説明

試料分析装置

【課題】多様な試料を多数分析する場合にも効率的に分析作業をすることが可能なクロマトグラフ方式の試料分析装置を提供する。
【解決手段】演算装置2が、クロマトグラムデータ採取装置1が採取している試料のクロマトグラムデータからピークをリアルタイムで順次識別し、ピークを識別する毎に、当該ピークを記憶している保持時間許容範囲と対比して分析対象成分の何れかであるか否かを同定し、同定されたピークについては、記憶している検量線に基づいて、当該ピークの検出信号又は検出信号の積算値から成分量をリアルタイムで求め、前記同定結果と同定した分析対象成分の成分量をリアルタイムで表示装置3に出力し、表示装置3は、演算装置2から出力された同定結果と成分量を順次表示することを特徴とする試料分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ或いは液体クロマトグラフ等の試料分析装置、より詳しくは、同定結果と定量結果をリアルタイムで表示することのできる試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ或いは液体クロマトグラフ等で試料を分析する場合、数分から数十分かけて分析が終了した後に、各ピークについて同定や定量の処理を行うのが通常であるが、分析終了まで待たずに、リアルタイムで同定を行う試料分析装置も提案されている(特許文献1、特許文献2)。これらの装置によれば、同定結果を迅速に得ることができる。また、装置等に何らかの異常があった場合には想定される同定結果が得られないので、早期に異常を発見しやすい。
【特許文献1】特開平4−172246号公報
【特許文献2】特開平8−211039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、多様な試料を多数分析するためには、特許文献1、特許文献2で提案されている装置では、不充分であることが分かった。
すなわち、多様な試料の中には、分析対象成分の濃度が想定される範囲を大きく外れるものも少なくない。その場合、希釈率や試料注入量等を変えなければ、正確な分析を行うことは困難であり、再分析用に希釈率を変えた試料等を準備する必要がある。
【0004】
ところが、希釈率や試料注入量等を変えて再分析をする必要があることは、基本的には、定量結果が得られなければ分からない。したがって、分析終了後に定量結果を得る特許文献1、特許文献2の装置では、分析が終了するまで、再分析のために希釈率を変更した試料等の準備を開始することが困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、多様な試料を多数分析する場合にも効率的に分析作業をすることが可能なクロマトグラフ方式の試料分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]クロマトグラムデータ採取装置と、該クロマトグラム採取装置で得られたクロマトグラムデータを処理する演算装置と、該演算装置の出力に基づいて表示する表示装置とを備え、
前記クロマトグラムデータ採取装置は、経時変化する検出信号からなるクロマトグラムデータを採取し、
前記演算装置は、2以上の分析対象成分の各々について、保持時間許容範囲と、成分量と検出信号又は検出信号の積算値との関係を示す検量線とを記憶しており、
前記クロマトグラムデータ採取装置が採取している試料のクロマトグラムデータからピークをリアルタイムで順次識別し、
ピークを識別する毎に、当該ピークを前記各保持時間許容範囲と対比して前記2以上の分析対象成分の何れかであるか否かを同定し、
前記2以上の分析対象成分の何れかであると同定されたピークについては、当該分析対象成分の検量線に基づいて、当該ピークの検出信号又は検出信号の積算値から当該分析対象成分の成分量をリアルタイムで求め、
前記同定結果と同定した分析対象成分の成分量をリアルタイムで前記表示装置に出力し、
前記表示装置は、前記演算装置から出力された同定結果と成分量を順次表示することを特徴とする試料分析装置。
【0006】
[2]前記演算装置が、検出信号を時間について微分した微分値の絶対値が所定の値以上となるときをピーク始点と認識し、該ピーク始点を認識後前記微分値がゼロを通過するときをピーク頂点と認識し、該ピーク頂点認識後前記微分値の絶対値が所定の値以下となるときをピーク終点と認識することによりピークを識別する[1]に記載の試料分析装置。
[3]前記検量線が、各成分量と検出信号の積算値との関係を示すものであり、
前記ピーク始点とピーク終点の各々の検出信号を結ぶ直線をベースラインとして、該ピーク始点とピーク終点との間の検出信号の積算値から分析対象成分の成分量を求める[2]に記載の試料分析装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多様な試料を多数分析する場合にも効率的に分析作業をすることが可能なクロマトグラフ方式の試料分析装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の一実施形態に係る試料分析装置を示す概略構成図である。本実施形態の試料分析装置は、クロマトグラムデ−タ採取装置1と、演算装置2と、表示装置3とから、概略構成されている。
クロマトグラムデ−タ採取装置1は、例えば液体クロマトグラフやガスクロマトグラフ等注入された試料を分離し且つ検出信号を得る装置である。クロマトグラムデ−タ採取装置1が液体クロマトグラフやガスクロマトグラフの場合、試料を分離するための分離カラムと分離カラムから流出した成分を検出して検出信号を得る検出器を備えている。
【0009】
演算装置2は、クロマトグラム採取装置で得られたクロマトグラムデータを処理するもので、例えば、デ−タを記憶するハ−ドディスク等の記憶装置とデ−タ処理装置等により構成される。
表示装置3は、例えば液晶表示装置や陰極線管表示装置が用いられるが、このような表示装置でなくても記録紙等に直接同時にプリントアウトするプリンタ装置でもよい。
【0010】
本実施形態の演算装置2は、以下の処理を行う。
まず、2以上の分析対象成分の各々について、保持時間許容範囲と、成分量と検出信号又は検出信号の積算値との関係を示す検量線とを予め記憶する(標準データの記憶)。
また、クロマトグラムデータ採取装置1が採取している試料のクロマトグラムデータからピークをリアルタイムで順次識別する(ピーク識別)。
そして、ピークを識別する毎に、当該ピークを前記各保持時間許容範囲と対比して前記2以上の分析対象成分の何れかであるか否かを同定する(同定)。
前記2以上の分析対象成分の何れかであると同定されたピークについては、当該ピークの検出信号又は検出信号の積算値を求める(ピーク面積の演算等)。
そして、求めた検出信号又は検出信号の積算値から当該分析対象成分の検量線に基づいて、当該分析対象成分の成分量をリアルタイムで求める(定量)。
同定結果と同定した分析対象成分の成分量(定量結果)をリアルタイムで表示装置3に出力する(出力)。
【0011】
(標準データの記憶)
演算装置2は、標準データの記憶を例えば以下のように行う。
まず、分析対象成分を既知濃度含有する標準試料を未知試料分析時と同じ条件下で分離分析したときのクロマトグラムを記憶する。そして、当該標準試料中の分析対象成分について、保持時間と検出信号又は検出信号の積算値を記憶する。
保持時間は、ピーク頂点が得られる時間で特定される。ピーク頂点は、後述の(ピーク識別)で説明するのと同等の方法で、ピーク始点及びピーク終点と共に求めることができる。検出信号又は検出信号の積算値は(ピーク面積の演算等)で説明するのと同等の方法で求めることができる。
【0012】
保持時間許容範囲は、標準試料を未知試料分析時と同じ条件下で分離分析したときのピーク頂点を中心として、所定の範囲内を保持時間許容範囲と規定することができる。また、標準試料を未知試料分析時と同じ条件下で複数回分離分析した際のピーク頂点の平均位置を中心とした所定の範囲内、あるいは、それらのピーク頂点の分散範囲を中心とした所定の範囲内、を保持時間許容範囲とすることができる。決定した保持時間許容範囲は、演算装置2に記憶される。
保持時間の長短の関係が明らかな複数の分析対象成分であれば、標準試料としては、それら複数の成分を含むものを使用できる。その場合、一度の分離分析操作で複数の成分について標準データが得られるので好ましい。
なお、保持時間と保持時間許容範囲は、ピーク頂点が得られる時間で特定するだけでなく、例えば、ピークの立ち上がり箇所(具体的には、ピーク始点とピーク頂点の間において検出信号の変化率が一定値以上となった箇所)が得られる時間で特定する等、ピークの他の箇所で特定することも可能である。
【0013】
同じ分析対象成分について、濃度を変えた標準試料を同様に分離分析して検出信号又は検出信号の積算値を記録することにより、濃度(成分量)と検出信号又は検出信号の積算値との関係を求めて検量線を作成する。作成した検量線は、演算装置2に記憶される。
【0014】
(ピーク識別)
演算装置2は、ピーク識別においてクロマトグラム中に存在するピークを識別する。ピーク識別は、例えばピーク始点とピーク頂点とピーク終点の3点を検出することにより行う。
図2は、第1ピークP1と第2ピークP2とを有する検出信号D(図2の(a))と検出信号Dを時間tについて微分した微分信号D’ (図2の(b))の一例である。図2に示すように、微分信号D’の絶対値が所定の値dを超えていく場合において、所定の値dとなるときを、各々のピークのピーク始点S1、S2と認識することが好ましい。
また、このピーク始点S1、S2を認識後、微分信号D’の絶対値が増加後に減少に転じ微分信号D’がゼロを通過する場合において、ゼロとなるときを各々のピーク頂点T1、T2と認識することが好ましい。
また、ピーク頂点T1、T2を認識後、微分信号D’の絶対値が増加後に減少に転じ所定の値dより小さくなっていく場合において、所定の値dとなるときを各々のピーク終点E1、E2と認識することが好ましい。
このように、ピーク始点とピーク頂点とピーク終点の3点を検出することにより、1つのピークが存在することを識別できる。
【0015】
(同定)
1つのピークを識別する毎に、当該ピークを演算装置2に記憶した各分析対象成分の保持時間許容範囲と直ちに対比して分析対象成分の何れかに該当するか否かを同定する。図2では、第1ピークP1のピーク頂点T1が、ピーク頂点で規定された成分1の保持時間許容範囲A1〜B1内に入ることから、第1ピークP1は、成分1に対応するピークであると同定される。同様に、第2ピークP2のピーク頂点T2が、ピーク頂点で規定された成分2の保持時間許容範囲A2〜B2内に入ることから、第2ピークP2は、成分2に対応するピークであると同定される。
なお、保持時間許容範囲を、ピーク頂点以外の例えばピークの立ち上がり箇所で規定する場合には、識別したピークの保持時間も、対応するピークの立ち上がり箇所が得られた時間で求め、保持時間許容範囲と対比して同定をする。
【0016】
(ピーク面積の演算等)
同定されたピークについては、当該ピークの検出信号又は検出信号の積算値を求める。検出信号(ピーク高さ)又は検出信号の積算値(ピーク面積)を求める際、ベースラインとしては、検出信号の絶対値ゼロをベースラインとすることも可能であるが、ベースラインは、当該成分量以外の要因で変動しやすい。そのため、各ピークについて個別に認識したピーク始点及びピーク終点に基づきベースラインを規定することが好ましい。
なお、ベースラインの引き方としては、ピークの前方、後方における任意のポイント(但し、ピークが検出されていないポイント)から水平に引く方法もあるが、ベースラインのドリフトやテイリング等が生じた場合に、成分量とピーク面積との相関関係が悪くなり、好ましくない。また、良好なベースラインを引くためには、分析終了後にクロマトグラム全体を確認して適切なポイントを選び、ベース位置の設定をする必要があるので、リアルタイムでの定量結果出力に相応しくない。
【0017】
ピーク面積については、図2に示すように、ピーク始点S1とピーク終点E1の各々の検出信号Dを結ぶ直線をベースラインL1として、ピーク始点S1とピーク終点E1との間の検出信号Dの積算値(図示ハッチング部分)をピーク面積とすることができる。同様に、ピーク始点S2とピーク終点E2の各々の検出信号Dを結ぶ直線をベースラインL2として、ピーク始点S2とピーク終点E2との間の検出信号Dの積算値(図示ハッチング部分)をピーク面積とすることができる。
ピーク高さについては、ピーク頂点T1からベースラインL1におろした垂線の長さ、ピーク頂点T2からベースラインL2におろした垂線の長さ、を各々ピーク高さとすることができる。
【0018】
(定量)
検量線が成分量と検出信号の積算値との関係である場合、同定されたピークについて、上記の様にしてピーク面積を求める。そして、同定されたその成分の検量線に基づいて、求めたピーク面積から当該成分の成分量を求めることかできる。
検量線が成分量と検出信号との関係である場合、同定されたピークについて、上記の様にしてピーク高さを求める。そして、同定されたその成分の検量線に基づいて、求めたピーク高さから当該成分の成分量を求めることかできる。
(出力)
同定結果と同定した分析対象成分の成分量(定量結果)は、リアルタイムで、その都度表示装置3に出力する。
【0019】
表示装置3は、上記の様にして演算装置2が出力した同定結果と成分量を入力信号として受ける。そして、これら入力された同定結果と成分量を順次出力する。図3は、表示装置3としてプリンタを使用した場合の表示例である。
図3(a)に示すように、測定から4分後では、LiとNaのピークが検出されるので、これらの成分名(同定結果)とその含有量(成分量)がプリントアウトされる。また、測定から7分後では、さらにNHとKのピークが検出されるので、これらの成分名(同定結果)とその含有量(成分量)が追加でプリントアウトされる。また、測定から10分後では、さらにMgとCaのピークが検出されるので、これらの成分名(同定結果)とその含有量(成分量)が追加でプリントアウトされる。
図4は、プリンタに加えて液晶表示装置を用いた場合の液晶表示画面の表示例である。本例では、クロマトグラムのみを表示しているが、画面中に同定結果や成分量を表示しても良いのはもちろんである。
【0020】
本実施形態によれば、1検体あたりの分析時間は変わらないが、定性定量結果がリアルタイムで得られるため、分析全体が終了する前に部分的な結果が得られる。そのため、希釈率を変える等の処理の必要性を早期に判断できるので、再分析のための試料等の準備を早期に開始できる。したがって、多様な試料を多数分析する場合にも効率的に分析作業をすることが可能である。
【0021】
なお、安定したデータ採取を可能とするため、クロマトグラムデ−タ採取装置1の分離カラムは調整された温度環境下におくことが好ましい。また、移動相としてカラム内に流す溶離液やキャリアガスは、複数の試料を分離分析する間、中断せずに継続して流しておくことが好ましい。
また、演算装置2は、標準データの記憶段階で、例えば、検出信号Dが著しく大き過ぎたり小さすぎたりした場合、保持時間が異常であった場合、ピーク数が標準試料中の分析対象成分数と異なった場合等、適宜エラー情報を出力することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る試料分析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る試料分析装置の同定定量操作の説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る試料分析装置の表示例である。
【図4】本発明の実施形態に係る試料分析装置の表示例である。
【符号の説明】
【0023】
1…クロマトグラムデ−タ採取装置、2…演算装置、3…表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラムデータ採取装置と、該クロマトグラム採取装置で得られたクロマトグラムデータを処理する演算装置と、該演算装置の出力に基づいて表示する表示装置とを備え、
前記クロマトグラムデータ採取装置は、経時変化する検出信号からなるクロマトグラムデータを採取し、
前記演算装置は、2以上の分析対象成分の各々について、保持時間許容範囲と、成分量と検出信号又は検出信号の積算値との関係を示す検量線とを記憶しており、
前記クロマトグラムデータ採取装置が採取している試料のクロマトグラムデータからピークをリアルタイムで順次識別し、
ピークを識別する毎に、当該ピークを前記各保持時間許容範囲と対比して前記2以上の分析対象成分の何れかであるか否かを同定し、
前記2以上の分析対象成分の何れかであると同定されたピークについては、当該分析対象成分の検量線に基づいて、当該ピークの検出信号又は検出信号の積算値から当該分析対象成分の成分量をリアルタイムで求め、
前記同定結果と同定した分析対象成分の成分量をリアルタイムで前記表示装置に出力し、
前記表示装置は、前記演算装置から出力された同定結果と成分量を順次表示することを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
前記演算装置が、検出信号を時間について微分した微分値の絶対値が所定の値以上となるときをピーク始点と認識し、該ピーク始点を認識後前記微分値がゼロを通過するときをピーク頂点と認識し、該ピーク頂点認識後前記微分値の絶対値が所定の値以下となるときをピーク終点と認識することによりピークを識別する請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記検量線が、各成分量と検出信号の積算値との関係を示すものであり、
前記ピーク始点とピーク終点の各々の検出信号を結ぶ直線をベースラインとして、該ピーク始点とピーク終点との間の検出信号の積算値から分析対象成分の成分量を求める請求項2に記載の試料分析装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−241517(P2008−241517A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83764(P2007−83764)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)