試料溶液導入キット及び試料溶液注入器
【課題】泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料溶液導入キット及び試料溶液注入器を提案する。
【解決手段】板状部材と、試料溶液注入器とでなる試料溶液導入キットであって、板状部材は、反応場として内部に形成される複数の空間と、複数の空間に内部で連通され、その一部が板状部材の表面に開口される連通空間とを有し、試料溶液注入器は、試料溶液が入れられる容器と、容器の底部に連通される管と、管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、容器に貯留され、試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体とを有する。
【解決手段】板状部材と、試料溶液注入器とでなる試料溶液導入キットであって、板状部材は、反応場として内部に形成される複数の空間と、複数の空間に内部で連通され、その一部が板状部材の表面に開口される連通空間とを有し、試料溶液注入器は、試料溶液が入れられる容器と、容器の底部に連通される管と、管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、容器に貯留され、試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料溶液導入キット及び試料溶液注入器に関し、核酸を増幅する技術分野などにおいて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムPCR装置又はPCR装置では、核酸の増幅反応の場となる複数の微小容器を有する基板が用いられる。従来、担体と、担体の表面を覆い担体に接着されるカバーとをもち、当該担体及びカバー間に微小容器とその微小容器を繋ぐ流路に相当する空隙部が設けられた基板が提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、この基板に検体溶液を空隙部に導入する際の気泡の発生や進入を防止するデバイスも提案されている(特許文献1参照)。このデバイスは、液体が添加される液体添加部と、液体を空隙部に導入する液体導入部とを有し、当該液体添加部と液体導入部と間には、多孔構造でなる液体通過部が設けられている。液体通過部は、液体添加部から添加される液体に予め存在する泡を多孔構造によりトラップ(捕捉)し、また多孔構造の空孔率によって液体の導入速度を調整するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−249677 〔0073〕,〔0089〕−〔0092〕参照
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】滝澤聡子ら、バイオテクノロジージャーナル、2005年7−8月号、418−420頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところがかかる多孔構造体は、繊維、微粒子又は網などで、所定の空孔率をもつ構成とされるが、それを構成すること自体が煩雑となる。また、多孔構造体の空孔にはばらつきが生じるものであり、該ばらつきや、多孔構造体における物理的な障壁に起因して多孔構造体自体が泡の発生要因となりかねない。またばらつきに起因して液体の導入速度に対する調整が発揮できない場合もある。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料溶液導入キット及び試料溶液注入器を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために本発明は、板状部材と、試料溶液注入器とでなる試料溶液導入キットであって、板状部材は、反応場として内部に形成される複数の空間と、複数の空間に内部で連通され、その一部が板状部材の表面に開口される連通空間とを有し、試料溶液注入器は、試料溶液が入れられる容器と、容器の底部に連通される管と、管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、容器に貯留され、試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体とを有する。
【0009】
また本発明は、反応場として複数の空間が内部に形成され、該複数の空間に内部で連通しその一部が表面に開口される連通空間が形成される板状部材に対して、試料溶液を注入する試料溶液注入器であって、試料溶液が入れられる容器と、容器の底部に連通される管と、管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、容器に貯留され、試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、試料溶液が容器に入れられた場合、該試料溶液に対して不溶で軽い液体によって、試料溶液が低層として偏在され、該液体の自重によって試料溶液が均一に押圧される。
【0011】
したがって試料溶液注入器は、試料溶液を入れた際にその試料溶液や液体に気泡が生じた場合であっても、低層として偏在される試料溶液に気泡を移行させることなく、該試料溶液を板状部材の空間に注入することができる。
【0012】
また試料溶液の注入速度は、試料溶液注入器における管の開口径と、試料容器に入れるべき試料溶液の容量(つまり板状部材の空間容量)とに応じて、液体の量を調整することにより実現可能である。したがって多孔構造体を構成する場合に比して、その調整が容易であり、構造上のばらつきといったものも回避することができる。また試料溶液に対して不溶で軽い液体は、それ自体を新たに精製することなく、一般に市販等されるものを適用可能である。かくして、泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料溶液導入キット及び試料溶液注入器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】反応基板の構成を概略的に示す図である。
【図2】試料注入器の構成を概略的に示す図である。
【図3】反応基板に対する試料溶液の注入手順を示すフローチャートである。
【図4】試料溶液の投与前後の説明に供する断面図である。
【図5】注入管の挿入の説明に供する断面図である。
【図6】試料溶液の注入の説明に供する断面図である。
【図7】通気孔の開放の説明に供する断面図である。
【図8】試料溶液が充填された後の封止の説明に供する断面図である。
【図9】他の実施の形態による流路を概略的に示す図である。
【図10】他の実施の形態における試料注入器による注入の説明に供する断面図である。
【図11】減圧装置の構成を概略的に示す図である。
【図12】差込孔部分の構造を概略的に示す断面図である。
【図13】流入口に配される液滴の説明に供する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下に示す順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.反応基板の構成]
[1−2.試料注入器の構成]
[1−3.反応基板に対する試料の注入手順]
[1−4.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0015】
<1.実施の形態>
一実施の形態として試料溶液導入キットを説明する。この実施の形態における試料溶液導入キットは、複数の反応場を有する板状部材(以下、これを反応基板とも呼ぶ)と、該反応基板の反応場に対して試料溶液を注入する試料注入器とによって構成される。これら反応基板及び試料注入器はセットとして梱包され、現場に搬送される。
[1−1.反応基板の構成]
この実施の形態における反応基板は、リアルタイムPCR装置(又はPCR装置)における反応室の所定位置に対してセットされるものである。図1において反応基板の概略的な構成を示す。
【0016】
この反応基板1は、シート状のフィルム1A及び1Bを、熱若しくは超音波又は接着剤等を用いて貼り合わされた構成とされる。このフィルム1A及び1Bの材料にはPET(ポリエチレンテレフタレート)が採用され、該フィルム1A及び1Bの厚さは例えば200[μm]とされる。
【0017】
一方のフィルム1Aの表面には、ターゲットを選択的に結合する性質をもつ物質(以下、これを選択結合性物質とも呼ぶ)との反応場である複数の空間(以下、これをウェルとも呼ぶ)10が格子状に配列された状態で形成される。
【0018】
ウェル10の形状は半球状とされ、開口径は例えば500[μm]とされ、深さは例えば100[μm]とされる。行方向又は列方向に隣接するウェル10の間隔は、ウェル10の開口径に比例し、例えば1000[μm]とされる。またウェル10の開口と対向する湾曲部分は平坦に形成され、その部分には選択結合性物質として例えばプライマーや酵素等のが固定される。
【0019】
例えば6[cm]四方の反応基板1を用いた場合、1[μL]以下の容量でなる1600個程度のウェル10を形成することが可能である。したがってこの反応基板1は、同種又は異種でなる多くの標的核酸を同時に増幅させることができる。
【0020】
他方のフィルム1Bには、複数の空間に連通される連通空間(以下、これを流路とも呼ぶ)20が形成される。
【0021】
この流路20は、行方向の一端から他端にわたって、隣接する行間ごとにジグザグ状に通る幹線部(以下、これを幹流路とも呼ぶ)20Aと、該幹流路から各ウェル10にそれぞれ連結される支線部(以下、これを支流路とも呼ぶ)20Bとでなる。
【0022】
幹流路20Aの一端は流入口21として、フィルム1Bのうちフィルム1Aと貼り合う面と対向する表面に開口され、他端は閉塞される。ただし幹流路20Aの閉塞端には、フィルム1Bの表面に通気孔22が設けられる。流路20の深さは例えば[10μm]とされ、幹流路20Aの流路幅は例えば[100μm]とされる。また流入口21は例えば1[mm]とされ、通気孔22は例えば0.5[mm]径とされる。
【0023】
またこの流路20では、流入口21から注入される標的核酸を含む溶液(以下、これを試料溶液とも呼ぶ)に対する抵抗を低減する構造が採用される。例えば、幹流路20Aのうち、隣接する行間ごとの連結部分は湾曲形状とされる。支流路20Bは、幹流路20Aの断面積よりも小さくされ、該幹流路20Aに対して、該幹流路20Aとなす流方向側の角θ1よりも逆方向側の角θ2が小さくなるよう連結される。幹流路20Aを挟む一方の行側のウェル10に連結される各支流路20Bと、他方の行側のウェル10に連結される各支流路20Bとは、流方向へ交互にずらした状態とされる。幹流路20A及び支流路20Bの断面形状は半円状とされる。
【0024】
したがってこの反応基板1は、流入口21から試料溶液が注入された場合、各ウェル10に対して、泡の発生を大幅に抑制させながらも試料溶液を効率よく与えることができるようになされている。ちなみに、試料溶液は、緩衝液、酵素、dNTP又は蛍光色素等を適宜用いて調整される。
【0025】
この実施の形態における反応基板1では、流入口21及び通気孔22がシート状の透明な接着剤(以下、これを接着テープとも呼ぶ)23(23A,23B)により封止され、各ウェル10及び流路20が例えば10[Torr]以下の低圧状態とされる。したがってこの反応基板1は、流入口21から注入される試料溶液を、より一段と効率よく与えることができるようになされている。
【0026】
[1−2.試料注入器の構成]
次に、図2において試料注入器の概略的な構成を示す。この試料注入器30は、試料溶液が入れられる容器(以下、これを試料容器と呼ぶ)31を有する。この試料容器31は透明なプラスチック材料により円柱状に成形される。
【0027】
試料容器31の外底面の中央位置には、試料容器31に入れられる液体を流路20に注ぎ込むための管(以下、これを注入管とも呼ぶ)32が、該試料容器31と一体に形成される。注入管32の開口には、当該開口を塞ぐ器具(以下、これをビスとも呼ぶ)33が、取外可能に嵌められる。
【0028】
注入管32の長さは、流入口21(図1)の面から深さ方向における流路20の面に当たらない程度とされる。試料容器31の外底面のうち注入管32以外の領域は、注入管32が流入口21に根元まで挿入された場合に、反応基板1の面を土台として試料容器31を直立可能な程度の面積とされる。
【0029】
一方、試料容器31の天部には、該試料容器31に対する蓋34が、柔軟性をもつ連結部材35を介して試料容器31の外側面に取り付けられる。試料容器31の内部には、試料溶液に溶けず、該試料溶液よりも軽い液体(以下、これをオイルとも呼ぶ)36が入れられている。
【0030】
オイル36には、例えば、水のように液体状の粘性をもつ程度のシリコンオイルが採用される。試料容器31に入れるべきオイル36の量は、例えば、反応基板1における各ウェル10と、流路20(幹流路20A及び支流路20Bの双方)との容量に比例する量とされる。
【0031】
他方、試料容器31の外側面には、容量を示す目盛り37が付される。この目盛り37のうち、各ウェル10及び流路20の容量と、オイル36の容量とを合計した容量に相当する目盛り部分は、他の目盛り部分に比べて強調して示される。
【0032】
[1−3.反応基板に対する試料の注入手順]
次に、図3において反応基板に対する試料の注入手順を示す。この注入手順については、図4〜図8を適宜用いて説明する。なお、図4〜図8は、幹流路20Aに沿った断面図である。
【0033】
すなわち第1工程SP1として、反応基板1の流路20に注入すべき試料溶液が調整される。試料容器31の表面には容量を示す目盛り37が付され、該試料容器31に入れられているオイル36の容量と、反応基板1における各ウェル10及び流路20の容量との合計容量に相当する目盛り部分が他の目盛り部分に比べて強調して示される。
【0034】
したがって、この試料容器31は、現在のオイルの量と、強調される目盛り部分とから、調整すべき試料溶液量を把握させることができ、この結果、反応基板1に対する試料溶液の過多又は過少を未然に防止することができる。
【0035】
第2工程SP2として、図4(A)に示すように、試料注入器30の試料容器31から蓋34が外され、該試料容器31に試料溶液40が入れられる。試料容器31には既にオイル36が入れられているが、該オイル36は試料溶液40に対して不溶で軽い液体である。
【0036】
このため試料溶液40はオイル36の下側に偏在し始め、図4(B)に示すように、低層として上層のオイル36と分離することとなる。したがってこの試料注入器30は、試料溶液40に気泡を生成させることなく、該試料溶液40を試料容器31に貯留することができる。
【0037】
またこの第2工程SP2において試料容器31から蓋34を外した場合、該蓋34を連結部材35が試料容器31の外側面に連結しているため、その紛失を防止することができる。
【0038】
ちなみに、試料容器31に試料溶液40を入れる器具は、図4(A)では、ピペットとされているが、該ピペットに限定されるものではない。
【0039】
第3工程SP3として、試料注入器30における注入管32の先端開口に嵌められるビス33が取り外され、図5に示すように、注入管32が、接着テープ23Aを貫通させて反応基板1における流入口21に挿入される。
【0040】
この結果、図6(A)に示すように、試料容器31の試料溶液40は、オイル36の上面に与えられる大気圧によって均一に押され、これにより注入管32を介して一定の流速を保って各ウェル10に速やかに流入する。試料容器31から全ての試料溶液40が流入し終わると、図6(B)に示すように、該試料溶液40の上層となるオイル36が流入する。
【0041】
したがってこの試料注入器30は、ウェル10又は流路20に気泡を生成させることなく、各ウェル10それぞれに試料溶液40を充填させることができ、またオイル36によって流入口36から試料溶液40が蒸発することを大幅に低減することができる。
【0042】
なお、接着テープ23Aは透明であるため流入口21が視認可能である。したがってこの反応基板1は、流入口21に対して注入管32をスムーズに挿入させることができる。また、試料容器31の外底面のうち注入管32以外の領域は、注入管32が流入口21に根元まで挿入された場合に、反応基板1の面を土台として試料容器31を直立可能な程度の面積とされる。したがってこの試料注入器30は、該試料注入器30をユーザに触れさせることなく、試料溶液を注入することができる。
【0043】
さらに、注入管32の長さは、流入口21(図1)の面から深さ方向における流路20の面に当たらない程度とされる。このため注入管32が流入口21に根元まで挿入された場合、注入管32の先端は、流路20が形成されるフィルム1Bに貼り合わされるフィルム1Aとの貼合面に接することなく、流路20の空間に位置される。したがってこの試料注入器30は、注入管32の先端が貼合面に接する場合に比して余計な抵抗を与えることなく試料溶液40を注入し得るようになされている。
【0044】
ところで、図2に示すようなウェルが形成され、該ウェルと、そのウェルに対する流路の構成を上述した構成とした反応基板に対して、試料注入器30によって試料溶液を注入する実験を行った。この実験では、試料容器31に入れられる試料溶液40及びオイル36がなくなるまでの時間は1[秒]程度であった。この実験からも明らかなように、試料注入器30は、ウェルに対して試料溶液を人為的に与える場合に比べて、その時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
第4工程SP4として、図7に示すように、試料溶器31内にオイル36が残る場合、あるいは、試料溶液40が途中で停滞する場合、注入管32の先端から取り外されたビス33によって、接着テープ23Bが貫通され、通気孔22が開放される。
【0046】
この結果、通気孔22にまで試料溶液40が流れ、試料溶器31内に残った試料溶液40又はオイル36が速やかに流入し、該オイル36は流入口21近傍の幹流路20Aにおいて停滞することとなる。
【0047】
第5工程SP5として、図8に示すように、反応基板1における通気孔22に対してビス33が再挿入され、流入口21に対して、接着テープ、パラフィン又はグリセリンゼリー等の封止材50により封止される。
【0048】
[1−4.効果等]
以上の構成において、この試料注入器30は、試料溶液40が入れられる試料容器31に対して、該試料溶液40に不溶で軽い液体(オイル36)を予め入れておく(図2参照)。
【0049】
この試料注入器30は、試料溶液40が試料容器31に入れられた場合、該試料溶液40を、オイル36によって低層として偏在させるとともに、該オイル36の上面に与えられる大気圧によって均一に押圧する(図6参照)。
【0050】
したがって試料注入器30は、試料溶液40を入れた際にその試料溶液40やオイル36に気泡が生じた場合であっても、低層として偏在される試料溶液40に気泡を移行させることなく、該試料溶液40を反応基板1に注入することができる。
【0051】
試料溶液40の注入速度は、注入管32の開口径と、試料容器31に入れられるべき試料溶液40の容量(つまり反応基板1のウェル10及び流路20の空間容量)とに応じて、 オイル36の量を調整することにより実現可能である。したがって多孔構造体を構成する場合に比して、その調整が容易であり、構造上のばらつきといったものも回避することができる。
【0052】
またオイル36は、それ自体を新たに精製することなく、一般に市販等されるものを適用可能であるため、簡易な構成の試料注入器30を実現できる。
【0053】
以上の構成によれば、試料溶液40を、オイル36によって低層として偏在させるとともに、該オイル36の自重によって均一に押圧するようにしたことにより、泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料注入器30が実現可能となる。
【0054】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、増幅対象の標的核酸を選択的に結合する性質をもつ物質との反応場として複数の空間(ウェル10)が板状部材(反応基板1)の内部に形成された。しかしながら反応場の用途は、増幅対象の標的核酸を選択的に結合する性質をもつ物質との反応に限定されるものではない。
【0055】
例えば、検出対象の標的核酸を選択的に結合する性質をもつ物質との反応、あるいは、検出対象の抗体等のタンパク質を選択的に結合する性質をもつ物質との反応、または、検出対象の糖鎖を選択的に結合する性質をもつ物質との反応に用いることができる。
【0056】
また空間の形状は半球とされた。しかしながら形状はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、断面が楕円状、矩形状又は台形状等のように、種々の形状が適用可能である。ただし、効率よく試料液を流す観点では湾曲状を呈する(角がない)ウェル10が好ましい。
【0057】
また空間の配列は格子状とされた。しかしながら配列はこの実施の形態に限定されるものではなく、いかなる態様であってもよい。さらに隣接する空間は全体的に隔離されたが、上方部分等の一部において接触していてもよい。
【0058】
要するに、反応場として、複数の空間が板状部材の内部において形成されているものであればよい。
【0059】
また上述の実施の形態では、行方向の一端から他端にわたって、隣接する行間ごとにジグザグ状に通る幹線部(幹流路20A)と、該幹線部から各ウェル10にそれぞれ連結される支線部(支流路20B)とでなる連通空間(流路20)が板状部材(反応基板1)の内部に形成された。しかしながら連通態様はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0060】
例えば、板状部材(反応基板1)の表面の開口から各ウェル10に個別に連通される連通態様が適用されてもよい。また別例として、行方向に隣接するウェル間を連通し、列方向において隣接するウェルの一部又は全部を連通する連通態様が適用されてもよい。なお、板状部材(反応基板1)の表面に開口される流入口21から各ウェルに連通される連通空間(流路20)のうち、該流入口21近傍部分については、図9に示すように、効率よく試料液を流す観点では湾曲状を呈する(角がない)ものが好ましい。
【0061】
また通気孔22は表面に形成されたが側面としてもよく、また通気孔22の数は複数であってもよい。なお、通気孔22は必須の構成要素としてなくともよい。
【0062】
要するに反応基板は、反応の場とされる複数の空間と、これら複数の空間に内部で連通され、その一部が表面に開口される連通空間とを有するものであればよい。
【0063】
また上述の実施の形態では、板状部材(反応基板1)が、ウェル10が形成されたPETのフィルム1Aと、流路20が形成されたPETのフィルム1Bとを貼り合わせて構成された。しかしながら板状部材の構成態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、担体の表面に対してウェル10及び流路20を形成し、該表面に対してカバー部材を貼り付けた構成態様でなる板状部材(反応基板1)が適用されてもよい。また別例として、ウェル10及び流路20を形成すべき層をシリコン樹脂とし、当該シリコン樹脂の層をガラス層で挟みこむといった三層構造が適用されてもよい。この例示以外にも幅広く適用することが可能である。要は、上述したように、反応の場とされる複数の空間と、これら複数の空間に内部で連通され、その一部が表面に開口される連通空間とを有する板状部材であればよい。
【0064】
また上述の実施の形態では、板状部材(反応基板1)の材料としてPET(ポリエチレンテレフタレート)が適用された。しかしながら板状部材の材料はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル樹脂、シリコン樹脂又はガラス等のように、各種プラスチック材が適用可能である。
【0065】
また上述の実施の形態では、透明なプラスチック材料により円柱状に成形される試料容器31が適用された。しかしながら試料容器の透明性、材質及び形状はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の態様を取ることができる。
【0066】
また上部が開口される試料容器31が適用されたが密閉されていてもよい。この場合、試料溶液は注射器を用いて入れるようにすれば上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。ただし、使い勝手の観点では上述の実施の形態が好ましい。
【0067】
また上述の実施の形態では、流入口21又は通気孔22はシート状の透明な接着剤(接着テープ23)により封止されたが、注入管32又はビス33が貫通可能なもので流入口22又は通気孔22を塞ぐ部材であれば、種々の部材を適用することができる。
【0068】
また上述の実施の形態では、反応基板1における各ウェル10と、流路20(幹流路20A及び支流路20B)との容量程度であることが、目盛り部分が他の目盛り部分に比して強調することで示された。しかしながら表示態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、目盛りとは別に、線又は矢印を付す表示態様が適用されてもよい。要するに、オイル36の容量と、複数の空間(ウェル10)及び連通空間(流路20)の容量との合計量に相当する位置が示されればよい。
【0069】
また上述の実施の形態では、オイル36の量は、流入口21近傍において停滞する程度とされたが、流路20(幹流路20A及び支流路20Bの双方)の容量と同程度としてもよい。この場合、例えば図10に示すように、試料注入器30の新たな構成要素として、試料注入器30から取り外し可能でなり、該試料容器31に入れられるオイル36を流路20に押し込むための部材(以下、これを押込シリンダーとも呼ぶ)50を設けることができる。オイル36は、上述の第4工程SP4において(図7)、ビス33によって通気孔22が開放された後に、押込シリンダー50によって流入口22から流路20に押し込まれる。
【0070】
このオイル36は、試料溶液よりも軽い液体であるためウェル10に入り込むことなく、該流路20だけに充填されることとなる。したがって、この試料注入器30は、流路20に充填されるオイル36によって、各ウェル10における試料溶液の蒸発を大幅に低減できる。また流路20に充填されたオイル36が、ウェル10に入れられた試料溶液が該ウェル10から流出することを抑制して、当該ウェル10間における試料溶液の往来を断絶することができ、この結果、コンタミネーションを防止することができる。
【0071】
また上述に実施の形態では、反応基板1におけるウェル10及び流路20が低圧状態とされた。しかしながらウェル10及び流路20は真空状態であってもよく、また大気圧状態であってもよい。
【0072】
なお、ウェル10及び流路20が大気圧状態である場合、減圧装置によって現場で真空状態又は低気圧状態とすることも可能である。ここで、図11において減圧装置50を示す。この減圧装置50は、反応基板1を配すべきステージ51と、該反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気を吸引する吸引器52と、吸引器52を駆動させる吸引駆動部53とを含む構成とされる。
【0073】
ステージ51には、反応基板1の側面方向に対する動きを制限して反応基板1を配すべき定位置を規定する基板位置規定部51Aが設けられる。この基板位置規定部51Aは、例えば図11に示されるように、反応基板1の角部分の側面に当接されるL字状のフレームとされる。
【0074】
吸引器52は、円筒形の筒(以下、これをシリンジとも呼ぶ)52Aと、先端部分にパッキングが取り付けられる棒状のピストン52Bとを有する。
【0075】
シリンジ52Aの先端部分にはノズルNZが成形され、該シリンジ52Aの外周面には、減圧量を示す目盛りGTが付される。この目盛りGTのうち、減圧調整の目安とすべき目盛りは、他の目盛り部分に比べて強調して示される。具体的には、試料容器31に強調して付される目盛り37に相当する容量分の液体を気泡が生じない程度の速度で通気孔22に到達させるために要する減圧量に相当する目盛りが、減圧調整の目安として強調される。
【0076】
吸引駆動部53は、ステージ51の所定位置に配される反応基板1の通気孔22にノズルNZが圧着した状態で該通気孔22に直交する方向にシリンジ52Aを固定する機構を有する。
【0077】
具体的にこの図11の例では、ステージ51面に垂直となる支柱61が、基板位置規定部51Aから所定の距離を隔てて設けられる。支柱61には、シリンジ52AにおけるノズルNZの先端が差し込まれる孔(以下、これを差込孔とも呼ぶ)IHを、定位置に配される反応基板1の通気孔22に対して所定の隙間を隔てた位置で支持する部(以下、これを差込口支持部とも呼ぶ)62が設けられる。
【0078】
差込孔IHには、図12に示すように、Oリング又はガスケット等のように、差込孔IHの内周面及び角を覆う環部材70が取り付けられる。この環部材70は、可動式レバー63が所定の退避位置にある場合、定位置に配される反応基板1の上面に対して非接触とされる。一方、可動式レバー63が退避位置から所定の加圧位置で固定された場合、図12に示されるように、定位置に配される反応基板1の上側となる面1Aに対して通気孔22を囲う状態で押付けられ、環部材70に差し込まれるノズルNZと通気孔22との間における気体の漏れが防止される。
【0079】
また支柱61には、第1アームAM1及び第2アームAM2が取り付けられる棒状の軸AXを、ステージ51面に垂直となる状態で支持する部(以下、これをアーム支持部とも呼ぶ)64が設けられる。第1アームAM1は軸AXに固定され、把持すべきシリンジ径に応じて挟み入れ可能な部(以下、これを把持部とも呼ぶ)65が設けられる。第2アームAM2は軸AXに摺動自在とされ、その先端には把持部66が設けられる。ちなみに第2アームAM2は手動で摺動され、第1アームAM1から離れる方向に第2アームAM2が摺動されるほど吸引量が多くなる関係にある。
【0080】
ちなみにこの減圧装置50を用いて減圧するまでの手順を一例として挙げる。まず、差込孔IHの環部材70に対して上側からシリンジ52AにおけるノズルNZが差し込まれる。次に、シリンジ52Aが第1アームAM1の把持部65に挟み入れられ、ノズルNZ末端に位置されるピストン52Bが第2アームAM2の把持部66に挟み入れられる。次に、可動式レバー63が退避位置から所定の加圧位置に動かされその位置で固定される。これにより差込孔IHは、定位置に配される反応基板1の上面に押し付けられる。この状態において、第1アームAM1から離れる方向に第2アームAM2が摺動される。この結果、反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気が吸引され、反応基板1が減圧される。
【0081】
反応基板1に対する減圧が終了した場合、試料容器31に対してオイル36及び試料溶液40が入れられた試料注入器30の注入管32が、接着テープ23Aを貫通させて反応基板1の流入口21に挿入される。
【0082】
なお、減圧装置50に対して、定位置に配される反応基板1の流入口21に注入管32が挿入された試料注入器30を押し付けた状態で支持する部(以下、これを注入器押付支持部とも呼ぶ)を設けることもできる。
【0083】
便宜上、この注入器押付支持部は図11では省略するが、具体的には、例えば、第1アームAM1の下側の軸AXを摺動可能、かつ、任意の軸位置で固定可能な第3アームとされる。この第3アームは、その先端に把持部を有し、該把持部には、オイル36及び試料溶液40が入れられた試料注入器30が挟み入れられる。この状態において、試料注入器30の注入管32が、接着テープ23Aを貫通させて反応基板1の流入口21に挿入される。このとき第3アームが、第1アームAM1から離れる方向に摺動され、試料注入器30を加圧する位置で固定される。注入器押付支持部を設けるようにした場合、試料溶液40を反応基板1に注入する際に試料注入器30が倒れるといったことが確実に防止される。
【0084】
また、減圧装置50によって、反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気を吸引する場合、その吸引と同時に試料溶液40を反応基板1に注入させることも可能である。この場合、反応基板1から大気を吸引する前に、図13に示すように、ビス33が外された流入口21に対して、ピペット等を用いて試料溶液40を液滴LDとして配する。その後、第1アームAM1から離れる方向に第2アームAM2を摺動させることで、反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気を吸引すると同時に試料溶液40を注入させることができる。
【0085】
このようにした場合、試料注入器30を用いることなく、反応基板1に対して減圧及び試料注入が実行できるため、上述の実施の形態に場合に比べて簡易である。ただし、反応基板1におけるウェル10及び流路20の体積が、流入口21に配すべき液滴LDの量よりも大きい場合、液滴LDの全てが反応基板1に流入する前に、気泡を生じさせずに液滴LDを付け足すという手技が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、遺伝子実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1……反応基板、1A,1B……フィルム、10……ウェル、20……流路、20A……幹流路、20B……支流路、21……流入口、22……通気孔、30……試料溶液注入器、31……試料容器、32……注入管、33……ビス、34……蓋、35……連結部材、36……オイル、37,GT……目盛り、40……試料溶液、50……減圧装置、51……ステージ、52……吸引器、53……吸引駆動部、61……支柱、62……差込口支持部、63……可動式レバー、64……アーム支持部、65,66……把持部、70……環部材、AM1……第1アーム、AM2……第2アーム、AX……軸、IH……差込孔、LD……液滴。
【技術分野】
【0001】
本発明は試料溶液導入キット及び試料溶液注入器に関し、核酸を増幅する技術分野などにおいて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムPCR装置又はPCR装置では、核酸の増幅反応の場となる複数の微小容器を有する基板が用いられる。従来、担体と、担体の表面を覆い担体に接着されるカバーとをもち、当該担体及びカバー間に微小容器とその微小容器を繋ぐ流路に相当する空隙部が設けられた基板が提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、この基板に検体溶液を空隙部に導入する際の気泡の発生や進入を防止するデバイスも提案されている(特許文献1参照)。このデバイスは、液体が添加される液体添加部と、液体を空隙部に導入する液体導入部とを有し、当該液体添加部と液体導入部と間には、多孔構造でなる液体通過部が設けられている。液体通過部は、液体添加部から添加される液体に予め存在する泡を多孔構造によりトラップ(捕捉)し、また多孔構造の空孔率によって液体の導入速度を調整するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−249677 〔0073〕,〔0089〕−〔0092〕参照
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】滝澤聡子ら、バイオテクノロジージャーナル、2005年7−8月号、418−420頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところがかかる多孔構造体は、繊維、微粒子又は網などで、所定の空孔率をもつ構成とされるが、それを構成すること自体が煩雑となる。また、多孔構造体の空孔にはばらつきが生じるものであり、該ばらつきや、多孔構造体における物理的な障壁に起因して多孔構造体自体が泡の発生要因となりかねない。またばらつきに起因して液体の導入速度に対する調整が発揮できない場合もある。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料溶液導入キット及び試料溶液注入器を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために本発明は、板状部材と、試料溶液注入器とでなる試料溶液導入キットであって、板状部材は、反応場として内部に形成される複数の空間と、複数の空間に内部で連通され、その一部が板状部材の表面に開口される連通空間とを有し、試料溶液注入器は、試料溶液が入れられる容器と、容器の底部に連通される管と、管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、容器に貯留され、試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体とを有する。
【0009】
また本発明は、反応場として複数の空間が内部に形成され、該複数の空間に内部で連通しその一部が表面に開口される連通空間が形成される板状部材に対して、試料溶液を注入する試料溶液注入器であって、試料溶液が入れられる容器と、容器の底部に連通される管と、管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、容器に貯留され、試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、試料溶液が容器に入れられた場合、該試料溶液に対して不溶で軽い液体によって、試料溶液が低層として偏在され、該液体の自重によって試料溶液が均一に押圧される。
【0011】
したがって試料溶液注入器は、試料溶液を入れた際にその試料溶液や液体に気泡が生じた場合であっても、低層として偏在される試料溶液に気泡を移行させることなく、該試料溶液を板状部材の空間に注入することができる。
【0012】
また試料溶液の注入速度は、試料溶液注入器における管の開口径と、試料容器に入れるべき試料溶液の容量(つまり板状部材の空間容量)とに応じて、液体の量を調整することにより実現可能である。したがって多孔構造体を構成する場合に比して、その調整が容易であり、構造上のばらつきといったものも回避することができる。また試料溶液に対して不溶で軽い液体は、それ自体を新たに精製することなく、一般に市販等されるものを適用可能である。かくして、泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料溶液導入キット及び試料溶液注入器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】反応基板の構成を概略的に示す図である。
【図2】試料注入器の構成を概略的に示す図である。
【図3】反応基板に対する試料溶液の注入手順を示すフローチャートである。
【図4】試料溶液の投与前後の説明に供する断面図である。
【図5】注入管の挿入の説明に供する断面図である。
【図6】試料溶液の注入の説明に供する断面図である。
【図7】通気孔の開放の説明に供する断面図である。
【図8】試料溶液が充填された後の封止の説明に供する断面図である。
【図9】他の実施の形態による流路を概略的に示す図である。
【図10】他の実施の形態における試料注入器による注入の説明に供する断面図である。
【図11】減圧装置の構成を概略的に示す図である。
【図12】差込孔部分の構造を概略的に示す断面図である。
【図13】流入口に配される液滴の説明に供する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下に示す順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.反応基板の構成]
[1−2.試料注入器の構成]
[1−3.反応基板に対する試料の注入手順]
[1−4.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0015】
<1.実施の形態>
一実施の形態として試料溶液導入キットを説明する。この実施の形態における試料溶液導入キットは、複数の反応場を有する板状部材(以下、これを反応基板とも呼ぶ)と、該反応基板の反応場に対して試料溶液を注入する試料注入器とによって構成される。これら反応基板及び試料注入器はセットとして梱包され、現場に搬送される。
[1−1.反応基板の構成]
この実施の形態における反応基板は、リアルタイムPCR装置(又はPCR装置)における反応室の所定位置に対してセットされるものである。図1において反応基板の概略的な構成を示す。
【0016】
この反応基板1は、シート状のフィルム1A及び1Bを、熱若しくは超音波又は接着剤等を用いて貼り合わされた構成とされる。このフィルム1A及び1Bの材料にはPET(ポリエチレンテレフタレート)が採用され、該フィルム1A及び1Bの厚さは例えば200[μm]とされる。
【0017】
一方のフィルム1Aの表面には、ターゲットを選択的に結合する性質をもつ物質(以下、これを選択結合性物質とも呼ぶ)との反応場である複数の空間(以下、これをウェルとも呼ぶ)10が格子状に配列された状態で形成される。
【0018】
ウェル10の形状は半球状とされ、開口径は例えば500[μm]とされ、深さは例えば100[μm]とされる。行方向又は列方向に隣接するウェル10の間隔は、ウェル10の開口径に比例し、例えば1000[μm]とされる。またウェル10の開口と対向する湾曲部分は平坦に形成され、その部分には選択結合性物質として例えばプライマーや酵素等のが固定される。
【0019】
例えば6[cm]四方の反応基板1を用いた場合、1[μL]以下の容量でなる1600個程度のウェル10を形成することが可能である。したがってこの反応基板1は、同種又は異種でなる多くの標的核酸を同時に増幅させることができる。
【0020】
他方のフィルム1Bには、複数の空間に連通される連通空間(以下、これを流路とも呼ぶ)20が形成される。
【0021】
この流路20は、行方向の一端から他端にわたって、隣接する行間ごとにジグザグ状に通る幹線部(以下、これを幹流路とも呼ぶ)20Aと、該幹流路から各ウェル10にそれぞれ連結される支線部(以下、これを支流路とも呼ぶ)20Bとでなる。
【0022】
幹流路20Aの一端は流入口21として、フィルム1Bのうちフィルム1Aと貼り合う面と対向する表面に開口され、他端は閉塞される。ただし幹流路20Aの閉塞端には、フィルム1Bの表面に通気孔22が設けられる。流路20の深さは例えば[10μm]とされ、幹流路20Aの流路幅は例えば[100μm]とされる。また流入口21は例えば1[mm]とされ、通気孔22は例えば0.5[mm]径とされる。
【0023】
またこの流路20では、流入口21から注入される標的核酸を含む溶液(以下、これを試料溶液とも呼ぶ)に対する抵抗を低減する構造が採用される。例えば、幹流路20Aのうち、隣接する行間ごとの連結部分は湾曲形状とされる。支流路20Bは、幹流路20Aの断面積よりも小さくされ、該幹流路20Aに対して、該幹流路20Aとなす流方向側の角θ1よりも逆方向側の角θ2が小さくなるよう連結される。幹流路20Aを挟む一方の行側のウェル10に連結される各支流路20Bと、他方の行側のウェル10に連結される各支流路20Bとは、流方向へ交互にずらした状態とされる。幹流路20A及び支流路20Bの断面形状は半円状とされる。
【0024】
したがってこの反応基板1は、流入口21から試料溶液が注入された場合、各ウェル10に対して、泡の発生を大幅に抑制させながらも試料溶液を効率よく与えることができるようになされている。ちなみに、試料溶液は、緩衝液、酵素、dNTP又は蛍光色素等を適宜用いて調整される。
【0025】
この実施の形態における反応基板1では、流入口21及び通気孔22がシート状の透明な接着剤(以下、これを接着テープとも呼ぶ)23(23A,23B)により封止され、各ウェル10及び流路20が例えば10[Torr]以下の低圧状態とされる。したがってこの反応基板1は、流入口21から注入される試料溶液を、より一段と効率よく与えることができるようになされている。
【0026】
[1−2.試料注入器の構成]
次に、図2において試料注入器の概略的な構成を示す。この試料注入器30は、試料溶液が入れられる容器(以下、これを試料容器と呼ぶ)31を有する。この試料容器31は透明なプラスチック材料により円柱状に成形される。
【0027】
試料容器31の外底面の中央位置には、試料容器31に入れられる液体を流路20に注ぎ込むための管(以下、これを注入管とも呼ぶ)32が、該試料容器31と一体に形成される。注入管32の開口には、当該開口を塞ぐ器具(以下、これをビスとも呼ぶ)33が、取外可能に嵌められる。
【0028】
注入管32の長さは、流入口21(図1)の面から深さ方向における流路20の面に当たらない程度とされる。試料容器31の外底面のうち注入管32以外の領域は、注入管32が流入口21に根元まで挿入された場合に、反応基板1の面を土台として試料容器31を直立可能な程度の面積とされる。
【0029】
一方、試料容器31の天部には、該試料容器31に対する蓋34が、柔軟性をもつ連結部材35を介して試料容器31の外側面に取り付けられる。試料容器31の内部には、試料溶液に溶けず、該試料溶液よりも軽い液体(以下、これをオイルとも呼ぶ)36が入れられている。
【0030】
オイル36には、例えば、水のように液体状の粘性をもつ程度のシリコンオイルが採用される。試料容器31に入れるべきオイル36の量は、例えば、反応基板1における各ウェル10と、流路20(幹流路20A及び支流路20Bの双方)との容量に比例する量とされる。
【0031】
他方、試料容器31の外側面には、容量を示す目盛り37が付される。この目盛り37のうち、各ウェル10及び流路20の容量と、オイル36の容量とを合計した容量に相当する目盛り部分は、他の目盛り部分に比べて強調して示される。
【0032】
[1−3.反応基板に対する試料の注入手順]
次に、図3において反応基板に対する試料の注入手順を示す。この注入手順については、図4〜図8を適宜用いて説明する。なお、図4〜図8は、幹流路20Aに沿った断面図である。
【0033】
すなわち第1工程SP1として、反応基板1の流路20に注入すべき試料溶液が調整される。試料容器31の表面には容量を示す目盛り37が付され、該試料容器31に入れられているオイル36の容量と、反応基板1における各ウェル10及び流路20の容量との合計容量に相当する目盛り部分が他の目盛り部分に比べて強調して示される。
【0034】
したがって、この試料容器31は、現在のオイルの量と、強調される目盛り部分とから、調整すべき試料溶液量を把握させることができ、この結果、反応基板1に対する試料溶液の過多又は過少を未然に防止することができる。
【0035】
第2工程SP2として、図4(A)に示すように、試料注入器30の試料容器31から蓋34が外され、該試料容器31に試料溶液40が入れられる。試料容器31には既にオイル36が入れられているが、該オイル36は試料溶液40に対して不溶で軽い液体である。
【0036】
このため試料溶液40はオイル36の下側に偏在し始め、図4(B)に示すように、低層として上層のオイル36と分離することとなる。したがってこの試料注入器30は、試料溶液40に気泡を生成させることなく、該試料溶液40を試料容器31に貯留することができる。
【0037】
またこの第2工程SP2において試料容器31から蓋34を外した場合、該蓋34を連結部材35が試料容器31の外側面に連結しているため、その紛失を防止することができる。
【0038】
ちなみに、試料容器31に試料溶液40を入れる器具は、図4(A)では、ピペットとされているが、該ピペットに限定されるものではない。
【0039】
第3工程SP3として、試料注入器30における注入管32の先端開口に嵌められるビス33が取り外され、図5に示すように、注入管32が、接着テープ23Aを貫通させて反応基板1における流入口21に挿入される。
【0040】
この結果、図6(A)に示すように、試料容器31の試料溶液40は、オイル36の上面に与えられる大気圧によって均一に押され、これにより注入管32を介して一定の流速を保って各ウェル10に速やかに流入する。試料容器31から全ての試料溶液40が流入し終わると、図6(B)に示すように、該試料溶液40の上層となるオイル36が流入する。
【0041】
したがってこの試料注入器30は、ウェル10又は流路20に気泡を生成させることなく、各ウェル10それぞれに試料溶液40を充填させることができ、またオイル36によって流入口36から試料溶液40が蒸発することを大幅に低減することができる。
【0042】
なお、接着テープ23Aは透明であるため流入口21が視認可能である。したがってこの反応基板1は、流入口21に対して注入管32をスムーズに挿入させることができる。また、試料容器31の外底面のうち注入管32以外の領域は、注入管32が流入口21に根元まで挿入された場合に、反応基板1の面を土台として試料容器31を直立可能な程度の面積とされる。したがってこの試料注入器30は、該試料注入器30をユーザに触れさせることなく、試料溶液を注入することができる。
【0043】
さらに、注入管32の長さは、流入口21(図1)の面から深さ方向における流路20の面に当たらない程度とされる。このため注入管32が流入口21に根元まで挿入された場合、注入管32の先端は、流路20が形成されるフィルム1Bに貼り合わされるフィルム1Aとの貼合面に接することなく、流路20の空間に位置される。したがってこの試料注入器30は、注入管32の先端が貼合面に接する場合に比して余計な抵抗を与えることなく試料溶液40を注入し得るようになされている。
【0044】
ところで、図2に示すようなウェルが形成され、該ウェルと、そのウェルに対する流路の構成を上述した構成とした反応基板に対して、試料注入器30によって試料溶液を注入する実験を行った。この実験では、試料容器31に入れられる試料溶液40及びオイル36がなくなるまでの時間は1[秒]程度であった。この実験からも明らかなように、試料注入器30は、ウェルに対して試料溶液を人為的に与える場合に比べて、その時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
第4工程SP4として、図7に示すように、試料溶器31内にオイル36が残る場合、あるいは、試料溶液40が途中で停滞する場合、注入管32の先端から取り外されたビス33によって、接着テープ23Bが貫通され、通気孔22が開放される。
【0046】
この結果、通気孔22にまで試料溶液40が流れ、試料溶器31内に残った試料溶液40又はオイル36が速やかに流入し、該オイル36は流入口21近傍の幹流路20Aにおいて停滞することとなる。
【0047】
第5工程SP5として、図8に示すように、反応基板1における通気孔22に対してビス33が再挿入され、流入口21に対して、接着テープ、パラフィン又はグリセリンゼリー等の封止材50により封止される。
【0048】
[1−4.効果等]
以上の構成において、この試料注入器30は、試料溶液40が入れられる試料容器31に対して、該試料溶液40に不溶で軽い液体(オイル36)を予め入れておく(図2参照)。
【0049】
この試料注入器30は、試料溶液40が試料容器31に入れられた場合、該試料溶液40を、オイル36によって低層として偏在させるとともに、該オイル36の上面に与えられる大気圧によって均一に押圧する(図6参照)。
【0050】
したがって試料注入器30は、試料溶液40を入れた際にその試料溶液40やオイル36に気泡が生じた場合であっても、低層として偏在される試料溶液40に気泡を移行させることなく、該試料溶液40を反応基板1に注入することができる。
【0051】
試料溶液40の注入速度は、注入管32の開口径と、試料容器31に入れられるべき試料溶液40の容量(つまり反応基板1のウェル10及び流路20の空間容量)とに応じて、 オイル36の量を調整することにより実現可能である。したがって多孔構造体を構成する場合に比して、その調整が容易であり、構造上のばらつきといったものも回避することができる。
【0052】
またオイル36は、それ自体を新たに精製することなく、一般に市販等されるものを適用可能であるため、簡易な構成の試料注入器30を実現できる。
【0053】
以上の構成によれば、試料溶液40を、オイル36によって低層として偏在させるとともに、該オイル36の自重によって均一に押圧するようにしたことにより、泡の発生率を低減させて試料溶液を注入し得る簡易な構成の試料注入器30が実現可能となる。
【0054】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、増幅対象の標的核酸を選択的に結合する性質をもつ物質との反応場として複数の空間(ウェル10)が板状部材(反応基板1)の内部に形成された。しかしながら反応場の用途は、増幅対象の標的核酸を選択的に結合する性質をもつ物質との反応に限定されるものではない。
【0055】
例えば、検出対象の標的核酸を選択的に結合する性質をもつ物質との反応、あるいは、検出対象の抗体等のタンパク質を選択的に結合する性質をもつ物質との反応、または、検出対象の糖鎖を選択的に結合する性質をもつ物質との反応に用いることができる。
【0056】
また空間の形状は半球とされた。しかしながら形状はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、断面が楕円状、矩形状又は台形状等のように、種々の形状が適用可能である。ただし、効率よく試料液を流す観点では湾曲状を呈する(角がない)ウェル10が好ましい。
【0057】
また空間の配列は格子状とされた。しかしながら配列はこの実施の形態に限定されるものではなく、いかなる態様であってもよい。さらに隣接する空間は全体的に隔離されたが、上方部分等の一部において接触していてもよい。
【0058】
要するに、反応場として、複数の空間が板状部材の内部において形成されているものであればよい。
【0059】
また上述の実施の形態では、行方向の一端から他端にわたって、隣接する行間ごとにジグザグ状に通る幹線部(幹流路20A)と、該幹線部から各ウェル10にそれぞれ連結される支線部(支流路20B)とでなる連通空間(流路20)が板状部材(反応基板1)の内部に形成された。しかしながら連通態様はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0060】
例えば、板状部材(反応基板1)の表面の開口から各ウェル10に個別に連通される連通態様が適用されてもよい。また別例として、行方向に隣接するウェル間を連通し、列方向において隣接するウェルの一部又は全部を連通する連通態様が適用されてもよい。なお、板状部材(反応基板1)の表面に開口される流入口21から各ウェルに連通される連通空間(流路20)のうち、該流入口21近傍部分については、図9に示すように、効率よく試料液を流す観点では湾曲状を呈する(角がない)ものが好ましい。
【0061】
また通気孔22は表面に形成されたが側面としてもよく、また通気孔22の数は複数であってもよい。なお、通気孔22は必須の構成要素としてなくともよい。
【0062】
要するに反応基板は、反応の場とされる複数の空間と、これら複数の空間に内部で連通され、その一部が表面に開口される連通空間とを有するものであればよい。
【0063】
また上述の実施の形態では、板状部材(反応基板1)が、ウェル10が形成されたPETのフィルム1Aと、流路20が形成されたPETのフィルム1Bとを貼り合わせて構成された。しかしながら板状部材の構成態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、担体の表面に対してウェル10及び流路20を形成し、該表面に対してカバー部材を貼り付けた構成態様でなる板状部材(反応基板1)が適用されてもよい。また別例として、ウェル10及び流路20を形成すべき層をシリコン樹脂とし、当該シリコン樹脂の層をガラス層で挟みこむといった三層構造が適用されてもよい。この例示以外にも幅広く適用することが可能である。要は、上述したように、反応の場とされる複数の空間と、これら複数の空間に内部で連通され、その一部が表面に開口される連通空間とを有する板状部材であればよい。
【0064】
また上述の実施の形態では、板状部材(反応基板1)の材料としてPET(ポリエチレンテレフタレート)が適用された。しかしながら板状部材の材料はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル樹脂、シリコン樹脂又はガラス等のように、各種プラスチック材が適用可能である。
【0065】
また上述の実施の形態では、透明なプラスチック材料により円柱状に成形される試料容器31が適用された。しかしながら試料容器の透明性、材質及び形状はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の態様を取ることができる。
【0066】
また上部が開口される試料容器31が適用されたが密閉されていてもよい。この場合、試料溶液は注射器を用いて入れるようにすれば上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。ただし、使い勝手の観点では上述の実施の形態が好ましい。
【0067】
また上述の実施の形態では、流入口21又は通気孔22はシート状の透明な接着剤(接着テープ23)により封止されたが、注入管32又はビス33が貫通可能なもので流入口22又は通気孔22を塞ぐ部材であれば、種々の部材を適用することができる。
【0068】
また上述の実施の形態では、反応基板1における各ウェル10と、流路20(幹流路20A及び支流路20B)との容量程度であることが、目盛り部分が他の目盛り部分に比して強調することで示された。しかしながら表示態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、目盛りとは別に、線又は矢印を付す表示態様が適用されてもよい。要するに、オイル36の容量と、複数の空間(ウェル10)及び連通空間(流路20)の容量との合計量に相当する位置が示されればよい。
【0069】
また上述の実施の形態では、オイル36の量は、流入口21近傍において停滞する程度とされたが、流路20(幹流路20A及び支流路20Bの双方)の容量と同程度としてもよい。この場合、例えば図10に示すように、試料注入器30の新たな構成要素として、試料注入器30から取り外し可能でなり、該試料容器31に入れられるオイル36を流路20に押し込むための部材(以下、これを押込シリンダーとも呼ぶ)50を設けることができる。オイル36は、上述の第4工程SP4において(図7)、ビス33によって通気孔22が開放された後に、押込シリンダー50によって流入口22から流路20に押し込まれる。
【0070】
このオイル36は、試料溶液よりも軽い液体であるためウェル10に入り込むことなく、該流路20だけに充填されることとなる。したがって、この試料注入器30は、流路20に充填されるオイル36によって、各ウェル10における試料溶液の蒸発を大幅に低減できる。また流路20に充填されたオイル36が、ウェル10に入れられた試料溶液が該ウェル10から流出することを抑制して、当該ウェル10間における試料溶液の往来を断絶することができ、この結果、コンタミネーションを防止することができる。
【0071】
また上述に実施の形態では、反応基板1におけるウェル10及び流路20が低圧状態とされた。しかしながらウェル10及び流路20は真空状態であってもよく、また大気圧状態であってもよい。
【0072】
なお、ウェル10及び流路20が大気圧状態である場合、減圧装置によって現場で真空状態又は低気圧状態とすることも可能である。ここで、図11において減圧装置50を示す。この減圧装置50は、反応基板1を配すべきステージ51と、該反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気を吸引する吸引器52と、吸引器52を駆動させる吸引駆動部53とを含む構成とされる。
【0073】
ステージ51には、反応基板1の側面方向に対する動きを制限して反応基板1を配すべき定位置を規定する基板位置規定部51Aが設けられる。この基板位置規定部51Aは、例えば図11に示されるように、反応基板1の角部分の側面に当接されるL字状のフレームとされる。
【0074】
吸引器52は、円筒形の筒(以下、これをシリンジとも呼ぶ)52Aと、先端部分にパッキングが取り付けられる棒状のピストン52Bとを有する。
【0075】
シリンジ52Aの先端部分にはノズルNZが成形され、該シリンジ52Aの外周面には、減圧量を示す目盛りGTが付される。この目盛りGTのうち、減圧調整の目安とすべき目盛りは、他の目盛り部分に比べて強調して示される。具体的には、試料容器31に強調して付される目盛り37に相当する容量分の液体を気泡が生じない程度の速度で通気孔22に到達させるために要する減圧量に相当する目盛りが、減圧調整の目安として強調される。
【0076】
吸引駆動部53は、ステージ51の所定位置に配される反応基板1の通気孔22にノズルNZが圧着した状態で該通気孔22に直交する方向にシリンジ52Aを固定する機構を有する。
【0077】
具体的にこの図11の例では、ステージ51面に垂直となる支柱61が、基板位置規定部51Aから所定の距離を隔てて設けられる。支柱61には、シリンジ52AにおけるノズルNZの先端が差し込まれる孔(以下、これを差込孔とも呼ぶ)IHを、定位置に配される反応基板1の通気孔22に対して所定の隙間を隔てた位置で支持する部(以下、これを差込口支持部とも呼ぶ)62が設けられる。
【0078】
差込孔IHには、図12に示すように、Oリング又はガスケット等のように、差込孔IHの内周面及び角を覆う環部材70が取り付けられる。この環部材70は、可動式レバー63が所定の退避位置にある場合、定位置に配される反応基板1の上面に対して非接触とされる。一方、可動式レバー63が退避位置から所定の加圧位置で固定された場合、図12に示されるように、定位置に配される反応基板1の上側となる面1Aに対して通気孔22を囲う状態で押付けられ、環部材70に差し込まれるノズルNZと通気孔22との間における気体の漏れが防止される。
【0079】
また支柱61には、第1アームAM1及び第2アームAM2が取り付けられる棒状の軸AXを、ステージ51面に垂直となる状態で支持する部(以下、これをアーム支持部とも呼ぶ)64が設けられる。第1アームAM1は軸AXに固定され、把持すべきシリンジ径に応じて挟み入れ可能な部(以下、これを把持部とも呼ぶ)65が設けられる。第2アームAM2は軸AXに摺動自在とされ、その先端には把持部66が設けられる。ちなみに第2アームAM2は手動で摺動され、第1アームAM1から離れる方向に第2アームAM2が摺動されるほど吸引量が多くなる関係にある。
【0080】
ちなみにこの減圧装置50を用いて減圧するまでの手順を一例として挙げる。まず、差込孔IHの環部材70に対して上側からシリンジ52AにおけるノズルNZが差し込まれる。次に、シリンジ52Aが第1アームAM1の把持部65に挟み入れられ、ノズルNZ末端に位置されるピストン52Bが第2アームAM2の把持部66に挟み入れられる。次に、可動式レバー63が退避位置から所定の加圧位置に動かされその位置で固定される。これにより差込孔IHは、定位置に配される反応基板1の上面に押し付けられる。この状態において、第1アームAM1から離れる方向に第2アームAM2が摺動される。この結果、反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気が吸引され、反応基板1が減圧される。
【0081】
反応基板1に対する減圧が終了した場合、試料容器31に対してオイル36及び試料溶液40が入れられた試料注入器30の注入管32が、接着テープ23Aを貫通させて反応基板1の流入口21に挿入される。
【0082】
なお、減圧装置50に対して、定位置に配される反応基板1の流入口21に注入管32が挿入された試料注入器30を押し付けた状態で支持する部(以下、これを注入器押付支持部とも呼ぶ)を設けることもできる。
【0083】
便宜上、この注入器押付支持部は図11では省略するが、具体的には、例えば、第1アームAM1の下側の軸AXを摺動可能、かつ、任意の軸位置で固定可能な第3アームとされる。この第3アームは、その先端に把持部を有し、該把持部には、オイル36及び試料溶液40が入れられた試料注入器30が挟み入れられる。この状態において、試料注入器30の注入管32が、接着テープ23Aを貫通させて反応基板1の流入口21に挿入される。このとき第3アームが、第1アームAM1から離れる方向に摺動され、試料注入器30を加圧する位置で固定される。注入器押付支持部を設けるようにした場合、試料溶液40を反応基板1に注入する際に試料注入器30が倒れるといったことが確実に防止される。
【0084】
また、減圧装置50によって、反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気を吸引する場合、その吸引と同時に試料溶液40を反応基板1に注入させることも可能である。この場合、反応基板1から大気を吸引する前に、図13に示すように、ビス33が外された流入口21に対して、ピペット等を用いて試料溶液40を液滴LDとして配する。その後、第1アームAM1から離れる方向に第2アームAM2を摺動させることで、反応基板1におけるウェル10及び流路20に有する大気を吸引すると同時に試料溶液40を注入させることができる。
【0085】
このようにした場合、試料注入器30を用いることなく、反応基板1に対して減圧及び試料注入が実行できるため、上述の実施の形態に場合に比べて簡易である。ただし、反応基板1におけるウェル10及び流路20の体積が、流入口21に配すべき液滴LDの量よりも大きい場合、液滴LDの全てが反応基板1に流入する前に、気泡を生じさせずに液滴LDを付け足すという手技が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、遺伝子実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1……反応基板、1A,1B……フィルム、10……ウェル、20……流路、20A……幹流路、20B……支流路、21……流入口、22……通気孔、30……試料溶液注入器、31……試料容器、32……注入管、33……ビス、34……蓋、35……連結部材、36……オイル、37,GT……目盛り、40……試料溶液、50……減圧装置、51……ステージ、52……吸引器、53……吸引駆動部、61……支柱、62……差込口支持部、63……可動式レバー、64……アーム支持部、65,66……把持部、70……環部材、AM1……第1アーム、AM2……第2アーム、AX……軸、IH……差込孔、LD……液滴。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材と、試料溶液注入器とでなる試料溶液導入キットであって、
上記板状部材は、
反応場として内部に形成される複数の空間と、
上記複数の空間に内部で連通され、その一部が上記板状部材の表面に開口される連通空間と
を有し、
上記試料溶液注入器は、
上記試料溶液が入れられる容器と、
上記容器の底部に連通され、上記開口に挿入可能な管と、
上記管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、
上記容器に貯留され、上記試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体と
を有する試料溶液導入キット。
【請求項2】
上記開口は上記管が貫通可能な部材で塞がれ、上記複数の空間及び上記連通空間は大気圧よりも低圧な状態とされる
請求項1に記載の試料溶液導入キット。
【請求項3】
上記連通空間に連通される通気孔が上記板状部材の表面に開口され、該通気孔は、上記止め具が貫通可能な部材で塞がれる
請求項2に記載の試料溶液導入キット。
【請求項4】
上記容器の底部のうち上記管の連通部分以外の領域は、上記管が根元まで上記開口に挿入された場合、上記板状部材の表面を土台として上記容器を直立させる形状とされる
請求項3に記載の試料溶液導入キット。
【請求項5】
上記液体は、上記連通空間に充填され、上記容器に入れられた試料溶液が該容器から流出することを抑制するものとされる
請求項3に記載の試料溶液導入キット。
【請求項6】
上記容器の側面には、上記液体の容量と、上記複数の空間及び上記連通空間の容量との合計量に相当する位置が示される
請求項4又は請求項5に記載の試料溶液導入キット。
【請求項7】
反応場として複数の空間が内部に形成され、該複数の空間に内部で連通しその一部が表面に開口される連通空間が形成される板状部材に対して、試料溶液を注入する試料溶液注入器であって、
上記試料溶液が入れられる容器と、
上記容器の底部に連通される管と、
上記管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、
上記容器に貯留され、上記試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体と
を有する試料溶液注入器。
【請求項8】
上記管は、
上記複数の空間及び上記連通空間は大気圧よりも低圧な状態で上記開口を塞ぐ部材を貫通して挿入されるものである
請求項6に記載の試料溶液注入器。
【請求項9】
上記止め具は、
上記連通空間に連通される通気孔を塞ぐ部材を貫通して挿入されるものである
請求項7に記載の試料溶液注入器。
【請求項10】
上記容器の底部のうち上記管の連通部分以外の領域は、上記管が根元まで上記開口に挿入された場合、上記板状部材の表面を土台として上記容器を直立させる形状とされる
請求項8に記載の試料溶液注入器。
【請求項11】
上記液体は、上記連通空間に充填され、上記容器に入れられた試料溶液が該容器から流出することを抑制するものとされる
請求項8に記載の試料溶液注入器。
【請求項12】
上記容器の側面には、上記液体の容量と、上記複数の空間及び上記連通空間の容量との合計量に相当する位置が示される
請求項10又は請求項11に記載の試料溶液注入器。
【請求項1】
板状部材と、試料溶液注入器とでなる試料溶液導入キットであって、
上記板状部材は、
反応場として内部に形成される複数の空間と、
上記複数の空間に内部で連通され、その一部が上記板状部材の表面に開口される連通空間と
を有し、
上記試料溶液注入器は、
上記試料溶液が入れられる容器と、
上記容器の底部に連通され、上記開口に挿入可能な管と、
上記管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、
上記容器に貯留され、上記試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体と
を有する試料溶液導入キット。
【請求項2】
上記開口は上記管が貫通可能な部材で塞がれ、上記複数の空間及び上記連通空間は大気圧よりも低圧な状態とされる
請求項1に記載の試料溶液導入キット。
【請求項3】
上記連通空間に連通される通気孔が上記板状部材の表面に開口され、該通気孔は、上記止め具が貫通可能な部材で塞がれる
請求項2に記載の試料溶液導入キット。
【請求項4】
上記容器の底部のうち上記管の連通部分以外の領域は、上記管が根元まで上記開口に挿入された場合、上記板状部材の表面を土台として上記容器を直立させる形状とされる
請求項3に記載の試料溶液導入キット。
【請求項5】
上記液体は、上記連通空間に充填され、上記容器に入れられた試料溶液が該容器から流出することを抑制するものとされる
請求項3に記載の試料溶液導入キット。
【請求項6】
上記容器の側面には、上記液体の容量と、上記複数の空間及び上記連通空間の容量との合計量に相当する位置が示される
請求項4又は請求項5に記載の試料溶液導入キット。
【請求項7】
反応場として複数の空間が内部に形成され、該複数の空間に内部で連通しその一部が表面に開口される連通空間が形成される板状部材に対して、試料溶液を注入する試料溶液注入器であって、
上記試料溶液が入れられる容器と、
上記容器の底部に連通される管と、
上記管の先端の開口に取外可能に嵌められる止め具と、
上記容器に貯留され、上記試料溶液に対して不溶であり、該試料溶液に対して軽い液体と
を有する試料溶液注入器。
【請求項8】
上記管は、
上記複数の空間及び上記連通空間は大気圧よりも低圧な状態で上記開口を塞ぐ部材を貫通して挿入されるものである
請求項6に記載の試料溶液注入器。
【請求項9】
上記止め具は、
上記連通空間に連通される通気孔を塞ぐ部材を貫通して挿入されるものである
請求項7に記載の試料溶液注入器。
【請求項10】
上記容器の底部のうち上記管の連通部分以外の領域は、上記管が根元まで上記開口に挿入された場合、上記板状部材の表面を土台として上記容器を直立させる形状とされる
請求項8に記載の試料溶液注入器。
【請求項11】
上記液体は、上記連通空間に充填され、上記容器に入れられた試料溶液が該容器から流出することを抑制するものとされる
請求項8に記載の試料溶液注入器。
【請求項12】
上記容器の側面には、上記液体の容量と、上記複数の空間及び上記連通空間の容量との合計量に相当する位置が示される
請求項10又は請求項11に記載の試料溶液注入器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−271304(P2010−271304A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92483(P2010−92483)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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