説明

記録装置、記録システムおよび記録方法

【課題】記録媒体が、低光量領域の光照射に対してより広い不感帯領域を有する特性となる駆動方法を提供すること。
【解決手段】記録装置は、第1の液晶層および第2の液晶層および感光層を含む表示層のうち第1の液晶層および第2の液晶層をF配向状態にする第1の電圧を印加する。第1の電圧の印加が終了した後で、第2の液晶層をH配向状態にする第2の電圧を印加する。第2の電圧の印加と同期して、第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては強い光を表示層に照射し、第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては弱い光を表示層に照射する。第2の電圧の印加が終了した後で、第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては弱い光を表示層に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置、記録システムおよび記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光書き込み型の電子ペーパが知られている。特許文献1は、それぞれ電圧−反射率曲線のしきい値が異なる液晶層を2層積層した構成の液晶表示素子を駆動する方法を開示している。特許文献1においては、2回の電圧印加および露光で、各層に画像が記録される。2回目の電圧印加および露光により、1回目の電圧印加および露光により書き込まれた層の画像に影響を与えないように液晶層の駆動閾値が設計された技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−198949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、書き込み後の記録媒体が、低光量領域の光照射に対してより広い不感帯領域を有する特性となる駆動方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る記録装置は、照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射する第1の光照射手段と、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第2の光照射手段とを有する。
【0006】
請求項2に係る記録装置は、照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記光が照射されている前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる、かつ、前記第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第1の光照射手段と、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第1の光照射手段により前記光を照射した前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射する第2の光照射手段とを有する。
【0007】
請求項3に係る記録装置は、前記表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させるための回路素子と、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の光照射手段と同期して、前記積を増加させるように前記回路素子を制御する制御手段とを有する。
【0008】
請求項4に係る記録システムは、照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射する第1の光照射手段と、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第2の光照射手段とを有する記録装置と、前記表示層を有し、前記第3の強度の光照射により、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層にかかる残留電圧が除去される記録媒体とを有する。
【0009】
請求項5に係る記録システムは、照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記光が照射されている前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる、かつ、前記第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第1の光照射手段と、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第1の光照射手段により前記光を照射した前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射する第2の光照射手段とを有する記録装置と、前記表示層を有し、前記第3の強度の光照射により、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層にかかる残留電圧が除去される記録媒体とを有する。
【0010】
請求項6に係る記録システムは、前記記録装置が、前記表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させるための回路素子と、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の光照射手段と同期して、前記積を増加させるように前記回路素子を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る記録方法は、照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加するステップと、前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加するステップと、前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射するステップと、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しないステップとを有する。
【0012】
請求項8に係る記録方法は、照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加するステップと、前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記光が照射されている前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加するステップと、前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる、かつ、前記第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しないステップと、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第1の光照射手段により前記光を照射した前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射するステップとを有する。
【0013】
請求項9に係る記録方法は、前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の光照射手段と同期して、前記表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させるための回路素子を、前記積を増加させるように制御するステップを有する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る記録装置によれば、第3の強度の光照射により液晶層の配向状態を制御する構成を有しない場合と比較して、低光量領域の光照射に対してより広い不感帯領域を有するように書き込みをすることができる。
請求項2に係る記録装置によれば、第1の液晶層および第2の液晶層の双方において第2の階調値を表示させる領域に対しては光を照射しない構成を有しない場合と比較して、第1の液晶層および第2の液晶層に記録される像の階調値を理想的な状態に近づけることができる。
請求項3に係る記録装置によれば、表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させる回路素子を有しない構成と比較して、第2の液晶層に記録される像の階調値を理想的な状態に近づけることができる。
請求項4に係る記録システムによれば、第3の強度の光照射により液晶層の配向状態を制御する構成を有しない場合と比較して、低光量領域の光照射に対してより広い不感帯領域を有するように書き込みをすることができる。
請求項5に係る記録システムによれば、第1の液晶層および第2の液晶層の双方において第2の階調値を表示させる領域に対しては光を照射しない構成を有しない場合と比較して、第1の液晶層および第2の液晶層に記録される像の階調値を理想的な状態に近づけることができる。
請求項6に係る記録システムによれば、表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させる回路素子を有しない構成と比較して、第2の液晶層に記録される像の階調値を理想的な状態に近づけることができる。
請求項7に係る記録方法によれば、第3の強度の光照射により液晶層の配向状態を制御する構成を有しない場合と比較して、低光量領域の光照射に対してより広い不感帯領域を有するように書き込みをすることができる。
請求項8に係る記録方法によれば、第1の液晶層および第2の液晶層の双方において第2の階調値を表示させる領域に対しては光を照射しない構成を有しない場合と比較して、第1の液晶層および第2の液晶層に記録される像の階調値を理想的な状態に近づけることができる。
請求項9に係る記録システムによれば、表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させる回路素子を有しない構成と比較して、第2の液晶層に記録される像の階調値を理想的な状態に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る記録装置100の構成を示すブロック図である。
【図2】一実施形態に係る電子ペーパ200の構成を示す図である。
【図3】液晶層250の反射率特性の一例を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る記録方法を示すタイミングチャートである。
【図5】光照射なしの残留電圧を例示する図である。
【図6】光照射ありの残留電圧を例示する図である。
【図7】電子ペーパ200の等価回路の一例を示す図である。
【図8】第1実施形態に係る配向状態の制御を説明する別の図である。
【図9】第1実施形態に係る配向状態の制御を説明するさらに別の図である。
【図10】漏れ光に対する不感帯の一例を示す図である。
【図11】第1実施形態のしきい値の設計について説明する図である。
【図12】第1実施形態のしきい値の設計について説明する図である。
【図13】第2実施形態に係る記録方法を示すタイミングチャートである。
【図14】第2実施形態に係る配向状態の制御を説明する別の図である。
【図15】第2実施形態に係る配向状態の制御を説明するさらに別の図である。
【図16】記録の例を示す図である。
【図17】第2実施形態のしきい値の設計について説明する図である。
【図18】第3実施形態に係る記録システムの等価回路を例示する図である。
【図19】回路シミュレータにより計算された液晶層250両端の電圧を示す図である。
【図20】液晶層250の反射率の、抵抗300の抵抗値依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1実施形態
1−1.構成
1―1−1.記録装置100
図1は、本発明の一実施形態に係る記録装置100の構成を示すブロック図である。記録装置100は、電子ペーパ200に対して、画像情報に応じた画像を記録する装置である。記録装置100と電子ペーパ200とをあわせて、「記録システム」という。記録装置100は、制御部110、操作部120、光照射部130、電圧印加部140および情報取得部150を備える。
【0017】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置やメモリなどの記憶手段を備える。制御部110は、記録装置100の各部の動作を制御する。操作部120は、利用者が記録装置100に対して選択、確認、取り消しなどの指示を行うための操作を行う入力装置である。操作部120は、タッチパネル、キーボードなどを有し、操作内容を示す情報を制御部110に出力する。
【0018】
光照射部130は、電子ペーパ200へ光を照射する光源を有する。以下、電子ペーパ200への画像の記録に用いられる光を「記録光」という。この光源は、例えば半導体レーザである。光源からの光は、回転するポリゴンミラーなどの反射物に反射され、また、レンズにより集光される。こうしてスポット状に集光された光は、電子ペーパ200において画像を表示する単位である画素に対して照射される。光照射部130は、制御部110の制御下で、スポット状の光を電子ペーパ200上で走査する。なお、この光源は、複数のLED(Light Emitting Diode)が線状に配置されたLEDアレイであってもよい。あるいは、バックライトおよびこのバックライトからの光を選択的に透過させるLCDパネルが用いられてもよい。
【0019】
電圧印加部140は、制御部110の制御下で、電極(図示略)を介して電子ペーパ200に電圧を印加する。以下、電子ペーパ200への画像の記録(書き込み)に用いられる電圧を「記録電圧」という。記録装置100は、電子ペーパ200を保持することができる構成を有している。電子ペーパ200を保持した状態において、記録装置100は電子ペーパ200に電圧印加および光照射を行う。制御部110は、光照射部130における記録光の照射と同期して記録電圧を印加するよう、電圧印加部140を制御する。
【0020】
情報取得部150は、図示しない記憶手段、外部装置から、制御プログラム、画像を示す画像情報など各種情報を取得する。この例においては、有線、無線などによる通信手段を用いて外部装置からの情報を取得する。なお、外部装置より、各種情報を取得する手段は、通信手段に限らず、USBメモリ、メモリカードなどの半導体メモリ、CD、DVDなどの光ディスクなどから取得するインターフェースであってもよい。
【0021】
1−1―2.電子ペーパ200
図2は、一実施形態に係る電子ペーパ200の構成を示す図である。電子ペーパ200は、光書き込み型の表示媒体の一例である。電子ペーパ200は、保護層210及び保護層270と、透明電極220及び透明電極260と、感光層230と、着色層240と、液晶層250Bと液晶層250Gとを備えており、これらによって画像が表示される表示面が構成されている。
【0022】
保護層210および保護層270は、電子ペーパ200の表面を保護するための層である。保護層210および保護層270は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる。保護層210は、記録装置100によって光が照射される側(裏面)に設けられている。保護層270は、書き込まれた画像を使用者が観察する側(表面)に設けられている。透明電極220および透明電極260は、例えば、ITO(酸化インジウムすず)からなる層である。記録装置100により、透明電極220および透明電極260の間に電圧が印加される。
【0023】
感光層230は、照射される光に応じてそのインピーダンスが変化する層である。感光層230としては、例えば、有機光導電体(Organic Photoconductor:OPC)が用いられる。感光層230は、特定の波長の光が照射されると、電荷を生じて暗状態よりも低抵抗化する。すなわち、光が照射されると、感光層230が暗状態よりも低抵抗化するので、印加電圧が一定の場合液晶層250にかかる電圧が増加する。以下、感光層230と液晶層250とを含む層を必要に応じて「表示層」という。
【0024】
着色層240は、液晶層250が光を透過する場合に観察される層である。この例において、着色層240は、赤色で構成されている。なお、着色層240は、必須の構成ではなく、例えば、感光層230で入射光を吸収させてもよい。
【0025】
液晶層250は、電圧等により与えられるエネルギーに応じて配向状態が変化する液晶、例えばコレステリック液晶の分子を含む。液晶層250は、バインダー樹脂中にマイクロカプセル状のコレステリック液晶を分散させたものである。コレステリック液晶の配向状態には、主として、プレーナ配向(第3の配向状態の一例)、フォーカルコニック配向(第1の配向状態の一例)およびホメオトロピック配向(第2の配向状態の一例)がある。プレーナ配向とフォーカルコニック配向とは熱的に安定な状態であり、無電界状態でも配向状態が維持される。すなわち、コレステリック液晶は、プレーナ配向とフォーカルコニック配向との双安定の材料である。プレーナ配向においては、所定の波長の光が反射される。フォーカルコニック配向においては、光が透過される。電子ペーパ200は、この反射率の違いを用いて表示を行う。
【0026】
図3は、液晶層250の反射率特性の一例を示す図である。図3において、縦軸は液晶層250の反射率を示し、横軸は液晶層250に印加される電圧を示している。図3において、実線は液晶層250Bの反射率特性を、破線は液晶層250Gの反射率特性を、それぞれ示している。電圧VBpfは液晶層250Bにおいてプレーナ配向からフォーカルコニック配向に遷移するしきい値の電圧を、電圧VBfhはフォーカルコニック配向からホメオトロピック配向に遷移するしきい値の電圧を、それぞれ示す。電圧VGpfは液晶層250Gにおいてプレーナ配向からフォーカルコニック配向に遷移するしきい値の電圧を、電圧VGfhはフォーカルコニック配向からホメオトロピック配向に遷移するしきい値の電圧を、それぞれ示す。なお、以下において液晶層250Bと液晶層250Gとを区別する必要がないときは、添字BおよびGを省略して単に電圧Vpfのように表す。
【0027】
コレステリック液晶の配向状態は、液晶に印加される電圧により変化する。図3の例では、液晶層250に印加される電圧Vが0<V<Vpfの範囲では、配向状態は変化しない。液晶層250に印加される電圧VがVpf<V<Vfhの範囲では、配向状態はフォーカルコニック配向となる。すなわち、電圧印加前にプレーナ配向であった場合はフォーカルコニック配向に遷移する。電圧印加前にフォーカルコニック配向であった場合はフォーカルコニック配向が維持される。液晶層250に印加される電圧VがV>Vfhの範囲では、配向状態はホメオトロピック配向状態となる。
【0028】
ホメオトロピック配向は、熱的に安定ではなく、Vfhを超える電圧の印加を停止するとプレーナ配向またはフォーカルコニック配向に遷移する。プレーナ配向およびフォーカルコニック配向のうちどちらの配向になるかは、Vfhを超える電圧の印加を停止してから液晶層250にかかる電圧がほぼゼロになるまでの時間によって決まる。
【0029】
この例で、液晶層250は、液晶層250B(第2の液晶層の一例)および液晶層250G(第1の液晶層の一例)が積層された構造を有している。液晶層250Bは、プレーナ配向状態において青色に相当する波長の光を反射する液晶を含む。液晶層250Gは、プレーナ配向状態において緑色に相当する波長の光を反射する液晶を含む。
【0030】
1−2.動作
図4は、第1実施形態に係る電子ペーパ200の記録方法(駆動方法)を示すタイミングチャートである。信号Vは、表示層に印加される電圧を示す。信号Photoは、表示層に照射される光を示す。この例では、画素の階調値に応じて異なるパターンの光が照射される。画素の階調値すなわち液晶の配向状態は、(G,B)で示される。Gは液晶層250Gの配向状態を、Bは液晶層250Bの配向状態を示す。また、P、FおよびHはそれぞれ、プレーナ配向(第3の配向状態の一例)、フォーカルコニック配向(第1の配向状態の一例)およびホメオトロピック(第2の配向状態の一例)配向を示す。
【0031】
本実施形態において、電子ペーパ200の記録方法は、リセット段階、第1段階および第2段階の3つの段階を含む。以下、電子ペーパ200に描画される画像は緑色の成分および青色の成分を含み、各色成分の階調値が0と1の2階調(すなわち、輝度が高い状態(プレーナ配向に対応。第1の階調値の一例)と輝度が低い状態(フォーカルコニック配向に対応。第2の階調値の一例)の2階調)で表される場合を例に説明する。以下、液晶の配向状態との対応関係を分かりやすくするため、階調値0をF、階調値1をPと表す。
【0032】
リセット段階は、液晶層250Gおよび液晶層250Bを共にフォーカルコニック配向にするための段階である。リセット段階において、電圧印加部140および光照射部130は、液晶層250Gおよび液晶層250Bが共にフォーカルコニック配向になる電圧V(図3の例においてVGpf<V<VBfhを満たす電圧)を液晶層に印加する。具体的には、このように決定された電圧が液晶層250に印加されるように、電圧印加部140は表示層に電圧を印加し、光照射部130は表示層に光を照射する。なお、リセット段階においては、液晶層250Gおよび液晶層250Bが共にフォーカルコニック配向になる電圧がに印加できるのであれば、光は照射されなくてもよい。
【0033】
第1段階は、液晶層250Gの配向状態、すなわち、反射率−電圧曲線におけるしきい値電圧がより高電圧側に位置する液晶層の配向状態を決定するための段階である。第1段階において、光照射部130は、緑の階調値に応じた2レベルの光を照射する。緑の階調値がPである場合、光照射部130は、強度P1(第1の強度の一例)の光を照射する。緑の階調値がFである場合、光照射部130は、強度P2(第2の強度の一例)の光を照射する。ここで、強度P1およびP2は、P1>P2を満たす。第1段階において、強度P1の光が照射された状態を「photo(光照射状態)」、強度P2の光が照射された状態を「almost dark(ほぼ暗状態)」と表す。
【0034】
第1段階において、強度P1の光が照射された場合には(G,B)=(H,H)となる電圧V1(図3の例ではV1>VGfh)が液晶層250に印加される。強度P2の光が照射された場合には(G,B)=(F,H)となる電圧V2(図3の例ではVBfh<V2<VGfh)が液晶層250に印加される。このように決定された電圧が液晶層250に印加されるように、電圧印加部140は表示層に電圧を印加し、光照射部130は表示層に光を照射する。
【0035】
第2段階は、液晶層250Bの配向状態、すなわち、反射率−電圧曲線におけるしきい値電圧がより低電圧側に位置する液晶層の配向状態を決定するための段階である。第2段階において、電圧印加部140は電圧を印加しない。光照射部130は、青の階調値に応じた2レベルの光を照射する。青の階調値がPである場合、光照射部130は、強度P3(第3の強度の一例)の光を照射する。青の階調値がFである場合、光照射部130は、光を照射しない。第2段階において、強度P3の光が照射された状態を「photo(光照射状態)」、光が照射されない状態を「dark(暗状態)」と表す。第2段階の光照射は、第1段階の電圧印加が停止された直後に行われる。ここで、「第1段階の電圧印加が停止された直後」とは、配向状態がフォーカルコニック配向に変化しないように残留電圧を除去できる程度に、電圧印加が停止されてからの経過時間が短いことをいう。
【0036】
ここで、第2段階における配向状態の選択について説明する。第2段階において、電圧印加部140は電圧を印加しないが、液晶層には第1段階で発生した残留電荷による残留電圧Vtがかかる。
【0037】
図5は、第2段階(光照射なし)において液晶層250Bにかかる残留電圧を例示する図である。縦軸は液晶層250Bにかかる電圧を、横軸は時間を示す。この例では、第1段階において、±80Vの電圧が50Hzで印加されている。第1段階の電圧の印加により、液晶層250Bの配向状態はホメオトロピック配向となる。この例では、第1段階の電圧がオフされた後、約40Vの残留電圧が発生している。発生した残留電圧は、約100〜150msecかけて半減し、徐々に減衰する。残留電圧Vtが、液晶層250Bの配向状態をフォーカルコニック配向にする電圧以上の電圧を、液晶層250Bの配向状態をフォーカルコニック配向にするに十分な時間だけ、超えていれば(図示しないが同様に表記すればVt>VBhf)、液晶層250Bはフォーカルコニック配向になる。
【0038】
図6は、第2段階(光照射あり)において表示層にかかる残留電圧を例示する図である。この例では、図5の例と同様に、第1段階の電圧として、±80Vの電圧が50Hzで印加されている。第1段階の電圧がオフされた後、約40Vの残留電圧が発生しているが、光照射により残留電圧は10msec程度で急激に減衰する。このように残留電圧を急激に減衰させることにより、液晶層250Bはプレーナ配向になる。
【0039】
図7は、電子ペーパ200の等価回路の一例を示す図である。説明を単純にするため、ここでは液晶層250が単一の液晶層である例を示している。この等価回路において、液晶層250は並列接続された抵抗RLCと容量CLCにより表され、感光層230は並列接続された抵抗ROPCと容量COPCにより表される。感光層230と液晶層250とは直列に接続されている。感光層230および液晶層250には電圧±Eが周波数fで印加される。液晶層250には、電圧VLCが印加される。感光層230の抵抗ROPCは、光照射により低下する。
【0040】
液晶層250の残留電圧Vtの減衰は、次式(1)で示されるように時定数τで決定される。
【数1】

ここで、時定数τはROPCに依存しており、ROPCが低下するとτが小さくなる。すなわち、光照射によりROPCが低下すると残留電圧Vtは急速に減衰する。
【0041】
ここで、電圧VLCは、駆動時間が十分長ければ次式(2)に収束する。次式(2)を用いて、液晶層250および感光層230の構造を設計することができる。
【数2】

【0042】
なお、第1段階において光を照射すると、ROPCが低下するので、液晶層250にかかる分圧が大きくなり液晶層に電荷が蓄積される。この状態で第1段階終了後に光照射を停止すると、ROPCが増大してτが大きくなる。すなわち、第1段階で光を照射しない場合と比較して残留電圧が大きくなる。
【0043】
ここで、第2段階の光を照射しないとき、所定の時間、残留電圧Vtが、VBhfを超えるように設計し、第2段階の光を照射するとき残留電圧Vtが、VBhfを超えないように設計すれば、第2段階の光照射により液晶層250Bの配向状態が制御される。このとき、残留電圧Vtが、Vt<VGhfとなるように設計すれば、液晶層250Gの配向状態は維持したまま液晶層250Bの配向状態が制御される。
【0044】
図8は、本実施形態に係る配向状態の制御を説明する別の図である。第1段階が光照射状態であった場合、液晶層250Gの配向状態は、最終的にはプレーナ配向になる。第1段階がほぼ暗状態であった場合、液晶層250Gの配向状態は、最終的にはフォーカルコニック配向になる。第2段階が光照射状態であった場合、液晶層250Bの配向状態は、最終的にはプレーナ配向となる。第2段階が暗状態であった場合、液晶層250Bの配向状態は、最終的にはフォーカルコニック配向となる。このように、第1段階の光照射に応じて液晶層250Gの配向状態が決まり、第2段階の光照射に応じて液晶層250Bの配向状態が決まる。
【0045】
図9は、本実施形態に係る配向状態の制御を説明するさらに別の図である。この例で、縦軸は反射率すなわち階調値を、横軸は第1段階における光量(光強度)を示している。実線は液晶層250Gの状態を、破線は液晶層250Bの状態を示している。2本の破線は、それぞれ、第2段階が光照射状態の場合と、第2段階が暗状態の場合に対応している(実線は第2段階の状態に依存しない)。液晶層250Gの配向状態は第1段階の光量で決まっており、液晶層250Bの配向状態は第2段階の光量で決まっていることがわかる。
【0046】
図10は、漏れ光に対する不感帯の一例を示す図である。この例において、縦軸は液晶層250Bの輝度(反射率)を示し、横軸は液晶層250Bに照射される光の光量(強度)を示す(記録光と漏れ光を合わせた光である)。ここで、「漏れ光」とは、記録光(1次光=第1段階の光照射、2次光=第2段階の光照射)のように意図的に液晶層250に照射される光ではなく、隣接画素の書き込みに用いられる光や、周囲の環境からの光など、意図せずに液晶層250に照射される光をいう。図10(A)は特許文献1における、2回の電圧印加および露光で、各層に画像が記録される場合の例を示している。図10(B)は2次光の照射による階調制御を用いて液晶層250Bに画像が記録される場合の例を示している。
【0047】
図10(A)の例では、例えば約10μWの光を照射すると、輝度が約10%変化する。さらに、約100μWの光を照射すると、輝度が約90%変化する。これに対し、本実施形態に係る2次光の照射による階調制御を用いた場合は、約10μWの光を照射すると輝度の変化はほとんどなく、約100μWの光を照射しても輝度が約10数%変化するだけであり、低光量の光により輝度の変化が抑制されている。図10(B)の例からわかるように、2次光の照射により階調の制御を行った場合、低光量すなわち漏れ光の領域における不感帯(輝度の変化がほとんどない領域)が、2回の電圧印加および露光で、各層に画像が記録される場合と比較して広がっている。以上で説明したように、本実施形態によれば、2回の電圧印加および露光で、各層に画像が記録される場合と比較して、低光量の領域における不感帯が広げられる。
【0048】
1−3.しきい値の設計について補足
図11は、第1実施形態の第1段階におけるしきい値の設計について説明する図である。第1実施形態において、第1段階の電圧印加により、液晶層250Gは、光照射状態ではホメオトロピック配向となり、ほぼ暗状態ではフォーカルコニック配向のまま変化しない。また、第1段階の電圧印加により、液晶層250Bは光照射状態によらず、ホメオトロピック配向になる。このような電圧が印加されるように、液晶層250Gおよび液晶層250Bの特性および第1段階の印加電圧が設計される。
【0049】
図11において、横軸は表示層に印加される電圧、すなわち、液晶層250および感光層230に印加される電圧を示す。縦軸は反射率を示す。実線は光照射強度がP2(ほぼ暗)の状態を、破線は光照射強度がP1の状態を示す。曲線CBは液晶層250Bの特性を、曲線CGは液晶層250Gの特性をそれぞれ示す。光照射強度が高くなることにより感光層230の抵抗が下がるので液晶層にかかる分圧は上昇し、見かけ上VR曲線は低電圧側にシフトする。所望の特性を得るには、
VGfh'<V<VGfh かつ VBfh<V ・・・(3)
を満たす電圧Vが第1段階において印加されればよい。なおVGfhは光照射強度がP2のしきい値電圧を、VGfh'は光照射強度がP1のしきい値電圧を、VBfhは光照射強度がP2のしきい値電圧を示す。
【0050】
図12は、第1実施形態の第2段階におけるしきい値の設計について説明する図である。第2段階においては、光照射されなかった場合においても残留電圧が、ホメオトロピック配向からフォーカルコニック配向に液晶層250Gが変化するしきい値を超えないように設計される。すなわち、式(2)のVLCが
VBhf<VLC<VGhf ・・・(4)
を満たすように設計されればよい。
【0051】
また、液晶層250Bより液晶層250Gのしきい値電圧が高ければよい。そのためには、液晶層250Gの比誘電率ε⊥およびε‖が共に液晶層250Bの比誘電率ε⊥およびε‖よりも高くなるような液晶材料が用いられればよい。
【0052】
2.第2実施形態
第2実施形態は、(G,B)=(F,F)すなわち黒の階調を記録(書き込み)する際の動作が第1実施形態と異なっている。以下において、第1実施形態と共通する事項についてはその説明を省略する。また、第1実施形態と共通する要素については共通の参照符号が用いられる。
【0053】
図13は、第2実施形態に係る電子ペーパ200の記録方法を示すタイミングチャートである。図13と図4の相違点は、(G,B)=(F,F)の場合だけであるので、ここではこの場合の動作を説明する。
【0054】
(G,B)=(F,F)の場合、光照射部130は、第1段階において表示層に光を照射しない。すなわち、本実施形態において、第1段階において照射される光の強度は、P1、P2および照射無し(暗状態:dark)の3レベルである。第1段階において暗状態にある場合、液晶層250Bの配向状態がフォーカルコニック配向となるように、すなわち、図3の例でV<VBfhを満たす電圧Vが液晶層250に印加される。この結果、第1段階において、(G,B)=(F,F)となる。さらに、第2段階において光照射されず、最終的にも、(G,B)=(F,F)となる。なお、本実施形態によれば、第2段階は光照射状態および暗状態のいずれであったとしても、最終的には(G,B)=(F,F)となる。
【0055】
図14は、本実施形態に係る配向状態の制御を説明する別の図である。図8と比較すると、階調値が(G,B)=(F,F)だった場合のルートが変更されている。第1段階で暗状態であれば、第2段階によらずに最終的な状態は(G,B)=(F,F)となる。
【0056】
図15は、本実施形態に係る配向状態の制御を説明するさらに別の図である。図9と比較すると、第1段階が暗状態であった場合の状態が追加されている。この場合は第2段階に照射される光によらず、(G,B)=(F,F)となることがわかる。
【0057】
図16は、第1実施形態および第2実施形態の記録方法による記録の例を示す図である。この例で、縦軸は液晶層250における光の反射率を、横軸は光の波長を示している。この例では、シアン(G,B)=(P,P)を記録した場合と青(G,B)=(F,P)を記録した場合と,緑(G,B)=(P,F)を記録した場合と、黒(G,B)=(F,F)色を記録した場合のデータが示されている。図16に示されるように、第2実施形態の記録方法を用いれば、第1実施形態で説明した方法のように、(G,B)=(F,F)のときにホメオトロピック配向を経由する(B)構成と比較して、より理想に近い階調が表現される。
【0058】
図17は、第2実施形態の第1段階におけるしきい値の設計について説明する図である。第2実施形態において、第1段階の電圧印加により、液晶層250Gは、光照射状態ではホメオトロピック配向となり、ほぼ暗状態および暗状態では配向が変化しない。また、第1段階の電圧印加により、液晶層250Bは、暗状態では配向が変化せず、光照射状態およびほぼ暗状態ではホメオトロピック配向になる。このような電圧が印加されるように、液晶層250Gおよび液晶層250Bの特性および第1段階の印加電圧が設計される。
【0059】
図17において、横軸は表示層に印加される電圧、すなわち、液晶層250および感光層230に印加される電圧を示す。縦軸は反射率を示す。CGの実線は光照射強度がP2のときを、CBの実線は光照射が無いときを、CGの破線は光照射強度がP1のときを、CBの破線は光照射強度がP2のときをそれぞれ示す。曲線CBは液晶層250Bの特性を、曲線CGは液晶層250Gの特性をそれぞれ示す。光照射により感光層230の抵抗が下がるので、液晶層にかかる分圧は上昇し見かけ上VR曲線は低電圧側にシフトする。所望の特性を得るには、
VGfh'<V<VGfh かつ VBfh"<V<VBfh ・・・(5)
を満たす電圧Vが第1段階において印加されればよい。なおVGfhは光照射強度がP2のしきい値電圧を、VGfh'は光照射強度がP1のしきい値電圧を、VBfh"は光照射強度がP2のしきい値電圧を、VBfhは光照射が無いときのしきい値電圧をそれぞれ示す。
【0060】
以上で説明したように、本実施形態によれば、(G,B)=(F,F)の場合は、ホメオトロピック配向を経由せずに、黒色((G,B)=(F,F))が表現され、ホメオトロピック配向を経由する場合と比較して反射率がより低下する。
【0061】
3.第3実施形態
第3実施形態は、第1および第2実施形態に対して、液晶層250Bがフォーカルコニック配向状態となる場合、すなわち(G,B)=(*,F)の場合(*は階調値が任意であることを示す)における液晶層250Bの反射率(輝度)をより低下させる改良を行ったものである。第3実施形態は、基本的には、液晶層250Bがフォーカルコニック配向状態となるときの液晶層250Bの反射率を低下させるために、第2段階において液晶層にかかる残留電圧の減衰時間を長くする、という技術思想に基づく。残留電圧の減衰時間は、回路全体の時定数τ(CR:容量と抵抗の積。式(1)および式(2)を参照)によって決まっている。表示層(感光層230と液晶層250とを含む層)の時定数を設計しようとすると、電圧−反射率特性や反射光スペクトル等の他の特性に影響を及ぼす可能性がある。第3実施形態では、表示層の時定数とは独立して、表示層を含む回路全体の時定数を変更する。以下、第1実施形態と相違する点について説明する。
【0062】
図18は、第3実施形態に係る記録システムの等価回路を例示する図である。図18の例では、表示層を含む回路の時定数を増加させるための回路素子として、抵抗300が用いられる。スイッチ310は、表示層および電源を含む回路において、抵抗300が表示層に直列に接続された経路(経路a)と、抵抗300が接続されない経路(経路b)とを切り替えるためのスイッチである。電源からの電圧印加のタイミングおよびスイッチ310を切り替えるタイミングは、制御部110(図1)により制御される。すなわち、スイッチ310は制御部110の制御下で動作する。この例で、記録装置100は、抵抗300およびスイッチ310を有している。経路bから経路aに切り替えられると、回路の抵抗は増加するので、時定数は増加する。これにより、残留電圧の減衰時間が長くなる。
【0063】
この例で、記録装置100は次のように動作する。リセット段階を開始する前において、制御部110は、回路の経路を経路bに切り替えるようスイッチ310を制御する。経路が経路bに切り替えられると、制御部110は、第1実施形態で説明したリセット段階および第1段階の処理を行うように光照射部130および電圧印加部140を制御する。第1段階における電圧の印加が終了すると、制御部110は、経路を経路bから経路aに切り替えるようスイッチ310を制御する。経路aへの切り替えは、第1段階における電圧の印加が終了した直後、例えば、第1段階における電圧の印加が終了してから(電圧印加部140から出力される電圧値がゼロになってから)1msec以内に行われる。また、第1段階における電圧の印加が終了すると、制御部110は、第1実施形態で説明した第2段階の処理を行うように光照射部130および電圧印加部140を制御する。経路aに切り替えるタイミングと第2段階の処理を開始するタイミングは同時でなくてもよい。
【0064】
第2段階の処理を開始してから所定の時間が経過すると、制御部110は、回路の経路を経路bに切り替えるようスイッチ310を制御する。ここでいう「所定の時間」とは、液晶層150にかかる残留電圧がほぼゼロになる時間をいう。この時間は、液晶層250、感光層230、抵抗300その他の回路素子の抵抗値や容量値等の電気的特性に基づいて定められる。
【0065】
図19は、回路シミュレータにより計算された液晶層250両端の電圧を示す図である。図19(A)は経路aに切り替えを行った場合と行わない場合ついて、第2段階における光照射を行った場合と行わない場合の残留電圧の変化を示している。図19(B)は、図19(A)において、経路aに切り替えを行った場合と行わない場合ついて、第2段階における光照射を行わない場合の残留電圧の変化を示す部分を拡大したものである。図19(A)から、第2段階における光照射の有無によって、残留電圧が急激に減衰するか徐々に減衰するかを制御できていることがわかる。また、図19(B)から、経路aへの切り替えの有無によって、残留電圧の減衰時間が変化していることがわかる。具体的には、経路aへの切り替え、すなわち抵抗300を直列に接続することによって、抵抗を接続しない場合と比較して残留電圧の減衰時間が長くなっていることがわかる。
【0066】
図20は、液晶層250Bの反射率の、抵抗300の抵抗値依存性を示す図である。図20において、縦軸は液晶層の反射率(輝度)を、横軸は抵抗300の抵抗値を示している。図20のデータは、図19のシミュレーションで得られた結果を基に決定された電圧を液晶層250に印加した実験によって得られた。図20から、抵抗300の抵抗値が大きくなるほど、反射率が低下していることがわかる。すなわち、抵抗300の抵抗値を大きくするほど、液晶層250Bの表示がより黒に近づくことがわかる。高輝度の領域よりも低輝度の領域の方が、人間の視覚上の感度は高い。そのため、低輝度の階調値に相当する反射率をより低下させる構成によって、高輝度の階調値に相当する反射率をより増加させる構成よりも、人間の視覚上のコントラストがより有効に改善される。
【0067】
4.他の実施形態
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
第3実施形態において回路の時定数を増加させるための回路素子は抵抗に限定されない。回路の時定数を増加させるものであれば、抵抗以外の回路素子が用いられてもよい。例えば、この回路素子として容量が用いられてもよい。この場合、容量は、表示層と並列に接続される。また、抵抗と容量を組み合わせた回路素子が用いられてもよい。さらに、実施形態において、抵抗300とスイッチ310の組み合わせによって回路の時定数が変化させられたが、これらの代わりに可変抵抗や可変容量が用いられてもよい。
実施形態において「暗状態」として説明した状態は、光を完全に遮断した状態でなくてもよい。所望の電圧が液晶層250に印加されるのであれば、意図しない漏れ光が照射されてもよいし、ごく弱い光が意図的に照射されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
100…記録装置、110…制御部、120…操作部、130…光照射部、140…電圧印加部、150…情報取得部、200…電子ペーパ、210・270…保護層、220・260…透明電極、230…感光層、240…着色層、250B・250G…液晶層、250BG…積層液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、
前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、
前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射する第1の光照射手段と、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第2の光照射手段と
を有する記録装置。
【請求項2】
照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、
前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記光が照射されている前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、
前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる、かつ、前記第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第1の光照射手段と、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第1の光照射手段により前記光を照射した前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射する第2の光照射手段と
を有する記録装置。
【請求項3】
前記表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させるための回路素子と、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の光照射手段と同期して、前記積を増加させるように前記回路素子を制御する制御手段と
を有する請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、
前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、
前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射する第1の光照射手段と、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第2の光照射手段と
を有する記録装置と、
前記表示層を有し、前記第3の強度の光照射により、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層にかかる残留電圧が除去される記録媒体と
を有する記録システム。
【請求項5】
照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加する第1の電圧印加手段と、
前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記光が照射されている前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加する第2の電圧印加手段と、
前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる、かつ、前記第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しない第1の光照射手段と、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第1の光照射手段により前記光を照射した前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射する第2の光照射手段と
を有する記録装置と、
前記表示層を有し、前記第3の強度の光照射により、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層にかかる残留電圧が除去される記録媒体と
を有する記録システム。
【請求項6】
前記記録装置が、
前記表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させるための回路素子と、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の光照射手段と同期して、前記積を増加させるように前記回路素子を制御する制御手段と
を有する
ことを特徴とする請求項4または5に記載の記録装置。
【請求項7】
照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加するステップと、
前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加するステップと、
前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射するステップと、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しないステップと
を有する記録方法。
【請求項8】
照射される光に応じてインピーダンスが変化する感光層と第1の液晶層と第2の液晶層とを含む表示層のうち前記第1の液晶層および前記第2の液晶層を第1の配向状態にする第1の電圧を印加するステップと、
前記第1の電圧の印加が終了した後で、前記光が照射されている前記第2の液晶層を第2の配向状態にする第2の電圧を印加するステップと、
前記第2の電圧の印加と同期して、前記第1の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては第1の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層において第2の階調値を表示させる、かつ、前記第2の液晶層において第1の階調値を表示させる領域に対しては前記第1の強度よりも弱い第2の強度の前記光を前記表示層に照射し、前記第1の液晶層および前記第2の液晶層において前記第2の階調値を表示させる領域に対しては前記光を照射しないステップと、
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第1の光照射手段により前記光を照射した前記第2の液晶層において前記第1の階調値を表示させる領域に対しては第3の強度の前記光を前記表示層に照射するステップと
を有する記録方法。
【請求項9】
前記第2の電圧の印加が終了した後で、前記第2の光照射手段と同期して、前記表示層を含む回路の容量と抵抗の積を変化させるための回路素子を、前記積を増加させるように制御するステップ
を有する請求項7または8に記載の記録方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2011−8212(P2011−8212A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204561(P2009−204561)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】