説明

認証素子および被認証物

【課題】認証するためのパターンの偽造をより抑制すること。
【解決手段】本発明は、基板10と、前記基板10上に設けられ、認証するためのパターンとして用いられる複数の自然形成量子ドット12と、を具備する認証素子である。また、上記認証素子を備えた被認証物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認証素子および被認証物に関し、特に自然形成量子ドットを有する認証素子および被認証物に関する。
【背景技術】
【0002】
認証される被認証物に認証素子を貼り付け、被認証物の真偽を認証する認証方法が知られている。認証方法として、ナノ粒子の配置パターンを画像認識し、基準画像と一致するか否かにより、被認証物の真偽を認証する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−508226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、ナノ粒子を再配置することにより、認証するためのパターンを偽造することが可能である。本認証素子および被認証物は、認証するためのパターンの偽造をより抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、認証するためのパターンとして用いられる複数の自然形成量子ドットと、を具備することを特徴とする認証素子である。本発明によれば量子ドットが自然形成されているため、量子ドットを基板から剥がし再配置することが難しい。よって、認証パターンの偽造を抑制することができる。
【0006】
上記構成において、前記複数の自然形成量子ドットがランダムに配置されている構成とすることができる。
【0007】
上記構成において、前記認証素子の表面には、前記複数の自然形成量子ドットに対応する凹凸が形成されている構成とすることができる。この構成によれば、量子ドットの位置を簡単に検出することができる。
【0008】
上記構成において、前記複数の自然形成量子ドットのバンドギャップは前記基板のバンドギャップより小さい構成とすることができる。この構成によれば、量子ドットの位置を簡単に検出することができる。
【0009】
上記構成において、前記基板および量子ドットは、半導体である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記量子ドットを覆う保護膜を具備する構成とすることができる。この構成によれば、量子ドットが破損することを抑制できる。
【0011】
上記構成において、前記基板は凹部を有し、前記複数の自然形成量子ドットは、前記凹部の底面に形成されている構成とすることができる。これにより、認証素子の表面から物体が接触しても、量子ドットに物体が接触することを抑制できる。
【0012】
本発明は、上記認証素子を備えたことを特徴とする被認証物である。
【0013】
上記構成において、凹部を有する基体と、前記凹部の底面上に前記認証素子が設けられ、前記凹部の深さは、前記認証素子の厚さより大きい構成とすることができる。この構成によれば、量子ドットの破損を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本認証素子および被認証物によれば、認証するためのパターンの偽造をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は、実施例1に係る認証素子の断面図であり、図1(b)は、実施例1に係る被認証物の断面図である。
【図2】図2は、認証パターンを検出する検出装置を示す図である。
【図3】図3は、認証パターンを検出する別の検出装置を示す図である。
【図4】図4は、認証パターンを検出するさらに別の検出装置を示す図である。
【図5】図5(a)から図5(c)は、認証パターンの検出方法を示す図である。
【図6】図6は、認証部の動作を示すフローチャトである。
【図7】図7(a)から図7(c)は、実施例1に係る認証素子の別の例である。
【図8】図8は、実施例2に係る認証素子の断面図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、実施例2に係る被認証物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例1】
【0017】
図1(a)は、実施例1に係る認証素子の断面図である。図1(a)のように、基板10上に自然形成(または自己形成ともいう)された量子ドット12が形成されている。基板10は、例えばGaAs基板であり、量子ドット12は、例えばInAsである。GaAs上に量子ドット12は、基板10上に、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法またはMBE(molecular Beam Epitaxy)法を用い形成される。
【0018】
自然形成量子ドット12の形成は、例えば基板10等の下地層上に格子定数の異なる層を形成する際の初期に出現するSK(Stranski-Krastanov)モード成長を利用する。SKモード結晶成長においては、基板上に格子定数の異なる層を形成する際に、ヘテロ界面に生じる歪みエネルギを利用し簡単に量子ドット12が自然形成される。このように、自然形成された量子ドット12の配置パターンは、ランダムとなる。量子ドット12が自然形成されているため、量子ドット12を基板10から剥がし再配置することが難しい。よって、認証パターンの偽造を抑制することができる。この量子ドット12のランダムな配置パターンを認証するためのパターン(認証パターン)として用いる。SKモード成長と同様にドットを形成する成長モードとしてVolmer-Weberモードがあるが、これを用いることも可能である。
【0019】
量子ドット12の大きさ(図1(a)において幅)は、例えば1nm〜100nmであり、例えば10nm〜20nmである。量子ドット12の高さは、例えば5〜6nmである。基板10がGaAs基板であり、量子ドット12がInAsの場合、基板10の表面には量子ドット12の高さより薄いInAs層が形成される場合もある。
【0020】
図1(b)は、実施例1に係る被認証物の断面図である。図1(b)のように、基体20上に図1(a)で示した認証素子100が設けられている。被認証物は、認証する対象物であり、例えば紙幣、有価証券またはクレジットカード等のカードである。基体20は、例えば、紙幣または有価証券の紙、カードのプラスチック等である。
【0021】
図2は、認証パターンを検出する検出装置を示す図である。図2は、AFM(Atomic Force Microscopy)法を用い認証パターンを検出する検出装置110を示している。検出装置110は、プローブを備えたカンチレバー40、LD(レーザダイオード)42、位置検出素子44および認証部48を備えている。プローブの先端が、認証素子100の表面と一定の距離を保ちつつ認証素子100の表面を走査される。カンチレバー40にLD42から出射されたレーザ光46が照射される、カンチレバー40で反射されたレーザ光46を位置検出素子44が検出する。これにより、認証素子100内の量子ドット12の配置パターンを認証パターンとして検出する。認証部48は、検出された認証パターンより認証素子100を認証する。AFM法を用い認証パターンを検出するためには、認証素子100の表面に、複数の自然形成量子ドット12に対応する凹凸が形成されていることが好ましい。これにより、量子ドット12の位置を簡単に検出することができる。
【0022】
図3は、認証パターンを検出する別の検出装置を示す図である。図3は、NSOM(Near-Field Scanning Optical Microscopy)法を用い認証パターンを検出する検出装置112を示している。検出装置112は、ファイバ50、レンズ52、検出素子54および認証部48を備えている。ファイバ50の先端は尖っており、ファイバ50を伝搬した光は、ファイバ50の先端からエバネッセント波の光56として出射される。認証素子100に照射された光56によるフォトルミネッセンス光57をレンズ52で集光し、検出素子54で検出する。検出素子54は、例えば、量子ドット12からのフォトルミネッセンス光57を検出する。光56を走査することにより、認証素子100の認証パターンを認証パターンとして検出することができる。認証部48は、検出された認証パターンより認証素子100を認証する。NSOM法を用い認証パターンを検出するためには、複数の自然形成量子ドット12のバンドギャップは基板10のバンドギャップより小さいことが好ましい。これにより、量子ドット12の位置を簡単に検出することができる。
【0023】
図4は、認証パターンを検出するさらに別の検出装置を示す図である。図4は、スーパレンズを用い認証パターンを検出する検出装置114を示している。検出装置114は、光源60、ハーフミラー61、スーパレンズ62、イメージセンサ64および認証部48を備えている。光源60を出射した光66はハーフミラー61で反射される。反射された光66はスーパレンズ62を介し、認証素子100の表面に照射される。認証素子100の表面で散乱された光はスーパレンズ62を介し、ハーフミラー61を透過しイメージセンサ64に至る。イメージセンサ64は、パターン認識により、量子ドット12の配置パターンを検出する。検出装置で検出できる認証素子100の表面の領域が小さい場合、光66を走査することにより、認証素子100の表面全体の認証パターンを検出することができる。認証部48は、検出された認証パターンより認証素子100を認証する。
【0024】
図5(a)から図5(c)は、認証パターンの検出方法を示す図である。図5(a)は、認証素子の上面模式図である。図5(a)のように、チップサイズがX×Yの基板10上に量子ドット12が形成されている。図5(b)は、図3から図5の検出装置が検出する量子ドット12の画像データを示す模式図である。画像データの分解能はΔx、Δyである。検出装置は、検出した画像を2値化処理する。図5(b)において、量子ドット12を検出した領域に網掛80を行なっている。
【0025】
図5(c)は検出装置が認識した量子ドットの領域を示す模式図である。例えば、検出装置は、2値化した領域のうち網掛80を行った領域内の左上の領域を量子ドット12の座標84と認識する。これにより、検出装置は、量子ドット12の座標84を認識できる。
【0026】
例えば、量子ドットの面密度Dを1010cm−2とし、認証素子チップサイズXおよびYを100μmとする。このとき、認証素子チップ上の量子ドット12の数は、D×X×Y=10である。分解能Δx=Δy=20nmとする。このとき、チップ上の座標の数G=X・Y/Δx・Δy=2.5×10である。以上より、認証素子の認証パターンの種類P=Gn/N!となる。P=Gn/N!>G/N=251000000となり、認証パターンの数はほぼ無限大となる。
【0027】
なお、自然形成された量子ドット12の大きさは1〜100nmであり、10nm〜20nmであることが多い。分解能Δx、Δyは、量子ドット12の大きさ程度、または量子ドット12の最大値程度とすることが好ましい。よって、分解能Δx、Δyを20nmとすることが好ましい。
【0028】
図6は、認証部の動作を示すフローチャトである。認証部48は、基準パターンを取得する(ステップS10)。基準パターンは、予め検出した認証素子100の量子ドット12の配置パターンであり、例えば、複数の量子ドット12に対応する座標データである。認証部48は、例えば検査装置が有する記憶装置から基準パターンを取得する。または、認証部48は、例えばネットワークを介しサーバから基準パターンを取得してもよい。
【0029】
次に、認証部48は、図2の検出装置110においては位置検出素子44から、図3の検出装置112においては検出素子54から、図4の検出装置114においてはイメージセンサ64から認証パターンを取得する(ステップS12)。認証パターンは、複数の量子ドット12に対応する座標データである。
【0030】
次に、認証部48は、基準パターンと認証パターンとが一致するかを判断する(ステップS14)。例えば、認証部48は、基準パターンの座標データと認証パターンの座標データとが全て一致した場合、Yes、1つでも一致しない場合Noとする。
【0031】
Yesの場合、認証部48は、認証素子100を正規の認証素子と認証する(ステップS16)。Noの場合、認証部48は、認証素子100を正規のものと認証しない(ステップS18)。その後、終了する。
【0032】
例えば、認証素子100の表面が破損している場合、認証部48は、認証パターンの一部が基準となるパターンと一致しているかで認証素子100を認証することもできる。さらに、被認証物に複数の認証素子を設け、認証部48は認証素子のうち破損していない認証素子を用い被認証物の認証を行うこともできる。
【0033】
実施例1によれば、複数の自然形成量子ドット12が、認証するためのパターンとして用いられる。自然形成量子ドット12の配置パターンはランダムなため、同じパターンが発生する可能性をほとんど0にすることができる。また、自然形成された量子ドット12の量子ドットの再配置は難しい。よって、認証するためのパターンの偽造をより抑制することができる。
【0034】
図7(a)から図7(c)は、実施例1に係る認証素子の別の例である。図7(a)のように、基板10上にバッファ層14を形成し、バッファ層14上に量子ドット12を形成してもよい。基板10表面には欠陥等が多い、よって、基板10上にバッファ層14を形成することにより、量子ドット12が形成しやすくなる。基板10がGaAsの場合、バッファ層14としては、例えばGaAs、AlGaAs等を用いることができる。バッファ層14の膜厚は例えば100nmとすることができる。
【0035】
図7(b)および図7(c)のように、量子ドット12上に保護膜16を形成することができる。保護膜16としては、例えばGaAs層を用いることができる。保護膜16が量子ドット12を覆うことにより、量子ドット12が破損等することを抑制できる。保護膜16としては、GaAs層以外にもAlGaAsなどのエピタキシャル半導体層、SiO、SiN、Siなどの多結晶・非晶質、または有機化合物のポリマーなどを用いることができる。
【0036】
図2および図4の方法で量子ドット12を検出する場合、図7(c)のように、保護膜16の表面(認証素子の表面)には、複数の自然形成量子ドットに対応する凹凸が形成されていることが好ましい。図3の方法で量子ドット12を検出する場合、図7(b)のように、保護膜16の表面は平坦でもよいが、複数の自然形成量子ドット12のバンドギャップは基板10、バッファ層14および保護膜16のバンドギャップより小さいことが好ましい。基板10、バッファ層14および保護膜16のバンドギャップが保護膜16のバンドギャップより小さいと、量子ドット12からのフォトルミネッセンス光が基板10、バッファ層14または保護膜16において吸収されてしまうためである。
【実施例2】
【0037】
実施例2は量子ドットが基板の凹部底面に形成された例である。図8は、実施例2に係る認証素子の断面図である。図8のように、基板10の表面に、凹部18が形成されている。複数の自然形成量子ドット12は、凹部18の底面に形成されている。これにより、認証素子の表面から指等の物体が接触しても、量子ドット12に物体が接触することを抑制できる。よって、量子ドット12の破損を抑制することができる。なお、凹部18の深さは、量子ドット12の高さより十分大きいことが好ましい。
【実施例3】
【0038】
実施例3は、認証素子が凹部の底面に設けられた例である。図9(a)および図9(b)は、実施例2に係る被認証物の断面図である。図9(a)のように、基体20に複数の凸部22が形成されている。複数の凸部22の間に凹部24が形成されている。認証素子100は、凹部24の底面に設けられている。凹部の深さH2は、認証素子100の厚さH1より大きい。これにより、量子ドット12の破損を抑制することができる。
【0039】
図9(b)のように、基体20上に別の基体30が設けられ、別の基体が凹部34を有し、凹部34の底面に認証素子100が設けられてもよい。この場合も凹部34の深さH2が認証素子100の厚さH1より大きいことにより、量子ドット12の破損を抑制することができる。
【0040】
実施例1から実施例3において、自然形成量子ドット12を形成するため、量子ドット12/基板10として、例えばInAs/GaAs、InSb/GaAs、InN/GaAs、InP/GaAs、InGaAs/GaAs、InAlAs/GaAs、InN/GaN、InGaN/InN、InAs/InP、InSb/InP、InAsN/InP、InAs/GaP、InSb/GaP、InAsN/GaP、InAsSb/GaP、InAsSbN/GaPなどのIII-V族化合物半導体を用いることができる。
【0041】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 基板
12 量子ドット
14 バッファ層
16 保護膜
18 凹部
20 基体
22 凸部
24 凹部
30 別の基体
34 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、認証するためのパターンとして用いられる複数の自然形成量子ドットと、
を具備することを特徴とする認証素子。
【請求項2】
前記複数の自然形成量子ドットがランダムに配置されていることを特徴とする請求項1記載の認証素子。
【請求項3】
前記認証素子の表面には、前記複数の自然形成量子ドットに対応する凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の認証素子。
【請求項4】
前記複数の自然形成量子ドットのバンドギャップは前記基板のバンドギャップより小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の認証素子。
【請求項5】
前記基板および量子ドットは、半導体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の認証素子。
【請求項6】
前記量子ドットを覆う保護膜を具備することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の認証素子。
【請求項7】
前記基板は凹部を有し、前記複数の自然形成量子ドットは、前記凹部の底面に形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の認証素子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項記載の認証素子を備えたことを特徴とする被認証物。
【請求項9】
凹部を有する基体と、
前記凹部の底面上に前記認証素子が設けられ、前記凹部の深さは、前記認証素子の厚さより大きいことを特徴とする請求項8記載の被認証物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−204020(P2011−204020A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70791(P2010−70791)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506423051)株式会社QDレーザ (26)
【Fターム(参考)】