説明

記録媒体、該記録媒体に印刷した印刷物及び該印刷物の真偽判別方法

【課題】 本発明は、記録媒体、該記録媒体に印刷した印刷物及び該印刷物の真偽判別方法に関する。
【解決手段】 基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けられた第一のインク受容層と、該第一のインク受容層上の任意箇所に設けられた第二のインク受容層とを備える記録媒体であって、前記第一のインク受容層は、前記基材全面に染料定着剤を含まない塗工液を塗布して形成し、前記第二のインク受容層は、カチオンイオンを持つ高分子である染料定着剤を任意形状に塗布し、かつ、塗布量が0.01g/m2〜20g/m2である、記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体、該記録媒体に印刷した印刷物及び該印刷物の真偽判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット技術は急成長を遂げ、簡易プリンタから産業用途へと市場を広げている。ここまでインクジェット技術が用途拡大してきた理由は、その機械的に簡便な印刷メカニズムにある。つまり、複雑な工程を経ることなく印刷媒体に対して直接印刷することが可能で、従来の印刷機器のように複雑なギアを組み合わせることも、電子写真方式のように電気的なプロセスを内包する必要もなく、また、インクを吐出あるいは噴射することにより画像を形成するため、印刷媒体とは非接触となる点も大きな要因である。
【0003】
また、インクジェットの印刷速度及び印刷品質の向上により、オフセット印刷やスクリーン印刷等とのコンビネーション印刷が行われるようになっており、記録媒体(インクジェットメディア)やインクへの印刷適性の要求も高まっている。
【0004】
インクジェット印刷用のインクは、吐出機構から粘度を低くした溶剤型又は水溶性のインクが用いられる。特に、汎用(家庭用)のインクジェットプリンタには取扱い易い水溶性インクが多用されてきた。そして、最近では、退光性のよい顔料を色材として用いた顔料系インクも用いられるようになってきたが、依然として水に溶解し、なおかつ、発色性の高い染料系インクが主に用いられている。
【0005】
水溶性インクにより印刷するためのインクジェット記録材料としては、パルプ繊維が積層された原紙上に、非晶質シリカ等の含珪素顔料をポリビニルアルコール等の水溶性バインダーとともに塗工することにより、多孔質のインク吸収層を形成した塗工記録シートがある。
【0006】
しかし、多孔質のインク吸収層を形成した塗工記録シート上に、染料系のインクジェットインクにより印刷すると、染料を含むインクは瞬時にシート内に浸透するため、印刷濃度の低下やにじみ等が発生し、印刷品質が悪くなるという問題があった。
【0007】
そこで、印刷濃度に影響する染料のみをできるだけ塗工記録シート表面に保持して、浸透やにじみを抑制する方法として染料定着剤が用いられている。インクジェットインクの染料はアニオンイオンとして溶解しているため、カチオンイオンを持つ高分子を染料定着剤として用いれば、染料は染料定着剤に吸着されることになる。染料定着剤の添加量を増加すると、染料は塗工記録シート表面近くに定着し、にじみも少なくなる。逆に、染料定着剤の添加量を減少すると染料は塗工記録シート内部に浸透し、平面方向にもにじみが生じる。
【0008】
市販されているインクジェット塗工記録シートは、塗工液に染料定着剤を加えた後、原紙に塗工することでインク吸収層全面に染料定着剤を付与している。染料定着剤を加えた塗工液を塗工したインク吸収層を形成した塗工記録シートに、染料系インクにより印刷すると、染料系インク中の水成分はインク吸収層内に瞬時に浸透するが、染料はインク吸収層表面の染料定着剤に吸着し、そのままインク吸収層表面に残る。また、平面方向におけるにじみも、染料定着剤に染料が吸着することによって防止することができる。その結果、色濃度が高く、にじみの少ないインクドットが形成され、高品質な印刷物が得られることになる。このように、染料定着剤は、製造工程中において、インクジェット塗工記録シートのインク吸収層全面に付与されることになる。
【0009】
また、一般の非塗工記録シートの場合、水性ペンにより文字を書いたときインクがにじまないように、内添サイズ剤を加えて抄紙されている。内添サイズ剤には、ソープ型ロジンサイズ剤、エマルション型ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸等がある。そして、内添サイズ剤は用紙内部を含め、用紙全面に付与されることとなる。
【0010】
また、これらの内添サイズ剤を表面サイズ剤として用いることもある。表面サイズ剤は、一般にはサイズプレスやゲートロールにより紙表面に直接塗工される。そのため、表面サイズ剤は用紙表面全域に付与されることになる。
【0011】
表面又は内添サイズ剤を付与した非塗工記録シートに、インクジェットプリンタで印刷すると、着弾したインク滴の浸透及び滲みが抑制される。この場合は、インク中の水成分だけが浸透した前述のインクジェット塗工記録シートとは異なり、インク成分すべての浸透及び滲みが抑制される。
【0012】
インクジェット塗工記録シート及び非塗工記録シートは、インクの浸透及び滲みを全面においてコントロールすることにより、用紙上のすべての部分において着弾したインク液滴のドットを小さく、また、安定させて、高い印刷品質が得られるように設計されている。そのため、この技術では、用紙の特定の部分において、インクの浸透及び滲みを抑制するということはできない。
【0013】
インクジェット記録方法において、記録画像の耐光性を低下させる原因となっている、記録媒体上に設けられたインク受容層に含有されているカチオン性染料定着剤を含有させることなく、記録画像を形成するインクに耐水性を付与すると共に、インク受容層にインクを定着させることができ、記録画像の耐光性、画質及び保存性を向上した記録媒体及びこれを用いた記録物、並びに記録方法が従来技術として知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
この記録媒体は、インク受容層に付着したインクを、皮膜化した表面層により覆うことができるため、当該インクが空気中の酸素と接触することを防止することができ、また、支持体上に形成され、かつ、インク受容層にカチオン性染料定着剤が含まれていないため、このカチオン性染料定着剤の存在に起因する耐光性の低下が生じることがなく、耐光性を向上することもできることになる。
【0015】
ところで、近年、パーソナルコンピュータやカラースキャナ等の普及に伴い、偽造防止対策が施された各種印刷物等から画像情報をスキャナで取り込み、画像処理を行った後に、インクジェットプリンタで比較的簡単に複写物(偽造品)が得られ、外観的には真正品と見分けがつきにくくなってきており、新たな偽造防止の必要性が問題となっている。
【0016】
貴重印刷物等が市場に出回った際、これらの印刷物が真正品であるということを特定できることが好ましく、偽造印刷物が出回った場合に、この偽造印刷物に使用された用紙を何らかの手段で分析し、用紙の出所を特定できる機能を有しているか否かを特定できれば、偽造に対して抑止力が働き、真偽を迅速に判別することができることになる。
【0017】
そこで、偽造問題への対応策として、製品に目に見えない何らかの情報を付与し、物理的又は化学的手段でこれを検知することで真偽を判別する技術が種々提案されている。例えば、蛍光繊維を紙に抄き込み、紫外線を照射することで紙中の蛍光繊維の発色を検知できる偽造防止用紙(特公昭56−16238号公報)に代表されるように、機能性材料を用いる従来技術があるが、これらは、比較的容易であるため、偽造防止効果が低いという問題があった。
【0018】
また、基材の片面に一層以上のインク受容層が塗設されたインクジェット記録媒体において、該基材として、該インク受容層の非塗設面側に、厚みを部分的に変化させてなる透かし模様が形成された紙を用いることで、画質低下を防止し、幅広い印刷用途に用いられるインクジェット記録媒体が従来技術として知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2002−326449号公報
【特許文献2】特開2005−169792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、インク受容層に含有されているカチオン性染料定着剤が記録画像の耐光性を低下させる原因となっている点を解決するために、インク受容層にカチオン性染料定着剤を含有させないものであり、カチオン性染料定着剤を後で付与するものではない。
【0021】
特許文献2に開示されている技術は、インク受容層の非塗設面側に透かし模様を形成し、塗設面側にインク受容層を塗設したインクジェット記録媒体であり、インクジェット画像を印刷した場合でも、異色の境界部分で色が滲んだり不均一に混ざり合う現象が見られず、良好な画質が得られるもので、これは、カチオン性物質(インク定着剤)がインク受容層全体に含有されているからである。
【0022】
従来の技術は、それなりに特徴があるが、常に偽造されない技術が必要となっているのが現状である。上記詳述した従来技術において、本発明が解決する課題の対象となる、印刷時の記録媒体へのインク等の転移状態や浸透におけるインクの定着挙動における以下のような特徴を持つ新規な技術に適用できるようなものは、従来技術には開示されていない。
【0023】
すなわち、第一に、塗工記録シートにおける染料定着剤や非塗工記録シートにおけるサイズ剤を、支持体上全面に付与するのではなく、支持体上の任意個所に、付与する又は付与しない領域を設けた記録媒体であり、この領域は、目に見えない情報部分となっており、印刷することで現出可能となること。
【0024】
第二に、付与する又は付与しない情報部分は、塗工記録シートの状態では肉眼で確認することはできないが、水性のインクジェットインク、特に染料型インクにより、塗工記録シート全面又は少なくとも染料定着剤を付与した情報部分の一部を含んだ部分又は非塗工記録シート全面又は少なくともサイズ剤を付与した情報部分の一部を含んだ部分にインクジェット印刷すると、染料定着剤又はサイズ剤を付与した部分と付与していない部分のインクドットの形状及び浸透状態に違いが生じることにより、付与した部分は色濃度の異なる画像として現出するため、肉眼でその現出した画像を読み取ることで真偽判別方法に利用することができること。
【0025】
第三に、スキャナ等で印刷物を読み取り、画像処理し、インクジェットプリンタ等で複製物を得る偽造等に対しては、複製物に対して、真正品に付与されている情報部分の任意個所にあたる部分を、光学顕微鏡又は共焦点レーザ顕微鏡(CLSM)により観察することで真偽判別することができること。つまり、本発明の、染料定着剤又はサイズ剤を任意個所に付与した記録媒体では、染料定着剤又はサイズ剤の有無により、インクドットの形状及び浸透状態が異なるのに対して、通常の記録媒体への偽造による複製物では、情報を付与した部分と付与していない部分のインクドットの形状は同じであることと、その結果、印刷物の色濃度を真正品と同様にするために、色濃度を変える目的でインクドットの数を増減させているため、インクドットの形状と数から容易に真偽判別することが可能であること。
【0026】
本発明は、上記第一乃至第三に記載された真偽判別効果を有する記録媒体、該記録媒体に印刷した印刷物及び該印刷物の真偽判別方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は、基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けられた第一のインク受容層と、該第一のインク受容層上の任意箇所に設けられた第二のインク受容層とを備える記録媒体であって、前記第一のインク受容層は、前記基材の全面又は一部に染料定着剤を含まない塗工液を塗布して形成し、前記第二のインク受容層は、カチオンイオンを持つ高分子である染料定着剤を任意形状に塗布し、かつ、塗布量が0.01g/m2〜20g/m2である、記録媒体である。
【0028】
本発明は、基材と、該基材の少なくとも一方の面の任意箇所に設けられた第二のインク受容層とを備える記録媒体であって、前記基材は、サイズ剤を含まないで形成された第一のインク受容層であり、前記第二のインク受容層は、撥水性樹脂であるサイズ剤を任意形状に塗布し、かつ、塗布量が0.1g/m2〜10g/m2である、記録媒体である。
【0029】
また、本発明は、前記第二のインク受容層の前記染料定着剤又は前記サイズ剤は、噴射方式又は接触方式により塗布する、記録媒体である。
【0030】
また、本発明は、前記記録媒体の全面又は少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ部分に印刷又はインクジェット印刷を施して成る、印刷物である。
【0031】
本発明は、前記記録媒体の全面又は少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ部分に印刷された印刷物の真偽判別方法であって、光学顕微鏡を用いて、前記印刷された記録媒体の表面を撮影し、前記撮影された画像から、インクの受容特性が異なる前記記録媒体の第一のインク受容層と第二のインク受容層とに印刷されたインクドットの広がり又は滲みの形状を測定し、前記測定した結果を、あらかじめ記憶されているインクドットの広がり又は滲みの形状と比較し、前記インクドットの広がり又は滲みの形状が一致する場合は真正品、一致しない場合は偽造品と判定する、印刷物の真偽判別方法である。
【0032】
本発明は、前記記録媒体の全面又は少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ部分に印刷された印刷物の真偽判別方法であって、共焦点レーザ走査顕微鏡を用いて、前記印刷された記録媒体の表面にレーザ光を走査し、前記走査光により、前記記録媒体上に形成された前記第二のインク受容層に印刷されたインクドットのインクから発する蛍光を検出器により検出し、前記検出した蛍光の分布として前記インクドットの広がり又は滲みの形状を観察し、前記観察結果を、あらかじめ記憶されている蛍光の分布としてインクドットの広がり又は滲みの形状と比較し、前記インクドットの広がり又は滲みの形状が一致する場合は真正品、一致しない場合は偽造品と判定する、印刷物の真偽判別方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、塗工記録シートにおける染料定着剤や非塗工記録シートにおけるサイズ剤を、支持体上全面に付与するのではなく、支持体上の任意個所に、染料定着剤又はサイズ剤を塗布し、塗布した部分が情報を持たせた部分として付与する又は情報を持たせた部分として付与しないようにした記録媒体であるので、この記録媒体全面又は少なくとも染料定着剤又はサイズ剤を付与した情報部分の一部を含んだ部分にインクジェット印刷又は他の方法で印刷をすると、染料定着剤又はサイズ剤を付与した部分と付与していない部分のインクドットの形状及び浸透状態を制御することができ、支持体上に付与された情報部分を画像として現出させる効果となり、印刷されたインクドットの形状及び浸透状態の違いから、肉眼でその現出した画像を読み取ることが可能となり、真偽判別方法に利用することができる。
【0034】
また、スキャナ等で印刷物を読み取り、画像処理し、インクジェットプリンタ等で複製物を得る偽造等に対しては、情報の付与されている部分を光学顕微鏡又は共焦点レーザ顕微鏡(CLSM)により観察することで、その印刷物が偽造による複製物であるか否かの真偽判別が可能となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1の塗工記録シートにおける第二のインク受容層として付与した情報を示す。
【図2】本発明の実施例2の印刷物を、光学顕微鏡により観察した画像を示す。
【図3】本発明の実施例2の印刷物を、共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した塗工記録シート表面付近の蛍光像を示す。
【図4】本発明の実施例3の印刷物を、光学顕微鏡により観察した画像を示す。
【図5】本発明の実施例3の印刷物を、共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した非塗工記録シート表面付近の蛍光像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる発明を実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている技術の範疇であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0037】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施例1の塗工記録シートにおける第二のインク受容層として付与した情報を示す図である。図2は、本発明の実施例2の印刷物を、光学顕微鏡により観察した画像を示す図である。図3は、本発明の実施例2の印刷物を、共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した塗工記録シート表面付近の蛍光像を示す図である。図4は、本発明の実施例3の印刷物を、光学顕微鏡により観察した画像を示す図である。図5は、共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した非塗工記録シート表面付近の蛍光像を示す図である。
【0038】
本発明において、基材表面に、染料定着剤を含まない塗工液を全面又は一部に塗布し、乾燥させて形成したインク吸収層を第一のインク受容層と定義する。また、サイズ剤を含まないで製造した非塗工記録シートの表面を第一のインク受容層と定義する。染料定着剤を含まない塗工液を全面又は一部に塗布し、乾燥させて形成したインク吸収層である第一のインク受容層上にカチオンイオンを持つ高分子である染料定着剤を任意形状に塗布して形成した情報部分を第二のインク受容層と定義する。また、サイズ剤を含まないで製造した非塗工記録シートの表面である第一のインク受容層上に撥水性樹脂であるサイズ剤を任意形状に塗布して形成した情報部分を第二のインク受容層と定義する。
【0039】
本発明では、印刷することにより、肉眼で見えなかった第二のインク受容層が現出し、画像として視認できるようにした記録媒体である。また、本発明の記録媒体は、第一のインク受容層と第二のインク受容層とでインクの受容特性が異なるように構成しているので、印刷を施すと、第一のインク受容層部分と第二のインク受容層部分とで濃度差が生じ、基材上に付与された第二のインク受容層部分が画像として現出し、肉眼でその現出した画像を観察することができる。また、インクの浸透状態やインクドットの形状に差が生じるので、顕微鏡等で観察することで、容易に真偽判別することが可能となるものである。
【0040】
本発明に係る記録媒体は、基材表面に、染料定着剤を含まない塗工液を全面に塗布して塗工紙として、その塗工紙の表面上の任意箇所に、染料定着剤を任意形状に塗布して形成した記録媒体又は内添サイズ剤や表面サイズ剤を含まない非塗工記録シートの表面上の任意箇所に、サイズ剤を任意形状に塗布して形成した記録媒体であり、この記録媒体を目視した場合には、任意形状に塗布された染料定着剤又はサイズ剤は観察されない記録媒体である。
【0041】
本発明の記録媒体の第二のインク受容層の全部又は一部を含んだ部分に、インクジェット印刷、フレキソ、凸版又はオフセット印刷等の一般に公知の印刷を施すと、染料定着剤又はサイズ剤を付与した第二のインク受容層部分と付与していない第一のインク受容層部分とで、印刷インクの浸透状態やインクドットの形状(大きさと滲み具合)の差によるコントラストの違いが生じて、染料定着剤又はサイズ剤で付与した任意形状が現出する。
【0042】
つまり、本発明の記録媒体は、染料定着剤を含まない塗工液を基材全面に塗布した第一のインク受容層又はサイズ剤を含まないで製造された基材表面の第一のインク受容層と、該第一のインク受容層上の任意箇所に、染料定着剤又はサイズ剤で任意形状の第二のインク受容層を形成している記録媒体である。この記録媒体の第二のインク受容層の全部又は一部を含んだ部分に、インクジェット印刷又は他の方法で印刷をすると、ノズルから噴射したインク滴又は印刷版面上のインクによるドットは、記録媒体の染料定着剤を含まない又はサイズ剤を含まない第一のインク受容層部分と、染料定着剤を含んだ又はサイズ剤を含んだ第二のインク受容層部分とに着弾又は印刷され、第二のインク受容層部分ではインク成分中の染料が定着され、インクドットが鮮明に滲みがなく形成され、第一のインク受容層部分は、染料定着剤が含まれていない又はサイズ剤が含まれていないので、インクドットは素早く吸収され、インクドット形状を保存することなく、インクが滲んだように広がった状態で浸透していく。本発明においては、このようなインクドットの形状の差を利用するものである。
【0043】
本発明において用いる染料定着剤としては、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリダドマック、ポリアミン又はポリエチレンイミン等のカチオンイオンを持つ高分子であり、かつ、染料定着剤を記録媒体上に任意形状に塗布する塗布量としては0.01g/m〜20g/mである。染料定着剤は、記録画像を形成するインクに耐水性を付与し、かつ、インク受容層にインクを定着させるために塗布するものである。塗工量があまり少ないと、インクの吸収性に問題が生ずるばかりでなく、画像濃度、色彩性、鮮明性が低く、インクが面方向に拡散してギザギザしたドット形状の悪化が発生する。また、塗工量が多すぎると、インクの吸収性の低下、インク色材の析出等による高光沢化現象が発生する。このような観点から、染料定着剤の塗布量としては、肉眼で観察されない塗布量で、製品としての品質を維持できる塗布量の範囲として0.01g/m〜20g/mが好適である。
【0044】
本発明において用いるサイズ剤としては、ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、α-オレフィン/マレイン酸共重合体、フッ素樹脂又はシリコン樹脂等の撥水性樹脂であり、かつ、サイズ剤を記録媒体上に任意形状に塗布する塗布量としては0.1g/m〜10g/mである。非塗工記録シートの表面にパルプ繊維の全面を覆うことなく、撥水性を有する樹脂性のサイズ剤を塗布するものであり、サイズ剤の塗布量としては、肉眼で観察されない塗布量で、製品としての品質を維持できる塗布量の範囲として0.1g/m〜10g/mが好適である。
【0045】
染料定着剤又はサイズ剤は、インクジェット方式の印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、スプレー(マスキング必要)による噴霧方式又は接触方式により任意形状に塗布するか又は任意形状以外の部分に塗布する。塗布方法としては、意図する任意形状を表せる方法であるなら、これらにこだわらずどのような方法でもよい。
【0046】
本発明に係る印刷物の真偽判別方法としては、印刷物を光学顕微鏡又は共焦点レーザ走査型顕微鏡で観察した際に、記録媒体を構成する基材全面に染料定着剤を含まない塗工液を塗布した第一のインク受容層又はサイズ剤を含まないで製造された記録媒体の第一のインク受容層部分と、第一のインク受容層上の任意箇所に、染料定着剤又はサイズ剤で任意形状に塗布した第二のインク受容層部分とにおいて、印刷によるインクドットの浸透状態や形状(大きさと滲み具合)に差が生じているかどうかを確認することで真偽判別するものである。
【0047】
塗工記録シートの塗工層に含まれる顔料としては特に限定しないが、市販の顔料、例えば、シリカ、カオリン、クレー又は炭酸カルシウム等、一般に塗工紙の分野で公知の各種顔料が挙げられる。これらの顔料の中でもインク受容層を製造する場合は、特に、シリカ、水酸化アルミニウム又はアルミナ等の細孔容積が大きく、インク吸収性が良いものが好適に用いられる。また、顔料の平均粒径は、1μm以下であるとインク吸収性に優れ、透明性、光沢性にも優れるインク受容層が得られる。特に、シリカは細孔容積が大きいため最も適している。
【0048】
また、非塗工記録シートにおいては、パルプ懸濁液に内添サイズ剤を加えないで製造したものを記録媒体とし、この記録媒体の任意箇所に、サイズ剤で第二のインク受容層部分を形成するものである。
【実施例1】
【0049】
本発明に係わる記録媒体及び印刷物の一実施例を以下に説明する。
本発明の実施例1に係わる記録媒体を説明する。実施例1に係る記録媒体は、染料定着剤を含まない塗工液を全面に塗布して塗工紙とし、その塗工紙の表面上の任意箇所に染料定着剤を任意形状に塗布して形成した記録媒体を作製する。染料定着剤を含まない塗工液の一例は、以下のような配合である。
シリカ 10g
0.06%ポリアクリル酸ナトリウム 25g
蒸留水 60g
10%PVA水溶液 45g
【0050】
上記配合の染料定着剤を含まない塗工液を、基材である原紙の片面又は両面上に、公知の方法、例えば、ロールコーター、ブレードコーター又はサイズプレス等の各種塗工装置を用いてオンマシン又はオフマシンで常法通りに行うことにより全面に塗布し、乾燥させて形成したインク吸収層を形成し、このインク吸収層を第一のインク受容層と定義する。
【0051】
第一のインク受容層上の任意箇所に、染料定着剤を任意形状に塗布することで情報部分を形成する。この情報部分を第二のインク受容層と定義する。第二のインク受容層として付与する情報部分の任意形状としては、文字や図柄等を任意に形成することで、目視による識別が不可能となるが、印刷時にインクが付着することで、第一のインク受容層と第二のインク受容層とでインクドットの形状及び浸透状態の違いとして現出し、肉眼で判別が可能となればよい。
【0052】
第一のインク受容層上に、染料定着剤として、カチオンイオンを持つ高分子の一つである3%PAE(ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂)水溶液をインクジェット方式により任意形状に塗布し、乾燥させて第二のインク受容層を形成することで、用紙表面のインク受容層上に第二のインク受容層を形成した記録媒体(以下、塗工記録シートという。)を作製する。
【0053】
図1(a)は、第一のインク受容層上に、第二のインク受容層を付与した塗工記録シートを示す図である。塗工記録シートの右下部に、第二のインク受容層として、3%PAE水溶液の染料定着剤で“Printing Bureau”という情報を付与した(図は、模式的に示したもので、実際には付与した情報は肉眼では見えず、一様なシートとして観察される)。図1(b)に図1(a)のX−X’断面図を示す。
【0054】
図1(c)に示すように、塗工記録シートの全面にインクジェット印刷した時に、インクが第二のインク受容層上及び第一のインク受容層上に付着することで、3%PAE水溶液で“Printing Bureau” という情報が付与されている第二のインク受容層上と第一のインク受容層上へのインクドットの浸透及び滲みの違いが生じることにより、第二のインク受容層の情報としての“Printing Bureau”が、第一のインク受容層部分の印刷部分と色濃度が異なって形成されるため、肉眼で認識可能な画像として視認(現出)され、肉眼でその情報が視認できるか否かによって真偽判別方法に利用することができる。
【0055】
上記のように作製した塗工記録シートは、肉眼で観察した場合には、第一のインク受容層と第二のインク受容層から形成されていることを判別することはできない。そのため、“Printing Bureau”の情報を肉眼で読み取ることはできない。この状態の塗工記録シートにおいて、第一のインク受容層と第二のインク受容層とを判別する方法としては、四酸化オスミウムで気相化学修飾すると、四酸化オスミウムが選択的に第二のインク受容層のPAEに付加して、その部分が黒く変色するため、“Printing Bureau”の情報が現出する。しかし、この方法を用いた場合は、塗工記録シートは部分的に変色するため、印刷用紙としては利用できない。
【0056】
次に、上記のように作製した塗工記録シートに、一般に公知の染料型インクを用いて、インクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)で塗工記録シート全面に印刷を施して印刷物を得ることで、簡易的に真偽判別する方法を示す。得られた印刷物は、染料定着剤が含まれていない第一のインク受容層では、定着層がないため素早く染料は浸透してしまうので色濃度が薄く、染料定着剤を塗布した第二のインク受容層では染料は染料定着剤に付加して色濃度が濃くなるため、第二のインク受容層として付与した情報 “Printing Bureau”が現出するのを肉眼で観察することができる。このようにして、簡易的に、印刷物が真正であるか否かを判別することが可能となり、真正な塗工記録シートを用いているか否かが証明される。
【0057】
また、少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ塗工記録シートの一部領域に印刷を施した場合においては、第二のインク受容層を、情報として読み取ることはできないが、第二のインク受容層の一部に印刷されたインクドットの浸透及び滲み状態を、第一のインク受容層の印刷部分と比較すると、印刷部分の色濃度が異なって観察されることで、真偽判別することが可能となる。
【実施例2】
【0058】
実施例2は、実施例1において得られた、情報を付与した印刷物を、装置を用いて真偽判別する方法の一例を示す。情報を付与した印刷物の真偽判別を行うために、光学顕微鏡又は共焦点レーザ走査型顕微鏡(以下、CLSMという。)を用いて、塗工記録シートに印刷されたインクドットの形状観察及びインクの浸透挙動を観察する。
【0059】
最初に、光学顕微鏡による真偽判別方法を示す。図2は、インクドットの広がり又は滲みを光学顕微鏡により観察した結果を示した図である。第一のインク受容層(1)ではインクドットの広がりが大きく、インクドットは不鮮明となり、第二のインク受容層(2)ではインクドットの広がりが小さく、インクドットは鮮明となっているのが観察される。
【0060】
比較として、全面に染料定着剤が塗布された通常の塗工記録シートを用いて同様に行った。一般的なインクジェット記録方式においては、記録媒体に求められる一般的な特性の一つとして、記録(ドット)濃度が高く、画素のドットが真円に近いことが望まれるので、支持体上のインク受容層として、支持体面でのインク滴の広がりを小さくし、ドットの広がりを抑制する、染料定着剤等を添加している。
【0061】
この場合においては、全面に染料定着剤が塗布されているので、情報を付与した部分も他の部分も同様に、印刷されたインクドットが吸収されるので、付与した情報“Printing Bureau”は現出しない。そこで、付与した情報“Printing Bureau”を現出させるように偽造するためには、付与した情報“Printing Bureau”が現出した真正印刷物をまずスキャナにより取り込み、得られたデータを画像処理した後 “Printing Bureau”の文字を印刷によって表すことになる。しかし、この場合における“Printing Bureau”の文字の部分とそれ以外の部分とでは、すべてのインク滴は基材全面に塗布された染料定着剤に付加するため、インクドットの形状及び浸透状態に違いは生じない。そこで、インクドットの着弾数を変えて色濃度を同様にしているために、結果的に、偽造した印刷物は文字の部分の色濃度を変えるためにインクドットの数が異なった印刷物となる。つまり、インクドットを拡大して観察することによって、得られた印刷物の真偽判別が可能となる。
【0062】
次に、CLSMによる真偽判別法を示す。CLSM(ライカマイクロシステムズ社製「TCS SP5」)では、インクドットの浸透状態を観察することができる。まず、CLSMの検出原理を説明する。第1にレーザ光を試料面に走査し、反射した正反射光と蛍光からビームスプリッターを用いて正反射光を除去し、蛍光だけを通過させる。第2に得られた蛍光は、ピンホールを通して検出器に導入される。その結果、焦点の合っている場所からの蛍光はピンホールを通過するが、焦点の合っていない場所からの蛍光は、ピンホールを通過できないため、焦点の合った部分だけの蛍光画像を得ることができる。
【0063】
CLSMの検出原理で説明したように、励起光に対して蛍光を放出しないとCLSMではインクドットを観察することはできない。実施例1で用いたインクジェットプリンタの染料型インクには、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックが用いられるが、励起波長488nmのレーザによる励起では、シアンとブラックは蛍光を全く放出せず、イエローはわずかな蛍光しか示さないが、マゼンタは強い蛍光を示す。そこで、励起波長488nm、検出波長550〜650nmとし、全測定波長で蛍光が飽和しないように感度を調整した。
【0064】
ここで、印刷に用いたインクジェットプリンタの染料型インクは、市販のインクジェットプリンタ用染料型インクを用いているが、製造会社により特化された製造方法であるが、一般にインクジェット用インクには製造工程で既に蛍光染料が配合されているものが多く、そのため、CLSMで観察した場合、インクの持つ蛍光を観察することができる。マゼンタインクは確実に蛍光を発光し、イエロー及びシアンのインクは蛍光を持っているものと持っていないものとがあり、ブラックは蛍光を持っていない。染料型マゼンタインクが蛍光発光することは、インクの励起‐蛍光特性を、分光蛍光光度計を用いて蛍光測定又はCLSMを用いてスペクトル測定をすることにより確認することができる。
【0065】
図3は、CLSMにより観察した、表面付近の共焦点平面画像である。図3は、モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。塗工記録シート表面に印刷されたインクドットは、着弾したインク滴の数の分布としてインクのマゼンタ及び/又はイエローが蛍光を発して現出し、染料定着剤が付与された第二のインク受容層(2)では、塗工記録シート表面に分布するインクドットが蛍光を発してはっきり形成されていたのに対し、染料定着剤が付与されていない第一のインク受容層(1)では、塗工記録シート表面に分布するインクドットの形状は、滲みや広がりが生じて不鮮明である。また、図には示していないが、塗工記録シートの深さ方向に連続して焦点をずらして得られた共焦点平面画像から、インクが用紙内部まで深く浸透していることが確認できた。
【0066】
比較として、先に光学顕微鏡による真偽判別をするために作製した印刷物を用いてCLSMにより観察した。印刷濃度を変えて印刷することにより情報を付与した場合には、情報の付与した部分と付与していない部分とではインクドットの浸透性は同じであるため、実施例1で作製した、本発明の塗工記録シートと容易に識別でき、有効な真偽判別法となる。
【実施例3】
【0067】
実施例3は、サイズ剤を含まない非塗工記録シートを作製し、この非塗工記録シートの表面上の任意箇所に、サイズ剤を任意形状に塗布して任意画像を形成した記録媒体を作製する。
【0068】
サイズ剤を含まない非塗工記録シートの一例として、広葉樹クラフトパルプをこう解後、硫酸アルミニウム0.5%及び白土2.0%を添加し、JIS P 8209(試験用手漉きシートの作成法)に従って非塗工記録シートを作製する。
【0069】
作製したサイズ剤を含まない非塗工記録シート表面を第一のインク受容層と定義し、第一のインク受容層上に、サイズ剤を任意形状に塗布して形成した部分を第二のインク受容層と定義する。
【0070】
非塗工記録シート上に、サイズ剤としてマレイン化強化ロジンサイズ剤1%水溶液をインクジェット方式により任意形状に塗布し、乾燥させて第二のインク受容層を形成し、非塗工記録シート表面である第一のインク受容層上に第二のインク受容層を形成した記録媒体(以下、非塗工記録シートという。)を作製する。実施例1と同様に、非塗工記録シートの右下部に、第二のインク受容層として“Printing Bureau”の情報を付与した。
【0071】
上記のように作製した非塗工記録シートは、肉眼で観察した場合には第一のインク受容層と第二のインク受容層を判別することはできない。この状態の非塗工記録シートにおいて、第一のインク受容層と第二のインク受容層を判別する方法としては、四酸化オスミウムで気相化学修飾すると、四酸化オスミウムが選択的に第二のインク受容層のマレイン化強化ロジンサイズ剤に付加し、その部分が黒く変色するため、“Printing Bureau”の情報が現出する。しかし、この方法を用いて判別した非塗工記録シートは部分的に変色するため、印刷用紙としては利用できない。
【0072】
次に、上記のように作製した非塗工記録シートに、一般に公知の染料型インクを用いて、インクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)で非塗工記録シート全面に印刷を施して印刷物を得ることで、真偽判別する方法を示す。得られた印刷物は、サイズ剤が含まれていない第一のインク受容層では、インクの吸収性が低下しているので染料は素早く浸透してしまうので色濃度が薄く、サイズ剤を塗布した第二のインク受容層では色濃度が濃くなるため、第二のインク受容層として付与した情報 “Printing Bureau”が現出するのを肉眼で観察することができる。この結果、簡易的に、印刷物が真正であるか否かを判別することが可能となり、真正な非塗工記録シートを用いているか否かが証明される。また、少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ塗工記録シートの一部領域に印刷を施した場合においては、上述した実施例1と同様に真偽判別することが可能となる。
【実施例4】
【0073】
実施例4は、実施例3において得られた、情報を付与した印刷物を、装置を用いて真偽判別する方法の一例を示す。情報を付与した印刷物の真偽判別を行うために、実施例2と同様に、光学顕微鏡又は共焦点レーザ走査型顕微鏡(以下、CLSMという。)を用いて、非塗工記録シートに印刷されたインクドットの形状観察及びインクの浸透挙動を観察する。
【0074】
最初に、光学顕微鏡による真偽判別法を示す。図4は、インクドットの広がり又は滲みを光学顕微鏡により観察した結果を示すものである。第一のインク受容層(1)ではインクドットの広がりと滲みが大きく、インクドットは不鮮明となり、第二のインク受容層(2)ではインクドットの広がりと滲みが小さく、インクドットは鮮明となる。
【0075】
比較として、実施例2と同じく全面にサイズ剤が塗布された通常の非塗工記録シートを用いて同様に行った。この場合においては、全面にサイズ剤が塗布されているので、情報を付与した部分も他の部分も同様に、印刷されたインクドットが形成されるので、付与した情報“Printing Bureau”は現出しない。そこで付与した情報“Printing Bureau”を現出させるように偽造するためには、付与した情報“Printing Bureau”が現出した真正印刷物をまずスキャナにより取り込み、得られたデータを画像処理した後 “Printing Bureau”の文字を印刷によって表すことになる。しかし、この場合における“Printing Bureau”の文字の部分とそれ以外の部分とでは、すべてのインク滴は塗布されたサイズ剤に付加するため、インクドットの形状及び浸透状態に違いは生じない。そこで、インクドットの着弾数を変えて色濃度を同様にしているために、結果的に、偽造した印刷物は文字の部分の色濃度を変えるためにインクドットの数が異なった印刷物となる。つまり、インクドットを拡大して観察することによって、得られた印刷物の真偽判別が可能となる。
【0076】
次に、CLSMによる真偽判別法を示す。図5は、サイズ剤を塗布していない第一のインク受容層とサイズ剤を塗布した第二のインク受容層との境目の表面付近におけるCLSMによる共焦点平面画像である。モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。サイズ剤が付与された第二のインク受容層(2)では、非塗工記録シート表面に印刷されたインクドットのインクから蛍光を発し、着弾したインク滴の数の分布として現出し、インクドットがはっきり形成されているのに対し、サイズ剤が付与されていない第一のインク受容層(1)では、非塗工記録シート表面のインクドットの形状は、滲みや広がりが生じて不鮮明であり、図には示していないが、非塗工記録シートの深さ方向に連続して焦点をずらして得られた共焦点平面画像から、インクが用紙内部まで深く浸透していることが確認できた。
【0077】
比較として、先に光学顕微鏡による真偽判別をするために作製した印刷物を用いてCLSMにより観察した。印刷濃度を変えて印刷することにより情報を付与した場合には、情報の付与した部分と付与していない部分とではインクドットの浸透性は同じであるため、実施例3で作製した、本発明の非塗工記録シートと容易に識別でき、有効な真偽判別法となる。
【0078】
以上、インクジェットプリンタによる印刷の場合を説明してきたが、インクジェット印刷に限らず、一般に公知の印刷方式でも同様の結果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けられた第一のインク受容層と、該第一のインク受容層上の任意箇所に設けられた第二のインク受容層とを備える記録媒体であって、
前記第一のインク受容層は、前記基材全面又は一部に染料定着剤を含まない塗工液を塗布して形成し、
前記第二のインク受容層は、カチオンイオンを持つ高分子である染料定着剤を任意形状に塗布し、かつ、塗布量が0.01g/m2〜20g/m2である、記録媒体。
【請求項2】
基材と、該基材の少なくとも一方の面の任意箇所に設けられた第二のインク受容層とを備える記録媒体であって、
前記基材は、サイズ剤を含まないで形成された第一のインク受容層であり、
前記第二のインク受容層は、撥水性樹脂であるサイズ剤を任意形状に塗布し、かつ、塗布量が0.1g/m2〜10g/m2である、記録媒体。
【請求項3】
前記第二のインク受容層の前記染料定着剤又は前記サイズ剤は、噴射方式又は接触方式により塗布する、請求項1又は2記載の記録媒体。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれかに記載の記録媒体の全面又は少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ部分に印刷又はインクジェット印刷を施して成る、印刷物。
【請求項5】
請求項1、2又は3のいずれかに記載の記録媒体の全面又は少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ部分に印刷された印刷物の真偽判別方法であって、
光学顕微鏡を用いて、前記印刷された記録媒体の表面を撮影し、
前記撮影された画像から、インクの受容特性が異なる前記記録媒体の第一のインク受容層と第二のインク受容層とに印刷されたインクドットの広がり又は滲みの形状を測定し、
前記測定した結果を、あらかじめ記憶されているインクドットの広がり又は滲みの形状と比較し、
前記インクドットの広がり又は滲みの形状が一致する場合は真正品、一致しない場合は偽造品と判定する、印刷物の真偽判別方法。
【請求項6】
請求項1、2又は3のいずれかに記載の記録媒体の全面又は少なくとも第二のインク受容層の一部を含んだ部分に印刷された印刷物の真偽判別方法であって、
共焦点レーザ走査顕微鏡を用いて、前記印刷された記録媒体の表面にレーザ光を走査し、
前記走査光により、前記記録媒体上に形成された前記第二のインク受容層に印刷されたインクドットのインクから発する蛍光を検出器により検出し、
前記検出した蛍光の分布として前記インクドットの広がり又は滲みの形状を観察し、
前記観察結果を、あらかじめ記憶されている蛍光の分布としてインクドットの広がり又は滲みの形状と比較し、
前記インクドットの広がり又は滲みの形状が一致する場合は真正品、一致しない場合は偽造品と判定する、印刷物の真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−93143(P2011−93143A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247577(P2009−247577)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】