説明

訓練システム、その訓練方法及び訓練プログラム

【課題】移動体に搭乗した搭乗者を効率的に訓練できる訓練システム、その制御方法及び制御プログラムを提供すること。
【解決手段】搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練システム10は、移動体1の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する姿勢センサ2等と、姿勢センサ2等により検出された状態量に基づいて訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する改善度算出部52と、改善度算出部52によって算出された訓練改善度に基づいて制御ゲインを設定する制御ゲイン設定部80と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、その所定動作に応じて搭乗者が重心移動により移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練システム、その訓練方法及び訓練プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ジャイロセンサや加速度センサなどの検出信号から自己の姿勢情報を検出して、倒立制御等を行うことにより、自己の姿勢を維持するように車輪の回転を制御する移動体が開発されている。例えば、人間を搭乗させて走行する同軸二輪車であって、自己の姿勢情報を検出し、検出した姿勢情報に基づいて、倒立制御を行いつつ所望の走行を行う同軸二輪車が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このような同軸二輪車は、一般的に構造上前後に不安定なものであり、姿勢センサからの車両の姿勢情報に基づいて車輪の制御を行い、姿勢を安定させる、という特徴を有している。また、前進、後退、左右旋回などの走行操作については、搭乗者の重心移動により車体を傾斜させる指示等により行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−315666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示す同軸二輪車は、搭乗者の走行操作に応じて、倒立制御を行いつつ所望の走行を行う移動手段として利用されている。一方で、搭乗者による重心移動等の操作特性を利用したより広い分野での応用が望まれる。例えば、同軸二輪車に所定動作をさせ、その動作に応じて、若しくは、倒立状態の安定性を意図的に低下させた状態で、搭乗者が重心移動等の走行操作を行うというような、倒立状態の特性を利用して、身体機能やバランス機能の訓練などの分野における応用が考えられる。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、移動体に搭乗した搭乗者を効率的に訓練できる訓練システム、その訓練方法及び訓練プログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の観点によれば、搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練システムは、前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する改善度算出手段と、前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定する制御ゲイン設定手段と、を備える。
【0008】
前記制御ゲイン設定手段は、前記訓練改善度が低い場合は前記制御ゲインを高くなるように、前記訓練改善度が高い場合は前記制御ゲインを低くなるように設定することが好ましい。
【0009】
本願発明の他の観点によれば、搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練システムは、前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する改善度算出手段と、前記移動体の走行操作に対して所定の抵抗力を与える抵抗力付与手段と、前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、前記抵抗力付与手段による前記抵抗力を設定する抵抗力設定手段と、を備える。
【0010】
前記抵抗力付与手段は圧縮コイルスプリングであることが好ましい。
【0011】
前記搭乗者の状態量は、前記搭乗者の重心情報を含むことが好ましい。
【0012】
前記搭乗者の重心情報は、前記搭乗者の重心位置、重心位置の移動速度、重心位置の移動加速度のうち少なくとも何れかを含むことが好ましい。
【0013】
上記の訓練システムは、訓練時に前記搭乗者を所定の懸垂力で懸垂する懸垂手段と、前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、前記懸垂手段の前記懸垂力を設定する懸垂力設定手段と、を更に備えることが好ましい。
【0014】
本願発明の更に他の観点によれば、搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練方法は、前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出するステップと、前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出するステップと、前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定するステップと、を含む。
【0015】
本願発明の更に他の観点によれば、搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練プログラムは、前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する処理と、前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する処理と、前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、移動体に搭乗した搭乗者を効率的に訓練できる訓練システム、その訓練方法及び訓練プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1に係る訓練システムの概略的なシステム構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る移動体の概略的な構成を示す正面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る制御装置の概略的なシステム構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る訓練システムの処理フローの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態1.
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本実施形態1に係る訓練システム10は、図2に示すような移動体1に搭載された、姿勢センサ2(検出手段)と、回転センサ3(検出手段)と、荷重センサ71(検出手段)と、一対の車輪駆動ユニット4L、4Rと、制御装置5と、を備えている。訓練システム10は、更に、懸垂装置73(懸垂手段)を備えている。
【0019】
移動体1は、例えば、搭乗者が車両本体6に立った状態で乗車することができる立ち乗り型の同軸二輪車として構成されている。また、この同軸二輪車は、例えば、搭乗者が重心を前後に移動させることで前進後退を行い、搭乗者が重心を左右に移動させることで左右旋回を行うことができるように構成されている。
【0020】
姿勢センサ2は、検出手段の一具体例であり、移動体1の車両本体6におけるピッチ角度やロール角度などの傾斜角度、ピッチ角速度やロール角速度などの傾斜角速度、ピッチ角加速度やロール角加速度などの傾斜角加速度、等の姿勢情報(移動体1の状態量)を検出する。姿勢センサ2は、例えば、搭乗者が重心を前後へ移動させることで生じた車両本体6のピッチ角度、ピッチ角速度、又はピッチ角加速度を検出し、また、搭乗者が重心を左右へ移動させることで生じた車両本体6(分割ステップ9L、9R)のロール角度、ロール角速度、又はロール角加速度を検出することができる。姿勢センサ2は、制御装置5に接続されており、検出した車両本体6の姿勢情報を制御装置5に対して出力する。なお、姿勢センサ2は、例えば、ジャイロセンサや加速度センサなどにより構成されている。また、ピッチ軸とは、一対の車輪7L、7Rの車軸に相当する軸である。また、ロール軸とは、車両本体6の中心を通り、移動体1の走行方向と平行をなす軸である。
【0021】
回転センサ3は、検出手段の一具体例であり、移動体1に設けられた車輪7L、7Rの回転角度、回転角速度、回転角加速度等の回転情報(移動体1の状態量)を検出する。回転センサ3は、制御装置5に接続されており、検出した各車輪7L、7Rの回転情報を制御装置5に対して出力する。また、制御装置5は、回転センサ3により検出された各車輪7L、7Rの回転情報に基づいて、移動体1の移動加速度、移動速度、移動量等を算出することができる。
【0022】
荷重センサ71は、検出手段の一具体例であり、搭乗者の重心情報(搭乗者の状態量)を検出する。荷重センサ71は、移動体1が備える分割ステップ9L、9R上に夫々設けられた一対の面センサを備えて構成されている。各面センサは、シート状であって、面センサに作用する荷重点が1つの場合は、その荷重点の位置情報と荷重情報を生成し、他方、面センサに作用する荷重点が2つ以上の場合は、それらの荷重点の重心の位置情報と、合計の荷重情報を生成する。荷重センサ71は、各面センサが生成した位置情報と荷重情報に基づいて搭乗者の重心位置を算出し、併せて、重心位置の移動速度、重心位置の移動加速度を算出して検出する。本実施形態において重心情報は、搭乗者の重心位置、重心位置の移動速度、重心位置の移動加速度を含む。荷重センサ71は、制御装置5に接続されており、検出した搭乗者の重心情報を制御装置5に対して出力する。
【0023】
一対の車輪駆動ユニット4L、4Rは、移動体1に回転可能に設けられた左右一対の車輪7L、7Rを駆動することで、移動体1を走行させる。各車輪駆動ユニット4L、4Rは、例えば、電動モータと、その電動モータの回転軸に動力伝達可能に連結された減速ギア列等によって構成することができる。各車輪駆動ユニット4L、4Rは、駆動回路8L、8Rを介して制御装置5に接続されており、制御装置5からの制御信号に応じて、各車輪7L、7Rを駆動する。
【0024】
懸垂装置73は、後述する訓練モード時に、搭乗者を所定の懸垂力で懸垂するものである。懸垂装置73は、懸垂装置本体73aと、懸垂装置本体73aから垂れ下がる一対のロープ73bと、から構成されている。懸垂装置73は、制御装置5と公知の無線通信手段によって接続されており、制御装置5から受信した制御信号に基づいて、ロープ73bを使って搭乗者を所定の懸垂力で懸垂する(釣り上げた状態を維持する、釣り上げる)ようになっている。
【0025】
制御装置5は、移動体1が、例えば、倒立状態を維持する倒立制御を行いつつ、所望の走行(前進、後進、加速、減速、停止、左旋回、右旋回等)を行うように、各車輪駆動ユニット4L、4Rを制御して、各車輪7L、7Rの回転を制御する。また、制御装置5は、姿勢センサ2により検出された移動体1の姿勢情報と、回転センサ3により検出された各車輪7L、7Rの回転情報と、に基づいて、フィードバック制御、ロバスト制御等の周知の制御を行う。例えば、制御装置5は、搭乗者が重心を前後に移動させたときに、姿勢センサ2により検出された車両本体6のピッチ角度に応じて、各車輪駆動ユニット4L、4Rを介して各車輪7L、7Rの回転を制御することで、移動体1を前進又は後進させる。また、制御装置5は、搭乗者が重心を左右に移動させたときに、姿勢センサ2により検出された車両本体6のロール角度に応じて、各車輪駆動ユニット4L、4Rを制御して左右車輪7L、7R間で回転差を生じさせ、移動体1を左旋回又は右旋回させる。なお、搭乗者の重心移動により傾斜した車両本体6のロール角度に応じて旋回制御を行う技術については、本出願人の特許第3722493号公報の技術を適用することができる。さらに、制御装置5は、例えば、姿勢センサ2により検出された車両本体6のピッチ角度に所定の制御ゲインを乗算して、各車輪7L、7Rの回転トルクを算出する。そして、制御装置5は、算出した回転トルクが各車輪7L、7Rに生じるように、各車輪駆動ユニット4L、4Rを制御する。これにより、制御装置5は、車両本体6が傾斜している方向へ各車輪7L、7Rを回動させ、移動体1の重心位置を各車輪7L、7Rの車軸を通る鉛直線上へ戻すような倒立制御を行う。また、制御装置5は、各車輪7L、7Rに対して適切な回転トルクを夫々付加することで、車両本体6のピッチ角度がある一定値を超えないような倒立状態を維持しつつ、さらに、姿勢センサ2からの姿勢情報に応じて、前進、後進、停止、減速、加速、左旋回、右旋回等の移動体1の移動制御を行うことができる。上述のような車両制御の構成により、移動体1は、例えば、搭乗者が重心を前後に移動させ車両本体6を前後に傾斜させることで前進後退を行い、搭乗者が重心を左右に移動させ車両本体6を左右に傾斜させることで、左右旋回を行うことができる。なお、搭乗者によって旋回したいと思う所望の方向へ回動操作されたとき、その操作に応じた操作信号を制御装置5に供給する旋回操作部(旋回リング、ハンドル11等)を用いて、左右旋回を行う構成であってもよい。
【0026】
制御装置5は、例えば、制御処理、演算処理等と行うCPU(Central Processing Unit)5a、CPU5aによって実行される制御プログラム、演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)5b、処理データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)5c等からなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。
【0027】
移動体1は、図2に示すように、同軸二輪車として構成されており、車両本体6、車輪7L、7R、分割ステップ9L、9R、ハンドル11等を備えている。左右一対の分割ステップ9L、9Rは、運転者が搭乗するステッププレートの一例である。車両本体6は、各分割ステップ9L、9Rをロール方向へ姿勢変更可能にそれぞれ支持している。左右一対の車輪7L、7Rは、車両本体6に回転可能に支持されている。ハンドル11は、各分割ステップ9L、9Rの姿勢を、車両本体6を介してロール方向へ変化させる操作レバーである。
【0028】
各分割ステップ9L、9Rは、運転者が片足ずつ乗せて搭乗するもので、人の足の大きさと同程度か又は少々大きく形成された偏平な一対の板体からなる。車両本体6は、互いに平行をなして上下に配置された車体上部材12及び車体下部材13と、互いに平行をなして左右に配置されると共に車体上部材12及び車体下部材13と回動可能に連結された一対の側面部材14L、14Rと、を有する平行リンク機構として構成されている。この平行リンク機構の車体上部材12と車体下部材13との間には、車体上部材12及び車体下部材13と一対の側面部材14L、14Rとがなす角度をそれぞれ直角に維持するように(即ち、中立状態を維持するように)ばね力(抵抗力)を発生する一対のコイルばね15L、15R(抵抗力付与手段)がコイルバネ保持装置74に収容された状態で介在されている。換言すれば、一対のコイルばね15L、15Rは、移動体1の走行操作に対して所定の抵抗力(中立状態に戻そうとする力)を与えるものである。本実施形態においてコイルばね15L、15Rは圧縮コイルスプリングであって、所定量、軸方向に圧縮された状態でコイルバネ保持装置74内に保持されている。コイルバネ保持装置74は、所望のモータを用いることで、コイルばね15L、15Rの初期圧縮量を自在に増減可能に構成されている。コイルばね15L、15Rの初期圧縮量が増減すると、移動体1の走行操作に対して付与される抵抗力が同じように増減する。例えば、コイルばね15L、15Rの初期圧縮量が大きくなると、移動体1の走行操作に対して付与される抵抗力は高くなる。また、コイルバネ保持装置74は、駆動回路74aを介して制御装置5に接続されている。この構成により、制御装置5は、コイルバネ保持装置74に所定の制御信号を出力することで、コイルばね15L、15Rの初期圧縮量を自在に増減できるようになっている。一対の側面部材14L、14Rの各外面には、車輪駆動ユニット4L、4Rがそれぞれ取り付けられている。このように一対の車輪駆動ユニット4L、4Rを介して一対の側面部材14L、14Rに支持された一対の車輪7L、7Rは、平坦な路面E上に置いたときには、互いの回転中心が同一軸心線上に一致することになる。なお、移動体1は、同軸二輪車として構成されているが、これに限らず、例えば、搭乗者の重心移動により走行操作が行われ、かつ倒立制御を行う任意の車両に適用可能である。
【0029】
ところで、倒立状態を維持して走行する移動体1において、搭乗者による重心移動等の操作特性を利用して、より広い分野での応用が望まれる。例えば、移動体1に所定動作をさせて、その所定動作に応じて、搭乗者が重心移動等の走行操作を行うというような訓練を行えば、搭乗者はゲーム感覚で楽しみながら、身体機能、バランス機能等を効率的に向上させることができる。
【0030】
そこで、本実施形態1に係る訓練システム10の制御装置5は、移動体1に所定動作をさせ、その所定動作に応じて搭乗者が重心移動により移動体1の走行操作を行う訓練モードと、搭乗者による走行操作に応じて通常の走行を行う通常モードと、を有している。
【0031】
例えば、制御装置5は、訓練モードとなり訓練プログラムを実行すると、各車輪駆動ユニット4L、4Rを制御して、例えば、一定又はランダムな周期で、前後左右に所定動作を行う。このとき、搭乗者は、この移動体1の所定動作に応じて、例えば、移動体1が静止又は一定範囲内に収まるように、重心を前後もしくは左右に移動させる走行操作を行う。
【0032】
このように、搭乗者は、楽しみながら、身体機能、バランス機能等を向上させることができ、効率的に訓練を行うことができる。例えば、バランス機能等に障害がある人は、足首、膝関節などの身体の各部を無理なく楽しく動作させて、その障害や衰えを改善することができる。
【0033】
一方、制御装置5は、通常モードになると、姿勢センサ2により検出された車両本体6のピッチ角度やロール角度に応じて、移動体1が倒立制御を行いつつ所望の走行を行うように、各車輪駆動ユニット4L、4Rを制御する。これより、搭乗者は走行操作を行い、通常の走行を行うことができる。
【0034】
なお、制御装置5は、訓練モードと通常モードとの切替えを、所定のスイッチ操作、走行操作等に応じて行う。例えば、制御装置5は、ハンドル11に設けられたモードスイッチ16の操作に応じて、訓練モードと通常モードとの切替えを行ってもよい。また、遠隔操作スイッチ17等を用いて、訓練監督者等の第3者が遠隔的に、制御装置5を訓練モードと通常モードとに切替えを行う構成であってもよい。これにより、訓練モードと通常モードとの切替えを簡易に行うことができる。
【0035】
さらに、本実施形態1に係る訓練システム10において、訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出し、この訓練改善度に基づいて、移動体1の倒立状態の安定性を制御する。これにより、搭乗者の身体機能、バランス機能等を、訓練の上達度合いや機能回復度等を勘案して、効率的な訓練を行うことができる。
【0036】
図3は、本実施形態1に係る制御装置の概略的なシステム構成を示すブロック図である。本実施形態1に係る制御装置5は、姿勢センサ2により検出された姿勢情報や回転センサ3により検出された回転情報、荷重センサ71によって検出された重心情報などを含む車両情報を記憶する記憶部51と、訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する改善度算出部52(改善度算出手段)と、改善度算出部52により算出された訓練改善度に基づいて制御ゲインを設定する制御ゲイン設定部80(制御ゲイン設定手段)と、上記訓練改善度に基づいてコイルばね15L、15Rによる抵抗力を設定する抵抗力設定部81(抵抗力設定手段)と、上記訓練改善度に基づいて懸垂装置73の懸垂力を設定する懸垂力設定部82(懸垂力設定手段)と、倒立状態の安定性を制御する制御部53(制御手段)と、を有している。
【0037】
(記憶部51)
記憶部51は、例えば、RAM5cなどにより構成されており、訓練毎に、移動体1の移動加速度、移動速度、移動量、姿勢センサ2により検出されたロール角度、ピッチ角度、ロール角速度、ピッチ角速度、ロール角加速度、ピッチ角加速度、等の姿勢情報(移動体1の状態量)、回転センサ3により検出された各車輪7L、7Rの回転角度、回転角速度、回転角加速度等の回転情報(移動体1の状態量)、荷重センサ71によって検出された搭乗者の重心位置、重心位置の移動速度、重心位置の移動加速度等を含む重心情報(搭乗者の状態量)、などを夫々記憶する。なお、本実施形態において車両情報(状態量)は、上記の姿勢情報、回転情報、重心情報を含む。ここで、訓練は複数回実行され、1回の訓練(単位訓練)において、例えば、上述の訓練モードによる訓練プログラムが1回又は複数回実行され、又は所定時間だけ実行される。
【0038】
(改善度算出部52)
改善度算出部52は、記憶部51に記憶された訓練毎の車両情報の変化に基づいて、訓練改善度を算出する。改善度算出部52は、例えば、訓練毎(訓練1回目〜訓練n回目)に、記憶部51に記憶された車両情報が予め設定された目標範囲内にあるときの目標追従時間を夫々積算し、訓練回数(横軸)と目標追従時間(縦軸)との関係を算出する。改善度算出部52は、訓練毎に積算した目標追従時間の変化に基づいて、例えば、上記訓練回数(横軸)と目標追従時間(縦軸)との関係の傾きを、訓練改善度として算出する。ここで、上記訓練回数と目標追従時間との関係の傾きは、例えば、最小二乗法等を用いて算出することができる。訓練管理者や搭乗者などのユーザは、この訓練改善度に基づいて、搭乗者の訓練の上達度合いや機能回復度などを推定することができる。例えば、訓練回数と目標追従時間との関係の傾きを示す訓練改善度が増加するに従って、訓練の上達度合いや機能回復度が向上していることが推定できる。
【0039】
なお、改善度算出部52は、訓練毎に、記憶部51に記憶された車両情報と予め設定された目標値との偏差を夫々算出し、算出した各偏差を積算し、上記同様の訓練回数と積算した偏差との関係を算出してもよい。この場合、改善度算出部52は、訓練毎に積算した偏差の変化に基づいて、例えば、上記訓練回数と偏差との関係の傾きを訓練改善度として算出する。
【0040】
また、改善度算出部52は、訓練毎に、記憶部51に記憶された車両情報の平均値を夫々算出し、上記同様の訓練回数と車両情報の平均値との関係を算出してもよく、訓練回数と車両情報の統計値(標準偏差、分散、累積値等)等との関係を算出し、算出した関係に基づいて訓練改善度を算出してもよい。
【0041】
さらに、改善度算出部52は、訓練毎に積算した目標追従時間の変化に基づいて、上記訓練回数と目標追従時間との関係の傾きを訓練改善度として算出しているが、これに限らず、目標追従時間と上限値、中間値、又は下限値との比較結果を訓練改善度として算出してもよく、訓練の改善度合いを示す任意の値、傾向等を算出してもよい。改善度算出部52は、算出した訓練改善度を制御部53に対して出力する。
【0042】
更に、改善度算出部52は、車両情報のうち重心情報に基づいて訓練改善度を算出してもよい。具体的には、改善度算出部52は、搭乗者の重心位置の移動速度を所定値と比較することで訓練改善度を算出してもよいし、搭乗者の重心位置の移動加速度を所定値と比較することで訓練改善度を算出してもよい。また、改善度算出部52は、搭乗者の重心位置の移動速度や移動加速度が所定の危険基準値を上回ったときは、搭乗者が想定以上にバランスを崩しているとして、訓練を終了させるべき旨の訓練終了信号を制御部53に出力するように構成してもよい。
【0043】
(制御ゲイン設定部80)
制御ゲイン設定部80は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定する。例えば、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、訓練の上達度合いが大きいと判断したとき(訓練改善度が高い場合)、倒立制御の制御ゲインを減少させて、小さな走行操作で、旋回等の運動を微調整可能とする。また、この場合、旋回するには大きな力もしくは力を掛ける時間を長くする必要が生じるようになる。一方、制御ゲイン設定部80は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、訓練の上達度合いが小さいと判断したとき(訓練改善度が低い場合)、倒立制御の制御ゲインを増大させて、小さな走行操作で大きく旋回等できるようにする。
【0044】
(抵抗力設定部81)
抵抗力設定部81は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、コイルばね15L、15Rによる抵抗力を設定する。例えば、抵抗力設定部81は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、訓練の上達度合いが大きいと判断したとき(訓練改善度が高い場合)、コイルばね15L、15Rによる抵抗力を低くして、俊敏な操作ができるようにする。一方、抵抗力設定部81は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、訓練の上達度合いが小さいと判断したとき(訓練改善度が低い場合)、コイルばね15L、15Rによる抵抗力を高くして、操作ミスに起因した行き過ぎた操作を抑制するようにする。端的に言えば、訓練改善度に基づいて搭乗者の操作時における負荷を増減しようとするものである。
【0045】
(懸垂力設定部82)
懸垂力設定部82は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、懸垂装置73の懸垂力を設定する。懸垂力は、例えば、0又は一定の値、或いはその他の変動する値である。例えば、懸垂力設定部82は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、訓練の上達度合いが大きいと判断したとき(訓練改善度が高い場合)、懸垂装置73の懸垂力を低めに設定し、搭乗者の動きをなるべく妨げないようにする。一方、懸垂力設定部82は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて、訓練の上達度合いが小さいと判断したとき(訓練改善度が低い場合)、懸垂装置73の懸垂力を高めに設定し、搭乗者を強い力で釣り上げることで、搭乗者の不安を和らげる。
【0046】
(制御部53)
制御部53は、上記制御ゲイン設定部80によって設定された制御ゲイン(走行操作の入力に対する実際の制御内容の比)を用いて、訓練モードにおける倒立状態の安定性を制御する。また、制御部53は、抵抗力設定部81によって設定された設定値(抵抗力の設定値)に基づいてコイルバネ保持装置74を制御し、懸垂力設定部82によって設定された設定値(懸垂力の設定値)に基づいて懸垂装置73を制御する。
【0047】
このように、訓練習熟度に応じて制御ゲインや抵抗力、懸垂力を極め細やかに増減することで、搭乗者の訓練習熟度の変動に応じた最も適切な訓練を実現することが可能となっている。
【0048】
(作動)
次に、本実施形態1に係る訓練システムによる訓練方法について図4を参照しつつ詳細に説明する。先ず、姿勢センサ2や荷重センサ71、回転センサ3は、上記の車両情報を検出し、記憶部51は、訓練毎に、移動体1の移動加速度、移動速度、移動量、姿勢センサ2により検出された姿勢情報、回転センサ3により検出された各車輪7L、7Rの回転情報、荷重センサ71により検出された重心情報などの車両情報を夫々記憶する(ステップS301)。
【0049】
次に、改善度算出部52は、訓練毎に、記憶部51に記憶された車両情報に基づいて訓練改善度を算出し(ステップS302)、制御ゲイン設定部80、抵抗力設定部81、懸垂力設定部82に対して出力する。
【0050】
制御ゲイン設定部80は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて制御ゲインを設定し(ステップS303)、制御部53に対して出力する。同様に、抵抗力設定部81は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて抵抗力を設定し、懸垂力設定部82は、改善度算出部52が算出した訓練改善度に基づいて懸垂力を設定する(ステップS303)。
【0051】
制御部53は、抵抗力設定部81が設定した設定値に基づいてコイルバネ保持装置74を制御する(ステップS304)。これにより、上記の設定値が実際にコイルばね15L、15Rの初期圧縮量として反映される。
【0052】
制御部53は、懸垂力設定部82が設定した設定値に基づいて懸垂装置73を制御する(ステップS305)。これにより、上記の設定値が実際に懸垂装置73の懸垂力として反映される。
【0053】
そして、制御部53は、制御ゲイン設定部80が設定した制御ゲインに基づいて、訓練モードにおける倒立状態の安定性を制御する(ステップS306)。
【0054】
以上に、本願発明の好適な実施形態を説明したが、上記実施形態は例えば以下のように変更して実施することができる。
【0055】
上記実施形態では、改善度算出部52が算出した訓練習熟度(上達状況)に基づいて制御ゲイン等を設定することとしたが、これに代えて、他の搭乗者の状態量(心拍や筋力といったバイタル状態)に応じて制御ゲイン等を設定することにしてもよい。
【0056】
また、制御部53は、改善度算出部52から訓練終了信号を受信したら、懸垂装置73に適宜の制御信号を送信することで、ロープ73bの繰り出し長さや懸垂力を適宜に操作して、搭乗者が転倒しても膝を地面で打たないようにしてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態では、本発明をハードウェアの構成として説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、任意の処理を、CPU5aにコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0058】
上述の例において、コンピュータプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0059】
1 移動体
2 姿勢センサ
3 回転センサ
4L、4R 車輪駆動ユニット
5 制御装置
6 車両本体
7L、7R 車輪
10 訓練システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練システムであって、
前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する改善度算出手段と、
前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定する制御ゲイン設定手段と、
を備えることを特徴とする訓練システム。
【請求項2】
請求項1に記載の訓練システムであって、
前記制御ゲイン設定手段は、前記訓練改善度が低い場合は前記制御ゲインを高くなるように、前記訓練改善度が高い場合は前記制御ゲインを低くなるように設定する、
ことを特徴とする訓練システム。
【請求項3】
搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練システムであって、
前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する改善度算出手段と、
前記移動体の走行操作に対して所定の抵抗力を与える抵抗力付与手段と、
前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、前記抵抗力付与手段による前記抵抗力を設定する抵抗力設定手段と、
を備えることを特徴とする訓練システム。
【請求項4】
請求項3に記載の訓練システムであって、
前記抵抗力付与手段は圧縮コイルスプリングである、
ことを特徴とする訓練システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の訓練システムであって、
前記搭乗者の状態量は、前記搭乗者の重心情報を含む、
ことを特徴とする訓練システム。
【請求項6】
請求項5に記載の訓練システムであって、
前記搭乗者の重心情報は、前記搭乗者の重心位置、重心位置の移動速度、重心位置の移動加速度のうち少なくとも何れかを含む、
ことを特徴とする訓練システム。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の訓練システムであって、
訓練時に前記搭乗者を所定の懸垂力で懸垂する懸垂手段と、
前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、前記懸垂手段の前記懸垂力を設定する懸垂力設定手段と、
を備えることを特徴とする訓練システム。
【請求項8】
搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練方法であって、
前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出するステップと、
前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出するステップと、
前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定するステップと、
を含む訓練方法。
【請求項9】
搭乗者が搭乗し倒立状態を維持して走行する移動体に所定動作をさせ、該所定動作に応じて搭乗者が重心移動により前記移動体の走行操作を行うような訓練を実行する訓練プログラムであって、
前記移動体の状態量および搭乗者の状態量のうち少なくとも一方を検出する処理と、
前記検出手段により検出された前記状態量に基づいて、前記訓練の改善度合いを示す訓練改善度を算出する処理と、
前記改善度算出手段によって算出された訓練改善度に基づいて、制御ゲインを設定する処理と、
をコンピュータに実行させる訓練プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−203549(P2011−203549A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71525(P2010−71525)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)