説明

記録装置、記録装置の制御方法及び制御プログラム

【課題】記録媒体とサーマルヘッドとの貼り付きが生じても、この貼り付きによる送り不良を回避できる記録装置、記録装置の制御方法及び制御プログラムを提供する。
【解決手段】記録媒体が表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備え、この記録媒体がサーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて記録媒体の表面をサーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで搬送制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドを備える記録装置、記録装置の制御方法及び制御プログラムに関し、サーマルヘッドと記録媒体との貼り付きによる送り不良を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に画像を記録する記録装置には、感熱紙に文字等の画像を記録するサーマルプリンタ(ダイレクトサーマルプリンタとも言う)が知られている。この種のサーマルプリンタでは、待機時に感熱紙をサーマルヘッドとプラテンローラ間に圧接した状態で放置すると、待機状態が長い場合、或いは、短くとも高温や低温の過酷な環境で使用された場合に、感熱紙がプラテンローラまたはサーマルヘッド表面に密着してしまうことがある。
従来、これを回避するために、待機時に一定の時間経過後、プラテンローラを正転、逆転、正転の順に回転して感熱紙の完全密着を防止するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、この特許文献1では、長時間の圧接を原因とした感熱紙とサーマルヘッドの圧着、及び、高温環境で生じる溶着及び低温環境で生じる氷着を原因とした感熱紙とサーマルヘッドの密着が生じる前に、プラテンローラを回転することで密着を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−320989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ラベルを発行した際にゴミとして残る台紙(ライナー)のないライナーレスラベルをロール状に巻いたライナーレスラベルロール紙に記録するサーマルプリンタが考えられている。
しかし、このライナーレスラベルロール紙は、表面にリリースコート層を有し、裏面に糊面を有し、このリリースコート層の上に糊面を重ねてロール状に巻いているため、リリースコート層に糊が付着し、糊が付着したままサーマルヘッドへと搬送され、サーマルヘッドに直ぐに貼り付いてしまう。この貼り付いた状態が発生すると、紙送り不良が発生し、印字紙送りの起動時のピッチ乱れや紙走行不良を招いてしまう。
【0005】
この貼り付きを防止するために特許文献1記載のものを適用した場合、特許文献1記載のものは、すぐに貼り付いてしまう表面層を有する記録用紙を対象としたものではないため、貼り付かないようにプラテンローラを頻繁に回転駆動させる必要が生じ、動作が煩雑になる事態が生じてしまうか、時間間隔を空けすぎて引き剥がせなくなってしまう事態が生じる。
また、ライナーレスラベルに限らず、表面保護のためのオーバーコート層を設けた場合にも、直ぐにサーマルヘッドのヘッド表面に貼り付いて同様の問題が生じる場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、記録媒体とサーマルヘッドとの貼り付きが生じても、この貼り付きによる送り不良を回避できる記録装置、記録装置の制御方法及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述課題を解決するため、本発明は、記録媒体を搬送する搬送部と、この搬送部によって搬送される記録媒体に画像を記録するサーマルヘッドとを備える記録装置において、前記記録媒体が表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備え、この記録媒体が前記サーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて前記記録媒体の表面を前記サーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで前記搬送部を制御する制御部を備えることを特徴とする。
この構成によれば、記録媒体が表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備え、この記録媒体がサーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて記録媒体の表面をサーマルヘッドから所定量移動させて引き剥がす動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで搬送部を制御する制御部を備えるので、記録媒体の表面とサーマルヘッドとの貼り付きが生じても、記録媒体の表面をサーマルヘッドから確実に引き剥がすことができ、この貼り付きによる送り不良を回避することができる。
【0008】
上記構成において、前記制御部は、前記記録媒体を逆送り、正送りの順で搬送させる動作パターンを設定してもよい。これによれば、正送りから開始した場合に記録媒体が引き出されてそれが記録装置内に滞留してしまうといった不具合がなく、かつ、効率よく引き剥がすことができる。
また、上記構成において、前記制御部は、前記記録媒体と前記サーマルヘッドとの貼り付き強度に影響を与える影響情報を取得し、この影響情報に基づいて前記動作パターンを設定してもよい。この構成によれば、無駄な動作を回避した動作パターンを設定でき、騒音防止、省電力が可能になる。この場合、前記制御部は、前記影響情報に基づいて前記搬送部の動作時間間隔、逆送り中及び正送り中の間欠動作の有無或いは回数の少なくともいずれかを設定することが好ましい。また、前記影響情報は、温度又は湿度の少なくともいずれかに設定することが好ましい。
【0009】
前記記録媒体は、表面にリリースコート層を有し、裏面に粘着層を有したライナーレス紙であり、リリースコート層の上に粘着層を重ねた状態から引き出されて前記搬送部により搬送されるものであってもよい。
また、本発明は、記録媒体を搬送する搬送部と、この搬送部によって搬送される記録媒体に画像を記録するサーマルヘッドとを備える記録装置の制御方法において、表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備える記録媒体が前記サーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて前記記録媒体の表面を前記サーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで前記搬送部を制御することを特徴とする。この構成によれば、記録媒体の表面とサーマルヘッドとの貼り付きが生じても、記録媒体の表面をサーマルヘッドから確実に引き剥がすことができ、この貼り付きによる送り不良を回避することができる。
【0010】
また、本発明は、記録媒体を搬送する搬送部と、この搬送部によって搬送される記録媒体に画像を記録するサーマルヘッドとを備える記録装置をコンピュータにより制御するための制御プログラムにおいて、前記コンピュータを、表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備える記録媒体が前記サーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて前記記録媒体の表面を前記サーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで前記搬送部を制御する制御部として機能させることを特徴とする。この構成によれば、記録媒体の表面とサーマルヘッドとの貼り付きが生じても、記録媒体の表面をサーマルヘッドから確実に引き剥がすことができ、この貼り付きによる送り不良を回避することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記録媒体が表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備え、この記録媒体がサーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて記録媒体の表面をサーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで搬送制御するので、記録媒体とサーマルヘッドとの貼り付きが生じても、この貼り付きによる送り不良を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るサーマルプリンタの外観図である。
【図2】サーマルプリンタの内部構造を示す図である。
【図3】サーマルプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】ライナーレスラベルの構造を示す図である。
【図5】(A)はライナーレスラベルとサーマルヘッドとの貼り付き強度と放置時間の関係を示す図であり、(B)は貼り付き強度と温度条件の関係を示す図である。
【図6】温度条件を変えた場合の貼り付き強度の時間変化特性を示す図である。
【図7】(A)〜(C)は動作パターンのバリエーションを示す図である。
【図8】貼り付き防止処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態に係るサーマルプリンタの外観図であり、図2はこのサーマルプリンタの内部構造を示す図である。
このサーマルプリンタ1は、長尺のライナーレスラベルをロール状に巻回したライナーレスラベルロール紙(以下、ロール紙という)20(図2参照)を記録媒体とし、サーマルヘッド35(図2参照)により文字を含む画像を感熱記録するダイレクトサーマルプリンタである。また、このライナーレスラベルロール紙20に代えて通常のロール紙(糊面を備えないロール紙)を装填することによって、通常のロール紙にも感熱記録が可能に構成されている。
【0014】
図1に示すように、このサーマルプリンタ1は、外装カバーを構成する上部ケース2、下部ケース3及びフロントカバー4を備え、これらカバー2〜4によって図2に示すプリンタ本体11を覆う。上部ケース2は、上部ケース2の幅方向に延びる排出口5と、図1中矢印で示した方向に開閉可能な上部カバー6とを備え、この上部カバー6を開けて図2に示すロール紙20の装填/取り外しを行う。また、上部ケース2の上面側端部には、上部カバー6を閉状態で保持するロック機構(図示略)を解除して上部カバー6を開放可能にするオープンボタン7が設けられる。
【0015】
図2に示すように、プリンタ本体11は、上方が開口する略箱形状の本体フレーム12と、本体フレーム12に支軸14を介して開閉可能に設けられたカバーフレーム13と、このフレーム12、13間に形成され、ロール紙20が装填されるロール装填部31と、ロール紙20から引き出されたライナーレスラベル25をラベル引出口32からラベル排出口33に搬送するプラテンローラ34と、ライナーレスラベル25を挟むようにプラテンローラ34と対向する位置に設けられたサーマルヘッド35と、記録を終えてラベル排出口33から排出されたライナーレスラベル25を切り離すオートカッタ機構36とを備えている。ここで、カバーフレーム13は、上部カバー6の裏側に取り付けられて上部カバー6と一体的に開閉するものである。
【0016】
ロール装填部31は、本体フレーム12に形成したロール紙20の外形状に沿って略円弧状に凹む凹状底壁15と、この凹状底壁15の上方位置でカバーフレーム13に設けられた略円弧状に突出する凸状カバー16とを有し、これらによってロール紙20の収容空間が形成される。
プラテンローラ34は、プリンタ本体11の幅方向に延在してカバーフレーム13に支持されている。このため、カバーフレーム13を開くとプラテンローラ34がカバーフレーム13と一体的に上方へ移動し、ロール紙20の装填/取り外し時にプラテンローラ34が邪魔にならず、装填/取り外し作業を容易に行うことができる。
また、このプラテンローラ34の軸の一端には、図示せぬ歯車が設けられており、本体フレーム12には、カバーフレーム13を閉じたときにその歯車に噛み合う歯車伝達機構(不図示)と後述する搬送モータ43とが設けられている。プラテンローラ34には、搬送モータ43の駆動力が歯車伝達機構を介して伝達され、このプラテンローラ34の回転によりライナーレスラベル25が搬送される。
【0017】
サーマルヘッド35は、発熱素子を直線状に並べて幅方向に延びるラインサーマルヘッドであり、支軸35Aを介して本体フレーム12に回動自在に支持されている。このサーマルヘッド35の背面側には、本体フレーム12に固定された押圧板39が位置し、この押圧板39とサーマルヘッド35との間には付勢部材(本例ではコイルばね)40が介挿される。これによって、付勢部材40によってサーマルヘッド35がプラテンローラ34側へ付勢され、ライナーレスラベル25に当接するように構成されている。なお、このサーマルヘッド35のヘッド表面は、発熱素子の保護、発熱素子の熱を伝える伝熱性及び耐摩耗性を満足するためにガラス系部材で構成されている。
オートカッタ機構36は、固定刃37と可動刃38とを備え、固定刃37は、カバーフレーム13に取り付けられ、可動刃38は、ライナーレスラベル25と直交する方向に進退可能に本体フレーム12に取り付けられる。カバーフレーム13を閉じたときに、固定刃37と可動刃38とはロール紙20の搬送路を挟んで対向配置され、可動刃駆動部(不図示)によって可動刃38が駆動されると、可動刃38が固定刃37に交差し、ライナーレスラベル25を切断する。
【0018】
図3はサーマルプリンタ1の電気的構成を示すブロック図である。
このサーマルプリンタ1は、ホストコンピュータ(図示略)との間で印刷ジョブ毎の印刷データ等の各種データを通信するためのインタフェース(I/F)41と、プリンタ1の各部を制御するコントローラ(制御部)42と、プラテンローラ34を回転駆動するための搬送モータ43と、コントローラ42の制御に従ってサーマルヘッド35、搬送モータ43及びオートカッタ機構36の各々を駆動する駆動回路を備えた駆動部(搬送部)44と、サーマルヘッド35の温度を検出するサーミスタ(温度検出部)46とを備えている。
【0019】
コントローラ42は、CPU、ROM及びRAM等を備えたコンピュータ構成を有し、CPUがROMに格納された制御プログラムを実行することによってプリンタ1の各部を中枢的に制御する。例えば、インタフェース41を介して印刷データを受信した場合、コントローラ42は、この印刷データを解析し、ライナーレスラベル25に印刷すべき画像データを、RAMに展開する。また、コントローラ42は、受信した印刷データから、印刷時における印刷条件及び印刷前後における動作を指定する制御データを抽出し、この制御データに従って動作する。この制御データは、印刷時の余白や印刷濃度等の他、ページとページの間(境界)で搬送を行って余白を設けるか否か、ページとページの間でオートカッタ機構36によりライナーレスラベル25を切断するか否か、ジョブとジョブとの間で搬送を行って余白を設けるか否か、ジョブとジョブの間でオートカッタ機構36によりライナーレスラベル25を切断するか否か、等の動作を指定するデータである。
【0020】
すなわち、コントローラ42は、制御データ及び画像データに従って駆動部44を制御し、制御データにより指定された動作を実現すべく搬送モータ43及びオートカッタ機構36を動作させ、内蔵するRAMに展開した画像データの通りに印刷を行うためにサーマルヘッド35を駆動させる。これにより、プリンタ1は、ロール紙20からライナーレスラベル25を引き出して画像を印刷して切断する。
また、コントローラ42は、記録媒体がライナーレスラベルロール紙20か通常のロール紙かに応じて動作モードを切り換えるための入力スイッチ(入力SW)42Aを備えている。この入力スイッチ42Aには、ディップスイッチ等のハードウェアスイッチ、或いは、メモリスイッチ(ソフトウェアスイッチ)が適用され、コントローラ42は、この入力スイッチ42Aの状態に応じて動作モードの切り換えを行う。つまり、ライナーレスラベルロール紙20の動作モードの場合、このロール紙が後述するようにオーバーコート層を備えるため、その分、通常のロール紙の場合よりもヘッドエネルギーを多く制御し、かつ、記録速度を遅くする動作モードに切り換える。
【0021】
サーミスタ46は、印字濃度制御(記録濃度制御)に用いる温度センサである。すなわち、サーマルヘッド35は、発熱素子の熱によって印字を行うので、サーマルヘッド本体の温度も必然的に上昇する。温度が上昇している場合は、常温時と同じヘッドエネルギーを印加すると印字が濃くなりすぎ、逆に本体が冷えている場合は常温と同じヘッドエネルギーを印加すると印字が薄くなる。このため、サーマルヘッド35には、サーマルヘッド本体の温度を測定するサーミスタ46が必要になり、コントローラ42によってこのサーミスタ46の検出温度に基づき印字濃度が適正に制御される。
【0022】
図4はライナーレスラベル25(ライナーレスラベルロール紙20)の構造を示している。この図に示すように、ライナーレスラベル25は、紙等で形成された長尺の基材25Aの一方側の面に、感熱発色層25B、表面保護のためのオーバーコート層25C及びリリースコート層25Dが順に積層され、他方側の面に、糊面(粘着層)25Eが形成される。
すなわち、このライナーレスラベル25は、記録面の表面層が、糊面25Eを剥離可能なリリースコート層25Dに形成され、このリリースコート層25Dの上に裏面の糊面25Eを台紙無しで重ねてロール状に巻くことによりライナーレスラベルロール紙20にすることができる。
【0023】
ところで、ライナーレスラベルロール紙20からライナーレスラベル25を引き出した際、このラベル25のリリースコート層25Dには糊面25Eの糊が付着しているため、サーマルヘッド35へ接した状態(いわゆる紙入れ状態)で放置されると、リリースコート層25Dが、ガラス系部材で形成されたヘッド表面にすぐに貼り付いてしまう。この貼り付きは、紙送り不良を招く原因となり、印字紙送りの起動時のピッチ乱れや走行不良の原因になってしまう。
このような貼り付きは、ライナーレスラベル25の糊面25Eとプラテンローラ34との間でも発生すると考えられるが、この点について発明者等が調査したところ、ライナーレスラベル25とプラテンローラ34との間の貼り付き力は、プラテンローラ34の材質を選定することによって、ライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との間の貼り付き力よりもずっと小さいものであり、ライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との間の貼り付きが問題になることが判った。
【0024】
このライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との貼り付きに関し、さらに発明者等が調べたところ、ライナーレスラベル25は、場合によっては数分でサーマルヘッド35に貼り付き始め、図5(A)に示すように、その貼り付き強度Gが、放置時間が長くなるに従って加速的に上昇することが判った。また、この貼り付き現象は、リリースコート層25Dに残留する糊によるため、温度条件が高いほど糊が空気中の水分を吸収して或いは糊が溶けてその粘着力を高め、図5(B)に示すように、温度条件が高いほど貼り付き強度Gが高くなることが判った。すなわち、環境温度は、ライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との貼り付き強度の増加特性に影響を与える影響情報に相当する。ここで、図5(B)は、温度条件を変えて一定時間が経過した後の貼り付き強度Gを示す特性曲線図である。
【0025】
これらの検討結果に基づき、発明者らは、図6に示すように、温度条件を変えて貼り付き強度Gの時間変化特性を得た。ここで、図中、特性曲線f1は、高温条件のときの特性曲線であり、特性曲線f2は、通常温度条件(<高温条件)のときの特性曲線であり、特性曲線f3は、低温条件(<通常温度条件)のときの特性曲線である。
この図に示すように、同じ時間tだけ経過した場合に、温度が高いほど貼り付き強度Gが高く、逆に温度が低いほど貼り付き強度Gが低くなることが明らかであった。また、この図には、通常の搬送力だけでライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から引き剥がし可能な貼り付き強度Gの上限値G0を示している。
すなわち、図6によれば、特性曲線f1で示す高温条件の場合、貼り付き強度Gが上限値G0以下となる放置時間tA未満であれば、ライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から確実に引き剥がすことができる。同様に、特性曲線f2で示す標準温度条件の場合、貼り付き強度Gが放置時間tB(>tA)未満であれば、確実に引き剥がすことができ、特性曲線f3で示す低温条件の場合、貼り付き強度Gが放置時間tC(>tB)未満であれば、確実に引き剥がすことができる。
【0026】
以上の検討を踏まえ、本実施形態では、紙入れ状態で放置されたときの環境温度を取得し、この環境温度に基づいて、コントローラ42が、ライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から所定量移動させて引き剥がす動作パターンで搬送モータ43を駆動することで、貼り付き強度Gが上限値G0を超えない状態に保持させるようにしている(以下、この処理を貼り付き防止処理という。)。
ここで、上述したようにサーマルプリンタ1は、ヘッド温度測定用のサーミスタ46を備えている。本実施形態では、このサーミスタ46が、サーマルヘッド35が発熱していない状態、つまり、ヘッド停止状態のときは環境温度を検出できることに着目し、このサーミスタ46の検出温度を環境温度として取得するようにしている。
【0027】
また、引き剥がしの動作パターンには、ロール紙20を逆送り、正送りの順で搬送させる動作パターンが適用される。ここで、逆送りから開始する理由は、仮に正送りから開始した場合は最初の正送り時に滑りが生じるとロール紙20からライナーレスラベル25が引き出されてそれがプリンタ1内に滞留してしまうおそれが生じるのに対し、逆送りから開始したときは最初に滑りが生じても上記事態を回避できるからである。また、逆送りから開始すれば、その回転力がサーマルヘッド35からライナーレスラベル25を引っ張る力として作用するため、効率よく引き剥がすことができる。
さらに、逆送りの後に短時間で正送りを行うことによって、その送りの逆転時にライナーレスラベル25に瞬間的に大きな力を作用させることができ、より引き剥がし易くできる。
【0028】
図7(A)〜(C)は、動作パターンのバリエーションを示している。この図において、立ち下がり期間Rが逆送り期間を示し、立ち上がり期間Fが正送り期間を示し、期間Sが送り中の間欠停止を示している。なお、この動作パターンの波形は、例えば、コントローラ42から駆動部44への制御信号の波形と同じである。
図7(A)は、逆送りを、立ち下がり期間Rの間、継続した後、正送りを、立ち上がり期間Fの間、継続して行う基本動作パターンを示している。この基本動作パターンでは、立ち下がり期間Rと立ち上がり期間Fが同時間であり、送り動作前の元の位置に戻すようにしている。
また、図7(B)は、逆送り中と正送り中に間欠停止を一回ずつ行う動作パターンを示しており、図7(C)は、逆送り中に間欠停止を2回行う動作パターンを示している。このように間欠停止を行えば、同方向の送り動作を間欠的に行うことができ、より引き剥がし易くできると考えられる。また、この送り動作を行った場合にでも、1回目で引き剥がされない可能性も考えられるため、立ち下がり期間Rと立ち上がり期間Fとを同期間にしなくてもよく、例えば、トータルの正送り時間(立ち上がり期間F)を、逆送り時間より長く設定することで、前回の印字終了位置よりも確実に正送りした位置から印字開始できるようにしてもよい。
【0029】
すなわち、発明者等は、この動作パターンのパラメータを、1)送り動作開始までの時間間隔(動作時間間隔)、2)逆送り、正送りの繰り返し実施回数、3)送り動作中の間欠動作の有無及び時間(何回に分割するか)、4)正送り、逆送りの各送り量、に定義し、このパラメータを最適化することで、ライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から確実に引き剥がし、かつ、貼り付き強度Gが上限値G0を超えない状態に保持させる動作パターンを設定するようにしている。
【0030】
本実施形態では、上記動作パターンの各パラメータのうち、1)の動作時間間隔を環境温度に応じて変更し、それ以外のパラメータは固定とした場合を説明する。この場合、測定又はシミュレーションにより、環境温度毎に、貼り付け強度Gが上限値G0と略一致するまでに要する放置時間(図6に示す放置時間tA、tB、tCに相当)を求めておき、この放置時間より若干短い時間を動作時間間隔に設定しておく。例えば、環境温度が25℃のとき、貼り付け強度Gが上限値G0になるまでの放置時間が40分の場合、動作時間間隔は30分といった具合である。
例えば、放置時間が40分の場合、この40分より若干短い時間(例えば30分)を動作時間間隔に設定すれば、引き剥がし可能の範囲で動作回数を減らすことができ、その分、騒音防止、省電力が可能になる。このようにして設定した動作時間間隔は、コントローラ42が環境温度から特定できるように、環境温度と動作時間間隔とを対応付けたテーブル、或いは、環境温度から動作時間間隔を演算する演算式の情報として、ROM等のメモリに格納される。
【0031】
図8は、貼り付き防止処理を示すフローチャートである。ここでは、高温条件(30℃以上)のときの動作時間間隔を10分とし、標準温度条件(25℃以上〜30℃未満)のときの動作時間間隔を15分とし、低温条件(25℃未満)の動作時間間隔を30分とした場合を例に説明する。
まず、コントローラ42は、入力スイッチ42Aの状態に応じてライナーレスラベルロール紙20の動作モードか否かを判定し(ステップS1)、ライナーレスラベルロール紙20の動作モードの場合(ステップS1:YES)、紙入れ状態で放置が発生したか否かを判定する(ステップS2)。この紙入れ状態で放置が発生したか否かは、例えば、コントローラ42が印刷データの受信待ち時間を計測し、この計測値が閾値を超えた場合に放置が発生したと判定する。また、この場合の閾値は、貼り付き強度Gが上限値G0に至る時間よりも確実に短い時間に設定される。
【0032】
次いで、コントローラ42は、ステップS1又はステップS2のいずれかが否定結果であった場合、この処理を終了する一方、ステップS2が肯定結果であった場合には、サーミスタ46の検出温度を取得し、この検出温度に基づいて駆動部44の動作パターンを設定する(ステップS3)。この場合、コントローラ42は、検出温度が30℃以上であれば動作時間間隔を10分にした動作パターンを設定し、検出温度が25℃以上〜30℃未満であれば動作時間間隔を15分にした動作パターンを設定し、検出温度が25℃未満であれば動作時間間隔を30分にした動作パターンを設定する。すなわち、放置時点の環境温度に応じた動作時間間隔を設定する。
そして、コントローラ42は、この設定した動作パターンで引き剥がし動作を開始させる(ステップS4)。この場合、コントローラ42は、紙入れ状態の放置が発生時点からの動作時間間隔の経過を待って、駆動部44により逆送り、正送りを行って搬送停止し、再び、動作時間間隔の経過を待って、駆動部44により逆送り、正送りを行って搬送停止する、といった間欠動作を実行する。
【0033】
次いで、コントローラ42は、動作開始から所定時間が経過すると、放置が解除されたか否か、又は、動作モードが変更されたか否かを判定する(ステップS5)。ここで、放置が解除された場合とは、印刷データを入力した場合であり、動作モードが変更された場合とは、入力スイッチ42Aが切り換えられた場合である。
そして、放置が継続し、かつ、動作モードも変更されていない場合には(ステップS5:NO)、コントローラ42は、ステップS3の処理へ移行し、サーミスタ46の検出温度を再取得し、この取得した検出温度に応じた動作パターンを設定して引き剥がし動作を継続する。
一方、放置が解除された場合、又は、動作モードが変更された場合(ステップS5:YES)、コントローラ42は、引き剥がし動作を停止し(ステップS6)、この処理を終了する。なお、この処理は、サーマルプリンタ1のメイン電源がオンの場合に所定の周期で繰り返し実行され、紙入れ状態の放置が発生した場合にライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から引き剥がす搬送制御が確実に実行されるようにしている。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、ライナーレスラベル25がサーマルヘッド35に接した状態で放置された場合に、放置された条件に応じてライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から所定量移動させて引き剥がす動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで搬送制御を行うので、ライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との貼り付き強度Gが上限値G0を超える前に引き剥がすことができる。
これによれば、印刷開始時にライナーレスラベル25とサーマルヘッド35とが貼り付いても、印刷時の通常の搬送力でライナーレスラベル25をサーマルヘッド35から確実に引き剥がすことができ、かつ、この搬送制御を間欠的に行うので、貼り付き強度Gが上限値G0を超えない状態に保持できる。従って、印刷開始時の紙送り不良を回避でき、これを原因とした紙送り起動時のピッチ乱れや走行不良も回避できる。
しかも、逆送り、正送りの順で搬送させる動作パターンを設定するので、正送りから開始した場合にロール紙20からライナーレスラベル25が引き出されてそれがプリンタ1内に滞留してしまうといった不具合がなく、かつ、効率よく引き剥がすことができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、ライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との貼り付き強度に影響を与える環境温度(影響情報)を取得し、この環境温度に基づいて動作パターンを設定するので、無駄な動作を回避した動作パターンを設定でき、騒音防止、省電力が可能になる。つまり、環境温度が低いほど動作パターンの動作時間間隔を長くすることで、非印刷時にプリンタ1が頻繁に動作する事態を回避できる。しかも、この環境温度の測定を、ヘッド温度測定用のサーミスタ46で行うので、環境温度測定用の温度センサを別途設ける必要がなく、部品点数の削減が可能である。
また、本実施形態では、動作モードを切り換えるための入力スイッチ42Aの状態に基づきライナーレスラベルロール紙20の動作モードの場合にだけ、動作パターンの設定及び動作パターンに基づく搬送制御を行うようにしたので、サーマルヘッド35に貼り付かない通常のロール紙がセットされている場合に上記貼り付きを防止する制御を行ってしまう事態を確実に回避できる。
【0036】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。例えば、上記実施形態にでは、ライナーレスラベル25とサーマルヘッド35との貼り付き強度に影響を与える影響情報として環境温度の情報を取得し、この情報に基づいて動作パターンを設定する場合について述べたが、これに限らない。例えば、湿度が高いほどリリースコート層25Dに残留する糊が水分を吸収してその粘着力を高めることが考えられるため、湿度センサを設け、このセンサで検出した湿度に基づいて動作パターンを設定してもよく、また、温度と湿度の両方の組み合わせに基づいて動作パターンを設定してもよい。
また、この種の影響情報に応じて変更する動作パターンのパラメータは、1)の動作時間間隔に限らず、他のパラメータ(2)逆送り、正送りの繰り返し実施回数、3)送り動作中の間欠動作の有無及び時間(何回に分割するか)、4)正送り、逆送りの各送り量)でもよい。
【0037】
また、上記実施形態において、印刷データの受信待ちまでの累積時間、つまり、放置時間の累積時間に応じて動作パターンを変更してもよい。例えば、累積時間が閾値時間(例えば、10分)に至るまでは、比較的短い時間間隔(例えば、10分)の動作パターンを設定し、閾値時間を超えると、比較的長い時間間隔(例えば、20分)の動作パターンを設定するようにしてもよい。
また、上記実施形態において、サーマルプリンタ1の電源投入直後も上記動作パターンを設定し、この動作パターンで搬送制御を行うようにしてもよい。これによっても、印刷開始前に貼り付きを外すことができる。
【0038】
また、上記実施形態では、表面にリリースコート層を有するライナーレスラベルに画像を記録するプリンタに本発明を適用する場合について述べたが、ライナーレスラベル以外にも、表面保護のためのオーバーコート層を設けたラベル紙についても、直ぐにサーマルヘッドのヘッド表面に貼り付いて同様の問題が生じる場合があり、このようなサーマルヘッドに貼り付く表面層を有する記録媒体に画像を記録するプリンタに本発明を広く適用してもよい。
さらに、上記実施形態では、上記処理を実行するための制御プログラムをサーマルプリンタ1内に予め格納しておく場合について説明したが、この制御プログラムを磁気記録媒体、光記録媒体、半導体記録媒体等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納し、コンピュータが記録媒体からこの制御プログラムを読み取って実行するようにしてもよい。また、この制御プログラムを通信ネットワーク上の配信サーバ等からダウンロードできるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…サーマルプリンタ、11…プリンタ本体、20…ライナーレスラベルロール紙、25…ライナーレスラベル、25A…基材、25B…感熱発色層、25C…オーバーコート層、25D…リリースコート層、25E…糊面(粘着層)、34…プラテンローラ、35…サーマルヘッド、36…オートカッタ機構、42…コントローラ(制御部)、43…搬送モータ、44…駆動部(搬送部)、46…サーミスタ(温度検出部)、G…貼り付き強度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する搬送部と、この搬送部によって搬送される記録媒体に画像を記録するサーマルヘッドとを備える記録装置において、
前記記録媒体が表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備え、この記録媒体が前記サーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて前記記録媒体の表面を前記サーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで前記搬送部を制御する制御部を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、
前記制御部は、前記記録媒体を逆送り、正送りの順で搬送させる動作パターンを設定すること特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の記録装置において、
前記制御部は、前記記録媒体と前記サーマルヘッドとの貼り付き強度に影響を与える影響情報を取得し、この影響情報に基づいて前記動作パターンを設定することを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項3に記載の記録装置において、
前記制御部は、前記影響情報に基づいて前記搬送部の動作時間間隔、逆送り中及び正送り中の間欠動作の有無或いは回数の少なくともいずれかを設定することを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の記録装置において、
前記影響情報は、温度又は湿度の少なくともいずれかであることを特徴とする記録装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の記録装置において、
前記記録媒体は、表面にリリースコート層を有し、裏面に粘着層を有したライナーレス紙であり、リリースコート層の上に粘着層を重ねた状態から引き出されて前記搬送部により搬送されることを特徴とする記録装置。
【請求項7】
記録媒体を搬送する搬送部と、この搬送部によって搬送される記録媒体に画像を記録するサーマルヘッドとを備える記録装置の制御方法において、
表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備える記録媒体が前記サーマルヘッドに接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて前記記録媒体の表面を前記サーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで前記搬送部を制御することを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項8】
記録媒体を搬送する搬送部と、この搬送部によって搬送される記録媒体に画像を記録するサーマルヘッドとを備える記録装置をコンピュータにより制御するための制御プログラムにおいて、
前記コンピュータを、表面にリリースコート層又はオーバーコート層を備える記録媒体が前記サーマルヘッド接した状態で放置された場合に、この放置された条件に応じて前記記録媒体の表面を前記サーマルヘッドから所定量移動させる動作パターンを設定し、この設定した動作パターンで前記搬送部を制御する制御部として機能させることを特徴とする制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−99955(P2013−99955A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−4614(P2013−4614)
【出願日】平成25年1月15日(2013.1.15)
【分割の表示】特願2008−176488(P2008−176488)の分割
【原出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】