説明

記録装置

【課題】ローラの交換を容易に行うことを可能にする。
【解決手段】
プリンタ1は、用紙が収容される給紙カセット10を有している。給紙カセット10には、リタードローラ31と、リタードローラ31を支持する軸部材38と、リタードローラ31を軸部材38から抜く方向Cに付勢する付勢機構70と、シュート32とが設けられている。シュート32は、リタードローラ31をセット位置に位置付ける位置付け位置とリタードローラ31のセット位置での位置付けを解除する解除位置との間において移動可能に構成されている。そして、リタードローラ31は、シュート32が位置付け位置から解除位置に移動すると、付勢機構70によって軸部材38から抜かれた交換位置に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に画像を記録する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、用紙ガイドの用途とリタードローラ軸を保持する用途とを兼ねたガイドアームが配設されたリタードユニットを有する給紙装置について記載されている。この給紙装置において、リタードユニットのガイドアームには、リタードローラ、これを支持するリタードローラ軸、及び、着脱可能なカバーが設けられている。そして、カバーを取り外し、リタードローラをカバー側にスライドさせることによってリタードローラをリタードローラ軸から交換することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−201045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の給紙装置において、リタードローラを交換する際は、ユーザが、カバーを取り外してもリタードローラはリタードローラ軸の所定位置に配置されたままである。リタードローラをリタードローラ軸から抜き取るためには、カバーを取り外してできた開口からユーザが手又は指を入れて、リタードローラを所定位置からリタードローラ軸に沿ってスライドさせる必要があり、当該リタードローラの交換作業が非常に繁雑となる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ローラの交換を容易に行うことが可能な記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の記録装置は、記録媒体を搬送するローラと、前記ローラを当該ローラの軸方向に沿ってスライド可能に支持する軸部材と、前記ローラを前記軸部材から一端部を通して抜く方向に付勢する付勢手段と、前記付勢手段による付勢に抗して前記ローラをセット位置に位置付ける第1位置と、前記ローラの前記セット位置への位置付けを解除する第2位置との間において移動可能な位置付け部材とを備えている。そして、前記ローラは、前記位置付け部材が前記第1位置から前記第2位置に移動すると、前記付勢手段によって、前記セット位置から前記軸部材の前記一端部に向けてスライドする。
【0007】
これによると、位置付け部材を第1位置から第2位置に移動させるだけで、ローラをセット位置からスライドさせることが可能となる。このため、ローラの交換を容易に行うことが可能となる。
【0008】
本発明において、前記付勢手段は、前記ローラの前記抜く方向の逆を向いた側面と当接する当接部材と、前記当接部材に接続されて前記当接部材を介して前記ローラを前記抜く方向に付勢する弾性部材とを有していることが好ましい。これにより、付勢手段の構成が簡易になる。
【0009】
また、本発明において、前記ローラは、前記軸部材が挿入可能な円筒状のスリーブと、前記スリーブの外周面を覆う被覆部材とを有しており、前記当接部材は、前記ローラが前記軸部材から抜かれた交換位置に配置されたときにだけ前記スリーブの前記軸方向の両端を支持可能な支持部を有するホルダであることが好ましい。これにより、ローラを交換位置に配置したときにホルダで支持することが可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記ホルダを支持する支持部材をさらに備えている。そして、前記ホルダと前記支持部材には、互いに連結されつつ前記ホルダが前記軸方向に沿ってスライド可能なスライド部が形成されていることが好ましい。これにより、ホルダと支持部材が連結されているのでホルダが無くなりにくくなる。
【0011】
また、本発明において、前記位置付け部材には、前記位置付け部材を前記第2位置に移動したときに前記交換位置にある前記ローラを支持する前記ホルダと係合することによって、自身を前記第2位置に保持する係合部が形成されていることが好ましい。これにより、位置付け部材が第2位置において自身の係合部によって保持される。
【0012】
また、本発明において、前記位置付け部材は、記録媒体の搬送をガイドするガイド部材であることが好ましい。これにより、ガイド部材で記録媒体の搬送をガイドすることが可能となる。
【0013】
また、本発明において、前記軸部材の前記一端部には、先細り形状となるようにテーパが形成されていることが好ましい。これにより、ローラを軸部材の一端部を通してセット位置に移動させるときに、ローラを軸部材に挿入しやすくなる。
【0014】
また、本発明において、前記ローラが、前記記録媒体を収容する収容部を備えた給紙カセットに設けられ、前記収容部から搬送されてきた前記記録媒体を前記収容部の方向に戻すリタードローラであることが好ましい。これにより、交換頻度の高いリタードローラを容易に交換することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の記録装置によると、位置付け部材を第1位置から第2位置に移動させるだけで、ローラをセット位置からスライドさせることが可能となる。このため、ローラの交換を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるインクジェットプリンタの外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェットプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図3】図1に示す給紙カセットの概略斜視図である。
【図4】(a)はリタードローラ及びトルクリミッタがセット位置に配置されシュートが位置付け位置に配置されたときの状況を示す斜視図であり、(b)はリタードローラ及びトルクリミッタが交換位置に配置されシュートが解除位置に配置されたときの状況を示す斜視図である。
【図5】リタードローラ及びトルクリミッタがセット位置に配置されシュートが位置付け位置に配置されたときの状況を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、本実施形態におけるインクジェットプリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有している。インクジェットプリンタ1は、図2に示すように、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクをそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド2を有するカラーインクジェットプリンタである。このプリンタ1には、図2中下方に給紙カセット10が、図2中上方に排紙部15がそれぞれ設けられており、これらの間に搬送方向Aに沿って用紙Pを搬送する搬送ユニット50が設けられている。さらに、プリンタ1には、これらの動作を制御する制御部100が含まれている。
【0019】
また、図1に示すように、筐体1aの正面(図中紙面左方の手前側の面)には、開口3aが形成されており、この開口3aから給紙カセット10が筐体1aに装着される。本実施形態における給紙カセット10は、筐体1aに対して副走査方向に沿って着脱可能に構成されている。
【0020】
4つのインクジェットヘッド2は、主走査方向に長尺な略直方体形状を有しており、副走査方向に沿って並べられている。すなわち、このインクジェットプリンタ1は、ライン式プリンタである。なお、本実施形態において、副走査方向とは用紙Pの搬送方向Aと平行な方向であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
【0021】
インクジェットヘッド2は、圧力室を含むインク流路が形成された流路ユニットと、圧力室のインクに圧力を与えるアクチュエータとが貼り合わされた積層体(ともに図示せず)を有しており、底面はインクを吐出する吐出面2aとなっている。吐出面2aには、インクを吐出する複数の吐出口(不図示)が形成されている。吐出面2aは、主走査方向に関して、用紙Pよりも若干長く形成されており、用紙Pの全面に画像を形成する(縁なし印刷する)ことが可能となっている。
【0022】
給紙カセット10は、図2及び図3に示すように、上方に向かって開口した凹部(収容部)11が形成されたフレーム14を有しており、当該凹部11内に積層した複数の用紙Pを収容可能になっている。また、給紙カセット10は、図2に示すように、開口3aから筐体1aに装着されたときに、上下方向に関して搬送ユニット50と重なる位置に配置される。
【0023】
また、筐体1a内には、給紙ローラ12と、送りローラ13と、これら給紙ローラ12及び送りローラ13を回転させる駆動モータ(不図示)とが設けられている。給紙ローラ12は、最も上方に位置する用紙Pと回転しながら接触することで送りローラ13に向けて用紙Pを送り出す。送りローラ13は、後述のリタードローラ31との間において給紙ローラ12によって送り出された用紙Pを挟みつつその用紙Pと回転しながら接触することで給紙カセット10から用紙Pを送り出す。なお、駆動モータは制御部100によって制御される。給紙カセット10の図2中左端部側には、給紙カセット10から搬送ユニット50に向かって湾曲しながら延在する搬送ガイド17が設けられている。
【0024】
この構成において、制御部100の制御により、給紙ローラ12及び送りローラ13が図2中時計回りに回転することによって、給紙ローラ12及び送りローラ13と接触した用紙Pが搬送ガイド17を通って搬送ユニット50に送り出される。
【0025】
また、図2に示すように、給紙カセット10から用紙Pを送り出す方向B(搬送方向Aとは逆方向)に関して、凹部11の前端部(図中左側端部)には用紙Pを搬送ガイド17に案内する傾斜面11aが形成されている。また、フレーム14の送り出す方向Bの前端部には、リタードローラ31及びシュート(ガイド部材)32が設けられている。シュート32は、傾斜面11aに形成された開口11bの一部を塞ぐように配置され、用紙Pの搬送をガイドする。そして、リタードローラ31は、開口11bであってシュート32と傾斜面11aとの間から表面が突出するように配置されている。つまり、リタードローラ31は、送りローラ13との間において傾斜面11aに沿って送り出されてきた用紙Pを挟持可能に配置されている。なお、図4及び図5は、給紙カセット10の前端部を、取手10aが設けられた化粧板10b(図1、図2参照)を取り外した状態で当該前端部側から見たときの斜視図である。
【0026】
シュート32は、図4に示すように、開口11bの下端近傍を支点としてフレーム14に揺動可能に支持されている。具体的には、シュート32は、表面32aが傾斜面11aと同じ平面内に位置する位置であってリタードローラ31を後述のセット位置に位置付ける位置付け位置(図4(a)に示す位置:第1位置)と、表面32aが傾斜面11aと同じ平面内に位置せずリタードローラ31のセット位置での位置付けを解除するとともにリタードローラ31がシュート32の位置付け位置まで移動可能な解除位置(図4(b)に示す位置:第2位置)との間において移動可能になっている。なお、シュート32が位置付け位置に配置されているときは、傾斜面11aと表面32aとの間に段差が無くなり平らになるため、用紙Pの搬送を効果的にガイドすることができる。また、シュート32は、ねじりコイルバネ(不図示)によって位置付け位置に配置されるように常に付勢されている。このため、シュート32は位置付け位置においてガタなく配置される。
【0027】
また、フレーム14の前端部には、図4及び図5に示すように、リタードローラ31をその軸方向(主走査方向と平行な方向)に沿ってスライド可能に支持する軸部材38と、リタードローラ31を軸部材38から抜く方向C(リタードローラ31の軸方向に平行)に付勢する付勢機構70と、軸部材38に挿入されリタードローラ31の一端部に連結されたトルクリミッタ37とが設けられている。
【0028】
リタードローラ31は、円筒状のスリーブ33と、スリーブ33の外周面を覆う被覆部材34とを有している。被覆部材34は、可撓性を有する樹脂やゴムなどの弾性材料から構成されている。また、被覆部材34は、スリーブ33の軸方向の両端部を除く外周面全体を覆っている。
【0029】
軸部材38は、抜く方向Cに延在した円柱状部材であり、その直径がスリーブ33の内径より若干小さくなっている。つまり、軸部材38は、リタードローラ31を回転可能に支持する。また、軸部材38の先端には、図4(b)に示すように、テーパ38aが形成されており、当該先端が先細り形状となっている。これにより、リタードローラ31及びトルクリミッタ37を交換位置からセット位置に移動させるときに、これらを軸部材38に挿入しやすくなる。また、軸部材38には、径方向に突出した突起38bが形成されている。軸部材38は、給紙ローラ12及び送りローラ13を回転させる上述の駆動モータ及びこの駆動モータからの回転力を軸部材38に伝達する伝達機構(共に不図示)を有する駆動手段に含まれている。なお、伝達機構は、筐体1a及び給紙カセット10の両方に設けられてなり、給紙カセット10を筐体1aに装着したときに互いに接続され、駆動モータからの回転力が軸部材38に伝達され、正回転する。
【0030】
トルクリミッタ37は、円筒形状を有しており、他端部(図4中右側端部)がスリーブ33の一端部と連結可能に構成されている。また、トルクリミッタ37の一端部(図4中左側端部)には、トルクリミッタ37がセット位置に配置されたときに、突起38bと係合する溝37aが形成されている。これにより、正回転する軸部材38の回転力がトルクリミッタ37に伝達し、同方向の回転力がトルクリミッタ37からリタードローラ31に伝達する。なお、このときのリタードローラ31の回転方向は送りローラ13の回転方向と同方向であり、送りローラ13による用紙Pの搬送方向とは逆方向に搬送力が働く。
【0031】
また、トルクリミッタ37は、リタードローラ31に逆回転方向の所定の回転力(送りローラ13の用紙Pに対する搬送力)が加えられたときに、リタードローラ31が軸部材38に対して逆回転することが可能な構成となっている。つまり、トルクリミッタ37は、リタードローラ31と送りローラ13との間に用紙Pが重送されてきたときに、リタードローラ31が送りローラ13と同方向に回転するように、軸部材38からの回転力をリタードローラ31に伝達する。こうして、重送されてきた用紙Pのうち、送りローラ13とは接触せずリタードローラ31と接触する用紙Pが凹部11内に戻される。そして、送りローラ13とリタードローラ31との間に1枚の用紙Pが送り出されてきたとき、及び、送りローラ13とリタードローラ31とが接触しているときは、リタードローラ31に所定の回転力が加わるので、トルクリミッタ37内に滑りが生じてリタードローラ31が送りローラ13による用紙Pの搬送を妨げないように従動する。なお、軸部材38は、給紙ローラ12及び送りローラ13の駆動と同様に駆動され、リタードローラ31は、用紙Pが重送されたときだけ送りローラ13と同方向に回転して、重送した用紙Pを凹部11に戻す。変形例として、軸部材38を給紙及び送りローラ12,13とは別に駆動してもよい。
【0032】
付勢機構70は、リタードローラ31及びトルクリミッタ37を保持するホルダ(当接部材)71と、ホルダ71を抜く方向Cに付勢するコイルバネ(弾性部材)72とを有している。なお、コイルバネ72以外の弾性部材を採用してもよい。また、フレーム14の前端部にはホルダ71を支持するレール状の支持部材81が設けられている。支持部材81は、抜き方向Cに平行な方向に延在しており、I型断面を有している。
【0033】
ホルダ71は、支持部材81に連結された本体73と、抜き方向Cに沿って互いに離隔すると共に本体73からトルクリミッタ37及びリタードローラ31に向かって突出した支持部74〜76とを有している。本体73と支持部材81には、互いに連結されつつホルダ71が抜く方向Cに平行にスライド可能なスライド部82が形成されている。スライド部82は、支持部材81のI型断面の上部と、本体73に形成されたコの字断面形状の二対の把持部73a,73bとで構成されている。これら把持部73a,73bは、支持部材81の上部を延在方向と直交する方向(副走査方向)の両側から把持する。なお、スライド部82は、ホルダ71と支持部材81とが抜く方向Cに沿って互いにスライド可能であれば、どのような構成であってもよい。また、本体部73の凹部11側の側面には、図4(b)に示すように、突起73cが形成されている。突起73cは、抜く方向Cに沿って延在しており、本体部73の抜く方向Cに関する長さと同じ長さを有している。
【0034】
また、支持部74は、図4に示すように、その上部にトルクリミッタ37の一端部を支持する湾曲部74aを有しており、当該上部の湾曲部74a近傍部分が抜く方向Cに沿ってトルクリミッタ37と重なる位置に配置されている。支持部75の上部には、図4及び図5に示すように、リタードローラ31の一端部であってトルクリミッタ37とリタードローラ31との連結部を支持する湾曲部75aが形成されている。また、支持部75の上部であって湾曲部75a近傍部分は、抜く方向Cに沿ってリタードローラ31と重なる位置に配置されている。支持部76の上部には、リタードローラ31(スリーブ33)の他端部を支持する湾曲部76aが形成されている。なお、支持部76の上部の抜く方向Cを向く側面には、スリーブ33の他端を保護する保護部76bが形成されている。このため、支持部76の保護部76bと後述の突起32cとの当接が解除されたときに、支持部74の上部がトルクリミッタ37の図中左方側面を、支持部75の上部がリタードローラ31の図中左方側面を、抜く方向Cに付勢する。
【0035】
なお、本実施形態においては、支持部74の上部だけがトルクリミッタ37の左方側面を抜く方向Cに付勢してもよい。これは抜く方向Cに関してリタードローラ31よりも上流にトルクリミッタ37が位置するからである。しかしながら、リタードローラ31だけを交換する場合などは、支持部75の上部だけがリタードローラ31の左方側面を抜く方向Cに付勢すればよい。また、支持部は、左方側面だけでなく、抜く方向Cの逆を向いた側面であればどこを抜く方向Cに付勢してもよい。こうすれば、支持部の側面への当接によって少なくともリタードローラ31をセット位置から交換位置に移動させることができる。
【0036】
ここで、セット位置とは、図4(a)及び図5に示す位置であって、互いに連結されたリタードローラ31及びトルクリミッタ37が一端部から軸部材38に挿入されてリタードローラ31の全体が軸部材38に支持され、トルクリミッタ37の溝37aと軸部材38の突起38bとが係合する位置である。つまり、この位置に配置されたリタードローラ31は、軸部材38及びトルクリミッタ37からの回転力により、用紙Pの重送を防ぐことが可能になると共に、送りローラ13とによって用紙Pを搬送可能になる。一方、交換位置とは、図4(b)に示す位置であって、互いに連結されたリタードローラ31及びトルクリミッタ37が軸部材38から完全に抜けた位置であり、リタードローラ31及びトルクリミッタ37を交換することが可能な位置である。
【0037】
また、これら支持部74〜76は、トルクリミッタ37及びリタードローラ31が交換位置に配置されたときだけ、トルクリミッタ37及びリタードローラ31を支持している。リタードローラ31及びトルクリミッタ37は、交換位置にあるときは軸部材38によって支持されておらず、これら支持部材74〜76(湾曲部74a〜76a)によって支持される。そして、ホルダ71とともにトルクリミッタ37及びリタードローラ31が交換位置からセット位置に移動すると、トルクリミッタ37及びリタードローラ31が軸部材38によって支持されて、これらトルクリミッタ37及びリタードローラ31が湾曲部74a〜76aから離隔する。なお、保護部76bは、セット位置において、トルクリミッタ37及びリタードローラ31の抜く方向Cの移動を規制している。また、支持部76には、一端がフレーム14に固定されたコイルバネ72の他端が固定されており、ホルダ71が常にセット位置から交換位置に向けて(抜く方向Cに)付勢されている。このため、セット位置において、保護部76bと位置付け位置にあるシュート32の後述の突起32cとが当接する。
【0038】
また、シュート32の裏面32bには、図4(b)及び図5に示すように、突起32cが形成されている。突起32cは、トルクリミッタ37及びリタードローラ31とともにホルダ71がセット位置に配置されているときにシュート32が位置付け位置に配置された場合、保護部76bと当接可能に裏面32bから突出している。このため、ホルダ71が抜く方向Cに付勢されていても、シュート32によってトルクリミッタ37、リタードローラ31及びホルダ71がセット位置に位置付けられる。なお、突起32cが保護部76bと当接しない位置、すなわち図4(b)に示すようにシュート32を解除位置に移動すると、コイルバネ72の付勢力によって、ホルダ71とともにトルクリミッタ37及びリタードローラ31が交換位置に自動的に移動する。
【0039】
図5に示すように、シュート32の裏面32bには、抜く方向Cに沿って互いに離隔した3つの係合部32dが形成されている。抜く方向Cに沿って最も上流にある係合部32dは、突起32cに一体的に形成されている。これら係合部32dは、シュート32が解除位置に配置されているときであってホルダ71が交換位置に配置されているときに、突起73cと互いに対向するとともに、当該突起73cと当接することによってシュート32自身を解除位置に保持する。これにより、シュート32が解除位置において自身の係合部32dによって保持される。
【0040】
ここで、リタードローラ31及びトルクリミッタ37の交換方法について説明する。リタードローラ31及びトルクリミッタ37を交換するときは、給紙カセット10全体を筐体1aから取り外す、もしくはシュート32及びリタードローラ31などが外部に露出される位置まで給紙カセット10を筐体1aから抜き出す。通常、図4(a)及び図5に示すように、シュート32によってリタードローラ31、トルクリミッタ37及びホルダ71がセット位置に位置付けられている。リタードローラ31やトルクリミッタ37を交換する場合は、ユーザがねじりコイルバネによって付勢されて位置付け位置に配置されているシュート32を図4(b)に示す解除位置に移動させる。すると、突起32cと保護部76bとの当接が解除され、ホルダ71がコイルバネ72の抜く方向Cの付勢力によってセット位置から交換位置に移動する。このとき、支持部74,75の上部は、トルクリミッタ37及びリタードローラ31の側面と当接しているので、トルクリミッタ37及びリタードローラ31がホルダ71とともに交換位置に移動する。
【0041】
ホルダ71が交換位置に位置するときには、突起73cと係合部32dのそれぞれが当接し、シュート32自身が解除位置に保持される。また、交換位置に移動してきたトルクリミッタ37及びリタードローラ31は、共に軸部材38から完全に抜けており、ホルダ71にそれぞれ支持されている。このため、ユーザは、ホルダ71に支持されたトルクリミッタ37及びリタードローラ31の少なくともいずれか一方を新しいものと交換し、上述とは逆の手順でトルクリミッタ37及びリタードローラ31をセットする。
【0042】
すなわち、ユーザが、互いに連結されたトルクリミッタ37及びリタードローラ31を支持するホルダ71を抜く方向Cとは逆方向に移動させる(トルクリミッタ37及びリタードローラ31が一端部から軸部材38に挿入されるように、ホルダ71を移動させる)。そして、ホルダ71とともにトルクリミッタ37及びリタードローラ31がセット位置に達すると、係合部32dと突起73cとの係合が解除される。係合部32dと突起73cの係合が解除されると、シュート32がねじりコイルバネの付勢によって解除位置から位置付け位置に自動的に移動する。これによって、シュート32が位置付け位置においてガタなく配置される。こうして、突起32cの抜く方向Cとは逆方向を向く側面と、保護部76bの抜く方向Cを向く側面とが当接し、ホルダ71とともにトルクリミッタ37及びリタードローラ31がセット位置に位置付けられる。そして、トルクリミッタ37及びリタードローラ31の少なくともいずれか一方が新しいものと交換された給紙カセット10を、筐体1aに装着することで、給紙カセット10に収容された用紙Pを搬送ユニット50に重送させることなく搬送可能になる。
【0043】
図2に戻って、搬送ユニット50は、4つのインクジェットヘッド2と対向する位置に配置されており、2つのベルトローラ51,52と、両ローラ51,52間に架け渡されるように巻回されたエンドレスの搬送ベルト53と、制御部100に制御されベルトローラ52を回転させる搬送モータ(不図示)と、吸着装置60とを有している。2つのベルトローラ51,52は、搬送方向Aに沿って並設されている。
【0044】
搬送ベルト53は、例えば、ポリイミド、フッ素樹脂からなり、10〜1014Ωcm程度の体積抵抗率及び可撓性を有しているが、同様の体積抵抗率及び可撓性を有することが可能であれば、どのような材質であってもよい。
【0045】
吸着装置60は、絶縁材料から構成された板状のベース部材61と、上面61aに接着された2つの電極62,63と、これら電極62,63全体を覆うように上面61aに接着された保護フィルム64とを含んでいる。これら電極62,63は、搬送方向Aに沿って延在する複数の長尺部を有し、これら長尺部が副走査方向に交互に配置された櫛歯形状となっている。また、電極62,63は図示しない電源に接続されている。なお、電源は、制御部により制御される。
【0046】
保護フィルム64は、例えば、ポリイミド、フッ素樹脂からなり、10〜1014Ωcm程度の体積抵抗率を有しているが、同様の体積抵抗率を有することが可能であれば、どのような材質であってもよい。なお、吸着装置60は、保護フィルム64が搬送ベルト53の上側ループの内周面と接触する位置に配置されており、搬送ベルト53の内周側からこれを支持している。これにより、搬送ベルト53の上側ループの搬送面54とインクジェットヘッド2の吐出面2aとが対向しつつ平行になり、且つ、吐出面2aと搬送ベルト53の搬送面54との間に僅かな隙間が形成されている。当該隙間は、用紙搬送経路の一部を構成している。
【0047】
吸着装置60の上流端部であって、電極62,63の長尺部と対向する位置には、ニップローラ4が配置されている。ニップローラ4は、給紙カセット10から送り出された用紙Pを搬送面54に押さえ付ける。
【0048】
この構成において、制御部100の制御により、ベルトローラ52を図2中時計回りに回転させることによって、搬送ベルト53が回転する。このとき、搬送ベルト53の回転に伴ってベルトローラ51及びニップローラ4も回転する。また、このとき、制御部100の制御により、2つの電極62,63に互いに異なる電位(電極62は正又は負の電位、電極63はグランド電位)が印加される。このように2つの電極62,63に電位が印加されると、電流が、電極62から保護フィルム64→搬送ベルト53→用紙Pに至り、用紙Pから搬送ベルト53→保護フィルム64を通って電極63に流れる。そして、搬送ベルト53の用紙Pと対向する部分に正又は負の電荷が生じ、用紙Pの搬送ベルト53と対向する面に先の電荷とは極性の異なる電荷が誘起され、これらの電荷同士が引き合うことで用紙Pを搬送ベルト53に吸着させる吸着力が生じる。
【0049】
こうして、給紙カセット10から送り出された用紙Pが、吸着装置60による吸着力によって搬送面54に吸着されながら搬送方向Aに搬送される。さらにこのとき、搬送ベルト53の搬送面54上に吸着されつつ搬送されてきた用紙Pが4つのインクジェットヘッド2のすぐ下方を順に通過する際に、制御部100が各インクジェットヘッド2を制御し、用紙Pに向けて各色のインクを吐出する。こうして、用紙Pに所望のカラー画像が形成される。
【0050】
搬送ユニット50の搬送方向Aのすぐ下流側には、剥離部材9が設けられている。剥離部材9は、その先端が用紙Pと搬送ベルト53との間に入り込むことによって、用紙Pを搬送面54から剥離する。なお、用紙Pの前端が剥離部材9に到達するころには、搬送面54と用紙Pの前端との間の吸着力が弱まっているので、用紙Pが剥離部材9によって搬送面54から剥離される。
【0051】
搬送ユニット50と排紙部15との搬送経路に沿う間には、4つの送りローラ21a,21b,22a,22bと、送りローラ21a,21bと送りローラ22a,22bとの間に配置された搬送ガイド18とが配置されている。送りローラ21b,22bは、制御部100に制御される送りモータ(不図示)によって回転駆動される。この構成において、制御部100の制御により、送りローラ21b,22bが回転され、搬送ユニット50から排出された用紙Pが送りローラ21a,21bに挟持されながら搬送ガイド18を通されて図2中上方に送られる。そして、送りローラ22a,22bに挟持されながら排紙部15に送られる。なお、送りローラ21a,22aは、従動ローラであり用紙搬送に伴って回転する。
【0052】
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ1によると、リタードローラ31を交換する際に、シュート32を位置付け位置から解除位置に移動させるだけで、ホルダ71とともにリタードローラ31及びトルクリミッタ37がセット位置から交換位置に移動させることができる。このため、リタードローラ31などの交換を容易に行うことが可能となる。さらに、交換したリタードローラ31などを支持するホルダ71を交換位置からセット位置に移動させるだけ、シュート32が自動的に解除位置から位置付け位置に移動するので、リタードローラ31などの交換作業が全体的に簡単に行うことができる。なお、給紙カセット10のリタードローラ31が交換可能であるため、比較的、交換頻度の高いリタードローラ31を容易に交換することが可能となる。
【0053】
また、付勢機構70が、ホルダ71と、コイルバネ72とから構成されており、その構成が簡易となる。また、ホルダ71には、3つの支持部74〜76が形成されており、リタードローラ31及びトルクリミッタ37を交換位置に配置したときに支持することが可能となる。また、ホルダ71と支持部材81には、互いに連結されつつホルダ71が抜く方向Cに平行にスライド可能なスライド部82が形成されている。これにより、ホルダ71が無くなりにくくなる。
【0054】
本実施形態においては、シュート32を位置付け位置から解除位置に移動させると、トルクリミッタ37及びリタードローラ31がホルダ71とともに交換位置に移動するが、リタードローラ31が軸部材38から完全に及び部分的に抜けていなくてもよい。この場合においても、トルクリミッタ37及びリタードローラ31がホルダ71とともにセット位置から交換位置に向かって移動しているので、ユーザはホルダ71とともにトルクリミッタ37及びリタードローラ31を容易に交換位置に移動させることができる。こうして、上述と同様に、リタードローラ31などの交換を容易に行うことが可能となる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、本実施形態においては、リタードローラ31及びトルクリミッタ37の少なくともいずれか一方を交換可能な構成であるが、リタードローラ31だけを交換可能であってもよいし、筐体1a内のローラ(搬送又は送りローラ21a,21b,22a,22bなど)の交換のために、本発明の構成を採用してもよい。また、ホルダ71は、交換位置に移動してきたリタードローラ31などを支持しなくてもよい。また、ホルダ71に代えて、支持部材81に抜く方向Cに沿ってスライド可能に支持され、少なくともリタードローラ31の抜く方向Cの逆を向く側面と当接可能な当接部材を採用してもよい。この場合、当接部材と弾性部材としてのコイルバネ72とを連結しておけばよい。
【0056】
また、リタードローラ31が、スリーブ33と、被覆部材34との別部材に分かれておらず、1つの又は3以上の部材で構成されていてもよい。また、ホルダ71と支持部材81とにスライド部82が形成されていなくてもよいし、支持部材81を設けていなくてもよい。また、シュート32に代えて、例えば、リタードローラ31をセット位置に位置付ける位置付け位置と、リタードローラ31のセット位置での位置付けを解除するとともにリタードローラ31が交換位置まで移動可能な解除位置との間において移動可能な突起32cからなる位置付け部材を採用してもよい。また、係合部32dが設けられていなくてもよい。また、軸部材38の先端にテーパ38aが形成されていなくてもよい。
【0057】
本発明は、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能であり、さらに、インク以外の液体を吐出させることで記録を行う記録装置にも適用可能である。本発明は、インクジェット式に限定されず、例えばレーザー式、サーマル式等の記録装置にも適用可能である。記録媒体は、用紙Pに限定されず、記録可能な様々な媒体であってよい。
【符号の説明】
【0058】
1 インクジェットプリンタ(記録装置)
10 給紙カセット
11 凹部(収容部)
31 リタードローラ
32 シュート(位置付け部材:ガイド部材)
32c 突起
32d 係合部
33 スリーブ
34 被覆部材
38 軸部材
38a テーパ
70 付勢機構(付勢手段)
71 ホルダ(当接部材)
72 コイルバネ(弾性部材)
74〜76 支持部
81 支持部材
82 スライド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送するローラと、
前記ローラを当該ローラの軸方向に沿ってスライド可能に支持する軸部材と、
前記ローラを前記軸部材から一端部を通して抜く方向に付勢する付勢手段と、
前記付勢手段による付勢に抗して前記ローラをセット位置に位置付ける第1位置と、前記ローラの前記セット位置への位置付けを解除する第2位置との間において移動可能な位置付け部材とを備えており、
前記ローラは、前記位置付け部材が前記第1位置から前記第2位置に移動すると、前記付勢手段によって、前記セット位置から前記軸部材の前記一端部に向けてスライドすることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記ローラの前記抜く方向の逆を向いた側面と当接する当接部材と、前記当接部材に接続されて前記当接部材を介して前記ローラを前記抜く方向に付勢する弾性部材とを有していることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記ローラは、前記軸部材が挿入可能な円筒状のスリーブと、前記スリーブの外周面を覆う被覆部材とを有しており、
前記当接部材は、前記ローラが前記軸部材から抜かれた交換位置に配置されたときにだけ前記スリーブの前記軸方向の両端を支持可能な支持部を有するホルダであることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記ホルダを支持する支持部材をさらに備えており、
前記ホルダと前記支持部材には、互いに連結されつつ前記ホルダが前記軸方向に沿ってスライド可能なスライド部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記位置付け部材には、前記位置付け部材を前記第2位置に移動したときに前記交換位置にある前記ローラを支持する前記ホルダと係合することによって、自身を前記第2位置に保持する係合部が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記位置付け部材は、記録媒体の搬送をガイドするガイド部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記軸部材の前記一端部には、先細り形状となるようにテーパが形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記ローラが、前記記録媒体を収容する収容部を備えた給紙カセットに設けられ、前記収容部から搬送されてきた前記記録媒体を前記収容部の方向に戻すリタードローラであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71918(P2012−71918A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216637(P2010−216637)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】