説明

試験片の製作方法

【課題】試験片を構成する各部材を、簡単かつ確実に軸心方向(引張方向)に一直線に揃えて一体化できる試験片の製作方法を提供する。
【解決手段】試験片本体2の一方のつかみ部2bを補助棒3の縦溝に挿し込んだ後、このつかみ部と補助棒に設けた結合ピン穴に30kg以上の引張強度を有する接着剤を注入し、この接着剤が硬化する前に前記結合ピン穴に結合ピン5を挿入して、一方のつかみ部2bと補助棒3とを結合する。そして、補助棒3の下端に質量5〜15kgの重錘6を装着し、他方のつかみ部2aの中央に設けた結合ピン穴に支持棒7を挿し込み、この支持棒7の両端を水平支承台8に支持させて重錘6を装着した試験片1を自由状態で吊り下げ、前記接着剤が硬化するまでの間養生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の特性試験において応力と歪みの関係を計測する際に用いる試験片、特に後述するワンバー法による高速引張試験に好適に用いられる試験片の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速で変形するときの材料の強度や変形挙動は、静荷重下でのそれらと著しく異なる場合が少なくない。このため、自動車、飛行機、船舶等の輸送用機械の衝突安全性や衝撃安全性を評価する上で、各種材料の高歪み速度域での材料特性が求められている。特に、自動車業界において高歪み速度域での材料特性は、自動車衝突時の安全性への要求を満足しつつ車体軽量化を図るために重要な要素となっている。
【0003】
材料の機械的性質の標準的な評価方法としてJIS−Z2241に試験法が、同じくZ2201に試験片形状が規定されているが、高歪み速度域での材料特性の計測は、通常の引張試験機では不可能である。
【0004】
従来、高歪み速度域での材料試験法としては、ワンバー法、ホプキンソン棒法、検力ブロック法(検力台法とも呼ばれる。)、油圧サーボ法などが知られているが、未だ標準化された試験法は規定されていない状況にある。このため、高歪み速度域での材料特性が要求される自動車業界等においては、それぞれ独自の試験機や試験片形状によって試験を行っているのが現状である。
【0005】
先に挙げた高歪み速度域での材料試験法のうち、ワンバー法では、非特許文献1に開示されている方法を例に挙げて説明すると、図4に示すように薄板状の試験片Aを出力棒Bと衝撃ブロックCとの間に装着し、衝撃ブロックCを図4において右側に動的に変位させ、そのときの変位速度を測定する。試験片Sは衝撃ブロックCの変位により弾塑性変形し、このときの荷重に応じた弾性応力波が出力棒Bを図4において左側へ伝播していく。この応力波を出力棒Bに貼付した歪みゲージDで歪み速度として計測することで、時々刻々変化する試験片の応力、歪み及び歪み速度を求めることができる。
【0006】
このようにワンバー法では、試験片Aを出力棒Bと衝撃ブロックCとの間に装着するが、その装着の効率性を向上させるために、上記非特許文献1には、薄板状の試験片本体にアタッチメント(補助棒)を固定し、この補助棒を介して試験片本体を出力棒に装着できるようにした試験片が開示されている。この試験片において、試験片本体と補助棒は、試験片本体の一方のつかみ部を補助棒の縦溝に挿し込んだ後、このつかみ部と補助棒に設けた結合ピン穴に結合ピンを挿入して位置決めした上で接着剤にて固定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】板橋正章、「ワンバー法による薄板の高速引張り試験方法−鉄鋼とアルミニウム合金の場合−」、実験力学、JSEM日本実験力学会、2002年6月、第2巻、第2号、p.27−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ワンバー法において上記非特許文献1に開示されている複数の部材を組み合わせた試験片を用いる場合、各部材を軸心方向(引張方向)に一直線に揃えて一体化する必要がある。各部材が一直線に揃っていないと、正しい試験結果が得られない。
【0009】
しかしながら、試験片を構成する各部材を一直線に揃えて一体化することは簡単ではなく、従来は、その誤差により正しい試験結果が得られないことが多かった。
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、試験片を構成する各部材を、簡単かつ確実に軸心方向(引張方向)に一直線に揃えて一体化できる試験片の製作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は標点距離部域を確保できるつかみ部を両端に有し、一方のつかみ部に補助棒を固定してなる試験片の製作方法において、前記一方のつかみ部を補助棒の縦溝に挿し込んだ後、このつかみ部と補助棒に設けた結合ピン穴に30kg以上の引張強度を有する接着剤を注入し、この接着剤が硬化する前に前記結合ピン穴に結合ピンを挿入して、一方のつかみ部と補助棒とを結合し、補助棒の下端に質量5〜15kgの重錘を装着し、前記他方のつかみ部の中央に設けた結合ピン穴に支持棒を挿し込み、この支持棒の両端を水平支承台に支持させて重錘を装着した試験片を自由状態で吊り下げ、前記接着剤が硬化するまでの間養生することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製作方法では、つかみ部を有する試験片本体と補助棒との結合ピンによる結合部分に接着剤を注入後、重錘の重量により鉛直方向へ引っ張った状態のまま自由状態で吊り下げて固定、固着させるから、試験片本体と補助棒とを結合ピンを介して軸心方向(引張方向)に一直線に揃えて結合することができ、かつその結合部分の隙間を接着剤が埋めることで、試験片本体と補助棒とを確実に一体化できる。また、接着剤注入後は吊り下げて固着までの間養生するだけであるため、効率良く試験片を製作することができる。
【0013】
このように本発明によれば、全体が軸心方向(引張方向)に一直線に揃って一体化した試験片を確実に製作することができるので、試験データの精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】試験片の組立状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面断面図である。
【図2】本発明による試験片の製作状況を示す側面一部断面図である。
【図3】本発明の試験片の製作方法に使用する重錘を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】ワンバー法の原理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図3に基づいて説明する。
【0016】
図において、1はワンバー法による高速引張試験に用いる試験片である。この試験片1は、薄板状の試験片本体2に補助棒3を結合し一体化してなる。
【0017】
試験片本体2は、つかみ部2a,2bを両端部に有し、つかみ部2aと2bとの間に標点距離部域2cが確保されている。つかみ部2aは結合ピン穴2dを中央に穿孔した四辺形体である。このつかみ部2aは、ワンバー法による高速引張試験において衝撃ブロックC(図4参照)への取り付け面となるため、同一形状のタブ4をその正面に固定している。
【0018】
つかみ部2bも結合ピン穴2eを穿孔した四辺形体である。このつかみ部2bの結合ピン穴2eの中心は、上記つかみ部2aの結合ピン穴2dの中心と軸心方向(上下方向)に一直線に揃う位置にある。
【0019】
補助棒3には、その一方の端面部から、つかみ部2bの幅及び厚みと等しく、かつつかみ部2bの長さより若干短い深さの縦溝3aを設けると共に、他方の端面部から縦溝3aの底部まで旋削加工して雌ネジ部3bを設けている。また、つかみ部2bを縦溝3aに挿し込んだときに、つかみ部2bの結合ピン穴2eと整合する位置に結合ピン穴3cを設けている。そして、この結合ピン穴3cとつかみ部2bの結合ピン穴2eに外側から結合ピン5を挿し込むことで、試験片本体2のつかみ部2bと補助棒3とを結合している。このとき、試験片本体2の標点距離部域2cは露出している。
【0020】
なお、図1に示す試験片1において試験片本体1は全長が約50mm、板厚が約1mmで、補助棒3は全長が約40mm、直径が約10mmである。
【0021】
次に、図1の試験片1の製作方法を図1〜3を参照して説明する。
【0022】
まず、試験片本体2の一方のつかみ部2bを補助棒3の縦溝3aに挿し込み、このつかみ部2bと補助棒3に設けた結合ピン5の挿し込み用の結合ピン穴2e,3cに30kg以上の引張強度を有する2液性常温型接着剤(商品名;2液型アクリル系接着剤、製造元名;電気化学工業(株) 品種;M−372−20A、M−372−20B 使用方法;1:1の割合で混合して使用)を注入後、その硬化前に上記の結合ピン穴2e,3cに結合ピン5を挿入して両者を結合する。
【0023】
そして、図2に示すように補助棒3の下端に質量5〜15kgの重錘6を装着する。重錘6の上端部には補助棒3の雌ネジ部3bに螺入可能な雄ネジ部6aを設けており(図3参照)、この重錘6の雄ネジ部6aを補助棒3の雌ネジ部3bに螺入することで、補助棒3の下端に重錘6を装着する。
【0024】
次に、試験片本体2の他方のつかみ部2aに設けた結合ピン穴2dに支持棒7を挿し込み、この支持棒7の両端部を水平支承台8に支持させ、固定具9で固定する。このようにして重錘6を装着した試験片1を自由状態で吊り下げ、上記接着剤が硬化するまでの間養生する。養生後、重錘を取り外せば試験片1が完成する。上記接着剤を注入後、重錘6を取り外すまでの時間は、0.5〜1.0時間程度である。
【0025】
このように、本発明の試験片の製作方法では、試験片本体2と補助棒3との結合ピン5による結合部分に接着剤を注入後、重錘6の重量により鉛直方向へ引っ張った状態のまま自由状態で吊り下げて固定、固着させるから、試験片本体2と補助棒3とを結合ピン5を介して軸心方向(引張方向)に一直線に揃えて結合することができ、かつその結合部分の隙間を接着剤が埋めることで、試験片本体2と補助棒3とを確実に一体化できる。
【0026】
このようにして製作された試験片1は、ワンバー法による高速引張試験に供する。すなわち、試験片本体2のつかみ部2aの結合ピン穴2dに結合ピンを通すことで、試験片本体2のつかみ部2aを図4に示した衝撃ブロックCに装着すると共に、補助棒3の雌ネジ部3bに出力棒Bの一端を螺入する。これにより、試験片1が出力棒Bと衝撃ブロックCとの間に装着される。
【0027】
ここで、本発明で使用する接着剤の引張強度は30kg以上が必要である。接着剤の引張強度が30kg未満では、試験片の接着部分の断面積を大きくする必要があり、その場合、接着面積を拡大するため、補助棒3の径を大きくする必要がある。また、引張強度30kg未満の接着剤を使用した場合は試験片本体2と補助棒3と結合ピン5の固着が不完全となる場合があり、安定した試験値を得ることができないため、30kg以上の引張強度を有する接着剤を使用する。
【0028】
また、本発明で使用する重錘の質量は5〜15kgとする必要がある。これは、以下の試験結果による。
【0029】
すなわち、図2に示した試験片の製作方法において、重錘6の質量を表1に示すように変化させ、試験片の製作状況を確認し、試験片の合否を判定した。表1に示すように重錘6の質量が5〜15kgであるときに良好な試験片が得られた。
【0030】
なお、この重錘の質量及び上述の接着剤の引張強度の必要値は、試験片の大小や形状には大きく影響を受けないので、本発明で特定した数値範囲とすればよい。
【0031】
【表1】

【符号の説明】
【0032】
1 試験片
2 試験片本体
2a,2bつかみ部
2c 標点距離部域
2d,2e 結合ピン穴
3 補助棒
3a 縦溝
3b 雌ネジ部
3c 結合ピン穴
4 タブ
5 結合ピン
6 重錘
6a 雄ネジ部
7 支持棒
8 水平支承台
9 固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標点距離部域を確保できるつかみ部を両端に有し、一方のつかみ部に補助棒を固定してなる試験片の製作方法において、
前記一方のつかみ部を補助棒の縦溝に挿し込んだ後、このつかみ部と補助棒に設けた結合ピン穴に30kg以上の引張強度を有する接着剤を注入し、この接着剤が硬化する前に前記結合ピン穴に結合ピンを挿入して、一方のつかみ部と補助棒とを結合し、
補助棒の下端に質量5〜15kgの重錘を装着し、
前記他方のつかみ部の中央に設けた結合ピン穴に支持棒を挿し込み、この支持棒の両端を水平支承台に支持させて重錘を装着した試験片を自由状態で吊り下げ、前記接着剤が硬化するまでの間養生することを特徴とする試験片の製作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−226888(P2011−226888A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96117(P2010−96117)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】