説明

誘引紐吊り具

【課題】誘引紐を誘引線に取り付ける際に、長時間両手を挙げて作業をする必要がなく、簡単に片手で取り付けることができ、また確実に誘引紐が外れないように取り付けることができ、さらに、収穫後に、誘引紐が硬化していても誘引紐を簡単に撤収することができ、錆が生じることのない誘引紐吊り具を提供する。
【解決手段】弾性を有する耐候性のある合成樹脂で一体形成され、縦軸部2の上部がフック状の誘引線吊り下げ部3であり、縦軸部2の下部が誘引紐取付部5である誘引紐吊り具。誘引紐取付部5は、横巻付部を構成するV字状の第1横紐掛け部6および第2横紐掛け部7と、縦巻付部を構成するV字状の第1縦紐掛け部8および第2縦紐掛け部9とを有している。また、縦軸部2下部には、巻き付けられる誘引紐20の下部をほぼ横方向から通す紐跳ね上がり防止穴10とリブ状の誘引紐止め部11が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト、キュウリ、ナス、メロン、花類、果樹等、植物の茎、苗、蔓、幹等(以下、単に「茎」と総称することがある。)が成長する際に、茎等が自重で地面に垂れ下がり、害虫や病気等の被害を受けないように、誘引用紐で吊り上げるための紐を取り付ける誘引紐吊り具に関する。
【背景技術】
【0002】
トマト、キュウリ、メロン、ナス、花類、果樹等の植物の茎や苗、蔓、幹は、成長するにつれ、上に伸びていこうとするが、支えがないと、その自重で垂れ下がり、地面に付いてそこから虫が付いて食べられたり、病気が発生したりする。そのため、図22に示すように、畝30の上部に針金線やプラスチック硬線(誘引線31)を張り、植物を誘引するための誘引紐32を誘引線31に結び付け、吊り下げられた誘引紐32を植物の茎33に巻き付けて結んだり(図22(a),(b))、茎誘引用クリップ34で茎33と誘引紐32を挟んだりして、茎33が倒れないように吊り上げている(図22(c))。
【0003】
しかし、誘引線31は畝30から2mほど上に張られているため、誘引紐32を誘引線31に結び付ける時は、両手を挙げて頭や顔を上方向に向けたままの作業になり、繰り返し長時間の作業は重労働である。手を挙げても誘引線31に手が届かないときは踏み台に上がり、両手を使い、誘引紐32を結んでいる生産者も多く、危険を伴う作業となっている。
【0004】
生産者は通常、数千本から数万本の植物の茎を誘引するための誘引紐32を誘引線31に結び、吊り下げて誘引準備をしなければならない。数が多い場合は、パートタイマーやアルバイトを使って誘引紐32を結ばせている生産者もあるが、誘引紐32を結び慣れていないと、誤った結び方をしてしまい、茎33に結び付けて重量が掛かったときに、誘引紐32の結び目32aが誘引線31からほどけて外れ、茎33が倒れ、また折れたりすることがある。
【0005】
誘引線への誘引紐の取り付けは、両手を挙げた状態で長時間の作業となるが、これを軽減するために、図23に示すように、S字フック35に誘引紐を結んで、誘引線31に誘引紐を結んだS字フック35を引っ掛けて図24に示すように使用している生産者もいるが、S字フック35の入れ口35aが幅広く開いているために、誘引作業中に誘引線が上下、左右に揺れて、誘引紐を結んでいるS字フック35が落下することがある。また、S字フック35を使用しても、誘引紐をS字フック35に結ぶ必要があり(図24の32a)、誤った結び方をすると、茎に誘引紐32を結び付けて重量が掛かったときに、誘引紐32の結び目32aがS字フック35からほどけて外れ、茎が倒れたり折れたりすることがある。
【0006】
このような問題を解消するために、本願出願人は先に、特許文献1に記載された誘引紐吊り具を提案した。この誘引紐吊り具を、図25〜図28に示す。図25はその従来の誘引紐吊り具を示すもので、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は背面図、(d)は左側面図である。図26はその誘引紐吊り具に誘引紐を取り付ける方法の第1ステップを示すもので、(a)は側面図、(b)は背面図である。図27は誘引紐吊り具に誘引紐を取り付ける方法の第2ステップを示す斜視図である。図28は、誘引紐を取り付けた従来の誘引紐吊り具を、誘引線に取り付けた状態を示す斜視図である。
【0007】
これらの図に示されているように、誘引紐吊り具41は、一本の針金を曲げて形成されており、縦軸部42の上部が誘引線吊り下げ部43であり、下部が誘引紐取付部44である。誘引紐取付部44は、ほぼ円形のループ45が少なくとも1回半(本例では1回と3/4)、密着して形成されている。
【0008】
誘引線吊り下げ部43は、縦軸部42の上部に、鋭角に折曲した角部を有するフック部46と、このフック部46の下方に伸びてさらに上方に折曲したヘアピン部47と、このヘアピン部47の先端を折曲させてフック部46の角部の下部に位置させた直線状の戻り止め部48とが連続して形成されている。
【0009】
この誘引紐吊り具41では、誘引紐32を誘引紐取付部44に、誘引紐32をループ45に引っ掛けて挟み込み、その上からさらに図27に示すように誘引紐32を巻き込んで誘引紐取付部44のループ45の下まで引き下げ、瘤を作り、巻きバネループ45の挟む力で誘引紐32を抑えるようになっている。
【0010】
【特許文献1】実用新案登録第3116875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、前述の特許文献1に記載された誘引紐吊り具では、誘引紐取付部44に太い誘引紐32や誘引紐32の巻き付け回数を多くして取り付けると、図28に示すようにループ45に巻きバネの押さえる力が強くかかる。そのため、長期間にわたって茎を誘引紐32で誘引し、茎の重量が掛かった後に、誘引紐取付部44のループ45に取り付けてある誘引紐32を指でずらして外すときに、硬く締まり込んでおり、多数の誘引紐を外すと指が痛くなり、作業性が悪い。誘引紐の材質によっては、長時間が経過すると紐が硬化し、締まり込んでループ45からずらして外すことができなくなることがある。
【0012】
また、この誘引紐吊り具41の材質が、直径2mm前後の金属鋼線を加工し、メッキをしたものである場合、長期間誘引に使用すると、誘引紐取付部44に錆が発生して表面が粗くなる。また、ループ45に挟んで留まっている誘引紐32にも錆が付着し、茎の重量が掛かり続けて紐が硬化した後、誘引紐取付部44のループ45から誘引紐32を指でずらして外すことができないことがある。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、誘引紐を誘引線に取り付ける際に、長時間両手を挙げて作業をする必要がなく、簡単に片手で取り付けることができ、また誘引紐を結ぶ作業に慣れていないパートタイマーやアルバイトでも確実に誘引紐が外れないように取り付けることができ、さらに、収穫後に、誘引紐が硬化していても誘引紐を簡単に撤収することができ、錆が生じることのない誘引紐吊り具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明の第1の構成は、弾性を有する耐候性のある合成樹脂で一体形成され、縦軸部の上部がフック状の誘引線吊り下げ部であり、前記縦軸部の下部が誘引紐取付部である誘引紐吊り具において、前記誘引紐取付部は、誘引紐の横巻付部と縦巻付部がそれぞれV字状に凹ませて形成されており、かつ前記横巻付部を構成する左右のV字状の凹部を結ぶ線に対し、前記縦巻付部を構成する上下のV字状の凹部の位置が同じ側に設けられ、前記誘引紐取付部に、巻き付けられた誘引紐の下部をほぼ横方向から通す誘引紐止め部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第1の構成においては、誘引紐を誘引紐吊り具の下部の誘引紐取付部に取り付けるとき、まず、片手で誘引紐取付部近傍と誘引紐の端部を持ち、他方の手で、横巻付部の左右のV字状凹部に少なくとも1巻き、巻き付ける。次いで、縦巻付部の上下のV字状凹部に誘引紐を少なくとも1巻き、強く巻き付ける。このとき、横巻付部に横方向に巻かれている誘引紐は、縦巻付部に巻かれる誘引紐により縦方向に引っ張られた状態で重なることになり、ほどけにくくなる。最後に、誘引紐止め部に誘引紐を通すことにより、誘引紐は自然にほどけることがなく、巻かれた状態が保持される。
【0016】
本発明の第2の構成は、第1の構成において、前記フック状の誘引線吊り下げ部の誘引線挿入口は、誘引線の径よりも狭く形成されていることを特徴とする。
【0017】
この第2の構成においては、フック状の誘引線吊り下げ部の誘引線挿入口が、誘引線の径よりも狭く形成されていることにより、誘引線挿入口から線を挿入した後は、誘引作業中に誘引線が揺れても、誘引紐吊り具が誘引線から外れて落下するようなことはない。
【0018】
本発明の第3の構成は、第1または第2の構成において、任意の箇所に、高所の誘引線に前記フック状の誘引線吊り下げ部を引っ掛けるための操作棒の先端が係合する係合部が形成されていることを特徴とする。
【0019】
この第3の構成においては、誘引紐吊り具を引っ掛ける誘引線が、作業者の手が届く高さよりも高い位置に張られている場合に、所定の長さの操作棒の先端に、誘引紐を結んだ誘引紐吊り具を係合させ、操作棒と誘引紐を持って高所の誘引線に誘引線吊り下げ部を引っ掛けることにより、脚立や踏み台を用いることなく、簡単にかつ安全に作業を行うことができる。
【0020】
本発明の第4の構成は、第1から第3の構成において、ヘアピン状の本体の上部に、一方には鋭角に折曲したフック部が、他方には前記フック部の角部よりも下方において水平に折曲した戻り止め部がそれぞれ連設された植物誘引紐吊りクリップを固定するためのクリップ固定部が、前記縦軸部の上部に、前記誘引線吊り下げ部とともに、または前記誘引線吊り下げ部に代えて設けられていることを特徴とする。
【0021】
この第4の構成は、誘引紐で結ばれている茎の上部の位置を、植物の生長とともに、誘引線に沿って移動させたときに、誘引紐吊り具が誘引線に沿う一方向のみに移動でき、逆方向には戻らないように直物誘引紐吊りクリップを取り付けたものである。第1〜第3の構成の誘引紐吊り具では、誘引紐取付部に誘引紐の上部を巻き付けて固定し、フック状の誘引線吊り下げ部を誘引線に吊り下げ、誘引紐の下部を茎に結び付けて使用するが、植物の茎が生長するにつれて、誘引紐を結んでいる茎の位置を高くしないと、茎が弛んで地面に着き、そこから腐れたり菌がついたりして生長が阻害されてしまう。しかし、誘引紐を結ぶ茎の位置を茎の生長の都度結び変えるのは、農家にとって非常に負担が大きな労働となる。そこで、誘引紐を結んでいる茎の位置はそのままで、誘引紐吊り具の位置を誘引線に沿って移動させ、茎が地面に着かないように茎を一方向に引っ張るようにすれば作業は楽である。
【0022】
この第4の構成では、誘引紐吊り具が誘引線に対して植物の生長方向にのみ移動でき、その逆の方向には戻らないように、植物誘引紐吊りクリップをクリップ固定部に取り付けるようにしたものである。この植物誘引紐吊りクリップは、本願出願人の創作になる意匠登録第1142797号公報に記載されたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、弾性を有する耐候性のある合成樹脂で一体形成され、縦軸部の上部がフック状の誘引線吊り下げ部であり、縦軸部の下部が誘引紐取付部である誘引紐吊り具において、誘引紐取付部は、誘引紐の横巻付部と縦巻付部がそれぞれV字状に凹ませて形成されており、かつ横巻付部を構成する左右のV字状の凹部を結ぶ線に対し、縦巻付部を構成する上下のV字状の凹部の位置が同じ側に設けられ、誘引紐取付部に、巻き付けられた誘引紐の下部をほぼ横方向から通す誘引紐止め部が形成されているので、誘引紐を誘引線に取り付ける際に、長時間両手を挙げて作業をする必要がなく、簡単に片手で取り付けることができ、また誘引紐を結ぶ作業に慣れていないパートタイマーやアルバイトでも確実に誘引紐が外れないように取り付けることができ、さらに、収穫後に、誘引紐が硬化していても誘引紐を簡単に撤収することができ、錆が生じることのない誘引紐吊り具が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図21を用いて説明する。
図1は本実施の形態に係る誘引紐吊り具を示す正面図、図2はその右側面図、図3はその底面図である。
【0025】
これらの図において、本実施の形態の誘引紐吊り具1は、耐候性ポリプロピレン等の弾性を有する合成樹脂で一体形成され、縦軸部2の上部がフック4を有する誘引線吊り下げ部3であり、縦軸部2の下部が誘引紐取付部5である。誘引紐取付部5は、横巻付部を構成するV字状の第1横紐掛け部6および第2横紐掛け部7と、縦巻付部を構成するV字状の第1縦紐掛け部8および第2縦紐掛け部9とを有している。ここで、第1縦紐掛け部8と第2縦紐掛け部9は、横巻付部を構成する第1横紐掛け部6と第2横紐掛け部7を結ぶ直線に対し、下方に位置するように形成されている。また、縦軸部2下部には、巻き付けられる誘引紐の下部をほぼ横方向から通す紐跳ね上がり防止穴10とリブ状の誘引紐止め部11が形成されている。誘引紐取付部5の下部には、後述するパイプ状の操作棒の上端の穴に嵌合する係合軸12が形成されている。さらに、縦軸部2の上部には、後述する植物誘引紐吊りクリップのヘアピン状下部折曲部を通すクリップ挿通孔13と、同クリップのV状側部を係止する凹部14とが形成されている。
【0026】
フック4は、図1に示すように、縦軸部2との間に、後述する誘引線21の径よりも狭い誘引線挿入口4aが形成されており、誘引線21を挿入するときはフック4の弾性で開き、フック4の中に誘引線21が入った後は、復元力で誘引線挿入口4aが元のように狭くなるので、誘引線21が揺れたり、誘引紐吊り具1を移動させたりするときに自然に誘引紐吊り具1が誘引線21から外れることはない。
【0027】
以下、本実施の形態の誘引紐吊り具1の使用方法を、図4〜図16を参照して説明する。
【0028】
まず、図4に示すように、誘引紐吊り具1と誘引紐20の端部を片方の手で持ち、誘引紐20を第1横紐掛け部6を通るように巻き始め、図5に示すように第2横紐掛け部7を通り、第1縦紐掛け部8へ通し、図6に示すように第2縦紐掛け部9へ回し、さらに第1縦紐掛け部8へ巻き込んで図7に示すように誘引紐止め部11の上部の隙間を通し、図8に示すように紐跳ね上がり防止穴10に引っ掛けることにより、誘引紐20の取り付けができる。誘引紐20が取り付けられた誘引紐吊り具1を図9に示す。
【0029】
ここで、第1縦紐掛け部8の位置が、第1横紐掛け部6と第2横紐掛け部7を結ぶ直線よりも下にあるので、最初に第1横紐掛け部6と第2横紐掛け部7に巻かれた誘引紐20の中間部を、次に第1縦紐掛け部8と第2縦紐掛け部9に巻かれる誘引紐20が、V字状に押し下げることになり、ほどけにくくなる。しかも、誘引紐20を下方に引く力が作用すればするほど、その力は横方向に巻かれた誘引紐20を強く引っ張ることになるので、使用中に自然に結束力が弱くなってほどけるようなことはない。
【0030】
なお、作物の収穫後に誘引紐20を誘引紐吊り具1から外すときは、誘引紐20の下部を紐跳ね上がり防止穴10から外に外し、巻いた方向とは逆方向にほどいていけば、途中で結束力がなくなるので、簡単に取り外すことができる。
【0031】
植物の誘引に使用される誘引紐20の種類としては、農家毎に、あるいは植物の種類によりまちまちであり、太い繊維紐から、滑りやすい細いPP(ポリプロピレン)テープ紐、腰の強い紐などがある。本願発明の誘引紐吊り具は、これらの紐のほとんどに対応できる。特に、腰の強い紐は、縦紐掛け部に巻き付けても、手を放すと紐の弾力で直線の状態に戻ろうとする。そこで、巻き終わった紐を紐跳ね上がり防止穴10に引っ掛けると、弾力で直線に戻ろうとする動作が抑制され、紐の端部を確実に止めることができる。
【0032】
なお、誘引紐20の巻き方として、少なくとも横方向に一巻き、縦方向に一巻きする例を示したが、それ以上の回数巻いても構わないので、横に巻いた後に縦に巻き、最後に紐跳ね上がり防止穴10に通す、というルールさえ守れば、巻き方に馴れていない人が適当に巻いても、確実に誘引紐20を巻き付けることができる。
【0033】
このようにして誘引紐20が巻き付けられた誘引紐吊り具1のフック4を、図10に示すように誘引線21に引っ掛けて下に引っ張ると、フック4の弾性で誘引線挿入口4a(図1参照)が開き、簡単に図11に示すようにフック4の中に誘引線21が収まった状態となる。そうすると、フック4の復元力で誘引線挿入口4aが元のように狭くなるので、誘引線21が揺れたり、誘引紐吊り具1を移動させたりするときに自然に誘引紐吊り具1が誘引線21から外れることはない。
【0034】
誘引線21から誘引紐吊り具1を取り外すときは、図12に示すように誘引線21に対して斜めにひねると、フック4の先端が誘引線21に当たり、そのまま押し上げるとフック4が開き、誘引線21から軽い力で取り外すことができる。誘引紐吊り具1を縦方向のまま引き上げると、フック4の誘引線挿入口4aの部分で誘引線21が押し上げられ、誘引線21に大きな張力が作用し、フック4が外れた後に誘引線21が振動することになるが、誘引紐吊り具1を斜めにひねることで、誘引線21に無理な力や振動を起こさせずにすむ。
【0035】
誘引紐20を取り付けるとき、一箇所に一本とは限らず、作物、果樹によっては1箇所に複数本の誘引紐を取り付けることがある。そのような場合、図13に示すように、複数本の誘引紐20を誘引紐吊り具1に上記と同様に巻き付けることにより、同時に取り付けることができる。
【0036】
誘引線21は、通常、作業者の手が届く高さ、例えば2m位の高さに張られるが、作物や果樹によっては、3m程度の、手の届く高さ以上の高さに張られることがある。このような場合は、脚立や踏み台に上がって誘引紐吊り具1を掛ける作業をすることになるが、畑は平坦ではなく、また地盤が軟らかいので、脚立や踏み台は不安定である。その上に乗ると、バランスを崩して転ぶ場合もある。また、脚立や踏み台を移動しながら誘引紐吊り具1を誘引線21に掛ける作業は非能率的である。
【0037】
そこで、図14に示されているように、本実施の形態の誘引紐吊り具1に設けられている係合軸12をパイプ状の操作棒22の上部の穴に差し込む。次いで、図15に示すように操作棒22と誘引紐20を同時に片手で持った状態で高所の誘引線21まで誘引紐吊り具1を上げ、誘引線21にフック4を引っ掛けて引き下げると、誘引紐20は残ったままで操作棒22を係合軸12から分離することができる。操作棒22の穴の内径と係合軸12の外径の寸法にガタがあっても、誘引紐20を下に引っ張った状態で操作棒22を持てば、誘引紐吊り具1の係合軸12の下部は操作棒22の穴の内周に圧接してガタがなくなるので、誘引紐吊り具1はふらつくことなく操作棒22の上部に保持され、誘引線21に取り付けることができる。
【0038】
本願出願人は、植物の生長に応じて誘引線における係止位置を移動させることのできる植物誘引紐吊りクリップを考案し、意匠登録第1142797号公報として登録された。それは、図16の正面図および図17の右側面図に示すように、ヘアピン状の本体23aの上部に、一方には鋭角に折曲したフック部23bが、他方にはフック部23bの角部よりも下方において水平に折曲した戻り止め部23cがそれぞれ連設されている植物誘引紐吊りクリップ23である。
【0039】
この植物誘引紐吊りクリップ23に誘引紐20を結び付け、誘引線21にフック部23bを引っ掛けて引っ張ると、フック部23bの上端角部内側と戻り止め部23cの上部の間に誘引線21が止まった状態となる。この状態で誘引紐20を茎の成長方向と逆方向(使用状態を示す図18におけるa方向)に引っ張ろうとしても、戻り止め部23cが誘引線21の下部に引っ掛かって、植物誘引紐吊りクリップ23はその位置で傾くだけで移動しない。茎が成長して成長方向(図18におけるb方向)に植物誘引紐吊りクリップ23を移動する際には、本体23aを誘引線21に直角になるように曲げれば戻り止め部23cの上部とフック部23bの下部の間に隙間ができるため、植物誘引紐吊りクリップ23を誘引線21に対して茎の成長方向に移動することができる。植物誘引紐吊りクリップ23を誘引線21から外すときは、本体23aをねじ曲げることによりフック部23bと戻り止め部23cの隙間が大きくなって、その隙間を通過させて誘引線21から外すことができる。
【0040】
このような植物誘引紐吊りクリップ23の機能を本実施の形態の誘引紐吊り具1に持たせるために、植物誘引紐吊りクリップ23を誘引紐吊り具1に取り付ける。取り付け方法は、植物誘引紐吊りクリップ23を寝せた状態で戻り止め部23cの先端をクリップ挿通孔13に差し込み、角部を通過させてヘアピン状本体23aのV字状角部までクリップ挿通孔13に通ったところで、本体23aを起こしてその両側部を凹部14に嵌め込めば、図19に示すように、誘引紐吊り具1に植物誘引紐吊りクリップ23が取り付けられた状態となり、誘引線21に植物誘引紐吊りクリップ23を取り付けることができる。これにより、植物の生長に応じて、誘引線21に対して、一方向のみに誘引紐吊り具1を移動し、その位置で停止させることが可能となる。
【0041】
この植物誘引紐吊りクリップ23を誘引紐吊り具1に取り付けるのであれば、フック4は必ずしも設ける必要はない。
【0042】
なお、上述した実施の形態では、係合軸12を誘引紐取付部5の下部に設けたが、図20に示すように誘引紐取付部5の後部に設けることができ、また、図21に示すように、縦軸部2の上部に設けることもできる。
【0043】
本実施の形態によれば、次の効果がある。
(1)従来の金属線を折り曲げて形成した誘引紐吊り具では、誘引紐を誘引紐吊り具に取り付ける際に、ケース内に収納された多数の誘引紐吊り具どうしが絡み合ってなかなか取り出せないことがあったが、本実施の形態では、フック4の先端が狭くなっているので、絡み合うことなく、スムーズにケースから取り出すことができる。
(2)細い誘引糸から、滑りやすく薄いPPテープ紐、太紐(麻紐)まで、素材や太さを選ばずに使用することができる。
(3)誘引紐を結ぶ作業に慣れていないパートやアルバイトでも、誘引紐吊り具に誘引紐を取り付けるとき、誘引紐の取り付け順序が多少違っても、確実に誘引紐を取り付けることができ、使用時に茎の重量が誘引紐に掛かっても、誘引紐がほどけて外れることはない。
(4)誘引紐を誘引線に取り付ける際、長時間両手や顔を上に挙げ続ける必要がなく、簡単に片手で取り付けることができる。
(5)誘引紐を取り付けた誘引紐吊り具を誘引線に取り付けた後、誘引作業中に誘引線が揺れても、S字フックのように落下することがない。
(6)長期にわたって茎、枝などを紐誘引中に、薬品の散布やビニルハウス内の結露によってさびることがなく、誘引紐に茎、枝等の重い荷重が長期間掛かり続けても、誘引紐吊り具に誘引紐が食い込まず、作物の収穫後、誘引紐を直物誘引紐吊り具から簡単に取り外すことができる。
(7)誘引紐吊り具をプラスチックにより低コストで製造でき、作物の生産者へ安価で提供することができ、また作業の省力化と安全をもたらすことができる。
(8)操作棒を用いることができるので、高い誘引線にも、確実に、容易に取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、誘引紐を誘引線に取り付ける際に、長時間両手を挙げて作業をする必要がなく、簡単に片手で取り付けることができ、また誘引紐を結ぶ作業に慣れていないパートタイマーやアルバイトでも確実に誘引紐が外れないように取り付けることができ、さらに、収穫後に、誘引紐を簡単に撤収することのできる誘引紐吊り具として、トマト、キュウリ、ナス、メロン、花類、果樹等の栽培に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係る誘引紐吊り具を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る誘引紐吊り具を示す右側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る誘引紐吊り具を示す底面図である。
【図4】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図15】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図16】意匠登録第1142797号公報に記載された植物誘引紐吊りクリップを示す正面図である。
【図17】意匠登録第1142797号公報に記載された植物誘引紐吊りクリップを示す右側面図である。
【図18】意匠登録第1142797号公報に記載された植物誘引紐吊りクリップの機能を示す説明図である。
【図19】本発明の実施の形態の誘引紐吊り具の使用方法を示す斜視図である。
【図20】本発明の他の実施の形態の誘引紐吊り具を示す斜視図である。
【図21】本発明のさらに他の実施の形態の誘引紐吊り具を示す斜視図である。
【図22】誘引線に誘引紐を結び付ける従来の方法を示す説明図である。
【図23】従来のS字フックを示す斜視図である。
【図24】従来のS字フックの使用状態を示す斜視図である。
【図25】従来の誘引紐吊り具を示すもので、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は背面図、(d)は左側面図である。
【図26】従来の誘引紐吊り具に誘引紐を取り付ける方法の第1ステップを示すもので、(a)は側面図、(b)は背面図である。
【図27】従来の誘引紐吊り具に誘引紐を取り付ける方法の第2ステップを示す斜視図である。
【図28】誘引紐を取り付けた従来の誘引紐吊り具を、誘引線に取り付けた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 誘引紐吊り具
2 縦軸部
3 誘引線吊り下げ部
4 フック
4a 誘引線挿入口
5 誘引紐取付部
6 第1横紐掛け部
7 第2横紐掛け部
8 第1縦紐掛け部
9 第2縦紐掛け部
10 紐跳ね上がり防止穴
11 誘引紐止め部
12 係合軸
13 クリップ挿通孔
14 凹部
20 誘引紐
21 誘引線
22 操作棒
23 植物誘引紐吊りクリップ
23a 本体
23b フック部
23c 戻り止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する耐候性のある合成樹脂で一体形成され、縦軸部の上部がフック状の誘引線吊り下げ部であり、前記縦軸部の下部が誘引紐取付部である誘引紐吊り具において、
前記誘引紐取付部は、誘引紐の横巻付部と縦巻付部がそれぞれV字状に凹ませて形成されており、かつ前記横巻付部を構成する左右のV字状の凹部を結ぶ線に対し、前記縦巻付部を構成する上下のV字状の凹部の位置が同じ側に設けられ、
前記誘引紐取付部に、巻き付けられた誘引紐の下部をほぼ横方向から通す誘引紐止め部が形成されていることを特徴とする誘引紐吊り具。
【請求項2】
前記フック状の誘引線吊り下げ部の誘引線挿入口は、誘引線の径よりも狭く形成されていることを特徴とする請求項1記載の誘引紐吊り具。
【請求項3】
任意の箇所に、高所の誘引線に前記フック状の誘引線吊り下げ部を引っ掛けるための操作棒の先端が係合する係合部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の誘引紐吊り具。
【請求項4】
ヘアピン状の本体の上部に、一方には鋭角に折曲したフック部が、他方には前記フック部の角部よりも下方において水平に折曲した戻り止め部がそれぞれ連設された植物誘引紐吊りクリップを固定するためのクリップ固定部が、前記縦軸部の上部に、前記誘引線吊り下げ部とともに、または前記誘引線吊り下げ部に代えて設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載の誘引紐吊り具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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