説明

記録紙用耐水化剤

【課題】 インクジェット記録紙に耐水性を付与し、インクのにじみを防止する、優れた記録紙耐水化剤を提供する。
【解決手段】 分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物を構成モノマーとし、分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物を重合開始剤として重合することにより得られたポリマーからなる記録紙用耐水化剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は記録紙用耐水化剤に関し、詳しくは、特定の製造方法により得られたポリマーからなるインクジェット記録に好適な記録紙の耐水化剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年のOA機器の普及は目覚ましいものがあり、それに伴い、プリンターの性能も向上されてきた。特に、プリント速度、解像度、階調性等の向上によって、記録紙に対してもインクの高速吸収性、高吸収容量、高濃度印字、画質の向上等が要求されてきている。このような要請の中、従来からカチオン性ポリマー、例えばジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物を記録紙に添加あるいは塗布し、染顔料のにじみや記録紙の耐水性、耐候性を改善する試みがなされている。例えば、特公平3−2072号公報は、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物を記録紙に塗布し、インクジェット記録用紙の記録画像の耐水性等を向上させる旨を開示する。又、特公平5−71393号公報は、同じくジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物と、水溶性金属塩を記録紙に塗布し、インクジェット記録用紙の記録画像の耐水性等を向上させる旨を開示する。又、特公平6−92190号公報は、アクリルアミドとジメチルジアリルアンモニウムクロライドの共重合体を記録紙に塗布し、インクジェット記録用紙の記録画像の耐水性等を向上させる旨を開示する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物は、従来から過硫酸系のラジカル重合開始剤を用いて製造されていたが、このような製造方法により得られたジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物は、記録紙用の耐水化剤として使用した場合に十分な耐水性が得られていなかった。
【0004】
【課題を解決する手段】そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、アゾ系のラジカル重合開始剤を使用して製造されたカチオン性ポリマーを記録紙用の耐水化剤として用いた場合に優れた耐水性を示すことを発見し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物をモノマーとし、分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物を重合開始剤として重合することにより得られたポリマーからなる記録紙用耐水化剤である。又本発明は記録紙用耐水化剤を記録紙に塗工及び/又は含浸させたインクジェット記録紙である。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明の耐水化剤を構成するポリマーの構成モノマーである分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物としては、例えば、ハロゲン化ジアルキルジアリルアンモニウム、(メタ)アクリル酸4級アンモニウム、(メタ)アクリル酸アミド4級アンモニウム、(メタ)アクリル酸4級アミノエステル、ビニルベンジルアルキルアンモニウム等が挙げられる。分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物は、1種又は2種以上を用いてよいが、優れた耐水性を得るためには、次の一般式(1)で表わされるハロゲン化ジアルキルジアリルアンモニウムを用いるのが好ましい。
【0006】
【化3】


【0007】一般式(1)において、R1及びR2はアルキル基を表わす。なかでも、メチル基、エチル基等の比較的短鎖のアルキル基が好ましい。Xはハロゲン原子であり、通常は塩素原子である。
【0008】又本発明の耐水化剤を構成するポリマーは、分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物の他に、必要に応じてその他の重合性化合物を構成モノマーとしてもよい。その他の重合性化合物としては、例えば、エチレンイミン、ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアミノメチルスチレン、ハロゲン化ビニルピリジン等の窒素含有化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル化合物、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミン、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキルアミン(メタ)アクリレ−ト等のアクリル化合物、スチレン、p−クロロスチレン、α−メチルスチレン、イソプロピルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキサン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン等のα−オレフィン化合物、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン等の共役ジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等 のハロゲン化オレフィン化合物、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和2塩基酸類およびこれらの(ヒドロキシ)エステル類、その他、N,N,N−トリアルキルアミノアルキルメタクリレ−トメチルスルフェ−トもしくはクロライド、ビニルベンジルトリアルキルメチルスルフェ−トもしくはクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムメチルスルフェ−トもしくはクロライド、ナトリウムもしくはアンモニウムスチレンスルホネ−ト、ナトリウム−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネ−ト等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アミドはハロゲン化ジアルキルジアリルアンモニウムと容易に重合するので好ましい。
【0009】本発明の耐水化剤を構成するポリマーを製造するために用いられる分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物からなる重合開始剤としては、光や熱などのエネルギーに反応してアゾ基が分解し、ラジカルを発生することができる化合物であれば特に限定されないが、なかでも一般式(2)で表される基を有する化合物が好ましい。
【0010】
【化4】


【0011】かかる基を有する化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスシアノ吉草酸クロライド、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンー1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスメチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス−(4−シアノペンタノール)、2,2’−アゾビス−(2−シアノプロパノール)、2,2’−アゾビス−(2−メチル−N−2−ヒドロキシプロピオン酸アミド)等が挙げられる。又、分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物としてハロゲン化ジアルキルジアリルアンモニウムクロライドを用いる場合は、水中で重合反応を行うため、分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物からなる重合開始剤は水溶性であることが好ましい。上記の例示した分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物のなかで水溶性を示す化合物は、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、4,4’−アゾビス−(4−シアノペンタノール)、2,2’−アゾビス−(2−シアノプロパノール)等である。
【0012】上記の分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物からなる重合開始剤を用いてポリマーを製造した場合に、製造されたポリマーが、他の重合開始剤、例えば過硫酸系重合開始剤を用いて製造されたポリマーより優れた耐水性を示す理由は、以下のとおりであると推測する。すなわち、一般にアゾ系ラジカル重合開始剤がラジカルを発生する機構は、以下のとおりである。
【0013】
【化5】


【0014】一方、過硫酸系ラジカル重合開始剤がラジカルを発生する機構は以下のとおりである。
【0015】
【化6】


【0016】以上の反応においては、発生したラジカルが、ともに重合性モノマーを攻撃し、連鎖反応で反応が進むが、この場合には生成するポリマーの末端に、最初にラジカルが発生した基(上記のR・又はSO4-・)が結合する。この末端基のために、製造されたポリマーを記録紙用耐水化剤として使用した場合に耐水性に差が現れるものと推測している。
【0017】本発明の耐水化剤を構成するポリマーの製造方法は、上記分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物からなる重合開始剤を用いる限りにおいては特に限定されないが、一般には水などの水性媒体中に溶解又は分散させたハロゲン化ジアルキルジアリルアンモニウム等に、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩等をモノマー成分の0.02〜5重量%程度添加し、常圧下、温度は室温〜100℃、好ましくは60〜80℃にて10〜24時間程度反応させることにより製造することができる。
【0018】本発明の記録紙用耐水化剤の使用形態は、記録紙に用いられる限りは特に限定されない。通常は、水溶液状態で公知の記録紙の表面にスプレーするか、抄紙工程中にサイズプレス、ロールコーター等によって表面に塗布あるいは含浸するか、又は公知のコートタイプの記録紙用の塗料中に混合し、ブレード、エアナイフ、ロールコーター、ブラッシュコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター等の塗工機により塗布あるいは含浸させればよい。又、乾燥固化工程も、常温又は熱風乾燥、熱線、赤外線輻射、熱ドラムによる乾燥方法を用いてよい。本発明の記録紙用耐水化剤の使用においては通常は水あるいは他の有機溶剤に溶解又は分散させた状態で塗工液として記録紙に塗工及び/又は含浸させて用いられる。その場合は、塗工液の他の成分として任意に、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、尿素ホルマリン樹脂微粉末等の各種填料、微粒シリカ、コロイダルシリカ、シリカゾル、酸性白土、クレー、タルク、炭酸カルシウム、けいそう土、酸化チタン、硫酸バリウム等の白色顔料、酸化澱粉、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール(変性物を含む)、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン等の水溶性バインダー、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、熱ゲル化剤、消泡剤、発泡剤、蛍光増白剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、防腐剤、帯電防止剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、pH調整剤、耐水化剤等を含んでもよい。又これらの任意成分とは別々の塗工液として記録紙に塗布及び/又は含浸されてもよい。
【0019】本発明の記録紙用耐水化剤は、特にインクジェット記録のために用いられる記録紙に耐水化剤として用いるのに好適で、記録されたインクのにじみを防止し、従来の方法により製造されたポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド系耐水化剤に比して記録紙に優れた耐水性を与えるものである。
【0020】
【実施例】次に本発明を実施例によって具体的に説明する。本実施例に用いた記録紙添加剤は以下の合成例により合成した。
(合成例1)温度計、コンデンサー及び撹拌装置を備えた1リットルガラス4つ口フラスコに、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド30%水溶液900gを仕込み、70℃に加温しながら窒素ガスを吹き込み窒素置換を行った。次に、上記ジメチルジアリルアンモニウムクロライドに対し7.5重量%の2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩(20.3g)を添加して反応温度を65〜75℃に保ちながら18時間重合反応させ、固形分30重量%のポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド水溶液を得た。未反応の残存モノマーは原料に対し4.2重量%であり、得られたポリジメチルジアリルアンモニウムクロライドの極限粘度は1規定NaCl、30℃で測定したところ0.18であった。これを耐水化剤1とする。
【0021】(合成例2)合成例2の装置に更に滴下ロートを備えた1リットルガラス4つ口フラスコに、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド20%水溶液200gを仕込み、60℃に加温しながら窒素ガスを吹き込み窒素置換を行った。次に、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩1.88gを添加して反応温度を55〜65℃に保ちながらアクリルアミド20%水溶液176gを6時間かけて滴下し、その後24時間重合反応させた。反応終了後、蒸留水を460g添加して、固形分9重量%のポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体を得た。未反応のモノマーは、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドが原料に対し30重量%残存しており、アクリルアミドは残存していなかった。得られたポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体の極限粘度は1規定NaCl、30℃で測定したところ0.72であった。これを耐水化剤2とする。
【0022】(比較合成例1)2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩の代わりに過硫酸アンモニウムを用いた以外は合成例1と同様の方法でポリジメチルジアリルアンモニウムクロライドを得た。未反応の残存モノマーは原料に対し4.1重量%であり、得られたポリジメチルジアリルアンモニウムクロライドの極限粘度は1規定NaCl、30℃で測定したところ0.10であった。これを比較耐水化剤1とする。
【0023】(比較合成例2)2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)塩酸塩の代わりに過硫酸アンモニウムを用いた以外は合成例2と同様の方法でポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体を得た。未反応のモノマーは、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドが原料に対し35重量%残存しており、アクリルアミドは残存していなかった。得られたポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体の極限粘度は1規定NaCl、30℃で測定したところ0.65であった。これを比較耐水化剤2とする。
【0024】(実施例1)上記の合成例1、2ならびに比較合成例1、2で合成された耐水化剤を30重量部に、微粒子シリカ70重量部、ポリビニルアルコール19重量部、ポリアクリル酸ナトリウム0.5重量部、消泡剤0.5重量部に水を加えて撹拌混合し、濃度が15重量%の塗工液を得た。この塗工液を、米坪60g/m2、ステキヒトサイズ度20秒の市販上質紙の基紙上にワイヤーバーで塗布量が10g/m2になるように塗布し、乾燥、平滑処理を行ってインクジェット記録用紙を得た。得られたインクジェット記録用紙に市販のインクジェットプリンターを用いて印字を行った。
【0025】上記の印字を行ったインクジェット記録用紙について、以下の方法により耐水性の試験を行い、インクのにじみを肉眼で観察し評価した。結果を表1に示した。
(評価法1)印字を行ったインクジェット記録用紙を25℃の水に5分間浸水させた。
(評価法2)印字を行ったインクジェット記録用紙を20℃、65%RHの恒温槽に24時間放置した。
(評価法3)印字を行ったインクジェット記録用紙を40℃、90%RHの恒温槽に24時間放置した。
【0026】
【表1】


【0027】以上の結果から、重合開始剤としてアゾ基をもった化合物を用いて製造された耐水化剤は、他の重合開始剤を用いて製造された耐水化剤よりも耐水性が向上していることが明らかとなった。
【0028】
【発明の効果】本発明により、インクジェット記録のために用いられる記録紙に耐水性を付与し、インクのにじみを防止する、優れた記録紙耐水化剤を提供することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物を構成モノマーとし、分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物を重合開始剤として重合することにより得られたポリマーからなる記録紙用耐水化剤。
【請求項2】 分子内に1つ以上の4級窒素原子を有する重合性化合物が、下記の一般式(1):
【化1】


(R1及びR2はアルキル基を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。)で表わされるハロゲン化ジアルキルジアリルアンモニウムである請求項1記載の記録紙用耐水化剤。
【請求項3】 さらに、(メタ)アクリル酸アミドを構成モノマーとする請求項2記載の記録紙用耐水化剤。
【請求項4】 分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物が、下記の一般式(2):
【化2】


で表される基を有する化合物である請求項1乃至3のいずれか1項記載の記録紙用耐水化剤。
【請求項5】 分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物が、水溶性の化合物である請求項1乃至4のいずれか1項記載の記録紙用耐水化剤。
【請求項6】 分子内に1つ以上のアゾ基を有する化合物が、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩である請求項1乃至5のいずれか1項記載の記録紙用耐水化剤。
【請求項7】 水性媒体に、請求項1乃至6のいずれか1項記載の記録紙用耐水化剤を含有する記録紙用塗工液。
【請求項8】 請求項7記載の塗工液を記録紙に塗工及び/又は含浸させた記録紙。
【請求項9】 請求項7記載の塗工液を記録紙に塗工及び/又は含浸させたインクジェット用記録紙。

【公開番号】特開平9−291493
【公開日】平成9年(1997)11月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−100296
【出願日】平成8年(1996)4月22日
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)