説明

試料採取方法及びそれを用いた試料採取装置

【課題】作業者の採取技量に左右されず、定量性および再現性の良い試料採取方法及びそれを用いた試料採取装置を提供する。
【解決手段】ゲル濃度2.5w/v%以上7.5w/v%以下の寒天ゲルからなるゲル状部材と、前記ゲル状部材を取り外し可能に保持する保持部と、前記保持部に接続された前記ゲル状部材を100g/cm2以上700g/cm2以下の範囲の圧力で生体試料に押し当てるための支持部と、を備えることを特徴とする試料採取装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料採取装置及びそれを用いた試料採取方法に関し、より詳細には、微生物、ウィルス及び生体分子の採取に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
主に食品業界において引き起こされる食中毒は深刻な社会問題である。食中毒発生原因の多くは、食肉や食品の加工中に発生する微生物の増殖や微生物が食品に接触することで食品中に混入するために生じる。
【0003】
食中毒を未然に防ぐためには、常に食品加工場で衛生状態を保つことが要求される。そのため、食品業界では、まな板や食器などに残留する細菌や、その温床となる食品残渣の存在を測定することで食品加工場の衛生度を確認する必要がある。従来は、フードスタンプ法やメンブレンフィルタ法と呼ばれる方法で細菌量を計測することで衛生度を評価してきた。フードスタンプ法及びメンブレンフィルタ法に共通するのは、ともに微生物を捕獲後、捕獲した細菌を培養することで、細菌量を計測する点である。しかし、この方法では、検査結果が判明するまでに数日を要し、リアルタイムでの細菌計測が出来ない。
【0004】
また、食中毒は、生菌だけでなく死菌からも感染する可能性があるのに対し、培養法では生菌のみしか検出できない。そのため、生物が共通して持つアデノシン三リン酸(以下、ATP)に着目し、ATP量を計測することで間接的に細菌量を測定する方法が開発された。この測定方法では、酵素反応を利用するので迅速に測定結果を算出することが出来る。そのため食品衛生のその場での迅速な計測において有効な技術である。このようなATP測定装置は、数多くの会社から販売されているが、試料採取方法としては、綿棒による採取が広く行われている。また、綿棒以外の方法では、綿棒に似た材質である羊毛やニトロセルロースなどを用い試料を採取する方法や、フィルムを用いた方法がある(特許文献1および特許文献2参照。)。
【特許文献1】特表2003−535318号公報
【特許文献2】特表2006−509502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、試料の採取は手作業により行われていたために、作業者の採取技量に左右されやすく、採取漏れや採取量のばらつきが発生しやすく、測定の定量性や再現性が低下するという課題を有していた。
【0006】
本発明は、前記従来課題を解決するもので、作業者の採取技量に左右されず、定量性および再現性の良い試料採取方法及びそれを用いた試料採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の試料採取方法及びそれを用いた試料採取装置は、ゲル状部材を100g/cm2以上700g/cm2以下の力で測定すべき生体試料に押し当てて前記生体試料の一部を採取することを特徴とする。
【0008】
さらに本発明の試料採取方法及びそれを用いた試料採取装置は、ゲル状部材と、前記ゲル状部材を取り外し可能に保持する保持部と、前記保持部に接続された前記ゲル状部材を所定の圧力で生体試料に押し当てるための支持部と、を備えることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の試料採取方法及びそれを用いた試料採取装置によれば、一定の圧力でゲル状部材を測定対象物に押し当てることで作業者の技量によらず安定して測定対象物上の細菌を採取することができる。そのため、定量かつ再現性の良い測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の試料採取装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における試料採取装置の構造を示すものである。図1において、ゲル状部材114を取り外し可能に保持できるゲル保持部113と、前記保持部113を支持する支持部112と、上カバー面a101と前記上カバー面a101と平行関係にある上カバー面b103を持ち、かつ前記支持部を支持するとともに前記支持部112の一部を包み込むような形状をし、かつ支持部の一端と接合可能な溝を有した上カバー110と、採取装置本体面A102、B104、C105及び採取装置本体底面106を持ち、かつ前記ゲル保持部113を格納可能な格納部109及び採取装置本体面A102から採取装置本体面C105にかけて前記支持部112が貫通可能な支持部用貫通穴108を有した採取装置本体116と、ばね111から構成され、ばね111は、前記支持部用貫通穴108を摺動可能に貫通した前記支持部112に通した状態で、空洞部107の中に取り付けられている。
【0012】
また、前記上カバー面a101から前記採取装置本体面A102までの距離をS1とし、前記上カバー面b103から前記採取装置本体面B104までの距離をS2とし、前記ゲル状部材採取平面115から前記採取装置本体底面106までの距離をS3とすると、S1≧S2>S3の関係が成り立つ構成とすることにより、前記採取装置本体底面106より前記ゲル状部材採取平面115が突出可能となるため、採取面に対し、押圧することが可能となり、試料採取ができる。
【0013】
本実施例でのゲル状部材114は、ゲルの吸着性を利用して生体試料を採取することができる材料であれば良い。生体試料としては、例えば、微生物、ウィルス、酵素及び生体分子を指す。生体分子は、ヌクレオチド及びその結合体であるポリヌクレオチド(核酸や、アミノ酸の連なったポリペプチド(たんぱく質)である。寒天ゲルは、これらの用途を満たす特性を備えているので、本実施例では、ゲル状部材114に寒天ゲルを用いた。
【0014】
ゲル状部材の剛性と検体(ATP)を採取できるための吸着力は、そのゲル濃度と密接な関係がある。本実施例の目的に好適なゲル状部材の剛性と吸着力とを求めるために、次のようなゲル状部材を作製して、試験を行った。
【0015】
寒天ゲルの調製は既知の方法を用いて0.5w/v%から7.5w/v%までの濃度の寒天ゲルを作製した。寒天ゲル濃度には上限があり、7.5w/v%を越えるものは作製出来なかった。作製した寒天ゲルを本実施例のゲル状部材114の寸法である直径30mm、高さ15mmの円筒状に切り取り、円筒状ゲル部材を作製した。
【0016】
この円筒状ゲル部材を用いて実験を行い、好適な剛性を示すゲル濃度を求めた。円筒状ゲル部材を、ATP溶液を塗布したモデル試料(詳細は後述する。)に押し付け、円筒状ゲル部材の上部に均一になるような圧力を3秒間かけた。この操作を同一の寒天ゲルに対して10回繰り返した。加えた圧力の範囲は、70から2000g/cm2とした。剛性の可否判断は、10回の繰り返しに耐えたものを○、1回以上10回未満のものを△、1回を満たさず形の崩れたものを×とした。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1で明らかなように、ゲル濃度が1%以下の寒天では、わずかな圧力でも円筒状ゲル部材が崩れてしまい、検体であるATPを採取することが出来なかった。一般に、ゲル濃度を高くすると円筒状ゲル部材の剛性が上がる。本実験では、ゲル濃度が5w/v%以上では、1250g/cm2までの押し圧に耐えることができた。ゲル濃度が2.5w/v%以上では、700g/cm2までの押し圧に耐えることができた。従来の綿棒による検体採取方法での押し圧は300g/cm2程度なので、ゲル濃度が2.5w/v%以上あれば、従来の押し圧を十分に満足することが出来る。
【0019】
次に、実験により、検体に対して好適な吸着力を持つゲル濃度を求めた。ゲル状部材のゲル濃度は、2.5w/v%、5w/v%、7.5w/v%のものを用いた。ゲル状部材としての寒天ゲルの形状は、前述したものと同じであり、モデル試料としてガラスプレート上に濃度10−5Mに調製したATP溶液を30μL塗布したものを用いた。上述したゲル状部材の剛性を求める方法と同じように、モデル試料にゲル状部材を70から700g/cm2までの押し圧で3秒間押し付けてモデル試料上のATPをゲル状部材に吸着させた。吸着後のゲル状部材は、ゲル保持部113から切り離し、200μLの純水で抽出した。この抽出液から取り出した100μLの検査液とATP測定用試薬100μL(ルシフェール250プラス、キッコーマン社製)とを混合して(化1)の反応を起こさせた。
【0020】
【化1】

【0021】
このときに発光する光量をATP採取検査装置(ルミテスター PD−10N、キッコーマン社製)で測定した。この発光量をATP回収量とした。各々の条件での発光量を比較するために、ゲル濃度7.5%のゲル状部材で押し圧700g/cm2の時に得られた発光量を100%として、その相対値を計算した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に明らかなように、ATP回収量はゲル濃度よりも押し圧に強く影響される。すなわち、押し圧が100g/cm2未満では、回収されるATP量が大きく減少していることがわかる。
【0024】
表1と2の結果より、本実施例でのゲル状部材への好適な押し圧は100から700g/cm2であり、そのゲル濃度は2.5w/v%から7.5w/v%である。
【0025】
次に、本発明の試料採取装置と従来法である綿棒による採取方法との検体採取量のばらつきを比較した。本発明の試料採取装置のゲル状部材のゲル濃度は7.5w/v%であり、押し圧を300g/cm2とした。モデル試料としては、ATP濃度が10−9MのATP溶液を30μL作製し、ガラス基板上に塗布したものを用いた。本発明の試料採取装置と従来法とを用いて、各々5回モデル試料からATPを採取し、その採取量を測定した。
【0026】
ATP採取量の測定は、採取したゲル状部材又は綿棒を200μLの純水で抽出し、その抽出液から取り出した100μLの検査液とATP測定用試薬100μL(ルシフェール250プラス、キッコーマン社製)とを混合して(化1)の反応を起こさせた。このときに発光する光量をATP採取検査装置(ルミテスター PD−10N、キッコーマン社製)で測定した。5回の測定回数のうちの最大値を示す発光量を100%として、そのほかの測定時の発光量を相対比較したものを図2に示す。図2に示すように、従来の綿棒による採取方法では、最大で70%もの減少を示すものがあるが、本発明の採取装置では、最大でも20%の減少に留まり、ばらつきの少ないことを示している。これよりも、濃度の高い試料では、さらにばらつきは少なく、90%を下回ることはなかった。
【0027】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2の試料採取装置の構成図である。図3において、収縮用ばね204は、前記ゲル保持部113が採取前に採取面に触れることを防ぐために、前記試料採取装置本体116と前記支持部112との間に設置し、ストッパー203は、ゲル保持部113の上面205と前記ゲル保持部113を支持する支持部112の下面204との間に位置し、前記支持部112の稼動範囲を制御するために設けたもので、実施例1の構成と異なるところは、前記支持部を空気圧で稼動させるためにポンプ201と前記ポンプ201と採取装置本体116とを連結するためにパイプ202を設けた点である。
【0028】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3の試料採取装置の構成図である。図4において、ゲル状部材114を保持する保持部113と、前記保持部113を支持する支持部112と、前記支持部112が貫通可能な支持部用貫通穴108と前記保持部113と勘合可能でかつ収容可能な格納部109と前記保持部113を固定するための止め具301が貫通可能な止め具用貫通穴302を有する本体116と、前記保持部の稼動距離を制御するためのストッパー203を採取装置本体に備えたことで構成されており、実施例1の構成と異なるところは、前記支持部112を持ち上げ、保持部用止め具301で前記保持部113が前記採取装置本体116と勘合した状態で固定し、前記保持部用止め具301開放時に前記保持部113自身の重みでゲル状部材114が試料採取面に接する点である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかる試料採取装置及びそれを用いた試料採取方法は、ゲル状部材を用いることで採取面積を固定できるため採取漏れ部を無くす能力を有し、一定量の試料を採取可能な試料採取装置及びそれを用いた試料採取方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1における試料採取装置を示す図
【図2】本発明におけるATP採取量の再現性評価図
【図3】本発明の実施の形態2における試料採取装置を示す図
【図4】本発明の実施の形態3における試料採取装置を示す図
【符号の説明】
【0031】
101 上カバー面a
102 採取装置本体面A
103 上カバー面b
104 採取装置本体面B
105 採取装置本体面C
106 採取装置本体底面
107 空洞部
108 支持部用貫通穴
109 格納部
110 上カバー
111 ばね
112 支持部
113 ゲル保持部
114 ゲル状部材
115 ゲル状部材採取平面
116 採取装置本体
S1 面aから面Aまでの距離
S2 面bから面Bまでの距離
S3 ゲル状部材採取平面から面Dまでの距離
201 ポンプ
202 パイプ
203 ストッパー
204 収縮用ばね
301 保持部用止め具
302 止め具用貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル状部材を100g/cm2以上700g/cm2以下の力で測定すべき生体試料に押し当てて前記生体試料の一部を採取することを特徴とする試料採取方法。
【請求項2】
前記ゲル状部材は、ゲル濃度2.5w/v%以上7.5w/v%以下を特徴とする請求項1に記載の試料採取方法。
【請求項3】
前記ゲル状部材は、前記生体試料へ押し当てる面を平面とすることを特徴とする請求項1に記載の試料採取方法。
【請求項4】
前記ゲル状部材は、寒天ゲルであることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の試料採取方法。
【請求項5】
前記生体試料は、アデノシン三リン酸であることを特徴とする請求項1から請求項4に記載の試料採取方法。
【請求項6】
ゲル状部材と、
前記ゲル状部材を取り外し可能に保持する保持部と、
前記保持部に接続された前記ゲル状部材を所定の圧力で生体試料に押し当てるための支持部と、
を備えることを特徴とする試料採取装置。
【請求項7】
前記所定の圧力は、100g/cm2以上700g/cm2以下の範囲とすることを特徴とする請求項6に記載の試料採取装置。
【請求項8】
前記ゲル状部材は、前記生体試料へ押し当てる面を平面とすることを特徴とする請求項6及び請求項7に記載の試料採取装置。
【請求項9】
前記ゲル状部材は、ゲル濃度2.5w/v%以上7.5w/v%以下を特徴とする請求項6から請求項8に記載の試料採取装置。
【請求項10】
前記ゲル状部材は、寒天ゲルであることを特徴とする請求項6から請求項9に記載の試料採取装置。
【請求項11】
前記支持部は、弾性部材の弾性力を用いて前記ゲル部材を前記生体試料に押し当てることを特徴とする請求項6から請求項10に記載の試料採取装置。
【請求項12】
前記支持部は、外部ポンプから供給される空気圧を用いて前記ゲル部材を前記生体試料に押し当てることを特徴とする請求項6から請求項11に記載の試料採取装置。
【請求項13】
前記支持部は、前記支持部内の前記保持部に錘を備え、前記保持部を落下させることで前記ゲル部材を前記生体試料に押し当てることを特徴とする請求項6から請求項12に記載の試料採取装置。
【請求項14】
前記生体試料は、アデノシン三リン酸であることを特徴とする請求項6から請求項13に記載の試料採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−79968(P2009−79968A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248614(P2007−248614)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】