説明

記録媒体及び記録情報の再生方法

【課題】さらなる大容量化を実現可能とする記録媒体及び記録情報の再生方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の記録媒体10は、基体11と、この基体11に設けられる複数の記録部12とを備え、この記録部12は複数の記録層14〜16を積層してなり、複数の記録層14〜16は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体及び記録情報の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD−R/RW等の記録媒体は一般に、記録ピットと、これと異なる反射率を有するランドとを有しており、記録媒体に含まれる記録情報を再生する場合には、記録ピット及びランドに対して再生用レーザー光を照射し反射光を検出することにより、記録媒体に含まれる記録情報の再生が行われる。
【0003】
この記録媒体においては、記録ピット又はランドに対しては0又は1の2ビットの情報が割り当てられている。
【0004】
しかし、近年の情報量の増加に伴い、記録媒体の更なる大容量化が求められている。容量を増加させるために記録ピットの小型化が進んでいるが、記録ピットの小型化は記録時に集光するレーザービーム径の関係から限界に近づいており、記録媒体の大容量化は難しくなってきている。
【0005】
このような状況の下、記録部に有機色素を用い、記録用レーザービームの照射による変質度により反射率を多段階(例えば8段階)に規定した光記録媒体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この光記録媒体によれば反射率が多段階に規定されている。このため、段階の数に基づいて1つの記録部あたりに割り当てられるビット数を増加させることができるため、容量を増加させることができる。
【特許文献1】特開2002−367172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、上述した特許文献1に記載の記録媒体に以下の課題があることを見出した。
【0007】
すなわち、上記特許文献1に記載の光記録媒体によれば、反射率の値を多段階に分けて規定することによって、容量の増加が可能になるものの、大容量化が求められる現在においては容量の増加は未だ十分とは言えない。また、容量を更に増加させる場合には反射率をより多段階に規定すればよいが、反射率を多段階に規定するためには、レーザービームの照射による変質度の微妙な制御が必要になる。しかし、このような変質度の微妙な制御は困難であるため、反射率をより多段階に規定することは困難であり。記録媒体のさらなる大容量化には限界がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、さらなる大容量化を実現可能とする記録媒体及び記録情報の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の記録媒体は、基体と、基体に設けられる複数の記録部とを備え、この記録部は複数の記録層を積層してなり、複数の記録層は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録していることを特徴とする。
【0010】
本発明の記録媒体によれば、記録部における記録層を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層当たりに割り当てられるビット数を大幅に大きくすることが可能となる。同様にして、同じ記録部における記録層又は異なる記録部における記録層について次々と元素分析を行うことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして本発明の記録媒体により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、本発明の記録媒体によれば、大容量化を実現することが可能となる。なお、本発明において、飛散物には粉体の他、ガスも含まれる。
【0011】
上記記録媒体においては、記録部が断熱材を含有する断熱層を更に有し、記録層と断熱層とが交互に積層してなることが好ましい。
【0012】
この記録媒体によれば、記録部に含まれる各記録層に記録された情報を再生すべく、記録層が粉砕される場合に、当該記録層に隣接する断熱層まで粉砕されると、元素分析により断熱層まで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この断熱層を粉砕すると、元素分析により当該断熱層に隣接する記録層に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層の粉砕が開始されたことを知ることができる。また、上記断熱層は、断熱材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層を粉砕する場合でも、断熱層の存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層にまで伝導することが十分に防止される。したがって、この記録媒体によれば、各記録部が複数の記録層を有する場合であっても、各記録層を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。従って、記録層ごとに、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0013】
上記記録媒体においては、基体が複数の凹部を有し、この凹部に上記記録部が収容されていることが好ましい。この場合、記録部が基体の凹部に収容されているため、基体が凹部で周辺物と接触しても、記録部と周辺物との接触が十分に防止される。従って、記録部と周辺物との接触による記録部へのコンタミネーションの付着が十分に防止され、記録部が有する記録層に含まれている情報を的確に再生することができる。
【0014】
上記記録媒体においては、複数の記録層が少なくとも1つの共通する元素を含有することが好ましい。複数の記録層が少なくとも1つの共通の元素を含有することによって、より的確なデータを得ることができる。すなわち、複数の記録層について元素分析を行った結果、複数の記録層に共通する元素間で重量差が生じたとしても、その重量差を小さくする補正を行うことにより、記録層に含まれている情報をより的確に再生することができる。
【0015】
上記記録媒体においては、基体に含まれる元素と、記録層に含まれる元素とが異なることが好ましい。この場合、記録層について元素分析を行う際に、基体に含まれる元素が記録層に含まれる元素とともに測定された場合であっても、記録層に含まれている情報を的確に再生することができる。
【0016】
本発明の記録情報の再生方法は、上述した記録媒体における前記複数の記録部のうちのいずれかの記録部において、前記記録層を粉砕し、得られる飛散物について、元素の組成及び/又は重量の分析を行い、その分析結果に基づいて前記記録層に含まれる記録情報を再生する工程を繰り返し行うことを特徴とする。
【0017】
この記録情報の再生方法によれば、上述した記録媒体の記録部に含まれる記録情報を有効に再生することができる。
【0018】
上記再生方法においては、前記記録層の粉砕を、レーザーアブレーションにより行い、前記記録材料に含まれる元素の組成及び/又は重量の分析を、ICP質量分析法を用いて行うことが好ましい。
【0019】
この場合、元素が極微量であっても高感度且つ高精度で元素の組成及び重量の分析を行うことができる。また、この再生方法では、記録層をレーザーアブレーションによって粉砕し、飛散物を得る。このため、この再生方法によれば、上記記録媒体の各記録層に記録された情報は、一度しか読み出すことができない。したがって、この再生方法によれば、上記記録媒体を、セキュリティーの保護等に使用可能な、いわゆるRead Once Memoryの記録媒体として用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、更なる大容量化を実現可能とする記録媒体及び記録情報の再生方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明に係る記録媒体の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る記録媒体の好適な実施形態を示す平面図、図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の記録媒体10は、平板状の基体11を備えており、基体11の一面11aには、複数の記録部12が設けられている。以下、必要に応じて、図1の12個の記録部をそれぞれ12a〜12iと称する。複数の記録部12a〜12iは、基体11の一面11a上において所定の間隔で格子状に配列されている。基体11は、記録部12と同数の複数の凹部13を有しており、記録部12は、凹部13に収容されている。図2に示すように、記録部12は、記録層14、記録層15、記録層16を積層してなり、記録層14と記録層15との間に、断熱材を有する断熱層17が設けられ、記録層15と記録層16との間に、断熱材を有する断熱層18が設けられている。即ち、記録部12においては、記録層と断熱層とが交互に積層されて構成されている。
【0024】
この記録部12に含まれる記録層14,15,16は、互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有しており、その元素組成及び/又は元素重量に対応した情報が記録されている。
【0025】
ここで、記録材料に含まれる元素は、後述する元素分析で検出できる元素を含むものであれば特に限定されない。元素分析で検出できる元素としては、元素周期表に掲載されている元素の大部分を用いることができる。具体的には、元素分析で検出できる好適な元素は、記録層12について行う元素分析の種類によって異なるが、例えば元素分析をICP質量分析法を用いて行う場合には、元素分析で検出できる元素として、元素周期表に掲載されている元素のうち、H、N、O、希ガス(Xeを除く)以外の元素を用いることができる。なお、この場合、記録材料に含まれる元素には、上記元素分析で検出できる元素のほか、H、N、O、希ガス(Xeを除く)が含まれていてもかまわない。
【0026】
なお、記録媒体10には複数の記録部12a〜12iが設けられているが、この複数の記録部12a〜12iは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。また、記録部12a〜12iを構成する記録層14,15,16において、一の記録層に含まれる元素と他の記録層に含まれる元素とが互いに同位体である場合、当該元素以外の元素同士が完全に一致している場合には、これらの記録層同士は互いに異なる組成を有することにはならないものとする。
【0027】
記録層14,15,16に含まれる元素は、1種類の元素単独であってもよく、複数種類の元素を混合したものであってもよい。1種類の元素が単独で用いられる場合は、各記録層14〜16における元素重量が互いに異なる必要があり、複数種類の元素を混合したものが使用される場合には、元素重量は記録層14〜16において同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
断熱層17,18を構成する断熱材は、断熱性を有するものであれば特に限定されないが、このような断熱材としては、例えばガラス、セラミックス等の複合酸化物、Ai、ZrO、BaTiO、CeO等の酸化物、TiN,SiN等の窒化物、SiC等の炭化物、もしくはポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレートなどの有機材料等が挙げられる。
【0029】
なお、断熱層17,18に含まれる元素は、記録層14〜16に含まれる元素と異なることが好ましい。この場合、記録層14〜16のうちのいずれかの記録層についての元素分析に際して、その記録層の粉砕の終了を容易に検知できる。
【0030】
基体11を構成する材料は、特に限定されないが、記録媒体10の記録層14〜16について元素分析を行う場合に、測定値に悪影響を及ぼさないものであることが好ましい。このような材料は、記録媒体10の記録層14〜16に記録された情報を再生する場合に使用する元素分析の種類によって異なる。例えば元素分析がICP質量分析である場合は、基体11を構成する材料としては、具体的にはポリカーボネートなどの有機材料、石英、シリコン、アルミナ、アルミニウム等が挙げられる。中でも、記録層14〜16に記録された情報を読み出す際、記録層14〜16の元素の種類、重量を検出するが、記録層14〜16に用いられる元素の検出への影響が少ないという理由から、ポリカーボネートなどの有機材料を用いることが好ましい。
【0031】
本実施形態の記録部10は、記録部10における記録層を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。なお、飛散物には粉体の他、ガスも含まれる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層当たりに割り当てられるビット数を大幅に大きくすることが可能となる。
【0032】
ここで、具体例を挙げて、記録媒体10により、1つの記録層当たりに割り当てられるビット数を大幅に大きくすることが可能となる理由について説明する。本具体例では、後述するLA−ICP−MS装置で使用可能な元素を17種類挙げると共に、検出可能な元素の重量範囲を0ng〜1000ngとし、この0ng〜1000ngの重量範囲を16段階に分割する。重量範囲を16段階に分割することにより、16進数表記が可能となる。そして、重量範囲の各段階ごとに0〜Fまで16個のコードを割り振る。これにより、下記表1に示す変換コードが得られる。
【表1】

【0033】
ここで、例えば記録層14がMnを1ng、Tiを10ng含有する場合、各元素ごとの対応コードを求め、求めたコードを、LiからBiに向かって順次列挙していくと、得られるコード列は、00000730000000000となる。即ち記録媒体10によれば、1つの記録層当たりに割り当てられる情報ビット数を1617、即ち268にすることができる。
【0034】
同様にして、同じ記録部における記録層又は異なる記録部における記録層について次々と元素分析を行うことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして記録媒体10により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、記録媒体10によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0035】
また記録媒体10の各記録部12においては、断熱層と記録層とが交互に積層されている。このため、例えば記録部12において記録層14に記録された情報を再生するべく記録層14を粉砕する場合に、記録層14に隣接する断熱層17まで粉砕されると、元素分析により断熱層17まで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層14の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この断熱層17を粉砕すると、元素分析により当該断熱層17に隣接する記録層15に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層15の粉砕が開始されたことを知ることができる。また、例えば断熱層17は断熱材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層14を粉砕する場合でも、断熱層17の存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層15にまで伝導することが十分に防止される。したがって、この記録媒体10によれば、各記録部12が複数の記録層14〜16を有する場合であっても、各記録層14〜16を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。従って、各記録層14〜16ごとに、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0036】
また記録媒体10においては、記録部12が凹部13に収容されている。このため、基体11が凹部13で周辺物と接触しても、記録部12と周辺物との接触が十分に防止される。従って、記録部12と周辺物との接触による記録部12へのコンタミネーションの付着が十分に防止される。よって、記録部12についての元素分析に際して、記録部12に本来含まれている元素以外の元素が測定されることが十分に防止され、記録部12に含まれている情報を的確に再生することができる。
【0037】
なお、複数の記録層14〜16は少なくとも1種類の共通の元素を含有することが好ましい。複数の記録層14〜16が少なくとも1つの共通の元素を含有することによって、より的確な元素分析の結果を得ることができる。即ち、記録層14〜16について元素分析を行った結果、記録層14〜16に共通する元素間で重量差が生じたとしても、その重量差を小さくする補正を行うことにより、記録層14〜16に含まれている情報をより的確に再生することができる。また、このような観点から、共通する特定の元素は各記録層14〜16中に同量含まれていることが好ましい。
【0038】
更に、基体11に含まれる元素と、記録層に含まれる元素とは異なることが好ましい。この場合、記録層14〜16について元素分析を行う際に、基体11に含まれる元素が記録層14〜16に含まれる元素と混在し、誤った測定値となることを防止することができる。よって、より一層的確に情報を再生することができる。
【0039】
なお、上記実施形態において、変換コードは、上記表1に限定されず、縦軸については例えば元素数を増やしたり、元素の混合物を挙げることにより増やすことも可能であり、横軸については重量範囲を更に多段階に規定したり、重量範囲(0〜1000ng)を広げたりすることも可能である。すなわち、変換コードは表1のような16進法に限られず、任意に広げることが可能であり、これにより、より大容量の情報を記録することが可能となる。
【0040】
また、上記実施形態では、記録部は12個であり、各記録部12に含まれる記録層の数は3個であるが、上記実施形態では、記録部を12個以上にすることが可能であり、また、各記録部に含まれる記録層の数も3個以上にすることが可能であり、各記録部12に含まれる記録層の数は必ずしも同一である必要はない。このように記録部の数や記録層の数を増やすことによって、記録媒体10によって再生できる情報量を増大させることができる。
【0041】
次に、上述した記録媒体10の製造方法について説明する。
【0042】
まず平板状の基体11を用意する。基体11としては、一面11aに凹部13が形成されているものが用いられる。
【0043】
次に、基体11の凹部13に記録部12を収容する。記録部12は、凹部13内に、記録層16、断熱層18、記録層15、断熱層17、記録層14を順次形成することにより形成する。このとき、記録部12の記録層14〜16は、互いに元素組成及び/又は元素重量が異なるようにする。記録層14〜16の形成方法は、特に限定されないが、基体11に形成された凹部13に、記録材料を含む分散液を滴下して乾燥させる方法や、粉末状の記録材料を凹部13に押し込んで加圧する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、製造効率を考慮すれば、記録材料を含む溶液を凹部13に滴下して乾燥させる方法が好ましい。このとき、溶液の滴下は、インクジェット法、もしくはディスペンサーによる滴下により行うことが好ましい。この場合、液滴の調製を容易に行うことができるため、記録層14〜16の厚さの調整が容易となる。
【0044】
断熱層17,18は、記録材料を断熱材に代えること以外は記録層14〜16の形成方法と同様の形成方法を用いて形成することができる。こうして記録媒体10の製造が完了する。言い換えると、基体11への記録情報の記録が完了する。
【0045】
次に、上述した記録媒体10に記録された記録情報の再生方法の一例について説明する。
【0046】
まず、記録情報の再生方法の説明に先立ち、記録情報の再生装置について説明する。
【0047】
図3は、記録情報の再生装置の一例としてのレーザーアブレーションICP質量分析装置(以下、「LA−ICP−MS装置」という。)の一例を示す概略図である。LA−ICP−MS装置21は、分析対象の記録媒体10における記録部12にレーザー光を照射してレーザーアブレーションを行うLA部22と、このレーザーアブレーションを行うことによって記録部12から得られる飛散物をLA部22から導入しプラズマでイオン化して質量分析を行うICP−MS部23とを備えている。
【0048】
LA部22は、試料室24、レーザーユニット25、CCDカメラ26を主として備えている。試料室24内には試料台28が設けられており、この試料台28の上には、分析対象の記録部12を有する記録媒体10が配置される。
【0049】
このようなLA部22において、レーザーユニット25から所定の波長で出射されたレーザー光は、まず、ミラー30,31で順次反射され、波長変換素子32へ入射される。波長変換素子32で波長を半減されたレーザー光は、波長変換素子33で更に波長を半減される。そして、ミラー34,35,36で反射された後、レンズ37を通り、最後にビームスプリッタ38で反射されて試料室24内の記録媒体10へと向かうようになっている。
【0050】
レーザーユニット25は、例えば、波長1064nmのNd−YAGレーザーを搭載している。そして、例えば、波長1064nmのレーザー光を波長変換素子32で波長532nm(2次高調波)に変換し、その後、波長変換素子33で波長532nmから波長266nm(3次高調波)に変換する。このように、レーザー光を短波長とすることにより、レーザー光のエネルギーが高まり、より多くの物質に対してアブレーションを行うことができる。
【0051】
一方、CCDカメラ26は、ビームスプリッタ38を介して試料室24内に配置された記録媒体10を観察できるようになっており、例えば、記録媒体10の表面におけるレーザー光の照射位置を観察する。
【0052】
試料室24には、アルゴンガス等のキャリアガスを試料室24内に導入する導入管39と、試料室24外に導出する導出管40とが接続されている。これら導入管39及び導出管40としては、例えばタイゴンチューブなどが用いられる。
【0053】
一端が試料室24に接続された導出管40は、他端がICP−MS部23におけるプラズマトーチ41の後端部に接続されている。そして、導入管39によって試料室24内へ導入されたキャリアガスは、レーザー光の照射によって飛散された記録媒体10の記録部12から得られる飛散物と共に、導出管40を通ってICP−MS部23へと向かうようになっている。
【0054】
ICP−MS部23は、導入管42からキャリアガスと共に導入された飛散物をイオン化するプラズマPを発生させるプラズマトーチ41と、このプラズマトーチ41の先端部近傍に位置するイオン導入部43を有する質量分析部44とを備えている。
【0055】
プラズマトーチ41は、例えば3重管構造となっており、導入管42からキャリアガスが導入され、管46からプラズマP形成用のプラズマガスが導入され、管47からプラズマトーチ41の壁面を冷却するためのクーラントガスが導入されるようになっている。キャリアガス、プラズマガス及びクーラントガスとしては、例えば、アルゴンガスなどを用いる。
【0056】
また、プラズマトーチ41内には、キャリアガス、プラズマガス及びクーラントガスを合わせ、全体として約15〜20リットル/分の流量のガスが供給される。それぞれのガス導入量の一形態としては、キャリアガスが約1リットル/分、プラズマガスが約1リットル/分、クーラントガスが約16リットル/分である。
【0057】
そして、プラズマトーチ41には、図示しない高周波電源に接続された高周波コイル48が先端側に備えられており、この高周波コイル48に電圧が印加されることにより、プラズマトーチ41の先端側の内部にプラズマPが形成される。
【0058】
質量分析部44のイオン導入部43は、プラズマトーチ41の先端に対向する導入孔49を有している。そして、この導入孔49を通して、プラズマPからの光やイオンを筐体50内に導入する。なお、導入孔49の直径は、例えば1mm程度である。
【0059】
筐体50内は、真空ポンプ51,52によって、イオン導入部43側が低真空室、その奥が高真空室というように、真空度が異なる2つの部屋に分かれている。そして、質量分析部44は、筐体50内において、プラズマPからの光とイオンとをイオンレンズ53で分離してイオンのみを通過させ、質量多重極部54で特定のイオンのみを取り出して検出器55で検出するようになっている。
【0060】
ICP−MS部23としては、例えば、横河アナリティカル製Agilent7500s(ICS−MS)を用いることができる。またこのICP−MS部23によると、測定できる記録材料は、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、Ar、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Kr、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Xe、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Th、U等が挙げられる。
【0061】
次に、上述した記録情報の再生装置20を用いた記録情報の再生方法について説明する。
【0062】
まず、LA部22では、記録媒体10を試料台28の上に設置する。このとき、基体11の一面11aがビームスプリッタ38に向けられるように記録媒体10を設置する。
【0063】
このとき、導入管39からアルゴンガス等のキャリアガスを試料室24内に導入すると共に、導出管40を経て試料室24外に導出させる。
【0064】
一方、ICP−MS部23では、高周波コイル48に電圧を印加することにより、プラズマトーチ41の先端側の内部にプラズマPを形成する。このとき、導入管42からキャリアガスを導入すると共に、管46からプラズマP形成用のプラズマガスを導入し、管47からプラズマトーチ41の壁面を冷却するためのクーラントガスを導入する。また筐体50内は、真空ポンプ51,52によって、イオン導入部43側を低真空、その奥を高真空となるようにする。
【0065】
このとき、記録媒体10の表面におけるレーザー光の照射位置をCCDカメラ26を用いて観察し、レーザー光の照射位置が記録部12a〜12iのうちのいずれか、例えば記録部12aに合っているか確認する。
【0066】
この状態で、レーザーユニット25からレーザー光を出射させる。すると、レーザー光は、まず、ミラー30,31で順次反射され、波長変換素子32へ入射される。波長変換素子32で波長を半減されたレーザー光は、波長変換素子33で更に波長を半減される。そして、ミラー34,35,36で反射された後、レンズ37を通り、最後にビームスプリッタ38で反射されて試料室24内の記録媒体10の記録部12aに入射される。これにより、記録部12aにおいて、記録媒体10の最表面側の記録層である記録層14に対してレーザーアブレーションが行われる。
【0067】
このとき、レーザー光の照射によって記録層14が粉砕され、このとき得られる飛散物は、導入管39によって試料室24内へ導入されたキャリアガスにより、導出管40を経てICP−MS部23へと移送される。
【0068】
ICP−MS部23では、プラズマPからの光やイオンは、導入孔49を通して、筐体50内に導入される。
【0069】
質量分析部44では、筐体50内において、プラズマPからの光とイオンとがイオンレンズ53で分離されてイオンのみが通過し、質量多重極部54で特定のイオンのみが取り出されて検出器55で検出される。こうして記録層14について元素分析が行われる。
【0070】
こうして得られる記録層14の元素分析の結果から、記録層14の元素の組成及び重量が測定される。このとき、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。特に、LA−ICP−MS装置21が用いられる場合、元素が極微量であっても高感度且つ高精度で元素の組成及び重量の分析を行うことができる。
【0071】
そして、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録部12の記録層14に記録された記録情報を再生することができる。このとき、得られた分析結果から変換コードに基づいて記録情報を再生する操作は、ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0072】
こうして記録層14をレーザー光により粉砕していると、やがてレーザー光が断熱層17まで粉砕するようになる。このとき、元素分析に際して、断熱層17に含まれる元素の組成及び重量が検知される。このため、記録層14についての粉砕が終了したことを検知することができる。また、断熱層17は断熱材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層14を粉砕する場合でも、断熱層17の存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層15にまで伝導することが十分に防止される。したがって、記録層14を粉砕する場合に、隣の記録層15まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。よって、記録層14について、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0073】
続いて、断熱層17を粉砕すると、元素分析により当該断熱層17に隣接する記録層15に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層15の粉砕が開始されたことを知ることができる。この記録層15についても、記録層14と同様に、元素分析を行い、元素の組成及び重量を測定する。このとき、この測定結果から、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録層15に記録された記録情報を再生することができる。
【0074】
こうして記録層15をレーザー光により粉砕していると、やがてレーザー光が断熱層18まで粉砕するようになる。このとき、元素分析に際して、断熱層18に含まれる元素の組成及び重量が検知される。このため、記録層15についての粉砕が終了したことを検知することができる。また、断熱層18は断熱材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層15を粉砕する場合でも、断熱層18の存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層16まで伝導することが十分に防止される。したがって、記録層15を粉砕する場合に、隣の記録層16まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。よって、記録層15について、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0075】
続いて、断熱層18を粉砕すると、元素分析により当該断熱層18に隣接する記録層16に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層16の粉砕が開始されたことを知ることができる。この記録層16についても、記録層14と同様に、元素分析を行い、元素の組成及び重量を測定する。このとき、この測定結果から、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録層16に記録された記録情報を再生することができる。
【0076】
このようにして記録部12aに含まれる記録情報の再生を行うと、記録部12aが複数の記録層14〜16を有する場合であっても、各記録層14〜16を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。従って、各記録層14〜16ごとに、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0077】
こうして記録部12aに含まれる記録層14〜16のすべてについて記録情報の再生が終了したならば、記録部12b〜12iについても、記録部12aと同様にして記録情報の再生を行う。
【0078】
こうして記録媒体10により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、記録媒体10によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0079】
なお、上記再生方法では、記録層14〜16をレーザーアブレーションによって粉砕する。このため、この再生方法によれば、上記記録層14〜16に記録された情報は、一度しか読み出すことができない。したがって、この再生方法によれば、上記記録媒体10を、セキュリティーの保護等に使用可能な、いわゆるRead Once Memoryの記録媒体として用いることができる。
【0080】
以上、本発明の好適な実施形態について述べたが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0081】
例えば、上記実施形態では、記録媒体10において、基体11の一面11a側に凹部13が形成されているが、図4に示すように、基体11において、凹部13は形成されていなくても構わない。即ち基体11の一面11aが平坦面となっており、その平坦面上に複数の記録部12が形成されていてもよい。
【0082】
また図1及び図4に示す記録媒体10においては、基体11の一面11a側に記録部12が設けられているが、記録部12は基体11の両面側に設けられていてもよく、更に残りの面に設けられていてもよい。また上記実施形態では基体11が平板状となっているが、基体11は、平板状に限定されるものではなく、立方体や直方体であっても構わない。
【0083】
また記録部12を構成する記録層14〜16の形状は、円柱状、三角柱状、四角柱状等使用する分析装置や記録媒体の形状等に応じて変形することができる。
【0084】
また上記実施形態では、記録部12が断熱層17,18を含有しているが、記録部12は記録層14〜16のみで構成されていてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、図5を参照して実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
基体としてポリカーボネート基板19を用意した。そして、ポリカーボネート基板19に切削により縦1mm×横1mm×深さ1mmの凹部19aを作製し、この凹部19aに収容されるように記録部を配置した。この記録部は5つの層からなり、第一の層(記録層)16a、30μmPETフィルムからなる第二の層(断熱層)18a、第三の層(記録層)15a、30μmPETフィルムからなる第四の層(断熱層)17a、最表面側である第五の層(記録層)14aとした。
【0087】
この記録部は、凹部19aを形成したポリカーボネート基板19上にマイクロピペットを用いて原子吸光用標準液を所定量滴下し乾燥させ第一の層16aを形成し、この第一の層16aの上に第二の層18aである30μmPETフィルムを貼り、次に第一の層16aと同様な方法で第第三の層15aを、第二の層18aと同様な方法で第四の層17aを、最後に第一の層16aと同様な方法で第五の層14aを順次設けることにより形成した。なお、記録部に含まれる元素の重量は表2に示す量になるように調整した。
【表2】

【0088】
上記のようにして得られた記録部を有するポリカーボネート基板19をレーザーアブレーション装置にセットし記録部の記録層をICP−MS装置で元素分析した。このとき、レーザーアブレーション装置としてはNew Wave Research社製のLUV266Xを用い、ICP−MS装置として横河アナリティカルシステムズ製Agilent7500sを用いた。
【0089】
そして、レーザーを照射しながらICP−MSで各元素をモニターし、その強度より元素重量を計算した。結果を表3に示す。
【表3】

【0090】
更に、こうして得られた上記表3の各層の分析値を下記表4に示す変換コードを用いて変換すると下記表5に示すような16進法表記のコード列が得られた。
【表4】

【表5】

【0091】
例えば、上記表4に示す16進法表記の54444b21000000000は文字コード表により文字列に変換すると「TDK!」となった。同様に4d6174657269616c0は文字列に変換すると「Material」、4165616c797369730は「Analysis」となった。
【0092】
このように本実施例に係る記録媒体100によれば、1記録層当たりのビット数を1617、即ち268にすることが可能であることがわかった。このことから、本発明の記録媒体によれば、大容量化が実現可能となることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る記録媒体の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明に係る記録媒体の他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図4】図1の記録媒体に記録された記録情報を再生する再生装置の一例を示す概略図である。
【図5】実施例に係る記録媒体の記録部を示す切断面端面図である。
【符号の説明】
【0094】
10…記録媒体、11…基体、12,12a〜12i…記録部、13,13a〜13c…凹部、14,15,16・・・記録層、17,18・・・断熱層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体に設けられる複数の記録部とを備え、
前記記録部は、複数の記録層を積層してなり、前記複数の記録層は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、前記元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録していることを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記記録部が、断熱材を含有する断熱層を更に有し、前記記録層と前記断熱層とが交互に積層してなることを特徴とする請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記基体が複数の凹部を有し、前記凹部に前記記録部が収容されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記複数の記録層が少なくとも1つの共通する元素を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項5】
前記基体に含まれる元素と、前記記録層に含まれる元素とが異なることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の記録媒体における前記複数の記録部のうちのいずれかの記録部において、前記記録層を粉砕し、得られる飛散物について、元素の組成及び/又は元素重量の分析を行い、その分析結果に基づいて前記記録層に含まれる記録情報を再生する工程を繰り返し行うことを特徴とする記録情報の再生方法。
【請求項7】
前記記録層の粉砕を、レーザーアブレーションにより行い、前記記録材料に含まれる元素の組成及び/又は元素重量の分析を、ICP質量分析法を用いて行うことを特徴とする請求項6に記載の記録情報の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−18911(P2006−18911A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194992(P2004−194992)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)