説明

記録媒体及び記録情報の再生方法

【課題】さらなる大容量化を実現可能とする記録媒体及び記録情報の再生方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 複数の凹部13を有する基体11と、基体11に設けられる複数の記録部12とを備え、凹部13に記録部12が収容され、記録部12は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録している記録層14、15、16を含んで構成され、凹部13には複数の熱拡散層17a、17bが収容され、凹部13において、熱拡散層と複数の記録層とは交互に積層されていることを特徴とする記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体及び記録情報の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD−R/RW等の記録媒体は一般に、記録ピットと、これと異なる反射率を有するランドとを有しており、記録媒体に含まれる記録情報を再生する場合には、記録ピット及びランドに対して再生用レーザー光を照射し反射光を検出することにより、記録媒体に含まれる記録情報の再生が行われる。
【0003】
この記録媒体においては、記録ピット又はランドに対しては0又は1の2ビットの情報が割り当てられている。
【0004】
しかし、近年の情報量の増加に伴い、記録媒体の更なる大容量化が求められている。容量を増加させるために記録ピットの小型化が進んでいるが、記録ピットの小型化は記録時に集光するレーザービーム径の関係から限界に近づいており、記録媒体の大容量化は難しくなってきている。
【0005】
このような状況の下、記録層に有機色素を用い、記録用レーザービームの照射による変質度により反射率を多段階(例えば8段階)に規定した光記録媒体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この光記録媒体によれば反射率が多段階に規定されている。このため、段階の数に基づいて1つの記録層あたりに割り当てられるビット数を増加させることができるため、容量を増加させることができる。
【特許文献1】特開2002−367172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、上述した特許文献1に記載の記録媒体に以下の課題があることを見出した。
【0007】
すなわち、上記特許文献1に記載の光記録媒体によれば、反射率の値を多段階に分けて規定することによって、容量の増加が可能になるものの、大容量化が求められる現在においては容量の増加は未だ十分とは言えない。また、容量を更に増加させる場合には反射率をより多段階に規定すればよいが、反射率を多段階に規定するためには、レーザービームの照射による変質度の微妙な制御が必要になる。しかし、このような変質度の微妙な制御は困難であるため、反射率をより多段階に規定することは困難であり。記録媒体のさらなる大容量化には限界がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、さらなる大容量化を実現可能とする記録媒体及び記録情報の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の記録媒体は、少なくとも1つの凹部を有する基体と、基体の凹部に収容される記録部とを備え、記録部は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録している複数の記録層を含んで構成され、凹部には基体に接触する少なくとも1つ以上の熱拡散層が収容され、凹部において、熱拡散層と複数の記録層とは交互に積層されていることを特徴とする。なお、本発明において、飛散物には粉体の他、ガスも含まれる。
【0010】
本発明の記録媒体によれば、記録部に含まれる記録層を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層に割り当てられるビット数を大幅に増やすことが可能となる。同様にして、異なる記録層について次々と元素分析を行うことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして本発明の記録媒体により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、本発明の記録媒体によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0011】
また、記録層に記録された情報を再生すべく記録層が粉砕される場合に、当該記録層で熱が発生しても、その熱が熱拡散層で拡散され、基体に伝達される。このため、記録層で発生する熱が、隣に配置されている未粉砕の記録層にまで到達することを十分に防止することができる。したがって、この記録媒体によれば、記録部が複数の記録層を有する場合であっても、各記録層を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。
【0012】
また、記録層が粉砕される場合に、当該記録層に隣接する熱拡散層まで粉砕されると、元素分析により熱拡散層まで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この熱拡散層を粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層に隣接する記録層が検出されることとなるため、記録層の粉砕が開始されたことを知ることができる。
【0013】
更に、記録部が基体の凹部に収容されているため、基体が凹部で周辺物と接触しても、記録部と周辺物との接触が十分に防止される。従って、記録部と周辺物との接触による記録部へのコンタミネーションの付着が十分に防止される。
【0014】
上記記録媒体においては、基体を構成する材料と、熱拡散層を構成する熱拡散材料とが同一であることが好ましい。この場合、熱拡散性が向上する、基体の熱膨張率が同一となるため基体の変形を抑えられるという利点がある。
【0015】
上記記録媒体においては、熱拡散層を構成する熱拡散材料がAl、Au、Cu、AlTa、AlCr、AlTi、AlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の材料であることが好ましい。これらの熱拡散材料が用いられると、熱拡散を効率良く行うことができ、隣の記録層まで粉砕することを更に防止することが可能となる。
【0016】
上記記録媒体においては、基体を構成する材料がAl、Au、Cu、AlTa、AlCr、AlTi、AlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の材料であることが好ましい。これらの材料であると、熱拡散を効率良く行うことができ、隣の記録層まで粉砕することを更に防止することが可能となる。
【0017】
本発明の記録媒体は、基体と、基体に設けられ、複数の熱拡散層を積層してなる熱拡散部とを備え、熱拡散部は少なくとも1つの記録部を含有し、記録部は複数の熱拡散層のそれぞれに含まれる記録層を含んで構成され、複数の記録層は記録部において複数の熱拡散層の積層方向に沿って互いに離間して配置されており、複数の記録層は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録していることを特徴とする。
【0018】
本発明の記録媒体によれば、記録部に含まれる記録層を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、対応する記録層の数を大幅に増やすことが可能となる。同様にして、異なる記録層について次々と元素分析を行うことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして本発明の記録媒体により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、本発明の記録媒体によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0019】
また、上記記録層は、複数の熱拡散層の積層方向に沿って互いに離間して配置されている。即ち、記録層同士の間には熱拡散層の一部が設けられている。従って、記録層に記録された情報を再生すべく記録層が粉砕される場合に、当該記録層で熱が発生した場合でも、その熱が当該記録層を含む熱拡散層全体に拡散される。このため、記録層で発生する熱が、隣に配置されている記録層にまで到達することを十分に防止することができる。したがって、この記録媒体によれば、記録部が複数の記録層を有する場合であっても、各記録層を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。
【0020】
また、記録層が粉砕される場合に、当該記録層同士の間に設けられた熱拡散層まで粉砕されると、元素分析により熱拡散層まで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この熱拡散層を粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層に隣接する記録層が検出されることとなるため、記録層の粉砕が開始されたことを知ることができる。
【0021】
上記記録媒体においては、熱拡散層に含まれる元素と、記録層に含まれる元素とが異なることが好ましい。この場合、記録層について元素分析を行う際に、熱拡散層に含まれる元素が記録層に含まれる元素とともに測定された場合であっても、記録層に含まれている情報を的確に再生することができる。
【0022】
本発明の記録媒体においては、複数の記録層が共通する元素を含有することが好ましい。複数の記録層が共通の元素を含有することによって、より的確なデータを得ることができる。すなわち、複数の記録層について元素分析を行った結果、複数の記録層に共通する元素間で重量差が生じたとしても、その重量差を小さくする補正を行うことにより、記録層に含まれている情報をより的確に再生することができる。
【0023】
また、本発明の記録情報の再生方法においては、上述した記録媒体における複数の記録層のうちのいずれかの記録層において、記録層を粉砕し、得られる飛散物について、元素の組成及び/又は元素重量の分析を行い、その分析結果に基づいて記録層に含まれる記録情報を再生する工程を繰り返し行うことを特徴とする。
【0024】
この再生方法によれば、記録部に含まれる記録層を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層に割り当てられるビット数を大幅に増やすことが可能となる。同様にして、異なる記録層について次々と元素分析を繰り返すことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして本発明の再生方法により、多大な情報を再生することができる。
【0025】
また、本発明で得られる記録媒体を用いれば、上記記録層が粉砕される場合に、当該記録層で熱が発生した場合でも、その熱が熱拡散層で拡散される。このため、記録層で発生する熱が、隣に配置されている未粉砕の記録層にまで到達することを十分に防止することができる。したがって、この記録媒体を用いる再生方法によれば、記録部が複数の記録層を有する場合であっても、各記録層を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。
【0026】
また、本発明で得られる記録媒体を用いれば、記録層が粉砕される場合に、当該記録層に隣接する熱拡散層まで粉砕されると、元素分析により熱拡散層まで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この熱拡散層を粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層に隣接する記録層が検出されることとなるため、記録層の粉砕が開始されたことを知ることができる。
【0027】
また、この再生方法では、記録層を粉砕して飛散物を得る。このため、この再生方法によれば、上記記録媒体の各記録層に記録された情報は、一度しか読み出すことができない。したがって、この再生方法によれば、上記記録媒体を、セキュリティーの保護等に使用可能な、いわゆるRead Once Memoryの記録媒体として用いることができる。
【0028】
上記再生方法においては、記録層の粉砕をレーザーアブレーションにより行い、記録層に含まれる元素の組成及び/又は元素重量の分析を、ICP質量分析法を用いて行うことが好ましい。
【0029】
この場合、元素が極微量であっても高感度且つ高精度で元素の組成及び重量の分析を行うことができる。
【0030】
また、本発明の記録媒体は、少なくとも1つの凹部を有し、熱拡散材料からなる基体と、基体の凹部に収容される記録部とを備え、記録部は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録している複数の記録層を含んで構成されていることを特徴とする。
【0031】
本発明の記録媒体によれば、記録部に含まれる記録層を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層に割り当てられるビット数を大幅に増やすことが可能となる。同様にして、異なる記録層について次々と元素分析を行うことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして本発明の記録媒体により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、本発明の記録媒体によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0032】
また、記録層に記録された情報を再生すべく記録層が粉砕される場合に、当該記録層で熱が発生しても、その熱が基体に直接伝達される。このため、記録層で発生する熱が、隣に配置されている未粉砕の記録層にまで到達することを十分に防止することができる。したがって、この記録媒体によれば、記録部が複数の記録層を有する場合であっても、各記録層を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。
【0033】
また、記録層が粉砕される場合に、当該記録層に隣接する熱拡散層まで粉砕されると、元素分析により熱拡散層まで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この熱拡散層を粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層に隣接する記録層が検出されることとなるため、記録層の粉砕が開始されたことを知ることができる。
【0034】
更に、記録部が基体の凹部に収容されているため、基体が凹部で周辺物と接触しても、記録部と周辺物との接触が十分に防止される。従って、記録部と周辺物との接触による記録部へのコンタミネーションの付着が十分に防止される。
【0035】
上記記録媒体においては、基体を構成する材料と、熱拡散層を構成する熱拡散材料とが同一であることが好ましい。この場合、熱拡散性が向上する、基体の熱膨張率が同一となるため基体の変形を抑えられるという利点がある。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、更なる大容量化を実現可能とする記録媒体及び記録情報の再生方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明に係る記録媒体の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0038】
(第1実施形態)
まず本発明による記録媒体の第1実施形態について説明する。
【0039】
図1は、本発明に係る記録媒体の第1実施形態を示す平面図である。図1に示すように、本実施形態の記録媒体10は、平板状の基体11を備えており、基体11の一面11aには、複数の記録部12が設けられている。以下、必要に応じて、図1の12個の記録層をそれぞれ12a〜12iと称する。複数の記録部12a〜12iは、基体11の一面11a上において所定の間隔で格子状に配列されている。基体11は、記録部12と同数の複数の凹部13を有しており、記録部12は、凹部13に収容されている。
【0040】
図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図2に示すように、記録部12は、記録層14、記録層15、記録層16を積層してなり、記録層14の一面14aは基体11の一面11a側で露出している。そして、記録層14と記録層15との間には、熱拡散材料を有する熱拡散層17が設けられ、記録層15と記録層16との間には、熱拡散材料を有する熱拡散層17bが設けられている。即ち、記録部12においては、記録層と熱拡散材料とが交互に積層されて構成されている。
【0041】
なお、記録媒体10には複数の記録部12a〜12iが設けられているが、この複数の記録部12a〜12iは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。また、この記録部12に含まれる記録層14,15,16は、互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有しており、その元素組成及び/又は元素重量に対応した情報が記録されている。
【0042】
本実施形態の記録部12は、記録部12における記録層14〜16を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層当たりに割り当てられるビット数を大幅に大きくすることが可能となる。
【0043】
ここで、具体例を挙げて、記録媒体10により、1つの記録層当たりに割り当てられるビット数を大幅に大きくすることが可能となる理由について説明する。本具体例では、後述するLA−ICP−MS装置で使用可能な元素を17種類挙げると共に、検出可能な元素の重量範囲を0ng〜1000ngとし、この0ng〜1000ngの重量範囲を16段階に分割する。重量範囲を16段階に分割することにより、16進数表記が可能となる。そして、重量範囲の各段階ごとに0〜Fまで16個のコードを割り振る。これにより、下記表1に示す変換コードが得られる。
【表1】

【0044】
ここで、例えば記録層14がMnを1ng、Tiを10ng含有する場合、各元素ごとの対応コードを求め、求めたコードを、LiからBiに向かって順次列挙していくと、得られるコード列は、00000730000000000となる。即ち記録媒体10によれば、1つの記録層当たりに割り当てられる情報ビット数を1617、即ち268にすることができる。
【0045】
同様にして、同じ記録部における記録層又は異なる記録部における記録層について次々と元素分析を行うことにより、記録層に記録された情報を再生することが可能となる。こうして記録媒体10により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、記録媒体10によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0046】
記録層14〜16に記録された情報を再生すべく、例えばレーザーアブレーションにより記録層14を粉砕する場合でも、本実施形態の記録媒体10の熱拡散層17は熱拡散材料を含有するため、レーザーアブレーションによって発生する熱が熱拡散層17aで拡散され基体11に伝達される。このため、レーザーアブレーションによって記録層14に発生する熱が、隣に配置されている記録層15にまで到達することを十分に防止することができる。したがって、この記録媒体10によれば、各記録部12が複数の記録層14〜16を有する場合であっても、各記録層14〜16を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となり、各記録層の情報を的確に再生することができる。
【0047】
また、記録媒体10の各凹部13においては、記録層と熱拡散層とが交互に積層されている。このため、例えば凹部13において記録層14に記録された情報を再生すべく記録層14を粉砕する場合に、記録層14に隣接する熱拡散層17aまで粉砕されると、元素分析により熱拡散層17aまで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層14の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この熱拡散層17aを粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層17aに隣接する記録層15に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層15の粉砕が開始されたことを知ることができる。従って、各記録層の情報を的確に再生することができる。
【0048】
更に記録媒体10においては、記録部12が凹部13に収容されている。このため、基体11が凹部13で周辺物と接触しても、記録部12と周辺物との接触が十分に防止される。従って、記録部12と周辺物との接触による記録部12へのコンタミネーションの付着が十分に防止される。よって、記録部12についての元素分析に際して、記録部12に本来含まれている元素以外の元素が測定されることが十分に防止され、記録部12に含まれている情報を的確に再生することができる。
【0049】
上記記録媒体10において、基体11を構成する材料と、熱拡散層17を構成する熱拡散材料とが同一であることが好ましい。基体11及び熱拡散層17を構成する材料が同一であると、熱拡散性が向上する、基体の熱膨張率が同一となるため基体の変形を抑えられるという利点がある。従って、隣の記録層まで粉砕することをより防止することが可能となり、各記録層14〜16ごとに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0050】
複数の記録層14〜16は少なくとも1種類の共通の元素を含有することが好ましい。複数の記録層14〜16が少なくとも1つの共通の元素を含有することによって、より的確な元素分析の結果を得ることができる。即ち、記録層14〜16について元素分析を行った結果、記録層14〜16に共通する元素間で重量差が生じたとしても、その重量差を小さくする補正を行うことにより、記録層14〜16に含まれている情報をより的確に再生することができる。また、このような観点から、共通する特定の元素は各記録層14〜16中に同量含まれていることが好ましい。
【0051】
更に、基体11に含まれる元素と、記録層14〜16に含まれる元素とは異なることが好ましい。この場合、記録層14〜16について元素分析を行う際に、基体11に含まれる元素が記録層14〜16に含まれる元素と混在し、誤った測定値となることを防止することができる。よって、より一層的確に情報を再生することができる。
【0052】
更にまた、熱拡散層17に含まれる元素と、記録層14〜16に含まれる元素とは異なることが好ましい。この場合、記録層14〜16について元素分析を行う際に、熱拡散層17に含まれる元素が記録層14〜16に含まれる元素と混在し、誤った測定値となることを防止することができる。よって、より一層的確に情報を再生することができる。また、このようにすると、各記録層の粉砕の終了を容易に検知することも可能である。
【0053】
ここで、記録材料に含まれる元素は、後述する元素分析で検出できる元素を含むものであれば特に限定されない。元素分析で検出できる元素としては、元素周期表に掲載されている元素の大部分を用いることができる。元素分析で検出できる好適な元素は、記録部12について行う元素分析の種類によって異なるが、例えば元素分析をICP質量分析法を用いて行う場合には、元素分析で検出できる元素として、元素周期表に掲載されている元素のうち、H、N、O、希ガス(Xeを除く)以外の元素を用いることができる。なお、この場合、記録材料に含まれる元素には、上記元素分析で検出できる元素のほか、H、N、O、希ガス(Xeを除く)が含まれていてもかまわない。
【0054】
なお、記録部12a〜12iを構成する記録層14〜16において、一の記録層に含まれる元素と他の記録層に含まれる元素とが互いに同位体である場合、当該元素以外の元素同士が完全に一致している場合には、これらの記録層同士は互いに異なる組成を有することにはならないものとする。
【0055】
記録層14〜16に含まれる元素は、1種類の元素単独であってもよく、複数種類の元素を混合したものであってもよい。1種類の元素が単独で用いられる場合は、各記録層14〜16における元素重量が互いに異なる必要があり、複数種類の元素を混合したものが使用される場合には、元素重量は記録層14〜16において同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
熱拡散層17を構成する熱拡散材料は、熱を拡散させる特性を有するものであれば特に限定されないが、このような熱拡散材料としては、例えば熱拡散率の高いAl、Au、Cu、AlTa、AlCr、AlTi、AlCu等の材料が挙げられる。
【0057】
更に熱拡散層17a、17b(17)それぞれの熱拡散材料は同一のものであることが好ましい。それぞれの熱拡散材料が異なると検出が煩雑となる。
【0058】
基体11を構成する材料は、特に限定されないが、記録媒体10の記録層14〜16について元素分析を行う場合に、測定値に悪影響を及ぼさないものであることが好ましい。このような材料は、記録媒体10の記録層14〜16に記録された情報を再生する場合に使用する元素分析の種類によって異なる。例えば元素分析がICP質量分析である場合は、基体11を構成する材料としては、具体的にはポリカーボネートなどの有機材料、石英、シリコン、アルミナ、アルミニウム、AlCr、AlTi、AlCu、Cu、Au等が挙げられる。中でも、上述したように熱拡散層と同一の材料であると、熱拡散を効率良く行うことができるため、アルミニウム、AlCr、AlTi、AlCu、Cu、Au等を用いることが好ましい。
【0059】
(第2実施形態)
次に本発明による記録媒体の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0060】
図3は、本発明に係る記録媒体の第2実施形態を示す平面図、図4は、図1のIII−III線に沿った断面図である。図3及び図4に示すように、本実施形態の記録媒体110は、基体11の一面11a上に熱拡散部18を有しており、熱拡散部18は、熱拡散層17e、熱拡散層17d、熱拡散層17cをこの順序で積層してなる。
【0061】
熱拡散部18には、12個の記録部12が設けられている。以下、必要に応じて、図1の12個の記録層をそれぞれ12a〜12iと称する。記録部12a〜12iは、熱拡散部18に所定の間隔で格子状に配列されている。
【0062】
記録部12は、各熱拡散層17e、17d、17cにそれぞれ含まれる記録層14〜16により構成されている。ここで、これらの記録層14〜16は、熱拡散層17の積層方向に沿って互いに離間して配置され、記録層14の一面14aは記録媒体110の熱拡散部18の基体11と反対側の一面18a側で露出している。
【0063】
この記録部12に含まれる記録層14、15、16は、互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有しており、その元素組成及び/又は元素重量に対応した情報が記録されている。
【0064】
本実施形態の記録部12は、記録部12における記録層14〜16を粉砕し、得られる飛散物について元素の組成及び/又は元素重量を測定することにより、元素の組成及び/又は元素重量に対応した情報を再生することが可能となる。ここで、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。従って、元素の種類を増加させたり、元素分析により測定可能な重量範囲の分割数を増加させたり、あるいはこれらを併用することにより、1つの記録層当たりに割り当てられるビット数を大幅に大きくすることが可能となる。
【0065】
記録層14〜16に記録された情報を再生すべく、例えばレーザーアブレーションにより記録層14を粉砕する場合に、当該記録層14で熱が発生した場合でも、その熱が当該記録層14を含む熱拡散層17c全体に拡散される。このため、レーザーアブレーションによって記録層14で発生する熱が、隣に配置されている記録層15にまで到達することを十分に防止することができる。したがって、この記録媒体110によれば、各記録部12が複数の記録層14〜16を有する場合であっても、各記録層14〜16を粉砕する場合に、隣の記録層14〜16まで粉砕されることを十分に防止することが可能となり、各記録層の情報を的確に再生することができる。
【0066】
また、記録媒体110の各記録部12においては、記録層14と記録層15との間、及び記録層15と記録層16との間にそれぞれ熱拡散層17d、17eが設けられている。このため、例えば記録部12において記録層14に記録された情報を再生すべく記録層14を粉砕する場合に、記録層14に隣接する熱拡散層17dまで粉砕されると、元素分析により熱拡散層17dまで粉砕されたことが検知される。つまり、その記録層14の粉砕が終了したことを知ることができる。次に、この熱拡散層17dを粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層17dに隣接する記録層15に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層15の粉砕が開始されたことを知ることができる。従って、各記録層の情報を的確に再生することができる。
【0067】
(製造方法)
次に、上述した記録媒体10、110の製造方法について説明する。
【0068】
まず、第1実施形態の記録媒体の製造方法は、始めに平板状の基体11を用意する。基体11としては、一面11aに凹部13が形成されているものが用いられる。
【0069】
次に、基体11の凹部13に記録部12を収容する。記録部12は、凹部13内に、記録層16、熱拡散層17b、記録層15、熱拡散層17a、記録層14を順次形成することにより形成する。このとき、記録部12の記録層14〜16は、互いに元素組成及び/又は元素重量が異なるようにする。記録層14〜16の形成方法は、特に限定されないが、基体11に形成された凹部13に、記録材料を含む分散液を滴下して乾燥させる方法や、粉末状の記録材料を凹部13に押し込んで加圧する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、製造効率を考慮すれば、記録材料を含む溶液を凹部13に滴下して乾燥させる方法が好ましい。このとき、溶液の滴下は、インクジェット法、もしくはディスペンサーによる滴下により行うことが好ましい。この場合、液滴の調製を容易に行うことができるため、記録層14〜16の厚さの調整が容易となる。
【0070】
熱拡散層17は、記録材料を熱拡散材料に代えること以外は記録層14〜16の形成方法と同様の形成方法を用いて形成することができる。こうして記録媒体10の製造が完了する。言い換えると、基体11への記録情報の記録が完了する。
【0071】
次に、第2実施形態の記録媒体の製造方法は、始めに平板状の基体11を用意する。基体11の一面11a上に記録層16を形成し、記録層16及び基体11の上に、記録層16が含まれるように熱拡散材料で構成される熱拡散層17eを形成する。次に熱拡散層17eの上に、記録層15を形成し、記録層15及び熱拡散層17eの上に、記録層15が含まれるように熱拡散材料で構成される熱拡散層17dを形成する。そして熱拡散層17dの上に、記録層14を形成し、記録層14及び熱拡散層17dの上に、記録層14が含まれるように熱拡散材料で構成される熱拡散層17cを形成する。このとき、記録層14の一面14aは記録媒体110の熱拡散部18の基体11と反対側の一面18a表面に露出するようにする。こうして記録媒体10の製造が完了する。
【0072】
記録部12の記録層14〜16は、互いに元素組成及び/又は元素重量が異なるようにする。記録層14〜16の形成方法は、特に限定されないが、製造効率を向上させる観点からは、基体11、熱拡散層17e、17d上に、記録材料を含む分散液を滴下して乾燥させる方法が挙げられる。このとき、溶液の滴下は、インクジェット法、もしくはディスペンサーによる滴下により行うことが好ましい。この場合、液滴の調製を容易に行うことができるため、記録層14〜16の厚さの調整が容易となる。
【0073】
(再生方法)
次に、上述した記録媒体10、110に記録された記録情報の再生方法の一例について説明する。
【0074】
まず、記録情報の再生方法の説明に先立ち、記録情報の再生装置について説明する。
【0075】
図5は、記録情報の再生装置の一例としてのレーザーアブレーションICP質量分析装置(以下、「LA−ICP−MS装置」という。)の一例を示す概略図である。LA−ICP−MS装置21は、分析対象の記録媒体10、110における記録部12にレーザー光を照射してレーザーアブレーションを行うLA部22と、このレーザーアブレーションを行うことによって記録部12から得られる飛散物をLA部22から導入しプラズマでイオン化して質量分析を行うICP−MS部23とを備えている。
【0076】
LA部22は、試料室24、レーザーユニット25、CCDカメラ26を主として備えている。試料室24内には試料台28が設けられており、この試料台28の上には、分析対象の記録部12を有する記録媒体10、110が配置される。
【0077】
このようなLA部22において、レーザーユニット25から所定の波長で出射されたレーザー光は、まず、ミラー30,31で順次反射され、波長変換素子32へ入射される。波長変換素子32で波長を半減されたレーザー光は、波長変換素子33で更に波長を半減される。そして、ミラー34,35,36で反射された後、レンズ37を通り、最後にビームスプリッタ38で反射されて試料室24内の記録媒体10、110へと向かうようになっている。
【0078】
レーザーユニット25は、例えば、波長1064nmのNd−YAGレーザーを搭載している。そして、例えば、波長1064nmのレーザー光を波長変換素子32で波長532nm(2次高調波)に変換し、その後、波長変換素子33で波長532nmから波長266nm(3次高調波)に変換する。このように、レーザー光を短波長とすることにより、レーザー光のエネルギーが高まり、より多くの物質に対してアブレーションを行うことができる。
【0079】
一方、CCDカメラ26は、ビームスプリッタ38を介して試料室24内に配置された記録媒体10、110を観察できるようになっており、例えば、記録媒体10、110の表面におけるレーザー光の照射位置を観察する。
【0080】
試料室24には、アルゴンガス等のキャリアガスを試料室24内に導入する導入管39と、試料室24外に導出する導出管40とが接続されている。これら導入管39及び導出管40としては、例えばタイゴンチューブなどが用いられる。
【0081】
一端が試料室24に接続された導出管40は、他端がICP−MS部23におけるプラズマトーチ41の後端部に接続されている。そして、導入管39によって試料室24内へ導入されたキャリアガスは、レーザー光の照射によって飛散された記録媒体10、110の記録部12から得られる飛散物と共に、導出管40を通ってICP−MS部23へと向かうようになっている。
【0082】
ICP−MS部23は、導入管42からキャリアガスと共に導入された飛散物をイオン化するプラズマPを発生させるプラズマトーチ41と、このプラズマトーチ41の先端部近傍に位置するイオン導入部43を有する質量分析部44とを備えている。
【0083】
プラズマトーチ41は、例えば3重管構造となっており、導入管42からキャリアガスが導入され、管46からプラズマP形成用のプラズマガスが導入され、管47からプラズマトーチ41の壁面を冷却するためのクーラントガスが導入されるようになっている。キャリアガス、プラズマガス及びクーラントガスとしては、例えば、アルゴンガスなどを用いる。
【0084】
また、プラズマトーチ41内には、キャリアガス、プラズマガス及びクーラントガスを合わせ、全体として約15〜20リットル/分の流量のガスが供給される。それぞれのガス導入量の一形態としては、キャリアガスが約1リットル/分、プラズマガスが約1リットル/分、クーラントガスが約16リットル/分である。
【0085】
そして、プラズマトーチ41には、図示しない高周波電源に接続された高周波コイル48が先端側に備えられており、この高周波コイル48に電圧が印加されることにより、プラズマトーチ41の先端側の内部にプラズマPが形成される。
【0086】
質量分析部44のイオン導入部43は、プラズマトーチ41の先端に対向する導入孔49を有している。そして、この導入孔49を通して、プラズマPからの光やイオンを筐体50内に導入する。なお、導入孔49の直径は、例えば1mm程度である。
【0087】
筐体50内は、真空ポンプ51,52によって、イオン導入部43側が低真空室、その奥が高真空室というように、真空度が異なる2つの部屋に分かれている。そして、質量分析部44は、筐体50内において、プラズマPからの光とイオンとをイオンレンズ53で分離してイオンのみを通過させ、質量多重極部54で特定のイオンのみを取り出して検出器55で検出するようになっている。
【0088】
ICP−MS部23としては、例えば、横河アナリティカル製Agilent7500s(ICS−MS)を用いることができる。またこのICP−MS部23によると、測定できる記録材料は、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、Ar、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Kr、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pb、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Xe、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Th、U等が挙げられる。
【0089】
次に、上述した記録情報の再生装置20を用いた第1実施形態の記録媒体10の記録情報の再生方法について説明する。
【0090】
LA部22では、記録媒体10を試料台28の上に設置する。このとき、基体11の一面11aがビームスプリッタ38に向けられるように記録媒体10を設置する。
【0091】
このとき、導入管39からアルゴンガス等のキャリアガスを試料室24内に導入すると共に、導出管40を経て試料室24外に導出させる。
【0092】
一方、ICP−MS部23では、高周波コイル48に電圧を印加することにより、プラズマトーチ41の先端側の内部にプラズマPを形成する。このとき、導入管42からキャリアガスを導入すると共に、管46からプラズマP形成用のプラズマガスを導入し、管47からプラズマトーチ41の壁面を冷却するためのクーラントガスを導入する。また筐体50内は、真空ポンプ51,52によって、イオン導入部43側を低真空、その奥を高真空となるようにする。
【0093】
このとき、記録媒体10の表面におけるレーザー光の照射位置をCCDカメラ26を用いて観察し、レーザー光の照射位置が記録部12a〜12iのうちのいずれか、例えば記録部12aに合っているか確認する。
【0094】
この状態で、レーザーユニット25からレーザー光を出射させる。すると、レーザー光は、まず、ミラー30,31で順次反射され、波長変換素子32へ入射される。波長変換素子32で波長を半減されたレーザー光は、波長変換素子33で更に波長を半減される。そして、ミラー34,35,36で反射された後、レンズ37を通り、最後にビームスプリッタ38で反射されて試料室24内の記録媒体10の記録部12aに入射される。これにより、記録部12aにおいて、記録媒体10の最表面側の記録層である記録層14に対してレーザーアブレーションが行われる。
【0095】
このとき、レーザー光の照射によって記録層14が粉砕され、このとき得られる飛散物は、導入管39によって試料室24内へ導入されたキャリアガスにより、導出管40を経てICP−MS部23へと移送される。
【0096】
ICP−MS部23では、プラズマPからの光やイオンは、導入孔49を通して、筐体50内に導入される。
【0097】
質量分析部44では、筐体50内において、プラズマPからの光とイオンとがイオンレンズ53で分離されてイオンのみが通過し、質量多重極部54で特定のイオンのみが取り出されて検出器55で検出される。こうして記録層14について元素分析が行われる。
【0098】
こうして得られる記録層14の元素分析の結果から、記録層14の元素の組成及び重量が測定される。このとき、元素については的確に検出することが可能であり、且つ、元素重量については広範囲にわたって検出することが可能である。特に、LA−ICP−MS装置21が用いられる場合、元素が極微量であっても高感度且つ高精度で元素の組成及び重量の分析を行うことができる。
【0099】
そして、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録部12の記録層14に記録された記録情報を再生することができる。このとき、得られた分析結果から変換コードに基づいて記録情報を再生する操作は、ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0100】
こうして記録層14をレーザー光により粉砕していると、やがてレーザー光が熱拡散層17aまで粉砕するようになる。このとき、元素分析に際して、熱拡散層17aに含まれる元素の組成及び重量が検知される。このため、記録層14についての粉砕が終了したことを検知することができる。また、熱拡散層17aは熱拡散材を含有するため、記録層14を粉砕する場合に、熱拡散層17aの存在により、記録層14で発生する熱が、隣に配置されている未粉砕の記録層15にまで伝導することが十分に防止される。したがって、記録層14を粉砕する場合に、隣の記録層15まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。よって、記録層14について、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0101】
続いて、熱拡散層17aを粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層17aに隣接する記録層15に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層15の粉砕が開始されたことを知ることができる。この記録層15についても、記録層14と同様に、元素分析を行い、元素の組成及び重量を測定する。このとき、この測定結果から、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録層15に記録された記録情報を再生することができる。
【0102】
こうして記録層15をレーザー光により粉砕していると、やがてレーザー光が熱拡散層17bまで粉砕するようになる。このとき、元素分析に際して、熱拡散層17bに含まれる元素の組成及び重量が検知される。このため、記録層15についての粉砕が終了したことを検知することができる。また、熱拡散層17bは熱拡散材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層15を粉砕する場合でも、熱拡散層17bの存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層16まで伝導することが十分に防止される。したがって、記録層15を粉砕する場合に、隣の記録層16まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。よって、記録層15について、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0103】
続いて、熱拡散層17bを粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層17bに隣接する記録層16に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層16の粉砕が開始されたことを知ることができる。この記録層16についても、記録層14と同様に、元素分析を行い、元素の組成及び重量を測定する。このとき、この測定結果から、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録層16に記録された記録情報を再生することができる。
【0104】
このようにして記録部12aに含まれる記録情報の再生を行うと、記録部12aが複数の記録層14〜16を有する場合であっても、各記録層14〜16を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。従って、各記録層14〜16ごとに、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0105】
こうして記録部12aに含まれる記録層14〜16のすべてについて記録情報の再生が終了したならば、記録部12b〜12iについても、記録部12aと同様にして記録情報の再生を行う。
【0106】
こうして記録媒体10により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、記録媒体10によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0107】
なお、上記再生方法では、記録層14〜16をレーザーアブレーションによって粉砕する。このため、この再生方法によれば、上記記録層14〜16に記録された情報は、一度しか読み出すことができない。したがって、この再生方法によれば、上記記録媒体10を、セキュリティーの保護等に使用可能な、いわゆるRead Once Memoryの記録媒体として用いることができる。
【0108】
次に、上述した記録情報の再生装置20を用いた第2実施形態の記録媒体110の記録情報の再生方法について説明する。
【0109】
記録媒体10の代わりに記録媒体110を用いる以外は上述した第1実施形態の再生方法と同様である。
【0110】
すなわち、再生装置20のLA部22に記録媒体110を設置し、レーザーアブレーションを行い、ICP−MS部23にて元素分析が行われる。こうして得られる元素分析の結果を表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。
【0111】
記録媒体110を用いてレーザーアブレーションを行う場合、記録層14をレーザー光により粉砕していると、やがてレーザー光が熱拡散層17dまで粉砕するようになる。この元素分析に際して、熱拡散層17dに含まれる元素の組成及び重量が検知される。このため、記録層14についての粉砕が終了したことを検知することができる。また、熱拡散層17d、17cは熱拡散材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層14を粉砕する場合でも、熱拡散層17d、17cの存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層15にまで伝導することが十分に防止される。したがって、記録層14を粉砕する場合に、隣の記録層15まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。よって、記録層14について、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0112】
続いて、熱拡散層17dを粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層17dに隣接する記録層15に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層15の粉砕が開始されたことを知ることができる。この記録層15についても、記録層14と同様に、元素分析を行い、元素の組成及び重量を測定する。このとき、この測定結果から、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録層15に記録された記録情報を再生することができる。
【0113】
こうして記録層15をレーザー光により粉砕していると、やがてレーザー光が熱拡散層17eまで粉砕するようになる。このとき、元素分析に際して、熱拡散層17eに含まれる元素の組成及び重量が検知される。このため、記録層15についての粉砕が終了したことを検知することができる。また、熱拡散層17eは熱拡散材を含有するため、レーザーアブレーションにより記録層15を粉砕する場合でも、熱拡散層17eの存在により、レーザーアブレーションによって発生する熱が、隣に配置されている記録層16まで伝導することが十分に防止される。したがって、記録層15を粉砕する場合に、隣の記録層16まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。よって、記録層15について、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0114】
続いて、熱拡散層17eを粉砕すると、元素分析により当該熱拡散層17eに隣接する記録層16に含まれる記録材料が検出されることとなるため、記録層16の粉砕が開始されたことを知ることができる。この記録層16についても、記録層14と同様に、元素分析を行い、元素の組成及び重量を測定する。このとき、この測定結果から、表1に示す変換コードに基づきコード列が算出される。このとき、コード列に対して予め情報が関係付けられていれば、コード列に基づき、記録層16に記録された記録情報を再生することができる。
【0115】
このようにして記録部12aに含まれる記録情報の再生を行うと、記録部12aが複数の記録層14〜16を有する場合であっても、各記録層14〜16を粉砕する場合に、隣の記録層まで粉砕されることを十分に防止することが可能となる。従って、各記録層14〜16ごとに、それに含まれる情報を的確に再生することができる。
【0116】
こうして記録部12aに含まれる記録層14〜16のすべてについて記録情報の再生が終了したならば、記録部12b〜12iについても、記録部12aと同様にして記録情報の再生を行う。
【0117】
こうして記録媒体110により、多大な情報を再生することができる。言い換えると、記録媒体110によれば、大容量化を実現することが可能となる。
【0118】
なお、上記再生方法では、記録層14〜16をレーザーアブレーションによって粉砕する。このため、この再生方法によれば、上記記録層14〜16に記録された情報は、一度しか読み出すことができない。したがって、この再生方法によれば、上記記録媒体110を、セキュリティーの保護等に使用可能な、いわゆるRead Once Memoryの記録媒体として用いることができる。
【0119】
以上、本発明の好適な実施形態について述べたが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0120】
例えば、上記実施形態では、記録部は12個であり、各記録部12に含まれる記録層の数は3個であるが、上記実施形態では、記録部を12個以上にすることが可能であり、また、各記録部に含まれる記録層の数も3個以上にすることが可能であり、各記録部12に含まれる記録層の数は必ずしも同一である必要はない。このように記録層の数や記録層の数を増やすことによって、記録媒体10、110によって再生できる情報量を増大させることができる。
【0121】
また図2及び図4に示す記録媒体10、110においては、基体11の一面11a側に記録部12が設けられているが、記録部12は基体11の両面側に設けられていてもよく、更に残りの面に設けられていてもよい。また上記実施形態では基体11が平板状となっているが、基体11は、平板状に限定されるものではなく、立方体や直方体であっても構わない。
【0122】
また記録部12を構成する記録層14〜16の形状は、円柱状、三角柱状、四角柱状等使用する分析装置や記録媒体の形状等に応じて変形することができる。
【0123】
また上記実施形態において、変換コードは、上記表1に限定されず、縦軸については例えば元素数を増やしたり、元素の混合物を挙げることにより増やすことも可能であり、横軸については重量範囲を更に多段階に規定したり、重量範囲(0〜1000ng)を広げたりすることも可能である。すなわち、変換コードは表1のような16進法に限られず、任意に広げることが可能であり、これにより、より大容量の情報を記録することが可能である。
【0124】
上記実施形態においては複数の記録層と熱拡散層とが交互に積層されているが、基体を構成する材料が上述した熱拡散材料であれば、熱拡散層は不要である。この場合、記録層に記録された情報を再生すべく記録層が粉砕される場合に、当該記録層で熱が発生しても、その熱が基体に直接伝達される。このため、記録層で発生する熱が、隣に配置されている未粉砕の記録層にまで到達することを十分に防止することができる。ただし、記録層の間に層を設ける場合、その層は熱拡散材料であることが好ましい。なお、その層は断熱層であってもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明に係る記録媒体の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明に係る記録媒体の第2実施形態を示す平面図である。
【図4】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図5】図1の記録媒体に記録された記録情報を再生する再生装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0126】
10…記録媒体、11…基体、12,12a〜12i…記録層、13,13a〜13c…凹部、14,15,16・・・記録層、17,17a〜17e・・・熱拡散層、18・・・熱拡散部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの凹部を有する基体と、
前記基体の前記凹部に収容される記録部とを備え、
前記記録部は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、前記元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録している複数の記録層を含んで構成され、
前記凹部には前記基体に接触する少なくとも1つ以上の熱拡散層が収容され、前記凹部において、前記熱拡散層と前記複数の記録層とは交互に積層されていることを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記基体を構成する材料と、前記熱拡散層を構成する熱拡散材料とが同一であることを特徴とする請求項1記載の記録媒体。
【請求項3】
前記熱拡散層を構成する熱拡散材料がAl、Au、Cu、AlTa、AlCr、AlTi、AlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記基体を構成する材料がAl、Au、Cu、AlTa、AlCr、AlTi、AlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項5】
基体と、
前記基体に設けられ、複数の熱拡散層を積層してなる熱拡散部とを備え、
前記熱拡散部は少なくとも1つの記録部を含有し、前記記録部は前記複数の熱拡散層のそれぞれに含まれる記録層を含んで構成され、複数の前記記録層は前記記録部において前記複数の熱拡散層の積層方向に沿って互いに離間して配置されており、前記複数の記録層は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、前記元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録していることを特徴とする記録媒体。
【請求項6】
前記熱拡散層に含まれる元素と、前記記録層に含まれる元素とが異なることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記複数の記録層が共通する元素を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の記録媒体における前記複数の記録層のうちのいずれかの記録層において、前記記録層を粉砕し、得られる飛散物について、元素の組成及び/又は元素重量の分析を行い、その分析結果に基づいて前記記録層に含まれる記録情報を再生する工程を繰り返し行うことを特徴とする記録情報の再生方法。
【請求項9】
前記記録層の粉砕を、レーザーアブレーションにより行い、前記記録層に含まれる元素の組成及び/又は元素重量の分析を、ICP質量分析法を用いて行うことを特徴とする請求項8に記載の記録情報の再生方法。
【請求項10】
少なくとも1つの凹部を有し、熱拡散材料からなる基体と、
前記基体の前記凹部に収容される記録部とを備え、
前記記録部は互いに異なる元素組成及び/又は元素重量の記録材料を含有し、前記元素組成及び/又は元素重量に対応した情報を記録している複数の記録層を含んで構成されていることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−18912(P2006−18912A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194993(P2004−194993)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)