計測装置及び処理実行装置
【課題】光学センサを用いて搬送量を正確に特定する。
【解決手段】光学センサによって検出された微小時間毎の用紙変位量Δの累積値Ysを算出するセンサ信号処理部及びキャリッジの位置Xsを検出するエンコーダ信号処理部から、制御開始時の累積値Ys及び位置Xsを取得し、これらを初期値Ys0及びXs0として記憶する(S310,S320)。そして、制御周期毎に、累積値Ysと初期値Ys0との差分Yを算出することにより光学センサを通じて検出された用紙移動量Yを特定し(S370)、位置Xsと初期値Xs0との差分Xを算出することにより用紙移動量Yが検出された期間でのキャリッジの搬送量Xを特定する(S360)。そして、値Yを次式に従って補正し、実際の用紙搬送量Pを算出する(S370)。但し、θは、用紙搬送方向に対し、光学センサによる用紙変位量Δの検出方向がなす角度である。P=(Y+X・cos(π/2−θ))/cosθ
【解決手段】光学センサによって検出された微小時間毎の用紙変位量Δの累積値Ysを算出するセンサ信号処理部及びキャリッジの位置Xsを検出するエンコーダ信号処理部から、制御開始時の累積値Ys及び位置Xsを取得し、これらを初期値Ys0及びXs0として記憶する(S310,S320)。そして、制御周期毎に、累積値Ysと初期値Ys0との差分Yを算出することにより光学センサを通じて検出された用紙移動量Yを特定し(S370)、位置Xsと初期値Xs0との差分Xを算出することにより用紙移動量Yが検出された期間でのキャリッジの搬送量Xを特定する(S360)。そして、値Yを次式に従って補正し、実際の用紙搬送量Pを算出する(S370)。但し、θは、用紙搬送方向に対し、光学センサによる用紙変位量Δの検出方向がなす角度である。P=(Y+X・cos(π/2−θ))/cosθ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及び処理実行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
処理実行装置としては、従来、用紙を所定量ずつ搬送する一方で、用紙の搬送停止時には記録ヘッドを通じて用紙に画像を形成することにより、用紙に一連の画像を形成するインクジェットプリンタ等の画像形成装置や、読取対象の原稿を搬送しつつ、読取ヘッドと対向する原稿の領域を、読取ヘッドを通じて読み取ることによって、原稿の読取画像を表す画像データを生成する読取装置などが知られている。
【0003】
また、インクジェットプリンタとしては、記録ヘッドを搭載するキャリッジに光学センサを備え、光学センサを通じて用紙の移動量を検出するものが知られている(特許文献1参照)。光学センサは、例えば、光電変換素子(CCDやCMOS等)が一次元又は二次元に配列されてなる受光部と光源とを備えた構成にされ、光源から用紙に照射した光を受光部にて受光することにより用紙を撮影し、この撮影画像を解析することにより用紙の移動量を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−131780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光学センサを用いて対象物(用紙等)の移動量を検出する場合には次のような問題があった。例えば、光電変換素子が一次元に配列された光学センサ等の安価な光学センサでは、対象物の移動量を、特定の一方向(光電変換素子の配列方向に沿う方向)にしか検出することができない。
【0006】
このため、画像形成装置のように対象物(用紙)が一方向に搬送される環境下であっても、光学センサの取付誤差等により、対象物の搬送方向と光学センサによる移動量の検出方向との間に差が生じている環境下では、対象物の搬送量(搬送方向の移動量)と、光学センサにより検出される移動量との間にズレが生じ、正確に対象物の搬送量を特定することができないといった問題があった。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、光学センサを用いて対象物の搬送量を正確に特定可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の計測装置(請求項1)は、対象物を搬送する搬送装置に設けられて、この対象物の搬送量を計測する計測装置であって、光学センサと、記憶手段と、算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この計測装置が備える光学センサは、対象物を撮影して、特定の方向への対象物の移動量を検出するセンサである。一方、記憶手段は、光学センサが移動量を検出する上記方向である移動量の検出方向と、搬送装置による対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶する。そして、算出手段は、記憶手段が記憶する補正パラメータに基づき、光学センサにより検出された移動量を補正する。算出手段は、このような補正動作によって、搬送量の計測値として、対象物の搬送方向への移動量を算出する。
【0010】
この計測装置によれば、算出手段が、光学センサにより検出された移動量を、光学センサによる移動量の検出方向と対象物の搬送方向との差に応じて補正する。従って、本発明によれば、光学センサの取付誤差等を原因として、光学センサによる検出方向と対象物の搬送方向との間に差が生じても、対象物の搬送量(搬送方向への移動量)を正確に特定することができる。
【0011】
よって、対象物を搬送する搬送装置と、このような構成の計測装置とを組み合わせて、対象物の搬送量を計測する搬送システムを構成すれば、この計測値に基づいて、対象物を正確に搬送することができる。
【0012】
また、本発明の処理実行装置(請求項2)は、対象物を搬送する搬送機構と、対象物に対する所定の処理を行う処理機構と、搬送機構及び処理機構の動作を制御する制御手段と、を備える処理実行装置に、上述の計測装置と同様の光学センサと、記憶手段と、算出手段と、を設けたことを特徴とする。
【0013】
即ち、この処理実行装置においては、記憶手段が、光学センサによる移動量の検出方向と、搬送機構による対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶し、算出手段が、この補正パラメータに基づき、光学センサにより検出された移動量を補正することによって、対象物の搬送量(搬送方向への移動量)についての計測値を算出する。そして、制御手段は、算出手段により算出された上記計測値に基づき、搬送機構の動作を制御する。
【0014】
この処理実行装置によれば、対象物の搬送量を、光学センサの取付誤差等に影響されず正確に特定することができるので、対象物の搬送制御を高精度に行うことができる。
尚、上記処理機構としては、処理ヘッドを備え、搬送機構による対象物の搬送方向とは交差する方向に処理ヘッドを搬送することにより、対象物に対して所定の処理を行う処理機構を挙げることができる。また、このような処理機構を備える処理実行装置に対して、光学センサは、従来技術と同様に、処理ヘッドに取り付けることが可能である(請求項3)。
【0015】
但し、光学センサが処理ヘッドに取り付けられた環境では、処理ヘッドの搬送に伴って光学センサが移動し、この光学センサの移動に伴って対象物と光学センサとの相対位置の変化が生じる。このため、光学センサの移動中に、光学センサの検出結果を用いるだけでは、対象物の搬送量を正確に特定することができない事態が生じる。
【0016】
一方、インクジェットプリンタ等では、スループット向上のため、記録ヘッドを通じた画像形成動作が完了すると、記録ヘッドの搬送動作の完了を待たずに、用紙の搬送動作を開始することがある。このようなインクジェットプリンタでは、用紙搬送量の正確な把握が必要なときに、光学センサが用紙搬送方向とは直交する方向に移動していることになる。
【0017】
勿論、光学センサが動いている場合でも、光学センサによる移動量の検出方向が処理ヘッドの搬送方向と直交関係にある場合には、処理ヘッドの搬送によっても、上記検出方向に光学センサが移動することはないため、光学センサの検出結果に基づいて、対象物の搬送量を正確に特定することが可能である。しかしながら、検出方向と処理ヘッドの搬送方向との間に直交関係がない場合には、移動量を二方向に検出可能な高価な光学センサを用いても、光学センサの位置変化によって、光学センサによって検出される移動量Dx,Dyの夫々に、光学センサの位置変化に伴う誤差が含まれてしまうため、光学センサの移動中に、光学センサの検出結果を用いるだけでは、対象物の搬送量を正確に特定することができない。
【0018】
そこで、光学センサを処理ヘッドに取り付ける場合には、処理実行装置に対し、処理ヘッドの搬送量を特定する特定手段を設けるのがよい。具体的には、光学センサが対象物の移動量の検出に要した時間に、処理機構により搬送された処理ヘッドの搬送量Xを特定可能な特定手段を設けるのがよい。
【0019】
そして、この処理実行装置の算出手段は、光学センサが移動量の検出に要した時間での光学センサ(処理ヘッド)の上記検出方向への移動量X・cosφを、光学センサにより検出された移動量Yに加算して得られる値(Y+X・cosφ)を、補正パラメータに基づき補正することによって、上記計測値を算出する構成にされるとよい。尚、移動量X・cosφは、特定手段により特定される処理ヘッドの搬送量Xと、処理ヘッドの搬送方向と光学センサによる移動量の検出方向との角度差φとから算出可能である(請求項4)。
【0020】
このように算出手段を構成すれば、処理ヘッドが搬送されている環境下でも、対象物の搬送量(搬送方向への移動量)を、光学センサを用いて正確に特定することができる。
尚、記憶手段は、光学センサによる移動量の検出方向と搬送機構による対象物の搬送方向との角度差θを、上記補正パラメータとして記憶する構成にすることができる(請求項5)。
【0021】
また、対象物の搬送方向と処理ヘッドの搬送方向との間に直交関係にあり、記憶手段が、上記角度差θを補正パラメータとして記憶している処理実行装置において、上記算出手段は、上記直交関係があることにより成立する角度差θと角度差φとの間の対応関係φ=(π/2−θ)と、記憶手段が記憶する角度差θとに基づき、移動量X・cosφを特定して、上記計測値を算出する構成にすることができる(請求項6)。
【0022】
また、処理実行装置には、光学センサにより検出された移動量と、搬送機構の動作量とに基づいて、対象物の搬送方向と光学センサによる検出方向との差に対応した上記補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる。
【0023】
具体的に、搬送機構がローラの回転により対象物を搬送するものであり、このローラの回転量を検出する回転量検出手段を備えた処理実行装置に対しては、次のような構成の登録手段を設けることができる。即ち、光学センサにより検出されたローラが一周以上の整数倍回転した期間での対象物の移動量と、回転量検出手段により検出された同期間でのローラの回転量と、に基づいて、上記補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる(請求項7)。
【0024】
ローラ等では、偏心等により回転動作の周期的な乱れが生じる。このため、ローラが非整数倍回転する期間において光学センサにより検出された移動量と、この期間での回転量検出手段により検出された同期間での回転量と、に基づいて補正パラメータを算出すると、偏心等による影響を受けて、補正パラメータに誤差が生じる可能性がある。
【0025】
一方、本発明のように、ローラが整数倍回転する期間において光学センサにより検出された移動量と、この期間での回転量検出手段により検出された同期間での回転量と、に基づいて補正パラメータを算出すると、偏心等による影響を抑えて適切な補正パラメータを算出することができる。
【0026】
この他、互いに直交する二方向夫々に対する対象物の移動量を検出可能な光学センサを備える処理実行装置には、光学センサにより検出される各方向の対象物の移動量に基づき、補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる。
【0027】
即ち、処理実行装置には、光学センサから得られる各方向の対象物の移動量に基づき、光学センサにより移動量が検出される二方向の内の一方向である主検出方向と対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる。そして、この処理実行装置の算出手段は、記憶手段が記憶する補正パラメータに基づき、光学センサにより検出される主検出方向の移動量を補正して、上記計測値を算出する構成にすることができる(請求項8)。
【0028】
このような構成の処理実行装置によれば、適切な補正パラメータを算出して、これを記憶手段に記憶させることができ、この結果として、取付誤差等の影響を抑えて、適切な搬送量についての計測値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】画像形成装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】画像形成装置1の機械的構成を表す断面図である。
【図3】印字機構30の機械的構成を表す側面図である。
【図4】用紙Q及びキャリッジ33の搬送動作並びに画像形成動作の実行タイミングを示したタイムチャートである。
【図5】用紙搬送制御部70の構成を表すブロック図である。
【図6】センサ信号処理部703が繰返し実行する処理を表すフローチャートである。
【図7】光学センサ37を通じて検出される用紙移動量Yと実際の用紙搬送量Pとの対応関係であって、光学センサ37が静止している場合の対応関係を(a)に示し、光学センサ37が移動している場合の対応関係を(b)に示した図である。
【図8】モータ制御部705が実行する補正パラメータ算出処理を表すフローチャートである。
【図9】モータ制御部705が実行する用紙搬送制御を表すフローチャートである。
【図10】モータ制御部705が実行する変形例の補正パラメータ算出処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
本実施例の画像形成装置1は、インクジェットプリンタであり、図1に示すように、給紙機構10と、用紙搬送機構20と、印字機構30と、制御部50と、給紙機構10に動力を付与する直流モータであるASFモータM1と、ASFモータM1を駆動するモータドライバDR1と、用紙搬送機構20に動力を付与する直流モータであるLFモータM2と、LFモータM2を駆動するモータドライバDR2と、印字機構30に動力を付与する直流モータであるCRモータM3と、CRモータM3を駆動するモータドライバDR3と、記録ヘッド31を駆動するヘッド駆動回路DR4と、を備える。
【0031】
給紙機構10は、図2に示すように、給紙トレイ101に収容された用紙Qを1枚ずつ分離して用紙搬送機構20に供給するものであり、複数枚の用紙Qが積層される給紙トレイ101と、ASFモータM1の動力を受けて回転する給紙ローラ103と、給紙ローラ103を回転可能な状態で保持するアーム104と、給紙ローラ103の回転に伴ってエンコーダ信号を出力するロータリエンコーダ105(図1参照)と、を備える。
【0032】
アーム104は、重力又はバネによる付勢力を用いて、給紙ローラ103を給紙トレイ101に収容された用紙Qの表面に押し当てるものである。この給紙機構10では、給紙ローラ103が用紙Qに押し当てられた状態でASFモータM1の動力を受けて回転することによって、給紙トレイ101最上部の用紙Qが分離されて、用紙搬送機構20に繋がる用紙搬送路に送り出される。用紙搬送機構20と給紙機構10との間の用紙搬送路は、U字形状の搬送路であるUターンパス111から構成されており、給紙トレイ101から送り出される用紙Qは、Uターンパス111により移動を規制されて湾曲した状態で、用紙搬送機構20が有する搬送ローラ201とピンチローラ202との間に搬送される。
【0033】
用紙搬送機構20は、搬送ローラ201及び搬送ローラ201に対向配置されるピンチローラ202を備えると共に、搬送ローラ201の回転に伴ってエンコーダ信号を出力するロータリエンコーダ205(図1参照)と、排紙ローラ211と、排紙ローラ211に対向配置されるピンチローラ212と、を備える。
【0034】
ロータリエンコーダ205は、搬送ローラ201の回転軸上に取り付けられる回転板(図示せず)を備え、回転板に形成されたスリットを読み取って、読取結果に応じたエンコーダ信号を出力する周知のインクリメンタル型のロータリエンコーダである。
【0035】
また、排紙ローラ211は、搬送ローラ201よりも用紙搬送路下流に設けられている。搬送ローラ201及び排紙ローラ211は、例えば各ローラ201,211をベルトで連結する動力伝達機構220(図1参照)を通じてLFモータM2からの動力を受けて、互いに連動するように回転する。具体的には、互いに周方向に同量回転する。搬送ローラ201及び排紙ローラ211は、この回転により協働して、給紙機構10から供給された用紙Qを、排紙ローラ211下流の図示しない排紙トレイまで搬送する。
【0036】
尚、ピンチローラ202は、搬送ローラ201との間に用紙Qを挟んだ状態で、搬送ローラ201に従動するように回転し、ピンチローラ212は、排紙ローラ211との間に用紙Qを挟んだ状態で、排紙ローラ211に従動するように回転する。用紙Qは、このように搬送ローラ201とピンチローラ202との間で挟持され、更には、排紙ローラ211とピンチローラ212との間で挟持された状態で、搬送ローラ201及び排紙ローラ211の回転により用紙搬送路下流に搬送される。
【0037】
また、搬送ローラ201と排紙ローラ211との間には、搬送ローラ201から搬送される用紙Qを下方から支持して排紙ローラ211へ導くためのプラテン240が設けられている。搬送ローラ201から排紙ローラ211へと搬送される用紙Qに対しては、このプラテン240上で、印字機構30を構成する記録ヘッド31から吐出されるインク液滴により画像が形成される。
【0038】
印字機構30は、図1に示すように、ヘッド駆動回路DR4から入力される駆動信号に応じたインク液滴を、プラテン240に対向するノズル面から吐出する記録ヘッド31と、記録ヘッド31を搭載するキャリッジ33と、リニアエンコーダ35と、光学センサ37とを備える。また、CRモータM3からの動力を受けてキャリッジ33を主走査方向(図2紙面の法線方向)に搬送するキャリッジ搬送機構を備える(図3参照)。
【0039】
キャリッジ搬送機構は、図3に示すように、CRモータM3に駆動される駆動プーリ331と、従動プーリ332と、駆動プーリ331と従動プーリ332との間に巻回されたベルト333と、主走査方向に延びるガイドレール335と、を備える。ガイドレール335は、キャリッジ33の移動を主走査方向(図2紙面の法線方向)に制限するものであり、記録ヘッド31を搭載するキャリッジ33は、このガイドレール335に挿通される。また、キャリッジ33にはベルト333が接続されており、キャリッジ33は、CRモータM3からの動力を受けて回転する駆動プーリ331の当該回転に連動してベルト333が回転することによりCRモータM3からの動力を間接的に受けて、主走査方向に移動する。
【0040】
また、リニアエンコーダ35は、キャリッジ33の主走査方向への移動に伴ってエンコーダ信号を出力するものであり、主走査方向に設置されたエンコーダスケール35aと、エンコーダスケール35aを読み取るセンサ部(図示せず)とを備える。リニアエンコーダ35を構成するセンサ部はキャリッジ33に搭載される。即ち、リニアエンコーダ35では、キャリッジ33の移動に伴って、センサ部が移動しながらエンコーダスケール35aを読み取ることにより、センサ部からキャリッジ33の主走査方向への移動に対応したエンコーダ信号が出力される。
【0041】
また、光学センサ37は、用紙Qと対向するようにキャリッジ33下方に搭載され、プラテン240上にある用紙Qを撮影して、その撮影画像を解析することにより、特定の一方向への用紙Qの変位量Δを検出するものである。具体的に、光学センサ37は、周期的に用紙Qを撮影して、予め定められた微小時間毎に、この微小時間での用紙変位量Δを検出する。以下では、用紙変位量Δが検出される方向(上記特定の一方向)のことを、特に「検出方向」と表現する。
【0042】
光学センサ37は周知のものであるので詳細な説明については省略するが、光学センサ37としては、例えば、光電変換素子が一列に配列された光学センサであって、光電変換素子が配列された方向に沿う用紙Qの変位量Δを検出可能な光学センサを採用することができる。
【0043】
また、制御部50は、給紙制御を行う給紙制御部60と、給紙トレイ101から用紙搬送機構20に供給された用紙Qの搬送制御を行う用紙搬送制御部70と、キャリッジ33の搬送制御及び記録ヘッド31によるインク液滴の吐出制御を行う印字制御部80と、これらを統括制御する主制御部90と、外部のパーソナルコンピュータ(PC)3と通信可能なインタフェース95とを備える。
【0044】
給紙制御部60は、ロータリエンコーダ105から入力されるエンコーダ信号に基づき、給紙ローラ103の回転量を検出し、この検出結果に基づき、モータドライバDR1からASFモータM1に印加する駆動電流を調整することによって、給紙制御を行うものである。この給紙制御によって、給紙トレイ101から用紙搬送機構20へは、用紙Qが1枚ずつ供給される。
【0045】
一方、用紙搬送制御部70は、ロータリエンコーダ205から入力されるエンコーダ信号に基づき、搬送ローラ201の回転量Yrを検出する一方で、光学センサ37から得られる用紙変位量Δの累積値Ysに基づき、用紙Qの搬送制御開始時点からの用紙搬送量Pを特定し、回転量Yr及び用紙搬送量Pの少なくとも一方に基づきLFモータM2を制御することによって、用紙Qの搬送制御を行うものである。これにより、用紙Qは、主走査方向とは垂直な副走査方向に搬送される。
【0046】
また、印字制御部80(図1参照)は、モータドライバDR3を通じてCRモータM3を制御することにより、記録ヘッド31を主走査方向に片道分定速搬送し、その搬送中に、記録ヘッド31を制御することにより、記録ヘッド31に、インタフェース95を通じてPC3から入力された印刷対象の画像データに対応するインク液滴を吐出させて、用紙Qに所定幅のライン画像(以下、「1パス分のライン画像」とも言う。)を形成するものである。具体的に、印字制御部80は、リニアエンコーダ35から入力されるエンコーダ信号に基づき、キャリッジ33(ひいては記録ヘッド31)の位置及び速度を検出し、記録ヘッド31の搬送制御を行う。
【0047】
また、主制御部90は、給紙制御部60、用紙搬送制御部70及び印字制御部80を統括制御することにより、用紙搬送機構20に用紙Qを1枚ずつ供給すると共に、供給した用紙Qを、用紙搬送機構20を通じて間欠搬送し、用紙Qの停止時には、印字機構30を通じて用紙Qに1パス分のライン画像を形成するものである。この動作によって、主制御部90は、用紙Qをプラテン240上の画像形成地点に所定量ずつ順次送り出して、インタフェース95を通じてPC3から入力された印刷対象の画像データに対応する一連の画像を、用紙Qに形成する。
【0048】
図4には、主制御部90による統括制御によって実現される用紙Qの搬送動作、及び、キャリッジ33(記録ヘッド31)の搬送動作、及び、用紙Qへの画像形成動作の実行タイミングを、タイムチャートを用いて示す。このタイムチャートからも理解できるように、本実施例では、キャリッジ33(記録ヘッド31)を搬送しつつ、用紙Qへの画像形成動作を実行し、画像形成動作が終了すると、キャリッジ33を減速・停止させて、その搬送動作を完了するが、画像形成動作の終了後、キャリッジ33の搬送動作が完了する前に、用紙Qの搬送動作を開始して、次の画像形成動作に必要な量、用紙Qを送り出す。そして、用紙の搬送動作が完了する前に、タイミングを見計らって、キャリッジ33の搬送動作を開始し、用紙の搬送動作が完了した直後のタイミングで、効率よく画像形成動作を開始する。
【0049】
続いて、用紙搬送制御部70の詳細構成を、図5を用いて説明する。この用紙搬送制御部70は、エンコーダ信号処理部701と、センサ信号処理部703と、モータ制御部705と、PWM信号生成部707と、を備える。
【0050】
エンコーダ信号処理部701は、ロータリエンコーダ205から入力されるエンコーダ信号に基づき、搬送ローラ201の回転量Yrを検出するものである。上述したように、用紙Qは、搬送ローラ201及び排紙ローラ211の回転により搬送されるので、搬送ローラ201の回転量Yrは、およそ用紙Qの搬送量に対応する。
【0051】
一方、センサ信号処理部703は、光学センサ37により検出される微小時間毎の用紙変位量Δの情報を逐次、光学センサ37から取得して、用紙変位量Δの累積値Ysを算出するものである。即ち、センサ信号処理部703は、図6に示すように、光学センサ37から用紙変位量Δの情報を取得し(S110)、これまでに算出した累積値Ysに、今回取得した用紙変位量Δを加算して、累積値Ysを更新する(S120)処理を、光学センサ37による用紙変位量Δの検出周期に合わせて繰返し実行する。
【0052】
一方、モータ制御部705は、主制御部90により制御開始指令が入力されると、LFモータM2に対する操作量Uを逐次演算して、これをPWM信号生成部707に入力する。具体的に、モータ制御部705は、主制御部90により制御開始指令が入力されると、センサ信号処理部703により算出される用紙変位量Δの累積値Ysに基づき、所定の制御周期毎に、搬送制御開始時点(搬送開始地点)からの用紙搬送量Pを特定し、この用紙搬送量Pと、目標位置軌跡に従う現在時刻tでの目標位置Prとの偏差e=Pr−Pに基づき、偏差eを縮める方向の操作量Uを算出する。尚、光学センサ37と対向する位置に用紙Qが存在している間は、前述の通り、用紙変位量Δの累積値Ysに基づいて、用紙搬送量Pが特定される。光学センサ37と対向する位置に用紙Qが存在していない間、換言すると、光学センサ37によって用紙変位量Δが取得できない間は、ロータリエンコーダ205から入力されるエンコーダ信号によって検出される搬送ローラ201の回転量Yrに基づいて、用紙搬送量Pが特定される。
【0053】
図5における点線で囲まれた領域には、この用紙Qの搬送制御に用いられる目標位置軌跡の形状を示す。目標位置軌跡は、目標位置Prが、搬送開始地点での位置Pr=0から目標停止位置Ptまで単調増加し、目標停止位置Ptに到達した時点以降では、目標停止位置Ptで一定値を採るものである。目標停止位置Ptは、制御開始指令時に、主制御部90から現在地点を基準とした目標搬送量の情報として入力され、この入力を契機に、上記目標位置軌跡は、目標停止位置Ptに対応した位置軌跡に設定される。
【0054】
また、PWM信号生成部707は、このモータ制御部705から入力される操作量Uに対応する駆動電流でLFモータM2を駆動するためのPWM信号を生成し、このPWM信号をモータドライバDR2に入力するものである。モータドライバDR2は、このPWM信号に従って動作し、LFモータM2に操作量Uに対応する駆動電流を印加する。
【0055】
ところで、モータ制御部705は、光学センサ37を用いる場合、任意の第一の時点から第二の時点までの用紙搬送量Pを次式により算出して特定する。
P=(Y+X・cosφ)/cosθ …(1)
ここで、Xは、第一の時点から第二時点までのキャリッジ33の搬送量である。具体的に、Xは、第一の時点でエンコーダ信号処理部801から得られるキャリッジ33の位置Xs1と第二の時点でエンコーダ信号処理部801から得られるキャリッジ33の位置Xs2との差分X=Xs2−Xs1で求められる。
【0056】
上述したように、印字制御部80(図1参照)は、リニアエンコーダ35から入力されるエンコーダ信号に基づき、キャリッジ33の位置を検出するが、その機能は、エンコーダ信号処理部801で実現される。モータ制御部705は、用紙搬送量Pを特定する際に、この印字制御部80のエンコーダ信号処理部801からキャリッジ33の位置Xsの情報を取得する。
【0057】
また、Yは、第一の時点から第二時点までの光学センサ37の検出結果から特定される用紙Qの移動量である。具体的に、Yは、第一の時点でセンサ信号処理部703から得られる用紙変位量Δの累積値Ys1と第二の地点でセンサ信号処理部703から得られる用紙変位量Δの累積値Ys2との差分Y=Ys2−Ys1で求められる。
【0058】
また、θは、図7(a)及び図7(b)に示すように、用紙搬送機構20による用紙Qの搬送方向(副走査方向)に対して、光学センサ37による用紙変位量Δの検出方向がなす角度である。この他、φは、キャリッジ33の搬送方向(主走査方向)に対して、光学センサ37による用紙変位量Δの検出方向がなす角度である。用紙Qの搬送方向とキャリッジ33の搬送方向とは直交関係にあることからφ=π/2−θである。
【0059】
式(1)を用いて用紙搬送量Pを特定するのは、次の理由からである。光学センサ37は、用紙変位量Δの検出方向が用紙Qの搬送方向と一致するように、キャリッジ33に取り付けられるものであるが、その際には取付誤差により、必ずしも角度θ=0とはならない。
【0060】
そして、角度θがゼロではない場合には、キャリッジ33(換言すれば光学センサ37)が動いていない場合(X=0である場合)でも、図7(a)に示すように、用紙変位量Δの累積によって得られる用紙移動量Yが、実際の用紙搬送量Pのcosθ倍となってしまう。尚、図7(a)は、キャリッジ33が静止している状態での用紙移動量Yと実際の用紙搬送量Pとの関係を表す図である。
【0061】
更に、キャリッジ33が主走査方向に動いている場合(X≠0である場合)には、仮に用紙移動量Yに対応する時間においてキャリッジ33が距離X移動したとすると、この用紙移動量Yに対応する時間内には、キャリッジ33の移動に伴って、光学センサ37の位置が用紙変位量Δの検出方向側にX・cosφ変化することになる。このため、キャリッジ33が距離X移動している期間の用紙変位量Δの累積により得られる用紙移動量Yは、キャリッジ33の移動がないときに対して、値X・cosφ分減ってしまう。
【0062】
このため、本実施例では、光学センサ37から得られる用紙移動量Yを、式(1)によって補正することにより、実際の用紙搬送量Pを特定する。
また、光学センサ37を通じて検出される用紙移動量Yから実際の用紙搬送量Pを算出するためには、上述したように、角度θの情報が必要になる。このため、本実施例のモータ制御部705は、画像形成装置1の起動時又は画像形成装置1の出荷時に、自動で又は外部からの指令に従って、図8に示す補正パラメータ算出処理を実行し、角度θの情報を得る。また、本実施例では、キャリッジ33が静止している状態(X=0)では三角関数を用いて用紙搬送量Pを算出しなくて済むように、補正係数K=1/cosθを算出し、これら角度θ及び補正係数Kをモータ制御部705に設けられたメモリ705aに記憶する。但し、補正係数Kをメモリ705aに記憶させず、角度θのみをメモリ705aに記憶させてもよい。この場合、K=1/cosθについては、必要に応じて角度θから算出すれば良い。
【0063】
具体的に、本実施例のモータ制御部705は、補正パラメータ算出処理を実行すると、エンコーダ信号処理部701が保持する搬送ローラ201の回転量Yr及びセンサ信号処理部703が保持する用紙変位量Δの累積値Ysを、ゼロにリセットした後(S210)、LFモータM2の制御により、搬送ローラ201をN回転させる(S220)。
【0064】
但し、S220による処理の実行期間には、光学センサ37によって用紙移動量Yを検出可能な位置に用紙Qが存在していることが前提である。従って、補正パラメータ算出処理の実行に先駆けては、用紙Qを、上記条件を満足する位置にセットする処理を行う。
【0065】
また、上記値Nは、1以上の整数値である。S220では、例えば、搬送ローラ201がN回転する位置を目標停止位置Ptに設定し、エンコーダ信号処理部701により検出される搬送ローラ201の回転量Yrと、目標停止位置Ptとの関係に基づき、LFモータM2をフィードバック制御することにより、搬送ローラ201を正確にN回転させる。
【0066】
そして、搬送ローラ201がN回転した後には、エンコーダ信号処理部701から搬送ローラ201の回転量Yrの情報を取得すると共に、センサ信号処理部703から用紙変位量Δの累積値Ysの情報を取得する(S230)。そして、この回転量Yr及び累積値Ysに基づき、回転量Yrと累積値Ysの比に対応する補正係数K=1/cosθ=Yr/Ysを算出し(S240)、角度θ=arccos(Ys/Yr)を算出する(S250)。その後、補正係数K及び角度θをメモリ705aに記憶して、当該補正パラメータ算出処理を終了する。
【0067】
また、モータ制御部705は、主制御部90から制御開始指令が入力されると、図9に示す用紙搬送制御処理を実行することにより、主制御部90から指定された目標停止位置Ptまでの用紙搬送を実現する。
【0068】
図9に示す用紙搬送制御処理を開始すると、主制御部90は、センサ信号処理部703から用紙変位量Δの累積値Ysの情報を取得し、この累積値Ysを初期値Ys0に設定する(S310)。また、エンコーダ信号処理部801からキャリッジ33の位置Xsの情報を取得して、この位置Xsを初期値Xs0に設定する(S320)。
【0069】
その後、モータ制御部705は、LFモータM2を通じて搬送ローラ201の駆動を開始し(S330)、所定の制御周期(換言すれば操作量演算周期)が到来する度に(S340でYes)、S350〜S380の処理を実行する。
【0070】
具体的に、S350では、最新の累積値Ysをセンサ信号処理部703から取得して、現在の累積値Ysと初期値(用紙搬送制御開始時の累積値)Ys0との差分である用紙移動量Y=Ys−Ys0を算出する。
【0071】
続くS360では、最新のキャリッジ位置Xsをエンコーダ信号処理部801から取得して、現在のキャリッジ位置Xsと初期値(用紙搬送制御開始時のキャリッジ位置)Xs0との差分であるキャリッジ搬送量X=Xs−Xs0を算出する。
【0072】
そして、S370では、S350で算出された用紙移動量Yと、S360で算出されたキャリッジ搬送量Xと、メモリ705aに記憶された補正係数K及び角度θとに基づき、次式に従って、用紙搬送量Pを算出する。
【0073】
P=K・(Y+X・cos(π/2−θ)) …(2)
また、用紙搬送量Pを算出すると、モータ制御部705は、この用紙搬送量Pと目標位置Prとの偏差e=Pr−Pに対応した操作量Uを演算し、この操作量UをモータドライバDR2に入力して、操作量Uに対応した駆動電流でLFモータM2を駆動する(S380)。
【0074】
モータ制御部705は、用紙搬送制御の終了条件が満足されるまで(S390でNo)、制御周期の到来毎に、このような内容の処理(S350〜S380の処理)を繰返し実行し、用紙搬送制御の終了条件が満足されると(S390でYes)、当該用紙搬送制御処理を終了する。S390では、例えば、用紙搬送量Pが所定時間一定値で保持されると、用紙搬送制御の終了条件が満足されたと判断することができる。その他、用紙搬送制御の開始時刻から所定時間が経過すると、終了条件が満足されたと判断されてもよい。
【0075】
以上、本実施例の画像形成装置1について説明したが、本実施例によれば、光学センサ37の取付誤差により、光学センサ37による用紙変位量Δの検出方向が、用紙Qの搬送方向からずれている場合でも、正確な用紙搬送量Pを算出することができる。
【0076】
従って、本実施例によれば、光学センサ37の取付誤差により、用紙搬送量Pを正確に把握することができなくなるのを抑えて、高精度な用紙搬送制御を実現することができる。また、光学センサ37を正確に取り付けなくても済むため、光学センサ37のキャリッジ33への取付作業を容易にすることができる。
【0077】
更に言えば、本実施例によれば、搬送ローラ201を整数倍回転させて得られた回転量Yr及び累積値Ysの結果から、補正パラメータとしての補正係数K及び角度θを算出するので、偏心やコギング等の影響を抑えて、高精度に角度θ及び補正係数Kを算出することができる。
【0078】
[変形例]
以上には、一方向についてのみの用紙変位量Δを検出可能な光学センサ37を用いた画像形成装置1の例について説明したが、画像形成装置1には、この光学センサ37に代えて、互いに直交する二方向夫々についての用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサ(例えば、光電変換素子が二次元配置された光学センサ)を設けてもよい。そして、このような用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いる場合には、用紙変位量Δxの検出方向及び用紙変位量Δyの検出方向の内、用紙搬送方向との角度差の小さい方の検出方向に対応する用紙変位量Δyを、上記実施例の用紙変位量Δと同様に取り扱って、図9に示す用紙搬送制御を実行することができる。
【0079】
また、センサ信号処理部703は、用紙変位量Δの累積値Ysに代えて、用紙変位量Δxの累積値Dx及び用紙変位量Δyの累積値Dyを、光学センサの検出周期に合わせて算出する構成にすることができる。
【0080】
そして、用紙搬送方向との角度差が大きい方の検出方向に対応する用紙変位量Δxについては、用紙搬送方向に対して光学センサによる用紙変位量Δyの検出方向がなす角度θを、補正パラメータ算出処理で求める際に用いることができる。
【0081】
即ち、用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いる場合には、補正パラメータ算出処理を次のように構成することができる。図10は、変形例の補正パラメータ算出処理を表すフローチャートである。
【0082】
図10に示す補正パラメータ算出処理を開始すると、モータ制御部705は、センサ信号処理部703が保持する累積値Dx,Dyをゼロにリセットし(S410)、この後に、LFモータM2を通じて、搬送ローラ201を所定量回転させる(S420)。ここでは、S220での処理と同様に、搬送ローラ201を整数倍回転させてもよいし、整数倍回転させなくてもよい。
【0083】
そして、搬送ローラ201を所定量回転させた後には、この回転後の累積値Dx,Dyをセンサ信号処理部703から取得し(S430)、角度θを次式により算出する(S440)。
【0084】
θ=arctan(Dx/Dy) …(3)
その後、この角度θを用いて補正係数K=1/cosθを算出し(S450)、この補正係数K及び角度θをメモリ705aに記憶させる(S460)。
【0085】
このような処理によっても、適切に角度θを算出することができる。この結果、本変形例によっても、光学センサにより検出される用紙変位量Δyの累積値Dyにより求められる用紙移動量Yを適切に補正して、正確な用紙搬送量Pを特定することができる。
【0086】
尚、用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いた場合には、キャリッジ33が静止している限りにおいて、角度θや補正係数Kを用いなくても、累積値Dy及び累積値Dxに基づき幾何学の関係(Dx2+Dy2)1/2により用紙搬送量Pを特定可能である。しかしながら、キャリッジ33が動いている場合には、Dx,Dyを用いるだけでは用紙搬送量Pを特定することはできない。従って、用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いる場合でも、本変形例の手法による用紙搬送量Pの特定は、正確な用紙搬送量Pの特定に大変役立つ。
【0087】
また、キャリッジ33が静止している場合に限っても、本変形例の手法によれば、複雑な演算をせず、補正係数Kを用いて簡単に用紙搬送量Pを算出することができるといった利点がある。
【0088】
[対応関係]
以上に説明した実施例に関する用語間の対応関係は次の通りである。即ち、用紙搬送機構20及びLFモータM2は、搬送装置及び搬送機構の一例に対応し、メモリ705aは、記憶手段の一例に対応し、補正係数K又は角度θは補正パラメータの一例に対応する。また、モータ制御部705が実行するS370の処理は、算出手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0089】
また、印字機構30は、処理機構の一例に対応し、記録ヘッド31及びキャリッジ33の組合せは、処理ヘッドの一例に対応する。この他、制御部50は、制御手段の一例に対応し、モータ制御部705が実行するS380の処理は、算出手段により算出された計測値に基づき、搬送機構の動作を制御する処理の一例に対応し、モータ制御部705が実行するS360の処理は、特定手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0090】
また、エンコーダ205及びエンコーダ信号処理部701は、回転量検出手段の一例に対応し、モータ制御部705が実行する補正パラメータ算出処理は、登録手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0091】
[最後に]
以上、変形例を含む本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0092】
例えば、上記実施例では、キャリッジ33と共に光学センサ37が移動するときの用紙搬送量Pの算出手順を説明したが、本発明は、光学センサ37がキャリッジ33以外の画像形成装置1の領域に固定されるなどして、光学センサ37が動くことのない装置に対しても適用することができる。この場合の用紙搬送量Pも、式(1)又は式(2)に従って算出することができる。但し、X=0であるので、具体的には、次式により算出することができる。
【0093】
P=Y/cosθ=K・Y …(4)
式(4)からも理解できるように、光学センサ37が静止している場合には、補正係数Kの情報のみで用紙移動量Yを補正して用紙搬送量Pをすることができ、角度θの情報については用紙移動量Yの補正に必要ない。従って、光学センサ37が動くことのない系では、メモリ705aに、補正係数Kのみを記憶させておけばよい。
【0094】
例えば、上記実施例の画像形成装置1において、光学センサ37は、用紙Qが通過する搬送路内や、プラテン240に設けることができる。また、用紙Qの幅方向全域に記録ヘッドが形成されたキャリッジを有し、用紙Qが記録ヘッドの下方を通過しながら、記録ヘッドが静止した状態で画像が記録される画像形成装置であれば、キャリッジに光学センサ37を設けても、光学センサ37は静止した状態にされる。
【符号の説明】
【0095】
1…画像形成装置、10…給紙機構、20…用紙搬送機構、30…印字機構、31…記録ヘッド、33…キャリッジ、35…リニアエンコーダ、35a…エンコーダスケール、37…光学センサ、50…制御部、60…給紙制御部、70…用紙搬送制御部、80…印字制御部、90…主制御部、95…インタフェース、101…給紙トレイ、103…給紙ローラ、104…アーム、105…ロータリエンコーダ、201…搬送ローラ、202,212…ピンチローラ、205…ロータリエンコーダ、211…排紙ローラ、220…動力伝達機構、240…プラテン、331…駆動プーリ、332…従動プーリ、333…ベルト、335…ガイドレール、701…エンコーダ信号処理部、703…センサ信号処理部、705…モータ制御部、705a…メモリ、707…PWM信号生成部、801…エンコーダ信号処理部、DR1〜DR3…モータドライバ、DR4…ヘッド駆動回路、M1…ASFモータ、M2…LFモータ、M3…CRモータ、Q…用紙
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及び処理実行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
処理実行装置としては、従来、用紙を所定量ずつ搬送する一方で、用紙の搬送停止時には記録ヘッドを通じて用紙に画像を形成することにより、用紙に一連の画像を形成するインクジェットプリンタ等の画像形成装置や、読取対象の原稿を搬送しつつ、読取ヘッドと対向する原稿の領域を、読取ヘッドを通じて読み取ることによって、原稿の読取画像を表す画像データを生成する読取装置などが知られている。
【0003】
また、インクジェットプリンタとしては、記録ヘッドを搭載するキャリッジに光学センサを備え、光学センサを通じて用紙の移動量を検出するものが知られている(特許文献1参照)。光学センサは、例えば、光電変換素子(CCDやCMOS等)が一次元又は二次元に配列されてなる受光部と光源とを備えた構成にされ、光源から用紙に照射した光を受光部にて受光することにより用紙を撮影し、この撮影画像を解析することにより用紙の移動量を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−131780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光学センサを用いて対象物(用紙等)の移動量を検出する場合には次のような問題があった。例えば、光電変換素子が一次元に配列された光学センサ等の安価な光学センサでは、対象物の移動量を、特定の一方向(光電変換素子の配列方向に沿う方向)にしか検出することができない。
【0006】
このため、画像形成装置のように対象物(用紙)が一方向に搬送される環境下であっても、光学センサの取付誤差等により、対象物の搬送方向と光学センサによる移動量の検出方向との間に差が生じている環境下では、対象物の搬送量(搬送方向の移動量)と、光学センサにより検出される移動量との間にズレが生じ、正確に対象物の搬送量を特定することができないといった問題があった。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、光学センサを用いて対象物の搬送量を正確に特定可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の計測装置(請求項1)は、対象物を搬送する搬送装置に設けられて、この対象物の搬送量を計測する計測装置であって、光学センサと、記憶手段と、算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この計測装置が備える光学センサは、対象物を撮影して、特定の方向への対象物の移動量を検出するセンサである。一方、記憶手段は、光学センサが移動量を検出する上記方向である移動量の検出方向と、搬送装置による対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶する。そして、算出手段は、記憶手段が記憶する補正パラメータに基づき、光学センサにより検出された移動量を補正する。算出手段は、このような補正動作によって、搬送量の計測値として、対象物の搬送方向への移動量を算出する。
【0010】
この計測装置によれば、算出手段が、光学センサにより検出された移動量を、光学センサによる移動量の検出方向と対象物の搬送方向との差に応じて補正する。従って、本発明によれば、光学センサの取付誤差等を原因として、光学センサによる検出方向と対象物の搬送方向との間に差が生じても、対象物の搬送量(搬送方向への移動量)を正確に特定することができる。
【0011】
よって、対象物を搬送する搬送装置と、このような構成の計測装置とを組み合わせて、対象物の搬送量を計測する搬送システムを構成すれば、この計測値に基づいて、対象物を正確に搬送することができる。
【0012】
また、本発明の処理実行装置(請求項2)は、対象物を搬送する搬送機構と、対象物に対する所定の処理を行う処理機構と、搬送機構及び処理機構の動作を制御する制御手段と、を備える処理実行装置に、上述の計測装置と同様の光学センサと、記憶手段と、算出手段と、を設けたことを特徴とする。
【0013】
即ち、この処理実行装置においては、記憶手段が、光学センサによる移動量の検出方向と、搬送機構による対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶し、算出手段が、この補正パラメータに基づき、光学センサにより検出された移動量を補正することによって、対象物の搬送量(搬送方向への移動量)についての計測値を算出する。そして、制御手段は、算出手段により算出された上記計測値に基づき、搬送機構の動作を制御する。
【0014】
この処理実行装置によれば、対象物の搬送量を、光学センサの取付誤差等に影響されず正確に特定することができるので、対象物の搬送制御を高精度に行うことができる。
尚、上記処理機構としては、処理ヘッドを備え、搬送機構による対象物の搬送方向とは交差する方向に処理ヘッドを搬送することにより、対象物に対して所定の処理を行う処理機構を挙げることができる。また、このような処理機構を備える処理実行装置に対して、光学センサは、従来技術と同様に、処理ヘッドに取り付けることが可能である(請求項3)。
【0015】
但し、光学センサが処理ヘッドに取り付けられた環境では、処理ヘッドの搬送に伴って光学センサが移動し、この光学センサの移動に伴って対象物と光学センサとの相対位置の変化が生じる。このため、光学センサの移動中に、光学センサの検出結果を用いるだけでは、対象物の搬送量を正確に特定することができない事態が生じる。
【0016】
一方、インクジェットプリンタ等では、スループット向上のため、記録ヘッドを通じた画像形成動作が完了すると、記録ヘッドの搬送動作の完了を待たずに、用紙の搬送動作を開始することがある。このようなインクジェットプリンタでは、用紙搬送量の正確な把握が必要なときに、光学センサが用紙搬送方向とは直交する方向に移動していることになる。
【0017】
勿論、光学センサが動いている場合でも、光学センサによる移動量の検出方向が処理ヘッドの搬送方向と直交関係にある場合には、処理ヘッドの搬送によっても、上記検出方向に光学センサが移動することはないため、光学センサの検出結果に基づいて、対象物の搬送量を正確に特定することが可能である。しかしながら、検出方向と処理ヘッドの搬送方向との間に直交関係がない場合には、移動量を二方向に検出可能な高価な光学センサを用いても、光学センサの位置変化によって、光学センサによって検出される移動量Dx,Dyの夫々に、光学センサの位置変化に伴う誤差が含まれてしまうため、光学センサの移動中に、光学センサの検出結果を用いるだけでは、対象物の搬送量を正確に特定することができない。
【0018】
そこで、光学センサを処理ヘッドに取り付ける場合には、処理実行装置に対し、処理ヘッドの搬送量を特定する特定手段を設けるのがよい。具体的には、光学センサが対象物の移動量の検出に要した時間に、処理機構により搬送された処理ヘッドの搬送量Xを特定可能な特定手段を設けるのがよい。
【0019】
そして、この処理実行装置の算出手段は、光学センサが移動量の検出に要した時間での光学センサ(処理ヘッド)の上記検出方向への移動量X・cosφを、光学センサにより検出された移動量Yに加算して得られる値(Y+X・cosφ)を、補正パラメータに基づき補正することによって、上記計測値を算出する構成にされるとよい。尚、移動量X・cosφは、特定手段により特定される処理ヘッドの搬送量Xと、処理ヘッドの搬送方向と光学センサによる移動量の検出方向との角度差φとから算出可能である(請求項4)。
【0020】
このように算出手段を構成すれば、処理ヘッドが搬送されている環境下でも、対象物の搬送量(搬送方向への移動量)を、光学センサを用いて正確に特定することができる。
尚、記憶手段は、光学センサによる移動量の検出方向と搬送機構による対象物の搬送方向との角度差θを、上記補正パラメータとして記憶する構成にすることができる(請求項5)。
【0021】
また、対象物の搬送方向と処理ヘッドの搬送方向との間に直交関係にあり、記憶手段が、上記角度差θを補正パラメータとして記憶している処理実行装置において、上記算出手段は、上記直交関係があることにより成立する角度差θと角度差φとの間の対応関係φ=(π/2−θ)と、記憶手段が記憶する角度差θとに基づき、移動量X・cosφを特定して、上記計測値を算出する構成にすることができる(請求項6)。
【0022】
また、処理実行装置には、光学センサにより検出された移動量と、搬送機構の動作量とに基づいて、対象物の搬送方向と光学センサによる検出方向との差に対応した上記補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる。
【0023】
具体的に、搬送機構がローラの回転により対象物を搬送するものであり、このローラの回転量を検出する回転量検出手段を備えた処理実行装置に対しては、次のような構成の登録手段を設けることができる。即ち、光学センサにより検出されたローラが一周以上の整数倍回転した期間での対象物の移動量と、回転量検出手段により検出された同期間でのローラの回転量と、に基づいて、上記補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる(請求項7)。
【0024】
ローラ等では、偏心等により回転動作の周期的な乱れが生じる。このため、ローラが非整数倍回転する期間において光学センサにより検出された移動量と、この期間での回転量検出手段により検出された同期間での回転量と、に基づいて補正パラメータを算出すると、偏心等による影響を受けて、補正パラメータに誤差が生じる可能性がある。
【0025】
一方、本発明のように、ローラが整数倍回転する期間において光学センサにより検出された移動量と、この期間での回転量検出手段により検出された同期間での回転量と、に基づいて補正パラメータを算出すると、偏心等による影響を抑えて適切な補正パラメータを算出することができる。
【0026】
この他、互いに直交する二方向夫々に対する対象物の移動量を検出可能な光学センサを備える処理実行装置には、光学センサにより検出される各方向の対象物の移動量に基づき、補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる。
【0027】
即ち、処理実行装置には、光学センサから得られる各方向の対象物の移動量に基づき、光学センサにより移動量が検出される二方向の内の一方向である主検出方向と対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを算出し、これを記憶手段に記憶させる登録手段を設けることができる。そして、この処理実行装置の算出手段は、記憶手段が記憶する補正パラメータに基づき、光学センサにより検出される主検出方向の移動量を補正して、上記計測値を算出する構成にすることができる(請求項8)。
【0028】
このような構成の処理実行装置によれば、適切な補正パラメータを算出して、これを記憶手段に記憶させることができ、この結果として、取付誤差等の影響を抑えて、適切な搬送量についての計測値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】画像形成装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】画像形成装置1の機械的構成を表す断面図である。
【図3】印字機構30の機械的構成を表す側面図である。
【図4】用紙Q及びキャリッジ33の搬送動作並びに画像形成動作の実行タイミングを示したタイムチャートである。
【図5】用紙搬送制御部70の構成を表すブロック図である。
【図6】センサ信号処理部703が繰返し実行する処理を表すフローチャートである。
【図7】光学センサ37を通じて検出される用紙移動量Yと実際の用紙搬送量Pとの対応関係であって、光学センサ37が静止している場合の対応関係を(a)に示し、光学センサ37が移動している場合の対応関係を(b)に示した図である。
【図8】モータ制御部705が実行する補正パラメータ算出処理を表すフローチャートである。
【図9】モータ制御部705が実行する用紙搬送制御を表すフローチャートである。
【図10】モータ制御部705が実行する変形例の補正パラメータ算出処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
本実施例の画像形成装置1は、インクジェットプリンタであり、図1に示すように、給紙機構10と、用紙搬送機構20と、印字機構30と、制御部50と、給紙機構10に動力を付与する直流モータであるASFモータM1と、ASFモータM1を駆動するモータドライバDR1と、用紙搬送機構20に動力を付与する直流モータであるLFモータM2と、LFモータM2を駆動するモータドライバDR2と、印字機構30に動力を付与する直流モータであるCRモータM3と、CRモータM3を駆動するモータドライバDR3と、記録ヘッド31を駆動するヘッド駆動回路DR4と、を備える。
【0031】
給紙機構10は、図2に示すように、給紙トレイ101に収容された用紙Qを1枚ずつ分離して用紙搬送機構20に供給するものであり、複数枚の用紙Qが積層される給紙トレイ101と、ASFモータM1の動力を受けて回転する給紙ローラ103と、給紙ローラ103を回転可能な状態で保持するアーム104と、給紙ローラ103の回転に伴ってエンコーダ信号を出力するロータリエンコーダ105(図1参照)と、を備える。
【0032】
アーム104は、重力又はバネによる付勢力を用いて、給紙ローラ103を給紙トレイ101に収容された用紙Qの表面に押し当てるものである。この給紙機構10では、給紙ローラ103が用紙Qに押し当てられた状態でASFモータM1の動力を受けて回転することによって、給紙トレイ101最上部の用紙Qが分離されて、用紙搬送機構20に繋がる用紙搬送路に送り出される。用紙搬送機構20と給紙機構10との間の用紙搬送路は、U字形状の搬送路であるUターンパス111から構成されており、給紙トレイ101から送り出される用紙Qは、Uターンパス111により移動を規制されて湾曲した状態で、用紙搬送機構20が有する搬送ローラ201とピンチローラ202との間に搬送される。
【0033】
用紙搬送機構20は、搬送ローラ201及び搬送ローラ201に対向配置されるピンチローラ202を備えると共に、搬送ローラ201の回転に伴ってエンコーダ信号を出力するロータリエンコーダ205(図1参照)と、排紙ローラ211と、排紙ローラ211に対向配置されるピンチローラ212と、を備える。
【0034】
ロータリエンコーダ205は、搬送ローラ201の回転軸上に取り付けられる回転板(図示せず)を備え、回転板に形成されたスリットを読み取って、読取結果に応じたエンコーダ信号を出力する周知のインクリメンタル型のロータリエンコーダである。
【0035】
また、排紙ローラ211は、搬送ローラ201よりも用紙搬送路下流に設けられている。搬送ローラ201及び排紙ローラ211は、例えば各ローラ201,211をベルトで連結する動力伝達機構220(図1参照)を通じてLFモータM2からの動力を受けて、互いに連動するように回転する。具体的には、互いに周方向に同量回転する。搬送ローラ201及び排紙ローラ211は、この回転により協働して、給紙機構10から供給された用紙Qを、排紙ローラ211下流の図示しない排紙トレイまで搬送する。
【0036】
尚、ピンチローラ202は、搬送ローラ201との間に用紙Qを挟んだ状態で、搬送ローラ201に従動するように回転し、ピンチローラ212は、排紙ローラ211との間に用紙Qを挟んだ状態で、排紙ローラ211に従動するように回転する。用紙Qは、このように搬送ローラ201とピンチローラ202との間で挟持され、更には、排紙ローラ211とピンチローラ212との間で挟持された状態で、搬送ローラ201及び排紙ローラ211の回転により用紙搬送路下流に搬送される。
【0037】
また、搬送ローラ201と排紙ローラ211との間には、搬送ローラ201から搬送される用紙Qを下方から支持して排紙ローラ211へ導くためのプラテン240が設けられている。搬送ローラ201から排紙ローラ211へと搬送される用紙Qに対しては、このプラテン240上で、印字機構30を構成する記録ヘッド31から吐出されるインク液滴により画像が形成される。
【0038】
印字機構30は、図1に示すように、ヘッド駆動回路DR4から入力される駆動信号に応じたインク液滴を、プラテン240に対向するノズル面から吐出する記録ヘッド31と、記録ヘッド31を搭載するキャリッジ33と、リニアエンコーダ35と、光学センサ37とを備える。また、CRモータM3からの動力を受けてキャリッジ33を主走査方向(図2紙面の法線方向)に搬送するキャリッジ搬送機構を備える(図3参照)。
【0039】
キャリッジ搬送機構は、図3に示すように、CRモータM3に駆動される駆動プーリ331と、従動プーリ332と、駆動プーリ331と従動プーリ332との間に巻回されたベルト333と、主走査方向に延びるガイドレール335と、を備える。ガイドレール335は、キャリッジ33の移動を主走査方向(図2紙面の法線方向)に制限するものであり、記録ヘッド31を搭載するキャリッジ33は、このガイドレール335に挿通される。また、キャリッジ33にはベルト333が接続されており、キャリッジ33は、CRモータM3からの動力を受けて回転する駆動プーリ331の当該回転に連動してベルト333が回転することによりCRモータM3からの動力を間接的に受けて、主走査方向に移動する。
【0040】
また、リニアエンコーダ35は、キャリッジ33の主走査方向への移動に伴ってエンコーダ信号を出力するものであり、主走査方向に設置されたエンコーダスケール35aと、エンコーダスケール35aを読み取るセンサ部(図示せず)とを備える。リニアエンコーダ35を構成するセンサ部はキャリッジ33に搭載される。即ち、リニアエンコーダ35では、キャリッジ33の移動に伴って、センサ部が移動しながらエンコーダスケール35aを読み取ることにより、センサ部からキャリッジ33の主走査方向への移動に対応したエンコーダ信号が出力される。
【0041】
また、光学センサ37は、用紙Qと対向するようにキャリッジ33下方に搭載され、プラテン240上にある用紙Qを撮影して、その撮影画像を解析することにより、特定の一方向への用紙Qの変位量Δを検出するものである。具体的に、光学センサ37は、周期的に用紙Qを撮影して、予め定められた微小時間毎に、この微小時間での用紙変位量Δを検出する。以下では、用紙変位量Δが検出される方向(上記特定の一方向)のことを、特に「検出方向」と表現する。
【0042】
光学センサ37は周知のものであるので詳細な説明については省略するが、光学センサ37としては、例えば、光電変換素子が一列に配列された光学センサであって、光電変換素子が配列された方向に沿う用紙Qの変位量Δを検出可能な光学センサを採用することができる。
【0043】
また、制御部50は、給紙制御を行う給紙制御部60と、給紙トレイ101から用紙搬送機構20に供給された用紙Qの搬送制御を行う用紙搬送制御部70と、キャリッジ33の搬送制御及び記録ヘッド31によるインク液滴の吐出制御を行う印字制御部80と、これらを統括制御する主制御部90と、外部のパーソナルコンピュータ(PC)3と通信可能なインタフェース95とを備える。
【0044】
給紙制御部60は、ロータリエンコーダ105から入力されるエンコーダ信号に基づき、給紙ローラ103の回転量を検出し、この検出結果に基づき、モータドライバDR1からASFモータM1に印加する駆動電流を調整することによって、給紙制御を行うものである。この給紙制御によって、給紙トレイ101から用紙搬送機構20へは、用紙Qが1枚ずつ供給される。
【0045】
一方、用紙搬送制御部70は、ロータリエンコーダ205から入力されるエンコーダ信号に基づき、搬送ローラ201の回転量Yrを検出する一方で、光学センサ37から得られる用紙変位量Δの累積値Ysに基づき、用紙Qの搬送制御開始時点からの用紙搬送量Pを特定し、回転量Yr及び用紙搬送量Pの少なくとも一方に基づきLFモータM2を制御することによって、用紙Qの搬送制御を行うものである。これにより、用紙Qは、主走査方向とは垂直な副走査方向に搬送される。
【0046】
また、印字制御部80(図1参照)は、モータドライバDR3を通じてCRモータM3を制御することにより、記録ヘッド31を主走査方向に片道分定速搬送し、その搬送中に、記録ヘッド31を制御することにより、記録ヘッド31に、インタフェース95を通じてPC3から入力された印刷対象の画像データに対応するインク液滴を吐出させて、用紙Qに所定幅のライン画像(以下、「1パス分のライン画像」とも言う。)を形成するものである。具体的に、印字制御部80は、リニアエンコーダ35から入力されるエンコーダ信号に基づき、キャリッジ33(ひいては記録ヘッド31)の位置及び速度を検出し、記録ヘッド31の搬送制御を行う。
【0047】
また、主制御部90は、給紙制御部60、用紙搬送制御部70及び印字制御部80を統括制御することにより、用紙搬送機構20に用紙Qを1枚ずつ供給すると共に、供給した用紙Qを、用紙搬送機構20を通じて間欠搬送し、用紙Qの停止時には、印字機構30を通じて用紙Qに1パス分のライン画像を形成するものである。この動作によって、主制御部90は、用紙Qをプラテン240上の画像形成地点に所定量ずつ順次送り出して、インタフェース95を通じてPC3から入力された印刷対象の画像データに対応する一連の画像を、用紙Qに形成する。
【0048】
図4には、主制御部90による統括制御によって実現される用紙Qの搬送動作、及び、キャリッジ33(記録ヘッド31)の搬送動作、及び、用紙Qへの画像形成動作の実行タイミングを、タイムチャートを用いて示す。このタイムチャートからも理解できるように、本実施例では、キャリッジ33(記録ヘッド31)を搬送しつつ、用紙Qへの画像形成動作を実行し、画像形成動作が終了すると、キャリッジ33を減速・停止させて、その搬送動作を完了するが、画像形成動作の終了後、キャリッジ33の搬送動作が完了する前に、用紙Qの搬送動作を開始して、次の画像形成動作に必要な量、用紙Qを送り出す。そして、用紙の搬送動作が完了する前に、タイミングを見計らって、キャリッジ33の搬送動作を開始し、用紙の搬送動作が完了した直後のタイミングで、効率よく画像形成動作を開始する。
【0049】
続いて、用紙搬送制御部70の詳細構成を、図5を用いて説明する。この用紙搬送制御部70は、エンコーダ信号処理部701と、センサ信号処理部703と、モータ制御部705と、PWM信号生成部707と、を備える。
【0050】
エンコーダ信号処理部701は、ロータリエンコーダ205から入力されるエンコーダ信号に基づき、搬送ローラ201の回転量Yrを検出するものである。上述したように、用紙Qは、搬送ローラ201及び排紙ローラ211の回転により搬送されるので、搬送ローラ201の回転量Yrは、およそ用紙Qの搬送量に対応する。
【0051】
一方、センサ信号処理部703は、光学センサ37により検出される微小時間毎の用紙変位量Δの情報を逐次、光学センサ37から取得して、用紙変位量Δの累積値Ysを算出するものである。即ち、センサ信号処理部703は、図6に示すように、光学センサ37から用紙変位量Δの情報を取得し(S110)、これまでに算出した累積値Ysに、今回取得した用紙変位量Δを加算して、累積値Ysを更新する(S120)処理を、光学センサ37による用紙変位量Δの検出周期に合わせて繰返し実行する。
【0052】
一方、モータ制御部705は、主制御部90により制御開始指令が入力されると、LFモータM2に対する操作量Uを逐次演算して、これをPWM信号生成部707に入力する。具体的に、モータ制御部705は、主制御部90により制御開始指令が入力されると、センサ信号処理部703により算出される用紙変位量Δの累積値Ysに基づき、所定の制御周期毎に、搬送制御開始時点(搬送開始地点)からの用紙搬送量Pを特定し、この用紙搬送量Pと、目標位置軌跡に従う現在時刻tでの目標位置Prとの偏差e=Pr−Pに基づき、偏差eを縮める方向の操作量Uを算出する。尚、光学センサ37と対向する位置に用紙Qが存在している間は、前述の通り、用紙変位量Δの累積値Ysに基づいて、用紙搬送量Pが特定される。光学センサ37と対向する位置に用紙Qが存在していない間、換言すると、光学センサ37によって用紙変位量Δが取得できない間は、ロータリエンコーダ205から入力されるエンコーダ信号によって検出される搬送ローラ201の回転量Yrに基づいて、用紙搬送量Pが特定される。
【0053】
図5における点線で囲まれた領域には、この用紙Qの搬送制御に用いられる目標位置軌跡の形状を示す。目標位置軌跡は、目標位置Prが、搬送開始地点での位置Pr=0から目標停止位置Ptまで単調増加し、目標停止位置Ptに到達した時点以降では、目標停止位置Ptで一定値を採るものである。目標停止位置Ptは、制御開始指令時に、主制御部90から現在地点を基準とした目標搬送量の情報として入力され、この入力を契機に、上記目標位置軌跡は、目標停止位置Ptに対応した位置軌跡に設定される。
【0054】
また、PWM信号生成部707は、このモータ制御部705から入力される操作量Uに対応する駆動電流でLFモータM2を駆動するためのPWM信号を生成し、このPWM信号をモータドライバDR2に入力するものである。モータドライバDR2は、このPWM信号に従って動作し、LFモータM2に操作量Uに対応する駆動電流を印加する。
【0055】
ところで、モータ制御部705は、光学センサ37を用いる場合、任意の第一の時点から第二の時点までの用紙搬送量Pを次式により算出して特定する。
P=(Y+X・cosφ)/cosθ …(1)
ここで、Xは、第一の時点から第二時点までのキャリッジ33の搬送量である。具体的に、Xは、第一の時点でエンコーダ信号処理部801から得られるキャリッジ33の位置Xs1と第二の時点でエンコーダ信号処理部801から得られるキャリッジ33の位置Xs2との差分X=Xs2−Xs1で求められる。
【0056】
上述したように、印字制御部80(図1参照)は、リニアエンコーダ35から入力されるエンコーダ信号に基づき、キャリッジ33の位置を検出するが、その機能は、エンコーダ信号処理部801で実現される。モータ制御部705は、用紙搬送量Pを特定する際に、この印字制御部80のエンコーダ信号処理部801からキャリッジ33の位置Xsの情報を取得する。
【0057】
また、Yは、第一の時点から第二時点までの光学センサ37の検出結果から特定される用紙Qの移動量である。具体的に、Yは、第一の時点でセンサ信号処理部703から得られる用紙変位量Δの累積値Ys1と第二の地点でセンサ信号処理部703から得られる用紙変位量Δの累積値Ys2との差分Y=Ys2−Ys1で求められる。
【0058】
また、θは、図7(a)及び図7(b)に示すように、用紙搬送機構20による用紙Qの搬送方向(副走査方向)に対して、光学センサ37による用紙変位量Δの検出方向がなす角度である。この他、φは、キャリッジ33の搬送方向(主走査方向)に対して、光学センサ37による用紙変位量Δの検出方向がなす角度である。用紙Qの搬送方向とキャリッジ33の搬送方向とは直交関係にあることからφ=π/2−θである。
【0059】
式(1)を用いて用紙搬送量Pを特定するのは、次の理由からである。光学センサ37は、用紙変位量Δの検出方向が用紙Qの搬送方向と一致するように、キャリッジ33に取り付けられるものであるが、その際には取付誤差により、必ずしも角度θ=0とはならない。
【0060】
そして、角度θがゼロではない場合には、キャリッジ33(換言すれば光学センサ37)が動いていない場合(X=0である場合)でも、図7(a)に示すように、用紙変位量Δの累積によって得られる用紙移動量Yが、実際の用紙搬送量Pのcosθ倍となってしまう。尚、図7(a)は、キャリッジ33が静止している状態での用紙移動量Yと実際の用紙搬送量Pとの関係を表す図である。
【0061】
更に、キャリッジ33が主走査方向に動いている場合(X≠0である場合)には、仮に用紙移動量Yに対応する時間においてキャリッジ33が距離X移動したとすると、この用紙移動量Yに対応する時間内には、キャリッジ33の移動に伴って、光学センサ37の位置が用紙変位量Δの検出方向側にX・cosφ変化することになる。このため、キャリッジ33が距離X移動している期間の用紙変位量Δの累積により得られる用紙移動量Yは、キャリッジ33の移動がないときに対して、値X・cosφ分減ってしまう。
【0062】
このため、本実施例では、光学センサ37から得られる用紙移動量Yを、式(1)によって補正することにより、実際の用紙搬送量Pを特定する。
また、光学センサ37を通じて検出される用紙移動量Yから実際の用紙搬送量Pを算出するためには、上述したように、角度θの情報が必要になる。このため、本実施例のモータ制御部705は、画像形成装置1の起動時又は画像形成装置1の出荷時に、自動で又は外部からの指令に従って、図8に示す補正パラメータ算出処理を実行し、角度θの情報を得る。また、本実施例では、キャリッジ33が静止している状態(X=0)では三角関数を用いて用紙搬送量Pを算出しなくて済むように、補正係数K=1/cosθを算出し、これら角度θ及び補正係数Kをモータ制御部705に設けられたメモリ705aに記憶する。但し、補正係数Kをメモリ705aに記憶させず、角度θのみをメモリ705aに記憶させてもよい。この場合、K=1/cosθについては、必要に応じて角度θから算出すれば良い。
【0063】
具体的に、本実施例のモータ制御部705は、補正パラメータ算出処理を実行すると、エンコーダ信号処理部701が保持する搬送ローラ201の回転量Yr及びセンサ信号処理部703が保持する用紙変位量Δの累積値Ysを、ゼロにリセットした後(S210)、LFモータM2の制御により、搬送ローラ201をN回転させる(S220)。
【0064】
但し、S220による処理の実行期間には、光学センサ37によって用紙移動量Yを検出可能な位置に用紙Qが存在していることが前提である。従って、補正パラメータ算出処理の実行に先駆けては、用紙Qを、上記条件を満足する位置にセットする処理を行う。
【0065】
また、上記値Nは、1以上の整数値である。S220では、例えば、搬送ローラ201がN回転する位置を目標停止位置Ptに設定し、エンコーダ信号処理部701により検出される搬送ローラ201の回転量Yrと、目標停止位置Ptとの関係に基づき、LFモータM2をフィードバック制御することにより、搬送ローラ201を正確にN回転させる。
【0066】
そして、搬送ローラ201がN回転した後には、エンコーダ信号処理部701から搬送ローラ201の回転量Yrの情報を取得すると共に、センサ信号処理部703から用紙変位量Δの累積値Ysの情報を取得する(S230)。そして、この回転量Yr及び累積値Ysに基づき、回転量Yrと累積値Ysの比に対応する補正係数K=1/cosθ=Yr/Ysを算出し(S240)、角度θ=arccos(Ys/Yr)を算出する(S250)。その後、補正係数K及び角度θをメモリ705aに記憶して、当該補正パラメータ算出処理を終了する。
【0067】
また、モータ制御部705は、主制御部90から制御開始指令が入力されると、図9に示す用紙搬送制御処理を実行することにより、主制御部90から指定された目標停止位置Ptまでの用紙搬送を実現する。
【0068】
図9に示す用紙搬送制御処理を開始すると、主制御部90は、センサ信号処理部703から用紙変位量Δの累積値Ysの情報を取得し、この累積値Ysを初期値Ys0に設定する(S310)。また、エンコーダ信号処理部801からキャリッジ33の位置Xsの情報を取得して、この位置Xsを初期値Xs0に設定する(S320)。
【0069】
その後、モータ制御部705は、LFモータM2を通じて搬送ローラ201の駆動を開始し(S330)、所定の制御周期(換言すれば操作量演算周期)が到来する度に(S340でYes)、S350〜S380の処理を実行する。
【0070】
具体的に、S350では、最新の累積値Ysをセンサ信号処理部703から取得して、現在の累積値Ysと初期値(用紙搬送制御開始時の累積値)Ys0との差分である用紙移動量Y=Ys−Ys0を算出する。
【0071】
続くS360では、最新のキャリッジ位置Xsをエンコーダ信号処理部801から取得して、現在のキャリッジ位置Xsと初期値(用紙搬送制御開始時のキャリッジ位置)Xs0との差分であるキャリッジ搬送量X=Xs−Xs0を算出する。
【0072】
そして、S370では、S350で算出された用紙移動量Yと、S360で算出されたキャリッジ搬送量Xと、メモリ705aに記憶された補正係数K及び角度θとに基づき、次式に従って、用紙搬送量Pを算出する。
【0073】
P=K・(Y+X・cos(π/2−θ)) …(2)
また、用紙搬送量Pを算出すると、モータ制御部705は、この用紙搬送量Pと目標位置Prとの偏差e=Pr−Pに対応した操作量Uを演算し、この操作量UをモータドライバDR2に入力して、操作量Uに対応した駆動電流でLFモータM2を駆動する(S380)。
【0074】
モータ制御部705は、用紙搬送制御の終了条件が満足されるまで(S390でNo)、制御周期の到来毎に、このような内容の処理(S350〜S380の処理)を繰返し実行し、用紙搬送制御の終了条件が満足されると(S390でYes)、当該用紙搬送制御処理を終了する。S390では、例えば、用紙搬送量Pが所定時間一定値で保持されると、用紙搬送制御の終了条件が満足されたと判断することができる。その他、用紙搬送制御の開始時刻から所定時間が経過すると、終了条件が満足されたと判断されてもよい。
【0075】
以上、本実施例の画像形成装置1について説明したが、本実施例によれば、光学センサ37の取付誤差により、光学センサ37による用紙変位量Δの検出方向が、用紙Qの搬送方向からずれている場合でも、正確な用紙搬送量Pを算出することができる。
【0076】
従って、本実施例によれば、光学センサ37の取付誤差により、用紙搬送量Pを正確に把握することができなくなるのを抑えて、高精度な用紙搬送制御を実現することができる。また、光学センサ37を正確に取り付けなくても済むため、光学センサ37のキャリッジ33への取付作業を容易にすることができる。
【0077】
更に言えば、本実施例によれば、搬送ローラ201を整数倍回転させて得られた回転量Yr及び累積値Ysの結果から、補正パラメータとしての補正係数K及び角度θを算出するので、偏心やコギング等の影響を抑えて、高精度に角度θ及び補正係数Kを算出することができる。
【0078】
[変形例]
以上には、一方向についてのみの用紙変位量Δを検出可能な光学センサ37を用いた画像形成装置1の例について説明したが、画像形成装置1には、この光学センサ37に代えて、互いに直交する二方向夫々についての用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサ(例えば、光電変換素子が二次元配置された光学センサ)を設けてもよい。そして、このような用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いる場合には、用紙変位量Δxの検出方向及び用紙変位量Δyの検出方向の内、用紙搬送方向との角度差の小さい方の検出方向に対応する用紙変位量Δyを、上記実施例の用紙変位量Δと同様に取り扱って、図9に示す用紙搬送制御を実行することができる。
【0079】
また、センサ信号処理部703は、用紙変位量Δの累積値Ysに代えて、用紙変位量Δxの累積値Dx及び用紙変位量Δyの累積値Dyを、光学センサの検出周期に合わせて算出する構成にすることができる。
【0080】
そして、用紙搬送方向との角度差が大きい方の検出方向に対応する用紙変位量Δxについては、用紙搬送方向に対して光学センサによる用紙変位量Δyの検出方向がなす角度θを、補正パラメータ算出処理で求める際に用いることができる。
【0081】
即ち、用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いる場合には、補正パラメータ算出処理を次のように構成することができる。図10は、変形例の補正パラメータ算出処理を表すフローチャートである。
【0082】
図10に示す補正パラメータ算出処理を開始すると、モータ制御部705は、センサ信号処理部703が保持する累積値Dx,Dyをゼロにリセットし(S410)、この後に、LFモータM2を通じて、搬送ローラ201を所定量回転させる(S420)。ここでは、S220での処理と同様に、搬送ローラ201を整数倍回転させてもよいし、整数倍回転させなくてもよい。
【0083】
そして、搬送ローラ201を所定量回転させた後には、この回転後の累積値Dx,Dyをセンサ信号処理部703から取得し(S430)、角度θを次式により算出する(S440)。
【0084】
θ=arctan(Dx/Dy) …(3)
その後、この角度θを用いて補正係数K=1/cosθを算出し(S450)、この補正係数K及び角度θをメモリ705aに記憶させる(S460)。
【0085】
このような処理によっても、適切に角度θを算出することができる。この結果、本変形例によっても、光学センサにより検出される用紙変位量Δyの累積値Dyにより求められる用紙移動量Yを適切に補正して、正確な用紙搬送量Pを特定することができる。
【0086】
尚、用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いた場合には、キャリッジ33が静止している限りにおいて、角度θや補正係数Kを用いなくても、累積値Dy及び累積値Dxに基づき幾何学の関係(Dx2+Dy2)1/2により用紙搬送量Pを特定可能である。しかしながら、キャリッジ33が動いている場合には、Dx,Dyを用いるだけでは用紙搬送量Pを特定することはできない。従って、用紙変位量Δx及びΔyを検出可能な光学センサを用いる場合でも、本変形例の手法による用紙搬送量Pの特定は、正確な用紙搬送量Pの特定に大変役立つ。
【0087】
また、キャリッジ33が静止している場合に限っても、本変形例の手法によれば、複雑な演算をせず、補正係数Kを用いて簡単に用紙搬送量Pを算出することができるといった利点がある。
【0088】
[対応関係]
以上に説明した実施例に関する用語間の対応関係は次の通りである。即ち、用紙搬送機構20及びLFモータM2は、搬送装置及び搬送機構の一例に対応し、メモリ705aは、記憶手段の一例に対応し、補正係数K又は角度θは補正パラメータの一例に対応する。また、モータ制御部705が実行するS370の処理は、算出手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0089】
また、印字機構30は、処理機構の一例に対応し、記録ヘッド31及びキャリッジ33の組合せは、処理ヘッドの一例に対応する。この他、制御部50は、制御手段の一例に対応し、モータ制御部705が実行するS380の処理は、算出手段により算出された計測値に基づき、搬送機構の動作を制御する処理の一例に対応し、モータ制御部705が実行するS360の処理は、特定手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0090】
また、エンコーダ205及びエンコーダ信号処理部701は、回転量検出手段の一例に対応し、モータ制御部705が実行する補正パラメータ算出処理は、登録手段によって実現される処理の一例に対応する。
【0091】
[最後に]
以上、変形例を含む本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0092】
例えば、上記実施例では、キャリッジ33と共に光学センサ37が移動するときの用紙搬送量Pの算出手順を説明したが、本発明は、光学センサ37がキャリッジ33以外の画像形成装置1の領域に固定されるなどして、光学センサ37が動くことのない装置に対しても適用することができる。この場合の用紙搬送量Pも、式(1)又は式(2)に従って算出することができる。但し、X=0であるので、具体的には、次式により算出することができる。
【0093】
P=Y/cosθ=K・Y …(4)
式(4)からも理解できるように、光学センサ37が静止している場合には、補正係数Kの情報のみで用紙移動量Yを補正して用紙搬送量Pをすることができ、角度θの情報については用紙移動量Yの補正に必要ない。従って、光学センサ37が動くことのない系では、メモリ705aに、補正係数Kのみを記憶させておけばよい。
【0094】
例えば、上記実施例の画像形成装置1において、光学センサ37は、用紙Qが通過する搬送路内や、プラテン240に設けることができる。また、用紙Qの幅方向全域に記録ヘッドが形成されたキャリッジを有し、用紙Qが記録ヘッドの下方を通過しながら、記録ヘッドが静止した状態で画像が記録される画像形成装置であれば、キャリッジに光学センサ37を設けても、光学センサ37は静止した状態にされる。
【符号の説明】
【0095】
1…画像形成装置、10…給紙機構、20…用紙搬送機構、30…印字機構、31…記録ヘッド、33…キャリッジ、35…リニアエンコーダ、35a…エンコーダスケール、37…光学センサ、50…制御部、60…給紙制御部、70…用紙搬送制御部、80…印字制御部、90…主制御部、95…インタフェース、101…給紙トレイ、103…給紙ローラ、104…アーム、105…ロータリエンコーダ、201…搬送ローラ、202,212…ピンチローラ、205…ロータリエンコーダ、211…排紙ローラ、220…動力伝達機構、240…プラテン、331…駆動プーリ、332…従動プーリ、333…ベルト、335…ガイドレール、701…エンコーダ信号処理部、703…センサ信号処理部、705…モータ制御部、705a…メモリ、707…PWM信号生成部、801…エンコーダ信号処理部、DR1〜DR3…モータドライバ、DR4…ヘッド駆動回路、M1…ASFモータ、M2…LFモータ、M3…CRモータ、Q…用紙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を搬送する搬送装置に設けられる計測装置であって、
前記対象物を撮影して、特定の方向への前記対象物の移動量を検出する光学センサと、
前記光学センサが移動量を検出する前記方向である検出方向と、前記搬送装置による前記対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する前記補正パラメータに基づき、前記光学センサにより検出された移動量を補正することによって、前記対象物の前記搬送方向への移動量に関する計測値を算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
対象物を搬送する搬送機構と、
前記対象物に対する所定の処理を行う処理機構と、
前記搬送機構及び前記処理機構の動作を制御する制御手段と、
前記対象物を撮影して、特定の方向への前記対象物の移動量を検出する光学センサと、
前記光学センサが移動量を検出する前記方向である検出方向と、前記搬送機構による前記対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する前記補正パラメータに基づき、前記光学センサにより検出された移動量を補正することによって、前記対象物の前記搬送方向への移動量に関する計測値を算出する算出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記算出手段により算出された前記計測値に基づき、前記搬送機構の動作を制御すること
を特徴とする処理実行装置。
【請求項3】
前記処理機構は、処理ヘッドを備え、前記搬送機構による前記対象物の搬送方向とは交差する方向に、前記処理ヘッドを搬送することにより、前記対象物に対する所定の処理を行う機構であり、
前記光学センサは、前記処理ヘッドに取り付けられていること
を特徴とする請求項2記載の処理実行装置。
【請求項4】
前記光学センサが前記移動量の検出に要した時間に、前記処理機構により搬送された前記処理ヘッドの搬送量を特定する特定手段
を備え、
前記算出手段は、前記特定手段により特定される前記処理ヘッドの搬送量Xと、前記処理ヘッドの搬送方向と前記光学センサによる移動量の前記検出方向との角度差φと、から特定される前記光学センサが前記移動量の検出に要した時間での前記光学センサの前記検出方向への移動量X・cosφを、前記光学センサにより検出された移動量Yに加算して得られる値(Y+X・cosφ)を、前記補正パラメータに基づき補正することによって、前記計測値を算出すること
を特徴とする請求項3記載の処理実行装置。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記検出方向と前記搬送機構による前記対象物の前記搬送方向との角度差θを、前記補正パラメータとして記憶すること
を特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか一項記載の処理実行装置。
【請求項6】
前記記憶手段は、前記検出方向と前記搬送機構による前記対象物の前記搬送方向との角度差θを、前記補正パラメータとして記憶しており、
前記算出手段は、前記対象物の搬送方向と前記処理ヘッドの搬送方向とが互いに直交関係にあることにより成立する前記角度差θと前記角度差φとの間の対応関係φ=(π/2−θ)と、前記記憶手段が記憶する角度差θとに基づき、前記移動量X・cosφを特定して、前記計測値を算出すること
を特徴とする請求項4記載の処理実行装置。
【請求項7】
前記搬送機構は、ローラの回転により前記対象物を搬送するものであり、
前記処理実行装置は、
前記ローラの回転量を検出する回転量検出手段と、
前記光学センサにより検出された前記ローラが一周以上の整数倍回転した期間での前記対象物の移動量と、前記回転量検出手段により検出された同期間での回転量と、に基づいて、前記補正パラメータを算出し、これを前記記憶手段に記憶させる登録手段と、
を備えること
と特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか一項記載の処理実行装置。
【請求項8】
前記光学センサは、互いに直交する二方向夫々に対する前記対象物の移動量を検出可能な構成にされており、
前記処理実行装置は、
前記光学センサから得られる各方向の前記対象物の移動量に基づき、前記光学センサにより前記移動量が検出される前記二方向の内の一方向である主検出方向と前記対象物の搬送方向との差に対応した前記補正パラメータを算出し、これを前記記憶手段に記憶させる登録手段
を備え、
前記算出手段は、前記記憶手段が記憶する前記補正パラメータに基づき、前記光学センサにより検出される前記主検出方向の移動量を補正して、前記計測値を算出すること
を特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか一項記載の処理実行装置。
【請求項1】
対象物を搬送する搬送装置に設けられる計測装置であって、
前記対象物を撮影して、特定の方向への前記対象物の移動量を検出する光学センサと、
前記光学センサが移動量を検出する前記方向である検出方向と、前記搬送装置による前記対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する前記補正パラメータに基づき、前記光学センサにより検出された移動量を補正することによって、前記対象物の前記搬送方向への移動量に関する計測値を算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
対象物を搬送する搬送機構と、
前記対象物に対する所定の処理を行う処理機構と、
前記搬送機構及び前記処理機構の動作を制御する制御手段と、
前記対象物を撮影して、特定の方向への前記対象物の移動量を検出する光学センサと、
前記光学センサが移動量を検出する前記方向である検出方向と、前記搬送機構による前記対象物の搬送方向との差に対応した補正パラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する前記補正パラメータに基づき、前記光学センサにより検出された移動量を補正することによって、前記対象物の前記搬送方向への移動量に関する計測値を算出する算出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記算出手段により算出された前記計測値に基づき、前記搬送機構の動作を制御すること
を特徴とする処理実行装置。
【請求項3】
前記処理機構は、処理ヘッドを備え、前記搬送機構による前記対象物の搬送方向とは交差する方向に、前記処理ヘッドを搬送することにより、前記対象物に対する所定の処理を行う機構であり、
前記光学センサは、前記処理ヘッドに取り付けられていること
を特徴とする請求項2記載の処理実行装置。
【請求項4】
前記光学センサが前記移動量の検出に要した時間に、前記処理機構により搬送された前記処理ヘッドの搬送量を特定する特定手段
を備え、
前記算出手段は、前記特定手段により特定される前記処理ヘッドの搬送量Xと、前記処理ヘッドの搬送方向と前記光学センサによる移動量の前記検出方向との角度差φと、から特定される前記光学センサが前記移動量の検出に要した時間での前記光学センサの前記検出方向への移動量X・cosφを、前記光学センサにより検出された移動量Yに加算して得られる値(Y+X・cosφ)を、前記補正パラメータに基づき補正することによって、前記計測値を算出すること
を特徴とする請求項3記載の処理実行装置。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記検出方向と前記搬送機構による前記対象物の前記搬送方向との角度差θを、前記補正パラメータとして記憶すること
を特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか一項記載の処理実行装置。
【請求項6】
前記記憶手段は、前記検出方向と前記搬送機構による前記対象物の前記搬送方向との角度差θを、前記補正パラメータとして記憶しており、
前記算出手段は、前記対象物の搬送方向と前記処理ヘッドの搬送方向とが互いに直交関係にあることにより成立する前記角度差θと前記角度差φとの間の対応関係φ=(π/2−θ)と、前記記憶手段が記憶する角度差θとに基づき、前記移動量X・cosφを特定して、前記計測値を算出すること
を特徴とする請求項4記載の処理実行装置。
【請求項7】
前記搬送機構は、ローラの回転により前記対象物を搬送するものであり、
前記処理実行装置は、
前記ローラの回転量を検出する回転量検出手段と、
前記光学センサにより検出された前記ローラが一周以上の整数倍回転した期間での前記対象物の移動量と、前記回転量検出手段により検出された同期間での回転量と、に基づいて、前記補正パラメータを算出し、これを前記記憶手段に記憶させる登録手段と、
を備えること
と特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか一項記載の処理実行装置。
【請求項8】
前記光学センサは、互いに直交する二方向夫々に対する前記対象物の移動量を検出可能な構成にされており、
前記処理実行装置は、
前記光学センサから得られる各方向の前記対象物の移動量に基づき、前記光学センサにより前記移動量が検出される前記二方向の内の一方向である主検出方向と前記対象物の搬送方向との差に対応した前記補正パラメータを算出し、これを前記記憶手段に記憶させる登録手段
を備え、
前記算出手段は、前記記憶手段が記憶する前記補正パラメータに基づき、前記光学センサにより検出される前記主検出方向の移動量を補正して、前記計測値を算出すること
を特徴とする請求項2〜請求項6のいずれか一項記載の処理実行装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【公開番号】特開2012−223945(P2012−223945A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92226(P2011−92226)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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