説明

記録表示材料及びその製造方法

【課題】熱的安定性が高い記録表示材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板5上にPMAz8McやPMAz8Aのシクロヘキサノン溶液(4wt%)をスピンコート法(3000rpm、20sec)で塗布し、PMAz8McやPMAz8Ac上にポリビニルアルコール水溶液(2wt%)をスピンコート法(3000rpm、20sec)で塗布する。こうした成膜作業を繰り返してPMAz8McやPMAz8AcとPVAの交互多層膜を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録表示材料及びその製造方法に関する。詳しくは、2種の素材を光の波長程度の膜厚で交互に積層し特定の波長の光を反射する記録表示材料及びその製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
屈折率の異なる2種の素材を光の波長程度の膜厚で交互に積層すると、一次元フォトニック結晶(1DPCs:1dimensional photonic crystals)となり、特定の波長の光を反射してフォトニックバンドギャップ(PBG:photonic band gap)を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図6は従来の記録表示材料を説明するための模式図であり、ここで示す記録表示材料101は、化学構造式4で示す光応答性高分子液晶層(以下、「PMAz6Ac」と称する)102と、ポリビニルアルコール層(PVA)103といった2種類の高分子材料が光の波長程度の膜厚で交互に積層されている。
【0004】
[化学構造式4]

【0005】
PMAz6Acは、常温より高い所定の温度でスメクチック状態を示し、極性界面に対しては垂直に配向する。なお、「スメクチック状態」とは、分子の方向が長軸方向に揃い、かつ隣どうしの相互の配位も規則的である状態を意味する。
【0006】
また、PMAz6Acが有するアゾベンゼンは、その扁平な分子構造に基づき異方的な分子屈折率を有しており、長軸方向はn、短軸方向はnで表され、分子配列がランダムな状態では、平均の屈折率navが観察されることとなる(図7参照)。
【0007】
ここで、従来の記録表示材料では、上述した様に特定の波長の光を反射して構造色が生じることとなるのであるが(図8参照)、この構造色は、Braggの反射式(式1参照)に表される様に、PMAz6AcとPVAの膜厚(周期長)とそれぞれの平均屈折率、観察角度(反射角度)で決定されることとなる。
【0008】
なお、図8中符号(i)は積層数が2層の場合、符号(ii)は積層数が4層の場合、符号(iii)は積層数が6層の場合、符号(iv)は積層数が8層の場合、符号(v)は積層数が10層の場合、符号(vi)は積層数が15層の場合、符号(vii)は積層数が20層の場合を示している。
【0009】
[式1]

【0010】
上記の式1中の「m」は整数、「a」は積層される2層の膜厚合計(周期長)、「n」はA層の屈折率、「n」はB層の屈折率、「nav」はA層の平均屈折率、「f」は体積分率(体積分率:混合物や複合体で注目する物質の占める体積の割合を示したものであり、0〜1の値をとる)を意味している。
【0011】
また、従来の記録表示材料の反射光強度(反射率)は式2で表される様に、PMAz6AcとPVAの屈折率の比に強く依存し、その差が大きいほど強い反射光強度を示すこととなり、その差が小さいほど弱い反射強度を示すこととなる。
【0012】
[式2]

【0013】
なお、式2中の「R」は反射率、「nH」は高い屈折率、「nL」は低い屈折率、「nS」は基板の屈折率、「q」は層数を示している。
【0014】
ところで、上記の様に構成された従来の記録表示材料では、構造色を示している状態(図9(a)で示す状態)からPMAz6Acが液晶相を示す温度(60℃〜80℃以上)に加熱処理を行うと、スメクチック状態を示し(図9(b)参照)構造色が消失する。
即ち、加熱処理を行うことによって、図9(a)の状態から図9(b)の状態に変化して構造色が消失することとなる。
【0015】
図10に加熱処理前後における波長と反射光強度との関係を示しているが、加熱処理によりPMAz6Acの屈折率に変化が生じ、PMAz6Acの屈折率とPVAの屈折率の差が小さくなり、そのことによって反射光強度が低下していることが分かる。なお、図10中符号Aは熱処理前を示し、図10中符号Bは熱処理後を示している。
【0016】
また、加熱処理後でスメクチック状態の記録表示材料にアゾベンゼンが光異性化する光(紫外線など)を照射すると、液晶分子の配列に変化が生じ(図9(c)参照)構造色が再現することとなる(図11参照)。なお、図11中符号Cは光の照射前を示し、図11中符号Dは光の照射後を示している。
即ち、光を照射することによって、図9(b)の状態から図9(c)の状態に変化して構造色が再現することとなる。
【0017】
なお、光の照射後には時間の経過に伴って更に液晶分子の配列に変化が生じ(図9(d)参照)屈折率が増大してPVAとの屈折率の差が大きくなり、反射光波長が長波長側にシフトしながら反射光強度が増加し、加熱処理を行う前の反射スペクトルに戻ることとなる(図11参照)。なお、図11中符号Eは光の照射から1日経過後を示している。
即ち、光を照射した後の時間の経過に伴って、図9(c)の状態から図9(d)の状態に変化して構造色がより鮮明に視認できるようになる。
【0018】
更に、光の照射後の記録表示材料をもう一度加熱処理を行うと、再びスメクチック状態を示し構造色が消失する。
即ち、加熱処理を行うことによって、図9(d)の状態から図9(b)の状態に変化して構造色が消失することとなる。
【0019】
この様に、従来の記録表示材料では、加熱処理と光の照射を繰り返すことで反射のオンとオフとを制御することが可能であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】第58回高分子学会年次大会予稿集Vol.58,No.1,p.1465(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記した従来の記録表示材料では、加熱温度が上昇すると反射のオンとオフとを制御することができなくなってしまう。具体的には、加熱温度が80℃程度の場合には加熱処理により液晶分子が配向性を示していたのに対して、加熱温度が100℃程度に達すると加熱処理により液晶分子が配向性を示さなくなってしまう。
【0022】
図12(a)はPMAz6AcとPVAとを積層した状態(加熱処理前の状態)における波長と反射光強度との関係を示すグラフであり、図12(b)は80℃で加熱処理を行った場合における波長と反射光強度との関係を示すグラフであり、図12(c)は100℃で加熱処理を行った場合における波長と反射光強度との関係を示すグラフである。なお、図12中符号aはサンプルのフィルムの吸収スペクトルを測定する際に測定光に対して0°傾けて測定した場合であり、図12中符号bはサンプルのフィルムの吸収スペクトルを測定する際に測定光に対して40°傾けて測定した場合を示している。
【0023】
図12に示す波長と反射光強度との関係からも、80℃で加熱処理を行った場合には図12(b)の様に配向性を示していたのに対して、100℃で加熱処理を行った場合には図12(c)の様に配向性を示さなくなってしまうことが分かる。
【0024】
本発明は上記の点に鑑みて創案されたものであって、熱的安定性が高い記録表示材料及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の目的を達成するために、本発明に係る記録表示材料では、光の照射と加熱処理で液晶材料の配向状態を可逆的に制御可能であり、同液晶材料の配向状態に基づいて屈折率が決定されると共に、スペーサ長が8であり、アゾベンゼン基を有する高分子液晶層と、該高分子液晶層と交互に積層されると共に、前記高分子液晶層中の液晶材料を所定の向きに配向せしめる配向材料層とを備える。
【0026】
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る記録表示材料の製造方法では、光の照射と加熱処理で液晶材料の配向状態を可逆的に制御可能であり、同液晶材料の配向状態に基づいて屈折率が決定されると共に、スペーサ長が8であり、アゾベンゼン基を有する高分子液晶層と、該高分子液晶層中の液晶材料を所定の向きに配向せしめる配向材料層とを交互に積層する工程を備える。
【0027】
ここで、高分子液晶層のスペーサ長が8であることによって、高温度域(例えば100℃程度)で加熱処理を行ったとしても液晶材料が配向性を示すことができる。即ち、記録表示材料の通常の使用環境は80℃程度であることを考慮すると、例えば100℃程度の高温度域まで加熱された場合であっても、液晶材料の配向状態を加熱処理と光の照射により可逆的に制御することが可能となる。
【0028】
また、高分子液晶層の液晶材料の配向状態が光の照射と加熱処理で可逆的に制御可能であり、更には高分子液晶層の屈折率が液晶材料の配向状態に基づいて決定されることによって、加熱処理と光の照射を繰り返すことで反射のオンとオフとを制御することができる。
【0029】
なお、加熱処理により高分子液晶層の屈折率が配向材料層の屈折率と略同一となる様に液晶材料が配向し、光の照射により高分子液晶層の屈折率が配向材料層の屈折率と差が生じる様に液晶材料が配向すべく構成された場合には、加熱処理により反射がオフの状態となり、光の照射により反射がオンの状態となる。
【0030】
また、光の照射後の時間の経過により高分子液晶層の液晶材料の配向状態が変化して高分子液晶層の屈折率と配向材料の屈折率に、光の照射直後よりも差が生じる様に構成された場合には、光の照射後の時間の経過により反射の強度が大きくなることとなる。
【0031】
更に、高分子液晶層の液晶材料の配向状態がUVの照射と加熱処理で可逆的に制御可能である場合には、実利用上の安定性の向上が期待できる。
即ち、記録表示材料の実利用を考慮すると、高分子液晶層の液晶材料の配向状態が太陽光や照明光の照射で変化すると、意図しない反射強度の変動が生じてしまうことが考えられる。そのため、高分子液晶層の液晶材料の配向状態がUVの照射で変化する様に構成することで、記録表示材料の安定性の向上が期待できるのである。
【発明の効果】
【0032】
本発明を適用した記録表示材料及び本発明を適用した記録表示材料の製造方法で得られる記録表示材料では、高い熱的安定性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を適用した記録表示装置を説明するための模式図である。
【図2】波長と反射光強度との関係を示すグラフ(1)である。
【図3】波長と反射光強度との関係を示すグラフ(2)である。
【図4】本発明を適用した記録表示材料の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【図5】液晶分子を説明するための模式図である。
【図6】従来の記録表示材料を説明するための模式図である。
【図7】平均屈折率を説明するための模式図である。
【図8】波長と反射光強度との関係を示すグラフ(3)である。
【図9】液晶分子の状態を説明するための模式図である。
【図10】波長と反射光強度との関係を示すグラフ(4)である。
【図11】波長と反射光強度との関係を示すグラフ(5)である。
【図12】波長と反射光強度との関係を示すグラフ(6)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と称する)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.記録表示材料の説明(PMAz8Mcの場合)
2.記録表示材料の説明(PMAz8Acの場合)
3.記録表示材料の製造方法の説明
【0035】
<1.記録表示材料の説明(PMAz8Mcの場合)>
図1(a)は本発明を適用した記録表示材料の一例を説明するための模式図であり、ここで示す記録表示材料1は、化学構造式1で示す光応答性高分子液晶層(以下、「PMAz8Mc」と称する)2と、ポリビニルアルコール層(PVA)3といった2種類の高分子材料が光の波長程度の膜厚(一例として、100〜750nm程度の膜厚)で交互に積層されている。
【0036】
[化学構造式1]

【0037】
PMAz8Mcは、常温より高い所定の温度でスメクチック状態を示し、極性界面に対しては垂直に配向する。また、PMAz8Mcが有するアゾベンゼンは、その扁平な分子構造に基づき異方的な分子屈折率を有しており、長軸方向はn、短軸方向はnで表され、分子配列がランダムな状態では、平均の屈折率navが観察されることとなる(図7参照)。
【0038】
本実施の形態の記録表示材料では、上記した従来の記録表示材料と同様に、特定の波長の光を反射して構造色が生じ、この構造色は、Braggの反射式(式1参照)に表される様に、PMAz8McとPVAの膜厚(周期長)とそれぞれの平均屈折率、観察角度(反射角度)で決定されることとなる。
【0039】
また、本実施の形態の記録表示材料では、上記した従来の記録表示材料と同様に、その反射光強度(反射率)は式2で表され、PMAz8McとPVAの屈折率の比に強く依存し、その差が大きいほど強い反射光強度を示すこととなる。
【0040】
ところで、本実施の形態の記録表示材料では、構造色を示している状態(図9(a)で示す状態)からPMAz8Mcが液晶相を示す温度に加熱処理を行うと、スメクチック状態を示し(図9(b)参照)構造色が消失する。
【0041】
なお、図2(a)に加熱処理前における波長と反射光強度との関係を示し、図2(b)に80℃の加熱処理後における波長と反射光強度との関係を示し、図2(c)に100℃の加熱処理後における波長と反射光強度との関係を示しているが、加熱処理によって反射光強度が低下していることが分かる。ここで、図2中符号aはサンプルのフィルムの吸収スペクトルを測定する際に測定光に対して0°傾けて測定した場合であり、図2中符号bはサンプルのフィルムの吸収スペクトルを測定する際に測定光に対して40°傾けて測定した場合を示している。
【0042】
また、本実施の形態の記録表示材料では、加熱処理後でスメクチック状態の記録表示材料にアゾベンゼンが光異性化する光(紫外線等)を照射すると、液晶分子の配列に変化が生じ(図9(c)参照)構造色が再現することとなる。この点は、上記した従来の記録表示材料と同様である。
【0043】
なお、光は記録表示材料全体に照射しても良いし、部分的に照射しても良い。また、光を照射する領域を制御することで、文字や図形等のパターンを形成することが可能である。
【0044】
更に、光の照射後には時間の経過に伴って更に液晶分子の配列に変化が生じ(図9(d)参照)屈折率が増大してPVAとの屈折率の差が大きくなり、反射光波長が長波長側にシフトしながら反射光強度が増大し、加熱処理を行う前の反射スペクトルに戻ることとなる。この点についても、上記した従来の記録表示材料と同様である。
【0045】
また、本実施の形態の記録表示材料では、光の照射後にもう一度加熱処理を行うと、再びスメクチック状態を示す構造色が消失することとなる。この点についても、上記した従来の記録表示材料と同様である。
【0046】
なお、再度の加熱処理については、記録表示材料全体に対して行っても良いし、部分的な加熱を行っても良い。
【0047】
<2.記録表示材料の説明(PMAz8Acの場合)>
図1(b)は本発明を適用した記録表示材料の他の例を説明するための模式図であり、ここで示す記録表示材料1は、化学構造式2で示す光応答性高分子液晶層(以下、「PMAz8Ac」と称する)4と、ポリビニルアルコール層(PVA)3といった2種類の高分子材料が光の波長程度の膜厚(一例として、100〜750nm程度の膜厚)で交互に積層されている。
【0048】
[化学構造式2]

【0049】
PMAz8Acは、常温より高い所定の温度でスメクチック状態を示し、極性界面に対しては垂直に配向する。また、PMAz8Acが有するアゾベンゼンは、その扁平な分子構造に基づき異方的な分子屈折率を有しており、長軸方向はn、短軸方向はnで表され、分子配列がランダムな状態では、平均の屈折率navが観察されることとなる(図7参照)。
【0050】
本実施の形態の記録表示材料では、上記した本発明を適用した記録表示材料の一例と同様に、特定の波長の光を反射して構造色が生じ、この構造色は、Braggの反射式(式1参照)に表される様に、PMAz8AcとPVAの膜厚(周期長)とそれぞれの平均屈折率、観察角度(反射角度)で決定されることとなる。
【0051】
また、本実施の形態の記録表示材料では、上記した本発明を適用した記録表示材料の一例と同様に、その反射光強度(反射率)は式2で表され、PMAz8AcとPVAの屈折率の比に強く依存し、その差が大きいほど強い反射光強度を示すこととなる。
【0052】
ところで、本実施の形態の記録表示材料では、構造色を示している状態(図9(a)で示す状態)からPMAz8Acが液晶相を示す温度に加熱処理を行うと、スメクチック状態を示し(図9(b)参照)構造色が消失する。
【0053】
なお、図3(a)に加熱処理前における波長と反射光強度との関係を示し、図3(b)に80℃の加熱処理後における波長と反射光強度との関係を示し、図3(c)に100℃の加熱処理後における波長と反射光強度との関係を示しているが、加熱処理によって反射光強度が低下していることが分かる。ここで、図3中符号aはサンプルのフィルムの吸収スペクトルを測定する際に測定光に対して0°傾けて測定した場合であり、図3中符号bはサンプルのフィルムの吸収スペクトルを測定する際に測定光に対して40°傾けて測定した場合を示している。
【0054】
また、本実施の形態の記録表示材料では、加熱処理後でスメクチック状態の記録表示材料にアゾベンゼンが光異性化する光(紫外線等)を照射すると、液晶分子の配列に変化が生じ(図9(c)参照)構造色が再現することとなる。この点は、上記した本発明を適用した記録表示材料の一例と同様である。
【0055】
更に、光の照射後には時間の経過に伴って更に液晶分子の配列に変化が生じ(図9(d)参照)屈折率が増大してPVAとの屈折率の差が大きくなり、反射光波長が長波長側にシフトしながら反射光強度が増大し、加熱処理を行う前の反射スペクトルに戻ることとなる。この点についても、上記した本発明を適用した記録表示材料の一例と同様である。
【0056】
また、本実施の形態の記録表示材料では、光の照射後にもう一度加熱処理を行うと、再びスメクチック状態を示す構造色が消失することとなる。この点についても、上記した本発明を適用した記録表示材料の一例と同様である。
【0057】
ここで、上記した本発明を適用した記録表示材料の一例及び本発明を適用した記録表示材料の他の一例では、配向材料層としてPVAを採用した場合を例に挙げて説明を行っている。しかしながら、配向材料層は高分子液晶層中の液晶材料を所定の向きに配向せしめることができれば充分であり、必ずしもPVAである必要はない。例えば、ポリビニルピロリドン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアミド等であっても良い。
【0058】
<3.記録表示材料の製造方法の説明>
以下、上記の様に構成された記録表示材料の製造方法について説明を行う。即ち、本発明を適用した記録表示材料の製造方法の一例について説明を行う。
本発明を適用した記録表示材料の製造方法の一例では、先ず、図4(a)で示す様に、ガラス基板5上にPMAz8McやPMAz8Acのシクロヘキサノン溶液(4wt%)をスピンコート法(3000rpm、20sec)で塗布することによりPMAz8Mc2やPMAz8Ac4を成膜する。
【0059】
次に、図4(b)で示す様に、PMAz8McやPMAz8Ac上にポリビニルアルコール水溶液(2wt%)をスピンコート法(3000rpm、20sec)で塗布することによりPVA3を成膜する。
【0060】
こうしたPMAz8McやPMAz8AcとPVAの成膜作業を繰り返すことで、PMAz8McやPMAz8AcとPVAの20層の交互多層膜を成膜することによって、図1(a)や図1(b)で示す記録表示材料を得ることができる。
【0061】
なお、本実施の形態では、ガラス基板5上にPMAz8McやPMAz8Acを成膜し、その上層にPVAを成膜しているが、必ずしもガラス基板5上にPMAz8McやPMAz8Acを成膜する必要は無く、ガラス基板5上にPVAを成膜し、その上層にPMAz8McやPMAz8Acを成膜しても構わない(図4(c)(d)参照)。
【0062】
また、本実施の形態では、基板としてガラス基板を使用する場合を例に挙げて説明を行っているが、必ずしもガラス基板を使用する必要は無く、Si基板やプラスチック基板等を使用しても良い。なお、ガラス基板5上にPMAz8McやPMAz8AcとPVAを成膜した後に、ガラス基板5等から剥離して使用することも可能である。
【0063】
更に、本実施の形態では、スピンコート法を用いた成膜方法を例に挙げて説明を行っているが、PMAz8McやPMAz8AcやPVAの成膜については必ずしもスピンコート法を用いる必要はなく、いかなる方法で成膜しても良い。具体的には、スプレーコート法、バーコーター法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、シルク印刷法、インクジェット法、フィルム転写法、ディップコートといった塗布によって成膜しても良いし、カレンダーによる圧延薄膜化などによって成膜しても良い。
【0064】
また、本実施の形態では、PMAz8McやPMAz8Acの溶媒としてシクロヘキサノンを例に挙げて説明を行っているが、室温で液体であり高分子を溶解することができれば充分であり、必ずしもシクロヘキサノンである必要はない。例えば、2−ブタノン、トルエン、PGMEA、THF、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、NMP、DMF、DMSO等であっても良い。
【0065】
更に、本実施の形態では、PVAの溶媒として水を例に挙げているが、必ずしもPVAの溶媒は水である必要はなく、メタノール、エタノール、1−プロパノールや2−プロパノール等のアルコール系溶媒と水との混合溶媒であっても良い。
【0066】
本実施の形態の記録表示材料では、加熱処理と光の照射を繰り返すことで反射のオンとオフとを制御することが可能である。また、図2(c)や図3(c)で示す様に、加熱温度が100℃である場合も液晶分子は配向性を示しており、従来の記録表示材料よりも熱的安定性に優れている。
【0067】
即ち、PMAz6Acは加熱温度が80℃である場合には配向性を示したが、加熱温度が100℃である場合には配向性を示さなくなった。このことは、100℃での加熱を行った後、どの様な処理を行っても回復することがないことを意味している。一方、PMAz8McやPMAz8Acは加熱温度が80℃である場合は勿論、加熱温度が100℃である場合にも配向性を示している。
従って、PMAz6Acは100℃まで加熱すると光や熱による配向変化が生じなくなり、反射の制御ができなくなるが、PMAz8McやPMAz8Acは100℃まで加熱されても可逆的な反射の書き込みと消去ができ、熱的な安定性が高いことが分かる。
【0068】
表1に様々な光応答性高分子液晶層とPVAとの積層材料の相転移温度の実測値を示している。なお、表1中の「R1」とは化学構造式3中のR1部分を示し、表1中の「R2」とは化学構造式3中のR2部分を示している。また、表1中の「G→S」とは高分子液晶層がガラス状態からスメクチック相への相転移温度を示し、表1中の「S→N」とは高分子液晶層がスメクチック相からネマチック相への相転移温度を示し、表1中の「N→I」とは高分子液晶層がネマチック相から等方相への相転移温度(融点に相当)を示し、表1中の「G→N」とは高分子液晶層がガラス状態からネマチック相への相転移温度を示している。
なお、物質によってスメクチック相、ネマチック相の両者を示すものや、いずれかしか示さないものが存在するため、表1中の「−」はその相を示さないことを意味している。
【0069】
ここで、液晶状態でスメクチック相は、図5(a)で示す様に、棒状の液晶分子の長軸が一方向に向いた集合体をなし、こうした集合体が積み重なって層状構造を形成し、その層が滑るために流動性を有することとなる。なお、スメクチック相の流動性は低く、更に層状構造を示すために配列構造を形成しやすい状態にあることとなる。また、ネマチック相は、図5(b)で示す様に、長軸が一方向に向いているものの、それ以上の集合体は形成しない。なお、ネマチック相は流動性が高く、規則性は低い状態であり、ほぼ液体と同様の流動性を示すために物理的な構造(フィルム)を保持できなくなり、多層膜が壊れる結果となってしまう。更に、等方相は、図5(c)で示す様に、液体と同様に完全にバラバラの状態である。
従って、流動性が大きく増加することとなる「S→N」が重要となる。
【0070】
[化学構造式3]

【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかな様に、PMAz8Mcの場合は「S→N」が122℃、PMAz8Acの場合の場合は「S→N」が110℃であり、PMAz6Acの場合の「S→N」の100℃よりも高温となっていることが分かる。
【0073】
なお、表1からスペーサ長(n)が9である場合に、「S→N」が高温となっていないことから、単にスペーサ長を大きくすることによって「S→N」が高温となるものではないことも分かる。
【符号の説明】
【0074】
1 記録表示材料
2 PMAz8Mc
3 PVA
4 PMAz8Ac
5 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射と加熱処理で液晶材料の配向状態を可逆的に制御可能であり、同液晶材料の配向状態に基づいて屈折率が決定されると共に、スペーサ長が8であり、アゾベンゼン基を有する高分子液晶層と、
該高分子液晶層と交互に積層されると共に、前記高分子液晶層中の液晶材料を所定の向きに配向せしめる配向材料層とを備える
記録表示材料。
【請求項2】
前記高分子液晶層は、加熱処理により同高分子液晶層の屈折率が前記配向材料層の屈折率と略同一となる様に液晶材料が配向し、光の照射により同高分子液晶層の屈折率が前記配向材料層の屈折率と差が生じる様に液晶材料が配向すべく構成された
請求項1に記載の記録表示材料。
【請求項3】
前記高分子液晶層は、光の照射後の時間の経過により配向状態が変化して同高分子液晶層の屈折率と前記配向材料層の屈折率に更に差が生じる様に構成された
請求項2に記載の記録表示材料。
【請求項4】
前記高分子液晶層は、化学構造式1若しくは化学構造式2で表されるものであり、
前記配向材料層は、ポリビニルアルコール層である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の記録表示材料。
化学構造式1:

化学構造式2:

【請求項5】
前記高分子液晶層は、紫外線の照射と加熱処理で液晶材料の配向状態を可逆的に制御可能である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の記録表示材料。
【請求項6】
光の照射と加熱処理で液晶材料の配向状態を可逆的に制御可能であり、同液晶材料の配向状態に基づいて屈折率が決定されると共に、スペーサ長が8であり、アゾベンゼン基を有する高分子液晶層と、
該高分子液晶層中の液晶材料を所定の向きに配向せしめる配向材料層とを交互に積層する工程を備える
記録表示材料の製造方法。
【請求項7】
前記高分子液晶層と、前記配向材料層とをスピンコート法で交互に積層する
請求項6に記載の記録表示材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−227181(P2011−227181A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94837(P2010−94837)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】