格納手段に基づいて装置定数KR 、KL を可変できる手段とを有することを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0116】(作用)式中の装置定数KR もしくはKL をあらかじめ測定し、その測定結果に基づいて装置定数を変える。つまり、測定毎に信号処理装置内の計算式に最適な装置定数を代入して使用することができる。
【0117】(効果)測定毎に異なる温度、湿度などの環境の変化を装置定数KR 、KL を用いてキャンセルするため、精度の高い測定が可能になる。
【0118】(構成7)構成1に記載した触覚センサ信号処理装置において、該触覚センサ信号処理装置がさらに、前記信号処理手段の出力を人の知覚レベルに基づいた信号に変換する呈示信号変換手段と、上記変換手段からの信号に従って駆動される呈示装置とを有することを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0119】(作用)構成1に記載した信号処理手段で処理された粘弾性特性の実数部と虚数部のデータ信号を呈示信号変換手段で操作者に知覚できるような信号に変換し、その変換信号に対応して呈示装置駆動させる。
【0120】(効果)操作者に知覚できるように信号処理結果にもとづいて信号変換し、その信号に基づいて駆動する呈示装置により、操作者に対象物の粘弾性特性を伝達することが可能になる。
【0121】(構成8)構成7に記載した触覚センサ信号処理装置において、呈示信号変換手段が、対象物の粘弾性特性φを人の知覚レベルψに変換する計算式ψ=k・φn (nはべき指数、そしてkは定数である)に基づいて計算処理する計算処理手段と、この計算処理手段で得られた知覚レベルを等感覚曲線に基づいて呈示装置の駆動信号に変換する演算手段と、この演算手段に基づいて駆動される交流信号発生手段とを有することを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0122】(作用)前記呈示信号変換手段にスティーブンスのべき関数と等感覚曲線を用いることにより、信号処理手段からの複素粘弾率の変化を人間の知覚レベルの変化に変換し、その信号に基づいて交流信号を発生させる。
【0123】(効果)物理的測定値の変化を知覚レベルの変化に変換することにより、人間の知覚に合致した信号に変換できる。
【0124】(構成9)構成7に記載した触覚センサ信号処理装置において、前記呈示信号変換手段が、前記複素弾性率の実数部の出力と前記虚数部の出力の2つの信号を合成し1つの信号に変換する合成手段からなることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0125】(作用)信号処理手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号もしくは変換手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号の両方の信号特性を合成し、1つの信号に合成変換する。
【0126】(効果)信号処理手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号を1つに合成することにより、呈示装置の駆動に必要なパラメータが1つで済む。
【0127】(構成10)構成9に記載した触覚センサにおいて、前記合成手段によって得られた合成信号を入力して呈示装置を駆動するようにしたことを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0128】(作用)信号処理手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号もしくは呈示信号変換手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号を合成し、1つの信号に合成変換することにより、1つの信号しか呈示できない呈示装置を駆動するようにする。
【0129】(効果)信号処理手段から出力される粘弾性特性の出力信号は2つの信号より構成されるため、呈示装置によっては2つの信号を同時に呈示できないが、この合成手段により1つの信号しか呈示できない呈示装置を用いて対象物の粘弾性特性を操作者に呈示することが可能になる。
【0130】
【発明の効果】本発明によれば、クリープ変形の測定のような微妙な測定の難しさと、測定時間の長さと、対象物の違いによる測定時間の違いと言った従来技術が有する問題が解決されて、短時間で詳細な情報が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図2】共振抵抗変化検出手段と共振周波数変化検出手段の具体的な回路構成とその周辺部を示す図である。
【図3】信号処理手段の具体的構成とその周辺部を示す図である。
【図4】信号処理回路の具体的な回路図である。
【図5】信号処理回路の具体的な回路図である。
【図6】発振回路から出力される出力信号のモデル図である。
【図7】圧電振動子の等価回路を示す図である。
【図8】インピーダンス特性の変化における各定数を示す図である。
【図9】第2実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図10】各部の信号波形を示す図である。
【図11】第3実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図12】第4実施形態の構成を示す図である。
【図13】装置定数を算出する工程を示すフローチャートである。
【図14】第5実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図15】呈示信号変換手段の具体的構成とその周辺部を示す図である。
【図16】第5実施形態の変形例を示す図である。
【図17】第5実施形態の変形例を示す図である。
【図18】等感覚曲線を示す図である。
【図19】生体の粘弾性特性を測定する従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
101…触覚センサ、102…共振抵抗変化検出手段、103…共振周波数変化検出手段、104…信号処理手段。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、粘弾性特性をもつ対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、内視鏡は生体の内部を観察するための器具としての機能よりも、観察を行いながら観察対象を操作するといった機能を重視するようになってきている。これは胆嚢摘出手術に硬性鏡が使用されたりする情勢より容易に推測できる。内視鏡を用いた手術や診断は今後ますます拡大するものと予想される。
【0003】このようなより複雑、微細な操作や体腔内で診断・治療を適切に行うには、視覚情報と同時に触覚情報もより重要となる。生体は粘弾性体であり、ここでいう、触覚とは対象物のもつ粘弾性特性による反作用力の知覚と定義し、対象物のもつ粘弾性特性を検出するセンサを触覚センサと呼ぶ。粘弾性特性は一般に複素弾性率G* を用いて G* =G′+jG″ …(0)
で表せ、この複素弾性率G* の実数部G′は弾性に対応し、虚数部G″は粘性に対応する。生体組織は筋や組織間液などが絡み合って粘弾性特性を示しており、腫瘍やしこりなどの病変部においては正常部に比べ複素弾性率G* の実数部G′と虚数部G″の両方が異なる値を示すことになる。複素弾性率を測定するには時間変化に対する対象物の応答を測定する必要があり、その方法として生体組織に振動を与え、その応答を測定し、生体の複素弾性率G* を決定する方法がある。従来、粘弾性特性は術者の定性的な感覚量でしか判断できなかったが、触覚センサにより粘弾性特性を定量的に検出することによって第3者に確実に伝達可能なデータとして触覚を変換できる。また、粘弾性特性を独立に測定することは、病変部の診断をより精密に行うことが可能になる。
【0004】このようなニーズに対して、生体の粘弾性特性を測定する装置として、生体の力学的特性の変化を利用して、生体の粘弾性特性を測定する方法(例えば特公昭57−2022)が挙げられる。
【0005】図19に示すように、生体である検体1501に接触するプローブ本体1502は筒状の案内部1503を有するケーシング1504を備えており、案内部1503内には変位検出器1505、オシレータ1506及び力検出器1507が位置している。変位検出器1505はその固定部が案内部1503に固定され、その可動部は案内部1503に沿って移動可能である。この変位検出器1505の可動部と一体的に変位可能であるオシレータ1506及び力検出器1507はケーシング1504に固定されている。
【0006】このような構成において関数発生器1509によりオシレータ1506に例えば正弦波状電流を流すとオシレータ1506により振動が発生し、この振動がプローブ部材1508によって検体1501に伝達される。プローブ部材1508の動きは変位検出器1505で検出され、その値は歪み計1510に指示される。検体1501の生体組織はプローブ部材1508からの振動によって変形し、その結果、その反力が力検出器1507に正弦波状に現れる。ついでこれが力指示計1511に指示される。
【0007】このようなプローブにおいては、プローブの案内部1503を検体に接触させた後に、オシレータ1506に直流バイアスを加えて振動プローブ1508をケーシング1504より突出させて、力指示計1511にある決められた静的圧力F0 を付加し、しかる後にオシレータ1506に正弦振動F1 ・sin ωtを与えて振動荷重F1 ・sin ωtを重畳させ、合成荷重Fと時間tの関係をみる。このとき、反力は力検出器1507によって検出され、一定の振動荷重となるように制御される。この場合、変位は静的な荷重に対するクリープ変形成分と振動荷重に対する振動変位の和で与えられるが、これらは容易に分離できる。
【0008】例えば、静的な力F=F0 に対する変位の時間変化はI=I0 (I−e-at )で与えられ(I0 、aは定数、tは時間を表す)、振動荷重F1 ・sin ωtに対する振動変位はI=I1 sin(ωt−δ)(ここでδは位相差である)で表わされ、以上の量から複素弾性率が計算できる。これらの信号処理は図示していないマイクロコンピュータで行っている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】生体において硬さを測定する場合、拍動により生体が動くため、接触状態を一定にするか、測定時間を短くする必要がある。従来例の上記検査装置では、静的荷重であるクリープ変形を測定するため、オシレータ1506に与える直流バイアスを調整することにより一定時間生体との接触状態を一定に保つ機構を有しているが、このような機構は生体との接触状態の変化、例えば操作者の動きに追従するのが難しく、わずかな接触状態の変化がクリープ変形のような微妙な変位の測定に対して大きな影響を及ぼしてしまう。
【0010】また、クリープ変形のような時間のかかる測定データを使用しているため、測定時間がかかるだけでなく、対象物の粘弾性特性によりクリープ時間が変化するため一回の測定に必要な時間が異なってしまうという問題がある。
【0011】本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、クリープ変形の測定のような微妙な測定の難しさと、測定時間の長さと、対象物の違いによる測定時間の違いと言った従来技術が有する問題を克服して、短時間でより詳細な生体情報を得ることができる触覚センサ信号処理装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明は、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサと、該圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段と、前記圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段と、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段とを具備する。
【0013】すなわち、本発明は、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、まず、圧電振動子のインピーダンス特性の共振抵抗の変化と共振周波数の変化を検出する。次に、共振抵抗の変化と、共振周波数の変化とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理するようにする。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】まず、本発明による第1実施形態の構成、作用、効果について説明する。
【0016】図1は第1実施形態の触覚センサ信号処理装置105を主たる構成手段によって表した図で、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ101と、インピーダンス特性のうち共振抵抗変化を検出する共振抵抗変化検出手段102と、共振周波数変化を検出する共振周波数変化検出手段103と、前記両検出手段の検出結果を用いて対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段104とから構成されている。
【0017】更に前記した触覚センサ101、共振抵抗変化検出手段102、及び共振周波数変化検出手段103の具体的な回路構成を図2を用いて説明する。図2(a)は共振抵抗変化検出手段102と共振周波数変化検出手段103の具体的な回路図であり、圧電振動子205に接続された発振回路202と、その発振出力を分岐する分岐手段203と、その分岐信号のうち一方を電圧信号に周波数−電圧変換するF/V変換手段204とを具備する。発振回路202は、圧電振動子205の図2R>2(b)に示す等価回路定数を回路要素としたコルピッツ発振回路から構成されており、コンデンサ(Cb )206、コンデンサ(C1 )207、コンデンサ(C2 )208、抵抗(R1 )209、抵抗R2 (210)、トランジスタ211、抵抗(Re )212、コンデンサ(C0 )213、電圧端子214、出力端子215で構成される。
【0018】図2のような構成の共振抵抗変化検出手段102により検出された共振抵抗Zr'と、図2のような構成の共振周波数変化検出手段103により検出された共振周波数fr'は信号処理手段104に入力される。この信号処理手段104は図3に示すように、出力信号分岐手段601、信号処理回路602、メモリ603、D/Aコンバータ604で構成される。信号処理回路602の具体的な回路図が図4、図5である。図4はG′を算出するG′算出回路501で、図5はG″を算出するG″算出回路502である。
【0019】図4に示すG′算出回路501は、増幅率KR 2 の差動演算増幅器503と増幅率KL の差動演算増幅器504と増幅率1の差動演算増幅器506と乗算器507〜513、515〜517と除算器518と増幅率2πの増幅器514とZr'端子528とZr 端子529とfr'端子530とρ端子531とfr 端子532とL1端子533の入力端子とG′端子540の出力端子で構成される。
【0020】図5に示すG″算出回路502は、増幅率KR の差動増幅器505と増幅率KL の差動増幅器519と乗算器520〜523、527と除算器525、526と増幅率2πの増幅器524とZr'端子534とZr 端子535とfr 端子536とfr'端子537とL1端子538とρ端子539の入力端子とG″端子541の出力端子で構成される。
【0021】以下に上記した構成の作用を説明する。
【0022】圧電振動子205の等価回路定数を回路要素とした発振回路202を使用すると、該発振回路202からの出力信号は図6に示すように圧電振動子205のインピーダンス特性を反映した信号となる。無負荷の場合、出力信号は圧電振動子205の共振周波数近傍で出力され、かつ、その振幅は圧電振動子205の共振抵抗に対応してくる。
【0023】一方、粘弾性体が付着すると出力信号は図6R>6の破線のようになる。つまり、出力信号は圧電振動子205のインピーダンス特性を反映した信号である。よって、発振出力を分岐し、信号処理手段104で処理するために周波数成分を電圧信号に変換し、共振抵抗変化と共振周波数変化を検出できる。このような、共振抵抗変化検出手段102により検出された共振抵抗Zr と共振周波数変化検出手段103により検出された共振周波数fr は信号処理手段104に入力され、信号処理手段104に予め格納された処理方法により計算処理されて、対象物の粘弾性特性を示す複素弾性率の実数部G′と虚数部G″が算出される。
【0024】この時の算出方法について以下に述べる。圧電振動子の共振周波数における電気的特性の等価回路は図7(a)のようになる。無負荷の場合は機械端子に図7(b)を接続させた回路となる。一方粘弾性体を圧電振動子に付着させると圧電振動子の共振周波数と共振抵抗が変化するため、この場合の等価回路はコイルと抵抗を直列接続させた回路(図7(c))となる。
【0025】図7(c)の等価回路表現は対象物の粘弾性特性を電気回路的に表現したものであり、実際の粘弾性特性は機械的特性のため、Lv0とRv0が粘弾性特性を直接表現するものではないが、ある関数で結びつけることができる。よって電気端子からみたインピーダンスを測定することにより粘弾性体の粘弾性特性を検出することが可能となる。
【0026】図7(b)の場合の電気端子から見たインピーダンス特性の共振周波数fr と反共振周波数fa と共振抵抗Zr 及び自由容量CF は以下の式で表せる。
【0027】
【数1】
【0028】なお、上式においてはL1 は直列インダクタンス、C1 は直列容量、C0 は並列容量、R1 は直列抵抗である。
【0029】この4式より、図7(a)に示した等価回路定数を求めることができる。
【0030】一方、粘弾性体が付着した場合、共振周波数と共振抵抗が変化するため、ここから推測すると電気回路的にLv0とRv0が直列に接続したことになる。この場合の共振周波数fr'と反共振周波数fa'とZr'は以下の式で表せる。
【0031】
【数2】
【0032】この式を用いてLv0とRv0が求められる。
【0033】上述したように、粘弾性体の機械的表現と電気的表現はある関数で結び付けることができるため、まず、インピーダンス表現した場合の関係を考察する。粘弾性体の機械的インピーダンスZM と粘弾性体の固有音響インピーダンスZA0の関係は次の関係がある。
【0034】
Rv +iωLv =ZA0=ZM /S …(8)
また、ずり弾性率と粘性係数の関係は以下のようになる。
【0035】
G* =G′+iG″=ωη′+iωη″=iω(η′−iη″)=iωη* …(9)
よって、機械的インピーダンスZM と固有音響インピーダンスとずり弾性率に関係する値との関係は以下のようになる。
【0036】
【数3】
【0037】(10)式と(11)式の実数部と虚数部を比較する。
【0038】複素弾性率G* の虚数部G″で表現すると(12)式のようになる。
【0039】
【数4】
【0040】(12)式、(13)式より、回路定数のRV とLV がそれぞれ粘性率と弾性率に1対1に対応しているのではないことが分かる。つまり、Rv 、Lv はそれぞれ複素弾性率の実数部・虚数部に関与しており、(12)式、(13)式に示すようにRv とLv の両方の変化を測定して初めて実数部と虚数部が算出でき、粘弾性特性の検出が可能となる。ところで、粘弾性体の固有音響インピーダンスZA0に対応する式中のRv とLv は最初の式に示した電気的なインピーダンスとは異なり、前者は粘弾性体の単位面積あたりの機械的インピーダンスであるため圧電振動子の機械的な特性を考慮していないが、後者は圧電振動子の機械的な特性を考慮し、それを含めた電気的なインピーダンスである。そのため、この両者は圧電振動子の等価回路表現に使用される力変換係数といった係数で結びつけることができると考えられる。そこで、この係数を装置定数KR 、KL とするとRV0とRV 、LV0とLV の関係は以下の式のようになる。
【0041】
LV =KL ・LV0 …(14)
RV =KR ・RV0 …(15)
よって、上式よりG″およびG′は次式のように変形できる。
【0042】
【数5】
【0043】これより圧電振動子の共振周波数と共振抵抗がそれぞれ粘性率と弾性率に1対1に対応しているのではないことが分かる。つまり、共振周波数・共振抵抗それぞれは複素弾性率の実数部と虚数部に関与しており、圧電振動子の等価回路定数(C1 、L1 、装置定数)と共振抵抗、共振周波数が既知ならば(16)式〜(19)式に示すように共振周波数と共振抵抗の両方の変化を測定して初めて複素弾性率の実数部と虚数部が算出でき、粘弾性特性の検出が可能となる。
【0044】図3、図4、図5は上述した計算式をもとにした信号処理手段とその回路の一例を示したものである。図1もしくは図2に示した共振周波数変化検出手段102と共振抵抗変化検出手段103からの共振周波数fr と共振抵抗Zr の1組の出力は出力信号分岐手段601により、直流電圧信号に変換して2組に分岐され、Vin1 (Zr')、Vin2 (fr')の2組が信号処理回路602に入力される。
【0045】一方、既知のデータとなる無負荷時の共振抵抗Zr 、共振周波数fr 、直列インダクタンスL1 と密度ρはメモリ603に予め格納され、信号処理回路602で計算処理する時は、D/Aコンバータ604を介してデジタル信号をアナログ信号である直流電圧信号Vin3 (Zr )、Vin4 (fr )、Vin5 (ρ)、Vin6 (L1 )に変換し、信号処理回路602に入力されて計算が行われる。この時、出力信号分岐手段601とD/Aコンバータ604からの出力はクロック信号を発生する回路(図示せず)などにより信号処理回路602で信号処理しやすいように同一のタイミングで信号処理回路602に入力される。信号処理回路602は粘弾性特性G′算出回路501と弾性特性G′算出回路502で構成される。
【0046】以下、それぞれの信号の流れを説明する。弾性特性G′算出回路501は次の通りである。出力信号分岐手段601で分岐された1組の直流電圧信号Vin1(Zr')、Vin2 (fr')のうち、Vin1 (Zr')とメモリ603に格納され、D/Aコンバータ604を通してアナログ信号に変換されたVin3 (Zr )は増幅率KR 2 の差動増幅器503を通して、直流電圧信号V503 (KR 2 (Zr'−Zr ))に変換され、Vin2 (fr')は乗算器508,509を通りV509 (fr'4 )となり、V509 (fr'4 )と乗算器507を通して、V509 (fr'4 KR2 (Zr'−Zr ))となる。また、V509 (fr'4 )は乗算器510でVin5 (ρ)と乗算されて、V510 (ρfr'4 )となる。
【0047】Vin2 (fr')は乗算器508によりV508 (fr'2 )となり、Vin4 (fr)は乗算器511によりV511 (fr 2 )となり、V509 (fr'4 )とV511 (fr 2 )は増幅率KL の差動増幅器504で減算され、さらに、乗算器512で自乗されてV512 (KL 2 (fr 2 −fr'2 )2 )となる。Vin4 (fr )は増幅率2πの増幅器514によりV514 (ω)に変換され、V514 (ω)とVin6(L1 )はそれぞれ乗算器513及び515を通して自乗され、さらに乗算器516で両方の積がとられてV516 (ω2 L1 2 )となる。そして乗算器517で上述したV512 (KL 2 (fr 2 −fr'2 )2 )とV516 (ω2 L1 2 )との積がとられてV517 (KL 2 ω2 L1 2 (fr 2 −fr'2 )2 )が得られる。そして増幅率1の差動増幅器506でV517 (KL 2 ω2 L1 2 (fr 2 −fr'2 )2 )とV509 (fr'4 KR 2 (Zr'−Zr ))との差がとられた後、除算回路508で式(18)の結果であるVout1(G′)が得られる。
【0048】弾性特性G″算出回路502は出力信号分岐手段601で分岐された1組の出力信号Vin1 (Zr')、Vin2 (fr')のうち、Vin1 (Zr')とメモリ603に格納され、D/Aコンバータ604を通してアナログ信号に変換されたVin3(Zr )は増幅率KR の差動増幅回路505を通して、V505 (KR (Zr'−Zr ))に変換され、また、Vin4 (fr )とVin2 (fr' )は乗算器521及び522を通して自乗され、それぞれの値は増幅率KL の差動増幅器519を通されてV519 (KL (fr 2 −fr'2 ))となる。そして、V505 (KR (Zr'−Zr ))とV519 (KL (fr 2 −fr'2 ))とを乗算器520に入力することによりV520 (KR (Zr'−Zr )KL (fr 2 −fr'2 ))となる。
【0049】一方、Vin2 (fr')は増幅率2πの増幅器524によりV524 (ω)に変換され、V524 (ω)とVin5 (ρ)は除算器525を通されてV525 (2ω/ρ)となる。そしてVin6 (L1 )と乗算器523によりV523 (2ωL1 /ρ)となり、乗算器522を通して自乗されたV522 (fr'2 )と除算器526によりV526 (2ωL1 /fr'2 ρ)が得られる。そして、V526 (2ωL1 /fr'2 ρ)と上述のV520 (KR (Zr'−Zr )KL (fr 2 −fr'2 ))から乗算器527により式(16)の結果であるVout2(G″)が得られる。
【0050】このような回路501と502に共振抵抗変化検出手段102からの出力と共振周波数変化検出手段103からの出力を入力すると対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部が算出できる。図4、図5には記載してないが、それぞれの増幅器などで計算処理を行うには同一の位相で増幅器に直流電圧信号が印加されなくてはならないため、位相を一致させるための手段も各増幅器の入力端子手前に含まれている。
【0051】信号処理回路501と502において、増幅率KR 2 の差動増幅器503、増幅率KL の差動増幅器504,519、増幅率KR の差動増幅器505の増幅率を予め決める必要があるが、これらの増幅率は上述した式中の装置定数に対応しており、この値は触覚センサ101により異なる。この装置定数は複素弾性率が測定済みの材料を用いて算出する。
【0052】以下に算出の方法を述べる。(12)式より
【数6】
【0053】このLV を(20)式に代入しRV を求め、(14)式、(15)式より変換係数を求める。例として、実際にこれらの値を算出してみる。
【0054】無負荷のときと3種類の異なる粘弾性体に接触させたときの圧電振動子のインピーダンス特性の測定を行った。その結果を図8に示す。
【0055】図8よりKL とKR が3つ算出され、3つの平均をとるとKL =8.28434KR =9.2571となる。この値を図4、図5に示した回路の増幅率にセットすることにより、信号処理手段104の処理回路がきまり、共振抵抗変化と共振周波数変化を用いて複素弾性率の実数部と虚数部を算出することが可能になる。
【0056】上記した第1実施形態によれば、図3、図4R>4、図5に示す信号処理手段により、対象物の複素弾性率の実数部と虚数部を算出することが可能になる。生体組織は筋や組織間液の易動度などが絡み合って粘弾性特性を示しており、腫瘍やしこりなどの病変部においては複素弾性率G* の実数部G′と虚数部G″の両方が変化するが、本実施形態の方法で粘弾性特性を分離して検出することにより、より詳細な生体の情報を得ることができる。
【0057】また、図2に示すような発振回路202を使用することにより、圧電振動子のインピーダンス特性の変化をリアルタイムで測定することが可能になり、粘弾性特性の測定時間を短くできる。
【0058】また、コルピッツ発振回路202はC−MOSを用いて構成することもでき、要は圧電振動子205の等価回路定数を用いて自励発振回路の構成が可能ならばどのような回路でも構わない。
【0059】なお、装置定数として二種類仮定したが、これを一種類に統一しても問題はない。なぜなら、上述したように装置定数は力変換係数(電気機械変換係数)に対応しているため、同一な値を持つとも考えることができる。その場合は当然、図3、図4、図5に示した回路の増幅率KL の差動増幅器504,519、増幅率KR の差動増幅器505の増幅率は同一の増幅率になり、増幅率KR 2 の差動増幅器503は自乗の値になることはいうまでもない。
【0060】また、図3、図4、図5に示した回路は一例であり、上式の計算処理を行う回路であればどのような構成をとっても構わない。例えば出力信号分岐手段601でA/Dコンバータによりデジタル信号に変換して、図3に示すD/Aコンバータ604を通さないでメモリ603の出力をそのまま使用して、信号処理回路602にデジタル信号処理回路を使用し、その計算結果を再びD/Aコンバータ604でアナログ信号に変換しても同様の結果が得られる。
【0061】さらに、発振回路202はC−MOSを用いて構成することもでき、要は圧電振動子205の等価回路定数を用いて自励発振回路の構成が可能ならばどのような回路でも構わない。
【0062】以下に本発明の第2実施形態を説明する。
【0063】第1実施形態では共振抵抗変化検出手段と共振周波数変化検出手段として発振回路を用いているのでダイナミックレンジが狭くても良い場合には何の問題も無いが、広いダイナミックレンジが必要な場合は第1実施形態のままでは対応しきれない場合がある。それは、圧電振動子の等価回路定数を回路要素とした発振回路は圧電振動子が共振−反共振間の状態のような等価回路的にはインダクタンスL1 領域にある時のみ発振出力が得られるが、負荷が加わった状態では、共振周波数と反共振周波数の間であってもC成分の値とL成分の値の関係によっては発振状態が停止してしまう。第2実施形態はこの様な不具合を改善し、大きなダイナミックレンジを有するセンサを用いた対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を検出する触覚センサ信号処理装置を実現することを目的としている。
【0064】図9は本発明の第2実施形態に係る触覚センサ信号処理装置の構成図である。第2実施形態の共振周波数変化検出手段103と共振抵抗変化検出手段102は、高周波駆動信号の周波数f1 を前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から立ち下がり時刻T2 にかけて、f1 −Δf1 とf1 +Δf1 の間を連続的に単調に増加または減少させる駆動回路手段402と、入力信号の周波数と前記圧電振動子のインピーダンスの値によって出力電圧を変化させる圧電振動子増幅手段406と、圧電振動子増幅手段406の出力を直流変換する直流変換手段408と、直流変換手段408の出力信号である直流パルス信号よりパルスピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号のピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段409とから構成される。
【0065】さらに駆動回路手段402は矩形波発生器403と鋸波発生器404とFM変調器405で構成され、圧電振動子増幅手段406はコンデンサ(CC1)410、抵抗(Rb1)411、抵抗(Rb2)412、抵抗(RL )413、コンデンサ(CC2)414、トランジスタ415、抵抗(RE )416で構成され、計測手段409は直流パルス信号のピーク値を検出するピークディテクタ417とその信号のピーク時刻から、矩形波403の立ち上がり時刻T1 までの時間をカウントするカウンター回路419と、時間をカウントする為のクロック信号発生器418と、カウンター回路419のABCD出力をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ420とで構成され、この出力結果は信号処理手段104にて信号処理され、対象物の複素弾性率の実数部と虚数部を検出する。
【0066】以下に上記した構成の作用を説明する。
【0067】触覚センサ信号処理装置401は駆動回路手段402の矩形波発生器403の出力信号がトリガ信号となる。矩形波発生器403の矩形波は鋸波発生器404を同期させて、図10の1701のような鋸波を発生させる。そして、FM変調器405では鋸波1701の出力電圧値に応じて特定の周波数f1 を中心に周波数が変化する高周波駆動信号1703を発生させる。この時の周波数と時間の特性は1702のようになる。この信号を圧電振動子増幅手段406に入力すると圧電振動子407が無負荷状態なら共振抵抗がZr で共振周波数fr のインピーダンス特性を示すことに対して、高周波駆動信号1703の中心周波数がfr に等しくなる時刻T0 で最大振幅の信号を出力し、直流変換手段408を経た出力信号は1704に示したピーク値Vを示す直流パルス信号となる。
【0068】また、圧電振動子407に負荷が加わって、共振抵抗がZr'、共振周波数がfr'のインピーダンス特性になると、これに対応して直流変換手段408を経た出力信号はピーク電圧が共振抵抗が増加してZr'になったことに対応して小さくなり、ピーク電圧を示す時刻も印加周波数がfr'になる時刻T′に変化する。つまり、粘弾性対象物が付加されていない無負荷状態では、ちょうど高周波駆動信号の周波数が圧電振動子の共振周波数f1 の時刻T0 (T0 =T1 +(T2 −T1)/2)で直流変換手段からの出力信号がピーク値Vを示す。
【0069】一方、有負荷時は共振周波数がfr'に変化すると同時にその周波数に於ける共振抵抗も変化するのでピークの位置は前記fr に対応する時刻T0 から時刻T′にずれ、またピーク電圧も共振抵抗の変化に対応して減少する。この時間と、駆動回路手段の出力信号波形との関係から圧電振動子の共振周波数の変化を検出し、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を検出するピーク電圧の値とピーク電圧になる時刻を検出すれば圧電振動子407の共振抵抗と共振周波数が検出できる。
【0070】次にこの時刻の変化量とピーク値を検出する方法について図9を用いて説明する。直流変換手段408により出力信号の振幅成分のみを取り出して直流パルス信号とし、この信号からパルスのピーク値をピークディテクタ417によって検出する。この検出したという信号にもとづいてカウンター回路419はリセットが作動する。また、カウンター回路419は駆動回路手段402の矩形波発生器403の矩形波の立ち上がりに同期してカウントを始めるようになっており、リセット信号がピークディテクタ417から入力されるとそれまでの時間をクロック信号発生器418に基づいて計算する。つまり、時間ΔT0 が計算されるのである。この時間ΔT0 はD/Aコンバータ420を介してアナログ信号に変換され、ピークディテクタ417で検出されたピーク値と共に圧電振動子407の共振周波数と共振抵抗に関する電圧信号として信号処理回路104に入力される。信号処理回路の構成と動作は第1実施形態と同様である。
【0071】上記した第2実施形態によれば、圧電振動子増幅手段を使用すると、圧電振動子の等価回路定数を使用しないため、発振回路202を用いた場合よりもダイナミックレンジを広くすることが可能である。また、圧電振動子増幅手段からの出力を直流変換する直流変換手段と直流変換手段の出力信号である直流パルス信号よりパルスピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記パルスピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段により圧電振動子のインピーダンス特性に変換することができる。
【0072】以下に本発明の第3実施形態を図11を用いて説明する。
【0073】第3実施形態の信号処理手段104は、共振抵抗変化検出手段102と共振周波数変化検出手段103の両検出結果を入力する入力手段701と、その入力信号を用いて周波数変化と共振抵抗変化から複素弾性率の実数部と虚数部を分離して計算する計算式に基づいて計算処理する計算処理回路703と、その計算処理した結果を出力する出力手段701とからなる。また、入力手段701はゲート1(704)とゲート信号1(705)よりなり、出力手段702はゲート2(706)とゲート信号2(707)よりなる。
【0074】上記した構成において、ゲート信号1(705)はゲート1(704)のゲートのON/OFFを制御し、ゲート信号2(707)はゲート2(706)のゲートのON/OFFを制御をする上記した第3実施形態によれば、ゲート1(704)よりなる入力手段701を介することにより、計算処理時のタイミングと一致させるようにゲート信号1(705)から信号を送りゲート1(704)を開けば、最適のタイミングで計算処理することが可能となる。例えば出力結果をメモリ(図示せず)に格納する場合などはメモリの駆動タイミングと出力タイミングを一致させる必要があり、ゲート2(706)よりなる出力手段702を介することにより、一致させることが可能となる。
【0075】以下に本発明の第4実施形態を説明する。
【0076】第1実施形態では触覚センサ信号処理装置104に図4、図5に示す回路を用いたが、この場合、装置定数KR とKL はあらかじめ測定された値に基づいて固定されている。上述したように、装置定数KR とKL は圧電振動子の電気機械結合定数に対応しており、これは温度、湿度などの環境の変化を受けるため、測定毎に装置定数KR とKL を最適な値にする必要がある。そこで、第4実施形態では式中の装置定数KR とKL をあらかじめ測定し、その測定結果に基づいて装置定数KR 、KL を可変できる構成を提供する。
【0077】図12はこのような構成801を示す図であり、入力手段804を構成する重み抵抗ツリー802、A/D変換803、メモリ805と差動アンプ806よりなる。
【0078】以下に図12の構成の作用を説明する。
【0079】式中の装置定数KR もしくはKL を図13のようなフローに従って装置定数を算出し、その算出結果に基づいて装置定数を変える。まず、無負荷の状態で測定を行い(S901)、圧電振動子の等価回路定数(RV0,LV0)を算出する。次に複素弾性率が既知の粘弾性体を圧電振動子に接触させ、インピーダンス測定を行い、粘弾性体の電気回路定数(RV ,LV )を算出する(S902)。次に、求めた電気回路定数(RV0,LV0)と実際の複素弾性率から算出した等価回路定数(RV ,LV )を用いて(14)式、(15)式により装置定数KR とKL を算出する(S903)。この算出した結果をメモリ805に記憶する。
【0080】ゲインを変えるために重み抵抗ツリー802をデジタル信号により制御するため、メモリ805に格納した装置定数KR とKL はA/D変換器803によりデジタル信号に変換され、この信号が重み抵抗ツリー802に入力される。この構成801を図4、図5に示したスケールファクタKR 2 の減算回路503とスケールファクタKL の減算回路504とスケールファクタKR の減算回路505にすると、重み抵抗ツリー802の値によりゲインを可変出来るようになる。
【0081】上記した第4実施形態によれば、測定毎に異なる温度、湿度などの環境の変化を装置定数KR 、KL を用いてキャンセルするため、精度の高い測定が可能になる。
【0082】なお、ゲインを変えることが出来る手段ならばどのような回路であっても構わない。例えば、図12R>2のメモリ805はアナログ信号で出力されることを前提としておりメモリ805がデジタル出力の場合はA/D変換器803を介さずに直接重み抵抗ツリー802を駆動することになる。
【0083】以下に本発明の第5実施形態を図14を参照して説明する。
【0084】第5実施形態は第1実施形態における信号処理手段104の出力G′、G″を呈示装置1003に入力する信号に変換する呈示信号変換手段1002と、この呈示信号変換手段1002からの信号に対応して駆動されるボイスコイル型の呈示装置1003を具備する構成1001からなる。
【0085】前記呈示信号変換手段1002は図15に示すように、スティーブンスのべき関数1103と等感覚曲線1104よりなる演算手段1101と、交流電源1102で構成される。
【0086】図16は図15の構成において、呈示装置1003としてボイスコイル1201を用い、さらに信号処理手段104の出力G′、G″を視覚呈示装置1202で視覚的に表示するようにした構成を示す。
【0087】また、図17は図14に示す構成において、呈示信号変換手段1002を用いずに信号処理手段104の出力G′、G″によって呈示装置1003を駆動するようにした構成を示している。
【0088】以下に上記した構成の作用を説明する。
【0089】前記信号処理手段104で処理された粘弾性特性の実数部と虚数部のデータ信号を操作者に知覚できるような信号に呈示信号変換手段1002により変換し、その変換信号に対応して呈示装置1003を駆動させる。ところで、弾性感覚と粘性感覚が物理的測定値弾性率と粘性率と一義的に対応していないことは知られており、スティーブンスによれば、感覚的に測られる数値(psychologicalmagnitude )ψと、計測器による物理的測定値(physical magnitude)φの間にべき法則ψ=k・φnが成り立つ。nはべき指数、kは定数である。特に、感覚と物理量の関係として次の関係がある。
【0090】弾性について:ψ=k・φ0.7粘性について:ψ=k・φ0.4(文献:中川鶴太郎:レオロジー、岩波全書(1978))
つまり、信号処理手段104から得られた複素弾性率の実数部と虚数部の変化を上式の関係に従って操作者に知覚させるのが最適であるといえる。次に、知覚させるために必要な呈示装置1003の呈示刺激を定める必要がある。つまり、上式により知覚レベルを定め、その知覚レベルに基づいて呈示装置1003を駆動する信号を決めて出力するのである。
【0091】これを決める方法として予め用意した等感覚曲線のデータを利用する方法がある。等感覚曲線とは同一の知覚の強さを呈する振動の周波数と変位の組み合わせを、周波数と変位それぞれを軸にとってグラフに描いた曲線のことで、その一例を図18に示す。
【0092】例えば、刺激周波数が100Hzのとき、最初に変位1.0μm呈示していた場合、変位を10倍にするとその時の感覚は30dBレベルが上がって知覚されることをグラフから読みとることができる。呈示装置1003として図16に示すようにボイスコイル1201を用いると周波数と振幅(変位)を変化させることができるため、この周波数と振幅の変化(変位)を操作者に伝達することが考えられる。例えば振幅(変位)の変化で弾性の違いを表現し、周波数の変化で粘性の違いを表現すると仮定すると、弾性、粘性の変化をスティーブンスのべき関数に従って変換し、その知覚レベルに応じて弾性は振幅(変位)の変化、粘性は周波数の変化の量を定めるのである。振幅(変位)の変化と周波数の変化は電圧信号に変換されており、この信号に基づいて、振幅(変位)と周波数を有する交流信号を信号源1102で発生させる。この交流信号に基づいて呈示装置1003は駆動するようにする。
【0093】上記した第5実施形態によれば、操作者に対象物の粘弾性特性を伝達することが可能になる。
【0094】なお、感覚と物理量の関係を表すスティーブンスのべき関数の指数部の値を変えたりスティーブンスのべき関数に従わず、両者の関係を示す別の表現ならどのような表現でも構わない。例えば対数関係でもよい。
【0095】また、弾性を振幅で粘性を振幅で表現するのは一例であり、その逆の表現でも構わない。さらに、弾性と粘性を含めた硬さという知覚表現で、複素弾性率の実数部と虚数部を独立に表現せず、複素弾性率の絶対値や実数部と虚数部の和をとったりなどして、呈示装置1003を介して操作者に呈示しても構わない。この場合、例えば周波数を固定して、振幅を変えることにより、知覚レベルを変化させて呈示を行うことが考えられる。勿論、振幅を固定して呈示しても構わないまた、呈示装置1003は操作者に粘弾性特性を伝達することが目的であり、そのような観点に立つと信号処理手段104からの複素弾性率の実数部と虚数部の値を図16に示すように視覚呈示装置1202などの操作者に視覚で表現できる方法ならどのような方法であっても構わない。この場合は操作者に数値でもって対象物の粘弾性特性を呈示することが可能になる。
【0096】この実施例では呈示装置1003にボイスコイル1201を用いるとしていたが、弾性と粘性の両方を表現できるような2パラメータ以上の駆動が可能な呈示装置ならばどのような呈示装置であっても構わなく、その場合は各パラメータと知覚強度の関係を表す等感覚曲線を求める必要があるのは言うまでもない。たとえば、圧電振動子を呈示装置に使用した場合、圧電振動子は印加する電圧と周波数を変えることにより、発生する振幅と振動方向を変えることができる。つまり、2パラメータの駆動が可能である。柔らかい物体は低い周波数で長さ方向の振動を発生させ、最も硬いときは高い周波数にして縦方向の振動を発生させることが考えられる。勿論、その逆の関係にしても構わない。
【0097】なお、上記した実施形態には以下のような構成の発明が含まれる。
【0098】(構成1)圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサと、該圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段と、前記圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段と、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段と、を具備したことを特徴とする触覚センサ信号処理装置。
【0099】(作用)圧電振動子のインピーダンス特性より共振抵抗変化検出手段と共振周波数変化検出手段で共振抵抗変化と共振周波数変化を検出し、その結果を用いて、信号処理手段で粘弾性特性の実数部と虚数部を計算処理することにより、複素弾性率の実数部と虚数部を分離検出する。
【0100】(効果)複素弾性率G* の実数部G′と虚数部G″とを分離して検出することにより、より詳細な生体の情報を得ることができる。
【0101】(構成2)構成1に記載した前記共振周波数変化検出手段と前記共振抵抗変化検出手段が、圧電振動子の等価回路定数を回路要素とした発振回路と、その発振出力を分岐する分岐手段と、その分岐信号のうち一方を電圧信号に変換する周波数−電圧変換手段からなることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0102】(作用)圧電振動子205の等価回路定数を回路要素とした発振回路202の出力(交流信号)は分岐手段203によって2つの同等の信号に分岐され、分岐された信号の一方は周波数−電圧変換手段204によってその周波数に対応した電圧信号に変換される。信号処理手段に入力される信号は一方は交流信号の振幅電圧信号もう一方は交流信号の周波数の電圧信号であり、この電圧信号を用いて信号処理で粘弾性特性の実数部と虚数部を計算処理することにより、複素弾性率の実数部と虚数部が分離検出される。
【0103】また、圧電振動子205の等価回路定数を回路要素とした発振回路202を使用することにより、該発振回路202からの出力信号は圧電振動子205のインピーダンス特性を反映した信号となり、共振抵抗は振幅に共振周波数は発振周波数に対応する。つまり、発振出力の周波数成分と振幅信号を検出することは、圧電振動子のインピーダンス特性を検出することになる。そこで、発振出力を分岐手段203によって分岐し、信号処理手段104で処理するために周波数成分を電圧信号に変換する。
【0104】(効果)発振回路を使用することにより、圧電振動子のインピーダンス特性の変化をリアルタイムで測定することが可能になり、短時間で粘弾性特性の測定が可能となる。また、出力信号を用いて信号処理するには、どちらも電圧信号にする必要があるが、発振出力を分岐して一方の信号を周波数電圧変換手段で周波数成分を電圧信号に変換すればよい。
【0105】(構成3)構成1に記載した触覚センサ信号処理装置において、前記共振周波数変化検出手段と前記共振抵抗変化検出手段が、高周波駆動信号の周波数f1 を、前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から立ち下がり時刻T2 にかけて、f1 −Δf1 とf1 +Δf1 の間を連続的に単調に増加または減少させる駆動回路手段と、高周波駆動信号の周波数と前記圧電振動子のインピーダンスの値によって出力電圧を変化させる圧電振動子増幅手段と、圧電振動子増幅手段の出力を直流変換する直流変換手段と、直流変換手段の出力信号である直流パルス信号より直流パルス信号のピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号のピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段とからなることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0106】(作用)駆動回路手段により高周波駆動信号の周波数f1 が前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から立ち下がり時刻T2 にかけて、f1 −Δf1 とf1 +Δf1の間を連続的に単調に増加または減少する信号を圧電振動子増幅回路に入力すると、粘弾性対象物が付加されていない無負荷状態では、ちょうど高周波駆動信号の周波数が圧電振動子の共振周波数fr の時刻T0 (T0 =T1 +(T2 −T1)/2)で直流変換手段からの直流パルス信号がピーク値を示す。一方、有負荷時は共振周波数がfr に変化すると同時にその周波数に於ける共振抵抗も変化するのでピークの位置は前記fr に対応する時刻T0 からずれ、またピーク電圧も共振抵抗の変化に対応して減少する。この直流パルス信号を直流変換すると高周波駆動信号の信号幅と等しいパルス幅を有した直流パルス信号となり、これより直流パルス信号のピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号ピーク値を示す時刻を計測する手段によってピーク値とずれ時間ΔT0 を検出し、この時間と、駆動回路手段の出力信号波形との関係から圧電振動子の共振周波数の変化を検出し、圧電振動子のインピーダンス特性の変化を検出する。
【0107】(効果)圧電振動子増幅手段を使用することより圧電振動子の等価回路定数が不要となるため、構成2に示した発振回路202を用いた場合よりもダイナミックレンジを広くすることが可能である。また、圧電振動子増幅手段からの出力を直流変換する直流変換手段と直流変換手段の出力信号である直流パルス信号よりパルスピーク値と前記高周波駆動信号の立ち上がり時刻T1 から前記直流パルス信号のピーク値を示す時刻T2 までの時間を計測する計測手段により圧電振動子のインピーダンス特性に変換することができる。
【0108】(構成4)構成1に記載した触覚センサ信号処理装置に於いて、前記信号処理手段が、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを入力する入力手段と、入力された前記2つの検出結果に基づいて、複素弾性率の実数部と虚数部とを独立に計算する計算式を用いて計算処理する信号処理回路と、この信号処理回路の計算結果を出力する出力手段と、を具備し、前記入力手段は前記信号処理回路に同一のタイミングで両検出信号を入力するものであることを特徴とする触覚センサ信号処理装置。
【0109】(作用)前記共振抵抗変化検出手段と前記共振周波数変化検出手段の検出結果を入力手段を介して同一のタイミングで計算処理回路に入力し、その計算処理結果を出力手段を介して出力する。
【0110】(効果)入力手段を介することにより、計算処理時のタイミングを最適にすることが可能となり、また、出力手段を介することにより任意のタイミングで出力が可能となる。
【0111】(構成5)構成1または4に記載した触覚センサ信号処理装置において、前記信号処理手段が前記複素弾性率の実数部G′と虚数部G″とを独立に計算する計算式
【数7】
【0112】(ωは角周波数、Zr は無負荷時の共振抵抗、fr は無負荷時の共振周波数、L1 は圧電振動子の等価回路定数のインダクタンス成分、ρは密度、KR は触覚センサと共振抵抗検出手段で決まる装置定数、KL は触覚センサと共振周波数検出手段で決まる装置定数、ダッシュは負荷印加時の状態を示す)に基づいて計算処理するものであることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0113】(作用)この式に基づいて計算処理を行うことにより複素弾性率の実数部と虚数部とを独立して検出する。
【0114】(効果)数式で表現することにより、電気回路の構成が容易になる。
【0115】(構成6)構成1または4に記載した信号処理手段が 無負荷における圧電振動子のインピーダンス特性より圧電振動子の等価回路定数のインダクタンス成分L1 、直列容量成分C1 、直列抵抗成分R1 および並列容量成分C0 を算出する振動子定数算出手段と、有負荷における圧電振動子のインピーダンス特性より負荷である粘弾性体の電気的等価回路定数のインダクタンス成分Lv0と抵抗成分RV0を算出する粘弾性電気定数算出手段と、粘弾性体の機械的等価回路定数のインダクタンス成分LV と抵抗成分RV と電気的等価回路定数LV0とRV0より装置定数KR とKL を算出する装置定数算出手段と、装置定数算出手段からの出力信号を格納する格納手段と、格納手段に基づいて装置定数KR 、KL を可変できる手段とを有することを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0116】(作用)式中の装置定数KR もしくはKL をあらかじめ測定し、その測定結果に基づいて装置定数を変える。つまり、測定毎に信号処理装置内の計算式に最適な装置定数を代入して使用することができる。
【0117】(効果)測定毎に異なる温度、湿度などの環境の変化を装置定数KR 、KL を用いてキャンセルするため、精度の高い測定が可能になる。
【0118】(構成7)構成1に記載した触覚センサ信号処理装置において、該触覚センサ信号処理装置がさらに、前記信号処理手段の出力を人の知覚レベルに基づいた信号に変換する呈示信号変換手段と、上記変換手段からの信号に従って駆動される呈示装置とを有することを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0119】(作用)構成1に記載した信号処理手段で処理された粘弾性特性の実数部と虚数部のデータ信号を呈示信号変換手段で操作者に知覚できるような信号に変換し、その変換信号に対応して呈示装置駆動させる。
【0120】(効果)操作者に知覚できるように信号処理結果にもとづいて信号変換し、その信号に基づいて駆動する呈示装置により、操作者に対象物の粘弾性特性を伝達することが可能になる。
【0121】(構成8)構成7に記載した触覚センサ信号処理装置において、呈示信号変換手段が、対象物の粘弾性特性φを人の知覚レベルψに変換する計算式ψ=k・φn (nはべき指数、そしてkは定数である)に基づいて計算処理する計算処理手段と、この計算処理手段で得られた知覚レベルを等感覚曲線に基づいて呈示装置の駆動信号に変換する演算手段と、この演算手段に基づいて駆動される交流信号発生手段とを有することを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0122】(作用)前記呈示信号変換手段にスティーブンスのべき関数と等感覚曲線を用いることにより、信号処理手段からの複素粘弾率の変化を人間の知覚レベルの変化に変換し、その信号に基づいて交流信号を発生させる。
【0123】(効果)物理的測定値の変化を知覚レベルの変化に変換することにより、人間の知覚に合致した信号に変換できる。
【0124】(構成9)構成7に記載した触覚センサ信号処理装置において、前記呈示信号変換手段が、前記複素弾性率の実数部の出力と前記虚数部の出力の2つの信号を合成し1つの信号に変換する合成手段からなることを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0125】(作用)信号処理手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号もしくは変換手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号の両方の信号特性を合成し、1つの信号に合成変換する。
【0126】(効果)信号処理手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号を1つに合成することにより、呈示装置の駆動に必要なパラメータが1つで済む。
【0127】(構成10)構成9に記載した触覚センサにおいて、前記合成手段によって得られた合成信号を入力して呈示装置を駆動するようにしたことを特徴とした触覚センサ信号処理装置。
【0128】(作用)信号処理手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号もしくは呈示信号変換手段から出力される粘弾性特性の2つの出力信号を合成し、1つの信号に合成変換することにより、1つの信号しか呈示できない呈示装置を駆動するようにする。
【0129】(効果)信号処理手段から出力される粘弾性特性の出力信号は2つの信号より構成されるため、呈示装置によっては2つの信号を同時に呈示できないが、この合成手段により1つの信号しか呈示できない呈示装置を用いて対象物の粘弾性特性を操作者に呈示することが可能になる。
【0130】
【発明の効果】本発明によれば、クリープ変形の測定のような微妙な測定の難しさと、測定時間の長さと、対象物の違いによる測定時間の違いと言った従来技術が有する問題が解決されて、短時間で詳細な情報が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図2】共振抵抗変化検出手段と共振周波数変化検出手段の具体的な回路構成とその周辺部を示す図である。
【図3】信号処理手段の具体的構成とその周辺部を示す図である。
【図4】信号処理回路の具体的な回路図である。
【図5】信号処理回路の具体的な回路図である。
【図6】発振回路から出力される出力信号のモデル図である。
【図7】圧電振動子の等価回路を示す図である。
【図8】インピーダンス特性の変化における各定数を示す図である。
【図9】第2実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図10】各部の信号波形を示す図である。
【図11】第3実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図12】第4実施形態の構成を示す図である。
【図13】装置定数を算出する工程を示すフローチャートである。
【図14】第5実施形態の触覚センサ信号処理装置のブロック図である。
【図15】呈示信号変換手段の具体的構成とその周辺部を示す図である。
【図16】第5実施形態の変形例を示す図である。
【図17】第5実施形態の変形例を示す図である。
【図18】等感覚曲線を示す図である。
【図19】生体の粘弾性特性を測定する従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
101…触覚センサ、102…共振抵抗変化検出手段、103…共振周波数変化検出手段、104…信号処理手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサと、該圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段と、前記圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段と、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段と、を具備したことを特徴とする触覚センサ信号処理装置。
【請求項2】 前記信号処理手段が、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを入力する入力手段と、入力された前記2つの検出結果に基づいて、複素弾性率の実数部と虚数部とを独立に計算する計算式を用いて計算処理する信号処理回路と、この信号処理回路の計算結果を出力する出力手段と、を具備し、前記入力手段は前記信号処理回路に同一のタイミングで両検出信号を入力するものであることを特徴とする請求項1記載の触覚センサ信号処理装置。
【請求項3】 前記触覚センサ信号処理装置がさらに、前記信号処理手段の出力を人の知覚レベルに基づいた信号に変換する呈示信号変換手段と、この呈示信号変換手段の出力に従って駆動される呈示装置と、を具備することを特徴とする請求項1記載の触覚センサ信号処理装置。
【請求項1】 圧電振動子のインピーダンス特性の変化を用いて対象物の粘弾性特性を検出する触覚センサ信号処理装置において、圧電振動子を用いた触覚センサと、該圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振抵抗の変化を検出する共振抵抗変化検出手段と、前記圧電振動子のインピーダンス特性のうち共振周波数の変化を検出する共振周波数変化検出手段と、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを用いて、対象物の粘弾性特性である複素弾性率の実数部と虚数部を独立に計算処理する信号処理手段と、を具備したことを特徴とする触覚センサ信号処理装置。
【請求項2】 前記信号処理手段が、前記共振抵抗変化検出手段の検出結果と、前記共振周波数変化検出手段の検出結果とを入力する入力手段と、入力された前記2つの検出結果に基づいて、複素弾性率の実数部と虚数部とを独立に計算する計算式を用いて計算処理する信号処理回路と、この信号処理回路の計算結果を出力する出力手段と、を具備し、前記入力手段は前記信号処理回路に同一のタイミングで両検出信号を入力するものであることを特徴とする請求項1記載の触覚センサ信号処理装置。
【請求項3】 前記触覚センサ信号処理装置がさらに、前記信号処理手段の出力を人の知覚レベルに基づいた信号に変換する呈示信号変換手段と、この呈示信号変換手段の出力に従って駆動される呈示装置と、を具備することを特徴とする請求項1記載の触覚センサ信号処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図11】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図10】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図11】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図10】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開平9−96600
【公開日】平成9年(1997)4月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−252156
【出願日】平成7年(1995)9月29日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
【公開日】平成9年(1997)4月8日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)9月29日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
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