説明

記録装置

【課題】媒体支持部に形成された吸引するための穴部の開閉切り換えと、該穴部の閉じた状態での密閉性を考慮した記録装置を提供すること。
【解決手段】記録装置(1)は、媒体支持部4に形成された複数の穴部5、5…と、該穴部5を介して空気を吸引する吸引手段6と、前記穴部6に対して接離する方向(Z)へ移動可能な閉塞部材13と、該閉塞部材13を前記穴部5に向かって付勢する付勢手段14と、前記閉塞部材13が移動する方向(Z)と交差する方向(X)へ摺動可能である摺動部材8と、を備え、該摺動部材8は、摺動する際、前記閉塞部材13と接触可能な構成であり、前記摺動部材8を摺動させることにより、少なくとも一の前記穴部5(例えばL1)について、前記閉塞部材13が該穴部5を閉塞した状態と、前記閉塞部材13が該穴部5を開放した状態とを切り換える構成であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体を支持する媒体支持部と、該媒体支持部に形成され、一端側が媒体支持部における被記録媒体を支持する側に形成された複数の穴部と、該穴部の他端側に設けられ、該穴部を介して媒体支持部上の空気を吸引する吸引手段と、を備えた記録装置に関する。
本願において、記録装置には、インクジェットプリンター、ワイヤドットプリンター、レーザープリンター、ラインプリンター、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、記録装置は、記録ヘッドと対向する位置に被記録媒体の一例である用紙を支持する媒体支持部(プラテン)を備えていた。そして、該媒体支持部には、複数の吸引穴が形成されていた。さらに、吸引手段である吸引ファンの吸引力によって、前記吸引穴を介して前記媒体支持部上の空気を吸引し、前記媒体支持部上の用紙を、前記媒体支持部に吸着させることが可能に構成されていた。また、前記複数の吸引穴の開閉状態を切り換えるシャッターが設けられていた。そして、該シャッターを摺動させることにより、一部の吸引穴を閉じた状態とし、その他の吸引穴を開いた状態とすることができるように構成されていた。従って、用紙の幅方向のサイズに合わせて、開いた状態にする前記吸引穴を選択することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−205855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、摺動する前記シャッターが前記吸引穴を閉じる構成であり、前記シャッターに吸引力が作用する。そのため、前記吸引穴との間に隙間が生じやすく、閉じるべき前記吸引穴の密閉性が低かった。ここで、密閉性を高めるために、前記シャッターに対して吸引穴側への力を加えると、摺動する際の摩擦抵抗が大きくなる。従って、前記シャッターを摺動させることが困難となる虞が生じる。特に手動で摺動させる構成である場合に該虞が生じる。また、モーターの動力によって摺動させる構成である場合は、モーターの出力を大きくするために大きなモーターを用いる必要がある。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、媒体支持部に形成された吸引するための穴部の開閉切り換えと、該穴部の閉じた状態での密閉性を考慮した記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の記録装置は、被記録媒体を支持する媒体支持部と、該媒体支持部に形成され、一端側が媒体支持部における被記録媒体を支持する側に形成された複数の穴部と、該穴部の他端側に設けられ、該穴部を介して媒体支持部上の空気を吸引する吸引手段と、前記穴部における前記他端側において複数設けられ、該穴部に対して接離する方向へ移動可能な閉塞部材と、該閉塞部材を前記穴部に向かって付勢する付勢手段と、前記穴部の他端側に設けられ、前記閉塞部材が移動する方向と交差する方向へ摺動可能である摺動部材と、を備え、該摺動部材は、摺動する際、前記閉塞部材と接触可能な第1の部分を有しており、前記閉塞部材は、前記摺動部材が摺動する際、前記第1の部分と接触可能な第2の部分を有しており、前記第1の部分および前記第2の部分の少なくとも一方は、前記摺動部材が摺動する方向および前記閉塞部材が移動する方向の両方に対して傾いて形成された箇所を有しており、前記摺動部材を摺動させることにより、少なくとも一の前記穴部について、前記第1の部分を前記第2の部分から離間させ、前記閉塞部材が該穴部を閉塞した状態と、前記第1の部分を前記第2の部分と接触させ、前記閉塞部材を該穴部から離間する方向へ移動させ、前記閉塞部材が該穴部を開放した状態と、を切り換え可能であり、前記摺動部材の摺動方向における位置を変えることによって、前記開放した状態にする前記穴部を選択する構成であることを特徴とする。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、前記閉塞部材と、前記摺動部材とが別体である。従って、前記閉塞部材が前記穴部を閉塞した状態において、前記摺動部材に対して前記吸引手段による吸引力が作用しても、前記閉塞部材の位置には、影響を与えない。これにより、前記閉塞した状態における密閉性を高めることができる。その結果、前記開放した状態の前記穴部を介する吸引力が低下する虞がない。即ち、前記開放した状態に選択された前記穴部と対向する範囲において、効率よく被記録媒体を前記媒体支持部に吸着させることができる。
また、前記閉塞部材と、前記摺動部材とを別体にしたことにより、従来のシャッターの摺動と比較して、前記摺動部材を容易に摺動させることができる。従って、容易に前記穴部の選択を切り換えることができる。前記摺動部材の摺動が手動による構成である場合に特に有効である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1の部分が前記第2の部分から離間した状態から接触した状態となる方向へ前記摺動部材が摺動するとした場合の摺動方向先後を基準として、前記摺動部材における前記第1の部分の先端側が後端側より前記穴部に接近しているように摺動方向に対して傾いて形成されていることを特徴とする。
本発明の第2の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、滑らかに前記閉塞部材を前記穴部から離間させる方向へ移動させることができる。即ち、滑らかに前記閉塞した状態から前記開放した状態へ切り換えることができる。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記閉塞部材における少なくとも前記穴部側は、球面状に形成されており、前記穴部は、正円形の穴であり、前記閉塞部材における前記球面状の部分の径は、前記穴部の径より大であることを特徴とする。
本発明の第3の態様によれば、第1または第2の態様と同様の作用効果に加え、前記閉塞した状態における密閉性をより高めることができる。即ち、前記閉塞部材の移動方向を軸とした該閉塞部材の向きが変化した場合や、前記移動方向に対する前記閉塞部材の姿勢が変化した場合であっても、確実に前記穴部を閉塞した状態にすることができる。
また、前記摺動部材の前記第1の部分が、前記閉塞部材の前記第2の部分と、前記穴部との間に入り込みやすく構成することができる。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれか一の態様において、前記摺動部材は、摺動方向に延設された溝部を有しており、該溝部は、摺動方向に対する幅が、前記閉塞部材における前記第2の部分の幅より狭い第1領域と、前記第2の部分の幅より広い第2領域と、を有することを特徴とする。
本発明の第4の態様によれば、第1から第3のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記開放した状態における前記閉塞部材の位置および姿勢を安定させることができる。
【0011】
具体的には、前記閉塞部材の前記第2の部分が前記第1領域で前記溝部と接触している場合、前記開放した状態とし、前記閉塞部材の前記第2の部分が第2領域内に位置する場合、前記閉塞した状態とすることができる。そして、前記開放した状態では、前記溝部が前記閉塞部材と接触し、該閉塞部材の位置および姿勢を安定させることができる。特に、前記摺動部材の摺動方向および前記閉塞部材の移動方向と交差する方向における位置を安定させることができる。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれか一の態様において、前記閉塞部材を前記移動方向へ案内する案内部をさらに備えており、前記閉塞部材は、球体であり、前記付勢手段は、圧縮コイルばねであり、前記案内部における前記閉塞部材と接触可能な面は、円筒の内側面状に形成され、前記案内部の内側に、前記閉塞部材としての球体および前記付勢手段としての圧縮コイルばねが設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、第1から第4のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記閉塞部材の移動方向と直交する方向において、前記穴部と、前記閉塞部材との相対的な位置関係を安定させることができる。また、前記閉塞部材は球体であるため、閉塞部材の向きおよび姿勢が変化した場合であっても、前記閉塞した状態に容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)(B)は本発明に係るプリンターにおける媒体支持部の概略を示す図。
【図2】(A)(B)は本発明に係る媒体支持部の穴部の第1選択状態を示す概略図。
【図3】(A)(B)は本発明に係る媒体支持部の穴部の第2選択状態を示す概略図。
【図4】(A)(B)は本発明に係る媒体支持部の穴部の第3選択状態を示す概略図。
【図5】(A)(B)は他の実施形態の穴部の開閉状態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(A)(B)に示すのは、本発明に係るプリンターにおける媒体支持部の概略を示す図である。このうち、図1(A)は側断面図である。一方、図1(B)は平面図である。
図1(A)に示す如く、本発明のプリンター1は、図示しない送り手段と、記録部2と、を備えている。このうち、送り手段は、被記録媒体の一例である用紙Pを送り方向下流側へ送ることができるように構成されている。例えば、ローラー対や、ベルト機構によって送ることができる。
【0016】
また、記録部2は、用紙Pに対してインクを吐出して記録を実行することができるように構成されている。具体的には、記録ヘッド3と、媒体支持部4とを有している。本実施例では、記録ヘッド3は、媒体支持部4と対向する範囲において、用紙Pの送り方向Yに移動可能に設けられている。
尚、記録ヘッド3が用紙Pの幅方向Xに移動可能な構成でもよいのは勿論である。
【0017】
媒体支持部4は、用紙Pを支持し、用紙Pと記録ヘッド3との間の距離を所定の距離とすることができるように構成されている。また、媒体支持部4は、複数の穴部5、5…と、負圧室7と、吸引手段6とを有している。このうち、複数の穴部5、5…の一端側5aは、媒体支持部4における用紙Pを支持する面に形成されている。一方、穴部5の他端側5bは、前記支持する面と反対側である負圧室側に形成されている。
【0018】
また、負圧室7は、吸引手段6の一例である吸引ファンによって負圧状態となるように構成されている。また、負圧室7における穴部側には、用紙Pの幅方向Xに摺動可能な摺動部材8が設けられている。そして、詳しくは後述するように、摺動部材8を移動させることによって、複数の穴部5、5…を開放した状態と、閉塞した状態とを切り換えることができるように構成されている。
【0019】
図1(B)に示す如く、穴部5は、送り方向Yに複数配設されている。さらに、用紙Pの幅方向Xに複数の列を成して形成されている。本実施例では、幅方向Xの一の側端側から他の側端側まで、第1列L1、第2列L2、第3列L3…第7列L7が配列されている。
尚、Z軸方向は、記録ヘッドと媒体支持部とが対向する方向である。
続いて、摺動部材8を移動させ、複数の穴部5、5…を開放した状態と、閉塞した状態とを切り換える動作について説明する。
[第1選択状態]
【0020】
図2(A)(B)に示すのは、本発明に係る媒体支持部の穴部の第1選択状態を示す概略図である。このうち、図2(A)は送り方向上流側から下流側へ向かってみたときの媒体支持部の要部を拡大した断面図である。尚、図2(A)において理解を容易にするために吸引手段の図示は省略する。
一方、図2(B)は摺動部材と閉塞部材との位置関係を示す平面図である。尚、図2(B)において理解を容易にするために負圧室の上面側である媒体支持部における用紙を支持する面の図示は省略する。
ここで、「第1選択状態」とは、複数の穴部の全ての列において、穴部が開放された状態となっている状態をいう。即ち、全ての列について開放した状態が選択された状態をいう。
【0021】
図2(A)(B)に示す如く、穴部5の他端側5bと対向する位置には、球体形状の閉塞部材13が設けられている。そして、閉塞部材13は、穴部5に対して接離する方向へ移動可能に設けられている。ここで、球体形状の閉塞部材13の径R1は、正円形状の穴部5の径R2より大となるように構成されている。そして、閉塞部材13が穴部5と接触することにより、穴部5を閉塞した状態となる。一方、閉塞部材13が穴部5から離間することにより、穴部5を開放した状態となるように構成されている。
【0022】
また、閉塞部材13は、負圧室7の底面側(7a)から上面側へ向かって付勢手段14の一例である圧縮コイルばね15によって付勢されている。ここで、閉塞部材13は球体形状であり、球体の径R1の長さは、圧縮コイルばね15の径の長さより大となるように構成されている。従って、球面は、圧縮コイルばね15の先端によって安定して支えられる。また、閉塞部材13は球体であるため、閉塞部材13の移動方向を軸とした回転方向に変位した場合であっても何ら問題はない。またさらに、移動方向に対する閉塞部材13の姿勢が変化した場合であっても何ら問題はない。
【0023】
またさらに、摺動部材8は、図示しないガイドによって案内されながら幅方向Xに摺動可能に構成されている。
ここで、摺動部材8には、幅方向Xに延設された溝部9が形成されている。そして、溝部9が閉塞部材13と接触し、閉塞部材13を穴部5に対して接離する方向へ移動させることができるように構成されている。即ち、摺動部材8は、カムとして、閉塞部材13に対して作用し、閉塞部材13は、カムフォロアとして、摺動部材8から作用を受ける所謂、カム機構として構成されている。ここで、摺動部材8における閉塞部材13と接触する箇所を、第1の部分8aとする。一方、閉塞部材13における摺動部材8と接触する箇所を、第2の部分13aとする。
【0024】
具体的には、溝部9は、第1領域10と、第2領域11とを有している。このうち、第1領域10における摺動方向に対する幅は、閉塞部材13の球体の径R1の長さより狭く(短く)構成されている。一方、第2領域11における摺動方向に対する幅は、閉塞部材13の球体の径R1の長さより広く(長く)構成されている。
尚、第2領域11における前記幅は、第1領域10における前記幅より広く設けられており、閉塞部材13における第2の部分13aの幅より広く設けられていればよい。即ち、溝部9の第2領域11では、摺動部材8と閉塞部材13とが接触しない構成であればよい。
【0025】
また、第1領域10と第2領域11との境界近傍において、穴部5を閉塞した状態から開放した状態に切り換える際の摺動部材8の摺動方向先端側は、先細り形状に設けられている。言い換えると、第1領域10における摺動方向先端側の第1の部分8aには、先端側が後端側より穴部5に接近しているように摺動方向に対して傾いた第1傾斜部12が形成されている。
【0026】
そして、第1選択状態では、全ての列である第1列L1〜第7列L7において、溝部9の第1領域10が、穴部5と、閉塞部材13との間に入り込むように構成されている。言い換えると、溝部9の第1領域10の第1の部分8aが、圧縮コイルばね15のばね力に抗して、閉塞部材13を穴部5から離間させるように構成されている。従って、全ての列である第1列L1〜第7列L7において、穴部5を開放した状態となる。
尚、本実施例では、負圧室7の上面と摺動部材8との間に隙間を設けたが、これに限られない。開放した状態の穴部5から吸引された空気は、摺動部材8の溝部9を介して吸引手段6によって吸引される。そのため、負圧室7の上面と摺動部材8との間に隙間を設けなくてもよい。
[第2選択状態]
【0027】
図3(A)(B)に示すのは、本発明に係る媒体支持部の穴部の第2選択状態を示す概略図である。このうち、図3(A)は送り方向上流側から下流側へ向かってみたときの媒体支持部の要部を拡大した断面図である。尚、図3(A)において理解を容易にするために吸引手段の図示は省略する。
一方、図3(B)は摺動部材と閉塞部材との位置関係を示す平面図である。尚、図3(B)において理解を容易にするために負圧室の上面側である媒体支持部における用紙を支持する面の図示は省略する。
ここで、「第2選択状態」とは、複数の穴部の列のうちの第1列以外の列において、穴部が開放された状態となっている状態をいう。即ち、第1列を閉塞した状態とし、その他の列(第2列〜第7列)について開放した状態が選択された状態をいう。
【0028】
図3(A)(B)に示す如く、図2(A)(B)の状態から摺動部材8をX軸の矢印方向へ摺動させると、第1列L1の閉塞部材13が第1列L1の穴部5を閉塞した状態に切り換えることができる。詳しく説明すると、摺動部材8をX軸の矢印方向へ摺動させる。これにより、第1列L1の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第1領域10から第2領域11の溝部内に入ることになる。この際、他の列の穴部5に対応する閉塞部材13は、第1領域10の溝部9と接触した状態である。
【0029】
従って、第1列L1の穴部5に対応する閉塞部材13のみが、圧縮コイルばね15のばね力によって第1列L1の穴部5に接近する。そして、第1列L1の穴部5に対応する閉塞部材13のみが、第1列L1の穴部5と接触して、第1列L1の穴部5を閉塞した状態にする。即ち、第1列L1を閉塞した状態とし、その他の列(第2列L2〜第7列L7)について開放した状態が選択された第2選択状態となる。
[第3選択状態]
【0030】
図4(A)(B)に示すのは、本発明に係る媒体支持部の穴部の第3選択状態を示す概略図である。このうち、図4(A)は送り方向上流側から下流側へ向かってみたときの媒体支持部の要部を拡大した断面図である。尚、図4(A)において理解を容易にするために吸引手段の図示は省略する。
一方、図4(B)は摺動部材と閉塞部材との位置関係を示す平面図である。尚、図4(B)において理解を容易にするために負圧室の上面側である媒体支持部における用紙を支持する面の図示は省略する。
ここで、「第3選択状態」とは、複数の穴部の列のうちの第1列および第2列以外の列において、穴部が開放された状態となっている状態をいう。即ち、第1列および第2列を閉塞した状態とし、その他の列(第3列〜第7列)について開放した状態が選択された状態をいう。
【0031】
図4(A)(B)に示す如く、図3(A)(B)の状態から摺動部材8をX軸の矢印方向へさらに摺動させると、第2列L2の閉塞部材13が第2列L2の穴部5を閉塞した状態に切り換えることができる。詳しく説明すると、摺動部材8をX軸の矢印方向へさらに摺動させる。これにより、第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第1領域10から第2領域11の溝部内に入ることになる。この際、第3列L3〜第7列L7の穴部5に対応する閉塞部材13は、第1領域10の溝部9と接触した状態である。また、第1列L1の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第2領域11の溝部内に入ったままである。
【0032】
従って、第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13が、圧縮コイルばね15のばね力によって第2列L2の穴部5に接近する。そして、第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13が、第2列L2の穴部5と接触して、第2列L2の穴部5を閉塞した状態にする。即ち、第1列L1および第2列L2を閉塞した状態とし、その他の列(第3列L3〜第7列L7)について開放した状態が選択された第3選択状態となる。
[第4選択状態(図示せず)]
【0033】
ここで、「第4選択状態」とは、複数の穴部の列のうちの第1列〜第3列以外の列において、穴部が開放された状態となっている状態をいう。即ち、第1列〜第3列を閉塞した状態とし、その他の列(第4列〜第7列)について開放した状態が選択された状態をいう。
図4(A)(B)の状態から摺動部材8をX軸の矢印方向へさらに摺動させると、第3列L3の閉塞部材13が第3列L3の穴部5を閉塞した状態に切り換えることができる。この際の第3列L3の穴部5に対応する閉塞部材13の動作は、第2選択状態から第3選択状態に切り換えられる際の第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13の動作と、同様である。従って、その説明は省略する。
【0034】
尚、本実施例では、例として第1列L1〜第3列L3の穴部5について、一の摺動部材8によって、開放した状態と閉塞した状態とを切り換えることができるように構成したが、これに限られない。第1列L1〜第6列の穴部5について、切り換えることができるように構成してもよいのは勿論である。尚、用紙Pが第7列側を基準に位置が決められる構成である場合、第7列L7については、切り換える必要がない。全ての列の穴部5を閉塞した状態に切り換える代わりに、吸引手段6を停止させればよいからである。
また、本実施例では、第1列L1〜第7列L7の構成としたが、これに限られるものではない。列の数を増減することができるのは勿論である。
【0035】
以上、説明したように、穴部5を閉塞した状態の閉塞部材13と、摺動部材8とを別体に構成したことにより、従来技術と比較して、閉塞した状態の密閉性を高めることができる。仮に摺動部材8が吸引力の影響を受けた場合であっても、閉塞した状態の閉塞部材13は、摺動部材8と離間しているからである。その結果、開放した状態の穴部5における吸引力が低下する虞がない。
また、開放した状態から閉塞した状態へ切り換える際、前述した従来技術と比較して、滑らかに摺動させることができる。前述した従来技術のような、密閉性を高めるためにシャッターを穴部側へ付勢する力が作用しないからである。
[閉塞した状態から開放した状態への切り換え]
【0036】
「第4選択状態」から「第3選択状態」へ切り換える場合、摺動部材8をX軸の矢印と逆方向へ摺動させる。この際、第3列L3の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第2領域11の溝部内から出て第1領域10の溝部9と接触した状態となる。より詳しく説明すると、カムとしての第1傾斜部12が、第3列L3の穴部5に対応する閉塞部材13のカムフォロアとしての第2の部分13aと接触する。
【0037】
そして、第1傾斜部12が、第3列L3の穴部5に対応する閉塞部材13を、第3列L3の穴部5から離間する方向へ圧縮コイルばね15のばね力に抗して移動させる。
その結果、第3列L3の閉塞部材13が第3列L3の穴部5を開放した状態となる。この際、第1列L1および第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第2領域11の溝部内に位置したままである。従って、第1列L1および第2列L2の穴部5については、閉塞した状態のままである。
【0038】
同様に、「第3選択状態」から「第2選択状態」へ切り換える場合、図4(A)(B)に示す状態から、摺動部材8をX軸の矢印と逆方向へ摺動させる。この際、第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第2領域11の溝部内から出て第1領域10の溝部9と接触した状態となる。より詳しく説明すると、カムとしての第1傾斜部12が、第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13のカムフォロアとしての第2の部分13aと接触する。そして、第1傾斜部12が、第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13を、第2列L2の穴部5から離間する方向へ圧縮コイルばね15のばね力に抗して移動させる。
【0039】
その結果、図3(A)(B)に示す如く、第2列L2の閉塞部材13が第2列L2の穴部5を開放した状態となる。この際、第1列L1の穴部5に対応する閉塞部材13は、相対的に第2領域11の溝部内に位置したままである。従って、第1列L1の穴部5については、閉塞した状態のままである。また、第3列L3の穴部5に対応する閉塞部材13は、第1領域10の溝部9と接触したままである。従って、第3列L3の穴部5については、開放した状態のままである。
【0040】
また同様に、「第2選択状態」から「第1選択状態」へ切り換える場合、図3(A)(B)に示す状態から、摺動部材8をX軸の矢印と逆方向へ摺動させる。この際の第1列L1の穴部5に対応する閉塞部材13の動作は、第3選択状態から第2選択状態に切り換えられる際の第2列L2の穴部5に対応する閉塞部材13の動作と、同様である。従って、その説明は省略する。
その結果、図2(A)(B)に示す如く、第1列L1の閉塞部材13が第1列L1の穴部5を開放した状態となる。この際、第2列L2および第3列L3の穴部5に対応する閉塞部材13は、第1領域10の溝部9と接触したままである。従って、第2列L2および第3列L3の穴部5については、開放した状態のままである。
【0041】
以上、説明したように、閉塞した状態から開放した状態へ切り換える際、第1傾斜部12によって、滑らかに閉塞部材13を、穴部5から離間させることができる。また、閉塞部材13における第2の部分13aは、摺動方向に対して傾いている。従って、滑らかに閉塞部材13を、穴部5から離間させることができる。
尚、上記実施例では、閉塞部材13を球体形状に形成したが、これに限られない。少なくとも穴部側が球面状に形成されていることが望ましい。正円の穴部5との密閉性を高めることができるからである。また、穴部側が球面状でなくてもよい。穴部を閉塞することが可能だからである。
【0042】
また、上記実施例では、摺動部材8に溝部9を形成したが、必ずしも溝部9を形成する必要はない。カムとしての摺動部材8と、カムフォロアとしての閉塞部材13との関係が成立するカム機構であればよい。本実施例で溝部9を設けた理由は、開放した状態における閉塞部材13の位置を安定させることができるからである。
またさらに、上記実施例では、摺動部材8は、X軸方向へ摺動する構成としたが、これに限られない。閉塞部材13の移動方向であるZ軸方向と交差する方向であればよい。該交差する関係であれば、カムとカムフォロアとの関係が成立するからである。
【0043】
また、用紙の幅のみに応じて各列の穴部の開閉状態を切り換えるように構成したが、加えて用紙の長さに応じて開閉状態を切り換えるように構成してもよい。送り方向下流側の溝部と上流側の溝部とを異なる形状にすることにより、用紙の長さにも対応することができる。例えば、媒体支持部まで送られた用紙を媒体支持部上に停止させた状態で記録を実行する構成である場合で、用紙サイズがA4であるとき、A4サイズの用紙に対応する範囲の穴部を開放した状態にすることができる。また、用紙サイズがA3であるとき、A3サイズの用紙に対応する範囲の穴部を開放した状態にすることができる。
【0044】
本実施形態の記録装置としてのプリンター1は、被記録媒体の一例である用紙Pを支持する媒体支持部4と、媒体支持部4に形成され、一端側5aが媒体支持部4における用紙Pを支持する側に形成された複数の穴部5、5…と、穴部5の他端側5bに設けられ、穴部5を介して媒体支持部上の空気を吸引する吸引手段6と、穴部5における他端側5bにおいて複数設けられ、穴部5に対して接離する方向であるZ軸方向へ移動可能な閉塞部材13と、閉塞部材13を穴部5に向かって付勢する付勢手段14と、穴部5の他端側5bに設けられ、閉塞部材13が移動する方向と交差する方向の一例である幅方向Xへ摺動可能である摺動部材8と、を備え、摺動部材8は、摺動する際、閉塞部材13と接触可能な第1の部分8aを有しており、閉塞部材13は、摺動部材8が摺動する際、第1の部分8aと接触する第2の部分13aを有しており、第1の部分8aおよび第2の部分13aの少なくとも一方は、摺動部材8が摺動する方向および閉塞部材13が移動する方向の両方に対して傾いて形成された箇所を有しており、摺動部材8を摺動させることにより、少なくとも一の穴部5について、第1の部分8aを第2の部分13aから離間させ、閉塞部材13が穴部5を閉塞した状態と、第1の部分8aを第2の部分13aと接触させ、閉塞部材13を穴部5から離間する方向へ移動させ、閉塞部材13が穴部5を開放した状態と、を切り換え可能であり、摺動部材8の摺動方向における位置を変えることによって、前記開放した状態にする穴部5を選択する構成であることを特徴とする。
尚、本実施例では、第2の部分13aが、球面状に形成されており、前記摺動する方向(X軸方向)および前記移動する方向(Z軸方向)の両方に対して傾いている。
【0045】
また、本実施形態において、第1の部分8aが第2の部分13aから離間した状態から接触した状態となる方向へ摺動部材8が摺動するとした場合の摺動方向先後を基準として、摺動部材8における第1の部分8aの第1傾斜部12は、先端側が後端側より穴部5に接近しているように、摺動方向に対して傾いて形成されていることを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、閉塞部材13における少なくとも穴部側は、球面状に形成されており、穴部5は、正円形の穴であり、閉塞部材13における前記球面状の部分の径R1は、穴部5の径R2より大であることを特徴とする。
また、本実施形態において、摺動部材8は、摺動方向に延設された溝部9を有しており、溝部9は、摺動方向に対する幅が、閉塞部材13における第2の部分13aの幅より狭い第1領域10と、第2の部分13aの幅より広い第2領域11と、を有することを特徴とする。
[他の実施形態1]
図5(A)に示すのは、他の実施形態1に係る穴部の開閉状態を示す概略側面図である。
図5(A)に示す如く、他の実施形態1において、穴部に対して接離する方向へ閉塞部材を案内する案内部が設けられている。
尚、その他の部材については、前述した実施形態と同様であるため、同じ符号を用いることとし、その説明は省略する。
【0046】
案内部20は、Z軸方向を軸とした円筒状に形成されている。また、円筒状の内側に閉塞部材13および圧縮コイルばね15が配設されている。そして、案内部20の円筒状の内側面21が、閉塞部材13を案内することができるように構成されている。また、内側面21における穴部5に近い側においてテーパー状の第2傾斜部22が形成されている。これにより、閉塞した状態に切り換える際、第2傾斜部22は、閉塞部材13を穴部5と対向する位置へ案内することができる。即ち、X−Y軸方向における穴部5と、閉塞部材13との相対的な位置関係を精度良く決めることができる。その結果、閉塞した状態の密閉性をより高めることができる。
【0047】
尚、円筒状の案内部20の内側面21における穴部5に近い側の端部(第2傾斜部22の端部)の径は、球体形状の閉塞部材13の径R1より小となるように構成されている。これにより、案内部20から閉塞部材13が完全に飛び出すことを防止することができる。言い換えると、閉塞部材13を紛失する虞がない。
また、閉塞した状態では、円筒状の案内部20の内側面21における穴部5に近い側の端部と、閉塞部材13との間に僅かな隙間があるものとする。これは、ばね力によって閉塞部材13が、しっかりと穴部5を塞ぐようにするためである。
またさらに、案内部20の内側面21に第2傾斜部22を形成したが、これに限られない。第2傾斜部22がない構成であっても、閉塞部材13の径R1が円筒状の案内部20の内側の径より僅かに小となるように構成することにより、X−Y軸方向における穴部5と、閉塞部材13との相対的な位置関係を精度良く決めることができるからである。
【0048】
他の実施形態1において、閉塞部材13を移動方向へ案内する案内部20をさらに備えており、閉塞部材13は、球体であり、付勢手段14は、圧縮コイルばね15であり、案内部20における閉塞部材13と接触可能な面である内側面21は、円筒の内側面状に形成され、案内部20の内側に、閉塞部材13としての球体および付勢手段14としての圧縮コイルばね15が設けられていることを特徴とする。
[他の実施形態2]
【0049】
図5(B)に示すのは、他の実施形態2に係る摺動部材の溝部の形状を示す概略平面図である。尚、図5(B)において理解を容易にするために負圧室の上面側である媒体支持部における用紙を支持する面の図示は省略する。
図5(B)に示す如く、他の実施形態2に係る摺動部材30は、第1領域10と第2領域11との境界近傍に第3傾斜部31を有している。
尚、その他の部材については、前述した実施形態と同様であるため、同じ符号を用いることとし、その説明は省略する。
【0050】
第3傾斜部31において、穴部5を閉塞した状態から開放した状態に切り換える際の摺動部材30の摺動方向先端側は、溝部9の幅が広くなるように設けられている。
従って、前述した実施形態の第1傾斜部12と同様の作用効果を得ることができる。即ち、穴部5を閉塞した状態から開放した状態へ滑らかに切り換えることができる。
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1 プリンター、2 記録部、3 記録ヘッド、4 媒体支持部、5 穴部、
5a (穴の)一端側、5b (穴の)他端側、6 吸引手段、7 負圧室、
7a (負圧室の)底面、8 摺動部材、8a 第1の部分(カム)、9 溝部、
10 第1領域、11 第2領域、12 第1傾斜部、13 閉塞部材、
13a 第2の部分(カムフォロア)、14 付勢手段、15 圧縮コイルばね、
20 (他の実施形態1の)案内部、21 内側面、22 第2傾斜部、
30 (他の実施形態2の)摺動部材、31 第3傾斜部、L1 第1列、
L2 第2列、L3 第3列、L7 第7列、P 用紙、R1 (閉塞部材の)径、
R2 (穴部の)径、X 幅方向、Y 送り方向、
Z 記録ヘッドと媒体支持部とが対向する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を支持する媒体支持部と、
該媒体支持部に形成され、一端側が媒体支持部における被記録媒体を支持する側に形成された複数の穴部と、
該穴部の他端側に設けられ、該穴部を介して媒体支持部上の空気を吸引する吸引手段と、
前記穴部における前記他端側において複数設けられ、該穴部に対して接離する方向へ移動可能な閉塞部材と、
該閉塞部材を前記穴部に向かって付勢する付勢手段と、
前記穴部の他端側に設けられ、前記閉塞部材が移動する方向と交差する方向へ摺動可能である摺動部材と、を備え、
該摺動部材は、摺動する際、前記閉塞部材と接触可能な第1の部分を有しており、
前記閉塞部材は、前記摺動部材が摺動する際、前記第1の部分と接触可能な第2の部分を有しており、
前記第1の部分および前記第2の部分の少なくとも一方は、前記摺動部材が摺動する方向および前記閉塞部材が移動する方向の両方に対して傾いて形成された箇所を有しており、
前記摺動部材を摺動させることにより、少なくとも一の前記穴部について、
前記第1の部分を前記第2の部分から離間させ、前記閉塞部材が該穴部を閉塞した状態と、
前記第1の部分を前記第2の部分と接触させ、前記閉塞部材を該穴部から離間する方向へ移動させ、前記閉塞部材が該穴部を開放した状態と、を切り換え可能であり、
前記摺動部材の摺動方向における位置を変えることによって、前記開放した状態にする前記穴部を選択する構成である記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、前記第1の部分が前記第2の部分から離間した状態から接触した状態となる方向へ前記摺動部材が摺動するとした場合の摺動方向先後を基準として、
前記摺動部材における前記第1の部分の先端側が後端側より前記穴部に接近しているように摺動方向に対して傾いて形成されている記録装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の記録装置において、前記閉塞部材における少なくとも前記穴部側は、球面状に形成されており、
前記穴部は、正円形の穴であり、
前記閉塞部材における前記球面状の部分の径は、前記穴部の径より大である記録装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置において、前記摺動部材は、摺動方向に延設された溝部を有しており、
該溝部は、摺動方向に対する幅が、前記閉塞部材における前記第2の部分の幅より狭い第1領域と、
前記第2の部分の幅より広い第2領域と、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置において、前記閉塞部材を前記移動方向へ案内する案内部をさらに備えており、
前記閉塞部材は、球体であり、
前記付勢手段は、圧縮コイルばねであり、
前記案内部における前記閉塞部材と接触可能な面は、円筒の内側面状に形成され、
前記案内部の内側に、前記閉塞部材としての球体および前記付勢手段としての圧縮コイルばねが設けられていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218668(P2011−218668A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90164(P2010−90164)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】