説明

設備状態監視方法およびその装置並びに設備状態監視用プログラム

【課題】
プラントなどの設備における異常予兆検知において、センサ毎に監視基準を設ける異常検出による異常判定の根拠の理解しやすさと、統計的な正常モデルに基づく高感度な異常検出とを両立させることは困難であった。
【解決手段】
設備あるいは装置に取り付けられたセンサから出力される設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および設備あるいは装置のイベント信号に基づいて設備状態を監視する方法において、センサ信号およびイベント信号を蓄積し、蓄積したセンサ信号およびイベント信号を統計的に解析して異常を検知し、異常を検知した結果に基づいて学習データを選定し、選定した学習データに基づいて異常を識別するためのルールを抽出し、センサ信号に異常を識別するためのルールを適用してルールベースによる異常識別を行い設備あるいは装置の異常を検知又は予知するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントや設備などの出力する多次元時系列データをもとに異常を早期に検知し、現象の診断を行う状態監視方法およびその装置並びに設備状態監視用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力会社では、ガスタービンの廃熱などを利用して地域暖房用温水を供給したり、工場向けに高圧蒸気や低圧蒸気を供給したりしている。石油化学会社では、ガスタービンなどを電源設備として運転している。このようにガスタービンなどを用いた各種プラントや設備において、設備の不具合あるいはその兆候を検知する予防保全は、社会へのダメージを最小限に抑えるためにも極めて重要である。また、検知のみではなく異常の現象を説明する異常診断も、適切なアクションを起こすために重要である。
【0003】
ガスタービンや蒸気タービンのみならず、水力発電所での水車、原子力発電所の原子炉、風力発電所の風車、航空機や重機のエンジン、鉄道車両や軌道、エスカレータ、エレベータ、機器・部品レベルでも、搭載電池の劣化・寿命など、上記のような予防保全を必要とする設備は枚挙に暇がない。最近では、健康管理のため、脳波測定・診断に見られるように、人体に対する異常(各種症状)検知も重要になりつつある。
【0004】
このため、対象設備やプラントに複数のセンサを取り付け、センサ毎の監視基準に従って正常か異常かを判断することが行われている。特開平11−95833号公報(特許文献1)には、過去に蓄積されたデータの平均値や振れ幅に基づいて監視基準を設定する方法が開示されている。
【0005】
また、米国特許第6,952,662号(特許文献2)や米国特許第6,975,962号(特許文献3)には、おもにエンジンを対象とした異常検知方法が開示されている。これは、過去のデータ例えば時系列センサ信号をデータベースとしてもっておき、観測データと過去の学習データとの類似度を独自の方法で計算し、類似度の高いデータの線形結合により推定値を算出して、推定値と観測データのはずれ度合いを出力するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−95833号公報
【特許文献2】米国特許第6,952,662号明細書
【特許文献3】米国特許第6,975,962号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stephan W. Wegerich;Nonparametric modeling of vibration signal features for equipment health monitoring、Aerospace Conference, 2003. Proceedings. 2003 IEEE,Volume 7, Issue, 2003 Page(s):3113 - 3121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
センサ毎に監視基準を設ける異常検出は、異常判定の根拠が理解しやすいという利点があるが、センサ数が多いと基準設定の手間がかかる上、異常の確実な検出と誤報のバランスのとれた適切な値を決めるのは困難である。特許文献1には、基準値設定の方法が開示されているが、この方法は、正常時にはセンサ値がほぼ一定である対象にのみ適用可能である。適用可能であっても、振れ幅が大きいセンサデータでは、誤報を抑制するために正常の範囲が広くなり、異常検出の感度が低下してしまう。
【0009】
特許文献2や特許文献3に記載の方法では、学習データとして正常時のデータを網羅的に与えることにより、学習にない観測データが観察されると、これらを異常として検出することができる。多様な正常状態に対応可能なため、高感度な異常検知が期待できる。しかし、異常判定の根拠が統計的に外れているということであり、どのような現象が起こっているのかの説明はできないため、調査あるいは対策などの次のアクションを決めることが困難である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、異常を高感度に検知することが可能であり、かつ、検知のみではなく異常の説明、つまりセンサ信号のどのような状態を異常判定の根拠とするのかの説明を可能とする異常検知方法を備えた設備状態監視方法およびその装置並びに設備状態監視用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明では、設備あるいは装置に取り付けられたセンサから出力される設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および設備あるいは装置のイベント信号に基づいて設備状態を監視する方法及びその装置において、センサ信号およびイベント信号を蓄積し、蓄積したセンサ信号およびイベント信号を統計的に解析して異常を検知し、異常を検知した結果に基づいて学習データを選定し、選定した学習データに基づいて異常を識別するためのルールを抽出し、センサ信号に異常を識別するためのルールを適用してルールベースによる異常識別を行い設備あるいは装置の異常を検知又は予知するようにした。
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明では、設備または装置に取り付けられたセンサから出力される設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号を蓄積するデータ蓄積工程と、データ蓄積工程で蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、正常モデルとの比較によりセンサ信号の異常を検知し、異常を検知した結果に基づきセンサ信号に正常、異常のラベルを付加し、ラベルが付加されたセンサ信号を学習データとしてルールを抽出するルール抽出工程と、設備または装置の出力する時系列のセンサ信号とルール抽出工程で抽出したルールに基づき設備または装置の異常識別を行う異常検知工程とを備えた設備状態監視方法及びその装置とした。
【0013】
上記した目的を達成するために、本発明では、設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記イベント信号を蓄積するデータ蓄積工程と、蓄積工程で蓄積されたイベント信号に基づき稼動状態別のモード分割を行い、蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、センサ信号を正常モデルと比較して前記センサ信号の異常を検知し、前記異常を検知した結果に基づき前記センサ信号に正常または異常のラベルを付加し、前記ラベルが付加された前記センサ信号を学習データとして前記モード毎にルールを抽出するルール抽出工程と、設備または装置の出力する時系列のイベント信号に基づき設備または装置の稼動状態別のモード分割を行い、設備または装置の出力する時系列のセンサ信号と抽出したルールに基づき、モード毎に設備または装置の異常識別を行い設備あるいは装置の異常を検知又は予知する異常検知工程とを備えた設備状態監視方法及びその装置とした。
【0014】
更にまた、上記目的を達成するために、本発明では、設備あるいは装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記設備あるいは装置のイベント信号に基づいて設備状態を監視するための設備状態監視用プログラムを、センサ信号およびイベント信号を蓄積する信号データ記憶ステップと、この蓄積したセンサ信号およびイベント信号を統計的に解析して異常を検知する異常検知ステップと、この異常を検知した結果に基づいて学習データを選定する学習データ選定ステップと、この選定した学習データに基づいて異常を識別するためのルールを抽出するルール抽出ステップと、センサ信号にルール抽出ステップで抽出したルールを適用してルールベースによる異常識別を行い設備あるいは装置の異常を検知又は予知する異常識別ステップとを備えて構成した。
【0015】
更に、上記目的を達成するために、本発明では、設備状態監視用プログラムを、設備または装置に取り付けられたセンサから出力される設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号を蓄積するデータ蓄積ステップと、このデータ蓄積ステップで蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、正常モデルとの比較によりセンサ信号の異常を検知し、異常を検知した結果に基づきセンサ信号に正常、異常のラベルを付加し、ラベルが付加されたセンサ信号を学習データとしてルールを抽出するルール抽出ステップと、設備または装置の出力する時系列のセンサ信号とルール抽出工程で抽出したルールに基づき設備または装置の異常識別を行う異常識別ステップとを備えて構成した。
【0016】
更に、上記目的を達成するために、本発明では、設備状態監視用プログラムを、設備または装置に取り付けられたセンサから出力される設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号およびイベント信号を蓄積するデータ蓄積ステップと、このデータ蓄積工程で蓄積されたイベント信号に基づき稼動状態別のモード分割を行い、蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、センサ信号を正常モデルと比較してセンサ信号の異常を検知し、異常を検知した結果に基づきセンサ信号に正常または異常のラベルを付加し、ラベルが付加されたセンサ信号を学習データとしてモード毎にルールを抽出するルール抽出ステップと、設備または装置の出力する時系列のイベント信号に基づき設備または装置の稼動状態別のモード分割を行い、設備または装置の出力する時系列のセンサ信号と抽出したルールに基づき、モード毎に設備または装置の異常識別を行い設備あるいは装置の異常を検知又は予知する異常識別ステップとを備えて構成した。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、センサ信号を蓄積しておき、正常モデルに基づいて異常検知した結果を学習データとして決定木を構築するため、異常識別ルールの抽出が容易にできるようになる。正常モデルに基づく異常検知では高感度な異常の検知が可能であり、その結果を学習データとして用いるため、抽出されるルールによっても高感度な異常検知が可能である。ルールベースの異常検知により、異常判定の根拠や現象の説明が可能となるため、調査、対策などの次のアクションを無駄なく決定することが可能となる。
【0018】
以上により、ガスタービンや蒸気タービンなどの設備のみならず、水力発電所での水車、原子力発電所の原子炉、風力発電所の風車、航空機や重機のエンジン、鉄道車両や軌道、エスカレータ、エレベータ、そして機器・部品レベルでは、搭載電池の劣化・寿命など、種々の設備・部品において高感度な異常検知および容易な異常説明を両立するシステムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の設備状態監視システムの概略の構成を示すブロック図である。
【図2】異常識別ルール設定の処理の流れを示すフロー図である。
【図3】ルールによる異常検知の処理の流れを示すフロー図である。
【図4A】イベント信号の例を示す信号リストである。
【図4B】イベント信号を受けてモード分割を行う処理の流れを示すフロー図である。
【図4C】設備の可動状態を分割して4種のモードの何れかに分類した状態を示すモード分割の模式図である。
【図5】センサ信号の例を示す信号波形図である。
【図6】正常モデルに基づく統計的異常検知の処理の流れを示すフロー図である。
【図7】投影距離法を説明する3次元座標のグラフである。
【図8】局所部分空間法を説明する図である。
【図9A】統計的異常識別における表示画面の例で複数の時系列データを表示した画面の正面図である。
【図9B】統計的異常識別における表示画面の例で複数の時系列データを拡大表示した画面の正面図である。
【図10】ルール抽出のための学習データファイルの例である。
【図11】決定木の例である。
【図12】決定木を構築する処理の流れを示すフロー図である。
【図13】決定木構築の際の特徴選択方法を説明する図である。
【図14】決定木から抽出される異常識別ルールの例である。
【図15】異常識別ルールのデータフォーマットの第一の例を表す図である。
【図16】異常識別ルールのデータフォーマットの第二の例を表す図である。
【図17】抽出ルールのテストにおける表示画面の正面図である。
【図18】ルールベース異常識別における表示画面の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の内容を詳細に説明する。
図1に、本発明の設備状態監視方法を実現するシステムの一構成例を示す。
本システムは、設備101から出力されるセンサ信号102とイベント信号103を受けてルールを用いて異常又は予兆(以後、これらを纏めて異常と記す)検知するルールベース異常識別部104、センサ信号102とイベント信号103を蓄積するデータベース105、蓄積されたデータを用いて正常モデルを作成し、正常モデルに基づきセンサ信号の異常を検知する統計的異常識別部106、異常検知結果に基づきセンサ信号102に正常、異常のラベルを付加し、それらをもとに学習データを選定する学習データ選定部107、選定された学習データに基づき決定木を構築することによりルールベース異常識別部104で用いるルールを抽出するルール抽出部108とを備えて構成され、ルール抽出部108で抽出したルールを用いてルールベース異常識別部104で設備101からのセンサ信号とイベント信号を入力し設備101の異常を検知又は予知して異常検知信号109を出力する。
【0021】
本システムの動作には、蓄積されたデータを用いて異常検知に用いるルールを設定する「ルール設定」と入力信号に基づき実際に異常検知を行う「異常検知」の二つのフェーズがある。基本的に前者はオフラインの処理、後者はオンラインの処理である。ただし、後者をオフラインの処理とすることも可能である。以下の説明では、それらをルール設定時、異常検知時という言葉で区別する。
状態監視の対象とする設備101は、ガスタービンや蒸気タービンなどの設備やプラントである。設備101は、その状態を表すセンサ信号102とイベント信号103を出力
する。センサ信号102とイベント信号103はデータベース105に蓄積されている。
【0022】
ルール設定時の処理の流れを図2を用いて説明する。異常識別ルールは故障の種類によって異なるため、故障の種類毎にルール設定を行う。そのため、まず、ルールを設定する対象の故障現象を選定する(S201)。故障の情報はイベント信号103に含まれると考えられるが、もし含まれていない場合は、故障した装置、時刻、種類の情報をデータベース105に記録しておく。
【0023】
次に、ルール設定に用いるデータセットを複数選定する(S202)。データセットは、例えば選定した故障の発生した日を含み、所定期間遡って切り出すものとする。切り出した期間、設備または装置ID、対象期間の故障・警告の発生状況を表示し、それらの情報を元にオペレータが選択するようにする。
【0024】
次に、データセットを一つ取り出し、学習部と評価部に分ける(S203)。これは、機械的に所定の位置で分割し、前半を学習部、後半を評価部とすると、オペレータの負担が軽くなる。あるいは、オペレータが学習部と評価部の指定できるユーザインターフェースを備えていてもよいが、学習部は故障およびその予兆を含まぬよう、故障発生日から離れた日を指定するとよい。
【0025】
次に、イベント信号103に基づいて設備101の稼動状態の変化に応じて時間を分割する(S204)。以下の説明ではこの分割をモード分割と呼び、稼動状態の種類をモードと呼ぶこととする。次に、統計的異常識別部106において、学習部のデータを用いて正常モデルを作成する(S205)。次に、作成した正常モデルを用いて評価部のデータの異常測度を算出し、異常判定を行うことにより異常検知する(S206)。学習データ選定部107において、異常検知した結果に基づきデータに正常または異常のラベルを付加し、正常と異常のラベルがほぼ同数となるよう、学習データを選定する(S207)。学習データの選定はモード毎に行い、別々のファイルを作成する。S202で選定したデータセットすべてについて処理を終了したかを判断し(S208),終了していなければ他のデータセットを一つ取り出し(S209)、S203からの同様の処理を行う。
【0026】
S208のチェックで全データセットについて処理が終了したら、次に、ルール抽出部108において、全データセットから選定した学習データを用いて決定木を構築し、異常識別ルールを抽出する(S210)。この処理もモード毎に行い別々のルールを抽出する。抽出したルールを上記データセットに適用し、ルールテストを行って異常検知可能かどうかを確認し(S211)、良いと判断したら、対象故障の異常識別ルールとして登録する(S212)。
【0027】
ルールベース異常識別部104における異常検知時の処理の流れを、図3を用いて説明する。はじめに、センサ信号102とイベント信号103を入力し(S301)、イベント信号103に基づいてモード分割する(S302)。次にある故障に対応する異常識別ルールを適用ルールとして読み込み(S303)、対応するモードのルールをセンサ信号102に適用してルールベースに基づく異常判定を行う(S304)。判定結果を故障種類と対応付けて記録しておく(S305)。すべての故障の異常識別ルールの処理が終了したかを判断し(S306),終了していなければ、未だルールベースに基づく異常判定が終わっていない他の故障について(S307)、S303からの処理を行う。終了していれば、総合的な異常判定結果を表示する(S308)。
【0028】
次に、ルール設定時および異常検知時の個々の処理の実施例ついて詳細に説明する。
始めに、イベント信号103に基づくモード分割方法の実施例を図4A〜Cを用いて説明する。ルール設定時と異常検知時の両方で同じ方法で実施する。イベント信号103の例を図4Aに示す。不定期に出力される設備の操作・故障・警告を表す信号であり、時刻と操作・故障・警告を表す文字列またはコードからなる。図4Bに示すように、このイベント信号103を入力し(S401)、所定の文字列またはコードの検索により起動シーケンスと停止シーケンスの抽出を行う(S402)。その結果をもとに、停止シーケンスの終了時刻から起動シーケンスの開始時刻までの「定常OFF」モード411、起動シーケンス中の「起動」モード412、起動シーケンスの終了時刻から停止シーケンスの開始時刻までの「定常ON」モード413、停止シーケンス中の「停止」モード414の4つの稼動状態にモード分割する(S403)。図4Cに例を示す。
【0029】
シーケンス切り出しのためには、予めシーケンスの開始イベントおよび終了イベントを指定しておき、イベント信号103の先頭から最後まで以下の要領でスキャンしながら切り出していく。
(1)シーケンスの途中でない場合は、開始イベントを探索する。見つかったらシーケンスの開始とする。
(2)シーケンスの途中の場合は、終了イベントを探索する。見つかったらシーケンスの終了とする。
ここで終了イベントとは、指定の終了イベントのほか、故障、警告、指定の開始イベントとする。指定の終了イベント以外で終了した場合は、異常終了として記録しておく。
【0030】
以上のように、イベント情報を利用することにより、多様な稼動状態を正確に分けることができ、個々のモード別にみると単純な状態になるため、統計的異常識別において高感度な異常検知が可能になり、モード別にルール設定することにより、シンプルで理解しやすいルールを得ることができる。
【0031】
統計的異常識別部106におけるデータ処理方法を、図5ないし図9を用いて説明する。
センサ信号102の例を図5に示す。複数の時系列信号であり、ここでは、時系列/××1に対応する信号1、時系列/××2に対応する信号2、時系列/××3に対応する信号3及び時系列/××4に対応する信号4という4種類の信号を表している。実際には、4種類に限るものではなく、数百から数千と言った数になる場合もある。各信号は、設備101に設けられた複数のセンサからの出力に相当し、例えば、シリンダ、オイル、冷却水などの温度、オイルや冷却水の圧力、軸の回転速度、室温、運転時間などが、一定間隔で観測されるものである。出力や状態を表すのみならず、何かをある値に制御するための制御信号の場合もある。本発明ではこれらのデータを、多次元時系列信号として扱う。
【0032】
図6に、統計的異常識別部106で処理する異常識別処理フローを示す。これは、図2のステップS205とステップS206に対応する処理である。この処理フローにおいては、先ず、データベース105からステップS202で選定されたデータセットのセンサ信号102を入力し(S601)、特徴抽出を行って特徴ベクトルを作成し(S602)、特徴ベクトルのデータチェックにより使用する特徴を選択する(S603)。
【0033】
次に、ステップS203で指定された学習部のデータを切り出す(S604)。切り出された学習部データは、k個のグループに分割され(S605)、そのうち1グループを除いたデータを用いて学習を行い、正常モデルを作成する(S606)。ただし、故障・警告の発生日のデータ、ファイルまたはユーザインターフェースにより指定された除外日のデータ、正常ではないとイベント信号から判断される日のデータは学習に使用しないこととする。作成された正常モデルを用い、ステップS606で除かれた1グループのデータを入力して異常測度を算出する(S607)。
【0034】
すべてのグループのデータについて異常測度の算出が終了したかをチェックし(S608),終了していなければまだ異常測度の算出を行っていない他のグループについて(S609)、正常モデル作成(S606)と異常測度算出(S607)のステップを繰り返す。すべてのグループのデータについて異常測度の算出が終了したら次のステップに進む。
【0035】
すべてのグループのデータについて算出された学習部全体の異常測度に基づいて異常を識別するしきい値を設定する(S610)。このとき、ステップS204で得られたモード分割情報を参照してモード別にしきい値設定を行う。すべての学習部のデータを用いて学習を行い、正常モデルを作成する(S611)。作成した正常モデルを用いて評価部の異常測度を算出し(S612)、ステップS610で設定したしきい値とステップS607およびステップS612で算出した異常測度を比較することにより、各時刻における異常判定を行う(S613)。
【0036】
次に、各ステップについて詳細に説明する。
先ず、ステップS601において、データベース105からステップS202で選定されたデータセットのセンサ信号102を入力し、次に、ステップS602において特徴抽出を行い、特徴ベクトルを得る。特徴抽出としては、センサ信号をそのまま用いることが考えられるが、ある時刻に対して±1,±2,…のウィンドウを設け,ウィンドウ幅(3,5,…)×センサ数の特徴ベクトルにより、データの時間変化を表す特徴を抽出することもできる。また、離散ウェーブレット変換(DWT: Discrete Wavelet Transform)を施して、周波数成分に分解してもよい。なお、各特徴は平均と標準偏差を用いて、平均を0、分散を1となるように変換する正準化を行うとよい。評価時に同じ変換ができるよう、各特徴の平均と標準偏差を記憶しておく。あるいは、最大値と最小値または予め設定した上限値と下限値を用いて正規化を行ってもよい。これらの処理は、単位およびスケールの異なるセンサ信号を同時に扱うためのものである。
【0037】
次に、ステップS603において使用する特徴の選択を行うが、最低限の処理として、分散が非常に小さいセンサ信号および単調増加するセンサ信号を除く必要がある。また、相関解析による無効信号を削除することも考えられる。これは、多次元時系列信号に対して相関解析を行い、相関値が1に近い複数の信号があるなど、極めて類似性が高い場合に、これらは冗長だとして、この複数の信号から重複する信号を削除し、重複しないものを残す方法である。このほか、ユーザが指定するようにしてもよい。また、長期変動が大きい特徴を除くことも考えられる。長期変動が大きい特徴を用いることは正常状態の状態数を多くすることにつながり、学習データの不足を引き起こすためである。例えば、1周期期間毎の平均と分散を算出し、それらのばらつきによって長期変動の大きさを推定できる。
【0038】
また、ステップS603において、主成分分析、独立成分分析、非負行列因子分解、潜在構造射影、正準相関分析など様々な特徴変換手法により、次元削減を行ってもよい。
【0039】
次に、先に説明したように、ステップS604において切り出された学習データを、ステップS605においてk個のグループに分割し、ステップS606において正常モデル作成を行い、ステップS607において異常測度の算出を行う。
【0040】
ステップS606で行う正常モデル作成の手法としては、投影距離法(PDM: Projection Distance Method)や局所部分空間法(LSC: Local Sub-space Classifier)が考えられる。投影距離法は、学習データに対し独自の原点をもつ部分空間すなわちアフィン部分空間(分散最大の空間)を作成する方法である。クラスタ毎に、図7に示すようにアフィン部分空間を作成する。図では、3次元の特徴空間において、1次元のアフィン部分空間を作成する例を示しているが、特徴空間の次元はもっと大きくてもよく、アフィン部分空間の次元も特徴空間の次元より小さくかつ学習データ数より小さければ何次元でもかまわない。
【0041】
アフィン部分空間の算出方法について説明する。まず、学習データの平均μと共分散行列Σ を求め、次にΣの固有値問題を解いて値の大きい方から予め指定したr個の固有値に対応する固有ベクトルを並べた行列Uをアフィン部分空間の正規直交基底とする。この正常モデルに基づいて算出する異常測度は、各クラスタのアフィン部分空間への投影距離のdの最小値と定義する。ここで、クラスタとは、例えば図4Cに示すようにモードに分割された各区間のデータを集めたものとする。あるいは、k平均法に代表される教師なしクラスタリング手法を利用してもよい。
【0042】
一方、局所部分空間法は、評価データqのk-近傍データを用いてk−1次元のアフィン部分空間を作成する方法である。図8にk=3の場合の例を示す。図8に示すように、異常測度は図に示す投影距離で表されるため、評価データqに最も近いアフィン部分空間上の点bを求めればよい。評価データqとそのk-近傍データxi( i = 1,…,k )からbを算出するには、qをk個並べた行列Qとxiを並べた行列Xから
【0043】
【数1】

【0044】
により相関行列Cを求め、
【0045】
【数2】

【0046】
によりbを計算する。
【0047】
この方法は、評価データを入力しないとアフィン部分空間を作成できないため、ステップS606においては、k-近傍データを効率的に探すためのkd木をモード別に構築しておく。kd木とは、k次元のユークリッド空間にある点を分類する空間分割データ構造である。座標軸の1つに垂直な平面だけを使って分割を行い、各葉ノードには1つの点が格納されるよう構成する。ステップS607では、評価データと同じモードに属するkd木を利用して評価データのk-近傍データを求め、それらから前述の点bを求め、評価データと点bの距離を算出して異常測度とする。
【0048】
このほか、マハラノビスタグチ法、回帰分析法、最近傍法、類似度ベースモデル、1ク
ラスSVMなど様々な方法を用いて正常モデルの作成が可能である。
【0049】
次に、ステップS609において、モード別にしきい値を設定する。具体的には、S607において算出した全学習部の異常測度をモード別に昇順にソートし、予め指定した比率に到達する値をしきい値とする。すなわち、データ数をN個、指定した比率をpとするとNp番目に小さい値をしきい値とする。学習部は正常データから構成されると考えればpを1.0に設定すべきであり、この場合は異常測度の最大値をしきい値とする。
【0050】
図9A〜Bは、統計的異常識別にかかわるGUIの例である。時系列データ表示画面、時系列データ拡大表示画面をメニューの選択(各画面の上部に表示されたタブを選択)により切り替えられる。図9Aには、時系列データ全体表示画面901を示す。時系列データ全体表示画面901は、異常測度、しきい値、判定結果を表示する異常測度表示ウィンドウ902と、センサ信号を表示する信号表示ウィンドウ903で構成される。異常測度表示ウィンドウ902には、選定された期間の異常測度、しきい値、異常判定結果を時系列データとして表示する。信号表示ウィンドウ903には、選定された期間の指定されたセンサ信号102を時系列データとして表示する。表示対象の期間は、期間表示ウィンドウ904に表示される。信号表示ウィンドウ903に表示される信号は、信号選択ウィンドウ905により選択されるものとする。カーソル906は、拡大表示の時の起点を表し、マウス操作、キーボード操作により移動できる。
図9Bには、時系列データ拡大表示画面907を示す。異常測度、しきい値、判定結果を拡大して表示する異常測度拡大表示ウィンドウ908とセンサ信号を拡大して表示する信号拡大表示ウィンドウ909で構成される。各ウィンドウには、時系列データ全体表示画面901において、カーソル906で示された時刻を起点として、異常測度表示ウィンドウ902と信号表示ウィンドウ903に表示された時系列データの拡大表示を行う。
【0051】
期間指定ウィンドウ910で、表示の起点から終点までの期間を時間単位あるいは日単位で指定する。スクロールバー911で表示の起点を変更することも可能であり、この変更はカーソル906の位置に反映される。スクロールバー表示領域912の全体の長さは時系列データ全体表示画面901の期間表示ウィンドウ903で指定された期間に相当する。
【0052】
また、スクロールバー911の長さは期間指定ウィンドウ910で指定された期間に相当しスクロールバー911の左端部が異常測度拡大表示ウィンドウ908と信号拡大表示ウィンドウ909に表示されるそれぞれの信号の起点に対応する。モード表示部913には同時に前述の運転状態を表すモードが色分けして表示される。信号選択ウィンドウ914は時系列データ表示画面901の信号選択ウィンドウ905と同じ信号が表示されるが、こちらで選択することも可能である。
【0053】
以上に説明したようなGUIにより、センサ信号、モード、異常測度、しきい値、異常判定結果を視覚的に確認することができるため、統計的異常識別が正常に機能しているかどうかを判断でき、ルール抽出の学習データとして適しているかどうかの判断が可能となる。
【0054】
学習データ選定部107におけるデータ処理方法を説明する。この処理はステップS207に対応し、モード毎に学習データファイルを作成する。統計的異常識別部106における処理により、各時刻のセンサ信号データについて正常または異常の判定がなされている。学習データ選定部107では、この情報をもとに、各時刻のセンサ信号データに正常を0、異常を1で表すラベルを付加する。次にラベルの信頼性向上のため、フィルタリング処理を行う。例えば異常測度が短時間しきい値を超え、その後正常に戻った場合は異常ではない可能性が高いと考えられるからである。1日の累積異常判定回数、(異常測度−しきい値)の累積値などを算出し、それらが所定の基準を超えなかった場合は、正常でも異常でもないラベルに付けかえる。
【0055】
次に、「正常」の学習データとして選択可能な日を決める。ステップS606において学習に用いなかった日を除外し、1日を通して正常以外のラベルが1個以上ついている日を除外する。次に、「定常ON」」モードかつ「異常」ラベルのデータをステップS203で設定した評価部から抽出する。データ数が所定数以上の場合はおよそ所定数になるよう、まんべんなく間引く。次に「定常ON」モードかつ「正常」ラベルのデータを、上記で決めた「正常」の学習データとして選択可能な日から抽出する。「異常」ラベルとおよそ同じ数になるよう、まんべんなく間引く。以上のデータを定常ON時対応の学習データとする。
【0056】
図10は、学習データのフォーマットの例である。1カラム目1001に正常か異常かを表す0または1のコードを記録する。2カラム目1002以降にセンサ信号データを、元のセンサ信号データと同じ順番で記録する。ここで、統計的異常識別処理の特徴選択(S603)において選択されなかったセンサ信号データは0、それ以外のセンサ信号データは元のデータをコピーする。
【0057】
同様の方法で「定常OFF」モード「異常」と「正常」ラベルのデータをそれぞれ抽出し、定常OFF時対応の学習データとする。ステップS202で選定したすべてのデータセットについて異常検知および学習データ選定の処理を行い、定常ON時対応と定常OFF時対応について1個ずつの学習データファイルにまとめておく。
【0058】
ルール抽出部108におけるデータ処理方法を、図11ないし図17を用いて説明する。ルール抽出部108では、学習データ選定部107で作成された学習データファイルを入力として、学習により決定木を構築し、異常識別ルールを抽出する。この処理は、ステップS210に対応した処理であり、モード毎に行う。
【0059】
図11に決定木の例を示す。決定木とはなんらかの条件に基づいて2つに分割することの繰り返しにより、最終的にユニークなラベルを決めるものである。ここでは、条件は、1個のセンサ項目としきい値で表すこととする。指定のセンサの値がしきい値未満であれば、Trueとして左、しきい値以上であればFalseとして右に分岐する。末端には四角で囲んで示す葉ノードがあり、1個のラベルが対応付けられている。最上階層の条件1101から開始し、葉ノード11111乃至1114の何れかにたどり着くまで1102,1103と条件に従い分岐する。各分岐点のこともノードと呼び、最上階層の分岐点をルートノードと呼ぶ
学習データに基づいて決定木を構築する処理の1実施例を、図12を用いて説明する。決定木構築処理は、各分岐点で、使用するセンサ項目およびしきい値を決定する処理を再帰的に実行するものである。図12は、各ノードにおいて分岐条件を決める処理のフローを表す図である。初めに、処理中のノードに含まれるラベルが一意に決まるかをチェックし(S1201)、一意に決まれば(YES)、それは葉ノードであり、この後に説明する処理を行わない(S1202)。処理中のノードに2種のラベルが存在するならば(NO)、すべての学習データから、処理中のノードに含まれるデータをリストアップする(S1203)。それは、ルートノードでは全てのデータとなり、それ以外であれば、上位の条件をすべて満たすデータとなる。
【0060】
次に,センサ項目毎,ラベル毎にヒストグラムを計算し(S1204)、それに基づき全センサ項目について、後述する方法でエントロピーの減少量を計算する(S1205)。エントロピー減少量が最大となるセンサ項目を選び(S1206)、しきい値をふってカイ2乗統計量を計算する(S1207)。この値が最大となるしきい値を求め(選択し)(S1208)、しきい値未満の左のノードとしきい値以上の右のノードにデータを分ける。最後に、左右それぞれのノードに含まれるクラスラベルを決める(S1209)。左のノードを対象としてステップS1201からの処理を行う(S1210)。次に、右のノードを対象としてステップS1201からの処理を行う(S1211)。
【0061】
ヒストグラムに基づくエントロピー減少量算出方法について図13を用いて説明する。エントロピーとは不確定度を表すものであり、2つのラベルが混在する状態では高く、分離された状態では低くなる。特徴量観測前のエントロピーはグループiの確率密度関数P(・i)を用いて次式で表される。
【0062】
【数3】

【0063】
特徴量x観測後のエントロピーは
【0064】
【数4】

【0065】
となる。前述のエントロピーの減少量は,特徴量x観測前後のエントロピーの差をもとに次式で計算される。
【0066】
【数5】

【0067】
すなわち,(数3),(数4)より,
【0068】
【数6】

【0069】
となる。これを積和で近似し,ヒストグラムから計算できるようにする。
【0070】
【数7】

【0071】
ここで、Xjはヒストグラムを算出する時の区間jを意味する。mは区間数である。nijは区間jに含まれるクラスiのサンプル数、nは全サンプル数である。
【0072】
図13の(a)と(b)は、2種のセンサ項目のヒストグラムの例である。ラベル1を白いバー1301、ラベル2を黒いバー1302で表している。エントロピーは、ヒストグラム算出の各区間において全体の存在比率との違いが大きいほど減少し、どちらか一方だけしか存在しないときに最小となる。(a)のセンサαのヒストグラム1310は各区間での白と黒の混在が少ないため、エントロピー減少量は大きくなる。(b)のセンサβのヒストグラム1320は、頻度の高い区間で白と黒が混在しているため、エントロピー減少量は小さくなる。その結果、この2つを比較するとセンサαが選択されるが、センサαの方が2つのラベルを分け易いということが言える。
【0073】
カイ2乗統計量はランダムな状態からの乖離度を表す量であり、次式により算出できる。
【0074】
【数8】

【0075】
ここで、n0とn1は処理中のノードに含まれる各ラベルのデータ数、n0Lとn1Lは左のノードに含まれる各ラベルのデータ数である。
【0076】
カイ2乗統計量が最大のしきい値を選択したら、次にしきい値未満の左のノード、しきい値以上の右のノードに含めるべきラベルを決める。条件にしたがってデータを分け、各ノードの各ラベルのデータの個数を調べる。注目ノードについて、多数派のラベルの存在比率が十分高いときは、そのラベルのみをそのノードに含める。そうでない場合は、両方をそのノードに含める。
【0077】
なお、ここまで、センサ項目の選択をエントロピーを基準に行い、しきい値の決定をカイ2乗統計量を基準に行う方法について説明してきたが、ゲイン比やGINIインデックスを基準に用いてもよい。
【0078】
以上の処理により構築された決定木から、if-thenルールを抽出する方法を説明する。まず、条件を記録するエリアを確保、初期化する。ルートノードを出発点として(1)〜(3)の処理を再帰的に実行する。
(1) 注目ノードが葉ノードの時は,決定クラス名と記録されている分類条件をすべて記述
し、戻る。優先順位は葉ノードの登場順になる。
(2) それ以外のときは、分類条件を記録し、左のノードの処理(1)〜(3)を行う。
(3) 分類条件を削除し,右のノードの処理(1)〜(3)を行う。
【0079】
例えば、図11に示す決定木場合,次のような流れになる。α<thaを記録、異常の決定条件をα<thaとする、条件α<thaを削除、条件β<thbを記録、条件γ<thcを記録、正常の決定条件を条件β<thbかつγ<thcとする、条件γ<thcを削除、異常の決定条件をβ<thbとする、条件β<thbを削除、異常の決定条件はなしとする。作成されるif-thenルールは図14の1400に示すようになる。
【0080】
if-thenルールを保存するデータフォーマットの例を図15に示す。判定条件を評価する順に、第1カラム1501にラベル、第2カラム以降1502〜1505に元のセンサ信号データと同じ順に、各センサ項目に対するしきい値を記録する。条件と無関係なセンサには‘−’を記録する。図15は図14の1400に示すルールを表している。ルール適用時には、しきい値が設定されているすべてのセンサ項目についてしきい値未満であれば、第1行目1511のラベルに決定し、そうでなければ次の行1512の条件を評価する。最後の行1513には、すべて‘−’が記録されており、それまでにラベルが決定していないものは、この行のラベルに決定する。
【0081】
図16に抽出したルールを保存するデータフォーマットの別の例を示す。構築した決定木をそのまま記録したものであり、ノード番号1601、クラスラベル1602、条件に関わるセンサ番号1603、しきい値(th)1604、左のノード番号1605、右のノード番号1606からなる。そのノードが子ノードがない葉ノードであればクラスラベルのみを記録し、そうでない場合はそれ以外の情報を記録する。ノード番号1601が0はルートノードを表す。判定条件評価時は、ルートノードから開始して条件を評価し、指定した番号のセンサ1603がしきい値未満であれば左のノード1605、しきい値以上であれば右のノード1606を参照する。参照したノードにクラスラベルが記録されていればそのラベルに決定して評価を終了する。そうでない場合は、記録されている条件に従い、左または右のノードを参照する。
【0082】
ルール抽出部108では、続いて、抽出したルールのテストを行う。この処理はステップS211に対応する。ルールのテストは、ステップS202で選定したデータセットを用いて行う。一つのデータセットを取り出し、イベントデータに基づいてモード分割を行い、各時刻のセンサ信号データについて、対応するモードすなわち定常ONかOFFかに応じて、ステップS210で抽出したルールを適用して正常(0)か異常(1)を判定する。起動モード、停止モードについては、ルール抽出を行っていないので判定は行わないこととする。
【0083】
図17は、ルールのテストに関わるGUIの例である。統計的異常識別判定結果表示ウィンドウ1701、ルールベース異常識別判定結果表示ウィンドウ1702、センサ信号表示ウィンドウ1703とルール表示ウィンドウ1704とから構成される。統計的異常識別判定結果表示ウィンドウ1701には、選定された期間の統計的異常識別部106で処理された異常測度、しきい値、異常判定結果を時系列データとして表示する。ルールベース異常識別判定結果表示ウィンドウ1702には、選定された期間のステップS211で処理されたルール適用による異常判定結果を時系列データとして表示する。センサ信号表示ウィンドウ1703には、選定された期間の指定されたセンサ信号102とそのセンサ信号に対するしきい値を時系列データとして表示する。表示対象の期間は、期間表示ウィンドウ1705に表示される。センサ信号表示ウィンドウ1703に表示される信号は、信号選択ウィンドウ1706により選択されるものとする。
【0084】
ルール表示ウィンドウ1704には、抽出されたルールが図15に示すフォーマットで表示される。あるいは図16に示すフォーマットでもよく、図13に示す決定木を描画しても、図14に示すルールを書き下してもよい。
【0085】
モード選択ウィンドウ1707により定常ONあるいは定常OFFのモードが選択され、センサ信号表示ウィンドウ1703に表示されるしきい値とルール表示ウィンドウ1704に表示されるルールが選択されたモードに応じて切り替えられるものとする。統計的異常識別判定結果とルールベース異常識別判定結果の比較により、オペレータは抽出したルールの異常識別性能を確認することができる。また、センサ信号表示ウィンドウ1703により、なぜ異常判定されたのか確認することができ、抽出したルールの妥当性を判断できる。このような表示を複数のデータセットについて行うことにより、信頼性の高いルールが得られるようになる。
【0086】
以上に説明した方法により、故障種類毎にルール設定行い、抽出したルールを故障種類に対応付けて登録しておく。異常検知時には登録されたすべての故障種類について、異常判定を行い、一つでも異常と判定されれば、総合判定結果は異常であるとする。
【0087】
図18は、ルールベース異常検知の結果を表示する画面の例である。ルールベース異常識別部104において、センサ信号102とイベント信号103を入力するが、設備または装置の出力と直結して、出力と同時すなわちリアルタイムで入力する方法と、設備または装置の出力をバッファに一時保存し、所定の時間毎にまとめて入力する方法が考えられる。ルールベース異常検知結果表示画面1800は、ルールベース異常識別判定結果表示ウィンドウ1801、センサ信号表示ウィンドウ1802とルール表示ウィンドウ1803とから構成される。ルールベース異常識別判定結果表示ウィンドウ1801には、入力されたセンサ信号に対応するルールベース異常識別部104で処理された異常判定結果を時系列データとして表示する。
【0088】
図には、1日分のセンサ信号をまとめて入力した場合の例を示す。センサ信号表示ウィンドウ1802には、入力されたセンサ信号とそのセンサに関わるしきい値のうち異常判定に関わるものを併せて時系列データとして表示する。対象とする日がすべて正常判定された場合や、対応するセンサ信号にしきい値が設定されていない場合はセンサ信号のみを表示する。表示対象の日付は、日付表示ウィンドウ1805に表示される。センサ信号表示ウィンドウ1802に表示される信号は、信号選択ウィンドウ1806により選択されるものとする。ルール表示ウィンドウ1803には、複数の故障モードに対応するルール1804が図15に示すフォーマットで表示される。
【0089】
あるいは図16に示すフォーマットでもよく、図13に示す決定木を描画しても、図14に示すルールを書き下してもよい。異常判定された時刻の異常と判定された故障項目について、各故障種類に対応するルールに基づいてどのように判定されたのかが分かるように表示する。図の例は、Type Aのルールを用いてラベル1つまり異常であると判定されたことを表す。モード選択ウィンドウ1807により定常ONあるいは定常OFFのモードが選択され、ルール表示ウィンドウ1803に表示されるルールが選択されたモードに応じて切り替えられるものとする。
【0090】
なお、図18はセンサ信号の入力を1日分まとめた場合の例を示したが、リアルタイムに入力した場合であっても、表示は前の時間帯を含めたまとまった期間で行う。正常判定から異常判定に変化したときや、異常判定の中でも異常判定された故障種類が変化したときには、表示内容をセンサ選択、モード選択により画面に表示されたいない分まで含めて保存しておくとよい。
【0091】
上記実施例により、正常モデルに基づく統計的な異常検知により得られた結果を学習してルール抽出を行うため、高感度な異常検知が可能なルールを設定できるようになる。さらに、図18に示すように、ルールベースに基づく異常識別結果とセンサ信号としきい値および判定結果に関わるルールの記述を併せて表示するため、異常の判定の根拠および発生している現象を容易に理解できるようになる。
【符号の説明】
【0092】
101・・・設備 102・・・センサ信号 103・・・イベント信号 104・・・ルールベース異常識別部 105・・・データベース 106・・・統計的異常識別部 107・・・学習データ選定部 108・・・ルール抽出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備あるいは装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記設備あるいは装置のイベント信号に基づいて設備状態を監視する方法であって、
前記センサ信号および前記イベント信号を蓄積し、
該蓄積した前記センサ信号および前記イベント信号を統計的に解析して異常を検知し、
該異常を検知した結果に基づいて学習データを選定し、
該選定した学習データに基づいて異常を識別するためのルールを抽出し、
前記センサ信号に前記異常を識別するためのルールを適用してルールベースによる異常識別を行い前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知する
ことを特徴とする設備状態監視方法。
【請求項2】
前記イベント信号に基づいて前記センサ信号を稼動状態別のモード分割を行い、モード毎に前記統計的解析に基づく異常検知および前記ルールの抽出および前記ルールベースによる異常識別を行うことを特徴とする請求項1記載の設備状態監視方法。
【請求項3】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号を蓄積するデータ蓄積工程と、
該データ蓄積工程で蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、前記正常モデルとの比較により前記センサ信号の異常を検知し、前記異常を検知した結果に基づき前記センサ信号に正常、異常のラベルを付加し、前記ラベルが付加されたセンサ信号を学習データとしてルールを抽出するルール抽出工程と、
前記設備または装置の出力する時系列のセンサ信号と前記ルール抽出工程で抽出したルールに基づき前記設備または装置の異常識別を行う異常検知工程と
を備えることを特徴とする設備状態監視方法。
【請求項4】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記イベント信号を蓄積するデータ蓄積工程と、
該データ蓄積工程で蓄積されたイベント信号に基づき稼動状態別のモード分割を行い、前記蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、前記センサ信号を前記正常モデルと比較して前記センサ信号の異常を検知し、前記異常を検知した結果に基づき前記センサ信号に正常または異常のラベルを付加し、前記ラベルが付加された前記センサ信号を学習データとして前記モード毎にルールを抽出するルール抽出工程と、
前記設備または装置の出力する時系列のイベント信号に基づき前記設備または装置の稼動状態別のモード分割を行い、前記設備または装置の出力する時系列のセンサ信号と前記抽出したルールに基づき、前記モード毎に前記設備または装置の異常識別を行い前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知する異常検知工程と
を備えることを特徴とする設備状態監視方法。
【請求項5】
故障の種類を指定し、該指定した故障を含む期間をリストアップし、該リストアップした期間から前記ルール抽出処理の対象を選択するデータ選択工程をさらに備えることを特徴とする請求項3または4記載の設備状態監視方法。
【請求項6】
前記ルール抽出処理の対象とした期間について、前記センサ信号および前記正常モデルとの比較により異常検知した結果を表示する、統計的異常検知結果表示工程をさらに備えることを特徴とする請求項5記載の設備状態監視方法。
【請求項7】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号およびイベント信号を蓄積するデータ蓄積手段と、
該データ蓄積手段に蓄積された前記センサ信号およびイベント信号を統計的に解析して前記センサ信号の異常を識別する統計的異常識別手段と、
該統計的異常識別手段で前記センサ信号の異常を識別した結果に基づいて学習データを選定する学習データ選定手段と、
該学習データ選定手段で選定した学習データに基づいて異常を識別するためのルールを抽出するルール抽出手段と、
該ルール抽出手段で抽出した異常を識別するためのルールに基づいて前記設備または装置の出力する時系列のセンサ信号の異常を識別して前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知するルールベース異常識別手段と
を備えることを特徴とする設備状態監視装置。
【請求項8】
前記ルールベース異常識別手段は前記イベント信号に基づいて前記センサ信号を稼動状態別のモード分割を行い、該分割したモード毎に前記ルール抽出手段で抽出した異常を識別するためのルールに基づいて前記設備または装置の出力する時系列のセンサ信号の異常を識別し前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知することを特徴とする請求項7記載の設備状態監視装置。
【請求項9】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号を蓄積するデータ蓄積手段と、
該データ蓄積手段に蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成する正常モデル作成手段と、
前記データ蓄積手段に蓄積されたセンサ信号と前記正常モデル作成手段で作成された正常モデルとを比較して前記センサ信号の異常を検知し該センサ信号の異常を検知した結果に基づき前記データ蓄積手段に蓄積されたセンサ信号に正常、異常のラベルを付加して該ラベルが付加されたセンサ信号を学習データとして異常を識別するためのルールを抽出するルール抽出手段と、
前記設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号と前記ルール抽出手段で抽出した異常を識別するためのルールに基づき前記設備または装置の異常を識別して前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知するルールベース異常識別手段と
を備えることを特徴とする設備状態監視装置。
【請求項10】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記設備または装置のイベント信号を蓄積するデータ蓄積手段と、
該データ蓄積手段に蓄積された前記イベント信号に基づき前記設備または装置の稼動状態別に前記データ蓄積手段に蓄積されたセンサ信号をモード分割し該分割したモード毎に前記蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成して前記センサ信号を前記正常モデルと比較して前記センサ信号の異常を識別する異常識別手段と、
該異常識別手段で前記センサ信号の異常を識別した結果に基づき前記センサ信号から前記モード毎に学習データを選定する学習データ選定手段と、
該学習データ選定手段で前記モード毎に選定した学習データに基づいて前記モード毎に異常を識別するためのルールを抽出するルール抽出手段と、
前記イベント信号に基づき前記時系列のセンサ信号を前記設備または装置の稼動状態別のモード分割し、前記ルール抽出手段で抽出したルールに基づき前記モード分割した前記設備または装置の時系列のセンサ信号について異常識別を行い前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知するルールベース異常識別手段と
を備えることを特徴とする設備状態監視装置。
【請求項11】
前記イベント信号として故障の種類を指定し、該指定した故障を含む期間をリストアップし、該リストアップした期間から前記ルール抽出処理の対象を選択するデータ選択手段をさらに備えることを特徴とする請求項9または10記載の設備状態監視装置。
【請求項12】
前記ルール抽出処理の対象とした期間について、前記センサ信号および前記正常モデルとの比較により異常検知した結果を表示する統計的異常検知結果表示手段をさらに備えることを特徴とする請求項11記載の設備状態監視装置。
【請求項13】
設備あるいは装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記設備あるいは装置のイベント信号に基づいて設備状態を監視するためのソフトプログラムであって、
前記センサ信号および前記イベント信号を蓄積する信号データ記憶ステップと、
該蓄積した前記センサ信号および前記イベント信号を統計的に解析して異常を検知する異常検知ステップと、
該異常を検知した結果に基づいて学習データを選定する学習データ選定ステップと、
該選定した学習データに基づいて異常を識別するためのルールを抽出するルール抽出ステップと、
前記センサ信号に前記ルール抽出ステップで抽出したルールを適用してルールベースによる異常識別を行い前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知する異常識別ステップ
とを有することを特徴とする設備状態監視用プログラム。
【請求項14】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号を蓄積するデータ蓄積ステップと、
該データ蓄積ステップで蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、前記正常モデルとの比較により前記センサ信号の異常を検知し、前記異常を検知した結果に基づき前記センサ信号に正常、異常のラベルを付加し、前記ラベルが付加されたセンサ信号を学習データとしてルールを抽出するルール抽出ステップと、
前記設備または装置の出力する時系列のセンサ信号と前記ルール抽出工程で抽出したルールに基づき前記設備または装置の異常識別を行う異常識別ステップと
を備えることを特徴とする設備状態監視用プログラム。
【請求項15】
設備または装置に取り付けられたセンサから出力される前記設備あるいは装置の状態を示す時系列のセンサ信号および前記イベント信号を蓄積するデータ蓄積ステップと、
該データ蓄積工程で蓄積されたイベント信号に基づき稼動状態別のモード分割を行い、前記蓄積されたセンサ信号に基づき正常モデルを作成し、前記センサ信号を前記正常モデルと比較して前記センサ信号の異常を検知し、前記異常を検知した結果に基づき前記センサ信号に正常または異常のラベルを付加し、前記ラベルが付加された前記センサ信号を学習データとして前記モード毎にルールを抽出するルール抽出ステップと、
前記設備または装置の出力する時系列のイベント信号に基づき前記設備または装置の稼動状態別のモード分割を行い、前記設備または装置の出力する時系列のセンサ信号と前記抽出したルールに基づき、前記モード毎に前記設備または装置の異常識別を行い前記設備あるいは装置の異常を検知又は予知する異常識別ステップと
を備えることを特徴とする設備状態監視用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−89057(P2012−89057A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237310(P2010−237310)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】