説明

評価用粒子並びにこれを用いた評価方法

【課題】 生理活性を有する粒子を不活性化する処理における客観的な評価技術を提供する。
【解決手段】 生理活性を有する粒子を不活性化する能力を評価するための評価用粒子であって、生理活性を有する所定の生理活性粒子と前記生理活性粒子とは異なる所定の微細粒子とを含む評価用粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性を有する粒子を不活性化する能力を評価するための評価用粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通風孔、空気清浄機、空調機器、除湿機等に用いられるフィルタの性能評価方法としては、所謂、重量法と呼ばれる方法があった。これは、評価対象となるフィルタに対して定格風量で所定量の粉塵を供給した後、前記フィルタを通過した前記粉塵をすべて高性能フィルタで回収して重量を測定し、前記フィルタ通過前後における前記粉塵の重量比から粉塵の捕集率を算定するものだった。
【0003】
前記重量法を実施するための装置として、上流側ダクトと、前記上流側ダクトに連通する下流側ダクトと、前記上流側ダクトと前記下流側ダクトの間まで自動的に前記フィルタを搬送するフィルタ搬送手段と、前記上流側ダクトと下流側ダクトの間にフィルタが存する際に、前記上流側ダクト内と下流側ダクト内の圧力損失及び前記上流側ダクト内と下流側ダクト内の粒子量のうち少なくとも一つ以上を測定する測定手段とを備えたフィルタの性能測定装置が提案されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−305042号公報(図1、[0017]〜[0035]段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、単に物理的に粉塵を除去するのみならず、カビ、アレルゲン、ウィルス等の生理活性を有する粒子を不活性化する付加機能を有するフィルタが多く開発されてきた。この種のフィルタの機能を評価するにあたって、上述した従来の性能評価方法を採用した場合には、粉塵の補足率、即ち、物理的な能力の評価しかできないという問題点があった。また、前掲したようなフィルタの殺菌能力といった生理活性を有する粒子を不活性化する付加機能を評価するための統一規格は定められておらず、各評価者が独自の基準を定めて独自の性能評価方法を採用していた。例えば、ある場合には、実験室内に浮遊する菌を経時的にサンプリングして菌数を測定するものであったり、別の場合には、特定のアレルゲンを実験室内に散布して経時的にサンプリングしてアレルゲン活性を測定するものであったりした。このように、前記フィルタの性能評価の内容は統一されていないため、客観性が担保されていなかった。又、複数の機能を有する場合に、夫々の機能毎に異なる条件で評価を行うことも多く、それらの結果が実際の使用条件における性能を反映しているものであるかわかりにくいという問題点があった。従って、消費者が商品選択をする際に最も必要としていると思われる性能の違いを、一定の基準において理解するのが難しいという問題点があった。これらの問題点は、生理活性を有する粒子を不活性化する作用を有する粒子を空気中に放出することによって空気を清浄化する機器、例えば、空気清浄機や空調機器にも共通するものである。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、生理活性を有する粒子を不活性化する処理における客観的な評価技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための本発明の評価用粒子の第1特徴構成は、請求項1に記載されているように、生理活性を有する粒子を不活性化する能力を評価するための評価用粒子であって、生理活性を有する所定の生理活性粒子と、前記生理活性粒子とは異なる所定の微細粒子とを含む点にある。
【0007】
上記特徴構成において、請求項2に記載されているように、前記生理活性粒子と前記微細粒子とを物理的に混合することが好ましい。
【0008】
或いは、上記特徴構成において、請求項3に記載されているように、前記生理活性粒子と前記微細粒子との双方にスペーサが共有結合して構成されることが好ましい。
【0009】
又、請求項4に記載されているように、上記特徴構成において、前記微細粒子が、JIS Z8901で規定される試験用粉体1であることが好ましい。
【0010】
又、上記特徴構成において、請求項5に記載されているように、前記生理活性粒子が、カビ胞子、ダニ、花粉、ウィルス、及びこれら由来の粒子から選択される少なくとも1種以上の粒子であることが好ましい。
【0011】
又、上記特徴構成において、請求項6に記載されているように、少なくとも前記生理活性粒子を捕捉可能なフィルタに付与された、前記生理活性粒子を不活性化する能力を評価することが好ましい。
【0012】
更に、この目的を達成するための本発明の処理効果評価方法の第1特徴手段は、請求項7に記載されているように、生理活性を有する粒子を不活性化する処理を施す前と該処理を施した後とにおける請求項1〜6の何れか1項記載の評価用粒子の生理活性の差に基づいて、前記処理の効果を評価する点にある。
【0013】
又、この目的を達成するための本発明の処理効果評価方法の第2特徴手段は、請求項8に記載されているように、生理活性を有する粒子を不活性化可能なフィルタの能力評価方法であって、請求項1〜6の何れか1項記載の評価用粒子を所定濃度で含む流体を前記フィルタを通過するように供給する工程と、前記フィルタ通過後における前記流体中の前記評価用粒子の減少率を算出する工程と、前記フィルタ通過後における前記流体中の前記生理活性粒子の生理活性の減少率を算出する工程とを有する点にある。
【発明の効果】
【0014】
カビ等の微生物や生きたダニ等は、ほこり等の粉塵が共存する状態では水分や栄養分の供給を受けることができ、又、ダニの死骸や花粉等のアレルゲンについてもほこりと共存することで保湿されたり紫外線への暴露が軽減されたりすることから、安定な状態を保つことができると考えられている。従って、これら生理活性を有する粒子と単なるほこり等の微細粒子とが別個に存在する場合と比較して、請求項1に記載されているように、生理活性を有する所定の生理活性粒子と前記生理活性粒子とは異なる所定の微細粒子との両者を含む評価用粒子を用いることによって、評価対象であるフィルタや空調機器等が実際に使用される環境(室内或いは配管内等)に存在する粉塵に近似する状態で、生理活性を有する粒子を不活性化する能力についての評価を行うことができる。又、前記生理活性粒子と前記微細粒子とを、夫々所定の種のものに限定することによって、客観性及び再現性を担保することができる。更に、前記評価用粒子を用いる場合に、従来の重量法等の方法に用いた装置を用いることができるので経済的であるとともに、操作方法や測定結果の互換性がある点でも好ましい。
【0015】
ここで、請求項2に記載されているように、前記生理活性粒子と前記微細粒子とを物理的に混合することによって、カビ、ダニ、花粉等の生理活性粒子とほこり等の微細粒子とが混在した状態を再現することができる。これにより、評価対象であるフィルタや空調機器等が実際に使用される環境(室内或いは配管内等)に存在する粉塵に近似する状態で、生理活性を有する粒子を不活性化する能力についての評価を行うことができる。
【0016】
又、評価対象の使用環境並びに生理活性粒子及び微細粒子の種類によっては、微細粒子と生理活性粒子とが強固に結合した状態で存在する場合も想定される。そこで、請求項3に記載されているように、前記生理活性粒子と前記微細粒子との双方にスペーサが共有結合して、強固に結合した状態の評価粒子を試験に供することで、評価対象であるフィルタや空調機器等が実際に使用される環境(室内或いは配管内等)に存在する粉塵に近似する状態で、生理活性を有する粒子を不活性化する能力についての評価を行うことができる。
【0017】
尚、上記特徴構成において、請求項4に記載されているように、前記微細粒子として、従来からエアフィルタの集塵試験等に用いられてきたJIS Z8901で規定される試験用粉体1を採用すると、従来から用いられていたものであるのでハンドリングが容易であり、結果の互換性がある等の観点からも好ましい。
【0018】
そして、請求項5に記載されているように、前記生理活性粒子として、アレルゲン活性を有するカビ胞子、ダニ、花粉、及びこれら由来の粒子、更に風邪等の病気の原因となるウィルス、から選択される少なくとも1種以上の粒子を用いると、一般家庭における使用環境を再現するのに適している。
【0019】
又、請求項6に記載されているように、本発明に係る評価用粒子は、前記評価対象が少なくとも前記生理活性粒子を捕捉可能なフィルタであって、このフィルタに付与された前記生理活性粒子を不活性化する能力を評価するのに好適である。
【0020】
上述した請求項1〜6の何れか1項記載の評価用粒子の使用方法として、請求項7に記載されているように、生理活性を有する粒子を不活性化する処理を施す前と該処理を施した後とにおける、生理活性粒子の有する生理活性の差に基づいて、前記処理の効果を評価する処理効果評価方法が挙げられる。
【0021】
更には、請求項8に記載されているように、生理活性を有する粒子を不活性化可能なフィルタの能力評価方法として、請求項1〜6の何れか1項記載の評価用粒子を所定濃度で含む流体を、前記フィルタを通過するように供給することによって、前記フィルタの有する物理的なろ過能力による前記評価用粒子の除去と、前記フィルタの有する不活性化能による前記生理活性粒子の除去とが行われる。前記フィルタ通過後における前記流体中の前記評価用粒子の減少率を算出することによって、従来と同様にフィルタの塵埃捕捉率の評価が可能となる。又、前記フィルタ通過後における前記流体中の前記生理活性粒子の生理活性の減少率を算出することによって、フィルタに付与された生理活性を有する粒子を不活性化する能力の評価が可能となる。ここで、所定の前記生理活性粒子と所定の微細粒子とが共存していることで、エアダクトや室内等の使用環境に近い状態で評価が可能となるので、前記フィルタの評価を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る評価用粒子及びこれを用いた評価方法の評価対象としては、例えば、生理活性を有する粒子を不活性化する能力を有する空調機器、空気清浄機、加湿器、除湿機の機器等が挙げられる。詳細には、これらの機器やエアダクトに内装され、少なくとも前記生理活性粒子を捕捉可能なフィルタが想定される。例えば、前記フィルタ表面に生理活性粒子を分解・捕捉可能な酵素、触媒、ポリマを形成又は結合したものが挙げられる。又、前記フィルタとは別体で生理活性粒子の不活性化に関与する手段、例えば、生理活性粒子と結合・反応することによってこれを不活性化可能なイオン性粒子を生理活性粒子が存在する空間に放出する手段、を備える機器が挙げられる。
【0023】
本発明に係る評価用粒子は、生理活性を有する所定の生理活性粒子と、前記生理活性粒子とは異なる所定の微細粒子とを含むものである。前記生理活性粒子は生理活性を有する粒子であって、ここで、「生理活性を有する」とは、接触・接種することによってヒトまたは動物にアレルギーを引き起こさせる(アレルゲン活性)、生体に感染し病気を引き起こす(病原性)、また、それ自身が増殖するなど、生体に何らかの生理反応を引き起こしたり、それ自身が増殖・繁殖したり、様々な代謝反応を示したりすることをいうことをいう。生理活性粒子としては、評価対象の使用環境、不活性化対象に応じて所定の粒子を選択することができる。例えば、一般家庭の室内で使用される場合、このような環境に存在するカビ(菌糸体、胞子)、アレルゲン(例えば、ダニ、花粉等)、ウィルス、及びこれら由来の粒子(例えば、ダニ死骸粉末)を用いることができる。ここで、例えば、ダニアレルゲンはMite Extract−Dp,LSL社から、スギ花粉は生化学工業株式会社から購入可能である。
【0024】
前記微細粒子は、前記生理活性粒子とは異なる粒子であって、評価対象の使用環境に応じて所定の粒子を選択することができる。JIS Z8901で規定される試験用粉体1、フラッシュアイ、カーボンブラック等を用いることができる。例えば、前記試験用粉体1(15種)の粒子サイズは大気塵に近いサイズであるので、評価対象の使用環境が室内、エアダクト内である場合、これを使用するのが好ましい。
【0025】
前記生理活性粒子と前記微細粒子とを単に混合して評価用粒子を構成してもよく、或いは、架橋剤を介して結合させて評価用粒子を構成してもよい。前記架橋剤としては、例えば、生体分子と無機材料とを架橋するのに利用されているグルタルアルデヒド、ヒスチジン、並びに活性化したシリカゲル、カーボンブラック等を用いることができる。
【0026】
前記生理活性粒子の生理活性を測定する方法としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、前記生理活性粒子がカビである場合、平板培養によって生じたコロニの数を計測することで測定することができる。前記生理活性粒子が細菌である場合、コールターカウンタによって細菌数を計測することができる。前記生理活性粒子がアレルゲンである場合、酵素免疫測定法で測定することができ、例えば、ダニ、スギの場合、検出キットがLCDアレルギー研究所から販売されている。インフルエンザウィルス、ポリオウィルス、コクサッキーウィルス等に代表されるウィルスの場合、プラーク法、赤血球凝集法によって測定することができる。
【0027】
〔フィルタ性能評価装置〕
図1に、本発明に係る評価方法を実施する為のフィルタ性能評価装置の概略を示す。
前記フィルタ性能評価装置1は、作業口21を有するバイオハザード対応のチャンバ2(例えば、池本理化工業株式会社製卓上クリーンベンチ)内に、試験室3と環境調整手段4と第1ブロワ22を備えている。評価用粒子等は、前記作業口21から搬入、搬出する。前記第1ブロワ22は、前記チャンバ2内の空気を循環させてエアカーテンを形成し、前記チャンバ2内の空気が外に漏出するのを抑制する。前記チャンバ2内を循環する空気は、前記環境調節手段4を通過する際、これに備えられたHEPAフィルタ41によって不純物が取り除かれる。又、前記環境調節手段4に備えられた温度、湿度調整手段42(空調機器)が、前記チャンバ2内を循環する空気を、前記生理活性粒子の生理活性を保つのに適した温度、湿度、又は、評価対象が実際に使用される温度、湿度になるように調整する。例えば、一般家庭の室内環境を再現する場合、温度15℃〜30℃程度、湿度30%〜80%程度に調整する。
【0028】
前記試験室3は筐体32内に形成され、評価対象となるフィルタ31を収容するフィルタ室33と、前記筐体32の前記フィルタ室33上流側に形成される前室34と、前記筐体32の前記フィルタ室33下流側に形成される後室35とを有する。前記前室34側から後室35側に向かって第2ブロワ50が所定の流速で空気を送り、この第2ブロワ50によって作り出される空気流に、粒子生成装置51としての粉体フィーダ(例えば、筒井理化学器械(株)製、マイクロスクリューフィーダー)から評価用粒子が供給される。これによって、前記試験室3内に所定の濃度で粒子が浮遊するようになり、フィルタ31の使用環境が再現され、この状態で前記フィルタ31の性能評価が行われる。尚、前記チャンバ2内に粉体混合機(図示せず)(例えば、愛知電機株式会社製RM−10(G)型、筒井理化学器械株式会社製超ミクロ形V形混合器)を備え、前記粉体混合機において前記生理活性粒子と前記微細粒子とを混合して前記評価用粒子を作成し、これを前記粒子生成装置51に供給するように構成しても良い。
【0029】
粒子計測装置52が、前記前室34における粒子の密度を測定する。前記粒子計測装置22としては、柴田科学製デジタル粉じん計LD−2型や、レーザ回折散乱法インライン粒子計測装置(日機装株式会社製インライン粒度センサーISRA)を用いることができる。このとき得られた粒子密度の数値に基づいて、前記第2ブロワ50の出力を調整し、前記試験室3内を流れる空気流の粒子密度を補正することもできる。例えば、前記空気流の速度は10m/分、粒子密度は2億個/mとすることで、一般的な空調機器、空気清浄機等の機器に該フィルタを装着して使用する場合の環境を再現することができる。尚、粒子計測装置52を設置しない場合、後述する第2粉体トラップ54による計測結果を利用することで前記前室34における粒子の密度を測定することもできる。
【0030】
前記前室34及び後室35には、夫々、第1粉体トラップ53及び第2粉体トラップ54が接続されている。前記粉体トラップ53,54として、例えば、浮遊粒子サンプリング装置(伊勢久株式会社製MD8エアスキャン&ゼラチンフィルタ)を用いることができる。前記前室34及び後室35内を流れる空気の一部は、両粉体トラップ53,54に引き込まれ、ここで、前記生理活性粒子と前記微細粒子とを含む浮遊粒子が捕捉される。所定時間内に前記第1粉体トラップ53と前記第2粉体トラップ54とに捕捉された前記浮遊粒子の重量(或いは密度)を比較することで、前記フィルタ31による粉体捕集能力を評価することができる。又、所定時間内に両粉体トラップ53,54に捕捉された前記生理活性粒子の生理活性を比較することで、前記フィルタ31の生理活性不活性化能力を評価することができる。このように、前記フィルタ31の粉体捕集能力と生理活性不活性化能力との双方を把握することによって、前記フィルタ31の評価を総合的に行うことができる。
【実施例】
【0031】
〔評価用粒子の調製〕
ポテト・デキストロース寒天培地(以下、「PDA培地」という。)を培養シャーレに注いで平面培地を作成した。この培地上で、巨大培養によって、カビであるペニシリウム ルグロサム(Penicillium rugulosum)を約7日間生育させて胞子を生産させた。前記培養シャーレを逆さにして軽く培養シャーレの底を叩いて振動させることによってペニシリウム ルグロサムの胞子を遊離させ、遊離胞子を培養シャーレの蓋に付着させた。この遊離胞子が生理活性を有する所定の生理活性粒子である。次に、遊離胞子の付着した蓋に、前記培養シャーレ1枚あたり0.1gの、所定の微細粒子としてのJIS Z8901で規定される試験用粉体1(15種)を加え、シャーレ蓋内で軽く混合して、生理活性粒子と微細粒子の混合物を得た。得られた混合物10mgを1mlの胞子湿潤溶液に懸濁し、血球計算板で胞子数を計測した。ここで、胞子はDAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole, dihydrochloride)によって染色して観察した。前記ペニシリウム ルグロサム胞子濃度が400個/mgとなるように前記混合物に前記微細粒子を追加し、評価用粒子を調製した。尚、前記評価用粒子は、使用するまで冷蔵庫(気温4℃)で密閉保存した。
【0032】
(表1)
ポテト・デキトロース寒天培地(PDA培地)の組成
ジャガイモ 200g
ブドウ糖 15g
寒天 20g
精製水 1000ml
pH:5.6±0.1
【0033】
(表2)
胞子湿潤溶液の組成
スルホコハク酸ジオクチルナトリウム 0.05g
NaCl 8.5g
精製水 1000ml
【0034】
(表3)
JIS Z8901で規定される試験用粉体1(15種)の組成
関東ローム8種 72%
カーボンブラック12種 25%
コットン・リント 3%
(直径約1.5μm、長さ1mm以下)
【0035】
〔評価用粒子の生理活性の評価〕
PDA平板培地上に評価用粒子を塗布して30℃で7日間培養し、評価用粒子中のペニシリウム ルグロサムを増殖させ、そのコロニ数を計測した。具体的には、上記評価用粒子0.1gを10mlの胞子湿潤溶液に分散させ、10mg/ml液を作成した。これを胞子湿潤溶液で希釈して、10倍希釈(1mg/ml)、100倍希釈(0.1mg/ml)、1000倍希釈(0.01mg/ml)の希釈系列を作成した。次にそれぞれの溶液0.1mlをPDA平板培地に撒き(それぞれ、1mg、0.1mg、0.01mg、0.001mgの評価用粒子を含む)、30℃で7日間培養した。その後、前記PDA平板培地上に発生したペニシリウム ルグロサムのコロニ数を計測した。
【0036】
〔バッチ法による評価用粒子の熱安定性評価〕
前記評価用粒子0.1gを10ml容バイアルに入れ、60℃の恒温槽内に静置して、2分、5分、30分加熱処理を施した。その後、それぞれの処理を施したバイアルを取り出して25℃の水槽に移して水冷した。その生理活性は、上述したように、加熱処理後の評価用粒子を回収して平板培地(PDA培地)に撒き、カビの生え具合(コロニ形成能)を非処理のものと比較して評価した。この結果、60℃で加熱した場合、処理時間が2分、5分、30分のいずれも場合も、かびの生え具合は非処理と比較して約半分になり、加熱処理によって約半分の胞子が不活化されたことが分かった。
【0037】
〔評価対象使用環境の再現〕
第2ブロア50の風速を4m/秒に設定し、マイクロ粉体フィーダ(粒子生成装置51)を用いて、前掲の評価用粒子を0.86g/分の速度で内径30cm、長さ100cmの筐体32に供給した。筐体32内の空気流に含まれる浮遊粒子を粉体トラップ53に備えたフィルタ上に捕捉した。このフィルタに捕捉された粒子の数の計測及び生理活性の測定を行った。筐体32内の風量が17m/分の時、浮遊粒子の濃度は50〜100mg/mとなった。また、この時の筐体32内の浮遊胞子濃度は最大20000個/mとなった。前記微細粒子及び生理活性粒子(浮遊胞子)の濃度は、一般家庭における塵埃及び浮遊胞子の濃度の範囲にほぼ等しいと考えられ、生理活性を有する粒子を不活性化する機器等の能力を評価するのに非常に好適な環境が再現されているといえる。
【0038】
〔フィルタの評価〕
表面に備えた触媒によって前記カビ胞子を不活性化する能力を有するフィルタの評価を行った。前記フィルタ性能評価装置1のフィルタ室33に該フィルタ31を収容し、前記第2ブロア50の風速を4m/秒に設定して稼動させつつ、粒子生成装置51から筐体32内に前掲の評価用粒子を供給した。前記試験室3内の雰囲気は、前記フィルタ性能評価装置1に設けた環境調節手段4によって、一般家庭の室内環境と同じ温度及び湿度域に調整した。前記第1粉体トラップ53と第2粉体トラップ54とによって捕捉された粒子を夫々回収し、〔評価用粒子の生理活性の評価〕欄に記載した方法に基づいて生理活性を測定した。前記前室34から回収された粒子の生理活性と前記後室35から回収された粒子の生理活性を比較したところ、前記後室35から回収された粒子の生理活性が優位に低下しており、前記フィルタ31による生理活性の不活性化能力を評価することができた。
【0039】
〔別実施形態〕
本発明に係る評価用粒子の他の調整方法を、以下に示す。
(1) PDA培地を培養シャーレに注いで平面培地を作成した。この培地上で、巨大培養によって、カビであるペニシリウム ルグロサム(Penicillium rugulosum)を約7日間生育させて胞子を生産させた。前記PDA培地上のカビの集落を、かみそりとピンセットを使って、またはテーゼで掻き取った後、10mlの胞子湿潤溶液に入れ、なるべく菌糸を切断粉砕しないように注意しながら静かに攪拌した。培地を構成する寒天と固形物とをガーゼで漉し取り、濾液を胞子溶液とした。この遊離胞子が生理活性を有する所定の生理活性粒子である。この胞子溶液に含まれる胞子数を血球計算板でカウントし、胞子濃度を求めた。次にこの胞子溶液を10000xg10分で遠心して胞子沈殿を得る。この沈殿をデシケーター内で乾燥させた後、所定の微細粒子としてのJIS Z8901で規定される試験用粉体1(15種)を、胞子濃度が400個/mgとなるように加えてミキサーで混合し、得られた混合粉体を評価用粒子とした。評価用粒子は使用するまで、4℃で保存した。
【0040】
(2)PDA培地を培養シャーレに注いで平面培地を作成した。この培地上で、巨大培養によって、カビであるペニシリウム ルグロサム(Penicillium rugulosum)を約7日間生育させて胞子を生産させた。PDA培地上のカビの集落(直径約5cm)を、テーゼで掻き取り、デシケーター内で乾燥させた。得られたカビの乾燥集落をシャーレに移し、スパチュラ等で集落を叩いて胞子をシャーレ内に遊離させた。この遊離胞子が生理活性を有する所定の生理活性粒子である。得られた遊離胞子に乾燥カビ集落1個あたり0.1gの、所定の微細粒子としてのJIS Z8901で規定される試験用粉体1(15種)を加え、シャーレ蓋内で軽く混合して、生理活性粒子と微細粒子の混合物を得た。得られた混合物10mgを1mlの胞子湿潤溶液に懸濁し、血球計算板で胞子数を計測した。ここでも、胞子は前記DAPIによって染色して観察した。前記ペニシリウム ルグロサム胞子濃度が400個/mgとなるように前記混合物に前記微細粒子を追加し、評価用粒子を調製した。前記評価用粒子は、使用するまで冷蔵庫(気温4℃)で密閉保存した。
【0041】
尚、上記実施形態において、前記評価用粒子に含まれる生理活性粒子の生理活性を不活性化する能力を有するフィルタの評価方法、言い換えると、該フィルタ処理の効果の評価方法、について言及したが、本発明に係る評価用粒子の使用方法はこれに限定されるものではない。例えば、生理活性粒子の生理活性を不活性化する能力を有するイオン粒子等を空気中に放出するエアコン、空気清浄機等の機器による不活性化処理(除菌処理等)能力を評価することができる。この場合、上述したようなチャンバや無菌室等の閉鎖空間に所定濃度の評価用粒子を収容して、その空間内において前記機器を一定時間運転し、この運転の前後における評価用粒子の生理活性の差(例えば、粒子重量あたりの生理活性の差)に基づいて前記処理の効果を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る評価方法を実施する為のフィルタ性能評価装置の概略図
【符号の説明】
【0043】
1 フィルタ性能評価装置
2 チャンバ
3 試験室
31 フィルタ(評価対象)
32 筐体
4 環境調製手段
50 第2ブロワ
51 粒子生成装置
52 粒子計測装置
53 第1粉体トラップ
54 第2粉体トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性を有する粒子を不活性化する能力を評価するための評価用粒子であって、生理活性を有する所定の生理活性粒子と前記生理活性粒子とは異なる所定の微細粒子とを含む評価用粒子。
【請求項2】
前記生理活性粒子と前記微細粒子とを物理的に混合した請求項1記載の評価用粒子。
【請求項3】
前記生理活性粒子と前記微細粒子との双方にスペーサが共有結合して構成される請求項1記載の評価用粒子。
【請求項4】
前記微細粒子が、JIS Z8901で規定される試験用粉体1である請求項1〜3の何れか1項記載の評価用粒子。
【請求項5】
前記生理活性粒子が、カビ胞子、ダニ、花粉、ウィルス、及びこれら由来の粒子から選択される少なくとも1種以上の粒子である請求項1〜4の何れか1項記載の評価用粒子。
【請求項6】
少なくとも前記生理活性粒子を捕捉可能なフィルタに付与された、前記生理活性粒子を不活性化する能力を評価する請求項1〜5記載の評価用粒子。
【請求項7】
生理活性を有する粒子を不活性化する処理を施す前と該処理を施した後とにおける請求項1〜6の何れか1項記載の評価用粒子の生理活性の差に基づいて、前記処理の効果を評価する処理効果評価方法。
【請求項8】
生理活性を有する粒子を不活性化可能なフィルタの能力評価方法であって、
請求項1〜6の何れか1項記載の評価用粒子を所定濃度で含む流体を前記フィルタを通過するように供給する工程と、
前記フィルタ通過後における前記流体中の前記評価用粒子の減少率を算出する工程と、
前記フィルタ通過後における前記流体中の前記生理活性粒子の生理活性の減少率を算出する工程とを有するフィルタの能力評価方法。

【図1】
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